説明

ガス検知器

【課題】 ガスセンサが起動されてから短い時間で安定した出力を得ることができ、従って、ガスセンサの起動時間を短縮化することのできるガス検知器を提供すること。
【解決手段】 本発明のガス検知器は、ガスセンサから所定時間間隔毎に順次に取得されるサンプリングデータ(以下、単に「データ」という。)を少なくとも3つ以上のデータが記録されるよう順次に更新しながらバッファリングし、これらの複数個のデータについて平滑化処理を行う信号処理回路を有するものであって、ガスセンサの起動時においては、最初に取得される初期データがすべてのバッファに記録されて平滑化処理が行われ、2回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、バッファの総数に対する取得されたデータの数の割合および前回の平滑化処理時において用いられた初期データの数に基づいて設定される特定の更新条件に応じてバッファに記録されているデータが更新される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス検知器に関し、詳しくは、ガス検知部からのガス検知信号に対して平滑化処理を行う信号処理回路を有するガス検知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、焦電型赤外線ガス検知器のある種のものは、例えば、筒状チャンバーの一端の開口に焦電型赤外線センサが配置されると共に、チャンバーの他端の開口に例えば所定の周期、例えば1secで点滅駆動される赤外線光源が焦電型赤外線センサと対向して配置されてなり、焦電型赤外線センサからのガス検知信号に対して平滑化処理を行い、その結果を出力する構成とされている。ガス検知信号に対する平滑化処理方法としては、例えば所定の時間分のサンプリングデータ(例えば12個)を順次に更新しながらバッファリングしておき、これらの複数個のサンプリングデータの平均値を算出する移動平均処理による方法(例えば特許文献1参照。)などがある。
【0003】
例えば12個のサンプリングデータについて移動平均処理を行う場合を例に挙げて説明すると、焦電型赤外線センサが起動されてから最初のサンプリングデータ(初期データ)A1が取得されると、図5に示すように、先ず、所定の移動平均処理を行うために、初期データA1が12個のバッファのすべてに書き込まれて、初期データA1が出力される。 その後の処理においては、時系列的に最も古いサンプリングデータが一つずつ順次に最新のサンプリングデータに更新されて、12個のサンプリングデータの平均値が算出され、その結果が出力される。すなわち、2番目のサンプリングデータA2が取得されると、バッファB1に記録されている初期データA1が最新のサンプリングデータA2に更新された後、平均値が算出される。ここに、データ書き込み手段(同図5において矢印で示す。)がバッファB2に対する書き込み位置に移動される。そして、このような処理が繰り返して行われる。
【特許文献1】特開平08−221674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、焦電型赤外線センサの起動直後の移動平均処理においては、本来、時系列的に古いものから順に12個のサンプリングデータが用いられて平均値が算出されるべきところ、必要なデータ数を例えば初期データA1のみによっていわば強制的に揃えて所定の処理を行っており、その後の処理においては、バッファに記録された初期データA1が一つずつ順次に更新されるため、得られる出力値は、焦電型赤外線センサの動作特性が不安定な状態において得られた、不安定要素ともいうべき初期データA1による影響を大きく受けたものとなり、安定した出力特性を得ることができない。換言すれば、出力を安定化させるためには、初期段階のデータが含まれない状態において平均値が算出されることが必要であるが、上記のような方法であれば、例えば最初に強制的に記録された初期データA1のすべてが更新されて平均値の算出に用いられなくなるまでに、13個のサンプリングデータを取得することが必要とされ、出力を安定化させるために長時間を要する、という問題がある。
そして、このような問題は、移動平均処理に必要とされるデータ数が多くなるほど、顕著になる。
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、ガスセンサが起動されてから短い時間で安定した出力を得ることができ、従って、ガスセンサの起動時間を短縮化することのできるガス検知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガス検知器は、ガスセンサから所定時間間隔毎に順次に取得されるサンプリングデータを少なくとも3つ以上のサンプリングデータが記録されるよう順次に更新しながらバッファリングし、これらのバッファリングされた複数個のサンプリングデータについて平滑化処理を行うことにより出力値を取得する信号処理回路を有するものであって、
