ゴキブリの駆除方法
【課題】少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続するゴキブリの駆除方法を提供する。
【解決手段】ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法であって、前記トータルリリース型製剤によりハイドロプレンと殺虫剤を所定空間に複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から起算して20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上するゴキブリの駆除方法。
【解決手段】ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法であって、前記トータルリリース型製剤によりハイドロプレンと殺虫剤を所定空間に複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から起算して20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上するゴキブリの駆除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴキブリの駆除方法に関するものであり、詳しくは、ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴキブリの駆除方法には、ピレスロイドおよびカーバメイト等を有効成分とするトータルリリース型製剤が使用されてきた(特許文献1〜3)。しかしながら、トータルリリース型製剤による駆除方法では、すべての薬剤を一度に処理するため、駆除効果が持続しにくいという問題があった。
【0003】
また、ピレスロイドおよびカーバメイト等を長期間使用すると、薬剤抵抗性が発達してくるという問題があった。また、薬剤抵抗性の発達により、過剰に薬剤を使用し、さらなる薬剤抵抗性の発達を助長する恐れがあるなど、安全性および経済性の問題があった。
【0004】
一方、特許文献4には、昆虫成長阻害剤としてハイドロプレンを用いた製剤が開示されている。しかし、特許文献4では、駆除効果を得るために、継続して薬剤を加熱蒸散させる必要があり、安全性および経済性の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−89611号公報
【特許文献2】特開平11−92312号公報
【特許文献3】特公平1−21802号公報
【特許文献4】特開平11−322508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記課題を鑑みて、ゴキブリに対して薬剤抵抗性を発達させることなく、簡便な方法により、長期間にわたりゴキブリの駆除効果を発揮しうる駆除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ハイドロプレンと殺虫剤とを併用したトータルリリース型製剤をゴキブリの存在する空間内で複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から所定期間が経過するまでの間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法であって、前記トータルリリース型製剤によりハイドロプレンと殺虫剤を所定空間に複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から起算して20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上するゴキブリの駆除方法。
2.次回以降の処理を少なくとも2回以上する場合、初回の処理時から起算して20〜50日目に最終回の処理を行い、初回の処理と最終回の処理との間において等間隔で少なくとも1回以上の処理を行うゴキブリの駆除方法。
3.ゴキブリがチャバネゴキブリである前項1または2に記載のゴキブリの駆除方法。
4.処理空間におけるハイドロプレンの気中処理量が、日本間6〜8畳の空間に300〜500mgである前項1〜3のいずれか1項に記載のゴキブリの駆除方法。
【発明の効果】
【0009】
ハイドロプレンは、ゴキブリの終齢幼虫に対する成長阻害効果を有しており、終齢幼虫の幼若ホルモンとして作用し、幼虫の成虫化を妨げることができる。しかし、ハイドロプレンは、残存率が低いという問題点がある。したがって特許文献4に記載のように、当業者にとってハイドロプレンの薬効を持続させるには、例えばゴキブリのライフサイクル以上の長期間にわたってこれを散布し続ける強い動機付けがある。
【0010】
本発明の方法は、ハイドロプレンと殺虫剤とを併用し、これらをゴキブリの存在する空間に一度に全量散布し、初回の処理時から所定期間が経過するまでの間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上行うことを特徴としている。このことにより、ハイドロプレンを連続的に散布せずともゴキブリを長期間にわたり効率的に駆除できるということは、予想外の効果である。
【0011】
