説明

エンジン始動方法及び装置

【課題】始動時にクランク軸を所定の角度逆転させたところで初回の燃料噴射を行わせ、次いでクランク軸を正回転させて初回の点火を行うことによりエンジンを始動するエンジン始動方法において、初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされた時に次回の始動が困難になるのを防止する。
【解決手段】始動時の初回の燃料噴射が行われる前にスタータスイッチがオフ状態にされたときには、直ちにスタータモータSGの駆動を停止させ、始動時の初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされたときには、初回の燃料噴射により混合気が供給された気筒が排気行程を少なくとも1回迎えるまでスタータモータの正転方向への駆動を継続させ後に該スタータモータの駆動を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタータモータを備えたエンジンを始動するエンジン始動方法、及びこの方法を実施するために用いるエンジン始動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、エンジンを停止させた際には、クランク軸が惰性で回転する過程でエンジンの圧縮行程での圧縮負荷がブレーキとして作用し、いずれかの気筒のピストンが圧縮行程の上死点に向けて上昇していく過程で回転が一旦停止した後、そのピストンが押し戻されて下死点附近で停止することが多い。従って、エンジンを始動する際には、いずれかの気筒のピストンが圧縮行程の下死点附近にある状態からクランク軸を回転させることになる。
【0003】
この位置からエンジンを始動するためにクランク軸を正回転させると、回転開始直後から圧縮行程の圧縮負荷がクランク軸に加わるため、回転速度が上昇し難く、圧縮負荷が最大となるクランク角位置でスタータモータに最大の負荷がかかる。4サイクルエンジンの場合、圧縮負荷が最大になるクランク角位置は、圧縮行程の上死点前30°程度の位置である。
【0004】
スタータモータは、圧縮負荷が最大になったときにクランク軸にかかる最大負荷トルク以上のトルクを発生する必要がある。特に、クランク軸に回転子が直結されたジェネレータをエンジンの始動時にスタータモータとして用いる場合のように、クランク軸にスタータモータの回転子が直結される場合には、減速機構によりモータトルクの増幅を図ることができないため、大形で高価なモータを使用しなければならないという問題がある。
【0005】
またエンジン始動後スタータモータをジェネレータとして使用する場合には、駆動トルクが大きいモータを用いると、回転子の質量が大きいため、そのイナーシャが過大となり、エンジンのレスポンスを低下させることになる。エンジンの始動性とレスポンスとは二律背反の関係にあり、両者をともに改善することは難しかった。
【0006】
上記の問題を解決するため、特許文献1に示されているように、エンジンの始動に先立って、スタータモータを一旦逆回転させた後に正回転させることにより、出力トルクがエンジンの圧縮行程でクランク軸にかかる最大負荷トルクよりも小さい小形のスタータモータを用いて、圧縮行程を乗り越えさせることができるようにしたエンジン始動装置が提案されている。
【0007】
特許文献1に示された始動装置では、エンジンの始動指令が与えられたときに、スタータモータを一旦逆回転させて始動時のピストンの助走距離を稼いだ後、スタータモータを正回転させて、圧縮行程以外の比較的負荷が軽い助走区間でクランク軸の回転速度を上昇させ、その回転速度により蓄積された慣性力とモータの回転力との合力により、圧縮行程を乗り越えさせるようにしている。
【0008】
本発明者の実験によれば、始動時のエンジンの温度が常温から−20℃程度の範囲にあれば、特許文献1に示された始動装置によりエンジンの始動が可能である。しかしながら、エンジンの温度が−20℃未満になる極低温の環境下では、圧縮行程でクランク軸にかかる最大負荷トルクよりも小さいスタータモータを用いてエンジンを始動させることは難しいことが明らかになった。
【0009】
上記のように、極低温の環境下でエンジンを始動させることが困難な理由は、温度の低下により生じるエンジンオイルの粘度の上昇等が原因となって、エンジンの可動部の摺動摩擦によりクランク軸にかかるトルク(フリクショントルク)が急激に増大することにあると思われる。
【0010】
すなわち、極低温の環境下では、エンジンのフリクショントルクを無視することができず、スタータモータは、エンジンの圧縮負荷と、フリクショントルクとの双方に対して仕事をする必要があるため、圧縮行程でクランク軸にかかる最大負荷トルク(圧縮トルクとフリクショントルクとの和)よりも出力トルクが小さいスタータモータを用いたのでは、エンジンを始動させることができない。
【0011】
そこで、本出願人は、先に、特願2006−56344号において、エンジンのフリクショントルクが大きい場合でもエンジンを始動させることができるエンジン始動装置を提案した。この既提案のエンジン始動装置では、スタータスイッチがオン状態にされたときにエンジンのクランク軸を一旦逆回転させるためにスタータモータを逆転方向に駆動し、スタータモータの逆転方向への駆動が終了した後にクランク軸を正回転させるようにスタータモータを駆動する。また、点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したクランク角範囲にあるクランク角位置で燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせ、スタータモータの逆転方向への駆動が終了した後にクランク軸を正回転させるようにスタータモータを駆動して、クランク軸を正回転させている過程でエンジンの始動時の点火位置として適したクランク角位置で点火装置に初回の点火を行わせする。そして、クランク軸を正回転させる際には、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときでもエンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータモータを駆動し続ける。
【特許文献1】特開2002−332938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
スタータスイッチがオン状態にされた後、クランク軸を一旦逆回転させるためにスタータモータを逆転方向に駆動し、クランク角位置が所定の位置に達したときに初回の燃料噴射を行わせ、次いでスタータモータを正転方向に駆動して、クランク角位置が初回の点火を行うのに適した位置に達したときに初回の点火を行わせるようにした場合には、運転者が一旦スタータスイッチをオン状態にした後、エンジンの始動音が静かすぎる等の理由で、エンジンが動いていないと誤認してスタータスイッチをオフ状態にしたときに、以下に示すような問題が生じることが明らかになった。
【0013】
すなわち、初回の燃料噴射を行った後、スタータスイッチがオフ状態にされると、スタータモータが停止させられた状態で気筒内に燃料が溜まった状態になるため、次にスタータスイッチがオン状態にされたときに混合気が濃すぎる状態になり、エンジンの始動性が悪化してしまう。またスタータスイッチをオン状態にする操作と、初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチをオフ状態にする操作とが繰り返されると、気筒内が燃料で過度に濡れた状態(いわゆる“かぶり”の状態)が生じ、エンジンを始動することが困難になる。
【0014】
本発明の目的は、スタータスイッチがオン状態にされた後直ぐにオフ状態にされる操作が行われた場合にエンジンの始動性が悪くなるのを防ぐことができるようにしたエンジン始動方法及び始動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
内部にピストンが設けられた少なくとも1つの気筒と、気筒内のピストンに連結されたクランク軸と、気筒内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、気筒内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、クランク軸を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えたエンジンを始動するエンジン始動方法に適用される。
【0016】
本発明においては、スタータスイッチがオン状態にされたときにエンジンのクランク軸を一旦逆回転させるためにスタータモータを逆転方向に駆動し、スタータモータの逆転方向への駆動が終了した後にクランク軸を正回転させるようにスタータモータを駆動する。また点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したクランク角範囲にあるクランク角位置で燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせ、クランク軸を正回転させている過程で、エンジンの始動時の点火位置として適したクランク角位置で点火装置に初回の点火を行わせる。
【0017】
スタータスイッチが閉じられたときに、スタータモータを逆回転させると、圧縮行程の下死点附近で停止していた特定の気筒内のピストンが、正回転時の吸気行程に相当する区間の途中の適宜のクランク角位置または、正回転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた状態になるクランク角位置まで戻される。次いでスタータモータを正回転させると、特定の気筒で吸気行程が行われて該特定の気筒内に混合気が供給され、続いて圧縮行程が行われる。点火位置では、初回の燃料噴射により与えられた燃料を含む混合気が圧縮された状態で存在するので、点火装置に点火動作を行わせることにより膨張行程を行わせてエンジンを始動することができる。
【0018】
前述のように、初回の燃料噴射を行った後にスタータスイッチがオフ状態にされると、気筒内に燃料が溜まった状態になるため、次にスタータスイッチがオン状態にされたときに混合気が濃すぎる状態になり、エンジンの始動性が悪化する。
【0019】
そこで、本発明においては、始動時の初回の燃料噴射が行われる前にスタータスイッチがオフ状態にされたときには、直ちにスタータモータの駆動を停止させ、始動時の初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされたときには、初回の燃料噴射により混合気が供給された気筒が排気行程を少なくとも1回迎えるまでスタータモータの正転方向への駆動を継続させ後に該スタータモータの駆動を停止する。
【0020】
上記のように、初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされた場合に、直ちにスタータモータの駆動を停止するのではなく、初回の燃料噴射により混合気が供給された気筒が排気行程を少なくとも1回迎えるまでの間スタータモータの駆動を継続してからその駆動を停止するようにすると、気筒内に燃料が溜まるのを防ぐことができるため、気筒内が燃料で濡れた状態になって次回のエンジンの始動が困難になるのを防ぐことができる。
【0021】
上記初回の燃料噴射を行わせるクランク角位置は予め定められた位置でもよく、スタータモータの逆転方向への駆動時間が設定時間に達したときのクランク角位置であってもよい。
【0022】
クランク軸を正回転させる際には、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときでもエンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータモータを駆動し続けるようにするのが好ましい。
【0023】
極低温下でエンジンを始動する際には、圧縮行程において、圧縮トルクとフリクショントルクとの和がスタータモータの出力トルクを上回ってクランク軸が停止してしまうことがある。このとき、スタータモータを正転方向に駆動し続けるようにすると、エンジンの気筒内の圧縮漏れによる圧縮トルクの漸減を利用してエンジンのピストンをゆっくりと圧縮行程の上死点に向けて変位させることができ、圧縮トルクが最大値を超えた後にスタータモータによりクランク軸を加速して圧縮行程を完了させルことができる。このとき気筒内には、混合気が圧縮された状態で存在するので、続いて点火動作を行わせることにより膨張行程を行わせて、クランク軸を一気に加速してエンジンを始動させることができる。
