説明

エンジンの補機取り外し方法および補機取り付け構造

【課題】簡単な構成で、スプロケット側から補機の駆動軸に押圧力を作用させて押し出すことのできるエンジンの補機取り外し方法および補機取り付け構造を提供すること。
【解決手段】クランクシャフト11の回転を補機30に伝達するチェーン22、スプロケット40と、補機の駆動軸34にスプロケットを締結するボルトとを備え、チェーン、スプロケットが、エンジン本体とチェーンケース20との間に収容されるエンジン1において、スプロケットからチェーンケース、エンジン本体に向かってそれぞれ延出する第1、第2円筒状リブ43、44と、第1、第2円筒状リブと半径方向に重なるように、チェーンケース、エンジン本体からスプロケットに向かってそれぞれ延出する第1、第2保持リブ24、15とを備え、第1円筒状リブの内周面のねじ48と螺合するねじ51を有する治具50を用いて駆動軸を押し出し、補機をエンジン本体から取り外す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの補機取り外し方法および補機取り付け構造に関する。詳しくは、エンジンブロックに取り付けられてクランクシャフトの回転により駆動される補機の取り外し方法および取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高圧燃料ポンプやパワステ等の補機を、クランクシャフトの回転により、チェーンおよびスプロケットを介して駆動することが一般に行われている。
このような補機のメンテナンスを行うには、一般に、補機をエンジンから取り外す必要がある。その際には、チェーンを弛ませてスプロケットからチェーンを外したり、他の部品を取り外す等、手間のかかる煩雑な作業を行う必要がある。
【0003】
このような手間を省くために、スプロケットに六角形状の嵌合部を設け、この嵌合部に同形状の治具を嵌合させることで、スプロケットを補機の駆動軸と同軸上に保持させ、その後、治具の内側に工具を挿入して、スプロケットと補機の駆動軸とを締結しているナットを外し、スプロケットと反対方向に補機を抜き出す構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3387389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、チェーンを弛ませてスプロケットからチェーンを外したり、他の部品を取り外す等、手間のかかる煩雑な作業を行うことが不要になるという利点がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、補機と、補機が取り付けられるエンジンブロックやシリンダブロック等のハウジングとの嵌め合いがきつい場合、または、補機とハウジングとの嵌合面がシールされている場合は、簡単には補機を取り外すことができない。
すなわち、スプロケットとは反対側から補機に対して作用させる引張力、または、スプロケット側から補機の駆動軸に対して作用させる押圧力を、一定以上の大きさで与えなければならないが、特許文献1に記載の技術は、一定以上の大きさで引張力または押圧力を与えるものではない。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、スプロケット側から補機の駆動軸に対して一定以上の大きさの押圧力を作用させることができ、これにより、補機の駆動軸を押し出すことのできるエンジンの補機取り外し方法および補機取り付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエンジンの補機取り外し方法は、クランクシャフト(例えば、後述のクランクシャフト11)の回転を補機(例えば、後述の補機30)に伝達するための無端部材(例えば、後述の無端部材22)および回転体(例えば、後述の回転体40)と、前記補機の駆動軸(例えば、後述の駆動軸34)に前記回転体を締結するための締結部材(例えば、後述の締結ボルト37)と、を備え、前記無端部材および前記回転体が、エンジン本体(例えば、後述のシリンダブロック10)とカバー部材(例えば、後述のチェーンケース20)との間に収容されるエンジン(例えば、後述のエンジン1)において、前記回転体から前記カバー部材に向かって延出する第1円筒状リブ(例えば、後述の円筒状リブ43)と、前記回転体から前記エンジン本体に向って延出する第2円筒状リブ(例えば、後述の円筒状リブ44)と、前記第1円筒状リブと半径方