このように本発明によれば、少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続するゴキブリの駆除方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における加熱蒸散システムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【図2】本発明における全量噴射エアゾールシステムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【図3】参考例1においてハイドロプレンの残存率について調べた結果を示すグラフである。
【図4】実施例1におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図5】比較例1におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図6】比較例2におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図7】実施例2におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図8】実施例3におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図9】実施例4におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図10】比較例3におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図11】比較例4におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、ハイドロプレンと殺虫剤とを併用してトータルリリース型製剤とし、このトータルリリース型製剤を用いてゴキブリの存在する所定空間内で、ハイドロプレンと殺虫剤を複数回処理し、初回の処理(以下、初回処理ともいう)以後、初回の処理時から20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上行うことを特徴としている。
【0014】
(初回処理)
本発明における初回処理は、ゴキブリの存在する所定空間内に、ハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤とを併用してなるトータルリリース型製剤を設置し、前記空間内に前記ハイドロプレンおよび前記殺虫剤を処理する工程である。
【0015】
ハイドロプレンとは、化学名エチル(2E,4E)−3,7,11−トリメチル−2,4−ドデカジエノエートからなる公知の化合物である。
【0016】
ハイドロプレン以外の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、ピレトリン、ビフェントリン、アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、ペルメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、プラレトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、イミプロトリン、プロフルトリン、エンペントリンおよびエトフェンプロックス等のピレスロイド系化合物;プロポクスルおよびカルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;ジノテフランおよびイミダクロプリド等のネオニコチノイド等;フィットンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、ベンジルアルコールおよび丁子油等の精油類;IBTA、IBTE、四級アンモニウム塩およびサリチル酸ベンジル等の殺虫・殺ダニ成分などが挙げられる。中でも、ペルメトリン、メトキサジアゾン、プロポクスルおよびシフェノトリンが好ましい。
【0017】
本明細書において、「トータルリリース型製剤」とは、ハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤とからなる薬剤を一回の散布ですべて使用するタイプの製剤を意味する。例えば、加熱蒸散システムおよび全量噴射エアゾールシステムが挙げられる。加熱蒸散システムとしては、例えば、燻蒸および燻煙システムが挙げられる。
【0018】
一回の散布時間は、30秒〜20分間が好ましい。例えば、燻蒸システムの場合、一回の散布時間は、5〜20分間が好ましい。また、全量噴射エアゾールシステムの場合、一回の散布時間は、30秒〜5分間が好ましい。
【0019】
前記製剤に代えて、ピエゾ式霧化システム等の超音波霧化システムおよびULV(Ultra Low Volume:高濃度微量散布)システムを用いてもよい。
【0020】
以下、加熱蒸散システムおよび全量噴射エアゾールシステムに利用される形態について説明するが、本発明は下記形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明における加熱蒸散システムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【0022】
図1に断面図にて示すように、加熱蒸散装置1は、有底円筒状の外容器2の内部に、円筒状で底部が略中空半球状の内容器4が配置された二重容器構造を有する。外容器2の底部には多数の通水孔が形成されており、通水孔は通水性を有する部材、例えば不織布シート3で塞がれている。
【0023】
