説明

コンバインのクラッチ装置

【課題】クラッチレバーをより小さい力で操作できるクラッチ装置を提供すること。
【解決手段】クラッチレバー48操作によってテンションプーリを移動させて伝動ベルトを緊張弛緩させることにより、クラッチの入り切りを行なうコンバインのクラッチ装置であって、クラッチレバー48の動きに伴って移動する回動部材71に、クラッチを切り状態から入り状態にするクラッチ入り操作の際の回動部材71の移動する向きと同じ向きの付勢力を付与するガススプリング90を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインのクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインなどの農業機械では、エンジン側の駆動プーリと動作側の従動プーリに伝動ベルトが掛け回されており、回動自在に設置されたテンションアームの先端に伝動ベルトに押し付けられるテンションプーリが取り付けられており、クラッチレバーの操作によってテンションアームを回動させてテンションプーリを伝動ベルトに押し付けあるいは離間させることで、伝動ベルトを緊張あるいは弛緩させて動力伝達の入り切りを行なうようになっているクラッチ機構を備える動力伝達構造が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−219241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したようなクラッチ機構としては、たとえば、クラッチレバーを操作することでテンションアームを回動させて、テンションアームに取り付けられたテンションプーリを反発力に対抗して伝動ベルトに押し付け、これにより伝動ベルトに緊張(テンション)を付与してクラッチを「入」状態にすることができるようになっており、押し付け力を解除することでクラッチを「切」状態にするものが考えられる。また、テンションアームに付勢力を付与してテンションプーリを伝動ベルトに押し付けるコイルばねなどの付勢手段を備えており、クラッチレバーを操作することで付勢力に抗してテンションアームを回動させてテンションプーリを伝動ベルトから離間させ、これにより伝動ベルトを弛緩させてクラッチを「切」状態にすることができるようになっており、付勢力に対抗する力を解除することで、クラッチを「入」状態にするものが考えられる。
【0004】
ところが、いずれのクラッチ機構の場合でも、クラッチを「入」あるいは「切」のいずれかにするときに、伝動ベルトの反発力や付勢手段の付勢力に対抗して操作レバーを操作する必要があり、レバー操作の際に大きな力が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明では、駆動プーリから従動プーリに動力を伝達する伝動ベルトを緊張弛緩させるテンションプーリと、回転自在に設置されており、前記テンションプーリを支持するテンションアームと、当該テンションアームを回動させるクラッチレバーと、操作時のクラッチレバーの動きをテンションアームに伝達して当該テンションアームを回動させると共にテンションプーリを移動させる動力伝達部とを備えており、クラッチレバー操作によってテンションプーリを移動させて伝動ベルトを緊張弛緩させることにより、クラッチの入り切りを行なうようになっているコンバインのクラッチ装置であって、前記動力伝達部は、前記クラッチレバーの動きに伴って移動する動力伝達部材を備えており、クラッチ入り操作およびクラッチ切り操作のうち、クラッチレバー操作に必要な操作力がより大きいクラッチ重操作の際の前記動力伝達部材の移動する向きと同じ向きの付勢力を当該動力伝達部材に付与する付勢手段を、前記動力伝達部に備えたことを特徴とするコンバインのクラッチ装置を提供する。
【0006】
そして、本発明は、以下の構成にも特徴を有する。
【0007】
前記動力伝達部材は、回動する部材であり、前記付勢手段は、コンバインの機体に回転自在に取り付けられた付勢手段本体と、当該付勢手段本体に対して出没自在に取り付けられており、動力伝達部材に付勢力を付与する作用部とを備えるものであり、当該作用部は、動力伝達部材の回転軸位置から離れた、回動する連結点に連結されており、前記付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置は、前記クラッチ重操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置よりも、クラッチ重負荷操作開始状態での連結点位置寄りの位置であること。
【0008】
