説明

グラフェンの製造方法及びグラフェン製造装置

【課題】量産に適したグラフェンの製造方法及びグラフェン製造装置を提供すること
【解決手段】、本技術のグラフェンの製造方法は、導電性を有するフレキシブルな成膜対象物の表面に炭素源物質を接触させる。グラフェンは、成膜対象物に電流を印加して成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって成膜対象物の表面において前記炭素源物質から生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電子材料や電極材料等に用いられるグラフェンの製造方法及びグラフェン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素原子が六角形格子構造に配列したシート状の物質であり、電子材料や電極材料として近年注目を集めている。グラフェンの製造方法としては、加熱された触媒表面に炭素源物質を供給し、当該触媒表面上にグラフェンを成膜させる化学気相成長法が一般的である。
【0003】
例えば特許文献1には、基板上に積層されたグラファイト化触媒を加熱しつつ、当該触媒上に炭素源物質を供給し、グラフェンを生成させる「グラフェンシートの製造方法」が開示されている。この製造方法では、グラファイト化触媒にレーザや赤外線等の電磁波を照射してグラファイト化触媒を加熱させる手法が採られている。
【0004】
また、非特許文献1には、Si/SiO基板上に蒸着されたNi薄膜に電流を印加し、抵抗加熱によって加熱されたNi薄膜に炭素源物質を供給してグラフェンを生成させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−107921号公報(段落[0049]、図1)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Electronic Materials 39, 2190(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、グラファイト化触媒の加熱に電磁波照射を利用しているため、グラファイト化触媒のみを局所的に加熱することが困難であり、グラフェン製造装置の他の部材も高温に晒されると考えられる。このため、製造装置を耐熱性の高い材料で構成する必要があり、冷却機構が必要となる等、製造装置が高価なものになると考えられる。さらに、グラファイト化触媒の加熱や冷却に時間を要する、エネルギーの利用効率が低いといった問題も考えられる。
【0008】
また、非特許文献1に記載の方法では、Si/SiO基板上にNi薄膜を蒸着させる工程が必要となり、また、グラフェンは別の基材(透明絶縁部材等)に転写して利用されることが多いが、そのような転写も困難であると考えられる。さらに、高い耐熱性(1000℃程度)が必要なSi/SiO基板は高価である、基板のサイズによってNi薄膜(即ちグラフェン生成サイト)のサイズも決定される等の問題も考えられる。
【0009】
このように、特許文献1や非特許文献1に記載されているようなグラフェンの製造方法は、工業的レベルでグラフェンを量産するに当たり改善の余地があるといえる。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、量産に適したグラフェンの製造方法及びグラフェン製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係るグラフェンの製造方法は、導電性を有するフレキシブルな成膜対象物の表面に炭素源物質を接触させる。
グラフェンは、上記成膜対象物に電流を印加して上記成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって上記成膜対象物の表面において上記炭素源物質から生成される。
【0012】
この製造方法は、成膜対象物に電流を印加して抵抗加熱により成膜対象物を昇温させるものである。したがって、電磁波照射により成膜対象物を加熱する場合に比べて、成膜対象物以外の部材が高温となることを防止することが可能であるため、耐熱性材料で製造装置を構成する必要がなく、また高いエネルギー効率でグラフェンを製造することが可能である。さらに、成膜対象物をフレキシブルなものとすることにより、大面積の成膜対象物を利用し易く、グラフェンの量産に好適である。
【0013】
上記成膜対象物は銅からなるものであってもよい。
【0014】
成膜対象物として銅を用いることにより、銅の触媒活性と低い炭素固溶度によって均一な(欠陥や複層部分が少ない)単層グラフェンを生成させることが可能となる。一方で銅は、放射率(吸収率)が低い、電磁波を吸収しにくい、放射熱損失が少ないといった物性を有し、電磁波照射により加熱することは困難な材料である。ここで、放射熱損失が少ない材料は少ない電力で加熱することができるため、本技術に係る抵抗加熱においては銅を有効に加熱することができる。さらに、銅は、抵抗加熱に適する導電性を有する、融点が高い、コストが安いといった点からも本技術に係る成膜対象物として好適である。
【0015】
上記成膜対象物は箔であってもよい。
【0016】
箔はその断面積に対する表面積の割合が大きく、抵抗加熱における消費電力に対してのグラフェンの収率を大きくすることや、より低い印加電流でグラフェンを生成することが可能である。また、成膜対象物を箔とすることにより箔の表裏両面にグラフェンを生成させることが可能となるが、例えば基板上に触媒金属を積層したものを成膜対象物とした場合には、表裏両面にグラフェンを生成させることはできない。
【0017】
上記成膜対象物を加熱する工程では、ロールツーロールによって上記成膜対象物を搬送しながら、上記成膜対象物を加熱してもよい。
【0018】
本技術においては成膜対象物を導電性を有するフレキシブルなものとするので、巻回することが可能であり、ロールツーロールによって搬送することが可能である。即ち一回の製造プロセスで大面積の成膜対象物に対してグラフェンを成膜させることができるので、グラフェンの量産に適する。
【0019】
上記成膜対象物を加熱する工程では、上記成膜対象物に電磁波を照射して補助的に加熱してもよい。
【0020】
抵抗加熱により加熱される成膜対象物を、補助的に電磁波照射により加熱することにより、成膜対象物に印加する電流を低減させ、成膜対象物の昇温に要する時間も短縮することが可能となる。
【0021】
上記成膜対象物に上記炭素源物質を接触させる工程では、プラズマ化された上記炭素源物質を上記成膜対象物に接触させてもよい。
【0022】
プラズマ化された炭素源物質を用いてグラフェンを生成させる場合、プラズマが高温となるため、成膜対象物に印加する電流を小さくすることができ、またグラフェンの成膜速度も高速化することが可能である。
【0023】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係るグラフェン製造装置は、チャンバと、第1の電流端子と、第2の電流端子と、電源とを具備する。
