説明

コイル部品とその製造方法

【課題】
巻線の外周と一対の鍔部挟まれた空間が、磁性粉含有樹脂で被覆されたコイル部品は、温度変化により、熱硬化性樹脂が膨張・収縮し、鍔部が疲労して破損するという長期信頼性に問題があった。
本発明は、磁性粉含有樹脂が膨張・収縮しても、コア破損しにくいコイル部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
上記の課題を解決するために、本発明のコイル部品の製造方法は、
巻芯部と前記巻芯部の軸方向両端に一対の鍔部を有するドラム型コアと、
前記巻芯部に巻回した巻線からなるコイル部品において、
前記一対の鍔部の対向する面の少なくとも一方の面に空隙を設けるための離型剤を塗布する工程と、
前記巻芯部に巻線を巻回する工程と、
前記巻線の外周であって前記一対の鍔部に挟まれた空間に熱硬化性樹脂からなる磁性粉含有樹脂を塗布する工程と、
前記磁性粉含有樹脂を加熱硬化する工程を具えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム型コアに巻線し、巻線を樹脂で被覆したコイル部品と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム型コアの巻芯部に巻線し、樹脂に磁性粒子を混合した磁性粉含有樹脂を巻線の外周に被覆したコイル部品が、携帯型電子機器等のDC/DCコンバータに使用されている。
近年、電子機器の小型化に伴い、この種のコイル部品が多用化されてきている。このようなコイル部品は、巻線を被覆する磁性粉含有樹脂とドラム型コアの熱膨張率が異なるために、温度による応力変化で疲労して、最終的にはコア破損することがある。
【0003】
図3は従来のコイル部品9の断面図である。巻芯部1の軸方向両端に一対の鍔部2、3を有するフェライトからなるドラム型コア4の巻芯部1に、巻線5が巻回されている。そして、巻線5の外周と一対の鍔部2、3で挟まれた空間を磁性粉含有樹脂6で被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−205245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなコイル部品は、巻線を被覆する磁性粉含有樹脂6とドラム型コア4の熱膨張率が異なるため、高温時には磁性粉含有樹脂6が膨張して上下の鍔間を押し広げるように働き、低温時には磁性粉含有樹脂6が収縮して上下の鍔間を狭めるように働く。その結果、鍔部2、3が疲労して破損するという長期信頼性に問題があった。
本発明は、コア破損しにくい、信頼性の高いコイル部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のコイル部品の製造方法は、
巻芯部と前記巻芯部の軸方向両端に一対の鍔部を有するドラム型コアと、
前記巻芯部に巻回した巻線からなるコイル部品において、
前記一対の鍔部の対向する面の少なくとも一方の面に空隙を設けるための離型剤を塗布する工程と、
前記巻芯部に巻線を巻回する工程と、
前記巻線の外周であって前記一対の鍔部に挟まれた空間に熱硬化性樹脂からなる磁性粉含有樹脂を塗布する工程と、
前記磁性粉含有樹脂を加熱硬化する工程を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコイル部品によれば、鍔部の対向する面の少なくとも一方の面と磁性粉含有樹脂の間に離形剤による空隙を設けるため、温度変化により磁性粉含有樹脂が膨張・収縮しても、コア破損しにくい信頼性の高いコイル部品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のコイル部品の断面図を示す図。
【図2】本発明のコイル部品の製造方法を説明する図。
【図3】従来のコイル部品の断面図を示す図。
【実施例】
【0009】
図1は本発明のコイル部品19の断面図である。ドラム型コア14は、巻芯部11の軸方向の上端に上鍔部12、軸方向の下端に下鍔部13を有し、フェライトからなる。巻線15は、巻芯部11に巻回され、絶縁被覆された金属導体線からなる。
巻線15の外周と、上鍔部12と下鍔部13で挟まれた空間を、熱硬化性樹脂に磁性粒子を均一に混合した磁性粉含有樹脂16で被覆されている。
上鍔部12の下面12aと磁性粉含有樹脂16の間には離型剤による空隙18を有している。下鍔部13の下面13bには図示しない一対の電極が配置され、巻線15の端末部が電気的に接続される。
【0010】
以下、図2を用いて本発明のコイル部品の製造方法を説明する。図2(a)は本発明のコイル部品に用いるドラム型コア14の断面図を示す図である。ドラム型コア14は、巻芯部11の軸方向の上端に上鍔部12と、軸方向の下側に下鍔部13を具えている。
【0011】
