説明

ケーブル診断装置およびケーブル診断方法

【課題】パルス電気信号の伝播速度が異なるケーブル区間を有していても、ケーブルの診断を高精度に行うことができるようにする。
【解決手段】診断対象のケーブル経路3において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する設定手段と、前記ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性と、前記区間ごとに設定さされた伝播速度とから、前記ケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定する推定手段とを有するケーブル診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断対象のケーブル経路内における不具合箇所の位置を診断することができるケーブル診断装置およびケーブル診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブル内での不具合箇所を診断することは、ケーブルの品質を保証するために重要である。従来から、給電ケーブルの保守管理の分野では、ケーブルの不具合箇所を診断するために、下記特許文献1に示すように、TDR(Time Domain Refrectometry:時間領域反射)法という手法が用いられている。このTDR法では、検査対象のケーブルにパルス電気信号が送信される。そして、ケーブルに送信されたパルス電気信号がケーブル内の不具合箇所で反射されて戻ってくるまでの所要時間が求められる。この所要時間に対してパルス電気信号の伝播速度を乗じることによって、不具合箇所の位置を推定することができる。
【特許文献1】特開平1−152376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のTDR法は、診断対象のケーブル経路においてパルス電気信号の伝播速度が変化しないことを前提としている。したがって、診断対象のケーブル経路内にパルス電気信号の伝播速度が異なる区間が存在するような複雑な系に適用する場合、印加したパルス電気信号の伝播速度が変動することによって、パルス電気信号がケーブル内の不具合箇所で反射されて戻ってくるまでの所要時間も変動し、不具合箇所の位置を正確に推定することができないという問題点があった。
【0004】
たとえば、従来のTDR法は、車両に敷設されたハーネス内の不具合箇所の診断に適用することが困難である。車両のハーネスは、IG(イグニッション電源)、ACC(アクセサリ電源)、およびCAN(controller Area Network)バスなどの車両を構成する要素に信号を伝達する複数のケーブルの束であり、ケーブル経路を構成している。車両のハーネスにTDR法を用いた場合、ケーブル間での相互作用などによってケーブル経路上でインピーダンスが大きく異なる区間があり、印加したパルス電気信号の伝播速度が変動する。したがって、反射パルスが帰って来るまでの時間も変動し、不具合箇所の位置を正確に推定することが困難である。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、パルス電気信号の伝播速度が異なる区間が存在するような複雑な系においても、ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することができるケーブル診断装置およびケーブル診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
本発明のケーブル診断装置は、診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する設定手段と、前記ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性の測定結果と、前記区間ごとに設定された伝播速度とから、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定する推定手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のケーブル診断方法は、診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する段階と、前記ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性の測定結果と、前記区間ごとに設定された伝播速度とから、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定する段階と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のケーブル診断装置およびケーブル診断方法によれば、診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定し、複数の区間ごとに設定された伝播速度を用いて不具合箇所の位置を推定するので、パルス電気信号の伝播速度が異なる区間が存在するような複雑な系であっても、不具合箇所の位置を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態のケーブル診断装置およびケーブル診断方法について説明する。
【0011】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態では、車両に敷設されたハーネスにケーブル診断装置を適用した場合を例にとって説明する。図1は、本実施形態のケーブル診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【0012】
本実施形態のケーブル診断装置は、図1に示すとおり、装置本体1と、この装置本体1に対して通信可能に接続されたパルス送受信機2とを備え、診断対象のケーブル経路3を診断する装置である。
【0013】
本実施形態のケーブル診断装置は、ケーブル経路3内にパルス送受信機2からパルス電気信号を送信し、ケーブル経路3内で反射され戻ってきたパルス電気信号をパルス送受信機2が受信した結果をもとに、装置本体1でケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定する。
【0014】
本実施形態の診断対象のケーブル経路3は、車両のハーネスである。車両のハーネスは複数のケーブルの分岐を有し、複数のケーブルは各車両を構成する要素に接続されている。また、車両のハーネス上をパルス電気信号が伝播する速度(以下、「伝播速度」と称する)は、ケーブルのインピーダンスが異なる区間ごとで相違する。したがって、本実施形態のケーブル経路3の区間は、たとえば、ケーブルのインピーダンスは束ねたケーブルの本数およびサイズなどによって変化するため、ケーブルが分岐してケーブルの本数が変わる箇所(以下、「分岐点」と称する)から分岐点、または、分岐点からケーブルと車両を構成する要素とが接続される箇所(以下、「接続点」と称する)とする。