【0024】
本発明はまた、内部にピストンが設けられた少なくとも1つの気筒と、気筒内のピストンに連結されたクランク軸と、気筒内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、気筒内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、クランク軸を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えたエンジンを始動するエンジン始動装置に適用される。
【0025】
本発明に係わるエンジン始動装置は、エンジンを始動することを指令する指令信号が発生したときにエンジンのクランク軸を一旦逆回転させるためにスタータモータを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段と、スタータモータの逆転方向への駆動が終了した後にクランク軸を正回転させるようにスタータモータを駆動するスタータ正転駆動手段と、点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したクランク角範囲にあるクランク角位置で前記燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせる燃料噴射制御手段と、クランク軸を正回転させている過程で、エンジンの始動時の点火位置として適したクランク角位置で点火装置に初回の点火を行わせる始動時点火制御手段と、エンジンを始動する際にオン状態にされるスタータスイッチがオン状態にされたときに始動指令を発生させ、始動時の初回の燃料噴射が行われる前にスタータスイッチがオフ状態にされたときには、直ちに始動指令を消滅させ、始動時の初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされたときには、初回の燃料噴射により混合気が供給された気筒が排気行程を少なくとも1回迎えるまで始動指令を発生させた状態に維持した後に該始動指令を消滅させる始動指令発生・消滅制御手段とを備えた構成とすることができる。
【0026】
本発明の好ましい態様においては、エンジン始動装置が、エンジンを始動することを指令する始動指令が発生したときに、クランク軸を一旦逆回転させるためにスタータモータを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段と、スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの駆動が終了した後にクランク軸を正回転させるためにスタータモータを正転方向に駆動するスタータ正転駆動手段と、点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したたクランク角範囲にあるクランク角位置で燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせる燃料噴射制御手段と、エンジンの始動時の点火位置として適したクランク角位置で点火装置に点火を行わせる始動時点火制御手段と、燃料噴射制御手段による初回の燃料噴射が行われた時刻からの経過時間(初回燃料噴射後経過時間)を計測するタイマ手段と、エンジンを始動する際にオン状態にされるスタータスイッチの状態を監視するスタータスイッチ状態監視手段と、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されたときに初回の燃料噴射が行われたか否かを判定する始動時燃料噴射実行判定手段と、始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定されたときに、タイマ手段により計測されている経過時間が設定された遅延時間に達しているか否かを判定する経過時間判定手段と、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオン状態にあると判定されたときに始動指令を発生させ、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ経過時間判定手段により経過時間が未だ設定された遅延時間に達していないと判定されたときには始動指令を発生させたままとし、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定され、かつ始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われなかったと判定されたとき、及びスタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ経過時間判定手段により経過時間が設定された遅延時間に達していると判定されたときに始動指令を消滅させる始動指令発生・消滅制御手段と、エンジンの始動が完了したとき及び始動指令が消滅したときにスタータモータの駆動を停止するスタータ駆動停止手段とを備えている。上記遅延時間は、スタータモータを正回転方向に駆動し続けたときに初回の燃料噴射により混合気が吸入された気筒が排気行程を少なくとも1回迎えるのに必要な時間以上に設定される。
【0027】
本発明に係わるエンジン始動装置の他の態様においては、エンジンを始動させることを指令する始動指令が発生したときに、クランク軸を一旦逆回転させるためにスタータモータを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段と、スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの駆動が終了した後にクランク軸を正回転させるためにスタータモータを正転方向に駆動するスタータ正転駆動手段と、点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したたクランク角範囲にあるクランク角位置で燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせる燃料噴射制御手段と、スタータ正転駆動手段がクランク軸を正回転させている過程で、エンジンの始動時に適した点火位置で点火を行わせる始動時点火制御手段と、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されたときに初回の燃料噴射が行われたか否かを判定する始動時燃料噴射実行判定手段と、始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定されたときにエンジンのクランク軸が、初回の燃料噴射が行われたクランク角位置から正回転方向に設定角度以上回転したか否かを判定する始動時クランク軸回転角度判定手段と、エンジンを始動する際にオン状態にされるスタータスイッチの状態を監視するスタータスイッチ状態監視手段と、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオン状態にあると判定されたときに始動指令を発生させ、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時クランク軸回転角度判定手段によりクランク軸が設定角度以上回転していないと判定されたときには始動指令を発生させたままとし、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定され、かつ始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われなかったと判定されたとき、及びスタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ始動時クランク軸回転角度判定手段によりクランク軸が設定角度以上回転していると判定されたときに始動指令を消滅させる始動指令発生・消滅制御手段と、エンジンの始動が完了したとき及び始動指令が消滅したときにスタータモータの駆動を停止するスタータ駆動停止手段とが設けられる。
【0028】
上記設定角度は、初回の燃料噴射により混合気が吸入された気筒が、排気行程を少なくとも1回迎えるのに必要な回転角度以上に設定される。
【0029】
上記燃料噴射制御手段が初回の燃料噴射を行わせるクランク角位置は、予め定められた位置であってもよく、スタータモータの逆転方向への駆動時間が設定時間に達したときのクランク角位置であってもよい。
【0030】
上記スタータ正転駆動手段は、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときでもエンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータモータを駆動し続けるように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、スタータモータが逆転方向に駆動されて初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされた場合に、直ちにスタータモータの駆動を停止するのではなく、設定された遅延時間の間はスタータモータの駆動を継続してからその駆動を停止するようにしたので、気筒内に燃料が溜まるのを防ぐことができ、気筒内が燃料で濡れた状態になって次回のエンジンの始動が困難になるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1は本発明に係わるエンジン始動装置を備えたエンジンシステムの構成を示したものである。同図においてENGは並列2気筒4サイクルエンジンで、このエンジンの1番気筒の燃焼サイクルと2番気筒の燃焼サイクルとの位相差は360°である。1はエンジン本体で、エンジン本体1は、内部にピストン100が設けられた2つの気筒101(図面には1番気筒のみを示してある。)と、気筒内のピストン100にコンロッド102を介して連結されたクランク軸103とを有している。
【0033】
なお本発明に係わる始動装置は、複数の気筒に対して共通に一つの吸気管が設けられる場合にも適用することができるが、本実施形態では、吸気管104がエンジンの各気筒毎に設けられている。エンジンENGはまた、吸気管106を通して気筒101内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、気筒101内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、クランク軸103を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えている。
【0034】
図示の例では、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内または吸気ポート内に燃料を噴射するようにインジェクタ(電磁式燃料噴射弁)2が取り付けられている。インジェクタ2は、先端に噴射孔を有するインジェクタボディと、噴射孔を開閉するニードルバルブと、ニードルバルブを駆動するソレノイドとを有する周知のもので、そのインジェクタボディ内には、燃料タンク3内の燃料4を汲み出す燃料ポンプ5から燃料が供給されている。燃料ポンプ5からインジェクタ2に供給される燃料の圧力は、圧力調整器6により一定に保たれている。インジェクタ2のソレノイドは電子式制御ユニット(ECU)10内に設けられたインジェクタ駆動回路に接続されている。インジェクタ駆動回路は、ECU内で噴射指令信号が発生したときにインジェクタ2のソレノイドに駆動電圧を与える。インジェクタ2は、インジェクタ駆動回路からそのソレノイドに駆動電圧Vinjが与えられている間にバルブを開いて吸気管内に燃料を噴射する。インジェクタに与えられる燃料の圧力が一定に保たれる場合、燃料の噴射量は噴射時間(インジェクタのバルブを開いている時間)により管理される。
【0035】
この例では、インジェクタ2と図示しないインジェクタ駆動回路と、該インジェクタ駆動回路に噴射指令を与える燃料噴射制御手段とにより燃料噴射装置が構成されている。
【0036】
