ガラスアンテナ
【課題】車体の開口面積を調整することで高いアンテナ性能を得ることができ、特に、DTV放送受信に用いて好適な、ガラスアンテナを提供する。
【解決手段】ガラスアンテナ30は、ガラス面の縁部に位置するアンテナ給電点から、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子23と、このアンテナ素子23と略平行に、アンテナ素子23の素子長の半分の間隔を空けてそれぞれ配置される第1、第2の開口面調整素子26a、26bと、を含み構成される。
【解決手段】ガラスアンテナ30は、ガラス面の縁部に位置するアンテナ給電点から、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子23と、このアンテナ素子23と略平行に、アンテナ素子23の素子長の半分の間隔を空けてそれぞれ配置される第1、第2の開口面調整素子26a、26bと、を含み構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の開口部に設けられるガラスアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスアンテナは、ロッドアンテナに比べ、出っ張りが無いため意匠上優れており、又、破損の心配が無く、風切り音が発生しない等の理由で、車両用ガラスアンテナとして広く使用されるようになった。
【0003】
ところで、車両用のデジタルテレビ(DTV)用アンテナは、クォータガラスに設置されるケースが多い。このため、例えば、車体側面で車体前後方向に対して傾斜した傾斜縁部を有するピラーに取り付けられる側部窓ガラス(クォータガラス相当)等の表面上で、当該ピラーの近傍に配置される場合であっても、アンテナ素子を車体の前後方向の水平線に向けて形成し、水平偏波の電波を良好に受信可能な車両用ガラスアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、ガラス面上に形成されるアンテナの性能は、車体開口部の形状による影響を受け、特に、縦方向の辺の長さ(給電点の上下方向の長さ)が広すぎるか、又は狭すぎると、アンテナ性能が低下する。すなわち、車両用ガラスアンテナは、給電点と車体の導体部分に設けられる接地点との間で給電されることから、その導体部分にイメージアンテナが形成され、その結果、アンテナとイメージアンテナとを併せたダイポールアンテナとして機能する。したがって、アンテナ素子長に対し車体の開口面積が広すぎる又は狭すぎる等、アンテナ素子長と開口面積との間で整合がとれない場合にアンテナ性能が悪化することがわかっている。
【0005】
このため、従来、車体の開口部形状の変化に依存することなくアンテナ性能を得ることができる車両用ガラスアンテナが提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に開示された技術によれば、接地導体を形成する細長い第1導電部材から展開される伝導アームで、それとは絶縁隔離された第2導電部材(主アンテナ)を部分的に取り囲むことにより、開口部形状の変化によるアンテナ性能に対する影響を受けにくくしている。
【0006】
しかしながら特許文献2に開示された技術によれば、垂直偏波の自動車電話用には有効であると考えられるが、水平偏波等、他の偏波の受信用には向かないと考えられる。又、伝導アームと第2伝導部材との間の間隔や最適なアーム形状等の具体的な設計事項に関するデータは明示されていない。このため、例えば、DTV用アンテナとして使用する場合に、どのアンテナパターンが適しているのか、又、その有効性が不明である。すなわち、アンテナ性能を良好にするためには、伝導アームの線長を調整する必要があり、車体の開口面積によっては適切なアンテナ形状のモデリングが困難なケースも発生する。従って、これをDTV用アンテナに適用しても十分な効果が得られないものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−303072号
【特許文献2】特開平6−53723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、車体の開口面積を調整することで高いアンテナ性能を得ることができ、特にDTV放送受信に用いて好適な、ガラスアンテナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係るガラスアンテナは、車体の開口部に取り付けられたガラス面と、このガラス面の縁部に位置するアンテナ給電点から、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子と、このアンテナ素子と略平行に、アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてそれぞれ配置される第1、第2の開口面調整素子と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子の給電点をガラス面の側辺に形成した側辺給電の場合、第1の開口面調整素子は、アンテナ素子の上に、第2の開口面調整素子は下に、共にアンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてアンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子の給電点をガラス面の上辺に形成した上辺給電の場合、第1の開口面調整素子はアンテナ素子の左に、第2の開口面調整素子は右に、共にアンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてアンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係るガラスアンテナは、請求項1から請求項3のいずれか1項記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子の素子長は、1/4波長であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係るガラスアンテナは、請求項4記載のガラスアンテナにおいて、第1の開口面調整素子は、1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項4記載のガラスアンテナにおいて、前記第2の開口面調整素子は、1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子は、受信帯域が、デジタルテレビ放送帯域を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、開口面調整素子(第1開口面調整素子と第2開口面調整素子)を、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子と略平行に、アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けて配置することで、アンテナ素子が実装される車体の開口面積を調整することができる。この場合、車体の導体に流れる電流が給電点を中心にそれぞれ1/2波長(合計1波長)ずつ分布されるため、車体に形成されるイメージアンテナがアンテナ素子に性能面で良い影響を与え、結果的にアンテナ性能が向上する。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、側辺給電の場合、開口面調整素子(第1開口面調整素子と第2開口面調整素子)をアンテナ素子の長さ方向の上下に配置することで、水平偏波の電波を良好に受信可能なガラスアンテナを提供することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、上辺給電の場合、開口面調整素子(第1開口面調整素子と第2開口面調整素子)をアンテナ素子の長さ方向の左右に配置することで、垂直偏波の電波を良好に受信可能なガラスアンテナを提供することができる。