ガスセンサの起動時においては、最初に取得される初期サンプリングデータがすべてのバッファに記録されて平滑化処理が行われ、2回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、バッファの総数に対する取得されたサンプリングデータの数の割合および前回の平滑化処理時において用いられた初期サンプリングデータの数に基づいて設定される特定の更新条件に応じてバッファに記録されているサンプリングデータが更新されて平滑化処理が行われることを特徴とする。
【0007】
本発明のガス検知器においては、バッファリングされるサンプリングデータの数が3つである場合には、2回目の平滑化処理が行われるに際しては、バッファに記録されている3つの初期サンプリングデータのうちの2つが最新のサンプリングデータに更新され、
3回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、時系列的に最も古いサンプリングデータが順次に一つずつ最新のサンプリングデータに更新される。
【0008】
また、本発明のガス検知器においては、バッファリングされるサンプリングデータの数が4つ以上である場合には、2回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、バッファの数をN、取得されたサンプリングデータの数をnとするとき、
(イ)n/N<0.3である場合には、取得されているサンプリングデータの各々が、N/n以下の最大の整数個ずつ各バッファに記録されると共に、余剰のバッファが存在する場合には、初期サンプリングデータを除く他のサンプリングデータが時系列的に古いものから順に一つずつ当該余剰のバッファに記録されるよう、各バッファに記録されているサンプリングデータが更新され、
(ロ)n/N≧0.3であり、かつ、前回平滑化処理時において用いられた初期サンプリングデータの数が3つより多い場合には、取得されているサンプリングデータの各々が、N/n以下の最大の整数個ずつ各バッファに記録されると共に、余剰のバッファが存在する場合には、初期サンプリングデータを除く他のサンプリングデータが時系列的に古いものから順に一つずつ当該余剰のバッファに記録されるよう、各バッファに記録されているサンプリングデータが更新され、
(ハ)n/N≧0.3であり、かつ、前回平滑化処理時において用いられた初期サンプリングデータの数が3つ以下である場合には、時系列的に最も古いサンプリングデータが順次に一つずつ最新のサンプリングデータに更新される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガス検知器によれば、ガスセンサの起動時において、最初に取得される初期サンプリングデータがすべてのバッファに記録されて平滑化処理が行われた後、バッファの総数に対する取得されたサンプリングデータの数の割合および前回の平滑化処理時において用いられた初期サンプリングデータの数に基づいて設定される特定の更新条件に応じてバッファに記録されているサンプリングデータが更新されて平滑化処理が行われることにより、平滑化処理に必要とされるデータ数に占める信頼性の高いサンプリングデータの割合を従来の方法よりも早く高めていくことができるので、得られる出力値における初期段階のサンプリングデータによる影響をガスセンサを起動してから短時間のうちに排除することができる結果、センサ出力が安定するまでに要する時間、すなわちセンサの起動時間を大幅に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明に係る赤外線ガス検知器の一例における構成の概略を示す説明図である。
この赤外線ガス検知器は、導入される被検ガスに含まれる検知対象ガスの濃度に応じたガス検知信号を出力するガス検知部10と、赤外線式ガス検知器における各構成部に適宜の動作指令信号を発すると共にガス検知部10からのガス検知信号に対して信号処理を行う制御部20とを備えている。
【0011】
ガス検知部10は、被検ガスが導入される例えば筒状のガスセル11と、このガスセル11の一端側(図1において左端側)に設けられた赤外線光源12と、ガスセル11の他端側(図1において右端側)に赤外線光源12と対向するよう設けられた例えば焦電型赤外線センサ(以下、単に「赤外線センサ」という。)13とを有してなる。
【0012】
ガスセル11には、複数のガス流入出口11Aが互いに赤外線光源12の光軸方向(図1において左右方向)に離間して並ぶよう形成されている。
【0013】
赤外線光源12は、制御部20における光源駆動回路21によって、輝度が一定の周期で正弦波状に変化するように変調する状態で点滅駆動される。
【0014】
制御部20は、赤外線センサ13からの例えばアナログ信号からなるガス検知信号を増幅させる増幅回路22と、この増幅回路22を介して入力されるガス検知信号をデジタル信号(A/D値)に変換するA/D変換手段23と、このA/D変換手段23によって得られたデジタル信号に対して特定の信号処理を施して、例えば表示用の指示出力値を算出する信号処理回路を有するマイコン24とを有する。25は、マイコン24からのアナログ信号を光源駆動回路21に対する動作指令信号としてのデジタル信号に変換するD/A変換手段である。
