説明

エンジンオイル状態監視装置

【課題】簡単な構成により、エンジンオイルOの交換周期を適切な時期にでき、適正なエンジンオイルOの状態でエンジンを運転することができるオイル状態監視装置を提供する。
【解決手段】エンジンオイルOの温度であるオイル温度を計測するオイル温度計測手段11と、エンジン1の暖機運転時におけるオイル温度計測手段11の計測結果に基づいてオイル温度の上昇速度を導出するオイル温度上昇速度導出手段21と、オイル温度上昇速度導出手段21で導出したオイル温度の上昇速度から、エンジンオイルOの残量に対応するオイル状態を推定するオイル状態推定手段30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのエンジンオイル状態を監視するエンジンオイル状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、潤滑作用を持つエンジンオイルを、エンジンの稼動時にオイルパンから吸い上げて必要部位を潤滑させた後に、オイルパンに戻すように構成されている。
【0003】
上述したエンジンオイルは、高温に晒される等して劣化したり、排気ガスと共に大気に放出され消費されるので、エンジンオイルの劣化度や残量等のオイルの状態を監視するためのさまざまな装置が知られている。
例えば、エンジンオイルの交換時期をエンジンオイルの劣化度に見合った予測によって警報する装置として、負荷率により補正した運転時間を積算したエンジンの積算運転時間がエンジンオイルの交換目安時間限度以上になった場合に、警報表示を行う装置が知られている(特許文献1を参照。)。
また、適正なエンジンオイルの残量を知りえる装置として、オイルパン内のオイルレベルを検出するレベルセンサが設けられているものが知られている(特許文献2を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−208140号公報
【特許文献2】特開平5−288031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、同じ種類のエンジンであっても、製造上の個体差等によってエンジンオイルの消費速度に差があるにもかかわらず、エンジンオイルの交換目安時間限度が一律に定められている。よって、エンジンオイルの消費量が少なく、エンジンオイルの劣化度が低い場合であっても、無駄にオイルが交換されたり、消費量が多く劣化度が高い場合であっても、オイルが交換されずにエンジンの故障を招く等の問題点があった。
また、特許文献2の装置に設けられたエンジンの熱に耐え得るレベルセンサは、例えばオイル残量が所定のレベルまで減少したか否かを検出するものに過ぎず、連続的にオイル残量を検出できるようなものではない。更に、このようなレベルセンサは、振動による誤検知が多い等、実用的なものではなかった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成により、エンジンオイルの残量や劣化度等のオイル状態を正確に認識することができるオイル状態監視装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るエンジンのエンジンオイルの状態を監視するエンジンオイル状態監視装置は、エンジンオイルの残量とオイル温度の上昇速度には相関があるという知見に基づいており、その第1特徴構成は、前記エンジンオイルの温度であるオイル温度を計測するオイル温度計測手段と、前記エンジンの暖機運転時における前記オイル温度計測手段の計測結果に基づいて前記オイル温度の上昇速度を導出するオイル温度上昇速度導出手段と、前記オイル温度上昇速度導出手段で導出した前記オイル温度の上昇速度から、前記エンジンオイルの残量に対応するオイル状態を推定するオイル状態推定手段とを備えた点にある。
【0008】
