説明

クリーニングガス及びそれを用いたリモートプラズマクリーニング方法

【課題】CVD装置内の堆積物のリモートプラズマクリーニング法に用いられるクリーニングガスにおいて、地球温暖化係数が低く、かつ、高いエッチング速度が得られるクリーニングガス、及びそれを用いるリモートプラズマクリーニング方法を提供する。
【解決手段】CVD装置の反応チャンバー1内に堆積した、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物を、リモートプラズマクリーニング法により除去するクリーニングガスにおいて、該ガスはCFxOy[但し、xは2又は4であり、x=2のときy=1〜3の整数、x=4のときy=1〜4の整数を表す。]とNが含有されている混合ガスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD装置のクリーニングガス及びそれを用いたリモートプラズマクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CVD装置では、反応チャンバーの内壁やウェハステージ上に発生した不要な堆積物、例えば、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物を、定期的に除去する必要がある。その方法の一つとして、NF又はC等を含有するクリーニングガスの存在下でプラズマ放電させることにより、活性なFラジカルを発生させ、堆積物を揮発性の高い物質へと変換し、反応チャンバー外へと排出させるプラズマクリーニング法がある。
【0003】
プラズマクリーニングにおけるプラズマ発生方法は2種類に大別される。一方は平行平板型のプラズマ発生装置など、反応チャンバー内でプラズマ放電を発生させる方式のものであり、もう一方は反応チャンバー外でプラズマ放電させたガスを反応チャンバー内に導入させる方式のもので、リモートプラズマクリーニング法と呼ばれている。
【0004】
両者は、装置の仕様等に応じて適宜最適な方式が選択されており、特にリモートプラズマクリーニング法は、チャンバー内でプラズマ放電を発生させることが不可能な場合や、あるいは平行平板型のプラズマ発生装置において、クリーニングガス成分によるプラズマ放電時のイオン衝撃により、電極基板へのダメージが懸念される場合に用いられている。
【0005】
リモートプラズマクリーニング法では、一般的にNFやCを希釈したクリーニングガスが用いられている。とりわけ、NFはその他のガスと比較して、高いエッチング速度が得られるため現在最も多く使用されている。しかしながら、NFやCはいずれも地球温暖化係数(GWP)が高いため、環境への負荷が大きいという欠点がある。
【0006】
近年、地球温暖化係数の低いクリーニングガスとしてGWPが1である、二フッ化カルボニル(CFO)やトリフルオロメチルハイポフルオライト(CFOF)が開発されており、平行平板型のプラズマ発生装置によるクリーニング性能が開示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】即効的・革新的エネルギー環境技術開発 SF6等に代替するガスを利用した電子デバイス製造クリーニングシステムの研究開発 成果報告書(平成15年3月版 120〜129ページ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、大気中へ排出された際の環境負荷が小さい地球温暖化係数が低いガスによるプラズマクリーニングでは、エッチング速度に関してはNFを用いる場合と比較して、劣るという欠点があった。そこで、地球温暖化抑制の観点と、プラズマクリーニングプロセスの効率化の観点より、CVD装置内の堆積物のプラズマクリーニングでは、地球温暖化係数が低く、かつ、GWPが17000であるNFを用いる場合と同等以上の高いエッチング速度が得られるクリーニングガスの開発が求められている。
【0009】
本発明では、リモートプラズマクリーニング法に用いられるクリーニングガスにおいて、地球温暖化係数が低く、かつ、高いエッチング速度が得られるクリーニングガス、及びそれを用いたリモートプラズマクリーニング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、クリーニングガスとして、地球温暖化係数の低い、ケトン基又はOF基を有する一般式CF[但し、xは2又は4であり、x=2のときy=1〜3の整数、x=4のときy=1〜4の整数を表す。]で表される化合物にNを添加した混合ガスを用いてリモートプラズマクリーニングをすることにより、NFを用いた場合と同等の高いエッチング速度にてチャンバー内堆積物のクリーニングが可能となることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、CVD装置の反応チャンバー内に堆積した、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物を、リモートプラズマクリーニング法により除去するクリーニングガスにおいて、該ガスは一般式CF[但し、xは2又は4であり、x=2のときy=1〜3の整数、x=4のときy=1〜4の整数を表す。]で表される化合物とNが含有されている混合ガスであることを特徴とする、クリーニングガスを提供するものである。
【0012】
さらには、前記一般式CFで表される化合物は、CFOF又はCFOであることを特徴とするクリーニングガス、前記クリーニングガス中の前記一般式CFで表される化合物の濃度が20vol%以上99.5vol%以下であり、かつ、前記クリーニングガス中のNの濃度が0.5vol%以上80vol%以下であることを特徴とするクリーニングガス、又は、前記クリーニングガス中に、さらに、He、Ar、Oからなる群から選ばれる少なくとも1種類のガスが含有されていることを特徴とするクリーニングガスを提供するものである。