前記付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置は、クラッチ重負荷操作開始状態での連結点の位置よりも、前記クラッチ重操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置寄りの位置であり、前記付勢手段はガススプリングであること。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明では、クラッチ入り操作およびクラッチ切り操作のうち、クラッチレバー操作に必要な操作力がより大きいクラッチ重負荷操作(以下、単にクラッチ操作とも称する)の際、クラッチレバーの動きに伴って移動する動力伝達部材に、当該動力伝達部材の移動する向きと同じ向きの付勢力を付与する付勢手段を、前記動力伝達部に備えている。したがって、クラッチ操作時に必要な操作力を小さくすることができ、クラッチ操作が楽になると共に操作性が向上する。なお、クラッチ重負荷操作は、通常、クラッチを入れる操作である。この場合、クラッチを切り状態から入り状態にするクラッチ入り操作の際の動力伝達部材の移動する向きと同じ向きの付勢力を当該動力伝達部材に付与する付勢手段を、前記動力伝達部に備えることになる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、前記動力伝達部材は、回動する部材であり、前記付勢手段は、コンバインの機体に回転自在に取り付けられた付勢手段本体と、当該付勢手段本体に対して出没自在に取り付けられており、動力伝達部材に付勢力を付与する作用部とを備えるものであり、当該作用部は、動力伝達部材の回転軸位置から離れた、回動する連結点に連結されており、前記付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置は、前記クラッチ操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置よりも、クラッチ操作開始状態での連結点位置寄りの位置である。
【0011】
付勢手段が思案点位置にある状態は、付勢手段から動力伝達部材に付勢力が付与されない状態である。つまり、思案点位置は、無付勢位置でもある。したがって、付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置と、クラッチ操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置とを一致させると、クラッチレバーの操作を楽にすることができない。付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置と、クラッチ操作開始状態での連結点位置とを一致させると、クラッチ操作開始から終了までの全区間にわたって付勢力を付与し得るが、全区間にわたって付勢力を付与するためには、付勢手段の作用部として、出没移動距離の長いものを用いる必要がある。この点、本発明では、付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置を、クラッチ操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置とはずらして、クラッチ操作開始状態での連結点の位置寄りに位置させたので、クラッチレバーの操作を楽にすることができ、しかも付勢手段の作用部として、出没移動距離のより短いものを用いることができるので、動力伝達部の大型化が防止される。
【0012】
請求項3に記載の発明では、付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置は、クラッチ操作開始状態での連結点の位置よりも、前記クラッチ操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置寄りの位置であり、付勢手段はガススプリングである。
【0013】
このような構成にすると、クラッチレバー操作の際に必要になる操作力は、クラッチ操作開始状態から、付勢手段が思案点位置に位置する状態になるまでの区間については大きくなるが、テンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態で必要になる操作力については小さくなるので、クラッチ操作の全区間でみれば、操作力の平準化が図られる。操作力の平準化が図られれば、操作性が向上する。また、付勢手段が思案点位置に位置する状態からクラッチ操作開始状態にクラッチレバーが戻るときに、付勢手段がガススプリングであれば、クラッチレバーの動きとは逆向きの付勢力がクラッチレバーに付与されるので、クラッチレバーがゆっくりと操作開始位置に戻ることとなり、操作性がより向上すると共に、操作レバー部の構造の耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るコンバインの実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1に示すように、コンバインAは、汎用コンバインであり、機体フレーム1の下部に配置された左右一対のクローラ式の走行部2,2と、機体フレーム1の前端部に取り付けられた刈取部3と、刈取部を昇降自在に支持する刈取り穀稈の搬送部4と、搬送部4の直後方位置に配設された脱穀部5と、脱穀部5の直下方位置に配設された選別部6と、機体フレーム1の前部であって、搬送部4の直上方位置に配設された操縦部7と、操縦部7の直後方位置であって、脱穀部5の直上方位置に配設された穀粒貯留部8と、穀粒貯留部8に連通連設された穀粒搬出部9と、穀粒貯留部8の直後方位置に配設された原動機部10とを備えている。
