説明

エンジン潤滑油の希釈防止装置

【課題】シリンダの摺動面に供給される潤滑油を、エンジンのその他の部分に供給される潤滑油とは分けて別途回収し、潤滑システム全体の潤滑油の希釈や劣化の防止を図る。
【解決手段】シリンダ1の下方に、コンロッド3が貫通する貫通孔を有し、かつ、コンロッド3の揺動に応じて移動する仕切り板14を設置する。仕切り板14は、クランクシャフト4で駆動されるカム18によって左右に移動し、シリンダ1の摺動面から掻き落とされ、燃料で希釈された希釈潤滑油が、オイルパン13に落下するのを防止する。仕切り板14上の希釈潤滑油は、希釈潤滑油受け19から希釈潤滑油回収装置20に回収され、オイルパン13には混入しないため、潤滑システム全体の潤滑油の希釈や劣化が生じることはない。希釈潤滑油回収装置20では燃料と潤滑油とが分離され、燃料は、NOx吸蔵還元触媒10用の添加燃料として利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転部分及び摺動部分等に供給される潤滑油が、エンジンのシリンダ内に供給される燃料の混入により希釈されることを防止するエンジン潤滑油の希釈防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、シリンダ内で往復動するピストンを備え、ピストンは、コンロッドによりクランクシャフトに連結されている。また、これらのエンジンには、回転部分及び摺動部分に潤滑油を供給する潤滑システムが装備されており、潤滑システムでは、エンジンのシリンダブロックの下方に取り付けたオイルパンに潤滑油を貯留するオイルタンクを設け、この潤滑油を、オイルポンプによってクランクシャフトあるいはコンロッドの軸受部、吸排気弁を駆動するカムの摺動部等に圧送する。潤滑油は、これらの部分を潤滑した後に、オイルタンクに落下して再びオイルポンプに循環する。
【0003】
ピストンの外周にはピストンリングが嵌め込まれており、ピストンは、ピストンリングがシリンダ内面を摺動しながらシリンダ内を往復動する。オイルポンプから圧送された潤滑油の一部は、図5に示すように、コンロッドの頂部等に設けたノズルからピストンの裏面に向けて噴射され、ピストンを冷却するとともに、ピストンリングとシリンダとの間にも送られてシリンダ摺動面に潤滑油の油膜を形成する。この油膜は、ピストンリングとシリンダとの間の摺動摩擦抵抗を大幅に低下させ、同時に、ピストン上方の燃焼ガス等のシールに寄与する。
【0004】
ところで、シリンダ内には燃料が供給され圧縮行程の終期から燃焼行程において燃焼が行われる。例えば、ディーゼルエンジンでは、圧縮行程の終期にシリンダヘッドに装着した燃料噴射弁からシリンダ内に燃料が噴射されるが、噴射された燃料の混入によりシリンダ摺動面の潤滑油が希釈されることがある。潤滑油が希釈されると粘度が低下して適正な油膜の保持が不可能となるため、摺動摩擦抵抗が増加してエンジンの燃費が悪化し、甚だしいときは、ピストンリング等の焼き付きによりエンジンの損傷を招く。また、希釈された潤滑油は、オイルパンに落下して潤滑システム全体の潤滑油の粘度を低下させる。
【0005】
近年では、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)及び粒子状物質(パティキュレート:PM)の削減が強く要請されている。排気ガス中からNOxを除去する手段としてNOx吸蔵還元触媒を用いる排気ガス後処理装置が知られており、この装置では、酸素過剰な排気ガス雰囲気にあるときに排気ガス中のNOxを触媒に吸蔵し、間欠的に還元雰囲気ガス(スパイクガス)を触媒に通過させNOxを還元して除去する。排気ガスを還元雰囲気ガスとするには、排気管中に燃料を添加して残存する酸素と化合させる方法や、その添加燃料をエンジンの燃焼行程終期にシリンダ内に噴射するいわゆるポスト噴射と呼ばれる方法があるが、ポスト噴射を行うと、シリンダ摺動面の潤滑油の希釈がより激しくなる。
