説明

エンジン制御装置、及び鞍乗型車両

【課題】車両のジャンプ時にエンジン回転数の上昇を効果的に抑制できるエンジン制御装置を提供することにある。
【解決手段】エンジン制御装置10は、加速度センサ13から入力される信号に基づいて、車体の上下方向における重力加速度の加速度成分を検知する加速度検知装置16と、検知される加速度成分に基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定する制御回路11とを備える。制御回路11は、車両がジャンプしたと判断した場合に、エンジン回転数の上昇を抑制するための処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの過回転を防止するエンジン制御装置及び鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車や、スノーモービルなどの鞍乗型車両には、エンジンの耐久性を向上するため、エンジンの回転数が過度に上昇することを防止する機能を有するエンジン制御装置が搭載されているものがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、鞍乗型車両では、搭乗者が車両をジャンプさせて楽しむ場合がある。例えば、オフロード仕様の自動二輪車では、搭乗者が、競技コースに設けられたジャンプ台で、車両を大きくジャンプさせて楽しむことがある。ジャンプ中には、タイヤが路面から離れることによって、エンジンに負荷が掛からない状態になる。
【特許文献1】特開平5−332238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のエンジン制御装置は、エンジンの駆動時には路面を走行することによって生じる負荷がエンジンに掛かっていることを前提として、エンジン回転数の上昇を抑制する制御を実行する。そのため、エンジンへの負荷が無くなるジャンプ中には、エンジン回転数を抑制する制御が十分に機能しているとは言えなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的の一つは、ジャンプ時にエンジン回転数の上昇を効果的に抑制できるエンジン制御装置、及び鞍乗型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るエンジン制御装置は、車両の予め定める方向における重力加速度の加速度成分を検知する加速度検知手段と、前記加速度検知手段によって検知される加速度成分に基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定するジャンプ判定手段と、前記ジャンプ判定手段によって車両がジャンプしたと判断された場合に、エンジン回転数の上昇を抑制するための処理を行う回転数上昇抑制処理手段とを備える。
【0007】
また、本発明に係る鞍乗型車両は、上記エンジン制御装置を搭載する。ここで、鞍乗型車両は、例えば自動二輪車(スクータを含む)、四輪バギー、スノーモービル、水上オートバイ等を含む。
【0008】
本発明によれば、ジャンプ判定手段によって車両がジャンプしたか否かが判定され、車両のジャンプ時にはエンジン回転数の上昇を抑制するための処理が行われるので、ジャンプ時にエンジン回転数の上昇を効果的に抑制できる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記ジャンプ判定手段は、予め定める条件に該当する加速度が継続して検知されることを条件として、車両がジャンプしたと判断する。この態様によれば、車両がジャンプしたか否かの判定の正確性が向上する。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記加速度検知手段によって検知される加速度成分と、前記ジャンプ判定手段の判定結果とに基づいて、車両が転倒したか否かを判定する転倒判定手段を更に備える。車体に働く重力加速度の加速度成分は、車両の転倒時とジャンプ時のいずれの場合においても、通常走行時に働いている加速度から変化した値となる。そのため、ジャンプ時を転倒時として誤って判定する恐れがある。この形態によれば、転倒判定手段は、加速度だけでなく、ジャンプ判定手段による判定結果に基づいて、車両が転倒したか否かを判定するので、誤判定を防止できる。
【0011】
また、本発明の一態様では、サスペンションの減衰力を電磁的に変化させる調整機構と、前記ジャンプ判定手段による判定結果に基づいて、前記調整機構による前記サスペンションの減衰力を変化させるサスペンション制御手段と、をさらに備えてもよい。この態様によれば、車両がジャンプした後の着地時の乗車感を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態の例であるエンジン制御装置10を搭載した自動二輪車1の側面図である。図1に示すように、自動二輪車1は、エンジン制御装置10と、エンジン20と、車体フレーム3と、を備えている。
