コロイダルダンパー
【課題】外部から作用する機械的エネルギーから実用的な電力の電気エネルギーを収穫可能としたコロイダルダンパーの提供。
【解決手段】シリンダ2と、このシリンダ2に往復動自在に案内支持され、シリンダ2と協働して密閉空間を形成するピストン4と、多数の細孔を有し、密閉空間3内に収容される多孔質体9と、多孔質体9とともに密閉空間3内に収容され、加圧時に多孔質体3の細孔へ流入する一方、減圧時に多孔質体3の細孔から流出する作動液体8と、密閉空間3内に設置された圧電素子6とを有する。
【解決手段】シリンダ2と、このシリンダ2に往復動自在に案内支持され、シリンダ2と協働して密閉空間を形成するピストン4と、多数の細孔を有し、密閉空間3内に収容される多孔質体9と、多孔質体9とともに密閉空間3内に収容され、加圧時に多孔質体3の細孔へ流入する一方、減圧時に多孔質体3の細孔から流出する作動液体8と、密閉空間3内に設置された圧電素子6とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉空間にシリカゲル等の多孔質体と作動液体との混合物を封入し、多孔質体の細孔へ作動液体を流出入させることにより、外部から作用する機械的エネルギーを散逸させるコロイダルダンパーに係り、より詳しくは、外部から作用する機械的エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能なコロイダルダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルダンパーは、密閉空間にシリカゲル等の多孔質体と作動液体との混合物(コロイド溶液)を封入した装置であり、多孔質体の細孔へ作動液体を流出入させることにより、外部から作用する機械的エネルギーを散逸させるものである(例えば、特許文献1,2参照。)。また、この種のコロイダルダンパーを実用化するために、本発明者は、正減衰力のエネルギーを散逸するコロイダルダンパー(例えば、特許文献3参照。)および正負減衰力のエネルギーを散逸するコロイダルダンパー(例えば、特許文献4参照。)を提案している。
【0003】
さらに、この種のコロイダルダンパーを実用化するために、本発明者は、作動液体として水と不凍剤との混合物を使用するコロイダルダンパー(例えば、特許文献5,9参照。)、シリカゲル等の多孔質体として疎水化多孔質シリカゲルを使用するコロイダルダンパー(例えば、特許文献6参照。)、および、密閉空間内から多孔質体および作動液体が漏れ出さないようにして耐久性を向上したコロイダルダンパー(例えば、特許文献7参照。)を提案している。
【0004】
なお、パッシブ(受動)制御コロイダルダンパー(例えば、特許文献1〜7参照。)の減衰特性は定値である。しかしながら、外励振(例えば、乗り物の懸架装置の場合の凹凸路面の変位励振や、耐震システムの場合の地震の加振力)による、振動や衝撃のエネルギーを効果的に散逸するためには、ダンパーの減衰特性を変化させて調整(制御)しなければならない。そこで、本発明者は、減衰特性を制御することが可能なアクティブ(能動)制御コロイダルダンパー(例えば、特許文献8参照。)を提案している。
【0005】
ところで、ディーゼル燃料やガソリン燃料を内燃機関の吸気マニホールドや燃焼器に注入する燃料噴射装置(例えば、特許文献10,11参照。)が提案されている。図12に示すように、この種の燃料噴射装置20には、圧電アクチュエータ21と制御装置22がついており、圧電アクチュエータ21のトリガー電圧Uを制御装置22で調整して圧電アクチュエータ21の長さを制御し、燃料噴射装置20を開閉することができる。この燃料噴射装置20では、トリガー電圧と燃料の圧力とに互いに関係があり、例えば、燃料の圧力が150〜170MPaの高圧範囲内で変動する場合、トリガー電圧を220〜260Vの範囲内に調整しなければならない。逆に、燃料の圧力が30〜55MPaの低圧範囲内で変動する場合、トリガー電圧を50〜80Vの範囲内に調整しなければならない(特許文献11参照。)。
【0006】
このように、近年では内燃機関であっても外部から電気エネルギーを供給して制御することが必須となっている。また、近年では内燃機関(ガソリンエンジン)と電動機(モータ)を使用したハイブリッド車両の普及も進んでいる。図13はハイブリッド車両のエネルギー的フローチャートを示している。図13に示すハイブリッド車両では、21kWの電力を有するハイブリッドバッテリー(NiMH)を使用しており、バッテリーの直流電圧は、288Vか202Vであり、バッテリーの電気エネルギーは、1.8kWhか1.3kWhである。つまり、このハイブリッド車両の場合、バッテリーの電流は約6.3Ahである。また、発電機とインバータとの間、並びに電動機(モータ)とインバータとの間での電力は、274Vか500Vの交流電圧で伝達されている。このように近年では、多くの電力を必要とする車両も増えており、電気エネルギーを無駄なく利用することが望まれている。
【0007】
そこで、車両の懸架装置より電気エネルギーを収穫することが可能なシステムが提案されている(例えば、特許文献12参照。)。このような車両用懸架装置は、電磁アクチュエータとばねの並列構造を使用している。具体的には、電磁アクチュエータとして、直流電動機(モータ)と発電機とを使用し、ばねとして、空気ばね(図14参照。)あるいは圧縮コイルばね(図15参照。)を使用している。この車両用懸架装置では、電磁アクチュエータの軸とボールねじロッドとが連結され、ボールねじロッドの回転運動に対して、相手のボールねじナットが並進運動を行うようになっている。
【0008】
つまり、このようなボールねじ機構を用いると、凹凸路面により発生した車両の上下運動(跳ね上がりおよび跳ね下がり)を電磁アクチュエータの回転運動に変換することができる。その結果、懸架装置のある使用モードで電磁アクチュエータが跳ね上がりおよび跳ね下がりの運動に対して正減衰力を提供するので、ダンパー(減衰要素)の効果が得られる。逆に、懸架装置のある使用モードで電磁アクチュエータが跳ね上がりおよび跳ね下がりの運動エネルギーを電気エネルギーに変換した場合、つまり、負減衰力を提供した場合、発電の効果が得られ、このように収穫された電気エネルギーをバッテリーの充電に使用することができる。また、このシステムでは、制御装置により、電磁アクチュエータの使用モード、バッテリーの充電や放電などを制御することが可能となっている。
【0009】
また、機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する1つの古典的な方法として、イオン分離方法が知られている。イオン分離効果を得るためには、様々な原理を使用することが可能であるが、その1つとして、例えば、特許文献13には、ナノ多孔質材料と電解液との混合物を用いたシステムが開示されている。このシステムの場合、機械的なエネルギー(例えば、振動や衝撃のエネルギー)を用いて電解液を強制的に吸着させると、同時に小さなイオンは細孔内に吸着できるが、大きなイオンは細孔内に吸着できない、といった条件で、ナノ細孔の直径が選択されることにより、イオン分離効果を得ている。その結果、ナノ細孔に吸着できた液体は、小さなイオンの余剰を持つのに対して、バルク液体、つまり、ナノ細孔に吸着できなかった液体は、大きなイオンの余剰を持つ。大きな面積を有する電極でこのような帯電差(電圧)を集中させると、ナノ多孔質材料に液体を強制的に吸着させた機械的な仕事の一部を電気エネルギーに変換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第96/18040号
【特許文献2】国際公開第01/55616号
【特許文献3】特開2004−44732号公報
【特許文献4】特開2005−121091号公報
【特許文献5】特開2005−121092号公報
【特許文献6】特開2006−118571号公報
【特許文献7】国際公開第2008/029501号
【特許文献8】国際公開第2008/152776号
【特許文献9】特開2010−185577号公報
【特許文献10】米国特許出願公開第2010/059021号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2010/294853号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2010/230876号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2009/243428号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献12に記載のような電気エネルギーを収穫する懸架装置はアクティブ制御システムであるため、欠点として、低信頼性、低ロバスト性や、複雑で高価な構造などが挙げられる。また、制御装置の偶然故障が発生したときに、負減衰力による車両の懸架装置が不安定となる可能性もある。
