説明

キノコ栽培方法及びキノコ栽培用培地

【課題】安心・安全な天然物由来成分を利用したキノコ栽培法及び高品質キノコを提供すること。
【解決手段】キノコ栽培方法であって、可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材を使用してキノコを栽培する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコの栽培方法に関する。また、本発明は、上記のキノコ栽培方法に用いるのに好適なキノコ栽培用培地、キノコ栽培用培地添加剤、及び、培地配合物または培地添加剤として用いるのに好適なキノコエキスに関する。
【0002】
さらに、本発明は、上記栽培方法によって得られるキノコに関する。
【背景技術】
【0003】
キノコは分類学上、担子菌類、子襄菌類、多室担子菌類、一室担子菌類等に属する。なかでも、シイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、マイタケ、エリンギ等が食用として消費されており、特にシイタケは、最も馴染みある食用キノコの一つである。近年、キノコの持つ栄養性分や機能性成分が注目されるようになったことから、生鮮食材はもとより健康食品等の加工にも用いられるようになり、その需要は増加の傾向にある。
【0004】
キノコの栽培方法として、近年、菌床栽培が普及しており、安定した生産量を維持している。キノコの栽培方法の評価においては、キノコ(子実体)の発生量、及び収穫されるキノコの形状(大きさを含む)が主な指標となっており、その改善手段として各種栄養材が開発され、米糠等の天然物をはじめ様々な原料が使用されている。
【0005】
一方、消費者の食に対する関心の高まりとともに、安心で安全なキノコ栽培が望まれているが、従来より栄養材として使用されているものは、試薬等の化学合成品であったり、天然物であっても廃棄物由来のものや生産履歴等が完全でないものが多いのが実情であった。
【0006】
また、得られるキノコについても、形状・大きさよりも呈味性や健康に関わる機能性成分の向上等の品質が重視されつつある。
【0007】
例えば、シイタケには特有の機能成分として、エリタデニンが含まれている事が知られており、エリタデニンは血中コレステロール値を低下させることが知られている。さらに、シイタケにはエリタデニンのほか、γ−アミノ酪酸(GABA)、ポリフェノール等、様々な機能成分が含まれていることが知られており、これらの機能成分が増大されたシイタケに対する需要は高まっている。
【0008】
さらに、シイタケ以外のキノコについても同様に、様々な機能成分が含まれていることが知られている。
【特許文献1】特開平6−90619号公報
【特許文献2】特開平10−327666号公報
【特許文献3】特開2004−329129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、安心・安全な天然物を利用したキノコ栽培方法及び、呈味成分・機能成分の含量が増大された高品質なキノコを提供することを主な目的とする。
【0010】
また、本発明は、上記のキノコ栽培方法に用いるのに好適なキノコ栽培用培地、キノコ栽培用培地添加剤、及び、培地配合物または培地添加剤として用いるのに好適なキノコエキスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は下記の各項に示す発明に関する。
項1.可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材を使用することを特徴とする、可食性キノコ栽培方法。
項2.上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物である、項1に記載の可食性キノコ栽培方法。
項3.上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物から得られるキノコエキスである、項1に記載の可食性キノコ栽培方法。
項4.上記キノコエキスが、キノコ磨砕物を凍結後、解凍する工程を経て得ることができるキノコエキスである、項3に記載の可食性キノコ栽培方法。
項5.可食性キノコがシイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、マイタケおよびエリンギからなる群から選ばれる、項1〜4に記載の可食性キノコ栽培方法。
項6.上記可食性キノコ栽培方法が菌床栽培であって、
(1)培地または培地材料に上記キノコ由来栄養材を添加し、培地を調製する工程、
(2)種菌を該培地に接種し、培養する工程、
(3)キノコ子実体を発生させ、育成する工程、及び、