【0013】
車体フレーム3は、その前端部にステアリングヘッド部3aを有し、当該ステアリングヘッド部3aはステアリングシャフト4を回転可能に支持している。ステアリングシャフト4は、斜め上下方向に延伸するフロントサスペンション5に連結されている。フロントサスペンション5は、走行時の衝撃を吸収するためのスプリングと、オイルダンパー機構とを含んでいる。
【0014】
車体フレーム3は、該ステアリングヘッド部3aから後方に向けて延伸するメインフレーム3bを有し、当該メインフレーム3bは下方に湾曲している。メインフレーム3bの下方にはエンジン20が配置されている。エンジン20から出力された駆動力は、駆動力伝達機構(ここではチェーン)26を介して後車輪7に伝達される。エンジン20は、シリンダ20aに供給された燃料と空気の混合気を燃焼させる点火プラグ21を備えている。
【0015】
エンジン20の吸気ポートには、スロットルボディ25が接続されている。スロットルボディ25には、不図示のエアクリーナから空気が供給される。スロットルボディ25には、燃料を吸気通路内に噴射するインジェクタ22が取り付けられており、スロットルボディ25は、インジェクタ22から噴射された燃料を、エアクリーナから供給された空気と混合してエンジン20に供給する。
【0016】
メインフレーム3bの中途部にはシートレール3cが接続されている。シートレール3cは後方に延伸し、シート6を支持している。ここで説明する例では、シート6の下方にエンジン制御装置10が設置されている。なお、エンジン制御装置10の設置は、これに限られない。例えば、メインフレーム3bの前端部に設置されてもよい。
【0017】
図2は、エンジン制御装置10の構成を示すブロック図である。同図に示すように、エンジン制御装置10は、制御回路11と、記憶装置12と、加速度検知装置16とを含み、加速度検知装置16は、加速度センサ13と、A/D変換回路14と、ハイパスフィルタ回路15aと、位相補償回路15bと、減算回路15cとを含んでいる。ハイパスフィルタ回路15aと、位相補償回路15bと、減算回路15cは、加速度センサ13の出力信号からノイズを除去するノイズ除去回路15を構成し、この例ではアナログ回路である。
【0018】
制御回路11は、CPU(Central Processing Unit)を含み、記憶装置12に格納されているプログラムを実行して、車体に搭載される各種電装品を制御する。例えば、制御回路11は、車両の運転状態に応じて、点火プラグ21の点火タイミングや、インジェクタ22による燃料の噴射量等を制御する。また、本実施の形態において、制御回路11は、加速度センサ13から入力される信号に基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定し、車両がジャンプした場合に、エンジン回転数の上昇を抑制するための処理を実行する。制御回路11が実行する処理については、後において説明する。
【0019】
記憶装置12は、揮発性のメモリ、及び不揮発性のメモリを含み、制御回路11が実行するプログラムを保持している。また、本実施の形態では、記憶装置12は、通常走行時におけるエンジン20の許容回転数、又はジャンプ時におけるエンジン20の許容回転数を記憶している。エンジン20の回転数が許容回転数を超えると、制御回路11によって、エンジン回転数の上昇を抑制する後述する制御が実行される。
【0020】
加速度センサ13は、例えば、静電容量方式の加速度センサや、圧電素子を用いた加速度センサなど、半導体を用いた加速度センサである。ここで説明する例では、加速度センサ13は、直交する2方向を検知方向とする加速度センサであり、検知方向は車体の上下方向(高さ方向)と左右方向(車幅方向)となっている。加速度センサ13は、上下方向と左右方向における重力加速度の加速度成分に応じた信号を、減算回路15cとハイパスフィルタ回路15aとに出力する。なお、ここでは、加速度センサ13は、半導体を利用した加速度センサであるとして説明するが、例えば、振り子式の加速度センサなどでもよい。また、加速度センサ13は、2方向の加速度を検知する2軸センサでなく、3方向の加速度を検知する3軸センサや、2つの1軸センサでもよい。加速度センサ13が3軸センサである場合には、例えば、3つの検知方向のうち2方向を上下方向と左右方向に設定する。
【0021】