ちなみに、このポスト噴射等による燃料の添加は、排気ガス中のPMを捕集するディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF)を装着したディーゼルエンジンにおいて、DPFに堆積したPMを燃焼して除去するいわゆるDPFの再生の際に、排気ガスを高温化するため実行されることもある。
【0006】
潤滑油の希釈を防止するよう、潤滑油に混入した燃料を分離除去する装置を備えたエンジンが知られており、例えば、本出願人の先行出願に係る特開2002−266619号公報に開示されている。この公報のディーゼルエンジンは副燃焼室式のものであって、図6(a)に示すように、ピストン101が往復動するシリンダ102には副燃焼室式103が連通しており、ここに燃料噴射弁104から燃料が噴射される。クランクシャフト105を収容するクランクケース106の下部には、潤滑油のオイルタンクを形成したオイルパン107が取り付けてあり、オイルタンク内の潤滑油は、オイルポンプ108により汲み上げられてクランクシャフト105等の回転部分及び摺動部分などに供給される。
回転部分などに供給された潤滑油はオイルパン107に回収されるが、シリンダ102の摺動面に供給された潤滑油も、燃料の混入した状態でオイルパン107に落下する。このエンジンには、図6(b)に詳細を示す分離装置109が装備されており、落下する潤滑油と燃料との混合物は、管路110を介して電気ヒータ111を設置した分離容器112に送り込まれる。分離容器112では、蒸留温度の相違によって燃料のみが蒸発するよう電気ヒータ111の温度コントロールが実行される。これにより、燃料が潤滑油から分離され、燃料はコンデンサ113で冷却されて燃料タンク等に回収されるとともに、潤滑油はポンプ114によりオイルパン107に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−266619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンジンの潤滑システムでは、回転部分及び摺動部分等の各部に潤滑油が供給され、各部を潤滑した後の潤滑油はオイルパンのオイルタンクに回収される。ただし、燃料による希釈を受けるのは、主にシリンダの摺動面に供給される潤滑油であって、クランクシャフトの軸受部あるいは動弁装置等の潤滑油は、燃料により希釈されることはない。シリンダの摺動面に供給される潤滑油の量は、潤滑システム全体からすれば比較的少量であるので、オイルパンに戻る潤滑油の全体を対象として燃料を分離するのは、含有量(濃度)の減少した燃料を抽出することとなり、効率的な分離が困難である。
【0009】
また、シリンダの摺動面に供給される潤滑油は、燃焼熱の影響に伴う性状の変化、煤等の燃料未燃焼成分の混入などによって劣化が激しい。燃料による希釈あるいは劣化の生じた潤滑油が、シリンダ壁からオイルパンに落下して貯留された潤滑油中に混入すると、潤滑システム全体の潤滑油の早期劣化を引き起こす。
本発明は、シリンダの摺動面に供給される潤滑油を、エンジンのその他の部分に供給される潤滑油とは分けて別途回収し、潤滑システム全体の潤滑油の希釈や劣化の防止を図るとともに、燃料等の分離を効率的に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明は、コンロッドが貫通する貫通孔を有し、かつ、コンロッドの揺動に応じて移動する仕切り板をシリンダの下方に設置して、燃料で希釈された潤滑油がシリンダの摺動面からオイルタンクに落下するのを防止し、この潤滑油を別途回収する希釈潤滑油回収装置を設けるものである。すなわち、本発明は、
「シリンダの内部を往復動するピストンを備え、前記ピストンがコンロッドによりクランクシャフトに連結されたエンジンであって、
前記エンジンは、潤滑油を圧送するオイルポンプと、前記クランクシャフトの下方に設置され潤滑油を回収して貯留するオイルタンクとを備え、かつ、前記オイルポンプから前記シリンダに潤滑油の一部が供給されるように構成されており、さらに、
前記シリンダと前記クランクシャフトとの間には、前記コンロッドが貫通する貫通孔を有し前記コンロッドの揺動に応じて移動する仕切り板が設置されるとともに、前記シリンダから前記仕切り板に落下する潤滑油を回収する希釈潤滑油回収装置が設けられている」