【0012】
また、特許文献13に記載のような機械的エネルギーを電気エネルギーに変換するためにイオン分離効果を使用した全てのシステムでは、とても低い発電圧(mVのオーダー)しか得られないといった大きな問題点が挙げられる。その結果、実際にこのようなイオン分離効果を使用したシステムは、実用化できない。
【0013】
そこで、本発明においては、本発明者が提案するコロイダルダンパーを応用し、外部から作用する機械的エネルギーから実用的な電力の電気エネルギーを収穫可能としたコロイダルダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のコロイダルダンパーは、シリンダと、このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、多数の細孔を有し、密閉空間内に収容される多孔質体と、多孔質体とともに密閉空間内に収容され、加圧時に多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に多孔質体の細孔から流出する作動液体と、密閉空間内に設置された圧電素子とを有するものである。
【0015】
本発明のコロイダルダンパーでは、密閉空間内に収容された作動液体が多孔質体の細孔へ流出入することで、外部から作用する機械的エネルギーを散逸させて減衰させる。また、加圧時には、密閉空間内に収容された作動液体によって圧電素子が加圧されるので、圧電素子により電気エネルギーが収穫される。
【0016】
また、本発明のコロイダルダンパーは、作動液体は通過させるが多孔質体は通過させないフィルタであり、密閉空間をピストンが往復動する側の第1密閉空間と反対側の第2密閉空間とに二分するフィルタを有し、圧電素子が第2密閉空間内に設置されていることが望ましい。
【0017】
これにより、多孔質体はフィルタを通過せず、作動液体のみが通過するので、多孔質体がシリンダとピストンとの摺動部へ流入するのを防止することができるとともに、圧電素子が、ピストンが往復動する側と反対側の第2密閉空間内にあるので、ピストンと接触することがない。
【発明の効果】
【0018】
(1)シリンダと、このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、多数の細孔を有し、密閉空間内に収容される多孔質体と、多孔質体とともに密閉空間内に収容され、加圧時に多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に多孔質体の細孔から流出する作動液体と、密閉空間内に設置された圧電素子とを有するコロイダルダンパーによれば、加圧時には密閉空間に収容された作動流体によって圧電素子が大きな圧力により加圧されるので、実用的な殿両の電気エネルギーを収穫することが可能となる。
【0019】
(2)作動液体は通過させるが多孔質体は通過させないフィルタであり、密閉空間をピストンが往復動する側の第1密閉空間と反対側の第2密閉空間とに二分するフィルタを有し、圧電素子が第2密閉空間内に設置されていることにより、圧電素子が、ピストンが往復動する側と反対側の第2密閉空間内にあるので、ピストンと接触することがなく、ピストンの往復動により圧電素子を破損することがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態におけるコロイダルダンパーの模式図である。
【図2】(a)は環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電する圧電素子を示す図、(b)は内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電する圧電素子を示す図である。
【図3】環状筒形の端表面でアキシアル圧力による圧縮されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示す図である。
【図4】内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示す図である。
【図5】環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示す図である。
【図6】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力を変更したときのヒステリシス変化を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力を変更したときの一周期内の圧力変動を示す図である。
【図7】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と散逸エネルギーとの関係を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と平均圧力との関係を示す図である。
【図8】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力を変更したときのヒステリシス変化および中央線を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と内部ばね定数との関係を示す図である。
【図9】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と平均発電圧との関係を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と平均発電力との関係を示す図である。
【図10】コロイダルダンパーの実用化イメージを示す説明図である。
【図11】本発明の別の実施の形態におけるコロイダルダンパーの模式図である。
【図12】燃料噴射装置を示す図である。
【図13】ハイブリッド車両のエネルギー的フローチャートを示す図である。
【図14】電磁アクチュエータと空気ばねの並列構造を使用した車両用懸架装置を示す図である。
【図15】電磁アクチュエータと圧縮コイルばねの並列構造を使用した車両用懸架装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明の実施の形態におけるコロイダルダンパーの模式図である。
図1において、本発明の実施の形態におけるコロイダルダンパー1は、シリンダ2と、このシリンダ2に往復動自在に案内支持され、シリンダ2と協働して密閉空間3を形成するピストン4と、密閉空間3を一定体積の密閉空間3aと可変体積の密閉空間3bとに二分するように設けられた隔壁としてのフィルタ5と、密閉空間3a内に設置する圧電素子6とを備える。ピストン4の摺動面には、パッキン等の密閉装置4aが設けられている。
【0022】
密閉空間3内には作動液体8が収容されており、ピストン4が往復動する側と反対側の一定体積の密閉空間3a内には多数の細孔を有する多孔質体9が収容されている。フィルタ5は、多孔質体9の平均外径d2(実際に測定された外径分布に関して計算された平均値)よりも小さな径(0.1μm〜10μm程度のオーダ)の細孔が多数形成されたものであり、作動液体8は通過させるが、多孔質体9は通過させない。このフィルタ5の細孔によって、多孔質体9はシリンダ2とピストン4との摺動部から隔離され、作動液体8のみが密閉空間3a,3b間を自由に移動することができるようになっている。
【0023】
多孔質体9は、シリカゲル、アエロゲル、セラミックス、多孔質ガラス、ゼオライト、多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、多孔質蝋、多孔質ポリスチレン、アルミナやカーボン(黒鉛、木炭、フラーレンおよびカーボンナノチューブを含む。)等からなる外径1μm〜100μm程度のマイクロオーダの略球形粒状物(マイクロ粒子)である。多孔質体9は、複数の内径1nm〜100nm程度のナノオーダの細孔(ナノ細孔)と、略中央に形成された中空部とを有する。細孔は、一端で中空部に開口し、他端で多孔質体9の外に開口して、中空部から放射方向に伸びている。なお、別の実施形態として、中空部がない特殊な構造の多孔質体とすることも可能である。多孔質体9のそれぞれの外面、細孔の内面、並びに中空部の内面は、作動液体8に対して親和性がなく分子鎖が線形である物質で被覆(疎水処理)されている。
【0024】
