コントローラおよびそれを用いた移動ロボットシステム
【課題】障害物の多い空間を移動するロボットを直感的に操作することができるコントローラを備えて移動ロボットシステムを提供する。
【解決手段】移動ロボットシステムは、ポインタコントローラ600と、ポインタコントローラ600によって操縦される浮上移動装置100とを備えている。オペレータ210がポインタコントローラ600を握持した状態で所定の方向を指し示せば、浮上移動装置100は所定の方向における所定の位置へ向かって移動する。
【解決手段】移動ロボットシステムは、ポインタコントローラ600と、ポインタコントローラ600によって操縦される浮上移動装置100とを備えている。オペレータ210がポインタコントローラ600を握持した状態で所定の方向を指し示せば、浮上移動装置100は所定の方向における所定の位置へ向かって移動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットを移動させるための操縦が容易であるコントローラおよびそれを用いた移動ロボットシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な作業を実行する移動ロボットシステムは、例えば、空中撮影または農薬散布などの分野で実用化されている。特に、移動ロボットの中でも、ロボットが空中に浮遊している状態で作業を行うことができる浮上移動ロボットが有望である。
【0003】
また、移動ロボットシステムにおいては、ラジオコントローラ(通称、「ラジコン」)のプロポーショナルシステム(通称、「プロポ」)に代表されるように、アクチュエータへ駆動信号を直接送信するコントローラが採用されている。
【0004】
なお、本明細書においては、ロボットは、何らかの機構により移動する機能を有しているロボットであれば、地上、空中、および水中のいずれを移動するロボットであってもよい。
【特許文献1】特開2003−118697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の移動ロボットシステムによれば、ロボットの移動形態が特殊性でありかつロボットの操縦が困難であることから、コントローラの操作に習熟したオペレータでなければ、移動ロボットシステムを使用してロボットに所望の移動をさせることができないという問題がある。以下、空中撮影ロボットを例に挙げて、その問題を具体的に説明する。
【0006】
たとえば、移動ロボットの一例として、ジャンボジェットまたはグライダーのような固定翼を用いるロボット、ヘリコプターのような回転翼を用いるロボット、および飛行船のような浮力を用いるロボット等が挙げられる。
【0007】
固定翼を用いるロボットは、前進し続けなければ落下してしまうため、その前進速度が、前方の空間に存在する障害物を回避することができる程度であることが要求される。そのため、近年開発されている数グラム程度の極めて小型かつ軽量な固定翼を用いるロボットの飛行においても、数メートル四方の障害物のない空間が用意されていることが必要である。
【0008】
また、固定翼を有するロボットを用いて画像を撮影する場合には、浮上している状態を維持するために前進し続ける必要があるため、コントローラのオペレータに障害物の回避するための操作を実行しながら撮影のための操作を行うことが要求される。
【0009】
さらに、撮影のための操縦は、フラップの角度と前進速度との双方を考慮した状態で行われるため、直感的なものではない。そのため、撮影のための操作のための訓練が必要である。したがって、固定翼を有する移動ロボットを用いる撮影は、比較的障害物が少ない高さ位置からの撮影のみに限定され、その撮影のためにも訓練が必要である。
【0010】
回転翼を有するロボットの操縦は、一般に固定翼を有するロボットの操縦よりも困難であり、かつ、ロボットが小型になるほど困難になるという問題がある。特に、浮上力を発生させるメインロータを傾けることにより、移動制御および姿勢制御の双方が実現されるため、位置および姿勢のいずれか一方のみを変更したい場合においても、それらのうちの他方も変更されてしまうため、所望の位置および姿勢の双方の制御を実現することが困難であるという問題がある。
【0011】
この他に、飛行船を用いるロボットシステムにおいては、質量のわりに体積および表面積が大きいことに起因して空気抵抗が大きいため、高い機動力が得られないという問題がある。また、飛行船の大きさは、飛行船の手軽な利用の妨げの要因になっている。したがって、飛行船は、大型のものを除いて空中からの撮影の用途には適していない。
【0012】
要するに、従来の浮上して移動するロボットを用いるロボットシステムによる撮影は、その操作の困難性のため、専門的な訓練を受けたオペレータによる撮影に限定されており、また、障害物の少ない高い位置からの撮影に限定されている。したがって、そのロボットシステムを用いて、室内、繁華街、または観光地などの障害物の多い地上高1m〜数m程度の位置から撮影はなされていない。たとえば、従来の浮上移動ロボットシステムは、気軽に自分を含めた風景写真または複数の人の集合写真を撮るような用途には適していない。したがって、ロボットの移動のための操作が容易であるコントローラを備えた移動ロボットシステムが求められている。
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロボットの移動方向を制御するための操作が容易であるコントローラおよびそれを用いた移動ロボットシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のコントローラは、オペレータが握持することができ、かつ、指し示す方向が認識され得る形状または模様を有する筐体と、筐体に設けられ、移動機能を有するロボットに該ロボットの移動方向を指令する情報を出力する情報出力部とを備えている。情報出力部は、それぞれが信号を照射する複数の信号照射部を有している。複数の信号照射部から照射される複数の信号は、互いに重畳される性質を有しており、かつ、仮想の平面上において互いに重なる領域を有している。
【0015】
上記の構成によれば、複数の信号が重なっている数の相違を利用して、移動体に移動方向を指示する情報を空間に向かって出力することができる。そのため、移動体の移動方向を指示するためのコントローラを容易に実現することができる。
【0016】
また、筐体の指し示す方向が、互いに重なる領域を通過することが好ましい。
上記の構成によれば、筐体が指し示す方向と複数の信号が互いに重なる領域とを対応させることによって、移動体を所望の方向に容易に移動させることができる。
【0017】
複数の信号照射部が2つの信号照射部からなっていれば、ロボットの1次元の移動を容易に操作することができる。また、複数の信号照射部が3つの信号照射部からなっていれば、ロボットの2次元の移動のための操作を最も少ない数の信号照射部を用いて実現することができる。また、複数の信号照射部が4つの信号照射部からなっていれば、上下左右にコントローラを移動させることにより、ロボットを上下左右に移動させることができるため、直感的な操作により、ロボットの2次元の移動を操作することができる。
【0018】
複数の信号照射部が2つの信号照射部からなり、2つの信号照射部は、それぞれが2つの円形状の領域を通過するように2つの信号を照射し、筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、2つの円形状の領域の中心同士を結ぶ線分の中点の位置を通過してもよい。
【0019】
上記の構成によれば、左右方向移動または上下方向移動等のような1次元における直線移動のための方向を指示するコントローラを容易に実現することができる。
【0020】
複数の信号照射部が3つの信号照射部からなり、3つの信号照射部は、それぞれが3つの円形状の領域を通過するように3つの信号を照射し、3つの円形状の領域は、それぞれ他の2つの領域と重なる領域を有し、筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線は、3つ全ての信号が重なる領域を通過してもよい。
【0021】
上記の構成によれば、上下方向および左右方向を含む平面等のような2次元における平面内移動のための方向を指示するコントローラを、最も少ない信号照射部を用いて実現することができる。
【0022】
複数の信号照射部が4つの信号照射部からなり、4つの信号照射部は、それぞれが実質的に同一の半径を有する4つの円形状の領域を通過するように4つの信号を照射し、4つの円形状の領域は、それらの4つの中心点が実質的に正方形の4つの頂点に位置付けられており、筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、正方形の対角線の交点の位置を通過してもよい。
【0023】
上記の構成によれば、コントローラの指示方向が、例えば、上下左右といった、直行座標系において規定できる方向として得られるため、オペレータの直感による制御が容易になる。
【0024】
また、複数の信号の互いに重畳される性質が、物理量の強度であってもよい。これによれば、複数の信号が重畳された領域が最も容易に認識される。また、物理量の強度は、光の強度であってもよい。
【0025】
また、4つの信号のそれぞれが互いに異なる値を特定可能な4ビットのデジタル信号を含んでいてもよい。これによれば、最も少ないデータ量で2次元の移動を指示することができる。
【0026】
また、指し示す方向が認識され得る形状が、筐体の表面上に設けられた突起部によって形成されていることが好ましい。これによれば、オペレータが容易に指し示す方向を認識することができる。
【0027】
また、筐体が指し示す方向に平行に延びるレーザ光を発射するレーザポインタを有していることが好ましい。これによれば、オペレータ自身が指し示す方向を容易に把握することができる。
【0028】
また、本発明の移動ロボットシステムは、前述のコントローラと、コントローラから前記移動方向を指令する情報を受けて、該情報に基づいて移動するロボットとを備えている。また、ロボットは、コントローラから照射されている複数の信号の重畳状態を検出し得るセンサと、センサによって検出された複数の信号の重畳状態に関連付けられた所定の移動方向を特定可能なデータを記憶したメモリと、メモリに記憶されたデータに基づいてロボットを所定の移動方向に移動させる制御手段とを含んでいる。
【0029】
これによれば、コントローラが指し示す方向に対応してロボットを移動させることができる移動ロボットシステムを実現することができる。
【0030】
また、制御手段は、ロボットが複数の信号の重畳されている数がより多い領域に向かって移動するように制御を実行することが望ましい。これによれば、ロボットをある領域に向かって移動させた後、その領域に留まらせることができる。
【0031】
また、ロボットは、コントローラから照射された信号の照射方向を検出するセンサを含んでおり、この場合に、制御手段は、ロボットの所定の部位が照射方向上に位置するようにロボットの姿勢を制御してもよい。これによれば、ロボットの所定の部位を常にコントローラの信号照射方向上に位置付けることができる。
【0032】
また、ロボットは、前述のコントローラの複数の信号照射部から照射された複数の信号と同一機能を果たす複数の方位信号を照射する方位信号照射部を含み、さらに、コントローラが、複数の方位信号を受信する受信部を含み、信号照射部から複数の信号とともに前記複数の方位信号をロボットに照射し、制御手段が、複数の信号に予め関連づけて移動方向を制御し、かつ、方位信号に関連づけて、ロボットの回転方向を制御することが望ましい。これによれば、ロボットの位置に対するコントローラの位置の方向に対応してロボットを回転させることができる。
【0033】
また、コントローラが複数の信号に加えて、コントローラとロボットとを結ぶ線に沿った方向において前記ロボットを移動させ得る信号を照射することが望ましい。これによれば、ロボットの3次元における移動を、1つのコントローラの直感的な操作によって容易に実現させることができる。
【0034】
また、コントローラは、複数の信号に加えて、コントローラから出力される複数の信号を無効化する信号を出力することができることが望ましい。これによれば、振動などの不用意なコントローラの移動に起因して生じるロボットの望まれざる移動の発生を防止することができる。
【0035】
また、ロボットが浮上して移動することができる浮上移動ロボットであれば、3次元の移動の自由度が高い移動ロボットシステムを実現することができる。
【0036】
また、浮上移動ロボットは、その重心に対して浮上力の作用点が鉛直上方に位置付けられていれば、ロボットの回転が鉛直方向に延びる軸まわりの回転に限定されるため、ロボットの操作がより容易になる。
【0037】
また、浮上移動ロボットが羽ばたき運動する羽部を有する羽ばたきロボットであれば、3次元空間における機動性が高い移動ロボットシステムを実現することができる。
【0038】
また、浮上移動ロボットが回転翼を有するヘリコプターであれば、ロボットの水平状態を維持することが容易である。
【0039】
また、浮上移動ロボットが仰角を変化させることが可能であるカメラを有しており、コントローラがカメラの操作スイッチを有していれば、気軽に空中撮影を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(実施の形態1)
図1〜図63を用いて、本発明の移動ロボットシステムの一実施の形態の浮上撮影システムを説明する。なお、本実施の形態では静止画を撮影する浮上撮影システムの説明がなされているが、本発明の移動ロボットシステムは、これに限定されるものではなく、移動する機能を有するロボットを有するものであれば、いなかるものであってもよい。たとえば、移動ロボットシステムは、動画を撮影する移動ロボットシステムであってもよい。この移動ロボットシステムは、後述されるズーム機能付きシャッターボタン620が、録画開始・停止ボタンに変更されるだけで容易に実現され得るものである。
【0041】
<全体の構成>
<構成の概要>
まず、図1を用いて浮上撮影システムの全体構成を説明する。
【0042】
本実施の形態の移動ロボットシステムの一例の撮影ロボットシステムは、図1に示されるように、ポインタコントローラ600と、ポインタコントローラ600によって操縦される浮上移動装置100とを備えている。浮上移動装置100には、画像センサ180が搭載されている。画像センサ180は、空中から地上の物体等を撮影することができる。
【0043】
本実施の形態の移動ロボットシステムによれば、直感的かつ単純な操作によって、浮上移動装置100の撮影のための移動を制御することができる。つまり、オペレータ210がポインタコントローラ600を握持した状態で所定の方向を指し示せば、浮上移動装置100は所定の方向における所定の位置へ向かって移動する。
【0044】
さらに、オペレータ210は、ポインタコントローラ600の姿勢変更ボタン640を押下するだけで、画像センサ180がポインタコントローラ600に向くように、浮上移動装置100および画像センサ180の姿勢が変更ないし維持される。
【0045】
ポインタコントローラ600は、円筒形等の、オペレータ210がその指し示す方向を認識し易い形状を有している。なお、ポインタコントローラ600は、形状ではなく、その表面に付された模様によって、オペレータ210がその指し示す方向を認識し易くなっていてもよい。また、後述されるように、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置に移動するため、オペレータ210は、浮上移動装置100に対して所望の位置をポインタコントローラ600によって指し示す操作によって、浮上移動装置100を所望の方向における所定の位置に移動させた後、ポインタコントローラ600のスイッチ操作によって浮上移動装置100を所望の位置へ移動させることができる。
【0046】
これによれば、オペレータ210は、画像センサ180を用いて、操縦の煩雑さを感じることなく、所望の位置からの空中撮影画像を得ることができる。
【0047】
<ハードウェア構成>
ポインタコントローラ600から前方空間に向かって、その方角に応じたデータが赤外線光信号として送信されている。浮上移動装置100は、後述されるデータ受信センサ700を用いて上記データを受信することによって、ポインタコントローラ600を基準として、自身が基準に対していずれの位置に存在するのかを検出することができる。
【0048】
さらに、浮上移動装置100は、後述されるデータ受信センサ700に設けられた方位検出部によって、自己に対して前述のデータがいずれの方位から進行してきたのかを検出することができる。それにより、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600を基準とした自身の姿勢すなわちポインタコントローラ600に対する向きを検出することができる。
【0049】
上述のポインタコントローラ600に対する浮上移動装置100の位置および向きの検出結果に基づいて、浮上移動装置100は、自身が行うべき運動を把握し、自己の位置および姿勢ならびに画像センサ180の仰角を変更することができる。なお、これらの変更は、ポインタコントローラ600に設けられた、変更の有無を指示するボタンのON/OFFに基づいて行われる。
【0050】
さらに、浮上移動装置100には画像センサ180が搭載されている。後述されるように、浮上移動装置100が、ポインタコントローラ600が指し示す方向が常に画像センサ180の画角中心を通過するように、その姿勢(水平面内における方位)を変更する機能を有し、かつ、画像センサ180の仰角を変更する機能を有するため、画像センサ180が常にポインタコントローラ600に向いている状態が実現される。
【0051】
オペレータ210がポインタコントローラ600に設けられたズーム兼シャッターボタン620を操作することによって、画像撮影命令を前述の赤外線光信号の一部として浮上移動装置100に送信することができる。これによれば、所望の画像が撮影される。なお、撮影された画像は、浮上移動装置100からポインタコントローラ600へ送信され、ポインタコントローラ600内のストレージ680に保存される。
【0052】
以上のような操作により、オペレータ210は、操縦の煩雑さを意識することなく、空間の所望の位置をポインタコントローラ600により指し示し、ズーム兼シャッターボタン620を操作するだけで、空中から自分自身を撮影することができる。
【0053】
なお、本実施の形態においては、移動ロボットシステムの用途の一例として、記念写真等を空中から撮影することが示されているが、本発明の移動ロボットシステムの用途は、これに限定されず、移動するロボットの操縦を簡単に行うことができる移動ロボットシステムが実現されるのであれば、移動ロボットシステムの用途はいかなるものであってもよい。
【0054】
<操作手順>
なお、本実施の形態においては、浮上移動装置100は、まず、その正面がポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更し、その後、ポインタコントローラ600が指し示す方向におけるいずれかの位置に移動する。この手順を採用した主な理由は、浮上移動装置100がこの順序で動作することが最も簡単な方法であると考えられるからである。なぜなら、浮上移動装置100は、その正面がポインタコントローラ600を向く姿勢になっていない状態においては、浮上移動装置100のポインタコントローラ600に対する姿勢に応じてその移動する方向が異なってしまうためである。このため、最初に、浮上移動装置100の正面がポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更することが必要である。なお、浮上移動装置の正面は、予め基準として決定されている部分であり、本実施の形態においては、画像センサ180が、俯角0度の際に正対する面(前方を向く面)である。
【0055】
また、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600から送信される信号を受信することができている状態においては、自身の位置に対するポインタコントローラ600の存在する方向を認識することができるため、ポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更することができる。本実施の形態においては、説明の簡便のため、オペレータ210が、前述のような事項を把握しているものとし、上記のように、浮上移動装置100に対して、姿勢を変更することを指示した後、移動すべき位置を指示する順序で浮上移動装置100を制御するものとする。
【0056】
なお、浮上移動装置100は、後述されるデータ受信センサ700により、ポインタコントローラ600に対する自己の姿勢を認識することができるため、座標変換等の演算機能を用いれば、ポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更している間に、実際に移動するべき方向を容易に算出することができる。
【0057】
<ポインタコントローラ>
次に、ポインタコントローラ600が、図2〜図5を用いて説明される。
【0058】
<全体構成>
ポインタコントローラ600は、図2および図3に示されるように、円筒形状を有している。ポインタコントローラ600の円柱形状の一方の底面には、光信号照射部610が設けられている。ポインタコントローラ600の円柱形状の周面には、ズーム兼用シャッターボタン620、位置変更ボタン630、姿勢変更ボタン640、および画角確認ボタン650が設けられている。
【0059】
<光信号照射部>
光信号照射部610は、4つの赤外線発光ダイオード611〜614を有している。4つの赤外線発光ダイオード611〜614のそれぞれは、図4に示されるように、その照射角が20度以下である円形の平面領域を通過する光を発する。4つの赤外線発光ダイオード611〜614の光軸は、それぞれ、ポインタコントローラ600の円筒形状の中心軸(指し示す方向)に対して上、下、左、右に8度だけ傾いている。したがって、4つの赤外線発光ダイオード611〜614から照射される4つの光の全てが重なる領域であることを示す位置データ「1111」が照射される平面領域は、約8度の立体角を有する照射光の一断面領域である。これは、腕を伸ばした場合における握り拳程度の大きさに相当する広がりを有する領域である。この程度の範囲内での位置のバラツキが、本実施の形態の浮上移動装置100の位置精度に対応している。ただし、前述の値は、操作性と要求される位置精度とを考慮して決定されるべきで値であり、本実施の形態に示される値に限定されない。
【0060】
光信号照射部610は、位置データおよび操縦データを有するシリアルデータを、赤外線発光ダイオード611〜614から照射される信号同士が同期している状態で送信する。操縦データは赤外線発光ダイオード611〜614同士の間で共通している。位置データは、上側領域、下側領域、左側領域、および右側領域のいずれかに対応して、4ビットのうちのいずれかのビットがONになっているデータ列である。
【0061】
より具体的には、赤外線発光ダイオード611から照射される信号においては、ビット0が「1」でありかつビット1〜3のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード611から照射される信号は「0001」である。また、赤外線発光ダイオード612から照射される信号においては、ビット1が「1」でありかつビット0、2、および3のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード612から照射される信号は「0010」である。また、赤外線発光ダイオード613から照射される信号においては、ビット2が「1」であり、ビット0、1、および3のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード613から照射される信号は「0100」である。また、赤外線発光ダイオード614から照射される信号においては、ビット3が「1」でありかつビット0〜2のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード614から照射される信号は「1000」である。このように、赤外線発光ダイオード611〜614から4つのデータ列が操縦データとして送信されている。赤外線発光ダイオード611〜614同士の間のデータ送信タイミングは同期している。そのため、複数の信号が重なる位置におけるデータは、複数の信号の論理和のデータになる。
【0062】
要するに、光信号照射部610から照射される4つの信号の種類とそれらの4つの信号が照射される平面領域との間の関係は、図4のようなものである。なお、外部に存在する赤外線光源から照射される信号が前述の4つの信号に重なってしまうことを防止するため、光信号照射部610は所定の周波数(例えば38kHz)の信号を用いて変調されていることが望ましい。
【0063】
なお、本実施の形態においては、図5において矢印で示されるように、浮上移動装置100は、最終的には、中央部に位置付けられたハッチングで示される「1111」の領域へ移動する。
【0064】
<操縦ボタン類>
ズーム兼用シャッターボタン620は、図2に示されるように、ポインタコントローラ600の光信号照射部610が設けられている端部およびそれとは逆側の端部に向かって倒され得る。このとき、浮上移動装置100に対して、ポインタコントローラ600から離れる動作を行うことを指示する信号、および、ポイントコントローラ600に近づく動作を行うことを指示する信号のいずれかが、前述のシリアルデータ中の操縦データ内に含まれる。
【0065】
なお、ズーム兼用シャッターボタン620の状態がいかなる状態であるかを示すために、ポインタコントローラ600から離れる移動のための指示信号の「ON/OFF」およびポインタコントローラ600に近づく移動のための指示信号の「ON/OFF」は、それぞれ、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット4の「1/0」および赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット5の「1/0」に対応している。
【0066】
また、ズーム兼用シャッターボタン620が内部へ押し込まれると、ポインタコントローラ600は浮上移動装置100に対して画像センサ180を用いて画像撮影を行わせるための指令信号を出力する。シャッターの「ON/OFF」は、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット6の「1/0」に対応しているものとする。
【0067】
位置変更ボタン630および姿勢変更ボタン640は、それぞれ、浮上移動装置100の位置および姿勢を変更することを指示するためのものである。位置変更ボタン630および姿勢変更ボタン640の「ON/OFF」は、それぞれ、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット7および8の「1/0」に対応しているものとする。
【0068】
画角確認ボタン650は、浮上移動装置100における画角表示LED189を点灯させることを指示するためのものである。画角表示LED189の「ON/OFF」は、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット9の「1/0」に対応しているものとする。
【0069】
以上のように、操縦データは、前述のシリアルデータのビット0〜9において浮上移動装置100に送信される。
【0070】
(画像センサ)
次に、画像センサ180周辺の構成が、図6〜図9を用いて説明される。
【0071】
<全体構成>
画像センサ180には、図6〜図9に示されるように、CMOS(Complementary Metal Oxide Silicon)イメージャ181が、仰角を制御する仰角アクチュエータ182に搭載されており、その合計質量は200mgである。画像センサ180によって取得された画像情報は、後述される通信装置170によってポインタコントローラ600に送信される。
【0072】
<仰角アクチュエータ>
仰角アクチュエータ182は、後の超音波モータの項において説明されている超音波振動子121と同一の構成を有する仰角制御用超音波振動子183を備えており、仰角制御用超音波振動子183が、半円形状を有する仰角ロータ184を駆動する。仰角ロータ184は、円形の貫通孔を有するベアリング185に回転軸186が回転可能に装着されており、回転軸186は、図1に示される筐体101の底部プレート102に、アーム187を媒介として固定されている。後述のように、仰角制御用超音波振動子183は、仰角ロータ184を、その円弧の円周方向に回動させることができるので、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージャ181の上下方向の画角に対応する領域の位置を変更することができる。
【0073】
なお、仰角アクチュエータ182における超音波振動子183は、仰角アクチュエータドライバ188によって振動させられる。また、仰角アクチュエータドライバ188は、後述される行動演算装置751の指示によって超音波振動子183を駆動する。また、仰角センサ190が仰角アクチュエータ182に設けられており、水平方向を0度としてかつ鉛直下側方向を90度とする体系における仰角値が行動演算装置751に送信される。
【0074】
なお、データ受信センサ700における赤外線受光素子712および714が、COMSイメージャ181と同一の基板上に設けられている。
【0075】
<画角表示LED(Light Emitting Diode)>
画角表示LED189は、CMOSイメージャ181と同一の基板上に設けられており、CMOSイメージャと同一の運動をする。また、画角表示LEDにおいては、拡散白色光を照射するLEDの一部に緑色フィルターが設けられ、他の部位に赤色フィルターが設けられている。緑色フィルターを透過する光の照射範囲は、CMOSイメージャ181の画角に対応する範囲と一致している。この構成により、CMOSイメージャ181の画角に対応する範囲内に位置する人には画角表示LED189は緑色に見え、CMOSイメージャ181の画角に対応する範囲外に位置する人には赤色に見える。なお、画角表示LED189は、消費電力節約のため、上記ポインタコントローラ600における画角確認ボタン650がONのときにのみ点灯する。
【0076】
なお、フィルターの色およびその組み合わせは、任意であり、前述の例に限定されるものではない。また、画角提示の手法として、緑色フィルターの代わりに透過窓が設けられており、かつ、赤色フィルターの代わりに遮光材が設けられており、点灯の有無に応じて画角に対応する範囲内に存在するかまたは画角に対応する範囲外に存在するかが判断されてもよい。
【0077】
<通信・画像取得装置>
ポインタコントローラ600は、図2に示されるように、通信装置670およびストレージ680を有している。浮上移動装置100の画像センサ180が撮影した画像は、通信装置670を経由してストレージ680に保存される。
【0078】
<構成およびデータフロー>
以上に説明された機能を実現するためのコントローラの構成の一例が図3に示されている。各操作ボタンの操作によって出力される信号は一括してDATA_Bと称される。コントローラ演算装置690は、図3に示されるように、赤外線発光ダイオード611〜614を備えている。赤外線発光ダイオード611〜614は、それぞれ、LEDドライバ691〜694に接続されている。位置データと前述のDATA_Bとが組み合わされたデータが、LEDドライバ691〜694に与えられる。LEDドライバ691〜694は、それぞれ、共通のクロック機能およびトリガ機能を有しており、トリガ機能により与えられた基準タイミングから、共通のクロック機能に従って、前述のデータを含む光信号を照射する。
【0079】
<補足事項>
なお、上記のポインタコントローラ600においては、本実施の形態における浮上撮影システムを実現するために必要な構成のみの説明がなされているが、操縦インターフェイスおよび付加機能などは、本発明の機能を損なわない限り付け加えられていてもよい。また、上記の操作用ボタン類の配置は任意のものである。また、本発明のシステムは、ポインタコントローラ600がディスプレイを備えており、電波通信等の高速な通信によって、画像センサ180のライブビュー画像を確認しながら撮影することができるシステムであってもよい。また、逆に、ストレージ680等は、本発明の移動ロボットシステムの必須の構成ではないので、ポインタコントローラ600の画像取得のために必要でないのであれば、設けられていなくてもよい。
【0080】
また、ポインタコントローラ600は、他の操縦インターフェイスを備えていてもよい。たとえば、ジョイスティックなどの入力デバイスを用いて入力された上、下、左、および右のいずれかへ直接的に移動を指示する信号を、操縦データとして送信する機能を備えていてもよい。
【0081】
なお、これらの機能が省略されている場合には、シリアルデータの構成は前述のものとは異なる。ただし、この場合においても、シリアルデータのビット列の長さ等の通信プロトコル等の本実施の形態に示された通信方法は、本発明において用いられる通信方法の一例であり、この方法に限定されない。
【0082】
また、データの変調周波数は38kHzに限定されない。また、説明の簡便のため、前述の説明においては省略されているが、シリアルデータにヘッダを設けることによって他の機器との混信を避ける一般的な手法が用いられてもよい。
【0083】
本実施の形態のポインタコントローラ600に関しては、複数の発光素子が設けられており、かつ、一部が異なるデータを同期した状態で送信するという点以外においては、通常の赤外線リモコンに用いられる構成が採用され得る。
【0084】
また、本実施の形態においては、上下左右のような平面的な移動の実現のために、4つの異なるデータの照射領域が形成される。そのために、4つの赤外線発光ダイオードが設けられている。しかしながら、赤外線発光ダイオードおよび照射領域の数は、移動の態様に応じていかなるものであってもよい。例えば、前述のポインタコントローラ600の構成がレール上を走行するロボットに適用される場合には、すなわち、左右の移動のような一直線上の移動のみをロボットにさせることが必要である場合には、ポインタコントローラ600には2つの赤外線発光ダイオードが設けられていればよい。この場合、たとえば、図2における赤外線発光ダイオード612,614のみが設けられている構成が採用されてもよい。また、使用されるアルゴリズムは、浮上移動装置100のそれと基本的には同様であり、ビット数のみが異なっていてもよい。
【0085】
(データ受信センサ)
次に、図6〜図10を用いて、データ受信センサ700が説明される。
【0086】
データ受信センサ700は、図10に示されるように、空間における受光感度分布が互いにずらして配置された4つの赤外線受光素子711〜714を有している。赤外線受光素子711〜714は、それぞれ、フォトダイオードによって構成されている。
【0087】
前述の仰角アクチュエータの項において説明されたように、データ受信センサ700における赤外線受光素子712および714は、CMOSイメージャ181と同一基板上に配置されており、それと同一の運動を行う。データ受信センサ700の受光感度分布の中心点Oは、CMOSイメージャ181の画角中心と常に一致している。すなわち、図10における原点Oは、CMOSイメージャ181の画角中心でもある。
【0088】
図6〜図9に示されるように、左側の赤外線受光素子711は、CMOSイメージャ181に向かって右側の裏面に設けられ、右側の赤外線受光素子713は、CMOSイメージャ181に向かって左側の裏面に設けられる。左側の赤外線受光素子711および右側の赤外線受光素子713は、回転軸186を媒介として筐体101に回転可能に取り付けられている。上側の赤外線受光素子712は、CMOSイメージャ181と同一平面の上方の位置に設けられ、下側の赤外線受光素子714は、同様に、CMOSイメージャ181と同一平面の下方に位置に設けられる。
【0089】
なお、一般に、フォトダイオードは半導体プロセスを用いて平面形状に形成されるため、赤外線受光素子711〜714のそれぞれには、図10に示されるような画角を得るために、図示されていない光学系が設けられている。この光学系は、プラスチックモールドを用いた非球面レンズおよび回折格子によって容易に形成される。
【0090】
<赤外線受光素子>
赤外線受光素子711〜714は、受光感度分布が図10に示されるように配置されている。赤外線受光素子の受光感度のピークは、ポインタコントローラ600における赤外線発光ダイオード611〜614が出力する赤外線の波長に一致している。また、赤外線受光素子711〜714は、それぞれ、前述の変調周波数、すなわち38kHzの信号のみを除去して、情報を抽出する機能を有する。すなわち、赤外線受光素子711〜714へ入力される信号は、実質的にポインタコントローラ600から照射された信号のみであると考えられる。なお、赤外線受光素子711〜714の出力結果は行動演算装置700に入力されている。
【0091】
<方位データ>
赤外線受光素子711〜714が図10に示される感度分布を有するため、赤外線受光素子711〜714のそれぞれの出力の有無を判定することによって、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600に対する自身の方位を認識することができる。本実施の形態においては、赤外線受光素子711〜714によって受信されたデータは、ビット0〜ビット3のそれぞれの「1/0」の組み合わせからなる4ビットの方位データとして、後述される受信データと組み合わせられ、行動演算装置751によって実行される行動決定のために用いられる。
【0092】
<シリアルデータ受信>
赤外線受光素子711〜714によって受信されたデータは、ポインタコントローラ600の項において説明されたような4ビットの位置データおよび5ビットの操縦データからなる。このうち、4ビットの位置データは、前述の方位データと組み合わせられ、行動演算装置751によって行われる行動決定のために用いられる。また、5ビットの操縦データによって、浮上移動装置100が操縦される。
【0093】
なお、説明の簡便のため、赤外線受光素子711〜714同士の間隔は十分に小さく、ポインタコントローラ600から各受光素子へ入力されるシリアルデータは同一であることを前提として、赤外線受光素子711〜714のそれぞれが受け取ったデータの論理和が受信データであるものとする。実際には、図4に示される円形領域の各境界が、上記赤外線受光素子同士の間に位置付けられれば、赤外線受光素子711〜714によって検出された2つのデータの値が異なってしまうのではないかという懸念があるが、本実施の形態においては、前述のように論理和のデータが用いられるので、目標位置に近い側の1つのデータが採用されるだけで、2つのデータが存在することに起因する制御の混乱は生じない。
【0094】
<補足>
本実施の形態で説明される赤外線受光素子711〜714の構成および配置等は、一例であり、上記方位決定機能およびデータ受信機能が損なわれるのでなければ、前述の実施の形態の構成および配置に限定されない。例えば、ポインタコントローラ600が指し示している方向のいずれかの位置に浮上移動装置100が留まっている場合にのみ、データ受信機能が必要であるならば、この場合を除き、赤外線受光素子711〜714が前述のシリアルデータを受信する必要はない。
【0095】
そこで、赤外線受光素子711〜714のうち、図10における中心部、すなわち方位データが「1111」である領域に対応する部分のみがデータ受信機能を有しており、他領域は38kHzの搬送波を用いて変調された赤外線信号の入力の有無を判定するためにのみまたは特定のヘッダが付された赤外線信号の入力の有無を判定するためにのみ使用されてもよい。
【0096】
(行動演算装置)
(機能)
図11に示されるように、行動演算装置751は、上記ポインタコントローラ600から発信されシリアルデータを、データ受信センサ700を経由して受信する。それにより、行動演算装置751は、データ受信センサ700から、ポインタコントローラ600の方位データを得る。これらのデータによって、行動演算装置751は、後述する行動演算アルゴリズムを用いて、浮上移動装置100の行動を決定する。この決定された行動のためのデータが、運動指令として後述される制御回路150に入力される。
【0097】
なお、本実施の形態においては、浮上移動装置100の行動を決定するための装置は、行動演算装置と称されるが、これは一般的なマイクロプロセッサを用いて実現され得る。市販の多くのマイクロプロセッサには、シリアル通信機能が標準機能として設けられているので、これに上述の赤外線受光素子711等を接続し、その機能より得られた受信データを用いて下記の行動演算アルゴリズムを実行すればよい。
【0098】
なお、本実施の形態においては、浮上移動装置100の姿勢は自律的に所定の姿勢に維持されるので、便宜的に画像センサ180の仰角をX軸まわりの回転角θxとして表わすことができる。
【0099】
(行動演算アルゴリズム)
次に、浮上移動装置100の行動決定手法を説明する。なお、この行動決定のための演算は、行動演算装置751において、後述されるROM752に格納された表1および表2に示されるデータテーブルを参照することによって行われる。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1および表2においては、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、X軸まわりの回転角θx、およびZ軸まわりの回転角θzが、位置データおよび方位データのそれぞれに対応付けられている。表1における位置データが用いられるときには、位置変更のために浮上移動装置100のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向のそれぞれに沿った移動が制御される。表2における方位データが用いられる場合には、姿勢の制御のために浮上移動装置100のX軸まわりの回転角θx、およびZ軸まわりの回転角θzが制御される。なお、表1においては、浮上移動装置100の移動方向がxyz座標系の正方向および負方向に対応して符号の正負で表され、その移動量が数字の大きさで表わされている。また、表2においては、浮上移動装置100の回転方向が符号の正負で表され、その回転量の大きさが数字の大きさで表わされている。なお、この数値は、説明の簡便のため、概念的に与えられたものであり、大小関係のみを表現するために用いられている。