【0019】
請求項4〜請求項6に係る発明によれば、開口面調整素子を複数設け、その配置間隔を最低限アンテナ素子長の1/4波長とすることで、高い利得を得ることができる。開口面調整素子の本数とアンテナ性能についての発明者らの評価によれば、開口面調整素子を1本しか設置しない場合は、開口面がアンテナの1波長分である場合と比較してその平均利得が低下するのに対し、2本設置した場合に開口面がアンテナの1波長分である場合と同等の効果が得られることを確認できた。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、高いアンテナ性能を有するDTVアンテナを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係るガラスアンテナが実装される車両の平面図である。
【図2】本発明の実施例に係るガラスアンテナの構造を示す図である。
【図3】アンテナ性能評価の際に使用される開口面のサイズ変更条件(1)を示す図である。
【図4】開口面の辺長を変更した場合のアンテナ性能を示すグラフである。
【図5】開口面のサイズ変更条件(2)を示す図である。
【図6】開口面の辺長の変化によるアンテナ利得の変化を示すグラフである。
【図7】開口面調整素子の設置条件(1)を示す図である。
【図8】開口面調整素子の線幅とアンテナ性能との関係を示すグラフである。
【図9】開口面調整素子の設置条件(2)を示す図である。
【図10】開口面調整素子の本数とアンテナ性能との関係を示すグラフである。
【図11】本実施例に係るガラスアンテナの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態(以下、本実施例という)を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0023】
本実施例に係るガラスアンテナは、例えば、車両のクォータガラスに取り付けることができる。図1に示すように、車両10は、車体11の左右の前ピラー12L、12R(Lは左、Rは右を示す添え字である。以下同じ)間に嵌められるフロントガラス13と、後ピラー14L、14R間に嵌められているリヤガラス15と、前ドア16L、16Rに昇降可能に取付けられている前ドアガラス17L、17Rと、後ドア18L、18Rに昇降可能に取付けられている後ドアガラス19L、19Rと、車両10に固定のクォータガラス20L、20Rとからなるガラス面を備えている。
【0024】
尚、本実施例では、ガラスアンテナ30は、クォータガラス20Lに取り付けられるものとして説明するが、図2以降では説明を簡素化するために、ガラスの開口面を長方形のモデルで説明する。また、ここに示すガラスアンテナ30は、主にDTVの受信帯域である470MHz〜770MHzを受信するために設計されたアンテナとする。
【0025】
クォータガラス20Lの詳細を図2に基づいて説明する。ここでは説明を簡単化するために、車体の開口部21を長方形状として説明する。図2に示すように、クォータガラス20Lは、車体の開口部21に取り付けられたガラス面22と、このガラス面22に設置されるアンテナ素子23とからなる。
【0026】
アンテナ素子23は、ガラス面22の縁部の略中央に位置するアンテナ給電点24から、送信波の偏波面に対して略平行に延びる1/4波長のアンテナ長を有する線状のアンテナである。また、アンテナ素子23の周辺には、給電位置を基準に上下の方向に、アンテナ素子23の素子長の各1/2波長分の間隔を空け、アンテナ素子23が延びる方向と略平行に開口面調整素子26a、26bがそれぞれ配置されている。
【0027】
なお、図2は、給電の形態を、側辺給電とする水平偏波の場合を例示しており、垂直偏波の場合は、給電の形態を上辺給電とするように、アンテナ給電点24を上辺の左右方向の略中央に設け、その給電位置を基準としてその左右方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、アンテナ素子23と略平行に開口面調整素子26a、26bを設置すれば良い。
【0028】
以下、本実施例に係るガラスアンテナ30の性能評価の結果を説明する。まず、発明者らは、開口部21に設けられたガラス面22とアンテナ素子23とのサイズの関係を評価した。
【0029】
ここでは、図3に示されるように、給電の形態を側辺給電とし、SUV(Sport Utility Vehicle)車等のクォータガラス20Lの縦辺の略中央に給電点24を設け、アンテナ素子23の素子長を70mm(アンテナの共振周波数640MHz、ガラスの短縮率60%で計算)とした。この場合の開口部21の縦方向の辺長Yを280mm(1波長)、560mm(2波長分)で固定し、それぞれにおける開口部21の横方向の辺長Xを、140mm(1/2波長),280mm(1波長),420mm(3/2波長)と順次変更した場合の、DTV帯域における水平偏波の利得を測定した。なお、アンテナ素子23の素子長は70mm(1/4波長)である。
【0030】
その結果を図4(a)(b)に周波数特性図で示す。図4(a)は、縦軸にアンテナ利得(dB)を、横軸にDTV帯の周波数(MHz)を目盛り、開口部21のサイズを、縦方向の辺長Yを560mmで固定し、横方向の辺長Xを、140mm、280mm,420mmとした場合の、それぞれにおける周波数毎のアンテナ利得a、b、cをグラフ表記したものである。また、以下の表1(a)に、それぞれにおける具体的な値を纏めた。
【0031】
図4(b)も同様、縦軸にアンテナ利得(dB)、横軸にDTV帯の周波数をそれぞれ目盛り、開口部21のサイズを、縦方向の辺長Yを280mmで固定し、横方向の辺長Xを、140mm、280mm,420mmとした場合の、それぞれにおける周波数毎のアンテナ利得a、b、cをグラフ表記したものである。また、以下の表1(b)に、それぞれにおける具体的な値を纏めた。
【0032】
【表1】
【0033】
図4(a)或いは表1(a)によれば、開口部21のガラス面22の縦方向の辺長Yが560mmで固定の場合、横方向の辺長Xが140〜420mmに変化しても、アンテナ利得は、例えば、500[MHz]では、−1.0、−1.0,−1.1[dB]のように、また、平均でも、−5.7、−5.9,−5.6[dB]のように、ほとんど変化がない。
【0034】
しかしながら、図4(b)或いは表1(b)によれば、開口部21のガラス面22の縦方向の辺長Yが280mmになり、横方向の辺長Xが140〜420mmに変化すれば、アンテナ利得は、500[MHz]では、−1.9、−0.5,−0.4[dB]のように、また、平均でも、−2.1,−1.7,−1.7[dB]のように変化することがわかった。すなわち、縦方向の辺長Yが560mmよりも280mmに固定した方が高利得となる帯域が広く、また、縦方向の辺長Yが560mmの場合、共振周波数である600MHzの値は高いが、高利得になる帯域が狭いことがわかった。すなわち、縦方向の辺長Yがアンテナ性能に影響していることがわかった。
【0035】
