説明

オーバーコート心線

【課題】オーバーコート層が確実に除去できるオーバーコート心線であって一度の操作で確実に除去可能なオーバーコート層の長さが従来になく長いオーバーコート心線を提供する。
【解決手段】本発明のオーバーコート心線19は、ガラスファイバ30上に紫外線硬化型の樹脂層31が被覆された光ファイバ心線1上にさらにオーバーコート層16が被覆され、オーバーコート層16は、光ファイバ心線1の外周に被覆されるとともに光ファイバ心線1に対する剥離性を付与する分子量5000以上の添加剤を含有する紫外線硬化型樹脂からなる第1のオーバーコート層16aと、第1のオーバーコート層16aの外周に被覆されるとともに第1のオーバーコート層16aに接触する厚さ3μm以上20μm以下の接触領域が第1のオーバーコート層16aより架橋密度が大きい紫外線硬化型樹脂からなる第2のオーバーコート層16bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線の外側にオーバーコート層が被覆されたオーバーコート心線に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの被覆構造に関しては既に膨大な種類のものが知られており、その中に、ガラスファイバ上に樹脂層を被覆した光ファイバ心線の外周面に更に樹脂のオーバーコート層を形成したオーバーコート心線がある。
【0003】
そのような樹脂の被覆層が複数層設けられたオーバーコート心線の例として、紫外線硬化型樹脂で構成された所定径に設計された複数個の被覆層を持ち、最外層の被覆層を除去することによって従来内層であった被覆層が露出することで新たに最外層となり、被覆層間に加熱で弾性率が低下する層を設けて、該被覆の除去を容易とするものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、裸光ファイバの外周に保護被覆層を有し、保護被覆層は内部被覆層と外径が250μmで内部被覆層の外周に位置する剥離層と該剥離層の外周に位置する外部被覆層からなり、剥離層と外部被覆層との接着強度が2〜50gf/cmであるものが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−15462号公報
【特許文献2】特開平8−122591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FTTH(Fiber To The Home)のための光ファイバの布設作業を行う際、工事業者が光ファイバを布設する先の家宅やビル等の現場で被覆層を除去する必要がある。上記特許文献1に記載のオーバーコート心線は、被覆層を除去するために加熱式リムーバを用いなければならないが、加熱式リムーバは加熱のための電源が必要であるため携帯して作業を行うのには不便である。また、加熱式リムーバは価格も高価である。
【0007】
また、上記特許文献1に記載のオーバーコート心線は、外部被覆層の剥離性を得るためにシリコン系の添加物等を含有させた剥離層を設けているが、その添加物が内部被覆層あるいは外部被覆層へ分散して移動し、剥離性が経時的に悪化する虞がある。
【0008】
また、上記特許文献1,2に記載のオーバーコート心線は、いずれも弾性率が低下する層あるいは剥離層などが樹脂層の間に存在するので、ある程度は外層樹脂を除去する際の被覆除去性の向上に寄与すると考えられる。しかし、長い寸法(5cm以上)の被覆除去性を満たすまでには至らなかった。外径の太いオーバーコート心線を市販品のメカニカルスプライス(簡易コネクタ)等で接続する場合、メカニカルスプライスの溝に位置決めするために5cm以上被覆を除去しなければならないが、現状では一回の操作で除去できる被覆は3cm程度であり、当該オーバーコート心線をメカニカルスプライスにより接続することは困難であった。
【0009】
また、上記特許文献1,2に記載のオーバーコート心線の外周にさらに外被樹脂層を被覆してケーブル化すると、その外被樹脂層に含まれる成分がオーバーコート心線内の剥離層、あるいは剥離層の内側へ移動してしまう虞もある。
【0010】