向に重なるように、前記カバー部材から前記回転体に向かって延出する第1保持リブ(例えば、後述の保持リブ24)と、前記第2円筒状リブと半径方向に重なるように、前記エンジン本体から前記回転体に向かって延出する第2保持リブ(例えば、後述の保持リブ15)と、を備え、前記第1円筒状リブまたは前記第1保持リブのいずれか内側に位置する方の内周面にねじ(例えば、後述のねじ48)を形成し、前記ねじと螺合するねじ(例えば、後述のねじ51)を有する治具(例えば、後述の治具50)を用いて前記駆動軸を押し出すことによって、前記補機を前記エンジン本体から取り外す、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、第1円筒状リブまたは前記第1保持リブのいずれか内側に位置する方の内周面にねじを形成し、このねじと螺合するねじを有する治具を用いて補機の駆動軸を押し出す。そのため、補機に対して徐々に押圧力を加えることができる。したがって、補機に対して過大な力をかけずに取り外すことができる。
また、回転体から補機の駆動軸を取り外しても、第1、第2保持リブが第1、第2円筒状リブをそれぞれ保持する。そのため、回転体の脱落は回避される。したがって、カバー部材を取り外さず、回転体から無端部材を取り外さずに、補機を脱着することができる。
【0010】
この場合、前記第1円筒状リブの内周面に前記ねじを形成し、前記治具を用いて前記駆動軸を押し出すことによって、前記補機を前記エンジン本体から取り外す、ことが好ましい。
【0011】
この発明によれば、回転体の第1円筒状リブにねじを形成する。そのため、治具により回転体を抑えることができる。したがって、駆動軸に対して正確に押し出し力を作用させることができる。
【0012】
この場合、前記駆動軸は、前記補機側から前記回転体側に向かって先細りになるテーパ部(例えば、後述のテーパ部35)を備え、前記回転体は、前記テーパ部が挿入されるテーパ孔(例えば、後述のテーパ孔46)を備える、ことが好ましい。
【0013】
この発明によれば、補機の駆動軸と回転体とはテーパ嵌合する。そのため、駆動軸と回転体との嵌合力は強い。したがって、治具を用いて徐々に押圧力を加えることで、嵌合の解除を容易に行うことができる。
【0014】
この場合、前記補機は、前記駆動軸の外周を囲う筒状部(例えば、後述の円筒部31)を備え、前記エンジン本体は、前記筒状部を挿通する取り付け孔(例えば、後述の取り付け孔14)を備え、前記筒状部と前記取り付け孔とは、シール部材(例えば、後述のシール部材32)を介して嵌合される、ことが好ましい。
【0015】
この発明によれば、補機とエンジン本体とは、シール部材を介して嵌合する。そのため、補機とエンジン本体との嵌合力は強い。したがって、治具を用いて徐々に押圧力を加えることで、嵌合の解除を容易に行うことができる。
【0016】
この場合、前記無端部材はチェーン(例えば、後述のチェーン22)であり、前記回転体はスプロケット体(例えば、後述のスプロケット体40)であり、前記エンジン本体または前記カバー部材の少なくとも一方における、前記スプロケット体の半径方向外方に、前記チェーンの歯飛びを防止する歯飛び防止リブ(例えば、後述の歯飛び防止リブ16、25)を設ける、ことが好ましい。
【0017】
この発明によれば、駆動軸を取り外すことで、スプロケット体が軸ずれ(これが大きいと、チェーンの歯飛びが生じる恐れがある。)を起こす際に、歯飛び防止リブは、スプロケット体の軸ずれを所定範囲以下に規制する。そのため、チェーンの歯飛びを防止することができる。
【0018】
この場合、前記エンジン本体および前記カバー部材は、フランジ(例えば、後述のフランジ13、21)を介して接合され、前記フランジに前記歯飛び防止リブを設ける、ことが好ましい。
【0019】
この発明によれば、剛性のあるフランジに歯飛び防止リブを設ける。そのため、歯飛び防止リブを設けるためだけの専用のリブを設置する必要がない。また、歯飛び防止リブの存在によって、エンジン本体またはカバー部材の剛性が向上する。
【0020】
この場合、前記エンジン本体または前記カバー部材のいずれか一方には、前記スプロケット体の周方向を覆うようにオイルを誘導するための誘導リブ(例えば、後述の誘導リブ26)が設けられ、前記誘導リブに前記歯飛び防止リブを設ける、ことが好ましい。
【0021】