また、エンジン制御装置10の設置位置又は姿勢に関わらず2つの検知方向が車体の上下方向又は左右方向に向くように、エンジン制御装置10の筐体或いは基盤に対する加速度センサ13の姿勢が設定される。例えば、ここで説明するように、エンジン制御装置10がシート6の下方に配置され、当該エンジン制御装置10の基盤が水平に設けられている場合には、2軸の加速度センサ13が基盤に対して縦置きされる。これによって、加速度センサ13の2つの検知方向は車体の上下方向と左右方向となっている。また、エンジン制御装置がメインフレーム3bの前端部に配置され、当該エンジン制御装置の基盤が垂直に設けられている場合には、2軸の加速度センサが基盤に対して横置きされる。これによって、この場合の加速度センサの2つの検知方向も、車体の上下方向と左右方向となる。また、加速度センサ13が3軸センサである場合には、3つの検知方向のうち2つが選択され、当該2つの検知方向が車体の上下方向又は左右方向に向くように、エンジン制御装置10の筐体或いは基盤に対する加速度センサ13の姿勢が設定される。
【0022】
ノイズ除去回路15は、加速度センサ13から入力される信号から、ノイズ信号(車両の振動や、エンジン20の振動などによって生じる信号)を抽出する。そして、加速度センサ13から入力された信号から、ノイズ信号を差し引いて得られる信号を、加速度信号としてA/D変換回路14に出力する。以下、ノイズ除去回路15を構成する各回路について、詳細に説明する。
【0023】
ハイパスフィルタ回路15aは、加速度センサ13から入力される信号からノイズ信号を抽出する。すなわち、ハイパスフィルタ回路15aは、加速度センサ13から入力される信号において、所定のカットオフ周波数より低い周波数の信号を減衰させ、当該カットオフ周波数より高い周波数の信号を通過させる。ハイパスフィルタ回路15aを通過する周波数の高い信号は、位相補償回路15bに入力される。一般的に、エンジン20等の振動によるノイズ信号は、車両がジャンプすることによって変化する信号より、周波数が高い。この例では、カットオフ周波数が、ノイズ信号の周波数より低く、車両がジャンプした時に変化する加速度信号の周波数より高く設定されており、ハイパスフィルタ回路15aは、ノイズ信号を出力する。
【0024】
位相補償回路15bは、ハイパスフィルタ回路15aを通過することによって生じる信号の位相シフトを補償する。例えば、ハイパスフィルタ回路15aが、当該回路を通過する信号の位相を、所定の位相差だけ進める場合には、位相補償回路15bは、ハイパスフィルタ回路15aから入力される信号の位相を、当該所定の位相差だけ遅らせて、減算回路15cに出力する。
【0025】
減算回路15cは、加速度センサ13が出力する信号から、位相補償回路15bから入力されるノイズ信号を差し引いて、得られる信号を加速度信号としてA/D変換回路14に出力する。A/D変換回路14は、減算回路15cから入力されたアナログの加速度信号をデジタル信号に変換して、制御回路11に出力する。
【0026】
図3(a)は、加速度センサ13が出力する信号の例を示し、図3(b)は、位相補償回路15bが出力するノイズ信号の例を示し、図3(c)は、減算回路15cが出力する加速度信号の例を示している。なお、これらの図において、横軸は時間を示し、縦軸は信号の振幅を示している。また、ここでは、車体がジャンプすることによって、重力加速度の上下方向の成分が小さくなる場合を例にして説明する。
【0027】
図3(a)に示すように、加速度センサ13から出力される信号は、時間が経過するに従って小さくなるとともに、エンジン20の振動や車体の振動によって生じる周波数の高いノイズ信号を含んでいる。
【0028】
上述したように、ハイパスフィルタ回路15aは、加速度センサ13から入力される信号に含まれる周波数の低い信号を抑制し、周波数の高いノイズ信号のみを通過させる。その結果、図3(b)では、周波数の高いノイズ信号のみが示されている。
【0029】
また、上述したように、減算回路15cは、加速度センサ13が出力する信号から、位相補償回路15bが出力するノイズ信号を減算し、得られる信号を加速度信号として出力する。従って、図3(c)では、重力加速度の上下方向の成分を示す周波数の低い加速度信号が示されている。同図において、該加速度信号は、時間の経過に従って小さくなっており、上下方向の加速度成分が通常走行時より小さくなることを示している。
【0030】
なお、ここで説明した例では、ノイズ除去回路15は、ハイパスフィルタ回路15aと、減算回路15cとを含み、減算回路15cが加速度センサ13から入力された信号から、ハイパスフィルタ回路15aを介して入力された信号を減算することで、ノイズを除去していた。しかしながら、ノイズ除去回路15は、ハイパスフィルタ回路15aや減算回路15c等に替えて、例えば、ローパスフィルタ回路を含んでもよい。そして、該ローパスフィルタ回路が、加速度センサ13から入力された信号から周波数の高いノイズ信号を除去し、当該ノイズ信号が除去された信号を加速度信号としてもよい。
【0031】
ここで、制御回路11が実行する処理について説明する。上述したように、制御回路11は、車両がジャンプしたか否かを判定し、車両がジャンプした場合に、エンジン回転数の上昇を抑制するための処理を実行する。具体的には、制御回路11は、エンジン20の許容回転数の設定を下げる処理を行う。