【0103】
これらのデータテーブルは、図5において矢印で示される浮上移動装置100の移動方向と対応付けられている。そのため、浮上移動装置100は、最終的には、4つの赤外線発光ダイオード611〜614の照射範囲の全てが重なっている、図5においてハッチングで示された平面領域に位置付けられる。
【0104】
図5に示されるハッチングされた平面領域は、円筒形のポインタコントローラ600の中心軸の延長線が通過する領域である。そのため、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600の中心軸の延長線の近傍に位置付けられる。したがって、ポインタコントローラ600に対する浮上移動装置100の方向を所望の方向に変更するときには、ポインタコントローラ600の指し示す方向を変更するだけよい。
【0105】
<行動の決定>
まず、前述の受信データにおける操縦データを用いて、浮上移動装置100の行動の態様が決定される。これは、前述の受信データの全てのビットの1/0によって決定される。たとえば、ポインタコントローラ600における位置変更ボタン630が押されている場合、姿勢変更ボタン640が押されている場合、または、ズーム兼用シャッターボタン620によってポインタコントローラ600から離れるように指示が出されているか若しくはポインタコントローラ600に近づくように指示が出されている場合には、浮上移動装置100の羽ばたき方が変更される。また、姿勢変更ボタン640が押されており、X軸回りの姿勢変更指示が、上記受信データに含まれており、かつ、その受信データが上側の赤外線受光素子712もしくは下側の方赤外線受光素子714によって受け取られた場合には、浮上移動装置100における画像センサ180の仰角が変更される。なお、X軸まわりの姿勢の変更、すなわち、X軸回りの回転を指示する信号を受信した浮上移動装置は、浮上移動装置の筐体の姿勢を変更するのでなく、CMOSイメージャの仰角を変更することとしている。さらに、いずれのボタンも押されていない場合には、浮上移動装置100はホバリングする。また、シャッターボタン620が押されている場合には、画像センサ180により撮影が行われる。
【0106】
<位置変更(上下左右)>
浮上移動装置100は、位置変更ボタン630が押されている場合、すなわち上記受信データのビット7が1である場合、上記受信データにおける位置データの値を用いて、表1に示されるテーブルを参照して、自身の行動を決定する。このように、後述される関数Pattern_Flapping(x,y,z,θz)を用いることで、左右の羽部の羽ばたき方を決定することができる。
【0107】
<姿勢変更>
姿勢変更ボタン640が押されている場合、すなわち、上記受信データのビット8が1である場合には、上記方位データに基づいて、浮上移動装置100の姿勢および画像センサ180の仰角が変更される。
【0108】
ここでは、浮上移動装置100の羽ばたき動作と、画像センサ180における仰角アクチュエータ182の動作とは、互いに独立しているので、これらの動作は、独立して変更することができる。すなわち、左左側の方赤外線受光素子711が受信データを受け取った場合には、浮上移動装置100は左旋回のための羽ばたき動作をし、右側の方赤外線受光素子713が受信データを受け取った場合には、浮上移動装置100は右旋回のための羽ばたき方をする。実際に羽ばたき動作を変更するまでの処理は、前述の位置変更の場合の処理と同一である。
【0109】
また、上方赤外線受光素子712が受信データを受け取った場合には、仰角アクチュエータ182は画像センサ180の正面を上側に傾け、逆に、下方赤外線受光素子714が受信データを受け取った場合には、仰角アクチュエータ182は画像センサ180の正面を下側に傾ける。これにより、画像センサ180が、ポインタコントローラ600の方向を向く、すなわち、ポイントコントローラ600にその正面を向けることができる。
【0110】
<距離変更(前後位置変更)>
ズーム兼用シャッターボタン620によって、浮上移動装置100にポインタコントローラ600から離れるように指示が出されている場合、または、浮上移動装置100にポインタコントローラ600に近づくように指示が出されている場合、すなわち、受信データのビット4が1である場合、または、受信データのビット5が1である場合には、浮上移動装置100は、後退または前進する。これは、関数Pattern_Flapping(x,y,z,θz)のy方向の制御に対応する。
【0111】
<行動決定テーブル>
以上の行動を決定するためのデータとして、前述の表1および表2に示される行動決定テーブルが設けられている。ただし、θxは画像センサ180の仰角である。x軸回りの回転以外の行動は、関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)を用いて、左および右の羽部の羽ばたき方を変更することにより決定される。
【0112】
<例外処理>
浮上移動装置100がポインタコントローラ600に正対していない場合、すなわち、浮上移動装置100の正面がポインタコントローラ600を向いていない場合には、位置変更ボタン630またはズーム兼シャッターボタン620の押圧によって浮上移動装置100へ移動の指示が出されても、浮上移動装置100は所望される位置に向かって移動することができない。したがって、この場合には、浮上移動装置100は、ホバリングを行うか、もしくは、姿勢変更ボタン640が押されたと見なして、自己の正面をポインタコントローラ600に向けるための動作を開始することが有効である。これは、プログラム上の条件分岐処理によって容易に実現され得る。一方、浮上移動装置100が、自身とポインタコントローラ600との相対的な位置関係を既に認識している場合には、座標変換などによって、浮上移動装置100が移動するべき方向を、行動演算装置751が算出してもよい。
【0113】
また、他の物体との衝突の回避という観点から、浮上移動装置100は、前述の受信データを得ることができない場合には、安全のために、ホバリングを行ってもよい。これは、行動演算装置751のプログラミングによって容易に実現され得る。より具体的には、浮上移動装置100は、前述の受信データが送信されてくるのを待っている場合には、常にホバリングの羽ばたき方、すなわち(x、y、z、θz)=(0,0,0,0)のデータを用いて行動すれば、他の物体との衝突を回避することが可能になる。
【0114】
<補足>
なお、本実施の形態においては、説明の簡便さおよび汎用性を鑑み、前述の受信データによって決定された行動のデータに基づいて、関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)を用いて、左および右の羽部の羽ばたき方を決定する手法が採用されているが、この関数を用いずに、前述の受信データと左および右の羽部の羽ばたき方とが対応付けられたデータテーブルを用いて、前述の受信データに基づいて、左および右の羽部の羽ばたき方を決定する手法が採用されてもよい。
【0115】
<浮上移動装置>
続いて、ポインタコントローラ600により制御される、羽ばたき飛行により浮上する浮上移動装置100を説明する。説明の簡略のため、左右対称である構成要素には同一参照符号が付され、それらのうち左側のみの説明がなされる。
【0116】
(全体の構成)
まず、図1および図12を用いて、本実施の形態の浮上移動装置の全体構成を説明する。この項目は、全体構成を説明するためのものであるため、各構成要素の詳細な構成および動作は後述される。
【0117】
ここでは、説明の簡便のため、浮上移動装置100は、自律的に姿勢を保持するものとし、羽ばたき運動によって移動しかつその向きを変更する。しかしながら、後述される画像センサ180の仰角は、浮上移動装置100の羽ばたき運動によって変更されるのではなく、仰角アクチュエータ182が画像センサ180の浮上移動装置100に対する姿勢を変更することによって変更される。この構成により、空中撮影のために必要な制御が実現される。
【0118】
図1に示されるように、浮上移動装置100は、筐体101と、筐体101に設けられた1対の羽部110とを備えている。一対の羽部110の一方は、筐体101の左側の側部に設けられ、一対の羽部110の他方は、筐体101の右側の側部に設けられている。
【0119】
浮上移動装置100は、羽部110の羽ばたき運動によって、周囲流体に流れを生じさせるとともに、周囲流体から反作用を受ける。このとき、浮上移動装置100は、鉛直上方に向いた、自重を超える反作用を周囲流体から受ける。それにより、浮上移動装置100には重力加速度を超える鉛直上方向きの加速度が生じる。その結果、浮上移動装置100は浮上する。
【0120】
また、図12に示されるように、浮上移動装置100は、アクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を有している。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130は、筐体101に回転可能に搭載されている。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130には、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の運動を羽部110へ伝達する羽駆動メカニズム140が接続されている。羽駆動メカニズム140には羽部110が接続されている。羽部110は、上部および下部超音波モータ120および130の駆動によって、上下方向を回転中心軸とする往復回動運動(以後、「ストローク運動」と称する)と、羽部110の前縁部を回転中心軸とする回転運動(以後、「捻り運動」と称する)とを行なう。つまり、羽部110は、ストローク運動および捻り運動のそれぞれを独立して行なうことができる。
【0121】
上部および下部超音波モータ120および130は、制御回路150によって制御される。また、制御回路150には、筐体101に固定された位置検出センサ160から浮上移動装置100の位置情報および姿勢情報が与えられる。
【0122】
浮上移動装置100の下部には、画像センサ180が、仰角アクチュエータ182によってその仰角が変更され得る態様で搭載されている。更に、後述される、画像センサ180の撮影範囲の中心点と略一致する中心点を有するデータ受信センサ700が設けられている。
【0123】
画像センサ180は、ズーム兼用シャッターボタン620の押し下げに基づいてポインタコントローラ600から送信される信号を受けることによって画像の撮影を行う。画像センサ180よって得られた画像情報は、通信装置170によってポインタコントローラ600へ送信されるが、これは制御回路150によって直接利用されてもよい。たとえば、浮上移動装置100の位置および速度等が、制御回路150の画像情報の処理によって認識されてもよい。
【0124】
また、制御回路150、通信装置170、および画像センサ180等は、筐体101に設けられた電源190から供給される電力によって駆動される。電源190は、駆動エネルギー源として機能するが、本発明の駆動エネルギー源は、電力を用いるもの以外のもの、たとえば、化石燃料等であってもよい。この場合、アクチュエータとしては例えば2サイクルエンジンやスターリングエンジン等、上記駆動エネルギー源に対応した物が用いられる。
【0125】
(羽部)
羽部110は、図13〜図17に示されたような形状を有し、長さが65mmであり、かつ、幅が16mmである。羽部110は、前縁部1102、羽面部1103、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106を有している。なお、羽面部1103とは、前縁部1102、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106以外の部分であって、細長板状部1107、1108、および1109とアラミドフィルム1114とからなる部分である。
【0126】
羽部110のアラミドフィルム1114以外の部分、つまり前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109は、厚さ20μmのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)層からなる。具体的に言えば、羽部110のアラミドフィルム1114以外の部分は、CFRPのシートから図15〜図17に示す3つの部分が切り抜かれ、その3つの部分が積層されることによって形成される。
【0127】
前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、厚さ20μmのCFRP層の3層積層構造を有している。また、枠部1104、枝部1105、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれはCFRP層からなる1層構造を有している。図13に示されるX軸の正の方向を0度とすると、細長板状部1107の繊維軸の方向は−60度(+120度)であり、細長板状部1108および枠部1104のそれぞれの繊維軸の方向は、0度(180度)であり、細長板状部1109の繊維軸の方向は、+60度(+240度)であり、枝部1105の繊維軸の方向は、−30度(150度)である。前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、繊維軸の方向が−60度(+120度)、0度(180度)、および+60度(240度)である3つのCFRP層が重ねられることによって形成されている。
【0128】
前縁部1102の主要な変形は、羽部110の長手方向に平行な伸縮であるため、この方向とCFRP層の繊維軸とが一致していることが望ましい。また、アクチュエータ接合部1106には複数の方向に力が加えられ、羽ばたき運動に応じてこれらの力の方向が変化すると考えられる。したがって、あらゆる方向に極力均等な剛性を有するように、異なる方向の繊維軸を有する多数のCFRP層を積層することによって形成されていることが望ましい。なお、前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、他の部分より剛性が高くなっている。これらの要件を満たす羽部の製造方法は後述される。
【0129】
また、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、枠部1104、および枝部1105に囲まれるように羽面部1103が設けられている。羽面部1103は、アラミドフィルム1114からなり、図14の紙面の奥行き方向に延びている。また、アクチュエータ接合部1106は、羽部110の根元に設けられ、アクチュエータに接合されており、その長さは10mmである。
【0130】
また、図15〜図17に示すように、複数の細長板状部1107のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1107同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。また、複数の細長板状部1108のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1108同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。さらに、複数の細長板状部1109のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1109同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。
【0131】
なお、本実施の形態では、説明の簡便のため、同一層の複数の細長板状部は、同一ピッチかつ平行であるものとしたが、たとえば、剛性分布を意図的に変更する場合には、前述のものに限定されない。たとえば、先端側に比較して、根元側のピッチが小さくなっており、それにより、剛性が高められている羽部110が用いられてもよい。
【0132】
<前縁部>
前縁部1102は、図14に示されるように、羽部110の長手方向に沿って延びる溝構造、すなわちコルゲーションと呼ばれる凹凸形状を有している。そのため、前縁部1102においては、長手方向を含む面内の曲げ変形に対する剛性が、長手方向を回転中心軸とする曲げ変形に対する剛性に比較して、高くなっている。なお、この前縁部1102の凹凸形状は、プリプレグと呼ばれるCFRP層の原材料のシートを、この凹凸形状に対応する金型に密着させた状態で加熱することによって容易に成形され得る。また、前縁部1102には荷重が大きくかかる。そのため、前縁部1102は、細長板状部が設けられていない構造、すなわち隙間がない密実構造であるので、羽面部1103より剛性が高くなっている。さらに、前縁部1102は、根元に近づくにしたがって、累積的に荷重が増加するため、根元が先端に比べ太くなっている。根元部分での前縁部1102の幅および高さは約2mmであり、先端部分での前縁部1102の幅および高さは約1mmである。ただし、図の記述精度の制約から、図14〜図17においては、根元部分における前縁部1102の幅と先端部分における前縁部1102の幅とは同じ幅で描かれている。
【0133】
<羽面部>
羽面部1103は、図14〜図17に示されるように、CFRP層の細長板状部1107、1108および1109、およびアラミドフィルム1114によって構成されている。羽部110と同一の外形を有するアラミドフィルム1114が、CFRP層の細長板状部によって挟まれている。
【0134】
本実施の形態においては、アラミドフィルム1114の耐熱温度がCFRP層の成形温度よりも高く、かつCFRP層の成形工程において、プリプレグとアラミドフィルムとを接触させておき、加圧および加熱処理を行なうことで、プリプレグに含まれる樹脂成分によってCFRP層とアラミドフィルムとを接着させることが可能である。したがって、CFRP層によって構成された前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109ならびにアラミドフィルム1114を含む原材料を上述の金型上で焼結することによって、簡単に羽面部1103を製造することが可能である。
【0135】
羽面部1103の細長板状部1107、1108、および1109は、それらが延びる方向が互いに60度だけずれた状態で重ねられている。そのため、羽面部1103の表面に垂直な方向から見ると、細長板状部1107、1108、および1109によって、正三角形の枠、すなわちトラスが形成されているように見える。また、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれは、細長い長方形の輪郭を有しており、そのうち2つの長辺は、繊維軸に平行に延びている。これは、強度が高いCFRPの長手方向と、上記トラス構造の各ビームの力のかかる方向とを一致させ、一軸異方性材料であるCFRPの強度特性を最大限活用するための構成である。ただし、2つの長辺の一方の長辺のみが繊維軸に平行に延びていれば、繊維の強度をある程度有効に利用することが可能である。なお、上記ビームが長方形ではない場合には、応力解析などの手法を用いて、そのビームの形状に最適な繊維軸方向を決定する必要がある。
【0136】
また、本実施の形態では、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの曲げ剛性は、前縁部1102の1/8であるものとする。一般に、曲げ剛性は、断面二次モーメントに比例する。つまり、曲げ剛性は、(幅:矩形の短辺の長さ)×(厚さの3乗)に比例する。
【0137】
ここで、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの厚さが一定であり、細長板状部1107の幅が細長板状部1107同士の中心軸間の距離(以下、これを「ピッチ」という。)の1/a倍であり、細長板状部1108の幅が細長板状部1108同士のピッチの1/a倍であり、かつ、細長板状部1109の幅が細長板状部1109同士のピッチの1/a倍であると仮定する。この仮定の下では、細長板状部の幅が1/a倍になれば、羽面部1103の曲げ剛性も1/a倍になる。したがって、本実施の形態においては、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅を細長板状部1107同士、細長板状部1108同士、および細長板状部1109同士のそれぞれのピッチの1/8倍にすることによって、前縁部1102の曲げ剛性の1/8倍の曲げ剛性を有する羽面部1103が実現されている。つまり、羽面部1103の厚さ、すなわち細長板状部の積層数を変化させることなく、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅のみを変更することによって、所望の曲げ剛性分布を有する羽部110が形成されている。細長板状部の積層数は、自然数にしかならず、連続的に変化し得るものではないため、細長板状部の積層数を変化させるだけでは、羽部の曲げ剛性の分布が不連続になってしまう。しかしながら、上記細長板状部の幅とピッチとの比は、連続的に変化し得るものであるため、上記曲げ剛性分布を連続的に変更することによって、所望の曲げ剛性分布を得ることができる。
【0138】
なお、本実施の形態の羽部110の構造によれば、細長板状部1107の幅と細長板状部1107同士のピッチとの比、細長板状部1108の幅と細長板状部1108同士のピッチとの比、および細長板状部1109の幅と細長板状部1109同士のピッチとの比を互いに異ならせることによって、羽面部1103の曲げ剛性が異方性を有するようにすることが可能である。たとえば、羽部110の長手方向を含む面内の曲げ変形に対して高い剛性を有する羽部110を製造する場合には、細長板状部1108の幅を大きくし、細長板状部1108同士のピッチを小さくすればよい。
【0139】
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造の一部をトラスが形成されるように切り抜く手法が用いられた場合には、各トラスの三辺に3つのCFRP層が積層されている。この手法により形成された羽面部の質量は、トラスが形成されていない羽面部1103と同一面積の3つのCFRP層の積層構造の質量の3/a倍(aは前述の値)となる。この場合、3つのCFRP層のうちの1つの層の繊維軸を含む面内の曲げ変形モードにおいては、その1つのCFRP層以外の2つのCFRP層は、樹脂程度の剛性しか有していないため、不要である。すなわち、前述の羽部110は、本段落にて説明されているような切り抜きによって形成された羽部の約1/3の質量で、その羽部とほぼ同一の剛性を有する。(具体的には下記の<羽質量>の項目に羽部の質量および剛性の数値が記載されている。)
<枠部>
羽面部1103を構成するアラミドフィルム1114は、図14に示されるように、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、および枠部1104の間に張られている。そのため、アラミドフィルム1114の端部の破損が防止されている。本実施の形態では、枠部1104の幅は約0.5mmである。なお、枠部1104は、図14に示されるよう
に、羽面部1103を取り囲む形状であるため、それが延びる方向は位置によって異なる。枠部1104の繊維軸の方向は、それの延びる方向に一致している。
【0140】
<枝部>
羽部110が大きくなった場合には、羽部110の先端部の回転半径も大きくなる。この場合、流体に対する相対速度が大きくなるため、羽部110の先端部には大きな流体力が生じる。羽部110の先端部に生じる流体力が大きくなっても、羽部110の先端部の制御性を維持する必要がある。そのため、前縁部1102に接続され、前縁部1102から斜め方向に延びる枝部1105が設けられている。枝部1105の幅は約0.9mmである。枝部1105は、X軸方向の羽部110の先端側を向く方向を0°とした場合に、−30°の方向に延びるように形成されている。
【0141】
なお、枝部1105とX軸との間の角度および羽面部1103に要求される剛性によっては、前述の細長板状部1107とは異なる細長板状部を有するCFRP層に枝部1105が設けられていてもよい。また、CFRP層とは別の材料を用いて形成された枝部1105がCFRP層同士の間に挟み込まれた構造の羽面部1103が用いられてもよい。
【0142】
<アクチュエータ接合部>
アクチュエータ接合部1106は、実際には、羽部110を駆動するアクチュエータとの適合性に応じて、その形状が決定される。本実施の形態のアクチュエータ接合部1106は、図14に示される形状であるものとする。また、羽ばたき運動により生じる流体力に起因する変形を防止するため、アクチュエータ接合部1106の材料としては、細長板状部を有しない、すなわち隙間がない密実な構造のCFRP層が用いられる。さらに、アクチュエータ接合部1106の前方端には溝構造が設けられている。このアクチュエータ接合部1106の溝構造と前縁部1102の溝構造とは連続するように設けられている。
【0143】
<羽質量>
CFRPの比重が1.6g/cm3であるものとして、表1に前述の羽部110の各部位の質量が示されている。表1に示されるように、羽部110の質量は、約26.5mgである。また、アクチュエータ接合部1106の質量は約10.8mgである。
【0144】
【表3】
【0145】
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造をトラス形状が形成されるように切り抜く手法が用いられた比較例の羽部の質量は約48mgである。
【0146】
(超音波モータ)
次に、図18〜図26を用いて、本発明のアクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を説明する。
【0147】
<全体構成>
まず、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の構成を説明する。
【0148】
図18に示されるように、上部超音波モータ120は、上部超音波振動子121と、これによって駆動される上部ロータ122とを有している。また、上部ロータ122は、上部ベアリング123を介して、ロータシャフト124に、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。ロータシャフト124は、筐体101に固定されている。上部ロータ122には、上部磁化パターン125が円弧状に記されている。上部磁化パターン125は、上部磁気エンコーダ126で読み取られる。上部超音波振動子121においては、図25に示すように、支持部1214が支持シャフト127に固定され、牽引部1224が牽引ゴム129により牽引されている。また、上部超音波振動子121を駆動する電力はフィルム基板128を経由して供給される。
【0149】
下部超音波モータ130は、上部超音波モータ120と上下方向において鏡面対称の構造である。すなわち、下部超音波モータ130においては、下部超音波振動子131が下部ロータ132を回転させる。下部ロータ132は、図示されない下部ベアリングが介在した状態で、ロータシャフト124に、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。下部ロータ132には、図示されない下部磁化パターンが円弧状に記されている。下部磁化パターンは、下部磁気エンコーダ136で読み取られる。
【0150】
上部および下部超音波モータ120および130は、上下方向において鏡面対称に設けられていること以外においては、全く同様の構成を有しているため、以降においては、上部超音波モータ120の詳細構造のみの説明を行なう。
【0151】
<駆動原理>
次に、図18〜図26を用いて、上部超音波モータ120の駆動原理を説明する。
【0152】
上部超音波振動子121は、振動板1211、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213からなる。振動板1211は、厚さ0.2mmのステンレスで作製され、幅2mmかつ長さ9mmの矩形部と、矩形部の長手方向の中央部から外方に突出する支持部1214とを有している。振動板1211は、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213によって挟まれている。表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213は、それぞれ、幅2mm、長さ8mm、および厚さ0.2mmの短冊形状を有し、厚み方向に分極するピエゾ焼結体からなる。
【0153】
表面ピエゾ1212には、図19に示されるように、4分割されそれぞれ対角に位置するもの同士が電気的に結合された表面電極1216が接合され、裏面ピエゾ1213には、同じく4分割されそれぞれ対角に配するもの同士が電気的に結合された裏面電極1217が接合される。これらは図19に示されるように、それぞれ面直方向に配置が一致する電極について、電圧φAおよびφBがかけられている。φAおよびφBに逆電位の電圧、例えば振幅30V、周波数250kHzの矩形波を印加すると、上部超音波振動子121において、図20に示されるような、節を3つ有する、即ち3次のたわみ振動モードが励起される。また、φA、φBに同位相の電圧、例えば振幅30V、周波数250kHzの矩形波を印加すると、図21に示されるような、縦(伸縮)の振動モードが励起される。本実施の形態における上部超音波振動子121においては、2つの振動についての共振モードの共振周波数は、いずれも250kHzであり、それらは互いに一致している。ここで、これらの共振モードの振動の位相を±90°異ならせることによって、振動板1211の頂点は図22および図23に示される2種類の楕円運動を行なう。2種類の楕円運動は、正方向に回転する楕円運動と、逆方向に回転する楕円運動である。また、振動板1211の頂点にはセラミックからなる接触部1215が設けられている。接触部1215は、前述の楕円運動に応じて、摩擦力によって、上部ロータ122をロータシャフト124の軸周りに回転させる。このとき、正方向の回転および逆方向の回転のいずれかが選択される。
【0154】
なお、説明の簡便のため、図22および図23においては、φAおよびφBそれぞれに与えられる電位を三角関数によって表わしたが、それらの電位の位相が±90°ずれているのであれば、矩形波等によって表わされる電位が両電極に与えられてもよい。
【0155】
また、本実施の形態においては、振動速度の大きい縦振動を用いてロータ122を回転させるべく、接触部1215を振動板1211の頂点に配したが、たわみ振動が、ロータ122に求められる、後述する図34等に示される角速度を得るに足る振動速度を有しているのであれば、図24に示されるように、接触部1215を振動板1211の短辺の略中央に設けてもよい。本発明者らの実験によれば、この構成では、振動板1211とロータ122の配置の誤差、および、接触部1215の摩耗による形状変化などに対して、動作の安定性がより高いことが分かっている。
【0156】
なお、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれは、扇形の輪郭を有し、所定の回転角の範囲内での回転往復運動を行なう。そのため、軽量化のためには、図26に示されるように、不要な部分が削除された、その外形が中心角120°の扇形のフレーム構造を有する上部ロータ122および下部ロータ132が用いられることが望ましい。輪郭が扇型であるロータが用いられれば、中心軸まわりに回動(回転往復運動)するロータの占有率を最も効果的に低減することができる。なお、上部ロータ122および下部ロータ132は、それぞれ、扇型の輪郭に沿ったフレーム部を有している。
【0157】
なお、前述の各部位のサイズおよび振動板の共振周波数などの数値は、一例であり、浮上のための要件が満足されるのであれば、前述の値に限定されない。この浮上のための要件は、後述の浮上可能性の項において述べられている。
【0158】
また、上部ロータ122および下部ロータ132は、図26に示されるように、必要な強度が確保される範囲内において、軽量化のための中空構造を有していてもよい。つまり、上部ロータ122および下部ロータ123のそれぞれが、半径120°の扇型の外周に沿って延びるフレームを有する構造からなっていてもよい。
【0159】
更に、上部ロータ122および下部ロータ132に、後述する上部ローラ122の回転角θ1−下部ロータ132の回転角θ2を所定の範囲内の値に制限するためのリミッター12322a、リミッター12322b、およびリミッター12322cが設けられてもいてもよい。リミッター12322bは、扇形のフレーム構造の下部ロータ132の内周面に設けられ、リミッター12322aおよびリミッター12322cは、扇形のフレーム構造の上部ロータ122の内周面に設けられている。リミッター12322bは、円弧状の軌跡において、リミッター12322aとリミッター12322cとの間に位置付けられている。これによれば、リミッター12322bの移動範囲は、リミッター12322aおよびリミッター12322cによって制限される。したがって、後述する羽の捻り角βが一定の範囲内の値に制限される。そのため、後述する数式(7)において、解が物理的に1つに定まる。その結果、羽部の動作が安定する。
【0160】
また、上部および下部ロータ122よび132が各超音波振動子の駆動力をロス無く羽部に伝達することが望ましい。そのため、ロータの回動抵抗は極力小さいことが望ましい。さらに、上部ロータ122と下部ロータ132との衝突を避けるために、これらのロータは中心軸まわりにのみ回転することができる構造を有していることが望ましい。したがって、本実施の形態では、ロータと回転中心軸との接触部におけるベアリングとして、ピボットと呼ばれる一種のボールベアリングが用いられている。これによって、前述のように、ロータ同士の接触が防止されている。なお、上記ロスが超音波振動子の駆動力に比べ十分小さいのであれば、擦動タイプのベアリング、たとえばテフロン(登録商標)ベアリングなどが使用されてもよい。
【0161】
なお、後述される後方切り返し時において、羽部が水平状態になると、すなわち、後述されるβが180°に達すると、切り返し後のβが0<β<πとなるか、または、π<β<2πとなるかは、不定となる。前者の場合には、羽部が裏返り、迎え角が負となることになり、揚力が得られず、浮上移動装置は飛行することができない。このため、前述の2つのリミッターにより、βが180°に達しないように、羽部の動作が制限されている。さらに、本発明者らの実験によると、羽部にかかる流体力がヒンジを押し上げによって弾性変形させることにより、厳密にβが180°に達しなくても、羽部が裏返る現象が観察されている。このため、前述の2つのリミッターは、羽ばたき飛行に支障をきたさない範囲内で、βが180°よりもある程度小さい値になるように設けられていることが望ましい。
【0162】
<予圧機構>
次に、図25を用いて、接触部1215から上部ロータ122へ予圧を与える機構を説明する。
【0163】
接触部1215から上部ロータ122へ予圧が作用しており、その反作用として、接触部1215から上部ロータ122の外周面へ向かって抗力が生じている。そのため、上部ロータ122と接触部1215との間には摩擦が生じている。したがって、接触部1215の楕円運動によって、上部ロータ122は、摩擦力を受け、回転往復運動を行なう。
【0164】
牽引ゴム129は、環状であり、その一端が、牽引部1224に引っ掛けられている。牽引ゴム129の他端は、筐体補強ポール112に固定されている牽引ゴムピン113に引っ掛けられている。したがって、牽引ゴム129には張力が生じ、牽引部1224が筐体補強ポール112に向かって牽引されるため、振動板1211は牽引部1224を含む振動板1211を支持している支持シャフト127の軸周りに回転運動する。この回転運動は、接触部1215が上部ロータ122に接触することによって拘束されている。したがって、接触部1215から上部ロータ122へ向かう予圧が生じる。
【0165】
なお、前述の筐体補強ポール112を、その長軸周りに回転させることによって、前述の予圧の大きさを調整することが可能である。また、予圧機構は、上部ロータ122を駆動するための摩擦力を得るために設けられているものであるため、前述の予圧が得られ、かつ、浮上移動装置100の浮上特性が損なわれないのであれば、図25に示す構造に限定されない。
【0166】
<回転角検出>
図18に示す上部磁気エンコーダ126には、パターン周期の1/4の間隔を置いてA相およびB相のための2つの検出部が設けられている。この上部磁気エンコーダ126は、一般的なエンコーダと同様に、上部ロータ122の回転方向に応じてA相およびB相の位相のずれの状態が異なる。そのため、たとえば、A相のアップエッジがカウンタのトリガとして利用され、B相のレベルの1/0がアップカウント/ダウンカウントのうちのいずれを使用するかを決定するために用いられれば、上部ロータ122の回転角θ1を検出することが可能である。この回転角θ1の算出は、中央演算装置151において行なわれる。
【0167】
<補足>
なお、図18〜図26において示された超音波モータは、一般的なアクチュエータの一例であり、浮上移動装置のアクチュエータは、前述のような構造の超音波モータに限定されない。たとえば、アクチュエータとして、電磁モータまたは内燃機関が用いられてもよい。また、回転角検出のための装置は、羽ばたき飛行を阻害するものでなければ、いかなるものであってもよい。たとえば、前述の磁気エンコーダを用いる手法の替わりに、光学式エンコーダを用いる手法が採用されてもよい。
【0168】
(羽駆動メカニズム)
次に、図27〜図30を用いて羽駆動メカニズムについて説明する。
【0169】
羽駆動メカニズム140は、図27に示されるように、上部ロータ122に固定された上部プレート141と、下部ロータ132に固定された下部プレート142とを有している。さらに、下部プレート142には第1アラミドヒンジ143が介在した状態で中間プレート144が接続されている。さらに、上部プレート141には、第2アラミドヒンジ145が介在した状態で、羽部110の根元部が接続されている。さらに、羽部110の根元部は、第3アラミドヒンジ146が介在した状態で、中間プレート144にも接続されている。したがって、上部プレート141、羽部110、中間プレート144、および下部プレート142がアラミドフィルムで接続された複合ヒンジが構成されている。この複合ヒンジは、上部ロータ122および下部ロータ132によって駆動される。
【0170】
図28〜図30には、上部プレート141、中間プレート144、および下部プレート142の形状が示されている。なお、各プレートのヒンジおよびロータに接続されない辺の近傍の部分は、補強のため、図28〜図30のハッチングで示される部位が、各プレートの主表面に対して約90°折り曲げられている。さらに、この折り曲げ部同士の干渉を避けるため、折り曲げ部の両側端のそれぞれは、折り曲げ部が延びる方向に対して45°の方向においてカットされている。
【0171】
各アラミドヒンジは、幅0.1mmであり、長さに比べてその幅が非常に小さいため、擬似的に1自由度の回転のみ運動可能なリンク、すなわち蝶板(兆番)として機能する。また、アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線は1点で交わり、その1点はシャフト124の中心軸上に位置し、かつ、上部ベアリング123と下部ベアリング133との間に位置する。この構成により、上部超音波モータ120の回転角の制御によって羽部110の前後方向の往復運動が制御され、上部超音波モータ120の回転角の位相と下部超音波モータ130の回転角の位相との差の制御によって、羽部110のねじり運動が制御される。
【0172】
つまり、アクチュエータは、羽軸としての前縁部1102を前後方向に往復運動(回転角α:Z軸周りの回転角)させる前後往復運動用ロータとしての上部超音波モータ120と、往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、前縁部1102を軸周りに回転(回転角β)させる捻り運動用ロータとを備えている。
【0173】
前述の羽ばたき方を、図31および図32を用いて、より具体的に説明する。図31および図32においては、浮上移動装置100の前後方向に沿ってY軸が延びている。また、浮上移動装置100の上下方向に沿ってZ軸が延びている。さらに、浮上移動装置100の左右方向に沿ってX軸が延びている。X軸、Y軸、およびZ軸は、互いに直交する。また、Y軸においては、後方が正であり、前方が負である。また、X軸においては、上方が正であり、下方が負である。さらに、Z軸においては、左の羽部110の位置する側が正であり、右の羽部110が位置する側が負である。また、図32に示すように、上部超音波モータ120の回転角がθ1であり、下部超音波モータ130の回転角がθ2であり、前後方向の往復運動の回転角である羽ばたきストローク角がαであり、前縁部1102の軸周りの回転角である捻り角がβであるものとする。
【0174】
また、前述の各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線の交点から各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの外側端までの距離は、それぞれ、R2、R1、およびR3であるものとする。さらに、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ145の端点の距離がL1であり、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ143の端点の距離がL2であり、アラミドヒンジ143の端点とアラミドヒンジ145の端点と間の距離がL3であるものとする。ロータシャフト124に対する羽部110の位置を表わす角度の組み合わせ(α,β)は、上および下部超音波モータの回転角θ1およびθ2を用いて、以下のように表わされる。