(4)該キノコ子実体を収穫する工程
を包含する、項1〜5に記載の可食性キノコ栽培方法。
項7.項1〜6に記載の栽培方法により栽培される可食性キノコ子実体。
項8.可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材を含有することを特徴とする、可食性キノコ栽培用培地。
項9.上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物である、項8に記載の可食性キノコ栽培用培地。
項10.上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物から得られるキノコエキスである、項8に記載の可食性キノコ栽培用培地。
項11.上記キノコエキスが、キノコ磨砕物を凍結後、解凍する工程を経て得ることができるキノコエキスである、項10に記載の可食性キノコ栽培用培地。
項12.可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスからなる、可食性キノコ栽培用培地添加剤。
項13.エリタデニンを22〜50mg/100g、及び/または、γ−アミノ酪酸を55〜110mg/100g含有することを特徴とする、生シイタケ。
項14.可食性キノコ子実体磨砕物を凍結しその後解凍することを特徴とするキノコエキス製造方法。
項15.項14に記載の方法により得ることができるキノコエキス。
項16.項7に記載の可食性キノコ子実体の調製物、エキス、または粉末を含有する配合物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キノコが持つ各種成分を栄養体として利用することにより、キノコの生長が促進される。また、本発明で得られるキノコは、旨味成分等のアミノ酸を多く含有し、さらにエリタデニン、γ−アミノ酪酸(GABA)等の機能性成分の含量も増大している。
【0013】
また、本発明により得られるキノコは、機能成分の含量が増大されているため、医薬品、医薬部外品、動物用医薬品、化粧料、食品、機能性食品等の原料として用いるのに適している。
【0014】
さらに、本発明の栽培方法における調製物、エキス等の栄養体の原材料としては、キノコの「柄」の部分や、キノコ栽培において不可避的に発生する形状・大きさ等の規格外品を利用することができ、従来廃棄処分等されていたこれらのものを有効活用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のキノコ栽培方法
本発明のキノコ栽培方法は、可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材を使用することを特徴とする。
【0016】
本発明のキノコ栽培方法により栽培されるキノコ類としては、例えばシイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、マイタケおよびエリンギ等が挙げられる。
【0017】
本発明のキノコ栽培方法は、普通原木栽培、短木断面栽培、殺菌原木栽培、菌床栽培、堆肥栽培等の公知の可食性キノコ栽培方法(例えば、キノコ栽培全科、農山漁村文化協会(2001年);きのこ年鑑、(株)特産情報きのこ年鑑編集部(2004年))に用い得るが、菌床栽培において用いるのが好ましい。
【0018】
好ましい実施態様である菌床栽培において、本発明のキノコ栽培方法は、以下の工程を包含する。
(1)培地または培地材料にキノコ由来栄養材を添加し、培地を調製する工程
(2)種菌を該培地に接種し、培養する工程
(3)キノコ子実体を発生させ、育成する工程
(4)該キノコ子実体を収穫する工程
【0019】
以下、最も菌床栽培が普及しているシイタケを例にとり、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)培地材料の準備
A.広葉落葉樹のチップ(5mmメッシュ)及びオガ粉(3mmメッシュ)を用意する
B.本発明のシイタケ由来栄養材を用意する
(2)培地の調整
(1)のAの培地原料を7:3の割合で混合攪拌する
混合攪拌した培地原料に(1)のBで得られたシイタケ由来栄養材を培地全体の水分含有量が62重量%前後の割合になるように添加し調整する
(3)培地の充填
培地の充填は培養袋を使用し概ね2.5kgになるように調整し充填機で自動充填する
(4)培地の殺菌
充填した培地をワゴンに並べて高温高圧殺菌釜により121℃で50分間殺菌処理する
(5)培地の冷却
殺菌終了した培地をクリーンルームにて20℃まで冷却する
(6)種菌の接種
冷却した培地にシイタケ種菌を接種機にて接種して開口部をシールする
