説明

エンジン制御装置

【課題】単気筒エンジンを制御するエンジン制御装置において、エンジンの始動時にマイクロプロセッサに印加される電源電圧が不足する事態が生じるのと防ぐ。
【解決手段】インジェクタ2と、インジェクタに燃料を与える燃料ポンプ3とを有する燃料噴射装置と、燃料ポンプ3及びインジェクタ2を制御するマイクロプロセッサ4と、インジェクタ2、燃料ポンプ3及びマイクロプロセッサ4を動作させるために必要な電圧を発生するバッテリとを備えて、燃料噴射装置により燃料が供給される単気筒エンジンを制御するエンジン制御装置であって、エンジンの始動時に、バッテリ5の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す圧縮行程で、燃料ポンプ3の駆動を停止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置により燃料が供給される単気筒エンジンを制御するエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インジェクタと、インジェクタに燃料を与える燃料ポンプと、燃料ポンプを制御する燃料ポンプ制御手段と、インジェクタを制御するインジェクタ制御手段とを有する燃料噴射装置により燃料が供給されるエンジンを制御する従来のエンジン制御装置においては、特許文献1に示されているように、エンジンの始動時にスタータモータが駆動されている間燃料ポンプを継続的に駆動していた。
【特許文献1】特開2007−205166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、スタータモータを駆動する際には、バッテリに大きな電流が流れて該バッテリの電圧が落ち込む。特にエンジンのクランク角位置(クランク軸の回転角度位置)がエンジンの圧縮行程が行なわれる区間にあるときには、スタータモータにかかる負荷が大きくなるため、スタータモータを流れる電流が増大し、バッテリ電圧の落ち込みが大きくなる。そのため、バッテリの放電が進んでいたり、バッテリが劣化している状態でエンジンを始動したときに、エンジンを制御するECUに設けられているマイクロプロセッサの電源電圧を、最低動作可能電圧(マイクロプロセッサを動作させるために必要な電圧の最低値)以上に維持することができなくなり、エンジンを始動することができなくなることがあった。
【0004】
バッテリを搭載しない乗物等を駆動するエンジンにおいては、スタータモータを用いずに、キックスタータやリコイルスタータ等の人力によるスタータを用いてエンジンを始動する。この場合には、インジェクタ、燃料ポンプ及びマイクロプロセッサを動作させるために必要な電圧を発生する電源部として、エンジンにより駆動される発電機を用い、該発電機の出力電圧を、インジェクタ、燃料ポンプ及びマイクロプロセッサをそれぞれ動作させるのに適した一定の値の電圧に変換してそれぞれの電源端子に印加するようにしている。
【0005】
上記のように、バッテリを用いずに人力スタータによりエンジンを始動する場合には、エンジンの気筒で圧縮行程が行なわれる区間のように、スタータにかかる負荷が大きくなる特定の区間で、エンジンのクランキング速度が低下して、発電機の出力電圧が大きく落ち込むため、マイクロプロセッサに印加される電源電圧が不足してマイクロプロセッサが動作できない状態に陥り、エンジンの始動に失敗することがある。
【0006】
本発明の目的は、燃料噴射装置により燃料が供給される単気筒エンジンを制御するエンジン制御装置において、エンジンの始動時にマイクロプロセッサに印加される電源電圧が不足する事態が生じてエンジンの始動に失敗するおそれを少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インジェクタと、インジェクタに燃料を与える燃料ポンプとを有する燃料噴射装置と、燃料ポンプを制御する燃料ポンプ制御手段及びインジェクタを制御するインジェクタ制御手段を構成するマイクロプロセッサと、インジェクタ、燃料ポンプ及びマイクロプロセッサを動作させるために必要な電圧を発生する電源部とを備えて、燃料噴射装置により燃料が供給される単気筒エンジンを制御するエンジン制御装置を対象としたものである。
【0008】
本発明においては、燃料ポンプ制御手段が、エンジンの始動時に、電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間にエンジンのクランク角位置がある間、燃料ポンプの駆動を停止するように構成されている。
【0009】
上記のように、エンジンの始動時に、電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間で燃料ポンプの駆動を停止するように構成しておくと、当該特定の区間で電源部にかかる負荷を軽減することができる。従って、放電が進んだバッテリや劣化したバッテリでスタータモータを駆動してエンジンを始動する場合や、人力により操作されるスタータを用いてエンジンを始動する場合に、特定の区間でマイクロプロセッサに印加される電源電圧が不足してマイクロプロセッサを動作させることができなくる事態が生じる確率を低くすることができ、エンジンの始動性を良好にすることができる。
【0010】
本発明の好ましい態様では、エンジンがストール(停止)していることが検出されているときに制御モードがエンジンストールモードであると判定し、エンジンを始動する操作が行なわれたことが検出されたときに制御モードが始動モードであると判定し、エンジンの回転速度が該エンジンの始動が完了したことを示す始動完了速度に達していることが検出されたときに制御モードが運転モードであると判定するモード判定手段が設けられる。