【0013】
又は、CVD装置の反応チャンバー内に堆積した、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物を除去するリモートプラズマクリーニング方法において、クリーニングガスとして、上記のクリーニングガスを用いることを特徴とするリモートプラズマクリーニング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のクリーニングガスにより、CVD装置のリモートプラズマクリーニングにおいて、地球温暖化係数の高いNFを用いなくてもCVD装置の反応チャンバー内の不要堆積物を高速に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】試験に用いたCVD装置の概略系統図を示す。
【図2】クリーニング対象がSiOの場合のガスA濃度とエッチング速度の関係を示す。
【図3】クリーニング対象がSiの場合のガスA濃度とエッチング速度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における除去対象となるものは、CVD装置の反応チャンバー内壁に堆積した、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物である。例えば、Si、Si酸化物、Si窒化物、SiGe、Ge、W、Ti、In、Irが挙げられる。
【0017】
本発明のクリーニングガスは、少なくとも一般式CF[但し、xは2又は4であり、x=2のときy=1〜3の整数、x=4のときy=1〜4の整数を表す。]で表される化合物とNを共に含有する混合ガスである。上記一般式CFで表される化合物としては、例えば、x=2の場合は、CFO、CF(OF)O、C(OF)O、x=4の場合は、CFOF、CF(OF)、CF(OF)、C(OF)などが挙げられる。
【0018】
クリーニングガス中の上記一般式CFで表される化合物の濃度は、20vol%以上99.5vol%以下であることが好ましく、更には40vol%以上99.5vol%以下であることが、より高いエッチング速度を得るためには望ましい。又、Nの濃度は0.5vol%以上80vol%以下であることが好ましく、0.5vol%以上60vol%以下であることが、より高いエッチング速度を得るためには望ましい。
【0019】
クリーニングガス中には、上記一般式CFで表される化合物とN以外にも、He、Ar、Oからなる群から選ばれる少なくとも1種類のガスが混合されていても良い。He、Ar、Oからなる群から選ばれる少なくとも1種類のガスの濃度は特に限定されないが、上記一般式CFとNとの合計の濃度をクリーニングガスから差引いた濃度以下であり、上記以外のガスが含有されて良い。
【0020】
次に、本発明のリモートプラズマクリーニング方法について説明する。
【0021】
上記クリーニングガスを、CVD装置の反応チャンバーに接続されているリモートプラズマ発生装置を介し、リモートプラズマ発生装置でプラズマ放電させ、反応チャンバー内に導入させることにより、CVD装置の反応チャンバー内の内壁又はウェハステージ上に堆積している、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物を除去する。この方法により、高いエッチング速度での堆積物除去が可能となる。
【0022】
クリーニング中の反応チャンバー内の圧力は、リモートプラズマ発生装置にてプラズマ放電をさせた際に、安定したプラズマ放電が得られる圧力であればよく、5Pa以上3000Pa以下であることが好ましい。
【0023】
リモートプラズマ発生装置へのクリーニングガスの導入方法については、予め所望の組成に調整混合した上記クリーニングガスをリモートプラズマ発生装置のプラズマ発生源へ供給し、ここでプラズマ放電させたものを反応チャンバー内に供給することにより、高いエッチング速度でのリモートプラズマクリーニングが可能となる。
【0024】
上記クリーニングガスを用いて、リモートプラズマクリーニングをすることにより、地球温暖化係数の高いNFと同等以上の高いエッチング速度を得ることが可能となる。
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
図1は本試験で用いるCVD装置の概略系統図である。
【0027】
クリーニングガスはマスフローコントローラ(図中省略)により流量調整して、所定の流量でガス導入口5よりリモートプラズマ発生装置6を介して反応チャンバー1に導入される。
【0028】
反応チャンバー1には、平行平板型の容量結合型プラズマ発生装置が備え付けられており、高周波電源3が反応チャンバー1内の平板電極4bに、アース9が反応チャンバー1内の平板電極4aに接続されている。
【0029】
さらに、チャンバー内の圧力を検出する圧力計2が反応チャンバー1に接続されている。また、リモートプラズマクリーニングにより発生する揮発性生成物や未反応のガスなど、チャンバー内のガスを排出するため、反応チャンバー1の排出口7に排ガスライン(図中省略)が接続されている。
【0030】
リモートプラズマクリーニング時には、リモートプラズマ発生装置6の放電が維持された状態でクリーニングガスはガス導入口5から導入され、排ガスラインの排気量の調節によりチャンバー内の圧力が調整された状態(このときの圧力がプロセス圧力)でリモートプラズマクリーニングが進行する。
【0031】
本試験では、除去対象物として厚さが0.5mm厚、面積4cmのSiO或いはSi材質の試験片8を用い、試験片8を平板電極4a上に設置して、所定の条件でリモートプラズマクリーニングを行った。導入したクリーニングガスの総流量は100sccmである。
【0032】
本試験の前後で試験片の質量をそれぞれ測定し、下記算出式(1)によりSiO或いはSi材質のエッチング速度を算出した。
【数1】