上記第1の電流端子は、上記チャンバ内に配置され、導電性を有するフレキシブルな成膜対象物に接触する。
上記第2の電流端子は、上記チャンバ内に、上記第1の電流端子と離間して配置され、上記成膜対象物に接触する。
上記電源は、上記第1の電流端子と上記第2の電流端子の間に電流を印加し、上記成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって上記成膜対象物の表面において炭素源物質からグラフェンを生成させる。
【0024】
この構成によれば、成膜対象物に電流を印加して抵抗加熱により成膜対象物を加熱することが可能であり、電磁波照射により成膜対象物を加熱する場合に比べて、成膜対象物以外の部材が高温となることが防止される。このため、本グラフェン製造装置は耐熱性材料ではない材料で構成することが可能となり、即ち低コストで製造可能なものとすることができる。
【0025】
上記グラフェン製造装置は、上記成膜対象物を上記第1の電流端子及び上記第2の電流端子に接触させながら搬送するロールツーロール機構をさらに具備してもよい。
【0026】
この構成によれば、成膜対象物をロールツーロールによって搬送することが可能であり、一回の製造プロセスで大面積の成膜対象物に対してグラフェンを成膜させることができる。
【0027】
上記チャンバは真空チャンバであり、上記ロールツーロール機構は上記真空チャンバ内に配置されていてもよい。
【0028】
この構成によれば、ロールツーロール機構による搬送を通じて成膜対象物は常に真空チャンバ内に収容されているので、真空チャンバ内への酸素や水蒸気の侵入を防止し、高品質なグラフェンを製造することが可能となる。
【0029】
上記チャンバは陽圧チャンバであり、上記ロールツーロール機構は上記陽圧チャンバ外に配置されていてもよい。
【0030】
この構成によれば、陽圧チャンバ(内部を陽圧に維持可能なチャンバ)を用いてグラフェン製造装置を構成することができ、真空チャンバを用いる必要がないので、グラフェン製造装置の製造コストや運転コストを低減させることが可能となる。また、チャンバを陽圧チャンバにすることによって、ロールツーロール機構から搬送される成膜対象物をチャンバ内に連通させる開口からの酸素や水蒸気の侵入を防止し、高品質なグラフェンを製造することが可能となる。
【0031】
上記第1の電流端子及び上記第2の電流端子は、銅からなる基材がグラフェンからなる被膜に被覆されて形成されていてもよい。
【0032】
この構成によれば、銅の触媒活性と低い炭素固溶度により、基材の銅に良質な単層グラフェンが高い密着性をもって形成されるので、第1の電流端子及び第2の電流端子を導電性が高く、摩擦抵抗が小さく、かつ耐摩耗性が高い電流端子とすることが可能であり、即ちグラフェンの量産に適したグラフェン製造装置とすることが可能である。なお、上記第1の電流端子及び上記第2の電流端子は、モータにより回転させても、回転させなくてもよい。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本技術によれば、量産に適したグラフェンの製造方法及びグラフェン製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本技術の第1の実施形態に係るグラフェン製造装置の模式図である。
【図2】本技術の第2の実施形態に係るグラフェン製造装置の模式図である。
【図3】本技術の第3の実施形態に係るグラフェン製造装置の模式図である。
【図4】本技術の第4の実施形態に係るグラフェン製造装置の模式図である。
【図5】本技術の第3及び第4の実施形態に係る電流端子の模式図である。
【図6】グラフェンのラマン分光分析の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第1の実施形態)
本技術の第1の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るグラフェン製造装置100を示す模式図である。
【0036】
グラフェン製造装置100は、炭素源物質(炭素原子を含む物質)からグラフェンを製造するための装置である。グラフェンとは、互いにsp結合をした炭素原子により構成される六角形格子構造を有するシート状物質である。
【0037】
<グラフェン製造装置の構成>
図1に示すように、グラフェン製造装置100は、真空チャンバ101、第1電流端子102、第2電流端子103、電源104、ガス導入部105及び真空ポンプ106を有する。第1電流端子102及び第2電流端子103には、成膜対象物Sがセットされている。第1電流端子102及び第2電流端子103は真空チャンバ101に収容され、それぞれ電源104に接続されている。ガス導入部105及び真空ポンプ106は真空チャンバ101に接続されている。
【0038】
真空チャンバ101は、内部を真空に維持し、グラフェンの生成が進行する雰囲気を提供する。なお、後述する理由により真空チャンバ101は高い耐熱性を要求されないため、耐熱性を有しない真空チャンバを用いることが可能である。
【0039】
第1電流端子102及び第2電流端子103は、チャンバ内に互いに離間して配置され、それぞれが成膜対象物Sに接触する。第1電流端子102及び第2電流端子103は、電源104から導入される電流を成膜対象物Sに流すためのものであり、本実施形態においてはさらに成膜対象物Sを支持するためのものでもある。第1電流端子102及び第2電流端子103は成膜対象物Sを挟持すること可能な構造とすることができる。
【0040】
このような第1電流端子102及び第2電流端子103によって、成膜対処物Sは真空チャンバ101内において「宙づり」の状態で支持される。ここで、グラフェン製造装置100は第1電流端子102及び第2電流端子103によって成膜対象物Sを支持するものに限られず、支持用部材(ガイド)によって成膜対象物Sを支持するものとすることも可能である。支持用部材は、熱伝導性が低く、耐熱性が高く、絶縁性の良い材料、例えば石英等が好適である。
【0041】
電源104は、第1電流端子102及び第2電流端子103に電流を導入する。電源104は直流電源であってもよく、交流電源であってもよい。電源104の容量等は特に限定されないが、後述するように成膜対象物Sを抵抗加熱により所定の温度まで加熱する必要があるため、電源容量が大きいほうが昇温に必要な時間が短く、グラフェンの量産に適する。例えば成膜対象物Sが銅箔である場合、1000℃に加熱するのに必要な電流密度は10A/mであるから、銅箔が厚み8μm、幅1mであるものとすると必要な電流は800Aとなる。
【0042】
ガス導入部105は、真空チャンバ101内に各種ガスを導入する。具体的にはガス導入部105は、成膜対象物Sのアニールに使用する水素ガスと、グラフェンの原料となる炭素源ガスを導入するものとすることができる。炭素源ガスは炭素原子を含む分子からなるガス(真空環境下で気相となるもの)であり、具体的には、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、アセチレン、エチレン、プロピレン、エタノール、ブタジエン、ペンテン、シクロペンタジエン、シクロへキサン、ベンゼン、トルエン等から選択することができる。