【0011】
この場合、燃料ポンプ制御手段は、モード判定手段により制御モードがエンジンストールモードであると判定されたときに直ちに燃料ポンプを設定された初回ポンプ駆動期間の間だけ駆動する初回ポンプ駆動手段と、モード判定手段により制御モードが始動モードであると判定されているときに、電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間以外の区間にエンジンのクランク角位置がある間燃料ポンプを駆動し、エンジンのクランク角位置が特定の区間にある間は燃料ポンプの駆動を停止するように構成された始動モード時ポンプ駆動手段と、モード判定手段により制御モードが運転モードであると判定されているときに燃料ポンプを継続的に駆動する運転モード時ポンプ駆動手段とを備えた構成とする。
【0012】
上記特定の区間は、通常は、エンジンの気筒で圧縮行程が行なわれるクランク角区間内に設定される。
【0013】
エンジンの圧縮行程が行なわれるクランク角区間は、エンジンに取り付けられたクランク角センサの出力とカム角センサの出力とから検出することができる。燃料噴射装置や点火装置をマイクロプロセッサを用いて制御するエンジンにおいては、エンジンのクランク角情報及び/またはカム角情報や、エンジンの回転速度情報をマイクロプロセッサに与えるために、エンジンのクランク角位置が設定された位置に一致したときにパルスを発生するクランク角センサと、カム軸の回転角度位置が設定された位置に一致したときにパルスを発生するカム角センサとが設けられている。エンジンにクランク角センサとカム角センサとが設けられている場合には、これらのセンサを用いて特定の区間を検出することができる。
【0014】
またエンジンの吸気管内圧力の変化がエンジンの行程変化と相関関係を有することに着目して、エンジンの吸気管内圧力から、スタータにかかる負荷が大きくなる特定の区間を検出することができる。一般にエンジンにおいては、気筒の圧縮行程が行なわれるクランク角区間で、吸気管内圧力が極小値から大気圧に向けて上昇していく変化を示す。従って、上記特定の区間は、エンジンの吸気管内圧力が極小値を示すクランク角位置から大気圧よりも僅かに低い値に設定された設定圧力まで上昇するクランク角位置までの区間とすることもできる。
【0015】
前述のように、エンジンの気筒で圧縮行程が行なわれるクランク角区間では、エンジンの吸気管内圧力が極小値を示した後、大気圧に向けて上昇していく。従って上記のように吸気管内圧力に基づいて決定したクランク角区間を特定の区間とした場合、その特定の区間には、エンジンの気筒で圧縮行程が行なわれる区間が含まれる。
【0016】
エンジンの始動時にインジェクタに与えられる燃料の圧力が不足するのを防止するためには、燃料ポンプの駆動を停止する期間はできるだけ短くしておくことが望ましい。従って、始動時ポンプ駆動手段は、エンジンの始動時にエンジンの回転速度が始動完了速度よりも低く設定された設定速度を超えていて、電源部の出力電圧が不足するおそれがないときに、燃料ポンプ駆動停止手段が燃料ポンプの駆動を停止するのを禁止するように構成しておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エンジンの始動時に電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間で燃料ポンプの駆動を停止して、当該特定の区間で電源部にかかる負荷を軽減するようにしたため、放電が進んだバッテリや劣化したバッテリでスタータモータを駆動してエンジンを始動する場合や、人力により操作されるスタータを用いてエンジンを始動する場合に、マイクロプロセッサに印加される電源電圧が不足してマイクロプロセッサを動作させることができなくる事態が生じる確率を低くすることができ、エンジンの始動に失敗する確率を低くして、エンジンの始動性を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1ないし図4は本発明の第1の実施形態を示したもので、図1は本実施形態のハードウェアの構成を示したブロック図、図2はエンジン制御装置の内、燃料噴射装置の制御を行なう部分の構成を示したブロック図である。また図3は図2の各部を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるプログラムのアルゴリズムの一例を示したフローチャート、図4は図2の各部の信号を示したタイムチャートである。
【0019】
本実施形態に係わるエンジン制御装置が制御するエンジンは単気筒4サイクルエンジンである。図1において、1はエンジンを始動するスタータモータ、2はエンジンの吸気管内などに燃料を噴射するインジェクタ(電磁式燃料噴射弁)、3はインジェクタ2に燃料を供給する燃料ポンプ、4はECU(電子式制御ユニット)内に設けられたマイクロプロセッサ(MPU)である。また5はインジェクタ2、燃料ポンプ3及びマイクロプロセッサ4を動作させるために必要な電圧を発生する電源部を構成するバッテリで、バッテリ5の出力電圧は、キースイッチ6とスタータスイッチ7とを通してスタータモータ1に印加されるとともに、キースイッチ6とインジェクタ駆動回路8とを通してインジェクタ2に印加されている。バッテリ5の出力電圧はまたキースイッチ6と燃料ポンプ駆動回路9とを通して燃料ポンプ3に印加されるとともに、キースイッチ6と電圧調整部10とを通してマイクロプロセッサ4の電源端子に印加されている。電圧調整部10は、バッテリ電圧を調整して、マイクロプロセッサ4の電源電圧として適した一定の電圧(例えば5ボルト)をマイクロプロセッサ4の電源端子に印加する。スタータスイッチ7は、通常は、キースイッチ6をオンオフ操作するキーにより操作されるようになっていて、キースイッチをオン状態にする位置までキーを回した後、更にバネの付勢力に抗してキーを回したときにオン状態にされるようになっている。