上記第1特徴構成によれば、オイル温度上昇速度導出手段が、エンジンが冷間状態から温間状態に移行する暖機運転時のオイル温度計測手段の計測結果に基づいてオイル温度の上昇速度を導出し、オイル状態推定手段が当該オイル温度の上昇速度からエンジンオイルの残量に対応するオイル状態を推定するため、高価なレベルセンサを設けることなく、エンジンオイルの残量に対応するオイル状態を正確に推定することができる。尚、本願において、暖機運転とは、エンジンが毎回同じ出力又は出力変動パターンで冷間状態から温間状態に移行する運転を示す。
即ち、エンジンオイルの熱容量はエンジンオイルの残量にほぼ比例し、暖機運転時におけるエンジンの発熱がほぼ一定であることから、暖機運転時におけるエンジンのオイル温度の上昇速度は、エンジンオイルの残量が多いほど遅くなるというように、エンジンオイルの残量に対して所定の相関関係を有する。よって、暖機運転時におけるオイル温度の上昇速度から、エンジンオイルの残量又はそれに対応するオイル状態を正確に推定することができる。
さらに、上記オイル状態の正確な推定結果から、エンジンオイルの交換時期を適切な時期に決定できるため、エンジンオイルの劣化によるエンジンの故障を防止しながら、エンジンオイルの無駄な交換を防止できる。
これにより、エンジンオイルのレベルセンサを必要としないというような簡単な構成により、エンジンオイルの残量や劣化度等のオイル状態を正確に認識することができる状態監視装置を実現できる。
【0009】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加え、前記オイル状態推定手段が、前記エンジンの温度状態に基づいて、前記オイル状態を推定するための基準となるオイル状態基準値を決定する点にある。
【0010】
上記第2特徴構成によれば、上述したオイル状態を推定するためのオイル温度の上昇速度のオイル状態基準値は、設置場所や運転時期や運転負荷等の環境条件により変化するエンジンの温度状態を考慮して適切に決定されるため、当該環境条件の変化による推定誤差を排除する形態で、オイル状態の推定の精度をより一層高いものとすることができる。
【0011】
これまでも述べているように、オイル温度の上昇速度は、エンジンオイルの残量と関係がある。この時、オイル温度の上昇速度は、エンジンが置かれている状況下における環境条件に支配される。そこで、冷却水温度の上昇速度、又は環境温度をそれぞれ環境条件を代表する一指標とすることができる。
【0012】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第3特徴構成は、上記第2特徴構成に加え、前記エンジンの冷却水の温度である冷却水温度を計測する冷却水温度計測手段と、前記暖機運転時における前記冷却水温度計測手段の計測結果に基づいて前記冷却水温度の上昇速度を導出する冷却水温度上昇速度導出手段とを備え、前記オイル状態推定手段が、前記冷却水温度上昇速度導出手段で導出した前記冷却水温度の上昇速度に基づいて前記オイル状態基準値を決定する点にある。
【0013】
上記第3特徴構成によれば、上記冷却水温度の上昇速度に基づいてオイル状態基準値を決定することにより、一層高精度にオイル状態を推定することができる。
そして、実際の環境条件に影響される冷却水温度の上昇速度から当該環境条件に合わせて決定されたオイル状態基準値と、同じく実際の環境条件に影響されるオイル温度の上昇速度とを利用して、実際の環境条件による影響を排除する形態で、オイル残量に応じたオイル状態を高精度に推定することができる。
【0014】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第4特徴構成は、上記第2特徴構成と第3特徴構成との何れかに加え、前記エンジンの環境温度を計測する環境温度計測手段を備え、前記オイル状態推定手段が、前記環境温度計測手段で計測した前記環境温度に基づいて前記オイル状態基準値を決定する点にある。
【0015】
上記第4特徴構成によれば、上記環境温度に基づいてオイル状態基準値を決定することにより、一層高精度にオイル状態を推定することができる。
この場合、環境条件として直接的に環境温度を使用するものとする。
よって、実際の環境温度に合わせて決定されたオイル状態基準値と、同じく実際の環境温度に影響されるオイル温度の上昇速度とを利用して、実際の環境温度による影響を排除する形態で、オイル残量に応じたオイル状態を高精度に推定することができる。