ことを特徴とするエンジンとなっている。
【0011】
請求項2に記載のように、前記シリンダと前記クランクシャフトとの間に仕切り壁を形成し、前記仕切り板が前記仕切り壁上を移動するように構成することができる。
【0012】
請求項3に記載のように、前記希釈潤滑油回収装置に潤滑油と燃料とを分離する分離装置を設置し、分離された潤滑油を前記オイルタンクに戻すように構成することが好ましい。この場合の分離装置には、請求項4に記載のように、回転する羽根を設けることができる。また、前記エンジンが、排気管に添加燃料供給装置を有するディーゼルエンジンである場合には、請求項5に記載のように、分離された燃料を添加燃料として前記排気管に供給することができる。
【発明の効果】
【0013】
いわゆる往復動式エンジンであるガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、シリンダの内部を往復動するピストンを備えており、ピストンは、コンロッドによりクランクシャフトに連結され、シリンダの摺動面には、オイルポンプから潤滑油の一部が供給される。本発明のエンジンでは、シリンダとクランクシャフトとの間に仕切り板が設置され、この仕切り板は、コンロッドが貫通する貫通孔を有するとともにコンロッドの揺動に応じて移動するよう構成されている。そのため、シリンダから落下する、燃料により希釈された潤滑油は、仕切り板によって遮られてその上方に溜まり、オイルパンまで落下してオイルタンク中の潤滑油に混入することはない。仕切り板の上方に溜まった潤滑油は、希釈潤滑油回収装置から別途回収される。
【0014】
このように、オイルタンク内の潤滑油にはシリンダから戻された潤滑油が混合しないので、クランクシャフトの軸受部等シリンダ以外の部分に供給される潤滑油が、燃料による希釈あるいは未燃焼成分である煤等の混入に起因して、粘性が低下したり早期の劣化を起こすことが防止される。希釈潤滑油回収装置に回収された燃料等の含有量の多い潤滑油は、後述するように、分離装置により浄化されるが、場合によっては、専用のタンク内に貯留してエンジンの停止時等に専用設備で定期的に浄化してもよい。
【0015】
請求項2の発明は、シリンダとクランクシャフトとの間に仕切り壁を形成し、コンロッドが貫通する前記仕切り板が、この仕切り壁上をコンロッドの揺動に応じて摺動するように構成したものである。これによれば、仕切り壁及び仕切り板によってシリンダとオイルタンクとの間が完全に分割され、シリンダからの潤滑油がオイルタンクに落下するのを確実に防止できる。
【0016】
請求項3の発明は、前記希釈潤滑油回収装置に潤滑油と燃料とを分離する分離装置を設置し、燃料等の含有量の多い潤滑油から潤滑油を抽出分離し、これをエンジンのオイルタンクに戻して循環させるものである。本発明の希釈潤滑油回収装置で回収される潤滑油は、潤滑システム全体からすれば少量であって、請求項3の発明においては少量の燃料濃度の高い潤滑油を処理することとなり、小型の分離装置により効率的に燃料を除去することが可能である。
潤滑油と燃料との分離装置としては、請求項4のように、回転する羽根を設け粘度の差により分離する装置を用いることができる。ただし、例えば特許文献1に開示される蒸発温度の差を利用した分離装置など、別種の分離装置を採用することも可能である。
【0017】
請求項5の発明は、排気ガス後処理装置であるNOx吸蔵還元触媒あるいはDPFに添加燃料を供給するため、排気管に添加燃料供給装置を設置したディーゼルエンジンに請求項3の発明を適用し、分離装置で潤滑油と分離された燃料を添加燃料として排気管に供給するものである。ディーゼルエンジンのシリンダに供給されるいわゆる主燃料は、精密な高圧燃料噴射装置によって噴射されるものであるから、これに煤等や潤滑油が混入していると、噴射装置に損傷を与える虞れがある。これに対し、請求項5の発明における排気管への添加燃料供給装置は、比較的低圧の燃料噴射装置であって煤等や潤滑油が僅かに混じっていたとしても殆ど悪影響を受けることはなく、また、これらは排気ガス中で燃焼して消滅することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の希釈潤滑油落下防止用仕切り板の一実施例を示す概略図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】本発明の希釈潤滑油落下防止用仕切り板の変形例を示す図である。