次に、発明者らは、縦方向の辺長Yとアンテナ性能との関係について評価した。ここでは、図5に示されるように、アンテナ素子23の素子長を70mmとし、開口部21の横方向の辺長Xを420mmに固定し、その縦方向辺長Yを、70mm(1/4波長)〜560mm(2波長)迄順次変化させることにより、DTV帯域の水平偏波の電波受信時のアンテナ利得を評価した。その場合の周波数特性を図6に、具体的な値を以下の表2(c)に纏めた。
【0036】
【表2】
【0037】
図6は、縦方向にアンテナ利得[dB]、横方向にDTV帯域の周波数を目盛り、開口部21の縦方向の辺長を560mm(a)〜70mm(h)まで変化させた場合の周波数毎のアンテナ利得をグラフ表記した周波数特性図である。また、表2(c)は、縦方向の辺長Y毎のアンテナ利得について、波長(λ)と、利得、及び辺長Yを280mmの利得を基準に正規化した値とにより示したものである。なお、ここに示される「利得」とは、辺長Y毎に測定される平均利得を300〜900MHzの間の平均利得で除算した値をいう。
【0038】
図6のグラフ或いは表2(c)によれば、グラフeで示される縦方向の辺長Yを280mmに設定した場合の利得が最もが高く(−1.67)、他に比較して高利得となる帯域が広いことがわかる。
【0039】
そこで、本実施例では、開口部21の辺長がアンテナ素子23の1波長分である280mmを超える場合に、開口面調整素子26a、26bを設けることでアンテナ性能を向上させることとした。この開口面調整素子26a、26bは、例えば、図7に示されるように、アンテナ素子23との間隔が上下それぞれ1/2波長である140mmの位置からボディフランジ25に向かってアンテナ素子23と略平行に設置されている。実際の開口部21は、縦方向の辺長が560mm(2波長分)であるにもかかわらず、この開口面調整素子26a、26bを設けることで、開口部21の縦方向の辺長が280mmの場合と等価であると見なすことができる。
【0040】
発明者らは更に、図7に示されるように、開口面調整素子26a、26bの給電位置を基準として上下方向に各5本ずつ配置し、この開口面調整素子26a、26bの線幅mを1mm〜21mm迄、順次変更しながら、都度、アンテナ性能を評価した。なお、アンテナ素子23の素子長は70mmとした。そのときの評価結果である周波数特性を図8に、そのときの具体的な値を以下の表3(d)に纏めた。
【0041】
【表3】
【0042】
図8は、縦軸にアンテナ利得(dB)、横軸にDTV帯域の周波数を目盛り、開口面調整素子26a、26bの線幅mを1mm(c)〜21mm(i)まで変化させたときのアンテナ性能(利得)を示した周波数特性図である。なお、図8の周波数特性図において、比較対照の意味で、開口面調整素子26a、26bを持たない横方向の辺長が420mm、縦方向の辺長が280mm(以下、単に420×280)の開口部21を有するガラスアンテナ(REF:基準)と、横方向の辺長420mm×縦方向の辺長560mmの開口部21を持つガラスアンテナのアンテナ性能を、それぞれ(a)(b)として示している。
【0043】
図8、及び表3(d)から明らかなように、開口面調整素子26a、26bの本数を5本に固定した場合で、開口面調整素子26a、26bの線幅mが1mmのときに、420×280のガラスアンテナの利得を基準として正規化した値が−0.82(dB)になる。また、開口面調整素子26a、26bの線幅mが2mmの場合、正規化した値は−0.19(dB)となり、ほぼ基準とする420×280mmのガラスアンテナと同等の性能を得ることができた。開口面調整素子26a、26bの線幅が細くなれば、若干の利得低下は発生するものの、概ね基準で示される開口部21の縦方向Yの辺長280mm(1波長)と同じアンテナ性能が得られる。すなわち、実際の開口部21は、縦方向の辺長が560mm(2波長)であるにもかかわらず、開口面調整素子26a、26bを設けることで、開口部21の縦方向の辺長を280mmと等価であると見なすことができる。
【0044】
次に、発明者らは、開口面調整素子26の配線間隔(ピッチ)とアンテナ性能との関係を評価した。ここでも実際の開口部21の辺長は、縦方向が560mmであるにもかかわらず、開口面調整素子26a、26bを設置することで、縦方向が260mmの辺長を有する場合と同様に見なすことができる。ここでは、図7に示されるように、給電点24の給電位置を基準に上下それぞれに設置される開口調整素子26a、26bの本数を、1本から5本まで変更した。
【0045】
図9に示す例では、開口面調整素子26aの上部に、アンテナ素子23と略平行に1/n波長の間隔で配置された第3の開口面調整素子(開口面調整素子26c)を配置し、同じく、第2の開口面調整素子(開口面調整素子26b)の下部に、アンテナ素子23と略平行に1/n波長の間隔で第4の開口面調整素子(開口面調整素子26d)を配置した例が示されている。但し、nは任意とする。開口面調整素子は、図9に示す例に限らず、図8に示すように、開口面調整素子を上下各5本迄配置して性能評価を行った。
【0046】
ここでは、開口面調整素子26a、26b、26c、26dの線幅wは各2mmに固定した。なお、開口面調整素子26a、26b、26c、26dの配線間隔dは、素子の本数に応じて変更されるものとし、開口面調整素子26a、26bが上下各1本の場合の配線間隔dは140mm(1/2波長)、2本の場合の配線間隔は70mm(1/4波長)、各4本の場合の配線間隔は35mm(1/8波長)とした。
【0047】
このときの評価結果である周波数特性を図10に示し、そのときの具体的な値を以下の表4(e)に纏めた。
【0048】
【表4】
【0049】
図10は、縦軸にアンテナ利得(dB)、横軸にDTV帯域の周波数を目盛り、開口面調整素子26a、26bの配線間隔を140mm(c)〜28mm(g)まで変更したときのアンテナ性能を示す周波数特性図である。なお、比較対照の意味で、開口面調整素子26a、26bを持たない辺長が横420×縦280mm(以下、単に420×280)の開口部21を持つガラスアンテナと、横420×縦560mm(以下、単に420×560)の開口部21を持つガラスアンテナを、それぞれ(a)(b)として示している。
【0050】
図10及び表4(e)から明らかなように、開口面調整素子26a、26bを各1本しか設置しない場合は、利得は基準(420×280)と比較して2.37(dB)低下している。この場合、開口面調整素子26a、26bとボディフランジ25との間隔は140mm(1/2波長)である。又、開口面調整素子26a、26bが各2本の場合は平均利得の低下が1(dB)未満である。この場合、開口面調整素子26a、26bの配置間隔は70mm(1/4波長)である。すなわち、開口面調整素子26a、26bの配線間隔は、最低限、アンテナ素子23の素子長の1/4波長に設置すれば、開口面がアンテナの1波長分(420×280)である場合と同等の効果が得られる。
【0051】
図9を例示すれば、開口面調整素子26a(第1の開口面調整素子26a)の上方向に、アンテナ素子23が延びる方向と略平行に1/4波長以下の間隔で開口面調整素子26c(第3の開口面調整素子)を配置し、開口面調整素子26b(第2の開口面調整素子)の下方向に、アンテナ素子23が延びる方向と略平行に1/4波長以下の間隔で開口面調整素子26d(第4の開口面調整素子)を配置すれば、開口面がアンテナの1波長分(420×280)である場合と同等の効果が得られる。
【0052】