本発明は、オーバーコート層が確実に除去できるオーバーコート心線であって一度の操作で確実に除去可能なオーバーコート層の長さが従来になく長いオーバーコート心線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のオーバーコート心線は、ガラスファイバ上に紫外線硬化型の樹脂層が被覆された光ファイバ心線上にさらにオーバーコート層が被覆されたオーバーコート心線であって、前記オーバーコート層は、前記光ファイバ心線の外周に被覆されるとともに前記光ファイバ心線に対する剥離性を付与する分子量5000以上の添加剤を含有する紫外線硬化型樹脂からなる第1のオーバーコート層と、前記第1のオーバーコート層の外周に被覆されるとともに前記第1のオーバーコート層に接触する厚さ3μm以上20μm以下の接触領域が前記第1のオーバーコート層より架橋密度が大きい紫外線硬化型樹脂からなる第2のオーバーコート層と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のオーバーコート心線において、前記第2のオーバーコート層に含まれる前記接触領域の架橋性ビニル基濃度が3mmol/g以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のオーバーコート心線において、前記第1のオーバーコート層及び前記第2のオーバーコート層の何れかまたは両方に着色顔料が含まれていることが好ましい。
【0014】
本発明の光ファイバケーブルは、上記本発明のオーバーコート心線の外周に樹脂層が被覆されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のオーバーコート心線では、オーバーコート層を除去するときに、第1のオーバーコート層が光ファイバ心線の最外層から速やかに剥離し、オーバーコート層が光ファイバ心線上を滑る。これにより、被覆の除去性が向上されて、一度の操作で確実に除去可能なオーバーコート層の長さが従来になく長いオーバーコート心線が提供される。また、第1のオーバーコート層に含有された剥離性を付与する添加剤が、光ファイバ心線や第2のオーバーコート層へ分散せずに留まる。そのため、経時的な剥離性の低下が起こりにくい。また、第1のオーバーコート層に接触する厚さ3μm以上20μm以下の接触領域が第1のオーバーコート層より架橋密度が大きい第2のオーバーコート層により、ケーブル化した際の外被の成分がオーバーコート心線内に移動するのを防ぐことができる。
このようなオーバーコート心線の外周に樹脂層を被覆した本発明の光ファイバケーブルは、良好な被覆除去性が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明のオーバーコート心線の軸に垂直な断面図である。
オーバーコート心線19は、ガラスファイバ(裸光ファイバ)30上に樹脂層31を被覆した光ファイバ心線1の外周に、オーバーコート層16を形成してなるものである。オーバーコート心線19の直径は0.45mmから0.55mm程度で、通常の光ファイバ心線1の直径である0.25mmより当然に太いものである。この太さにより、布設現場での取り扱い性が向上し、耐側圧性が向上する。
光ファイバ心線1は、その一例を挙げると、0.125mmの直径を有するガラスファイバ30の外側に、プライマリ樹脂層31a、セカンダリ樹脂層31bおよび着色樹脂層31cを順に被覆したものであり、直径が0.25mmである。
【0017】
本発明に係るオーバーコート心線の特徴的な点は、オーバーコート層16が、光ファイバ心線1の外周に被覆されるとともに光ファイバ心線1に対する剥離性を付与する分子量5000以上の添加剤を含有する紫外線硬化型樹脂からなる第1のオーバーコート層16aと、第1のオーバーコート層16aの外周に被覆されるとともに第1のオーバーコート層16aに接触する厚さ3μm以上20μm以下の接触領域が第1のオーバーコート層16aより架橋密度が大きい紫外線硬化型樹脂からなる第2のオーバーコート層16bと、を有することである。
【0018】
第1のオーバーコート層16a及び第2のオーバーコート層16bには、紫外線硬化型樹脂組成物を使用することができる。例えば、ウレタンアクリレート樹脂、またはウレタンアクリレート樹脂にエポキシアクリレート樹脂やポリエステルアクリレート樹脂等を配合した樹脂を使用することができる。
さらに具体的には、例えば、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;ポリテトラメチレングリコール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート等から選ばれるオリゴマーと、トリシクロデカンジアクリレート;N−ビニルピロリドン;イソボニルアクリレート;ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオールジアクリレート;ラウリルアクリレート;ビスフェノールAエポキシジアクリレート;エチレンオキサイド付加ノニルフェノールアクリレート等から選ばれる希釈性モノマーとを適宜組み合わせて得ることができる。これらの構成成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの構成成分にポリシロキサン化合物やシリコーン系化合物を添加して用いることもできる。