【0016】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第5特徴構成は、上記第1特徴構成から第4特徴構成の何れかに加え、前記暖機運転時の計測結果として前記エンジンの冷間状態からの起動運転時の計測結果を用いる点にある。
【0017】
上記第5特徴構成によれば、冷間状態にあるエンジンの運転を開始した時点からの起動運転時においては、確実にエンジンが冷間状態から温間状態に移行するので、オイル温度の上昇速度等を正確に求めることができる。
【0018】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第6特徴構成は、上記第1特徴構成から第5特徴構成の何れかに加え、前記オイル状態推定手段が、前記オイル温度の上昇速度と前記エンジンオイルの残量との相関関係を用いて、前記オイル状態としての前記エンジンオイルの残量を推定する点にある。
【0019】
上記第6特徴構成によれば、オイル温度の上昇速度とエンジンオイルの残量とが相関を有するので、その相関関係を予め求める等しておきこれを用いて、オイル温度上昇速度導出手段が導出したオイル温度の上昇速度から、オイル状態としてのエンジンオイルの残量を推定することができる。
【0020】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第7特徴構成は、上記第1特徴構成から第6特徴構成の何れかに加え、前記オイル状態推定手段が、前記エンジンオイルの残量と使用積算時間と劣化度との相関関係を用いて、前記オイル状態としての前記エンジンオイルの劣化度を推定する点にある。
【0021】
上記第7特徴構成によれば、エンジンオイルの残量から前回交換時からのエンジンオイルの消費量を認識することができ、そのオイル消費量や前回交換時からのエンジンの運転積算時間である前記エンジンオイルの使用積算時間は、エンジンオイルの劣化度に対して相関を有するので、その相関関係を予め求める等しておき、それを用いて、オイル状態推定手段が導出したエンジンオイルの残量とその時点でのエンジンオイルの使用積算時間とから、オイル状態としてのエンジンオイルの劣化度まで求めることができる。
【0022】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第8特徴構成は、上記第1特徴構成から第7特徴構成の何れかに加え、前記オイル状態推定手段の推定結果に応じて使用者に対する報知処理を行う報知手段を備えた点にある。
【0023】
上記第8特徴構成によれば、報知手段が、上述したエンジンオイルの残量やエンジンオイルの劣化度等のオイル状態に応じて、適切なメッセージを使用者に対して出力する形態で上記報知処理を行うため、オイル交換等に不慣れな使用者でも、そのメッセージによりオイル状態を的確に把握することができる。
【0024】
本発明に係るエンジンオイル状態監視装置の第9特徴構成は、上記第1特徴構成から第8特徴構成の何れかに加え、前記オイル状態推定手段の推定結果に応じて前記エンジンの運転可否を判断するエンジン運転制御手段を備えた点にある。
【0025】
上記第9特徴構成によれば、エンジン運転制御手段が、上記エンジンオイルの残量や上記エンジンオイルの劣化度等のオイル状態が許容できない程度と推定された場合に、自動でエンジンの運転を停止して、エンジンの故障を適切に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のエンジンオイル状態監視装置100の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、エンジン1のエンジンオイルOの状態を監視するエンジンオイル状態監視装置を具備したエンジンシステム100の構成を示している。
エンジン1は、ケーシング7の内部に備えられ、点火プラグ2により混合気を火花点火する火花点火式エンジンとして構成されている。この種のエンジン1は、主要部位を潤滑するエンジンオイルOを貯留するオイルパン3と、冷却水JWを流通してエンジン1を冷却する冷却水循環路5を備えている。冷却水循環路5には、エンジン1を冷却して昇温した冷却水JWを冷却するラジエーター4とエンジン1とラジエーター4との間で冷却水JWを循環させる循環ポンプ6が設けられている。