【0015】
パルス送受信機2は、パルス電気信号を診断対象のケーブル経路3に送信(注入)するパルス発生器21、および診断対象のケーブル経路3における種々のパルス電気信号を受信することができるパルス受信機22を備える。
【0016】
パルス発生器21は、たとえば数十MHzの高周波であるパルス電気信号を発生するものであって、発生したパルス電気信号を診断対象ケーブル経路3に送信するものである。パルス発生器21から診断対象のケーブル経路3への送信はカップリングコンデンサ(図示せず)を介して行われ、パルス発生器21からケーブル経路3にカップリングコンデンサを直列に接続することによって、ケーブル経路3からの直流電流がパルス発生器21に流れ込まないようにする。
【0017】
パルス受信機22は、高周波CT(電流トランス)を介して(図示せず)送信した診断対象のケーブル経路3からの反射したパルス電気信号を受信するものである。高周波CTは、診断対象のケーブル経路3内で反射されたパルス電気信号を受信するためのものであり、一般的な高周波CTと同じであるので、詳しい説明を省略する。
【0018】
なお、パルス発生器21およびパルス受信機22は、パルス送受信機2として一体の装置に限られず、それぞれのパルス発生器21およびパルス受信機22の装置を用いて診断対象ケーブル3を診断することもできる。
【0019】
装置本体1は、たとえば、パーソナルコンピュータおよびエンジニアリングワークステーションなどのコンピュータであり、マイクロプロセッサからなるCPU(中央演算処理装置)11、CPU11にバス結合されたROM12、RAM13、ハードディスク14、表示部15、入力部16、およびインターフェイス17などの構成要素を備えている。
【0020】
CPU11は、コンピュータの中で各装置の制御やデータの計算・加工を行なう中枢部分である。CPU11は、ROM12に記憶されたプログラムを実行する装置で、RAM13、ハードディスク14、または入力部16からデータを受け取り、演算・加工した上で、表示部15またはハードディスク14に出力する。ROM12は、一度書き込まれた情報を読み出すための記憶装置であり、たとえば、システムプログラムなどのプログラムが格納される。RAM13は、半導体素子を利用した記憶装置であり、たとえば、CPU11が実行する処理のためのデータの一時記憶などに使用される。ハードディスク14は、外部記憶装置である。表示部15は、たとえば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置である。入力部16は、たとえば、キーボード、およびマウスなどのポインティングディバイスである。インターフェイスは、二つのものの間に立って、情報のやり取りを仲介するものであり、たとえば、装置本体1とパルス送受信機2とを通信可能に接続する。
【0021】
次に、図2を参照しつつ、装置本体1のケーブル診断の処理を実行する各部について詳細に説明する。装置本体1は、ケーブル診断の処理を実行する各部として、伝播速度設定部111、送信受信タイミング制御部112、波形差分比較部113、ケーブル結線診断部114、所要時間算出部115、および推定部116を有し、CPU11がその役割を担う。
【0022】
伝播速度設定部111は、診断対象のケーブル経路3において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する設定手段として機能する。伝播速度設定部111は、たとえば、インピーダンスが互いに異なる区間ごとに伝播速度を設定する。上述のとおり、ケーブルのインピーダンスは束ねたケーブルの本数によって異なるので、各区間において並行して敷設されるケーブルの本数に応じて伝播速度を設定することもできる。この場合には、たとえば、伝播速度設定部111は、並行して敷設されるケーブルの本数と伝播速度との関係を示すテーブルを有し、当該テーブルに基づいて、ケーブルの本数に応じた伝播速度を設定する。また、伝播速度設定部112は、入力部16から入力された結果に応じて、複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定することもできる。なお、伝播速度を設定する前提として、診断対象のケーブル経路3のケーブルの本数などのデータを、たとえば、予め装置本体1にCADから読み込み設定する。
【0023】
送信受信タイミング制御部112は、TDR法によりパルス電気信号を送信してから反射されたパルス電気信号を受信するまでの時間を測定するために、パルス送受信機2、およびRAM(データ収集部)13にタイミング信号を出力する。タイミング信号を受信したパルス送受信機2は、ケーブル経路3に向けてパルス電気信号を送信する。また、データ収集部13は、ケーブル経路3に送信されたパルス電気信号(以下、「送信波」と称する)がケーブル経路3内で反射されて生じたパルス電気信号(以下、「反射波」と称する)を送信受信タイミング制御部112のタイミング信号に基づいて記憶するデータ収集手段として機能する。
【0024】
波形差分比較部113は、RAM(データ収集部)13に記憶された反射波と基準反射波との差分を抽出するものである。基準反射波とは、診断対象のケーブル経路3に不具合箇所がなく、ケーブル経路3が正常な状態でパルス電気信号を送信したときに得られる反射波であり、予め装置本体1のRAM13またはハードディスク14に記憶させておくものである。具体的な反射波と基準反射波との差分の抽出方法は、後述する。
【0025】
ケーブル結線診断部114は、不具合箇所の有無を判定する判定手段として機能する。ケーブル結線診断部114は、波形差分比較部113の反射波と基準反射波との差分の抽出結果によって、所定の差分が生じなかった場合、換言すれば、反射波と基準反射波とが所定の範囲内で一致し、ケーブル経路3が正常であると判定した場合に、正常である旨をディスプレイ14など出力装置に表示させる。また、波形差分比較部113の反射波と基準反射波との差分の抽出結果によって、差分が生じた場合、ケーブル結線診断部114は不具合箇所がある旨をディスプレイなど出力装置に表示させ、および/または所要時間算出部115および推定部116がケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定する。
【0026】
所要時間算出部115は、パルス電気信号がケーブル経路3に送信されてケーブル経路3内の不具合箇所で戻ってくるまでの所要時間を反射特性として算出する算出手段として機能する。所要時間算出部115は、波形差分比較部113で反射波と基準反射波との差分を抽出し、差分が生じた場合、パルス電気信号を送信した時間から反射波と基準反射波との差分が現れ始める時間までの所要時間を算出する。なお、所要時間は、不具合箇所でパルス電気信号が反射され戻ってきた時間、すなわち、注入点と不具合箇所とのパルス電気信号がケーブルを伝播する往復時間である。
