説明

コンバイン

【課題】車速の変速範囲を圃場条件や作物条件に適した範囲に制限し、刈取作業におけるコンバインの操作性および刈取作業の能率を高める。
【解決手段】走行用静油圧式無段変速装置(12)の油圧モータ(16)の斜板であるモータ斜板(17)の傾斜角度を低速走行側と高速走行側とに切替可能な構成とし、該モータ斜板(17)の傾斜角度を低速走行側に切り替えた状態で、変速レバー(13)を最高速位置に操作した場合の最高車速を変更設定する最高車速設定ダイヤル(51)を設ける。また、この最高車速の設定を、モータ斜板(17)の傾斜角度が低速走行側に切り替えられた状態でのみ有効とし、最高車速を設定した後にモータ斜板(17)の傾斜角度が低速走行側から高速走行側に切り替えられた場合には、最高車速設定ダイヤル(51)による最高車速の設定を無効にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、走行用静油圧式無段変速装置で駆動される走行装置の上側に、脱穀装置とグレンタンクを左右に並べて設け、グレンタンクの前側に操縦部を設け、操縦部および脱穀装置の前側に刈取装置を設け、走行用静油圧式無段変速装置の油圧ポンプの斜板であるポンプ斜板の傾斜角度を変更する変速レバーを設けたコンバインが知られている。
【0003】
そして、特許文献1に開示されているように、走行用静油圧式無段変速装置で駆動される走行装置を有する作業車両において、変速レバーを最高速位置に操作した場合の最高車速を設定する最高車速設定ダイヤルを設ける技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−230518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高速での圃場間移動と低速での刈取作業とを反復するコンバインでは、圃場間移動時を基準として最高車速を設定すると、刈取作業時に車速が増速しすぎ、圃場面の凹凸に対して刈取装置の高さ調節が間に合わずに刈取装置が圃場面に突っ込んで破損したり、倒伏した穀稈を引起装置で引き起こせずに刈り残しを生じたり、刈取装置を穀稈列に沿わせて操向する操作が困難となる等の問題が起こる。
【0006】
一方、刈取作業時を基準として最高車速を設定すると、路上走行に適した高速走行ができず、圃場間移動に時間を要して作業能率が低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するために、次のような技術的手段を講じる。
即ち、請求項1記載の発明は、走行用静油圧式無段変速装置(12)で駆動される走行装置(3)の上側に脱穀装置(2)とグレンタンク(5)を左右に並べて設け、該グレンタンク(5)の前側に操縦部(6)を設け、該操縦部(6)および脱穀装置(2)の前側に刈取装置(4)を設け、前記走行用静油圧式無段変速装置(12)の油圧ポンプ(14)の斜板であるポンプ斜板(15)の傾斜角度を変更する変速レバー(13)を設けたコンバインにおいて、前記走行用静油圧式無段変速装置(12)の油圧モータ(16)の斜板であるモータ斜板(17)の傾斜角度を低速走行側と高速走行側とに切替可能な構成とし、該モータ斜板(17)の傾斜角度を低速走行側に切り替えた状態で、前記変速レバー(13)を最高速位置に操作した場合の最高車速を変更設定する最高車速設定ダイヤル(51)を設けたことを特徴とするコンバインとしたものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記最高車速設定ダイヤル(51)による最高車速の設定を、前記モータ斜板(17)の傾斜角度が低速走行側に切り替えられた状態でのみ有効とし、該最高車速設定ダイヤル(51)で最高車速を設定した後にモータ斜板(17)の傾斜角度が低速走行側から高速走行側に切り替えられた場合には、前記最高車速設定ダイヤル(51)による最高車速の設定を無効にする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインとしたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によると、最高車速設定ダイヤル(51)の操作により、走行用静油圧式無段変速装置(12)の油圧モータ(16)の斜板であるモータ斜板(17)の傾斜角度を低速走行側に切り替えた状態で、変速レバー(13)を最高速位置に操作した場合の最高車速を変更設定するので、車速の変速範囲を圃場条件や作物条件に適した範囲に制限でき、刈取作業におけるコンバインの操作性および刈取作業の能率を高めることができる。
