説明

クッション

【課題】
特に車椅子に使用されるクッションにおいて、クッション材の反発力を使用者の前後方向に連続的に変化させることによって体圧を急変させずに分散するとともに、前ずれ防止用途と足こぎ用途を適時選択可能とするクッションを提供する。
【解決手段】
クッション10は、略四角形の平面形状を有し、上層部にゲルシート20、中間層部に低反発力クッション材30、下層部に高反発力クッション材40が配置されている。ゲルシート20は第1ハニカム構造21と第2ハニカム構造22の2つの領域によって構成されている。低反発力クッション材30は底面が傾斜を持った構造であり、それに対応して高反発力クッション材40は低反発力クッション30と対称に上面が傾斜を持っており、各々の傾斜面を重ねて配置すると直方体になる構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子、安楽椅子等に使用されるクッションであり、特に車椅子の座部に乗せて使用するクッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車椅子や椅子に長時間座っていると、身体の不自由な者は、頻繁に座り直すことができなく、体圧が局部に集中するためその部分の血行が妨げられ、床ずれが生じるおそれがある。
【0003】
そこで、車椅子や椅子の座部に使用されるクッション材として体圧分散性に優れた、発泡ポリウレタンフォーム等の発泡素材や、流動性を有する熱可塑性樹脂やゲル状物を被覆材で被覆したシート状素材等の柔軟性素材が単体又は複合されて使用されていた。
【0004】
また、座部の体圧分布は一定ではなく臀部にかかる体圧が高くなるので、長時間座っているとクッション材の臀部におけるクッション性が失われ、臀部が座部に直に接する(底付き)ことがあった。また、柔軟性素材を使用しているので体圧分散性に優れるが長時間座り続けると臀部が前方へ移動し(前ずれ)易いという問題もあった。
そのため、特許文献1のクッションの構造のように、硬度の異なるクッション材を体圧分布に応じて配置して体圧の局部集中や底付きを防止するとともに、前ずれを防止するために大腿部に接する部分を立体的に形成したものがある。
【0005】
また、特許文献2の椅子の座面は、直方体形状のクッションの対角に位置する稜線同士を結ぶ傾斜面を境に硬度の異なるクッションを貼り合わせる構造となっており、座った時の反発力がなだらかに変化しているので座り心地のよいものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3564218号公報
【特許文献2】公開実用昭56−92548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のクッション構造は、構造が非常に複雑で接合部も多く製造コストが非常に高くなるという欠点がある。また、クッション材を前後方向に配置あるいは接着した構造を取った場合、着座面側に接着面の境界に沿って部材が硬化した部分が存在するため、その部分だけ体圧分散効果が薄れたり、どうしても感触が悪くなってしまうので、カバーを掛けたとしても着座時に不快感あるいは段差感などの違和感を与えてしまう。
【0008】
さらに、大腿部に接する部分は前ずれを防止するために立体形状となっているが、立体形状となっているがために利用者の体格に制限ができてしまったり、時と場合により、あるいはその症状や身体自由度により様々な着座姿勢を求める使用者に必ずしも最適化することができないという欠点がある。
また、車椅子に特許文献1のクッション材を適用した場合、利用者によっては車椅子の操作のために足を使う者も多く(足こぎ)、前記立体構造の場合足こぎがしづらく利用者によっては非常に不便となることがある。
【0009】
また、特許文献2のクッション構造は断面形状が三角形になった傾斜部分を貼り合わせているため頂点を合わせることが難しく、製造安定性に欠けている。
【0010】
また、上記特許文献1及び特許文献2のように、クッション材が常に臀部及び大腿部下面全体に密着しているため、通気性が悪く蒸れやすいという欠点もある。
【0011】