【0027】
推定部116は、ケーブル経路3内に送信されたパルス電気信号の反射特性の測定結果と、区間ごとに設定された伝播速度とから、ケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定する推定手段として機能する。すなわち、推定部116は、所要時間算出部115で算出された所要時間と、伝播速度設定部111で区間ごとに設定された伝播速度とから、ケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定する。推定部116は、距離補正算出部1161および不具合箇所位置推定部1162から構成さる。
【0028】
距離補正算出部1161は、伝播速度設定部111で区間ごとに設定された伝播速度と、所要時間算出部115で算出された所要時間とによって、パルス電気信号の注入点から不具合箇所までの距離Lを算出する。なお、距離Lを算出する方法は、後述する。
【0029】
不具合箇所位置推定部1162は、距離補正算出部1161で算出されたパルス電気信号の注入点から不具合箇所までの距離Lによって、診断対象のケーブル経路3上での不具合箇所の位置を推定することができる。
【0030】
そして、CPU11は、不具合箇所位置推定部1162の処理結果および/またはケーブル結線診断部114の判定結果を不具合箇所の位置を表示部(ディスプレイ)15に表示させる。すなわち、表示部15は、ケーブル経路3に対応する図上に、不具合箇所の位置を表示する表示手段として機能する。
【0031】
以上のように本実施形態のケーブル診断装置は構成される。
【0032】
次に、図3および図4に示すフローチャートおよび図に基づいて、本実施形態のケーブル診断方法を説明する。以下の処理は、CPU11が主として実行する。図3は、本実施形態のケーブル診断装置の処理内容を示すフローチャートである。図4は、本実施形態の車両のハーネスで構成されるケーブル経路3の概略図である。
【0033】
まず、診断対象のケーブル経路3の回路データを取得する(ステップS1)。この回路データは、たとえば、インターフェイス17を介して外部から入力される。入力される回路データは、たとえば、IG、ACC、およびCANバスなどの車両を構成する要素、区間ごとのケーブルの本数、ケーブル一本あたりの太さ(サイズ)、分岐点、接続点、分岐点から分岐点までの区間ごとの距離、分岐点から接続点までの区間ごとの距離などのデータを含む。本実施形態において、ケーブル経路3は、たとえば、図4に示されるケーブル経路であって、ケーブル経路3のデータとして、区間ごとの距離をそれぞれL1〜L14、およびケーブルの分岐点またはケーブルと機器との接続点をそれぞれP1〜P14とする。また、束ねたケーブルの本数、ケーブルのサイズの違いによって、メインハーネスH1と、ボディハーネスH2と、分岐ハーネスH3とに分けられる。
【0034】
次いで、診断対象のケーブル経路3における各区間別にパルス電気信号の伝播速度を設定する。(ステップS2)。なお、本実施形態において伝播速度は、図4および図5に示すように、メインハーネスH1に該当する区間の伝播速度はV1、ボディハーネスH2に該当する区間の伝播速度はV2、分岐ハーネスH3に該当する区間の伝播速度はV3とハーネスごとに設定する。図5は、ハーネス束本数とパルス伝播速度比との関係を示し、実験により求めたものである。本実施形態では、ケーブル経路3の本数などのデータをCADによって読み込み設定した場合、たとえば、ケーブルの本数と伝播速度との関係を示すテーブルを予め用意し、ケーブル経路3の各区間の本数に対応する伝播速度を自動的に設定する。なお、伝播速度は、実験により求めて設定する場合に限らず、パルス電気信号の特性およびケーブルの抵抗などのインピーダンスを考慮して一般的な理論式で求めて設定することもできる。
【0035】
次いで、パルス送受信機2からパルス電気信号をケーブル経路3に送信する注入点の位置情報を取得する(ステップS3)。注入点の位置情報の取得は、利用者がケーブル経路3のパルス電気信号を送信する注入点を決定し、入力部16によってRAM13に設定し、設定した注入点の位置情報をCPU11が取得するものである。本実施形態においては、図4に示すように、注入点をP1に設定する。なお、注入点は、ケーブル経路3内のどこに設定してもよいが、望ましくは、分岐点または接続点などケーブル診断装置がケーブル経路3に接続しやすい箇所に設定する。
【0036】
次いで、ケーブル経路3にパルス電気信号を送信してから、ケーブル経路3内でパルス電気信号が反射され戻ってくるまでの所要時間を算出する(ステップS4)。所要時間の算出は、具体的には、図6に示すフローチャートにしたがって実行する。所要時間の算出は、まず、パルス送受信機2に対して高周波パルスの印加を指令する(ステップS41)。次いで、パルス送受信機2からケーブル経路3に向けてパルス電気信号が送信され、ケーブル経路3内で反射し戻ってきた反射波のデータをパルス送受信機2を介して取得する(ステップS42)。次いで、反射波のデータをRAM(データ収集部)13に保存(記憶)する(ステップS43)。次いで、パルス電気信号の送信回数をカウントするカウンタNの値を1だけ進め(ステップS44)、カウンタの値が予めCPU11またはパルス送受信機2で設定されているNMAXになるまで、ステップS41〜ステップS44の処理が繰り返される(ステップS45:NO)。次いで、反射波のデータがNMAX個分保存された後(ステップS45:YES)、保存されたNMAX回分の反射波のデータに基づいて反射波の平均化処理を実行する(ステップS46)。次いで、その平均化処理された反射波と、予めケーブル経路3に設定された基準反射波とを比較する(ステップS47)。次いで、パルス送受信機2がケーブル経路3にパルス電気信号を送信してから反射波と基準反射波との差分が現れ始めた時間までを所要時間として算出する(ステップS48)。
【0037】
ここで、図7を参照しつつ、具体的な反射波と基準反射波との差分の抽出方法について述べる。反射波と基準反射波との差分が現れ始めた時間は、たとえば、反射波と基準反射波とのパルス電気信号の値の大きさを比較し、ある所定の値の差分が生じたときの時間とする。したがって、パルス電気信号(入力波)を注入点P1から送信した時間から、差分が現れ始めた時間までの所要時間Tを求めることができる。すなわち、パルス電気信号は、注入点P1からケーブル経路3内の不具合箇所の位置で反射して注入点P1に戻ってくるので、求めた所要時間Tの半分の時間が注入点P1から不具合箇所の位置までにパルス電気信号がケーブルを伝播するのに要する時間(以下、「到達時間」と称する)Trである。なお、到達時間Trは、所要時間Tの半分の時間に限られず、所定の誤差も含めて調整して用いることができる。また、反射波と基準反射波との差分の抽出結果によって、所定の差分が生じなかった場合、正常である旨をディスプレイなど出力装置に表示する。したがって、実際の車両のハーネスでは、電源、アース、またはCANバスなどのハーネス上に複数の電子ユニットやセンサが接続されており、このような車両のハーネス回路において、上記で診断した結果、異常がない場合や、対象とする車両ハーネス回路上の電子ユニットの結線が正常であると判断することができる。