この発明によれば、チェーンやスプロケットを潤滑するためのオイルを誘導する誘導リブに歯飛び防止リブを設ける。そのため、歯飛び防止リブを設けるためだけの専用のリブを設置する必要がない。また、歯飛び防止リブの存在によって、誘導リブをさらに補強し、エンジン本体またはカバー部材の剛性が向上する。
【0022】
この場合、前記補機は、エンジンに燃料を供給する燃料噴射ポンプ(例えば、後述の燃料噴射ポンプ30)である、ことが好ましい。
【0023】
この発明によれば、燃料噴射ポンプの駆動軸を取り外しても、回転体は脱落せずに保持される。そのため、取り外し後の再組み付け時に、燃料噴射ポンプのタイミング(クランクシャフトの回転のタイミングと燃料噴射ポンプの吐出タイミングは、所定のタイミングで一致する必要がある。)を設定しなおす必要がない。
【0024】
本発明のエンジンの補機取り付け構造は、クランクシャフトの回転を補機に伝達するための無端部材および回転体と、前記補機の駆動軸に前記回転体を締結するための締結部材と、を備え、前記無端部材および前記回転体が、エンジン本体とカバー部材との間に収容されるエンジンにおいて、前記回転体から前記カバー部材に向かって延出する第1円筒状リブと、前記回転体から前記エンジン本体に向って延出する第2円筒状リブと、前記第1円筒状リブと半径方向に重なるように、前記カバー部材から前記回転体に向かって延出する第1保持リブと、前記第2円筒状リブと半径方向に重なるように、前記エンジン本体から前記回転体に向かって延出する第2保持リブと、を備え、前記第1円筒状リブまたは前記第1保持リブのいずれか内側に位置する方の内周面にねじを形成し、前記ねじと螺合するねじを有する治具を用いて前記駆動軸を押し出し可能である、ことを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、簡単な構成で、回転体側から補機の駆動軸に対して一定以上の大きさの押圧力を作用させることができ、これにより、補機の駆動軸を押し出すことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡単な構成で、回転体側から補機の駆動軸に対して一定以上の大きさの押圧力を作用させることができ、これにより、補機の駆動軸を押し出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る補機を備えるエンジンの要部を、チェーンケースを外して示す正面図である。
【図2】図1に示す補機を備えるエンジンの左側から見た縦断側面図である。
【図3】図2に示すエンジンのメンテナンスカバーを外し、締結ボルトを外した状態を示す縦断側面図である。
【図4】図3に示すエンジンのスプロケット体に治具を螺合して、補機の駆動軸をわずかに押し出した状態を示す縦断側面図である。
【図5】図4に示すエンジンから補機を抜き取り、スプロケット体から治具を取り外した状態を示す縦断側面図である。
【図6】図5に示すエンジンのスプロケット体が保持リブで保持される状態を示す縦断側面図である。
【図7】図6に示すエンジンのチェーンケースの裏側を、前方のスプロケットおよびチェーンの位置関係とともに示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る補機30を備えるエンジン1の要部を、チェーンケース20を外して示す正面図である。図2〜図6は縦断側面図であり、図7は背面図である。
【0029】
エンジン1は、エンジン本体としてのエンジンブロックまたはシリンダブロック(以下、シリンダブロックという。)10を備える。シリンダブロック10は、前後に延びるクランクシャフト(クランク軸)11を備える。クランクシャフト11の前端は、シリンダブロック10から前方へ延出する。クランクシャフト11の前端には、スプロケット12が固定される。
【0030】
シリンダブロック10の前部には、前面側にカバー部材としてのチェーンケース20が取り付けられる。チェーンケース20は、周囲にフランジ21を備える。シリンダブロック10の前部の前面側には、チェーンケース20のフランジ21に対応するフランジ13が形成される。
シリンダブロック10のフランジ13に対して、フランジ21を適宜個数のボルト等により固定することによって、チェーンケース20は、シリンダブロック10の前部の前面側に取り付けられる。
【0031】
シリンダブロック10の前部には、背面側に補機30が取り付けられる。本実施形態において、補機30は、具体的には燃料噴射ポンプ(高圧燃料ポンプ)である。
シリンダブロック10は、燃料噴射ポンプ30を取り付ける取り付け孔14を備える。取り付け孔14は、前後に延びる円筒状の貫通孔である。