エンジン本体のシリンダヘッドにはまた、各気筒101内の燃焼室に先端の放電ギャップを臨ませた状態で各気筒用の点火プラグ12が取り付けられ、各気筒用の点火プラグは、各気筒用の点火コイル13の二次側に接続されている。各気筒用の点火コイル13の一次側は、ECU10内に設けられた図示しない点火回路に接続されている。点火回路は、点火指令発生部から点火指令が与えられたときに点火コイル13の一次電流I1に急激な変化を生じさせて点火コイル13の二次側に点火用の高電圧を誘起させる回路で、この図示しない点火回路と、点火プラグ12と、点火コイル13と、点火回路に点火指令信号を与える点火指令発生部とにより、エンジンを点火する点火装置が構成されている。点火指令発生部は、エンジンの定常運転時の点火位置を演算して、演算した点火位置が検出されたときに点火指令を発生する定常時点火制御手段と、エンジンの始動時に、エンジンを始動させるために適した点火位置で点火指令を発生する始動時点火制御手段とにより構成される。
【0037】
図1に示されたエンジンでは、スロットルバルブをバイパスするようにソレノイドにより操作されるISC(Idle Speed Control)バルブ120が設けられている。ECU10内にはISCバルブ120に駆動信号Viscを与えるISCバルブ駆動回路が設けられ、エンジンのアイドリング回転速度を一定に保つように、ISCバルブ120に駆動信号Viscが与えられる。
【0038】
本実施形態では、エンジンの始動時にはブラシレスモータとして駆動され、エンジンが始動した後はジェネレータ(発電機)として運転される回転電機(スタータジェネレータと呼ばれる。)SGがエンジンに取り付けられ、この回転電機SGがスタータモータとして用いられる。回転電機SGは、エンジンのクランク軸103に取り付けられた回転子21と、エンジン本体のケース等に固定された固定子22とからなっている。
【0039】
回転子21は、カップ状に形成された鉄製の回転子ヨーク23と、その内周に取り付けられた永久磁石24とからなっていて、この例では、回転子ヨーク23の内周に取り付けられた永久磁石24により12極の磁石界磁が構成されている。回転子21は、その回転子ヨーク23の底壁部の中央に設けられたボス部25の内側に形成されたテーパ孔にエンジンのクランク軸103の先端のテーパ部を嵌合させて、ネジ部材によりボス部25をクランク軸103に対して締め付けることによりクランク軸103に取り付けられている。
【0040】
固定子22は、環状のヨーク26yの外周から18個の突極部26pを放射状に突出させた構造を有する固定子鉄心26と、固定子鉄心の一連の突極部26pに巻回されて3相結線された電機子コイル27とからなっていて、固定子鉄心26の各突極部26pの先端の磁極部が回転子の磁極部に所定のギャップを介して対向させられている。
【0041】
回転子ヨーク23の外周には弧状の突起からなるリラクタrが形成され、エンジンのケース側には、このリラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して極性が異なるパルスを発生する信号発生器28が取り付けられている。また回転電機SGの固定子側には、3相の各相の電機子コイルに対してそれぞれ設定された検出位置に配置されて、回転子21の磁石界磁の各磁極の極性を検出するホールIC等のホールセンサ29uないし29wが設けられている。図1においては、3相のホールセンサ29uないし29wが回転子ヨーク23の外側に配置されているように図示されているが、実際には、3相のホールセンサ29uないし29wが回転子21の内側に配置されて、固定子22に対して固定されたプリント基板等に取り付けられている。ホールセンサの設け方は、通常の3相ブラシレスモータにおけるそれと同様である。ホールセンサ29uないし29wは、検出している磁極がN極であるときとS極であるときとでレベルが異なる電圧信号からなる位置検出信号huないしhwを出力する。
【0042】
回転電機SGの3相の電機子コイルは、配線30uないし30wを通してモータ駆動/整流回路31の交流側端子に接続され、モータ駆動/整流回路31の直流側端子間にバッテリ32が接続されている。モータ駆動/整流回路31は、MOSFETやパワートランジスタなどのオンオフ制御が可能なスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにより3相Hブリッジの各辺を構成したブリッジ形の3相インバータ回路(モータ駆動回路)と、該インバータ回路のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ逆並列接続されたダイオードDuないしDw及びDxないしDzにより構成されたダイオードブリッジ3相全波整流回路とを備えた周知の回路である。
【0043】
回転電機SGをブラシレスモータ(スタータモータ)として動作させる際には、ホールセンサ29uないし29wの出力から検出された回転子21の回転角度位置に応じてインバータ回路のスイッチ素子がオンオフ制御されることにより、バッテリ32からインバータ回路を通して3相の電機子コイル27に、所定の相順で転流する駆動電流が供給される。
【0044】
またエンジンが始動した後、回転電機SGをジェネレータとして運転する際には、電機子コイル27から得られる3相交流出力が、モータ駆動/整流回路31内の全波整流回路を通してバッテリ32と、バッテリ32の両端に接続された各種の負荷(図示せず。)とに供給される。このとき、バッテリ32の両端の電圧に応じて、インバータ回路のブリッジの上辺を構成するスイッチ素子またはブリッジ下辺を構成するスイッチ素子が同時にオンオフ制御されることにより、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えないように制御される。
【0045】
例えば、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下のときにはインバータ回路のHブリッジを構成するスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzがオフ状態に保持されてモータ駆動/整流回路31内の整流回路の出力がそのままバッテリ32に印加される。また、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えたときには、インバータ回路のブリッジの3つの下辺(上辺でもよい)をそれぞれ構成する3つのスイッチ素子QxないしQzが同時にオン状態にされることにより、ジェネレータの3相交流出力が短絡されて、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下に低下させられる。これらの動作の繰り返しによりバッテリ32の両端の電圧が設定値付近の値に保たれる。
【0046】
また上記のような制御を行う代わりに、バッテリ32から回転電機SGの電機子コイルに、該電機子コイルの誘起電圧と周波数が等しく、かつ該電機子コイルの無負荷時の誘起電圧に対して所定の位相角を有する交流制御電圧を印加するようにインバータ回路を制御する手段を設けておいて、バッテリの両端の電圧の変化に応じてバッテリ側から電機子コイルに与える交流制御電圧の位相を、電機子コイルの無負荷有機電圧に対して変化させることにより、回転電機の発電出力を増加または減少させて、バッテリ32の両端の電圧を設定された範囲に保つ制御を行なわせることもできる。
【0047】
なおインバータ回路のブリッジの各辺を構成するスイッチ素子としてMOSFETが用いられる場合には、該MOSFETのドレインソース間に形成される寄生ダイオードを上記ダイオードDuないしDw及びDxないしDzとして用いることができる。
【0048】
また図示の例では、ECU10のマイクロプロセッサにエンジンの情報を与えるために、スロットルバルブ107の位置(開度)を検出するスロットルポジションセンサ35と、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内圧力を検出する圧力センサ36と、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度センサ37と、エンジンに吸入される空気の温度を検出する吸気温度センサ38とが設けられている。
【0049】
上記のように、本実施形態では回転電機(スタータジェネレータ)SGの回転子をエンジンのクランク軸に直結して、エンジンの始動時にはこの回転電機をスタータモータとして用い、エンジンが始動した後はこの回転電機をジェネレータとして用いるが、以下に記載するエンジン始動装置についての説明では、回転電機SGをスタータモータとして動作させる際の制御を対象とするので、便宜上この回転電機SGをスタータモータと呼ぶことにする。
【0050】
図2を参照すると、図1に示されたシステムの電気的な構成がブロック図で示されている。ECU10は、マイクロプロセッサ(MPU)40と、点火回路41と、インジェクタ駆動回路42と、ISCバルブ駆動回路43と、モータ駆動/整流回路31の温度を検出する温度センサ44と、マイクロプロセッサ40から与えられる指令に応じてモータ駆動/整流回路31のインバータ回路のスイッチ素子に駆動信号を与えるコントロール回路45と、デコンプバルブ116に駆動電流を与えるデコンプバルブ駆動回路46と、所定個数のインターフェース回路I/Fとを備えている。
【0051】
マイクロプロセッサ40は、ROMに記憶された所定のプログラムを実行させることにより、エンジンを制御するために必要な各種の制御手段を構成する。図示の例では、マイクロプロセッサにエンジンの情報を与えるために、スロットルポジションセンサ35から得られるスロットルポジション信号Sa、圧力センサ36から得られる吸気管内圧力検出信号Sb、冷却水温度センサ37から得られる冷却水温検出信号Sc及び吸気温度センサ38から得られる吸気温度検出信号SdがECU10内のマイクロプロセッサにインターフェース回路I/Fを通して入力されている。またホールセンサ29uないし29wの出力信号huないしhwと、信号発生器28の出力Spとが所定のインターフェース回路I/Fを通してマイクロプロセッサ40に入力されている。
【0052】
そして、ECU10内の点火回路41から点火コイル13に一次電流I1が供給され、ECU10内のインジェクタ駆動回路42からインジェクタ2に駆動電圧Vinjが与えられている。またコントロール回路45からモータ駆動/整流回路31のインバータ回路の6個のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ駆動信号(スイッチ素子をオン状態にするための信号)SuないしSw及びSxないしSzが与えられている。
【0053】
なお図2において、47はバッテリ32の出力電圧が入力された電源回路で、電源回路47は、バッテリ32の出力電圧を降圧して安定化することにより、ECU10の各部に供給する電源電圧を出力する。
【0054】
本実施形態において、マイクロプロセッサ40が構成する各種の制御手段を含む制御装置の要部の構成を図3に示した。図3において、51は、エンジンを始動する際にオン状態にされるスタータスイッチSWの状態を監視するスタータスイッチ状態監視手段、52は、始動指令を発生させたり消滅させたりする始動指令発生・消滅制御手段、53は始動指令が発生したときに制御モードを始動逆転駆動モードに切り換える始動逆転駆動モード切換手段、54は始動逆転駆動モード切換手段52により制御モードが始動逆転駆動モードに切り換えられたときにエンジンのクランク軸を逆転させるためにスタータモータSGを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段である。また55はスタータモータの逆転方向への駆動を開始してからの経過時間が、エンジンの停止時にピストンが正転時の圧縮行程の下死点付近に停止した状態にあった特定の気筒内のピストンが設定位置に到達するのに十分な長さに設定された設定された遅延時間に達したか否かを判定する逆転駆動時間判定手段、56はスタータモータSGを逆転方向に駆動している過程で、上記特定の気筒内のピストンが上記設定位置に達したか否かを判定する逆転時クランク角位置判定手段である。上記ピストンの設定位置は、エンジンの正転時の吸気行程に相当する区間内の適宜の位置(好ましくは、正転時の吸気行程の上死点に近い位置)、またはエンジンの正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた位置に設定される。ここで、「エンジンの正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた位置」は、正転時の排気行程に相当する区間内の位置でもよく、正転時の排気行程に相当する区間を通り過ぎた位置(例えば正転時の膨張行程に相当する区間内の適宜の位置)でもよい。