本発明は上記を鑑みてなされたものであって、特に車椅子に使用されるクッションにおいて、クッション材の反発力を連続的に変化させることによって体圧を急変させずに分散するとともに、前ずれ防止用途と足こぎ用途を適時選択可能とするクッションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る請求項1に記載のクッションは、複数形状のハニカム構造が組み合わせられた高分子ゲルシートからなる上層部と、前記上層部の下側に配置される低反発力クッション材からなる中間層部と、前記中間層部の下側に配置され該中間層部のクッション材よりも高い反発力を有した高反発力クッション材からなる下層部とを備え、前記中間層部は断面視台形形状で底面が傾斜しており、前記下層部は断面視台形形状で上面が前記中間層部の底面の傾斜と対称に傾斜しており、前記中間層部と前記下層部の傾斜面同士が上下に重なり合うように面接触して配置されていることを特徴としている。
【0013】
また、請求項2に記載のクッションは、請求項1記載のクッションにおいて、前記下層部のクッション材の硬度は、前記中間層部のクッション材の硬度に対して2〜6倍の硬度を有していることを特徴としている。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載のクッションにおいて、前記上層部の高分子ゲルシートは、2つの領域に分かれ、第1領域は上面視略六角形状の第1ハニカム構造からなり、第2領域は前記上面視略六角形状と同形状の外形を有しさらに中心と頂点を結んだ辺を有する第2ハニカム構造からなることを特徴としている。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3記載のクッションにおいて、前記高分子ゲルシートは、前記第1領域が、前記中間層部の層の厚さが厚くなっていく方向に配置されたことを特徴としている。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクッションは、カバーで被覆してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクッションは、中間層部と下層部のクッション材の硬度が異なり、断面形状台形になっていてその傾斜部分で面接触して配置されているので、クッション構造の反発力が使用者の前後方向に連続的に変化するため体圧分散に非常に優れており、座り心地の良い構造となっている。
【0018】
また、本発明のクッションを車椅子に敷く場合、反発力の高い部分を前方に配置して座ると、大腿部に対して臀部の方が深く沈み込むので座り心地がよいうえに前ずれを防止することができ、また床ずれを防止することもできる。逆に反発力の低い部分を前方に配置して座ると、大腿部の方が深く沈み込むことになるので足こぎがし易い体勢・傾斜をつくることができるという優れた効果を有している。
【0019】
さらに、中間層部と下層部の断面形状が台形となっているので、傾斜部分を接着剤等で接合する場合には、接合作業時に垂直面があり位置決めがし易い。また、着座面側に接合面端部が存在しないので、着座時に段差感などの違和感を与えることがない。
【0020】
また、上層部に複数形状のハニカム構造を有した高分子ゲルシートを配置しており、座面を安定させるとともに、従来ある平面状のシートよりもゲルの充填量が減るので軽くなり取り回しが良くなるし、ハニカム部分は柔軟性があるので使用者の動きへの追従性が良い。また、ハニカム構造のため通気性が良く、蒸れを解消することができる。なお、本発明のゲルシートは衝撃吸収も兼ねており、着座時の衝撃緩和にも役立つ。
【0021】
さらに、前記高分子ゲルシートは複数形状のハニカム構造を組み合わせているので、部位によって保持力と利用者の動きへの追従性を変えることができる。特に、ゲルシートを2つの領域に分け、第1領域が保持力が小さく追従性の良い上面視略六角形状の第1ハニカム構造からなり、第2領域が保持力が高く安定性の高い前記上面視略六角形状の中心と頂点を結んだ辺をさらに有する第2ハニカム構造にして、前記第1領域と、重ねられた前記中間層部と前記下層部のクッション材の反発力の小さい部分との方向を揃えて配置すると、前記第1領域を前方にして座った場合は前方は柔軟性があり動きに追従しやすく後方は保持力が高く安定性があるので足こぎがし易く、逆に前記第2領域を前方にして座った場合は後方が柔軟性があるために深く沈み込み前方は保持力が高く安定性があるので前ずれを防止することができる上に座り心地が良いものとなる。
【0022】
さらに、前記クッション構造をまとめて適正なカバーで被覆すれば、ゲルシート及び各クッション材を接着剤等で接合せずに済み、接合のための作業工数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るクッションの実施形態の全体図を示す。(a)は正面図、(b)は平面図を示す。