【0033】
[実施例1〜20]
本試験では、表1に示すクリーニングガス組成及びクリーニング条件にて、平行電極4a上に設置した試験片8のエッチング速度を算出した。いずれの試験も、クリーニング時間は10分間である。参考例として、実施例1〜7、11、13〜16、19、20において、ガスAとしてNFを用いる以外は同様にクリーニングを行い、その試験結果(参考例1〜14)を表2に示す。
【0034】
実施例1〜6ではCFOFとNとの2元系ガス組成にて、材質がSiOの試験片8に対してチャンバー内圧力53.2Paでリモートプラズマクリーニングを行った。参考例1〜6ではCFOFの代わりにNFを用いて同条件でのクリーニング試験を行っているが、実施例と参考例の両方とも、フッ素ラジカル源であるCFOFあるいはNF濃度が減少するにつれてエッチング速度が減少する傾向は同様であった。CFOFを用いた場合のエッチング速度は、NFを用いた場合と同等以上であった。
【0035】
以上より、地球温暖化係数の小さなCFOFであってもNFと同等以上のクリーニング性能が得られていることが判る。
【0036】
CFOFとN以外に、Ar、O、又はHeをさらに添加したクリーニングガス組成の系(実施例7〜10)やクリーニング時のチャンバー内圧力を5Pa、500Pa、3000Paに変更した系(実施例11〜13)、またクリーニング対象の材質をSiとした系(実施例14〜16)、ガスAとしてCFOFの代わりにCFOを用いた系(実施例17、18)についても、ガスAをNFに置き換えて行なった場合(参考例)のNFクリーニング結果(参考例1、8〜13)と同等以上であることがわかる。
【表1】

【表2】

【0037】
[比較例1〜15]
本試験では、Nを含有しない表3に示すクリーニングガス組成及びクリーニング条件にて、実施例と同様の操作を行ない、リモートプラズマクリーニングを実施した。その結果を表3に示す。
【0038】
さらに、以上の結果から、プロセス圧力が53.2PaにおけるガスAの濃度に対するエッチング速度の関係のグラフを、クリーニング対象がSiOについては図2に、クリーニング対象がSiについては図3に示す。
【0039】
比較例1〜8は、実施例1〜6、19、及び20に対して添加するNを他のガス(O又はAr)に変更してクリーニングしているが、Nを含有するクリーニングガスの場合に比べ、エッチング速度が極端に低下していることが判る。
【0040】
クリーニング対象の材質をSiにした例(比較例9〜11)についても、Nを含有するクリーニングガスの場合に比べ、エッチング速度が極端に低下する傾向は変わらなかった。ガスAをCFOとした場合(比較例12)についても、同様であった。
【0041】
CFOFに対して、Nが所定量含有されるガス組成にてリモートプラズマクリーニングをすることにより、地球温暖化係数が低いCFOFを用いてもNFの場合と同程度以上のエッチング速度で、クリーニングが進行していることが判る。また、ガスAとしてCFOを用いた場合においても、同様にNFの場合と同程度以上のエッチング速度で、クリーニングが進行していることが判る。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、CVD装置のクリーニングに用いることができ、特にリモートプラズマクリーニング法において、地球温暖化係数の高いNFの代替ガスとして利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1・・・反応チャンバー
2・・・圧力計
3・・・高周波電源
4a、4b・・・平板電極
5・・・ガス導入口
6・・・リモートプラズマ発生装置
7・・・排出口
8・・・試験片
9・・・アース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD装置の反応チャンバー内に堆積した、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物を、リモートプラズマクリーニング法により除去するクリーニングガスにおいて、該ガスは一般式CFxOy[但し、xは2又は4であり、x=2のときy=1〜3の整数、x=4のときy=1〜4の整数を表す。]で表される化合物とNが含有されている混合ガスであることを特徴とする、クリーニングガス。
【請求項2】
前記一般式CFで表される化合物は、CFOF又はCFOであることを特徴とする、請求項1に記載のクリーニングガス。
【請求項3】
請求項1において、前記クリーニングガス中の前記一般式CFで表される化合物の濃度が20vol%以上99.5vol%以下であり、かつ、前記クリーニングガス中のNの濃度が0.5vol%以上80vol%以下であること、を特徴とするクリーニングガス。
【請求項4】
前記クリーニングガス中に、さらに、He、Ar、Oからなる群から選ばれる少なくとも1種類のガスが含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリーニングガス。
【請求項5】
CVD装置の反応チャンバー内に堆積した、Si含有物、Ge含有物、又は金属含有物を除去するリモートプラズマクリーニング方法において、クリーニングガスとして、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクリーニングガスを用いることを特徴とする、リモートプラズマクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−174922(P2012−174922A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36238(P2011−36238)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】