【0016】
走行部2は、機体フレーム1の下部に取り付けられた走行フレーム12を備えており、走行フレーム12の前端部には駆動輪14が連動連結されている。一方、走行フレーム12の後端部には遊動輪15が回転自在に軸支されており、これら駆動輪14と遊動輪15との間に、履帯16が巻回されている。なお、符号「17」は転動輪を示している。
【0017】
刈取部3は、搬送部4の先端部に連設されたプラットホーム18を備えている。プラットホーム18内には左右方向に軸線を向けた状態で横送りオーガ19が回動可能に横架されている。そして、横送りオーガ19の直前方位置には図示されていない刈刃装置が横架されており、刈刃装置の直前方位置にディバイダ21が配置されている。また、ディバイダ21の上方位置には昇降機構22を介して掻き込みリール23が配置されている。
【0018】
刈取部3では、圃場に植立した穀稈を掻き込みリール23により掻き込むと共に、刈刃装置により穀稈の根元部分を刈り取り、その後、刈り取った穀稈を横送りオーガ19によって横送りオーガ19の略中央部に寄せ集め、後方の搬送部4へ受け渡す。
【0019】
搬送部4は、機体フレーム1の前端部に前後方向に伸延するフィーダハウス24を備えている。フィーダハウス24は、上下回動自在に取り付けられており、フィーダハウス24の内部には搬送コンベア25が配設されている。なお、符号「26」はフィーダハウス24を介して刈取部3を昇降させる昇降用シリンダを示している。
【0020】
搬送部4では、刈取部3の横送りオーガ19によって寄せ集められた穀稈を、搬送コンベア25によって後方の脱穀部5へと搬送する。
【0021】
脱穀部5は、搬送部4の直後方位置に形成された扱室31を備えている。扱室31の内部には、回転軸線が前後方向に向けられた状態で円筒状の扱胴32が配設されている。扱胴32の直下方位置には図示しないコンケーブが張設されている。コンケーブは、扱胴32の下半部周面に沿わせた状態で周方向に連続的に張設されている。
【0022】
脱穀部5では、搬送部4によって搬送されてき穀稈は扱胴32とコンケーブとの間に形成される脱穀空間内に送り込まれ、穀稈を扱胴32の作用によって扱胴32の前方から後方へ移送しながら脱穀処理する。脱穀された穀粒は、自重によって各コンケーブを通過し、下方の選別部6へと落下する。
【0023】
選別部6は、扱胴32の直下方位置に設置された揺動選別体33を備えている。揺動選別体33は、揺動機構34を介して上下方向に揺動可能に配設されている。なお、符号「35」は、左右方向に伸延して一番穀粒を受ける一番穀粒受樋を、符号「36」は、左右方向に伸延して二番穀粒を受ける二番穀粒受樋を、そして、符号「37」は、唐箕を、それぞれ示している。
【0024】
一番穀粒受樋35内には、左右方向に伸延する一番穀粒搬送コンベア38が配置されており、一番穀粒搬送コンベア38の左側端部には、上下方向に伸延する揚穀コンベア(不図示)の下端部が連設されている。そして、揚穀コンベアの上端部は、前記穀粒貯留部8に連設されている。したがって、一番穀粒受樋35内の一番穀粒は、一番穀粒搬送コンベア38から揚穀コンベアを経て穀粒貯留部8へと搬送される。
【0025】
そして、二番穀粒受樋36内には、左右方向に伸延する二番搬送コンベア40が配置されており、二番搬送コンベア40の左側端部には、前後方向に伸延する還元コンベア41の後端部が連設されている。そして、還元コンベア41の前端部は、前記扱室31に連設されている。したがって、二番穀粒受樋36内の二番穀粒は、扱室31に還元されて再度脱穀される。
【0026】
穀粒貯留部8は、脱穀部5に設けた扱胴32の直上方位置に配設されたグレンタンク42を備えている。グレンタンク42には、選別部6に設けた一番穀粒受樋35が揚穀コンベアを介して連通連結されている。
【0027】
穀粒搬出部9は、グレンタンク42内の右側下部に設置された横搬出用スクリューコンベア(図示せず)を備えている。横搬出用スクリューコンベアは、前後方向に軸線を向けた状態で横架されており、横搬出用スクリューコンベアの後端部には、縦搬出用スクリューコンベア(不図示)の下端部が連通連結されている。縦搬出用スクリューコンベアは、原動機部10の右側方位置に、上下方向に軸線を向けた状態で配置されており、縦搬送用スクリューコンベアの上端部に、搬出オーガ43の後端部が連通連結されている。搬出オーガ43は、前方へ向けて伸延しており、後端部を中心に旋回及び上下回動自在になっている。なお、符号「43a」は、搬出オーガ43の搬出口を示している。
