説明

キノロン系抗菌化合物含有製品

【課題】キノロン系抗菌化合物を含有する水性液剤を保存する容器において、容器の光透過性を維持したままで、光に晒される環境下でもキノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制する工夫をすること。
【解決手段】酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に、キノロン系抗菌化合物を含有する水性液剤を保存すれば、120万lux・hrという強力な光の照射下でも水性液剤中の該キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に、キノロン系抗菌化合物またはその塩を含有する水性液剤を保存することにより、水性液剤中の該キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制したキノロン系抗菌化合物含有製品に関する。
【背景技術】
【0002】
キノロン系抗菌化合物は、強い抗菌力を示し、安全性にも優れている。例えば、(−)−(S)−9−フルオロ−2,3−ジヒドロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オキソ−7H−ピリド[1,2,3−de]−1,4−ベンゾキサジン−6−カルボン酸(レボフロキサシン)や9−ジヒドロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オフルオロ−2,3−キソ−7H−ピリド[1,2,3−de]−1,4−ベンゾキサジン−6−カルボン酸(オフロキサシン)などのキノロン系抗菌化合物は、点眼剤などの医薬品に汎用されている。
【0003】
一方、点眼容器に関しては、外部より内容物を透視できることが要望されるので、容器の光透過性を維持すると共に、容器中の薬物を長期に渡って安定に保存できることが望ましい。
【0004】
しかし、上記キノロン系抗菌化合物を含有する水性液剤を光透過性の容器に保存すると、光に晒される環境下では経時的にキノロン系抗菌化合物の含有率が低下することが知られている。
【0005】
特許文献1は、紫外線透過を防止する合成樹脂組成物に係る発明を記載し、合成樹脂に平均粒子径が30〜40nmの微粒子チタンを配合すれば、紫外線の透過性を抑制できることが述べられ、また、特許文献2は、紫外線吸収性樹脂組成物に係る発明を記載し、合成樹脂に特定の重量配合比の超微粒子金属酸化物およびベンゾトリアゾール系有機化合物を配合すれば、紫外線透過を抑制できることが述べられている。
【0006】
これらの先行文献はいずれも紫外線の透過性を抑制する技術を記載したものであるが、キノロン系抗菌化合物を含有する水性液剤を容器に保存する上で、キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制することを示唆するような記載は全くない。
【特許文献1】特開昭50−158630号公報
【特許文献2】特開2004−182984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したようにキノロン系抗菌化合物を含有する水性液剤を保存する容器に関しては、容器の光透過性を維持したままで、光に晒される環境下でもキノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制することは重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、可視光を透過し、かつ、水性液剤中のキノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制できる容器について鋭意研究を行ったところ、酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に、キノロン系抗菌化合物またはその塩を含有する水性液剤を保存すれば、120万lux・hrという強力な光の照射下でも水性液剤中の該キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を顕著に抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に、キノロン系抗菌化合物またはその塩を含有する水性液剤を保存することにより、水性液剤中の該キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制したキノロン系抗菌化合物含有製品、
(2)合成樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはプロピレン−エチレン共重合体樹脂である前(1)記載のキノロン系抗菌化合物含有製品、
(3)キノロン系抗菌化合物が、(−)−(S)−9−フルオロ−2,3−ジヒドロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オキソ−7H−ピリド[1,2,3−de]−1,4−ベンゾキサジン−6−カルボン酸(以下「レボフロキサシン」とする。)または9−フルオロ−2,3−ジヒドロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オキソ−7H−ピリド[1,2,3−de]−1,4−ベンゾキサジン−6−カルボン酸(以下「オフロキサシン」とする。)である前(1)記載のキノロン系抗菌化合物含有製品、
(4)酸化チタンの平均粒子径が、100nm以下である前(1)記載のキノロン系抗菌化合物含有製品、
(5)酸化チタンの含有量が、合成樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部である前(1)記載のキノロン系抗菌化合物含有製品、
(6)水性液剤が、点眼剤である前(1)記載のキノロン系抗菌化合物含有製品、および
(7)酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に、キノロン系抗菌化合物またはその塩を含有する水性液剤を保存することにより、水性液剤中の該キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制する方法、に関する。
【0010】
本発明の対象となるキノロン系抗菌化合物は、紫外線などの光線に不安定なキノロン系抗菌化合物であれば特に制限されないが、例えばレボフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、シタフロキサシン、ノルフロキサシン、ロメフロキサシン、トスフロキサシン、ガチフロキサシン、アミフロキサシン、フレロキサシン、エノキサシン、ジフロキサシン、テマフロキサシンなどが挙げられる。
【0011】
本発明の合成樹脂製容器に成形される合成樹脂は特に制限されず、例えば低密度又は高密度のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などが挙げられるが、加工性等の観点から低密度若しくは高密度のポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂がより好ましい。これらの合成樹脂は、単独で用いてもよく、また、2種以上をブレンドして用いることもできる。合成樹脂製容器は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂を成形加工することによって得られる透明または半透明の容器であり、成形加工の手法としては、例えばインジェクションブローが挙げられる。
【0012】
本発明の酸化チタンは特に制限されないが、容器の透明性を維持するためには微粒子状の酸化チタンが好ましく、より好ましい微粒子状の酸化チタンの平均粒子径は、100nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下である。また、酸化チタンの含有量は特に制限されないが、合成樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部であることが好ましい。酸化チタンの含有量が3重量部を超えると、容器の透明性を維持することが困難となり、また、0.01重量部未満では水性液剤中のキノロン系抗菌化合物の含有率低下を抑制することが困難となるからである。
