説明

クラゲ捕捉防止方法及びクラゲ捕捉防止魚網

【課題】定置網等の魚網によって魚類を捕捉する際に、クラゲを魚網内に誘導することなく魚類のみを誘導し捕捉する方法及びクラゲの補足を防止した魚網を提供する。
【解決手段】この発明のクラゲ捕捉防止方法は、囲い網7の周壁に形成した魚網の導入口4に垣網3を外側に向けて突出させて配置し、該垣網3に向う魚類を上記導入口4より囲い網7内に誘導する方法において、垣網3の中途に設けた魚誘導部16によりクラゲjを通過させ、魚類fを威嚇し又は忌避させることにより、前記導入口4より囲い網7内に誘導するものである。また上記方法に使用するクラゲ捕捉防止魚網には、水平方向に設けられた連結ロープ19と、該連結ロープ19に対して連結索21を介して潮流に応じて揺動可能に設けられたブリ木22とで構成された魚誘導部16が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、定置網等の魚網によって魚類を捕捉する際に、大型クラゲを魚網内に誘導することなく魚類のみを誘導し捕捉する方法及びクラゲの補足を防止する魚網に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本海の広い範囲及び太平洋側の北海道,青森,岩手県等の定置網において、1回の網揚げで大型クラゲが数百固体以上入網する事態が多発しており、1回の網揚げで数千個体以上が入網していることも確認され、そのサイズは傘径の小さいものでは20cm、大きいものでは1m以上と様々なサイズのクラゲが確認されている。
【0003】
大型クラゲの大量入網により、漁労作業の遅延,漁獲物の鮮度低下といった被害が多数報告されており、また定置網においては入網した大型クラゲの排出作業に時間がかかり、漁獲した魚類を出荷できない等の問題が報告されている。
【0004】
そこで深刻な漁業被害を打開するために、垣網の目合いを大きし、囲い網の入口や登網の出口に遮断網を設け、箱網内にクラゲの排出口を設け、潮流の下手から離れた位置に金庫網を設置することによって、魚類と大型クラゲを分離し、魚類のみを捕獲する方法が知られている。(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】本多直人,「大型クラゲによる漁業被害と防止対策の現状」,海洋水産エンジニアリング,社団法人海洋水産システム協会,2004年8月,p.57−63
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、垣網の目合いを大きくするとクラゲとともに魚類も通過してしまい、漁獲量が減少するという問題があった。また囲い網の入口や登り網の出口に遮断網を設けることによってクラゲの侵入を防止することができるものの、遮断網によって切断されたクラゲの残骸を除去しなければならないという問題があった。
【0006】
さらに遮断網を通過して箱網内に入ってきたクラゲは網揚げの際に箱網内に設けられた排出口から排出するほか、粉砕ポンプによって強制的に排出したり、熊手や大目タモ網を用いて掬い出したりしなければならず、定置網の網揚げの遅延やクラゲの刺胞毒による漁獲物の鮮度低下などの問題があった。
この発明は、これらの課題を解決又は改善し、定置網等の魚網によって魚類を捕捉する際に、クラゲを魚網内に誘導することなく魚類のみを誘導し捕捉する方法とそのための魚網を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明のクラゲ捕捉防止方法は、第1に、囲い網7の周壁に形成した魚網の導入口4に垣網3を外側に向けて突出させて配置し、該垣網3に向う魚類を上記導入口4より囲い網7内に誘導する方法において、垣網3の中途に設けた魚誘導部16によりクラゲjを通過させ、魚類fを威嚇し又は忌避させることにより、魚類fのみ前記導入口4より囲い網7内に誘導することを特徴としている。
【0008】
また上記課題を解決するための本発明のクラゲ捕捉防止魚網は、第1に、魚類fを誘導して内部で遊泳させる囲い網7の魚類fの導入口4に、囲い網7の周壁と交差する方向に且つ一端を外方に突出させるように垣網3を配置してなる魚網において、上記垣網3の途中にクラゲjを通過させ魚類fを威嚇し又は忌避させることにより前記導入口4より囲い網7内に誘導する魚誘導部16を設けたことを特徴としている。
【0009】
第2に、魚誘導部16が、水平方向に設けられた連結ロープ19と、該連結ロープ19に対して連結索21を介して潮流に応じて揺動可能に設けられたブリ木22とで構成されたことを特徴としている。
【0010】