【0019】
第1のオーバーコート層16aには、ポリシロキサン化合物やシリコーン系化合物等を含む添加剤が含有され、この添加物により光ファイバ心線1に対する剥離性を付与している。剥離性を付与する添加剤は、第1のオーバーコート層16aを構成する紫外線硬化型樹脂の架橋構造内に継続的に留めておくために、高分子量のものが望ましく、平均分子量5000以上のものを用いる。このような添加剤として、例えばジメチルシロキサンを使用できる。また、剥離性を付与する添加剤は着色層との界面に局在させることがより好ましく、平均分子量8000以上のものであることが望ましい。また、添加剤として反応性を有するシリコーン系剥離剤を用いてもよい。これらに加えて非反応性の有機高分子を添加することで剥離作用を持たせることもできる。この有機高分子はオーバーコート層を膨潤させる作用と溶剤として働く作用の両面を有する。
このように、第1のオーバーコート層16aに含まれる剥離性を付与する添加剤は、分子量を5000以上としているため、当該添加剤が経時的変化等により光ファイバ心線1あるいは第2のオーバーコート層16bへ分散して移動することが極めて起こりにくい。
【0020】
第2のオーバーコート層16bは、第1のオーバーコート層16aに接触する厚さ3μm以上20μm以下の接触領域を有しており、この接触領域は第1のオーバーコート層16aより架橋密度が大きくされている。架橋密度を大きくするには、例えば、架橋性ビニル基濃度を3mmol/g以上とすればよい。このような接触領域を設けることにより、第1のオーバーコート層16aに含まれる剥離性を付与する添加剤が第2のオーバーコート層16bへ移動することを防ぐとともに、接触領域の外側から第1のオーバーコート層16aへ他の成分が移動してくることも防がれる。
【0021】
なお、架橋密度の大きい樹脂は一般的に硬いため、第1のオーバーコート層より架橋密度の大きい接触領域の厚さが20μmを超えると、オーバーコート心線の剛性が必要以上に高くなってしまい、取り扱い性が低下したり、曲げたときに樹脂が伸びにくくなって割れが生じやすくなったりする。また、接触領域の厚さを3μm未満とすると、第1のオーバーコート層からの添加剤の移動や外部からの他の成分の移動を防ぐ作用が得られにくくなる。
また、図1では第2のオーバーコート層16bの全体が前記接触領域となっている例を示しているが、第2のオーバーコート層16bには、前記接触領域の外側に適宜他の領域(樹脂層等)が含まれていてもよい。
【0022】
第2のオーバーコート層16bの前記接触領域には、光重合開始剤(A)、オリゴマー(B)、顔料成分(C)を適宜含有させた組成物を使用することができる。
光重合開始剤(A)は、光重合開始剤(a)、及び吸収波長領域が光重合開始剤(a)と異なる光重合開始剤(b)の2種以上の光重合開始剤を含有している。そのことによって接触領域の表層部から深層部まで硬化することができ、特に顔料を含有した接触領域の硬化性向上には、吸収波長が長い光重合開始剤が接触領域の深層部までの硬化に有効である。
【0023】
光重合開始剤(A)として、例えば、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジル誘導体、ベンゾイン及びベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン及びキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられる。これらの光重合開始剤(A)は、吸収波長領域が重ならないようかつ照射する光源に適した光重合開始剤(a)及び光重合開始剤(b)の2種以上を混合して使用する。
【0024】
前記接触領域における光重合開始剤(a)及び光重合開始剤(b)の配合比率は、使用するオリゴマーやモノマー、顔料の種類や量に応じて変動することができる。また、前記接触領域における光重合開始剤の配合量は、前記接触領域の固形分に対して7〜10重量%の範囲が好ましい。
光重合開始剤(A)が前記接触領域の固形分に対して7重量%未満であると硬化性の向上、特に深層部の硬化に効果がなく、また10重量%を超えると層中に光重合開始剤が多く存在することから、光重合開始剤に照射した紫外線が吸収され、深層部まで硬化に必要な紫外線量が十分に届かず層の硬化が不均一となる。