【0032】
燃料噴射ポンプ30は、前側に、シリンダブロック10の取り付け孔14に挿通される筒状部としての円筒部31を備える。円筒部31の外周面と、取り付け孔14の内周面との間には、例えばO−リング等の適宜のシール部材32が配置される。
円筒部31を取り付け孔14に挿通し、ポンプ本体のハウジングを適宜個数の取り付けボルト33によりシリンダブロック10に固定することによって、燃料噴射ポンプ30は、シリンダブロック10の前部の背面側に取り付けられる。
【0033】
燃料噴射ポンプ30は、円筒部31に囲まれるようにして前後に延びる駆動軸34を備える。燃料噴射ポンプ30の駆動軸34は、円筒部31から前方へ延出して、シリンダブロック10の取り付け孔14からも前方へ延出する。
前方延出部分の駆動軸34の外周面には、前方に向かって徐々に細くなるテーパ部35が形成される。
前方延出部分の駆動軸34の中心部には、ねじ穴36が形成される。ねじ穴36には、後述するスプロケット体40と駆動軸34とを一体に締結する締結ボルト37が固定される。
【0034】
燃料噴射ポンプ30の駆動軸34には、回転体40が取り付けられる。本実施形態において、回転体40は、具体的にはスプロケット体である。
スプロケット体40は、後方に配置される比較的大径のスプロケット41と、前方に配置される比較的小径のスプロケット42とが一体に形成されたものである。
【0035】
後方のスプロケット41は、クランクシャフト11のスプロケット12との間に無端部材22が掛け回されて、クランクシャフト11と駆動連結される。本実施形態において、無端部材22は、具体的にはチェーンである。
すなわち、スプロケット12、チェーン22およびスプロケット41を介して、燃料噴射ポンプ30の駆動軸34は、クランクシャフト11と駆動連結される。
【0036】
前方のスプロケット42は、カムシャフト(図示省略)のスプロケット(図示省略)との間にチェーン23が掛け回されて、カムシャフトと駆動連結される。
すなわち、スプロケット12、チェーン22、スプロケット41、42およびチェーン23を介して、カムシャフトはクランクシャフト11と駆動連結される。
【0037】
スプロケット体40は、前方のスプロケット42からさらに前方に向かって延出する第1円筒状リブとしての円筒状リブ43を備える。
スプロケット体40は、後方のスプロケット41からさらに後方に向かって延出する第2円筒状リブとしての円筒状リブ44を備える。
【0038】
チェーンケース20は、スプロケット42の円筒状リブ43と半径方向に重なるように、後述するメンテナンス用の開口27の後面から後方に向かって延出する第1保持リブとしての保持リブ24を備える。
シリンダブロック10は、スプロケット41の円筒状リブ44と半径方向に重なるように、取り付け孔14の前面から前方に向かって延出する第2保持リブとしての保持リブ15を備える。
すなわち、前方のスプロケット42の円筒状リブ43の半径方向外側に、チェーンケース20の保持リブ24が配置される。
後方のスプロケット41の円筒状リブ44の半径方向外側に、シリンダブロック10の保持リブ15が配置される。
【0039】
スプロケット体40は、中心軸線を貫通する貫通孔45を備える。
スプロケット体40の後端から前方のスプロケット42に至る領域における貫通孔45には、燃料噴射ポンプ30の駆動軸34の外周面に形成されたテーパ部35に対応するテーパ孔46が形成される。
スプロケット体40の円筒状リブ43の領域における貫通孔45には、テーパ孔46の前端の開口よりも口径の大きい大径孔47が形成される。大径孔47の内周面には、専用の治具50の外周面に形成されたねじ51と螺合するねじ48が形成される。
【0040】
スプロケット体40のテーパ孔46と大径孔47との境界部分には、段部49が形成される。段部49は、締結ボルト37によってスプロケット体40と燃料噴射ポンプ30の駆動軸34とを締結する際に、締結ボルト37の頭部フランジを係合する係合部として機能する。
【0041】
図1、7に示すように、シリンダブロック10およびチェーンケース20は、歯飛び防止リブ16、25を備える。歯飛び防止リブ16、25は、スプロケット体40から燃料噴射ポンプ30の駆動軸34が抜き取られた際に、スプロケット体40が軸ずれを起こして、その結果生じるチェーン22、23の歯飛びを防止する。
【0042】
