説明

カーボン凝結体成形原料の製造方法及び電磁誘導加熱調理器具の製造方法

【課題】ゲートから吐出後の金型内における優れた流動性を呈し、且つより高い強度と熱伝導を備えたカーボン凝結体成形原料及び電磁誘導加熱調理器具の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明に係るカーボン凝結体成形原料の製造方法は、黒鉛の円柱ブロックを回転させた状態で表面を平鑿で刮いで得られた針状を成す黒鉛粒を、フェノール基とアルデヒド基を含む化合物とともに、界面活性剤の存在下で重合させることによって、フェノール系樹脂未硬化物の塗膜を表面に被覆したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状形状を成す黒鉛粉粒の表面にフェノール樹脂を被覆したコンポシットを用いるカーボン凝結体成形原料の製造方法に関する。また、電磁誘導加熱調理器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導加熱を応用した調理器具であるコンロや炊飯器は、高周波磁場発生装置である誘導加熱コイルが発生する渦電流によって磁性体金属である鉄やステンレスなどが発熱する電磁誘導加熱を利用するもので、速やかで均一な加熱が得られるという特徴を有する。
【0003】
当該調理器にはアルミニウムや銅などを積層したクラッド材が鍋状の成形品として用いていたが、前記クラッド材は鍋や釜などの形状加工が困難で、さらに表面をフッ素樹脂などの耐熱樹脂塗装面の各積層界面が剥離するなどの不具合もあった。
【0004】
このため、従来の鉄やステンレスなどに代わる電磁誘導加熱の調理器の素材として、適度な導電性と誘電性と優れた熱伝導度を有しているカーボンの凝結体の使用が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、棒柱状に加圧した圧縮体の切削加工物が紹介されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
上述の調理器具の製造方法によれば、コークスなどのカーボン粉粒にフェノールやピッチなどの高炭素含有物である結合材を主体とする混合物によって棒柱状に成型し、これを無酸素雰囲気下の1000〜3000℃で加熱して得た黒鉛化したカーボンの凝結体を得た後、任意の形状に切削加工したものである。
【0007】
しかし、カーボンの焼結体を切削して任意形状を得る手段には、切削の大半を占める容器の中空部分にある素材の廃棄が多く、加工工数も大きい、という課題があった。
【0008】
また、カーボン圧縮体に内在する欠陥を事前に検知することが困難なうえ、切削によって欠陥が露出するなどによって意匠および強度などの諸特性に悪影響を及ぼすことになる。
【0009】
これらの課題を解決する手段として、黒鉛粒とフェノール樹脂原料液やタールピッチなどの結合材との混合物を金型内に注入して加圧するなどして賦型した後、得られた成形品を焼成処理することによって鍋状に成形したカーボンの凝結体を得る手段が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
上記特許文献3によれば、黒鉛粒と結合材を混合した原料が金型内で高い流動状態を得るために、射出温度条件下で溶融するフェノール樹脂などを結合材として多く含有する必要がある。反面、電磁誘導加熱が可能な調理器具として、強度、電気伝導及び熱伝導が優れるカーボン凝結体成形品を得るには、黒鉛粒の混合比の高いことが必要である。しかしながら、フェノール樹脂の含有量を少なくして黒鉛粒の混合比を高くした原料は、粘度が向上して流動性が低下するうえ、黒鉛粒の表面が十分に濡れないために凝集して流動性を喪失する。
【0011】
また、上述の如く結合材であるフェノール樹脂を削減して多量の黒鉛粒を混合したことにより、黒鉛粒の表面に結合材が塗布されない欠陥部位が発生して凝結体の強度が低下し、同様に流動性の低下に伴って密に充填せずに多くの気孔が残留して熱伝導率が低下する、という課題があった。
【0012】
上記課題に対し、黒鉛粉末の表面に樹脂が完全に被覆して成る成形材料が紹介されている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
