説明

コンクリート打設検査方法及びコンクリート打設検査装置

【課題】 コンクリート充填状況を検知すると同時に、コンクリート凝結状況や、凝結終結後の強度やひび割れ等の欠陥を検査できるコンクリート打設検査方法及びコンクリート打設検査装置を得る。
【解決手段】 コンクリートの打設時にはセンサ素子10Aに、周波数が所定の範囲で経時的に変化する発振信号を印加し、前記センサ素子10Aにコンクリートが接触した際の振動周波数特性変化を検出してコンクリートの充填状況を判定し、打設後はセンサ素子10Aに一定周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、機械的振動によりコンクリート内を伝搬する弾性波を検出した受振信号をセンサ素子10Bで取り出して、発振信号と受振信号との位相差を求める。この位相差とセンサ素子10A、10B間の距離とに基づいて弾性波速度を求め、求めた弾性波速度からコンクリートの凝結、強度や、位相差からひび割れを含む欠陥を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートを型枠内へ打設した際のコンクリートの充填状況及び充填後の凝結(始発、終結)並びに終結後の強度や欠陥を検査するコンクリート打設検査方法及びコンクリート打設検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築および土木の鉄筋コンクリートの構造体には、型枠の内部に鉄筋を配し、そこへフレッシュコンクリートを充填する方法が採られている。近年、デザインの多様化などから型枠の形状も複雑になっていることもあって、その複雑な形状の末端部までコンクリートが正しく充填されているかどうかを非破壊検査で容易に検出する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、打設後のコンクリートの凝結を計測する方法として、打設する前のコンクリートからサンプルを取り出して、それを油圧降下式ビガー針装置等の検査装置にかけて凝結のプロセスを管理するものがある。
【0004】
また、打設後のコンクリートの凝結終了後(終結後)の強度を検知する方法として、コンクリートに超音波を送信し、その超音波を送信点から離間した点で受信して、超音波の伝搬時間を計測し、計測した伝搬時間と送受信点夫々の位置とに基づいてコンクリート内の音速分布を求め、求めた音速分布に基づいてコンクリートの強度分布を推定するものがある(音速法。例えば、特許文献2参照)。なお、その他の強度検知方法として以下に示すものがある。
・反発強度法(シュミットハンマ法)
・圧縮強度法(JIS A 1108)
【0005】
【特許文献1】特開2003−202328号公報
【特許文献2】特開2003−28844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のコンクリート打設検査方法にあっては、以下に示す課題がある。
(1)特許文献1で開示された充填検知方法では、コンクリートが充填された情報をリアルタイムに得ることができる利点がある反面、打設後のコンクリートが凝結(始発、終結)する状況や、終結後のコンクリートの強度やひび割れ等の欠陥を検査することができない。
【0007】
(2)打設したコンクリートの凝結を計測する方法では、打設する前のコンクリートからサンプルを取り出して油圧降下式ビガー針装置等の検査装置でプロセス管理するものであり、実際に打設したコンクリートの凝結を直接計測することはできない。
【0008】
(3)特許文献2で開示された終結後のコンクリートの強度を検査する方法では、装置が高額になるのに加え、構造物の外側から計測するため、構造物の形状の影響や鉄筋の影響があり、高精度な計測結果が得られない。また反発強度法は、測定部位がコンクリートの表層に限られ、コンクリート内部を検査することができない。さらに、圧縮強度法(JIS A 1108)で終結後のコンクリートの強度を検査する方法では、構造物からサンプルをコア抜きして計測するため、実施に時間がかかり、検査後の補修が必要になる。
【0009】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、コンクリート充填状況をリアルタイムに得ることができると共に、打設後のコンクリートの凝結状況や、終結後の強度やひび割れを含む欠陥を検査することができるコンクリート打設検査方法及びコンクリート打設検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は下記構成により達成される。
