説明

ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法

【課題】
機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を得るためのガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法、及び、この製造方法により得ることのできるガラス繊維強化樹脂ペレットを提供する。
【解決手段】
ガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの貫通孔に通して引抜き、樹脂含浸ガラス繊維束を得る引抜工程と、樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレットを得る切断工程と、を含む、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法であって、引抜工程において有機シランを共存させて引抜を行う、製造方法、及び、この製造方法により得ることのできる、ガラス繊維強化樹脂ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法、ガラス繊維強化樹脂ペレット及びガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法の一つとして、複数本の連続したガラス繊維を束ねて巻き取ったガラス繊維束を熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引抜いた後に切断する方法がある。この方法によって得られたガラス繊維強化樹脂ペレットを用いて製造するガラス繊維強化樹脂成形品は、従来の繊維を複数本束ねて所定の長さに切断したチョップドストランドを溶融した樹脂ペレットとともに混合し、これを射出成形して製造する成形品と比較して、長い繊維が樹脂と絡み合うことから、高い機械的強度を得ることができる。
【0003】
このガラス繊維強化樹脂成形品に用いられるガラス繊維束には、複数本のガラス繊維を束ねる目的や、巻き取る際の摩擦等による毛羽立ちを避ける目的で、集束剤が用いられる。集束剤中には有機シランが含まれている。
【0004】
近年、ガラス繊維強化樹脂がより厳しい環境で使用されることが増えており、ガラス繊維強化樹脂に対して更に高い性能が要求されている。有機シランの量は、ガラス繊維強化樹脂の特性に大きく影響を与える。
【0005】
特許文献1と特許文献2では有機シランを集束剤中に含ませてガラス繊維束に用いる方法が開示されている。また、特許文献3では、炭素繊維にエポキシ樹脂を含む一次処理剤を付着させ炭素繊維束とし、次いで、炭素繊維束にアミノシラン化合物を含む二次処理剤を付着させる方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3935468号公報
【特許文献2】特開2006−342469号公報
【特許文献3】特開2006−291039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス繊維強化樹脂ペレット中に存在する有機シランの量を、従来以上に増加させることができれば、このガラス繊維強化樹脂ペレットを成形することによって、より機械的強度の高いガラス繊維強化樹脂成形品を得ることが可能になると考えられる。
【0007】
しかしながら、多量の有機シランを集束剤中に含ませてガラス繊維束に用いると、ガラス繊維束が折れる、巻き取りができないなどの問題がある。さらに、特許文献3のように繊維束に二次処理剤として付着させる方法は、繊維束が硬くなり巻き取り保管ができないため、工程管理が煩雑になる、繊維束の巻きだし後に乾燥が必要である、乾燥コストが高い、などの点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を得るためのガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法、すなわち、ガラス繊維強化樹脂ペレット中に存在する有機シランの量を従来以上に増加させることが可能な、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法を提供することを目的とする。また、この製造方法で得ることのできるガラス繊維強化樹脂ペレット及びこのガラス繊維強化樹脂ペレットを用いたガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法は、ガラス繊維を複数本束ねたガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引抜き、樹脂含浸ガラス繊維束を得る引抜工程と、該樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレットを得る切断工程と、を含む、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法であって、該引抜工程において有機シランを共存させて引抜きを行う、製造方法に関する。