【0020】
マイクロプロセッサ4には、エンジンのクランク角位置の情報を与えるクランク角センサ11の出力と、エンジンのカム軸の回転角情報を与えるカム角センサ12の出力と、大気圧を検出する大気圧センサ、吸気管内の圧力を検出する圧力センサ、エンジンの温度を検出する冷却水温センサ、エンジンのスロットル開度を検出するスロットルセンサ等を含む各種センサ13の出力とが所定のインターフェース回路を通して入力されている。
【0021】
本実施形態で用いるクランク角センサ11は、図4(D)に示すように、エンジンのクランク角位置がエンジンの上死点位置(エンジンのピストンが上死点に達した時のクランク角位置)TDC1,TDC2よりも十分に進角した位置に設定された第1の基準クランク角位置に一致したときに第1のパルス信号S1をクランク角信号として発生し、クランク角位置が上死点位置付近に設定された第2の基準クランク角位置に一致したときに第2のパルス信号S2をクランク角信号として発生するパルス信号発生器からなっている。図4において、TDC1は排気行程の上死点位置であり、TDC2は圧縮行程の上死点位置である。即ち、クランク角センサ11は、エンジンが1燃焼サイクルを行う間に、排気行程及び圧縮行程のそれぞれの上死点位置よりも十分進角した位置に設定された第1の基準クランク角位置で第1のパルス信号S1を発生し、それぞれの行程の上死点付近に設定された第2の基準クランク角位置で第2のパルス信号S2を発生する。
【0022】
またカム角センサ12は、エンジンのクランク軸が2回転する間に1回転するカム軸が設定された回転角度位置に達したときにパルス信号を発生する。前述のように、クランク角センサ11は、エンジンが1燃焼サイクルを行う間に、排気行程においても圧縮行程においても、上記第1のパルス信号S1及び第2のパルス信号S2を発生するため、クランク角センサを設けただけでは、第1のパルス信号S1及び第2のパルス信号S2が排気行程で発生した信号であるのか、圧縮行程で発生した信号であるのかを識別することができない。これに対し、カム角センサ12は、1燃焼サイクル当たり、1回だけパルス信号を発生するため、カム角センサ12の出力と、クランク角センサ11の出力との位相関係から、クランク角センサが発生したパルス信号が排気行程及び圧縮行程のいずれで発生したパルス信号であるかを識別することができる。例えば、カム角センサ12が、排気行程の上死点位置でパルス信号を発生するようにしておくと、カム角センサ12がパルス信号を発生した後にクランク角センサが発生したパルス信号S1及びS2を、圧縮行程で発生した信号であると識別することができる。
【0023】
インジェクタ駆動回路8は、マイクロプロセッサ4から噴射指令が与えられているときにオン状態になってインジェクタ2に駆動電流を流すスイッチ回路からなっており、燃料ポンプ駆動回路9は、マイクロプロセッサ4からポンプ駆動指令が与えられているときにオン状態になって燃料ポンプ3に駆動電流を流すスイッチ回路からなっている。
【0024】
インジェクタ2は、例えば、燃料ポンプ3から内部に燃料が供給されるインジェクタボディと、インジェクタボディの先端に設けられた噴射口を開閉するニードルバルブと、インジェクタボディ内に配置されて、励磁された際にニードルバルブを開くソレノイドとを備えていて、ソレノイドが励磁されたときに噴射口を開いてエンジンのスロットルバルブよりも下流側の吸気管内空間やエンジンのシリンダ内等に燃料を噴射する。周知のように、インジェクタ2からの燃料噴射量は、燃料ポンプ3からインジェクタに与えられる燃料の圧力と、燃料を噴射する時間(噴射時間)とにより決まる。燃料ポンプ3からインジェクタに与えられる燃料の圧力は、圧力調整器により一定に制御されるため、インジェクタ2からの燃料噴射量は、噴射時間により管理される。
【0025】
マイクロプロセッサ4は、バッテリ5からキースイッチ6と電圧調整回路10とを通して電源電圧が印加されたときに動作を開始して、ROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより、インジェクタ2を制御するインジェクタ制御手段や、燃料ポンプ3を制御する燃料ポンプ制御手段等を構成する。
【0026】
エンジン制御装置は、インジェクタ及び燃料ポンプを制御すると同時に、エンジンを点火する点火装置をも制御する。エンジン用点火装置の制御においては、クランク角センサ11がパルス信号を発生する周期からエンジンの回転速度を検出して、その回転速度に対して、圧縮行程の上死点位置よりも進角した位置で発生する第1のパルス信号の発生タイミングを基準にして点火時期を演算し、クランク角センサが圧縮行程の上死点位置よりも進角した位置で、第1のパルス信号S1を発生したときに、演算した点火時期の計測を開始する。そして、この点火時期の計測が完了した時にエンジン用点火装置に点火指令信号を与えて、点火動作を行わせる。本発明に係わるエンジン制御装置において、エンジン用点火装置の制御手法は任意である。従って、本明細書では、エンジン用点火装置の制御についての詳細な説明は省略する。
【0027】
図2は、本実施形態に係わるエンジン制御装置の、インジェクタ及び燃料ポンプを制御する部分の構成例を示したものである。この例では、マイクロプロセッサ4により、モード判定手段21と、燃料ポンプ制御手段22と、インジェクタ制御手段23とが構成される。
【0028】