図1に示すように、シリンダブロック10には、スプロケット41と噛み合っている領域におけるチェーン22の外周から所定のクリアランスの位置に、歯飛び防止リブ16が形成される。
歯飛び防止リブ16とチェーン22の外周との間のクリアランスは、スプロケット41の軸ずれにより、チェーン22がスプロケット41を乗り越えて歯飛びが発生することを防止できる値に設定される。
【0043】
図7に示すように、チェーンケース20には、スプロケット42と噛み合っている領域におけるチェーン23の外周から所定のクリアランスの位置に、歯飛び防止リブ25が形成される。
チェーンケース20には、元々、オイルを誘導する誘導リブ26が形成されている。この誘導リブ26に、歯飛び防止リブ25を一体に形成する。
歯飛び防止リブ25とチェーン23の外周との間のクリアランスは、スプロケット42の軸ずれにより、チェーン23がスプロケット42を乗り越えて歯飛びが発生することを防止できる値に設定される。
【0044】
チェーンケース20には、燃料噴射ポンプ30の駆動軸34からスプロケット体40の貫通孔45を通って延びる軸線上に、メンテナンス用の開口27が形成される。開口27に、メンテナンスカバー28によって塞がれる。メンテナンスカバー28は、ボルト29によってチェーンケース20に取り付けられる。
エンジン1から燃料噴射ポンプ30を取り外し、またエンジン1に燃料噴射ポンプ30を取り付ける際に、メンテナンスカバー28は、チェーンケース20から脱着される。
【0045】
次に、上記のように構成されたエンジン1の補機取り外し方法について説明する。
それに先立ち、補機すなわち燃料噴射ポンプ30が、エンジン1の所定位置に取り付けられている状態について、図2を参照して簡単に説明する。
この状態において、燃料噴射ポンプ30は、円筒部31が、シリンダブロック10の取り付け孔14に挿通される。適宜個数の取り付けボルト33によって、ポンプ本体のハウジングが、シリンダブロック10の前部の背面側に固定される。駆動軸34のテーパ部35が、スプロケット体40の貫通孔45のテーパ孔46に挿通される。締結ボルト37の頭部フランジが貫通孔45の段部49に係合した状態で、締結ボルト37が駆動軸34のねじ穴36に螺合することにより、スプロケット体40と駆動軸34とは、一体に締結される。
チェーンケース20のメンテナンスカバー28は、ボルト29によって所定位置に取り付けられている。
【0046】
図2に示す状態から、燃料噴射ポンプ30を取り外す。
まず、ボルト29を外して、チェーンケース20からメンテナンスカバー28を取り外す(図示省略)。
つぎに、スプロケット体40が回転しないように、クランクシャフト11に対して適宜の工具を嵌合させて、回り止めを行う(図示省略)。
必要に応じて、回り止めを先に行ってから、メンテナンスカバー28を取り外してもよい。
【0047】
回り止めを行うとき、クランクシャフト11のスプロケット12を所定方向に位置合わせする。なぜなら、クランクシャフト11の回転のタイミングと、燃料噴射ポンプ30の吐出タイミングとは、所定のタイミングで一致する必要があるからである。
すなわち、燃料噴射ポンプ30のカム駒がベース円となる位相(出荷時位相)に合わせる。
そのためには、例えば、チェーンケース20に、スプロケット体40のキー溝と合致する目印を追加しておくことが好ましい。または、チェーンケース20とクランクプーリ(図示省略)に位相固定用の目印を追加しておくことが好ましい。
【0048】
つぎに、適宜の工具を用いて、締結ボルト37を外す(図示省略)。
図2に示す状態から、チェーンケース20のメンテナンスカバー28を取り外し、さらに締結ボルト37を外した状態を図3に示す。図3には、治具50も図示する。
【0049】
つぎに、背面側から、燃料噴射ポンプ30をシリンダブロック10に取り付けている適宜個数の取り付けボルト33を緩める。または取り付けボルト33を外す。
取り付けボルト33を緩めるかまたは外しても、燃料噴射ポンプ30の円筒部31の外周面と、シリンダブロック10の取り付け孔14の内周面との間には、シール部材32が配置されているため、燃料噴射ポンプ30は、簡単にはシリンダブロック10の背面側に変位させることができず、取り外すことができない。
【0050】
そこで、スプロケット体40の大径孔47の内側に治具50を差し込んで、治具50のねじ51を大径孔47のねじ48に螺合させる。