(1) 型枠内への打設後のコンクリートの凝結、強度、ひび割れを含む欠陥を検査するコンクリート打設検査方法であって、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子を2個1組として少なくとも1組使用して、これらを型枠内に離間配置し、前記型枠内へのコンクリート打設後、前記2つのセンサ素子の一方に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、他方のセンサ素子からは前記一方のセンサ素子の機械的振動により前記コンクリート内を伝搬する弾性波を検出した受振信号を取り出して、前記発振信号と前記受振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記2つのセンサ素子間の距離とに基づいて前記弾性波の速度を求め、求めた速度に基づいて前記コンクリートの凝結、強度を判定し、さらに求めた前記位相差から前記コンクリートのひび割れを含む欠陥を判定することを特徴とする。
【0011】
(2) 打設したコンクリートの型枠内における充填状況と充填後のコンクリートの凝結、強度、ひび割れを含む欠陥を検査するコンクリート打設検査方法であって、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子を2個1組として少なくとも1組使用して、これらを型枠内に離間配置し、前記型枠内へのコンクリートの打設時には、前記2つのセンサ素子のいずれか一方に所定の範囲で周波数が経時的に変化する発振信号を印加し、該センサ素子が前記コンクリートに接触した際のその振動周波数特性変化を検出して、前記型枠内における前記コンクリートの充填状況を判定し、前記コンクリートの前記型枠内への打設後は、前記2つのセンサ素子の一方に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、他方のセンサ素子からは前記一方のセンサ素子の機械的振動により前記コンクリート内を伝搬する弾性波を検出した受振信号を取り出して、前記発振信号と前記受振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記2つのセンサ素子間の距離とに基づいて前記弾性波の速度を求め、求めた速度に基づいて前記コンクリートの凝結、強度を判定し、さらに求めた前記位相差から前記コンクリートのひび割れを含む欠陥を判定することを特徴とする。
【0012】
(3) 型枠内への打設後のコンクリートの凝結、強度、ひび割れを含む欠陥を検査するコンクリート打設検査装置であって、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子と、前記センサ素子を2個1組として少なくとも1組の前記各センサ素子を離間配置してコンクリートを打設する型枠内に取り付ける取付け手段と、前記型枠内へのコンクリート打設後、前記2つのセンサ素子の一方に一定の周波数の発振信号を印加する発振手段と、前記一方のセンサ素子に発振信号が印加されることで発生する機械的振動により前記コンクリート内を伝搬する弾性波を前記他方のセンサ素子にて受振する受振手段と、前記発振手段の発振信号と前記受振手段の受振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記2つのセンサ素子間の距離とに基づいて前記弾性波の速度を求め、求めた速度に基づいて前記コンクリートの凝結、強度を判定し、さらに求めた前記位相差から前記コンクリートのひび割れを含む欠陥を判定する凝結・強度・欠陥判定手段と、を具備することを特徴とする。
【0013】
(4) 上記(3)に記載のコンクリート打設検査装置において、前記発振手段は、前記型枠内へのコンクリートの打設時に、前記一方のセンサ素子に所定の範囲で周波数が経時的に変化する発振信号を印加し、前記一方のセンサ素子に前記発振信号が印加されている間に、該センサ素子が前記コンクリートに接触した際のその振動周波数特性変化を検出して、前記型枠内における前記コンクリートの充填状況を判定する充填状況判定手段を具備することを特徴とする。
【0014】
(5) 上記(3)又は(4)に記載のコンクリート打設検査装置において、前記2つのセンサ素子を離間させたうえで対向配置することを特徴とする。