【0015】
この赤外線ガス検知器においては、次のようにして検知対象ガスの検知動作が行われる。すなわち、赤外線光源12を所定の周期、例えば0.5secで点滅駆動させると、ガスセル11に導入されている被検ガス中の検知対象ガスの濃度に応じた波高値を有する、直流信号に交番信号が重畳されたガス検知信号が赤外線センサ13から出力される。赤外線センサ13からのガス検知信号は、増幅回路22により増幅された後、A/D変換手段23によりデジタル信号に変換されてマイコン24における信号処理回路に入力される。信号処理回路においては、例えば1sec間分(1周期分)のデジタル信号から面積値を求める処理、すなわちサンプリングデータを取得する処理が所定時間間隔毎例えば1sec毎に行われて所定時間分のサンプリングデータがバッファリングされ、これらの複数個のサンプリングデータについての移動平均処理による平滑化処理が順次に行われる。
【0016】
<移動平均処理>
本発明の赤外線ガス検知器においては、赤外線センサ13の起動時において、最初に取得される初期サンプリングデータ(以下、「初期データ」という。)がすべてのバッファに記録されて平滑化処理が行われた後、2回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、バッファの総数に対する取得されたサンプリングデータ(以下、単に「データ」という。)の数の割合および前回の平滑化処理時において用いられた初期データの数に基づいて設定される特定の更新条件に応じてバッファに記録されているデータが更新されて平滑化処理が行われる。以下、平滑化処理に必要とされるデータの数、すなわちバッファの数に応じたデータの更新方法についての具体例を説明する。
【0017】
〔1〕3個のデータを順次に更新しながらバッファリングしてこれらのデータについて平滑化処理を行う場合(バッファの数が3個の場合);
この場合には、図2に示すように、先ず、赤外線センサ13が起動されて最初に取得された初期データA1がデータ書き込み手段(同図2において矢印で示す。)によって3つのバッファB1〜B3のすべてに対していわば強制的に順次に書き込まれて、これら3つのバッファB1〜B3に記録された3つのデータの平均値である初期データA1が出力される。ここに、データ書き込み手段は、例えば初期データA1をバッファB3に書き込んだ後に、所定の書き込み位置例えばバッファB1に対する書き込み位置に移動される。なお、以下においては、特に言及する場合を除いて、データ書き込み手段は、例えば、所定のバッファに記録されているデータを更新した後に、バッファB1に対する書き込み位置に移動されるものとする。
【0018】
次いで、2番目のデータA2が取得されて2回目の平滑化処理が行われるに際しては、データ書き込み手段によって、バッファB1およびB2に記録されている初期データA1が最新のデータA2に順次に更新される。
そして、3番目のデータA3が取得されて3回目の平滑化処理が行われるに際しては、書き込み手段によって、バッファB3に記録されている初期データA1が最新のデータA3に更新される。
4回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、時系列的に最も古いデータが一つずつ順次に最新のデータに更新される。
【0019】
以上のように、センサ起動直後において、データ数を揃えて所定の移動平均処理を行うために、すべてのバッファB1〜B3に記録された初期データA1が、上記方法によって順次に更新されて平滑化処理が行われることにより、3回目の平滑化処理が行われた時点で、すなわち、3つのデータを取得するまでに要する時間で、得られる出力値は初期データA1による影響が排除されたものとなる。
【0020】
〔2〕4個以上のデータを順次に更新しながらバッファリングしてこれらのデータについて平滑化処理を行う場合(バッファの数が4個以上の場合);
この場合には、バッファの数をN〔個〕、取得されているデータの数をn〔個〕とするとき、下記特定の更新条件(イ)〜(ハ)に基づいて、バッファに記録されているデータが順次に更新されて平滑化処理が行われる。
【0021】
<特定の更新条件>
(イ)n/N<0.3である場合には、取得されているデータの各々をN/n以下の最大の整数個ずつ各バッファに記録すると共に、余剰のバッファが存在する場合には、初期データA1を除くデータを時系列的に古いものから順に一つずつ当該余剰のバッファに記録した状態となるよう、バッファに記録されているデータを更新する。
(ロ)n/N≧0.3であり、かつ、前回の平滑化処理時において用いられた初期データA1の数が3個より多い場合には、取得されているデータの各々をN/n以下の最大の整数個ずつ各バッファに記録すると共に、余剰のバッファが存在する場合には、初期データA1を除くデータを時系列的に古いものから順に一つずつ当該余剰のバッファに記録した状態となるよう、バッファに記録されているデータを更新する。
(ハ)n/N≧0.3であり、かつ、前回の平滑化処理時において用いられた初期データA1の数が3個以下である場合には、バッファに記録されている時系列的に最も古いデータを順次に一つずつ最新のデータに更新する。