第3に、垣網3を中間として囲い網7の上流側及び下流側の両側に魚群の捕捉部2を設けてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成される本発明によると、魚網(囲い網,登り網,箱網等)内にクラゲを誘導することなく、漁獲物のみを箱網内に誘導することができるので、魚網内のクラゲの除去作業に時間をとられることなく、一定時間ごとに箱網を揚げることによって漁獲物のみを捕獲することができる。
また魚誘導部を垣網に設けることによって魚類のみを威嚇し又は忌避させることができるので、魚類の垣網の通過を防止し、魚網内に効率よく誘導することができるほか、クラゲは前記魚誘導部を通過するので、魚網内にへのクラゲの侵入を防止することができる。
さらに垣網を中間として左右両側に魚群の補足部である囲い網,登り網,箱網を設けることによって、潮流が左右いずれの場合でも魚類を有効に捕捉することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のクラゲ捕捉防止と魚網を図面に基づき説明する。図1は魚網の全体斜視図,図2は平面図,図3は魚誘導部の正面図である。ここでは、移動する魚の通路に仕掛けた網によって魚を捕らえる定置網について説明する。
【0013】
定置網1は魚類fを捕捉する補足部2と、魚類fの通路に垣のように張って魚類fを前記補足部2に誘導する垣網3から構成されている。補足部2は、平面視で垣網3を中間として前後(図2においては上下)に線対称になるように形成されている。
【0014】
補足部2には、魚類fを誘導する導入口4が垣網3と補足部2の交差する位置に設けられ、魚類を遊泳させる運動場6を備えた囲い網7が、登り網8を介して箱網9と連結された構成となっている。該登り網8は一旦箱網9へ導かれた魚が、網外へ出ないように出口が狭く(図2において左右方向に先細に形成されている)形成されている。
【0015】
上述の垣網3,囲い網7は設置された定置網1の海域の水深に応じて、海面から略海底まで到達する高さに形成されている。また囲い網6は周壁のみから構成されているのに対して、登り網8と箱網9はともに周壁と底部からなる箱状に形成されている。
【0016】
箱網9には一旦誘導された魚類が逃げ出さないための正面視でコ字形の端壁11が登り網8側に形成されている。該端壁11は一定の高さを有しているので、登り網8の底部はは囲い網7側から箱網9に向かって上昇方向に斜めに形成されている。そして箱網9の底部は海底から一定の距離高さに設置された構成となっている。
【0017】
垣網3,囲い網7,登り網8,箱網9は順にその網目が細かくなるように設定され、最終的に箱網9に導かれた魚類fが逃げ出さないように構成されている。
【0018】
また垣網3,囲い網7,登り網8,箱網9はともにロープ12によって、その網の形状が保持されており、該ロープ12はサンドバック又は碇等のアンカー13によって海底に固定されている。そして海面に現れるロープ12には上記網の形状を維持し且つロープ12の位置を示すための浮子14a,14b,14cが設けられるとともに、登り網8及び箱網9の上縁にも浮子14dが設けられている。
【0019】
次に図3に基づき補足部2に対して略直角方向外側に向かって突出形成された垣網3の中途に設けられた魚誘導部16について説明する。該魚誘導部16は補足部2寄りに設けられており、上下方向のロープ17,リング18,連結ロープ19,連結索21,ブリ木22から構成されている。
【0020】
上記ロープ17には下端にアンカーとしてサンドバック23が設けられており、該ロープ17は垣網3側のロープ17aとブリ木22側のロープ17bから構成されている。該ロープ17aには一定高さ毎にリング24aが設けられ、該24aと垣網3が連結ロープ26を介して連結されている。
【0021】
ロープ17aと同様にロープ17bにも一定高さ毎にリング24bが設けられ、他方のロープ17bにも同様に設けられたリング24bに対して水平方向に連結ロープ19が接続された構成となっている。そして該連結ロープ19には一定間隔ごとに連結索21を介してブリ木22が連結されている。
【0022】
上記ブリ木22は杉板製の板に白いペンキを塗布したものであって、潮流の動きに合わせて、ブリ木22が踊るように構成されており、このブリ木22の動きを恐れて魚類fを補足部2の導入口4方向へ誘導する魚類fの習性を利用した漁法となっている。この時、クラゲjはブリ木22を恐れることがないので、ブリ木22と連結ロープ19とで形成された空間またはその他の間隙を通して、垣網3の反対側へ通過し、補足部2の導入口4にクラゲを誘導することがないという利点がある。
【0023】