【0055】
更に57は、逆転駆動時間判定手段55により経過時間が設定された遅延時間に達したと判定されたとき、または逆転時クランク角位置判定手段56によりクランク角位置が設定位置に達したと判定されたときに制御モードを始動正転駆動モードに切り換える始動正転駆動モード切換手段、58は制御モードが始動正転駆動モードに切り換えられたときにスタータモータSGの正転方向への駆動を開始するスタータ正転駆動手段である。
【0056】
59はスタータモータSGが前記クランク軸を正回転させている過程で圧縮行程の上死点位置以降のクランク角位置を点火位置として、該点火位置が到来した気筒で始動時の点火を行わせる始動時点火制御手段、60は逆転駆動時間判定手段55により経過時間が設定時間に達したと判定されたとき、または逆転時クランク角位置判定手段56によりクランク角位置が設定位置に達したと判定されたときにエンジンの特定の気筒に対して初回の燃料噴射を行わせ、以後点火が行われる気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射する位置として適したクランク角位置で燃料噴射装置に燃料噴射を行わせる燃料噴射制御手段である。
【0057】
更に61はエンジンの始動が完了したか否かを判定する始動完了判定手段、62は、始動完了判定主担61によりエンジンの始動が完了したと判定されたとき及び始動指令が消滅したときにスタータモータの駆動を停止するスタータ駆動停止手段である。
【0058】
また63は、燃料噴射制御手段60による初回の燃料噴射が行われた時刻からの経過時間(初回燃料噴射後経過時間)を計測するタイマ手段、64はスタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチSWがオフ状態にあると判定されたときに初回の燃料噴射が行われたか否かを判定する始動時燃料噴射実行判定手段、65は始動時燃料噴射実行判定手段64により初回の燃料噴射が行われたと判定されたときにタイマ手段63により計測されている経過時間が設定された遅延時間Tdに達しているか否かを判定する経過時間判定手段である。遅延時間Tdは、スタータモータを正回転方向に駆動し続けたときに初回の燃料噴射により混合気が吸入された気筒が、排気行程を少なくとも1回迎えるのに必要な時間以上に設定される。
【0059】
本実施形態で用いる始動指令発生・消滅制御手段52は、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチSWがオン状態にあると判定されたときに始動指令を発生させ、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ経過時間判定手段により経過時間が未だ設定された遅延時間に達していないと判定されたときには始動指令を発生させたままとし、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定され、かつ始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われなかったと判定されたとき、及びスタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ経過時間判定手段により経過時間が前記設定された遅延時間に達していると判定されたときに始動指令を消滅させるように構成される。
【0060】
67は、始動完了判定手段60によりエンジンの始動が完了したと判定されたときに制御モードを定常運転モードに切り換える定常運転モード切換手段、68はエンジンの定常運転時に燃料噴射量と点火位置との制御を行なう定常運転時制御手段である。定常時運転制御手段68は、エンジンの定常運転時に(始動後に)に各種の制御条件に対して燃料の噴射時間を演算して、演算した噴射時間の間インジェクタから燃料の噴射を行わせるようにインジェクタ駆動回路42に噴射指令信号を与える定常時燃料噴射制御手段と、エンジンの定常運転時の点火位置を演算して演算した点火位置が検出されたときに点火回路に点火指令を与える定常時点火制御手段とを備えている。
【0061】
また69は、制御モードが始動逆転駆動モードに切換えられている状態、または始動正転駆動モードに切換えられている状態で、エンジンの始動指令が与えられていないことが検出されたとき、及び始動指令は与えられているがスタータスイッチがオフ状態にあることが検出されているとき、及び始動指令は与えられているが制御系に何らかのエラーがあることが検出されたときに、制御モードをエンジンストールモードに切換えるエンジンストールモード切換手段である。エンジンストールモードでは、点火指令及び噴射指令の発生の禁止等、エンジンを停止状態に保つために必要な一連の処理が行なわれる。即ち、本実施形態では、スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態になったことが検出されたときに、制御モードをエンジンストールモードに切り換えることにより、エンジンの点火及び燃料の噴射を行わないように構成されている。
【0062】
上記スタータ正転駆動手段58は、始動時に特定の気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときでもスタータモータSGの駆動電流を上限値以下に制限しつつ、該モータSGを正転方向に駆動し続けるように構成されている。
【0063】
以下、本発明に係わるエンジン始動装置において行われる制御の内容について説明する。
本発明に係わるエンジン始動装置において、スタータスイッチSWがオン状態にされると、スタータスイッチ状態監視手段51が始動指令を発生させる。始動指令が発生すると、先ず始動時に最初に点火する気筒に混合気が吸入されるようにするために、スタータモータSGを逆転方向に駆動して、エンジンの停止時にエンジンの正転時の圧縮行程の下死点付近に停止した状態にあった特定の気筒内のピストンが、エンジンの正転時の吸気行程に相当する区間内の適宜の位置(できるだけ吸気行程の上死点に近い位置)またはエンジンの正転時の吸気行程に相当する区間を通り過ぎた位置に達するまでエンジンのクランク軸を逆回転させる。
【0064】
図4(A)は、並列2気筒4サイクルエンジンの両気筒の行程の関係を示し、同図(B)はクランク軸を外部から回転させた際にクランク軸にかかる負荷トルクを示している。図中#1及び#2はそれぞれエンジンの1番気筒及び2番気筒を示している。エンジンのクランク軸を逆回転させたときには、正転時の膨張行程に相当する区間で気筒内の気体の圧縮トルクが負荷トルクとしてクランク軸に働く。並列2気筒4サイクルエンジンにおいては、図4(A)に示されているように、一方の気筒が吸気行程にあるときに他方の行程が膨張行程にあるため、始動時にスタータモータを逆転駆動して、圧縮行程の下死点付近で停止していた一方の気筒(図4に示した例では1番気筒)のピストンを正転時の吸気行程の上死点に向けて上昇させていく際に、一方の気筒では圧縮トルクが働かないが、他方の気筒(図4に示した例では2番気筒)では圧縮トルクが働く。そのため、出力トルクが小さいスタータモータを用いた場合には、圧縮行程の下死点付近で停止していた一方の気筒のピストンを、正転時の吸気行程の上死点に相当する位置に到達させることはできない。従って、並列2気筒4サイクルエンジンの場合には、クランク軸を逆回転させた際に、図4(B)に示すように、一方の気筒(図示の例では1番気筒)のピストンが正転時の吸気行程に相当する区間の途中に達したところでクランク軸が停止する。
【0065】
クランク軸が停止したところで(クランク軸を正回転させる前に)、図4(C)に示すように、インジェクタ駆動回路に噴射指令信号Vjを与えることにより、始動時に最初に行なわれる点火に備えて、初回の燃料噴射を行なわせる。
【0066】
なお単気筒4サイクルエンジンの場合には、図5(A)及び(B)に示すように、スタータモータを逆転駆動した際に、クランク軸に圧縮トルクが働かないため、正転時の吸気行程の上死点に相当するクランク角位置付近までクランク軸を逆回転させることは容易に行なうことができる。この場合も、クランク軸が停止したところで(クランク軸を正回転させる前に)、図5(C)に示すように、インジェクタ駆動回路に噴射指令信号Vjを与えることにより、始動時に最初に行なわれる点火に備えて燃料噴射装置に初回の燃料噴射を行なわせる。
【0067】
特許文献1に示された従来のエンジン始動装置でも、始動指令が与えられたときにスタータモータを逆転駆動してクランク軸を逆回転させていたが、従来の始動装置において、エンジンを始動する際に一旦クランク軸を逆回転させる目的は、助走距離を稼ぐことにあった。
【0068】
これに対し、本発明において始動指令が与えられたときに先ずクランク軸を逆回転させるのは、助走距離を稼ぐためではなく、続いてクランク軸を正回転させるためのクランキングを行なった際に、最初に点火が行なわれる気筒に混合気が吸入されるようにするためである。即ち、本発明において、始動時に先ずクランク軸を逆回転させるのは、始動動作開始後、最初に行われる点火に備えて燃料を噴射する機会を作るためである。従って、本発明に係わるエンジン始動装置と、従来のエンジン始動装置とでは、始動時にクランク軸を逆回転させる目的が全く相違する。
【0069】
上記のようにして、クランク軸を正回転時の吸気行程の途中または吸気行程前に相当する位置まで逆回転させ、燃料噴射装置に初回の燃料噴射を行なわせると、始動時噴射実行判定手段が始動時の初回の燃料噴射が行われたと判定し、タイマ手段63が、初回の燃料噴射が行われた時刻からの経過時間(初回燃料噴射後経過時間)の計測を開始する。
【0070】
始動時の初回の燃料噴射を行わせた後、スタータモータSGを正転方向に駆動する。このときのエンジンの負荷トルクとクランク角との関係は図6に示す通りであり、スタータモータの出力トルクと回転速度との関係は図7に示す通りである。図6において横軸のクランク角は、上死点前の角度[BTDC]を示しており、図示の0°のクランク角位置がピストンの上死点に相当するクランク角位置(上死点位置という。)である。
【0071】
スタータモータを正転方向に駆動すると、モータの出力トルクは図7に示すように回転速度の上昇に伴って低くなっていくが、エンジンの負荷トルクは、図6に示すようにクランク軸が上死点位置に向けて回転していくにつれて大きくなっていく。ここで、エンジンのフリクショントルクが大きく、ピストンが圧縮行程の上死点を越えるのに十分な慣性エネルギを得る回転速度まで加速できない状況にあるときには、圧縮行程の途中でクランク軸が一旦停止してしまう。従来の始動装置では、この時点でスタータモータの駆動を停止していたが、本実施形態においては、スタータモータが停止した後も、該スタータモータへの通電を維持して、その駆動電流(電機子電流)が上限値を超えない範囲で、該モータの出力トルクを最大にするように制御しつつ、スタータモータの正転方向への駆動を継続する。
【0072】
一般に4サイクルエンジンにおいては、圧縮行程においてピストンが圧縮行程の上死点に向けて上昇していく過程で、ピストンリングや吸排気バルブから僅かな圧縮漏れが生じるため、クランク軸が停止した後もスタータモータによりクランク軸を駆動し続けると、時間の経過に伴って圧縮トルクが減少していき、エンジンの負荷トルクが漸減していく。そのため、スタータモータがエンジンの負荷トルク(圧縮トルクとフリクショントルクとの和)に打ち勝つことができなくなって停止した後もスタータモータを駆動し続けると、圧縮漏れによる負荷トルクの漸減に伴ってピストンがゆっくりと上昇していき、クランク軸が微速で回転する。やがてクランク軸の回転角度位置が、圧縮行程の上死点に相当するクランク角位置(0°の位置)の手前にある圧縮トルク最大位置(図7に示した例では圧縮行程の上死点前30°附近の位置)を超えると、エンジンの負荷トルクが軽くなり、エンジンからスタータモータにかかる負荷が軽くなるため、クランク軸は速度を上げて回転し始める。従って、ピストンは圧縮行程の上死点を容易に越えることができる。