【0010】
本発明の方法によって製造したガラス繊維強化樹脂ペレットは、射出成形してガラス繊維強化樹脂成形品にした場合に、高い機械的強度を示す。このような効果が得られる一因として、有機シランを集束剤に含めて添加するだけの従来の方法に比べて、有機シランの量を更に増加させることが可能であるため、ガラス繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性のムラが少なくなり、濡れ性が向上して、ガラス繊維と熱可塑性樹脂間の接着力が向上することが考えられる。同時に、集束剤として添加する有機シランは増量されないため、ガラス繊維束が折れる、巻き取りができない、などの問題も発生することなく、上記目的を達成することができる。
【0011】
また、引抜工程における有機シランの量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.30〜4.00質量部の範囲にすることが好ましい。あるいは、引抜工程で添加する有機シランの量は、ガラス繊維強化樹脂ペレット100質量部に対して、0.10〜2.00質量部であってもよい。又は、ガラス繊維強化樹脂ペレット中のガラス繊維100質量部に対して0.15〜3.00質量部であってもよい。
【0012】
尚、本発明における有機シランとは、有機シラン化合物の他、有機シランの縮合物、有機シラン加水分解物及び有機シラン加水分解縮合物を含む概念である。
【0013】
有機シランの量がこの範囲であれば、更に機械的強度が高いガラス繊維強化樹脂成形品の材料となる、ガラス繊維強化樹脂ペレットを製造することが可能である。
【0014】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法は、上記の製造方法により得ることのできるガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形することを特徴とする。
【0015】
これにより、本発明の製造方法により得ることのできるガラス繊維強化樹脂ペレットを様々な形に成形することが可能である。また、従来の成形品よりも機械的強度が高いガラス繊維強化樹脂成形品を得ることが可能である。
【0016】
また、本発明は、上記の方法により得ることができ、ガラス繊維束が、一方向に配列されており、ガラス繊維束の両端面が露出している、ガラス繊維強化樹脂ペレットであって、ガラス繊維強化樹脂ペレット100質量部中に、有機シランが、0.10〜2.00質量部存在する、ガラス繊維強化樹脂ペレットに関する。この有機シランの存在量は不揮発成分換算の量である。
【0017】
本発明のガラス繊維強化樹脂ペレットは、ガラス繊維と熱可塑性樹脂の接着ムラが非常に少ないために、これを用いて成形品を製造した場合、従来のガラス繊維強化樹脂ペレットを用いてガラス繊維強化樹脂成形品を製造した場合よりも格段に機械的強度が高い成形品を得ることが可能である。このような成形品は機械的強度が高いため、実用性に優れる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を得るためのガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、同一要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は本発明の方法によりガラス繊維強化樹脂ペレットを連続製造するための連続製造装置100の概略図である。図2は本発明のガラス繊維強化樹脂ペレット200の斜視図である。また、図3(a)は本発明のガラス繊維強化樹脂ペレット200の正面図、(b)は同側面図である。図4は本発明のガラス繊維強化樹脂成形品を製造するための射出成形機300の概略図である。図2、図3(b)にはガラス繊維束が1本の場合を示しているが、ガラス繊維束が複数本であっても構わない。
【0021】
まず、引抜工程について説明する。
引抜工程において用いられる連続製造装置100は、図1に示すように、熱溶融した熱可塑性樹脂10aを収容した熱可塑性樹脂槽34と、ガラス繊維束21を熱溶融した熱可塑性樹脂10aとともに通過させる貫通孔31が形成されたダイス30と、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束をダイス30から引抜くプーラー40と、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束を所望の長さに切断して、ガラス繊維強化樹脂ペレット200を得る切断機50とを備えている。
【0022】