【0015】
(6) 上記(3)から(5)のいずれかに記載のコンクリート打設検査装置において、前記センサ素子は、圧電セラミックスを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記(1)に記載のコンクリート打設検査方法では、型枠内への打設後のコンクリートの凝結状況や、終結後の強度やひび割れを含む欠陥を検査することができる。
【0017】
上記(2)に記載のコンクリート打設検査方法では、型枠内へのコンクリート打設時に、コンクリートの充填状況に加え、打設後、打設したコンクリートそのものの凝結(始発、終結)の状況、さらに終結後のコンクリートの強度やひび割れを含む欠陥を検査することができる。
【0018】
上記(3)に記載のコンクリート打設検査装置では、型枠内へのコンクリート打設後、一方のセンサ素子に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、他方のセンサ素子からは一方のセンサ素子の機械的振動によりコンクリート内を伝搬する弾性波を検出した受振信号を取り出して、発振信号と受振信号との位相差を求め、求めた位相差と2つのセンサ素子間の距離とに基づいて前記弾性波の速度を求め、求めた速度に基づいてコンクリートの凝結、強度を判定し、さらに求めた位相差からコンクリートのひび割れを含む欠陥を判定するので、型枠内への打設後のコンクリートの凝結状況や、終結後の強度やひび割れを含む欠陥を検査することができる。
【0019】
上記(4)に記載のコンクリート打設検査装置では、打設後のコンクリートそのものの凝結(始発、終結)の状況、さらに終結後のコンクリートの強度やひび割れを含む欠陥状況に加え、型枠内へのコンクリート打設時にはコンクリートの充填状況を検査することができる。
【0020】
上記(5)に記載のコンクリート打設検査装置では、2つのセンサ素子を対向配置させるので、センサ素子間の状況を確実に検査することができる。
【0021】
上記(6)に記載のコンクリート打設検査装置では、圧電セラミックスを備えるセンサ素子を備えるので、装置を安価にできるとともに、精度の高い検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係るコンクリート打設検査装置の概略構成を示すブロック図である。
この図において、本実施の形態のコンクリート打設検査装置は、型枠内に打設したコンクリートの充填状況を検知する充填検知機能と、型枠内への打設後のコンクリートの凝結(始発、終結)状況や、終結後のコンクリートの強度やひび割れ等の欠陥を検知する凝結・強度・欠陥検知機能とを有し、これらの機能を実現するため、離間配置して使用する2つのセンサ素子10A及び10Bと、充填検知回路12と、発振回路13と、切替え回路14と、受振回路15と、伝達演算回路16と、凝結・強度・欠陥検知情報回路17とを備えている。
【0024】
2つのセンサ素子10A及び10Bのうち、センサ素子10Aは充填検知に用いられ、センサ素子10Bは凝結、強度及び欠陥検知に用いられる。いずれも同一構成ものであり、図2に示すように、圧電セラミックス101と、圧電セラミックス101を固定する金属板102と、圧電セラミックス101を金属板102と共に収容するケース103と、ケース103を固定する台座104と、台座104とケース103に収容された金属板102との間に介挿され、ケース103へのコンクリートの進入を防止するシール材105と、圧電セラミックス101及び金属板102に配線を行うケーブル106とを備えて構成される。特に、ケース103は、圧電セラミックス101の周囲に空間を保てる大きさに形成されている。
2つのセンサ素子10A及び10Bは、図3に示すように、センサ素子10A及び10Bを互いに離間して対向配置させた状態に保持される。
圧電セラミックス101は、電気信号の機械信号への変換及びその逆の作用が可能である。センサ素子10A及び10Bに圧電セラミックスを使用することで、装置を安価に製作できるとともに、検知精度の高い検査が可能となる。
【0025】
図4は、センサ素子10A及び10Bを保持する取付けステー400と、取付けステー400を用いたセンサ素子10A及び10Bの取付け例を示す図である。取付けステー400は、センサ素子10A及び10Bを鉄筋や型枠に取り付けることができるようにしたものである。図4(a)はセンサ素子10A及び10Bを取り付けた取付けステー400を示し、図4(b)は取付けステー400の鉄筋401への取付け例を示し、図4(c)は取付けステー400の型枠402への取付け例を示している。
