説明

クリンカ製造装置

【課題】塩素バイパス設備からの排ガスを利用し、クリンカ製造装置における燃焼効率の向上を図ることができるクリンカ製造装置を提供する。
【解決手段】このクリンカ製造装置1は、仮焼炉21と、クリンカを焼成した後の排ガスを一部抽気し冷却後分離した粉体を系外に排出する塩素バイパス設備50とを備えている。そして、塩素バイパス設備50の排ガスを昇温させる昇温部を設け、その昇温部は仮焼炉21の外面部等に巻き付く配管24a等として設けられおり、排ガスが、この配管24a等内および仮焼炉バーナ25を介して仮焼炉21へ供給されるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカを製造する装置(以下、「クリンカ製造装置」という)に関し、特には、塩素バイパス設備からの排ガスを利用し、クリンカ製造装置における燃焼効率の向上を図ることができるクリンカ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クリンカ製造装置において、そのロータリーキルンの窯尻部から排ガスの一部を抽気して塩素分を除去する塩素バイパス設備を備えたものが広く知られている。このように塩素分を除去することにより、製造されるクリンカの塩素濃度を規定値以下に保つとともに、サスペンションプレヒータ(詳細後述)等の内部でのコーティングトラブルも防止することができる。
【0003】
こうした塩素バイパス設備に関し、例えば特許文献1には、排ガス中のSOxを低減させることを目的として、塩素バイパス設備からの排ガス(以下、「塩素バイパス排ガス」ともいう)を仮焼炉に戻す構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4388615号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塩素バイパス排ガスは、ロータリーキルンの排ガスを抽気したものであり大気と比較するとその酸素濃度は低く、よってそのままでは仮焼炉における燃焼用空気としては適していない。特許文献1の技術では、塩素バイバス排ガスを仮焼炉に導入しているものの、それは、仮焼炉の燃料悪化を回避しつつSOxを分解する目的で少量を導入しているに過ぎない。すなわち、特許文献1の技術では、燃焼用空気として仮焼炉に常温の空気を導入するため、仮焼炉内の温度が低下し、その結果、燃焼効率の低下を招くこととなる。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、塩素バイパス設備からの排ガスを利用し、クリンカ製造装置における燃焼効率の向上を図ることができるクリンカ製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明のクリンカ製造装置は、
仮焼炉と、クリンカを焼成した後の排ガスを一部抽気し、冷却後分離した粉体を系外に排出する塩素バイパス設備とを備えたクリンカ製造装置において、
前記塩素バイパス設備の排ガスを昇温させる昇温部を設け、
前記昇温部は、前記仮焼炉の外面部か周囲の炉壁内に巻き付く配管として設けられ、
前記排ガスが、この配管内および前記仮焼炉のバーナを介して前記仮焼炉へ供給されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩素バイパス設備からの排ガスを利用し、クリンカ製造装置における燃焼効率の向上を図ることができるクリンカ製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態のクリンカ製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】図1のクリンカ製造装置に利用可能な仮焼炉の構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の一形態について説明する。
図1に示すクリンカ製造装置1は、セメント製造におけるいわゆる焼成工程を行うものであり、クリンカ原料を予熱・仮焼するためのタワー型のサスペンションプレヒータ10と、クリンカを焼成するためのロータリーキルン30と、ロータリーキルン30の排出側に設けられたクリンカクーラ40と、ロータリーキルン30からの排ガス(キルン排ガス)の一部を抽気して塩素分を除去する塩素バイパス設備50と、を備えている。