【0032】
以下、制御回路11の処理について、より詳細に説明する。図4は、制御回路11が実行する処理を示す機能ブロック図である。同図に示すように、制御回路11は、ジャンプ判定部11aと、許容回転数設定部11bと、回転数抑制制御部11cと、転倒判定部11dと、転倒対応制御部11eとを含んでいる。
【0033】
ジャンプ判定部11aは、加速度センサ13によって検知される重力加速度の加速度成分に基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定する。ジャンプ判定部11aによるジャンプ判定処理は、例えば、次のように実行される。
【0034】
ジャンプ判定部11aは、所定のサンプリング周期で、車体の上下方向の加速度成分を検知する。そして、該加速度成分が所定の閾値(以下、ジャンプ判定基準値とする)を下回った時に、車両がジャンプしたと判断する。その後に、上下方向の加速度成分が、ジャンプ判定基準値とは異なる閾値(以下、着地判定基準値とする)を超えた場合には、車両が着地したと判断する。ここで、ジャンプ判定基準値は、例えば、0に近似する値であり、着地判定基準値は、重力加速度である。
【0035】
図5は、通常走行時及びジャンプ時に加速度センサ13によって検知される加速度を説明するための図である。図5(a)は、通常走行時に車体に働く重力加速度の加速度成分を示し、図5(b)は、ジャンプ台を走行する車体に働く加速度成分を示し、図5(c)は、ジャンプ中の車体を示し、図5(d)は、着地時に車体に働く加速度成分を示している。これらの図において、車体Mが簡略化して描かれている。
【0036】
図5(a)に示す通常走行中の車体Mでは、加速度センサ13によって検知される上下方向D1の加速度成分Adownは、鉛直方向であり、重力加速度Gと等しくなっている。図5(b)に示すジャンプ台S1を走行している車体Mにおいて、検知される加速度成分Adownは、ジャンプ台S1の傾斜角αに応じて決まる値であり、重力加速度Gより小さくなっている。図5(c)に示すジャンプ中の車体Mにおいて、車両の上下方向D1の加速度成分Adownは0となる。そして、図5(d)に示すジャンプ台S2に到達した車体Mにおいて、加速度成分Adownは、ジャンプ台S2の傾斜角βに従って決まる値であり、重力加速度Gより小さくなっている。
【0037】
このように、ジャンプ中に車体に働く重力加速度の上下方向D1の成分Adownは0になる。そこで、この例では、ジャンプ判定部11aは、上下方向D1の加速度成分Adownがジャンプ判定基準値を下回った時に、車両がジャンプしたと判断し、その後に、上下方向D1の加速度成分Adownが、着地判定基準値を超えた場合に、車両が着地したと判断している。
【0038】
また、ジャンプ判定部11aは、車両の上下方向の加速度成分と、左右方向の加速度成分とに基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定してもよい。例えば、所定のサンプリング周期で、車体の上下方向の加速度成分を検知するとともに、車両の左右方向の加速度成分をも検知する。そして、上下方向の加速度成分がジャンプ判定基準値を下回るとともに、左右方向の加速度成分が予め定める閾値(以下、ジャンプ判定左右方向基準値)より小さい場合に、車両がジャンプしたと判断する。その後に、上下方向の加速度成分が、着地判定基準値を超えた場合には、車両が着地したと判断する。これによって、車両のジャンプ判定がより正確に行えるようになる。つまり、後述するように、車両の転倒時においても、上下方向の加速度成分は小さくなり、ジャンプ時と転倒時とが誤って判定される恐れがある。しかしながら、転倒時には、左右方向の加速度成分は大きくなるため、ジャンプ判定部11aが、上下方向の加速度成分と左右方向の加速度成分とに基づいて、ジャンプしたか否かを判定することによって、誤った判定を防止できる。
【0039】
また、ジャンプ判定部11aは、予め定める条件に該当する加速度が所定時間継続して検知されることを条件として、車両がジャンプしたと判断してもよい。具体的には、ジャンプ判定部11aは、上下方向の加速度成分がジャンプ判定基準値を下回ると、その時点からの経過時間の計測を開始するとともに、上下方向の加速度成分の検知を継続する。そして、ジャンプ判定基準値を下回る加速度成分が、所定時間(以下、ジャンプ判定基準時間とする)継続する場合に、車両がジャンプしたと判断する。
【0040】