【0043】
グラフェン製造装置100は以上のような構成を有するものとすることができる。グラフェン製造装置100においては抵抗加熱により成膜対象物Sを加熱するものであり、成膜対象物S以外の部分はそれほど高温にならない(例えば200℃以下)。したがって、グラフェン製造装置100は、耐熱性に係わらずに選択された材料からなるものとすることができる。
【0044】
<成膜対象物について>
本技術において製造されるグラフェンは成膜対象物S上に成膜されることによって生成する。成膜対象物Sは、導電性を有し、かつフレキシブルなものとすることができる。後述するように、本技術においては成膜対象物Sに電流を印加し、それによって成膜対象物Sを加熱(抵抗加熱)するものであるから、成膜対象物Sは導電性を有するものである必要がある。
【0045】
また、成膜対象物Sは、フレキシブルな(柔軟性を有する)ものとすることができる。成膜対象物Sをフレキシブルなものとすることにより取り扱いが容易となり、グラフェンの量産に適する。特に、成膜対象物Sをフレキシブルなものとすることにより、後述するロールツーロールが適用できる点が好適である。
【0046】
さらに、成膜対象物Sは、加熱によってグラフェンの生成温度(例えば銅の場合で800℃)以上に加熱されるものであるから、その温度に耐えられるものである必要がある。加えて、グラフェンは、成膜対象物Sの表面において生成されるものであるため、成膜対象物Sはグラフェン触媒活性を有する材料からなるものとする必要がある。
【0047】
このような成膜対象物Sの材料としては、合金を含む金属から選択することができる。具体的には、成膜対象物Sは、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、In(インジウム)、Al(アルミニウム)等の純金属又はこれらの合金からなるものとすることができる。
【0048】
上記各種金属の中で、銅が最も好適である。銅の触媒活性と低い炭素固溶度により、銅表面において良質な「単層グラフェン」が形成されるからである。単層グラフェンは、単層、即ちグラフェンシートが2層以上に積層されていないグラフェンである。
【0049】
成膜対象物S上に形成されたグラフェンは、例えばガラス基板等に転写され、透明導電膜等として利用されるが、グラフェンシートが複層になっている領域が存在すると、その領域で光透過性が損なわれる。また、グラフェンシートが複層となっていると、グラフェンシート間の層間結合は弱いため剥がれ易く、ダスト等の問題が生じる。銅はその化学的性質によりグラフェンの密着性が大きく、炭素を固溶しにくいことから、単層で均一な(欠陥や複層部分が少ない)グラフェンを得ることが可能である。
【0050】
加えて、銅は各種金属の中でも、抵抗加熱に適する導電性を有し、融点が高く、コストも小さいことからも成膜対象物Sの材料として適する。
【0051】
成膜対象物Sはフレキシブルなものと説明したが、このようなものとして金属の「箔」、「線」あるいは「メッシュ」等を挙げることができる。この中でも成膜対象物Sとして箔が最も好適である。箔は大面積のシート状グラフェン膜を得ることができるだけでなく、その断面積に対する表面積の割合が大きく、抵抗加熱における消費電力に対してのグラフェンの収率が大きいからである。また、成膜対象物Sを箔とすることにより、箔の表裏両面にグラフェンを生成させることが可能となるが、例えば基板上に触媒金属を積層したものを成膜対象物とした場合には、表裏両面にグラフェンを生成させることはできない。
【0052】
以上のように、成膜対象物Sは、材料としては銅が好適であり形状としては箔が好適であるので、「銅箔」が最も好適である。銅箔の厚さ、幅、長さ等は特に限定されないが、銅箔の厚さは抵抗加熱の消費電力や印加電流を抑える点からは薄い方が好適であるが、薄過ぎると強度の点から問題があるため、1μm以上100μm以下の厚さ、特に5μm以上50μm以下の厚さが好適である。
【0053】
<グラフェンの製造方法>
グラフェン製造装置100を用いたグラフェンの製造方法について説明する。本実施形態のグラフェンの製造方法は、真空環境下でグラフェンを生成させる低圧CVD(Chemical Vapor Deposition)である。
【0054】
真空チャンバ101に成膜対象物Sをセットする。図1に示すように、成膜対象物Sを第1電流端子102及び第2電流端子103に接触させる。例えば、成膜対象物Sは、厚み35μm、幅15mm、長さ210mmの銅箔であるものとすることができる。
【0055】
続いて、真空ポンプ106により真空チャンバ101内を真空排気し、その後、ガス導入部105により真空チャンバ101内に水素ガスを導入する。水素ガスは、分圧が0.01Torrとなるまで導入するものとすることができる。水素ガスの分圧は特に限定されないが、10−4Torrから10Torrの範囲が好適である。
【0056】
電源104により第1電流端子102及び第2電流端子103に電流を印加する。印加する電流は例えば40Aとすることができる。電流は第1電流端子102と第2電流端子103の間で成膜対象物Sを通じて流れ、この電流により成膜対象物Sが加熱(抵抗加熱)される。成膜対象物Sの温度が所定温度(例えば1000℃)となった状態で所定時間(例えば5分間)維持する。これにより、成膜対象物S(空気中で酸化されている)が還元される。以下、この成膜対象物Sの還元のための加熱を「アニール」とする。
【0057】
続いて、成膜対象物S上にグラフェンを生成させる。この際、上記アニールにおいて成膜対象物Sがグラフェンの生成温度以上の温度となっている場合は、そのままグラフェンの生成に移行することができる。成膜対象物Sの温度がグラフェンの生成温度より低い場合には、グラフェンの生成温度以上となるまで加熱する。
【0058】
成膜対象物Sの加熱温度は400℃以上、特に800℃以上が好適である。したがって、成膜対象物Sを銅からなるものとする場合、800℃以上1084℃(銅の融点)の温度範囲が好適である。
【0059】
続いて、ガス導入部105から炭素源ガスを真空チャンバ101内に導入する。例えば炭素源ガスとしてメタンを、分圧が0.3Torrとなるまで導入することができる。メタンガスの分圧は特に限定されないが、10−4Torrから10Torrの範囲が好適である。真空チャンバ101内に導入された炭素源ガスは、成膜対象物Sの表面に接触するとその熱により分解され、成膜対象物Sの触媒活性によりグラフェンが生成される。このグラフェンの生成は、例えば10分間行うものとすることができる。
【0060】
電源104による電流の印加及び炭素源ガスの導入を停止し、成膜対象物Sを冷却する。これにより、グラフェンが成膜された成膜対象物Sを得ることが可能となる。
【0061】