【図2】本発明に係るゲルシートのハニカム構造の拡大図を示す。
【図3】本発明に係るクッションを車椅子に使用した場合の図を示す。(a)は前ずれ防止用途、(b)は足こぎ用途時のクッション配置の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本発明の全体構成図を図1に示す。
クッション10は、略四角形の平面形状を有し、上層部にゲルシート20、中間層部に低反発力クッション材30、下層部に高反発力クッション材40が配置されている。全体の高さとしては、4〜8cmとなる。
【0025】
上層部のゲルシート20はハニカム構造となっており、本実施例では図1のように、上面視中心で2分割し、第1領域は第1ハニカム構造21で構成され、第2領域は第2ハニカム構造22で構成されている。
【0026】
第1ハニカム構造21は上面視略六角形状で、第2ハニカム構造22は前記上面視略六角形状の中心と頂点を結んだ辺をさらに有する構造(つまり三角形状が6つ集まって第1ハニカム構造21と同じ外形を構成している)となっている。それぞれの辺に当たる部分にゲルが充填されており、それ以外の部分、図2のハニカム構造の拡大図によると斜線部分は空洞となっている。このため座っても通気性が良く蒸れを防ぐことができる。また、平面状のゲルシートと比べると重量が軽くなるので取り回しが良くなる利点もある。なお、ハニカム構造は略六角形だけでなく略三角形や、略四角形などの矩形や、略円形の形状でも良い。
【0027】
また、第2ハニカム構造22の方が第1ハニカム構造21と比べてゲルの量及び上面のゲルの面積が大きいため、保持力が高く、座ったときの沈み込みを抑えられる構造となっている。それに対して、第1ハニカム構造21は保持力が低いので柔軟性が高くなり、座ったときなどの大きい荷重に対しては深く沈み込む構造となっており、また、小さい荷重に対しては使用者の前後方向の動きや荷重に対して追従性が良くなる。
【0028】
ゲルシート20のハニカム構造は、第1ハニカム構造21と第2ハニカム構造22を2分割にして配列するだけでなく、使用者の体圧分布に応じて複数種類のハニカム構造を配列することもできる。
【0029】
次に、中間層部の低反発力クッション材30は、上面が平坦であるのに対して底面は傾斜を持った構造となっており、図1(a)のように断面形状台形となっている。また、下層部の高反発力クッション材40は低反発力クッション材30と対称に上面が傾斜を持っており、各々の傾斜面を重ねて配置すると直方体になる構成となっている。
【0030】
クッション材の材質は発泡ウレタンフォームが良く、通気性、耐候性、除湿性に優れたものを使用すると良い。
中間層部の低反発力クッション材30の組成は密度が60kg/m、硬度が70Nとなっている。また、下層部の高反発力クッション材40の組成は密度が25kg/m、硬度が230Nとなっている。高反発力クッション材40は低反発クッション材30の硬度に対して約3倍となっている。クッションの構造や厚さ等によって比率は2〜6倍程度と設定するのがよい。
【0031】
低反発力クッション材30と高反発力クッション材40が重ねられた傾斜面は全面にわたって構成されている。そのため、クッション構造の反発力は連続的に変化するので座り心地に違和感等を与えることがない。なお、当然のことながら、低反発力クッション材30の割合が大きいと総合的な反発力は小さく、逆に高反発力クッション材40の割合が大きくなると総合的な反発力は大きくなる。
【0032】
低反発力クッション材30と高反発力クッション材40の傾斜の角度αは本実施例では10度となっているが、クッション10のサイズや使用者の体格等によって適宜設定することができる。傾斜の角度αを最適にすることにより荷重の前ずれ防止の効果と足こぎのし易さの効果の両方を併せ持つ構造とできる。
【0033】
低反発力クッション材30と高反発力クッション材40を重ねて配置する際に傾斜面に接着剤を使用して接合する場合、接着面の端部はいずれも着座面(上面)に存在することがなく全て側面に存在することになる。端部は接着剤が硬化するためその部分だけ体圧分散効果が薄れたり、どうしても感触が悪くなってしまうので、着座面に端部が存在すると不快感や段差感などの違和感を与える場合がある。ところが、本発明のように端部が全て側面に存在すると前記欠点を解消できる。
【0034】