【0175】
羽ばたきストローク角αは、羽軸(前縁部1102)のロータシャフト124の軸周りの回転であるため、次の式(1)に示すように、上部超音波モータ120の回転角θ1に等しい。
【0176】
α=θ1・・・(1)
また、捻り角(回転角β)は、羽部110の羽軸(前縁部1102)の軸周りの回転角であるため、次の式(2)によって示されるβの余弦値から算出される。
【0177】
cos(π−β)=−cos(β)=[L1×L1+L3×L3−L2×L2]/(2×L1×L3)・・・(2)
ただし、L3に関しては、次の式(3)が成り立つ。
【0178】
L3=sqrt(R1×R1+R2×R2−2×R1×R2×cos(θ1−θ2))・・・(3)
ここで、sqrt()は()内の値の正の平方根である。
【0179】
なお、図31および図32から明らかなように、βは、πより大きく、かつ、2πより小さい。
【0180】
π<β<2π・・・(4)
したがって、βが1つの値に決定される。
【0181】
上記の式(1)〜(4)から、所望の羽部110の位置(α,β)を得るための回転角θ1およびθ2は、次の式(5)および(6)によって表わされることが分かる。
【0182】
θ1=α・・・(5)
cos(θ1−θ2)=[R1×R1+R2×R2−L3×L3]/2×R1×R2・・・(6)
ただし、L3に関しては、次の式(7)が成立する。
【0183】
L3=L1×cos(β−π)±sqrt(L2×L2−L1×L1×sin2(β−π))・・・(7)
なお、L3の複号(±)が、正であるか、または、負であるかは、実際の羽部110の挙動を考慮することによって、容易に決定される。
【0184】
図31および図32に示される本実施の形態の浮上移動装置の状態は、羽部110の主表面が鉛直な方向に延びる平面と平行である状態、すなわち、捻り角β=270°である状態である。このとき、θ1=0°、θ2=−45°、R1=R2=15mm、R3=15.81mm、L1=5mm、L2=11.4mm、およびL3=11.39mmである。
【0185】
上部および下部ロータ122および132の回転角θ1およびθ2は、前述のように、磁気エンコーダ126よって得られた情報に基づいて中央演算装置151によって算出される。なお、回転角θ1およびθ2の制御方法は後述される。
【0186】
上記のようにして、羽部110の羽ばたき運動が実現される。
(トルク補助機構)
次に、図33〜図37を用いて、トルク補助機構を説明する。
【0187】
<原理>
羽ばたき飛行においては羽部110の運動方向が反転するため、打ち上げと打ち下ろしとの間に行なわれる羽部110の切り返しにおいては、アクチュエータに要求されるトルクは高くなる。しかしながら、羽部110の切り返しの直前まではアクチュエータに要求されるトルクは小さい。そこで、アクチュエータに要求されるトルクが小さな期間に、何らかの方法を用いて、アクチュエータ(上部および下部超音波モータ120および130)の運動エネルギーを蓄積しておき、アクチュエータに高いトルクが要求される期間に、蓄積されたエネルギーを羽部110に与えることで、アクチュエータに要求されるトルクの時刻歴を平滑化することができる。
【0188】
次に、図33〜図37を用いて、切り返し時のトルクの時刻歴を平滑化する手法を説明する。本実施の形態においては、その手法として、ある物質を弾性変形させることによってアクチュエータのエネルギーを蓄積し、その弾性変形した物質の復元力によってアクチュエータにエネルギーを与える手法が用いられる。なお、以後においては、弾性変形する物質に蓄積されたエネルギーによってアクチュエータに与えられるトルクを補助トルクと称する。
【0189】
図33に示されるように、本実施の形態における浮上移動装置100においては、羽部110の切り返し時にトルクのピークが極端に大きくなる現象は、上部超音波モータ120の駆動トルクT1に顕著に現れる。なお、上部ロータ122の回転角θ1および下部ロータ132の回転角θ2の制御は、図34に示されるものであるとする。また、浮上移動装置100は、羽軸としての前縁部1102を、前後方向に往復運動させるとともに、その往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、前縁部1102周りに回転させる羽ばたき運動を行なうものとする。
【0190】
上部超音波モータ120の打ち上げ動作と上部超音波モータ120の打ち下ろし動作とは前後対称である。そのため、今後は上部超音波モータ120の打ち上げ動作後の切り返し時のトルクを補助する手順のみ説明する。
【0191】
図35に示されるように、上部ロータ122の外側にバネ301が設けられている。バネ301は、筐体101のいずれかの部分に固定されている。バネ301と上部ロータ122とは、上部ロータ122の回転角がθ_contactを超えた時点で接触を開始する。なお、θ_contactの求め方については後述する。
【0192】
上部ロータ122がバネ301に接触した時点でバネ301は収縮を始めるので、上部ロータ122にはバネ301が伸張する方向に復元力が作用する。この復元力の大きさはバネ301の収縮した長さに比例するため、図36において破線で示されるようなトルクが生じる。ここでは、前述の図36に破線で示されるトルクがトルク補助機構による補助トルクと称される。なお、トルク補助機構は、本発明のエネルギー蓄積・供与機構に対応する。
【0193】
上部ロータ122を駆動するために要求されるトルクT1は、図36に細実線で示される従来のトルクT1に、前述の補助トルクを加算した値となるため、図36に太実線で示されるようになる。
【0194】
以上のように、トルクの小さい切り返し動作の前半の上部ロータ122の変位によって、バネ301に変形エネルギーが蓄えられ、バネ301の復元力によって、蓄えられた変形エネルギーが切り返し動作の後半に上部ロータ122に与えられる。すなわち、本実施の形態のトルク補助機構、すなわち、エネルギー蓄積・供与機構は、羽軸としての前縁部1102を駆動するために要求されるトルクが小さい場合にエネルギーを蓄積し、前縁部1102に駆動するために要求されるトルクが大きい場合に上部ロータ122に与える。言い換えれば、エネルギー蓄積・供与機構は、前縁部1102の切り返しの前半に上部ロータ122のエネルギーを蓄積し、切り返しの後半にエネルギーを上部ロータ122に与える。それにより、前述のトルクT1のピークが低減され、トルクの時刻歴が平滑化される。
【0195】
<設計手法>
次に、図36および図37を用いて、最大トルクをT_MAXに低減させるためのバネ301のバネ定数および収縮量の設計思想を説明する。なお、回転角θ1およびトルクT1は負の値になり得るが、説明の簡便のため、本項目の説明では、回転角θ1およびトルクT1の符号は、すべて正の値であるものとする。
【0196】
まず、図37に示されるように、切り返し動作の後半において本来のトルクT1がT_MAXと等しくなる時刻t1を求める。この時刻t1が、補助トルクが必要とされる最終の時刻であるため、この際の回転角θ1が前述の回転角θ_contactとなる。
【0197】
さらに、トルクT1が極大値T1_MAXになる回転角θ1_MAXT1のときに、トルクT1からバネ301による補助トルクを減算した値が、T_MAXより小さくなるように、バネ301のバネ定数を定める必要がある。この際のバネ301の収縮量は、回転角θ1_MAXT1と回転角θ_contactとの差に、バネ301が上部ロータ122に接触する点と上部ロータ122の回転中心位置との間の距離R_contactを乗じた値である。したがって、この時点でバネ301に発生している力F_springは、バネ301のバネ定数をkとして、次の式(8)で表わされる。
【0198】
F_spring=(θ1_MAXT1−θ_contact)×R_contact×k・・・(8)
この際に与えられる補助トルクT_springは、次の式(9)で表わされる。
【0199】
T_spring=F_spring/R_contact=(θ1_MAXT1−θ_contact)×k・・・(9)
また、次の式(10)が成立する。
【0200】
T_MAX+T_spring>T1_MAX・・・(10)
したがって、次の式(11)が得られる。
【0201】
k>(T1_MAX−T_MAX)/(θ1_MAXT1−θ_contact)・・・(11)
厳密には、すべての時刻において、式(11)が成立する必要があるが、本実施の形態においては、図36に示すように、トルクT1の最大値である場合において、式(11)が成立すれば、アクチュエータに要求されるトルクを大きく低下させることができる。
【0202】
本実施の形態においては、R_contact=4mmであり、k=160、θ_contact=30.5°であれば、トルクT1のピークが17gf・cmから10gf・cmへ低下する。
【0203】
<材料および手法の選択>
弾性変形してエネルギーを蓄える部材としては、金属などの弾性体またはゴムなどの超弾性体が適している。特に、ゴム紐は、比重が小さくかつ軽量化され易いものであるため、エネルギーを蓄える部材として望ましい。
【0204】
また、弾性変形以外の態様でエネルギーを蓄えるトルク補助機構が用いられてもよい。たとえば、気体の体積変化と圧力との関係を利用して、シリンダ内に封入された気体の収縮および伸張によって、エネルギーの蓄積および放出を行なうトルク補助機構が用いられてもよい。さらに、シリンダに封入された気体が相変化を利用して、エネルギーの蓄積および供与を行なうトルク補助機構が用いられてもよい。
【0205】
また、超音波モータ120の替わりに、電磁モータが用いられ、誘導電力が電源190等に蓄えられるトルク補助機構が用いられてもよい。
【0206】
<補足>
本項目においては、打ち上げ動作後の切り返しの際のトルクの時刻歴を平滑化する手法が説明されているが、打ち下ろし動作後の切り返しの際のトルクの時刻歴を平滑化する手法も、前述の手法と同様である。また、上部超音波モータ120のトルク補助機構の説明のみがなされたが、下部超音波モータ130のトルク補助機構にも、上部超音波モータ120のトルク補助機構と同様の構成を適用することが可能である。
【0207】
特に、本実施の形態においては、後述する先行切り返しの時に、下部ロータ132の振幅が大きくなる。この先行切り返しの時には、下部超音波モータ130に供給されるトルクが大きくなる。そのため、先行切り返しの羽ばたき方のときに下部ロータ132に前述の手法を適用することが望ましい。また、前述の手法を適用するためには、先行切り返し時に下部ロータ132が大きな振幅で往復運動することを阻害しないように、トルク補助機構としての弾性体の位置を考慮する必要がある。
【0208】
(羽ばたき方の変更による浮上移動装置の動作制御)
<動作の基本原理>
本実施の形態における浮上移動装置100は、羽部110の羽ばたき運動が生み出す浮上力の作用点より下側の部分の質量が大きいため、自動的に、図1に示される姿勢になる。すなわち、X軸周りの回転およびY軸周りの回転を制御する必要はない。一方、X軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれに沿った並進加速度、ならびにZ軸周りの回転加速度(以下、「角加速度」とも言う)は、羽ばたき方によって変更される。尚、羽ばたき運動により生じる力は羽部の運動に伴って変化するが、ここでは、羽ばたき運動の1周期平均の力を羽ばたき運動により生じる力とする。
【0209】
(コントロールパラメータ)
本実施の形態における浮上移動装置100においては、トルク補助機構が適正に機能するためには、上部超音波モータ120の回転角θ1すなわちストローク角αの振幅は固定されている必要がある。そこで、浮上移動装置100の動作を制御するために、下部超音波モータ130の回転角θ2が変更される。すなわち、浮上移動装置100は、捻り角βの変更によって、流体の流れを変化させ、それにより、姿勢を変化させる。
【0210】
具体的には、羽ばたき運動のストロークの両端のそれぞれにおいて羽部110の捻り運動のタイミングを変化させる。
【0211】
(上下方向における浮上力の変化)
Dickinsonらによって明らかにされているように、図38に示すように、(1)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも先、すなわち切り返しの前半に羽部110を捻る(捻り先行切り返し)と、浮上力は増加し、一方、図39に示すように、(2)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも後、すなわち切り返しの後半に羽部110を捻る(捻り遅れ切り返し)と、浮上力は減少する、という現象が起きる。
【0212】
(上下方向における浮上力が変化するときの前後方向における推進力の相殺)
さらに本発明者らは、図38に示す前述の(1)の動作によれば、切り返し動作前の羽進行方向に沿った抗力が増大し、図39に示す前述の(2)の動作によれば、その抗力が減少することを見出した。打ち上げ時に生じる前後方向の抗力と、打ち下ろし時に生じる前後方向の抗力とは、互いに逆向きである。そのため、打ち上げ動作と打ち下ろし動作とが前後方向に垂直な平面に対して鏡面対称であれば、それらの動作による抗力は相殺され、推進力はゼロとなる。このため、浮上移動装置は、上下方向のみにおける移動を行うことができる。
【0213】
(前後方向における推進力の変化)
逆に、打ち上げ時の切り返しと打ち下ろし時の切り返しとにおいて、図38に示す前述の(1)の動作と図39に示す前述の(2)の動作とが異なれば、その2つ動作による前後方向の抗力同士の間に差異が生じ、前方または後方のいずれかに推進力が生じる。より具体的には、図40に示されるように、打ち下ろしの後半では、遅れ切り返しによって、前方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、先行切り返しによって、前方への加速度が得られる。一方、同様に、図40に示されるように、打ち下ろしの後半では、先行切り返しによって、後方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、遅れ切り返しによって、後方への加速度が得られる。
【0214】
(前後方向における推進力が変化するときの上下方向における浮上力の変化の相殺)
尚、前方への加速度が得られる動作および後方への加速度が得られる動作のいずれが実行されるときにおいても、上方への加速度の変化と下方向への加速度の変化とを相殺することは可能である。このため、水平方向における加速度のみを得ることが可能である。
【0215】
(空間の3次元移動)
以上の説明のように、左および右の羽部110のそれぞれのストローク角α、すなわちθ1の振幅が固定されていても、θ2の時刻歴のみを変更し、打ち上げにおける羽部110の切り返しのタイミングと打ち下ろしにおける切り返しのタイミングとを異ならせることにより、羽部110に上下方向および前後方向における加速度を生じさせることができる。また、左の羽部110に生じる加速度と右の羽部110に生じる加速度とを異ならせることによって、浮上移動装置100の姿勢を左または右に傾けること、ならびに、浮上移動装置100が左方向または右方向へ旋回することが可能になる。
【0216】
<具体的な制御の詳細>
以下、図38に示す前述の(1)に記載の羽ばたき方を捻り先行切り返し(以下、単に、「先行切り返し」という。)と言い、図39に示す前述の(2)に記載の羽ばたき方を捻り遅れ切り返し(以下、単に、「遅れ切り返し」という。)と言い、図34に示すホバリング時の羽ばたき方を中央切り返しと言うものとする。
【0217】
また、ホバリング、Z軸方向における並進運動、およびY軸方向における並進運動は、それぞれ、左右対称である。したがって、羽部の動作も、左右対称である。そのため、左右対称な動作のうちの左の羽部110の動作についてのみの説明がなされるものとする。
【0218】
(ホバリング)
図34には、ホバリング時の羽ばたき方が示されている。図34においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽部110の断面の時刻歴とともに示されている。このときの浮上力は自重と釣り合っており、前後方向への推進力はゼロである。
【0219】
(Z軸方向の並進制御)
図38には、Z軸に沿った上方への移動、すなわち上昇のための羽ばたき方が示されている。図39には、Z軸に沿った下方への移動、すなわち下降のための羽ばたき方が示されている。図38および図39においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽部110の断面の時刻歴とともに示されている。なお、左右の羽部110は、YZ平面を対称面とする鏡面対称の動作を行なう。
【0220】
図38に示す動作は、前述の(1)に記載の先行切り返し動作であり、図39に示す動作は、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作である。これらの動作の際の前後方向における加速度は、図40に示されるとおりゼロである。
【0221】
(Y軸方向の並進制御)
図41および図44には、前方へ移動するための羽ばたき方が示され、図41および図45には、後方へ移動するための羽ばたき方が示されている。なお、左右の羽部110は、YZ平面を対称面として、鏡面対称の動作を行なう。
【0222】
前方への移動の際には、打ち上げ終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれ、打ち下ろし終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれる。
【0223】
後方への移動の際には、打ち上げの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれ、打ち下ろしの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれる。
【0224】
なお、前述の通り、遅れ切り返しの際に浮上力は減少し、先行切り返しの際に浮上力は増加するため、Y軸方向の並進運動において、前述の(1)および(2)に記載の動作により生じる浮上力同士を相殺することは可能である。すなわち、浮上移動装置100は、高度を保ったまま、前後方向へ移動することが可能である。
【0225】
(X軸方向の並進制御)
左方への移動を行なうためには、右の羽部110が上昇のための動作をし、左の羽部110が下降のための動作をすればよい。これにより、浮上移動装置1は、左の羽部110が右の羽部110よりも下側に位置するように姿勢を変更し、それにより、浮上力のベクトルの先端が鉛直上方向きの状態から右側に傾く。これにより、浮上移動装置100を左方へ移動させる力が生じる。
【0226】
なお、このとき、浮上力の低下が起こることがあり得るため、X軸方向の並進制御とZ軸方向の上方への移動のための制御とを併せて行なうことが望ましい。
【0227】
(Z軸周り回転制御)
Z軸周りに正方向の回転、すなわち左への旋回を行なうためには、左の羽部110が後退のための羽ばたき方で動作し、右の羽部110が前進のための羽ばたき方で動作すればよい。
【0228】
Z軸周りに負方向の回転、すなわち右への旋回を行なうためには、左の羽部110が前進のための羽ばたき方で動作し、右の羽部110が後退のための羽ばたき方で動作すればよい。
【0229】
いずれの場合においても、上述のように、左および右の羽部110による浮上力同士は相殺され得るものであるため、高度が維持された状態で、浮上移動装置100のZ軸周りの回転が行なわれる。
【0230】
(Y軸周り回転制御)
本実施の形態においては、姿勢は自律的に安定するため、Z軸周り以外の回転を制御することは必要ではないが、敢えて姿勢を傾けたい場合などに、Y軸周りの回転角、すなわちロール角の変更を実現することができれば、便利である場合がある。
【0231】
特開2006−232169に示されるように、左右の羽部の前後方向の振幅を異ならせることでY軸周りの回転角、すなわちロール角を変更することができる。左右の羽部の振幅を異ならせることは、デューティ比を比例的に増減させることで実現され、たとえば、左右の羽部のデューティ比の関係が図43に示されるような関係であれば実現される。これは、図12に示される座標系においてY軸回りの正の回転、すなわち、図12における左の羽部が下がり、かつ、右の羽部が上がるような、浮上移動装置の回転を引き起こす羽ばたき方によって実現される。浮上移動装置がY軸まわりに負の方向に回転する場合には、図43における左の羽部のデューティ比のグラフと右の羽部のデューティ比のグラフとが入れ替えられる。
【0232】
(制御の変更方法)
以上により、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方、すなわち、先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しを使い分けることで、浮上移動装置100は空間を自在に移動することができる。また、左右の羽の振幅を変更することにより、ロール角の変更が可能である。
【0233】
なお、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方は、いずれも、羽部110の前後方向の往復運動の終端の前から後にかけての所定期間内に行なわれる。そのため、羽ばたき運動のストロークの中心の前から後にかけての所定期間、すなわちストローク角α=0°の前から後にかけての所定期間内においては、回転角θ1およびθ2の値は、その速度および加速度を含めて同一である。したがって、上記のように、回転角θ1およびθ2が共通している期間内に羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽部110の動作を何ら補間することなく、機械的に次の羽ばたき方を選択するだけで、羽部110の動作に不連続性を生じさせることなく、ある羽ばたき方から他の羽ばたき方へ円滑に遷移することが可能である。
【0234】
(制御の選択)
上記のように、θ1=0°の位相において羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽ばたき方の状態を示す表現方法として、打ち下ろし、打ち上げ、およびそれぞれの終端での切り返し、という区分を行なうことは適切ではない。打ち下ろし後半および打ち下ろし後の切り返しおよび打ち上げの前半を前方羽ばたき運動とし、打ち上げ後半および打ち上げ後の切り返しおよび打ち下ろしの前半を後方羽ばたき運動として、羽ばたき方を二つに区分することが合理的である。
【0235】
すなわち、左および右の羽部110における前方羽ばたき運動および後方羽ばたき運動において、それぞれ、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの選択を行なうことによって、最も簡便に、羽ばたき方の制御を行なうことができる。前述の説明に基づいた浮上移動装置の羽ばたき方に対応した左羽の動作および右羽の動作が、表4に示されている。
【0236】
【表4】
【0237】
前述の実施の形態の浮上移動装置の説明においては、制御の手法を簡単にするために、前方羽ばたきにより生じる流体力と後方羽ばたきにより生じる流体力とを相殺することによって、意図しない方向への移動または意図しない姿勢の変更が生じないものとされた。すなわち、浮上移動装置は、X軸、Y軸、およびZ軸のいずれか1つについての1自由度運動のみを行うものとした。しかしながら、浮上移動装置が上昇しながら右旋回する等の複合的な運動をすることが望ましい場合がある。この場合の複合的な運動も、左右の羽部の前方羽ばたき運動と後方羽ばたき運動との組み合わせによって実現される。
【0238】
右の羽および左の羽の羽ばたき運動のそれぞれは、3通りの前方羽ばたきと、3通りの後方羽ばたきとの組み合わせによって決定される。それらの羽ばたき運動は、独立して選択され得るものである。そのため、左の羽部および右の羽部のそれぞれの羽ばたき運動は、9通りである。このため、左および右の2つの羽部の羽ばたき方の組み合わせは81通りである。この81通りの羽ばたき方が表5に示されている。
【0239】
【表5】
【0240】
表5における記号A,C,およびDは、それぞれ、先行切り返し(Advanced)、中央切り返し(Center)、および遅れ切り返し(Delayed)を意味し、これらは、それぞれ、図38、図34、および図39に示される羽ばたき方である。表5の縦欄および横欄が、それぞれ、右羽および左羽の羽ばたき方を示し、表5の中で、大分類および小分類が、それぞれ、後方羽ばたきおよび前方羽ばたきを表している。たとえば、
左羽前方羽ばたき:先行切り返し
左羽後方羽ばたき:中央切り返し
右羽前方羽ばたき:中央切り返し
右羽後方羽ばたき:遅れ切り返し
という組み合わせが選択された場合には、表7から、(−2,−2,0,0)の値が得られる。これにより、図1に示される座標系において、浮上移動装置は、右前方へ移動する。
【0241】
逆に、この中で浮上移動装置100の浮上移動制御に用いる代表的な運動をピックアップすることによって、表6のような羽ばたき方を決定するためのテーブルが作成される。
【0242】
【表6】
【0243】
したがって、浮上移動装置に要求される移動の形態に基づいて、羽ばたき方を定める関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)を決定することができる。ここで、各引数は±4、±2、もしくは0であり、対応する各運動成分の正(+)、負(−)、ゼロ(0)、および絶対値はその引数の符号および値に対応している。
【0244】
この関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)の出力は、羽ばたき方を決めるパラメータ、もしくはその組み合わせ、つまり、本実施の形態では、表4または表6に示されている、左羽および右羽のそれぞれの前方羽ばたきおよび後方羽ばたきの種類(先行切り返し、中央切り返し、遅れ切り返し)を特定可能な値である。なお、表4は、表6が簡略化されたものであり、一自由度のみの制御が行われる場合に用いられる。
【0245】
また、θxおよびθyは、本実施の形態においては、浮上移動装置100の重心が羽部の力学的作用点より下方に位置付けられているために、浮上移動装置が自律的に安定するので、すなわち、それらの値が0に収束するので、この関数に含まれていない。
(補足事項)
なお、本項目においては、最も簡便に位置制御を実現する手法の一例が記載されているが、本発明の羽ばたき方は本項目の羽ばたき方に限定されるものではない。たとえば、本実施の形態においては、回転角θ1およびθ2の角速度は、切り返しの期間を除いて略一定であるものとされている。つまり、羽部110の往復運動は、図54に示すように、角速度が一定である打ち上げおよび打ち下ろしの運動と、これに連続する、角速度が変化する切り返しの運動、すなわち往復運動の運動方向を反転させるための運動とからなるものである。切り返しの運動の角速度は、打ち上げの運動の角速度および打ち下ろしの運動の角速度のそれぞれに連続するように変化する。この切り返しの運動としては、例えば1変数の三角関数等が挙げられる。しかしながら、回転角θ1およびθ2の角速度を変化させることによって、周囲流体から受ける反作用を変化させて、浮上移動装置100を移動させる手法が用いられてもよい。
【0246】
また、本項目においては、説明の簡便のため、3種類の羽部110の切り返しのパターンの組み合わせによって、すべての羽ばたき方が表現される手法が用いられているが、この手法は、羽ばたき方の表現の一例であり、本発明の羽ばたき方は、前述の手法によって表現される羽ばたき方に限定されない。
【0247】
たとえば、回転角θ1およびθ2のパターンが多数存在する羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。すなわち、先行切り返しおよび遅れ切り返しのタイミングが複数種類ある羽ばたき方、または、切り返しのタイミングを連続的に自由に変更できる羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。逆に、中央切り返しは、先行切り返しと遅れ切り返しとを交互に繰り返す羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。このような羽ばたき方の表現手法であれば、中央切り返しのパターンのためのデータをメモリに記憶しておく必要が無いため、回転角θ1およびθ2のパターン数を低減させることができる。
【0248】
また、図34、図38、図39、図44、および図45に示される回転角θの時刻歴は、図31および図32に表わされる構成を有する浮上移動装置100の回転角θの一例である。実際には、羽部110を駆動するメカニズムに応じて、そのメカニズムを制御する各種パラメータが、前述の羽部110の先行切り返しおよび遅れ切り返しを実現するように設定されるのであれば、回転角θの時刻歴は、図34、図38、図39、図44、および図45に示される回転角θの時刻歴に限定されない。
【0249】
また、本実施の形態においては、浮上移動装置100の姿勢が自動的に所定の状態を維持されることを前提としているため、ロール角の変更のための制御は実行されていない。しかしながら、ロール角の制御については、特開2006−232169にて、その制御方法が示されている。より具体的には、右の羽部の羽ばたきストロークを拡大した図43に示されるデューティを用いれば、右の羽部が上昇し、左の羽部が低下する。右の羽部を低下させ、左の羽部を上昇させるように、ロール角を変化させたいのであれば、図43における右の羽部のグラフと左の羽部のグラフとを入れ替えればよい。
【0250】
(位置検出センサ)
位置検出センサ160は、筐体101に固定されている。そのため、位置検出センサ160によって計測された位置および姿勢は、浮上移動装置100の位置および姿勢そのものとなる。位置検出センサ160は、図46に示すように、計測された位置および姿勢のデータを後述する中央演算装置151に与える。このような機能を実現するためのセンサは、技術の進展により変化するものであり、本発明の本質に関わるものではないため、いかなるものであってもよい。また、前述の姿勢を検出するためのセンサの一例としては、磁気と加速度との組み合せで、0.5°程度の姿勢の変化を検出することができるものが市販されている。たとえば、GPS(Global Positioning System)によって1m程度の誤差で位置検出を行うことができる。また、近年、UWB(Ultra Wide Band)のような、通信に用いる電波を利用して距離計測を行う技術も開発されている。
【0251】
(制御回路)
制御回路150は、図46および図47に示すように、中央演算装置151(Central Processing Unit)、中央演算装置151の指令により上および下部超音波モータ120および130を駆動するドライバ152、ならびに、ドライバ152に高電圧を供給する昇圧回路153等を有している。
【0252】
<制御回路の動作>
オペレータ210が操作するコントローラ600により浮上移動装置100に与えられた情報により、行動演算装置751は浮上移動装置100の行動を決定する。この決定された行動は、今後、運動指令と称する。運動指令は、一時記憶装置(以後、「RAM(Random Access Memory)」と言う。)155に格納される。中央演算装置151は、RAM155に記憶された運動指令に基づいて、左右の羽の羽ばたき方および画像センサ180の仰角を選択し、更にその羽ばたき方を実現するための、各超音波モータの駆動データを固定記憶装置(以後、「ROM(Read Only Memory)」と言う。)154から得る。その後、中央演算装置151は、その駆動データをドライバ152に与える。それにより、浮上移動装置100は、前述の運動指令に従った行動を行う。
【0253】
<中央演算装置>
(機能の概要)
中央演算装置151は、前述の運動指令、ROM154およびRAM155の情報を用いて、ドライバ152にPWM(Pulse Width Modulation)信号および回転方向制御信号を出力する。これにより、オペレータ210がポインタコントローラ600を用いて浮上移動装置100へ与えた運動指令に応じて超音波モータ120おび130が動作する。その結果、運転指令に対応する羽ばたき方が実現される。なお、羽ばたきの往復運動の周期は、反復タイマ156を用いて決定される。
【0254】
<反復タイマ>
中央演算装置151は、図46および図47に示すように、反復タイマ156を内蔵している。反復タイマ156は、羽ばたき運動の位相ψとして、−0.5〜0.5の値を50Hzの繰り返し周期で、中央演算装置151に出力する。ただし、羽ばたき運動の位相ψが、−0.5からカウントアップされ、0.5になると、再度、位相ψの値が−0.5からカウントアップされるものとする。この反復タイマ156の1周期に対応して、羽部110が往復運動の中央位置よりも前方に位置する前方羽ばたき運動、および、羽部110が往復運動の中央位置よりも後方に位置する後方羽ばたき運動のそれぞれが行なわれる。すなわち、反復タイマ156の1周期が羽ばたき運動の周期の2倍に対応する。本実施の形態においては、位相ψが正であれば、浮上移動装置100は後方羽ばたき運動を行ない、位相ψが負であれば浮上移動装置100は前方羽ばたき運動を行なうものとする。近年、機器制御に用いられているマイクロコントローラの多くには、本項で説明されている反復タイマとほぼ同様の、オートリロードタイマと呼ばれる機能が含まれており、これを用いることで、最も簡便に本項の反復タイマの機能を実現することができる。
【0255】
<ROMに格納された羽ばたき方のデータ>
ROM154は、羽ばたき方のデータを格納している。羽ばたき方のデータは、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比の時刻歴のデータである。なお、超音波モータ120および130には、周波数が250KHzでありデューティ比が50%に固定された駆動電圧が印加される。一方、図48に示すように、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比とは、デューティ比が50%に固定された250KHzの駆動電圧のON期間とOFF期間との和に対するON期間の比率である。
【0256】
すなわち、前述の先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しの3つのモードに対応する羽ばたき方のデータは、羽ばたき運動の位相ψに対応したドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比として、ROM154に予め格納されている。なお、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比は、Duty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)で示される。ただし、表4および表6に示すように、−0.5≦ψ<0.5において、MODE=1が先行切り返しであり、MODE=0が中央切り返しであり、MODE=−1が遅れ切り返しであるものとする。
【0257】
図49〜図51には、それぞれ、後方での切り返し動作行なう場合の、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しにおけるDuty1およびDuty2の値が示されている。ただし、Duty1およびDuty2が負の値であれば、羽部110は、往復運動の中央位置を基準にして、後方から前方へ移動する動作が行なわれていることを意味する。なお、本実施の形態においては、各Dutyの関数は、羽ばたき動作が前後方向に対して垂直な面に関して対称であるため、Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ)と表現され得る。
【0258】
すなわち、符号変換のみによって、ψが負の領域での各Duty値は、ψが正の領域での各Dutyの関数を用いて算出される。そのため、上記の各Dutyの関数は、ψが正である領域のみ、ROM154に格納されている。これによれば、ROM154に格納されている各Duty関数のデータ量を半分に減らすことができる。よって、本実施の形態においては、各Duty関数のうちψが正の領域のみが示される。
【0259】
なお、右の羽部110と左の羽部110とはZ軸に対して鏡面対称であるため、前述の座標系のX軸の方向の正と負とを反転させた左手系の座標が採用されれば、右の羽部110の制御においても前述と同様のDuty1およびDuty2を用いることができる。
【0260】
また、上部ロータ122を駆動するための電圧のDuty1のグラフは、図49〜図51のいずれにおいても同一のグラフになっているが、下部ロータ132を駆動するための電圧のDuty2のグラフは、図49〜図51において異なったグラフになっていることが分かる。また、図34、図38、および図39から分かるように、上部ロータ122の回転角θ1のグラフは、羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)が変更されても同一であるが、下部ロータ132の回転角θ2のグラフは、羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)に応じて異なっている。これによれば、上部ロータ122の振幅は常に一定値に固定されているが、下部ロータ132の振幅は羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)に応じて異なっていることが分かる。
【0261】
<中央演算装置の動作>
中央演算装置151は、位相ψの符号に基づいて、現在の羽ばたき方が前方羽ばたき運動であるか、または、後方羽ばたき運動であるかを判断する。その後、中央演算装置151は、ROM154に格納されている表4または表6に示すデータに基づいて、羽ばたき方の状態を判断するとともに、RAM155に格納されている運動指令に応じて、前述のMODEの値を判断する。
【0262】
さらに、中央演算装置151は、前述の位相ψの値に基づいて、ROM154に格納されたDuty1およびDuty2の値を得る。この値の絶対値が、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比である。また、この値の符号が、ドライバ152へ送信される、上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの回転方向である。前者は、例えばABS(Duty)というコマンドで表現され、後者は、例えばSIGN(Duty)というコマンドで表現される。これらのコマンドは、マイクロコントローラに内蔵されている。これらのコマンドを用いた演算は、一般的なマイクロコントローラにおいて容易に実行されるものである。
【0263】
中央演算装置151は、前述のデューティ比に基づいて、羽ばたき方に対応するPWM制御のためのON/OFF信号をドライバ152に出力するとともに、位相ψの正または負に応じた回転方向制御信号をドライバ152に出力する。
【0264】
本実施の形態では、振動板1211の共振周波数が250kHzであるため、たとえば、共振周波数が2.5kHzであるPWM制御が実行されれば、100段階の超音波モータの制御を行なうことが可能である。
【0265】
<ドライバの動作>
ドライバ152は、中央演算装置151から与えられたPWM制御信号のON/OFFおよび回転方向制御信号に応じて、超音波モータ120を回転/停止、および、正転/反転させる。
【0266】
超音波モータ120は自己位置保持機能を有するため、回転および停止の動作は、PWMのON/OFFに応じて後述の電力供給をON/OFFすることによって、実現される。
【0267】
また、図22および図23に示されるように、超音波振動子121において、裏面電極1217に与えられる電位φAの位相と表面電極1216に与えられる電位φBの位相との差を変更することによって、上部ロータ122の正回転と負回転との間の変更を行なうことができる。
【0268】
ドライバ152は、中央演算装置151からPWM信号を受けて、電位φAおよびφBのデータを作成する回路と、昇圧回路153から供給される高圧電力を制御して、超音波振動子121の表面電極1216および裏面電極1217に電位φAおよびφBを与える回路とからなる。前者は、一般的なタイマ回路やCPU(Central Processing Unit)を用いて容易に実現され得るものであり、後者は、たとえば、ハーフブリッジ回路を用いて実現される。これは、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)技術を用いて集積化され得るものであり、後述されるように、羽ばたき飛行という用途に十分に適したものになり得るほど小型化および軽量化され得るものであり、市販されているものである。本発明者らの実験によれば、これらの回路は、3mm×3mm×0.85mmの小型パッケージに収められ得るものであり、そのパッケージの質量は約25mgである。
【0269】
一般的に、前者のプログラムは以下のように表される。
:Label
if(PWM=ON) then
if(回転方向=正方向) then
φA=1
φB=1
φA=0
φB=0
end if
if(回転方向=逆方向) then
φB=1
φA=1
φB=0
φA=0
end if
end if
goto Label
但し、これらは簡易に前者回路の動作を表現するための一例であり、実際のプログラムにおいては、φAおよびφBのそれぞれが250kHzの矩形波となるようなタイミング調整が行われるため、ダミーの実行文の挿入等が必要になる。
【0270】
<昇圧回路>
昇圧回路153は、電源190の電圧(3V)を、超音波モータの駆動のために必要な±15Vの電圧に変更して、±15Vの電圧をドライバ152に印加する。昇圧回路153としては、一般的なDC(Direct Current)−DCコンバータが用いられ、その一例として、3mm×3mm×0.85mmという小型パッケージが市販されている。昇圧回路153の質量は約25mgである。