上記特許文献4によれば、フェノール類およびとアルデヒド類の化合物を触媒の存在下で黒鉛粒とともに混合しつつ重合することによって、黒鉛粒の表面に均一な厚さの半硬化状態のフェノール樹脂塗膜を形成する。反面、黒鉛粒の表面に存在する鋭角な凸部分への被覆が希薄な態様の成形材料が得られることから、黒鉛粒同士の凝集の抑制効果を得ることが困難で、成形時の流動性が低いことに起因して密な充填が出来ないために多くの気孔が残留して本来の強度や熱伝導率が得られない、という課題を有する。
【0014】
上記課題に対して、フェノール基とアルデヒド基を含む両化合物が重合してフェノール系樹脂の未硬化物を得る反応段階で、界面活性剤の存在下の水中で黒鉛粒を撹拌して分散させることにより、フェノール樹脂の重合に伴って黒鉛粒の表面に未硬化部の塗膜が完全に被覆して球状化した粒状のコンポジット成形原料が提案されている。該成形原料は加圧加熱成形における硬化によって賦形、得られた成形品を無酸素の高温雰囲気下で焼成処理によるフェノール樹脂が炭化し、上述した課題を解消した凝結体を得ることができる(例えば、特許文献5参照)。
【0015】
しかし、粒状黒鉛を用いたコンポジットの場合、面方向の連続性を形成する伝熱要素として、黒鉛粒子同士の接点部分において伝熱抵抗を形成するフェノール樹脂が炭化したカーボンの部分が多く介在するので、熱伝導率の低下が大きくなる、という課題がある。
【0016】
これに対し、高い熱伝導率を備える黒鉛内の熱伝達距離を長くして黒鉛同士が複数の接点を備えて伝熱を促すので、黒鉛粒の形状として針状のものを用いて高い熱伝導率が得られる。
【0017】
例えば、導電性樹脂組成物として、少なくとも不連続繊維状物質または針状黒鉛をスチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン系樹脂、液晶性樹脂、およびフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種を混合して成るものが紹介されている(例えば、特許文献6参照)。
【0018】
しかし、針状黒鉛は、比較的高沸点のコールタール蒸留物を所定の温度および圧力下で炭化させた原料コークスを押し潰した後に1300〜1500℃の温度で加熱する焼成工程で得た針状コークスを得て針状黒鉛に転換するには、コールタール・バインダーピッチとの混合物を90〜120℃で押し出して成形した生電極(green electrode)を800〜900℃の温度で焼き上げて炭化させた後に2700〜3300℃の温度に加熱して黒鉛化することが必要となる(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平9−75211号公報
【特許文献2】特開9−70352号公報
【特許文献3】特開2007−044257号公報
【特許文献4】特開2003−48934号公報
【特許文献5】特開2010−059372号公報
【特許文献6】特開2002−231051号公報
【特許文献7】特表2009−542842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
つまり、針状コークスを無酸素の高温雰囲気下に放置して黒鉛化することが必須であり、膨大な設備と工程を必要として容易に活用できなかった。また、上述手段に基づいて得られた針状黒鉛は、微細な粒子を多く含んで成るため、フェノール樹脂と混合した成形材料は粘度が高く、流動性に劣るために、炊飯器の内釜などの薄肉で長い流動距離を備えた成形品への適用が不可能であった。
【0021】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、ゲートから吐出後の金型内における優れた流動性を呈し、且つより高い強度と熱伝導を備えたカーボン凝結体成形原料の製造方法及び電磁誘導加熱調理器具の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この発明に係るカーボン凝結体成形原料の製造方法は、黒鉛の円柱ブロックを回転させた状態で表面を平鑿で刮いで得られた針状を成す黒鉛粒を、フェノール基とアルデヒド基を含む化合物とともに、界面活性剤の存在下で重合させることによって、フェノール系樹脂未硬化物の塗膜を表面に被覆したものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明に係るカーボン凝結体成形原料の製造方法は、黒鉛の円柱ブロックを回転させた状態で表面を平鑿で刮いで得られた針状を成す黒鉛粒を、フェノール基とアルデヒド基を含む化合物とともに、界面活性剤の存在下で重合させることによって、フェノール系樹脂未硬化物の塗膜を表面に被覆したので、ゲートから吐出後の金型内における優れた流動性を呈する。しかも、黒鉛粒同士の接触機会を増しても欠陥を含まないので、より高い強度と熱伝導を備えたカーボン凝結体成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】比較のために示す図で、一般的な成形用原料で混練のみによる塊状物を破砕したカーボン粉粒物とフェノール樹脂未硬化物とを押出し機などで加圧混練して得た混合物の樹脂付着の概念図。