作動液体8は、高い表面張力を有する液体であることが好ましく、代表的には水を挙げることができる。水以外の作動液体としては、水と不凍剤との混合液、例えばエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等から選ばれた少なくとも一種以上を、好ましくは多くとも67容量%混入させた水を用いることができる。この場合、0℃以下の環境でもコロイダルダンパー1を使用することができるようになる。また、水と、水よりも蒸発しにくい物質、例えばジメチルフォルムアミド、フォルムアミド等との混合液を使用することができる。この場合、100℃以上の環境でもコロイダルダンパー1を使用することができるようになる。
【0025】
さらに、水と消泡剤との混合液、例えばシリコン系の消泡剤、非シリコン系の消泡剤、オイル径の消泡剤等から選ばれた少なくとも一種以上を、好ましくは多くとも50ppm混入させた水を用いることができる。この場合、密閉装置3から空気が密閉空間に流入しても、コロイダルダンパー1を利用することができるようになる。多孔質体9の細孔の平均内径d1(実際に測定された内径分布に関して計算された平均値)は、作動液体分子の平均自由行程をLpとしたときのクヌーセン数Kn=Lp/(d1・1/2)が0.034よりも大きく、0.119(好ましくは0.097)よりも小さい範囲で決定されることが望ましい。また、多孔質体9の平均外径d2は、この多孔質体9の細孔の平均内径d1の10倍以上であって100000倍以下の範囲で決定されることが望ましい。
【0026】
なお、多孔質体9と作動液体8とは、多孔質体9の細孔の全容積をMVP(多孔質体9の質量Mと多孔質体9の細孔の比体積VPとの掛け算)とし、作動液体8の体積をVLとすると、その比MVP/VLが0.2以上であって2.5以下の範囲をもって収容されていることが望ましい。なお、本実施形態においては、比MVP/VLが実質的に1となるように密閉空間3に収容されている。
【0027】
この構成のコロイダルダンパー1では、ピストン4のピストンロッド4bに外力が加えられると(加圧時)、この外力がピストン4を介して作動液体8に加えられ、作動液体8が加圧される。この加圧により作動液体8は、密閉空間3a内に多孔質体9の細孔からその表面張力に抗して流入する。これにより、ピストン4は、密閉空間3の容積を減少するように移動する。また、このコロイダルダンパー1では、外力に関する振動や衝撃のエネルギーが細孔への作動流体の流入により消費されるために、ピストン4を移動させる力を減衰させる。
【0028】
一方、ピストン4へ付与された力がなくなると(減圧時)、表面張力に抗して細孔へ流入した作動液体8は、その表面張力により細孔から多孔質体の外へ流出する。これにより、ピストン4は逆に密閉空間3の容積を増大するように移動し、初期位置へと復帰する。このとき、多孔質体9はフィルタ5の細孔を通過せずに、密閉空間3a内に留め置かれ、作動液体8のみがフィルタ5の細孔を通過する。したがって、このコロイダルダンパー1では、多孔質体9が密閉空間3b内へ流入しないので、シリンダ2とピストン4との摺動部への多孔質体9の流入が防止されるので、コロイダルダンパー1の耐久性が向上している。
【0029】
また、本実施形態におけるコロイダルダンパー1では、上記加圧時に密閉空間3内に設置された圧電素子6が加圧されるので、この圧電素子6に加えられた圧力が電気エネルギーに変換され、収穫される。圧電素子6は、圧電体に加えられた圧力を電圧に変換する圧電効果を利用した受動素子であり、密閉空間3内の作動液体8が加圧されると、この作動液体8の圧力を電圧に変換するものである。
【0030】
圧電素子6としては、図2(a)に示すような環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電する圧電素子や、図2(b)に示すような内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電する圧電素子などを使用することができる。これらの圧電素子の形状特性(形、体積)、発電特性(発電圧、圧電定数の範囲、発電力、相対誘電率)および強度的な条件の例を表1に示す。なお、発電圧Uは、コロイダルダンパー1により得られる電圧である。
【0031】
【表1】
【0032】
なお、圧電素子の形状、圧電素子の電気方向(分極方向)および圧電素子の機械方向(圧力方向)は、図2に示す形状や方向に制限されない。例えば、圧電素子の形状は、図2に示すような環状円筒形(チューブラ)や、表1に示すような丸棒、環状円筒形、円板および環状円板に制限されない。したがって、コロイダルダンパー1に使用できる圧電素子の形状は中空球、半球や正方形板等としても良い。また、分極方向として、圧電素子のアキシアル軸ではなく、圧電素子のラジアル方向に沿って圧電素子を分極しても良い。さらに、コロイダルダンパー1の構造を適当に変更させることによって、圧電素子に対して作動液体8(コロイド溶液)により、加圧(圧縮)ではなく、引張、曲げ、ねじりやせん断を加えて電気エネルギーを得ることも可能である。
【0033】
また、圧電素子6を複数個用いて、並列電気回路を形成することにより発電力を増加することも可能である。図3は環状筒形の端表面でアキシアル圧力による圧縮されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示し、図4は内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示している。また、図5に示すように、環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路とすることも可能である。このように圧電素子の二方向加圧を使用すると、アキシアル圧力により得られる発電力にラジアル圧力による得られた発電力を加えることで、コロイダルダンパー1の発電力をさらに増加させることができる。
【0034】
次に、図5に示した環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を構成したコロイダルダンパー1の発電機能について検証する。図5に示したn個の圧電素子の並列電気回路を構成したコロイダルダンパー1の発電力Pは、次式(1)となる。
【数1】
【0035】
しかし、電気エネルギーを収穫するコロイダルダンパー1の応用的な立場から見ると、アキシアル圧力により得られる発電圧
の値と、ラジアル圧力による得られる発電圧
の値とが等しくなるような設計条件を課しなければならない。このような設計条件を課すと、選択された圧電素子の材料によって発電圧の圧電係数(gzz,gzr)が分かり、圧電素子の内直径と外直径との比di/doは、次式(2)で計算できる。
【数2】
【0036】
例えば、選択された圧電素子のセラミックス材料の場合、発電圧の圧電係数がgzz=26.1mV・m/N、並びにgzr=11.9mV・m/Nであれば、式(2)より、圧電素子の内直径と外直径との比はdi/do=0.544となる。
【0037】
実際に、このような二方向加圧を使用した圧電素子の場合、アキシアル圧力により得られる発電圧と、ラジアル圧力により得られる発電圧とが等しくなった設計条件の上で発電力が2倍大きくなる(式(3)参照。)。
【数3】
【0038】
四輪車両の場合、左右前後輪用コロイダルダンパー1のそれぞれの内圧力は瞬間的に異なるが、簡便のため本実施例では、左前輪用コロイダルダンパー1の内圧力と、左後輪用コロイダルダンパー1の内圧力と、右前輪用コロイダルダンパー1の内圧力と、右後輪用コロイダルダンパー1の内圧力とが等しい、といった仮定の下で、さらに発電力が4倍大きくなる(式(4)参照。)。
【数4】
【0039】
圧電素子の体積
に式(2)より圧電素子の内直径と外直径との関係を代入し、得られた結果をさらに式(4)に代入すると、本実施例で使用するコロイダルダンパー1の発電力は次式(5)のようになる。
【数5】
【0040】
本実施例では、圧電素子の個数はn=55、周波数はf=10Hz、圧電素子の外直径はdo=60mm(式(2)より圧電素子の内直径はdi=33mmとなる。)、圧電素子の相対誘電率はKz=3200、並びに絶対誘電率はε0=8.85pF/mとする。また、本実施例の発電圧の値として、U=12V(内燃機関(エンジン)を使用した自動車のバッテリーの普通電圧)、24V(内燃機関(エンジン)を使用したトラックのバッテリーの普通電圧)、202V(ハイブリッド車両Aのハイブリッドバッテリーの電圧)、並びに288V(ハイブリッド車両Bのハイブリッドバッテリーの電圧)とする。
【0041】