又、エンジン1は、コンピューターからなる制御装置20が機能するエンジン運転制御手段23により運転が制御され、例えば、エンジン運転制御手段23は、点火プラグ2の火花点火を停止させることで、エンジン1を停止させることができる。
【0028】
さらに、エンジンシステム100は、エンジンオイルOの温度であるオイル温度を計測するオイル温度計測手段として、オイル温度センサ11をオイルパン3に備える。
制御装置20は、エンジン1の暖機運転時におけるオイル温度センサ11の計測結果に基づいてオイル温度の上昇速度を導出するオイル温度上昇速度導出手段21と、オイル温度上昇速度導出手段21で導出したオイル温度の上昇速度からエンジンオイルOの残量に対応するオイル状態を推定するオイル状態推定手段30として機能する。
尚、上記エンジンオイルOの残量及び上記エンジンオイルOの劣化度は、エンジンオイルOの残量自体若しくは本発明にあっては当該残量から求められるものであるから、エンジンオイルOの残量に対応するオイル状態と言える。
即ち、本実施形態において、オイル状態とは、エンジンオイルOの残量及びエンジンオイルOの劣化度を表す。また、エンジン1が冷間状態から温間状態へ移行する暖機運転時の計測結果として、冷間状態にあるエンジン1の運転を開始した時点からの起動運転時の計測結果を用いて上記オイル温度上昇速度や後述する冷却水温度上昇速度を導出することとする。
【0029】
さらに、オイル状態推定手段30は、オイル状態を推定する基準となるオイル状態基準値をエンジンの温度状態を考慮して適切に決定する基準値決定部32と、当該オイル状態基準値とオイル温度の上昇速度とからエンジンオイルOの残量を推定するオイル残量推定部31と、当該エンジンオイルOの残量とその時点でのエンジンオイルOの使用積算時間とからエンジンオイルOの劣化度を推定するオイル劣化度推定部33と、オイル状態を推定するための関数及び予め取得したデータ等を保持する記憶部34とから構成されている。
【0030】
基準値決定部32は、実際の環境条件に影響される上記冷却水温度の上昇速度から当該環境条件に合わせてオイル状態基準値を決定する。
【0031】
オイル残量推定部31は、基準値決定部32で決定されたオイル状態基準値と、実際の環境条件に影響されるオイル温度の上昇速度とを利用して、エンジンオイルOの残量を推定する。当該推定は、後述するオイル残量導出関数を用いて行う。
【0032】
オイル劣化度推定部33は、オイル残量推定部31のエンジンオイルOの残量とその時点でのエンジンオイルOの使用積算時間とから、エンジンオイルOの劣化度を推定する。当該推定は、後述するオイル劣化度導出関数を用いて行う。
【0033】
尚、上記の2つの関数は、予め実験等で取得した各種データに基づいて定められ、記憶部34に記憶されている。
【0034】
上述した冷却水循環路5におけるエンジン1とラジエーター4との間に冷却水温度センサ12が備えられ、これは、エンジン1から出た後の冷却水温度を計測する冷却水温度計測手段として機能する。
【0035】
制御装置20は、冷却水温度センサ12の計測結果に基づいて冷却水温度の上昇速度を導出する冷却水温度上昇速度導出手段22として機能する。
【0036】
制御装置20は、オイル状態であるエンジンオイルOの残量及びエンジンオイルOの劣化度の推定結果を、使用者に報知する報知手段24として機能する。報知手段24は、オイル状態に基づいて、外部機器であるスピーカー51と表示部52とに対して音声出力や表示出力を行うように指示する。
【0037】
エンジン運転制御手段23は、オイル状態であるエンジンオイルOの残量及びエンジンオイルOの劣化度の推定結果に基づいて、エンジン1の運転可否を判断すると共に、運転不可と判断した場合にエンジン1を停止するように構成されている。
【0038】
以下に図2を用いてオイル状態基準値の決定過程及びオイル残量導出関数について説明する。