【0038】
図3に戻り、上述のように所要時間Tが算出されると、所要時間Tから到達時間Trも算出され、到達時間Trと区間ごとに設定された伝播速度とから、注入点から不具合箇所までの距離Lを算出する(ステップS5)。
【0039】
ここで、距離Lの算出方法の一例を、図8および図9を参照しつつ、説明する。図8は、距離Lの算出方法を説明するためのケーブル経路の概略図であり、注入点P1から分岐点P2までの区間の距離をL[1]、伝播速度をV[1]、分岐点P2から分岐点P3までの区間の距離をL[2]、伝播速度をV[2]、分岐点P2から接続点P4までの区間の距離をL[3]、伝播速度をV[3]とする。図9は、注入点P1から不具合箇所までの距離Lの算出方法を示すフローチャート図である。
【0040】
まず、注入点から接続点までの一つの経路を選択する(ステップS50)。一つの経路は、図8に示す注入点P1から接続点P4までの経路が選択されたとする。次いで、注入点を始点とする区間を着目区間とする(ステップS51)。すなわち、注入点P1を始点とし、分岐点P2を終点とした区間が着目区間となる。次いで、着目区間の通過時間ts[n]を計算する(ステップS52)。通過時間ts[n]は、パルス電気信号が着目区間を伝播し、通過する時間であり、以下の数式(1)で示すように、予め設定されている区間の距離を伝播速度で除算することによって算出することができる。したがって、通過時間ts[1](=L[1]/V[1])は、数式(1)より求めることができる。
【0041】
【数1】

【0042】
次いで、注入点から現在の着目区間の終点までの通過時間を積算する(ステップS53)。通過時間の積算する式は、数式(2)であらわすことができる。なお、現在の着目区間(注入点P1〜分岐点P2)では、通過時間Tsはts[1]と等しくなる。
【0043】
【数2】

【0044】
次いで、到達時間Trと通過時間を積算した時間Tsとを比較して、到達時間Trの方が大きいとき(ステップS54:YES)、注入点から現在の着目区間までに不具合箇所は存在しないと判断できる。すなわち、到達時間Trは、注入点から不具合箇所までのパルス電気信号がケーブル経路を伝播する時間であるので、注入点から着目区間の終点までの時間Tsより大きければ、不具合箇所は、注入点から着目区間の終点まで存在しないことがわかる。次いで、現在の着目区間の終点が接続点でなければ(ステップS55:NO)、現在の着目区間の終点を始点とし、その始点に連結する区間を、新たに着目区間とする(ステップS56)。すなわち、新たな着目区間は、分岐点P2が始点で、分岐点P3が終点とした区間となる。次いで、到達時間Trと通過時間を積算した時間Tsとを比較して、到達時間Trの方が小さくなるまで(ステップS54:NO)、または、着目区間の終点が接続点になるまで(ステップS55:YES)、ステップS52〜S56の処理を繰り返す。到達時間Trが通過時間を積算した時間Tsと比較して、到達時間Trの方が小さくなった場合(ステップS54:NO)、現在の着目区間上に不具合箇所が存在すると判断され、以下の数式(3)で注入点から不具合箇所までの距離Lを算出することができる(ステップS57)。
【0045】
【数3】

【0046】
次いで、算出した距離Lの結果を、RAMに保存する(ステップS58)。次いで、他の経路が存在する場合(ステップS59:YES)、ステップS50〜S58までの処理を繰り返す。すなわち、図8に示すケーブル経路では、注入点P1から接続点P5のもう一つの経路が存在するため、ステップS50〜S58までの処理が繰り返される。なお、着目区間の終点が接続点であった場合は、現状の経路には不具合箇所はないと判断し、かつ、他の経路が存在する場合も、ステップS50〜S58までの処理を繰り返す。全ての経路を選択し終えた後(ステップS59:NO)、距離算出の処理を終了する。
【0047】
以上の処理を実行することで、注入点から不具合箇所までの距離Lの算出をすることができる。
【0048】
次に、本実施形態において、図4でAと示した箇所が不具合箇所である場合の距離Lの算出を上述の方法で具体的に説明する。まず、注入点P1から接続点P9までの一つの経路を選択したとする。注入点P1から最初の分岐点P2を着目区間とし、着目区間をパルス電気信号が通過する通過時間tsは、数式(1)からL1/V1と算出され、注入点P1から現在の着目区間の終点(分岐点P2)まで通過時間を積算した時間Ts(=L1/V1)は、数式(2)から算出される。次いで、注入点P1から着目区間の終点である分岐点P2までの不具合箇所がAであるので、到達時間Trより時間Tsは小さいため、分岐点P2を始点とし、次の分岐点P5までを新たな着目区間とする。分岐点P2から分岐点P5の着目区間の通過時間tsは、L4/V2と算出され、注入点P1から現在の着目区間の終点まで通過時間を積算した時間Ts(=L1/V1+L4/V2)が算出される。到達時間Trより時間Tsは小さいため、次いで、分岐点P5を始点とし、次の分岐点P6までを新たな着目区間とする。分岐点P5から分岐点P6の着目区間の通過時間tsはL5/V2と算出され、注入点P1から現在の着目区間の終点まで通過時間を積算した時間Ts(=L1/V1+L4/V2+L5/V2)が算出される。到達時間Trより時間Tsは大きくなるので、不具合箇所は現在の着目区間(P5〜P6)に不具合箇所があると判断することができ、注入点P1から不具合箇所であるAの箇所までの距離Lは、数式(3)から、以下の数式(4)であらわすことができる。次いで、他の経路についても同様に距離Lの算出の処理が実行されるが、その説明は省略する。
【0049】
【数4】

【0050】
次いで、図3に戻り、距離補正算出の結果、および診断対象のケーブル経路3のデータによって、ケーブル経路3上での不具合箇所の位置を推定する(ステップS6)。すなわち、分岐が存在する場合は、各経路別に到達時間Trに応じた不具合箇所が検出され得るので、それぞれの経路に応じた不具合箇所の位置をケーブル経路3上で推定する。
【0051】
次いで、表示指令を実行する(ステップS7)。表示指令を実行することによって、たとえば、ディスプレイ15に、図4に示すような診断対象のケーブル経路3を概略化した図上、または図10に示すような車両絵モデルの図上に不具合箇所の位置を表示し、利用者がケーブル経路内での不具合箇所の位置を把握することができる。なお、不具合箇所が2点以上算出された場合、不具合箇所の位置の候補をそれぞれ推定し、表示することによって、利用者がその候補の中で、たとえば、利用者の経験に基づき不具合箇所の位置を推定することができる。