【0010】
請求項2記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果を奏するうえに、圃場間移動のために走行用静油圧式無段変速装置(12)の油圧モータ(16)のモータ斜板(17)の傾斜角度を高速走行側に切り替えると、上述の刈取作業時の最高車速の設定を無効にするので、この最高車速の設定を手動で解除する操作を省略でき、高速での圃場間移動と低速での刈取作業とを反復するコンバインの操作性および刈取作業の能率を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コンバインの側面図
【図2】コンバインの伝動機構の説明図
【図3】ミッションケース内の伝動機構の説明図
【図4】走行用静油圧式無段変速装置および刈取搬送用静油圧式無段変速装置の油圧回路
【図5】ブロック回路図
【図6】最高車速設定ダイヤルの配置を示す説明図
【図7】車速と変速レバー操作位置の関係を示すグラフ
【図8】車速と刈取駆動速度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1にコンバインの機体構成を示す。
このコンバインは、機体フレーム1の下側にクローラ3Aを備えた走行装置3を設け、機体フレ−ム1の上部左側に脱穀装置2を搭載し、この脱穀装置2の右側に排出オーガ7を備えたグレンタンク5を搭載し、このグレンタンク5の前側に操縦部6を設け、この操縦部6と脱穀装置2の前側に刈取装置4を設けた構成とする。
【0013】
前記刈取装置4は、前側から、分草体8、引起装置8a、刈刃9、搬送装置9Aを備えた構成とする。
前記脱穀装置2の上部外側には、刈取装置4側の搬送装置9Aから搬送されてくる穀稈を脱穀室に供給するフィードチェン10を設け、このフィードチェン10の上側には、フィードチェン10に対向する挟扼杆(図示省略)を設ける。
【0014】
また、このフィードチェン10の始端部内側には、搬送装置9Aからフィードチェン10へ穀稈を受け渡す補助チェン11を設ける。
図2にコンバインの伝動機構を示す。
【0015】
操縦部6の下部に搭載したエンジン22の出力軸22Aに刈取脱穀用出力プーリー25Bを固定し、この刈取脱穀用出力プーリー25Bと、中間軸29の一端に固定した中間プーリー28に、刈取脱穀クラッチ44を備えた伝動ベルト44Aを掛け回す。そして、中間軸29の他端に固定した中間歯車30とギヤケース50内の中間伝動軸31に固定した中間歯車30aを噛み合わせ、中間伝動軸31の一端に固定した傘歯車32と脱穀伝動軸33の一端に固定した傘歯車32Aを噛み合わせる。更に、脱穀伝動軸33の他端に固定した中間プーリー33Aからベルト伝動機構33Bを介して、扱胴34と処理胴35を回転駆動する構成とする。
【0016】
また、前記中間伝動軸31の他端に固定した中間歯車36と、中間出力軸41の一端に固定した中間歯車36Aを噛み合わせ、該中間出力軸41の他端部に固定した出力プーリー41Aから、ベルト伝動機構41Bを介して、唐箕42をはじめとする選別部42Bと、フィードチェン10の後部を掛け回したスプロケット43を駆動する構成とする。
【0017】
そして、前記ギヤケース50の操縦部6側の面に刈取搬送用静油圧式無段変速装置21を取り付け、該刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の入力軸37に固定した入力ギヤ37Aを、前記中間歯車36Aに噛み合わせる。また、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の出力軸38とスプラインで接続される伝動軸38Aから、ギヤ伝動機構38B,38Cを介して、刈取出力プーリー45を固定した刈取出力軸39と、補助チェン11を掛け回すスプロケット40Aを固定した出力軸40を分岐伝動する構成とする。前記刈取出力プーリー45と刈取装置4の入力軸46Aの外側端部に固定した刈取入力プーリー46に伝動ベルト47を掛け回す。