【0271】
<ブロック図>
前述の制御の体系のブロック図が図46に示されている。なお、4つの超音波モータの駆動方法は同一であるため、図46には左の羽部110を駆動する上部超音波モータ120の制御体系のみが示され、他の制御体系は省略されている。また、図47は、後述する図52のフローチャートにおけるデータ処理の流れを説明するための機能ブロック図である。
【0272】
<制御フローチャート>
次に、図52を用いて、浮上移動装置の制御のためのフローチャートの一例を説明する。なお、このフローチャートは、一例であり、浮上移動装置100のアプリケーションによって変更され得るものである。
【0273】
なお、以下のフローチャートにおいて、反復タイマ156は前述のオートリロードタイマを用いて恒常的に動作しており、ステップS1においては、ψ=0である状態から処理が開始されるものとする。このとき、α=0°であるものとする。
【0274】
ステップS1<浮上移動装置動作決定>
ポインタコントローラ600によりオペレータ210の指示が浮上移動装置100に与えられ、浮上移動装置100は受信されたシリアルデータの位置信号および方位信号を用いて、表1および表2のデータを参照して、浮上移動装置100の行動を算出する。算出された行動は、運動指令として中央演算装置151に与えられる。
【0275】
ステップS2<羽ばたき状況検出>
中央演算装置151は、反復タイマ156から送信されてきた位相ψの値のデータに基づいて、浮上移動装置100の現時刻での羽ばたき方の状態を認識する。具体的には、中央演算装置151は、位相ψの値が正であれば、浮上移動装置100が後方羽ばたき運動を行なっていると判断し、位相ψが負であれば、浮上移動装置100が前方羽ばたき運動を行なっていると判断する。
【0276】
ステップS3<羽ばたきモード決定>
中央演算装置151は、左および右それぞれの羽部について、上記運動指令(前進、後退等)に応じて表4または表6の行成分を選択し、かつ、上記羽ばたき方の状態(前方羽ばたき、もしくは、後方羽ばたき)に応じて表4または表6の列成分を選択する。それにより、中央演算装置151は、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの中からいずれか1の羽ばたきモード、すなわちMODEの値を選択する。選択された羽ばたきモードのデータは、RAM155に格納される。
【0277】
ステップS4<デューティ比決定>
中央演算装置151は、前述の羽ばたきモードのデータに基づいて、ROM154に格納されたDuty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)のデータの中からドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比を選択する。
【0278】
ステップS5<ドライバ駆動>
中央演算装置151は、上記PWM制御信号のデューティ比の正または負に応じて、回転方向制御信号をドライバ152に出力するとともに、そのデューティ比のPWM信号をドライバ152に出力する。すなわち、ABS(A)をAの絶対値とし、SIGN(A)をAの符号とすると、回転方向制御信号はSIGN(Duty)であり、デューティ比はABS(Duty)である。なお、ここで、Dutyは、上部および下部超音波モータ120および130に対応しているDuty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)を意味する。
【0279】
ステップS6<超音波モータ駆動>
ドライバ152は、上記回転方向制御信号に応じて、振幅が30Vであり、かつ、周波数が250kHzである矩形波の電圧を表面電極1216および裏面電極1217に印加する。これらの2つの矩形波は、±90°位相が異なっている。具体的には、ドライバ152は、超音波振動子121の表面電極1216に矩形波の電位φBを与え、また、超音波振動子121の裏面電極1217に矩形波の電位φAを与える。この矩形波の電位φAの位相と矩形波の電位φBの位相とが±90°ずれている。
【0280】
ステップS7<次回羽ばたきモード選択>
ψ=0またはψ=−0.5の場合には、羽ばたき方の状態が変更されたことを意味するため、再びステップS1の処理が実行され、運動指令の変更も含め、羽ばたきモードが更新される。ψ=0またはψ=−0.5以外の場合には、羽ばたきモードは更新されず、ステップS4の処理が実行され、新たな位相ψが設定され、ステップS1に戻る。
【0281】
<補足>
なお、上記指令の形態はあくまで説明のための一例であり、これに限定されない。たとえば、速度指令が電圧値としてアナログ信号で与えられることにより、量子化誤差のない滑らかな速度指令が得られる手法が用いられてもよい。また、超音波モータの駆動に必要な電圧は、技術の進歩によって変化し得るものである。たとえば、現行の主なTTL(Transistor Transistor Logic)−IC(Integration Circuit)やCPU(Central Processing Unit)の駆動電圧である3V以下で駆動し得る超音波モータが実現されれば、昇圧回路153は不要となる。
【0282】
さらに、本実施の形態では、説明の簡便のため、デューティ比に応じて超音波モータ120および130の回転速度が一義的に決定されるという仮定の下に説明がなされているが、負荷の変動などによってはこの仮定が成り立たない場合も考えられる。この場合には、上部磁気エンコーダ126の信号によって得られる上および下部超音波モータ120および130の回転角θ1およびθ2の値を参照して、デューティ比が調整されてもよい。
【0283】
(高機動力要件の検討)
<<単独性>>
本実施の形態における羽ばたき浮上移動装置100の制御は、表4および表6に示されるように、全て、羽ばたき運動の両端における羽部の捻り動作のタイミングの選択によって行われる。これは、胴体の姿勢に拘束されないため、単独性が確保される。
【0284】
より具体的には、図40および図41に示される先行切り返しおよび遅れ切り返しのうちの一方の羽ばたき方が選択されると、羽部110の加速度の水平方向成分を独立して制御することが可能で、羽ばたき運動の1周期における羽部110の加速度の水平方向成分の方向を前方および後方のいずれかに向けることができる。したがって、浮上移動装置は、本体部(筐体101)の姿勢を変化させることなく、羽部110の動作のみの変更によって、流体力の方向を変更することが可能である。
【0285】
<<連続性>>
前述の羽部110の捻り、すなわち切り返しの動作は、羽ばたき運動における羽部110の往復運動の始点または終点を含む特定期間においてのみ異なり、いずれの羽ばたき方においても、羽ばたき運動の往復運動の中心位置を含む所定期間においては、羽部110の運動は同一である。つまり、複数種類の羽ばたき運動は、往復運動の中心位置を含むタイミングにおいて、共通の動作をする。このため、羽ばたき運動中に羽ばたき方の変更がなされても、その羽ばたき方の変更が共通の動作をするタイミングにおいてなされるのであれば、1の羽ばたき方から他の羽ばたき方への変化における羽部110の挙動は、連続的なものである。つまり、羽ばたき方の変更はスムーズに行われる。
【0286】
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置は、制御回路150のROM154が、羽部110に羽ばたき運動をさせるための複数種類のデータ(表4または表6参照)を有し、複数種類のデータに基づいてアクチュエータ(上部および下部ロータ120および130)を制御する。複数種類のデータのそれぞれは、羽部110の往復運動の1周期の動作を特定可能であり、複数種類のデータは、往復運動の1周期の所定期間において、羽部110に共通の羽ばたき運動をさせるものである。具体的には、複数種類のデータは、先行切り返しのためのデータ(図38)、中央切り返しのためのデータ(図34)、および遅れ切り返しのためのデータ(図39)からなる3種類のデータである。図41および図42ならびに表4または表6によって表わされているように、浮上移動装置100の運動(停空、上昇、下降、前進、後退、右移動、左移動、右旋回、および左旋回、ならびにこれらの組み合わせ)は、前述の複数種類のデータを逐次選択して組み合わせることにより実現される。制御回路150は、羽部110の往復運動の中心位置を含む所定期間において、アクチュエータ(ロータ120,130)が複数種類のデータのうちの1のデータによって特定される羽ばたき運動を羽部110にさせる制御からアクチュエータが複数種類のデータのうちの他のデータによって特定される羽ばたき運動を羽部110にさせる制御へ切り換える。
【0287】
上記の構成によれば、羽部の運動に不連続な変化が生じることなく、羽ばたき運動の態様を変更することができる。そのため、羽ばたき運動の「連続性」が実現される。
【0288】
また、羽部は、1のデータによって特定される羽ばたき運動においては、往復運動の一周期のうちの2つの特定期間のそれぞれにおいて行われる他のデータによって特定される羽ばたき運動とは異なる軌跡を描くことが望ましい。これによれば、羽部110は、往復運動の1周期の間に最大で4種類の状態に順次変化する。そのため、羽ばたき運動のバリエーションが豊富になる。
【0289】
<<独立性>>
また、2つの特定期間は、互いに1/2周期ずれていてもよい。これによれば、1の特定期間と他の特定期間とが時間的に最も大きくずれて繰り返される。そのため、一方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
【0290】
また、2つの特定期間の一方および他方は、それぞれ、羽部110の往復運動の一方端に位置するタイミングおよび羽部110の往復運動の他方端に位置するタイミングを含むことが望ましい。つまり、羽部110の切り返しは、前後方向の往復運動の端部を含む期間において行なわれることが望ましい。これによれば、1の特定期間における羽部110の位置と他の特定期間における羽部110の位置とが最も大きく離れている。そのため、一方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
【0291】
すなわち、本実施の形態の浮上移動装置においては、羽ばたき運動の両端のそれぞれを含む特定期間においてのみ羽部110の動作が異なる複数種類の羽ばたき運動が行われる。そのため、以前の羽ばたき運動によって生じた流体の挙動が現在の羽ばたき運動に与える影響は極力低減されている。これにより、独立性が実現されている。
【0292】
<<単純性>>
また、2つの特定期間の一方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分と、2つの特定期間の他方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分とが、相殺される。これによれば、羽ばたき運動の変更に起因する浮上移動装置の姿勢の変化の態様が単純になる。そのため、浮上移動装置を所望の姿勢にするための制御が容易になる。したがって、羽ばたき運動の変更における「単純性」が確保される。
【0293】
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置においては、表4または表6に示されるように、浮上移動装置の浮上移動の態様(停空、上昇、下降、前進、後退、左移動、右移動、左旋回、右旋回、およびこれらの組み合わせ)と、浮上移動の態様を実現するための羽ばたき方(先行切り返し、中央切り返し、および遅れ切り返しの組み合わせ)とが一対一に対応している。そのため、羽ばたき方に対応する上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの駆動デューティ比のデータが変更されるだけの極めて単純なアルゴリズムによって、浮上移動態様の変更を実現することができる。したがって、本実施の形態の浮上移動装置においては単純性が実現されている。
【0294】
更に、複数のデータのうちのホバリングのためのデータによって特定される羽ばたき運動は、羽部110に上下方向および左右方向を含む平面に対して鏡面対称な前後方向の往復運動をさせるものであり、制御回路150は、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の一方端まで羽部110を移動させるための基本データ(図49、図50、および図51)と、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の他方端まで羽部110を移動させるように、基本データを変換するためのアルゴリズムまたは演算機能部、即ち(Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ))という演算式とを含んでいることが望ましい。これによれば、制御回路150は、羽ばたき運動の1周期の1/2の期間のみのためのデータを有しているだけで、所望の羽ばたき運動を羽部110にさせることができる。そのため、制御回路150のデータの記憶のためのメモリ容量を低減することができる。その結果、浮上移動装置を小型化かつ軽量化することができる。
【0295】
(通信装置)
通信装置170は、画像センサ180よって得られた画像情報を、ポインタコントローラ600に送信する。この手段は一般的に用いられている無線通信で、浮上移動するに十分軽量に実装できるものであれば特に限定が必要なものではない。
【0296】
(電源)
本発明の駆動エネルギー源としての電源190は、必要とされる電力を供給できる放電特性を有し、かつ、浮上を妨げない質量を有するものであれば、いかなるものであってもよい。
【0297】
本発明者らが用いた電源190は、質量0.7gのリチウムイオン電池で、本発明者らの計算によれば、約50秒にわたり0.6Wを供給することができる。電源190は、筐体101の下部に設けられている。そのため、電源190は、羽部110が受ける流体反力の作用点であるベアリング123より下側に位置し、浮上移動装置100の姿勢を自律的に安定させている。
【0298】
この他の電源としては、燃料電池、電気二重層コンデンサなどのキャパシタ、太陽電池、および有線による供給、等が挙げられる。また、これらの電源が併用されてもよい。たとえば、リチウムイオン電池の他に、羽部110の表面に太陽電池が設けられ、これらの電力が併せて用いられてもよい。
【0299】
(筐体)
筐体101は、底部プレート102、上部プレート103、底部プレート102と上部プレート103とを連結するフレーム部104、および、底部プレート102に設けられた脚105からなる。
【0300】
底部プレート102および上部プレート103は、厚さ0.2mmのCFRPからなり、フレーム部104は厚さ35μmのステンレスからなる。脚105は、肉厚40μm、長さ10mm、かつ直径0.5mmのCFRPの中空パイプからなる。
【0301】
また、上部プレート103および底部プレート102は、ロータシャフト124、支持シャフト127、および筐体補強ポール112によっても連結されている。
【0302】
(浮上の可否)
<質量>
本発明者らの計算によれば、羽部1枚が生み出す浮上力は1.2gfである。よって、羽部2枚が生み出す浮上力は2.4gfである。また、各構成要素の質量が表7に示されている。表7に示されるように、浮上移動装置100の総質量は2.17gfであり、この値は、前述の浮上力2.4gfよりも小さいため、浮上移動装置100は、浮上することができる。
【0303】
【表7】
【0304】
<消費電力>
本発明者らの計算によれば、浮上移動装置100の羽部が1.2gfの浮上力を生ずるに要求される機械的パワーは上および下部超音波モータ120および130共に最大40mWである。各超音波モータのエネルギー変換効率は33%である。したがって、浮上のために要求される最大電力は超音波モータ1つにつき約120mWであり、それらの電力の合計は480mWである。ドライバ152および昇圧回路153の総合効率は約85%であるため、4つの超音波モータの駆動のために必要な電力は最大565mWである。
【0305】
中央演算装置151の消費電力は5mWである。磁気エンコーダ126の消費電力は5mWである。位置検出センサ160の消費電力は5mWである。画像センサ180の消費電力は15mWである。通信装置170の消費電力は5mWである。
【0306】
これらの電力の総計は、最大600mWであり、電源190の能力の範囲内の値である。したがって、浮上移動装置100は、内蔵された電源190から供給された電力のみを用いて浮上することができる。したがって、浮上移動装置100は、外部から電力の供給を受けることなく、独立して羽ばたき飛行することができるスタンドアロンタイプのロボットになり得るものである。
【0307】
<実施の形態2>
次に、図55〜図61を用いて、本発明の実施の形態2の移動ロボットシステムを説明する。なお、説明の簡便のため、実施の形態1と同一の構成要素には同一番号が付され、その説明は繰り返されない。
【0308】
<全体の構成および動作原理>
先ず、図55〜図57を用いて、システムの全体の構成およびシステムの動作原理が説明される。
【0309】
図55〜図57に示されるように、浮上移動装置2100におけるデータ受信部2700には、方位指示用の赤外線発光ダイオード2711〜2714が設けられており、浮上移動装置100は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600と同様に、図58に示されるような分布を有する方位信号を送信することができる。
【0310】
なお、図58に示される方位信号の座標軸は、実施の形態1における赤外線受光素子と同様に、浮上移動装置2100またはCMOSイメージャ181を基準として設定されている。
【0311】
本実施の形態のポインタコントローラ2600は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600の構成に加えて、浮上移動装置2100が発信した方位信号を受信することができる方位信号受信センサ615を備えている。また、ポイントコントローラ600は、方位信号受信センサ615によって受信された方位信号を、実施の形態1において説明された赤外線発光ダイオード611〜614のシリアルデータに付加して、浮上移動装置100へ送信することができる。
【0312】
ポインタコントローラ2100が送信した方位信号は、浮上移動装置2100の赤外線信号受光素子2715によって受信される。つまり、図59に示されるような状態において、浮上移動装置2100は、自らが送信した方位信号を、ポインタコントローラ2600を経由して、受け取ることができる。
【0313】
以上の構成によれば、浮上移動装置2100は、ポインタコントローラ2600が指し示す方向における所定の位置を基準としたときの浮上移動装置2100の位置を示す信号、浮上移動装置2100またはこれに搭載されたCMOSイメージャ181が指し示す方向における所定の位置を基準としたときのポインタコントローラ2600の位置を示す信号、およびポインタコントローラ2600によって出力された全ての指示信号を受信することができる。
【0314】
これらの情報を用いて、浮上移動装置2100は、その位置および姿勢を制御することによって、前述の実施の形態1と同様の機能を実現することができる。
【0315】
<ポインタコントローラ>
図60に示されるように、ポインタコントローラ2600は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600の構成に加え、方位信号受信センサ615を備えている。その他の構成は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600の構成と同一である。
【0316】
まず、シリアルデータの0〜3ビットは、実施の形態1のシリアルデータ0〜3ビットと同様である。また、方位信号受信センサ615によって受信された方位信号は、シリアルデータの4〜7ビットに規定されている。操縦データは、実施の形態1におけるシリアルデータの構成に対して4ビットずれた位置に規定されている、つまり、シリアルデータのビット8〜13に規定されている。
【0317】
以上の構成により、ポインタコントローラ2600は、自身が指し示す方向を特定可能な信号、自身の浮上移動装置2100に対する姿勢を特定可能な信号、および操作信号を、シリアルデータとして、浮上移動装置2100に送信する。
【0318】
<構成およびデータフロー>
以上の機能を実現する一例となる構成が図61に示されている。方位信号受信センサ615から、受信センサドライバ695を経由して、コントローラ演算装置690へ入力される方位信号は、DATA_Rと称される。また、各操作ボタンの信号は、一括してDATA_Bと称される。コントローラ演算装置690は、図61に示されるように、赤外線発光ダイオード611〜614にそれぞれ接続されたLEDドライバ691〜694に対して、前述の位置データ、DATA_R、およびDATA_Bを与える。LEDドライバ691〜694は共通のクロック信号およびトリガ信号を与えられており、トリガ信号を契機として、クロック信号に同期して、前述のデータを含む光信号を送信する。
【0319】
<浮上移動装置>
浮上移動装置2100は、実施の形態1における赤外線受光素子711〜714の代わりに、データ受信センサ2700内に、方位指示用赤外線発光ダイオード2711〜2714に加えて、赤外線信号受光素子2715を備えている。
【0320】
なお、方位指示用の赤外線発光ダイオード2711〜2714は、それぞれ、図58に示される4ビットのシリアルデータを同期して送信する、図示されてないドライバによって駆動される。このドライバは、既に実現されている赤外線リモコンなどの技術により容易に実現され得るものであるため、その詳細は省略される。
【0321】
赤外線信号受光素子2715の受信信号、すなわちシリアルデータが行動演算装置751に与えられることによって、運動指令が生成され、実施の形態1と同様の処理がなされる。
【0322】
<その他>
上記浮上移動装置2100より発せられる方位信号は、混信を防ぐため、上記ポインタコントローラ2600より発せられる上記シリアルデータの信号と異なる周波数を用いて変調されることが望ましい。これは、例えば、方位信号の変調周波数を、シリアルデータの変調周波数である38kHzとは異ならせる等の手法によって、既に実用化されている技術を用いて容易に実現され得る。
【0323】
<実施の形態3>
次に、図62および図63を用いて、本発明の実施の形態3のシステムが説明される。なお、説明の簡便のため、実施の形態1と同一の構成要素には同一の参照符号が付され、その説明は繰り返さない。
【0324】
なお、本実施の形態における操縦の態様は、以下のようなものである。
位置変更ボタン630がONされると、浮上移動装置3100の位置および姿勢、ならびに、浮上移動装置3100における画像センサ180の仰角が制御される。本実施の形態においては、姿勢変更ボタン640は使用されない。
【0325】
位置変更ボタン630がONされた場合には、まず、浮上移動装置3100の姿勢および画像センサ180の仰角が制御され、画像センサ180の正面は、ポインタコントローラ600を向く姿勢になる。
【0326】
次に、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置に、浮上移動装置3100が移動する。浮上移動装置3100が移動すると、画像センサ180の正面がポインタコントローラ600に向いていなくなる。そのため、浮上移動装置3100は、この状態を検知して、再度、姿勢変更のために、画像センサ180の正面がポインタコントローラ600を向く姿勢に戻るように羽ばたき運動をする。
【0327】
前述のような動作を繰り返すことによって、浮上移動装置3100は、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置で、画像センサ180の正面がポインタコントローラ600に向いている姿勢になる。
【0328】
浮上移動装置
<構成>
浮上移動装置3100は、筐体3110にメインロータアクチュエータ3120を備えている。メインロータ3130は、メインロータアクチュエータ3120によって回転される。なお、メインロータアクチュエータ3120は、メインロータ3130のピッチおよびその回転面の前側、後側、左側、および右側のそれぞれへの傾きを制御することができる。また、浮上移動装置3100の後尾には、テイルロータアクチュエータ3140およびテイルロータアクチュエータ3140よって回転駆動されるテイルロータ3150が設けられている。
【0329】
なお、本実施の形態の浮上移動装置3100は、一般的に使用されている回転翼機と同様の構成を有するものであり、本発明に特有の構造および本発明が実現されるか否に関わる構造を有していないので、その説明は省略される。
【0330】
<制御手法>
<制御要素>
<X軸方向への並進制御>
メインアクチュエータ3120には、図示されないロータ傾斜機構が設けられており、メインロータ3130の回転面を、前側、後側、左側、および右側のいずれかに傾斜させることができる。ここでは、浮上移動装置3100は、ロータ左右方向傾斜角信号の入力値が正であれば、図62に示されるY軸周りに正方向の回転をするように、一方、ロータ左右方向傾斜角信号の入力値が負であれば、図62に示されるY軸周りに負方向の回転をするように、メインロータ3130の回転面を左または右に傾斜させるものとする。
【0331】
これにより、メインロータ3130の発生する流体力に左または右の水平方向成分が生じ、X軸方向の正または負、すなわち左または右に移動することができる。
【0332】
<Y軸方向への並進制御>
同様に、浮上移動装置3100は、メインアクチュエータ3120におけるロータ傾斜機構によって、ロータ前後方向傾斜角信号の入力値が正であれば、図62に示されるX軸まわりに正方向に回転し、ロータ前後方向傾斜角信号の入力値が負であるなら、図62に示されるX軸まわりに正方向に回転し、メインロータ3130の回転面を前側または後側に傾斜させるものとする。これにより、メインロータ3130の発生する流体力に前後方向の水平方向成分が生じ、Y軸方向、すなわち前後に移動することができる。
【0333】
<Z軸方向への並進制御>
メインアクチュエータ3120には、図示されないロータピッチ制御機構が設けられており、メインロータ3130のピッチを変更することができる。ここでは、ロータピッチ信号の入力値が正であれば、メインロータ3130のピッチを増加させることによって揚力を増大させ、一方、ロータピッチ信号の入力値が負であれば、メインロータ3130のピッチを減少させることによって揚力を低下させるものとする。これにより、メインロータ3130が発生させる揚力が増減する。その結果、浮上移動装置3100は、Z軸方向、すなわち、上下方向に移動することができる。
【0334】
<Z軸周りの回転制御>
テイルロータアクチュエータ3140は、ホバリング時には、テイルロータ3150を、メインロータ3130の回転によって生じるモーメントを打ち消すだけの流速を生み出す回転数f0で回転させている。この回転数を基準として、テイルロータ3150の回転数を増減させることにより、浮上移動装置3100にZ軸まわりの回転を行わせることができる。ここでは、テイルロータ回転数の入力値が正であれば、テイルロータアクチュエータ3140の回転数をf0より増加させることによって浮上移動装置3100をZ軸まわりに正方向に旋回させ、テイルロータ回転数の入力値が負であれば、テイルロータアクチュエータ3140の回転数をf0より減少させることによって浮上移動装置3100をZ軸まわりに負方向に旋回させるものとする。これにより、浮上移動装置3100は、Z軸方向の回転、すなわち、左または右への回転を行うことが出来る。
【0335】
<X軸またはY軸まわりの回転制御>
一般に、本体に対するメインロータの回転面の姿勢を大きく変化させることができない回転翼機においては、その姿勢変更のためには位置変更を同時に行わざるを得ない。そのため、回転翼機の姿勢を単独で変更することは容易ではない。このため、本実施の形態においては、説明の簡便のため、X軸およびY軸まわり回転は制御されないものとする。
【0336】
なお、本実施の形態においては、仰角アクチュエータ182によってCMOSイメージャ181の仰角が変化され得るので、X軸周りの回転を制御することを必要としない。
【0337】
<制御回路>
次に、図63および表8を用いて本実施の形態における制御回路3150が説明される。
【0338】
【表8】
【0339】
制御回路3150は、データ受信センサ700により得られた位置データ、方位データ、および操縦データを用いて、かつ、ROM3520に格納された表8の制御データを参照して、メインロータアクチュエータ3120におけるロータ左右方向傾斜角信号の入力値、ロータ前後方向傾斜角信号の入力値、ロータピッチ信号の入力値、およびテイルロータ回転数の入力値を決定する。これにより、表7の制御データによって特定される制御が実現されるので、浮上移動装置3100は、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置で、ポインタコントローラ600にその正面を向けた姿勢になることが可能になる。
【0340】
<補足>
なお、本発明の実施の形態における浮上移動装置3100は、本発明のコントローラが回転翼機に適用された場合の一例であり、コントローラ以外の構成、例えば、テイルロータアクチュエータ3140の構成、および、テイルロータアクチュエータを用いるか否か等は、本発明の本質とは関連性を有していないため、いかなるものであってもよい。
【0341】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0342】
【図1】実施の形態の浮上移動装置の全体構成の概略図である。
【図2】実施の形態のポインタコントローラの構成を示す概略図である。
【図3】実施の形態のポインタコントローラのデータフローを示す概略図である。
【図4】実施の形態のポインタコントローラの照射領域および照射データを説明するための図である。
【図5】実施の形態のポインタコントローラの照射領域における浮上移動装置の移動方向を表す模式図である。
【図6】実施の形態の画像センサの上面図である。
【図7】実施の形態の画像センサの正面図である。
【図8】実施の形態の画像センサの左側面図である。
【図9】実施の形態の画像センサの仰角の変更を説明するための図である。
【図10】実施の形態の方位決定センサの感度分布を説明するための図である。
【図11】実施の形態の画像センサおよび方位センサの仰角制御を説明するための図である。
【図12】実施の形態の浮上移動装置の詳細構造の概略図である。
【図13】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の概略平面図である。
【図14】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の概略側面図である。
【図15】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の第一の層を示す図である。
【図16】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の第二の層を示す図である。
【図17】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の第三の層を示す図である。
【図18】実施の形態の浮上移動装置に用いられるアクチュエータの外観図である。
【図19】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの概略図である。
【図20】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの第一の振動モードを示す図である。
【図21】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの第二の振動モードを示す図である。
【図22】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの動作を表わす説明図である。
【図23】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの動作を表わす説明図である。
【図24】実施の形態の浮上移動装置に用いられる他の例の超音波モータの動作を表わす説明図である。
【図25】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの予圧機構の概略図である。
【図26】上部および下部ロータの他の例を示す図である。
【図27】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの概略図である。
【図28】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの第一の構成部品を示す図である。
【図29】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの第二の構成部品を示す図である。
【図30】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの第三の構成部品を示す図である。
【図31】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムのサイズの定義を示す図である。
【図32】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの駆動原理を説明するための図である。
【図33】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの駆動トルクの時刻歴を示すグラフである。
【図34】実施の形態の浮上移動装置の中央切り返しの羽ばたき方を説明するための図である。
【図35】実施の形態の浮上移動装置のエネルギー蓄積・放出機構を説明するための図である。
【図36】実施の形態の浮上移動装置のトルク補助機構の効果を示すグラフである。
【図37】実施の形態の浮上移動装置のトルク補助機構の設計方法を表わす補助図である。
【図38】実施の形態の浮上移動装置の先行切り返しの羽ばたき方を表わす説明図である。
【図39】実施の形態の浮上移動装置の遅れ切り返しの羽ばたき方を表わす説明図である。
【図40】実施の形態の浮上移動装置の上昇・下降時の羽ばたき方により生じる水平方向の力を表す説明図である。
【図41】実施の形態の浮上移動装置の前進方法を表す説明図である。
【図42】実施の形態の浮上移動装置の後退方法を表す説明図である。
【図43】実施の形態の浮上移動装置の旋回のための左右の羽部のアクチュエータに印加される電圧のデューティ比を示すグラフである。
【図44】実施の形態の浮上移動装置の前進時の羽ばたき方を表わす説明図である。
【図45】実施の形態の浮上移動装置の後退時の羽ばたき方を表わす説明図である。
【図46】実施の形態の浮上移動装置における制御システムのハードウエアブロック図である。
【図47】実施の形態の浮上移動装置における制御システムの機能ブロック図である。
【図48】実施の形態の浮上移動装置のPWM制御信号のデューティ比を説明するための図である。
【図49】実施の形態の浮上移動装置の中央切り返しの制御のためのデューティ比を示すグラフである。
【図50】実施の形態の浮上移動装置の先行切り返しの制御のためのデューティ比を示すグラフである。
【図51】実施の形態の浮上移動装置の遅れ切り返しの制御のためのデューティ比を示すグラフである。
【図52】実施の形態の浮上移動装置の制御の流れを示すフローチャートである。
【図53】従来の浮上移動装置の問題点を説明するための図である。
【図54】一般的なホバリングの羽ばたき方を説明するための図である。
【図55】実施の形態2の画像センサの上面図である。
【図56】実施の形態2の画像センサの正面図である。
【図57】実施の形態2の画像センサの左側面図である。
【図58】実施の形態2の4つの方位指示用赤外線発光ダイオードから送信される信号の空間分布を示す概略図である。
【図59】実施の形態2のポインタコントローラと浮上移動装置とのデータの送受信を説明するための図である。
【図60】実施の形態2のポインタコントローラの主要な構成を示す図である。
【図61】実施の形態2のポインタコントローラのデータフローを示す図である。
【図62】実施の形態3の浮上移動装置の模式図である。
【図63】実施の形態3の浮上移動装置のデータのフローチャートである。
【符号の説明】
【0343】
100 浮上移動装置、600 コントローラ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットを移動させるための操縦が容易であるコントローラおよびそれを用いた移動ロボットシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な作業を実行する移動ロボットシステムは、例えば、空中撮影または農薬散布などの分野で実用化されている。特に、移動ロボットの中でも、ロボットが空中に浮遊している状態で作業を行うことができる浮上移動ロボットが有望である。
【0003】
また、移動ロボットシステムにおいては、ラジオコントローラ(通称、「ラジコン」)のプロポーショナルシステム(通称、「プロポ」)に代表されるように、アクチュエータへ駆動信号を直接送信するコントローラが採用されている。
【0004】
なお、本明細書においては、ロボットは、何らかの機構により移動する機能を有しているロボットであれば、地上、空中、および水中のいずれを移動するロボットであってもよい。
【特許文献1】特開2003−118697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の移動ロボットシステムによれば、ロボットの移動形態が特殊性でありかつロボットの操縦が困難であることから、コントローラの操作に習熟したオペレータでなければ、移動ロボットシステムを使用してロボットに所望の移動をさせることができないという問題がある。以下、空中撮影ロボットを例に挙げて、その問題を具体的に説明する。
【0006】
たとえば、移動ロボットの一例として、ジャンボジェットまたはグライダーのような固定翼を用いるロボット、ヘリコプターのような回転翼を用いるロボット、および飛行船のような浮力を用いるロボット等が挙げられる。
【0007】
固定翼を用いるロボットは、前進し続けなければ落下してしまうため、その前進速度が、前方の空間に存在する障害物を回避することができる程度であることが要求される。そのため、近年開発されている数グラム程度の極めて小型かつ軽量な固定翼を用いるロボットの飛行においても、数メートル四方の障害物のない空間が用意されていることが必要である。
【0008】
また、固定翼を有するロボットを用いて画像を撮影する場合には、浮上している状態を維持するために前進し続ける必要があるため、コントローラのオペレータに障害物の回避するための操作を実行しながら撮影のための操作を行うことが要求される。
【0009】
さらに、撮影のための操縦は、フラップの角度と前進速度との双方を考慮した状態で行われるため、直感的なものではない。そのため、撮影のための操作のための訓練が必要である。したがって、固定翼を有する移動ロボットを用いる撮影は、比較的障害物が少ない高さ位置からの撮影のみに限定され、その撮影のためにも訓練が必要である。
【0010】
回転翼を有するロボットの操縦は、一般に固定翼を有するロボットの操縦よりも困難であり、かつ、ロボットが小型になるほど困難になるという問題がある。特に、浮上力を発生させるメインロータを傾けることにより、移動制御および姿勢制御の双方が実現されるため、位置および姿勢のいずれか一方のみを変更したい場合においても、それらのうちの他方も変更されてしまうため、所望の位置および姿勢の双方の制御を実現することが困難であるという問題がある。
【0011】
この他に、飛行船を用いるロボットシステムにおいては、質量のわりに体積および表面積が大きいことに起因して空気抵抗が大きいため、高い機動力が得られないという問題がある。また、飛行船の大きさは、飛行船の手軽な利用の妨げの要因になっている。したがって、飛行船は、大型のものを除いて空中からの撮影の用途には適していない。
【0012】
要するに、従来の浮上して移動するロボットを用いるロボットシステムによる撮影は、その操作の困難性のため、専門的な訓練を受けたオペレータによる撮影に限定されており、また、障害物の少ない高い位置からの撮影に限定されている。したがって、そのロボットシステムを用いて、室内、繁華街、または観光地などの障害物の多い地上高1m〜数m程度の位置から撮影はなされていない。たとえば、従来の浮上移動ロボットシステムは、気軽に自分を含めた風景写真または複数の人の集合写真を撮るような用途には適していない。したがって、ロボットの移動のための操作が容易であるコントローラを備えた移動ロボットシステムが求められている。
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロボットの移動方向を制御するための操作が容易であるコントローラおよびそれを用いた移動ロボットシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のコントローラは、オペレータが握持することができ、かつ、指し示す方向が認識され得る形状または模様を有する筐体と、筐体に設けられ、移動機能を有するロボットに該ロボットの移動方向を指令する情報を出力する情報出力部とを備えている。情報出力部は、それぞれが信号を照射する複数の信号照射部を有している。複数の信号照射部から照射される複数の信号は、互いに重畳される性質を有しており、かつ、仮想の平面上において互いに重なる領域を有している。
【0015】
上記の構成によれば、複数の信号が重なっている数の相違を利用して、移動体に移動方向を指示する情報を空間に向かって出力することができる。そのため、移動体の移動方向を指示するためのコントローラを容易に実現することができる。
【0016】
また、筐体の指し示す方向が、互いに重なる領域を通過することが好ましい。