【図2】実施の形態1を示す図で、フェノール樹脂未硬化物を表面に複素化した成形原料の概念図。
【図3】実施の形態1を示す図で、炊飯器内釜のカーボン凝結体成形品について、成型時にカーボン凝結体成形原料を注入したゲートを配した底面と、流動過程で終点に近い側面上部の各部位とについて、気孔率の代替特性として密度、黒鉛粒の接合状態を示す曲げ強度と針状黒鉛粒同士の接触機会の増加効果を示す熱伝導率の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
<概要>
本実施の形態は、カーボン凝結体成形品原料として針状形状を成す黒鉛粉粒の表面にフェノール樹脂を被覆したコンポジットを用いて金型内へ吐出することによって、面方向への熱伝導を向上させたカーボン凝結体成形品の前駆体に特徴を置き、カーボン凝結体成形品原料の製造方法及び電磁誘導加熱調理器具の製造方法に関するものである。
【0026】
針状を成す黒鉛粉粒を用いたコンポジットは、薄肉の成形品壁面を成す金型キャビティ内を流動する際に、面方向への配向を促して相互が接する態様を得てフェノール樹脂によって保持されて成形品を形成する。これを、1000℃の無酸素高温雰囲気下で焼成処理を行い、フェノール樹脂が炭化して黒鉛と凝結体を形成する。
【0027】
粒状黒鉛を用いたコンポジットの場合、面方向の伝熱要素連続性を形成する黒鉛粒子同士の接点部分において、伝熱抵抗を形成するフェノール樹脂の炭化した部分が多く介在するので、熱伝導率の低下が大きくなる。
【0028】
これに対し、針状黒鉛を用いた場合には、高い熱伝導率を備える黒鉛内の熱伝達が圧倒的に長くなるほか、黒鉛同士が複数の接点を備えて伝熱を促すので、高い熱伝導率が得られる。
【0029】
<手段>
石油コークスにタールおよびピッチの溶融物を結合材とする混合物を金型内で圧縮しながら冷却固化した円柱状成形品とし、これを無酸素状態の3000℃で焼成処理して得た黒鉛の円柱ブロックを回転させた状態で表面を平鑿(ひらのみ)で刮ぐ(きさぐ=削り落とす)ようにして針状の黒鉛粉砕物を得る。得られた針状の黒鉛粉砕物は、直径が1〜100μm程度、長さが10〜1000μmの大きさのものを用いるのが好適である。
【0030】
次に、前記黒鉛粉砕物が界面活性剤を含んだ水中で混合して分散させた乳化状態でフェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物との重合反応を進めることにより、黒鉛表面に成形時の金型温度で溶融せずに軟化状態を醸し出す態様を備える未硬化フェノール系樹脂を被覆させた黒鉛コンポジットを得る。
【0031】
この結果、得られた黒鉛コンポジットは、未硬化フェノール系樹脂が射出成形や圧縮成形などの加熱・加圧時に粒子同志の接する部分で結合材として融着するので、従来の黒鉛と未硬化フェノール系樹脂を単純混合した場合に結合材の被覆していない部分同士が接して融着していない欠陥部分が形成しない、という特徴を付与する。
【0032】
<効果(進歩性)>
針状の黒鉛粒をフェノール樹脂とコンポジット化した成形材料を炭釜などの誘電加熱を行う調理器具に用いたことにより、黒鉛粒同士の接触機会を増して欠陥を含まない凝結体が得られた。また、成形時に溶融しない未硬化フェノール系樹脂を被覆したので、成形材料の流動段階において、前記未硬化フェノール系樹脂の被覆塗膜が、成形材料同士の接触によって剥がれ落ちることなしに保持するので、該凝結体は、フェノール樹脂と黒鉛を単純混合したコンパウンド品と比較して、黒鉛表面全体にフェノール樹脂を被覆して粒子同士が接合していない欠陥部分がないので、より高い強度と熱伝導が得られた。
【0033】
さらに、針状の黒鉛粒を用いたことにより、粒子の接触部分が増えて伝熱が容易になることと、破壊の開始点となる粒子表面の欠陥が分散するので衝撃応力による破壊を来しにくい、という特徴を備える。
【0034】
トランスファ成形によって鍋状の成型品を得る手段に関し、カーボン粉粒と結合材との混合物を原料として鍋状の金型に充填して得られる電磁誘導加熱調理器の製造方法について、以下に詳述する。