以上説明のように、発明者らの評価によれば、アンテナ素子23の素子長が、ガラスの短縮率込みで例えば70mmの1/4波長モノポールアンテナを車体開口部21のガラス面22上に設置し、車両のピラー側辺の上下方向の略中央部位で給電する場合、ピラーの辺長が1波長分である280mm(上下140mmずつ)の場合、高利得となる周波数帯域が広くなることがわかった。ピラーの辺長が280mmを超過すると、高利得となる周波数帯域が600MHz付近に限定され、DTV帯域の平均利得が低下する。
【0053】
このため、本実施例では、開口面調整素子26a、26bにより、開口部21のガラス面22を狭く調整することでアンテナ性能の向上をはかることとした。なお、このとき開口面調整素子26a、26bの配置間隔は、アンテナ共振周波数の1/4波長(70mm)以下とする。これは、導体であるボディフランジ25を介して車両ボディに流れる電流が、給電点24を中心に1/2波長ずつ分布されるため、車両ボディに形成されるイメージアンテナがアンテナ性能に良い条件に作用するものと考えられる。
【0054】
図11に、図2の変形例を(a)〜(e)の5例示す。図2と共通する番号は、符号を流用して説明を省略する。
【0055】
図11(a)において、図2に示す実施例との差異は、開口部21が長方形状ではなく、図1に示すような実際の車両のクォータガラスに適応するように、開口部21が台形形状をしている。開口面調整素子26a、26bは、実施例と同様、給電位置の上下方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、ボディフランジ25またはアンテナ素子23の延びる方向と略平行に配置される。
【0056】
図11(b)、(c)において、図2に示す実施例との差異は、開口部21の形状が三角形状となっていることであり、実際の車両のオペラグラスに適応する形状になっている。開口面調整素子26a、26bは、実施例と同様、給電位置の上下方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、ボディフランジ25またはアンテナ素子23の延びる方向と略平行に配置される。
【0057】
図11(d)、(e)において、図2に示す実施例、及び図11(a)(b)(c)に示す変形例との差異は、車体の開口部21のガラス面22に配置される開口面調整素子26が、線状ではなくアンテナ素子23を取り囲むループ形状になっていることである。図11(d)には2本の開口面調整素子26を実装する例が、図11(e)には1本の開口面調整素子26を実装する例が示されている。いずれの場合においても、開口面調整素子26を、アンテナ給電位置から上下方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空けた位置であって、かつアンテナ素子23と略平行に設置すれば良く、開口面調整素子26や開口部21の形状に依存するものではない。
【0058】
(実施例の効果)
以上説明のように本実施例によれば、開口面調整素子26a、26bを、ガラス面22に実装されるアンテナ素子23の給電位置(給電点24)の上下又は左右方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、かつアンテナ素子23が延びる方向と略平行に配置することで、アンテナ素子23が実装される車体の開口面積を調整することができる。この場合、車体の導体に流れる電流が給電点24を中心にそれぞれ1/2波長(合計1波長)ずつ分布されるため、車体に形成されるイメージアンテナがアンテナ素子に性能面で良い影響を与え、結果的にアンテナ性能が向上する。
【0059】
また、側辺給電の場合、開口面調整素子26a、26bをアンテナ素子23の給電位置を基準に上下方向に配置し、一方、上辺給電の場合、開口面調整素子26a、26bをアンテナ素子23の給電位置を基準に左右方向に配置することで、水平偏波、垂直偏波の両方の電波を良好に受信可能となる。また、開口面調整素子26a、26bを複数設け、その配置間隔を最低限アンテナ素子23の素子長の1/4波長とすることで、高い利得を得ることができる。開口面調整素子26a、26bの本数とアンテナ性能についての発明者らの評価によれば、開口面調整素子を1本しか設置しない場合は、開口面がアンテナの1波長分である場合と比較してその平均利得が低下するのに対し、2本設置した場合に開口面がアンテナの1波長分である場合と同等の効果が得られることを確認できた。
【0060】
更に、本実施例によれば、クォータガラス等、側部窓ガラス20Lに実装したアンテナ素子23の素子長に対し、車体の開口面積が広すぎる場合は勿論のこと、狭すぎる場合についても同様、アンテナ素子長と開口面積との間で整合がとれない場合に開口面調整素子26a、26bを配置することで、開口面積の狭い側部窓ガラスにも高いアンテナ性能を有するDTVアンテナを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のガラスアンテナは、クォータガラスに限らず、オペラウィンドウや三角窓等、比較的狭面積が要求される車両の側部窓ガラスに適用して顕著な効果が得られる。
【符号の説明】
【0062】
10…車両、11…車体、20L…クォータガラス、21…車体の開口部、22…ガラス面、23…アンテナ素子、24…給電点、25…ボディフランジ、26(26a、26b、26c、26d)…開口面調整素子、30…ガラスアンテナ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の開口部に設けられるガラスアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスアンテナは、ロッドアンテナに比べ、出っ張りが無いため意匠上優れており、又、破損の心配が無く、風切り音が発生しない等の理由で、車両用ガラスアンテナとして広く使用されるようになった。
【0003】
ところで、車両用のデジタルテレビ(DTV)用アンテナは、クォータガラスに設置されるケースが多い。このため、例えば、車体側面で車体前後方向に対して傾斜した傾斜縁部を有するピラーに取り付けられる側部窓ガラス(クォータガラス相当)等の表面上で、当該ピラーの近傍に配置される場合であっても、アンテナ素子を車体の前後方向の水平線に向けて形成し、水平偏波の電波を良好に受信可能な車両用ガラスアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、ガラス面上に形成されるアンテナの性能は、車体開口部の形状による影響を受け、特に、縦方向の辺の長さ(給電点の上下方向の長さ)が広すぎるか、又は狭すぎると、アンテナ性能が低下する。すなわち、車両用ガラスアンテナは、給電点と車体の導体部分に設けられる接地点との間で給電されることから、その導体部分にイメージアンテナが形成され、その結果、アンテナとイメージアンテナとを併せたダイポールアンテナとして機能する。したがって、アンテナ素子長に対し車体の開口面積が広すぎる又は狭すぎる等、アンテナ素子長と開口面積との間で整合がとれない場合にアンテナ性能が悪化することがわかっている。
【0005】
このため、従来、車体の開口部形状の変化に依存することなくアンテナ性能を得ることができる車両用ガラスアンテナが提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に開示された技術によれば、接地導体を形成する細長い第1導電部材から展開される伝導アームで、それとは絶縁隔離された第2導電部材(主アンテナ)を部分的に取り囲むことにより、開口部形状の変化によるアンテナ性能に対する影響を受けにくくしている。
【0006】