【0073】
従来のエンジン始動装置においては、正転時の圧縮行程の上死点の手前の位置で始動時の最初の点火を行わせていたが、本実施形態においては、クランク軸を微速で回転させて圧縮行程の上死点を越えさせるため、最初の点火を上死点よりも進んだクランク角位置で行わせると、ピストンが押し戻されてエンジンが逆転するおそれがある。
【0074】
そのため、本実施形態においては、エンジンの始動時の最初の点火を、ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置、またはピストンの上死点に相当するクランク角位置を一定の角度(例えば10°)だけ行き過ぎた位置(正回転時の膨張行程の初期のクランク角位置)で行わせる。
【0075】
エンジンの始動時の最初の点火を、ピストンが圧縮行程の上死点に達したときのクランク角位置、またはピストンの上死点に相当するクランク角位置を一定の角度(例えば10°)だけ行き過ぎた位置で行わせると、ピストンが跳ね返されるのを防ぎつつ、点火された気筒内の燃料を燃焼させて膨張行程を行わせることができる。従って、クランク軸は、スタータモータの駆動力と気筒内での燃焼(爆発)により生じる回転力との合力により一気に加速して回転する。この回転により慣性エネルギを一気に蓄積して次の気筒の圧縮行程を行わせ、次いでその気筒で点火を行わせて膨張行程を行わせる。以後燃料の噴射と点火とを繰り返し行わせて、各気筒で燃焼サイクルを行わせ、これによりクランク軸の回転速度を上昇させてエンジンの始動を完了する。
【0076】
図8(C)は、発明者が行った実験で実測した始動時のクランク軸の回転速度Nとクランク角θとの間の関係を示している。図8(C)に示した例では、エンジンの2番気筒のピストンが正転時の圧縮行程の下死点附近のクランク角位置θaにある状態でエンジンが停止している。時刻t0で始動指令(図8B)が与えられると、始動逆転駆動モード切換手段53が制御モードを始動逆転駆動モードとするため、スタータ逆転駆動手段54がスタータモータSGを逆転方向に駆動してクランク軸を逆回転させる。これにより、クランク軸は2番気筒の圧縮行程の下死点に相当するクランク角位置から正転時の2番気筒の吸気行程に相当する区間に向けて回転していく。クランク角位置が正転時の2番気筒の吸気行程に相当する区間に入ると、1番気筒では正転時の膨張行程に相当する区間に入るため、1番気筒からクランク軸に大きな負荷トルクが働く。そのためクランク軸は、2番気筒の正回転時の吸気行程に相当する区間の途中のクランク角位置θbまでしか回転することができず、このクランク角位置で停止する。このクランク角位置θbを逆転駆動終了位置とする。本実施形態では、逆転駆動時間判定手段55により、逆転方向への駆動を開始した時刻からの経過時間が設定された遅延時間を超えたと判定されたとき、または逆転時クランク角位置判定手段56によりクランク角位置が予め設定したクランク角位置θbに一致したと判定されたときに、クランク角位置が正転駆動開始位置θbに達したと判定するようにしている。
【0077】
クランク角位置が逆転駆動終了位置θbに達したと判定されたときに、スタータモータの駆動を停止してインジェクタ駆動電圧を確保した上で、燃料噴射制御手段60が、クランク軸を正回転させた後最初に行われる点火に備えて、時刻t1でインジェクタ駆動回路42に噴射指令を与えることによりインジェクタから初回の燃料噴射を行わせる。
【0078】
この間(時刻t4で正転駆動が開始されるまでの間)スタータモータの駆動が停止しているので、クランク軸は、1番気筒の圧縮反力により押し戻され、図示のθcの位置まで移動して停止する。時刻t3でインジェクタからの初回の燃料噴射が終了した後、時刻t4で始動正転駆動モード切換手段57が制御モードを始動正転駆動モードに切り換えるため、スタータ正転駆動手段58がスタータモータSGの正転方向への駆動を開始すると同時に、始動時点火制御手段59が始動時の点火位置の検出を開始する。
【0079】
スタータ正転駆動手段58がθcの位置からスタータモータを正方向に駆動して、クランク角位置が2番気筒の圧縮行程の上死点位置(0°の位置)に近づいていくと、クランク軸に働く負荷トルクが大きくなっていくため回転速度が低下していき、負荷トルク(2番気筒の圧縮反力)が最大になるクラン角位置の手前のクランク角位置でクランク軸がはね返されて、θdの位置で停止する。ここでスタータモータに駆動電流を供給し続け、該モータを正転方向に駆動し続けると、2番気筒の圧縮漏れによりクランク軸に働く負荷トルクが漸減していくため、クランク軸は再び正方向に回転し始め、クランク角位置が2番気筒の圧縮行程の上死点位置(0°の位置)の手前にある負荷トルクの最大位置を過ぎるとクランク軸が加速していく。
【0080】
本実施形態では、クランク角位置が2番気筒の上死点位置を10°だけ過ぎた位置θeを始動時の点火位置として、この点火位置を始動時点火制御手段59により検出し、点火位置が検出されたときに2番気筒で最初の点火を行わせるようにしている。この点火により2番気筒で混合気が燃焼し、膨張行程が行われるため、クランク軸の回転速度は一気に加速していく。2番気筒の圧縮行程の上死点(0°の位置)からクランク軸が180°回転すると、1番気筒が圧縮行程に入るため、クランク軸に働く負荷トルクが増大する。この負荷トルクの増大により、クランク軸の回転速度が低下していくが、既に2番気筒で行われた燃焼により慣性エネルギが十分蓄積されているため、1番気筒の圧縮行程の上死点の手前でクランク軸が停止することはない。本実施形態では、クランク角位置が1番気筒の圧縮行程の上死点位置を10°過ぎたクランク角位置で1番気筒の最初の点火を行わせている。図8(C)において、回転速度NのA部の落ち込みは、1番気筒の圧縮行程の影響を受けたことによるものである。
【0081】
なおフリクショントルクが大きいときには、1番気筒の圧縮行程の上死点位置の手前でもクランク軸が停止することがあり得るが、その場合でも、スタータ正転駆動手段58はスタータモータを駆動し続けるため、圧縮漏れによる負荷トルクの漸減を利用してクランク軸を再び回転させることができ、1番気筒の点火を支障なく行わせることができる。
【0082】
上記のようにして2番気筒及び1番気筒での点火が繰り返されることにより、エンジンの回転速度は次第に上昇していき、やがてスタータモータの駆動を止めてもエンジンは回転を維持し得るようになり、エンジンの始動が完了する。始動完了判定手段61が、エンジンの始動が完了したと判定すると、スタータ駆動停止手段62がスタータモータSGの駆動を停止する。またこのとき定常運転モード切換手段67が制御モードを定常運転モードに切り換えるため、定常運転時制御手段68が点火装置の制御及び燃料噴射装置の制御を定常運転時の制御に移行させる。
【0083】
なおエンジンが自力で回転し得るようになったか否かの判定(エンジンの始動が完了したか否かの判定)は、クランク軸が予め設定した始動判定値を越える平均回転速度で設定回数回転したことを確認することにより行うことができる。
【0084】
上記の制御において、スタータモータを逆転方向に駆動した際に、クランク軸の回転角度位置が目標とする逆転駆動停止位置θbに達したか否かを判定するためには、エンジンのクランク角位置の情報を必要とする。また始動時の点火位置θeを検出する際にも、クランク角位置の情報を必要とする。更に、各気筒に対して燃料噴射を行なうクランク角位置を検出する際にも、エンジンのクランク角位置の情報が必要になる。また定常運転時の制御においては、演算された点火位置の検出を行なう際、及び燃料噴射開始位置を定める際にエンジンのクランク角位置の情報が必要である。
【0085】
従来のエンジン用制御装置では、エンジンと共に回転する回転子に設けられたリラクタを検出してパルス信号を発生する信号発生器の出力からエンジンのクランク角情報を得ることが多かったが、この種の信号発生器は、クランク軸の回転速度が低いときに波高値が高いパルスを発生することができないため、エンジンの極低速時に(例えば200r/min以下で)クランク角情報を得る信号源としては最適ではない。
【0086】
そこで、本実施形態においては、スタータジェネレータSGに設けられている3相のホールセンサ29uないし29wが出力する検出信号からクランク角情報を得ることを基本とし、ホールセンサの出力から検出される回転角度位置が、エンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを識別するためにのみ信号発生器28の出力パルスを用いている。
【0087】
回転電機の回転子として12極(6対極)の磁石回転子が用いられる場合に、3相のホールセンサ29uないし29wとしてホールICを用いると、センサ29uないし29wがそれぞれ発生する位置検出信号huないしhwの波形は、図9の(C)ないし(E)のようになり、クランク角が10°変化する毎に位置検出信号huないしhwのいずれかが、高レベル(Hレベル)から低レベル(Lレベル)への変化または低レベルから高レベルへの変化を示す。本実施形態では、これらの位置検出信号huないしhwのHレベル及びLレベルをそれぞれ「1」及び「0」で表して、位置検出信号のレベルのパターンの変化から、10°の区間を1区間として、一連の区間を検出し、これらの区間がエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを、信号発生器28の出力パルスを用いて識別する。
【0088】
本実施形態では、始動時に信号発生器28ができるだけ波高値が高いパルスを発生することができるようにするために、ピストンが下死点付近にある、エンジンの負荷トルクが比較的軽い区間で信号発生器28がリラクタrを検出してパルスを発生するようにしている。具体的には、図9(B)に示すように、2番気筒の圧縮行程の上死点前200°の位置及び160°の位置で信号発生器28がリラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して、正極性のパルスSp1及び負極性のパルスSp2を発生するように、信号発生器28が配置されている。
【0089】
信号発生器28が出力するパルスSp1及びSp2から、ホールセンサの出力パターンの変化により検出される一連の区間がそれぞれエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを識別する。図示の例では、図9の一番下に示したように、信号発生器28がパルスSp1を発生した直後に検出される10°の区間(位置検出信号hu,hv,hwのパターンが0,1,1となった位置から0,0,1となる位置までの区間)に「20」の区間番号をつけ、以後ホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に、区間番号を1ずつ増減させて、クランク軸が2回転する間に検出される72個の区間に1ないし72の区間番号をつけるようにしている。
【0090】
ホールセンサの出力のパターンの変化から検出される一連の区間とエンジンの現在のクランク角位置との関係を一度識別することができれば、以後はホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に区間番号を増減させることにより、各区間とエンジンのクランク角位置との対応関係を維持することができる。
【0091】
本実施形態のエンジン始動装置において、スタータスイッチSWが一旦オン状態にされた後、始動時の初回の燃料噴射が行われる前にスタータスイッチSWがオフ状態にされたときには、スイッチ状態監視手段51がこのスタータスイッチのオフ状態への変化を検出したときに直ちに始動指令を消滅させる。始動指令が消滅すると、スタータ駆動停止手段59がスタータモータの駆動を停止させる。一旦オン状態にされたスタータスイッチが初回の燃料噴射前にオフ状態にされたときには、エンジンの気筒内に未だ混合気が吸入されていないため、上記のようにスタータスイッチがオフ状態にされたときに直ちにスタータモータを停止させても次回のエンジンの始動には何の影響もない。
【0092】