ダイス30の上流側には、ダイス30に導入すべきガラス繊維束21が巻きつけられた巻糸体22が配置されている。ダイス30の下流側に位置するプーラー40は、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束を、回転するローラで上下から挟み込むいわゆるキャタピラ方式のプーラーである。また、切断機50はブレードをモータMの駆動力で回転させて熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束を切断し、ガラス繊維強化樹脂ペレット200とする切断機である。
【0023】
連続製造装置100を用いてガラス繊維強化樹脂ペレット200を製造するためには、まず、熱可塑性樹脂槽34において、熱可塑性樹脂に有機シランを添加する。有機シランの添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、有機シランの不揮発成分換算で0.30〜4.00質量部、より好ましくは0.40〜3.00質量部、更に好ましくは0.60〜2.50質量部である。有機シランの添加量が0.30質量部未満の場合はガラス繊維強化樹脂成形品の強度向上効果が不十分になる場合がある。逆に、4.00質量部より多い場合はそれ以上添加量を増やしてもガラス繊維強化樹脂成形品を製造したときに強度向上効果があまり見られなかったり、樹脂が変色したり、反応しきれない有機シランが異物として残り、ガラス繊維強化樹脂成形品の強度が低下する場合がある。
【0024】
熱可塑性樹脂への有機シランの添加量は、製造するガラス繊維強化樹脂ペレット100質量部に対して、不揮発成分換算で、0.10〜2.00質量部であってもよい。あるいはガラス繊維強化樹脂ペレット中のガラス繊維100質量部に対して、不揮発成分換算で0.15〜3.00質量部であってもよい。この場合、有機シランの添加量が0.15質量部未満であると、ガラス繊維強化樹脂成形品の強度向上効果が小さくなる場合がある。逆に、3.00質量%より多い場合はそれ以上添加量を増やしてもガラス繊維強化樹脂成形品を製造したときに強度向上効果が小さくなったり、樹脂が変色するなどの問題が生じる場合がある。
【0025】
本発明のように、微量の有機シランを多量の熱可塑性樹脂に対して混ぜる場合は、ムラなく均一に混合することが難しい。有機シランと熱可塑性樹脂が、ムラなく均一に混合していない場合、有機シランの増量効果が熱可塑性樹脂対して充分に発揮されない。
【0026】
そこで、本発明においては、微量の有機シランを多量の熱可塑性樹脂に均一に混ぜるために、引抜工程で有機シランと加熱により低粘度化した熱可塑性樹脂を混合してガラス繊維強化樹脂ペレットとする。本発明の方法によれば、引抜工程と、その後の成形工程での二度の混合を経ることで、微量の有機シランが多量の熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)と充分に混じり合うことができる。その結果、強度ムラのないガラス繊維強化樹脂成形品が得られる。このようにして得られるガラス繊維強化樹脂ペレットを、成形工程において熱可塑性樹脂と混合する際にも、有機シランを添加することができる。
【0027】
有機シランの具体的な添加方法としては、適当な容器の中で、熱可塑性樹脂に有機シランを添加して、振とうにより分散させた後、続いてこの熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂槽34に供給すること等が挙げられる。あるいは熱可塑性樹脂槽34において、熱溶融した熱可塑性樹脂10aに直接有機シランを添加しても良い。
【0028】
続いて、プーラー40を回転駆動させ、巻糸体22からガラス繊維束21を引き出す。ここでテンションをかけてガラス繊維束21を開繊させる。ガラス繊維束21を開繊させることによって樹脂の含浸性が良好になり、ガラス繊維20の1本1本に樹脂を付着させることが可能となる。含浸性が良好であると、ガラス繊維強化樹脂成形品を製造したときにガラスの分散性が良好となり、強度の高い成形品を得ることが可能となる。
【0029】
続いて、引き出されたガラス繊維束21をダイス30の貫通孔31に導入するとともに、ポンプ等を使って、熱溶融させた熱可塑性樹脂10aを貫通孔31に導く。ダイス30中ではガラス繊維束21の周囲及び内部に熱溶融した熱可塑性樹脂10aが含浸し、プーラー40の回転駆動により、貫通孔31の出口側断面形状に対応した形状に成型されながら、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束がダイス30から引抜かれる。
【0030】
熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束に含まれるガラス繊維は、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束100質量部に対して、好適には20〜80質量部であり、更に好適には30〜75質量部である。ガラス繊維の量が20質量部未満では、ガラス繊維による、成形品の機械的強度向上の効果が小さくなる場合がある。また、ガラス繊維を80質量部を超えて含む場合は、樹脂含浸性が低下し、成形品の機械的強度向上の効果が小さくなる場合がある。