【0013】
本発明の紫外線遮断性フィルムは、紫外線遮断効果のある透明または半透明のフィルムであれば特に制限されず、例えば酸化チタンやベンゾトリアゾール系有機化合物などの紫外線吸収剤を含有するフィルムやシュリンクフィルムが挙げられる。市販されている紫外線遮断性フィルムとしては、例えばDXLフィルム219−45V(三菱樹脂社製)がある。紫外線遮断性フィルムで容器を密着包装すれば、酸化チタンを含有する合成樹脂製容器と同様に、強力な光の照射下でも水性液剤中のキノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制することができる。また、紫外線遮断性フィルムで密着包装する容器の材質は特に制限されず、例えば透明または半透明の上記の合成樹脂、ガラスなどが挙げられる。
【0014】
本発明の水性液剤は、キノロン系抗菌化合物を含有する水性液剤であれば特に制限されないが、例えば点眼剤、点鼻剤などが挙げられる。
【0015】
本発明の水性液剤が点眼剤である場合には、点眼剤中のキノロン系抗菌化合物の配合量(濃度)は、対象疾患や症状等に応じて適宜選択できるが、例えば0.001〜5%であることが好ましく、また、必要に応じて等張化剤、pH緩衝剤、pH調節剤、可溶化剤、増粘剤等を添加することができる。
【0016】
等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリハロース、シュクロース、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を挙げることができる。
【0017】
pH緩衝剤としては、例えばリン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸塩;ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のホウ酸塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等のクエン酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩等を挙げることができる。
【0018】
pH調節剤としては、例えば塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0019】
可溶化剤としては、例えばポリソルベート80、ポリエキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000等を挙げることができる。
【0020】
増粘剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0021】
本発明のキノロン系抗菌化合物を含有する点眼剤の調製方法は特別な手法や操作を要さず、汎用されている方法によって調製することができ、また、点眼剤のpHは3〜8、特に4〜7とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
後述する光安定性試験の項で詳細に説明するが、本発明の水性液剤を酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に保存すれば、水性液剤中のキノロン系抗菌化合物の含有率の低下を顕著に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、光安定性試験(25℃、120万lux・hr)を実施して、本発明を詳しく説明するが、これは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0024】
[光安定性試験]
キノロン系抗菌化合物の代表例として、レボフロキサシン0.5%を含有する点眼液(以下「クラビット点眼液(商品名)」とする。)を用いて、光安定性試験を実施した。
【0025】
(1)試料調製
試料1
ポリエチレン樹脂に微粒子酸化チタン(平均粒子径30〜50nm)0.1重量%を配合して成形加工した容器に、クラビット点眼液を充填した。
【0026】
比較試料1
試料1で用いたポリエチレン樹脂を成形加工した容器に、クラビット点眼液を充填した。
【0027】
試料2
試料1で用いたポリエチレン樹脂を成形加工した容器にクラビット点眼液を充填した後、紫外線遮断性フィルム(DXLフィルム219−45V、三菱樹脂社製)で容器の周囲をラッピングした。
【0028】
比較試料2
試料1で用いたポリエチレン樹脂を成形加工した容器にクラビット点眼液を充填した後、紫外線透過性フィルム(DXLフィルム219−45、三菱樹脂社製)で容器の周囲をラッピングした。
【0029】
(2)試験方法及び結果
ISO10977で屋外の昼光の標準として国際的に認められているD−65を光源として、上記各試料を1000ルックスで1200時間照射した後(120万lux・hr)の各試料中のレボフロキサシンの残存率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。これらの結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
(3)考察
表1から明らかなように、微粒子酸化チタンを配合したポリエチレン樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで周囲をラッピングしたポリエチレン樹脂製容器にレボフロキサシンを保存すれば、120万lux・hrという強力な光の照射下でもレボフロキサシンの分解(含有率低下)を抑制することができる(試料1、試料2)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に、キノロン系抗菌化合物またはその塩を含有する水性液剤を保存することにより、水性液剤中の該キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制したキノロン系抗菌化合物含有製品。
【請求項2】
合成樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂またはエチレン−プロピレン共重合体樹脂である請求項1記載のキノロン系抗菌化合物含有製品。
【請求項3】
キノロン系抗菌化合物が、(−)−(S)−9−フルオロ−2,3−ジヒドロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オキソ−7H−ピリド[1,2,3−de]−1,4−ベンゾキサジン−6−カルボン酸(レボフロキサシン)または9−フルオロ−2,3−ジヒドロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラジニル)−7−オキソ−7H−ピリド[1,2,3−de]−1,4−ベンゾキサジン−6−カルボン酸(オフロキサシン)である請求項1記載のキノロン系抗菌化合物含有製品。
【請求項4】
酸化チタンの平均粒子径が、100nm以下である請求項1記載のキノロン系抗菌化合物含有製品。
【請求項5】
酸化チタンの含有量が、合成樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部である請求項1記載のキノロン系抗菌化合物含有製品。
【請求項6】
水性液剤が、点眼剤である請求項1記載のキノロン系抗菌化合物含有製品。
【請求項7】
酸化チタンを含有する合成樹脂製容器または紫外線遮断性フィルムで密着包装した容器に、キノロン系抗菌化合物またはその塩を含有する水性液剤を保存することにより、水性液剤中の該キノロン系抗菌化合物の含有率の低下を抑制する方法。


【公開番号】特開2006−289070(P2006−289070A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73740(P2006−73740)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】