これに対し、初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされた場合(例えば図8Cにおいて、時刻t2でスタータスイッチがオフ状態にされた場合)には、スタータスイッチがオフ状態にされたときに直ちにスタータモータを停止させると、エンジンの気筒内に混合気が残留することになるため、次回のエンジン始動時に気筒内の混合気が濃すぎる状態になり、エンジンの始動性が悪くなる。
【0093】
このような事態が生じないようにするため、本発明においては、始動時の初回の燃料噴射が行われた後に(時刻t2で)スタータスイッチがオフ状態にされたときに、設定された遅延時間Td(図8に示した例では1sec)の間スタータモータの正転方向への駆動を継続して、時刻t5で該スタータモータの駆動を停止する。
【0094】
そのため、本実施形態においては、スタータスイッチ状態監視手段51により、スタータスイッチがオフ状態になったことが検出されたときに、経過時間判定手段65により、タイマ手段63が計測している経過時間(初回の燃料噴射が行われた時刻からの経過時間)が設定された遅延時間に達しているか否かを判定する。
【0095】
その結果、経過時間が設定された遅延時間に達していないと判定されたときには、図8(B)に示すように、始動指令を発生させたままの状態に保持して、スタータモータの駆動を継続させる。時刻t5で経過時間判定手段65により、経過時間が設定された遅延時間Tdに達していると判定されると、始動指令制御手段66が始動指令を消滅させるため、スタータ駆動停止手段62がスタータモータの駆動を停止させる。
【0096】
ここで、遅延時間Tdは、初回の燃料噴射により混合気が吸入された気筒が、排気行程を少なくとも1回迎えるのに必要な時間以上に設定される。また始動時点火制御手段59は、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態になったことが検出されたときにエンジンの点火を行わないように構成され、燃料噴射制御手段60は、スタータスイッチ状態監視装置51がスタータスイッチのオフ状態への変化を検出した後は、始動指令が発生していても燃料の噴射を行わないように構成されている。
【0097】
このように、初回の燃料噴射が行われた後、スタータスイッチがオフ状態にされた場合には、直ちにスタータモータの駆動を停止するのではなく、設定された遅延時間の間、スタータモータの駆動を継続してからその駆動を停止するようにすると、気筒内に燃料が溜まるのを防ぐことができるため、気筒内が燃料で濡れた状態になって次回のエンジンの始動が困難になるのを防ぐことができる。
【0098】
図3に示した制御装置において、始動時から定常運転状態に移行する際の制御モードの切換を制御するためにマイクロプロセッサに実行させるタスク処理のアルゴリズムを示すフローチャートを図10に示した。
【0099】
マイクロプロセッサは、その電源が確立している状態にあるときに、図10のタスク処理を微小時間間隔で繰り返し実行して、制御モードの切換を管理する。図示のアルゴリズムによる場合には、先ずステップS1で現在の制御モードがエンジン停止時の制御モード(エンジンストールモード)であるか否かを判定する。その結果、エンジンストールモードであると判定されたときには、次いでステップS2で始動指令が発生しているか否かを判定する。その結果、始動指令が発生していないと判定されたときには、以後何もしないでこのタスクを終了し、始動指令が発生していると判定されたときには、ステップS3に移行して各種のエラー(センサの異常など)があるか否かをチェックする。その結果エラーがあると判定されたときには、以後何もしないでこのタスクを終了し、エラーがないと判定されたときには、ステップS4で制御モードを始動逆転駆動モードに切換えてこのタスクを終了する。マイクロプロセッサは、制御モードが始動逆転駆動モードに切り換えられたときに起動する別のタスク処理により、回転電機SGをブラシレスモータとして動作させて、その回転子を逆転方向に回転させるように、回転電機SGの三相の電機子コイルへの通電を制御する。
【0100】
図10のタスクのステップS1で現在の制御モードがエンジンストールモードでないと判定されたときには、ステップS5に移行して現在の制御モードが始動逆転駆動モードであるか否かを判定する。その結果、始動逆転駆動モードであると判定されたときには、ステップS6で始動指令が与えられているか否かを判定し、始動指令が与えられている場合には、ステップS7に移行して各種エラーがあるか否かを判定する。その結果エラーがない場合には、ステップS8で、スタータモータの逆転方向への駆動を開始した後、設定時間が経過したか否かを判定する。ステップS8で逆転駆動された後設定時間が経過していないと判定されたときには、ステップS9で現在のクランク角位置(区間番号)が正転時の吸気行程に相当する区間の途中の位置または正転時の吸気行程開始前の位置に相当する位置に設定された逆転駆動終了位置θbまで戻ったか否かを判定する。その結果、現在のクランク角位置が逆転駆動終了位置まで戻っていないと判定されたときには、以後何もしないでこのタスクを終了する。
【0101】
ステップS8で逆転駆動された後設定時間が経過していると判定されたとき、及びステップS9で現在のクランク角位置が逆転駆動終了位置であると判定されたときには、ステップS10に移行して、スタータモータSGの駆動を停止する処理を行なう。スタータモータの駆動を停止してインジェクタの駆動電圧を確保した後、ステップS11を実行して、始動時の最初の点火に備えて初回燃料噴射を行なわせる。次いでステップS12で制御モードを始動正転駆動モードに切換えてこのタスクを終了する。
【0102】
ステップS11で始動用の初回の燃料噴射を行う始動用噴射実行処理は、ステップS8で逆転駆動された後設定時間が経過していると判定された時、及びステップS9で現在のクランク角位置が逆転駆動終了位置であると判定された時に起動する別のタスク処理により行われる。
【0103】
ステップS12で制御モードが始動正転駆動モードに切り換えられると、回転電機SGの回転子を正回転させるようにその電機子コイルへの通電を制御する図示しないタスク処理が起動し、スタータモータが正転方向に駆動される。ステップS6で始動指令が与えられていないと判定されたとき、及びステップS7でエラーがあると判定されたときには、ステップS13に移行して制御モードをエンジンストールモードとする。制御モードがエンジンストールモードに切り換えられると、図示しないタスクが起動して、スタータモータの駆動停止、点火指令及び噴射指令の発生の禁止等、エンジンを停止状態に保つために必要な一連の処理を行なう。
【0104】
ステップS5で現在の制御モードが始動逆転駆動モードでないと判定されたときには、ステップS14に進んで現在の制御モードが始動正転駆動モードであるか否かを判定する。この判定の結果、制御モードが始動正転駆動モードであると判定されたときには、ステップS15で始動指令が与えられているか否かを判定し、始動指令が与えられている場合には、ステップS16で各種のエラーがあるか否かを判定する。その結果、エラーがないと判定されたときにはステップS17で始動完了判定が成立しているか否かを判定し、成立している場合には、ステップS18で制御モードを定常運転モードとしてこのタスクを終了する。
【0105】
ステップS15で始動指令が与えられていないと判定されたとき及びステップS16で各種のエラーがあると判定されたときにはステップS19に移行して制御モードをエンジンストールモードに切り換える。またステップS14で現在の制御モードが始動正転駆動モードでないと判定されたときには、ステップS20に進んで定常運転モードにおける制御モードの切換を行わせる。
【0106】
定常運転モードでは、図10に示された処理とは別のタスク処理により、デコンプバルブ116を閉じるための処理を行うとともに、燃料噴射装置及び点火装置をそれぞれ制御する定常時燃料噴射制御手段及び定常時点火制御手段を構成するための処理を実行する。燃料噴射制御手段は、各種の制御条件に対して所定の空燃比を得るために必要な燃料噴射量を演算し、吸気行程開始直前のクランク角位置などの適宜の噴射開始位置で、演算した量の燃料を噴射するために必要な信号幅を有する噴射指令をインジェクタ駆動回路42に与える。また定常時点火制御手段は、各種の制御条件に対してエンジンの点火位置を演算する点火位置演算手段と、演算された点火位置を検出するための手段とを備えていて、点火位置演算手段が演算した点火位置を検出したときに点火回路に点火指令信号を与えて点火動作を行わせる。点火位置演算手段は、クランク軸が予め定めた基準クランク角位置から点火位置まで現在の回転速度で回転するのに要する時間を、点火位置検出用計時データとして演算する。そして、予め定めた基準クランク角位置(区間番号)が検出されたときに演算された点火位置検出用計時データの計測を開始し、この計時データの計測が完了したときに点火回路41に点火指令信号を与えて点火動作を行わせる。またエンジンのアイドル回転速度を一定に保つようにISCバルブ駆動回路43からISCバルブ120に駆動電圧Viscを与えて、該ISCバルブを制御する。
【0107】
図10のステップS12で制御モードが始動正転駆動モードに切換えられると、図11の割込み処理が許可され、ホールセンサ29uないし29wの出力信号のパターンが切り替わる毎に(区間番号が変わる毎に)、図11の割り込み処理が実行される。図11の割込み処理により、圧縮行程の上死点に相当するクランク角位置または圧縮行程の上死点よりも僅かに遅れたクランク角位置を始動時の点火位置として検出して、この点火位置で始動時の点火動作を行わせる。
【0108】
図11の割り込み処理では、先ずステップS100でスタータスイッチがオン状態であるか否かを判定し、オン状態でない場合には、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS100でスタータスイッチがオン状態であると判定された場合には、次いでステップS101で始動用燃料噴射が完了しているか否かを判定する。その結果、始動用燃料噴射が完了していないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。始動用燃料噴射が完了していると判定されたときには、ステップS102に進んで制御モードが始動正転駆動モードであるか否かを判定する。その結果、始動正転駆動モードでない場合には、以後何もしないでこの処理を終了し、始動正転駆動モードである場合には、ステップS103に進んで現在のクランク角位置(区間番号)は点火コイル13への通電を開始する通電開始位置であるか否かを判定する。その結果、通電開始位置であると判定されたときにはステップS104に進んで点火コイル13の一次コイルへの通電を開始してこの処理を終了する。ステップS103で現在のクランク角位置(区間番号)が通電開始位置でないと判定されたときには、ステップS105に移行して点火コイルの一次コイルへの通電が行われているか否かを判定する。その結果通電が行われていないと判定されたときには以後何もしないでこの処理を終了し、通電が行われていると判定されたときにはステップS106に移行して現在のクランク角位置が始動時の点火位置(この例では圧縮行程の上死点TDC)であるか否かを判定する。ステップS106で現在のクランク角位置が始動時の点火位置ではないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了し、現在のクランク角位置が始動時の点火位置であると判定されたときには、ステップS107の点火実行処理を実行する。ステップS107の点火実行処理では、点火コイル13の一次電流の通電を停止させて点火コイルの二次コイルに点火用高電圧を誘起させ、これにより点火プラグで火花放電を生じさせてエンジンを点火する。
【0109】
本実施形態では、図10のステップS1ないしS4により始動逆転駆動モード切換手段53が構成され、ステップS8及びS9によりそれぞれ逆転駆動時間判定手段55及び逆転時クランク角位置判定手段56が構成される。またステップS11により燃料噴射制御手段60が構成され、ステップS12により始動正転駆動モード切換手段57が構成される。更にステップS17により始動完了判定手段61が構成され、ステップS18により定常運転モード切換手段67が構成される。また図10のステップS1〜S3,S13,S14〜S16及びS19によりエンジンストールモード切換手段69が構成され、図11の処理により始動時点火制御手段59が構成される。
【0110】