モード判定手段21は、キースイッチ6の投入や、クランク角センサ11が発生するパルス信号から得られるエンジンの回転情報等から、制御モードがエンジンストールモード、始動モード及び運転モードの内のいずれであるかを判定する手段である。モード判定手段21は、図示しないエンジンがストールしていることが検出されているときに制御モードがエンジンストールモードであると判定し、エンジンを始動する操作が行なわれたことが検出されたときに制御モードが始動モードであると判定する。モード判定手段21はまた、エンジンの回転速度が該エンジンの始動が完了したことを示す始動完了速度に達していることが検出されたときに制御モードが運転モードであると判定する。
【0029】
更に詳細に説明すると、本実施形態のように、バッテリが設けられている場合のエンジンストールモードは、ECUの電源電圧が与えられているが未だエンジンの始動操作が開始されていないときの制御モードであり、このエンジンストールモードでは、マイクロプロセッサ4のイニシャライズと、エンジンストールモードが開始されてからの経過時間の計測とが行なわれる。即ち、マイクロプロセッサ4は、キースイッチ6がオン状態にされ、電源電圧が与えられたときにまずイニシャライズ(各部の初期化)を行う。マイクロプロセッサは、イニシャライズを行う際に、未だエンジンが停止していると判定して制御モードをエンジンストールモードとし、エンジンストールモードが開始されてからの経過時間を計測するタイマの計測値を0にリセットして、該タイマに計測動作を開始させる。
【0030】
本実施形態では、バッテリ5が搭載されていて、キースイッチ6が投入されると直ちにマイクロプロセッサ4が動作可能になり、燃料ポンプ3の駆動が可能になるため、エンジンの始動性を向上させるために、エンジンストールモードが開始されたときに先ず一定の初回ポンプ運転時間の間、燃料ポンプの初期駆動を行なう。即ち、マイクロプロセッサのイニシャライズが完了したときに直ちに燃料ポンプ駆動回路9にポンプ駆動指令を与えて燃料ポンプ3を駆動し、燃料ポンプを駆動している時間が初回ポンプ運転時間Toに達したときに、ポンプ駆動指令を消滅させて燃料ポンプの駆動を停止する。
【0031】
始動モードは、エンジンの始動操作が開始されてからエンジンの始動の完了が確認されるまでの間の制御モードである。バッテリ5が搭載され、スタータモータ1が設けられている場合の始動モードは、スタータスイッチ7がオン状態にされてスタータモータ1の駆動が開始されてから、エンジンの回転速度等によりエンジンの始動完了が確認されるまでの制御モードである。
【0032】
また運転モードは、エンジンの始動の完了が確認された後の燃料噴射や点火の制御を行なう制御モードである。
【0033】
燃料ポンプ制御手段22は、燃料ポンプ3を制御する手段である。本実施形態の燃料ポンプ制御手段22は、モード判定手段21により制御モードがエンジンストールモードであると判定されたときに直ちに燃料ポンプを設定された初回ポンプ駆動期間Toの間だけ駆動する初回ポンプ駆動手段と、モード判定手段21により制御モードが始動モードであると判定されているときに、電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間以外の区間にエンジンのクランク角位置がある間燃料ポンプを駆動し、エンジンのクランク角位置が特定の区間にある間は燃料ポンプの駆動を停止するように構成された始動モード時ポンプ駆動手段と、モード判定手段により制御モードが運転モードであると判定されているときに燃料ポンプを継続的に駆動する運転モード時ポンプ駆動手段とを備えている。本実施形態では、スタータモータ1の駆動が開始された後、エンジンの排気行程の上死点位置よりも十分に進角した位置でクランク角センサ11が第1のパルス信号S1を発生したことが検出されたときに、始動モード時の燃料ポンプの運転を開始するように、始動モード時ポンプ駆動手段が構成されている。前述のように、第1のパルス信号S1が排気行程で発生した信号であるか、圧縮行程で発生した信号であるかは、クランク角センサの出力パルスとカム角センサの出力パルスとの位相関係により識別される。
【0034】
インジェクタ制御手段23は、インジェクタ2が噴射する燃料の噴射量を制御する手段で、この手段は例えば、エアフローメータにより検出した吸入空気質量、各種センサ12が検出したスロットルバルブより下流側の吸気管内圧力とエンジンの回転速度とから推定した吸入空気質量、またはスロットルバルブの開度とエンジンの回転速度とから推定した吸入空気質量に対して、混合気の空燃比を所定の範囲に保つために必要な燃料の基本噴射時間を演算し、演算された基本噴射時間に、吸気温度、冷却水温度、大気圧などに対して決定した補正係数を乗じることにより、実噴射時間を演算する。インジェクタ制御手段23は、この実噴射時間に無効噴射時間を加算して得た信号幅を有する噴射指令信号をインジェクタ駆動回路8に与える。
【0035】
インジェクタ駆動回路8は、噴射指令信号が与えられている間インジェクタ2に駆動電圧を印加する。インジェクタ2は、駆動電圧が与えられた後、所定の動作遅れ時間(無効噴射時間)が経過した時にその弁を開き、以後噴射指令信号が消滅するまでの間、燃料を噴射する。
【0036】
燃料ポンプ制御手段22は、エンジンのクランク角位置が、電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間にある間燃料ポンプの駆動を停止する。この特定の区間は、通常は、エンジンの気筒で圧縮行程が行なわれるクランク角区間である。従って、本実施形態では、エンジンの圧縮行程が行われるクランク角区間内に上記特定の区間を設定する。