図6(a)はコロイダルダンパー1の最大作動圧力が20MPa、25MPa、30MPa、35MPa、40MPa、並びに60MPaとなったときのヒステリシス(作動圧力とピストンストロークとの関係ループ)の形を示し、図6(b)はコロイダルダンパー1の最大作動圧力が20MPa、25MPa、30MPa、35MPa、40MPa、並びに60MPaとなったときの一周期内の作動圧力の変動を示す。
【0042】
コロイダルダンパー1の散逸エネルギーEの解析は、ピストン4の断面積と図6(a)のようなp(S)ヒステリシスループの面積とを掛け算したものが散逸エネルギーとなる。図7(a)はコロイダルダンパー1の散逸エネルギーと最大作動圧力との関係グラフを示している。図7(a)より、最大作動圧力の増加につれて、コロイダルダンパー1の散逸エネルギーが単調に増加することが分かる。
【0043】
コロイダルダンパー1の平均圧力pmは、図6(b)のようなp=p(tf)グラフの平均値、つまり、一周期内の作動圧力と無次元化時間との関係グラフを積分したものが平均圧力となる。図7(b)はコロイダルダンパー1の平均圧力と最大作動圧力との関係を示すグラフである。図7(b)より、最大作動圧力の増加につれてコロイダルダンパー1の平均圧力が単調に増加することが分かる。
【0044】
図8(a)はコロイダルダンパー1の最大作動圧力が20MPa、25MPa、30MPa、35MPa、40MPa、並びに60MPaとなったときのヒステリシス(作動圧力とピストンストロークとの関係ループ)の形、およびヒステリシスの中央線(ストロークと平均圧力との関係グラフ)を示している。コロイダルダンパー1のばね定数ksは、ピストン4の断面積と図8(a)のようなヒステリシスの中央線の傾きとを掛け算したものとなる。
【0045】
また、図8(b)はコロイダルダンパー1の内部ばね定数と最大作動圧力との関係グラフを示している。図8(b)より、内部ばね定数は最大作動圧力が低圧部分と高圧部分で線形的に上昇していることが分かる。これは多孔質体9の細孔に作動液体8が出入りしていない部分であり、水の圧縮性と密閉装置の弾性特性により起きたと考えられる。また、15〜45MPaの範囲内では、多孔質体9の細孔に作動液体8が出入り(吸着・脱着)することによってコロイダルダンパー1の剛性が低くなる、つまり、内部ばね定数が減少することが分かる。
【0046】
図7(b)より、コロイダルダンパー1の最大作動圧力と平均圧力との関係が分かるので、平均圧力の値を求め、そして、平均圧力の値、発電圧の圧電係数gzz=26.1mV・m/Nの値、並びに圧電素子の長さ(厚み)l=0.1、0.7、1.0mmの値を発電圧の式U=lpgzz(表1参照。)に代入すると、平均発電圧Umを計算することができる。その結果として、平均発電圧とコロイダルダンパー1の最大作動圧力との関係を図9(a)に示す。
【0047】
また、図7(b)より平均圧力の値、圧電素子の個数n=55の値、周波数f=10Hzの値、圧電素子の外直径do=60mmの値、発電圧の圧電係数gzz=26.1mV・m/Nとgzr=11.9mV・m/Nの値、圧電素子の相対誘電率Kz=3200の値、絶対誘電率ε0=8.85pF/mの値、並びに圧電素子の長さ(厚み)l=0.1、0.7、1.0mmの値を、発電力の式(5)に代入すると、平均発電力Umを計算することができる。その結果として、平均発電力とコロイダルダンパー1の最大作動圧力との関係を図9(b)に示す。
【0048】
図9(a)より、平均発電圧Um=12V(内燃機関(エンジン)を使用した自動車のバッテリーの普通電圧)を得るための圧電素子の厚みは薄すぎるので、実用化が難しいと考えられる。しかし、平均発電圧Um=24V(内燃機関(エンジン)を使用したトラックのバッテリーの普通電圧)、平均発電圧Um=202V(ハイブリッド車両Aのハイブリッドバッテリーの電圧)、並びに平均発電圧Um=288V(ハイブリッド車両Bのハイブリッドバッテリーの電圧)を得るための圧電素子の厚み(l=0.1、0.7、並びに1.0mm)は技術的に可能であるので、コロイダルダンパー1の実用化ができると考えられる。
【0049】
また、図9(b)より、コロイダルダンパー1の平均発電力が1〜100Wの範囲内で変動しているので、コロイダルダンパー1の実用化(例えば、図10に示すようにバッテリー10の充電、燃料噴射装置のアクチュエータ11の電源など)ができると考えられる。
【0050】
なお、上記実施形態におけるコロイダルダンパー1では、圧電素子6を一定体積の密閉空間3a内に設置しているが、図11に示すように可変体積の密閉空間3b内に設置することも可能である。このような構成であっても、密閉空間3内の圧力pは同じであり、ピストン4が接触しない位置に圧電素子6を設置することで、上述と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
なお、本実施形態におけるコロイダルダンパー1においては、図1に示すように、密閉空間3内の作動圧力を調整する圧力調整手段7を備えている。圧力調整手段7としては、例えば、密閉空間3に連通され、密閉空間3内の作動液体8を流出入させるポンプ装置を用いることができる。ポンプ装置は、ポンプ、サーボ弁、圧力計、加速度計および制御装置から構成されており、密閉空間3への作動液体8の流出入量あるいは圧力を制御することができるようになっている。コロイダルダンパー1はシリンダ2とピストン4により形成される密閉空間3内の圧力を、この圧力調整手段7により調整することで、能動的に減衰特性および弾性特性を制御することができる。
【0052】
また、圧力調整手段7として、多孔質体9、作動液体8またはシリンダ2に弾性波を加振する加振装置を備えた構成とすることも可能である。ここで、弾性波は、音波や超音波等であり、前述のポンプ装置に代えて、例えば、加振装置としての音波や超音波等の発生器を用いることによっても、能動的に減衰特性および弾性特性を制御することができる。
【0053】
あるいは、圧力調整手段7として、多孔質体9および作動液体8のいずれかまたは両方の表面張力を制御する表面張力制御手段を備えた構成とすることも可能である。表面張力制御手段は、密閉空間3内の電場を制御する電場制御装置あるいは密閉空間3内の磁場を制御する磁場制御装置とすることが可能である。さらに、表面張力制御手段は、密閉空間3内の多孔質体9および作動液体8のいずれかまたは両方の温度を制御する温度制御装置とすることも可能である。あるいは、表面張力制御手段として、界面活性剤の可逆酸化還元性を制御する電気化学制御装置、光または紫外線の照射装置とすることも可能である。
【0054】
あるいは、圧力調整手段7として、多孔質体9の細孔の内径を制御する細孔内径制御手段を備えた構成とすることも有効である。例えば、疎水処理分子によって疎水処理が施された多孔質体9に対し、疎水処理分子を回転または伸縮させる細孔内径制御手段により行うことが可能である。疎水処理分子を回転または伸縮させるための手段としては、光または紫外線の照射装置を用いることが可能である。あるいは、圧力調整手段として、多孔質体9および作動液体8のいずれかまたは両方の質量を調整する質量調整手段を備えた構成とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のコロイダルダンパーは、外部から作用する機械的エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能なダンパーとして有用であり、バッテリーの充電や燃料噴射装置のアクチュエータの電源などに好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 コロイダルダンパー
2 シリンダ
3 密閉空間
3a 一定体積の密閉空間
3b 可変体積の密閉空間
4 ピストン
4a 密閉装置
4b ピストンロッド
5 フィルタ
6 圧電素子
7 圧力調整手段
8 作動液体
9 多孔質体
10 バッテリー
11 アクチュエータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉空間にシリカゲル等の多孔質体と作動液体との混合物を封入し、多孔質体の細孔へ作動液体を流出入させることにより、外部から作用する機械的エネルギーを散逸させるコロイダルダンパーに係り、より詳しくは、外部から作用する機械的エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能なコロイダルダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルダンパーは、密閉空間にシリカゲル等の多孔質体と作動液体との混合物(コロイド溶液)を封入した装置であり、多孔質体の細孔へ作動液体を流出入させることにより、外部から作用する機械的エネルギーを散逸させるものである(例えば、特許文献1,2参照。)。また、この種のコロイダルダンパーを実用化するために、本発明者は、正減衰力のエネルギーを散逸するコロイダルダンパー(例えば、特許文献3参照。)および正負減衰力のエネルギーを散逸するコロイダルダンパー(例えば、特許文献4参照。)を提案している。