【0018】
一方、前記エンジン22の出力軸22Aに固定した走行用出力プーリー25Aと、走行用のミッションケース18の上部に取り付けた走行用静油圧式無段変速装置12の入力軸12Aに固定した入力プーリー26に、伝動ベルト12Bを掛け回す。
【0019】
図3にミッションケース18内の伝動機構を示す。
ミッションケース18の上部に、走行用静油圧式無段変速装置12の油圧モータ16の出力で駆動される入力軸65を設け、この入力軸65に固定した出力歯車66を、中間軸66Aに固定した中間ギヤ66Bに噛み合わせる。そして、中間軸66Aに固定した中間ギヤ66Cを、サイドクラッチ軸67の中央部に固定した受動歯車68に噛み合わせる。この受動歯車68の左右両側には、左右のサイドクラッチ69,69を設ける。
【0020】
そして、前記受動歯車68を伝動軸71の中央部に固定した第二受動歯車72に噛み合わせ、この第二受動歯車72の左右両側には、左右の遊星歯車機構70,70を左右対称に設ける。この遊星歯車機構70は、有効直径の異なる二つの歯部を備えた複数の遊星歯車74を、円筒形状のキャリア73の円周方向に、間隔をおいて夫々軸受し、この遊星歯車74の小径歯部と中間遊星歯車76を噛み合わせ、この中間遊星歯車76と駆動軸71に回転自在に軸受した出力歯車75の小径歯部を噛み合わせ、前記遊星歯車74の大径歯部を前記伝動軸71に固定した太陽歯車71Aに噛み合わせた構成とする。また、前記キャリア73とミッションケース18の間には、キャリア73の回転を制動する多板式のブレーキ77を設ける。
【0021】
そして、前記出力歯車75の大径歯部を、中間軸75Aに回転自在に軸受した中間歯車75Bの大径歯部に噛み合わせ、この中間歯車75Bの小径歯部を、減速軸75Cの一端に固定した大径歯車75Dに噛み合わせる。更に、前記減速軸75Cの他端部に固定した小径歯車75Eを、車軸76Fの一端部に固定した車軸歯車76Gに噛み合わせる。この車軸76Fの他端部に固定した駆動スプロケット76Hにクローラ3Aの前部を掛け回して駆動する構成とする。71Bは、前記駆動軸71を制動する駐車ブレーキである。
【0022】
以上の構成により、左右のサイドクラッチ69を接続した状態で直進走行し、操向レバー6Aを傾倒操作すると、まず、この傾倒操作側のサイドクラッチ69が遮断され、操向レバー6Aの傾倒操作角度が大きくなるほど、旋回内側の車軸76Fの回転速度が低下し、キャリア73が停止した状態では、旋回外側と旋回内側の車軸76Fが互いに逆向きに回転してスピンターンする。
【0023】
尚、前記中間軸66Aの端部をミッションケース18の外部へ突出させ、この中間軸66Aの突出端部に、角軸またはスプライン軸に形成した回転操作部66Dを設ける。これによって、前記走行用静油圧式無段変速装置12の油圧モータ16の出力軸と前記入力軸65をスプライン嵌合によって接続する構成とした場合には、走行用静油圧式無段変速装置12をミッションケース18に取り付ける際に、回転操作部66を回転操作することで、入力軸65のスプラインの位相と、走行用静油圧式無段変速装置12側の油圧モータ16の出力軸のスプラインの位相とを容易に合わせることができる。この結果、走行用静油圧式無段変速装置12の取り付け作業を容易に行なうことができる。
【0024】
図4に走行用静油圧式無段変速装置12および刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の油圧回路を示す。
前記走行用静油圧式無段変速装置12は、油圧ポンプ14の斜板であるポンプ斜板15の傾斜角度を変更することで、この油圧ポンプ14から油圧モータ16への送油量を変更し、この油圧モータ16の出力軸の回転速度を無段階に変速する構成とする。そして、このポンプ斜板15の傾斜角度を変更する複動シリンダ95を設け、この複動シリンダ95へ作動油を供給するバルブ94を設け、このバルブ94の開度を無段階に調節するソレノイド93を設ける。また、油圧ポンプ14の入力軸12Aと同軸で駆動されるチャージポンプ85を設け、このチャージポンプ85の吐き出し油を、油圧ポンプ14と油圧モータ16の間を連通する閉回路12Tに補給する構成とする。