【0011】
サスペンションプレヒータ10は、仮焼炉付きのNSP(New Suspension Preheater)方式のものであって、複数のサイクロン13a〜13eと、これらサイクロン13a〜13eの下部付近に配置された仮焼炉21とを有し、ロータリーキルン30からの排ガスの熱と仮焼炉21からの熱を利用してクリンカ原料の予熱・仮焼を行う。サイクロン13a〜13eは、一例として5段に構成されており、ダクトを介して相互に接続されている。上段の2つのサイクロン13e、13dを接続するダクトの途中には原料供給部15が設けられており、ここから原料が投入される。
【0012】
仮焼炉21は、一例として図2のような構成となっている。すなわち、この仮焼炉21は、燃焼空間を形成する略筒状の仮焼炉ハウジング22と、仮焼炉ハウジング22の下部に設けられた燃料燃焼用の仮焼炉バーナ25とを有している。仮焼炉ハウジング22には、その外面に沿うように環状に形成された昇温用配管24aが設けられており、この昇温用配管24aには、後述するように塩素バイパス設備50からの排ガス(塩素バイパス排ガス)が供給されるように構成されている。昇温用配管24aと仮焼炉バーナ25とは、配管24bによって互いに接続されている。昇温用配管24aに供給された排ガスは、昇温用配管24a内(さらには配管24b内)を通過する際に、仮焼炉内部からの熱によって加熱されて昇温する。そして、昇温した排ガスは、配管24bを介して仮焼炉バーナ25へと送られ、該バーナ25の1次空気(バーナから吹き込む空気又は酸素を含むガスのことをいう)として仮焼炉21内に供給される。
【0013】
排ガスの温度は、硫酸の析出を防止するためにその露点(100℃〜150℃)より高温であることが好ましいところ、本実施形態では、塩素バイパス設備50からの排ガスを、昇温用配管24a等の内部で加熱することができるので、排ガスを上記のような温度に良好に昇温、維持することができる。
【0014】
再び図1を参照し、クリンカ製造装置1の他の構造部について説明する。ロータリーキルン30は、回転窯とも呼ばれるもので、横長円筒状であって僅かに勾配を付けて配置されている。ロータリーキルン30の一端部(相対的に高い側の端部)にはライジングダクト28と呼ばれるダクトが設けられており、ロータリーキルン30と仮焼炉21とはこのライジングダクト28を介して接続されている。ロータリーキルン30の反対側の端部(相対的に低い側の端部)には、該ロータリーキルンで焼成されたクリンカを冷却するためのクリンカクーラ40が配置されている。
【0015】
ロータリーキルン30をゆっくりと(一例で2〜3回転/分)回転させながら、サスペンションプレヒータ10側から原料を供給すると、それらの原料はロータリーキルン30内を転がりながらクリンカクーラ40側へと移動していく。原料は、この移動の間に徐々に加熱されて所定の化学変化を伴ってクリンカとなり、クリンカクーラ40に向けて排出される。なお、図1に示すように、ロータリーキルン30のクリンカクーラ40側の端部には、ロータリーキルン30内を加熱するためのキルンバーナ32が設けられている。
【0016】
クリンカクーラ40は、不図示の冷却ファンを有しており、このファンを駆動することで冷却空気がクリンカクーラ40内に送り込まれ、これにより、ロータリーキルン30内で焼成され昇温した状態となっているクリンカが急冷され、所望のクリンカが得られる。なお、クリンカ原料の配合、予熱、仮焼処理方法は、製造するクリンカに応じて設定される。
【0017】
図1の構成では、クリンカクーラ40と仮焼炉21とがクーラ抽気ダクト41によって接続されている。クリンカクーラ40内に送り込まれクリンカとの熱交換で昇温した熱風が、このクーラ抽気ダクト41を介して2次空気として仮焼炉21へと戻され、燃料燃焼用のガスとして用いられる(一例)。
【0018】
次に、塩素バイパス設備50について説明する。この塩素バイパス設備50は、ロータリーキルン30の排ガスの一部を抽気する抽気部51と、抽気部51内に空気を送り込み排ガスを冷却するための冷却ファン57と、配管61aを介して抽気部51に接続された集塵機53と、配管61bを介して集塵機53に接続された排気ファン55とを備えている。抽気部51は、この例ではライジングダクト28に接続されている。