さらに、これらの光重合開始剤(A)による光重合反応を促進させるために、光増感促進剤を光重合開始剤と併用してもよく、3級アミン系、トリフェニルホスフィン等のアルキルホスフィン系、β−チオジグリコール等のチオエーテル系の光増感促進剤等も添加することができる。
【0025】
オリゴマー(B)としては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、ポリオールとポリイソシアネート反応物に対して、さらにヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物等である。ポリエステル(メタ)アクリレートは、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物である。エポキシ(メタ)アクリレートは、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を付加反応させたもので、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、フェノールまたはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート及びポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
他に、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはそのアルキレンオキシド変成体等が挙げられる。
前記接触領域におけるオリゴマー(B)の配合量は、前記接触領域の固形分に対して65〜87重量%の範囲が好ましい。
【0026】
顔料成分(C)は、カーボンブラック、二酸化チタン、亜鉛華などの着色顔料、γ−Fe、γ−Feとγ−Feの混晶、CrO、コバルトフェライト、コバルト被着酸化鉄、バリウムフェライト、Fe−Co、Fe−Co−Ni等の磁性粉、MIO、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、トリポリリン酸アルミニウム、亜鉛、アルミナ、ガラス、マイカなどの無機顔料が例示できる。
これらは各種表面改質や複合顔料化が施されていても良い。アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、染付レーキ顔料など、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維などのフィラーも使用できる。前記接触領域における顔料成分の配合量は、前記接触領域の固形分に対して1〜5重量%の範囲が好ましい。
【0027】
オーバーコート層16は識別のために着色される。第1のオーバーコート層16a及び第2のオーバーコート層16bの何れか一方、もしくは両方の樹脂に、着色のための顔料を添加しておく。オーバーコート層16を着色しておくことで、オーバーコート層16がきれいに除去されたか否かが目視により確認できる。
【0028】
本発明のオーバーコート心線のオーバーコート層を除去するには、例えば、除去治具の刃をオーバーコート層の端から5cmの箇所に切り込ませ、除去するオーバーコート層を前記刃で端に向かって押して前記オーバーコート層を光ファイバ心線上を滑らせて除去する。
刃を切り込ませるときには、刃が光ファイバ心線に達しないように、オーバーコート層中に刃が止まるように切り込ませる。そして、図2に示すように、刃21を端16eにむけて移動させると、刃21から見て刃が移動する側と反対側(図2における左側)のオーバーコート層16が伸びる。除去治具22を移動させ続け刃21を移動させ続けると、やがてオーバーコート層16が引きちぎられて破断する。刃21をなおも端部16eへ向けて移動させると、図3に示すように、刃21から端部16eまでの除去すべきオーバーコート層16bが刃21に押されて光ファイバ心線1上を滑り、オーバーコート層16cが除去される。
【0029】
オーバーコート層を除去するときに重要なのは、オーバーコート層を光ファイバ心線上で滑らせることである。オーバーコート層と光ファイバ心線の最外層との部分的な架橋箇所の数が多すぎると、オーバーコート層が光ファイバ心線を滑らなくなるほどにオーバーコート層が光ファイバ心線の最外層と強固に結合する。