以下、具体例を挙げて説明する。
【0022】
〔2−1〕8個のデータを順次に更新しながらバッファリングしてこれらのデータについて平滑化処理を行う場合(バッファの数が8個の場合);
この場合には、図3に示すように、先ず、赤外線センサ13が起動されて最初に取得された初期データA1がデータ書き込み手段(同図3において矢印で示す。)によって8個のバッファB1〜B8のすべてに対していわば強制的に順次に書き込まれる。そして、これら8個のバッファB1〜B8に記録された8個のデータの平均値である初期データA1が出力される。
【0023】
次いで、2番目のデータA2が取得されて2回目の平滑化処理が行われるに際しては、n/Nの値が0.25であることから、上記更新条件(イ)に基づいて、初期データA1および後続のデータA2が4個(N/n以下の最大の整数個)ずつ、バッファに記録される状態となるようデータが更新される。すなわち、データ書き込み手段(データ書き込み位置)が各々のバッファB1〜B8に対する書き込み位置に順次に移動されてデータを更新する必要がある例えばバッファB5〜B8の各々について、現時点において記録されている初期データA1が最新のデータA2に順次に更新される。
【0024】
そして、3番目のデータA3が取得されて3回目の平滑化処理が行われるに際しては、n/Nの値が0.38であり、2回目の平滑化処理において用いられた初期データA1の数が4個であることから、上記更新条件(ロ)に基づいて、初期データA1および後続のデータA2、A3が2個(N/n以下の最大の整数個)ずつ、バッファに記録されると共に余剰の2個のバッファに対して初期データA1を除く後続のデータA2およびA3が一つずつ記録される状態となるようデータが更新される。すなわち、データ書き込み手段(データ書き込み位置)が各々のバッファB1〜B8に対する書き込み位置に順次に移動されてデータを更新する必要がある例えばバッファB3およびB4の各々について、現時点において記録されている初期データA1が後続のデータA2に順次に更新されると共に、例えばバッファB6〜B8の各々について、現時点において記録されているデータA2が最新のデータA3に順次に更新される。
【0025】
その後においては、4番目のデータA4が取得されて4回目の平滑化処理が行われるに際しては、n/Nの値が0.5であり、2回目の平滑化処理において用いられた初期データA1の数が2個であることから、上記更新条件(ハ)に基づいて、時系列的に最も古いデータが順次に一つずつ最新のデータの更新される。すなわち、例えばバッファB1に記録されている初期データA1がデータ書き込み手段によって最新のデータA4に更新される。ここに、バッファB1のデータを更新した後には、データ書き込み手段は、所定の書き込み位置例えばバッファB2に対する書き込み位置に移動される。
そして、5回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、常に、n/Nの値が0.3以上であり、前回の平滑化処理において用いられた初期データA1の数が0個である状態となるので、上記更新条件(ハ)に基づいて、時系列的に最も古いデータが一つずつ順次に最新のデータに更新される。
【0026】
以上のように、センサの起動直後において、データ数を揃えて所定の移動平均処理を行うために、すべてのバッファB1〜B8に記録された初期データA1が、上記方法によって順次に更新されて平滑化処理が行われることにより、5回目の平滑化処理が行われた時点で、すなわち、5つのデータを取得するまでに要する時間で、得られる出力値は初期データA1による影響が排除されたものとなる。
【0027】
〔2−2〕12個のデータを順次に更新しながらバッファリングしてこれらのデータについて平滑化処理を行う場合(バッファの数が12個の場合);
この場合には、図4に示すように、先ず、赤外線センサ13が起動されて最初に取得された初期データA1がデータ書き込み手段(同図4において矢印で示す。)によって12個のバッファB1〜B12のすべてに対していわば強制的に順次に書き込まれる。そして、これら12個のバッファB1〜B12に記録された12個のデータの平均値である初期データA1が出力される。
【0028】
次いで、2番目のデータA2が取得されて2回目の平滑化処理が行われるに際しては、n/Nの値が0.17であることから、上記更新条件(イ)に基づいて、初期データA1および後続のデータA2が6個(N/n以下の最大の整数個)ずつ、バッファに記録される状態となるようデータが更新される。すなわち、データ書き込み手段が各々のバッファB1〜B12に対する書き込み位置に順次に移動されてデータを更新する必要がある例えばバッファB7〜B12の各々について、現時点において記録されている初期データA1が最新のデータA2に順次に更新される。
【0029】