【0052】
以上の処理において、ステップS2の処理は、伝播速度設定部111の処理に対応する。ステップS4の処理は、所要時間算出部115の処理に対応する。
【0053】
また、ステップS5,S6の処理は、推定部116の処理に対応する。
【0054】
以上のように、本実施形態のケーブル診断装置によれば、以下のような(A)〜(H)の効果を奏する。
【0055】
(A)診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定し、ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性と、区間ごとに設定された伝播速度とから、ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することで、パルス電気信号の伝播速度が異なる区間が存在するような複雑な系であっても、不具合箇所の位置を推定することができる。
【0056】
(B)パルス電気信号がケーブル経路に送信されてケーブル経路内の不具合箇所で戻ってくるまでの所要時間を反射特性として算出し、所要時間と区間ごとに設定された伝播速度とからケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することで、TDR法を用いて、パルス電気信号がケーブル経路に送信されてから不具合箇所までの距離を正確に求めることができる。
【0057】
(C)インピーダンスが互いに異なる区間ごとに伝播速度を設定するため、ケーブルのインピーダンスの情報を得られれば適切な伝播速度を設定することができる。
【0058】
(D)各区間において並行して敷設されるケーブルの本数に応じて、伝播速度を設定するため、ケーブルの本数の情報を得られれば適切な伝播速度を設定することができる。
【0059】
(E)並行して敷設されるケーブルの本数と伝播速度との関係を示すテーブルを有し、当該テーブルに基づいて、ケーブルの本数に応じた伝播速度を設定するため、ケーブル診断装置がケーブルの本数の情報を得ることで、適切な伝播速度を自動的に設定することができる。
【0060】
(F)複数の区間ごとに利用者による伝播速度の入力を受け付け、入力された結果に応じて、複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定するために、ある区間の伝播速度を利用者によって自由に設定することができる。
【0061】
(G)ケーブル経路を診断した結果によって、ケーブル経路の不具合箇所の有無を判定するために、利用者にケーブル診断の結果が一見して把握可能となる。
【0062】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について詳細に説明する。
【0063】
本発明のケーブル診断方法を用いることによって、パルス電気信号の注入点から不具合箇所までの距離Lを求め、ケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定することができる。しかし、実際のケーブル経路3には複数の分岐ハーネスが存在しているため、算出された距離Lに対応する箇所はケーブル経路3において複数存在し、不具合箇所の位置を一箇所に特定できない場合があり、問題となる。
【0064】
第2の実施形態は、上記の問題点を解決するため、距離Lに対応する箇所がケーブル経路3において複数存在する場合、パルス電気信号を1つの注入点のみではなく、2つ以上の注入点から送信することによって、不具合箇所の位置を特定することを目的とする。第2の実施形態のケーブル診断装置の構成機器は、第1の実施形態と同一であるので、その詳細な説明は省略する。
【0065】
以下、図11以降に示すフローチャートおよび図を参照しつつ、第2の実施形態のケーブル診断方法を説明する。図11は、第2の実施形態のケーブル診断装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0066】
第2の実施形態の例として、図12で示すケーブル経路3において、パルス電気信号の注入点をP1,P4とし、各注入点からケーブル経路3を診断して得られた所要時間によって、不具合箇所の位置を特定する。注入点P1からケーブル経路3を診断して得られた所要時間をT1、注入点P2からケーブル経路3を診断して得られた所要時間をT2とする。まず、パルス電気信号を注入点P1から送信する場合、第1の実施形態と同様に、ステップS1〜S4までの処理を実行する。その結果、所要時間T1を得ることができる。次いで、第1の実施形態と同様に、距離補正算出の処理を実行する(ステップS5)。本実施形態では、パルス電気信号が注入点P1から送信し、所要時間によって算出される到達時間Tr1によって到達する箇所は(A1,A2)であるとする。なお、説明の便宜のため2点(A1,A2)のみを例にあげているが、実際は多数の到達時間Tr1に対応する箇所が該当し得る。
【0067】
次いで、ケーブル経路3内で、注入点から不具合箇所までの距離の算出がされた結果、および予め設定された診断対象のケーブル経路3の情報によって、図12に示すようにケーブル経路3の図上での不具合箇所(A1,A2)の位置を推定することができる(ステップS6)。次いで、表示指令を実行する(ステップS7)。表示指令を実行することによって、たとえば、ディスプレイ15に、図12に示すような診断対象のケーブル経路3を概略化した図上に不具合箇所の位置の候補(A1,A2)を表示する。また、不具合箇所の位置の候補(A1,A2)をメモリに記憶する。なお、この表示指令のステップの処理省略することもできる。
【0068】
次いで、パルス電気信号を送信する注入点の数をカウントするカウンタLの値を1だけ進め(ステップS8)、カウンタの値が設定されたLMAXになるまで、ステップS3〜S8の動作処理を繰り返す(ステップS9:NO)。本実施形態では、注入点は2点から送信するため(LMAX=2)、パルス電気信号を注入点P4から送信し、注入点P1の場合と同様の処理を実行することによって、所要時間T2を得ることができる。図13に示すように、パルス電気信号が、注入点P4から所要時間T2によって算出される到達時間Tr2で到達する箇所は(B1,B2)である。なお、説明の便宜のため2点(B1,B2)のみを例にあげているが、実際は多数の到達時間Tr2に対応する箇所が該当し得る。次いで、ケーブル経路3内で、注入点から不具合箇所までの距離の算出がされた結果、および予め設定された診断対象のケーブル経路3の情報によって、図13に示すようにケーブル経路3上での不具合箇所(B1,B2)の位置を推定することができる。次いで、表示指令を実行し、たとえば、ディスプレイ15に、図13に示すような診断対象のケーブル経路3を概略化した図上に不具合箇所の位置の候補(B1,B2)を表示する。また、装置本体1は、不具合箇所の位置の候補(B1,B2)をメモリに記憶する。