【0019】
抽気部51内に取り込まれたキルン排ガスは、冷却ファン57によって送られた冷却空気により冷却され、これにより、排ガス中に含まれるガス状の塩素化合物等が凝縮固化する。集塵機53は、ここではバッグフィルタ集塵機であり、凝縮固化した塩素化合物や、排ガスとともに抽気されたダスト等を捕集する機能を有している。補集されたこれらのダスト等は、搬送路62を経由して不図示のタンク(系外)へと送られ、そこで回収される。
【0020】
本実施形態では、図1に示す通り、排気ファン55と仮焼炉21とが配管61cによって接続されており、塩素バイバス設備50で脱塩処理された排ガスが仮焼炉21に戻されるように構成されている。なお、図1の例では、配管61cは途中で二股に分岐しており、塩素バイパス設備50からの排ガスの一部(余剰のガス)が、クーラ抽気ダクト41にも供給されるように構成されていてもよい。また、余剰の排ガスが2次空気として仮焼炉21に戻されてもよい。もっとも、本発明は塩素バイパス50の排ガスを仮焼炉のバーナの1次空気にすべて戻すことが好ましい。
【0021】
上記のように構成された本実施形態のクリンカ製造装置1の動作について、特に塩素バイパス設備50での動作およびそこから仮焼炉21に戻される排ガスの流れ等を中心に、以下説明する。なお、サスペンションプレヒータ10およびロータリーキルン30等は従来一般的な動作を行うものであるので、詳細な説明は省略する。
【0022】
まず、サスペンションプレヒータ10およびロータリーキルン30の動作中に、ロータリーキルン30の窯尻部からキルン排ガス(例えば1000℃〜1200℃)を抽気部51内に抽気する。抽気された排ガスは、冷却ファン57からの冷却空気によって冷却され(例えば、揮発性アルカリ塩の融点以下である300℃〜600℃程度まで冷却され)、塩素化合物等が凝縮固化するとともに、集塵機53においてその塩素化合物等が排ガス中から補集、除去される。集塵機53を通過した排ガスは、次いで、配管61cを介して仮焼炉21の昇温用配管24aに供給される(図2参照)。
【0023】
排ガスは、昇温用配管24a等を通過する際に仮焼炉21からの熱によって加熱され、昇温した状態で、仮焼炉バーナ25に1次空気として供給される。なお、塩素バイパス排ガスの酸素濃度(例えば約16〜19%)は大気(約21%)よりも若干少ないので、酸素量が同程度になるように塩素バイパス排ガス量を調整することが好ましい。
【0024】
以上に説明した本実施形態に係る発明は次の通りである。
1.仮焼炉(21)と、
クリンカを焼成した後の排ガスを一部抽気し、冷却後分離した粉体を系外に排出する塩素バイパス設備(50)と
を備えたクリンカ製造装置(1)において、
前記塩素バイパス設備(50)の排ガスを昇温させる昇温部(昇温用配管24a等)を設け、
前記昇温部は、前記仮焼炉の外面部か周囲の炉壁内に巻き付く配管として設けられ、
前記排ガスが、この配管内および前記仮焼炉のバーナ(25)を介して前記仮焼炉(21)へ供給されるように構成されていること
を特徴とするクリンカ製造装置(1)。
【0025】
従来の問題点としては、仮焼炉の1次空気として常温の大気を用いた場合、仮焼炉内温度が低下し、これに伴いバーナから吹き込まれる燃料の燃焼速度も低下して仮焼炉内での熱交換が不十分となり、系全体の熱効率が低下するという問題があった。しかしながら、本実施形態によれば、大気よりも高温でかつ、好ましくは硫酸の露点温度より高温の塩素バイパス排ガス(一例として約150℃以上)が仮焼炉バーナ25の1次空気として供給されるように構成されているので、熱効率を向上させることができる。
【0026】
また、塩素バイパス排ガスはロータリーキルン30内の燃焼ガスを抽気したものであるため、大気と比較して酸素濃度が低く、基本的にはそのままでは仮焼炉21における燃焼用空気としては適していないが、本実施形態では、仮焼炉バーナ25の1次空気として使用することで、燃料の分散効果を主に担うことから燃焼性への影響は大きくない。また、上記のとおり常温の大気との置き換えということで、温度が高いという効果もあり燃焼速度は改善する。さらに、酸素濃度の不足分を、供給量で補うことが可能であるため、分散性を向上させ、かつ仮焼炉21に酸素が十分に供給され、安定した燃焼を行うことができる。