しかしながら特許文献2に開示された技術によれば、垂直偏波の自動車電話用には有効であると考えられるが、水平偏波等、他の偏波の受信用には向かないと考えられる。又、伝導アームと第2伝導部材との間の間隔や最適なアーム形状等の具体的な設計事項に関するデータは明示されていない。このため、例えば、DTV用アンテナとして使用する場合に、どのアンテナパターンが適しているのか、又、その有効性が不明である。すなわち、アンテナ性能を良好にするためには、伝導アームの線長を調整する必要があり、車体の開口面積によっては適切なアンテナ形状のモデリングが困難なケースも発生する。従って、これをDTV用アンテナに適用しても十分な効果が得られないものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−303072号
【特許文献2】特開平6−53723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、車体の開口面積を調整することで高いアンテナ性能を得ることができ、特にDTV放送受信に用いて好適な、ガラスアンテナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係るガラスアンテナは、車体の開口部に取り付けられたガラス面と、このガラス面の縁部に位置するアンテナ給電点から、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子と、このアンテナ素子と略平行に、アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてそれぞれ配置される第1、第2の開口面調整素子と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子の給電点をガラス面の側辺に形成した側辺給電の場合、第1の開口面調整素子は、アンテナ素子の上に、第2の開口面調整素子は下に、共にアンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてアンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子の給電点をガラス面の上辺に形成した上辺給電の場合、第1の開口面調整素子はアンテナ素子の左に、第2の開口面調整素子は右に、共にアンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてアンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係るガラスアンテナは、請求項1から請求項3のいずれか1項記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子の素子長は、1/4波長であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係るガラスアンテナは、請求項4記載のガラスアンテナにおいて、第1の開口面調整素子は、1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項4記載のガラスアンテナにおいて、前記第2の開口面調整素子は、1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項記載のガラスアンテナにおいて、アンテナ素子は、受信帯域が、デジタルテレビ放送帯域を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、開口面調整素子(第1開口面調整素子と第2開口面調整素子)を、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子と略平行に、アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けて配置することで、アンテナ素子が実装される車体の開口面積を調整することができる。この場合、車体の導体に流れる電流が給電点を中心にそれぞれ1/2波長(合計1波長)ずつ分布されるため、車体に形成されるイメージアンテナがアンテナ素子に性能面で良い影響を与え、結果的にアンテナ性能が向上する。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、側辺給電の場合、開口面調整素子(第1開口面調整素子と第2開口面調整素子)をアンテナ素子の長さ方向の上下に配置することで、水平偏波の電波を良好に受信可能なガラスアンテナを提供することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、上辺給電の場合、開口面調整素子(第1開口面調整素子と第2開口面調整素子)をアンテナ素子の長さ方向の左右に配置することで、垂直偏波の電波を良好に受信可能なガラスアンテナを提供することができる。
【0019】
請求項4〜請求項6に係る発明によれば、開口面調整素子を複数設け、その配置間隔を最低限アンテナ素子長の1/4波長とすることで、高い利得を得ることができる。開口面調整素子の本数とアンテナ性能についての発明者らの評価によれば、開口面調整素子を1本しか設置しない場合は、開口面がアンテナの1波長分である場合と比較してその平均利得が低下するのに対し、2本設置した場合に開口面がアンテナの1波長分である場合と同等の効果が得られることを確認できた。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、高いアンテナ性能を有するDTVアンテナを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係るガラスアンテナが実装される車両の平面図である。
【図2】本発明の実施例に係るガラスアンテナの構造を示す図である。
【図3】アンテナ性能評価の際に使用される開口面のサイズ変更条件(1)を示す図である。
【図4】開口面の辺長を変更した場合のアンテナ性能を示すグラフである。
【図5】開口面のサイズ変更条件(2)を示す図である。
【図6】開口面の辺長の変化によるアンテナ利得の変化を示すグラフである。
【図7】開口面調整素子の設置条件(1)を示す図である。
【図8】開口面調整素子の線幅とアンテナ性能との関係を示すグラフである。
【図9】開口面調整素子の設置条件(2)を示す図である。
【図10】開口面調整素子の本数とアンテナ性能との関係を示すグラフである。
【図11】本実施例に係るガラスアンテナの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態(以下、本実施例という)を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0023】
本実施例に係るガラスアンテナは、例えば、車両のクォータガラスに取り付けることができる。図1に示すように、車両10は、車体11の左右の前ピラー12L、12R(Lは左、Rは右を示す添え字である。以下同じ)間に嵌められるフロントガラス13と、後ピラー14L、14R間に嵌められているリヤガラス15と、前ドア16L、16Rに昇降可能に取付けられている前ドアガラス17L、17Rと、後ドア18L、18Rに昇降可能に取付けられている後ドアガラス19L、19Rと、車両10に固定のクォータガラス20L、20Rとからなるガラス面を備えている。
【0024】
尚、本実施例では、ガラスアンテナ30は、クォータガラス20Lに取り付けられるものとして説明するが、図2以降では説明を簡素化するために、ガラスの開口面を長方形のモデルで説明する。また、ここに示すガラスアンテナ30は、主にDTVの受信帯域である470MHz〜770MHzを受信するために設計されたアンテナとする。