【0003】
さらに、この種のコロイダルダンパーを実用化するために、本発明者は、作動液体として水と不凍剤との混合物を使用するコロイダルダンパー(例えば、特許文献5,9参照。)、シリカゲル等の多孔質体として疎水化多孔質シリカゲルを使用するコロイダルダンパー(例えば、特許文献6参照。)、および、密閉空間内から多孔質体および作動液体が漏れ出さないようにして耐久性を向上したコロイダルダンパー(例えば、特許文献7参照。)を提案している。
【0004】
なお、パッシブ(受動)制御コロイダルダンパー(例えば、特許文献1〜7参照。)の減衰特性は定値である。しかしながら、外励振(例えば、乗り物の懸架装置の場合の凹凸路面の変位励振や、耐震システムの場合の地震の加振力)による、振動や衝撃のエネルギーを効果的に散逸するためには、ダンパーの減衰特性を変化させて調整(制御)しなければならない。そこで、本発明者は、減衰特性を制御することが可能なアクティブ(能動)制御コロイダルダンパー(例えば、特許文献8参照。)を提案している。
【0005】
ところで、ディーゼル燃料やガソリン燃料を内燃機関の吸気マニホールドや燃焼器に注入する燃料噴射装置(例えば、特許文献10,11参照。)が提案されている。図12に示すように、この種の燃料噴射装置20には、圧電アクチュエータ21と制御装置22がついており、圧電アクチュエータ21のトリガー電圧Uを制御装置22で調整して圧電アクチュエータ21の長さを制御し、燃料噴射装置20を開閉することができる。この燃料噴射装置20では、トリガー電圧と燃料の圧力とに互いに関係があり、例えば、燃料の圧力が150〜170MPaの高圧範囲内で変動する場合、トリガー電圧を220〜260Vの範囲内に調整しなければならない。逆に、燃料の圧力が30〜55MPaの低圧範囲内で変動する場合、トリガー電圧を50〜80Vの範囲内に調整しなければならない(特許文献11参照。)。
【0006】
このように、近年では内燃機関であっても外部から電気エネルギーを供給して制御することが必須となっている。また、近年では内燃機関(ガソリンエンジン)と電動機(モータ)を使用したハイブリッド車両の普及も進んでいる。図13はハイブリッド車両のエネルギー的フローチャートを示している。図13に示すハイブリッド車両では、21kWの電力を有するハイブリッドバッテリー(NiMH)を使用しており、バッテリーの直流電圧は、288Vか202Vであり、バッテリーの電気エネルギーは、1.8kWhか1.3kWhである。つまり、このハイブリッド車両の場合、バッテリーの電流は約6.3Ahである。また、発電機とインバータとの間、並びに電動機(モータ)とインバータとの間での電力は、274Vか500Vの交流電圧で伝達されている。このように近年では、多くの電力を必要とする車両も増えており、電気エネルギーを無駄なく利用することが望まれている。
【0007】
そこで、車両の懸架装置より電気エネルギーを収穫することが可能なシステムが提案されている(例えば、特許文献12参照。)。このような車両用懸架装置は、電磁アクチュエータとばねの並列構造を使用している。具体的には、電磁アクチュエータとして、直流電動機(モータ)と発電機とを使用し、ばねとして、空気ばね(図14参照。)あるいは圧縮コイルばね(図15参照。)を使用している。この車両用懸架装置では、電磁アクチュエータの軸とボールねじロッドとが連結され、ボールねじロッドの回転運動に対して、相手のボールねじナットが並進運動を行うようになっている。
【0008】
つまり、このようなボールねじ機構を用いると、凹凸路面により発生した車両の上下運動(跳ね上がりおよび跳ね下がり)を電磁アクチュエータの回転運動に変換することができる。その結果、懸架装置のある使用モードで電磁アクチュエータが跳ね上がりおよび跳ね下がりの運動に対して正減衰力を提供するので、ダンパー(減衰要素)の効果が得られる。逆に、懸架装置のある使用モードで電磁アクチュエータが跳ね上がりおよび跳ね下がりの運動エネルギーを電気エネルギーに変換した場合、つまり、負減衰力を提供した場合、発電の効果が得られ、このように収穫された電気エネルギーをバッテリーの充電に使用することができる。また、このシステムでは、制御装置により、電磁アクチュエータの使用モード、バッテリーの充電や放電などを制御することが可能となっている。
【0009】
また、機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する1つの古典的な方法として、イオン分離方法が知られている。イオン分離効果を得るためには、様々な原理を使用することが可能であるが、その1つとして、例えば、特許文献13には、ナノ多孔質材料と電解液との混合物を用いたシステムが開示されている。このシステムの場合、機械的なエネルギー(例えば、振動や衝撃のエネルギー)を用いて電解液を強制的に吸着させると、同時に小さなイオンは細孔内に吸着できるが、大きなイオンは細孔内に吸着できない、といった条件で、ナノ細孔の直径が選択されることにより、イオン分離効果を得ている。その結果、ナノ細孔に吸着できた液体は、小さなイオンの余剰を持つのに対して、バルク液体、つまり、ナノ細孔に吸着できなかった液体は、大きなイオンの余剰を持つ。大きな面積を有する電極でこのような帯電差(電圧)を集中させると、ナノ多孔質材料に液体を強制的に吸着させた機械的な仕事の一部を電気エネルギーに変換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第96/18040号
【特許文献2】国際公開第01/55616号
【特許文献3】特開2004−44732号公報
【特許文献4】特開2005−121091号公報
【特許文献5】特開2005−121092号公報
【特許文献6】特開2006−118571号公報
【特許文献7】国際公開第2008/029501号
【特許文献8】国際公開第2008/152776号
【特許文献9】特開2010−185577号公報
【特許文献10】米国特許出願公開第2010/059021号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2010/294853号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2010/230876号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2009/243428号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献12に記載のような電気エネルギーを収穫する懸架装置はアクティブ制御システムであるため、欠点として、低信頼性、低ロバスト性や、複雑で高価な構造などが挙げられる。また、制御装置の偶然故障が発生したときに、負減衰力による車両の懸架装置が不安定となる可能性もある。
【0012】
また、特許文献13に記載のような機械的エネルギーを電気エネルギーに変換するためにイオン分離効果を使用した全てのシステムでは、とても低い発電圧(mVのオーダー)しか得られないといった大きな問題点が挙げられる。その結果、実際にこのようなイオン分離効果を使用したシステムは、実用化できない。
【0013】
そこで、本発明においては、本発明者が提案するコロイダルダンパーを応用し、外部から作用する機械的エネルギーから実用的な電力の電気エネルギーを収穫可能としたコロイダルダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のコロイダルダンパーは、シリンダと、このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、多数の細孔を有し、密閉空間内に収容される多孔質体と、多孔質体とともに密閉空間内に収容され、加圧時に多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に多孔質体の細孔から流出する作動液体と、密閉空間内に設置された圧電素子とを有するものである。
【0015】
本発明のコロイダルダンパーでは、密閉空間内に収容された作動液体が多孔質体の細孔へ流出入することで、外部から作用する機械的エネルギーを散逸させて減衰させる。また、加圧時には、密閉空間内に収容された作動液体によって圧電素子が加圧されるので、圧電素子により電気エネルギーが収穫される。