【0069】
次いで、ケーブル経路3の診断がパルス電気信号を送信する注入点の数の分だけ実行された後(ステップS9:YES)、複数回分の不具合箇所の位置の候補をマルチ推定する(ステップS10)。すなわち、注入点P1から得られた不具合箇所の位置の候補(A1,A2)と、注入点P4から得られた不具合箇所の位置の候補(B1,B2)とがメモリに記憶されているので、そのケーブル経路3上での不具合箇所の位置の候補がそれぞれ所定の範囲内で一致した箇所を不具合箇所の位置と特定する。したがって、それぞれの注入点からの不具合箇所の位置がA1とB1で一致し、ケーブル経路3で不具合箇所の位置が図14に示されるように特定することができる。次いで、表示指令を実行する(ステップS11)。表示指令を実行することによって、たとえば、ディスプレイ15に、図14に示すようなケーブル経路3を概略化した図上に不具合箇所の位置を特定した箇所を表示する。
【0070】
以上のように、第2の実施形態のケーブル診断装置によれば、第1の実施形態の(A)〜(G)の効果に加え、以下の(H),(I)の効果を奏する。
【0071】
(H)複数のパルス電気信号がケーブル経路内の異なる箇所から注入され、所要時間として各パルス電気信号に対応する複数の所要時間を算出し、複数の所要時間と区間ごとの伝播速度とからケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することで、測定した所要時間から推定される不具合箇所(候補)が複数存在しても、不具合箇所の位置を精度良く測定することができる。
【0072】
(I)ケーブル経路に対応する図上に、各不具合箇所の候補の位置を表示することで、利用者が一見して不具合箇所を把握することができる。
【0073】
<第3の実施形態>
さらに、本発明の第3の実施形態について詳細に説明する。
【0074】
第3の実施形態は、ケーブル経路上の区間ごとのインピーダンスに対応した伝播速度と区間ごとの距離とからパルス電気信号が区間ごとに伝播するのに要する時間(以下、「伝播時間」と称する)を算出する。そして、伝播時間をケーブル経路に記した図(以下、「時間マップ」と称する)を用いて、ケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定することを目的とする。第3の実施形態によって、本実施形態のケーブル診断装置から得られた所要時間から、伝播時間を加算処理するだけでケーブル経路3内の不具合箇所を推定することができる。
【0075】
以下、図15を参照しつつ、第3の実施形態の装置本体1の機能を詳細に説明する。なお、第1および第2の実施形態のケーブル診断装置と同一である装置本体1の機能の説明は省略する。図15は、第3の実施形態のケーブル診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【0076】
装置本体1は、第3の実施形態においては、第1の実施形態のCPU11の各機能に加え、さらに、変換部117、作成部118、および印刷部119を含んで構成される。
【0077】
変換部117は、区間ごとに設定された伝播速度を区間ごとの伝播時間に変換する変換手段として機能する。変換部117は、予め設定された区間ごとの距離を伝播速度設定部111で設定された伝播速度で除算することで、伝播時間を求めることができる。なお、変換部117は、パルス電気信号の送信前に、伝播速度を区間ごとの伝播時間に変換する。
【0078】
作成部118は、ケーブル経路3に対応する図上に区間ごとの伝播速度および/または合算時間を記した時間マップを作成する作成手段として機能する。作成部117は、変換部118で変換された伝播時間を用いて、ケーブル経路3を距離で表した図(以下、「距離マップ」と称する)から時間マップを作成する。
【0079】
ここで、図16を参照しつつ、時間マップ変換法について説明する。図16(a)は、距離マップを示し、図16(b)は、距離マップから変換された時間マップを示す。時間マップ変換法は、たとえば、図16に示すように、ケーブルの分岐点、接続点をそれぞれQ0〜Q5、ケーブルの区間ごとの距離をそれぞれL[1]〜L[5]、およびケーブルをパルス電気信号が伝播する伝播速度をそれぞれV[1]〜V[5]とする。また、注入点をQ0とすると、注入点Q0から分岐点Q1までの区間をパルス電気信号が伝播する伝播時間td[1]、および各区間の伝播時間td[2]〜td[5]は、下記の数式(5)によって求めることができる。
【0080】
【数5】

【0081】
なお、第3の実施形態では、区間ごとに伝播時間を算出し設定することもでき、および/または注入点から各分岐点および接続点までのパルス電気信号が伝播する合算時間Tdを設定することもできる。すなわち、注入点Q0からパルス電気信号を送信し、分岐点Q1にパルス電気信号が到達する時間Td1、および注入点Q0から各Q2〜Q5にパルス電気信号がそれぞれ到達する時間Td2〜Td5は、各区間の伝播時間を合算することによって求めることができる。なお、注入点Q0をTd0=0(nsec)とする。
【0082】
不具合箇所位置推定部1162は、第1の実施形態とは異なり、ケーブル経路3にそって区間ごとの伝播時間を加算した合算時間と、パルス電気信号を送信してから不具合箇所までの到達時間とを比較して、ケーブル経路3内の不具合箇所の位置を推定する。不具合箇所の位置推定方法は、後述する。
【0083】
印刷部119は、時間マップを印刷する印刷手段として機能する。印刷部119は、たとえば、装置本体1に接続可能なプリンタである。
【0084】
以上のように構成される本実施形態のケーブル診断装置は、以下のように処理が実行される。図17は、第3の実施形態のケーブル診断装置の処理内容を示すフローチャートである。なお、図18に示すように、パルス電気信号の注入点をP1,P4とし、ケーブル診断を実施する。
【0085】
まず、パルス電気信号を注入点P1から送信する場合、第1の実施形態の処理内容と同様に、診断対象のケーブル経路3の回路データが取得され(ステップ101)、伝播速度が設定される(ステップ102)。
【0086】
次いで、上述した時間マップ変換法によって、区間ごとの伝播速度および距離から伝播時間に変換し、注入点を始点とした時間マップを作成する(ステップ103)。すなわち、各区間別の伝播時間td1〜td14を区間の距離L1〜L14を伝播速度V1〜V14で除算することにより求めた後、距離マップで示されるケーブル経路図(図12参照)から、時間マップで示されるケーブル経路図(図18参照)を作成する。
【0087】