【0037】
エンジンの圧縮行程では、スタータモータ1にかかる負荷が大きくなるため、スタータモータ1に流れる駆動電流が増大し、バッテリ5の電圧の落ち込みが大きくなる。従来のエンジン制御装置では、スタータモータ1を駆動してエンジンの始動を行なっている過程で、燃料ポンプ3を連続的に駆動していた。そのため、スタータモータにかかる負荷が大きくなるエンジンの圧縮行程で、バッテリの負荷が過大になり、バッテリ電圧が大きく落ち込む。これにより、電圧調整部10からマイクロプロセッサ4に与えられる電源電圧が、マイクロプロセッサを動作させるために必要な電源電圧の最低値(最低動作可能電圧)よりも低くなって、マイクロプロセッサの動作が停止することがあった。
【0038】
図6は特許文献1に記載された従来のエンジン制御装置の動作を示すタイミングチャートである。図6(A)はキースイッチのオンオフ動作を示し、(B)は燃料ポンプの動作を示している。また図6(C)はスタータスイッチのオンオフ動作を示し、図6(D)及び(E)はそれぞれクランク角センサが発生するクランク角信号Sk及びバッテリ電圧VBを示している。図6(E)において、Vmはマイクロプロセッサを動作させるために必要な電源電圧の最低値(最低動作可能電圧)を示している。クランク角信号Skは、エンジンの圧縮行程の上死点位置及び排気行程の上死点位置よりも進角した位置に設定された第1の基準クランク角位置で発生する第1のパルス信号S1と、エンジンの圧縮行程の上死点位置付近に設定された第2の基準クランク角位置で発生する第2のパルス信号S2とからなっている。
【0039】
従来のエンジン制御装置では、運転者がキースイッチをオン状態にした後、マイクロプロセッサの電源が確立してイニシャライズを完了したときに先ず一定の初回ポンプ運転時間Toの間初回の燃料ポンプの駆動を行う。このとき燃料ポンプに流れる電流により、図6(E)に示すように、バッテリ電圧VBが落ち込みを示すが、バッテリ電圧がマイクロプロセッサの最低動作可能電圧未満になることはないため、特に問題はない。
【0040】
初回の燃料ポンプの駆動を行なった後、スタータスイッチ7がオン状態にされると、スタータモータ1に通電されるため、バッテリ電圧は大きく落ち込むが、このときバッテリ電圧がマイクロプロセッサの最低動作可能電圧よりも低くなることはないように、バッテリの容量が選定されているため、マイクロプロセッサは動作を続ける。スタータモータの駆動が開始された後、燃料ポンプの運転が開始される。エンジンの圧縮行程が開始されると、エンジンの気筒内の圧力が上昇していき、スタータモータにかかる負荷が増大していく。
【0041】
従来のエンジン制御装置では、圧縮行程においても燃料ポンプが運転されていたため、エンジンの圧縮行程で、図6(E)に符号Aで示したように、バッテリの電圧がマイクロプロセッサの最低動作可能電圧Vmよりも低くなって、マイクロプロセッサが動作を停止することがあった。マイクロプロセッサは、一旦動作を停止した後、電源電圧が回復したときに動作を再開するが、マイクロプロセッサは動作を再開した後再度各部の初期化を行なって、クランク角センサ及びカム角センサからエンジンの回転情報を得た後でないとエンジンを点火するための処理を行なうことができないため、マイクロプロセッサが動作を停止した直後の点火位置では、エンジンの点火を行なわせることができない。このような状態が生じると、エンジンの初爆が行なわれないため、エンジンの始動に失敗することになる。
【0042】
上記のような事態が生じるのを防ぐため、本発明においては、バッテリの放電が進んでいる状態や、バッテリが劣化している状態でエンジンを始動する際に、始動時にスタータモータ1と共に燃料ポンプ3を駆動したときに、バッテリ電圧がマイクロプロセッサの最低動作可能電圧Vmよりも低くなるおそれがある区間を特定の区間として定めておいて、始動モードにおいて、エンジンがこの特定の区間を回転する間、燃料ポンプの運転を停止する。本実施形態では、始動モードにおいて、エンジンの気筒の圧縮行程が行なわれるクランク角区間内に特定の区間を設定して、この特定の区間をクランク軸が回転する間、燃料ポンプの運転を停止する。これにより、特定区間でのバッテリの負担を軽減し、始動時にバッテリ電圧がマイクロプロセッサの最低動作可能電圧を下回る状態が生じるのを防ぐ。本実施形態においては、エンジンの圧縮行程が行われるクランク角区間のうち、クランク角センサ11が第1のパルス信号S1を発生する第1の基準クランク角位置から第2のパルス信号S2を発生する第2の基準クランク角位置までの区間を特定の区間として、始動モードでは、エンジンがこの特定の区間を回転する間、燃料ポンプの駆動を停止する。
【0043】
従って、本実施形態では、クランク角センサ11から第1のパルス信号S1を発生させる第1の基準クランク角位置を、エンジンの上死点位置よりも十分進角した位置(圧縮行程の下死点位置でも可)として、スタータモータ1の負荷が重くなってバッテリ電圧がマイクロプロセッサ4の最低動作可能電圧を下回る状態が生じるおそれがある特定の区間が、第1のパルス信号S1が発生するクランク角位置から第2のパルス信号S2が発生するクランク角位置までの区間に含まれるようにしておく。
【0044】