ねじ51とねじ48との螺合が開始すると、治具50の進行方向先端面(すなわち、後端面)が、燃料噴射ポンプ30の駆動軸34の前端部に当接する。そして、この当接した状態から治具50をさらにねじ込んでいくと、スプロケット体40に対して駆動軸34が後方へ押されて、燃料噴射ポンプ30も後方へ押される。
図3に示す状態から、治具50をスプロケット体40に差し込み、ねじ込んでいくことで、駆動軸34が燃料噴射ポンプ30とともに後方へ押された状態を図4に示す。
【0051】
そして、燃料噴射ポンプ30の円筒部31の外周面と、シリンダブロック10の取り付け孔14の内周面との間に配置されているシール部材32が、シリンダブロック10から後方へ抜け出ると、燃料噴射ポンプ30は、簡単にシリンダブロック10の背面側に取り外すことができる。
燃料噴射ポンプ30がシリンダブロック10の背面側に取り外された状態を図5に示す。
【0052】
燃料噴射ポンプ30の円筒部31とシリンダブロック10の取り付け孔14との間にあるシール部材32が、取り付け孔14から後方へ抜け出たら、治具50は、スプロケット体40の大径孔47から抜き取ってよい。
【0053】
燃料噴射ポンプ30がシリンダブロック10から後方へ抜き取られると、スプロケット体40は駆動軸34による支持を失って脱落する恐れがある。
ところが、スプロケット体40の円筒状リブ43の半径方向外側に、チェーンケース20の保持リブ24が形成され、かつ、スプロケット体40の円筒状リブ44の半径方向外側に、シリンダブロック10の保持リブ15が形成されている。
そのため、スプロケット体40は、円筒状リブ43がチェーンケース20の保持リブ24によって係止され、かつ、円筒状リブ44がシリンダブロック10の保持リブ15によって係止されることにより、脱落が回避される。
円筒状リブ43、44が保持リブ24、15によって係止されることにより、スプロケット体40の脱落が回避された状態を図6に示す。
【0054】
スプロケット体40は、脱落が回避されても、軸が支持されているわけではないので、軸ずれすることは回避できない。
そのため、スプロケット体40の軸ずれにより、チェーン22、23がスプロケット41、42を乗り越えて歯飛びが発生する恐れがある。
ところが、シリンダブロック10には、スプロケット41の軸ずれによるチェーン22の歯飛びを防止するための歯飛び防止リブ16が形成されている。
また、チェーンケース20には、スプロケット42の軸ずれによるチェーン23の歯飛びを防止するための歯飛び防止リブ25が形成されている。
そのため、チェーン22、23は、スプロケット41の軸ずれによるチェーン22の歯飛びが歯飛び防止リブ16によって防止され、かつ、スプロケット42の軸ずれによるチェーン23の歯飛びが歯飛び防止リブ25によって防止されることにより、歯飛びが回避される。
【0055】
燃料噴射ポンプ30を取り付けるには、まず、駆動軸34のテーパ部35を、スプロケット体40の貫通孔45のテーパ孔46に挿通するとともに、円筒部31を、シリンダブロック10の取り付け孔14に挿通する。
適宜個数の取り付けボルト33によって、ポンプ本体のハウジングを、シリンダブロック10の前部の背面側に固定する。
キーを差し込み、締結ボルト37を駆動軸34のねじ穴36に螺合することにより、スプロケット体40と駆動軸34とを、一体に締結する。
その後、ボルト29によって、メンテナンスカバー28をチェーンケース20の所定位置に取り付ける。
【0056】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)第1円筒状リブ43の内周面にねじ48を形成し、このねじ48と螺合するねじ51を有する治具50を用いて燃料噴射ポンプ30の駆動軸34を押し出す。そのため、燃料噴射ポンプ30に対して徐々に押圧力を加えることができる。したがって、燃料噴射ポンプ30に対して過大な力をかけずに取り外すことができる。
【0057】
(2)スプロケット体40から燃料噴射ポンプ30の駆動軸34を取り外しても、第1、第2保持リブ24、15が第1、第2円筒状リブ43、44をそれぞれ保持する。そのため、スプロケット体40の脱落は回避される。したがって、シリンダブロック10からチェーンケース20を取り外さず、スプロケット体40からチェーン22、23を取り外さずに、燃料噴射ポンプ30を脱着することができる。
【0058】
(3)燃料噴射ポンプ30の駆動軸34とスプロケット体40とはテーパ嵌合する。そのため、駆動軸34とスプロケット体40との嵌合力は強い。したがって、治具50を用いて徐々に押圧力を加えることで、嵌合の解除を容易に行うことができる。