(7)菌糸の培養
培地に種菌を接種したものを20℃の一次培養室にて菌糸の培養を行う
一次培養後約35日経過後に二次培養室にて20℃〜27℃で培養して菌糸の栄養成長を促す。
(8)キノコの発生
菌糸培養積算温度が2400℃となった時キノコの発生操作を行う
具体的には培養袋を剥離して散水、水洗いを行う
(9)キノコの育成管理
発生操作として芽だし温度を20℃〜10℃の変温操作を日中に行う
さらに、子実体育成温度を18℃〜8℃の変温操作する
(10)キノコの収穫調整
シイタケ子実体の傘部の開度が7分開きになった時収穫する。
【0020】
本発明のキノコ由来栄養材
本発明のキノコ由来栄養材は、キノコ栽培において、培地等に添加される栄養材であって、キノコ子実体由来のものである。
【0021】
本発明におけるキノコ由来栄養材は、可食性キノコ子実体調製物、及びキノコエキスを包含する。
【0022】
本発明のキノコ由来栄養材の原料として使用されるキノコ子実体
本発明において、キノコ由来栄養材の原料として使用されるキノコ子実体は、可食性キノコ子実体であれば特に限定されるものではない。具体的な例としては、シイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、マイタケ、エリンギ等のキノコ子実体が挙げられる。また、本発明においてキノコ由来栄養材の原料として使用されるキノコ子実体の種類は、栽培目的であるキノコと異なる種類であっても良いが、好ましくは栽培目的であるキノコと同種類のキノコである。
【0023】
本発明においてキノコ由来栄養材の原料として使用されるキノコ子実体は、生でも乾燥物でもよい。また、発生したキノコのうち、形状が悪いため低価格で取引されるもの全体やその一部分のみでもよい。例えばシイタケの場合、形状・大きさ等の規格外品や従来廃棄されていた「柄」の部分を利用することも可能である。
【0024】
本発明のキノコ由来栄養材として使用されるキノコ子実体調製物
本発明においてキノコ由来栄養材として使用されるキノコ子実体調製物は、培地または培地材料に対する分散性・混合性の向上や、キノコの持つ栄養成分がより効率的に利用されることを目的として、キノコ子実体を調製したものである。具体的には、キノコ子実体に対して磨砕、破砕、粉砕、細断等の処理を加えた調製物や、ペースト化したキノコ(キノコペースト)が例示される。特に好ましい調製物としては、キノコ子実体を磨砕処理したキノコ磨砕物が挙げられる。
【0025】
キノコ子実体を磨砕処理する際には、40〜70μmまで磨砕するのが好ましく、40〜50μmまで磨砕するのがより好ましい。キノコ子実体を磨砕処理する際には、摩擦熱等による温度上昇が生じるが、キノコ子実体磨砕物の品温が60℃を越えず、好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜40℃となるような条件下で磨砕処理を行うのが好ましい。
【0026】
また、乾燥キノコを用いて本発明のキノコ調製物を得る場合には、水戻しした後に磨砕、破砕、粉砕、細断等の処理をしても良く、乾燥状態のままで磨砕、破砕、粉砕、細断等の処理を行った後に水を加えて本発明のキノコ調製物を得ても良い。
【0027】
乾燥キノコを水戻しして用いる場合には、水戻し後のキノコに含まれる水分量が生キノコと同程度(90重量%前後)となるように水戻しするのが好ましい。また、乾燥状態のままで磨砕、破砕、粉砕、細断等の処理を行った後に水を加えてキノコ調製物を得る場合、加える水分量は制限されないが、キノコ調製物に含まれる水分量が生キノコと同程度(90重量%前後)となる量が好ましい。
【0028】
本発明のキノコ調製物は、凍結し、その後解凍して使用することも可能である。
【0029】
キノコ調製物の凍結方法は特に限定されず、緩慢凍結しても良く、急速凍結しても良いが、その後解凍した際により多量の解凍液(ドリップ)が生じることから、緩慢凍結が好ましい。具体的には、−10〜−50℃、好ましくは−20〜−30℃に庫内温度が設定された冷凍庫等にキノコ調製物を置くことにより、緩慢凍結を行うことが例示される。
【0030】
また、解凍は、解凍液(ドリップ)が生じるような解凍方法で行えば良く、特に限定されないが、より多量の解凍液が生じることから、緩慢解凍が好ましい。具体的には、常温解凍、滞水解凍、冷蔵室等における低温解凍等により、緩慢解凍を行うことが例示される。解凍後のキノコ調製物の品温は、10℃以下に保たれるのが好ましいが、これに制限されるものではない。
【0031】
本発明のキノコ調製物は、必要に応じて加熱殺菌処理をすることができる。培地を用いたキノコの人工栽培において、培地の加熱殺菌処理は重要な工程であるが、本発明のキノコ調製物に対する加熱殺菌処理は、キノコ調製物を調製後速やかに培地に添加し、培地とともに行うのが好ましい。加熱殺菌処理の条件は、芽胞菌の殺菌が可能であるような条件であれば良い。