【0026】
本実施の形態のコンクリート打設検査装置は、図5(a)に示すように、センサ素子10A、10Bを取付けステー400にて鉄筋間に取り付ける(図4(b)参照)ことで、鉄筋401の影響を受けずに鉄筋間にできた欠陥403を検査できる。因みに、従来は図5(b)に示すように、センサ素子500はコンクリート30構造物の表層に取り付けられているため、鉄筋間にできた欠陥403の検出が鉄筋401の影響を受けることになり、高精度な検査を行うことができない。
【0027】
図1に戻り、発振回路13は、センサ素子10Aを加振させるための電気信号を発生するものであり、図6に示すように、同期信号発生器131と、可変周波数発振器132と、増幅器133とを備えて構成されている。
発振回路13において、同期信号発生器131は、可変周波数発振器132を繰り返し動作させるための同期信号を発生する。可変周波数発振器132は、周波数が所定の周波数範囲(例えば1kHzから20kHz)で連続的に変化する正弦波の電気信号を発生する。この場合、同期信号発生器131から同期信号が出力される毎に初期周波数(例えば1kHz)から繰り返し正弦波信号を発生する。可変周波数発振器132は、充填検知時には、出力する電気信号の周波数を所定の周波数範囲で連続的に変化させるが、凝結、強度、欠陥検知時には周波数を一定にする。増幅器133は、可変周波数発振器132からの正弦波信号を、センサ素子10Aの圧電セラミックス101(図2参照)を駆動できるレベルまで増幅し、加振用信号Vrとして出力する。
【0028】
切替え回路14は、センサ素子10Aを充填検知回路12側又は凝結、強度、欠陥検知のための伝達演算回路16側のいずれか一方に切り替えるものである。本実施の形態では、切替え回路14はユーザが手動で切り替える手動切替え方式としているが、自動的に切り替えるようにしても構わない。すなわち、充填検知時には充填検知回路12側に切り替わり、凝結・強度・欠陥検知時には伝達演算回路16側に切り替わる。
【0029】
図1に戻り、受振回路15は、センサ素子10Aの加振により発生してコンクリート30の中を伝わる弾性波31(図3参照)をセンサ素子10Bで受振する。伝達演算回路16は、発振回路13の発振信号と受振回路15の受信信号の伝達特性(位相差、伝達関数等)を演算し、その演算結果を出力する。凝結・強度・欠陥検知情報回路17は、図示せぬ液晶表示パネル等の表示器を備え、伝達演算回路16の演算結果から凝結、強度、欠陥を判定した結果を可視的に表示する。
【0030】
充填検知回路12は、打設されたコンクリート30の充填状況を検知するためのものであり、図6のブロック図に示すように、抵抗121と、差動増幅器122と、4象限アナログ掛け算器123と、ローパスフィルタ124とを備えて構成されている。抵抗121は、切替え回路14を介してセンサ素子10Aと直列に接続され、その両端にはセンサ素子10Aの圧電セラミックス101に流れる電流に対応する電圧が発生する。圧電セラミックス101に流れる電流は周波数の変化によって変化するので、抵抗121の両端に現れる電圧は圧電セラミックス101の周波数特性を反映したものになる。差動増幅器122は、抵抗121の両端の電圧を増幅して電圧Viを出力する。
【0031】
4象限アナログ掛け算器123は、発振回路13からの加振用信号Vrと差動増幅器122からの電圧Viを乗算してこれらの電圧に対するノイズの影響を除去する。ローパスフィルタ124は4象限アナログ掛け算器123の出力信号から以下で説明するcos(2ωt+α+β)分を除去した信号(出力電圧Vo)を出力する。
【0032】
ローパスフィルタ124を通過した信号は、図示せぬ判定装置に入力されて、打設されたコンクリート30の充填状況が判定される。すなわち、図示せぬ判定装置は、センサ素子10Aの圧電セラミックス101にコンクリート30を接触させないときの固有の振動周波数特性を基準として、ローパスフィルタ124から出力される信号から、圧電セラミックス101に対する型枠内におけるコンクリート30の接触・非接触を判定し、その結果(良否)を可視的に表示する。この場合、圧電セラミックス101の固有の振動周波数特性を一度設定しておけば以後のメンテナンス時以外、再設定する必要はない。なお、この圧電セラミックス101の固有の振動周波数特性は判定装置にて記憶される。
【0033】