【0027】
また、本実施形態においては、仮焼炉(21)に巻き付けられた配管(24a等)という簡易な構成で昇温部を設けることができ、この配管内に塩素バイパス排ガスを通すことで、複雑な熱交換器等の加熱手段を要することなく、その排ガスを良好に加熱することができる。
【0028】
なお、塩素バイパス排ガスを昇温させるための昇温部は、図2のような1つの昇温用配管24aに限らず、複数の環状の配管で構成されたものであってもよい。また、配管は、仮焼炉21の炉壁内部に配置されていてもよい。配管そのものの形状も特に限定されるものではなく、図2のような環状の他にも、例えば、仮焼炉ハウジング22に巻き付く螺旋状等であってもよい。このように設置することで熱回収が難しい放熱損失の回収ができ、エネルギー損失の軽減も図ることができる。
【0029】
図1では、塩素バイパス排ガスを仮焼炉21に供給するものであったが、本発明は、排ガスを、仮焼炉21に加えて、キルンバーナ32(図1参照)の1次空気として供給してもよい。
【0030】
すなわち、本発明の他の一形態に係るクリンカ製造装置は、
2.さらに、
塩素バイパス設備(50)の排ガスの一部を、ロータリーキルン(30)のバーナ(32)の1次空気として供給する
ことを特徴とする。
【0031】
通常、塩素バイパス排ガスの量は燃焼用バーナ(25)の1次空気の量よりも多い。そのため、塩素バイパス排ガスを、バーナの1次空気としてだけでなくキルンバーナ(32)に供給することも、塩素バイパス排ガスの有効利用の点で好ましい。
【0032】
一方、塩素バイパス排ガスの量が吹き込ませる1次空気より少ない場合(必要風量以下の場合)、一例として、従来どおり一次ファンエアーを使用してもよい。本発明の一形態に係るクリンカ製造装置は、このような切替えを実施できるように、仮焼炉内に空気を送り込む一次ファンを備えていてもよい。一次ファンエアーと塩素バイパス排ガスとを併用するか否かは、酸露点を考慮して適宜決定すればよい。以上、本発明の一形態について例示したが、本発明は上記に限定されるものではない。
【0033】
以上、本発明に一形態について例示したが、本発明は上記に限定されるものではなく、発明の範囲内において、適宜、各部の形状の変更、配置位置の変更、数量の変更等を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
1 クリンカ製造装置
10 サスペンションプレヒータ
13a〜13e サイクロン
15 原料供給部
21 仮焼炉
22 仮焼炉ハウジング
24a、24b 配管
25 仮焼炉バーナ
28 ライジングダクト
30 ロータリーキルン
32 キルンバーナ
40 クリンカクーラ
41 クーラ抽気ダクト
50 塩素バイパス設備
51 抽気部
53 集塵機
55 排気ファン
57 冷却ファン
61a〜61c 配管
62 搬送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮焼炉と、
クリンカを焼成した後の排ガスを一部抽気し、冷却後分離した粉体を系外に排出する塩素バイパス設備と
を備えたクリンカ製造装置において、
前記塩素バイパス設備の排ガスを昇温させる昇温部を設け、
前記昇温部は、前記仮焼炉の外面部か周囲の炉壁内に巻き付く配管として設けられ、
前記排ガスが、この配管内および前記仮焼炉のバーナを介して前記仮焼炉へ供給されるように構成されていること
を特徴とするクリンカ製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクリンカ製造装置において、さらに、
前記塩素バイパス設備の排ガスの一部を、ロータリーキルンのバーナの1次空気として供給する
ことを特徴とするクリンカ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100209(P2013−100209A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245913(P2011−245913)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】