なお、上記説明では、アニール終了後に炭素源ガスを真空チャンバ101に導入し、グラフェンを生成させるものとしたが、アニール開始前に水素ガス及び炭素源ガスを真空チャンバ101に導入してもよい。成膜対象物Sの還元はグラフェン生成温度より低い温度(例えば300℃)で進行するため、成膜対象物Sをグラフェン生成温度に昇温する過程で成膜対象物Sの還元がなされる。
【0062】
成膜対象物S上に形成されたグラフェンは、ガラス、石英、プラスチック等に転写することによって透明導電性膜として利用することが可能となる。成膜対象物Sとして銅箔を用いた場合、上記のように高品質の単層グラフェンを得ることが可能である。銅箔上に形成され、石英上に転写されたグラフェンを分析すると、波長550nmにおける光透過率が97%、シート抵抗が200Ω/sq.であった。
【0063】
グラフェンの存在はラマン分光分析によってグラフェン特有の振動モードを測定することにより確認することができる。図6は、ラマン分光分析の測定結果を示すグラフである。同図に示すグラフにおいて2714cm−1のピークが単一のローレンツ関数でフィッティングでき、単層グラフェンが生成されていることが確認される。
【0064】
以上のようにしてグラフェンを製造することができる。本実施形態では、上記のように成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱するために、抵抗加熱のみを用いている。したがって、成膜対象物以外の部材(チャンバ101の内壁等)は比較的低温のまま維持することができる。これによりグラフェン製造装置100を耐熱性に係わらずに選択された材料からなるものとすることができる。具体的には、グラフェン製造装置100をガラス、ステンレス、銅等の比較的安価な材料により製造することが可能となる。即ち、グラフェン製造装置100のコストを小さいものとすることができる。
【0065】
また、多くの物質は高温環境下で化学反応性が高まり、劣化を生じる。本実施形態に係るグラフェン製造装置100においては、このような熱による部材の劣化を防止すること可能であるため、他の加熱方式のグラフェン製造装置に比べて耐久性が高く、メンテナンスの頻度が小さいものとすることが可能である。
【0066】
成膜対象物として、その触媒活性により銅が好適であると説明したが、銅は放射率(吸収率)が0.03程度と低く、赤外線等の電磁波を吸収しにくい一方、放射熱損失が少ない。これは電磁波照射による加熱がしにくく、エネルギー利用効率が悪いことを意味する。これに対し、本実施形態のように抵抗加熱により内部から銅を加熱する場合には、銅の放射熱損失が小さいことは少ない電力で所定温度まで加熱できることを意味し、即ち、本実施形態に係る加熱方式は、銅に適した加熱方法である。
【0067】
成膜対象物に電磁波を照射して加熱する場合、電磁波が成膜対象物以外でも吸収されるため減衰し、あるいは電磁波が成膜対象物により反射されるため、その意味でもエネルギー利用効率が小さい。これに対し、本実施形態に係る加熱方式では、効率よく成膜対象物を加熱することが可能であり、短時間で所定温度まで昇温させることができるため、グラフェン製造プロセスのタクトタイムを短縮させることが可能である。さらには、成膜対象物のみを加熱しているために冷却時間も短く、その点でもタクトタイムを短縮させることができる。
【0068】
さらに、成膜対象物に電磁波を照射して加熱する場合、成膜対象物と電磁波の照射源との位置関係等により、成膜対象物が均等に加熱されず、グラフェンの品質が低い(欠陥が多い等)ものとなるおそれがある。これに対し、本実施形態に係る加熱方式では、成膜対象物を均等に加熱することができ、温度分布によるグラフェンの品質低下を抑制することが可能である。
【0069】
本実施形態に係る抵抗加熱のエネルギーは、制御性の高い電流によって直接に成膜対象物に導入されるため、本実施形態に係る加熱方式は成膜対象物の温度を高速かつ正確に制御することが可能である。特に成膜対象物が銅である場合には、銅は熱容量が小さいことからこの効果が顕著である。
【0070】
さらに、本実施形態に係る加熱方式では、金属の抵抗値は温度に依存することを利用して、成膜対象物に電流を印加しながらその抵抗値(電流の印加と同時に測定が可能)により印加電流をフィードバック制御することも可能である。
【0071】
(第2の実施形態)
本技術の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態において第1の実施形態と共通する事項については説明を省略する。第1の実施形態においてはグラフェンの低圧CVDによる製造について説明したが、本実施形態はグラフェンの大気圧CVDによる製造に係るものである。
【0072】
図2は、本実施形態に係るグラフェン製造装置200を示す模式図である。図2に示すように、グラフェン製造装置200は、チャンバ201、第1電流端子202、第2電流端子203、電源204、ガス導入部205及びガス排気部206を有する。第1電流端子202及び第2電流端子203には、成膜対象物Sがセットされている。第1電流端子202及び第2電流端子203はチャンバ201に収容され、それぞれ電源204に接続されている。ガス導入部205及びガス排気部206はチャンバ201に接続されている。
【0073】
チャンバ201は、グラフェンの生成が進行する雰囲気を提供する。第1の実施形態と同様に、チャンバ201は高い耐熱性を要求されないため、一般的なチャンバを用いることが可能である。さらに、本実施形態では第1の実施形態と異なり、チャンバを真空チャンバとする必要はなく、真空チャンバに比べて低コストな、耐圧性が低いチャンバを用いることが可能である。
【0074】
第1電流端子202、第2電流端子203、電源204はそれぞれ第1の実施形態において説明したものと同一の構成とすることができる。ただし、大気圧環境においては対流により成膜対象物Sの熱が放出されるため、電源204は第1の実施形態(真空環境)に比べて多少大きい電流を第1電流端子202及び第2電流端子203に導入可能なものと必要がある。
【0075】
ガス導入部105は、チャンバ201内に各種ガスを導入する。具体的にはガス導入部105は、不活性ガス(アルゴン、窒素等)、水素ガス及び炭素源ガスを導入するものとすることができる。炭素源ガスは炭素原子を含む分子からなるガス(大気圧環境下で気相)であり具体的には、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン、エチレン等から選択することができる。
【0076】
グラフェン製造装置200は以上のような構成を有するものとすることができる。グラフェン製造装置200においては抵抗加熱により成膜対象物Sを加熱するものであり、成膜対象物S以外の部分はそれほど高温にならない。したがって、グラフェン製造装置200は、耐熱性に係わらずに選択された材料からなるものとすることができる。
【0077】
グラフェン製造装置200にセットされる成膜対象物Sは、第1の実施形態と同様に導電性を有するフレキシブルなものすることができ、特に銅箔が好適である。