図2に示した燃料ポンプ駆動手段22を構成するためにマイクロプロセッサ4に実行させる燃料ポンプ制御処理のアルゴリズムを示すフローチャートを図3に示した。図3の処理は微小時間毎(例えば1msec毎)に実行されるもので、このアルゴリズムによる場合には、先ずステップ101で制御モードがエンジンストールモードであるか否かを判定する。その結果、制御モードがエンジンストールモードである場合には、ステップ102に進んで、制御モードがエンジンストールモードになってからの経過時間が初回ポンプ運転時間To以上であるか否かを判定する。最初はエンジンストールモードになってからの経過時間が初回ポンプ運転時間未満であるため、ステップ103に進んで燃料ポンプ3を駆動してこの処理を終了する。ステップ102で、制御モードがエンジンストールモードになってからの経過時間が初回ポンプ運転時間Toに達していると判定された場合には、ステップ104に進んで燃料ポンプ3の駆動を停止してこの処理を終了する。
【0045】
ステップ101で制御モードがエンジンストールモードでないと判定された場合には、ステップ105に進んで、制御モードが始動モードであるか否かを判定する。その結果、制御モードが始動モードであると判定された場合には、ステップ106に進んで、現在のクランク角位置が燃料ポンプ停止区間(特定の区間)にあるか否かを判定する。この判定は例えば、クランク角センサ11がエンジンの圧縮行程の上死点位置よりも進角した第1の基準クランク角位置で第1のパルス信号を発生した時にフラグをセットし、クランク角センサがエンジンの圧縮行程の上死点付近に設定された第2の基準クランク角位置て第2のパルス信号を発生したときに該フラグをリセットするフラグセット・リセット手段を設けておいて、ステップ106で当該フラグがセットされているか否かを判定することにより行うことができる。すなわち、ステップ106を実行する際に、フラグがセットされていれば現在のクランク角位置が燃料ポンプ停止区間(特定の区間)にあると判定することができ、フラグがリセットされていれば、現在のクランク角位置が燃料ポンプ停止区間にないと判定することができる。
【0046】
ステップ106で、クランク角位置が燃料ポンプ停止区間にあると判定されたときには、ステップ107に進んでエンジンの回転速度がエンジンの始動完了速度よりは低く設定された設定速度以下であるか否かを判定する。その結果、エンジンの回転速度が設定速度以下であるときにはステップ108で燃料ポンプの駆動を停止し、エンジンの回転速度が始動完了速度よりは低いが、設定速度を超えているときにはステップ109で燃料ポンプを駆動する。エンジンの回転速度が始動完了速度に達してエンジンの始動が完了し、制御モードが運転モードになったときには、図3のステップ101で制御モードがエンジンストールモードでないと判定され、ステップ105で制御モードが始動モードでないと判定されるため、図3の処理が実行される毎にステップ109が実行されて燃料ポンプが継続的に駆動される。
【0047】
図3に示したアルゴリズムによる場合には、ステップ101ないし104により、モード判定手段により制御モードがエンジンストールモードであると判定されたときに直ちに燃料ポンプ3を設定された初回ポンプ駆動期間の間だけ駆動する初回ポンプ駆動手段が構成される。またステップ105ないし109により、モード判定手段21により制御モードが始動モードであると判定されているときに、電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間以外の区間にエンジンのクランク角位置がある間燃料ポンプを駆動し、エンジンのクランク角位置が特定の区間にある間は燃料ポンプの駆動を停止するように構成された始動モード時ポンプ駆動手段が構成される。またステップ101,105及び109により、モード判定手段により制御モードが運転モードであると判定されているときに燃料ポンプを継続的に駆動する運転モード時ポンプ駆動手段が構成される。
【0048】
本実施形態に係わるエンジン制御装置の各部の信号波形を示したタイムチャートを図4に示した。図4(A)はキースイッチのオンオフ動作を示し、図4(B)は燃料ポンプの動作を示している。また図4(C)は、スタータスイッチのオンオフ動作を示し、図4(D)及び(E)はそれぞれクランク角信号及びバッテリ電圧を示している。図4において、TDC1はエンジンの排気行程の上死点位置を示し、TDC2は圧縮行程の上死点位置を示している。
【0049】
図4に示した時刻toにおいて、キースイッチがオン状態にされると、マイクロプロセッサ4に電源電圧が与えられるため、マイクロプロセッサ4がイニシャライズを行う。マイクロプロセッサ4はイニシャライズを行った後、燃料ポンプ3に時刻t1からt2までの初回ポンプ運転時間Toの間通電して該燃料ポンプの初期駆動を行う。次いで時刻t3においてスタータスイッチ7がオン状態にされると、バッテリ5からスタータスイッチ7を通してスタータモータ1に通電され、該スタータモータが駆動される。このときバッテリ電圧は、図4(E)のように大きく落ち込む。次いで時刻t4においてクランク角センサ11が発生した第1のパルス信号S1が、エンジンの排気行程で発生した信号であることが識別されると、燃料ポンプ3への通電が開始される。時刻t5で、クランク角センサ11が発生した第1のパルス信号S1が圧縮行程で発生した信号であることが識別されると、燃料ポンプ3への通電が停止される。次いで時刻t6でクランク角センサ11が発生する第2のパルス信号S2が圧縮行程の上死点位置付近に設定された第2の基準クランク角位置で発生した信号であることが識別されると、燃料ポンプ3への通電が再開される。
【0050】
時刻t7でエンジンの回転速度が始動完了速度まで上昇したと判定されると、制御モードが始動モードから運転モードに切り替えられる。またエンジンが始動した後スタータスイッチ7がオフ状態にされる。運転モードでは、燃料ポンプ3への通電が連続的に行われる。
【0051】