そして、3番目のデータA3が取得されて3回目の平滑化処理が行われるに際しては、n/Nの値が0.25であることから、上記更新条件(イ)に基づいて、初期データA1および後続のデータA2、A3が4個(N/n以下の最大の整数個)ずつ、バッファに記録される状態となるようデータが更新される。すなわち、データ書き込み手段が各々のバッファB1〜B12に対する書き込み位置に順次に移動されてデータを更新する必要がある例えばバッファB5、B6の各々について、現時点において記録されている初期データA1が後続のデータA2に順次に更新されると共に、例えばバッファB9〜B12の各々について、現時点において記録されているデータA2が最新のデータA3に順次に更新される。
【0030】
そして、4番目のデータA4が取得されて4回目の平滑化処理が行われるに際しては、n/Nの値が0.33であり、3回目の平滑化処理において用いられた初期データA1の数が4個であることから、上記更新条件(ロ)に基づいて、初期データA1および後続のデータA2、A3、A4が3個(N/n以下の最大の整数個)ずつ、バッファに記録される状態となるようデータが更新される。すなわち、データ書き込み手段が各々のバッファB1〜B12に対する書き込み位置に順次に移動されてデータを更新する必要がある例えばバッファB4について、現時点において記録されている初期データA1が後続のデータA2に更新されると共に、例えばバッファB7、B8の各々について、現時点において記録されているデータA2が後続のデータA3に順次に更新され、更に、例えばバッファB10〜B12の各々について、現時点において記録されている初期データA3が最新のデータA4に更新される。
【0031】
その後においては、5番目のデータA5が取得されて5回目の平滑化処理が行われるに際しては、n/Nの値が0.42であり、4回目の平滑化処理において用いられた初期データA1の数が3個であることから、上記更新条件(ハ)に基づいて、時系列的に最も古いデータが一つずつ最新のデータに更新される。すなわち、例えばバッファB1に記録されている初期データA1がデータ書き込み手段によって最新のデータA5に更新される。ここに、バッファB1のデータを更新した後には、データ書き込み手段は、バッファB2に対する書き込み位置に移動される。
6回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、常に、n/Nの値が0.3以上であり、前回の平滑化処理において用いられた初期データA1の数が0個である状態となるので、上記更新条件(ハ)に基づいて、時系列的に最も古いデータが一つずつ順次に最新のデータに更新される。
【0032】
以上のように、センサ起動直後において、データ数を揃えて所定の移動平均処理を行うために、すべてのバッファB1〜B12に記録された初期データA1が、上記方法によって順次に更新されて平滑化処理が行われることにより、7回目の平滑化処理が行われた時点で、すなわち、7つのデータを取得するまでに要する時間で、得られる出力値は初期データA1による影響が排除されたものとなる。
【0033】
以上のように、上記赤外線ガス検知器によれば、赤外線センサ13の起動時において、赤外線センサ13が起動されてから最初に取得される初期データA1がすべてのバッファに記録されて平滑化処理が行われた後、バッファの総数に対する取得されたデータの数の割合および前回の平滑化処理時において用いられた初期データA1の数に基づいて設定される特定の更新条件に応じてバッファに記録されているデータが順次に更新されて平滑化処理が行われることにより、平滑化処理に必要とされるデータ数に占める信頼性の高いデータの割合を従来の方法よりも早く高めていくことができるので、得られる出力値は初期段階のデータによる影響を赤外線センサ13を起動してから短時間のうちに排除することができる。すなわち、本発明に係る特定の更新条件は、平滑化処理を行うために必要とされるデータ数に占める初期データA1の数の割合に着目して設定されるが、得られる出力値に対する初期データA1による影響を早い段階で排除することができれば、結果的に、初期データA1に後続するいわば不安定要素ともいうべきデータ、例えば2番目に取得されるデータA2乃至3番目に取得されるデータA3によるデータによる影響を早い段階で排除することができる。
従って、赤外線センサ13の出力が安定するまでに要する時間、すなわち赤外線センサ13の起動時間を大幅に短縮することができる。具体的には、例えば1sec間隔毎にデータを取得して、12個のデータの移動平均処理を行う場合において、図5に示すような従来におけるデータの更新方法であれば、センサの起動時間に例えば12sec以上もの時間を要するが、本発明に係るデータの更新方法(例えば図4参照。)によれば、センサの起動時間を例えば7sec以下とすることができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、平滑化処理に必要とされるサンプリングデータの数換言すればバッファの数、およびサンプリング時間例えば上記実施形態においては赤外線光源の点滅周期は、目的に応じて適宜に設定することができるが、少なくとも8個以上のデータについて平滑化処理を行うことにより出力値(ガス濃度指示値)を取得する構成ものにおいて極めて有用である。
【0035】