【0031】
ここで、ダイス30とプーラー40の間に、熱溶融した熱可塑性樹脂10aの固化を促進するための冷却手段を設置してもよい。これは、例えば水などの液体を触れさせることで行っても良いし、空冷により行っても良い。更に、ダイス30とプーラー40との間に、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束21の断面形状を整える成型手段を設置してもよい。
【0032】
続いて、切断工程について説明する。
切断工程においては、熱可塑性樹脂が含浸し、切断に適した状態に樹脂が固化したガラス繊維束を切断機50により切断し、ガラス繊維強化樹脂ペレット200を得る。ペレット長は3〜30mmが好適である。
【0033】
切断工程で得られたガラス繊維強化樹脂ペレット200は成形前に揮発成分を除去することが好ましい。揮発成分を除去することで有機シランの不揮発成分が樹脂含浸ガラス繊維束に残り、接着効果を高めることができ、機械的強度の優れたガラス繊維強化樹脂成形品を得ることができる。また、揮発成分が成形工程において発泡し、不良となることが防止できる。
【0034】
揮発成分の除去は常圧で行ってもよいが、10kPa以下の減圧下で行うことがより好ましい。常圧での揮発成分の除去は、100〜150℃での保温により行うことが好ましい。減圧下での揮発成分の除去は、60〜100℃、より好ましくは70〜90℃、更に好ましくは75〜85℃の保温により行なうことが好ましい。また、保温時間は約15時間であることが好ましい。揮発成分の除去を減圧下で行うことで、ガラス繊維強化樹脂ペレットの温度を低く抑えることができ、高温による有機シランの熱分解を防止できる。
【0035】
図2は上記の製造方法により製造された、本発明のガラス繊維強化樹脂ペレット200の斜視図である。また、図3(a)はガラス繊維強化樹脂ペレット200の正面図、(b)は同側面図である。
【0036】
図2及び図3に示すように本発明のガラス繊維強化樹脂ペレット200は、熱可塑性樹脂からなるペレット10中に、ガラス繊維20を複数本束ねたガラス繊維束21を一方向に配列させたものである。また、図3(b)から明らかなようにこのガラス繊維20の端面は、ペレット10から露出している。なお、図2(b)では一方の側面(端面)のみを示しているが、他方の側面(端面)にもガラス繊維20が到達しており、端面はペレット10から露出している。
【0037】
更に、図1及び図2では図示していないが、ガラス繊維強化樹脂ペレット200の表面及び内部には、ガラス繊維の集束剤に含まれていた有機シラン、及び、引抜工程で添加された有機シランが付着している。このようなガラス繊維強化樹脂ペレット200を用いて、ガラス繊維強化樹脂成形品を製造すると、優れた機械的強度を持つ成形品を得ることができる。
【0038】
続いて、ガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法について説明する。
ガラス繊維強化樹脂ペレット200の成形は、例えば射出成形機300により行うことができる。図4に示すように、射出成形機300は、ホッパー60と呼ばれる樹脂ペレットの投入口と、シリンダー70と、ヒーター75と、スクリュー80とを備えている。シリンダー70の出口には金型90が設置されている。
【0039】
ガラス繊維強化樹脂ペレット200は、ガラス含有量が高すぎる場合、射出成形時に樹脂が完全に充てんされず、内部に空隙ができたり正確に形状が転写されなくなったりする不具合(ショートショット)が発生してしまう。このため、ガラス繊維強化樹脂ペレット200にポリプロピレン樹脂を更に添加して、ガラス含有量を調節する。
【0040】
ガラス繊維強化樹脂成形品のガラス含有量は、ガラス繊維強化樹脂成形品全体を100質量部とした場合に10〜60質量部、より好ましくは20〜50質量部、更に好ましくは30〜40質量部が好ましい。ガラス含有量が10質量部未満では繊維強化樹脂の強度が不足する場合があり、60質量部より高い含有量ではショートショットなどの成形不良が出てしまう場合がある。
【0041】
まず、ガラス繊維強化樹脂ペレット200及びガラス含有量調整のためのポリプロピレン樹脂を射出成形機300のホッパー60に投入し、シリンダー70をヒーター75で過熱して溶融させる。溶融温度は240〜280℃、より好ましくは250℃〜260℃である。シリンダー70内のスクリュー80で、溶融した樹脂とガラスを混ぜながらシリンダー70の先端に送る。この過程でガラスが折られ、残存繊維長が短くなる。例えば、ガラス繊維強化樹脂ペレット200の状態で10mmあったガラス繊維20はシリンダー70通過後に5〜7mmまで短くなる。
【0042】