この例では設置海域の水深が約30mの場合、約305間(549m)の垣網3の補足部2側の約5間(9m)を残して魚誘導部16が約10間(18m)分の設けられている。約15mの連結ロープ19がロープ17bにリング24bを介して約3m毎に張られている。そして連結ロープ19には約1m毎に連結索21を介してブリ木22が連結されている。このブリ木22は連結索21等の連結具に取付けられて水中で魚類に目立つように浮動する機能があれば足り、必ずしも板状である必要も、木である必要もない。例えば発泡プラスチック材等でも良い。
【0024】
ブリ木22は高さ約100cm,幅約60cmであって、該ブリ木22の下端から約15cmの中央に形成された孔27に連結索21が挿通され、ブリ木22が連結されている。よってブリ木22の上端から上部の連結ロープ19までには約1m85cmの高さの空間が形成される構成となっている。よってクラゲjはこの空間を十分に通過することができる。
【0025】
なお、上記のように板状のブリ木(板)22を連結索21で連結して浮動させて、魚類を追い込むものは、地引網の使用に先立って魚を沿岸部に追い込むための漁具として知られ(かつら網漁法・鳥取県)、ロープに短冊状のブリ木を多数取付けて浮遊又は浮動させるものである。
【0026】
以上のように構成される定置網1による魚類fの補足方法は、潮流(魚類の通り道)に対して垂直方向になるように垣網3を設置する。例えば図2に示すように、潮流がA方向の場合、クラゲjは魚誘導部16をa1方向に通過するのに対し、魚類fはブリ木22を恐れてa2方向に誘導される。
【0027】
また逆に潮流がB方向の場合、クラゲjは魚誘導部16をb1方向に通過するのに対し、魚類fはブリ木22を恐れてb2方向に誘導される。そして誘導された魚類fは運動場6を遊泳した後、登り網8を通って箱網9内に入り、一旦箱網9内に入った魚類fは端壁11によって戻ることができなくなる。その後、一定期間ごとに(この例では毎朝)箱網9の網揚げが行われ、入網した魚類fを捕獲する構成となっている。
【0028】
本発明の定置網を構成する垣網及び該垣網に設けられた魚誘導部のサイズや連結ロープの数量や長さは上記説明に限定されることなく、定置網の設置場所の水深等に応じて自由に変更可能である。また補足部を構成する囲い網,登り網,箱網は上述の説明や図面に示された形状に限定されることなく変更可能である。さらに網,浮子,ロープ等の材質も自由変更可能であるほか、ブリ木も杉板に限定されることなく海中を浮遊することができる密度であれば特に限定されることなく使用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明のクラゲ補足防止方法及びクラゲ捕捉防止魚網は、曳網,刺網,まき網等の他の魚網による漁にも用いることができるほか、魚誘導部を恐れないクラゲ以外の他の生物と魚類とを分離して補足する際にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の魚網を示す全体斜視図である。
【図2】本発明の魚網を示す全体平面図である。
【図3】本発明の魚網の魚誘導部を示す拡大正面図である。
【符号の説明】
【0031】
2 補足部
3 垣網
4 導入口
7 囲い網
16 魚誘導部
19 連結ロープ
21 連結索
22 ブリ木
f 魚類
j クラゲ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
囲い網(7)の周壁に形成した魚網の導入口(4)に垣網(3)を外側に向けて突出させて配置し、該垣網(3)に向かう魚類(f)を上記導入口(4)より囲い網(7)内に誘導する方法において、垣網(3)の中途に設けた魚誘導部(16)によりクラゲ(j)を通過させ、魚類(f)を威嚇し又は忌避させることにより、魚類(f)のみ前記導入口(4)より囲い網(7)内に誘導するクラゲ捕捉防止方法。
【請求項2】
魚類を誘導して内部で遊泳させる囲い網(7)の魚類の導入口(4)に、囲い網(7)の周壁と交差する方向に且つ一端を外方に突出させるように垣網(3)を配置してなる魚網において、上記垣網(3)の途中にクラゲ(j)を通過させ魚類(f)を威嚇し又は忌避させることにより前記導入口(4)より囲い網(2)内に誘導する魚誘導部(16)を設けたクラゲ捕捉防止魚網。
【請求項3】
魚誘導部(16)が、水平方向に設けられた連結ロープ(19)と、該連結ロープ(19)に対して連結索(21)を介して潮流に応じて揺動可能に設けられたブリ木(22)とで構成された請求項2のクラゲ捕捉防止魚網。
【請求項4】
垣網(3)を中間として囲い網(7)の上流側及び下流側の両側に魚群の捕捉部(2)を設けてなる請求項2又は3のクラゲ捕捉防止魚網。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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