さらにまた、本発明に係る信号処理方法は、ガス検知方式が赤外線式のものに限定されるものではなく、例えば接触燃焼式のもの、定電位電解式のものなど種々のガス検知器に適用することができる。
また、本発明に係る信号処理方法を赤外線式ガス検知器に適用する場合においては、ガス検知器の構成は上記構成のものに限定されるものではなく、例えば赤外線光源からの赤外線を反射鏡によって反射させて赤外線センサに入射させる構成、いわゆる「反射型」のものであってもよい。このような構成の赤外線ガス検知器によれば、赤外線ガス検知器を十分に小型のものとして構成することができ、しかも、赤外線センサを高速に起動させること(出力を安定化させること)が必要とされる場合に極めて有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る赤外線ガス検知器の一例における構成の概略を示す説明図である。
【図2】本発明に係る赤外線ガス検知器において実行される移動平均処理の一例を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明に係る赤外線ガス検知器において実行される移動平均処理の他の例を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明に係る赤外線ガス検知器において実行される移動平均処理の更に他の例を模式的に示す説明図である。
【図5】従来における移動平均処理の一例を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
10 ガス検知部
11 ガスセル
11A ガス流入出口
12 赤外線光源
13 焦電型赤外線センサ
20 制御部
21 光源駆動回路
22 増幅回路
23 A/D変換手段
24 マイコン
25 D/A変換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサから所定時間間隔毎に順次に取得されるサンプリングデータを少なくとも3つ以上のサンプリングデータが記録されるよう順次に更新しながらバッファリングし、これらのバッファリングされた複数個のサンプリングデータについて平滑化処理を行うことにより出力値を取得する信号処理回路を有するガス検知器であって、
ガスセンサの起動時においては、最初に取得される初期サンプリングデータがすべてのバッファに記録されて平滑化処理が行われ、2回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、バッファの総数に対する取得されたサンプリングデータの数の割合および前回の平滑化処理時において用いられた初期サンプリングデータの数に基づいて設定される特定の更新条件に応じてバッファに記録されているサンプリングデータが更新されて平滑化処理が行われることを特徴とするガス検知器。
【請求項2】
バッファリングされるサンプリングデータの数が3つであって、
2回目の平滑化処理が行われるに際しては、バッファに記録されている3つの初期サンプリングデータのうちの2つが最新のサンプリングデータに更新され、
3回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、時系列的に最も古いサンプリングデータが順次に一つずつ最新のサンプリングデータに更新されることを特徴とする請求項1に記載のガス検知器。
【請求項3】
バッファリングされるサンプリングデータの数が4つ以上であって、
2回目以降の平滑化処理が行われるに際しては、バッファの数をN、取得されたサンプリングデータの数をnとするとき、
(イ)n/N<0.3である場合には、取得されているサンプリングデータの各々が、N/n以下の最大の整数個ずつ各バッファに記録されると共に、余剰のバッファが存在する場合には、初期サンプリングデータを除く他のサンプリングデータが時系列的に古いものから順に一つずつ当該余剰のバッファに記録されるよう、各バッファに記録されているサンプリングデータが更新され、
(ロ)n/N≧0.3であり、かつ、前回平滑化処理時において用いられた初期サンプリングデータの数が3つより多い場合には、取得されているサンプリングデータの各々が、N/n以下の最大の整数個ずつ各バッファに記録されると共に、余剰のバッファが存在する場合には、初期サンプリングデータを除く他のサンプリングデータが時系列的に古いものから順に一つずつ当該余剰のバッファに記録されるよう、各バッファに記録されているサンプリングデータが更新され、
(ハ)n/N≧0.3であり、かつ、前回平滑化処理時において用いられた初期サンプリングデータの数が3つ以下である場合には、時系列的に最も古いサンプリングデータが順次に一つずつ最新のサンプリングデータに更新される
ことを特徴とする請求項1に記載のガス検知器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−338118(P2006−338118A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159172(P2005−159172)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】