【図4】本発明の分離装置の一実施例を示す概略図である。
【図5】シリンダ摺動面及びピストンへの一般的な潤滑油供給装置を示す図である。
【図6】潤滑油と燃料との分離装置を備えた従来のエンジンの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明について説明する。図1は、NOx吸蔵還元触媒を装備したディーゼルエンジンに本発明を適用した実施例の全体図を概略的に示すものであり、図2は、図1における希釈潤滑油落下防止用の仕切り板の部分を拡大して表すものである。ただし、図1では、コンロッドがシリンダ軸線に対して傾斜した状態を示しているのに対し、図2では、コンロッドがシリンダ軸線と一致する(ピストンが上死点又は下死点に位置する)状態を示している。また、図3には、希釈潤滑油落下防止用の仕切り板の変形例を示す。
【0020】
図1の実施例のディーゼルエンジンは、シリンダ1の内部を往復動するピストン2を備え、ピストン2は、コンロッド3によってクランクシャフト4に連結される。このディーゼルエンジンは直接噴射式エンジンであり、シリンダヘッド5に取り付けられた燃料噴射弁6から圧縮行程の終期にシリンダ1内に燃料を噴射し、噴射された燃料の燃焼によりピストン2を押し下げてクランクシャフト4を回転させる。そして、このエンジンはいわゆるDOHC式の動弁機構を備えており、吸気弁7及び排気弁8のカム軸がシリンダヘッド5に設置され、カム軸は、周知のように、チェーン、歯付きベルト等を介してクランクシャフト4により駆動される。排気弁8に連なる排気管9にはNOx吸蔵還元触媒10が装備されており、その上流に、NOxを還元する際に添加燃料を供給する添加燃料供給弁11が置かれている。
【0021】
シリンダ1が設けられたシリンダブロックの下部にはクランクケース12が一体的に形成され、クランクケース12の下方にオイルパン13が取り付けられる。図示は省略するが、オイルパン13には図6(a)に示すディーゼルエンジンと同様なオイルポンプが設けてあり、オイルパン13の下部のオイルタンクに貯留された潤滑油を吸入して、クランクシャフト4の軸受部、シリンダヘッド5の動弁機構等に圧送する。これらの部分を潤滑した後の潤滑油は、オイルパン13に落下してオイルタンクに回収され、再びオイルポンプに循環する。オイルポンプにより圧送された潤滑油の一部は、図5と同様な潤滑油供給機構によってシリンダ1に供給され、摺動面に油膜を形成する。シリンダ1に供給された潤滑油もピストンリングで掻き落とされて下方に落下する。
【0022】
本発明の実施例である図1のディーゼルエンジンには、コンロッド3の貫通する仕切り板14がシリンダ1の下方に設置されている。仕切り板14は、シリンダ1に供給された潤滑油がオイルパン13に落下するのを防止するものであり、ピストン2の往復動に伴うコンロッド3の揺動に応じて図1の左右方向に移動するが、移動する全範囲に亘ってシリンダ1の下方を全面的に覆うような大きさを有している。
【0023】
図2に示すとおり、仕切り板14は、中央にコンロッド3の貫通する貫通孔14Aを備え、両端がピンによりレバー15の上端に枢着されたものである。レバー15の中間部には、クランクケース12と一体に形成された支柱16に軸受けされる中間ピン17が設けてあり、レバー15は、中間ピン17を支点として揺動可能となっている。レバー15の下端にはカム18が当接しており、このカム18は、図1の2点鎖線に示されるように、チェーン等を介してクランクシャフト4で駆動され、クランクシャフト4と同期して回転する。つまり、仕切り板14は、クランクシャフト4の回転に伴い左右に揺動するコンロッド3の動きに追随して、カム18により左右に移動するよう構成されており、コンロッド3と仕切り板14とが干渉を起こすことはない。コンロッド3が傾斜したときにも仕切り板14との間の隙間をシールするよう、仕切り板14の貫通孔14Aには、コンロッド3と接触するシール用弾性体14Bが設けてある。