また、低反発力クッション材30と高反発力クッション材40は各1面のみが傾斜した断面形状台形となっているので、傾斜面を接着する際に2面に垂直面があるので位置決めが非常に簡単である。三角形状のクッションを貼り合わせようとすると頂点を合わせて接着することが非常に難しくなる。
【0035】
クッション10のゲルシート20と低反発力クッション材30、高反発力クッション材40の配置は、図1のように、ゲルシート20の第1ハニカム構造21の領域は低反発力クッション材30の厚さの厚くなる方向に配置すると良い。
【0036】
図3(a)のようにクッション10の反発力の大きい方を車椅子の前方(使用者の前方向)に向けて配置すると、臀部が深く沈み後方が下り傾斜になる。このため、より深く腰掛けることができ、また腰を動かしても低反発クッション材30及びゲルシート20の第1ハニカム構造21が動きに適度に追従し前ずれを防止することができる。また、座り心地も良く床ずれ防止にも役立つ。
【0037】
また、反対に、図3(b)のようにクッション10の反発力の小さい方を車椅子の前方(使用者の前方向)に向けて配置すると、大腿部が深く沈み前方が下り傾斜になる。このため足こぎがし易くなる。また、ゲルシート20の第1ハニカム構造21の領域は動きに柔軟に追従し、第2ハニカム構造22の領域は保持力が高いので、安定性が良く、身体がぶれにくいため、足こぎを容易なものとすることができる。
【0038】
クッション10はそれぞれの構成部材を接着剤等で接合しても良いが、クッション10の外形に沿って形成された図示しないカバーで被覆することによって、各構成部材の配置が崩れないように構成することもできる。クッション10の各構成部材を接着剤等で接合せずに済むので、接合のための作業工数を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のクッションは、特に車椅子に使用されるクッションにおいて、クッション材の反発力を使用者の前後方向に連続的に変化させることによって体圧を急変させずに分散するので座り心地が良く床ずれ防止にも役立ち、また、配置方向によって前ずれ防止用途と足こぎ用途を適時選択することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 クッション
20 ゲルシート
21 第1ハニカム構造
22 第2ハニカム構造
30 低反発力クッション材
40 高反発力クッション材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数形状のハニカム構造が組み合わせられた高分子ゲルシートからなる上層部と、
前記上層部の下側に配置される低反発力クッション材からなる中間層部と、
前記中間層部の下側に配置され該中間層部のクッション材よりも高い反発力を有した高反発力クッション材からなる下層部と
を備え、
前記中間層部は断面視台形形状で底面が傾斜しており、
前記下層部は断面視台形形状で上面が前記中間層部の底面の傾斜と対称に傾斜しており、
前記中間層部と前記下層部の傾斜面同士が上下に重なり合うように面接触して配置されている
ことを特徴としたクッション。
【請求項2】
請求項1記載のクッションにおいて、
前記下層部のクッション材の硬度は、前記中間層部のクッション材の硬度に対して2〜6倍の硬度を有していることを特徴としたクッション。
【請求項3】
請求項1又は2記載のクッションにおいて、
前記上層部の高分子ゲルシートは、2つの領域に分かれ、第1領域は上面視略六角形状の第1ハニカム構造からなり、第2領域は前記上面視略六角形状と同形状の外形を有しさらに中心と頂点を結んだ辺を有する第2ハニカム構造からなることを特徴としたクッション。
【請求項4】
請求項3記載のクッションにおいて、前記高分子ゲルシートは、
前記第1領域が、前記中間層部の層の厚さが厚くなっていく方向に配置されたことを特徴としたクッション。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のクッションは、カバーで被覆してなることを特徴としたクッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−40170(P2012−40170A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183794(P2010−183794)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000105213)株式会社ケープ (14)
【Fターム(参考)】