【0059】
(4)燃料噴射ポンプ30とシリンダブロック10とは、シール部材32を介して嵌合する。そのため、燃料噴射ポンプ30とシリンダブロック10との嵌合力は強い。したがって、治具50を用いて徐々に押圧力を加えることで、嵌合の解除を容易に行うことができる。
【0060】
(5)駆動軸34を取り外すことで、スプロケット体40が軸ずれ(これが大きいと、チェーン22、23の歯飛びが生じる恐れがある。)を起こす際に、歯飛び防止リブ16、25は、スプロケット体40の軸ずれを所定範囲以下に規制する。そのため、チェーン22、23の歯飛びを防止することができる。
【0061】
(6)剛性のあるフランジ13に歯飛び防止リブ16を設ける。そのため、歯飛び防止リブ16を設けるためだけの専用のリブを設置する必要がない。また、歯飛び防止リブ16の存在によって、シリンダブロック10またはチェーンケース20の剛性が向上する。
【0062】
(7)チェーン22、23やスプロケット41、42を潤滑するためのオイルを誘導する誘導リブ26に歯飛び防止リブ25を設ける。そのため、歯飛び防止リブ25を設けるためだけの専用のリブを設置する必要がない。また、歯飛び防止リブ25の存在によって、誘導リブ26をさらに補強し、シリンダブロック10またはチェーンケース20の剛性が向上する。
【0063】
(8)燃料噴射ポンプ30の駆動軸34を取り外しても、スプロケット体40は脱落せずに保持される。そのため、取り外し後の再組み付け時に、燃料噴射ポンプ30のタイミング(クランクシャフト11の回転のタイミングと燃料噴射ポンプ30の吐出タイミングは、所定のタイミングで一致する必要がある。)を設定しなおす必要がない。
【0064】
なお、上記実施形態では、前方のスプロケット42の円筒状リブ43の半径方向外側に、チェーンケース20の保持リブ24を配置したが、これに限定されない。
例えば、前方のスプロケット42の円筒状リブ43の半径方向内側に、チェーンケース20の保持リブ24を配置してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、後方のスプロケット41の円筒状リブ44の半径方向外側に、シリンダブロック10の保持リブ15を配置したが、これに限定されない。
例えば、後方のスプロケット41の円筒状リブ44の半径方向内側に、シリンダブロック10の保持リブ15を配置してもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、シリンダブロック10に、後方のスプロケット41と噛み合うチェーン22の歯飛び防止リブ16を形成する一方、チェーンケース20に、前方のスプロケット42と噛み合うチェーン23の歯飛び防止リブ25を形成したが、これに限定されない。
例えば、チェーン22、23の歯飛び防止リブ16、25を、いずれも、シリンダブロック10に形成してもよい。
例えば、チェーン22、23の歯飛び防止リブ16、25を、いずれも、チェーンケース20に形成してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、シリンダブロック10の前部の背面側に補機30を取り付けたが、これに限定されない。
例えば、シリンダブロック10の前部の前面側、すなわちシリンダブロック10とチェーンケース20との間に補機30を取り付けてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、エンジン本体としてシリンダブロック10を例示したが、これに限定されない。
例えば、エンジン本体は、シリンダブロックの他、シリンダヘッド、オイルパン等であってよい。
【符号の説明】
【0069】
1…エンジン
10…エンジンブロックまたはシリンダブロック(エンジン本体)
11…クランクシャフト
13…フランジ
14…取り付け孔
15…保持リブ(第2保持リブ)
16…歯飛び防止リブ
20…チェーンケース(カバー部材)
21…フランジ
22…チェーン(無端部材)
24…保持リブ(第1保持リブ)
25…歯飛び防止リブ
26…誘導リブ
30…燃料噴射ポンプ(補機)
31…円筒部(筒状部)
32…シール部材
34…駆動軸
35…テーパ部
37…締結ボルト(締結部材)
40…スプロケット体(回転体)
43…円筒状リブ(第1円筒状リブ)
44…円筒状リブ(第2円筒状リブ)
46…テーパ孔
48…ねじ
50…治具
51…ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトの回転を補機に伝達するための無端部材および回転体と、