また、ジャンプ判定部11aは、重力加速度の加速度成分だけでなく、加速度成分がジャンプ判定基準値を下回る直前の運転状態に基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定してもよい。例えば、スロットルボディ25にスロットル開度を検知するためのスロットルポジションセンサを予め設置しておく。ジャンプ判定部11aは、上下方向の加速度成分と、スロットル開度を検知するとともに、検知したスロットル開度を一時的に記憶装置12に格納する。上下方向の加速度成分がジャンプ判定基準値を下回ると、その直前に検知したスロットル開度を記憶装置12から読み出す。そして、該スロットル開度が所定の閾値を超えている場合に、車両がジャンプしたと判断してもよい。これによって、例えば、加速度だけではなく、ジャンプ直前に搭乗者が車両を加速させる目的で行うスロットル操作の有無に基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定するので、判定の正確性を向上できる。
【0041】
許容回転数設定部11bは、ジャンプ判定部11aによって車両がジャンプしたと判断された場合に、エンジン20の許容回転数を下げる処理を実行する。具体的には、ジャンプ判定部11aによって車両がジャンプしたと判断されると、エンジン20の許容回転数を、通常走行時の許容回転数(以下、通常許容回転数)から、それより小さい値(以下、ジャンプ時許容回転数)に変更して、記憶装置12に格納する。その後、ジャンプ判定部11aによって車両が着地したと判断されると、ジャンプ時許容回転数から通常許容回転数に再び変更して、記憶装置12に格納する。
【0042】
回転数抑制制御部11cは、エンジン回転数が許容回転数を超えると、エンジン20の出力を低減するエンジン制御を行う。回転数抑制制御部11cによる処理は、例えば、次のように実行される。
【0043】
予めエンジン20のクランクシャフト(不図示)や、カムシャフト(不図示)などに、これらのシャフトの回転に伴ってパルス信号を出力する回転センサを設置しておく。回転数抑制制御部11cは、該パルス信号に基づいてエンジン回転数を算出する。そして、車両のジャンプ中には、許容回転数設定部11bによって設定されたジャンプ時許容回転数とエンジン回転数とを比較し、エンジン回転数がジャンプ時許容回転数を超えると、点火プラグ21によるエンジン20の点火タイミングを遅らせたり、点火頻度を減らしたりすることで、エンジン20の出力を低減する。一方、通常走行時には、エンジン回転数と通常許容回転数とを比較し、エンジン回転数が通常許容回転数を超えると、上述と同様のエンジン回転数の上昇を抑制する制御を行う。なお、ここで、点火プラグ21による点火頻度を減らすとは、本来点火プラグ21によって点火するべきタイミングに、点火を見送り失火させることである。
【0044】
転倒判定部11dは、加速度センサ13によって検知される重力加速度の加速度成分に基づいて、車両が転倒したか否かを判定する。例えば、転倒判定部11dは、所定のサンプリング周期で、車両の左右方向の加速度成分を検知する。そして、該加速度成分が所定の閾値を超えた場合に、車両が転倒したと判断する。
【0045】
また、転倒判定部11dは、車体の上下方向の加速度成分と、左右方向の加速度成分と、ジャンプ判定手段11aの判定結果とに基づいて、車両が転倒したか否かを判定してもよい。この場合の処理は、例えば、次のように実行される。
【0046】
転倒判定部11dは、加速度信号に基づいて、所定のサンプリング周期で、車体の上下方向の加速度成分と、左右方向の加速度成分とを検知する。そして、転倒判定部11dは、上下方向の加速度成分が予め定める閾値より小さく、左右方向の加速度成分が当該閾値とは異なる閾値より大きく、さらに、ジャンプ判定部11aによって車両がジャンプ中であるとは判断されていない場合に、車両が転倒したと判断する。これによって、転倒判定部11dが、ジャンプ時を転倒時として誤って判断し、後述する転倒対応制御部11eによる処理が実行されるのを防止できる。
【0047】
図6は、車体の上下方向の加速度成分と左右方向の加速度成分とに基づいて、車両の転倒を検知する処理の例を説明するための図である。同図では、左右方向に傾いた姿勢で配置される車体Mを正面から臨む様子が簡略化して描かれている。
【0048】
同図に示すように、車体の上下方向D1の加速度成分Adownは、車体の左右の傾斜角θ(ロール角)が大きくなるに従って小さくなる。一方、車体の左右方向D2の加速度成分Alrは、車体のロール角θが大きくなるに従って、大きくなる。また、図5(b)乃至図5(c)に示したように車体の上下方向D1の加速度成分Adownは、車両のジャンプ時においても小さくなる。そこで、この例では、転倒判定部11dは、上下方向D1の加速度成分Adownが予め定める閾値より小さく、左右方向D2の加速度成分Alrが予め定める別の閾値より大きく、且つ、車両がジャンプであるとは判断されていない場合に、車両が転倒したと判断する。
【0049】