上記のように、エンジンの始動時に、電源部(上記の例ではバッテリ5)の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間で燃料ポンプ3の駆動を停止するように構成しておくと、当該特定の区間で電源部にかかる負荷を軽減することができる。従って、放電が進んだバッテリや劣化したバッテリでスタータモータ1を駆動してエンジンを始動する場合に、特定の区間でマイクロプロセッサに印加される電源電圧が不足してマイクロプロセッサを動作させることができなくる事態が生じる確率を低くすることができ、エンジンの始動性を良好にすることができる。
【0052】
上記の実施形態では、エンジンの圧縮行程の上死点よりも十分に進角した位置(下死点位置よりは遅れた位置)でクランク角センサ11が第1のパルス信号S1を発生してから、圧縮行程の上死点位置付近で第2のパルス信号S2を発生するまでの区間を特定の区間とするようにクランク角センサ11を構成して、この特定の区間をエンジンが回転する間燃料ポンプの駆動を停止するようにしたが、エンジンの圧縮行程が行われるクランク角区間の全体を上記特定の区間とするように、第1のパルス信号S1の発生位置を圧縮行程の下死点位置付近に設定するようにしてもよい。
【0053】
上記の実施形態においては、クランク角センサ11が発生するクランク角信号とカム角センサ12が発生するカム角信号とから、始動モード時に燃料ポンプの運転を停止させる特定の区間を検出するようにしたが、エンジンの吸気管内圧力の変化がエンジンの行程変化と相関関係を有することを利用して、エンジンの吸気管内圧力から、スタータモータにかかる負荷が大きくなる特定の区間を検出するようにしてもよい。
【0054】
すなわち、一般に4サイクルエンジンにおいては、圧縮行程が行なわれるクランク角区間で、吸気管内圧力が極小値から大気圧に向けて上昇していく変化を示す。従って、上記特定の区間は、エンジンの吸気管内圧力が極小値を示すクランク角位置から大気圧よりも僅かに低い値に設定された設定圧力まで上昇するクランク角位置までの区間とすることもできる。
【0055】
上記のように、始動モード時に、エンジンの吸気管内圧力が極小値を示すクランク角位置から大気圧よりも僅かに低い値に設定された設定圧力まで上昇するクランク角位置までの区間を特定の区間として、エンジンがその特定の区間を回転する間燃料ポンプの駆動を停止するようにすれば、その特定の区間には、エンジンの圧縮行程の内、スタータにかかる負荷が特に重くなる区間を含ませることができるため、放電が進んだバッテリや劣化したバッテリでスタータモータを駆動してエンジンを始動する場合に、圧縮行程でマイクロプロセッサに印加される電源電圧が不足してマイクロプロセッサを動作させることができなくなる事態が生じる確率を低くすることができる。
【0056】
図5は、エンジンの始動モード時に、吸気管内圧力に基づいて決定したクランク角区間を特定の区間として、エンジンがその特定の区間を回転する間燃料ポンプの駆動を停止するようにした場合の動作を示すタイムチャートである。
【0057】
図5に示した例では、時刻toにおいてキースイッチがオン状態にされたときにマイクロプロセッサ4に電源電圧が与えられ、マイクロプロセッサ4がイニシャライズを行う。マイクロプロセッサ4はイニシャライズを行った後、燃料ポンプ3に時刻t1からt2までの一定時間(初回ポンプ運転時間)Toの間通電して該燃料ポンプの初期駆動を行う。次いで時刻t3でスタータスイッチ7がオン状態にされ、バッテリ5からスタータスイッチ7を通してスタータモータ1に通電される。時刻t4においてクランク角センサ11が発生した第1のパルス信号S1(図5には図示せず。)が、エンジンの排気行程で発生した信号であることが識別されると、燃料ポンプ3への通電が開始される。吸気管内圧力Pは図5(D)に示すように変化する。吸気管内圧力Pは吸気行程で低下していき、吸気行程の下死点で極小値Pminを示す。時刻t5,t5´で圧縮行程が開始されると、吸気管内圧力は極小値Pminから大気圧に向けて上昇していく。本実施形態では、始動モード時に、時刻t5,t5´でエンジンの吸気管内圧力Pが極小値Pminを示してから、時刻t6,t6´で大気圧よりも僅かに低い値に設定された設定圧力Psに達するまでの間燃料ポンプの駆動を停止する。
【0058】
時刻t7でエンジンの回転速度が始動完了速度まで上昇したと判定されると、制御モードが始動モードから運転モードに切り替えられる。またエンジンが始動した後スタータスイッチ7がオフ状態にされる。運転モードでは、燃料ポンプへの通電が連続的に行われる。
【0059】
エンジンの始動時にインジェクタに与えられる燃料の圧力が不足するのを防止するためには、燃料ポンプの駆動を停止する期間はできるだけ短くしておくことが望ましい。従って、始動時ポンプ駆動手段は、上記の実施形態のように、エンジンの始動時にエンジンの回転速度が始動完了速度よりも低く設定された設定速度を超えていて、電源部の出力電圧が不足するおそれがないときに、燃料ポンプ駆動停止手段が燃料ポンプの駆動を停止するのを禁止するように構成しておくのが好ましい。
【0060】
上記の実施形態では、エンジンにより駆動される車両にバッテリ5が搭載されていて、エンジンを始動するスタータモータ1がバッテリ5により駆動される場合を例にとったが、本発明は、バッテリが搭載されておらず、キックスタータやリコイルスタータによりエンジンを始動する場合にも適用することができる。
【0061】
バッテリが搭載されておらず、エンジンに発電機が取り付けられていて、該発電機を電源としてECUや燃料噴射装置を動作させる場合のエンジンストールモードは、ECUの電源が立ち上がってマイクロプロセッサのイニシャライズが完了するまでの状態である。
【0062】