上記の構成によれば、筐体が指し示す方向と複数の信号が互いに重なる領域とを対応させることによって、移動体を所望の方向に容易に移動させることができる。
【0017】
複数の信号照射部が2つの信号照射部からなっていれば、ロボットの1次元の移動を容易に操作することができる。また、複数の信号照射部が3つの信号照射部からなっていれば、ロボットの2次元の移動のための操作を最も少ない数の信号照射部を用いて実現することができる。また、複数の信号照射部が4つの信号照射部からなっていれば、上下左右にコントローラを移動させることにより、ロボットを上下左右に移動させることができるため、直感的な操作により、ロボットの2次元の移動を操作することができる。
【0018】
複数の信号照射部が2つの信号照射部からなり、2つの信号照射部は、それぞれが2つの円形状の領域を通過するように2つの信号を照射し、筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、2つの円形状の領域の中心同士を結ぶ線分の中点の位置を通過してもよい。
【0019】
上記の構成によれば、左右方向移動または上下方向移動等のような1次元における直線移動のための方向を指示するコントローラを容易に実現することができる。
【0020】
複数の信号照射部が3つの信号照射部からなり、3つの信号照射部は、それぞれが3つの円形状の領域を通過するように3つの信号を照射し、3つの円形状の領域は、それぞれ他の2つの領域と重なる領域を有し、筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線は、3つ全ての信号が重なる領域を通過してもよい。
【0021】
上記の構成によれば、上下方向および左右方向を含む平面等のような2次元における平面内移動のための方向を指示するコントローラを、最も少ない信号照射部を用いて実現することができる。
【0022】
複数の信号照射部が4つの信号照射部からなり、4つの信号照射部は、それぞれが実質的に同一の半径を有する4つの円形状の領域を通過するように4つの信号を照射し、4つの円形状の領域は、それらの4つの中心点が実質的に正方形の4つの頂点に位置付けられており、筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、正方形の対角線の交点の位置を通過してもよい。
【0023】
上記の構成によれば、コントローラの指示方向が、例えば、上下左右といった、直行座標系において規定できる方向として得られるため、オペレータの直感による制御が容易になる。
【0024】
また、複数の信号の互いに重畳される性質が、物理量の強度であってもよい。これによれば、複数の信号が重畳された領域が最も容易に認識される。また、物理量の強度は、光の強度であってもよい。
【0025】
また、4つの信号のそれぞれが互いに異なる値を特定可能な4ビットのデジタル信号を含んでいてもよい。これによれば、最も少ないデータ量で2次元の移動を指示することができる。
【0026】
また、指し示す方向が認識され得る形状が、筐体の表面上に設けられた突起部によって形成されていることが好ましい。これによれば、オペレータが容易に指し示す方向を認識することができる。
【0027】
また、筐体が指し示す方向に平行に延びるレーザ光を発射するレーザポインタを有していることが好ましい。これによれば、オペレータ自身が指し示す方向を容易に把握することができる。
【0028】
また、本発明の移動ロボットシステムは、前述のコントローラと、コントローラから前記移動方向を指令する情報を受けて、該情報に基づいて移動するロボットとを備えている。また、ロボットは、コントローラから照射されている複数の信号の重畳状態を検出し得るセンサと、センサによって検出された複数の信号の重畳状態に関連付けられた所定の移動方向を特定可能なデータを記憶したメモリと、メモリに記憶されたデータに基づいてロボットを所定の移動方向に移動させる制御手段とを含んでいる。
【0029】
これによれば、コントローラが指し示す方向に対応してロボットを移動させることができる移動ロボットシステムを実現することができる。
【0030】
また、制御手段は、ロボットが複数の信号の重畳されている数がより多い領域に向かって移動するように制御を実行することが望ましい。これによれば、ロボットをある領域に向かって移動させた後、その領域に留まらせることができる。
【0031】
また、ロボットは、コントローラから照射された信号の照射方向を検出するセンサを含んでおり、この場合に、制御手段は、ロボットの所定の部位が照射方向上に位置するようにロボットの姿勢を制御してもよい。これによれば、ロボットの所定の部位を常にコントローラの信号照射方向上に位置付けることができる。
【0032】
また、ロボットは、前述のコントローラの複数の信号照射部から照射された複数の信号と同一機能を果たす複数の方位信号を照射する方位信号照射部を含み、さらに、コントローラが、複数の方位信号を受信する受信部を含み、信号照射部から複数の信号とともに前記複数の方位信号をロボットに照射し、制御手段が、複数の信号に予め関連づけて移動方向を制御し、かつ、方位信号に関連づけて、ロボットの回転方向を制御することが望ましい。これによれば、ロボットの位置に対するコントローラの位置の方向に対応してロボットを回転させることができる。
【0033】
また、コントローラが複数の信号に加えて、コントローラとロボットとを結ぶ線に沿った方向において前記ロボットを移動させ得る信号を照射することが望ましい。これによれば、ロボットの3次元における移動を、1つのコントローラの直感的な操作によって容易に実現させることができる。
【0034】
また、コントローラは、複数の信号に加えて、コントローラから出力される複数の信号を無効化する信号を出力することができることが望ましい。これによれば、振動などの不用意なコントローラの移動に起因して生じるロボットの望まれざる移動の発生を防止することができる。
【0035】
また、ロボットが浮上して移動することができる浮上移動ロボットであれば、3次元の移動の自由度が高い移動ロボットシステムを実現することができる。
【0036】
また、浮上移動ロボットは、その重心に対して浮上力の作用点が鉛直上方に位置付けられていれば、ロボットの回転が鉛直方向に延びる軸まわりの回転に限定されるため、ロボットの操作がより容易になる。
【0037】
また、浮上移動ロボットが羽ばたき運動する羽部を有する羽ばたきロボットであれば、3次元空間における機動性が高い移動ロボットシステムを実現することができる。
【0038】
また、浮上移動ロボットが回転翼を有するヘリコプターであれば、ロボットの水平状態を維持することが容易である。
【0039】
また、浮上移動ロボットが仰角を変化させることが可能であるカメラを有しており、コントローラがカメラの操作スイッチを有していれば、気軽に空中撮影を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(実施の形態1)
図1〜図63を用いて、本発明の移動ロボットシステムの一実施の形態の浮上撮影システムを説明する。なお、本実施の形態では静止画を撮影する浮上撮影システムの説明がなされているが、本発明の移動ロボットシステムは、これに限定されるものではなく、移動する機能を有するロボットを有するものであれば、いなかるものであってもよい。たとえば、移動ロボットシステムは、動画を撮影する移動ロボットシステムであってもよい。この移動ロボットシステムは、後述されるズーム機能付きシャッターボタン620が、録画開始・停止ボタンに変更されるだけで容易に実現され得るものである。
【0041】
<全体の構成>
<構成の概要>
まず、図1を用いて浮上撮影システムの全体構成を説明する。
【0042】
本実施の形態の移動ロボットシステムの一例の撮影ロボットシステムは、図1に示されるように、ポインタコントローラ600と、ポインタコントローラ600によって操縦される浮上移動装置100とを備えている。浮上移動装置100には、画像センサ180が搭載されている。画像センサ180は、空中から地上の物体等を撮影することができる。
【0043】
本実施の形態の移動ロボットシステムによれば、直感的かつ単純な操作によって、浮上移動装置100の撮影のための移動を制御することができる。つまり、オペレータ210がポインタコントローラ600を握持した状態で所定の方向を指し示せば、浮上移動装置100は所定の方向における所定の位置へ向かって移動する。
【0044】
さらに、オペレータ210は、ポインタコントローラ600の姿勢変更ボタン640を押下するだけで、画像センサ180がポインタコントローラ600に向くように、浮上移動装置100および画像センサ180の姿勢が変更ないし維持される。
【0045】
ポインタコントローラ600は、円筒形等の、オペレータ210がその指し示す方向を認識し易い形状を有している。なお、ポインタコントローラ600は、形状ではなく、その表面に付された模様によって、オペレータ210がその指し示す方向を認識し易くなっていてもよい。また、後述されるように、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置に移動するため、オペレータ210は、浮上移動装置100に対して所望の位置をポインタコントローラ600によって指し示す操作によって、浮上移動装置100を所望の方向における所定の位置に移動させた後、ポインタコントローラ600のスイッチ操作によって浮上移動装置100を所望の位置へ移動させることができる。
【0046】
これによれば、オペレータ210は、画像センサ180を用いて、操縦の煩雑さを感じることなく、所望の位置からの空中撮影画像を得ることができる。
【0047】
<ハードウェア構成>
ポインタコントローラ600から前方空間に向かって、その方角に応じたデータが赤外線光信号として送信されている。浮上移動装置100は、後述されるデータ受信センサ700を用いて上記データを受信することによって、ポインタコントローラ600を基準として、自身が基準に対していずれの位置に存在するのかを検出することができる。
【0048】
さらに、浮上移動装置100は、後述されるデータ受信センサ700に設けられた方位検出部によって、自己に対して前述のデータがいずれの方位から進行してきたのかを検出することができる。それにより、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600を基準とした自身の姿勢すなわちポインタコントローラ600に対する向きを検出することができる。
【0049】
上述のポインタコントローラ600に対する浮上移動装置100の位置および向きの検出結果に基づいて、浮上移動装置100は、自身が行うべき運動を把握し、自己の位置および姿勢ならびに画像センサ180の仰角を変更することができる。なお、これらの変更は、ポインタコントローラ600に設けられた、変更の有無を指示するボタンのON/OFFに基づいて行われる。
【0050】
さらに、浮上移動装置100には画像センサ180が搭載されている。後述されるように、浮上移動装置100が、ポインタコントローラ600が指し示す方向が常に画像センサ180の画角中心を通過するように、その姿勢(水平面内における方位)を変更する機能を有し、かつ、画像センサ180の仰角を変更する機能を有するため、画像センサ180が常にポインタコントローラ600に向いている状態が実現される。
【0051】
オペレータ210がポインタコントローラ600に設けられたズーム兼シャッターボタン620を操作することによって、画像撮影命令を前述の赤外線光信号の一部として浮上移動装置100に送信することができる。これによれば、所望の画像が撮影される。なお、撮影された画像は、浮上移動装置100からポインタコントローラ600へ送信され、ポインタコントローラ600内のストレージ680に保存される。
【0052】
以上のような操作により、オペレータ210は、操縦の煩雑さを意識することなく、空間の所望の位置をポインタコントローラ600により指し示し、ズーム兼シャッターボタン620を操作するだけで、空中から自分自身を撮影することができる。
【0053】
なお、本実施の形態においては、移動ロボットシステムの用途の一例として、記念写真等を空中から撮影することが示されているが、本発明の移動ロボットシステムの用途は、これに限定されず、移動するロボットの操縦を簡単に行うことができる移動ロボットシステムが実現されるのであれば、移動ロボットシステムの用途はいかなるものであってもよい。
【0054】
<操作手順>
なお、本実施の形態においては、浮上移動装置100は、まず、その正面がポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更し、その後、ポインタコントローラ600が指し示す方向におけるいずれかの位置に移動する。この手順を採用した主な理由は、浮上移動装置100がこの順序で動作することが最も簡単な方法であると考えられるからである。なぜなら、浮上移動装置100は、その正面がポインタコントローラ600を向く姿勢になっていない状態においては、浮上移動装置100のポインタコントローラ600に対する姿勢に応じてその移動する方向が異なってしまうためである。このため、最初に、浮上移動装置100の正面がポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更することが必要である。なお、浮上移動装置の正面は、予め基準として決定されている部分であり、本実施の形態においては、画像センサ180が、俯角0度の際に正対する面(前方を向く面)である。
【0055】
また、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600から送信される信号を受信することができている状態においては、自身の位置に対するポインタコントローラ600の存在する方向を認識することができるため、ポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更することができる。本実施の形態においては、説明の簡便のため、オペレータ210が、前述のような事項を把握しているものとし、上記のように、浮上移動装置100に対して、姿勢を変更することを指示した後、移動すべき位置を指示する順序で浮上移動装置100を制御するものとする。
【0056】
なお、浮上移動装置100は、後述されるデータ受信センサ700により、ポインタコントローラ600に対する自己の姿勢を認識することができるため、座標変換等の演算機能を用いれば、ポインタコントローラ600を向くように姿勢を変更している間に、実際に移動するべき方向を容易に算出することができる。
【0057】
<ポインタコントローラ>
次に、ポインタコントローラ600が、図2〜図5を用いて説明される。
【0058】
<全体構成>
ポインタコントローラ600は、図2および図3に示されるように、円筒形状を有している。ポインタコントローラ600の円柱形状の一方の底面には、光信号照射部610が設けられている。ポインタコントローラ600の円柱形状の周面には、ズーム兼用シャッターボタン620、位置変更ボタン630、姿勢変更ボタン640、および画角確認ボタン650が設けられている。
【0059】
<光信号照射部>
光信号照射部610は、4つの赤外線発光ダイオード611〜614を有している。4つの赤外線発光ダイオード611〜614のそれぞれは、図4に示されるように、その照射角が20度以下である円形の平面領域を通過する光を発する。4つの赤外線発光ダイオード611〜614の光軸は、それぞれ、ポインタコントローラ600の円筒形状の中心軸(指し示す方向)に対して上、下、左、右に8度だけ傾いている。したがって、4つの赤外線発光ダイオード611〜614から照射される4つの光の全てが重なる領域であることを示す位置データ「1111」が照射される平面領域は、約8度の立体角を有する照射光の一断面領域である。これは、腕を伸ばした場合における握り拳程度の大きさに相当する広がりを有する領域である。この程度の範囲内での位置のバラツキが、本実施の形態の浮上移動装置100の位置精度に対応している。ただし、前述の値は、操作性と要求される位置精度とを考慮して決定されるべきで値であり、本実施の形態に示される値に限定されない。
【0060】
光信号照射部610は、位置データおよび操縦データを有するシリアルデータを、赤外線発光ダイオード611〜614から照射される信号同士が同期している状態で送信する。操縦データは赤外線発光ダイオード611〜614同士の間で共通している。位置データは、上側領域、下側領域、左側領域、および右側領域のいずれかに対応して、4ビットのうちのいずれかのビットがONになっているデータ列である。
【0061】
より具体的には、赤外線発光ダイオード611から照射される信号においては、ビット0が「1」でありかつビット1〜3のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード611から照射される信号は「0001」である。また、赤外線発光ダイオード612から照射される信号においては、ビット1が「1」でありかつビット0、2、および3のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード612から照射される信号は「0010」である。また、赤外線発光ダイオード613から照射される信号においては、ビット2が「1」であり、ビット0、1、および3のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード613から照射される信号は「0100」である。また、赤外線発光ダイオード614から照射される信号においては、ビット3が「1」でありかつビット0〜2のそれぞれが「0」である、すなわち、赤外線発光ダイオード614から照射される信号は「1000」である。このように、赤外線発光ダイオード611〜614から4つのデータ列が操縦データとして送信されている。赤外線発光ダイオード611〜614同士の間のデータ送信タイミングは同期している。そのため、複数の信号が重なる位置におけるデータは、複数の信号の論理和のデータになる。
【0062】
要するに、光信号照射部610から照射される4つの信号の種類とそれらの4つの信号が照射される平面領域との間の関係は、図4のようなものである。なお、外部に存在する赤外線光源から照射される信号が前述の4つの信号に重なってしまうことを防止するため、光信号照射部610は所定の周波数(例えば38kHz)の信号を用いて変調されていることが望ましい。
【0063】
なお、本実施の形態においては、図5において矢印で示されるように、浮上移動装置100は、最終的には、中央部に位置付けられたハッチングで示される「1111」の領域へ移動する。
【0064】
<操縦ボタン類>
ズーム兼用シャッターボタン620は、図2に示されるように、ポインタコントローラ600の光信号照射部610が設けられている端部およびそれとは逆側の端部に向かって倒され得る。このとき、浮上移動装置100に対して、ポインタコントローラ600から離れる動作を行うことを指示する信号、および、ポイントコントローラ600に近づく動作を行うことを指示する信号のいずれかが、前述のシリアルデータ中の操縦データ内に含まれる。
【0065】
なお、ズーム兼用シャッターボタン620の状態がいかなる状態であるかを示すために、ポインタコントローラ600から離れる移動のための指示信号の「ON/OFF」およびポインタコントローラ600に近づく移動のための指示信号の「ON/OFF」は、それぞれ、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット4の「1/0」および赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット5の「1/0」に対応している。
【0066】
また、ズーム兼用シャッターボタン620が内部へ押し込まれると、ポインタコントローラ600は浮上移動装置100に対して画像センサ180を用いて画像撮影を行わせるための指令信号を出力する。シャッターの「ON/OFF」は、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット6の「1/0」に対応しているものとする。
【0067】
位置変更ボタン630および姿勢変更ボタン640は、それぞれ、浮上移動装置100の位置および姿勢を変更することを指示するためのものである。位置変更ボタン630および姿勢変更ボタン640の「ON/OFF」は、それぞれ、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット7および8の「1/0」に対応しているものとする。
【0068】
画角確認ボタン650は、浮上移動装置100における画角表示LED189を点灯させることを指示するためのものである。画角表示LED189の「ON/OFF」は、赤外線発光ダイオード611〜614の送信データのビット9の「1/0」に対応しているものとする。
【0069】
以上のように、操縦データは、前述のシリアルデータのビット0〜9において浮上移動装置100に送信される。
【0070】
(画像センサ)
次に、画像センサ180周辺の構成が、図6〜図9を用いて説明される。
【0071】
<全体構成>
画像センサ180には、図6〜図9に示されるように、CMOS(Complementary Metal Oxide Silicon)イメージャ181が、仰角を制御する仰角アクチュエータ182に搭載されており、その合計質量は200mgである。画像センサ180によって取得された画像情報は、後述される通信装置170によってポインタコントローラ600に送信される。
【0072】
<仰角アクチュエータ>
仰角アクチュエータ182は、後の超音波モータの項において説明されている超音波振動子121と同一の構成を有する仰角制御用超音波振動子183を備えており、仰角制御用超音波振動子183が、半円形状を有する仰角ロータ184を駆動する。仰角ロータ184は、円形の貫通孔を有するベアリング185に回転軸186が回転可能に装着されており、回転軸186は、図1に示される筐体101の底部プレート102に、アーム187を媒介として固定されている。後述のように、仰角制御用超音波振動子183は、仰角ロータ184を、その円弧の円周方向に回動させることができるので、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージャ181の上下方向の画角に対応する領域の位置を変更することができる。
【0073】
なお、仰角アクチュエータ182における超音波振動子183は、仰角アクチュエータドライバ188によって振動させられる。また、仰角アクチュエータドライバ188は、後述される行動演算装置751の指示によって超音波振動子183を駆動する。また、仰角センサ190が仰角アクチュエータ182に設けられており、水平方向を0度としてかつ鉛直下側方向を90度とする体系における仰角値が行動演算装置751に送信される。
【0074】
なお、データ受信センサ700における赤外線受光素子712および714が、COMSイメージャ181と同一の基板上に設けられている。
【0075】
<画角表示LED(Light Emitting Diode)>
画角表示LED189は、CMOSイメージャ181と同一の基板上に設けられており、CMOSイメージャと同一の運動をする。また、画角表示LEDにおいては、拡散白色光を照射するLEDの一部に緑色フィルターが設けられ、他の部位に赤色フィルターが設けられている。緑色フィルターを透過する光の照射範囲は、CMOSイメージャ181の画角に対応する範囲と一致している。この構成により、CMOSイメージャ181の画角に対応する範囲内に位置する人には画角表示LED189は緑色に見え、CMOSイメージャ181の画角に対応する範囲外に位置する人には赤色に見える。なお、画角表示LED189は、消費電力節約のため、上記ポインタコントローラ600における画角確認ボタン650がONのときにのみ点灯する。
【0076】
なお、フィルターの色およびその組み合わせは、任意であり、前述の例に限定されるものではない。また、画角提示の手法として、緑色フィルターの代わりに透過窓が設けられており、かつ、赤色フィルターの代わりに遮光材が設けられており、点灯の有無に応じて画角に対応する範囲内に存在するかまたは画角に対応する範囲外に存在するかが判断されてもよい。
【0077】
<通信・画像取得装置>
ポインタコントローラ600は、図2に示されるように、通信装置670およびストレージ680を有している。浮上移動装置100の画像センサ180が撮影した画像は、通信装置670を経由してストレージ680に保存される。
【0078】
<構成およびデータフロー>
以上に説明された機能を実現するためのコントローラの構成の一例が図3に示されている。各操作ボタンの操作によって出力される信号は一括してDATA_Bと称される。コントローラ演算装置690は、図3に示されるように、赤外線発光ダイオード611〜614を備えている。赤外線発光ダイオード611〜614は、それぞれ、LEDドライバ691〜694に接続されている。位置データと前述のDATA_Bとが組み合わされたデータが、LEDドライバ691〜694に与えられる。LEDドライバ691〜694は、それぞれ、共通のクロック機能およびトリガ機能を有しており、トリガ機能により与えられた基準タイミングから、共通のクロック機能に従って、前述のデータを含む光信号を照射する。
【0079】
<補足事項>
なお、上記のポインタコントローラ600においては、本実施の形態における浮上撮影システムを実現するために必要な構成のみの説明がなされているが、操縦インターフェイスおよび付加機能などは、本発明の機能を損なわない限り付け加えられていてもよい。また、上記の操作用ボタン類の配置は任意のものである。また、本発明のシステムは、ポインタコントローラ600がディスプレイを備えており、電波通信等の高速な通信によって、画像センサ180のライブビュー画像を確認しながら撮影することができるシステムであってもよい。また、逆に、ストレージ680等は、本発明の移動ロボットシステムの必須の構成ではないので、ポインタコントローラ600の画像取得のために必要でないのであれば、設けられていなくてもよい。
【0080】
また、ポインタコントローラ600は、他の操縦インターフェイスを備えていてもよい。たとえば、ジョイスティックなどの入力デバイスを用いて入力された上、下、左、および右のいずれかへ直接的に移動を指示する信号を、操縦データとして送信する機能を備えていてもよい。
【0081】
なお、これらの機能が省略されている場合には、シリアルデータの構成は前述のものとは異なる。ただし、この場合においても、シリアルデータのビット列の長さ等の通信プロトコル等の本実施の形態に示された通信方法は、本発明において用いられる通信方法の一例であり、この方法に限定されない。
【0082】
また、データの変調周波数は38kHzに限定されない。また、説明の簡便のため、前述の説明においては省略されているが、シリアルデータにヘッダを設けることによって他の機器との混信を避ける一般的な手法が用いられてもよい。
【0083】
本実施の形態のポインタコントローラ600に関しては、複数の発光素子が設けられており、かつ、一部が異なるデータを同期した状態で送信するという点以外においては、通常の赤外線リモコンに用いられる構成が採用され得る。
【0084】
また、本実施の形態においては、上下左右のような平面的な移動の実現のために、4つの異なるデータの照射領域が形成される。そのために、4つの赤外線発光ダイオードが設けられている。しかしながら、赤外線発光ダイオードおよび照射領域の数は、移動の態様に応じていかなるものであってもよい。例えば、前述のポインタコントローラ600の構成がレール上を走行するロボットに適用される場合には、すなわち、左右の移動のような一直線上の移動のみをロボットにさせることが必要である場合には、ポインタコントローラ600には2つの赤外線発光ダイオードが設けられていればよい。この場合、たとえば、図2における赤外線発光ダイオード612,614のみが設けられている構成が採用されてもよい。また、使用されるアルゴリズムは、浮上移動装置100のそれと基本的には同様であり、ビット数のみが異なっていてもよい。
【0085】
(データ受信センサ)
次に、図6〜図10を用いて、データ受信センサ700が説明される。
【0086】
データ受信センサ700は、図10に示されるように、空間における受光感度分布が互いにずらして配置された4つの赤外線受光素子711〜714を有している。赤外線受光素子711〜714は、それぞれ、フォトダイオードによって構成されている。
【0087】
前述の仰角アクチュエータの項において説明されたように、データ受信センサ700における赤外線受光素子712および714は、CMOSイメージャ181と同一基板上に配置されており、それと同一の運動を行う。データ受信センサ700の受光感度分布の中心点Oは、CMOSイメージャ181の画角中心と常に一致している。すなわち、図10における原点Oは、CMOSイメージャ181の画角中心でもある。
【0088】
図6〜図9に示されるように、左側の赤外線受光素子711は、CMOSイメージャ181に向かって右側の裏面に設けられ、右側の赤外線受光素子713は、CMOSイメージャ181に向かって左側の裏面に設けられる。左側の赤外線受光素子711および右側の赤外線受光素子713は、回転軸186を媒介として筐体101に回転可能に取り付けられている。上側の赤外線受光素子712は、CMOSイメージャ181と同一平面の上方の位置に設けられ、下側の赤外線受光素子714は、同様に、CMOSイメージャ181と同一平面の下方に位置に設けられる。
【0089】
なお、一般に、フォトダイオードは半導体プロセスを用いて平面形状に形成されるため、赤外線受光素子711〜714のそれぞれには、図10に示されるような画角を得るために、図示されていない光学系が設けられている。この光学系は、プラスチックモールドを用いた非球面レンズおよび回折格子によって容易に形成される。
【0090】
<赤外線受光素子>
赤外線受光素子711〜714は、受光感度分布が図10に示されるように配置されている。赤外線受光素子の受光感度のピークは、ポインタコントローラ600における赤外線発光ダイオード611〜614が出力する赤外線の波長に一致している。また、赤外線受光素子711〜714は、それぞれ、前述の変調周波数、すなわち38kHzの信号のみを除去して、情報を抽出する機能を有する。すなわち、赤外線受光素子711〜714へ入力される信号は、実質的にポインタコントローラ600から照射された信号のみであると考えられる。なお、赤外線受光素子711〜714の出力結果は行動演算装置700に入力されている。
【0091】
<方位データ>
赤外線受光素子711〜714が図10に示される感度分布を有するため、赤外線受光素子711〜714のそれぞれの出力の有無を判定することによって、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600に対する自身の方位を認識することができる。本実施の形態においては、赤外線受光素子711〜714によって受信されたデータは、ビット0〜ビット3のそれぞれの「1/0」の組み合わせからなる4ビットの方位データとして、後述される受信データと組み合わせられ、行動演算装置751によって実行される行動決定のために用いられる。
【0092】
<シリアルデータ受信>
赤外線受光素子711〜714によって受信されたデータは、ポインタコントローラ600の項において説明されたような4ビットの位置データおよび5ビットの操縦データからなる。このうち、4ビットの位置データは、前述の方位データと組み合わせられ、行動演算装置751によって行われる行動決定のために用いられる。また、5ビットの操縦データによって、浮上移動装置100が操縦される。
【0093】
なお、説明の簡便のため、赤外線受光素子711〜714同士の間隔は十分に小さく、ポインタコントローラ600から各受光素子へ入力されるシリアルデータは同一であることを前提として、赤外線受光素子711〜714のそれぞれが受け取ったデータの論理和が受信データであるものとする。実際には、図4に示される円形領域の各境界が、上記赤外線受光素子同士の間に位置付けられれば、赤外線受光素子711〜714によって検出された2つのデータの値が異なってしまうのではないかという懸念があるが、本実施の形態においては、前述のように論理和のデータが用いられるので、目標位置に近い側の1つのデータが採用されるだけで、2つのデータが存在することに起因する制御の混乱は生じない。
【0094】
<補足>
本実施の形態で説明される赤外線受光素子711〜714の構成および配置等は、一例であり、上記方位決定機能およびデータ受信機能が損なわれるのでなければ、前述の実施の形態の構成および配置に限定されない。例えば、ポインタコントローラ600が指し示している方向のいずれかの位置に浮上移動装置100が留まっている場合にのみ、データ受信機能が必要であるならば、この場合を除き、赤外線受光素子711〜714が前述のシリアルデータを受信する必要はない。
【0095】
そこで、赤外線受光素子711〜714のうち、図10における中心部、すなわち方位データが「1111」である領域に対応する部分のみがデータ受信機能を有しており、他領域は38kHzの搬送波を用いて変調された赤外線信号の入力の有無を判定するためにのみまたは特定のヘッダが付された赤外線信号の入力の有無を判定するためにのみ使用されてもよい。
【0096】
(行動演算装置)
(機能)
図11に示されるように、行動演算装置751は、上記ポインタコントローラ600から発信されシリアルデータを、データ受信センサ700を経由して受信する。それにより、行動演算装置751は、データ受信センサ700から、ポインタコントローラ600の方位データを得る。これらのデータによって、行動演算装置751は、後述する行動演算アルゴリズムを用いて、浮上移動装置100の行動を決定する。この決定された行動のためのデータが、運動指令として後述される制御回路150に入力される。
【0097】
なお、本実施の形態においては、浮上移動装置100の行動を決定するための装置は、行動演算装置と称されるが、これは一般的なマイクロプロセッサを用いて実現され得る。市販の多くのマイクロプロセッサには、シリアル通信機能が標準機能として設けられているので、これに上述の赤外線受光素子711等を接続し、その機能より得られた受信データを用いて下記の行動演算アルゴリズムを実行すればよい。
【0098】
なお、本実施の形態においては、浮上移動装置100の姿勢は自律的に所定の姿勢に維持されるので、便宜的に画像センサ180の仰角をX軸まわりの回転角θxとして表わすことができる。
【0099】
(行動演算アルゴリズム)
次に、浮上移動装置100の行動決定手法を説明する。なお、この行動決定のための演算は、行動演算装置751において、後述されるROM752に格納された表1および表2に示されるデータテーブルを参照することによって行われる。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1および表2においては、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、X軸まわりの回転角θx、およびZ軸まわりの回転角θzが、位置データおよび方位データのそれぞれに対応付けられている。表1における位置データが用いられるときには、位置変更のために浮上移動装置100のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向のそれぞれに沿った移動が制御される。表2における方位データが用いられる場合には、姿勢の制御のために浮上移動装置100のX軸まわりの回転角θx、およびZ軸まわりの回転角θzが制御される。なお、表1においては、浮上移動装置100の移動方向がxyz座標系の正方向および負方向に対応して符号の正負で表され、その移動量が数字の大きさで表わされている。また、表2においては、浮上移動装置100の回転方向が符号の正負で表され、その回転量の大きさが数字の大きさで表わされている。なお、この数値は、説明の簡便のため、概念的に与えられたものであり、大小関係のみを表現するために用いられている。
【0103】
これらのデータテーブルは、図5において矢印で示される浮上移動装置100の移動方向と対応付けられている。そのため、浮上移動装置100は、最終的には、4つの赤外線発光ダイオード611〜614の照射範囲の全てが重なっている、図5においてハッチングで示された平面領域に位置付けられる。
【0104】
図5に示されるハッチングされた平面領域は、円筒形のポインタコントローラ600の中心軸の延長線が通過する領域である。そのため、浮上移動装置100は、ポインタコントローラ600の中心軸の延長線の近傍に位置付けられる。したがって、ポインタコントローラ600に対する浮上移動装置100の方向を所望の方向に変更するときには、ポインタコントローラ600の指し示す方向を変更するだけよい。
【0105】
<行動の決定>
まず、前述の受信データにおける操縦データを用いて、浮上移動装置100の行動の態様が決定される。これは、前述の受信データの全てのビットの1/0によって決定される。たとえば、ポインタコントローラ600における位置変更ボタン630が押されている場合、姿勢変更ボタン640が押されている場合、または、ズーム兼用シャッターボタン620によってポインタコントローラ600から離れるように指示が出されているか若しくはポインタコントローラ600に近づくように指示が出されている場合には、浮上移動装置100の羽ばたき方が変更される。また、姿勢変更ボタン640が押されており、X軸回りの姿勢変更指示が、上記受信データに含まれており、かつ、その受信データが上側の赤外線受光素子712もしくは下側の方赤外線受光素子714によって受け取られた場合には、浮上移動装置100における画像センサ180の仰角が変更される。なお、X軸まわりの姿勢の変更、すなわち、X軸回りの回転を指示する信号を受信した浮上移動装置は、浮上移動装置の筐体の姿勢を変更するのでなく、CMOSイメージャの仰角を変更することとしている。さらに、いずれのボタンも押されていない場合には、浮上移動装置100はホバリングする。また、シャッターボタン620が押されている場合には、画像センサ180により撮影が行われる。
【0106】
<位置変更(上下左右)>
浮上移動装置100は、位置変更ボタン630が押されている場合、すなわち上記受信データのビット7が1である場合、上記受信データにおける位置データの値を用いて、表1に示されるテーブルを参照して、自身の行動を決定する。このように、後述される関数Pattern_Flapping(x,y,z,θz)を用いることで、左右の羽部の羽ばたき方を決定することができる。
【0107】
<姿勢変更>
姿勢変更ボタン640が押されている場合、すなわち、上記受信データのビット8が1である場合には、上記方位データに基づいて、浮上移動装置100の姿勢および画像センサ180の仰角が変更される。
【0108】
ここでは、浮上移動装置100の羽ばたき動作と、画像センサ180における仰角アクチュエータ182の動作とは、互いに独立しているので、これらの動作は、独立して変更することができる。すなわち、左左側の方赤外線受光素子711が受信データを受け取った場合には、浮上移動装置100は左旋回のための羽ばたき動作をし、右側の方赤外線受光素子713が受信データを受け取った場合には、浮上移動装置100は右旋回のための羽ばたき方をする。実際に羽ばたき動作を変更するまでの処理は、前述の位置変更の場合の処理と同一である。
【0109】
また、上方赤外線受光素子712が受信データを受け取った場合には、仰角アクチュエータ182は画像センサ180の正面を上側に傾け、逆に、下方赤外線受光素子714が受信データを受け取った場合には、仰角アクチュエータ182は画像センサ180の正面を下側に傾ける。これにより、画像センサ180が、ポインタコントローラ600の方向を向く、すなわち、ポイントコントローラ600にその正面を向けることができる。
【0110】
<距離変更(前後位置変更)>
ズーム兼用シャッターボタン620によって、浮上移動装置100にポインタコントローラ600から離れるように指示が出されている場合、または、浮上移動装置100にポインタコントローラ600に近づくように指示が出されている場合、すなわち、受信データのビット4が1である場合、または、受信データのビット5が1である場合には、浮上移動装置100は、後退または前進する。これは、関数Pattern_Flapping(x,y,z,θz)のy方向の制御に対応する。
【0111】
<行動決定テーブル>
以上の行動を決定するためのデータとして、前述の表1および表2に示される行動決定テーブルが設けられている。ただし、θxは画像センサ180の仰角である。x軸回りの回転以外の行動は、関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)を用いて、左および右の羽部の羽ばたき方を変更することにより決定される。
【0112】
<例外処理>
浮上移動装置100がポインタコントローラ600に正対していない場合、すなわち、浮上移動装置100の正面がポインタコントローラ600を向いていない場合には、位置変更ボタン630またはズーム兼シャッターボタン620の押圧によって浮上移動装置100へ移動の指示が出されても、浮上移動装置100は所望される位置に向かって移動することができない。したがって、この場合には、浮上移動装置100は、ホバリングを行うか、もしくは、姿勢変更ボタン640が押されたと見なして、自己の正面をポインタコントローラ600に向けるための動作を開始することが有効である。これは、プログラム上の条件分岐処理によって容易に実現され得る。一方、浮上移動装置100が、自身とポインタコントローラ600との相対的な位置関係を既に認識している場合には、座標変換などによって、浮上移動装置100が移動するべき方向を、行動演算装置751が算出してもよい。
【0113】
また、他の物体との衝突の回避という観点から、浮上移動装置100は、前述の受信データを得ることができない場合には、安全のために、ホバリングを行ってもよい。これは、行動演算装置751のプログラミングによって容易に実現され得る。より具体的には、浮上移動装置100は、前述の受信データが送信されてくるのを待っている場合には、常にホバリングの羽ばたき方、すなわち(x、y、z、θz)=(0,0,0,0)のデータを用いて行動すれば、他の物体との衝突を回避することが可能になる。