仕切り板14の一端には、潤滑油の落下を防ぐ阻止壁14Cが設置される一方、仕切り板14の他端側には、その下方に樋状の希釈潤滑油受け19がクランクケース12と一体に形成される。
【0024】
図2に破線矢印で示すように、仕切り板14には、シリンダ1及びピストン2を潤滑した後の潤滑油が上方から落下して仕切り板15の上面に溜まる。仕切り板14の一端には阻止壁14Cが設置されているため、仕切り板14の上面に溜まった潤滑油は、仕切り板14の他端側(図2の左側)に流れ、ここから希釈潤滑油受け19に落下し、クランクケース12の排出孔を通過して希釈潤滑油回収装置20(図1)に回収される。このように、シリンダ1を潤滑した後の、燃料成分が混入し希釈された潤滑油は、仕切り板14によってオイルパン13への落下が阻止されて、別途希釈潤滑油受け19に集められ希釈潤滑油回収装置20に回収される。オイルタンク内の潤滑油にはシリンダ1から戻された潤滑油が混合しないので、クランクシャフト4の軸受部等に供給される潤滑油が、燃料による希釈あるいは煤等の混入に起因して劣化を起こすことが防止される。
【0025】
希釈潤滑油回収装置20(図1)には、後述する分離装置が設置してあり、ここで燃料と潤滑油が分離される。分離された燃料は、図1に破線矢印で示すように、排気管9におけるNOx吸蔵還元触媒10の上流に設置された添加燃料供給弁11に送られ、NOxを還元する際に排気ガスを還元雰囲気とするための添加燃料として利用される。分離された潤滑油は、管路21を介してオイルパン13のオイルタンクに戻される。
【0026】
図3の変形例における希釈潤滑油落下防止用の仕切り板14’は、コンロッド3の揺動を利用して左右へ移動させるものである。この変形例では、シリンダ1とクランクシャフト4との間に、水平方向に延びる仕切り壁12Aがクランクケース12と一体に形成されており、仕切り板14’が仕切り壁12A上を摺動するように構成されている。コンロッド3が貫通する仕切り板14’の貫通孔14A’には、断面円形のベアリング体14B’が嵌め込まれるとともに、貫通孔14A’の縁の仕切り板14’には、ベアリング体14B’の外周面に対応するベアリング受け部14C’が形成されている。コンロッド3は、ベアリング体14B’の中央に設けられた孔に嵌め込まれ、この孔内を摺動しながら左右に揺動する。
【0027】
図3の変形例のエンジンでは、仕切り壁12Aとこの上を摺動する仕切り板14’によってシリンダ1とオイルパン13との間が全面的に分割される。シリンダ1から落下し仕切り壁12A及び仕切り板14’の上面に溜まった潤滑油は、図1、2の実施例のものと同様に、クランクケース13の排出孔を通過して希釈潤滑油回収装置20(図1)に回収される。このように、図3の変形例のエンジンではシリンダ1とオイルパン13との間が完全に遮断されるため、希釈された潤滑油がオイルタンクに落下するのを確実に防止できる。また、仕切り板14’がコンロッド3により直接左右に移動されるため、仕切り板14’の駆動装置が非常に簡易なものとなる。
【0028】
次いで、希釈潤滑油回収装置21内に装備される分離装置について、図4の概略図に基づき説明する。
図4(a)に示すように、分離装置は、モータMにより回転駆動されるロータ31を備えており、ロータ31の径拡大部には複数の羽根32が取り付けられる。羽根32は、図4(b)に示すとおり、細長い板材を折り曲げながら根元部を捩って形成したもので、径拡大部の周方向に対して羽根32の根元部が斜めになるように固定される。ロータ31を収納するケーシング33には、シリンダ1から仕切り板14等に落下した希釈潤滑油を導入する導入口34が設けられるとともに、分離した燃料と潤滑油を回収するため、燃料回収口35が羽根32の外周部の近傍に置かれ、潤滑油回収口36がロータ31の中心部近傍に置かれている。