【0032】
さらに、本発明のキノコ調製物は必要に応じて水などの溶媒で希釈して用いることができる。
【0033】
本発明のキノコ由来栄養材として使用されるキノコエキス
本発明のキノコエキスとしては、キノコ調製物を凍結し、解凍する工程を経た後、ろ布ろ過、圧搾機等により液部を分離して製造されるキノコエキスが好ましい。さらに好ましくは、キノコ磨砕物を凍結し、解凍する工程を経た後、ろ布ろ過等により液部を分離して製造されるキノコエキスである。
【0034】
上記好適なキノコエキスの製造工程において、キノコ磨砕物の凍結方法は特に限定されず、緩慢凍結しても良く、急速凍結しても良いが、その後解凍した際により多量の解凍液(ドリップ)が生じることから、緩慢凍結が好ましい。具体的には、−10〜−50℃、好ましくは−10〜−30℃に庫内温度が設定された冷凍庫等にキノコ磨砕物を置くことにより、緩慢凍結を行うことが例示される。
【0035】
また、解凍は、解凍液(ドリップ)が生じるような解凍方法で行えば良く、特に限定されないが、より多量の解凍液が生じることから、緩慢解凍が好ましい。具体的には、常温解凍、流水解凍、滞水解凍、冷蔵室等における低温解凍等により、緩慢解凍を行うことが例示される。解凍後のキノコ磨砕物の品温は、1〜10℃、好ましくは1〜5℃に保たれるのが好ましいが、これに制限されるものではない。
【0036】
上記好適なキノコエキスの製造工程において、凍結前のキノコ磨砕物を自家発酵させても良い。キノコ磨砕物の自家発酵を行う際には、例えば、キノコ磨砕物を適当量袋に詰め、減圧下で2〜18時間、好ましくは3〜6時間保温するのが好ましい。その際のキノコ磨砕物の品温は、60℃を超えず、好ましくは20〜50℃であり、30〜40℃がより好ましい。
【0037】
また、上記好適なキノコエキスの製造工程において、液部を分離した後のキノコ磨砕物残渣に、該残渣の重量の1〜4倍、好ましくは分離した液部と同量の水を添加した後、再び凍結・解凍工程に供してキノコエキスを得ることも可能である。
【0038】
本発明におけるキノコエキスとしては、凍結、解凍工程を経たキノコ磨砕物から製造されるキノコエキスが特に好ましいが、凍結、解凍工程に変えて、例えばキノコ磨砕物に等量の含水エタノールを加え、ろ過後、そのろ液から蒸留等によりエタノールを除く工程、超音波抽出工程等を経て製造されるエキスを用いた場合にも、本発明の効果が得られることが期待される。
【0039】
本発明のキノコエキスとしては、エキスをキノコ子実体またはその調製物から抽出または分離する際、およびそれ以前の工程において、該キノコ子実体またはその調製物の品温が80℃を超えることなく、好ましくは60℃を超えることなく製造されるキノコエキスが好ましい。また、エキスをキノコ子実体またはその調製物から抽出または分離する際の温度については、10℃以下が特に好ましい。
【0040】
一方、キノコ磨砕物等から熱水抽出して得られるキノコエキスについては、本発明の効果が得られず、好ましくない。
【0041】
本発明のキノコエキスは、キノコ子実体またはその調製物から分離または抽出した後、必要に応じて加熱殺菌処理することができる。培地を用いたキノコの人工栽培において、培地の加熱殺菌処理は重要な工程であるが、本発明のキノコエキスに対する加熱殺菌処理は、エキスを培地に添加する前に行っても良く、また、エキスを培地に添加後、培地とともに加熱殺菌処理を行っても良いが、エキスの保存性の観点からは、エキス製造後速やかに加熱殺菌処理を行うのが好ましい。加熱殺菌処理は必要に応じて繰り返し行っても良く、また、培地に添加前のエキスを加熱殺菌処理した後、該エキスを培地に添加し、再度培地とともに加熱殺菌処理しても良い。加熱殺菌処理の条件は、芽胞菌の殺菌が可能であるような条件であれば良い。
【0042】
加熱殺菌処理により沈殿が生じる場合には、ろ過等により該沈殿を除去することができるが、除去しなくても本発明の効果を妨げることはない。
【0043】
本発明のキノコエキスは粉末化が容易であり、キノコエキス粉末として使用することも可能である。粉末化の方法としては、スプレードライ、凍結真空乾燥等が例示される。
【0044】
シイタケを用いた本発明の特に好ましい実施態様について例示すると、凍結、解凍工程を経たシイタケ磨砕物から得ることができる本発明のシイタケエキスは、水分量を93重量%前後とした場合に、グルコース、トレハロース等の糖質を1〜2重量%、遊離アミノ酸を0.8〜0.9重量%、γ−アミノ酪酸を50〜70mg/100ml、エリタデニンを15〜20mg/100ml含む。また、該シイタケエキスのpHは、5.5〜6.5である。