【0114】
<補足>
なお、本実施の形態においては、説明の簡便さおよび汎用性を鑑み、前述の受信データによって決定された行動のデータに基づいて、関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)を用いて、左および右の羽部の羽ばたき方を決定する手法が採用されているが、この関数を用いずに、前述の受信データと左および右の羽部の羽ばたき方とが対応付けられたデータテーブルを用いて、前述の受信データに基づいて、左および右の羽部の羽ばたき方を決定する手法が採用されてもよい。
【0115】
<浮上移動装置>
続いて、ポインタコントローラ600により制御される、羽ばたき飛行により浮上する浮上移動装置100を説明する。説明の簡略のため、左右対称である構成要素には同一参照符号が付され、それらのうち左側のみの説明がなされる。
【0116】
(全体の構成)
まず、図1および図12を用いて、本実施の形態の浮上移動装置の全体構成を説明する。この項目は、全体構成を説明するためのものであるため、各構成要素の詳細な構成および動作は後述される。
【0117】
ここでは、説明の簡便のため、浮上移動装置100は、自律的に姿勢を保持するものとし、羽ばたき運動によって移動しかつその向きを変更する。しかしながら、後述される画像センサ180の仰角は、浮上移動装置100の羽ばたき運動によって変更されるのではなく、仰角アクチュエータ182が画像センサ180の浮上移動装置100に対する姿勢を変更することによって変更される。この構成により、空中撮影のために必要な制御が実現される。
【0118】
図1に示されるように、浮上移動装置100は、筐体101と、筐体101に設けられた1対の羽部110とを備えている。一対の羽部110の一方は、筐体101の左側の側部に設けられ、一対の羽部110の他方は、筐体101の右側の側部に設けられている。
【0119】
浮上移動装置100は、羽部110の羽ばたき運動によって、周囲流体に流れを生じさせるとともに、周囲流体から反作用を受ける。このとき、浮上移動装置100は、鉛直上方に向いた、自重を超える反作用を周囲流体から受ける。それにより、浮上移動装置100には重力加速度を超える鉛直上方向きの加速度が生じる。その結果、浮上移動装置100は浮上する。
【0120】
また、図12に示されるように、浮上移動装置100は、アクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を有している。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130は、筐体101に回転可能に搭載されている。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130には、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の運動を羽部110へ伝達する羽駆動メカニズム140が接続されている。羽駆動メカニズム140には羽部110が接続されている。羽部110は、上部および下部超音波モータ120および130の駆動によって、上下方向を回転中心軸とする往復回動運動(以後、「ストローク運動」と称する)と、羽部110の前縁部を回転中心軸とする回転運動(以後、「捻り運動」と称する)とを行なう。つまり、羽部110は、ストローク運動および捻り運動のそれぞれを独立して行なうことができる。
【0121】
上部および下部超音波モータ120および130は、制御回路150によって制御される。また、制御回路150には、筐体101に固定された位置検出センサ160から浮上移動装置100の位置情報および姿勢情報が与えられる。
【0122】
浮上移動装置100の下部には、画像センサ180が、仰角アクチュエータ182によってその仰角が変更され得る態様で搭載されている。更に、後述される、画像センサ180の撮影範囲の中心点と略一致する中心点を有するデータ受信センサ700が設けられている。
【0123】
画像センサ180は、ズーム兼用シャッターボタン620の押し下げに基づいてポインタコントローラ600から送信される信号を受けることによって画像の撮影を行う。画像センサ180よって得られた画像情報は、通信装置170によってポインタコントローラ600へ送信されるが、これは制御回路150によって直接利用されてもよい。たとえば、浮上移動装置100の位置および速度等が、制御回路150の画像情報の処理によって認識されてもよい。
【0124】
また、制御回路150、通信装置170、および画像センサ180等は、筐体101に設けられた電源190から供給される電力によって駆動される。電源190は、駆動エネルギー源として機能するが、本発明の駆動エネルギー源は、電力を用いるもの以外のもの、たとえば、化石燃料等であってもよい。この場合、アクチュエータとしては例えば2サイクルエンジンやスターリングエンジン等、上記駆動エネルギー源に対応した物が用いられる。
【0125】
(羽部)
羽部110は、図13〜図17に示されたような形状を有し、長さが65mmであり、かつ、幅が16mmである。羽部110は、前縁部1102、羽面部1103、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106を有している。なお、羽面部1103とは、前縁部1102、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106以外の部分であって、細長板状部1107、1108、および1109とアラミドフィルム1114とからなる部分である。
【0126】
羽部110のアラミドフィルム1114以外の部分、つまり前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109は、厚さ20μmのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)層からなる。具体的に言えば、羽部110のアラミドフィルム1114以外の部分は、CFRPのシートから図15〜図17に示す3つの部分が切り抜かれ、その3つの部分が積層されることによって形成される。
【0127】
前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、厚さ20μmのCFRP層の3層積層構造を有している。また、枠部1104、枝部1105、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれはCFRP層からなる1層構造を有している。図13に示されるX軸の正の方向を0度とすると、細長板状部1107の繊維軸の方向は−60度(+120度)であり、細長板状部1108および枠部1104のそれぞれの繊維軸の方向は、0度(180度)であり、細長板状部1109の繊維軸の方向は、+60度(+240度)であり、枝部1105の繊維軸の方向は、−30度(150度)である。前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、繊維軸の方向が−60度(+120度)、0度(180度)、および+60度(240度)である3つのCFRP層が重ねられることによって形成されている。
【0128】
前縁部1102の主要な変形は、羽部110の長手方向に平行な伸縮であるため、この方向とCFRP層の繊維軸とが一致していることが望ましい。また、アクチュエータ接合部1106には複数の方向に力が加えられ、羽ばたき運動に応じてこれらの力の方向が変化すると考えられる。したがって、あらゆる方向に極力均等な剛性を有するように、異なる方向の繊維軸を有する多数のCFRP層を積層することによって形成されていることが望ましい。なお、前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、他の部分より剛性が高くなっている。これらの要件を満たす羽部の製造方法は後述される。
【0129】
また、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、枠部1104、および枝部1105に囲まれるように羽面部1103が設けられている。羽面部1103は、アラミドフィルム1114からなり、図14の紙面の奥行き方向に延びている。また、アクチュエータ接合部1106は、羽部110の根元に設けられ、アクチュエータに接合されており、その長さは10mmである。
【0130】
また、図15〜図17に示すように、複数の細長板状部1107のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1107同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。また、複数の細長板状部1108のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1108同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。さらに、複数の細長板状部1109のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1109同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。
【0131】
なお、本実施の形態では、説明の簡便のため、同一層の複数の細長板状部は、同一ピッチかつ平行であるものとしたが、たとえば、剛性分布を意図的に変更する場合には、前述のものに限定されない。たとえば、先端側に比較して、根元側のピッチが小さくなっており、それにより、剛性が高められている羽部110が用いられてもよい。
【0132】
<前縁部>
前縁部1102は、図14に示されるように、羽部110の長手方向に沿って延びる溝構造、すなわちコルゲーションと呼ばれる凹凸形状を有している。そのため、前縁部1102においては、長手方向を含む面内の曲げ変形に対する剛性が、長手方向を回転中心軸とする曲げ変形に対する剛性に比較して、高くなっている。なお、この前縁部1102の凹凸形状は、プリプレグと呼ばれるCFRP層の原材料のシートを、この凹凸形状に対応する金型に密着させた状態で加熱することによって容易に成形され得る。また、前縁部1102には荷重が大きくかかる。そのため、前縁部1102は、細長板状部が設けられていない構造、すなわち隙間がない密実構造であるので、羽面部1103より剛性が高くなっている。さらに、前縁部1102は、根元に近づくにしたがって、累積的に荷重が増加するため、根元が先端に比べ太くなっている。根元部分での前縁部1102の幅および高さは約2mmであり、先端部分での前縁部1102の幅および高さは約1mmである。ただし、図の記述精度の制約から、図14〜図17においては、根元部分における前縁部1102の幅と先端部分における前縁部1102の幅とは同じ幅で描かれている。
【0133】
<羽面部>
羽面部1103は、図14〜図17に示されるように、CFRP層の細長板状部1107、1108および1109、およびアラミドフィルム1114によって構成されている。羽部110と同一の外形を有するアラミドフィルム1114が、CFRP層の細長板状部によって挟まれている。
【0134】
本実施の形態においては、アラミドフィルム1114の耐熱温度がCFRP層の成形温度よりも高く、かつCFRP層の成形工程において、プリプレグとアラミドフィルムとを接触させておき、加圧および加熱処理を行なうことで、プリプレグに含まれる樹脂成分によってCFRP層とアラミドフィルムとを接着させることが可能である。したがって、CFRP層によって構成された前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109ならびにアラミドフィルム1114を含む原材料を上述の金型上で焼結することによって、簡単に羽面部1103を製造することが可能である。
【0135】
羽面部1103の細長板状部1107、1108、および1109は、それらが延びる方向が互いに60度だけずれた状態で重ねられている。そのため、羽面部1103の表面に垂直な方向から見ると、細長板状部1107、1108、および1109によって、正三角形の枠、すなわちトラスが形成されているように見える。また、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれは、細長い長方形の輪郭を有しており、そのうち2つの長辺は、繊維軸に平行に延びている。これは、強度が高いCFRPの長手方向と、上記トラス構造の各ビームの力のかかる方向とを一致させ、一軸異方性材料であるCFRPの強度特性を最大限活用するための構成である。ただし、2つの長辺の一方の長辺のみが繊維軸に平行に延びていれば、繊維の強度をある程度有効に利用することが可能である。なお、上記ビームが長方形ではない場合には、応力解析などの手法を用いて、そのビームの形状に最適な繊維軸方向を決定する必要がある。
【0136】
また、本実施の形態では、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの曲げ剛性は、前縁部1102の1/8であるものとする。一般に、曲げ剛性は、断面二次モーメントに比例する。つまり、曲げ剛性は、(幅:矩形の短辺の長さ)×(厚さの3乗)に比例する。
【0137】
ここで、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの厚さが一定であり、細長板状部1107の幅が細長板状部1107同士の中心軸間の距離(以下、これを「ピッチ」という。)の1/a倍であり、細長板状部1108の幅が細長板状部1108同士のピッチの1/a倍であり、かつ、細長板状部1109の幅が細長板状部1109同士のピッチの1/a倍であると仮定する。この仮定の下では、細長板状部の幅が1/a倍になれば、羽面部1103の曲げ剛性も1/a倍になる。したがって、本実施の形態においては、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅を細長板状部1107同士、細長板状部1108同士、および細長板状部1109同士のそれぞれのピッチの1/8倍にすることによって、前縁部1102の曲げ剛性の1/8倍の曲げ剛性を有する羽面部1103が実現されている。つまり、羽面部1103の厚さ、すなわち細長板状部の積層数を変化させることなく、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅のみを変更することによって、所望の曲げ剛性分布を有する羽部110が形成されている。細長板状部の積層数は、自然数にしかならず、連続的に変化し得るものではないため、細長板状部の積層数を変化させるだけでは、羽部の曲げ剛性の分布が不連続になってしまう。しかしながら、上記細長板状部の幅とピッチとの比は、連続的に変化し得るものであるため、上記曲げ剛性分布を連続的に変更することによって、所望の曲げ剛性分布を得ることができる。
【0138】
なお、本実施の形態の羽部110の構造によれば、細長板状部1107の幅と細長板状部1107同士のピッチとの比、細長板状部1108の幅と細長板状部1108同士のピッチとの比、および細長板状部1109の幅と細長板状部1109同士のピッチとの比を互いに異ならせることによって、羽面部1103の曲げ剛性が異方性を有するようにすることが可能である。たとえば、羽部110の長手方向を含む面内の曲げ変形に対して高い剛性を有する羽部110を製造する場合には、細長板状部1108の幅を大きくし、細長板状部1108同士のピッチを小さくすればよい。
【0139】
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造の一部をトラスが形成されるように切り抜く手法が用いられた場合には、各トラスの三辺に3つのCFRP層が積層されている。この手法により形成された羽面部の質量は、トラスが形成されていない羽面部1103と同一面積の3つのCFRP層の積層構造の質量の3/a倍(aは前述の値)となる。この場合、3つのCFRP層のうちの1つの層の繊維軸を含む面内の曲げ変形モードにおいては、その1つのCFRP層以外の2つのCFRP層は、樹脂程度の剛性しか有していないため、不要である。すなわち、前述の羽部110は、本段落にて説明されているような切り抜きによって形成された羽部の約1/3の質量で、その羽部とほぼ同一の剛性を有する。(具体的には下記の<羽質量>の項目に羽部の質量および剛性の数値が記載されている。)
<枠部>
羽面部1103を構成するアラミドフィルム1114は、図14に示されるように、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、および枠部1104の間に張られている。そのため、アラミドフィルム1114の端部の破損が防止されている。本実施の形態では、枠部1104の幅は約0.5mmである。なお、枠部1104は、図14に示されるよう
に、羽面部1103を取り囲む形状であるため、それが延びる方向は位置によって異なる。枠部1104の繊維軸の方向は、それの延びる方向に一致している。
【0140】
<枝部>
羽部110が大きくなった場合には、羽部110の先端部の回転半径も大きくなる。この場合、流体に対する相対速度が大きくなるため、羽部110の先端部には大きな流体力が生じる。羽部110の先端部に生じる流体力が大きくなっても、羽部110の先端部の制御性を維持する必要がある。そのため、前縁部1102に接続され、前縁部1102から斜め方向に延びる枝部1105が設けられている。枝部1105の幅は約0.9mmである。枝部1105は、X軸方向の羽部110の先端側を向く方向を0°とした場合に、−30°の方向に延びるように形成されている。
【0141】
なお、枝部1105とX軸との間の角度および羽面部1103に要求される剛性によっては、前述の細長板状部1107とは異なる細長板状部を有するCFRP層に枝部1105が設けられていてもよい。また、CFRP層とは別の材料を用いて形成された枝部1105がCFRP層同士の間に挟み込まれた構造の羽面部1103が用いられてもよい。
【0142】
<アクチュエータ接合部>
アクチュエータ接合部1106は、実際には、羽部110を駆動するアクチュエータとの適合性に応じて、その形状が決定される。本実施の形態のアクチュエータ接合部1106は、図14に示される形状であるものとする。また、羽ばたき運動により生じる流体力に起因する変形を防止するため、アクチュエータ接合部1106の材料としては、細長板状部を有しない、すなわち隙間がない密実な構造のCFRP層が用いられる。さらに、アクチュエータ接合部1106の前方端には溝構造が設けられている。このアクチュエータ接合部1106の溝構造と前縁部1102の溝構造とは連続するように設けられている。
【0143】
<羽質量>
CFRPの比重が1.6g/cm3であるものとして、表1に前述の羽部110の各部位の質量が示されている。表1に示されるように、羽部110の質量は、約26.5mgである。また、アクチュエータ接合部1106の質量は約10.8mgである。
【0144】
【表3】
【0145】
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造をトラス形状が形成されるように切り抜く手法が用いられた比較例の羽部の質量は約48mgである。
【0146】
(超音波モータ)
次に、図18〜図26を用いて、本発明のアクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を説明する。
【0147】
<全体構成>
まず、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の構成を説明する。
【0148】
図18に示されるように、上部超音波モータ120は、上部超音波振動子121と、これによって駆動される上部ロータ122とを有している。また、上部ロータ122は、上部ベアリング123を介して、ロータシャフト124に、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。ロータシャフト124は、筐体101に固定されている。上部ロータ122には、上部磁化パターン125が円弧状に記されている。上部磁化パターン125は、上部磁気エンコーダ126で読み取られる。上部超音波振動子121においては、図25に示すように、支持部1214が支持シャフト127に固定され、牽引部1224が牽引ゴム129により牽引されている。また、上部超音波振動子121を駆動する電力はフィルム基板128を経由して供給される。
【0149】
下部超音波モータ130は、上部超音波モータ120と上下方向において鏡面対称の構造である。すなわち、下部超音波モータ130においては、下部超音波振動子131が下部ロータ132を回転させる。下部ロータ132は、図示されない下部ベアリングが介在した状態で、ロータシャフト124に、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。下部ロータ132には、図示されない下部磁化パターンが円弧状に記されている。下部磁化パターンは、下部磁気エンコーダ136で読み取られる。
【0150】
上部および下部超音波モータ120および130は、上下方向において鏡面対称に設けられていること以外においては、全く同様の構成を有しているため、以降においては、上部超音波モータ120の詳細構造のみの説明を行なう。
【0151】
<駆動原理>
次に、図18〜図26を用いて、上部超音波モータ120の駆動原理を説明する。
【0152】
上部超音波振動子121は、振動板1211、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213からなる。振動板1211は、厚さ0.2mmのステンレスで作製され、幅2mmかつ長さ9mmの矩形部と、矩形部の長手方向の中央部から外方に突出する支持部1214とを有している。振動板1211は、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213によって挟まれている。表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213は、それぞれ、幅2mm、長さ8mm、および厚さ0.2mmの短冊形状を有し、厚み方向に分極するピエゾ焼結体からなる。
【0153】
表面ピエゾ1212には、図19に示されるように、4分割されそれぞれ対角に位置するもの同士が電気的に結合された表面電極1216が接合され、裏面ピエゾ1213には、同じく4分割されそれぞれ対角に配するもの同士が電気的に結合された裏面電極1217が接合される。これらは図19に示されるように、それぞれ面直方向に配置が一致する電極について、電圧φAおよびφBがかけられている。φAおよびφBに逆電位の電圧、例えば振幅30V、周波数250kHzの矩形波を印加すると、上部超音波振動子121において、図20に示されるような、節を3つ有する、即ち3次のたわみ振動モードが励起される。また、φA、φBに同位相の電圧、例えば振幅30V、周波数250kHzの矩形波を印加すると、図21に示されるような、縦(伸縮)の振動モードが励起される。本実施の形態における上部超音波振動子121においては、2つの振動についての共振モードの共振周波数は、いずれも250kHzであり、それらは互いに一致している。ここで、これらの共振モードの振動の位相を±90°異ならせることによって、振動板1211の頂点は図22および図23に示される2種類の楕円運動を行なう。2種類の楕円運動は、正方向に回転する楕円運動と、逆方向に回転する楕円運動である。また、振動板1211の頂点にはセラミックからなる接触部1215が設けられている。接触部1215は、前述の楕円運動に応じて、摩擦力によって、上部ロータ122をロータシャフト124の軸周りに回転させる。このとき、正方向の回転および逆方向の回転のいずれかが選択される。
【0154】
なお、説明の簡便のため、図22および図23においては、φAおよびφBそれぞれに与えられる電位を三角関数によって表わしたが、それらの電位の位相が±90°ずれているのであれば、矩形波等によって表わされる電位が両電極に与えられてもよい。
【0155】
また、本実施の形態においては、振動速度の大きい縦振動を用いてロータ122を回転させるべく、接触部1215を振動板1211の頂点に配したが、たわみ振動が、ロータ122に求められる、後述する図34等に示される角速度を得るに足る振動速度を有しているのであれば、図24に示されるように、接触部1215を振動板1211の短辺の略中央に設けてもよい。本発明者らの実験によれば、この構成では、振動板1211とロータ122の配置の誤差、および、接触部1215の摩耗による形状変化などに対して、動作の安定性がより高いことが分かっている。
【0156】
なお、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれは、扇形の輪郭を有し、所定の回転角の範囲内での回転往復運動を行なう。そのため、軽量化のためには、図26に示されるように、不要な部分が削除された、その外形が中心角120°の扇形のフレーム構造を有する上部ロータ122および下部ロータ132が用いられることが望ましい。輪郭が扇型であるロータが用いられれば、中心軸まわりに回動(回転往復運動)するロータの占有率を最も効果的に低減することができる。なお、上部ロータ122および下部ロータ132は、それぞれ、扇型の輪郭に沿ったフレーム部を有している。
【0157】
なお、前述の各部位のサイズおよび振動板の共振周波数などの数値は、一例であり、浮上のための要件が満足されるのであれば、前述の値に限定されない。この浮上のための要件は、後述の浮上可能性の項において述べられている。
【0158】
また、上部ロータ122および下部ロータ132は、図26に示されるように、必要な強度が確保される範囲内において、軽量化のための中空構造を有していてもよい。つまり、上部ロータ122および下部ロータ123のそれぞれが、半径120°の扇型の外周に沿って延びるフレームを有する構造からなっていてもよい。
【0159】
更に、上部ロータ122および下部ロータ132に、後述する上部ローラ122の回転角θ1−下部ロータ132の回転角θ2を所定の範囲内の値に制限するためのリミッター12322a、リミッター12322b、およびリミッター12322cが設けられてもいてもよい。リミッター12322bは、扇形のフレーム構造の下部ロータ132の内周面に設けられ、リミッター12322aおよびリミッター12322cは、扇形のフレーム構造の上部ロータ122の内周面に設けられている。リミッター12322bは、円弧状の軌跡において、リミッター12322aとリミッター12322cとの間に位置付けられている。これによれば、リミッター12322bの移動範囲は、リミッター12322aおよびリミッター12322cによって制限される。したがって、後述する羽の捻り角βが一定の範囲内の値に制限される。そのため、後述する数式(7)において、解が物理的に1つに定まる。その結果、羽部の動作が安定する。
【0160】
また、上部および下部ロータ122よび132が各超音波振動子の駆動力をロス無く羽部に伝達することが望ましい。そのため、ロータの回動抵抗は極力小さいことが望ましい。さらに、上部ロータ122と下部ロータ132との衝突を避けるために、これらのロータは中心軸まわりにのみ回転することができる構造を有していることが望ましい。したがって、本実施の形態では、ロータと回転中心軸との接触部におけるベアリングとして、ピボットと呼ばれる一種のボールベアリングが用いられている。これによって、前述のように、ロータ同士の接触が防止されている。なお、上記ロスが超音波振動子の駆動力に比べ十分小さいのであれば、擦動タイプのベアリング、たとえばテフロン(登録商標)ベアリングなどが使用されてもよい。
【0161】
なお、後述される後方切り返し時において、羽部が水平状態になると、すなわち、後述されるβが180°に達すると、切り返し後のβが0<β<πとなるか、または、π<β<2πとなるかは、不定となる。前者の場合には、羽部が裏返り、迎え角が負となることになり、揚力が得られず、浮上移動装置は飛行することができない。このため、前述の2つのリミッターにより、βが180°に達しないように、羽部の動作が制限されている。さらに、本発明者らの実験によると、羽部にかかる流体力がヒンジを押し上げによって弾性変形させることにより、厳密にβが180°に達しなくても、羽部が裏返る現象が観察されている。このため、前述の2つのリミッターは、羽ばたき飛行に支障をきたさない範囲内で、βが180°よりもある程度小さい値になるように設けられていることが望ましい。
【0162】
<予圧機構>
次に、図25を用いて、接触部1215から上部ロータ122へ予圧を与える機構を説明する。
【0163】
接触部1215から上部ロータ122へ予圧が作用しており、その反作用として、接触部1215から上部ロータ122の外周面へ向かって抗力が生じている。そのため、上部ロータ122と接触部1215との間には摩擦が生じている。したがって、接触部1215の楕円運動によって、上部ロータ122は、摩擦力を受け、回転往復運動を行なう。
【0164】
牽引ゴム129は、環状であり、その一端が、牽引部1224に引っ掛けられている。牽引ゴム129の他端は、筐体補強ポール112に固定されている牽引ゴムピン113に引っ掛けられている。したがって、牽引ゴム129には張力が生じ、牽引部1224が筐体補強ポール112に向かって牽引されるため、振動板1211は牽引部1224を含む振動板1211を支持している支持シャフト127の軸周りに回転運動する。この回転運動は、接触部1215が上部ロータ122に接触することによって拘束されている。したがって、接触部1215から上部ロータ122へ向かう予圧が生じる。
【0165】
なお、前述の筐体補強ポール112を、その長軸周りに回転させることによって、前述の予圧の大きさを調整することが可能である。また、予圧機構は、上部ロータ122を駆動するための摩擦力を得るために設けられているものであるため、前述の予圧が得られ、かつ、浮上移動装置100の浮上特性が損なわれないのであれば、図25に示す構造に限定されない。
【0166】
<回転角検出>
図18に示す上部磁気エンコーダ126には、パターン周期の1/4の間隔を置いてA相およびB相のための2つの検出部が設けられている。この上部磁気エンコーダ126は、一般的なエンコーダと同様に、上部ロータ122の回転方向に応じてA相およびB相の位相のずれの状態が異なる。そのため、たとえば、A相のアップエッジがカウンタのトリガとして利用され、B相のレベルの1/0がアップカウント/ダウンカウントのうちのいずれを使用するかを決定するために用いられれば、上部ロータ122の回転角θ1を検出することが可能である。この回転角θ1の算出は、中央演算装置151において行なわれる。
【0167】
<補足>
なお、図18〜図26において示された超音波モータは、一般的なアクチュエータの一例であり、浮上移動装置のアクチュエータは、前述のような構造の超音波モータに限定されない。たとえば、アクチュエータとして、電磁モータまたは内燃機関が用いられてもよい。また、回転角検出のための装置は、羽ばたき飛行を阻害するものでなければ、いかなるものであってもよい。たとえば、前述の磁気エンコーダを用いる手法の替わりに、光学式エンコーダを用いる手法が採用されてもよい。
【0168】
(羽駆動メカニズム)
次に、図27〜図30を用いて羽駆動メカニズムについて説明する。
【0169】
羽駆動メカニズム140は、図27に示されるように、上部ロータ122に固定された上部プレート141と、下部ロータ132に固定された下部プレート142とを有している。さらに、下部プレート142には第1アラミドヒンジ143が介在した状態で中間プレート144が接続されている。さらに、上部プレート141には、第2アラミドヒンジ145が介在した状態で、羽部110の根元部が接続されている。さらに、羽部110の根元部は、第3アラミドヒンジ146が介在した状態で、中間プレート144にも接続されている。したがって、上部プレート141、羽部110、中間プレート144、および下部プレート142がアラミドフィルムで接続された複合ヒンジが構成されている。この複合ヒンジは、上部ロータ122および下部ロータ132によって駆動される。
【0170】
図28〜図30には、上部プレート141、中間プレート144、および下部プレート142の形状が示されている。なお、各プレートのヒンジおよびロータに接続されない辺の近傍の部分は、補強のため、図28〜図30のハッチングで示される部位が、各プレートの主表面に対して約90°折り曲げられている。さらに、この折り曲げ部同士の干渉を避けるため、折り曲げ部の両側端のそれぞれは、折り曲げ部が延びる方向に対して45°の方向においてカットされている。
【0171】
各アラミドヒンジは、幅0.1mmであり、長さに比べてその幅が非常に小さいため、擬似的に1自由度の回転のみ運動可能なリンク、すなわち蝶板(兆番)として機能する。また、アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線は1点で交わり、その1点はシャフト124の中心軸上に位置し、かつ、上部ベアリング123と下部ベアリング133との間に位置する。この構成により、上部超音波モータ120の回転角の制御によって羽部110の前後方向の往復運動が制御され、上部超音波モータ120の回転角の位相と下部超音波モータ130の回転角の位相との差の制御によって、羽部110のねじり運動が制御される。
【0172】
つまり、アクチュエータは、羽軸としての前縁部1102を前後方向に往復運動(回転角α:Z軸周りの回転角)させる前後往復運動用ロータとしての上部超音波モータ120と、往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、前縁部1102を軸周りに回転(回転角β)させる捻り運動用ロータとを備えている。
【0173】
前述の羽ばたき方を、図31および図32を用いて、より具体的に説明する。図31および図32においては、浮上移動装置100の前後方向に沿ってY軸が延びている。また、浮上移動装置100の上下方向に沿ってZ軸が延びている。さらに、浮上移動装置100の左右方向に沿ってX軸が延びている。X軸、Y軸、およびZ軸は、互いに直交する。また、Y軸においては、後方が正であり、前方が負である。また、X軸においては、上方が正であり、下方が負である。さらに、Z軸においては、左の羽部110の位置する側が正であり、右の羽部110が位置する側が負である。また、図32に示すように、上部超音波モータ120の回転角がθ1であり、下部超音波モータ130の回転角がθ2であり、前後方向の往復運動の回転角である羽ばたきストローク角がαであり、前縁部1102の軸周りの回転角である捻り角がβであるものとする。
【0174】
また、前述の各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線の交点から各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの外側端までの距離は、それぞれ、R2、R1、およびR3であるものとする。さらに、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ145の端点の距離がL1であり、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ143の端点の距離がL2であり、アラミドヒンジ143の端点とアラミドヒンジ145の端点と間の距離がL3であるものとする。ロータシャフト124に対する羽部110の位置を表わす角度の組み合わせ(α,β)は、上および下部超音波モータの回転角θ1およびθ2を用いて、以下のように表わされる。
【0175】
羽ばたきストローク角αは、羽軸(前縁部1102)のロータシャフト124の軸周りの回転であるため、次の式(1)に示すように、上部超音波モータ120の回転角θ1に等しい。
【0176】
α=θ1・・・(1)
また、捻り角(回転角β)は、羽部110の羽軸(前縁部1102)の軸周りの回転角であるため、次の式(2)によって示されるβの余弦値から算出される。
【0177】
cos(π−β)=−cos(β)=[L1×L1+L3×L3−L2×L2]/(2×L1×L3)・・・(2)
ただし、L3に関しては、次の式(3)が成り立つ。
【0178】
L3=sqrt(R1×R1+R2×R2−2×R1×R2×cos(θ1−θ2))・・・(3)
ここで、sqrt()は()内の値の正の平方根である。
【0179】
なお、図31および図32から明らかなように、βは、πより大きく、かつ、2πより小さい。
【0180】
π<β<2π・・・(4)
したがって、βが1つの値に決定される。
【0181】
上記の式(1)〜(4)から、所望の羽部110の位置(α,β)を得るための回転角θ1およびθ2は、次の式(5)および(6)によって表わされることが分かる。
【0182】
θ1=α・・・(5)
cos(θ1−θ2)=[R1×R1+R2×R2−L3×L3]/2×R1×R2・・・(6)
ただし、L3に関しては、次の式(7)が成立する。
【0183】
L3=L1×cos(β−π)±sqrt(L2×L2−L1×L1×sin2(β−π))・・・(7)
なお、L3の複号(±)が、正であるか、または、負であるかは、実際の羽部110の挙動を考慮することによって、容易に決定される。
【0184】
図31および図32に示される本実施の形態の浮上移動装置の状態は、羽部110の主表面が鉛直な方向に延びる平面と平行である状態、すなわち、捻り角β=270°である状態である。このとき、θ1=0°、θ2=−45°、R1=R2=15mm、R3=15.81mm、L1=5mm、L2=11.4mm、およびL3=11.39mmである。
【0185】
上部および下部ロータ122および132の回転角θ1およびθ2は、前述のように、磁気エンコーダ126よって得られた情報に基づいて中央演算装置151によって算出される。なお、回転角θ1およびθ2の制御方法は後述される。
【0186】
上記のようにして、羽部110の羽ばたき運動が実現される。
(トルク補助機構)
次に、図33〜図37を用いて、トルク補助機構を説明する。
【0187】
<原理>
羽ばたき飛行においては羽部110の運動方向が反転するため、打ち上げと打ち下ろしとの間に行なわれる羽部110の切り返しにおいては、アクチュエータに要求されるトルクは高くなる。しかしながら、羽部110の切り返しの直前まではアクチュエータに要求されるトルクは小さい。そこで、アクチュエータに要求されるトルクが小さな期間に、何らかの方法を用いて、アクチュエータ(上部および下部超音波モータ120および130)の運動エネルギーを蓄積しておき、アクチュエータに高いトルクが要求される期間に、蓄積されたエネルギーを羽部110に与えることで、アクチュエータに要求されるトルクの時刻歴を平滑化することができる。
【0188】
次に、図33〜図37を用いて、切り返し時のトルクの時刻歴を平滑化する手法を説明する。本実施の形態においては、その手法として、ある物質を弾性変形させることによってアクチュエータのエネルギーを蓄積し、その弾性変形した物質の復元力によってアクチュエータにエネルギーを与える手法が用いられる。なお、以後においては、弾性変形する物質に蓄積されたエネルギーによってアクチュエータに与えられるトルクを補助トルクと称する。
【0189】
図33に示されるように、本実施の形態における浮上移動装置100においては、羽部110の切り返し時にトルクのピークが極端に大きくなる現象は、上部超音波モータ120の駆動トルクT1に顕著に現れる。なお、上部ロータ122の回転角θ1および下部ロータ132の回転角θ2の制御は、図34に示されるものであるとする。また、浮上移動装置100は、羽軸としての前縁部1102を、前後方向に往復運動させるとともに、その往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、前縁部1102周りに回転させる羽ばたき運動を行なうものとする。
【0190】
上部超音波モータ120の打ち上げ動作と上部超音波モータ120の打ち下ろし動作とは前後対称である。そのため、今後は上部超音波モータ120の打ち上げ動作後の切り返し時のトルクを補助する手順のみ説明する。
【0191】
図35に示されるように、上部ロータ122の外側にバネ301が設けられている。バネ301は、筐体101のいずれかの部分に固定されている。バネ301と上部ロータ122とは、上部ロータ122の回転角がθ_contactを超えた時点で接触を開始する。なお、θ_contactの求め方については後述する。
【0192】
上部ロータ122がバネ301に接触した時点でバネ301は収縮を始めるので、上部ロータ122にはバネ301が伸張する方向に復元力が作用する。この復元力の大きさはバネ301の収縮した長さに比例するため、図36において破線で示されるようなトルクが生じる。ここでは、前述の図36に破線で示されるトルクがトルク補助機構による補助トルクと称される。なお、トルク補助機構は、本発明のエネルギー蓄積・供与機構に対応する。
【0193】
上部ロータ122を駆動するために要求されるトルクT1は、図36に細実線で示される従来のトルクT1に、前述の補助トルクを加算した値となるため、図36に太実線で示されるようになる。
【0194】
以上のように、トルクの小さい切り返し動作の前半の上部ロータ122の変位によって、バネ301に変形エネルギーが蓄えられ、バネ301の復元力によって、蓄えられた変形エネルギーが切り返し動作の後半に上部ロータ122に与えられる。すなわち、本実施の形態のトルク補助機構、すなわち、エネルギー蓄積・供与機構は、羽軸としての前縁部1102を駆動するために要求されるトルクが小さい場合にエネルギーを蓄積し、前縁部1102に駆動するために要求されるトルクが大きい場合に上部ロータ122に与える。言い換えれば、エネルギー蓄積・供与機構は、前縁部1102の切り返しの前半に上部ロータ122のエネルギーを蓄積し、切り返しの後半にエネルギーを上部ロータ122に与える。それにより、前述のトルクT1のピークが低減され、トルクの時刻歴が平滑化される。
【0195】
<設計手法>