本実施の形態のコンクリート打設検査装置では、図3で示したように、打設されたコンクリート30の中にセンサ素子10A及び10Bを離間させて対向配置し、センサ素子10Aに発振回路13より電気信号を印加して圧電セラミックス101を加振させる。その加振による振動はコンクリート30の内部を弾性波31として伝わり、その弾性波31をセンサ素子10Bの圧電セラミックス101で受振する。
【0034】
ここで、コンクリート30の中を伝わる弾性波31の速度はコンクリート30の強度と相関がある。すなわち、図7に示すように、コンクリートの初期硬化過程では、コンクリート30の強度が小さいとき即ち始発時には、コンクリート30の中を伝わる速度は小さく、コンクリート30の強度が大きいとき即ち終結時には、コンクリート30の中を伝わる速度は大きくなる。この速度関数からコンクリート30の強度を推定して始発か終結かを判定できる。具体的には、図8の波形図に示すように、発振波形と受振波形から位相差△tを演算により求め、その求めた値とセンサ素子10A及び10B間の距離とに基づいて速度を算出してコンクリート30の強度を推定し、始発、終結を判定する。なお、対向配置させたセンサ素子10A及び10B間の距離は既知である。
【0035】
一方、終結後のコンクリート30の強度、欠陥を検査する場合は、上記の場合と同様に、充填検知用のセンサ素子10Aに発振回路13より電気信号を印加して圧電セラミックス101を加振させる。その加振による振動は、図3に示すように終結後のコンクリート30の内部を弾性波31として伝わり、凝結、強度、欠陥検知用のセンサ素子10Bの圧電セラミックス101で受振する。
【0036】
ここで、コンクリート30の中を伝わる弾性波31の速度はコンクリート30の圧縮強度と相関がある。すなわち、図9に示すようにコンクリート30の圧縮強度が小さいときはコンクリート30の中を伝わる速度は小さく、コンクリート30の圧縮強度が大きいときはコンクリート30の中を伝わる速度は大きくなる。この速度関数からコンクリート30の圧縮強度を推定できる。具体的には、図10の波形図に示すように発振波形と受振波形から位相差△t1を演算により求め、その求めた値とセンサ素子10A、10B間の距離とに基づいて速度を算出してコンクリート30の圧縮強度を推定する。
【0037】
終結後、図11に示すようにセンサ素子10Aとセンサ素子10Bとの間に経年変化等によるひび割れが生じた場合、ひび割れによる空気層100があることから、図12に示すように発振波形と受振波形との位相差△t1が著しく大きくなる。したがって、この場合はひび割れによる欠陥があると推定できる。
【0038】
なお、上述した充填検知回路12と図示せぬ判定装置は、充填状況判定手段を構成する。また、伝達演算回路16と凝結・強度・欠陥検知情報回路17は、凝結・強度・欠陥判定手段を構成する。
【0039】
次に、本実施の形態に係るコンクリート打設検査装置の動作を説明する。
ここで、凝結検知処理と圧縮強度推定処理はモード切替えによっていずれか一方を選択するものとする。また、センサ素子10Aとセンサ素子10Bは、取付けステー400により、型枠内に打設されたコンクリート30内に配置されているものとする。
【0040】
図13は、充填検知処理を行った後、凝結検知処理を行うモードを選択した場合の動作を示すフローチャートである。
まず、検査者は、切替え回路14を操作してセンサ素子10Aを充填検知回路12側に接続する。接続後、検査開始操作を行う。これにより、充填検知処理が開始される(ステップS1301)。この充填検知処理では、発振回路13の可変周波数発振器132にて発生した正弦波信号が、増幅器133にて増幅されて加振用電圧Vrとしてセンサ素子10Aの圧電セラミックス101に入力され、圧電セラミックス101にて機械的振動が発生する。加振用電圧Vrは4象限アナログ掛け算器123へも入力される。
【0041】
センサ素子10Aの圧電セラミックス101に機械的振動が発生すると、抵抗121の両端には圧電セラミックス101に流れる電流に対応する電圧が発生する。この電圧が差動増幅器122にて増幅されて電圧Viが出力される。電圧Viと発振回路13からの加振用電圧Vrとが4象限アナログ掛け算器123にて乗算される。そして、その出力がローパスフィルタ124にてcos(2ωt+α+β)成分が除去されて出力電圧Voが得られる。
【0042】