【0016】
また、本発明のコロイダルダンパーは、作動液体は通過させるが多孔質体は通過させないフィルタであり、密閉空間をピストンが往復動する側の第1密閉空間と反対側の第2密閉空間とに二分するフィルタを有し、圧電素子が第2密閉空間内に設置されていることが望ましい。
【0017】
これにより、多孔質体はフィルタを通過せず、作動液体のみが通過するので、多孔質体がシリンダとピストンとの摺動部へ流入するのを防止することができるとともに、圧電素子が、ピストンが往復動する側と反対側の第2密閉空間内にあるので、ピストンと接触することがない。
【発明の効果】
【0018】
(1)シリンダと、このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、多数の細孔を有し、密閉空間内に収容される多孔質体と、多孔質体とともに密閉空間内に収容され、加圧時に多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に多孔質体の細孔から流出する作動液体と、密閉空間内に設置された圧電素子とを有するコロイダルダンパーによれば、加圧時には密閉空間に収容された作動流体によって圧電素子が大きな圧力により加圧されるので、実用的な殿両の電気エネルギーを収穫することが可能となる。
【0019】
(2)作動液体は通過させるが多孔質体は通過させないフィルタであり、密閉空間をピストンが往復動する側の第1密閉空間と反対側の第2密閉空間とに二分するフィルタを有し、圧電素子が第2密閉空間内に設置されていることにより、圧電素子が、ピストンが往復動する側と反対側の第2密閉空間内にあるので、ピストンと接触することがなく、ピストンの往復動により圧電素子を破損することがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態におけるコロイダルダンパーの模式図である。
【図2】(a)は環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電する圧電素子を示す図、(b)は内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電する圧電素子を示す図である。
【図3】環状筒形の端表面でアキシアル圧力による圧縮されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示す図である。
【図4】内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示す図である。
【図5】環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示す図である。
【図6】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力を変更したときのヒステリシス変化を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力を変更したときの一周期内の圧力変動を示す図である。
【図7】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と散逸エネルギーとの関係を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と平均圧力との関係を示す図である。
【図8】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力を変更したときのヒステリシス変化および中央線を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と内部ばね定数との関係を示す図である。
【図9】(a)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と平均発電圧との関係を示す図、(b)はコロイダルダンパーの最大作動圧力と平均発電力との関係を示す図である。
【図10】コロイダルダンパーの実用化イメージを示す説明図である。
【図11】本発明の別の実施の形態におけるコロイダルダンパーの模式図である。
【図12】燃料噴射装置を示す図である。
【図13】ハイブリッド車両のエネルギー的フローチャートを示す図である。
【図14】電磁アクチュエータと空気ばねの並列構造を使用した車両用懸架装置を示す図である。
【図15】電磁アクチュエータと圧縮コイルばねの並列構造を使用した車両用懸架装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明の実施の形態におけるコロイダルダンパーの模式図である。
図1において、本発明の実施の形態におけるコロイダルダンパー1は、シリンダ2と、このシリンダ2に往復動自在に案内支持され、シリンダ2と協働して密閉空間3を形成するピストン4と、密閉空間3を一定体積の密閉空間3aと可変体積の密閉空間3bとに二分するように設けられた隔壁としてのフィルタ5と、密閉空間3a内に設置する圧電素子6とを備える。ピストン4の摺動面には、パッキン等の密閉装置4aが設けられている。
【0022】
密閉空間3内には作動液体8が収容されており、ピストン4が往復動する側と反対側の一定体積の密閉空間3a内には多数の細孔を有する多孔質体9が収容されている。フィルタ5は、多孔質体9の平均外径d2(実際に測定された外径分布に関して計算された平均値)よりも小さな径(0.1μm〜10μm程度のオーダ)の細孔が多数形成されたものであり、作動液体8は通過させるが、多孔質体9は通過させない。このフィルタ5の細孔によって、多孔質体9はシリンダ2とピストン4との摺動部から隔離され、作動液体8のみが密閉空間3a,3b間を自由に移動することができるようになっている。
【0023】
多孔質体9は、シリカゲル、アエロゲル、セラミックス、多孔質ガラス、ゼオライト、多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、多孔質蝋、多孔質ポリスチレン、アルミナやカーボン(黒鉛、木炭、フラーレンおよびカーボンナノチューブを含む。)等からなる外径1μm〜100μm程度のマイクロオーダの略球形粒状物(マイクロ粒子)である。多孔質体9は、複数の内径1nm〜100nm程度のナノオーダの細孔(ナノ細孔)と、略中央に形成された中空部とを有する。細孔は、一端で中空部に開口し、他端で多孔質体9の外に開口して、中空部から放射方向に伸びている。なお、別の実施形態として、中空部がない特殊な構造の多孔質体とすることも可能である。多孔質体9のそれぞれの外面、細孔の内面、並びに中空部の内面は、作動液体8に対して親和性がなく分子鎖が線形である物質で被覆(疎水処理)されている。
【0024】
作動液体8は、高い表面張力を有する液体であることが好ましく、代表的には水を挙げることができる。水以外の作動液体としては、水と不凍剤との混合液、例えばエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等から選ばれた少なくとも一種以上を、好ましくは多くとも67容量%混入させた水を用いることができる。この場合、0℃以下の環境でもコロイダルダンパー1を使用することができるようになる。また、水と、水よりも蒸発しにくい物質、例えばジメチルフォルムアミド、フォルムアミド等との混合液を使用することができる。この場合、100℃以上の環境でもコロイダルダンパー1を使用することができるようになる。
【0025】
さらに、水と消泡剤との混合液、例えばシリコン系の消泡剤、非シリコン系の消泡剤、オイル径の消泡剤等から選ばれた少なくとも一種以上を、好ましくは多くとも50ppm混入させた水を用いることができる。この場合、密閉装置3から空気が密閉空間に流入しても、コロイダルダンパー1を利用することができるようになる。多孔質体9の細孔の平均内径d1(実際に測定された内径分布に関して計算された平均値)は、作動液体分子の平均自由行程をLpとしたときのクヌーセン数Kn=Lp/(d1・1/2)が0.034よりも大きく、0.119(好ましくは0.097)よりも小さい範囲で決定されることが望ましい。また、多孔質体9の平均外径d2は、この多孔質体9の細孔の平均内径d1の10倍以上であって100000倍以下の範囲で決定されることが望ましい。
【0026】
なお、多孔質体9と作動液体8とは、多孔質体9の細孔の全容積をMVP(多孔質体9の質量Mと多孔質体9の細孔の比体積VPとの掛け算)とし、作動液体8の体積をVLとすると、その比MVP/VLが0.2以上であって2.5以下の範囲をもって収容されていることが望ましい。なお、本実施形態においては、比MVP/VLが実質的に1となるように密閉空間3に収容されている。