外容器2と内容器4の周壁との間の空間、及び不織布シート3と内容器4の底面との間の空間には酸化カルシウムからなる加水発熱剤Aが充填されている。また、内容器4には所定濃度のハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤を有効成分として含む薬剤Bが収容されており、その上部開口部が複数の貫通孔8を有する樹脂フィルム7で覆われている。更に、外容器2と内容器4との間の上部開口は蓋部材6で塞がれている。
【0024】
このように構成される加熱蒸散装置1を用いるには、水Wを貯水した容器10に加熱蒸散装置1ごと載置すればよい。それにより、水Wが不織布シート3を通じて外容器2の内部に浸透して加水発熱剤Aと接触し、発熱が始まる。そして、加水発熱剤Aが薬剤Bの蒸散温度に達すると、薬剤Bが樹脂フィルム7の貫通孔8を通じて外部に蒸散する。従って、使用者は、薬剤Bの蒸散温度に達するまでの時間内に退避行動をとることが出来る。
【0025】
尚、加水発熱剤Aとしては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、酸化鉄等が使用でき、これらを適宜選択し混合することにより、薬剤Bの蒸散温度に達するまでの時間を調整することができる。
【0026】
また、加熱蒸散装置1を用いる場合は、薬剤B中に、蒸散を促すために発泡剤を配合することができ、例えば、ニトロセルロース、硝酸アンモニウムおよびアゾジカルボンアミド等を用いることができる。
【0027】
また、安定化剤や結合剤を配合してもよく、安定化剤としては、例えば、酸化亜鉛、アルコール類、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、蔗糖、塩化アルキルジアミノエチルグリシン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩素化イソシアヌール酸および高度サラシ粉等を適量配合できる。
【0028】
結合剤としては、例えば、デンプン、小麦粉およびシルク粉末等の動植物質粉末;ブドウ糖、ショ糖および乳糖等の糖類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロース等のセルロース;ポリエチレングリコール;これらの混合物等を適量配合できる。
【0029】
上記以外の任意成分としては、本発明の効果を妨害するものでなければ特に限定されず、例えば、賦形剤、香料および色素等の添加剤が挙げられる。
【0030】
本発明における薬剤Bは、ハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤を併用し、さらに、有機発泡剤を混合し、必要に応じて安定化剤や結合剤等を用いて造粒した顆粒剤等からなるものである。なお、併用とは、1つの薬剤中にハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤の両方を含有しても、ハイドロプレンを含む薬剤とハイドロプレン以外の殺虫剤を含む薬剤を混合して薬剤Bとしてもよい。薬剤Bは顆粒剤の他に、粉剤、タブレット剤、ペレット剤、ペースト剤、液剤、ゲル剤およびゾル剤として用いてもよい。
【0031】
また、粉剤の場合は、例えば適量の溶剤を加えて液状にするなどの方法により、周囲に飛散しないようにすることが安全性や取り扱いやすい点から好ましく、粘着剤により内容器4の内部の底面に固定するなどの処理を行ってもよい。
【0032】
内容器4の容積(薬剤Bが収容される空間)は、10cm3以上であることが好ましく、35cm3以上であることがより好ましい。また、400cm3以下であることが好ましい。外容器2の容積(加水発熱剤Aが充填される空間)は、80cm3以上であることが好ましく、350cm3以下であることが好ましい。
【0033】
加熱温度は250〜400℃であることが好ましく、このときの加水発熱剤の含有量は40g〜400g程度とすることができる。
【0034】
また、内容器4の底部は、半球状でも、平らでも、湾曲していても、凹凸を有していてもよい。
【0035】
また、外容器2、内容器4の構成部材としては、例えば、上記加熱温度で使用できる耐熱性のプラスチック容器、紙容器、金属容器、セラミック容器およびガラス容器等が挙げられる。
【0036】
図2は、本発明における全量噴射エアゾールシステムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【0037】
図2(断面図)に示すように、全量噴射エアゾール装置20は、エアゾール容器11の上部の目金部12に操作手段21を嵌着した構成になっている。操作手段21は、エアゾール容器11のステムを覆うキャップ部22と、キャップ部22から略水平方向に延びる操作部30とを備えている。キャップ部22は中空の部分と中実の部分とを有し、中実部分の下端にはステム13の上端を挿着するための挿着孔25が穿設されている。
【0038】
このように構成される全量噴射エアゾール装置20を用いるには、操作手段21の操作部30を押し下げればよい。それにより、操作部30と一体のキャップ部22も押し下げられ、ステム13が押し下げられる。そして、このステム13の押し下げ状態を維持するために、押し下げられた状態の操作部30を係止手段により固定する。これにより、ステム13から連続的にエアゾール内容物が噴射され、ノズル31を通じて一気に外部に噴射される。
【0039】