【0025】
また、この油圧モータ16の斜板であるモータ斜板17の傾斜角度を二段階に切り替える油圧シリンダ19を設け、この油圧シリンダへ作動油を供給するバルブ97を設け、このバルブ97を切替作動させるソレノイド96を設ける。このモータ斜板17の傾斜角度の切り替えによって、この油圧モータ16の出力軸の回転速度を低速走行側と高速走行側とに切り替え可能とする。
【0026】
そして、前記刈取搬送用静油圧式無段変速装置21内の閉回路には、前記走行用静油圧式無段変速装置12のチャージポンプ85から送られる作動油を、分流弁92Aで分流して供給する構成とする。このように、走行用静油圧式無段変速装置12と刈取搬送用静油圧式無段変速装置21でチャージポンプ85を共用するので、製造コストを低減して安価に提供することができる。尚、前記分流弁92Aの送油方向上手にはフィルタ92を設ける。また、この刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の油圧ポンプ89と油圧モータ90の間を連通させる閉回路において、高圧側の油路と低圧側の油路を短絡させる油路を設け、この油路にチェックバルブ91を設ける。これによって、油圧ポンプ89からの作動油の吐き出し方向が逆向きになった場合に、この作動油を油圧モータ90へ送油することがなくなり、油圧モータ90の逆転を防止することができる。この結果、刈取装置4の逆転駆動を防止して、刈取装置4の破損を防止することができる。また、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21から刈取装置4への伝動経路中にワンウェイクラッチを設ける必要が無く、製造コストを低減して安価に提供することができる。
【0027】
図5にブロック回路図を示す。
メインコントローラ55とエンジンコントローラ57と静油圧式無段変速装置コントローラ56の間を通信可能に接続して車内LANを構成する。
【0028】
前記メインコントローラ55の入力側には、操縦部6の側部に設けた変速レバー13の前後操作角度を検出するポテンショメータ13Aと、操縦部6の前部に設けた操向レバー6Aの左右操作角度を検出するポテンショメータ6Bと、車速を検出する車速センサー58と、走行用静油圧式無段変速装置12の油圧モータ16のモータ斜板17を高速走行側と低速走行側に切り替える副変速スイッチ17Bと、左右のクローラを互いに逆転させて旋回するスピンターンを実行させる際に操作するスピンターンスイッチ61と、変速レバー13を最高速位置に操作した場合の最高車速を変更設定する最高車速設定ダイヤル51と、走行用静油圧式無段変速装置12の油圧ポンプ14のポンプ斜板15の傾斜角度を検出する斜板角度センサ15Sと、駐車ブレーキ71Bを入り操作する駐車ブレーキペダル(図示省略)の踏み込み角度を検出する駐車ブレーキセンサ71Sを接続する。
【0029】
前記最高車速設定ダイヤル51は、図6に示すように、操縦部6の前部左側に配置した前上がり傾斜姿勢のパネル51Aの下部に設ける。このパネル51Aには、自動制御機能の入り切り操作用の多数のスイッチ(図示省略)を集中配置している。
【0030】
また、メインコントローラ55の出力側には、左右のサイドクラッチ69を遮断操作する左右のサイドクラッチソレノイド69L,69Rと、左右のブレーキ77への送油圧を制御する比例減圧弁を作動させる左右のブレーキソレノイド77L,77Rと、モータ斜板17の傾斜角度を切り替えるバルブ97のソレノイド96と、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の油圧ポンプ89の斜板角度を変更操作する変速モータ21Aを接続する。また、前記副変速スイッチ17Bを、刈取クラッチまたは脱穀クラッチが接続操作されたことを検出するスイッチに代えてもよい。これにより、刈取クラッチまたは脱穀クラッチが接続操作された場合に、走行用静油圧式無段変速装置12の油圧モータ16のモータ斜板17の傾斜角度が、高速走行側から低速走行側に自動的に切り変わり、刈取脱穀作業に適した低速走行状態となる。
【0031】
また、前記静油圧式無段変速装置コントローラ56の出力側には、ポンプ斜板15の傾斜角度を変更するバルブ94を切替作動させるソレノイド93を接続する。尚、前記エンジンコントローラ57に接続されたセンサー等の機器は図示省略している。