図2は、冷間状態にあるエンジンが起動運転時において冷間状態から温間状態へと移行する際に、エンジンオイルOの残量が多い場合と少ない場合において、オイル温度と冷却水温度とを計測して、それらの経時的変化をグラフ化したものであり、オイル温度(Hi)の太実線は、エンジンオイルOの残量が多い場合のオイル温度の経時的変化を表し、オイル温度(Lo)の一点鎖線は、エンジンオイルOの残量が少ない場合のオイル温度の経時的変化を表し、冷却水温度(Hi)の点線は、エンジンオイルOの残量が多い場合の冷却水温度の経時的変化を表し、冷却水温度(Lo)の細実線は、エンジンオイルOの残量が少ない場合の冷却水温度の経時的変化を表す。
【0039】
オイル温度(Hi)とオイル温度(Lo)とを比較することにより、エンジンオイルOの残量とオイル温度の上昇速度には、エンジンオイルOの残量が少ないほどオイル温度の上昇速度が速いという相関関係があることがわかる。
【0040】
即ち、当該相関関係は、ある環境条件において、ある基準残量におけるオイル温度の上昇速度を表すオイル状態基準値を用いることにより、当該オイル状態基準値からオイル温度上昇速度を差し引いた値とエンジンオイルOの残量との相関で表される。
本実施形態において、上記基準残量は、エンジンオイルOの残量の下限値である。尚、当然この基準残量は下限値以外の値としても構わない。
ここで、エンジンオイルOの残量が下限値で環境温度が26℃程度の場合を標準状態と定義すると、実際の環境条件でのオイル状態基準値は、予め実験等で求めた標準状態のオイル温度の上昇速度を、標準状態の冷却水温度の上昇速度と実際の環境条件での冷却水温度の上昇速度との差で補正することにより決定される。尚、このような補正を行うことなく、互いに異なる複数の冷却水温度の上昇速度での夫々のオイル状態基準値を予め実験等で求め、その求めた複数のオイル状態基準値を冷却水温度の上昇速度毎にまとめたマップデータを作成しておき、実際の冷却水温度の上昇速度をそのマップデータに当てはめて、実際の環境条件でのオイル状態基準値を導出しても構わない。
【0041】
この根拠を以下に説明する。冷却水温度(Hi)と冷却水温度(Lo)とを比較すれば、冷却水温度の上昇速度は、エンジンオイルOの残量に関係なくほぼ一定であることがわかる。また、冷却水温度の上昇速度は、オイル温度の上昇速度と同様に環境条件の変化に応じて変動する。これら二つの事実により、標準状態の冷却水温度の上昇速度と実際の環境条件での冷却水温度の上昇速度との差は、エンジンオイルOの残量に影響されない環境条件の変動の影響を表すものとなるため、この差と標準状態でのオイル温度の上昇速度とから、実際の環境条件でのオイル温度の上昇速度をオイル状態基準値として求めることができるのである。
【0042】
例えば、オイル状態基準値は、エンジンオイルOの残量が下限値で、環境温度が26℃程度の場合の冷却水温度の上昇速度から冷却水温度の上昇速度を差し引いた値を、当該値に対して冷却水JWの比熱をエンジンオイルOの比熱で除算した値を乗算し、さらに標準状態でのオイル温度の上昇速度を加算することで決定される。
【0043】
以上から、オイル残量導出関数は、オイル温度の上昇速度が遅くなるほど、エンジンオイルOの残量が多くなるという相関を有する関数である。例えば、実際の環境条件において、その相関から、基準残量におけるオイル状態基準値に対して実際のエンジンオイルOの残量におけるオイル温度の上昇速度がどの程度遅いかによって、基準残量に対して実際のエンジンオイルOの残量がどの程度多いかを求めることができ、その値に基準残量を加算することで、エンジンオイルOの残量の推定結果を得ることができる。
【0044】
即ち、上述したオイル状態基準値とオイル残量導出関数と導出した実際の環境条件でのオイル温度の上昇速度とから、エンジンオイルOの残量を求めることができる。
また、異なる複数の基準残量での夫々のオイル状態基準値を予め実験等で求め、その求めた複数のオイル状態基準値を基準残量毎にまとめたマップデータを作成しておき、実際のオイル温度の上昇速度をそのマップデータに当てはめて、実際のエンジンオイルOの残量を導出しても構わない。
【0045】