次いで、第1の実施形態と同様に、注入点の位置情報を取得する(ステップS104)。次いで、パルス電気信号が注入点P1から送信され、ケーブル経路3内で反射し戻ってきた所要時間T1を算出する(ステップS105)。所要時間T1は、第1の実施形態と同様に、図6で示されるフローチャートの処理によって算出することができる。得られた所要時間T1から注入点P1から不具合箇所までの到達時間Tr1も算出することができる。次いで、不具合箇所の位置推定の処理を実行する(ステップS106)。不具合箇所の位置推定によって得られた到達時間Tr1と、注入点からケーブル経路にそって伝播時間を加算処理した合算時間Tdとで、不具合箇所の該当区間を判断し、不具合箇所の位置の候補(A1,A2)を推定することができる。
【0088】
ここで、不具合箇所位置推定の処理方法を、図19に示すフローチャートに基づいて説明する。具体的な処理は、図9で示したフローチャートの処理とほぼ同様であるので、相違する点のみを説明する。図9で示したフローチャートと、図19で示したフローチャートの具体的な相違点は、伝播時間がパルス電気信号をケーブル経路3に送信する前に設定しているか否かである。
【0089】
まず、第3の実施形態では、予め区間ごとのパルス電気信号が伝播する伝播時間tdが算出されているため、図9において、通過時間を計算するステップS52の代わりに、図19は、着目区間の伝播時間tdを読み出す処理を実行する(ステップS1602)。次いで、注入点から着目区間の終点まで伝播時間を積算する(ステップS1603)。次いで、到達時間Trと伝播時間を積算した時間(合算時間)Tdとを比較して、到達時間Trの方が小さくなった場合(ステップS1604)に、現在の着目区間に不具合箇所があると判断する(ステップS1067)。なお、着目区間での不具合箇所の詳細な位置は、たとえば、着目区間の始点から終点までの伝播時間と、注入点から着目区間の始点までの合算時間によって引かれた到達時間Trとの割合から求めることができる。
【0090】
次いで、図17に戻り、表示指令を実行する(ステップS107)。表示指令を実行することによって、たとえば、ディスプレイ15に、図18に示すような診断対象のケーブル経路3上を概略化した図上に不具合箇所の位置の候補(A1,A2)を表示する。また、不具合箇所の位置の候補(A1,A2)をメモリに設定する。
【0091】
次いで、第2の実施形態と同様に、パルス電気信号を送信する注入点の数をカウントするカウンタLの値を1だけ進め(ステップS108)、カウンタの値が設定されたLMAXになるまで、ステップS1060〜S1068の動作処理を繰り返す(ステップ1069:NO)。本実施形態では、注入点は2点から送信するとし(LMAX=2)、パルス電気信号を注入点P4から送信し、注入点P1と同様の処理を実行することによって、注入点P4を始点とした時間マップが作成される。次いで、所要時間T2を得ることができる。したがって、所要時間T2から到達時間Tr2が求めることができ、注入点P4からケーブル経路にそって伝播時間を加算処理していくことで、不具合箇所の該当区間を判断し、不具合箇所の位置の候補(B1,B2)を推定することができる。次いで、表示指令を実行することによって、たとえば、ディスプレイ15に、図20に示すような診断対象のケーブル経路3上を概略化した図上に不具合箇所の位置の候補(B1,B2)を表示する。また、不具合箇所の位置の候補(B1,B2)をメモリに設定する。
【0092】
次いで、ケーブル経路3の診断がパルス電気信号を送信する注入点の数の分だけ事項された後(ステップS109:YES)、第2実施形態と同様に、複数回分の不具合箇所の位置の候補をマルチ推定する(ステップS110)。したがって、図21に示すように、所定の範囲内で一致した候補の箇所を不具合箇所の位置と特定することができる。次いで、表示指令を実行する(ステップS111)。表示指令を実行することによって、たとえば、ディスプレイ15に、図21に示すようなケーブル経路3を概略化した図上に不具合箇所の位置を特定した箇所を表示する。
【0093】
以上のように、第3の実施形態のケーブル診断装置によれば、第1の実施形態の(A)、(B)、(H)、および(I)の効果に加え、以下の(J)〜(M)の効果を奏する。
【0094】
(J)区間ごとに設定された伝播速度を区間ごとの伝播時間に変換し、ケーブル経路にそって区間ごとの伝播時間を加算した合算時間と所要時間とを比較して、ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定するために、分岐点ごとの伝播時間を加算処理するだけで容易に不具合箇所を推定することができる。
【0095】
(K)パルス電気信号の送信前に、伝播速度を区間ごとの伝播時間に変換することによって、装置本体1自体において、距離補正を算出する処理がなくなることにより、CPU11の処理速度が向上する。
【0096】
(L)ケーブル経路に対応する図上に区間ごとの伝播時間および/または合算時間を記した時間マップを作成するために、所要時間のみで、不具合箇所の位置を一見して把握可能となる。
【0097】
(M)時間マップを印刷することで、ケーブル診断装置本体自体は測定現場になくても、パルス電気信号が送信されてからケーブル経路内で反射して戻ってきた所要時間を測定するだけで、利用者が、伝播時間が記された時間マップを用いて、目視でも故障点の推定が容易に判定できる。
【0098】
以上、第1〜第3の実施形態では、車両のハーネスで構成されるケーブル経路を例にとり、ケーブル診断装置を例示したが、車両のハーネスで構成されるケーブル経路に限定されず、複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度が異なる伝播速度を有するケーブル経路であれば同様に適用し得る。
【0099】
なお、装置本体1は、パーソナルコンピュータおよびエンジニアリングワークステーションなどのコンピュータに限られるものではなく、論理回路などのハードで構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】第1の実施形態のケーブル診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】ケーブル診断装置のケーブル診断の処理を実行する各部を示すブロック図である。
【図3】本実施形態のケーブル診断装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態の車両のハーネスで構成されるケーブル経路3の概略図である。
【図5】ハーネス束本数とパルス伝播速度比との関係を示し、実験により求めたものである。
【図6】図3のフローチャートで示す所要時間算出(S4)の詳細フローチャートである。
【図7】反射波と基準反射波との差分の抽出をあらわした図である。
【図8】注入点から不具合箇所までの距離の算出方法を説明するためのケーブルの概略図である。
【図9】注入点から不具合箇所までの距離の算出方法を示すフローチャート図である。
【図10】車両絵モデルを示す図である。
【図11】第2の実施形態のケーブル診断装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図12】ケーブル経路の図上に不具合箇所の位置の候補を表示した図である。