図12は、始動指令の発生と消滅とを制御するための処理を行うタスクのアルゴリズムを示したもので、このタスクも微少時間毎に繰り返し実行される。図12のタスクが開始されると、ステップS201でスタータスイッチがオン状態であるか否かを判定する。その結果、スタータスイッチがオン状態にあると判定されたときには、ステップS202で始動指令を発生させた後、ステップS203で遅延時間を計測するスタータディレイタイマをリセットしてこの処理を抜ける。
【0111】
ステップS201でスタータスイッチがオフ状態であると判定されたときには、ステップS204で始動時の初回の燃料噴射が実行されたか否かを判定する。その結果、初回の燃料噴射が行われたと判定されたときには、ステップS205でスタータディレイタイマのカウント値が設定された遅延時間よりも短いか否かを判定する。ステップS205でスタータディレイタイマのカウント値が設定された遅延時間よりも短いと判定されたときには、ステップS206で始動指令を発生させたままとし、ステップS207でスタータディレイタイマのカウント値をインクリメントした後、この処理を抜ける。
【0112】
ステップS204で初回の燃料噴射が実行されていないと判定されたとき及びステップS205でスタータディレイタイマのカウント値が設定された遅延時間以上であると判定されたときには、ステップS209に移行して始動指令を消滅させ、次いでステップS208で制御モードをエンジンストールモードとしてエンジンの点火及び燃料噴射を禁止した後、この処理を抜ける。
【0113】
図12に示したアルゴリズムによる場合には、ステップS201により、図3に示したスタータスイッチ状態監視手段51が構成され、ステップS204により始動時噴射実行判定手段64が構成される。またスタータディレイタイマとステップS203及びS207とによりタイマ手段63が構成され、ステップS205により経過時間判定手段65が構成される。更にステップS202,ステップS206及びステップS209により、始動指令発生・消滅制御手段52が構成される。
【0114】
上記の実施形態では、スタータスイッチ状態監視手段51と、始動時燃料噴射実行判定手段64と、タイマ手段63により計測されている経過時間が設定された遅延時間に達しているか否かを判定する経過時間判定手段65とを設けて、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオン状態にあると判定されたときに始動指令を発生させ、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段64により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ経過時間判定手段65により経過時間が未だ設定された遅延時間に達していないと判定されたときには始動指令を発生させたままとし、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定され、かつ始動時燃料噴射実行判定手段64により初回の燃料噴射が行われなかったと判定されたとき、及びスタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段64により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ経過時間判定手段65により経過時間が設定された遅延時間に達していると判定されたときに始動指令を消滅させるように始動指令発生・消滅制御手段を構成したが、上記経過時間を計測する代わりにクランク軸の回転角度を検出し得るようにしておいて、初回の燃料噴射が行われた後にスタータスイッチがオフ状態にされた際に、エンジンのクランク軸が、初回の燃料噴射が行われたクランク角位置から正回転方向に設定角度以上回転するまでの間スタータモータを駆動し続けるようにしてもよい。
【0115】
このように構成する場合には、図3においてタイマ手段63を省略し、経過時間判定手段65を、始動時燃料噴射実行判定手段64により初回の燃料噴射が行われたと判定されたときにエンジンのクランク軸が、初回の燃料噴射が行われたクランク角位置から正回転方向に設定角度α以上回転したか否かを判定する始動時クランク軸回転角度判定手段で置き換える。また始動指令発生・消滅制御手段52は、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオン状態にあると判定されたときに始動指令を発生させ、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時クランク軸回転角度判定手段によりクランク軸が設定角度α以上回転していないと判定されたときには始動指令を発生させたままとし、スタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定され、かつ始動時燃料噴射実行判定手段64により初回の燃料噴射が行われなかったと判定されたとき、及びスタータスイッチ状態監視手段51によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに始動時燃料噴射実行判定手段64により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ始動時クランク軸回転角度判定手段によりクランク軸が設定角度α以上回転していると判定されたときに始動指令を消滅させるように構成する。上記設定角度αは、スタータモータを正回転方向に駆動し続けたときに初回の燃料噴射により混合気が吸入された気筒が、排気行程を少なくとも1回迎えるのに必要な回転角度以上に設定される。
【0116】
図13は、上記のように始動指令発生・消滅制御手段を構成する場合に、始動指令の発生と消滅とを制御するために微少時間間隔で実行されるタスクのアルゴリズムを示したものである。図13のタスクが開始されると、ステップS301でスタータスイッチがオン状態であるか否かを判定する。その結果、スタータスイッチがオン状態にあると判定されたときには、ステップS302で始動指令を発生させた後この処理を抜ける。
【0117】
ステップS301でスタータスイッチがオフ状態であると判定されたときには、ステップS303で始動時の初回の燃料噴射が実行されたか否かを判定する。その結果、初回の燃料噴射が行われたと判定されたときには、ステップS304で、初回の燃料噴射が行われたクランク角位置からのクランク軸の回転角度が設定角度に達したか否かを判定し、クランク軸の回転角度が設定角度に達していないと判定されたときに、ステップS305で始動指令を発生させたままとしてこの処理を抜ける。
【0118】
ステップS303で初回の燃料噴射が実行されていないと判定されたとき及びステップS304で初回の燃料噴射が行われたクランク角位置からのクランク軸の回転角度が設定角度に達したと判定されたときには、ステップS307に移行して始動指令を消滅させた後この処理を抜ける。
【0119】
図13のアルゴリズムによる場合には、ステップS301により、スタータスイッチ状態監視手段が構成され、ステップS303により始動時噴射実行判定手段が構成される。またステップS304により、始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定されたときにエンジンのクランク軸が、初回の燃料噴射が行われたクランク角位置から正回転方向に設定角度以上回転したか否かを判定する始動時クランク軸回転角度判定手段が構成され、ステップS302,ステップS305及びステップS307により、始動指令発生・消滅制御手段が構成される。
【0120】
上記のように構成する場合、エンジンのクランク軸の回転角度は、図9に示した位置検出信号から容易に認識することができる。
【0121】
上記の実施形態では、並列2気筒4サイクルエンジンを始動する場合を例にとったが、単気筒4サイクルエンジンや、3気筒以上の多気筒4サイクルエンジンを始動する場合にも本発明を適用することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明に係わる始動装置を適用するエンジンシステムのハードウェアの構成を示した構成図である。
【図2】図1に示したシステムの電気的な構成を示したブロック図である。
【図3】本発明に係わるエンジン始動装置の構成を示したブロック図である。
【図4】並列2気筒4サイクルエンジンの2つの気筒の行程の関係と、クランク角の変化に伴う負荷トルクの変化と、本発明に係わる始動装置において逆転駆動が終了した時点で行われる初回の燃料噴射とを説明するための説明図である。
【図5】単気筒4サイクルエンジンの行程変化と、クランク角の変化に伴う負荷トルクの変化と、本発明に係わる始動装置において逆転駆動が終了した時点で行われる初回の燃料噴射とを説明するための説明図である。
【図6】エンジンの負荷トルクとクランク角との関係の一例を示したグラフである。
【図7】スタータモータの出力トルクと回転速度との関係の一例を示したグラフである。
【図8】本発明の実施形態において、エンジンを始動する際にクランク軸の回転速度がクランク角の変化に伴って変化する様子を示したグラフである。
【図9】本発明の実施形態で用いる信号発生器の出力パルスの波形とホールセンサの出力信号の波形とを模式的に示した波形図である。
【図10】本発明の実施形態においてマイクロプロセッサが実行する制御モード切換処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態においてマイクロプロセッサが実行する始動時点火制御処理のアルゴリズムを示したフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態において、始動指令の発生と消滅とを制御するためにマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図13】本発明の実施形態において、始動指令の発生と消滅とを制御するためにマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムの他の例を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0123】
1 エンジン本体
100 ピストン
101 シリンダ
ENG エンジン
SG 回転電機(スタータモータ)
2 インジェクタ
10 ECU
12 点火プラグ
13 点火コイル
52 始動指令発生・消滅制御手段
53 始動逆転駆動モード切換手段
54 スタータ逆転駆動手段
55 逆転駆動時間判定手段
56 逆転時クランク角位置判定手段
57 始動正転駆動モード切換手段
58 スタータ正転駆動手段
59 始動時点火制御手段
60 燃料噴射制御手段
61 始動完了判定手段
62 スタータ駆動停止手段
63 タイマ手段
64 始動時噴射実行判定手段
65 経過時間判定手段
67 定常運転モード切換手段
68 定常運転時制御手段
69 エンジンストールモード切換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にピストンが設けられた少なくとも1つの気筒と、前記気筒内のピストンに連結されたクランク軸と、前記気筒内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記気筒内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、前記クランク軸を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えたエンジンを始動するエンジン始動方法において、
スタータスイッチがオン状態にされたときに前記エンジンのクランク軸を一旦逆回転させるために前記スタータモータを逆転方向に駆動し、
前記スタータモータの逆転方向への駆動が終了した後に前記クランク軸を正回転させるように前記スタータモータを駆動し、
前記点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、前記エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したクランク角範囲にあるクランク角位置で前記燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせ、