【0027】
この構成のコロイダルダンパー1では、ピストン4のピストンロッド4bに外力が加えられると(加圧時)、この外力がピストン4を介して作動液体8に加えられ、作動液体8が加圧される。この加圧により作動液体8は、密閉空間3a内に多孔質体9の細孔からその表面張力に抗して流入する。これにより、ピストン4は、密閉空間3の容積を減少するように移動する。また、このコロイダルダンパー1では、外力に関する振動や衝撃のエネルギーが細孔への作動流体の流入により消費されるために、ピストン4を移動させる力を減衰させる。
【0028】
一方、ピストン4へ付与された力がなくなると(減圧時)、表面張力に抗して細孔へ流入した作動液体8は、その表面張力により細孔から多孔質体の外へ流出する。これにより、ピストン4は逆に密閉空間3の容積を増大するように移動し、初期位置へと復帰する。このとき、多孔質体9はフィルタ5の細孔を通過せずに、密閉空間3a内に留め置かれ、作動液体8のみがフィルタ5の細孔を通過する。したがって、このコロイダルダンパー1では、多孔質体9が密閉空間3b内へ流入しないので、シリンダ2とピストン4との摺動部への多孔質体9の流入が防止されるので、コロイダルダンパー1の耐久性が向上している。
【0029】
また、本実施形態におけるコロイダルダンパー1では、上記加圧時に密閉空間3内に設置された圧電素子6が加圧されるので、この圧電素子6に加えられた圧力が電気エネルギーに変換され、収穫される。圧電素子6は、圧電体に加えられた圧力を電圧に変換する圧電効果を利用した受動素子であり、密閉空間3内の作動液体8が加圧されると、この作動液体8の圧力を電圧に変換するものである。
【0030】
圧電素子6としては、図2(a)に示すような環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電する圧電素子や、図2(b)に示すような内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電する圧電素子などを使用することができる。これらの圧電素子の形状特性(形、体積)、発電特性(発電圧、圧電定数の範囲、発電力、相対誘電率)および強度的な条件の例を表1に示す。なお、発電圧Uは、コロイダルダンパー1により得られる電圧である。
【0031】
【表1】
【0032】
なお、圧電素子の形状、圧電素子の電気方向(分極方向)および圧電素子の機械方向(圧力方向)は、図2に示す形状や方向に制限されない。例えば、圧電素子の形状は、図2に示すような環状円筒形(チューブラ)や、表1に示すような丸棒、環状円筒形、円板および環状円板に制限されない。したがって、コロイダルダンパー1に使用できる圧電素子の形状は中空球、半球や正方形板等としても良い。また、分極方向として、圧電素子のアキシアル軸ではなく、圧電素子のラジアル方向に沿って圧電素子を分極しても良い。さらに、コロイダルダンパー1の構造を適当に変更させることによって、圧電素子に対して作動液体8(コロイド溶液)により、加圧(圧縮)ではなく、引張、曲げ、ねじりやせん断を加えて電気エネルギーを得ることも可能である。
【0033】
また、圧電素子6を複数個用いて、並列電気回路を形成することにより発電力を増加することも可能である。図3は環状筒形の端表面でアキシアル圧力による圧縮されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示し、図4は内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を示している。また、図5に示すように、環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路とすることも可能である。このように圧電素子の二方向加圧を使用すると、アキシアル圧力により得られる発電力にラジアル圧力による得られた発電力を加えることで、コロイダルダンパー1の発電力をさらに増加させることができる。
【0034】
次に、図5に示した環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電するn個の圧電素子の並列電気回路を構成したコロイダルダンパー1の発電機能について検証する。図5に示したn個の圧電素子の並列電気回路を構成したコロイダルダンパー1の発電力Pは、次式(1)となる。
【数1】
【0035】
しかし、電気エネルギーを収穫するコロイダルダンパー1の応用的な立場から見ると、アキシアル圧力により得られる発電圧
の値と、ラジアル圧力による得られる発電圧
の値とが等しくなるような設計条件を課しなければならない。このような設計条件を課すと、選択された圧電素子の材料によって発電圧の圧電係数(gzz,gzr)が分かり、圧電素子の内直径と外直径との比di/doは、次式(2)で計算できる。
【数2】
【0036】
例えば、選択された圧電素子のセラミックス材料の場合、発電圧の圧電係数がgzz=26.1mV・m/N、並びにgzr=11.9mV・m/Nであれば、式(2)より、圧電素子の内直径と外直径との比はdi/do=0.544となる。
【0037】
実際に、このような二方向加圧を使用した圧電素子の場合、アキシアル圧力により得られる発電圧と、ラジアル圧力により得られる発電圧とが等しくなった設計条件の上で発電力が2倍大きくなる(式(3)参照。)。
【数3】
【0038】
四輪車両の場合、左右前後輪用コロイダルダンパー1のそれぞれの内圧力は瞬間的に異なるが、簡便のため本実施例では、左前輪用コロイダルダンパー1の内圧力と、左後輪用コロイダルダンパー1の内圧力と、右前輪用コロイダルダンパー1の内圧力と、右後輪用コロイダルダンパー1の内圧力とが等しい、といった仮定の下で、さらに発電力が4倍大きくなる(式(4)参照。)。
【数4】
【0039】
圧電素子の体積
に式(2)より圧電素子の内直径と外直径との関係を代入し、得られた結果をさらに式(4)に代入すると、本実施例で使用するコロイダルダンパー1の発電力は次式(5)のようになる。
【数5】
【0040】
本実施例では、圧電素子の個数はn=55、周波数はf=10Hz、圧電素子の外直径はdo=60mm(式(2)より圧電素子の内直径はdi=33mmとなる。)、圧電素子の相対誘電率はKz=3200、並びに絶対誘電率はε0=8.85pF/mとする。また、本実施例の発電圧の値として、U=12V(内燃機関(エンジン)を使用した自動車のバッテリーの普通電圧)、24V(内燃機関(エンジン)を使用したトラックのバッテリーの普通電圧)、202V(ハイブリッド車両Aのハイブリッドバッテリーの電圧)、並びに288V(ハイブリッド車両Bのハイブリッドバッテリーの電圧)とする。
【0041】
図6(a)はコロイダルダンパー1の最大作動圧力が20MPa、25MPa、30MPa、35MPa、40MPa、並びに60MPaとなったときのヒステリシス(作動圧力とピストンストロークとの関係ループ)の形を示し、図6(b)はコロイダルダンパー1の最大作動圧力が20MPa、25MPa、30MPa、35MPa、40MPa、並びに60MPaとなったときの一周期内の作動圧力の変動を示す。
【0042】
コロイダルダンパー1の散逸エネルギーEの解析は、ピストン4の断面積と図6(a)のようなp(S)ヒステリシスループの面積とを掛け算したものが散逸エネルギーとなる。図7(a)はコロイダルダンパー1の散逸エネルギーと最大作動圧力との関係グラフを示している。図7(a)より、最大作動圧力の増加につれて、コロイダルダンパー1の散逸エネルギーが単調に増加することが分かる。
【0043】
コロイダルダンパー1の平均圧力pmは、図6(b)のようなp=p(tf)グラフの平均値、つまり、一周期内の作動圧力と無次元化時間との関係グラフを積分したものが平均圧力となる。図7(b)はコロイダルダンパー1の平均圧力と最大作動圧力との関係を示すグラフである。図7(b)より、最大作動圧力の増加につれてコロイダルダンパー1の平均圧力が単調に増加することが分かる。
【0044】
図8(a)はコロイダルダンパー1の最大作動圧力が20MPa、25MPa、30MPa、35MPa、40MPa、並びに60MPaとなったときのヒステリシス(作動圧力とピストンストロークとの関係ループ)の形、およびヒステリシスの中央線(ストロークと平均圧力との関係グラフ)を示している。コロイダルダンパー1のばね定数ksは、ピストン4の断面積と図8(a)のようなヒステリシスの中央線の傾きとを掛け算したものとなる。
【0045】