【0028】
原動機部10は、図示されていないエンジンを備えており、エンジンの出力軸は、図示していない伝動機構を介して刈刃装置やミッション等の各動力機構の入力部に連動連結されている。したがって、エンジンを駆動させると、脱穀部5や選別部6等の各動力機構部が連動して作動する。
【0029】
操縦部7は、機体フレーム1の前端中央上部に配設された略矩形箱型状のキャビン44である。キャビン44内には、平面視中央後部に位置するように座席45が配設されており、座席45の前方位置にはフロントコラム46aが配設されており、フロントコラム46aから上方に伸びるステアリング軸46bの上端にはステアリングホイル46cが設けられている。また、座席45の左側には操作パネル47が配置されており、操作パネル47には、脱穀クラッチレバー(以下、単にクラッチレバーとも称する)48などの操作レバーが設置されている。なお符号「49」は、コンバインの主変速レバーを示している。
【0030】
次に、図3から図5を用いて脱穀クラッチについて説明する。
【0031】
脱穀クラッチレバー48は、原動機部10のエンジンの出力軸の回転を脱穀部に伝達する脱穀クラッチ50の入り切りに用いられるものである。図3に示されるように、脱穀クラッチ50は、エンジン側から回転が伝達される駆動プーリ51と、脱穀部5の回転動作部分に動力を伝達する従動プーリ52と、両プーリ51,52に掛け回されており、駆動プーリ51から従動プーリ52に動力を伝達する伝動ベルト53と、伝動ベルト53を緊張弛緩させるテンションプーリ54と、テンションプーリ54を支持するテンションアーム55とを備えており、テンションプーリ54を移動させることによって、脱穀クラッチ50を入り切りできるようになっている。
【0032】
クラッチレバー48は、操作パネル47の下側に位置する基端部48aで、回転軸60に回動自在に軸支された支持体61に固定されている。回転軸60は、コンバイン車幅方向に伸延しており、クラッチレバー48は回転軸60回りに回動自在になっている。したがって、操作パネル47の上側に位置するクラッチレバー48の上端の把持部48bを前後方向に移動させるようにクラッチレバー48を回動できる。なお、本実施形態のクラッチレバー48は、把持部48bを備えるレバー上部を前方に倒した実線で示される状態がクラッチ入り状態であり、レバー上部が鉛直上方に延びる状態がクラッチ切り状態である。
【0033】
そして、クラッチレバー48は、クラッチレバー48の回動を伝達する動力伝達部65を介してテンションプーリ54が取り付けられたテンションアーム55に連動連結されている。
【0034】
クラッチレバー48の支持体61の後方には、車幅方向に延びる回転軸70の回りに回動自在に設置された回動部材(動力伝達部材)71が設置されている。この回動部材71は、上方に延びる中央アーム72と、前方に延びる前アーム73と、後方に延びる後アーム74とを備えている。そして、中央アーム72の先端部72aと、クラッチレバー48の支持体61の先端部61aは、前後方向に延びるロッド81を介して連結されている。なお、符号「82」は、クラッチレバー48がクラッチ入り状態の位置であることを検知するスイッチを示している。
【0035】
ここで、支持体61の先端部61aの位置と、回動部材71の中央アーム72の先端部72aの位置の位置関係について説明する。
【0036】
支持体61の先端部61aは、クラッチレバー48がクラッチ切り状態の位置にあるとき、その回転軸60より上方に位置する。そして、このとき、支持体61の先端部61aと中央アーム72の先端部72aとを連結するロッド81は、支持体61の回転軸60より上方に位置するようになっている。そして、クラッチレバー48を切り状態の位置から入り状態の位置に向けて前方に回動させ始めると、支持体61の先端部61aの位置は、前方に移動する。そして、クラッチレバー48をクラッチ入り状態の位置まで移動させると、支持体61の先端部61aは、その回転軸60の位置より前方であってかつ下方に位置する。そして、このとき、ロッド81は、支持体61の回転軸60よりも僅かに下方に位置する。また、ロッド81には、後述するインナーワイヤ75aによって伝達される後方への引張り力が作用している。つまり、ロッド81の先端部が連結された支持体61は、クラッチレバー48を切り状態の位置から入り状態の位置に回動させる途中で、回転軸60を支点とするいわゆる支点越えをしている。したがって、クラッチ入り状態の位置まで回動されたクラッチレバー48は、トグルクランプと同様の作用によって、クラッチ入り状態の位置に保持される。なお、支持体61が支点越えする位置は、クラッチ入り状態の位置に近い位置に設定されている。したがって、クラッチレバー48をクラッチ入り状態の位置から支点越えの位置まで回動させる際、小さい操作力でクラッチレバー48を回動させることができる。