【0025】
クォータガラス20Lの詳細を図2に基づいて説明する。ここでは説明を簡単化するために、車体の開口部21を長方形状として説明する。図2に示すように、クォータガラス20Lは、車体の開口部21に取り付けられたガラス面22と、このガラス面22に設置されるアンテナ素子23とからなる。
【0026】
アンテナ素子23は、ガラス面22の縁部の略中央に位置するアンテナ給電点24から、送信波の偏波面に対して略平行に延びる1/4波長のアンテナ長を有する線状のアンテナである。また、アンテナ素子23の周辺には、給電位置を基準に上下の方向に、アンテナ素子23の素子長の各1/2波長分の間隔を空け、アンテナ素子23が延びる方向と略平行に開口面調整素子26a、26bがそれぞれ配置されている。
【0027】
なお、図2は、給電の形態を、側辺給電とする水平偏波の場合を例示しており、垂直偏波の場合は、給電の形態を上辺給電とするように、アンテナ給電点24を上辺の左右方向の略中央に設け、その給電位置を基準としてその左右方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、アンテナ素子23と略平行に開口面調整素子26a、26bを設置すれば良い。
【0028】
以下、本実施例に係るガラスアンテナ30の性能評価の結果を説明する。まず、発明者らは、開口部21に設けられたガラス面22とアンテナ素子23とのサイズの関係を評価した。
【0029】
ここでは、図3に示されるように、給電の形態を側辺給電とし、SUV(Sport Utility Vehicle)車等のクォータガラス20Lの縦辺の略中央に給電点24を設け、アンテナ素子23の素子長を70mm(アンテナの共振周波数640MHz、ガラスの短縮率60%で計算)とした。この場合の開口部21の縦方向の辺長Yを280mm(1波長)、560mm(2波長分)で固定し、それぞれにおける開口部21の横方向の辺長Xを、140mm(1/2波長),280mm(1波長),420mm(3/2波長)と順次変更した場合の、DTV帯域における水平偏波の利得を測定した。なお、アンテナ素子23の素子長は70mm(1/4波長)である。
【0030】
その結果を図4(a)(b)に周波数特性図で示す。図4(a)は、縦軸にアンテナ利得(dB)を、横軸にDTV帯の周波数(MHz)を目盛り、開口部21のサイズを、縦方向の辺長Yを560mmで固定し、横方向の辺長Xを、140mm、280mm,420mmとした場合の、それぞれにおける周波数毎のアンテナ利得a、b、cをグラフ表記したものである。また、以下の表1(a)に、それぞれにおける具体的な値を纏めた。
【0031】
図4(b)も同様、縦軸にアンテナ利得(dB)、横軸にDTV帯の周波数をそれぞれ目盛り、開口部21のサイズを、縦方向の辺長Yを280mmで固定し、横方向の辺長Xを、140mm、280mm,420mmとした場合の、それぞれにおける周波数毎のアンテナ利得a、b、cをグラフ表記したものである。また、以下の表1(b)に、それぞれにおける具体的な値を纏めた。
【0032】
【表1】
【0033】
図4(a)或いは表1(a)によれば、開口部21のガラス面22の縦方向の辺長Yが560mmで固定の場合、横方向の辺長Xが140〜420mmに変化しても、アンテナ利得は、例えば、500[MHz]では、−1.0、−1.0,−1.1[dB]のように、また、平均でも、−5.7、−5.9,−5.6[dB]のように、ほとんど変化がない。
【0034】
しかしながら、図4(b)或いは表1(b)によれば、開口部21のガラス面22の縦方向の辺長Yが280mmになり、横方向の辺長Xが140〜420mmに変化すれば、アンテナ利得は、500[MHz]では、−1.9、−0.5,−0.4[dB]のように、また、平均でも、−2.1,−1.7,−1.7[dB]のように変化することがわかった。すなわち、縦方向の辺長Yが560mmよりも280mmに固定した方が高利得となる帯域が広く、また、縦方向の辺長Yが560mmの場合、共振周波数である600MHzの値は高いが、高利得になる帯域が狭いことがわかった。すなわち、縦方向の辺長Yがアンテナ性能に影響していることがわかった。
【0035】
次に、発明者らは、縦方向の辺長Yとアンテナ性能との関係について評価した。ここでは、図5に示されるように、アンテナ素子23の素子長を70mmとし、開口部21の横方向の辺長Xを420mmに固定し、その縦方向辺長Yを、70mm(1/4波長)〜560mm(2波長)迄順次変化させることにより、DTV帯域の水平偏波の電波受信時のアンテナ利得を評価した。その場合の周波数特性を図6に、具体的な値を以下の表2(c)に纏めた。
【0036】
【表2】
【0037】
図6は、縦方向にアンテナ利得[dB]、横方向にDTV帯域の周波数を目盛り、開口部21の縦方向の辺長を560mm(a)〜70mm(h)まで変化させた場合の周波数毎のアンテナ利得をグラフ表記した周波数特性図である。また、表2(c)は、縦方向の辺長Y毎のアンテナ利得について、波長(λ)と、利得、及び辺長Yを280mmの利得を基準に正規化した値とにより示したものである。なお、ここに示される「利得」とは、辺長Y毎に測定される平均利得を300〜900MHzの間の平均利得で除算した値をいう。
【0038】
図6のグラフ或いは表2(c)によれば、グラフeで示される縦方向の辺長Yを280mmに設定した場合の利得が最もが高く(−1.67)、他に比較して高利得となる帯域が広いことがわかる。
【0039】
そこで、本実施例では、開口部21の辺長がアンテナ素子23の1波長分である280mmを超える場合に、開口面調整素子26a、26bを設けることでアンテナ性能を向上させることとした。この開口面調整素子26a、26bは、例えば、図7に示されるように、アンテナ素子23との間隔が上下それぞれ1/2波長である140mmの位置からボディフランジ25に向かってアンテナ素子23と略平行に設置されている。実際の開口部21は、縦方向の辺長が560mm(2波長分)であるにもかかわらず、この開口面調整素子26a、26bを設けることで、開口部21の縦方向の辺長が280mmの場合と等価であると見なすことができる。
【0040】
発明者らは更に、図7に示されるように、開口面調整素子26a、26bの給電位置を基準として上下方向に各5本ずつ配置し、この開口面調整素子26a、26bの線幅mを1mm〜21mm迄、順次変更しながら、都度、アンテナ性能を評価した。なお、アンテナ素子23の素子長は70mmとした。そのときの評価結果である周波数特性を図8に、そのときの具体的な値を以下の表3(d)に纏めた。
【0041】
【表3】
【0042】
図8は、縦軸にアンテナ利得(dB)、横軸にDTV帯域の周波数を目盛り、開口面調整素子26a、26bの線幅mを1mm(c)〜21mm(i)まで変化させたときのアンテナ性能(利得)を示した周波数特性図である。なお、図8の周波数特性図において、比較対照の意味で、開口面調整素子26a、26bを持たない横方向の辺長が420mm、縦方向の辺長が280mm(以下、単に420×280)の開口部21を有するガラスアンテナ(REF:基準)と、横方向の辺長420mm×縦方向の辺長560mmの開口部21を持つガラスアンテナのアンテナ性能を、それぞれ(a)(b)として示している。
【0043】