シリンダー70内で熱を加えることによって、有機シランが樹脂やガラスと反応し、更に樹脂改質及び樹脂とガラスの接着向上の効果が得られる。
【0043】
続いて、上記溶融したガラス繊維強化樹脂に圧力をかけて金型90に打ち込む。その後に、金型90内で樹脂を冷却し、固化した後、ガラス繊維強化樹脂成形品を取り出す。
以上の方法により、ガラス繊維強化樹脂成形品が得られる。
【0044】
続いて、本発明に用いるガラス繊維束21について説明する。
ガラスの種類としては、Eガラス、Sガラス、低誘電ガラス、Tガラス、NCRガラス、Cガラス等が挙げられるが、繊維化が容易であるという点からEガラスが好ましい。
【0045】
ガラス繊維20はブッシングと呼ばれる白金製の容器から溶融したガラスを引き出して製造される。1束に集束されるガラス繊維の数は500〜10000本が好ましく、1600〜8000本が更に好ましく、2000〜4000本が最も好ましい。ガラス繊維の本数が500本未満である場合は、ペレットの製造効率が低下してしまい、作業性が低下する。強化繊維の本数が10000本を超す場合は、ペレットが太くなりすぎ、ペレットの作製時にトラブルが発生しやすくなり、樹脂含浸性が低下することがある。
【0046】
ガラス繊維20の繊維径は3〜23μmが好ましく、9〜20μmがより好ましい。繊維径が3μm未満の場合は、ガラス繊維とするのが難しい。また、23μmを超える場合は、樹脂含浸性が低下する場合がある。ガラス繊維20が集束されたガラス繊維束21は巻糸体22に巻き取られ、保管される。
【0047】
本発明で使用するガラス繊維束21の番手は50〜8200Texが好ましく、800〜3200Texがより好ましい。更に好ましくは1600〜2400Texである。
【0048】
本発明で使用するガラス繊維束にはガラス繊維を束ねる際に集束剤が用いられる。集束剤は、集束剤中の不揮発成分が、ガラス繊維100質量部に対して、0.05〜0.5質量部付着していることが好ましい。ここで、不揮発成分とは、130℃の温度で揮発しない成分のことをいう。ガラスに付着する集束剤中の不揮発成分が0.05質量部未満では、ガラス繊維の収束性の低下が起こりやすく、毛羽が発生しやすい。また、ガラスに付着する集束剤中の不揮発成分が0.5質量部を超える場合は、引抜工程において樹脂含浸性が低下し、成形品の機械的強度向上の効果が小さくなる場合がある。
【0049】
集束剤に含まれる有機シランと引抜工程で熱可塑性樹脂に含まれる有機シランとは、同一でも異なっても良いが、同一の有機シランを用いる方がより好ましい。
【0050】
集束剤に含まれる不揮発成分は、有機シランのほか、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の皮膜形成剤、及び油脂、界面活性剤、帯電防止剤等が含まれるが、これに限定されない。
【0051】
本発明に係る熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。元来ポリオレフィン系樹脂はガラス繊維に対する濡れ性が悪く、従来の製造方法では、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品を製造することができなかった。しかしながら、本発明に係る製造方法によれば、この問題が解消されるため、機械的強度に優れたガラス繊維強化樹脂成形品の材料となる、ガラス繊維強化樹脂ペレットを製造することが可能となる。
【0052】
ポリオレフィン系樹脂としてはポリプロピレン樹脂が特に好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、例えばプライムポリマー社のS119(商品名)やJ108M(商品名)などが好適に利用できる。
【0053】
本発明で用いる有機シランは、加水分解性基を有するものが好ましく、シランカップリング剤が特に好ましい。加水分解性基としては、アルコキシ基、メルカプト基、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、ケトキシメート基、アミノオキシ基、カルバモイル基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0054】
好適な有機シランは、下記一般式(1)で表される。
式中、Rは、疎水基に該当する。Rは、ビニル基、エポキシ基、アミノ基又はメルカプト基を有していてもよい1価の有機基であることが好ましい。
は、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6が好ましく、炭素数1〜3がより好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。また、nは1〜3の数であり、2〜3がより好ましく、3が特に好ましい。
【0055】
【化1】

【0056】