バッテリが搭載されていない場合の始動モードは、マイクロプロセッサのイニシャライズが完了してから、エンジンの始動の完了が確認されるまでの間の制御モードである。
【0063】
また運転モードは、エンジンの始動の完了が確認された後の燃料噴射や点火の制御を行なう制御モードである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態の構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】図1の実施形態においてマイクロプロセッサにより構成される手段を含む制御装置の構成を示したブロック図である。
【図3】図2に示した燃料ポンプ制御手段を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるプログラムのアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態に関わるエンジン制御装置の各部の信号波形を示したタイムチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態に関わるエンジン制御装置の各部の信号波形を示したタイムチャートである。
【図6】従来のエンジン制御装置の各部の信号波形を示したタイムチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 スタータモータ
2 インジェクタ
3 燃料ポンプ
4 マイクロプロセッサ
5 バッテリ
9 燃料ポンプ駆動回路
11 クランク角センサ
12 カム角センサ
21 モード判定手段
22 燃料ポンプ制御手段
23 インジェクタ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクタと、前記インジェクタに燃料を与える燃料ポンプとを有する燃料噴射装置と、前記燃料ポンプを制御する燃料ポンプ制御手段及び前記インジェクタを制御するインジェクタ制御手段を構成するマイクロプロセッサと、前記インジェクタ、燃料ポンプ及びマイクロプロセッサを動作させるために必要な電圧を発生する電源部とを備えて、前記燃料噴射装置により燃料が供給される単気筒エンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記燃料ポンプ制御手段は、前記エンジンの始動時に、前記電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間に前記エンジンのクランク角位置がある間、前記燃料ポンプの駆動を停止するように構成されているエンジン制御装置。
【請求項2】
インジェクタと、前記インジェクタに燃料を与える燃料ポンプとを有する燃料噴射装置と、前記燃料ポンプを制御する燃料ポンプ制御手段及び前記インジェクタを制御するインジェクタ制御手段を構成するマイクロプロセッサと、前記インジェクタ、燃料ポンプ及びマイクロプロセッサを動作させるために必要な電圧を発生する電源部とを備えて、前記燃料噴射装置により燃料が供給される単気筒エンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記エンジンがストールしていることが検出されているときに制御モードがエンジンストールモードであると判定し、前記エンジンを始動する操作が行なわれたことが検出されたときに前記制御モードが始動モードであると判定し、前記エンジンの回転速度が該エンジンの始動が完了したことを示す始動完了速度に達していることが検出されたときに前記制御モードが運転モードであると判定するモード判定手段を備え、
前記燃料ポンプ制御手段は、前記モード判定手段により制御モードがエンジンストールモードであると判定されたときに直ちに前記燃料ポンプを設定された初回ポンプ駆動期間の間だけ駆動する初回ポンプ駆動手段と、前記モード判定手段により制御モードが始動モードであると判定されているときに、前記電源部の出力電圧が設定値以上の落ち込みを示す特定の区間以外の区間に前記エンジンのクランク角位置がある間前記燃料ポンプを駆動し、前記エンジンのクランク角位置が前記特定の区間にある間は前記燃料ポンプの駆動を停止するように構成された始動モード時ポンプ駆動手段と、前記モード判定手段により制御モードが運転モードであると判定されているときに前記燃料ポンプを継続的に駆動する運転モード時ポンプ駆動手段とを備えているエンジン制御装置。
【請求項3】
前記特定の区間は、前記エンジンの気筒で圧縮行程が行なわれるクランク角区間内に設定される請求項1または2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記特定の区間は、前記エンジンの吸気管内圧力が極小値を示すクランク角位置から大気圧よりも僅かに低い値に設定された設定圧力まで上昇するクランク角位置までの区間である請求項1または2に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記始動時ポンプ駆動手段は、前記エンジンの始動時に前記エンジンの回転速度が始動完了速度よりも低く設定された設定速度を超えているときに前記燃料ポンプ駆動停止手段が燃料ポンプの駆動を停止するのを禁止するように構成されている請求項1,2,3または4に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−250177(P2009−250177A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101754(P2008−101754)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】