【0035】
まず、針状の黒鉛粒の作製手段について述べる。石油コークスにタールおよびピッチの溶融物を結合材とする混合物を金型内で圧縮しながら冷却固化した円柱状成形品を、無酸素雰囲気の3000℃で焼成処理を行うことによって黒鉛の円柱ブロックを得た。得られた円柱ブロックは、回転させた状態で最表面を除去して得た平滑面を平鑿(ひらのみ)で削ぐようにして針状の黒鉛粒を得る。
【0036】
得られた黒鉛粒は水平振動篩機を用い、開口180μmの篩上にあって、開口が420μmの篩の通過物を回収する。その通過物には、長軸が500μm以上のものがわずかに混入する。短軸の直径は、平鑿(ひらのみ)で刮ぐ段階で30μm以下になるように平鑿をあてる深さを調整することが肝要である。この結果、得られた過度に長い針状の黒鉛は、成形時に容易に折れて適度な長さになるが、成形状態や各種物性に有意な影響を及ぼさないため、これを容認する。
【0037】
次に、カーボン凝結体成形原料の製造方法について述べる。得られた針状の黒鉛粒は水中で均一分散するように撹拌したのち、第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤を投入して均一混合した。その後、さらにフェノール類化合物とアルデヒド類化合物を、25wt%のフェノール樹脂が付着するように投入した。このとき、界面活性剤は保護コロイド性を有して高分子電解質挙動を示し、アニオン性水溶性樹脂とイオンコンプレックスを形成する。
【0038】
ここで用いた直径が30μm以下の黒鉛粒であれば、溶液に分散した界面活性剤が形成する前記黒鉛粒を核とした保護コロイドの内部、つまり黒鉛粒の表面でフェノール類化合物とアルデヒド類化合物が反応して得られるフェノール樹脂が、破断端片の鋭角な部分を覆うように球状を成す挙動を得て未硬化フェノール樹脂が複素化した粒状に形成される。
【0039】
上述した保護コロイドを形成する第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤には、アルキルトリメチル型とアルキルジメチルベンジル型カチオン活性剤が好ましく、且つ、アルキル部分が高純度のラウリル、パルミチル、ステアリルおよびベヘニルなどの、C数が10〜20程度のものが有効である。
【0040】
フェノール樹脂の反応は水温と混合時間によって決定され、成形時の金型温度である160℃で溶融することなしに軟化する未硬化状態となるように調整した。また、黒鉛粒への樹脂付着効率は適度な撹拌速度に調整する必要があり、攪拌に伴う流速が遅すぎる場合には各粒子が凝集して、黒鉛とフェノール樹脂が複合化した粒子を形成することになる。また、速すぎる場合には黒鉛粒表面に付着した樹脂が剥離して単独で硬化が進行し、球状の樹脂を形成することに伴って、黒鉛粒表面における付着量が減少する。
【0041】
フェノール樹脂が半硬化状態に至って、所望する黒鉛粒表面に被覆した複素化状態を形成した後、これを濾過することによって回収、さらに低温温風での乾燥を行うことによって、カーボン凝結体成形原料を得た。
【0042】
図1は比較のために示す図で、一般的な成形用原料で混練のみによる塊状物を破砕したカーボン粉粒物とフェノール樹脂未硬化物とを押出し機などで加圧混練して得た混合物の樹脂付着の概念図である。図2は実施の形態1を示す図で、フェノール樹脂未硬化物を表面に複素化した成形原料の概念図である。
【0043】
図2に示すように、上述手段によって得られたカーボン凝結体成形原料は、図1に示す一般的な成形用原料で混練のみによる塊状物を破砕したカーボン粉粒物とフェノール樹脂未硬化物とを押出し機などで加圧混練して得た混合物の樹脂付着と比較して、フェノール樹脂の重合過程でカーボンの粉粒が備える鋭角な端面を覆い隠すようにカーボン粉粒1の表面に析出しながらフェノール樹脂の未硬化物2が塗膜を形成して、平滑な面を形成することになる。
【0044】
このため、本実施の形態によるカーボン凝結体成形原料は、成形温度である160℃近傍の加熱下で加圧して金型内に吐出したとき、金型内で溶融することなしに樹脂を保持しながら空隙を埋めるなどして好適な位置に移動しやすい、つまり、流動性に優れるという特徴を有することになる。
【0045】