【0037】
回動部材71の後アーム74の先端部74aには、引張力の伝達に用いられるワイヤ75のインナーワイヤ75aの一端が連結されている。インナーワイヤ75aの他端は、バネ76を介してテンションアーム55に連結されており、回動部材71の回動によってインナーワイヤ75aが引っ張られると、テンションアーム55が回動するようになっている。なお、符号「75b」は、ワイヤ75のアウターワイヤを示している。
【0038】
本実施形態では、クラッチレバー48を切り状態の位置から入り状態の位置に回動させると、インナーワイヤ75aが上方に引っ張られ、テンションアーム55が上方に回転する。すると、テンションアーム55に支持されたテンションプーリ54が伝動ベルト53に押し付けられ、伝動ベルト53が緊張する(テンションが付与される)状態になり、これにより、伝動ベルト53を介して駆動プーリ51から従動プーリ52に回転が伝達されるようになる。逆に、クラッチレバー48をクラッチ入り状態の位置から切り状態の位置に回動させると、インナーワイヤ75aが下方に移動し、テンションアーム55が下方に回転する。すると、テンションプーリ54が下方に移動して、伝動ベルト53が弛緩する状態になる。これにより、伝動ベルト53は、駆動プーリ51から従動プーリ52に回転が伝達しない状態になる。
【0039】
また、回動部材71の前方には、ガススプリング90が設置されている。ガススプリング90は、ガススプリング本体91と、ガススプリング本体91に対して出没自在になっている作用ロッド92とを備えており、ガススプリング本体91の基端部においてコンバイン車幅方向に伸延する回転軸93回りに回転自在に取り付けられている。なお、このガススプリング90は、基本的には作用ロッド92が出動する方向に付勢力を付与するものであるが、作用ロッドを勢いよく出動させる力が加わると、その動きを阻止しようとする力が作用する。
【0040】
そして、ガススプリング90の作用ロッド92の先端部92aは、回動部材71の前アーム73の先端部73aに回転自在に連結されている。
【0041】
ここで、回動部材71の前アーム73の先端部73aとガススプリング90の作用ロッド92の先端部92aとの連結点Cの位置と、作用ロッド92の先端部92aの出没状態との関係について説明する。
【0042】
図3に示されるように、回動部材71の前アーム73およびガススプリング90の作用ロッド92は、クラッチ切り状態のとき、最上方位置に位置し、クラッチ切り状態のとき、最下方位置に位置するように配置されている。つまり、連結点Cの位置は、クラッチレバー48を切り状態の位置から入り状態の位置に回動させると下方に移動し、クラッチレバー48を入り状態の位置から切り状態の位置に回動させると上方に移動する。
【0043】
そして、回動部材71の回転軸70とガススプリング90の回転軸93を結ぶ直線を基準線Sとして説明すると、連結点Cは、クラッチ切り状態のときは基準線Sの上方に位置し、クラッチ入り状態のときは基準線Sの下方に位置する。つまり、連結点Cは、脱穀クラッチ50を入り状態と切り状態の間で回動させる途中で、基準線Sを跨ぐように移動する。
【0044】
出没自在である作用ロッド92は、連結点Cが基準線S上に位置しているときに最も没した状態(短くなった状態)になり、前アーム73と一直線上に位置する状態になる。このとき、作用ロッド92から前アーム73に付与される付勢力は、回動部材71の回転軸70の方向に向くことになり、回動部材71の回動方向成分の付勢力はなくなる。そして、連結点Cが基準線Sより上方に位置するとき、ガススプリング90は、回動部材71に上方に回転する向きの付勢力すなわちクラッチレバー48を切り状態側に回動させる付勢力を付与する。他方、連結点Cが基準線Sよりも下方に位置するとき、ガススプリング90は、回動部材71に下方に回転する向きの付勢力すなわちクラッチレバー48を入り状態側に回動させる付勢力を付与する。つまり、ガススプリング90の作用ロッド92の先端部92aすなわち連結点Cは、基準線S上に位置するとき、いわゆる思案点位置P1に位置する状態である。
【0045】
このように、本実施形態のコンバインAでは、クラッチ切り状態での連結点Cの位置と、クラッチ入り状態での連結点C位置との間に、連結点Cの思案点位置P1が位置するように設定されている。
【0046】
そして、さらに詳細に説明すれば、連結点Cの思案点位置P1は、テンションアーム55からクラッチレバー48に加わる負荷に対応して必要になるクラッチレバー48の操作力が最大になる状態での連結点Cの位置よりも、クラッチ切り状態(クラッチ入り操作作開始状態)での連結点Cの位置寄りの位置に設定されている。