【0045】
本発明のキノコ栽培用培地
本発明において、キノコ栽培用培地とは、菌床栽培等の人工栽培に用いられている培地である。菌床栽培等の人工栽培に用いられている培地は一般に、(A)おが粉、チップ、チップダスト、コーンコブミール等の培地基材、(B)米ヌカ、フスマ、トウモロコシ等の栄養添加剤(栄養材)、及び(C)消石灰、発酵残渣物、無機成分、その他市販物等の微量添加剤から構成される。
【0046】
本発明のキノコ栽培用培地は、このような培地に、可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材を添加することを特徴とするものである。
【0047】
本発明のキノコ栽培用培地において栽培されるキノコは、菌床栽培等により人工栽培されている可食性キノコであれば特に限定されるものではない。このようなキノコとしては、例えば、シイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、マイタケ、エリンギ等のキノコが挙げられる。
【0048】
本発明のキノコ栽培用培地において、可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材は、最終的な培地全体の水分量が55〜70重量%、好ましくは60〜65重量%となるように添加すれば良く、例えばシイタケの菌床栽培では、62重量%前後となるように添加すればよい。好ましい実施態様について例示すると、キノコ由来栄養材として、凍結、解凍工程を経たキノコ磨砕物から得ることができるキノコエキスを用いる場合、培地に含まれる全水分量に対する該キノコエキスの添加濃度は、無希釈のキノコ磨砕物から分離した無希釈のエキス(含有水分量93重量%前後)に換算して5〜100重量%であれば良いが、呈味性の観点からは、10〜50重量%が好ましい。上記可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材の添加量は、他のキノコ培地においても培地の水分調整の範囲で適宜調節し得る。
【0049】
本発明のキノコ栽培用培地添加剤
本発明のキノコ栽培用培地添加剤は、可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスからなることを特徴とする。また、本発明のキノコ栽培用培地添加剤は、公知のキノコ栽培用培地添加剤、栄養材等と併用することができる。
【0050】
本発明のキノコ子実体
本発明のキノコ子実体は、本発明の可食性キノコ栽培方法、可食性キノコ栽培用培地、可食性キノコ栽培用培地添加剤を使用して栽培される可食性キノコ子実体である。最も好ましい実施態様であるシイタケの場合について例示すると、本発明の栽培方法により得られる生シイタケは、エリタデニンを22.5〜40mg/100g、好ましくは25〜40mg/100g、さらに好ましくは27.5〜40mg/100g含有し、γ−アミノ酪酸を55〜110mg/100g、好ましくは60〜110mg/100g、より好ましくは80〜110mg/100g含有する。
【実施例】
【0051】
以下の実施例においては、本発明の好ましい実施態様の一つである、シイタケの菌床栽培における実施について具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されない。
【0052】
なお、以下の実施例において、遊離アミノ酸量(γ−アミノ酪酸(GABA)を含む)は、定法通りにアミノ酸自動分析計(生体アミノ酸の分析)により測定した。
【0053】
エリタデニンは、標品を用いて高速液体クロマトグラフィーにより定量した。
【0054】
実施例1
(1)培地栄養体の原材料として用いたキノコ
原材料として、徳島県において菌床栽培方式で栽培された生シイタケ、特に菌傘の径が3cm未満(低価格規格外品)のものを用いた。
【0055】
(2)生シイタケのペースト化
生シイタケをペースト化する際には、磨砕機にて、1,600rpmの回転数で40μm程度まで磨砕してペーストとした。その際、シイタケ磨砕物の品温が30℃前後となるように調節した。
【0056】
(3)ペースト化したシイタケの自家発酵
ペースト化した生シイタケ(以下、シイタケペーストとする。)の自家発酵を行うため、シイタケペーストを適当量袋に詰め、真空ポンプ等による減圧操作を行い、密封した。これを4時間、前記の温度で保温した。
【0057】
(4)シイタケエキスの製造