本発明では、第1のオーバーコート層16a内に光ファイバ心線1に対する剥離性を付与する添加剤を含有させているため、光ファイバ心線1と第1のオーバーコート層16aとの結合が起こらず、第1のオーバーコート層16aのヤング率にかかわらず、容易にオーバーコート層16cを鞘状に50mm以上の長さで一度に除去することができる。すなわち、一度の操作で確実に除去可能なオーバーコート層の長さが従来になく長い。
【0030】
光ファイバ心線の外周にオーバーコート層を被覆するには、図4に示すように、供給装置41から繰り出した光ファイバ心線1をガイドローラ51で方向を変えて、オーバーコート樹脂46を満たしたダイス42に光ファイバ心線1を通過させて光ファイバ心線1上に樹脂46を塗布し、その樹脂46を硬化装置43で硬化させる。樹脂46は樹脂溜44から供給管45を通じてダイス42に供給される。そして、ダイス42から引き出された樹脂46に硬化装置43内で紫外線を照射して硬化させ、第1のオーバーコート層16a(図1参照)の被覆を完了する。続いて、オーバーコート樹脂46aを満たしたダイス42aにオーバーコート層16aが被覆された光ファイバ心線1を通過させてオーバーコート層16a上に樹脂46aを塗布し、その樹脂46aを硬化装置43aで硬化させる。樹脂46aは樹脂溜44aから供給管45aを通じてダイス42aに供給される。そして、ダイス42aから引き出された樹脂46aに硬化装置43a内で紫外線を照射して硬化させ、第2のオーバーコート層16b(図1参照)の被覆を完了する。
【0031】
第1のオーバーコート層16a及び第2のオーバーコート層16bが施されたオーバーコート心線19は、ガイドローラ52によりパスラインの向きを変えられて引取装置48により引き取られ、その後に巻取装置49に巻き取られる。引取装置48と巻取装置49との間にはガイドローラ53(53a,53b,53c)が設けられるが、さらにスクリーニング手段や蓄線装置などが設けられてもよい。
【0032】
第1のオーバーコート層16a及び第2のオーバーコート層16bをいわゆるデュアル塗布方式で塗布してもよい。デュアル塗布方式では、一つの塗布装置に二つ以上のダイスを直列に並べて配置し、ダイスの数だけの種類の樹脂をほぼ同時に塗布するようにしている。そして塗布した複数種類の樹脂をほぼ同時に硬化させる。
また、第1のオーバーコート層16aのみを被覆した後に一旦ボビンに巻き取り、その後、そのボビンから再び樹脂を塗布するダイスへ繰り出して第2のオーバーコート層16bを塗布して硬化させてもよい。
【0033】
なお、図1では、2層のオーバーコート層16(第1のオーバーコート層16a,第2のオーバーコート層16b)を示したが、オーバーコート層は3層以上積層されてもよい。その場合、第1のオーバーコート層及び第2のオーバーコート層の組み合わせが複数回繰り返されるように積層されていると、多段的にオーバーコート層を除去することができ、ユーザ側で心線外径の調整が可能となる。また、製造業者の在庫管理も容易になる。光ファイバ心線の外側に第1のオーバーコート層1及び第2のオーバーコート層の組み合わせを2回繰り返したオーバーコート心線として、例えば仕上がり外径を0.75mmに調整したものを製造できる。
【0034】
なお、光ファイバ心線1の樹脂層は、1層であっても、2層であっても、更にその上に着色層を有した3層であってもよい。いずれの場合も、その上にオーバーコート層を被覆する。
【0035】
また、光ファイバ心線に含まれるガラスファイバの直径は、通常125μmであるが、80μm以上135μm以下の直径のガラスファイバを使用してもよい。また、光ファイバ心線の直径は、通常240μm以上255μm以下であるが、180μm以上160μm以下の直径の光ファイバ心線を使用してもよい。オーバーコート心線の直径は、例えば400μm以上900μm以下となる。
【0036】
また、以上説明した本発明のオーバーコート心線の外周にさらに樹脂層を形成して、光ファイバケーブルとすることも容易である。その場合、光ファイバ心線が容易に取り出し可能なケーブルとなる。本発明に係る光ファイバケーブルの一例を図5に示す。
図5に示す光ファイバケーブル60は、FTTH等の用途に用いられる光ファイバケーブルとして、架空の配線ケーブルから1本または複数本の光ファイバ毎に分配されて引き落とされるドロップケーブルである。光ファイバケーブル60は、エレメント部67とメッセンジャワイヤ部68とが首部65により接続された構成である。
【0037】
