説明

エンジンの可変動弁装置

【課題】吸気バルブの閉弁時期のみを遅らせる。
【解決手段】エンジンの可変動弁装置は、吸気バルブ26を開閉駆動する動弁機構28と、吸気バルブ26を回転させる回転機構32と、回転機構32を制御するコントロールユニット36と、を有する。また、吸気バルブ26のバルブフェース26Aが、その軸心に対して非対称(非軸対称)な形状をなしている一方、吸気バルブ26のバルブフェース26Aが着座するバルブシート30が、バルブフェース26Aに倣った形状をなしている。そして、回転機構32により吸気バルブ36を回転させると、そのバルブフェース36Aの一部がバルブシート30に引っ掛かり、吸気バルブ26とバルブシート30とが密着しないことから、いわゆる「半閉じ状態」が作り出され、吸気バルブ26の閉弁時期のみを遅らせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの可変動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な熱効率及び燃焼を両立させる技術として、吸気行程において吸気バルブの閉弁時期を遅らせることで、圧縮比よりも膨張比を大きくしたミラーサイクルが知られている。ミラーサイクルを実現させるためには、例えば、特開2008−2273号公報(特許文献1)に記載されるように、クランク角度に対して吸気バルブのバルブタイミングを遅角させる可変バルブタイミングコントロール(VTC)機構が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−2273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、VTC機構は、例えば、カムシャフトを捩じることで、バルブ作動角の中心位相を変更する機構であるため、吸気バルブの閉弁時期を遅らせるために中心位相を遅角させると、吸気バルブの開弁時期も遅れてしまう。吸気バルブの開弁時期を変更せずに、吸気バルブの閉弁時期を遅らせるために、複数のカムを適宜切り換える技術も実用化されているが、その機構は複雑かつ高価であった。
【0005】
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、吸気バルブの閉弁時期のみを遅らせることができるエンジンの可変動弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
エンジンの可変動弁装置は、バルブスプリングの付勢力に抗して吸気バルブのステムエンドを押圧することで、吸気バルブを開閉駆動する動弁機構と、吸気バルブを回転させる回転機構と、回転機構を制御するコントロールユニットと、を有する。そして、吸気バルブのバルブフェースが非軸対称な形状をなす一方、バルブフェースが着座するバルブシートがバルブフェースに倣った形状をなしている。
【発明の効果】
【0007】
吸気バルブを回転させると、そのバルブフェースの一部がバルブシートに引っ掛かり、吸気バルブとバルブシートとが密着しないことから、いわゆる「半閉じ状態」が作り出され、吸気バルブの閉弁時期のみを遅らせることができる。また、吸気バルブを遅閉じさせることで、圧縮比よりも膨張比が大きくなって、圧縮比及び燃焼温度が低下することから、排気性状の向上及びフリクションの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】可変動弁機構を備えたエンジンの概要図
【図2】吸気バルブの一例を示し、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は側面図
【図3】バルブシートの一例を示し、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は側面図
【図4】吸気バルブの他の例を示し、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は側面図
【図5】バルブリフタの取付構造図
【図6】制御プログラムの内容を説明するフローチャート
【図7】吸気バルブの半閉じ状態の説明図
【図8】吸気バルブの制御状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る可変動弁装置を備えたエンジンの概要を示す。
エンジン10におけるシリンダブロック12のシリンダライナ14には、ピストン16が往復動可能に嵌挿される。シリンダブロック12の上面には、ガスケット18を介在させて、吸気ポート20及び排気ポート(図示せず)が夫々形成されたシリンダヘッド22が締結される。シリンダヘッド22には、燃焼室を臨む吸気ポート20及び排気ポートの開口を所定タイミングで開閉すべく、バルブガイド24により軸方向に摺動可能に支持される吸気バルブ26及び排気バルブ(図示せず)が夫々配設される。
【0010】
シリンダヘッド22の上面に締結されるヘッドカバー(図示せず)の内部には、吸気バルブ26及び排気バルブを開閉駆動する動弁機構28が配設される。動弁機構28は、吸気バルブ26を閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、バルブスプリングの付勢力に抗して吸気バルブ26のステムエンドを押圧することで、吸気バルブ26を開弁させるカムが一体化されたカムシャフトと、を含んで構成される。なお、排気バルブの動弁機構28も同様である。
【0011】