自家発酵させたシイタケペーストをアルミパウチに充填し、−20℃に庫内温度を設定した、冷却方式がエアブラスト方式の冷凍庫内に入れ、緩慢凍結させた。完全に凍結後、該アルミパウチを、品温が1〜5℃になるまで水道水に漬け、緩慢解凍を行った。解凍したシイタケペーストをフィルタープレスでろ過して得られた液部を収集し、液中の酵素失活及び殺菌を兼ねて加熱処理を行った(120℃、40分)。加熱処理により発生した沈殿をフィルタープレスでろ過後、再度、加熱殺菌処理を行い、目的のエキスを得た。得られたエキスは、水分93重量%でほとんど多糖類を含まず、グルコース、トレハロース等の糖質を2重量%、遊離アミノ酸を0.8重量%、γ−アミノ酪酸を50mg/100ml、エリタデニンを14mg/100ml含み、pH6.4であった。当該エキスを水にて適宜希釈し培地栄養体とした。
【0058】
実施例2
(1)接種源
直径95mm×高さ20mmの滅菌シャーレに、殺菌したポテトデキストロース寒天培地(日水製薬社製)10mlを無菌的に分注してプレートを作成した。その中央にシイタケ種菌を接種し、25℃で10日間培養した。培養終了後、生長したコロニーの周辺部分を直径5mmのコルクボーラーにて打ち抜いたディスクを接種源とした。
【0059】
(2)エキス添加合成寒天培地での菌糸生長量
シイタケ等担子菌類の合成培地として使用されるHenneberg培地(グルコース50g、硝酸カリウム2g、リン酸アンモニウム2g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム7水和物0.5g、塩化カルシウム0.1g、蒸留水1L)を基本培地として、前述の培地栄養体としたシイタケエキスを各々、培地濃度で0(対照)、5、10重量%になるように添加し、寒天を1.5重量%となるように加え、121℃、15分のオートクレーブ殺菌、直径95mm×高さ20mmの滅菌シャーレに無菌的に分注してプレートを作成した。このプレートの中心に前述のシイタケ菌糸ディスク(径5mm)を接種し、25℃で培養した。培養7日目及び11日目に菌そう直径をノギスで測定した。図1に生長量を示した。
【0060】
シイタケエキスの培地濃度が5重量%とわずかな場合でも、シイタケ菌糸の成長が促進されることが示された。
【0061】
実施例3
(1)エキス添加菌床培地
広葉樹チップ及びおが粉を主原料にその12重量%の米糠を混合した基本培地に栄養体として各種濃度(0(対照)、10重量%)のシイタケエキスを培地水分が62重量%となるよう添加、以下定法どおりに菌床培地を作成した。
【0062】
(2)発生シイタケの形状等
前述した菌床栽培法にて発生したシイタケを収穫し、徳島県の生シイタケ標準出荷基準に準拠し、菌傘直径4cm以上(Mサイズ以上)のシイタケを判別、計量した(図2)。
【0063】
シイタケエキスを培地に添加することにより、発生するシイタケの総重量及び、発生したシイタケ総数に対する菌傘直径4cm以上(Mサイズ以上)のシイタケ数の割合が増加することが示された。
【0064】
実施例4
(1)遊離アミノ酸の定量
シイタケエキスを培地全体の水分量に対し各種濃度(0(対照)、10、100重量%)添加した菌床栽培用培地にて発生したシイタケについて、収穫後すぐに試験区分ごと磨砕機にて磨砕処理し、その溶液部分を分離・収集したエキスについて遊離アミノ酸(γ−アミノ酪酸を含む)を定量し、原料生シイタケ100g当りに換算した(図3及び図4)。
【0065】
シイタケエキスの添加量が10重量%でも、遊離アミノ酸(γ−アミノ酪酸を含む)の含有量が向上されるが、シイタケエキスの添加量を100重量%とすることにより、さらに遊離アミノ酸(γ−アミノ酪酸を含む)の含有量が向上されることが示された。
【0066】
実施例5
(1)生シイタケの官能評価
シイタケエキスを培地全体の水分量に対し各種濃度(0(対照)、10、20、50重量%)添加した菌床栽培用培地にて発生したシイタケについて、各試験区分Mサイズ(菌傘直径4cm以上5cm未満)の生シイタケを焦がさないよう同様の条件にてホットプレートにて加熱し、試食シイタケとした。これらは、10名のパネラー(一般消費者男女5名ずつ)にて官能評価に供した。評価項目は、歯触り、旨味、甘味、苦味、後味で各5段階(非常に良い+2、良い+1、普通0、悪い−1、非常に悪い−2)で評価し、それぞれの得点を合計した(図5)。
【0067】
苦味、後味の評価についてはそれぞれのシイタケに大きな違いは見られなかった。歯触り、旨味、甘味の3項目について、エキス添加量10重量%で得られたシイタケは、きわめて評価が高く、非常においしいシイタケであった。また、エキス添加量20重量%、50重量%で得られたシイタケも歯触り、旨味、甘味の3項目全てにおいて対照シイタケの評価を上回っており、特に旨味の評価が優れた、おいしいシイタケであった。
【0068】
実施例6
(1)エリタデニンの定量