次に、図36および図37を用いて、最大トルクをT_MAXに低減させるためのバネ301のバネ定数および収縮量の設計思想を説明する。なお、回転角θ1およびトルクT1は負の値になり得るが、説明の簡便のため、本項目の説明では、回転角θ1およびトルクT1の符号は、すべて正の値であるものとする。
【0196】
まず、図37に示されるように、切り返し動作の後半において本来のトルクT1がT_MAXと等しくなる時刻t1を求める。この時刻t1が、補助トルクが必要とされる最終の時刻であるため、この際の回転角θ1が前述の回転角θ_contactとなる。
【0197】
さらに、トルクT1が極大値T1_MAXになる回転角θ1_MAXT1のときに、トルクT1からバネ301による補助トルクを減算した値が、T_MAXより小さくなるように、バネ301のバネ定数を定める必要がある。この際のバネ301の収縮量は、回転角θ1_MAXT1と回転角θ_contactとの差に、バネ301が上部ロータ122に接触する点と上部ロータ122の回転中心位置との間の距離R_contactを乗じた値である。したがって、この時点でバネ301に発生している力F_springは、バネ301のバネ定数をkとして、次の式(8)で表わされる。
【0198】
F_spring=(θ1_MAXT1−θ_contact)×R_contact×k・・・(8)
この際に与えられる補助トルクT_springは、次の式(9)で表わされる。
【0199】
T_spring=F_spring/R_contact=(θ1_MAXT1−θ_contact)×k・・・(9)
また、次の式(10)が成立する。
【0200】
T_MAX+T_spring>T1_MAX・・・(10)
したがって、次の式(11)が得られる。
【0201】
k>(T1_MAX−T_MAX)/(θ1_MAXT1−θ_contact)・・・(11)
厳密には、すべての時刻において、式(11)が成立する必要があるが、本実施の形態においては、図36に示すように、トルクT1の最大値である場合において、式(11)が成立すれば、アクチュエータに要求されるトルクを大きく低下させることができる。
【0202】
本実施の形態においては、R_contact=4mmであり、k=160、θ_contact=30.5°であれば、トルクT1のピークが17gf・cmから10gf・cmへ低下する。
【0203】
<材料および手法の選択>
弾性変形してエネルギーを蓄える部材としては、金属などの弾性体またはゴムなどの超弾性体が適している。特に、ゴム紐は、比重が小さくかつ軽量化され易いものであるため、エネルギーを蓄える部材として望ましい。
【0204】
また、弾性変形以外の態様でエネルギーを蓄えるトルク補助機構が用いられてもよい。たとえば、気体の体積変化と圧力との関係を利用して、シリンダ内に封入された気体の収縮および伸張によって、エネルギーの蓄積および放出を行なうトルク補助機構が用いられてもよい。さらに、シリンダに封入された気体が相変化を利用して、エネルギーの蓄積および供与を行なうトルク補助機構が用いられてもよい。
【0205】
また、超音波モータ120の替わりに、電磁モータが用いられ、誘導電力が電源190等に蓄えられるトルク補助機構が用いられてもよい。
【0206】
<補足>
本項目においては、打ち上げ動作後の切り返しの際のトルクの時刻歴を平滑化する手法が説明されているが、打ち下ろし動作後の切り返しの際のトルクの時刻歴を平滑化する手法も、前述の手法と同様である。また、上部超音波モータ120のトルク補助機構の説明のみがなされたが、下部超音波モータ130のトルク補助機構にも、上部超音波モータ120のトルク補助機構と同様の構成を適用することが可能である。
【0207】
特に、本実施の形態においては、後述する先行切り返しの時に、下部ロータ132の振幅が大きくなる。この先行切り返しの時には、下部超音波モータ130に供給されるトルクが大きくなる。そのため、先行切り返しの羽ばたき方のときに下部ロータ132に前述の手法を適用することが望ましい。また、前述の手法を適用するためには、先行切り返し時に下部ロータ132が大きな振幅で往復運動することを阻害しないように、トルク補助機構としての弾性体の位置を考慮する必要がある。
【0208】
(羽ばたき方の変更による浮上移動装置の動作制御)
<動作の基本原理>
本実施の形態における浮上移動装置100は、羽部110の羽ばたき運動が生み出す浮上力の作用点より下側の部分の質量が大きいため、自動的に、図1に示される姿勢になる。すなわち、X軸周りの回転およびY軸周りの回転を制御する必要はない。一方、X軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれに沿った並進加速度、ならびにZ軸周りの回転加速度(以下、「角加速度」とも言う)は、羽ばたき方によって変更される。尚、羽ばたき運動により生じる力は羽部の運動に伴って変化するが、ここでは、羽ばたき運動の1周期平均の力を羽ばたき運動により生じる力とする。
【0209】
(コントロールパラメータ)
本実施の形態における浮上移動装置100においては、トルク補助機構が適正に機能するためには、上部超音波モータ120の回転角θ1すなわちストローク角αの振幅は固定されている必要がある。そこで、浮上移動装置100の動作を制御するために、下部超音波モータ130の回転角θ2が変更される。すなわち、浮上移動装置100は、捻り角βの変更によって、流体の流れを変化させ、それにより、姿勢を変化させる。
【0210】
具体的には、羽ばたき運動のストロークの両端のそれぞれにおいて羽部110の捻り運動のタイミングを変化させる。
【0211】
(上下方向における浮上力の変化)
Dickinsonらによって明らかにされているように、図38に示すように、(1)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも先、すなわち切り返しの前半に羽部110を捻る(捻り先行切り返し)と、浮上力は増加し、一方、図39に示すように、(2)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも後、すなわち切り返しの後半に羽部110を捻る(捻り遅れ切り返し)と、浮上力は減少する、という現象が起きる。
【0212】
(上下方向における浮上力が変化するときの前後方向における推進力の相殺)
さらに本発明者らは、図38に示す前述の(1)の動作によれば、切り返し動作前の羽進行方向に沿った抗力が増大し、図39に示す前述の(2)の動作によれば、その抗力が減少することを見出した。打ち上げ時に生じる前後方向の抗力と、打ち下ろし時に生じる前後方向の抗力とは、互いに逆向きである。そのため、打ち上げ動作と打ち下ろし動作とが前後方向に垂直な平面に対して鏡面対称であれば、それらの動作による抗力は相殺され、推進力はゼロとなる。このため、浮上移動装置は、上下方向のみにおける移動を行うことができる。
【0213】
(前後方向における推進力の変化)
逆に、打ち上げ時の切り返しと打ち下ろし時の切り返しとにおいて、図38に示す前述の(1)の動作と図39に示す前述の(2)の動作とが異なれば、その2つ動作による前後方向の抗力同士の間に差異が生じ、前方または後方のいずれかに推進力が生じる。より具体的には、図40に示されるように、打ち下ろしの後半では、遅れ切り返しによって、前方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、先行切り返しによって、前方への加速度が得られる。一方、同様に、図40に示されるように、打ち下ろしの後半では、先行切り返しによって、後方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、遅れ切り返しによって、後方への加速度が得られる。
【0214】
(前後方向における推進力が変化するときの上下方向における浮上力の変化の相殺)
尚、前方への加速度が得られる動作および後方への加速度が得られる動作のいずれが実行されるときにおいても、上方への加速度の変化と下方向への加速度の変化とを相殺することは可能である。このため、水平方向における加速度のみを得ることが可能である。
【0215】
(空間の3次元移動)
以上の説明のように、左および右の羽部110のそれぞれのストローク角α、すなわちθ1の振幅が固定されていても、θ2の時刻歴のみを変更し、打ち上げにおける羽部110の切り返しのタイミングと打ち下ろしにおける切り返しのタイミングとを異ならせることにより、羽部110に上下方向および前後方向における加速度を生じさせることができる。また、左の羽部110に生じる加速度と右の羽部110に生じる加速度とを異ならせることによって、浮上移動装置100の姿勢を左または右に傾けること、ならびに、浮上移動装置100が左方向または右方向へ旋回することが可能になる。
【0216】
<具体的な制御の詳細>
以下、図38に示す前述の(1)に記載の羽ばたき方を捻り先行切り返し(以下、単に、「先行切り返し」という。)と言い、図39に示す前述の(2)に記載の羽ばたき方を捻り遅れ切り返し(以下、単に、「遅れ切り返し」という。)と言い、図34に示すホバリング時の羽ばたき方を中央切り返しと言うものとする。
【0217】
また、ホバリング、Z軸方向における並進運動、およびY軸方向における並進運動は、それぞれ、左右対称である。したがって、羽部の動作も、左右対称である。そのため、左右対称な動作のうちの左の羽部110の動作についてのみの説明がなされるものとする。
【0218】
(ホバリング)
図34には、ホバリング時の羽ばたき方が示されている。図34においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽部110の断面の時刻歴とともに示されている。このときの浮上力は自重と釣り合っており、前後方向への推進力はゼロである。
【0219】
(Z軸方向の並進制御)
図38には、Z軸に沿った上方への移動、すなわち上昇のための羽ばたき方が示されている。図39には、Z軸に沿った下方への移動、すなわち下降のための羽ばたき方が示されている。図38および図39においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽部110の断面の時刻歴とともに示されている。なお、左右の羽部110は、YZ平面を対称面とする鏡面対称の動作を行なう。
【0220】
図38に示す動作は、前述の(1)に記載の先行切り返し動作であり、図39に示す動作は、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作である。これらの動作の際の前後方向における加速度は、図40に示されるとおりゼロである。
【0221】
(Y軸方向の並進制御)
図41および図44には、前方へ移動するための羽ばたき方が示され、図41および図45には、後方へ移動するための羽ばたき方が示されている。なお、左右の羽部110は、YZ平面を対称面として、鏡面対称の動作を行なう。
【0222】
前方への移動の際には、打ち上げ終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれ、打ち下ろし終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれる。
【0223】
後方への移動の際には、打ち上げの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれ、打ち下ろしの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれる。
【0224】
なお、前述の通り、遅れ切り返しの際に浮上力は減少し、先行切り返しの際に浮上力は増加するため、Y軸方向の並進運動において、前述の(1)および(2)に記載の動作により生じる浮上力同士を相殺することは可能である。すなわち、浮上移動装置100は、高度を保ったまま、前後方向へ移動することが可能である。
【0225】
(X軸方向の並進制御)
左方への移動を行なうためには、右の羽部110が上昇のための動作をし、左の羽部110が下降のための動作をすればよい。これにより、浮上移動装置1は、左の羽部110が右の羽部110よりも下側に位置するように姿勢を変更し、それにより、浮上力のベクトルの先端が鉛直上方向きの状態から右側に傾く。これにより、浮上移動装置100を左方へ移動させる力が生じる。
【0226】
なお、このとき、浮上力の低下が起こることがあり得るため、X軸方向の並進制御とZ軸方向の上方への移動のための制御とを併せて行なうことが望ましい。
【0227】
(Z軸周り回転制御)
Z軸周りに正方向の回転、すなわち左への旋回を行なうためには、左の羽部110が後退のための羽ばたき方で動作し、右の羽部110が前進のための羽ばたき方で動作すればよい。
【0228】
Z軸周りに負方向の回転、すなわち右への旋回を行なうためには、左の羽部110が前進のための羽ばたき方で動作し、右の羽部110が後退のための羽ばたき方で動作すればよい。
【0229】
いずれの場合においても、上述のように、左および右の羽部110による浮上力同士は相殺され得るものであるため、高度が維持された状態で、浮上移動装置100のZ軸周りの回転が行なわれる。
【0230】
(Y軸周り回転制御)
本実施の形態においては、姿勢は自律的に安定するため、Z軸周り以外の回転を制御することは必要ではないが、敢えて姿勢を傾けたい場合などに、Y軸周りの回転角、すなわちロール角の変更を実現することができれば、便利である場合がある。
【0231】
特開2006−232169に示されるように、左右の羽部の前後方向の振幅を異ならせることでY軸周りの回転角、すなわちロール角を変更することができる。左右の羽部の振幅を異ならせることは、デューティ比を比例的に増減させることで実現され、たとえば、左右の羽部のデューティ比の関係が図43に示されるような関係であれば実現される。これは、図12に示される座標系においてY軸回りの正の回転、すなわち、図12における左の羽部が下がり、かつ、右の羽部が上がるような、浮上移動装置の回転を引き起こす羽ばたき方によって実現される。浮上移動装置がY軸まわりに負の方向に回転する場合には、図43における左の羽部のデューティ比のグラフと右の羽部のデューティ比のグラフとが入れ替えられる。
【0232】
(制御の変更方法)
以上により、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方、すなわち、先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しを使い分けることで、浮上移動装置100は空間を自在に移動することができる。また、左右の羽の振幅を変更することにより、ロール角の変更が可能である。
【0233】
なお、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方は、いずれも、羽部110の前後方向の往復運動の終端の前から後にかけての所定期間内に行なわれる。そのため、羽ばたき運動のストロークの中心の前から後にかけての所定期間、すなわちストローク角α=0°の前から後にかけての所定期間内においては、回転角θ1およびθ2の値は、その速度および加速度を含めて同一である。したがって、上記のように、回転角θ1およびθ2が共通している期間内に羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽部110の動作を何ら補間することなく、機械的に次の羽ばたき方を選択するだけで、羽部110の動作に不連続性を生じさせることなく、ある羽ばたき方から他の羽ばたき方へ円滑に遷移することが可能である。
【0234】
(制御の選択)
上記のように、θ1=0°の位相において羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽ばたき方の状態を示す表現方法として、打ち下ろし、打ち上げ、およびそれぞれの終端での切り返し、という区分を行なうことは適切ではない。打ち下ろし後半および打ち下ろし後の切り返しおよび打ち上げの前半を前方羽ばたき運動とし、打ち上げ後半および打ち上げ後の切り返しおよび打ち下ろしの前半を後方羽ばたき運動として、羽ばたき方を二つに区分することが合理的である。
【0235】
すなわち、左および右の羽部110における前方羽ばたき運動および後方羽ばたき運動において、それぞれ、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの選択を行なうことによって、最も簡便に、羽ばたき方の制御を行なうことができる。前述の説明に基づいた浮上移動装置の羽ばたき方に対応した左羽の動作および右羽の動作が、表4に示されている。
【0236】
【表4】
【0237】
前述の実施の形態の浮上移動装置の説明においては、制御の手法を簡単にするために、前方羽ばたきにより生じる流体力と後方羽ばたきにより生じる流体力とを相殺することによって、意図しない方向への移動または意図しない姿勢の変更が生じないものとされた。すなわち、浮上移動装置は、X軸、Y軸、およびZ軸のいずれか1つについての1自由度運動のみを行うものとした。しかしながら、浮上移動装置が上昇しながら右旋回する等の複合的な運動をすることが望ましい場合がある。この場合の複合的な運動も、左右の羽部の前方羽ばたき運動と後方羽ばたき運動との組み合わせによって実現される。
【0238】
右の羽および左の羽の羽ばたき運動のそれぞれは、3通りの前方羽ばたきと、3通りの後方羽ばたきとの組み合わせによって決定される。それらの羽ばたき運動は、独立して選択され得るものである。そのため、左の羽部および右の羽部のそれぞれの羽ばたき運動は、9通りである。このため、左および右の2つの羽部の羽ばたき方の組み合わせは81通りである。この81通りの羽ばたき方が表5に示されている。
【0239】
【表5】
【0240】
表5における記号A,C,およびDは、それぞれ、先行切り返し(Advanced)、中央切り返し(Center)、および遅れ切り返し(Delayed)を意味し、これらは、それぞれ、図38、図34、および図39に示される羽ばたき方である。表5の縦欄および横欄が、それぞれ、右羽および左羽の羽ばたき方を示し、表5の中で、大分類および小分類が、それぞれ、後方羽ばたきおよび前方羽ばたきを表している。たとえば、
左羽前方羽ばたき:先行切り返し
左羽後方羽ばたき:中央切り返し
右羽前方羽ばたき:中央切り返し
右羽後方羽ばたき:遅れ切り返し
という組み合わせが選択された場合には、表7から、(−2,−2,0,0)の値が得られる。これにより、図1に示される座標系において、浮上移動装置は、右前方へ移動する。
【0241】
逆に、この中で浮上移動装置100の浮上移動制御に用いる代表的な運動をピックアップすることによって、表6のような羽ばたき方を決定するためのテーブルが作成される。
【0242】
【表6】
【0243】
したがって、浮上移動装置に要求される移動の形態に基づいて、羽ばたき方を定める関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)を決定することができる。ここで、各引数は±4、±2、もしくは0であり、対応する各運動成分の正(+)、負(−)、ゼロ(0)、および絶対値はその引数の符号および値に対応している。
【0244】
この関数Pattern_Flapping(x、y、z、θz)の出力は、羽ばたき方を決めるパラメータ、もしくはその組み合わせ、つまり、本実施の形態では、表4または表6に示されている、左羽および右羽のそれぞれの前方羽ばたきおよび後方羽ばたきの種類(先行切り返し、中央切り返し、遅れ切り返し)を特定可能な値である。なお、表4は、表6が簡略化されたものであり、一自由度のみの制御が行われる場合に用いられる。
【0245】
また、θxおよびθyは、本実施の形態においては、浮上移動装置100の重心が羽部の力学的作用点より下方に位置付けられているために、浮上移動装置が自律的に安定するので、すなわち、それらの値が0に収束するので、この関数に含まれていない。
(補足事項)
なお、本項目においては、最も簡便に位置制御を実現する手法の一例が記載されているが、本発明の羽ばたき方は本項目の羽ばたき方に限定されるものではない。たとえば、本実施の形態においては、回転角θ1およびθ2の角速度は、切り返しの期間を除いて略一定であるものとされている。つまり、羽部110の往復運動は、図54に示すように、角速度が一定である打ち上げおよび打ち下ろしの運動と、これに連続する、角速度が変化する切り返しの運動、すなわち往復運動の運動方向を反転させるための運動とからなるものである。切り返しの運動の角速度は、打ち上げの運動の角速度および打ち下ろしの運動の角速度のそれぞれに連続するように変化する。この切り返しの運動としては、例えば1変数の三角関数等が挙げられる。しかしながら、回転角θ1およびθ2の角速度を変化させることによって、周囲流体から受ける反作用を変化させて、浮上移動装置100を移動させる手法が用いられてもよい。
【0246】
また、本項目においては、説明の簡便のため、3種類の羽部110の切り返しのパターンの組み合わせによって、すべての羽ばたき方が表現される手法が用いられているが、この手法は、羽ばたき方の表現の一例であり、本発明の羽ばたき方は、前述の手法によって表現される羽ばたき方に限定されない。
【0247】
たとえば、回転角θ1およびθ2のパターンが多数存在する羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。すなわち、先行切り返しおよび遅れ切り返しのタイミングが複数種類ある羽ばたき方、または、切り返しのタイミングを連続的に自由に変更できる羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。逆に、中央切り返しは、先行切り返しと遅れ切り返しとを交互に繰り返す羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。このような羽ばたき方の表現手法であれば、中央切り返しのパターンのためのデータをメモリに記憶しておく必要が無いため、回転角θ1およびθ2のパターン数を低減させることができる。
【0248】
また、図34、図38、図39、図44、および図45に示される回転角θの時刻歴は、図31および図32に表わされる構成を有する浮上移動装置100の回転角θの一例である。実際には、羽部110を駆動するメカニズムに応じて、そのメカニズムを制御する各種パラメータが、前述の羽部110の先行切り返しおよび遅れ切り返しを実現するように設定されるのであれば、回転角θの時刻歴は、図34、図38、図39、図44、および図45に示される回転角θの時刻歴に限定されない。
【0249】
また、本実施の形態においては、浮上移動装置100の姿勢が自動的に所定の状態を維持されることを前提としているため、ロール角の変更のための制御は実行されていない。しかしながら、ロール角の制御については、特開2006−232169にて、その制御方法が示されている。より具体的には、右の羽部の羽ばたきストロークを拡大した図43に示されるデューティを用いれば、右の羽部が上昇し、左の羽部が低下する。右の羽部を低下させ、左の羽部を上昇させるように、ロール角を変化させたいのであれば、図43における右の羽部のグラフと左の羽部のグラフとを入れ替えればよい。
【0250】
(位置検出センサ)
位置検出センサ160は、筐体101に固定されている。そのため、位置検出センサ160によって計測された位置および姿勢は、浮上移動装置100の位置および姿勢そのものとなる。位置検出センサ160は、図46に示すように、計測された位置および姿勢のデータを後述する中央演算装置151に与える。このような機能を実現するためのセンサは、技術の進展により変化するものであり、本発明の本質に関わるものではないため、いかなるものであってもよい。また、前述の姿勢を検出するためのセンサの一例としては、磁気と加速度との組み合せで、0.5°程度の姿勢の変化を検出することができるものが市販されている。たとえば、GPS(Global Positioning System)によって1m程度の誤差で位置検出を行うことができる。また、近年、UWB(Ultra Wide Band)のような、通信に用いる電波を利用して距離計測を行う技術も開発されている。
【0251】
(制御回路)
制御回路150は、図46および図47に示すように、中央演算装置151(Central Processing Unit)、中央演算装置151の指令により上および下部超音波モータ120および130を駆動するドライバ152、ならびに、ドライバ152に高電圧を供給する昇圧回路153等を有している。
【0252】
<制御回路の動作>
オペレータ210が操作するコントローラ600により浮上移動装置100に与えられた情報により、行動演算装置751は浮上移動装置100の行動を決定する。この決定された行動は、今後、運動指令と称する。運動指令は、一時記憶装置(以後、「RAM(Random Access Memory)」と言う。)155に格納される。中央演算装置151は、RAM155に記憶された運動指令に基づいて、左右の羽の羽ばたき方および画像センサ180の仰角を選択し、更にその羽ばたき方を実現するための、各超音波モータの駆動データを固定記憶装置(以後、「ROM(Read Only Memory)」と言う。)154から得る。その後、中央演算装置151は、その駆動データをドライバ152に与える。それにより、浮上移動装置100は、前述の運動指令に従った行動を行う。
【0253】
<中央演算装置>
(機能の概要)
中央演算装置151は、前述の運動指令、ROM154およびRAM155の情報を用いて、ドライバ152にPWM(Pulse Width Modulation)信号および回転方向制御信号を出力する。これにより、オペレータ210がポインタコントローラ600を用いて浮上移動装置100へ与えた運動指令に応じて超音波モータ120おび130が動作する。その結果、運転指令に対応する羽ばたき方が実現される。なお、羽ばたきの往復運動の周期は、反復タイマ156を用いて決定される。
【0254】
<反復タイマ>
中央演算装置151は、図46および図47に示すように、反復タイマ156を内蔵している。反復タイマ156は、羽ばたき運動の位相ψとして、−0.5〜0.5の値を50Hzの繰り返し周期で、中央演算装置151に出力する。ただし、羽ばたき運動の位相ψが、−0.5からカウントアップされ、0.5になると、再度、位相ψの値が−0.5からカウントアップされるものとする。この反復タイマ156の1周期に対応して、羽部110が往復運動の中央位置よりも前方に位置する前方羽ばたき運動、および、羽部110が往復運動の中央位置よりも後方に位置する後方羽ばたき運動のそれぞれが行なわれる。すなわち、反復タイマ156の1周期が羽ばたき運動の周期の2倍に対応する。本実施の形態においては、位相ψが正であれば、浮上移動装置100は後方羽ばたき運動を行ない、位相ψが負であれば浮上移動装置100は前方羽ばたき運動を行なうものとする。近年、機器制御に用いられているマイクロコントローラの多くには、本項で説明されている反復タイマとほぼ同様の、オートリロードタイマと呼ばれる機能が含まれており、これを用いることで、最も簡便に本項の反復タイマの機能を実現することができる。
【0255】
<ROMに格納された羽ばたき方のデータ>
ROM154は、羽ばたき方のデータを格納している。羽ばたき方のデータは、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比の時刻歴のデータである。なお、超音波モータ120および130には、周波数が250KHzでありデューティ比が50%に固定された駆動電圧が印加される。一方、図48に示すように、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比とは、デューティ比が50%に固定された250KHzの駆動電圧のON期間とOFF期間との和に対するON期間の比率である。
【0256】
すなわち、前述の先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しの3つのモードに対応する羽ばたき方のデータは、羽ばたき運動の位相ψに対応したドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比として、ROM154に予め格納されている。なお、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比は、Duty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)で示される。ただし、表4および表6に示すように、−0.5≦ψ<0.5において、MODE=1が先行切り返しであり、MODE=0が中央切り返しであり、MODE=−1が遅れ切り返しであるものとする。
【0257】
図49〜図51には、それぞれ、後方での切り返し動作行なう場合の、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しにおけるDuty1およびDuty2の値が示されている。ただし、Duty1およびDuty2が負の値であれば、羽部110は、往復運動の中央位置を基準にして、後方から前方へ移動する動作が行なわれていることを意味する。なお、本実施の形態においては、各Dutyの関数は、羽ばたき動作が前後方向に対して垂直な面に関して対称であるため、Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ)と表現され得る。
【0258】
すなわち、符号変換のみによって、ψが負の領域での各Duty値は、ψが正の領域での各Dutyの関数を用いて算出される。そのため、上記の各Dutyの関数は、ψが正である領域のみ、ROM154に格納されている。これによれば、ROM154に格納されている各Duty関数のデータ量を半分に減らすことができる。よって、本実施の形態においては、各Duty関数のうちψが正の領域のみが示される。
【0259】
なお、右の羽部110と左の羽部110とはZ軸に対して鏡面対称であるため、前述の座標系のX軸の方向の正と負とを反転させた左手系の座標が採用されれば、右の羽部110の制御においても前述と同様のDuty1およびDuty2を用いることができる。
【0260】
また、上部ロータ122を駆動するための電圧のDuty1のグラフは、図49〜図51のいずれにおいても同一のグラフになっているが、下部ロータ132を駆動するための電圧のDuty2のグラフは、図49〜図51において異なったグラフになっていることが分かる。また、図34、図38、および図39から分かるように、上部ロータ122の回転角θ1のグラフは、羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)が変更されても同一であるが、下部ロータ132の回転角θ2のグラフは、羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)に応じて異なっている。これによれば、上部ロータ122の振幅は常に一定値に固定されているが、下部ロータ132の振幅は羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)に応じて異なっていることが分かる。
【0261】
<中央演算装置の動作>
中央演算装置151は、位相ψの符号に基づいて、現在の羽ばたき方が前方羽ばたき運動であるか、または、後方羽ばたき運動であるかを判断する。その後、中央演算装置151は、ROM154に格納されている表4または表6に示すデータに基づいて、羽ばたき方の状態を判断するとともに、RAM155に格納されている運動指令に応じて、前述のMODEの値を判断する。
【0262】
さらに、中央演算装置151は、前述の位相ψの値に基づいて、ROM154に格納されたDuty1およびDuty2の値を得る。この値の絶対値が、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比である。また、この値の符号が、ドライバ152へ送信される、上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの回転方向である。前者は、例えばABS(Duty)というコマンドで表現され、後者は、例えばSIGN(Duty)というコマンドで表現される。これらのコマンドは、マイクロコントローラに内蔵されている。これらのコマンドを用いた演算は、一般的なマイクロコントローラにおいて容易に実行されるものである。
【0263】
中央演算装置151は、前述のデューティ比に基づいて、羽ばたき方に対応するPWM制御のためのON/OFF信号をドライバ152に出力するとともに、位相ψの正または負に応じた回転方向制御信号をドライバ152に出力する。
【0264】
本実施の形態では、振動板1211の共振周波数が250kHzであるため、たとえば、共振周波数が2.5kHzであるPWM制御が実行されれば、100段階の超音波モータの制御を行なうことが可能である。
【0265】
<ドライバの動作>
ドライバ152は、中央演算装置151から与えられたPWM制御信号のON/OFFおよび回転方向制御信号に応じて、超音波モータ120を回転/停止、および、正転/反転させる。
【0266】
超音波モータ120は自己位置保持機能を有するため、回転および停止の動作は、PWMのON/OFFに応じて後述の電力供給をON/OFFすることによって、実現される。
【0267】
また、図22および図23に示されるように、超音波振動子121において、裏面電極1217に与えられる電位φAの位相と表面電極1216に与えられる電位φBの位相との差を変更することによって、上部ロータ122の正回転と負回転との間の変更を行なうことができる。
【0268】
ドライバ152は、中央演算装置151からPWM信号を受けて、電位φAおよびφBのデータを作成する回路と、昇圧回路153から供給される高圧電力を制御して、超音波振動子121の表面電極1216および裏面電極1217に電位φAおよびφBを与える回路とからなる。前者は、一般的なタイマ回路やCPU(Central Processing Unit)を用いて容易に実現され得るものであり、後者は、たとえば、ハーフブリッジ回路を用いて実現される。これは、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)技術を用いて集積化され得るものであり、後述されるように、羽ばたき飛行という用途に十分に適したものになり得るほど小型化および軽量化され得るものであり、市販されているものである。本発明者らの実験によれば、これらの回路は、3mm×3mm×0.85mmの小型パッケージに収められ得るものであり、そのパッケージの質量は約25mgである。
【0269】
一般的に、前者のプログラムは以下のように表される。
:Label
if(PWM=ON) then
if(回転方向=正方向) then
φA=1
φB=1
φA=0
φB=0
end if
if(回転方向=逆方向) then
φB=1
φA=1
φB=0
φA=0
end if
end if
goto Label
但し、これらは簡易に前者回路の動作を表現するための一例であり、実際のプログラムにおいては、φAおよびφBのそれぞれが250kHzの矩形波となるようなタイミング調整が行われるため、ダミーの実行文の挿入等が必要になる。
【0270】
<昇圧回路>
昇圧回路153は、電源190の電圧(3V)を、超音波モータの駆動のために必要な±15Vの電圧に変更して、±15Vの電圧をドライバ152に印加する。昇圧回路153としては、一般的なDC(Direct Current)−DCコンバータが用いられ、その一例として、3mm×3mm×0.85mmという小型パッケージが市販されている。昇圧回路153の質量は約25mgである。
【0271】
<ブロック図>
前述の制御の体系のブロック図が図46に示されている。なお、4つの超音波モータの駆動方法は同一であるため、図46には左の羽部110を駆動する上部超音波モータ120の制御体系のみが示され、他の制御体系は省略されている。また、図47は、後述する図52のフローチャートにおけるデータ処理の流れを説明するための機能ブロック図である。
【0272】
<制御フローチャート>
次に、図52を用いて、浮上移動装置の制御のためのフローチャートの一例を説明する。なお、このフローチャートは、一例であり、浮上移動装置100のアプリケーションによって変更され得るものである。
【0273】
なお、以下のフローチャートにおいて、反復タイマ156は前述のオートリロードタイマを用いて恒常的に動作しており、ステップS1においては、ψ=0である状態から処理が開始されるものとする。このとき、α=0°であるものとする。
【0274】
ステップS1<浮上移動装置動作決定>
ポインタコントローラ600によりオペレータ210の指示が浮上移動装置100に与えられ、浮上移動装置100は受信されたシリアルデータの位置信号および方位信号を用いて、表1および表2のデータを参照して、浮上移動装置100の行動を算出する。算出された行動は、運動指令として中央演算装置151に与えられる。
【0275】
ステップS2<羽ばたき状況検出>
中央演算装置151は、反復タイマ156から送信されてきた位相ψの値のデータに基づいて、浮上移動装置100の現時刻での羽ばたき方の状態を認識する。具体的には、中央演算装置151は、位相ψの値が正であれば、浮上移動装置100が後方羽ばたき運動を行なっていると判断し、位相ψが負であれば、浮上移動装置100が前方羽ばたき運動を行なっていると判断する。
【0276】
ステップS3<羽ばたきモード決定>
中央演算装置151は、左および右それぞれの羽部について、上記運動指令(前進、後退等)に応じて表4または表6の行成分を選択し、かつ、上記羽ばたき方の状態(前方羽ばたき、もしくは、後方羽ばたき)に応じて表4または表6の列成分を選択する。それにより、中央演算装置151は、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの中からいずれか1の羽ばたきモード、すなわちMODEの値を選択する。選択された羽ばたきモードのデータは、RAM155に格納される。
【0277】
ステップS4<デューティ比決定>
中央演算装置151は、前述の羽ばたきモードのデータに基づいて、ROM154に格納されたDuty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)のデータの中からドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比を選択する。
【0278】
ステップS5<ドライバ駆動>
中央演算装置151は、上記PWM制御信号のデューティ比の正または負に応じて、回転方向制御信号をドライバ152に出力するとともに、そのデューティ比のPWM信号をドライバ152に出力する。すなわち、ABS(A)をAの絶対値とし、SIGN(A)をAの符号とすると、回転方向制御信号はSIGN(Duty)であり、デューティ比はABS(Duty)である。なお、ここで、Dutyは、上部および下部超音波モータ120および130に対応しているDuty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)を意味する。
【0279】
ステップS6<超音波モータ駆動>
ドライバ152は、上記回転方向制御信号に応じて、振幅が30Vであり、かつ、周波数が250kHzである矩形波の電圧を表面電極1216および裏面電極1217に印加する。これらの2つの矩形波は、±90°位相が異なっている。具体的には、ドライバ152は、超音波振動子121の表面電極1216に矩形波の電位φBを与え、また、超音波振動子121の裏面電極1217に矩形波の電位φAを与える。この矩形波の電位φAの位相と矩形波の電位φBの位相とが±90°ずれている。
【0280】
ステップS7<次回羽ばたきモード選択>
ψ=0またはψ=−0.5の場合には、羽ばたき方の状態が変更されたことを意味するため、再びステップS1の処理が実行され、運動指令の変更も含め、羽ばたきモードが更新される。ψ=0またはψ=−0.5以外の場合には、羽ばたきモードは更新されず、ステップS4の処理が実行され、新たな位相ψが設定され、ステップS1に戻る。
【0281】
<補足>
なお、上記指令の形態はあくまで説明のための一例であり、これに限定されない。たとえば、速度指令が電圧値としてアナログ信号で与えられることにより、量子化誤差のない滑らかな速度指令が得られる手法が用いられてもよい。また、超音波モータの駆動に必要な電圧は、技術の進歩によって変化し得るものである。たとえば、現行の主なTTL(Transistor Transistor Logic)−IC(Integration Circuit)やCPU(Central Processing Unit)の駆動電圧である3V以下で駆動し得る超音波モータが実現されれば、昇圧回路153は不要となる。
【0282】
さらに、本実施の形態では、説明の簡便のため、デューティ比に応じて超音波モータ120および130の回転速度が一義的に決定されるという仮定の下に説明がなされているが、負荷の変動などによってはこの仮定が成り立たない場合も考えられる。この場合には、上部磁気エンコーダ126の信号によって得られる上および下部超音波モータ120および130の回転角θ1およびθ2の値を参照して、デューティ比が調整されてもよい。
【0283】
(高機動力要件の検討)
<<単独性>>
本実施の形態における羽ばたき浮上移動装置100の制御は、表4および表6に示されるように、全て、羽ばたき運動の両端における羽部の捻り動作のタイミングの選択によって行われる。これは、胴体の姿勢に拘束されないため、単独性が確保される。
【0284】
より具体的には、図40および図41に示される先行切り返しおよび遅れ切り返しのうちの一方の羽ばたき方が選択されると、羽部110の加速度の水平方向成分を独立して制御することが可能で、羽ばたき運動の1周期における羽部110の加速度の水平方向成分の方向を前方および後方のいずれかに向けることができる。したがって、浮上移動装置は、本体部(筐体101)の姿勢を変化させることなく、羽部110の動作のみの変更によって、流体力の方向を変更することが可能である。
【0285】
<<連続性>>