【0047】
ところで、本実施形態のコンバインAでは、インナーワイヤ75aによってテンションプーリ54を引張って伝動ベルト53にテンションを付与しているので、クラッチレバー48を切り状態の位置から入り状態の位置に回動させるに連れて、クラッチレバー48操作に必要な操作力は大きくなる。ただし、ロッド81が支点越え位置に位置する状態で、操作力が必要なくなる。すなわち操作力はゼロになる。つまり、クラッチ切り状態のクラッチレバー48の位置と、支点越え時のクラッチレバー48の位置との間に、テンションアーム55からクラッチレバー48に加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる位置がある。本実施形態では、図3に示されるように、支持体61の先端部が回動位置P2に位置する状態で、最大になるようになっており、連結点Cの思案点位置P1は、テンションアーム55からクラッチレバー48に加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点Cの位置よりも、クラッチ切り状態での連結点Cの位置寄りの位置している。
【0048】
そして、連結点Cの思案点位置P1は、クラッチ切り状態に対応する連結点Cの位置よりも、テンションアーム55からクラッチレバー48に加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点Cの位置寄りの位置になっている。
【0049】
また、図5に示されるように、クラッチレバー48は、支持体61に、前後方向に伸延する回転軸60回りに回動自在に取り付けられている。また、支持体61の左側には、支持体61に隣接する状態で、図示しない刈取クラッチのオン・オフに用いられる刈取クラッチスイッチ95が設置されている。そして、脱穀クラッチが入り状態の位置であるクラッチレバー48を左側に倒すと、支持体61が刈取クラッチスイッチ95に当接して当該スイッチ95をオンするようになっている。刈取クラッチスイッチ95がオンになると、刈取クラッチが入り状態になり、刈取部3が作動する。また、クラッチレバー48の基端部48aが垂直上方に伸延状態の位置に戻すと、支持体61が刈取クラッチスイッチ95から離れ、刈取クラッチが切り状態になり、刈取部3が停止するようになっている。
【0050】
つまり、脱穀クラッチが入りの状態であって、クラッチレバーの基端部が鉛直上方に延在する状態のクラッチレバーは、刈取クラッチの入り切りの観点でいえば、刈取クラッチ切り状態であり、刈取クラッチ切り位置に位置していることになる。そして、クラッチレバーの基端部が左側に倒された状態のクラッチレバーは、刈取クラッチ入り状態であり、刈取クラッチ入り位置に位置しているということになる。
【0051】
次に、このようなクラッチ装置による脱穀クラッチ50の入り切り操作を説明する。
【0052】
クラッチレバー48が切り状態の位置に位置する状態では、テンションプーリは伝動ベルトにテンションを付与しておらず、クラッチは切り状態になっている。
【0053】
クラッチを入り状態にする場合は、切り状態のクラッチレバー48を前方に回動させる。
【0054】
クラッチレバー48を前方に回動させると、回動部材71が回転し、作用ロッド92の先端部92aすなわち連結点Cが思案点位置P1に達する。連結点Cが思案点位置P1に達するまでは、ガススプリング90の付勢力は、クラッチレバー48を切り状態の位置に戻す向きに作用する。したがって、ガススプリング90を設置しない状態よりも、操作に必要な力はむしろ大きくなるが、最大操作力よりも小さいものである。むしろ、操作に必要な操作力の平準化が図られることとなり、操作性が向上する。
【0055】
さらに、クラッチレバー48を回動させると、ガススプリング90の付勢力が、クラッチレバー48を入り状態側に移動させる向きに作用する。したがって、ガススプリング90を設置していない状態と比較して、操作に必要な力は小さくてよくなり、操作性が向上する。
【0056】
さらに、クラッチレバー48を回動させると、必要操作力が最大になる。この状態では、比較的大きな操作力が必要であるが、この位置においても依然としてガススプリング90の付勢力によるアシストがあることから、ガススプリング90がない状態と比較して小さい操作力でクラッチレバー48を回動させることができ、操作性が向上している。
【0057】
さらに、クラッチレバー48を回動させると、支持体61の先端部61aが支点越えの位置に達し操作力が要らなくなる。そして、支持体61の先端部61aが支点越えすると、その後、クラッチレバー48は、自動的にクラッチ入り状態の位置に移動する。この位置では、クラッチレバー48の動きがインナーワイヤ75aを介してテンションアーム55に伝達され、これによりテンションプーリ54が移動して、伝動ベルト53にテンションが付与され、駆動プーリ51の回転が伝動ベルト53を介して従動プーリ52に伝達される。