前記補機の駆動軸に前記回転体を締結するための締結部材と、を備え、
前記無端部材および前記回転体が、エンジン本体とカバー部材との間に収容されるエンジンにおいて、
前記回転体から前記カバー部材に向かって延出する第1円筒状リブと、
前記回転体から前記エンジン本体に向って延出する第2円筒状リブと、
前記第1円筒状リブと半径方向に重なるように、前記カバー部材から前記回転体に向かって延出する第1保持リブと、
前記第2円筒状リブと半径方向に重なるように、前記エンジン本体から前記回転体に向かって延出する第2保持リブと、
を備え、
前記第1円筒状リブまたは前記第1保持リブのいずれか内側に位置する方の内周面にねじを形成し、前記ねじと螺合するねじを有する治具を用いて前記駆動軸を押し出すことによって、前記補機を前記エンジン本体から取り外す、ことを特徴とするエンジンの補機取り外し方法。
【請求項2】
前記第1円筒状リブの内周面に前記ねじを形成し、前記治具を用いて前記駆動軸を押し出すことによって、前記補機を前記エンジン本体から取り外す、ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの補機取り外し方法。
【請求項3】
前記駆動軸は、前記補機側から前記回転体側に向かって先細りになるテーパ部を備え、
前記回転体は、前記テーパ部が挿入されるテーパ孔を備える、ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの補機取り外し方法。
【請求項4】
前記補機は、前記駆動軸の外周を囲う筒状部を備え、
前記エンジン本体は、前記筒状部を挿通する取り付け孔を備え、
前記筒状部と前記取り付け孔とは、シール部材を介して嵌合される、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの補機取り外し方法。
【請求項5】
前記無端部材はチェーンであり、
前記回転体はスプロケット体であり、
前記エンジン本体または前記カバー部材の少なくとも一方における、前記スプロケット体の半径方向外方に、前記チェーンの歯飛びを防止する歯飛び防止リブを設ける、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンの補機取り外し方法。
【請求項6】
前記エンジン本体および前記カバー部材は、フランジを介して接合され、
前記フランジに前記歯飛び防止リブを設ける、ことを特徴とする請求項5に記載のエンジンの補機取り外し方法。
【請求項7】
前記エンジン本体または前記カバー部材のいずれか一方には、前記スプロケット体の周方向を覆うようにオイルを誘導するための誘導リブが設けられ、
前記誘導リブに前記歯飛び防止リブを設ける、ことを特徴とする請求項5に記載のエンジンの補機取り外し方法。
【請求項8】
前記補機は、エンジンに燃料を供給する燃料噴射ポンプである、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のエンジンの補機取り外し方法。
【請求項9】
クランクシャフトの回転を補機に伝達するための無端部材および回転体と、
前記補機の駆動軸に前記回転体を締結するための締結部材と、を備え、
前記無端部材および前記回転体が、エンジン本体とカバー部材との間に収容されるエンジンにおいて、
前記回転体から前記カバー部材に向かって延出する第1円筒状リブと、
前記回転体から前記エンジン本体に向って延出する第2円筒状リブと、
前記第1円筒状リブと半径方向に重なるように、前記カバー部材から前記回転体に向かって延出する第1保持リブと、
前記第2円筒状リブと半径方向に重なるように、前記エンジン本体から前記回転体に向かって延出する第2保持リブと、
を備え、
前記第1円筒状リブまたは前記第1保持リブのいずれか内側に位置する方の内周面にねじを形成し、前記ねじと螺合するねじを有する治具を用いて前記駆動軸を押し出し可能である、ことを特徴とするエンジンの補機取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113156(P2013−113156A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258058(P2011−258058)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】