次に、図3に基づいてオイル劣化度導出関数について説明する。
図3は、オイル消費量(エンジンオイルOの残量の減少幅、具体的には、前回交換時のオイル残量から現時点のオイル残量を差し引いた量)が多い場合と少ない場合とにおいて、オイル劣化度の経時的変化を表したものである。即ち、エンジンオイルOの劣化度(エンジンオイルOの酸価)は、オイル消費量が多いほど、又は、オイル使用積算時間(エンジンオイルOの使用積算時間、具体的には、前回交換時からのエンジン1の運転積算時間)が長くなるほど、高くなるという相関関係があることがわかる。
【0046】
即ち、オイル劣化度導出関数は、オイル消費量が大きいほど、又は、オイル使用積算時間が長くなるほど、エンジンオイルOの劣化度が高くなる関数である。また、互いに異なる複数のオイル消費量やオイル使用積算時間での夫々のエンジンオイルOの劣化度を予め実験等で求め、その求めた複数のエンジンオイルOの劣化度をオイル消費量やオイル使用積算時間毎にまとめたマップデータを作成しておき、実際のオイル消費量及びオイル使用積算時間をそのマップデータに当てはめて、実際のエンジンオイルOの劣化度を導出しても構わない。
【0047】
次に、エンジンシステム100のエンジンオイルOの監視処理を示すフローを図4に基づいて説明する。
【0048】
オイル温度上昇速度導出手段21又は冷却水温度上昇速度導出手段22が、タイマ(図示せず)等から取得したオイル使用積算時間が通常のオイルの交換目安時間になったか判断する。例えば、オイル使用積算時間が、通常のオイルの交換目安時間である6000時間になった時点で、後述するステップ#102及び#105に進む(ステップ#101)。
【0049】
次に、冷却水温度上昇速度導出手段22が、エンジン運転制御手段23からエンジン1が運転を開始した時点であることを示す信号を受け取り、その信号を受け取った時点においてエンジン1が冷間状態にあると判断した場合には、その冷間状態の時点から一定時間経過した時点までの起動運転時において、冷却水温度センサ12から冷却水温度を単位時間毎に複数回取得する(ステップ#102)。
尚、上記エンジン1が冷間状態にあるか否かの判断は、例えば、冷却水温度センサ12で検出された冷却水温度又はそれの外気温度との温度差が、設定値以下であるか否かにより行うことができる。また、この設定値は一定値でも構わないが、例えば季節毎に異なる値を設定しても構わない。また、別の方法として、過去の1回又は複数回の起動運転開始時の冷却水温度を記憶しておき、今回の起動運転開始時の冷却水温度が、その記憶している過去の冷却水温度の平均値等を基準に、比較的低かった場合には、冷間状態であると判断することができる。
【0050】
冷却水温度上昇速度導出手段22が、起動運転時に取得した冷却水温度に基づいて当該冷却水温度の上昇速度を導出する(ステップ#103)。尚、この冷却水温度の上昇速度は、例えば、冷却水温度が設定温度(例えば、70℃、又は、起動運転開始時点の冷却水温度+40℃)まで上昇するのにかかった時間や、当該設定温度までの冷却水温度の上昇率(℃/min)の平均値や最大値等として求めることができる。
【0051】
基準値決定部32が、冷却水温度の上昇速度からオイル状態基準値を決定する(ステップ#104)。
【0052】
一方、上述したステップ#102〜ステップ#103の冷却水温度上昇速度の導出処理と同時に、オイル温度上昇速度導出手段21が、エンジン運転制御手段23からエンジン1が運転を開始した時点であることを示す信号を受け取り、その信号を受け取った時点においてエンジン1が冷間状態にあると判断した場合には、その冷間状態の時点から一定時間経過した時点までの起動運転時において、オイル温度センサ11からオイル温度を単位時間毎に複数回取得する(ステップ#105)。
【0053】
オイル温度上昇速度導出手段21は、起動運転時に取得したオイル温度に基づいて当該オイル温度の上昇速度を導出する(ステップ#106)。尚、このオイル温度の上昇速度は、例えば、オイル温度が設定温度(例えば、70℃、又は、起動運転開始時点のオイル温度+40℃)まで上昇するのにかかった時間や、当該設定温度までのオイル温度の上昇率(℃/min)の平均値や最大値等として求めることができる。