【0078】
<グラフェンの製造方法>
グラフェン製造装置200を用いたグラフェンの製造方法について説明する。本実施形態のグラフェンの製造方法は、大気圧環境下でグラフェンを生成させる大気圧CVDである。
【0079】
チャンバ201に成膜対象物Sをセットする。図2に示すように、成膜対象物Sを第1電流端子202及び第2電流端子203に接触させる。例えば、成膜対象物Sは、厚み35μm、幅15mm、長さ210mmの銅箔であるものとすることができる。
【0080】
続いて、ガス導入部205から不活性ガス及び水素ガスをチャンバ201に導入する。例えば、アルゴン及び水素(3.9%)の混合ガスを導入するものとすることができる。水素ガスの濃度は特に限定されないが、1ppmから4%の範囲が好適である。このガスにより、チャンバ201内の酸素濃度及び水蒸気濃度を低下させることができる。
【0081】
電源204により第1電流端子202及び第2電流端子203に電流を印加する。印加する電流は例えば50Aとすることができる。電流は第1電流端子202と第2電流端子203の間で成膜対象物Sを通じて流れ、この電流により成膜対象物Sが加熱(抵抗加熱)される。成膜対象物Sの温度が所定温度(例えば900℃)となった状態で所定時間(例えば5分間)維持する。これにより、成膜対象物Sが還元(アニール)される。
【0082】
続いて、成膜対象物S上にグラフェンを生成させる。この際、上記アニールにおいて成膜対象物Sがグラフェンの生成温度以上の温度となっている場合は、そのままグラフェンの生成に移行することができる。成膜対象物Sの温度がグラフェンの生成温度より低い場合には、グラフェンの生成温度以上となるまで加熱する。
【0083】
続いて、ガス導入部205から不活性ガス及び炭素源ガスをチャンバ201内に導入する。例えば、アルゴン及びメタン(4%)の混合ガスを、メタン分圧が100ppmとなるまで導入するものとすることができる。メタンガスの濃度は特に限定されないが、1ppmから5.3%の範囲が好適である。
【0084】
チャンバ201内に導入された炭素源ガスは、成膜対象物Sの表面に接触するとその熱により分解され、成膜対象物Sの触媒活性によりグラフェンが生成される。このグラフェンの生成は、例えば10分間行うものとすることができる。
【0085】
電源204による電流の印加及び炭素源ガスの導入を停止し、成膜対象物Sを冷却する。これにより、グラフェンが成膜された成膜対象物Sを得ることが可能となる。
【0086】
なお、上記説明では、アニール終了後に不活性ガス及び炭素源ガスをチャンバ201に導入し、グラフェンを生成させるものとしたが、アニール開始前に水素ガス、不活性ガス及び炭素源ガスをチャンバ201に導入してもよい。成膜対象物Sの還元はグラフェン生成温度より低い温度で進行するため、成膜対象物Sをグラフェン生成温度に昇温する過程で成膜対象物Sの還元がなされる。
【0087】
以上のようにしてグラフェンを製造することができる。本実施形態においては、真空環境とするための設備が不要であり、より低コストにグラフェンを量産することが可能である。
【0088】
(第3の実施形態)
本技術の第3実施形態について説明する。なお、本実施形態において第1の実施形態と共通する事項については説明を省略する。本実施形態においては第1の実施形態と同様に低圧CVDによりグラフェンを製造するものであるが、ロールツーロール機構を有する点で第1の実施形態と異なる。
【0089】
図3は、本実施形態に係るグラフェン製造装置300を示す模式図である。図3に示すように、グラフェン製造装置300は、真空チャンバ301、第1電流端子302、第2電流端子303、電源304、ガス導入部305、真空ポンプ306、巻取ロール307及び巻出ロール308を有する。巻取ロール307及び巻出ロール308には成膜対象物Sがセットされている。第1電流端子302、第2電流端子303、巻取ロール307及び巻出ロール308は真空チャンバ301に収容されている。第1電流端子302及び第2電流端子303はそれぞれ電源304に接続されている。ガス導入部305及び真空ポンプ306は真空チャンバ301に接続されている。
【0090】
真空チャンバ301、電源304、ガス導入部305及び真空ポンプ306については第1の実施形態と同様の構成とすることができる。
【0091】
巻取ロール307及び巻出ロール308にセットされる成膜対象物Sは、第1の実施形態と同様に導電性を有するフレキシブルなものすることができ、特に銅箔が好適である。特に本実施形態に係る成膜対象物Sは、ロール状に巻回できる程度の長さを有するものである。
【0092】
巻取ロール307及び巻出ロール308は、ロールツーロール(roll-to-roll)機構を構成する。具体的には、ロール状の成膜対象物Sが巻出ロール308にセットされ、その一端が巻取ロール307に接続される。巻取ロール307が回転動力により回転すると、巻取ロール307に成膜対象称物Sが巻回されることにより、巻出ロール308が従動的に回転し、成膜対象物Sが巻出ロール308から巻取ロール307に搬送されるものとすることができる。
【0093】
第1電流端子302及び第2電流端子303はそれぞれ成膜対象物Sに接触する。ここで、本実施形態においては、上記ロールツーロール機構により成膜対象物Sが搬送されるため、第1電流端子302及び第2電流端子303は移動する成膜対象物Sに安定的に接触可能なものである必要がある。
【0094】
具体的には、第1電流端子302及び第2電流端子303は、導電性材料からなり、少なくとも成膜対象物Sと接触する部分が円弧形状であるものとすることができる。導電性材料としてはカーボンや、銅、ステンレス、チタン、タングステン、コバルト、ニッケル又は白金等の純金属あるいはこれらの合金とすることができる。また、第1電流端子302及び第2電流端子303は、上記のような導電性材料からなる回転可能なロールであるものとすることもできる。さらに、第1電流端子302及び第2電流端子303は次のような構成にすると特に好適である。
【0095】
図5は、第1電流端子302及び第2電流端子303として利用することができる電流端子Dの構成を示す断面図である。同図に示すように、電流端子Dは、基材Mが被膜Gによって被覆されて構成されている。
【0096】
基材Mは、円筒形状又は少なくとも成膜対象物Sと接触する部分が円弧形状を有するものとすることができる。基材Mは銅、ニッケル、ステンレス等であるものとすることができるが、後述する理由により銅が特に好適である。被膜Gはグラフェンからなるものとすることができる。グラフェンは潤滑性が高く、導電性が高いため、成膜対象物Sと摺動接触する電流端子の材料として好適である。
【0097】
さらに上述のように、銅にグラフェンを成膜した場合、銅の触媒活性により良質な単層グラフェンが、銅と高い密着性をもって形成される。このため、基材Mを銅からなるものとすることにより、成膜対象物Sとの摺動に対して高い耐摩耗性を有する電流端子とすることが可能となる。なお、銅へのグラフェンの成膜は、本技術に係る成膜方法(抵抗加熱によるCVD)に限られず、種々の方法によってすることができる。