【0058】
反対に、脱穀クラッチ50を入り状態から切り状態にする場合は、入り状態位置にあるクラッチレバー48を後方に回動させる。すると、まず、支持体61の先端部61aが支点越え位置になる。この位置までは、クラッチレバー48をクラッチ切り状態の位置に戻す向きの操作力が必要であるが、この支点越えの位置に達すると操作力が必要なくなる。そして、この位置を越えると、クラッチレバー48は自動的にクラッチ切り状態の位置に移動する。
【0059】
ただし、その途中で、連結点Cが思案点位置P1に達する。この状態を越えて、クラッチレバー48が切り状態側に移動する場合であって、クラッチレバー48の動きが早い場合、回動部材71は、ガススプリング90から、クラッチ入り状態の位置に戻す付勢力が付与される。したがって、クラッチレバー48は、思案点位置P1通過後、ゆっくりとクラッチ切り状態の位置に移動する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る実施形態のコンバインを示す側面図である。
【図2】図1に示されるコンバインを示す平面図である。
【図3】クラッチ装置の構成を示す説明側面図である。
【図4】クラッチ装置の構成を示す説明平面図である。
【図5】クラッチ装置の構成を示す説明正面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 機体
2 走行部(走行装置)
3 刈取部
6 脱穀部
7 操縦部
8 穀粒貯留部
9 穀粒搬出部
10 原動機部
47 操作パネル
48 脱穀クラッチレバー(クラッチレバー)
51 駆動プーリ
52 従動プーリ
53 伝動ベルト
54 テンションプーリ
55 テンションアーム
65 動力伝達部
71 回動部材(動力伝達部材)
90 ガススプリング(付勢手段)
A コンバイン
C 連結点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動プーリから従動プーリに動力を伝達する伝動ベルトを緊張弛緩させるテンションプーリと、回転自在に設置されており、前記テンションプーリを支持するテンションアームと、当該テンションアームを回動させるクラッチレバーと、操作時のクラッチレバーの動きをテンションアームに伝達して当該テンションアームを回動させると共にテンションプーリを移動させる動力伝達部とを備えており、クラッチレバー操作によってテンションプーリを移動させて伝動ベルトを緊張弛緩させることにより、クラッチの入り切りを行なうようになっているコンバインのクラッチ装置であって、
前記動力伝達部は、前記クラッチレバーの動きに伴って移動する動力伝達部材を備えており、
クラッチ入り操作およびクラッチ切り操作のうち、クラッチレバー操作に必要な操作力がより大きいクラッチ重操作の際の前記動力伝達部材の移動する向きと同じ向きの付勢力を当該動力伝達部材に付与する付勢手段を、前記動力伝達部に備えたことを特徴とするコンバインのクラッチ装置。
【請求項2】
前記動力伝達部材は、回動する部材であり、
前記付勢手段は、コンバインの機体に回転自在に取り付けられた付勢手段本体と、当該付勢手段本体に対して出没自在に取り付けられており、動力伝達部材に付勢力を付与する作用部とを備えるものであり、
当該作用部は、動力伝達部材の回転軸位置から離れた、回動する連結点に連結されており、
前記付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置は、前記クラッチ重操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置よりも、クラッチ重負荷操作開始状態での連結点の位置寄りの位置である請求項1に記載のコンバインのクラッチ装置。
【請求項3】
前記付勢手段が思案点位置である状態での連結点の位置は、クラッチ重負荷操作開始状態での連結点の位置よりも、前記クラッチ重操作を行なったときにテンションアームからクラッチレバーに加わる負荷に対応して必要になる操作力が最大になる状態での連結点の位置寄りの位置であり、
前記付勢手段はガススプリングである請求項2に記載のコンバインのクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−255473(P2007−255473A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77853(P2006−77853)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】