【0054】
さらに、オイル温度上昇速度導出手段21は、オイル残量導出関数に従って、オイル状態基準値とオイル温度の上昇速度とからエンジンオイルOの残量を推定する。(ステップ#107)。
【0055】
オイル劣化度推定部33は、オイル劣化度導出関数に従って、エンジンオイルの残量の推定値とオイル使用積算時間とからエンジンオイルOの劣化度を推定する(ステップ#108)。
【0056】
報知手段24は、オイル劣化度推定部33からオイル状態であるエンジンオイルOの残量及びエンジンオイルOの劣化度の推定結果を取得し、使用者に報知する。報知手段24は、エンジンオイルOの残量の推定結果が予め設定された下限値よりも少ない場合、又は、エンジンオイルOの劣化度がエンジンオイルOの上限値よりも高い場合に、外部機器であるスピーカー51と表示部52とに対して、「もうすぐ点検時期です」や「点検時期になりました」や「点検時期を超過しましたので、エンジンを停止します」等の音声出力や表示出力を行うように指示する(ステップ#109)。
【0057】
エンジン運転制御手段23は、オイル劣化度推定部33からエンジンオイルOの残量及びエンジンオイルOの劣化度の推定結果であるオイル状態を取得し、エンジンオイルOの残量の推定結果が予め設定された下限値よりも少ない場合、又は、エンジンオイルの劣化度の推定結果がエンジンオイルOの上限値よりも高い場合に、エンジン1に備えられた点火プラグ2を停止して、エンジン1の運転を停止する(ステップ#110)。
以上のステップ#102からステップ#110の処理は、繰り返し実行するように設定されている。
【0058】
〔別実施形態〕
(1)上述した実施形態において、オイル状態推定手段30は、別にオイル残量推定部31が備えられていなくてもよい。即ち、オイル劣化度推定部33が、オイル温度の上昇速度とオイル状態基準値とを受け取り、エンジンオイルOの劣化度を直接推定するように構成することができる。この場合、オイル劣化度推定部33は、オイル温度の上昇速度の変化程度によってエンジンオイルOの劣化度を推定することになる。オイル温度の上昇速度の変化程度は、例えば、オイル使用積算時間が短い場合のオイル温度の上昇速度からオイル使用積算時間が長い場合のオイル温度の上昇速度への変化程度であり、この場合、エンジンオイルの劣化度は、当該変化程度が大きいほど、高くなる関数により表される。
【0059】
(2)上述した実施形態において、オイル状態は、エンジンオイルOの残量及びエンジンオイルOの劣化度として説明したが、エンジンオイルOの残量又はエンジンオイルOの劣化度のいずれか一方であってもよい。
【0060】
(3)上述した実施形態において、オイル状態基準値は、冷却水温度の上昇速度に基づいて決定したが、環境温度に基づいて決定することもできる。即ち、図1に二点鎖線で示すようにケーシング7の内部温度を計測する環境温度計測手段として機能する内部温度センサ13が、上述したケーシング7の内部に備えられている。そして、基準値決定部32が、例えば暖機運転開始時において内部温度センサ13により計測した内部温度をエンジン1の環境温度とし、その環境温度に合わせてオイル状態基準値を決定することができる。尚、上記内部温度ではなく、暖機運転開始時のエンジン冷却水の温度や排ガス温度を上記環境温度としても良く、また、ケーシング7の外部温度を当該環境温度としても良い。
この場合、上述した本発明のエンジンオイルOの監視処理を示す図4のフローのステップ#102からステップ#105の処理に替えて、以下の処理を実行する。
基準値決定部32が、エンジン運転制御手段23からエンジン1が運転を開始した時点であることを示す信号を受け取ると、その時点での上記環境温度を取得する。そして、基準値決定部32は、上記取得した環境温度にも基づいて、エンジンオイルOの残量を推定するためのオイル温度の上昇速度の基準となるオイル状態基準値を決定する。このとき、環境温度の上昇に起因してオイル温度の上昇速度が速くなることから、当該環境温度が高いほど当該オイル状態基準値は速い側に決定される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のオイル状態監視装置は、エンジンオイルOのレベルセンサを設けない簡単な構成により、エンジンオイルOの交換周期を適切な時期にできるとともに、適正なエンジンオイルOの状態でエンジンを運転することができるオイル状態監視装置として、有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】エンジンオイル状態監視装置を具備したエンジンシステムの全体構成を示すブロック図