また、シリンダヘッド22の吸気ポート20の開口には、吸気バルブ26のバルブフェース26Aが着座するバルブシート30が圧入される(排気ポートも同様である)。
吸気バルブ26には、これを軸心周りに回転させる回転機構32が取り付けられる。回転機構32は、吸気バルブ26のバルブステム26Bに形成された第1のギヤ32Aと、第1のギヤ32Aに噛み合いつつバルブステム26Bの軸方向に相対変位可能な第2のギヤ32Bと、第2のギヤ32Bを回転させるアクチュエータ32Cと、を含んで構成される。ここで、第1のギヤ32Aは、バルブステム26Bの軸方向に沿って所定範囲に亘って形成される、例えば、その軸方向に歯面が直線的に延びるギヤである。第2のギヤ32Bは、回転方向を90°変向可能な、例えば、歯面が斜めに延びるウォームギヤである。アクチュエータ32Cは、第1のギヤ32A及び第2のギヤ32Bを介して吸気バルブ26の回転角度を容易に制御可能とすべく、例えば、回転角度を連続的に制御可能なステッピングモータである。なお、回転機構32としては、図示する構造のものに限らず、種々の構造を有するものが適用可能である。
【0012】
吸気バルブ26のバルブフェース26Aは、その軸心に対して非対称(非軸対称)な形状、例えば、図2に示すように、円筒の側面を平行する2本の線でカットした、横断面が略角丸四角形の台部26Cを有する形状をなす。一方、バルブシート30は、吸気バルブ26のバルブフェース26Aに倣った形状、例えば、図3に示すように、その台部26Cが嵌合する凹部30Aを有する形状をなす。従って、吸気バルブ26を回転させると、その台部26Cがバルブシート30の座面に引っ掛かり、吸気バルブ26とバルブシート30とが密着しないことから、いわゆる「半閉じ状態」を作り出すことができる。
【0013】
なお、吸気バルブ26のバルブフェース26Aは、図4に示すように、その表面を平行する2本の線でカットした形状としてもよい。この場合には、バルブシート30は、吸気バルブ26のバルブフェース26Aに倣った形状、即ち、そのバルブフェース26Aが嵌合する形状をなしていればよい。要するに、吸気バルブ26のバルブフェース26A及びバルブシート30は、図2〜図4に示す形状に限らず、両者が相対回転したときに「半閉じ状態」を作り出す形状をなしていればよい。
【0014】
また、吸気バルブ26のステムエンド26Dには、図5に示すように、内部にコイルバネ34Aが内蔵されたバルブリフタ34が取り付けられる。バルブリフタ34は、有底円筒形状をなし、吸気バルブ26のステムエンド26Dと動弁機構28のロッカアーム28Aとが離間しないようにする。このようにすれば、吸気バルブ26が半閉じ状態となっても、バルブリフタ34のコイルスプリング34Aの付勢力により、ステムエンド26Dとロッカアーム28Aとが離間しないことから、例えば、ロッカアーム28Aが吸気バルブ26を叩くなどの異音発生を抑制することができる。なお、このようなバルブリフター34は、例えば、特開2008−1386号公報などで提案されている。
【0015】
回転機構32を電子制御するために、コンピュータを内蔵したコントトールユニット36が設けられる。コントロールユニット36には、エンジン10の回転速度Neを検出する回転速度センサ38、エンジン10の負荷Qを検出する負荷センサ40、クランクの回転角度θを検出する角度センサ42からの出力が夫々入力される。そして、コントロールユニット36は、ROM(Read Only Memory)などに記憶された制御プログラムを実行することで、回転速度Ne,負荷Q及び回転角度θに応じて回転機構32のアクチュエータ32Cを電子制御する。
【0016】
ここで、エンジン10の負荷Qとしては、吸気流量,吸気負圧,過給圧力,スロットル開度,アクセル開度などトルクと密接に関連する状態量を用いることができる。また、エンジン10の回転速度Ne及び負荷Qは、エンジンを電子制御するエンジンコントロールユニット(図示せず)から読み込むようにしてもよい。さらに、クランクの回転角度θに代えて、カムシャフトの回転角度を用いてもよい。
【0017】
図6は、エンジン10が始動されたことを契機として、コントロールユニット36が所定時間ごとに繰り返し実行する制御プログラムの内容を示す。
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、コントロールユニット36が、回転速度センサ38からエンジン10の回転速度Neを読み込む。
ステップ2では、コントロールユニット36が、負荷センサ40からエンジン10の負荷Qを読み込む。
【0018】
ステップ3では、コントロールユニット36が、例えば、エンジン10の回転速度及び負荷に対応した各種運転状態が設定されたマップを参照し、回転速度Ne及び負荷Qにより特定される運転状態がミラーサイクル領域であるか否かを判定する。そして、コントロールユニット36は、運転状態がミラーサイクル領域であると判定すれば処理をステップ4へと進める一方(Yes)、運転状態がミラーサイクル領域でないと判定すれば処理を終了させる(No)。
【0019】
ステップ4では、コントロールユニット36が、角度センサ42からクランクの回転角度θを読み込む。
ステップ5では、コントロールユニット36が、回転角度θに基づいて吸気行程であるか否かを判定する。そして、コントロールユニット36は、吸気行程であると判定すれば処理をステップ6へと進める一方(Yes)、吸気行程でないと判定すれば処理をステップ4へと戻す(No)。ここで、吸気行程とは、ピストン16の位置にかかわらず、エンジン10の燃焼室に吸気が吸入される行程を意味する。