また、転倒判定部11dは、車体のロール角に基づいて、車両が転倒したか否かを判定してもよい。すなわち、転倒判定部11dは、車体の左右方向D2の加速度Alrを上下方向D1の加速度成分Adownで除算して得られる値を、車体のロール角θの正接値tan(θ)として算出する(tan(θ)=Alr/Adown、図6参照)。そして、該正接値tan(θ)が所定の閾値(以下、転倒判定基準値とする)より大きく、且つ、車両がジャンプ中であるとは判断されていない場合に、車両が転倒したと判断してもよい。ここで転倒判定基準値は、車両が通常走行する場合のロール角の限界値(例えば、70°)の正接値である。これによって、より確実にジャンプ時と転倒時の誤判定を防止できる。
【0050】
また、転倒判定部11dは、算出したロール角の正接値が、転倒判定基準値を所定時間以上継続して超えることを条件として、車両が転倒したと判断してもよい。この場合の処理は、例えば次のように実行される。
【0051】
転倒判定部11dは、所定のサンプリング周期で、車体の上下方向の加速度成分と、左右方向の加速度成分を検知し、これらの加速度成分に基づいて、ロール角の正接値を算出する。該正接値が転倒判定基準値を上回ると、その時点から計時を開始するとともに、加速度成分の検知及びそれに基づく正接値の算出を継続する。そして、転倒判定基準値を超える正接値が、所定時間(以下、転倒判定基準時間とする)継続して検知され、且つ、車両がジャンプ中であるとは判断されていない場合に、車両が転倒したと判断してもよい。この場合、転倒判定基準時間はジャンプ判定基準時間より長く設定されてもよい。これによって、ジャンプ時と転倒時の誤判定を確実に防止できる。
【0052】
転倒対応制御部11eは、転倒判定部11dによって車両が転倒したと判断されると、点火プラグ21の駆動を停止したり、インジェクタ22による燃料の噴射を停止したりすることで、エンジン20の駆動を停止する。
【0053】
ここで、制御回路11が実行する処理の流れについて説明する。図7は、制御回路11が実行する処理の例を示すフローチャートである。なお、この例では、エンジン20の許容回転数には、初期値として通常許容回転数が設定されているものとして説明する。
【0054】
ジャンプ判定部11aは、加速度検知装置16から入力される加速度信号に基づいて、車体の上下方向の加速度成分を検知し、当該加速度成分がジャンプ判定基準値より小さいか否かを判定する(S101)。ここで、加速度成分がジャンプ判定基準値より小さくない場合には、ジャンプ判定部11aは、ジャンプ判定基準値より小さい加速度成分が検知されるまで、所定のサンプリング周期(例えば、数十ミリ秒)でS101の処理を実行する。
【0055】
検知した加速度成分がジャンプ判定基準値より小さい場合には、車両がジャンプした可能性があるので、ジャンプ判定部11aは、ジャンプ判定基準値より小さい加速度成分が、継続して検知されるか否かの判定を開始する。
【0056】
具体的には、ジャンプ判定部11aは、まず、パラメータnに初期値1を代入するとともに(S102)、S101にて上下方向の加速度成分がジャンプ判定基準値より小さくなった時点からの経過時間Tの計測を開始する(S103)。その後、ジャンプ判定部11aは、加速度検知装置16の加速度信号に基づいて、再び上下方向の加速度成分を検知し、当該加速度成分がジャンプ判定基準値より小さいか否かを判定する(S104)。ここで、加速度成分がジャンプ判定基準値より小さい場合には、パラメータnを1だけインクリメントして(S105)、当該パラメータnが所定の閾値N以上であるか否かを判定する(S106)。ここで、パラメータnが未だ閾値Nに達していない場合には、経過時間Tが所定の制限時間を超えているか否かを判定し(S107)、未だ経過時間Tが制限時間を超えていない場合には、ジャンプ判定部11aは、S104の処理に戻る。
【0057】
一方、経過時間Tが制限時間に達している場合には、ジャンプ判定手段11aは、車両がジャンプ中ではないと判断して、処理を終了する。また、S104の判定において、検知した加速度成分がジャンプ判定基準値以上である場合には、S107の処理に進み、経過時間Tが制限時間を超えているか否かを判定する。
【0058】
一方、S106の判定において、パラメータnが閾値Nに達している場合には、ジャンプ判定部11aは、車両の左右方向の加速度成分を検知し、当該加速度成分が上述したジャンプ判定左右方向基準値より小さいか否かを判定する(S108)。ここで、左右方向の加速度成分がジャンプ判定左右方向基準値より小さい場合には、ジャンプ判定部11aは、車両がジャンプ中であると判断する。そして、許容回転数設定部11bは、エンジン20の許容回転数として、通常許容回転数より低いジャンプ時許容回転数を設定する(S109)。
【0059】