次に、電磁誘導加熱調理器具の炊飯器内釜の成形方法について述べる。金型は硬化温度として160℃に加熱、任意の量の成形用原料を底面中央部から加圧状態で注入するトランスファ成形機を用いて金型内に吐出した。このとき、フェノール樹脂が硬化に至る反応初期に副生成物である水蒸気などのガスの放散を促し、反応の進行に伴う流動時の見掛け粘度が過度に高くならない時間、本実施の形態では20〜60秒間をカーボン凝結体成形原料の粉粒が充分な空孔を備えた状態を維持する未充填状態で保持した後、緻密な成形品内部構造を有する成形品を得るための高圧、本実施の形態では15MPaで加圧した状態で6分間の完全硬化に至る保持時間を経て、金型から取り出した。
【0046】
上述の手段によって得た本実施の形態によるカーボン凝結体成形原料は160℃で軟化する反面、溶融することがない。従って、金型内に注入した状態では、加圧することによって流体として挙動して金型内の空隙を容易に充填することが可能であり、過熱した金型内の流動過程で黒鉛粒表面に被覆したフェノール樹脂が流出して鋭角な端片を備えて成る黒鉛が過度に露出しないので流動性に優れる、という特徴を備える。
【0047】
これとは別に、塊状の黒鉛を粉砕して250μm以下に分級した黒鉛粒を用い、本実施の形態と同様に、界面活性剤を含む水中で撹拌して分散させた乳化状態でフェノール樹脂を重合して前記黒鉛粒表面に被覆させた、樹脂付着量が25wt%のカーボン凝結体成形原料を用い、本実施の形態の内釜成形品と同様の160℃の金型内で触圧および高圧での加圧下でフェノール樹脂の硬化によって賦型した成形品を得た(比較例1)。
【0048】
一方、水平振動篩機に装備した開口500μm篩上にあって、開口600μm篩を通過した大粒径の針状黒鉛粒を、上述の手段と同様、界面活性剤を含む水中でフェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物と混合して成る乳化状態で重合反応を進め、黒鉛表面に未硬化フェノール系樹脂を被覆させて得た黒鉛コンポジットを比較例として、本実施の形態の内釜成形品と同様の成形条件によるフェノール樹脂を硬化させて成形品を得た(比較例2)。
【0049】
得られた成形品を無酸素状態で1100℃の高温雰囲気下に放置し、フェノール樹脂の炭化による黒鉛粒を凝結させてカーボン凝結体成形品を得た。この時、フェノール樹脂の炭化に伴って生成した分解ガスが該成形品から放散せずに内部に滞留して断層亀裂を発生したことによる局部的膨れを防止するため、温度上昇を段階的に行うことが肝要である。
【0050】
つまり、フェノール樹脂の分解が活発になって急激な重量減少を来す350℃、500℃及び800℃の近傍では温度の緩い上昇または保持を行う。具体的には、300℃迄を0.5℃/minで昇温後、350℃に1℃/hrの緩い昇温で到達後、5時間の保持をした。また、450℃迄を5℃/hr、500℃迄を1℃/hrで到達後に5時間の保持をした。さらに、750℃迄を5℃/hr、800℃迄を2℃/hrで到達後に3時間の保持し、その後、0.5℃/minで1100℃に到達させて2時間の保持を行った。
【0051】
また、冷却については、0.5℃/minで室温近傍まで冷却した。
【0052】
得られたカーボン凝結体成形品である炊飯器内釜の外面には取扱い時の汚れと摩耗の抑止を目的に耐熱性のシリコン樹脂、内面には調理具材の密着を防止する目的でフッ素樹脂の塗装を施した状態で炊飯器の内釜として使用する。
【0053】
図3は実施の形態1を示す図で、炊飯器内釜のカーボン凝結体成形品について、成型時にカーボン凝結体成形原料を投入したゲートを配した底面と、流動過程で終点に近い側面上部の各部位について、気孔率の代替特性として密度、黒鉛粒の接合状態を示す曲げ強度と針状黒鉛粒同士の接触機会の増加効果を示す熱伝導率の測定結果を示す図である。
【0054】
次に、上記手段で得た炊飯器内釜のカーボン凝結体成形品について、成型時にカーボン凝結体成形原料を注入したゲートを配した底面と、流動過程で終点に近い側面上部の各部位とについて、気孔率の代替特性として密度、黒鉛粒の接合状態を示す曲げ強度と針状黒鉛粒同士の接触機会の増加効果を示す熱伝導率を測定した。
【0055】
図3では、針状の黒鉛粒を使用する本実施の形態と、塊状物を破砕して得た粒状の黒鉛粒を用いた比較例1,2とを比較して示す。
【0056】
本実施の形態に基づく成形品は、流動に伴う上下位置(底面、側面上部)で各特性の差異が非常に少なく、粒状黒鉛粒を用いた比較例1と大差なく流動性に優れている。他方、黒鉛粒同士の接合に相関する曲げ強度の向上と黒鉛粒同士の接触増加に基づく熱伝導率が比較例1より優れており、調理に有効な耐久性と温度の均一性を確保できる調理器具を得やすいことが示唆された。
【0057】