図2(b)は、ドラム型コア14の上鍔部12の下面12aの全面に離型剤17を塗布した図である。離型剤17は、フッ素系やシリコーン系の離型剤を用いる。離型剤17は、直接塗布してもよいし、ドラム型コア14の上鍔部12を下にして、規定の深さの離型剤に浸漬してもよい。浸漬する場合は、上鍔部12の上面12bにも離型剤17が付着すると、製品表示のインクの定着性が悪くなったり、実装時の吸着問題等が発生するため、予め上鍔部12の上面12bにマスキングテープを貼り付けてから浸漬してもよい。
【0012】
次に、図2(c)はドラム型コアの巻芯部11に巻線15を巻回した図である。そして、図2(d)は、巻芯部11を覆うように上鍔部12と下鍔部13に挟まれた空間に磁性粉含有樹脂16をディスペンサを用いて塗布した図である。磁性粉含有樹脂は樹脂に磁性粒子を均一に混合したものであり、例えば樹脂はエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、またはポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂からなり、磁性粒子はフェライト系、金属系の軟磁性体からなる。そして、150℃で1時間加熱して加熱硬化させる。
【0013】
一般的に、熱硬化性樹脂は、硬化温度まで加熱されると体積が膨張し、液体から固体への硬化時に体積が収縮する(反応収縮)。その結果、常温での熱硬化性樹脂の体積は、硬化前より硬化後の方が小さくなる。
【0014】
したがって本発明のコイル部品は、離型剤17を上鍔部12の下面12aに塗布した後硬化したもので、熱硬化性樹脂が反応収縮により上鍔部の下面12aと磁性粉含有樹脂16の間が離間して、離形剤による空隙18が形成される。
【0015】
次に、巻線15の端末部を下鍔部13の下面13bに配置された図示しない一対の電極に電気的に接続する。電極は予め銀ペーストを焼き付けて設けてもよいし、金属板を接着して設けてもよい。
【0016】
このようにして得られたコイル部品は、常温より高い温度では、空隙18の間隔が小さくなるが、磁性粉含有樹脂は、鍔部を押し広げることはない。一方、常温より低い温度の場合は、空隙18の間隔が大きくなる。
【0017】
したがって、温度変化により、磁性粉含有樹脂16が膨張・収縮したとしても、この空隙18により、鍔部12に応力が加わらないので、コア破損することがない。また、温度によって鍔部12への応力が加わらないので、温度変化によるインダクタンス値の変化も少ない。
【0018】
上記の製造方法で得られたコイル部品10個と従来のコイル部品10個を、−40℃30分、105℃30分の温度衝撃試験をした。なお、離型剤にはレジナス化成社のシリコン系の離型材R−101を用いた。その結果、従来のコイル部品は12サイクルで4個、24サイクルで8個のコイル部品の鍔部が破損した。しかし、本発明のコイル部品は、120サイクルで破損は0個だった。
【0019】
なお、磁路にギャップがあるとコイル部品のインダクタンス値が低下する。しかし、一般的に磁性粉含有樹脂の比透磁率はコアに用いているフェライトの透磁率に比べて小さく、空隙の間隔も非常に小さいので、コイル部品の特性にはほとんど影響しない。
【0020】
仕様温度範囲で常に鍔部に応力が加わらないようにするには、磁性粉含有樹脂をコイル部品の仕様温度より高い温度で硬化させればよい。
また、上記した実施例では、一対の鍔部の対向する面の一方の面にのみ離型剤を塗布したが、両方の面に塗布してもよい。
【符号の説明】
【0021】
1、11 巻芯部
2、12 上鍔部
3、13 下鍔部
12a 上鍔部の下面
12b 上鍔部の上面
13b 下鍔部の下面
4、14 ドラム型コア
5、15 巻線
6、16 磁性粉含有樹脂
17 離型剤
18 空隙
9、19 コイル部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部と前記巻芯部の軸方向両端に一対の鍔部を有するドラム型コアと、
前記巻芯部に巻回した巻線からなるコイル部品において、
前記一対の鍔部の対向する面の少なくとも一方の面に空隙を設けるための離型剤を塗布する工程と、
前記巻芯部に巻線を巻回する工程と、
前記巻線の外周であって前記一対の鍔部に挟まれた空間に熱硬化性樹脂からなる磁性粉含有樹脂を塗布する工程と、
前記磁性粉含有樹脂を加熱硬化する工程を具えたことを特徴とするコイル部品の製造方法。
【請求項2】
前記磁性粉含有樹脂の加熱硬化する温度は、コイル部品の仕様温度より高い温度であることを特徴とする請求項1記載のコイル部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1乃至2記載の製造方法を用いたコイル部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−4343(P2012−4343A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138015(P2010−138015)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】