【0029】
燃料が混入し希釈された希釈潤滑油は導入口34から吸入され、回転する羽根32によって図の右方に送られる。このとき、燃料よりも粘度が大きい潤滑油は、回転する羽根32の根元部に付着してロータ31の径拡大部の表面付近を流れ、潤滑油回収口36から回収されてオイルパン13へと戻される。一方、粘度が小さい燃料は、回転する羽根32により外周方向に吹き飛ばされて燃料回収口35に集合し、ここから添加燃料供給弁11に送られ(図1参照)、NOxを還元する際に排気ガスを還元雰囲気とするための添加燃料として利用される。
図4の実施例の分離装置は単段の羽根32を用いたものであるが、複数の羽根を軸方向に配置し多段の分離装置を構成してもよい。また、特許文献1に開示される蒸発温度の差を利用した分離装置など、別種の分離装置を採用することもできる。
【0030】
以上詳述したように、本発明は、コンロッドの揺動に応じて移動する仕切り板をシリンダの下方に設置して、燃料で希釈された潤滑油を、エンジンのその他の部分に供給される潤滑油とは分けて別途回収し、潤滑システム全体の潤滑油の希釈や劣化の防止を図るものである。上記の実施例では、NOx吸蔵還元触媒を排気管に装備したディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明したけれども、本発明は、DPFの再生の際にポスト噴射を実施するディーゼルエンジン、あるいは潤滑油の希釈が問題となるガソリンエンジン等に広く適用することができる。また、上記実施例では、仕切り板上の希釈潤滑油をクランクケースの片側から排出しているが、これを両側から排出するように構成するなど、上記実施例に対して種々の変更が可能であるのは明らかである。
【符号の説明】
【0031】
1 シリンダ
2 ピストン
3 コンロッド
4 クランクシャフト
12 クランクケース
13 オイルパン
14、14’ 仕切り板
18 カム
19 希釈潤滑油受け
20 希釈潤滑油回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの内部を往復動するピストンを備え、前記ピストンがコンロッドによりクランクシャフトに連結されたエンジンであって、
前記エンジンは、潤滑油を圧送するオイルポンプと、前記クランクシャフトの下方に設置され潤滑油を回収して貯留するオイルタンクとを備え、かつ、前記オイルポンプから前記シリンダに潤滑油の一部が供給されるように構成されており、さらに、
前記シリンダと前記クランクシャフトとの間には、前記コンロッドが貫通する貫通孔を有し前記コンロッドの揺動に応じて移動する仕切り板が設置されるとともに、前記シリンダから前記仕切り板に落下する潤滑油を回収する希釈潤滑油回収装置が設けられていることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記シリンダと前記クランクシャフトとの間には仕切り壁が形成されており、前記仕切り板が前記仕切り壁上を移動する請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記希釈潤滑油回収装置には、潤滑油と燃料とを分離する分離装置が設置され、分離された潤滑油が前記オイルタンクに戻される請求項1又は請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記分離装置が、回転する羽根を有する請求項3に記載のエンジン。
【請求項5】
前記エンジンが、排気管に添加燃料供給装置を有するディーゼルエンジンであり、前記分離装置により分離された燃料が、添加燃料として前記排気管に供給される請求項3に記載のエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−190044(P2010−190044A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32172(P2009−32172)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】