また、水平振動篩機に装備した篩が保持した500〜600μmの黒鉛粒を用いた比較例2と比較すると、曲げ強度に優れていることが確認できた。大粒径の針状黒鉛粒を用いた成形材料は、流動時の黒鉛粒同士が接触した際に、交錯せずに配向する機会が増えた結果、配向との直交方向を曲げ支点とした比較例2では、針状粒子の適用効果が得られず、曲げ強度が低下した。
【0058】
また、本実施の形態によるカーボン凝結体成形品は、実用を阻害する変形や亀裂などの発生は一切無く、良好な外観を呈していた。
【0059】
以上の結果で示すように、本実施の形態によるカーボン凝結体成形用原料は高い流動性を維持して、針状黒鉛粒を用いたことに伴って、得られた成形物は実用上に不可欠とする重要な特性である強度と熱伝導率が優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 カーボン粉粒、2 フェノール樹脂の未硬化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛の円柱ブロックを回転させた状態で表面を平鑿で刮いで得られた針状を成す黒鉛粒を、フェノール基とアルデヒド基を含む化合物とともに、界面活性剤の存在下で重合させることによって、フェノール系樹脂未硬化物の塗膜を表面に被覆したことを特徴とするカーボン凝結体成形原料の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が、高分子電解質挙動を示して重合過程のフェノール樹脂とイオンコンプレックスを形成するカチオン系溶液を成すことを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体成形原料の製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、アルキルトリメチル基またはアルキルジメチルベンジル基を備えた第四級アンモニウム塩型であり、アルキル基が少なくとも、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基およびベヘニル基の何れかを含んで成ることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体成形原料の製造方法。
【請求項4】
前記黒鉛粒が、開口100〜500μmの篩の通過物であることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体成形原料の製造方法。
【請求項5】
黒鉛の円柱ブロックを回転させた状態で表面を平鑿で刮いで得られた針状の黒鉛粒を、界面活性剤を含む水中で混合しながらフェノール基またはアルデヒド基を含む両化合物を添加して前記黒鉛粒の表面に重合反応による硬化温度で溶融しないフェノール系樹脂未硬化物が保持したカーボン凝結体成形材料が得られた後、前記カーボン凝結体成形材料を用いて加熱および加圧した金型内に吐出して硬化させて得られた成形品を、無酸素雰囲気の高温下で焼成処理することを特徴とする電磁誘導加熱調理器具の製造方法。
【請求項6】
前記針状の黒鉛粒が、塊状物表面を削ぎ落として得た粒子であることを特徴とする請求項5に記載の電磁誘導加熱調理器具の製造方法。
【請求項7】
前記黒鉛粒が、開口100〜500μmの篩の通過物であることを特徴とする請求項5に記載の電磁誘導加熱調理器具の製造方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が、高分子電解質挙動を示して重合過程のフェノール樹脂とのイオンコンプレックスを形成するカチオン系溶液を成すことを特徴とする請求項5に記載の電磁誘導加熱調理器具の製造方法。
【請求項9】
前記界面活性剤が、アルキルトリメチル基またはアルキルジメチルベンジル基を備えた第四級アンモニウム塩型であることを特徴とする請求項5に記載の電磁誘導加熱調理器具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−218957(P2012−218957A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84176(P2011−84176)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【特許番号】特許第4889814号(P4889814)
【特許公報発行日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】