この出力信号Voは、加振用電圧Vrの周波数変化に対する圧電セラミックス101の周波数特性(振幅と位相)を反映した信号になる。このとき、圧電セラミックス101の表面に充填物(コンクリート)が接触していないと、圧電セラミックス101の持つ固有振動数付近の周波数にピークを持った電圧が図14に示すように現れる。そして、この圧電セラミックス101の周りにコンクリートが充填されると、圧電セラミックス101の振動特性が変化して、図15に示すようにピーク電圧の位置と大きさが変化する。このピーク電圧の変化からコンクリート30の充填状況を判定できる。
【0043】
上記作動原理を、数式を用いて説明すると、以下のようになる。ここで、
Vr=Asin(ωt+α)
Vi=Bsin(ωt+β)
とする。但し、A,Bは振幅、ωtは周波数、αとβは位相のずれとする。
【0044】
Vr×Vi=Asin(ωt+α)×Bsin(ωt+β)
=AB[cos(β−α)−cos(2ωt+α+β)]/2 (1)
【0045】
式(1)のcos(β−α)の部分は、位相差に合わせて変化する直流成分であり、ここに電圧Viの振幅成分も含まれる。また、cos(2ωt+α+β)の部分は、元の加振用電圧Vrと電圧Viの2倍の周波数の信号である。必要とする周波数特性の情報は、電圧Viの振幅(大きさ)であるので、式(1)のcos(β−α)のみで良い。
【0046】
したがって、ローパスフィルタ124を通過させてcos(2ωt+α+β)の成分を除去すればよい。このようにして出力電圧Voには周波数特性が電圧の形で現れる。型枠内にコンクリート30が充填されると、ピークの周波数とレベルが変化することで、その状況を検知することができる。
【0047】
このようにして充填検知が開始された後、充填検知が完了すると(ステップS1302でYesの場合)、次に凝結検知処理が開始される(ステップS1303)。凝結検知処理では、コンクリート30の中を伝わる弾性波31の速度から始発速度か否かの判定が行われる(ステップS1304)。この場合、弾性波31の速度は、発振回路13から得られる発振波形と受振回路15からの受振波形との位相差△t(図8参照)を求めた後、位相差△tとセンサ素子10A、10B間の距離とに基づいて算出する。求めた速度が始発速度でなければこの処理が繰り返され、始発速度であれば始発表示が行われる(ステップS1305)。
【0048】
コンクリート30の強度が小さいとき即ち始発時には、コンクリート30の中を伝わる速度は小さく、コンクリート30の強度が大きいとき即ち終結時にはコンクリート30の中を伝わる速度は大きくなるので、速度が小さければ始発と判定する。始発表示が行われた後、終結速度か否かの判定が行われ(ステップS1306)、終結速度でなければこの処理が繰り返され、終結速度であれば終結表示が行われる(ステップS1307)。
この凝結検知処理は、コンクリート30を打設してから凝結するまでに時間がかかるので、定期的に発振回路13を動作させて受振を繰り返すことになる。終結が判断されて終結表示が行われた後、本処理が完了する。
【0049】
次に、図16は、充填検知処理を行った後、圧縮強度推定処理を行うモードを選択した場合の動作を示すフローチャートである。
この処理においても、上述した凝結検知処理を行う場合と同様に、先に充填検知処理が行われる。充填検知処理については上記と同様であるので省略する。すなわち、図16に示すステップS1601、S1602は図13に示すステップS1301、S1302と同様の処理である。
充填検知処理が行われた後、圧縮強度推定処理が開始される(ステップS1603)。
【0050】
圧縮強度推定処理では、発振回路13から得られる発振波形と受振回路15からの受振波形との位相差△t1(図10参照)が基準時間より著しく大きいかどうかが判定され(ステップS1604)、基準時間より著しく大きい場合には(即ち図12で示すような場合には)、ひび割れによる欠陥があると推定されて、欠陥表示が行われる(ステップS1605)。これに対して、位相差△t1が基準時間と同程度か、あるいはそれ以下である場合は伝搬速度演算が行われる(ステップS1606)。伝搬速度演算が行われた後、圧縮強度推定表が作成されて表示される(ステップS1607)。
【0051】
このように、本実施の形態のコンクリート打設検査装置によれば、2つのセンサ素子10A及び10Bを備え、これらを型枠内に離間させて対向配置し、型枠内へのコンクリート30の打設時には、センサ素子10Aに所定の範囲で周波数が経時的に変化する発振信号を印加し、センサ素子10Aがコンクリート30に接触した際の振動周波数特性変化を検出して、型枠内におけるコンクリート30の充填状況を判定する。