また、図8(b)はコロイダルダンパー1の内部ばね定数と最大作動圧力との関係グラフを示している。図8(b)より、内部ばね定数は最大作動圧力が低圧部分と高圧部分で線形的に上昇していることが分かる。これは多孔質体9の細孔に作動液体8が出入りしていない部分であり、水の圧縮性と密閉装置の弾性特性により起きたと考えられる。また、15〜45MPaの範囲内では、多孔質体9の細孔に作動液体8が出入り(吸着・脱着)することによってコロイダルダンパー1の剛性が低くなる、つまり、内部ばね定数が減少することが分かる。
【0046】
図7(b)より、コロイダルダンパー1の最大作動圧力と平均圧力との関係が分かるので、平均圧力の値を求め、そして、平均圧力の値、発電圧の圧電係数gzz=26.1mV・m/Nの値、並びに圧電素子の長さ(厚み)l=0.1、0.7、1.0mmの値を発電圧の式U=lpgzz(表1参照。)に代入すると、平均発電圧Umを計算することができる。その結果として、平均発電圧とコロイダルダンパー1の最大作動圧力との関係を図9(a)に示す。
【0047】
また、図7(b)より平均圧力の値、圧電素子の個数n=55の値、周波数f=10Hzの値、圧電素子の外直径do=60mmの値、発電圧の圧電係数gzz=26.1mV・m/Nとgzr=11.9mV・m/Nの値、圧電素子の相対誘電率Kz=3200の値、絶対誘電率ε0=8.85pF/mの値、並びに圧電素子の長さ(厚み)l=0.1、0.7、1.0mmの値を、発電力の式(5)に代入すると、平均発電力Umを計算することができる。その結果として、平均発電力とコロイダルダンパー1の最大作動圧力との関係を図9(b)に示す。
【0048】
図9(a)より、平均発電圧Um=12V(内燃機関(エンジン)を使用した自動車のバッテリーの普通電圧)を得るための圧電素子の厚みは薄すぎるので、実用化が難しいと考えられる。しかし、平均発電圧Um=24V(内燃機関(エンジン)を使用したトラックのバッテリーの普通電圧)、平均発電圧Um=202V(ハイブリッド車両Aのハイブリッドバッテリーの電圧)、並びに平均発電圧Um=288V(ハイブリッド車両Bのハイブリッドバッテリーの電圧)を得るための圧電素子の厚み(l=0.1、0.7、並びに1.0mm)は技術的に可能であるので、コロイダルダンパー1の実用化ができると考えられる。
【0049】
また、図9(b)より、コロイダルダンパー1の平均発電力が1〜100Wの範囲内で変動しているので、コロイダルダンパー1の実用化(例えば、図10に示すようにバッテリー10の充電、燃料噴射装置のアクチュエータ11の電源など)ができると考えられる。
【0050】
なお、上記実施形態におけるコロイダルダンパー1では、圧電素子6を一定体積の密閉空間3a内に設置しているが、図11に示すように可変体積の密閉空間3b内に設置することも可能である。このような構成であっても、密閉空間3内の圧力pは同じであり、ピストン4が接触しない位置に圧電素子6を設置することで、上述と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
なお、本実施形態におけるコロイダルダンパー1においては、図1に示すように、密閉空間3内の作動圧力を調整する圧力調整手段7を備えている。圧力調整手段7としては、例えば、密閉空間3に連通され、密閉空間3内の作動液体8を流出入させるポンプ装置を用いることができる。ポンプ装置は、ポンプ、サーボ弁、圧力計、加速度計および制御装置から構成されており、密閉空間3への作動液体8の流出入量あるいは圧力を制御することができるようになっている。コロイダルダンパー1はシリンダ2とピストン4により形成される密閉空間3内の圧力を、この圧力調整手段7により調整することで、能動的に減衰特性および弾性特性を制御することができる。
【0052】
また、圧力調整手段7として、多孔質体9、作動液体8またはシリンダ2に弾性波を加振する加振装置を備えた構成とすることも可能である。ここで、弾性波は、音波や超音波等であり、前述のポンプ装置に代えて、例えば、加振装置としての音波や超音波等の発生器を用いることによっても、能動的に減衰特性および弾性特性を制御することができる。
【0053】
あるいは、圧力調整手段7として、多孔質体9および作動液体8のいずれかまたは両方の表面張力を制御する表面張力制御手段を備えた構成とすることも可能である。表面張力制御手段は、密閉空間3内の電場を制御する電場制御装置あるいは密閉空間3内の磁場を制御する磁場制御装置とすることが可能である。さらに、表面張力制御手段は、密閉空間3内の多孔質体9および作動液体8のいずれかまたは両方の温度を制御する温度制御装置とすることも可能である。あるいは、表面張力制御手段として、界面活性剤の可逆酸化還元性を制御する電気化学制御装置、光または紫外線の照射装置とすることも可能である。
【0054】
あるいは、圧力調整手段7として、多孔質体9の細孔の内径を制御する細孔内径制御手段を備えた構成とすることも有効である。例えば、疎水処理分子によって疎水処理が施された多孔質体9に対し、疎水処理分子を回転または伸縮させる細孔内径制御手段により行うことが可能である。疎水処理分子を回転または伸縮させるための手段としては、光または紫外線の照射装置を用いることが可能である。あるいは、圧力調整手段として、多孔質体9および作動液体8のいずれかまたは両方の質量を調整する質量調整手段を備えた構成とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のコロイダルダンパーは、外部から作用する機械的エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能なダンパーとして有用であり、バッテリーの充電や燃料噴射装置のアクチュエータの電源などに好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 コロイダルダンパー
2 シリンダ
3 密閉空間
3a 一定体積の密閉空間
3b 可変体積の密閉空間
4 ピストン
4a 密閉装置
4b ピストンロッド
5 フィルタ
6 圧電素子
7 圧力調整手段
8 作動液体
9 多孔質体
10 バッテリー
11 アクチュエータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、
多数の細孔を有し、前記密閉空間内に収容される多孔質体と、
前記多孔質体とともに前記密閉空間内に収容され、加圧時に前記多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に前記多孔質体の細孔から流出する作動液体と、
前記密閉空間内に設置された圧電素子と
を有するコロイダルダンパー。
【請求項2】
前記作動液体は通過させるが前記多孔質体は通過させないフィルタであり、前記密閉空間を前記ピストンが往復動する側の第1密閉空間と反対側の第2密閉空間とに二分するフィルタを有し、
前記圧電素子が前記第2密閉空間内に設置されていることを特徴とする請求項1記載のコロイダルダンパー。
【請求項1】
シリンダと、
このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、
多数の細孔を有し、前記密閉空間内に収容される多孔質体と、
前記多孔質体とともに前記密閉空間内に収容され、加圧時に前記多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に前記多孔質体の細孔から流出する作動液体と、
前記密閉空間内に設置された圧電素子と
を有するコロイダルダンパー。
【請求項2】
前記作動液体は通過させるが前記多孔質体は通過させないフィルタであり、前記密閉空間を前記ピストンが往復動する側の第1密閉空間と反対側の第2密閉空間とに二分するフィルタを有し、
前記圧電素子が前記第2密閉空間内に設置されていることを特徴とする請求項1記載のコロイダルダンパー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−219900(P2012−219900A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85608(P2011−85608)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(500372717)学校法人福岡工業大学 (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(500372717)学校法人福岡工業大学 (32)
【Fターム(参考)】
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