【0098】
このように、第1電流端子302及び第2電流端子303を、銅からなる基材Mが単層グラフェンからなる被膜Gによって被覆された構造(電流端子D)とすることにより、導電性が高く、摩擦抵抗が小さく、かつ耐摩耗性が高い(即ち、グラフェンの量産に適する)電流端子とすることが可能である。
【0099】
グラフェン製造装置300は以上のような構成を有するものとすることができる。グラフェン製造装置300においては抵抗加熱により成膜対象物Sを加熱するものであり、成膜対象物S以外の部分はそれほど高温にならない。したがって、グラフェン製造装置300は、耐熱性に係わらずに選択された材料からなるものとすることができる。
【0100】
<グラフェンの製造方法>
グラフェン製造装置300を用いたグラフェンの製造方法について説明する。本実施形態のグラフェンの製造方法は、真空環境下でグラフェンを生成させる低圧CVD(Chemical Vapor Deposition)である。
【0101】
巻出ロール308に成膜対象物Sのロールをセットし、成膜対象物Sの一端を巻取ロール307に接続する。これにより図3に示すように、成膜対象物Sが第1電流端子302及び第2電流端子303に接触する。例えば、成膜対象物Sは、厚み35μm、幅300mmの銅箔であるものとすることができる。
【0102】
続いて、真空ポンプ306により真空チャンバ301内を真空排気する。その後、ガス導入部305により炭素源ガス及び水素ガスを導入する。例えば、メタンガスをメタン分圧1Torrとなるまで、水素ガスを水素分圧1Torrとなるまで導入するものとすることができる。メタンガス及び水素ガスの分圧は特に限定されないが、ともに10−4Torrから10Torrの範囲が好適である。
【0103】
電源304により第1電流端子302及び第2電流端子303に電流を印加する。印加する電流は例えば1000Aとすることができる。電流は第1電流端子302と第2電流端子103の間で成膜対象物Sを通じて流れ、この電流により成膜対象物Sの、第1電流端子302及び第2電流端子303によって挟まれている領域が加熱(抵抗加熱)される。成膜対象物Sが昇温されると、上記水素ガスにより成膜対象物Sが還元(アニール)される。
【0104】
さらに成膜対象物Sが昇温され、グラフェンの生成温度となった状態で、炭素源ガスが成膜対象物Sの表面に接触して分解される。成膜対象物Sの触媒活性により成膜対象物Sの第1電流端子302及び第2電流端子303に挟まれている領域においてグラフェンが生成される。
【0105】
ここで、成膜対象物Sの温度がグラフェンの生成温度となった時点で巻取ロール307の回転を開始させ、即ち、成膜対象物Sのロールツーロール搬送を開始するものとすることができる。例えば、巻取張力を10N、搬送速度を1m/minとすることができる。
【0106】
これにより、成膜対象物Sのうち、新たに第1電流端子302及び第2電流端子303に挟まれた領域が抵抗加熱されてグラフェンが生成される。以降、ロールツーロール搬送により順次、成膜対象物Sにグラフェンが生成されていく。例えば、成膜対象物Sを銅箔とし、上記条件においてグラフェンの成膜を行うと、95%以上の被覆率で単層グラフェンを生成させることが可能である。
【0107】
ここで、成膜対象物Sと第1電流端子302及び第2電流端子303の接触が悪化した場合には抵抗が大幅に上昇するため、抵抗値のログを収集しておくことにより成膜対象物Sにおいて成膜時に問題が生じた箇所を後で特定することも可能である。
【0108】
成膜対象物Sの全部のロールツーロール搬送が完了した後、電源304による電流の印加及び炭素源ガスの導入を停止し、成膜対象物Sを冷却する。なお、成膜対象物Sは加熱区間から離れると順次冷却され、巻取ロール307に巻回されたものはそれほど高温とはならないため、成膜終了後には冷却を待つ必要がない場合もある。これにより、グラフェンが成膜された成膜対象物Sを得ることが可能となる。
【0109】
以上のようにしてグラフェンを製造することができる。本実施形態においては、ロールツーロール搬送により、大面積の成膜対象物Sに対してグラフェンを成膜することが可能であり、即ち一回の製造プロセスで多量のグラフェンを製造することが可能となる。
【0110】
(第4の実施形態)
本技術の第4実施形態について説明する。なお、本実施形態において第2の実施形態と共通する事項については説明を省略する。本実施形態においては第2の実施形態と同様に大気圧CVDによりグラフェンを製造するものであるが、ロールツーロール機構を有する点で第2の実施形態と異なる。
【0111】
図4は、本実施形態に係るグラフェン製造装置400を示す模式図である。図4に示すように、グラフェン製造装置400は、チャンバ401、第1電流端子402、第2電流端子403、電源404、ガス導入部405、ガス排気部406、巻取ロール407及び巻出ロール408を有する。巻取ロール407及び巻出ロール408には成膜対象物Sがセットされている。第1電流端子402及び第2電流端子403はチャンバ401に収容されている。第1電流端子402及び第2電流端子403はそれぞれ電源404に接続されている。ガス導入部405及びガス排気部406はチャンバ401に接続されている。巻取ロール407及び巻出ロール408はそれぞれチャンバ401の外部に設けられている。
【0112】
チャンバ401は、チャンバ内を陽圧(大気圧より若干高い圧力)とすることが可能な陽圧チャンバとすることができる。チャンバ401には、チャンバ内とチャンバ外を連通させる開口401a及び401bが設けられている。開口401a及び開口401bは、巻取ロール407及び巻出ロール408によって搬送される成膜対象物Sが通過するための開口である。
【0113】
電源404、ガス導入部405については第2の実施形態と同様の構成とすることができる。
【0114】
巻取ロール407及び巻出ロール408にセットされる成膜対象物Sは、第2の実施形態と同様に導電性を有するフレキシブルなものすることができ、特に銅箔が好適である。特に本実施形態に係る成膜対象物Sは、ロール状に巻回できる程度の長さを有するものである。
【0115】
巻取ロール407及び巻出ロール408は、ロールツーロール機構を構成する。具体的には、ロール状の成膜対象物Sが巻出ロール308にセットされ、その一端が巻取ロール307に接続される。巻取ロール407が回転動力により能動的に回転すると、巻取ロール407に成膜対象称物Sが巻回されることにより、巻出ロール408が従動的に回転し、成膜対象物Sが巻出ロール408から巻取ロール407に搬送されるものとすることができる。巻出ロール408に巻回されていた成膜対象物Sは、開口401aを通過してチャンバ401内に入り、開口401bを通過してチャンバ401から出、巻取ロール407に巻回される。
【0116】