エレメント部67は、中央に配置されたオーバーコート心線19(図1参照)と、オーバーコート心線19の両側にそれぞれ配置された抗張力体62とが、難燃ポリエチレン等の樹脂63により一括被覆されている。抗張力体102は、鋼や繊維強化プラスチック(FRP)等が用いられており、外径は0.4mm程度である。オーバーコート心線19と抗張力体62が一括に被覆されていることにより、光ファイバケーブル60に付加される張力等の外力を抗張力体62が受けて、オーバーコート心線19に含まれた光ファイバ心線1を外力から保護している。このエレメント部67は、一般に、長径が3mm、短径が2mm程度の大きさである。
【0038】
また、エレメント部67の外周には、オーバーコート心線19に向かって形成されたノッチ64が2つ設けられている。このノッチ64は、オーバーコート心線19の取り出しを容易にするものであり、取り出しの際には、2つのノッチ64の間の外被63に切り込みを入れるようにして引き裂けば良い。
【0039】
メッセンジャワイヤ部68は、光ファイバケーブル60を架空で支持するための強度を有するように構成されており、鋼やFRP等の支持線66が樹脂63により被覆されている。支持線66の外径は1.2mm程度、メッセンジャワイヤ部68の外径は2mm程度である。
また、首部65は、エレメント部67及びメッセンジャワイヤ部68の樹脂63と同じ樹脂により、エレメント部67及びメッセンジャワイヤ部68と一体的に形成されている。首部65は、容易に引き裂くことができ、それによりエレメント部67とメッセンジャワイヤ部68とを分離することができる。
【0040】
このように、本発明の光ファイバケーブルの実施形態の一例として図5に示した光ファイバケーブルは、ケーブル本体であるエレメント部67と容易に分離できるメッセンジャワイヤ部68を有しているため、電柱や電柱間に既に布設されたケーブル等の吊り線や、加入者宅の軒下等の箇所に留めておくことができる。そして、加入者宅側へ接続する際には、ノッチ64から樹脂63を引き裂いてオーバーコート心線19を取り出し、必要に応じてオーバーコート心線19のオーバーコート層16を除去して、加入者宅側の光ファイバ心線と接続することができる。もしくは、オーバーコート心線19の状態で屋内に引き込むこともできる。
【実施例】
【0041】
0.125mmの直径のシングルモードのガラスファイバ30に、プライマリ樹脂層31a、セカンダリ樹脂層31bおよび着色樹脂層31cを被覆した直径が0.25mmの光ファイバ心線1に、第1のオーバーコート層16a及び第2のオーバーコート層16bを被覆して直径が0.5mmのオーバーコート心線19を製造した。
第1のオーバーコート層16aには、分子量5000のジメチルシロキサンを添加した紫外線硬化型樹脂を使用し、第2のオーバーコート層16bには、架橋性ビニル基濃度を3mmol/gとして第1のオーバーコート層16aより架橋密度を大きくした紫外線硬化型樹脂を使用した。第2のオーバーコート層16bの厚さは10μmとした。こうして、表1に示す実施例1のオーバーコート心線を製造した。
また、実施例1のオーバーコート心線、第2のオーバーコート層の架橋性ビニル基濃度を3.5mmol/gとしたオーバーコート心線、第2のオーバーコート層の架橋性ビニル基濃度を2.5mmol/gとしたオーバーコート心線、を用意し、それぞれ図5に示した光ファイバケーブルを製造した(表1の実施例2、実施例3、及び比較例1)。
【0042】
実施例1のオーバーコート心線のオーバーコート層16を加熱しないで、マイクロストリップ(マイクロエレクトロニク社製 0.016インチの穴径の刃)で50mm除去した。具体的には、オーバーコート心線19の端から50mmの箇所にマイクロストリップの刃21を0.05mmの深さまで切り込ませてオーバーコート心線19の径方向に刃を固定し、光ファイバ心線1の端に向けて刃21を光ファイバ心線1の軸に沿って動かして50mmのオーバーコート層16c(図3参照)を除去した。第1のオーバーコート層及び第2のオーバーコート層からなるオーバーコート層16cのみが完全に除去されたときを成功とした。オーバーコート層16cが一部残ったり、光ファイバ心線1の最外層の一部が剥げたり、オーバーコート層16cを引き抜くことができなかったときはいずれも失敗とした。また、85℃、85%RHの環境下で30日経過(エージング)後の被覆除去を行った。また、実施例2、実施例3、及び比較例1のケーブルについても、初期時とエージング後に各オーバーコート心線を取り出して被覆除去を行った。そして、各オーバーコート心線について800回ずつ被覆除去を行ったときの成功率を求めた。各例についての結果を、表1に、99%以上成功したときを「○」、98%以下しか成功しなかったときを「×」として示す。
【0043】
【表1】

【0044】