図8、及び表3(d)から明らかなように、開口面調整素子26a、26bの本数を5本に固定した場合で、開口面調整素子26a、26bの線幅mが1mmのときに、420×280のガラスアンテナの利得を基準として正規化した値が−0.82(dB)になる。また、開口面調整素子26a、26bの線幅mが2mmの場合、正規化した値は−0.19(dB)となり、ほぼ基準とする420×280mmのガラスアンテナと同等の性能を得ることができた。開口面調整素子26a、26bの線幅が細くなれば、若干の利得低下は発生するものの、概ね基準で示される開口部21の縦方向Yの辺長280mm(1波長)と同じアンテナ性能が得られる。すなわち、実際の開口部21は、縦方向の辺長が560mm(2波長)であるにもかかわらず、開口面調整素子26a、26bを設けることで、開口部21の縦方向の辺長を280mmと等価であると見なすことができる。
【0044】
次に、発明者らは、開口面調整素子26の配線間隔(ピッチ)とアンテナ性能との関係を評価した。ここでも実際の開口部21の辺長は、縦方向が560mmであるにもかかわらず、開口面調整素子26a、26bを設置することで、縦方向が260mmの辺長を有する場合と同様に見なすことができる。ここでは、図7に示されるように、給電点24の給電位置を基準に上下それぞれに設置される開口調整素子26a、26bの本数を、1本から5本まで変更した。
【0045】
図9に示す例では、開口面調整素子26aの上部に、アンテナ素子23と略平行に1/n波長の間隔で配置された第3の開口面調整素子(開口面調整素子26c)を配置し、同じく、第2の開口面調整素子(開口面調整素子26b)の下部に、アンテナ素子23と略平行に1/n波長の間隔で第4の開口面調整素子(開口面調整素子26d)を配置した例が示されている。但し、nは任意とする。開口面調整素子は、図9に示す例に限らず、図8に示すように、開口面調整素子を上下各5本迄配置して性能評価を行った。
【0046】
ここでは、開口面調整素子26a、26b、26c、26dの線幅wは各2mmに固定した。なお、開口面調整素子26a、26b、26c、26dの配線間隔dは、素子の本数に応じて変更されるものとし、開口面調整素子26a、26bが上下各1本の場合の配線間隔dは140mm(1/2波長)、2本の場合の配線間隔は70mm(1/4波長)、各4本の場合の配線間隔は35mm(1/8波長)とした。
【0047】
このときの評価結果である周波数特性を図10に示し、そのときの具体的な値を以下の表4(e)に纏めた。
【0048】
【表4】
【0049】
図10は、縦軸にアンテナ利得(dB)、横軸にDTV帯域の周波数を目盛り、開口面調整素子26a、26bの配線間隔を140mm(c)〜28mm(g)まで変更したときのアンテナ性能を示す周波数特性図である。なお、比較対照の意味で、開口面調整素子26a、26bを持たない辺長が横420×縦280mm(以下、単に420×280)の開口部21を持つガラスアンテナと、横420×縦560mm(以下、単に420×560)の開口部21を持つガラスアンテナを、それぞれ(a)(b)として示している。
【0050】
図10及び表4(e)から明らかなように、開口面調整素子26a、26bを各1本しか設置しない場合は、利得は基準(420×280)と比較して2.37(dB)低下している。この場合、開口面調整素子26a、26bとボディフランジ25との間隔は140mm(1/2波長)である。又、開口面調整素子26a、26bが各2本の場合は平均利得の低下が1(dB)未満である。この場合、開口面調整素子26a、26bの配置間隔は70mm(1/4波長)である。すなわち、開口面調整素子26a、26bの配線間隔は、最低限、アンテナ素子23の素子長の1/4波長に設置すれば、開口面がアンテナの1波長分(420×280)である場合と同等の効果が得られる。
【0051】
図9を例示すれば、開口面調整素子26a(第1の開口面調整素子26a)の上方向に、アンテナ素子23が延びる方向と略平行に1/4波長以下の間隔で開口面調整素子26c(第3の開口面調整素子)を配置し、開口面調整素子26b(第2の開口面調整素子)の下方向に、アンテナ素子23が延びる方向と略平行に1/4波長以下の間隔で開口面調整素子26d(第4の開口面調整素子)を配置すれば、開口面がアンテナの1波長分(420×280)である場合と同等の効果が得られる。
【0052】
以上説明のように、発明者らの評価によれば、アンテナ素子23の素子長が、ガラスの短縮率込みで例えば70mmの1/4波長モノポールアンテナを車体開口部21のガラス面22上に設置し、車両のピラー側辺の上下方向の略中央部位で給電する場合、ピラーの辺長が1波長分である280mm(上下140mmずつ)の場合、高利得となる周波数帯域が広くなることがわかった。ピラーの辺長が280mmを超過すると、高利得となる周波数帯域が600MHz付近に限定され、DTV帯域の平均利得が低下する。
【0053】
このため、本実施例では、開口面調整素子26a、26bにより、開口部21のガラス面22を狭く調整することでアンテナ性能の向上をはかることとした。なお、このとき開口面調整素子26a、26bの配置間隔は、アンテナ共振周波数の1/4波長(70mm)以下とする。これは、導体であるボディフランジ25を介して車両ボディに流れる電流が、給電点24を中心に1/2波長ずつ分布されるため、車両ボディに形成されるイメージアンテナがアンテナ性能に良い条件に作用するものと考えられる。
【0054】
図11に、図2の変形例を(a)〜(e)の5例示す。図2と共通する番号は、符号を流用して説明を省略する。
【0055】
図11(a)において、図2に示す実施例との差異は、開口部21が長方形状ではなく、図1に示すような実際の車両のクォータガラスに適応するように、開口部21が台形形状をしている。開口面調整素子26a、26bは、実施例と同様、給電位置の上下方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、ボディフランジ25またはアンテナ素子23の延びる方向と略平行に配置される。
【0056】
図11(b)、(c)において、図2に示す実施例との差異は、開口部21の形状が三角形状となっていることであり、実際の車両のオペラグラスに適応する形状になっている。開口面調整素子26a、26bは、実施例と同様、給電位置の上下方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、ボディフランジ25またはアンテナ素子23の延びる方向と略平行に配置される。
【0057】
図11(d)、(e)において、図2に示す実施例、及び図11(a)(b)(c)に示す変形例との差異は、車体の開口部21のガラス面22に配置される開口面調整素子26が、線状ではなくアンテナ素子23を取り囲むループ形状になっていることである。図11(d)には2本の開口面調整素子26を実装する例が、図11(e)には1本の開口面調整素子26を実装する例が示されている。いずれの場合においても、開口面調整素子26を、アンテナ給電位置から上下方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空けた位置であって、かつアンテナ素子23と略平行に設置すれば良く、開口面調整素子26や開口部21の形状に依存するものではない。
【0058】
(実施例の効果)
以上説明のように本実施例によれば、開口面調整素子26a、26bを、ガラス面22に実装されるアンテナ素子23の給電位置(給電点24)の上下又は左右方向にそれぞれ1/2波長分の間隔を空け、かつアンテナ素子23が延びる方向と略平行に配置することで、アンテナ素子23が実装される車体の開口面積を調整することができる。この場合、車体の導体に流れる電流が給電点24を中心にそれぞれ1/2波長(合計1波長)ずつ分布されるため、車体に形成されるイメージアンテナがアンテナ素子に性能面で良い影響を与え、結果的にアンテナ性能が向上する。