【0032】
以上の回路構成により、変速レバー13の前後操作角度をポテンショメータ13Aによって検出し、メインコントローラ55を介して静油圧式無段変速装置コントローラ56からソレノイド93へ出力がなされる。このソレノイド93への出力によってバルブ94が切り替わり、複動シリンダ95の作動によってポンプ斜板15の角度を無段階に変更し、油圧ポンプ14から油圧モータ16への送油量が増加して、この油圧モータ16の出力回転速度が増速する。また、モータ側の変速は、副変速スイッチ17Bの操作に基づき、メインコントローラ55からソレノイド96への出力によってバルブ97を切り替え、油圧シリンダ19の作動によってモータ斜板17の傾斜角度を低速走行側と高速走行側との二位置に切り替えることによって行われる。このように、走行用静油圧式無段変速装置12の油圧モータ16を二段階に変速することで副変速機能を奏するものとし、ミッションケース18内の機械的な副変速機構を省略している。
【0033】
しかして、前記最高車速設定ダイヤル51は、走行用静油圧式無段変速装置12の油圧モータ16のモータ斜板17の傾斜角度を低速走行側に切り替えた状態で、変速レバー13を最高速位置に操作した際の、油圧ポンプ14のポンプ斜板15の最大傾斜角度を無段階に変更設定するものである。
【0034】
即ち、図7に示すグラフのように、縦軸に変速レバー13の前進側の操作位置をとり、横軸に車速をとって、変速レバー13の操作位置と車速との比例関係を示す比例ラインを描いた場合、最高車速設定ダイヤル51の回転操作によって、勾配の異なる高速側の比例ラインEと低速側の比例ラインFの間で、比例ラインの勾配が無段階に変更される。具体的には、変速レバー13の単位操作量におけるポンプ斜板15の傾斜角度の変化量が、最高車速設定ダイヤル51の回転操作によって変更されるよう、ポテンショメータ13Aの検出値と斜板角度センサ15Sの検出値との関係を、メインコントローラ55に予め設定している。
【0035】
これによって、例えば、比例ラインEにおいて変速レバー13を最高速位置に操作した場合の車速V1は、比例ラインFにおいて変速レバー13を最高位置に操作した場合の車速V2よりも高くなる。
【0036】
通常、移動状態では油圧モータ16のモータ斜板17の傾斜角度を高速走行側に切り替えており、刈取作業に移行するときには、このモータ斜板17の傾斜角度を低速走行側に切り替える。このように、刈取作業を行うためにモータ斜板17の傾斜角度を低速走行側に切り替えれば、車速の変速範囲を最高車速設定ダイヤル51で設定した圃場条件や作物条件に適した範囲に制限でき、刈取作業におけるコンバインの操作性および刈取作業の能率を高めることができる。
【0037】
また、この最高車速設定ダイヤル51による最高速度の設定変更(調節)は油圧モータ16のモータ斜板17の傾斜角度が低速走行側に切り替えられた状態でのみ有効とする。そして、最高車速設定ダイヤル51で最高車速を設定した後にモータ斜板17の傾斜角度が低速走行側から高速走行側に切り替えられた場合には、前回の最高車速設定ダイヤル51による最高車速の設定を無効にし、最高車速の制限を解除する構成とする。
【0038】
即ち、低速走行での刈取作業が終了したとき、圃場間移動のために油圧モータ16のモータ斜板17の傾斜角度を高速走行側に切り替えれば、最高車速の制限が解除されて高速走行が可能になるので、最高車速設定ダイヤル51により行っていた最高車速の設定を手動で解除する操作を省略でき、高速での圃場間移動と低速での刈取作業とを反復するコンバインの操作性および刈取作業の能率を更に高めることができる。
【0039】
しかして、車速に同調して刈取搬送用静油圧式無段変速装置21が変速作動する構成とする。
即ち、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21は、変速レバー13の操作位置を検出するポテンショメータ13Aの検出結果、または車速センサ58の検出結果に応じて変速制御する構成とする。
【0040】