本発明に使用可能な有機シランとしては;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が例示できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定される物ではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0058】
(集束剤の調製)
マレイン酸変性ポリプロピレン(東邦化学工業株式会社製、商品名:P―5700、不揮発成分濃度:30質量%)1.0質量部(不揮発成分換算で0.30質量部)と、有機シランとしてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(不揮発成分濃度:60質量%)0.2質量部(不揮発成分換算で0.12質量部)と、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物に酢酸を加えpHを4.5〜5.5に調整した調製物であるTEPA/SA(東邦化学工業株式会社製、商品名:HG−180、不揮発成分濃度:30質量%)0.5質量部(不揮発成分換算で0.15質量部)と、ポリオキシエチレンアルキレン(アデカ社製、商品名:プルロニックL44、不揮発成分:100質量%)0.4質量部と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(花王株式会社製、商品名:エマルゲンLS110、不揮発成分:100質量%)0.2質量部と、水とを混合して100質量部にし、集束剤を調製した。
【0059】
(実施例1)
上記のようにして得られた集束剤によって、ガラス繊維径17μmのガラス繊維を集束し、4000本のガラス繊維からなるガラス繊維束を得た。ガラス繊維束の番手は2400Texであった。
【0060】
集束剤が付着したガラス繊維束を125℃で23時間保温して揮発性成分を除去し、ガラス繊維束を得た。ガラス繊維束に付着した集束剤中の不揮発成分は、ガラス繊維束中のガラスを70質量部とした場合に0.29質量部であり、このうち有機シランの不揮発成分は0.03質量部であった。ここで、ガラス繊維束中のガラスとは、すなわち、このガラス繊維束から製造される、ガラス繊維強化樹脂ペレット中のガラスと同義である。以下の実施例は、ガラス繊維束のガラス繊維70質量部に対して記載した。
【0061】
引抜工程において、熱可塑性樹脂槽34で熱可塑性樹脂を混合した。熱可塑性樹脂の成分は、ポリプロピレン樹脂((株)プライムポリマー社製、商品名:S119)が23.01質量部、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(東邦化学工業株式会社製、商品名:P―5700)が6.99質量部であった。この混合樹脂に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(不揮発成分濃度:60質量%)を添加した。γ−アミノプロピルトリエトキシシランの添加量は、0.25質量部(不揮発成分換算で、0.15質量部)であった。
【0062】
引抜工程でガラス繊維束70.29質量部に対して、上記混合樹脂を30.25質量部含浸した。引抜工程におけるガラス繊維束には、集束剤由来の有機シランが、0.03質量部付着していたため、ガラス繊維強化樹脂ペレットに存在する有機シランの総量は0.18質量部(不揮発成分換算)となった。このペレットを実施例1のガラス繊維強化樹脂ペレットとした。
【0063】
続いて、実施例1のガラス繊維強化樹脂ペレットを、上述したように揮発成分の除去処理に供した後、成形した。ガラス繊維強化樹脂ペレット中のガラスを70質量部として、ポリプロピレン樹脂((株)プライムポリマー社製、商品名:S119)75質量部を混合し、シリンダー温度260℃、金型温度45℃、射出圧40kg/cmで射出成形し、実施例1のガラス繊維強化樹脂成形品が得られた。この樹脂成形品のガラス含有率は、樹脂成形品全体を基準として39.9質量%であった。また、この樹脂成形品は、長さ方向の両側につかみしろ部を有し、長さ216mm、幅12mm、厚さ3mmの大きさであった。
【0064】
(実施例2)
引抜工程において、熱可塑性樹脂槽34で、ポリプロピレン樹脂((株)プライムポリマー社製、商品名:S119)23.01質量部と、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(東邦化学工業株式会社製、商品名:P―5700)6.99質量部とを混合した。この混合樹脂に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(不揮発成分濃度:60質量%)を0.47質量部(不揮発成分換算で、0.28質量部)添加し、続いてガラス繊維束70.29質量部に対して、この混合樹脂を30.47質量部含浸し、実施例2のガラス繊維強化樹脂ペレットを得た。引抜工程におけるガラス繊維束には、集束剤由来の有機シランが、0.03質量部付着していたため、ガラス繊維強化樹脂ペレットに存在する有機シランの総量は0.31質量部(不揮発成分換算)となった。実施例2のガラス繊維強化樹脂ペレットを成形工程に供し、実施例1と同様にして実施例2のガラス繊維強化樹脂成形品を得た。