第1電流端子402及び第2電流端子403はそれぞれ成膜対象物Sに接触する。第1電流端子402及び第2電流端子403は、第3の実施形態において説明した電流端子D(図5参照)を用いることができる。
【0117】
グラフェン製造装置400は以上のような構成を有するものとすることができる。グラフェン製造装置400においては抵抗加熱により成膜対象物Sを加熱するものであり、成膜対象物S以外の部分はそれほど高温にならない。したがって、グラフェン製造装置400は、耐熱性に係わらずに選択された材料からなるものとすることができる。
【0118】
<グラフェンの製造方法>
グラフェン製造装置400を用いたグラフェンの製造方法について説明する。本実施形態のグラフェンの製造方法は、大気圧環境下でグラフェンを生成させる大気圧CVDである。
【0119】
巻出ロール408に成膜対象物Sのロールをセットし、成膜対象物Sの一端をチャンバ401内を解して巻取ロール407に接続する。これにより図4に示すように、成膜対象物Sが第1電流端子402及び第2電流端子403に接触する。例えば、成膜対象物Sは、厚み35μm、幅300mmの銅箔であるものとすることができる。
【0120】
続いて、ガス導入部405から不活性ガス、水素ガス及び炭素源ガスをチャンバ401内に導入する。例えば、アルゴン、水素及びメタンの混合ガスを導入するものとすることができる。メタンガス濃度は1ppmから5.3%の範囲が好適であり、水素ガス濃度は1ppmから4%の濃度が好適である。このガスにより、チャンバ401内の酸素濃度及び水蒸気濃度を低下させることができる。ここで、本実施形態においては、導入するガスの流量を調整し、チャンバ401内の圧力を大気圧より若干高い圧力(陽圧)とする。これにより、導入されたガスが開口401a及び401bから噴出し、大気のチャンバ401内への進入を防止することができる。
【0121】
電源404により第1電流端子402及び第2電流端子403に電流を印加する。印加する電流は例えば1000Aとすることができる。電流は第1電流端子402と第2電流端子403の間で成膜対象物Sを通じて流れ、この電流により成膜対象物Sの、第1電流端子402及び第2電流端子403によって挟まれている領域が加熱(抵抗加熱)される。成膜対象物Sが昇温されると、上記水素ガスにより成膜対象物Sが還元(アニール)される。
【0122】
さらに成膜対象物Sが昇温され、グラフェンの生成温度となった状態で、炭素源ガスが成膜対象物Sの表面に接触して分解される。成膜対象物Sの触媒活性により成膜対象物Sの第1電流端子402及び第2電流端子403に挟まれている領域においてグラフェンが生成される。
【0123】
ここで、成膜対象物Sの温度がグラフェンの生成温度となった時点で巻取ロール407の回転を開始させ、即ち、成膜対象物Sのロールツーロール搬送を開始するものとすることができる。例えば、巻取張力を10N、搬送速度を1m/minとすることができる。
【0124】
これにより、成膜対象物Sのうち、新たに第1電流端子402及び第2電流端子403に挟まれた領域が抵抗加熱されてグラフェンが生成される。以降、ロールツーロール搬送により順次、成膜対象物Sにグラフェンが生成されていく。特に、成膜対象物Sが銅である場合には、銅の触媒活性により均一に単層グラフェンが生成される。
【0125】
ここで、成膜対象物Sと第1電流端子402及び第2電流端子403の接触が悪化した場合には抵抗が大幅に上昇するため、抵抗値のログを収集しておくことにより成膜対象物Sにおいて成膜時に問題が生じた箇所を後で特定することも可能である。
【0126】
以上のようにしてグラフェンを製造することができる。本実施形態においては、ロールツーロール搬送により、大面積の成膜対象物Sに対してグラフェンを成膜することが可能である。さらに、本実施形態においては、チャンバ内を真空環境としないため、そのための設備が不要である。このため、本実施形態においては、低コストでグラフェンを量産することが可能である。
【0127】
(変形例)
本技術は上記各実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において変更することが可能である。以下、上記各実施形態の変形例について説明する。
【0128】
<グラフェンの原料について>
第1乃至第4の実施形態において、グラフェンの原料(炭素源物質)としてチャンバ内に炭素源ガスを導入するものとしたが、炭素源ガスを導入する替わりに液体又は固体の物質を用いることも可能である。炭素源物質が液体又は固体であっても、チャンバ内が減圧あるいは昇温された際に蒸発するものであればよい。例えば、容器に液体又は固体の炭素源物質を収容してチャンバ内に載置しておくことも可能である。
【0129】
さらに、予め成膜対象物に積層された炭素原子を有するポリマーを炭素源物質とすることができる。このようなポリマーとしてはポリメタクリル酸メチル(Poly(methyl methacrylate)やポリスチレンが挙げられる。成膜対象物Sが加熱されると、これらのポリマーが分解されてグラフェンの原料となる。
【0130】
<電流端子について>
第1及び第2の実施形態において、第1電流端子及び第2電流端子とは別の部材によって成膜対象物Sを支持するものとすることも可能である。また、第3の実施形態において、巻取ロール及び巻出ロール自体を電源に接続し、第1電流端子及び第2電流端子として用いることも可能である。さらに電流端子を複数本用いて、温度が異なる加熱区間を複数ヶ所も受けることでアニール区間、成膜区間、徐冷区間などに分離してもよい。
【0131】
<炭素源ガスのプラズマ化について>
第1及び第3の実施形態において、真空チャンバ内に供給された炭素源ガスをプラズマ化してグラフェンの原料とすることも可能である。例えば、成膜対象物と平行に高周波電極を配置し、炭素源ガスに高周波電圧を印加してプラズマ化させることができる。炭素源ガスのプラズマが高温となるため、成膜対象物に印加する電流を小さくすることができ、またグラフェンの成膜速度も高速化することが可能である。グラフェン成膜条件は例えば、周波数13.56MHz、出力500W、メタンガス圧力0.1Torrとすることができる。
【0132】
<補助加熱について>
第1乃至第4の実施形態において、成膜対象物を抵抗加熱により加熱するものとしたが、これに加えて電磁波照射(輻射、レーザ照射、ランプ照射等)によって補助的に加熱してもよい。特にセラミックヒータやハロゲンランプによる赤外線加熱は有効である。これにより、成膜対象物に印加する電流を低減させ、成膜対象物の昇温に要する時間も短縮することが可能となる。例えば、成膜対象物が銅箔である場合に、平行平板型セラミックヒータを銅箔の上部と下部に設置し、当該ヒータを500℃に昇温すると、成膜対象物を1000℃に加熱するために要する電流が40Aから35Aに減少する。さらに、成膜対象物を900℃まで昇温するために要する時間も8秒から7秒に短縮することが可能である。
【0133】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
【0134】
(1)