前述の羽部110の捻り、すなわち切り返しの動作は、羽ばたき運動における羽部110の往復運動の始点または終点を含む特定期間においてのみ異なり、いずれの羽ばたき方においても、羽ばたき運動の往復運動の中心位置を含む所定期間においては、羽部110の運動は同一である。つまり、複数種類の羽ばたき運動は、往復運動の中心位置を含むタイミングにおいて、共通の動作をする。このため、羽ばたき運動中に羽ばたき方の変更がなされても、その羽ばたき方の変更が共通の動作をするタイミングにおいてなされるのであれば、1の羽ばたき方から他の羽ばたき方への変化における羽部110の挙動は、連続的なものである。つまり、羽ばたき方の変更はスムーズに行われる。
【0286】
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置は、制御回路150のROM154が、羽部110に羽ばたき運動をさせるための複数種類のデータ(表4または表6参照)を有し、複数種類のデータに基づいてアクチュエータ(上部および下部ロータ120および130)を制御する。複数種類のデータのそれぞれは、羽部110の往復運動の1周期の動作を特定可能であり、複数種類のデータは、往復運動の1周期の所定期間において、羽部110に共通の羽ばたき運動をさせるものである。具体的には、複数種類のデータは、先行切り返しのためのデータ(図38)、中央切り返しのためのデータ(図34)、および遅れ切り返しのためのデータ(図39)からなる3種類のデータである。図41および図42ならびに表4または表6によって表わされているように、浮上移動装置100の運動(停空、上昇、下降、前進、後退、右移動、左移動、右旋回、および左旋回、ならびにこれらの組み合わせ)は、前述の複数種類のデータを逐次選択して組み合わせることにより実現される。制御回路150は、羽部110の往復運動の中心位置を含む所定期間において、アクチュエータ(ロータ120,130)が複数種類のデータのうちの1のデータによって特定される羽ばたき運動を羽部110にさせる制御からアクチュエータが複数種類のデータのうちの他のデータによって特定される羽ばたき運動を羽部110にさせる制御へ切り換える。
【0287】
上記の構成によれば、羽部の運動に不連続な変化が生じることなく、羽ばたき運動の態様を変更することができる。そのため、羽ばたき運動の「連続性」が実現される。
【0288】
また、羽部は、1のデータによって特定される羽ばたき運動においては、往復運動の一周期のうちの2つの特定期間のそれぞれにおいて行われる他のデータによって特定される羽ばたき運動とは異なる軌跡を描くことが望ましい。これによれば、羽部110は、往復運動の1周期の間に最大で4種類の状態に順次変化する。そのため、羽ばたき運動のバリエーションが豊富になる。
【0289】
<<独立性>>
また、2つの特定期間は、互いに1/2周期ずれていてもよい。これによれば、1の特定期間と他の特定期間とが時間的に最も大きくずれて繰り返される。そのため、一方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
【0290】
また、2つの特定期間の一方および他方は、それぞれ、羽部110の往復運動の一方端に位置するタイミングおよび羽部110の往復運動の他方端に位置するタイミングを含むことが望ましい。つまり、羽部110の切り返しは、前後方向の往復運動の端部を含む期間において行なわれることが望ましい。これによれば、1の特定期間における羽部110の位置と他の特定期間における羽部110の位置とが最も大きく離れている。そのため、一方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
【0291】
すなわち、本実施の形態の浮上移動装置においては、羽ばたき運動の両端のそれぞれを含む特定期間においてのみ羽部110の動作が異なる複数種類の羽ばたき運動が行われる。そのため、以前の羽ばたき運動によって生じた流体の挙動が現在の羽ばたき運動に与える影響は極力低減されている。これにより、独立性が実現されている。
【0292】
<<単純性>>
また、2つの特定期間の一方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分と、2つの特定期間の他方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分とが、相殺される。これによれば、羽ばたき運動の変更に起因する浮上移動装置の姿勢の変化の態様が単純になる。そのため、浮上移動装置を所望の姿勢にするための制御が容易になる。したがって、羽ばたき運動の変更における「単純性」が確保される。
【0293】
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置においては、表4または表6に示されるように、浮上移動装置の浮上移動の態様(停空、上昇、下降、前進、後退、左移動、右移動、左旋回、右旋回、およびこれらの組み合わせ)と、浮上移動の態様を実現するための羽ばたき方(先行切り返し、中央切り返し、および遅れ切り返しの組み合わせ)とが一対一に対応している。そのため、羽ばたき方に対応する上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの駆動デューティ比のデータが変更されるだけの極めて単純なアルゴリズムによって、浮上移動態様の変更を実現することができる。したがって、本実施の形態の浮上移動装置においては単純性が実現されている。
【0294】
更に、複数のデータのうちのホバリングのためのデータによって特定される羽ばたき運動は、羽部110に上下方向および左右方向を含む平面に対して鏡面対称な前後方向の往復運動をさせるものであり、制御回路150は、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の一方端まで羽部110を移動させるための基本データ(図49、図50、および図51)と、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の他方端まで羽部110を移動させるように、基本データを変換するためのアルゴリズムまたは演算機能部、即ち(Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ))という演算式とを含んでいることが望ましい。これによれば、制御回路150は、羽ばたき運動の1周期の1/2の期間のみのためのデータを有しているだけで、所望の羽ばたき運動を羽部110にさせることができる。そのため、制御回路150のデータの記憶のためのメモリ容量を低減することができる。その結果、浮上移動装置を小型化かつ軽量化することができる。
【0295】
(通信装置)
通信装置170は、画像センサ180よって得られた画像情報を、ポインタコントローラ600に送信する。この手段は一般的に用いられている無線通信で、浮上移動するに十分軽量に実装できるものであれば特に限定が必要なものではない。
【0296】
(電源)
本発明の駆動エネルギー源としての電源190は、必要とされる電力を供給できる放電特性を有し、かつ、浮上を妨げない質量を有するものであれば、いかなるものであってもよい。
【0297】
本発明者らが用いた電源190は、質量0.7gのリチウムイオン電池で、本発明者らの計算によれば、約50秒にわたり0.6Wを供給することができる。電源190は、筐体101の下部に設けられている。そのため、電源190は、羽部110が受ける流体反力の作用点であるベアリング123より下側に位置し、浮上移動装置100の姿勢を自律的に安定させている。
【0298】
この他の電源としては、燃料電池、電気二重層コンデンサなどのキャパシタ、太陽電池、および有線による供給、等が挙げられる。また、これらの電源が併用されてもよい。たとえば、リチウムイオン電池の他に、羽部110の表面に太陽電池が設けられ、これらの電力が併せて用いられてもよい。
【0299】
(筐体)
筐体101は、底部プレート102、上部プレート103、底部プレート102と上部プレート103とを連結するフレーム部104、および、底部プレート102に設けられた脚105からなる。
【0300】
底部プレート102および上部プレート103は、厚さ0.2mmのCFRPからなり、フレーム部104は厚さ35μmのステンレスからなる。脚105は、肉厚40μm、長さ10mm、かつ直径0.5mmのCFRPの中空パイプからなる。
【0301】
また、上部プレート103および底部プレート102は、ロータシャフト124、支持シャフト127、および筐体補強ポール112によっても連結されている。
【0302】
(浮上の可否)
<質量>
本発明者らの計算によれば、羽部1枚が生み出す浮上力は1.2gfである。よって、羽部2枚が生み出す浮上力は2.4gfである。また、各構成要素の質量が表7に示されている。表7に示されるように、浮上移動装置100の総質量は2.17gfであり、この値は、前述の浮上力2.4gfよりも小さいため、浮上移動装置100は、浮上することができる。
【0303】
【表7】
【0304】
<消費電力>
本発明者らの計算によれば、浮上移動装置100の羽部が1.2gfの浮上力を生ずるに要求される機械的パワーは上および下部超音波モータ120および130共に最大40mWである。各超音波モータのエネルギー変換効率は33%である。したがって、浮上のために要求される最大電力は超音波モータ1つにつき約120mWであり、それらの電力の合計は480mWである。ドライバ152および昇圧回路153の総合効率は約85%であるため、4つの超音波モータの駆動のために必要な電力は最大565mWである。
【0305】
中央演算装置151の消費電力は5mWである。磁気エンコーダ126の消費電力は5mWである。位置検出センサ160の消費電力は5mWである。画像センサ180の消費電力は15mWである。通信装置170の消費電力は5mWである。
【0306】
これらの電力の総計は、最大600mWであり、電源190の能力の範囲内の値である。したがって、浮上移動装置100は、内蔵された電源190から供給された電力のみを用いて浮上することができる。したがって、浮上移動装置100は、外部から電力の供給を受けることなく、独立して羽ばたき飛行することができるスタンドアロンタイプのロボットになり得るものである。
【0307】
<実施の形態2>
次に、図55〜図61を用いて、本発明の実施の形態2の移動ロボットシステムを説明する。なお、説明の簡便のため、実施の形態1と同一の構成要素には同一番号が付され、その説明は繰り返されない。
【0308】
<全体の構成および動作原理>
先ず、図55〜図57を用いて、システムの全体の構成およびシステムの動作原理が説明される。
【0309】
図55〜図57に示されるように、浮上移動装置2100におけるデータ受信部2700には、方位指示用の赤外線発光ダイオード2711〜2714が設けられており、浮上移動装置100は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600と同様に、図58に示されるような分布を有する方位信号を送信することができる。
【0310】
なお、図58に示される方位信号の座標軸は、実施の形態1における赤外線受光素子と同様に、浮上移動装置2100またはCMOSイメージャ181を基準として設定されている。
【0311】
本実施の形態のポインタコントローラ2600は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600の構成に加えて、浮上移動装置2100が発信した方位信号を受信することができる方位信号受信センサ615を備えている。また、ポイントコントローラ600は、方位信号受信センサ615によって受信された方位信号を、実施の形態1において説明された赤外線発光ダイオード611〜614のシリアルデータに付加して、浮上移動装置100へ送信することができる。
【0312】
ポインタコントローラ2100が送信した方位信号は、浮上移動装置2100の赤外線信号受光素子2715によって受信される。つまり、図59に示されるような状態において、浮上移動装置2100は、自らが送信した方位信号を、ポインタコントローラ2600を経由して、受け取ることができる。
【0313】
以上の構成によれば、浮上移動装置2100は、ポインタコントローラ2600が指し示す方向における所定の位置を基準としたときの浮上移動装置2100の位置を示す信号、浮上移動装置2100またはこれに搭載されたCMOSイメージャ181が指し示す方向における所定の位置を基準としたときのポインタコントローラ2600の位置を示す信号、およびポインタコントローラ2600によって出力された全ての指示信号を受信することができる。
【0314】
これらの情報を用いて、浮上移動装置2100は、その位置および姿勢を制御することによって、前述の実施の形態1と同様の機能を実現することができる。
【0315】
<ポインタコントローラ>
図60に示されるように、ポインタコントローラ2600は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600の構成に加え、方位信号受信センサ615を備えている。その他の構成は、実施の形態1におけるポインタコントローラ600の構成と同一である。
【0316】
まず、シリアルデータの0〜3ビットは、実施の形態1のシリアルデータ0〜3ビットと同様である。また、方位信号受信センサ615によって受信された方位信号は、シリアルデータの4〜7ビットに規定されている。操縦データは、実施の形態1におけるシリアルデータの構成に対して4ビットずれた位置に規定されている、つまり、シリアルデータのビット8〜13に規定されている。
【0317】
以上の構成により、ポインタコントローラ2600は、自身が指し示す方向を特定可能な信号、自身の浮上移動装置2100に対する姿勢を特定可能な信号、および操作信号を、シリアルデータとして、浮上移動装置2100に送信する。
【0318】
<構成およびデータフロー>
以上の機能を実現する一例となる構成が図61に示されている。方位信号受信センサ615から、受信センサドライバ695を経由して、コントローラ演算装置690へ入力される方位信号は、DATA_Rと称される。また、各操作ボタンの信号は、一括してDATA_Bと称される。コントローラ演算装置690は、図61に示されるように、赤外線発光ダイオード611〜614にそれぞれ接続されたLEDドライバ691〜694に対して、前述の位置データ、DATA_R、およびDATA_Bを与える。LEDドライバ691〜694は共通のクロック信号およびトリガ信号を与えられており、トリガ信号を契機として、クロック信号に同期して、前述のデータを含む光信号を送信する。
【0319】
<浮上移動装置>
浮上移動装置2100は、実施の形態1における赤外線受光素子711〜714の代わりに、データ受信センサ2700内に、方位指示用赤外線発光ダイオード2711〜2714に加えて、赤外線信号受光素子2715を備えている。
【0320】
なお、方位指示用の赤外線発光ダイオード2711〜2714は、それぞれ、図58に示される4ビットのシリアルデータを同期して送信する、図示されてないドライバによって駆動される。このドライバは、既に実現されている赤外線リモコンなどの技術により容易に実現され得るものであるため、その詳細は省略される。
【0321】
赤外線信号受光素子2715の受信信号、すなわちシリアルデータが行動演算装置751に与えられることによって、運動指令が生成され、実施の形態1と同様の処理がなされる。
【0322】
<その他>
上記浮上移動装置2100より発せられる方位信号は、混信を防ぐため、上記ポインタコントローラ2600より発せられる上記シリアルデータの信号と異なる周波数を用いて変調されることが望ましい。これは、例えば、方位信号の変調周波数を、シリアルデータの変調周波数である38kHzとは異ならせる等の手法によって、既に実用化されている技術を用いて容易に実現され得る。
【0323】
<実施の形態3>
次に、図62および図63を用いて、本発明の実施の形態3のシステムが説明される。なお、説明の簡便のため、実施の形態1と同一の構成要素には同一の参照符号が付され、その説明は繰り返さない。
【0324】
なお、本実施の形態における操縦の態様は、以下のようなものである。
位置変更ボタン630がONされると、浮上移動装置3100の位置および姿勢、ならびに、浮上移動装置3100における画像センサ180の仰角が制御される。本実施の形態においては、姿勢変更ボタン640は使用されない。
【0325】
位置変更ボタン630がONされた場合には、まず、浮上移動装置3100の姿勢および画像センサ180の仰角が制御され、画像センサ180の正面は、ポインタコントローラ600を向く姿勢になる。
【0326】
次に、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置に、浮上移動装置3100が移動する。浮上移動装置3100が移動すると、画像センサ180の正面がポインタコントローラ600に向いていなくなる。そのため、浮上移動装置3100は、この状態を検知して、再度、姿勢変更のために、画像センサ180の正面がポインタコントローラ600を向く姿勢に戻るように羽ばたき運動をする。
【0327】
前述のような動作を繰り返すことによって、浮上移動装置3100は、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置で、画像センサ180の正面がポインタコントローラ600に向いている姿勢になる。
【0328】
浮上移動装置
<構成>
浮上移動装置3100は、筐体3110にメインロータアクチュエータ3120を備えている。メインロータ3130は、メインロータアクチュエータ3120によって回転される。なお、メインロータアクチュエータ3120は、メインロータ3130のピッチおよびその回転面の前側、後側、左側、および右側のそれぞれへの傾きを制御することができる。また、浮上移動装置3100の後尾には、テイルロータアクチュエータ3140およびテイルロータアクチュエータ3140よって回転駆動されるテイルロータ3150が設けられている。
【0329】
なお、本実施の形態の浮上移動装置3100は、一般的に使用されている回転翼機と同様の構成を有するものであり、本発明に特有の構造および本発明が実現されるか否に関わる構造を有していないので、その説明は省略される。
【0330】
<制御手法>
<制御要素>
<X軸方向への並進制御>
メインアクチュエータ3120には、図示されないロータ傾斜機構が設けられており、メインロータ3130の回転面を、前側、後側、左側、および右側のいずれかに傾斜させることができる。ここでは、浮上移動装置3100は、ロータ左右方向傾斜角信号の入力値が正であれば、図62に示されるY軸周りに正方向の回転をするように、一方、ロータ左右方向傾斜角信号の入力値が負であれば、図62に示されるY軸周りに負方向の回転をするように、メインロータ3130の回転面を左または右に傾斜させるものとする。
【0331】
これにより、メインロータ3130の発生する流体力に左または右の水平方向成分が生じ、X軸方向の正または負、すなわち左または右に移動することができる。
【0332】
<Y軸方向への並進制御>
同様に、浮上移動装置3100は、メインアクチュエータ3120におけるロータ傾斜機構によって、ロータ前後方向傾斜角信号の入力値が正であれば、図62に示されるX軸まわりに正方向に回転し、ロータ前後方向傾斜角信号の入力値が負であるなら、図62に示されるX軸まわりに正方向に回転し、メインロータ3130の回転面を前側または後側に傾斜させるものとする。これにより、メインロータ3130の発生する流体力に前後方向の水平方向成分が生じ、Y軸方向、すなわち前後に移動することができる。
【0333】
<Z軸方向への並進制御>
メインアクチュエータ3120には、図示されないロータピッチ制御機構が設けられており、メインロータ3130のピッチを変更することができる。ここでは、ロータピッチ信号の入力値が正であれば、メインロータ3130のピッチを増加させることによって揚力を増大させ、一方、ロータピッチ信号の入力値が負であれば、メインロータ3130のピッチを減少させることによって揚力を低下させるものとする。これにより、メインロータ3130が発生させる揚力が増減する。その結果、浮上移動装置3100は、Z軸方向、すなわち、上下方向に移動することができる。
【0334】
<Z軸周りの回転制御>
テイルロータアクチュエータ3140は、ホバリング時には、テイルロータ3150を、メインロータ3130の回転によって生じるモーメントを打ち消すだけの流速を生み出す回転数f0で回転させている。この回転数を基準として、テイルロータ3150の回転数を増減させることにより、浮上移動装置3100にZ軸まわりの回転を行わせることができる。ここでは、テイルロータ回転数の入力値が正であれば、テイルロータアクチュエータ3140の回転数をf0より増加させることによって浮上移動装置3100をZ軸まわりに正方向に旋回させ、テイルロータ回転数の入力値が負であれば、テイルロータアクチュエータ3140の回転数をf0より減少させることによって浮上移動装置3100をZ軸まわりに負方向に旋回させるものとする。これにより、浮上移動装置3100は、Z軸方向の回転、すなわち、左または右への回転を行うことが出来る。
【0335】
<X軸またはY軸まわりの回転制御>
一般に、本体に対するメインロータの回転面の姿勢を大きく変化させることができない回転翼機においては、その姿勢変更のためには位置変更を同時に行わざるを得ない。そのため、回転翼機の姿勢を単独で変更することは容易ではない。このため、本実施の形態においては、説明の簡便のため、X軸およびY軸まわり回転は制御されないものとする。
【0336】
なお、本実施の形態においては、仰角アクチュエータ182によってCMOSイメージャ181の仰角が変化され得るので、X軸周りの回転を制御することを必要としない。
【0337】
<制御回路>
次に、図63および表8を用いて本実施の形態における制御回路3150が説明される。
【0338】
【表8】
【0339】
制御回路3150は、データ受信センサ700により得られた位置データ、方位データ、および操縦データを用いて、かつ、ROM3520に格納された表8の制御データを参照して、メインロータアクチュエータ3120におけるロータ左右方向傾斜角信号の入力値、ロータ前後方向傾斜角信号の入力値、ロータピッチ信号の入力値、およびテイルロータ回転数の入力値を決定する。これにより、表7の制御データによって特定される制御が実現されるので、浮上移動装置3100は、ポインタコントローラ600が指し示す方向における所定の位置で、ポインタコントローラ600にその正面を向けた姿勢になることが可能になる。
【0340】
<補足>
なお、本発明の実施の形態における浮上移動装置3100は、本発明のコントローラが回転翼機に適用された場合の一例であり、コントローラ以外の構成、例えば、テイルロータアクチュエータ3140の構成、および、テイルロータアクチュエータを用いるか否か等は、本発明の本質とは関連性を有していないため、いかなるものであってもよい。
【0341】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0342】
【図1】実施の形態の浮上移動装置の全体構成の概略図である。
【図2】実施の形態のポインタコントローラの構成を示す概略図である。
【図3】実施の形態のポインタコントローラのデータフローを示す概略図である。
【図4】実施の形態のポインタコントローラの照射領域および照射データを説明するための図である。
【図5】実施の形態のポインタコントローラの照射領域における浮上移動装置の移動方向を表す模式図である。
【図6】実施の形態の画像センサの上面図である。
【図7】実施の形態の画像センサの正面図である。
【図8】実施の形態の画像センサの左側面図である。
【図9】実施の形態の画像センサの仰角の変更を説明するための図である。
【図10】実施の形態の方位決定センサの感度分布を説明するための図である。
【図11】実施の形態の画像センサおよび方位センサの仰角制御を説明するための図である。
【図12】実施の形態の浮上移動装置の詳細構造の概略図である。
【図13】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の概略平面図である。
【図14】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の概略側面図である。
【図15】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の第一の層を示す図である。
【図16】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の第二の層を示す図である。
【図17】実施の形態の浮上移動装置の羽根部の第三の層を示す図である。
【図18】実施の形態の浮上移動装置に用いられるアクチュエータの外観図である。
【図19】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの概略図である。
【図20】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの第一の振動モードを示す図である。
【図21】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの第二の振動モードを示す図である。
【図22】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの動作を表わす説明図である。
【図23】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの動作を表わす説明図である。
【図24】実施の形態の浮上移動装置に用いられる他の例の超音波モータの動作を表わす説明図である。
【図25】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの予圧機構の概略図である。
【図26】上部および下部ロータの他の例を示す図である。
【図27】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの概略図である。
【図28】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの第一の構成部品を示す図である。
【図29】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの第二の構成部品を示す図である。
【図30】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの第三の構成部品を示す図である。
【図31】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムのサイズの定義を示す図である。
【図32】実施の形態の浮上移動装置に用いられる羽駆動メカニズムの駆動原理を説明するための図である。
【図33】実施の形態の浮上移動装置に用いられる超音波モータの駆動トルクの時刻歴を示すグラフである。
【図34】実施の形態の浮上移動装置の中央切り返しの羽ばたき方を説明するための図である。
【図35】実施の形態の浮上移動装置のエネルギー蓄積・放出機構を説明するための図である。
【図36】実施の形態の浮上移動装置のトルク補助機構の効果を示すグラフである。
【図37】実施の形態の浮上移動装置のトルク補助機構の設計方法を表わす補助図である。
【図38】実施の形態の浮上移動装置の先行切り返しの羽ばたき方を表わす説明図である。
【図39】実施の形態の浮上移動装置の遅れ切り返しの羽ばたき方を表わす説明図である。
【図40】実施の形態の浮上移動装置の上昇・下降時の羽ばたき方により生じる水平方向の力を表す説明図である。
【図41】実施の形態の浮上移動装置の前進方法を表す説明図である。
【図42】実施の形態の浮上移動装置の後退方法を表す説明図である。
【図43】実施の形態の浮上移動装置の旋回のための左右の羽部のアクチュエータに印加される電圧のデューティ比を示すグラフである。
【図44】実施の形態の浮上移動装置の前進時の羽ばたき方を表わす説明図である。
【図45】実施の形態の浮上移動装置の後退時の羽ばたき方を表わす説明図である。
【図46】実施の形態の浮上移動装置における制御システムのハードウエアブロック図である。
【図47】実施の形態の浮上移動装置における制御システムの機能ブロック図である。
【図48】実施の形態の浮上移動装置のPWM制御信号のデューティ比を説明するための図である。
【図49】実施の形態の浮上移動装置の中央切り返しの制御のためのデューティ比を示すグラフである。
【図50】実施の形態の浮上移動装置の先行切り返しの制御のためのデューティ比を示すグラフである。
【図51】実施の形態の浮上移動装置の遅れ切り返しの制御のためのデューティ比を示すグラフである。
【図52】実施の形態の浮上移動装置の制御の流れを示すフローチャートである。
【図53】従来の浮上移動装置の問題点を説明するための図である。
【図54】一般的なホバリングの羽ばたき方を説明するための図である。
【図55】実施の形態2の画像センサの上面図である。
【図56】実施の形態2の画像センサの正面図である。
【図57】実施の形態2の画像センサの左側面図である。
【図58】実施の形態2の4つの方位指示用赤外線発光ダイオードから送信される信号の空間分布を示す概略図である。
【図59】実施の形態2のポインタコントローラと浮上移動装置とのデータの送受信を説明するための図である。
【図60】実施の形態2のポインタコントローラの主要な構成を示す図である。
【図61】実施の形態2のポインタコントローラのデータフローを示す図である。
【図62】実施の形態3の浮上移動装置の模式図である。
【図63】実施の形態3の浮上移動装置のデータのフローチャートである。
【符号の説明】
【0343】
100 浮上移動装置、600 コントローラ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペレータが握持することができ、かつ、指し示す方向が認識され得る形状または模様を有する筐体と、
前記筐体に設けられ、移動機能を有するロボットに該ロボットの移動方向を指令する情報を出力する情報出力部とを備え、
前記情報出力部は、それぞれが信号を照射する複数の信号照射部を有し、
前記複数の信号照射部から照射される複数の信号は、互いに重畳される性質を有しており、かつ、仮想の平面上において互いに重なる領域を有している、コントローラ。
【請求項2】
前記筐体の指し示す方向が、前記互いに重なる領域を通過する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
前記複数の信号照射部が2つ、3つ、または4つの信号照射部からなる、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項4】
前記複数の信号照射部が2つの信号照射部からなり、
前記2つの信号照射部は、それぞれが実質的に同一の半径を有する2つの円形状の領域を通過するように2つの信号を照射し、
前記筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、前記2つの円形状の領域の中心同士を結ぶ線分の中点の位置を通過する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項5】
前記複数の信号照射部が4つの信号照射部からなり、
前記4つの信号照射部は、それぞれが実質的に同一の半径を有する4つの円形状の領域を通過するように4つの信号を照射し、
前記4つの円形状の領域は、それらの4つの中心点が実質的に正方形の4つの頂点に位置付けられており、
前記筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、正方形の対角線の交点の位置を通過する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項6】
前記複数の信号の互いに重畳される性質が、物理量の強度である、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項7】
前記物理量の強度は、光の強度である、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項8】
前記4つの信号のそれぞれが互いに異なる値を特定可能な4ビットのデジタル信号である、請求項5に記載のコントローラ。
【請求項9】
前記指し示す方向が認識され得る形状が、前記筐体の表面上に設けられた突起部によって形成された、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項10】
前記筐体が、前記指し示す方向に平行に延びるレーザ光を発射するレーザポインタを有する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項11】
請求項1〜10に記載のコントローラと、
前記コントローラから前記移動方向を指令する情報を受けて、該情報に基づいて移動するロボットとを備え、
前記ロボットは、
前記コントローラから照射されている前記複数の信号の重畳状態を検出し得るセンサと、
前記センサによって検出された前記複数の信号の重畳状態に関連付けられた所定の移動方向を特定可能なデータを記憶したメモリと、
前記メモリに記憶された前記データに基づいて前記ロボットを所定の移動方向に移動させる制御手段とを含む、移動ロボットシステム。
【請求項12】
前記制御手段は、前記ロボットが前記複数の信号の重畳されている数がより多い領域に向かって移動するように制御を実行する、移動ロボットシステム。
【請求項13】
前記ロボットは、
前記コントローラから照射された信号の照射方向を検出するセンサを含み、
前記制御手段は、前記ロボットの所定の部位が前記照射方向上に位置するように前記ロボットの姿勢を制御する、請求項10に記載の移動ロボットシステム。
【請求項14】
前記ロボットは、請求項1に記載のコントローラの複数の信号照射部から照射された複数の信号と同一機能を果たす複数の方位信号を照射する方位信号照射部を含み、さらに、
前記コントローラが、前記複数の方位信号を受信する受信部を含み、前記信号照射部から複数の信号とともに前記複数の方位信号を前記ロボットに照射し、
前記制御手段が、前記複数の信号に予め関連づけて移動方向を制御し、かつ、前記方位信号に関連づけて、前記ロボットの回転方向を制御する、移動ロボットシステム。
【請求項15】
前記コントローラが、前記複数の信号に加えて、前記コントローラと前記ロボットとを結ぶ線に沿った方向において前記ロボットを移動させ得る信号を照射する、請求項11〜14に記載の移動ロボットシステム。
【請求項16】
前記コントローラは、前記複数の信号に加えて、該コントローラから出力される前記複数の信号を無効化する信号を出力することができる、請求項11〜13に記載の移動ロボットシステム。
【請求項17】
ロボットが浮上して移動することができる浮上移動ロボットである、請求項11〜16に記載の移動ロボットシステム。
【請求項18】
前記浮上移動ロボットは、その重心に対して浮上力の作用点が鉛直上方に位置付けられている、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【請求項19】
前記浮上移動ロボットが羽ばたき運動する羽部を有する羽ばたきロボットである、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【請求項20】
前記記浮上移動ロボットが回転翼を有するヘリコプターである、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【請求項21】
前記浮上移動ロボットが仰角を変化させることが可能であるカメラを有しており、
前記コントローラは前記カメラの操作スイッチを有している、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【請求項1】
オペレータが握持することができ、かつ、指し示す方向が認識され得る形状または模様を有する筐体と、
前記筐体に設けられ、移動機能を有するロボットに該ロボットの移動方向を指令する情報を出力する情報出力部とを備え、
前記情報出力部は、それぞれが信号を照射する複数の信号照射部を有し、
前記複数の信号照射部から照射される複数の信号は、互いに重畳される性質を有しており、かつ、仮想の平面上において互いに重なる領域を有している、コントローラ。
【請求項2】
前記筐体の指し示す方向が、前記互いに重なる領域を通過する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
前記複数の信号照射部が2つ、3つ、または4つの信号照射部からなる、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項4】
前記複数の信号照射部が2つの信号照射部からなり、
前記2つの信号照射部は、それぞれが実質的に同一の半径を有する2つの円形状の領域を通過するように2つの信号を照射し、
前記筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、前記2つの円形状の領域の中心同士を結ぶ線分の中点の位置を通過する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項5】
前記複数の信号照射部が4つの信号照射部からなり、
前記4つの信号照射部は、それぞれが実質的に同一の半径を有する4つの円形状の領域を通過するように4つの信号を照射し、
前記4つの円形状の領域は、それらの4つの中心点が実質的に正方形の4つの頂点に位置付けられており、
前記筐体が指し示す方向を特定可能な仮想の直線が、実質的に、正方形の対角線の交点の位置を通過する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項6】
前記複数の信号の互いに重畳される性質が、物理量の強度である、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項7】
前記物理量の強度は、光の強度である、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項8】
前記4つの信号のそれぞれが互いに異なる値を特定可能な4ビットのデジタル信号である、請求項5に記載のコントローラ。
【請求項9】
前記指し示す方向が認識され得る形状が、前記筐体の表面上に設けられた突起部によって形成された、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項10】
前記筐体が、前記指し示す方向に平行に延びるレーザ光を発射するレーザポインタを有する、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項11】
請求項1〜10に記載のコントローラと、
前記コントローラから前記移動方向を指令する情報を受けて、該情報に基づいて移動するロボットとを備え、
前記ロボットは、
前記コントローラから照射されている前記複数の信号の重畳状態を検出し得るセンサと、
前記センサによって検出された前記複数の信号の重畳状態に関連付けられた所定の移動方向を特定可能なデータを記憶したメモリと、
前記メモリに記憶された前記データに基づいて前記ロボットを所定の移動方向に移動させる制御手段とを含む、移動ロボットシステム。
【請求項12】
前記制御手段は、前記ロボットが前記複数の信号の重畳されている数がより多い領域に向かって移動するように制御を実行する、移動ロボットシステム。
【請求項13】
前記ロボットは、
前記コントローラから照射された信号の照射方向を検出するセンサを含み、
前記制御手段は、前記ロボットの所定の部位が前記照射方向上に位置するように前記ロボットの姿勢を制御する、請求項10に記載の移動ロボットシステム。
【請求項14】
前記ロボットは、請求項1に記載のコントローラの複数の信号照射部から照射された複数の信号と同一機能を果たす複数の方位信号を照射する方位信号照射部を含み、さらに、
前記コントローラが、前記複数の方位信号を受信する受信部を含み、前記信号照射部から複数の信号とともに前記複数の方位信号を前記ロボットに照射し、
前記制御手段が、前記複数の信号に予め関連づけて移動方向を制御し、かつ、前記方位信号に関連づけて、前記ロボットの回転方向を制御する、移動ロボットシステム。
【請求項15】
前記コントローラが、前記複数の信号に加えて、前記コントローラと前記ロボットとを結ぶ線に沿った方向において前記ロボットを移動させ得る信号を照射する、請求項11〜14に記載の移動ロボットシステム。
【請求項16】
前記コントローラは、前記複数の信号に加えて、該コントローラから出力される前記複数の信号を無効化する信号を出力することができる、請求項11〜13に記載の移動ロボットシステム。
【請求項17】
ロボットが浮上して移動することができる浮上移動ロボットである、請求項11〜16に記載の移動ロボットシステム。
【請求項18】
前記浮上移動ロボットは、その重心に対して浮上力の作用点が鉛直上方に位置付けられている、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【請求項19】
前記浮上移動ロボットが羽ばたき運動する羽部を有する羽ばたきロボットである、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【請求項20】
前記記浮上移動ロボットが回転翼を有するヘリコプターである、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【請求項21】
前記浮上移動ロボットが仰角を変化させることが可能であるカメラを有しており、
前記コントローラは前記カメラの操作スイッチを有している、請求項17に記載の移動ロボットシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【公開番号】特開2009−12668(P2009−12668A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178267(P2007−178267)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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