【図13】ケーブル経路の図上に不具合箇所の位置の候補を表示した図である。
【図14】ケーブル経路の図上に不具合箇所の位置の候補を表示した図である。
【図15】第3の実施形態のケーブル診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図16a】距離マップの一例を示す図である。
【図16b】時間マップの一例を示す図である。
【図17】第3の実施形態のケーブル診断装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図18】ケーブル経路の図上に不具合箇所の位置の候補を表示した図である。
【図19】不具合箇所の位置を推定する方法を示すフローチャート図である。
【図20】ケーブル経路の図上に不具合箇所の位置の候補を表示した図である。
【図21】ケーブル経路の図上に不具合箇所の位置の候補を表示した図である。
【符号の説明】
【0101】
1 装置本体、
2 パルス送受信機、
3 診断対象のケーブル経路、
11 CPU、
13 RAM、
15 表示部、
111 伝播速度設定部、
112 送信受信タイミング制御部、
113 波形差分比較部、
114 ケーブル結線診断部、
115 所要時間算出部、
116 推定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する設定手段と、
前記ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性の測定結果と、前記区間ごとに設定された伝播速度とから、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定する推定手段と、
を有することを特徴とするケーブル診断装置。
【請求項2】
さらに、パルス電気信号が前記ケーブル経路に送信されて前記ケーブル経路内の不具合箇所で戻ってくるまでの所要時間を前記反射特性として算出する算出手段を有し、
前記推定手段は、前記所要時間と、前記区間ごとに設定された前記伝播速度とから、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することを特徴とする請求項1に記載のケーブル診断装置。
【請求項3】
さらに、前記区間ごとに設定された前記伝播速度を前記区間ごとの伝播時間に変換する変換手段を有し、
前記推定手段は、前記ケーブル経路にそって前記区間ごとの伝播時間を加算した合算時間と、前記所要時間とを比較して、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することを特徴とする請求項2に記載のケーブル診断装置。
【請求項4】
前記変換手段は、パルス電気信号の送信前に、前記伝播速度を前記区間ごとの伝播時間に変換することを特徴とする請求項3に記載のケーブル診断装置。
【請求項5】
さらに、前記ケーブル経路に対応する図上に前記区間ごとの伝播時間および/または前記合算時間を記した時間マップを作成する作成手段を有する請求項3に記載にケーブル診断装置。
【請求項6】
さらに、前記時間マップを印刷する印刷手段を有することを特徴とする請求項5に記載のケーブル診断装置。
【請求項7】
前記設定手段は、インピーダンスが互いに異なる区間ごとに前記伝播速度を設定することを特徴とする請求項1に記載のケーブル診断装置。
【請求項8】
前記設定手段は、前記各区間において並行して敷設されるケーブルの本数に応じて、前記伝播速度を設定することを特徴とする請求項1に記載のケーブル診断装置。
【請求項9】
前記設定手段は、並行して敷設されるケーブルの本数と前記伝播速度との関係を示すテーブルを有し、当該テーブルに基づいて、前記ケーブルの本数に応じた前記伝播速度を設定することを特徴とする請求項8に記載のケーブル診断装置。
【請求項10】
さらに、複数の区間ごとに利用者による前記伝播速度の入力を受け付ける入力手段を有し、
前記設定手段は、前記入力された結果に応じて、前記複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定することを特徴とする請求項2に記載のケーブル診断装置。
【請求項11】
前記パルス電気信号を送信するためのパルス発生器、および前記パルス電気信号を受信するためのパルス受信機を有することを特徴とする請求項2に記載のケーブル診断装置。
【請求項12】
さらに、不具合箇所の有無を判定する判定手段を有し、
前記推定手段は、前記判定手段の判定結果で不具合箇所を有した場合に、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することを特徴とする請求項1に記載のケーブル診断装置。
【請求項13】
前記推定手段は、前記ケーブル経路が有する分岐に起因して前記不具合箇所の候補が複数存在する場合には、各不具合箇所の候補の位置をそれぞれ特定することを特徴とする請求項2に記載のケーブル診断装置。
【請求項14】
さらに、前記ケーブル経路に対応する図上に、前記各不具合箇所の候補の位置を表示する表示手段を有することを特徴とする請求項13に記載のケーブル診断装置。
【請求項15】
複数のパルス電気信号が互いに前記ケーブル経路内の異なる箇所から送信され、
前記算出手段は、前記所要時間として、前記各パルス電気信号に対応する複数の所要時間を算出し、
前記推定手段は、前記複数の所要時間と、前記区間ごとの前記伝播速度とから、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定することを特徴とする請求項2に記載のケーブル診断装置。
【請求項16】
前記ケーブル経路は、車両に搭載されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一つに記載のケーブル診断装置。
【請求項17】
診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する段階と、
前記ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性の測定結果と、前記区間ごとに設定さされた伝播速度とから、前記ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定する段階と、
を有することを特徴とするケーブル診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−333468(P2007−333468A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163488(P2006−163488)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】