例えば、図8のように、走行速度に対して所定の比率で刈取駆動速度が増速する標準作業ラインAと、この標準作業ラインAよりも急勾配で刈取駆動速度が増速する倒伏作業ラインBを設定する。Dはモータ斜板17の傾斜角度を低速走行側に切り替えた状態での最高速度、Cはモータ斜板17の傾斜角度を高速走行側に切り替えた状態での最高速度を示す。
【0041】
しかして、脱穀装置2とフィードチェン10とをエンジン22からの一定駆動回転で駆動して脱穀作業を安定させつつ、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21で駆動される刈取装置4と補助チェン11の駆動速度を走行速度に同調させることで、刈取装置4からフィードチェン10への穀稈の引継を円滑かつ確実にする。
【0042】
また、走行用静油圧式無段変速装置12を停止させた状態で、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21を駆動すると、走行停止状態で刈取装置4と補助チェン11が駆動する。これによって、補助チェン11およびフィードチェン10へ手刈り穀稈を供給でき、刈取脱穀作業の能率を向上させることができる。
【0043】
また、駐車ブレーキペダルが踏み込み操作されると、駐車ブレーキセンサ71Sで検出される踏み込み角度に応じて、メインコントローラ55から静油圧式無段変速装置コントローラ56を介してソレノイド93へ出力がなされ、このソレノイド93への出力によってバルブ94が切り替わり、複動シリンダ95の作動によってポンプ斜板15の傾斜角度を低速側へ変更し、油圧ポンプ14から油圧モータ16への送油量が減少して、この油圧モータ16の出力回転速度が減速する。これによって、駐車ブレーキペダルの踏み込み角度に応じて車速が減速し、停車状態に至る。駐車ブレーキペダルと駐車ブレーキ71Bの間は、機械式の連繋機構を介して接続しており、駐車ブレーキペダルの踏み込み途中で上述の油圧モータ16の出力回転が停止し、この後に駐車ブレーキ71Bが完全に入り状態となるよう、タイミングを設定している。これによって、駐車ブレーキペダルを踏み込んで停車する場合に、衝撃を緩和して円滑に停車させることができる。
【符号の説明】
【0044】
2 脱穀装置
3 走行装置
4 刈取装置
5 グレンタンク
6 操縦部
12 走行用静油圧式無段変速装置
13 変速レバー
14 油圧ポンプ
15 ポンプ斜板
16 油圧モータ
17 モータ斜板
51 最高車速設定ダイヤル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用静油圧式無段変速装置(12)で駆動される走行装置(3)の上側に脱穀装置(2)とグレンタンク(5)を左右に並べて設け、該グレンタンク(5)の前側に操縦部(6)を設け、該操縦部(6)および脱穀装置(2)の前側に刈取装置(4)を設け、前記走行用静油圧式無段変速装置(12)の油圧ポンプ(14)の斜板であるポンプ斜板(15)の傾斜角度を変更する変速レバー(13)を設けたコンバインにおいて、前記走行用静油圧式無段変速装置(12)の油圧モータ(16)の斜板であるモータ斜板(17)の傾斜角度を低速走行側と高速走行側とに切替可能な構成とし、該モータ斜板(17)の傾斜角度を低速走行側に切り替えた状態で、前記変速レバー(13)を最高速位置に操作した場合の最高車速を変更設定する最高車速設定ダイヤル(51)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記最高車速設定ダイヤル(51)による最高車速の設定を、前記モータ斜板(17)の傾斜角度が低速走行側に切り替えられた状態でのみ有効とし、該最高車速設定ダイヤル(51)で最高車速を設定した後にモータ斜板(17)の傾斜角度が低速走行側から高速走行側に切り替えられた場合には、前記最高車速設定ダイヤル(51)による最高車速の設定を無効にする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−110020(P2011−110020A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271939(P2009−271939)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】