【0020】
ステップ6では、コントロールユニット36が、回転機構32のアクチュエータ32Cに対して制御信号を出力し、吸気バルブ26を回転させる。
ステップ7では、コントロールユニット36が、角度センサ42からクランクの回転角度θを読み込む。
ステップ8では、コントロールユニット36が、回転角度θが吸気バルブ26の閉弁時期になったか否かを判定する。そして、コントロールユニット36は、閉弁時期になったと判定すれば処理をステップ9へと進める一方(Yes)、閉弁時期になっていないと判定すれば処理をステップ7へと戻す(No)。
【0021】
ステップ9では、コントロールユニット36が、回転機構32のアクチュエータ32Cに対して制御信号を出力し、吸気バルブ26の回転を解除する。
このような可変動弁装置によれば、エンジン10の運転状態がミラーサイクル領域にあるときには、図7に示すように、吸気行程において吸気バルブ26が回転する。吸気バルブ26が回転した状態では、動弁機構28により吸気バルブ26が閉弁しようとしても、吸気バルブ26及びバルブシート30が非軸対称な形状をなしているため、吸気バルブ26のバルブフェース26Aの一部とバルブシート30とが接触して半閉じ状態となる。半閉じ状態では、吸気バルブ26とバルブシート30との隙間を介して、エンジン10の燃焼室と吸気ポート20とが連通しているため、吸気バルブ26の遅閉じと実質的同一な状態を実現することができる。そして、吸気バルブ26の閉弁時期になると、吸気バルブ26の回転が解除されるため、バルブスプリングの付勢力により吸気バルブ26のバルブフェース26Aとバルブシート30が密接して、吸気バルブ26が閉弁する。
【0022】
このため、図8に示すように、吸気バルブ26の回転を解除する時期を適宜設定することで、吸気バルブ26の閉弁時期のみを遅らせることができる。また、吸気バルブ26を遅閉じさせることで、圧縮比よりも膨張比が大きくなって、圧縮比及び燃焼温度が低下することから、排気性状の向上及びフリクションの低減を図ることができる。
一方、エンジン10の運転状態がミラーサイクル領域にないときには、吸気バルブ26が回転しないため、吸気バルブ26がカムプロフィールによって規定されるタイミングで開閉し、例えば、高速走行時の走行性能などを発揮させることができる。
【0023】
なお、本実施形態に係る可変動弁装置は、ミラーサイクルを実現するためだけではなく、例えば、絞り損失を低減させるためなどにも適用することができる。この場合、吸気バルブ26を回転させるタイミングは、その目的などに応じて適宜変更すればよい。
【符号の説明】
【0024】
26 吸気バルブ
26A バルブフェース
26B バルブステム
26D ステムエンド
28 動弁機構
30 バルブシート
32 回転機構
32A 第1のギヤ
32B 第2のギヤ
32C アクチュエータ
34 バルブリフタ
34A コイルスプリング
36 コントロールユニット
38 回転速度センサ
40 負荷センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブスプリングの付勢力に抗して吸気バルブのステムエンドを押圧することで、該吸気バルブを開閉駆動する動弁機構と、
前記吸気バルブを回転させる回転機構と、
前記回転機構を制御するコントロールユニットと、
を含んで構成され、
前記吸気バルブのバルブフェースが非軸対称な形状をなす一方、前記バルブフェースが着座するバルブシートが該バルブフェースに倣った形状をなしていることを特徴とするエンジンの可変動弁装置。
【請求項2】
前記回転機構は、
前記吸気バルブのバルブステムにおいて、その軸方向に沿って所定範囲に亘って形成された第1のギヤと、
前記第1のギヤに噛み合いつつその形成方向に相対変位可能な第2のギヤと、
前記第2のギヤを回転させるアクチュエータと、
を含んで構成されたことを特徴とする請求項1記載のエンジンの可変動弁装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、ステッピングモータであることを特徴とする請求項2記載のエンジンの可変動弁装置。
【請求項4】
前記コントロールユニットは、エンジンの運転状態がミラーサイクル領域にあるときに、吸気行程において前記回転機構を作動させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のエンジンの可変動弁装置。
【請求項5】
エンジンの回転速度を検出する回転速度センサと、
エンジンの負荷を検出する負荷センサと、
を更に備え、
前記コントロールユニットは、エンジンの回転速度及び負荷に基づいて、エンジンの運転状態がミラーサイクル領域にあるか否かを判定することを特徴とする請求項4記載のエンジンの可変動弁装置。
【請求項6】
前記吸気バルブのステムエンドに、コイルスプリングが内蔵されたバルブリフターが取り付けられたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載のエンジンの可変動弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−122335(P2012−122335A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271128(P2010−271128)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】