シイタケエキスを最終的な培地全体の水分量に対し各種濃度(0(対照)、10、100重量%)添加した菌床栽培用培地にて発生したシイタケについて、収穫後すぐに試験区分ごと磨砕機にて磨砕処理し、その溶液部分を分離・収集したエキスについてエリタデニンを定量し、原料生シイタケ100g当たりに換算した(図6)。
【0069】
シイタケエキスの添加量が10重量%でも、エリタデニンの含有量が向上されるが、シイタケエキスの添加量を100重量%とすることにより、さらにエリタデニンの含有量が向上されることが示された。
【0070】
本明細書中に記載されたいかなる具体例に対しても、発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更、改良を加えることができる点は、理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】エキス添加合成寒天培地におけるシイタケ菌糸の生長量を示す図である。
【図2】エキス添加菌床培地における発生シイタケの総重量と、発生シイタケ総数に対するMサイズ以上(菌傘直径4mm以上)のシイタケ数の割合を示す図である。
【図3】エキス添加菌床培地における発生シイタケの遊離アミノ酸量を示す図である。
【図4】エキス添加菌床培地における発生シイタケの遊離γ−アミノ酪酸量を示す図である。
【図5】エキス添加菌床培地における発生シイタケの官能評価を示す図である。
【図6】エキス添加菌床培地における発生シイタケのエリタデニン量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材を使用することを特徴とする、可食性キノコ栽培方法。
【請求項2】
上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物である、請求項1に記載の可食性キノコ栽培方法。
【請求項3】
上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物から得られるキノコエキスである、請求項1に記載の可食性キノコ栽培方法。
【請求項4】
上記キノコエキスが、キノコ磨砕物を凍結後、解凍する工程を経て得ることができるキノコエキスである、請求項3に記載の可食性キノコ栽培方法。
【請求項5】
可食性キノコがシイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒラタケ、マイタケおよびエリンギからなる群から選ばれる、請求項1〜4に記載の可食性キノコ栽培方法。
【請求項6】
上記可食性キノコ栽培方法が菌床栽培であって、
(1)培地または培地材料に上記キノコ由来栄養材を添加し、培地を調製する工程、
(2)種菌を該培地に接種し、培養する工程、
(3)キノコ子実体を発生させ、育成する工程、及び、
(4)該キノコ子実体を収穫する工程
を包含する、請求項1〜5に記載の可食性キノコ栽培方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の栽培方法により栽培される可食性キノコ子実体。
【請求項8】
可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスであるキノコ由来栄養材を含有することを特徴とする、可食性キノコ栽培用培地。
【請求項9】
上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物である、請求項8に記載の可食性キノコ栽培用培地。
【請求項10】
上記キノコ由来栄養材が、キノコ磨砕物から得られるキノコエキスである、請求項8に記載の可食性キノコ栽培用培地。
【請求項11】
上記キノコエキスが、キノコ磨砕物を凍結後、解凍する工程を経て得ることができるキノコエキスである、請求項10に記載の可食性キノコ栽培用培地。
【請求項12】
可食性キノコ子実体調製物及び/またはキノコエキスからなる、可食性キノコ栽培用培地添加剤。
【請求項13】
エリタデニンを22.5〜50mg/100g、及び/または、γ−アミノ酪酸を55〜110mg/100g含有することを特徴とする、生シイタケ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−124963(P2007−124963A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321411(P2005−321411)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【出願人】(300031621)有限会社丸浅苑 (2)
【Fターム(参考)】