【0065】
(実施例3)
引抜工程において、熱可塑性樹脂槽34で、ポリプロピレン樹脂((株)プライムポリマー社製、商品名:S119)23.01質量部と、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(東邦化学工業株式会社製、商品名:P―5700)6.99質量部とを混合した。この混合樹脂に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(不揮発成分濃度:60質量%)を1.13質量部(不揮発成分換算で、0.68質量部)添加し、続いてガラス繊維束70.29質量部に対して、この混合樹脂を31.13質量部含浸し、実施例3のガラス繊維強化樹脂ペレットを得た。引抜工程におけるガラス繊維束には、集束剤由来の有機シランが、0.03質量部付着していたため、ガラス繊維強化樹脂ペレットに存在する有機シランの総量は0.71質量部(不揮発成分換算)となった。実施例3のガラス繊維強化樹脂ペレットを成形工程に供し、実施例1と同様にして実施例3のガラス繊維強化樹脂成形品を得た。
【0066】
(比較例1)
引抜工程で熱可塑性樹脂に有機シランを加えずに、比較例1のガラス繊維強化樹脂ペレットを得た。比較例1のガラス繊維強化樹脂ペレットには、集束剤由来の有機シランが、ガラス繊維束中のガラスを70質量部とした場合に0.03質量部付着していた。比較例1のガラス繊維強化樹脂ペレットを成形工程に供し、実施例1と同様にして比較例1のガラス繊維強化樹脂成形品を得た。
【0067】
(強度試験)
実施例1〜3及び比較例1で得られた試験片について、ASTM D−638に準じ、引張強度を測定した。また、ASTM D−790に準じ、曲げ強度を測定した。また、ASTM D−256に準じIZOD衝撃強度を測定した。
結果を表1にまとめた。表中、ガラス繊維強化樹脂ペレットの質量は、揮発成分除去後の質量を表す。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ガラス繊維強化樹脂ペレットを連続製造するための連続製造装置の概略図である。
【図2】本発明のガラス繊維強化樹脂ペレットの斜視図である。
【図3】(a)本発明のガラス繊維強化樹脂ペレットの正面図、(b)は同側面図である。
【図4】ガラス繊維強化樹脂成形品を製造するための射出成形機の概略図である。
【符号の説明】
【0070】
10…熱可塑性樹脂、10a…熱溶融した熱可塑性樹脂、20…ガラス繊維、21…ガラス繊維束、22…巻糸体、30…ダイス、31…貫通孔、34…熱可塑性樹脂槽、40…プーラー、50…切断機、60…ホッパー、70…シリンダー、75…ヒーター、80…スクリュー、90…金型、100…連続製造装置、200…ガラス繊維強化樹脂ペレット、300…射出成形機。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引抜き、樹脂含浸ガラス繊維束を得る引抜工程と、
前記樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレットを得る切断工程と、
を含む、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法であって、
前記引抜工程において有機シランを共存させて引抜きを行う、製造方法。
【請求項2】
前記引抜工程における、有機シランの量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.30〜4.00質量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得ることのできるガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形する、ガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法により得ることができ、
前記ガラス繊維束が、一方向に配列されており、当該ガラス繊維束の両端面が露出している、ガラス繊維強化樹脂ペレットであって、
前記ガラス繊維強化樹脂ペレット100質量部中に、有機シランが、0.10〜2.00質量部存在する、ガラス繊維強化樹脂ペレット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−242621(P2009−242621A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91471(P2008−91471)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】