【0052】
コンクリート30の型枠内への打設後は、センサ素子10Aに一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、センサ素子10Bからはセンサ素子10Aの機械的振動によりコンクリート30内を伝搬する弾性波31を検出した受振信号を取り出して、発振信号と受振信号との位相差を求め、求めた位相差とセンサ素子10A及び10B間の距離とに基づいて弾性波31の速度を求め、求めた速度に基づいてコンクリート30の凝結、強度を判定し、さらに求めた位相差からコンクリート30のひび割れを含む欠陥を判定する。
【0053】
以上述べたように、コンクリート打設検査装置は、コンクリート打設時の型枠内におけるコンクリート30の充填状況を検知することができるとともに、打設後のコンクリートの凝結、終結後の強度並びにひび割れを含む欠陥を検知することができる。
【0054】
なお、センサ素子10A、10Bは、コンクリート30の内部に限らず、予め検査したい部分に設けることで、コンクリート30の表層でも検査できる。すなわち、コンクリート30の内部に限られず、表層でも自由に検査できる。また、コンクリート30の中に埋め込むことで、検査後の補修の必要が無い。
【0055】
なお、上記実施の形態では、2個1組としたセンサ素子10A及び10Bを用いたが、同時に検査したい箇所が複数箇所あれば、その数に応じた組数のセンサ素子を用いることも可能である。この場合、各組に対して充填状況判定手段や凝結・強度・欠陥判定手段を設ける必要はなく、切替え手段(マルチプレクサ等)を用いて適宜切り替えるようにすれば良い。
【0056】
また、本発明は、型枠内に打設するコンクリートに限らず、所定の空間内に充填物を充填するすべての場合に適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施の形態に係るコンクリート打設検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1のセンサ素子の構成を示す図である。
【図3】図1のセンサ素子のコンクリート内での配置関係を示す図である。
【図4】図1のセンサ素子を取り付けるための取付けステー及び取付けステーの鉄筋及び型枠への取付け例を示す図である。
【図5】図4の取付けステーを用いた場合と従来例による取り付けの場合とを説明するための図である。
【図6】図1の充填検知回路及び発振回路の構成を示すブロック図である。
【図7】コンクリートの強度と弾性波の速度との関係を示す図である。
【図8】コンクリート内でのセンサ素子間の信号波形を示す図である。
【図9】コンクリートの圧縮強度と弾性波の速度との関係を示す図である。
【図10】コンクリート内でのセンサ素子間の信号波形を示す図である。
【図11】コンクリート内に空気層がある状態を示す図である。
【図12】コンクリート内に空気層がある場合のセンサ素子間の信号波形を示す図である。
【図13】図1のコンクリート打設検査装置の充填検知処理と凝結検知処理を説明するためのフローチャートである。
【図14】図1のコンクリート打設検査装置の測定結果の一例で、型枠内にコンクリートが無い場合の出力電圧波形図である。
【図15】図1のコンクリート打設検査装置の測定結果の一例で、型枠内にコンクリートが有る場合の出力電圧波形図である。
【図16】図1のコンクリート打設検査装置の充填検知処理と圧縮強度推定処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
10A、10B センサ素子
12 充填検知回路
13 発振回路
14 切替え回路
15 受振回路
16 伝達演算回路
17 凝結・強度・欠陥検知情報回路
30 コンクリート
31 弾性波
100 空気層
101 圧電セラミックス
102 金属板
103 ケース
104 台座
105 シール材
106 ケーブル
121 抵抗
122 差動増幅器
123 4象限アナログ掛け算器
124 ローパスフィルタ
131 同期信号発生器
132 可変周波数発振器
133 増幅器
400 取付けステー
401 鉄筋
402 型枠
403 欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子を2個1組として少なくとも1組使用して、これらを型枠内に離間配置し、