【0059】
また、側辺給電の場合、開口面調整素子26a、26bをアンテナ素子23の給電位置を基準に上下方向に配置し、一方、上辺給電の場合、開口面調整素子26a、26bをアンテナ素子23の給電位置を基準に左右方向に配置することで、水平偏波、垂直偏波の両方の電波を良好に受信可能となる。また、開口面調整素子26a、26bを複数設け、その配置間隔を最低限アンテナ素子23の素子長の1/4波長とすることで、高い利得を得ることができる。開口面調整素子26a、26bの本数とアンテナ性能についての発明者らの評価によれば、開口面調整素子を1本しか設置しない場合は、開口面がアンテナの1波長分である場合と比較してその平均利得が低下するのに対し、2本設置した場合に開口面がアンテナの1波長分である場合と同等の効果が得られることを確認できた。
【0060】
更に、本実施例によれば、クォータガラス等、側部窓ガラス20Lに実装したアンテナ素子23の素子長に対し、車体の開口面積が広すぎる場合は勿論のこと、狭すぎる場合についても同様、アンテナ素子長と開口面積との間で整合がとれない場合に開口面調整素子26a、26bを配置することで、開口面積の狭い側部窓ガラスにも高いアンテナ性能を有するDTVアンテナを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のガラスアンテナは、クォータガラスに限らず、オペラウィンドウや三角窓等、比較的狭面積が要求される車両の側部窓ガラスに適用して顕著な効果が得られる。
【符号の説明】
【0062】
10…車両、11…車体、20L…クォータガラス、21…車体の開口部、22…ガラス面、23…アンテナ素子、24…給電点、25…ボディフランジ、26(26a、26b、26c、26d)…開口面調整素子、30…ガラスアンテナ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の開口部に取り付けられたガラス面と、
このガラス面の縁部に位置するアンテナ給電点から、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子と、
このアンテナ素子と略平行に、前記アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてそれぞれ配置される第1、第2の開口面調整素子と、
を有することを特徴とするガラスアンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ素子の給電点を前記ガラス面の側辺に形成した側辺給電の場合、
前記第1の開口面調整素子は、前記アンテナ素子の上に、前記第2の開口面調整素子は下に、共に前記アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けて前記アンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする請求項1記載のガラスアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナ素子の給電点を前記ガラス面の上辺に形成した上辺給電の場合、
前記第1の開口面調整素子は、前記アンテナ素子の左に、前記第2の開口面調整素子は右に、共に前記アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けて前記アンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする請求項1記載のガラスアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナ素子の素子長は、
1/4波長であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載のガラスアンテナ。
【請求項5】
前記第1の開口面調整素子は、
1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする請求項4記載のガラスアンテナ。
【請求項6】
前記第2の開口面調整素子は、
1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする請求項4記載のガラスアンテナ。
【請求項7】
前記アンテナ素子は、受信帯域が、デジタルテレビ放送帯域を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載のガラスアンテナ。
【請求項1】
車体の開口部に取り付けられたガラス面と、
このガラス面の縁部に位置するアンテナ給電点から、送信波の偏波面に対し略平行に延びる任意の素子長を有するアンテナ素子と、
このアンテナ素子と略平行に、前記アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けてそれぞれ配置される第1、第2の開口面調整素子と、
を有することを特徴とするガラスアンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ素子の給電点を前記ガラス面の側辺に形成した側辺給電の場合、
前記第1の開口面調整素子は、前記アンテナ素子の上に、前記第2の開口面調整素子は下に、共に前記アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けて前記アンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする請求項1記載のガラスアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナ素子の給電点を前記ガラス面の上辺に形成した上辺給電の場合、
前記第1の開口面調整素子は、前記アンテナ素子の左に、前記第2の開口面調整素子は右に、共に前記アンテナ素子の素子長の半分の間隔を空けて前記アンテナ素子の長さ方向と略平行に配置されることを特徴とする請求項1記載のガラスアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナ素子の素子長は、
1/4波長であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載のガラスアンテナ。
【請求項5】
前記第1の開口面調整素子は、
1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする請求項4記載のガラスアンテナ。
【請求項6】
前記第2の開口面調整素子は、
1/4波長以下の間隔で複数配置されることを特徴とする請求項4記載のガラスアンテナ。
【請求項7】
前記アンテナ素子は、受信帯域が、デジタルテレビ放送帯域を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載のガラスアンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−134832(P2012−134832A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286190(P2010−286190)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
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