前記クランク軸を正回転させている過程で、前記エンジンの始動時の点火位置として適したクランク角位置で前記点火装置に初回の点火を行わせ、
前記始動時の初回の燃料噴射が行われる前に前記スタータスイッチがオフ状態にされたときには、直ちに前記スタータモータの駆動を停止させ、
前記始動時の初回の燃料噴射が行われた後に前記スタータスイッチがオフ状態にされたときには、前記初回の燃料噴射により混合気が供給された気筒が排気行程を少なくとも1回迎えるまで前記スタータモータの正転方向への駆動を継続させ後に該スタータモータの駆動を停止するエンジン始動方法。
【請求項2】
前記初回の燃料噴射を行わせるクランク角位置は予め定められた位置である請求項1に記載のエンジン始動方法。
【請求項3】
前記初回の燃料噴射を行わせるクランク角位置は、前記スタータモータの逆転方向への駆動時間が設定時間に達したときのクランク角位置である請求項1に記載のエンジン始動方法。
【請求項4】
前記クランク軸を正回転させる際には、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときでもエンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータモータを駆動し続ける請求項1,2または3に記載のエンジン始動方法。
【請求項5】
内部にピストンが設けられた少なくとも1つの気筒と、前記気筒内のピストンに連結されたクランク軸と、前記気筒内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記気筒内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、前記クランク軸を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えたエンジンを始動するエンジン始動装置において、
前記エンジンを始動することを指令する指令信号が発生したときに前記エンジンのクランク軸を一旦逆回転させるために前記スタータモータを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段と、
前記スタータモータの逆転方向への駆動が終了した後に前記クランク軸を正回転させるように前記スタータモータを駆動するスタータ正転駆動手段と、
前記点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、前記エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したクランク角範囲にあるクランク角位置で前記燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせる燃料噴射制御手段と、
前記クランク軸を正回転させている過程で、前記エンジンの始動時の点火位置として適したクランク角位置で前記点火装置に初回の点火を行わせる始動時点火制御手段と、
エンジンを始動する際にオン状態にされるスタータスイッチがオン状態にされたときに前記始動指令を発生させ、前記始動時の初回の燃料噴射が行われる前に前記スタータスイッチがオフ状態にされたときには直ちに前記始動指令を消滅させ、前記始動時の初回の燃料噴射が行われた後に前記スタータスイッチがオフ状態にされたときには、前記初回の燃料噴射により混合気が供給された気筒が排気行程を少なくとも1回迎えるまで前記始動指令を発生させた状態に維持した後に該始動指令を消滅させる始動指令発生・消滅制御手段と、
を具備してなるエンジン始動装置。
【請求項6】
内部にピストンが設けられた少なくとも1つの気筒と、前記気筒内のピストンに連結されたクランク軸と、前記気筒内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記気筒内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、前記クランク軸を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えたエンジンを始動するエンジン始動装置において、
前記エンジンを始動することを指令する始動指令が発生したときに、前記クランク軸を一旦逆回転させるために前記スタータモータを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段と、
前記スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの駆動が終了した後に前記クランク軸を正回転させるためにスタータモータを正転方向に駆動するスタータ正転駆動手段と、
前記点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、前記エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したたクランク角範囲にあるクランク角位置で前記燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせる燃料噴射制御手段と、
前記エンジンの始動時の点火位置として適したクランク角位置で前記点火装置に点火を行わせる始動時点火制御手段と、
前記燃料噴射制御手段による初回の燃料噴射が行われた時刻からの経過時間を計測するタイマ手段と、
前記エンジンを始動する際にオン状態にされるスタータスイッチの状態を監視するスタータスイッチ状態監視手段と、
前記スタータスイッチ状態監視手段により前記スタータスイッチがオフ状態にあると判定されたときに前記初回の燃料噴射が行われたか否かを判定する始動時燃料噴射実行判定手段と、
前記始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定されたときに、前記タイマ手段により計測されている経過時間が設定された遅延時間に達しているか否かを判定する経過時間判定手段と、
前記スタータスイッチ状態監視手段により前記スタータスイッチがオン状態にあると判定されたときに前記始動指令を発生させ、前記スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに前記始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ前記経過時間判定手段により経過時間が未だ設定された遅延時間に達していないと判定されたときには前記始動指令を発生させたままとし、前記スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定され、かつ前記始動時燃料噴射実行判定手段により前記初回の燃料噴射が行われなかったと判定されたとき、及び前記スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに前記始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ前記経過時間判定手段により前記経過時間が前記設定された遅延時間に達していると判定されたときに前記始動指令を消滅させる始動指令発生・消滅制御手段と、
前記エンジンの始動が完了したとき及び前記始動指令が消滅したときに前記スタータモータの駆動を停止するスタータ駆動停止手段と、
を備え、
前記遅延時間は、前記スタータモータを正回転方向に駆動し続けたときに前記初回の燃料噴射により混合気が吸入された気筒が、排気行程を少なくとも1回迎えるのに必要な時間以上に設定されていること、
を特徴とするエンジン始動装置。
【請求項7】
内部にピストンが設けられた少なくとも1つの気筒と、前記気筒内のピストンに連結されたクランク軸と、前記気筒内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記気筒内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、前記クランク軸を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えたエンジンを始動するエンジン始動装置において、
前記エンジンを始動することを指令する始動指令が発生したときに、前記クランク軸を一旦逆回転させるために前記スタータモータを逆転方向に駆動するスタータ逆転駆動手段と、
前記スタータ逆転駆動手段によるスタータモータの駆動が終了した後に前記クランク軸を正回転させるためにスタータモータを正転方向に駆動するスタータ正転駆動手段と、
前記点火装置により行われる始動時の初回の点火に備えて、前記エンジンの気筒内に供給する混合気を生成するための燃料を噴射するのに適したたクランク角範囲にあるクランク角位置で前記燃料噴射装置に始動時の初回の燃料噴射を行わせる燃料噴射制御手段と、
前記スタータ正転駆動手段が前記クランク軸を正回転させている過程で、前記エンジンの始動時に適した点火位置で点火を行わせる始動時点火制御手段と、
前記スタータスイッチ状態監視手段により前記スタータスイッチがオフ状態にあると判定されたときに前記初回の燃料噴射が行われたか否かを判定する始動時燃料噴射実行判定手段と、
前記始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定されたときにエンジンのクランク軸が、初回の燃料噴射が行われたクランク角位置から正回転方向に設定角度以上回転したか否かを判定する始動時クランク軸回転角度判定手段と、
前記エンジンを始動する際にオン状態にされるスタータスイッチの状態を監視するスタータスイッチ状態監視手段と、
前記スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオン状態にあると判定されたときに前記始動指令を発生させ、前記スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに前記始動時クランク軸回転角度判定手段によりクランク軸が設定角度以上回転していないと判定されたときには前記始動指令を発生させたままとし、前記スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定され、かつ前記始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われなかったと判定されたとき、及び前記スタータスイッチ状態監視手段によりスタータスイッチがオフ状態にあると判定されるとともに前記始動時燃料噴射実行判定手段により初回の燃料噴射が行われたと判定され、かつ前記始動時クランク軸回転角度判定手段によりクランク軸が設定角度以上回転していると判定されたときに前記始動指令を消滅させる始動指令発生・消滅制御手段と、
前記エンジンの始動が完了したとき及び前記始動指令が消滅したときに前記スタータモータの駆動を停止するスタータ駆動停止手段と、
を備え、
前記設定角度は、前記スタータモータを正回転方向に駆動し続けたときに前記初回の燃料噴射により混合気が吸入された気筒が、排気行程を少なくとも1回迎えるのに必要な回転角度以上に設定されていること、
を特徴とするエンジン始動装置。
【請求項8】
前記燃料噴射制御手段が前記初回の燃料噴射を行わせるクランク角位置は、予め定められた位置である請求項6または7に記載のエンジン始動装置。
【請求項9】
前記燃料噴射制御手段が前記初回の燃料噴射を行わせるクランク角位置は、前記スタータモータの逆転方向への駆動時間が設定時間に達したときのクランク角位置である請求項6または7に記載のエンジン始動装置。
【請求項10】
前記スタータ正転駆動手段は、エンジンの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に達する前にクランク軸が停止したときでもエンジンの始動が確認されるまでエンジンを始動させる方向にスタータモータを駆動し続けるように構成されている請求項6,7,8,または9に記載のエンジン始動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−115787(P2008−115787A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300461(P2006−300461)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】