導電性を有するフレキシブルな成膜対象物の表面に炭素源物質を接触させ、
上記成膜対象物に電流を印加して上記成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって上記成膜対象物の表面において上記炭素源物質からグラフェンを生成させる
グラフェンの製造方法。
【0135】
(2)
上記(1)に記載のグラフェンの製造方法であって、
上記成膜対象物は銅からなる
グラフェンの製造方法。
【0136】
(3)
上記(1)又は(2)に記載のグラフェンの製造方法であって、
上記成膜対象物は箔である
グラフェンの製造方法。
【0137】
(4)
上記(1)から(3)のいずれかに記載のグラフェンの製造方法であって、
上記成膜対象物を加熱する工程では、ロールツーロールによって上記成膜対象物を搬送しながら、上記成膜対象物を加熱する
グラフェンの製造方法。
【0138】
(5)
上記(1)から(4)に記載のグラフェンの製造方法であって、
上記成膜対象物を加熱する工程では、上記成膜対象物に電磁波を照射して補助的に加熱する
グラフェンの製造方法。
【0139】
(6)
上記(1)から(5)に記載のグラフェンの製造方法であって、
上記成膜対象物に上記炭素源物質を接触させる工程では、プラズマ化された上記炭素源物質を上記成膜対象物に接触させる
グラフェンの製造方法。
【0140】
(7)
チャンバと、
上記チャンバ内に配置され、導電性を有するフレキシブルな成膜対象物に接触する第1の電流端子と、
上記チャンバ内に、上記第1の電流端子と離間して配置され、上記成膜対象物に接触する第2の電流端子と、
上記第1の電流端子と上記第2の電流端子の間に電流を印加し、上記成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって上記成膜対象物の表面において炭素源物質からグラフェンを生成させる電源と
を具備するグラフェン製造装置。
【0141】
(8)
上記(7)に記載のグラフェン製造装置であって、
上記成膜対象物を上記第1の電流端子及び上記第2の電流端子に接触させながら搬送するロールツーロール機構
をさらに具備するグラフェン製造装置。
【0142】
(9)
上記(7)又は(8)に記載のグラフェン製造装置であって、
上記チャンバは真空チャンバであり、
上記ロールツーロール機構は、上記真空チャンバ内に配置されている
グラフェン製造装置。
【0143】
(10)
上記(7)から(9)のいずれかに記載のグラフェン製造装置であって、
上記チャンバは陽圧チャンバであり、
上記ロールツーロール機構は、上記陽圧チャンバ外に配置されている
グラフェン製造装置。
【0144】
(11)
上記(7)から(10)のいずれかに記載のグラフェン製造装置であって、
上記第1の電流端子及び上記第2の電流端子は、銅からなる基材がグラフェンからなる被膜に被覆されて形成されている
グラフェン製造措置。
【符号の説明】
【0145】
101、201、301、401…チャンバ
102、202、302、402…第1の電流端子
103、203、303、403…第2の電流端子
104、204、304、404…電源
307、308、407、408…ロールツーロール機構
S…成膜対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するフレキシブルな成膜対象物の表面に炭素源物質を接触させ、
前記成膜対象物に電流を印加して前記成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって前記成膜対象物の表面において前記炭素源物質からグラフェンを生成させる
グラフェンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフェンの製造方法であって、
前記成膜対象物は銅からなる
グラフェンの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のグラフェンの製造方法であって、
前記成膜対象物は箔である
グラフェンの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のグラフェンの製造方法であって、
前記成膜対象物を加熱する工程では、ロールツーロールによって前記成膜対象物を搬送しながら、前記成膜対象物を加熱する
グラフェンの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のグラフェン製造方法であって、
前記成膜対象物を加熱する工程では、前記成膜対象物に電磁波を照射して補助的に加熱する
グラフェンの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のグラフェンの製造方法であって、
前記成膜対象物に前記炭素源物質を接触させる工程では、プラズマ化された前記炭素源物質を前記成膜対象物に接触させる
グラフェンの製造方法。
【請求項7】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され、導電性を有するフレキシブルな成膜対象物に接触する第1の電流端子と、
前記チャンバ内に、前記第1の電流端子と離間して配置され、前記成膜対象物に接触する第2の電流端子と、
前記第1の電流端子と前記第2の電流端子の間に電流を印加し、前記成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって前記成膜対象物の表面において炭素源物質からグラフェンを生成させる電源と
を具備するグラフェン製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載のグラフェン製造装置であって、
前記成膜対象物を前記第1の電流端子及び前記第2の電流端子に接触させながら搬送するロールツーロール機構
をさらに具備するグラフェン製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載のグラフェン製造装置であって、
前記チャンバは真空チャンバであり、
前記ロールツーロール機構は、前記真空チャンバ内に配置されている
グラフェン製造装置。
【請求項10】
請求項8に記載のグラフェン製造装置であって、
前記チャンバは陽圧チャンバであり、
前記ロールツーロール機構は、前記陽圧チャンバ外に配置されている
グラフェン製造装置。
【請求項11】
請求項8に記載のグラフェン製造装置であって、
前記第1の電流端子及び前記第2の電流端子は、銅からなる基材がグラフェンからなる被膜に被覆されて形成されている
グラフェン製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−14484(P2013−14484A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149784(P2011−149784)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】