その後、制御回路11は、車両が着地したか否かの判定処理を開始する。具体的には、ジャンプ判定部11aは、再び上下方向の加速度成分を検知し、当該加速度成分が着地判定基準値より大きいか否かを判定する(S110)。ここで、検知した加速度成分が着地判定基準値以下である場合には、ジャンプ判定部11aは車両が未だジャンプ中であると判断して、所定サンプリング周期が経過した後、再びS110の処理を実行する。一方、検知した加速度成分が着地判定基準値より大きい場合には、ジャンプ判定部11aは、車両が着地したと判断する。そして、許容回転数設定部11bは、エンジン20の許容回転数として通常許容回転数を設定する(S111)。
【0060】
一方、S108の判定において、車両の左右方向の加速度成分が、ジャンプ判定左右方向基準値より高い場合には、ジャンプ判定部11aは、車両がジャンプ中ではないと判断する。そして、転倒判定部11dが、車両が転倒しているか否かの判定を実行する(S112)。例えば、上述したように、転倒判定部11dは、車両の左右方向の加速度成分と車両の上下方向の加速度成分とに基づいて、車両のロール角θの正接値tan(θ)を算出し、当該正接値が転倒判定基準値を超えているか否かを判定する。ここで、転倒判定部11dが、車両が転倒したと判断した場合には、転倒対応制御部11eが点火プラグ21の駆動を停止したり、インジェクタ22による燃料の噴射を停止したりすることで、エンジン20の駆動を停止する(S113)。S112の処理において、転倒判定部11dが、車両が転倒したと判断しない場合には、制御回路11は、処理を終了する。以上の処理が、制御回路11が実行する処理の例であり、制御回路11は、車両の走行中には、以上の処理を繰り返し実行する。
【0061】
以上説明したエンジン制御装置10によれば、車両がジャンプしている間は、エンジン20の許容回転数として、通常走行時の許容回転数より低いジャンプ時許容回転数を設定するので、車両のジャンプ時にエンジン回転数の上昇を効果的に抑制できる。
【0062】
また、車両が転倒したか否かの判定は、加速度センサ13によって検知する加速度だけでなく、ジャンプしたか否かの判定の判定結果にも基づいて行われる。これによって、ジャンプ時と転倒時とを誤って判定することを確実に防止できる。
【0063】
なお、本発明は以上説明したエンジン制御装置10に限られず種々の変形が可能である。例えば、以上の説明では、加速度センサ13の検知方向の一つは、車体の上下方向に設定され、上下方向の加速度成分に基づいて、車両がジャンプしたか否かの判定がなされていた。しかしながら、検知方向はこれに限られず、例えば、上下方向に対して予め定める角度だけ傾斜した方向であってもよい。この場合、その傾斜角に応じて、ジャンプ判定基準値を設定してもよい。
【0064】
また、エンジン制御装置10において、制御回路11は、車両がジャンプしたと判断した場合には、エンジン回転数の上昇を抑制するための処理として、エンジン20の許容回転数を、通常許容回転数からジャンプ時許容回転数に設定変更する処理を行っていた。しかしながら、エンジン回転数の上昇を抑制するための処理は、これに限られず、例えば、エンジン20の出力を低減する制御であってもよい。具体的には、制御回路11は、車両がジャンプしたと判断すると、その時点でのエンジン回転数に関わらず、点火プラグ21によるエンジン20の点火タイミングを遅らせたり、点火頻度を減らしたりすることで、エンジン20の出力を低減してもよい。
【0065】
また、エンジン制御装置10において、制御回路11は、車両がジャンプしたと判断した場合には、エンジン20の許容回転数を下げる処理を行っていたが、ジャンプ時の制御対象は、これだけに限られない。例えば、フロントサスペンション5の減衰力(復元力)を電磁的に変化させる調整機構を予め設置し、制御回路11は、ジャンプ判定部11aの判定結果に応じて、フロントサスペンション5の減衰力を変化させてもよい。
【0066】
図8は、この形態に係るエンジン制御装置100の構成を示すブロック図であり、図9は、この形態に係る制御回路110の機能ブロック図である。これらの図において、これまで説明した構成には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
図8に示すように、エンジン制御装置100は、フロントサスペンション5の減衰力を電磁的に変化させる調整機構5aを備えている。ここで、調整機構5aは、例えば、フロントサスペンション5に設けられたオイルダンパー機構のオイル流路の一部を開放又は閉塞する電磁式の絞り弁を備える。調整機構5aは、制御回路110に接続されている。
【0068】