前記型枠内へのコンクリート打設後、前記2つのセンサ素子の一方に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、他方のセンサ素子からは前記一方のセンサ素子の機械的振動により前記コンクリート内を伝搬する弾性波を検出した受振信号を取り出して、前記発振信号と前記受振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記2つのセンサ素子間の距離とに基づいて前記弾性波の速度を求め、求めた速度に基づいて前記コンクリートの凝結、強度を判定し、さらに求めた前記位相差から前記コンクリートのひび割れを含む欠陥を判定することを特徴とするコンクリート打設検査方法。
【請求項2】
電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子を2個1組として少なくとも1組使用して、これらを型枠内に離間配置し、
前記型枠内へのコンクリートの打設時には、前記2つのセンサ素子のいずれか一方に所定の範囲で周波数が経時的に変化する発振信号を印加し、該センサ素子が前記コンクリートに接触した際のその振動周波数特性変化を検出して、前記型枠内における前記コンクリートの充填状況を判定し、
前記コンクリートの前記型枠内への打設後は、前記2つのセンサ素子の一方に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、他方のセンサ素子からは前記一方のセンサ素子の機械的振動により前記コンクリート内を伝搬する弾性波を検出した受振信号を取り出して、前記発振信号と前記受振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記2つのセンサ素子間の距離とに基づいて前記弾性波の速度を求め、求めた速度に基づいて前記コンクリートの凝結、強度を判定し、さらに求めた前記位相差から前記コンクリートのひび割れを含む欠陥を判定することを特徴とするコンクリート打設検査方法。
【請求項3】
電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子と、
前記センサ素子を2個1組として少なくとも1組の前記各センサ素子を離間配置してコンクリートを打設する型枠内に取り付ける取付け手段と、
前記型枠内へのコンクリート打設後、前記2つのセンサ素子の一方に一定の周波数の発振信号を印加する発振手段と、
前記一方のセンサ素子に発振信号が印加されることで発生する機械的振動により前記コンクリート内を伝搬する弾性波を前記他方のセンサ素子にて受振する受振手段と、
前記発振手段の発振信号と前記受振手段の受振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記2つのセンサ素子間の距離とに基づいて前記弾性波の速度を求め、求めた速度に基づいて前記コンクリートの凝結、強度を判定し、さらに求めた前記位相差から前記コンクリートのひび割れを含む欠陥を判定する凝結・強度・欠陥判定手段と、
を具備することを特徴とするコンクリート打設検査装置。
【請求項4】
前記発振手段は、前記型枠内へのコンクリートの打設時に、前記一方のセンサ素子に所定の範囲で周波数が経時的に変化する発振信号を印加し、
前記一方のセンサ素子に前記発振信号が印加されている間に、該センサ素子が前記コンクリートに接触した際のその振動周波数特性変化を検出して、前記型枠内における前記コンクリートの充填状況を判定する充填状況判定手段を具備することを特徴とする請求項3に記載のコンクリート打設検査装置。
【請求項5】
前記2つのセンサ素子を離間させたうえで対向配置することを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載のコンクリート打設検査装置。
【請求項6】
前記センサ素子は、圧電セラミックスを備えることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載のコンクリート打設検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−3475(P2007−3475A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186976(P2005−186976)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】