架橋性ビニル基濃度を3.0mmol/gとしたオーバーコート心線単体の実施例1では、エージング前後の被覆除去成功率、被覆除去力ともに変化は見られず良好な結果を示した。また、架橋性ビニル基濃度を3.0mmol/gとしたオーバーコート心線をケーブル化した実施例2、及び架橋性ビニル基濃度を3.5mmol/gとしたオーバーコート心線をケーブル化した実施例3でも、エージング前後の被覆除去成功率、被覆除去力ともに変化は見られず良好な結果を示した。これらに対して、架橋性ビニル基濃度を2.5mmol/gとしたオーバーコート心線をケーブル化した比較例1では、エージング前と比較して、エージング後の被覆除去成功率、被覆除去力ともに悪化した。これはケーブルの外被に含まれる成分がオーバーコート心線の第1オーバーコート層へ移動して、第1オーバーコート層の光ファイバ心線に対する剥離性が低下したためであると考えられる。すなわち、架橋性ビニル基濃度を3.0mmol/g以上とすることで、オーバーコート心線内へのケーブル外被成分の移動を防いで、剥離性を良好に維持できることがわかる。
【0045】
さらに、実施例1のオーバーコート心線の伝送損失を測定した。1000mのオーバーコート心線19をコイル状に巻いた束を恒温槽に入れ、−40℃から70℃までの範囲で恒温槽の温度を変化させることを3サイクル繰り返し、その間の波長1.55μmでの伝送損失をOTDRで測定した。−40℃および70℃での維持時間は2時間とし、−40℃から70℃または70℃から−40℃の間の温度変化率は1℃/分とした。
測定された伝送損失から伝送損失変化量(すなわち室温における伝送損失との差)を求めた。その結果、伝送損失変化は0.01dB/km以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るオーバーコート心線の一形態の断面図である。
【図2】本発明のオーバーコート心線のオーバーコート層の除去の開始時の様子を例示する図である。
【図3】本発明のオーバーコート心線のオーバーコート層の除去の途中過程を例示する図である。
【図4】本発明のオーバーコート心線の製造方法の一例を示す図である。
【図5】本発明に係る光ファイバケーブルの一形態の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 光ファイバ心線
16 オーバーコート層
16a 第1のオーバーコート層
16b 第2のオーバーコート層
19 オーバーコート心線
30 ガラスファイバ
31 樹脂層
41 供給装置
42,42a ダイス
43,43a 硬化装置
48 引取装置
49 巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスファイバ上に紫外線硬化型の樹脂層が被覆された光ファイバ心線上にさらにオーバーコート層が被覆されたオーバーコート心線であって、
前記オーバーコート層は、前記光ファイバ心線の外周に被覆されるとともに前記光ファイバ心線に対する剥離性を付与する分子量5000以上の添加剤を含有する紫外線硬化型樹脂からなる第1のオーバーコート層と、
前記第1のオーバーコート層の外周に被覆されるとともに前記第1のオーバーコート層に接触する厚さ3μm以上20μm以下の接触領域が前記第1のオーバーコート層より架橋密度が大きい紫外線硬化型樹脂からなる第2のオーバーコート層と、を有することを特徴とするオーバーコート心線。
【請求項2】
前記第2のオーバーコート層に含まれる前記接触領域の架橋性ビニル基濃度が3mmol/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーバーコート心線。
【請求項3】
前記第1のオーバーコート層及び前記第2のオーバーコート層の何れかまたは両方に着色顔料が含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のオーバーコート心線。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のオーバーコート心線の外周に樹脂層が被覆されていることを特徴とする光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−199525(P2007−199525A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19587(P2006−19587)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(399040405)東日本電信電話株式会社 (286)
【Fターム(参考)】