図9に示すように、この形態では、制御回路110は、上述したジャンプ判定部11a等の他に、サスペンション制御部11fを含んでいる。サスペンション制御部11fは、ジャンプ判定部11aの判定結果に基づいて、調整機構5aを制御してフロントサスペンション5の減衰力を変化させる。例えば、サスペンション制御部11fは、ジャンプ判定部11aによって車両がジャンプしたと判断された場合には、上述した調整機構5aの電磁式絞り弁を作動させて、サスペンション5が有するオイルダンパー機構内のオイル流路の一部を開放して、通常走行時より減衰力を増し、通常走行時よりフロントサスペンション5を収縮し易くする。その後、サスペンション制御部11fは、ジャンプ判定部11aによって車両が着地したと判断された時点から所定時間が経過した後に、上述した絞り弁の作動を停止し、上記オイル流路の一部を閉塞する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置を搭載した自動二輪車の側面図である。
【図2】上記エンジン制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】上記エンジン制御装置が備える加速度センサの出力信号、位相補償回路の出力信号、減算回路の出力信号の例を示す図である。
【図4】上記エンジン制御装置が備える制御回路の機能ブロック図である。
【図5】通常走行時及びジャンプ時に加速度センサによって検知される加速度を説明するための図である。同図では、通常走行時、着地時、ジャンプ時における車体を側方から臨む様子が簡略化して描かれている。
【図6】左右方向に傾いた姿勢で配置される車体に働く重力加速度の加速度成分を説明するための図である。同図では、車体の正面が簡略化して描かれている。
【図7】制御回路が実行するジャンプ判定処理及び許容回転数の設定処理の例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の他の形態に係るエンジン制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】上記他の形態に係るエンジン制御装置が備える制御回路の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0070】
1 自動二輪車、2 エンジンユニット、3 車体フレーム、5 フロントサスペンション、5a 調整機構、6 シート、10 エンジン制御装置、11,110 制御回路、11a ジャンプ判定部(ジャンプ判定手段)、11b 許容回転数設定部(回転数上昇抑制処理手段)、11c 回転数抑制制御部、11d 転倒判定部(転倒判定手段)、11e 転倒対応制御部、11f サスペンション制御部(サスペンション制御手段)、12 記憶装置、13 加速度センサ、14 A/D変換回路、15 ノイズ除去回路、15a ハイパスフィルタ回路、15b 位相補償回路、15c 減算回路、16 加速度検知装置(加速度検知手段)、20 エンジン、21 点火プラグ、22 インジェクタ、23 吸気管、25 スロットルボディ、26 駆動力伝達機構、27 エアクリーナ、D1 車両の上下方向、D2 車両の左右方向、Adown 上下方向の加速度成分、Alr 左右方向の加速度成分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の予め定める方向における重力加速度の加速度成分を検知する加速度検知手段と、
前記加速度検知手段によって検知される加速度成分に基づいて、車両がジャンプしたか否かを判定するジャンプ判定手段と、
前記ジャンプ判定手段によって車両がジャンプしたと判断された場合に、エンジン回転数の上昇を抑制するための処理を行う回転数上昇抑制処理手段と、
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記ジャンプ判定手段は、予め定める条件に該当する加速度が継続して検知されることを条件として、車両がジャンプしたと判断する、
ことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記加速度検知手段によって検知される加速度成分と、前記ジャンプ判定手段の判定結果とに基づいて、車両が転倒したか否かを判定する転倒判定手段を更に備える、
ことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
サスペンションの減衰力を電磁的に変化させる調整機構と、
前記ジャンプ判定手段による判定結果に基づいて、前記調整機構による前記サスペンションの減衰力を変化させるサスペンション制御手段と、をさらに備える、
ことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジン制御装置を搭載する鞍乗型車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−144685(P2008−144685A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333642(P2006−333642)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】