【図2】エンジンオイルの残量とオイル温度の上昇速度及び冷却水温度の上昇速度との相関を表すグラフ図
【図3】エンジンオイルの劣化度(エンジンオイルの酸価)とオイル消費量及びオイル使用積算時間との相関を表すグラフ図
【図4】本発明のエンジンオイルの監視処理を示すフロー図
【符号の説明】
【0063】
1:エンジン
11:オイル温度センサ(オイル温度計測手段)
12:冷却水温度センサ(冷却水温度計測手段)
13:内部温度センサ(環境温度計測手段)
21:オイル温度上昇速度導出手段
22:冷却水温度上昇速度導出手段
30:オイル状態推定手段
23:エンジン運転制御手段
24:報知手段
O:エンジンオイル
JW:冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのエンジンオイルの状態を監視するエンジンオイル状態監視装置であって、
前記エンジンオイルの温度であるオイル温度を計測するオイル温度計測手段と、
前記エンジンの暖機運転時における前記オイル温度計測手段の計測結果に基づいて前記オイル温度の上昇速度を導出するオイル温度上昇速度導出手段と、
前記オイル温度上昇速度導出手段で導出した前記オイル温度の上昇速度から、前記エンジンオイルの残量に対応するオイル状態を推定するオイル状態推定手段とを備えたエンジンオイル状態監視装置。
【請求項2】
前記オイル状態推定手段が、前記エンジンの温度状態に基づいて、前記オイル状態を推定するための基準となるオイル状態基準値を決定する請求項1に記載のエンジンオイル状態監視装置。
【請求項3】
前記エンジンの冷却水の温度である冷却水温度を計測する冷却水温度計測手段と、
前記暖機運転時における前記冷却水温度計測手段の計測結果に基づいて前記冷却水温度の上昇速度を導出する冷却水温度上昇速度導出手段とを備え、
前記オイル状態推定手段が、前記冷却水温度上昇速度導出手段で導出した前記冷却水温度の上昇速度に基づいて前記オイル状態基準値を決定する請求項2に記載のエンジンオイル状態監視装置。
【請求項4】
前記エンジンの環境温度を計測する環境温度計測手段を備え、
前記オイル状態推定手段が、前記環境温度計測手段で計測した前記環境温度に基づいて前記オイル状態基準値を決定する請求項2又は3に記載のエンジンオイル状態監視装置。
【請求項5】
前記暖機運転時の計測結果として前記エンジンの冷間状態からの起動運転時の計測結果を用いる請求項1から4の何れか一項に記載のエンジンオイル状態監視装置。
【請求項6】
前記オイル状態推定手段が、前記オイル温度の上昇速度と前記エンジンオイルの残量との相関関係を用いて、前記オイル状態としての前記エンジンオイルの残量を推定する請求項1から5の何れか一項に記載のエンジンオイル状態監視装置。
【請求項7】
前記オイル状態推定手段が、前記エンジンオイルの残量と使用積算時間と劣化度との相関関係を用いて、前記オイル状態としての前記エンジンオイルの劣化度を推定する請求項1から6の何れか一項に記載のエンジンオイル状態監視装置。
【請求項8】
前記オイル状態推定手段の推定結果に応じて使用者に対する報知処理を行う報知手段を備えた請求項1から7の何れか一項に記載のエンジンオイル状態監視装置。
【請求項9】
前記オイル状態推定手段の推定結果に応じて前記エンジンの運転可否を判断するエンジン運転制御手段を備えた請求項1から8の何れか一項に記載のエンジンオイル状態監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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