また、全量噴射エアゾール装置20では、所定濃度のハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤を有効成分として含む薬剤は噴射剤とともにエアゾール容器11に収容される。噴射剤としては、ジメチルエーテル、液化石油ガス(LPG)、n−ブタン、イソブタン、プロパン、イソペンタン、n−ペンタン、シクロペンタン、プロピレン、n−ブチレン、イソブチレン、エチルエーテル、炭酸ガス、窒素ガスおよび代替フロンガス(HCFC22、123、124、41b、142b、225、HFC125、134a、143a、152a、12および227aなど)等を使用できる。
【0040】
更に、薬剤は溶媒に溶解してもよく、溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピルおよびエチルエーテルなどのエステル類、並びにn−ヘキサン、ケロシン、灯油、n−ペンタン、イソペンタンおよびシクロペンタンなどの脂肪族炭化水素類等が適当であるが、これに制限されない。これらの配合比は、適宜選択される。
【0041】
なお、本発明におけるトータルリリース型製剤には上記以外にも公知の各種添加剤を使用できる。
【0042】
有効成分の散布量、すなわちゴキブリが存在する空間内でのハイドロプレンの気中処理量は、日本間6〜8畳の空間に10〜2000mgが好ましく、100〜1000mgがより好ましく、300〜500mgが特に好ましい。この範囲内とすることにより効率よくゴキブリ駆除効果を得ることができるからである。
【0043】
初回処理において、トータルリリース型製剤が加熱蒸散システムの製剤の場合、薬剤Bの全体質量が10gの場合は、薬剤B中のハイドロプレンの濃度は、0.1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましく、3〜5質量%が特に好ましい。当該配合比を目安として、薬剤B中のハイドロプレンの濃度を上記の気中処理量となるように調整するとよい。
【0044】
また、トータルリリース型製剤が全量エアゾールシステムの製剤の場合、製剤の全体体積が100mLの場合は、製剤中のハイドロプレン濃度は0.01〜2.0質量/体積%(以下、w/v%と表す)が好ましく、0.1〜1.0w/v%がさらに好ましく、0.3〜0.5w/v%が特に好ましい。この範囲内とすることにより効率よくゴキブリ駆除効果を得ることができるからである。なお、製剤は一般的に10〜40mLの原液と各々90〜60mLの噴射剤が使用される。
【0045】
また、ハイドロプレン以外の殺虫剤の気中処理量は、使用する殺虫剤の種類にもよるが、例えば日本間6〜8畳の空間に10〜3000mgが好ましく、100〜2000mgがより好ましく、200〜1600mgが特に好ましい。この範囲内とすることにより効率よくゴキブリ駆除効果を得ることができるからである。
【0046】
トータルリリース型製剤が加熱蒸散システムの製剤の場合の薬剤B中のハイドロプレン以外の殺虫剤の濃度は、薬剤Bの全体質量が10gの場合は、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がさらに好ましく、2〜16質量%が特に好ましい。
【0047】
本発明のゴキブリの駆除方法は、ゴキブリの駆除効果をさらに高めるという観点から、初回処理を4月〜6月に行うのが好ましい。
【0048】
(次回以降の処理)
本発明における次回以降の処理とは、初回処理後に行う2回目以降の処理を指す。本発明の方法では、前記初回処理後、初回処理時から起算して20〜50日の間に、前記空間内に前記トータルリリース型製剤を設置して前記空間内に前記ハイドロプレンおよび前記殺虫剤を導入する次回以降の処理を少なくとも1回以上行う。
【0049】
前記次回以降の処理に使用するトータルリリース型製剤は、前述の初回処理で説明したトータルリリース型製剤と同じものを使用することができる。また、初回処理に加熱蒸散システムの製剤を使用した場合でも、次回以降の処理に全量エアゾールシステムの製剤を使用しても、その逆でもよく、次回以降の処理に使用するトータルリリース型製剤は適時選択して使用することが出来る。
【0050】
ゴキブリの幼虫は、チャバネゴキブリの場合で孵化後、成虫するまでの期間である約60日の間に約6回脱皮するとされている(25℃の定温下:緒方一喜、田中生男および安富和男著、1989年、日本環境衛生センター発行「害虫駆除シリーズ4 ゴキブリと駆除」、18−21頁)。
【0051】
本発明におけるトータルリリース型製剤に含まれるハイドロプレンは、終齢幼虫、すなわち4回脱皮後ないし5回脱皮後の幼虫の幼若ホルモンとして作用し、幼虫の正常な成虫化を妨げることができる。
【0052】
前記初回処理だけでは、孵化前の卵(卵鞘)の駆除や全ての幼虫や成虫の駆除を完璧に行なうのは通常困難である。
【0053】
そこで本発明の方法では初回処理後、初回処理時から起算して20〜50日の間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上行う。該次回以降の処理により、初回処理で駆除できなかった卵(卵鞘)から孵化した幼虫や残りの成虫等の駆除が可能となる。
【0054】
すなわち、初回処理時から起算して20〜50日の間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上行うことにより、卵(卵鞘)から孵化し、終齢幼虫となった幼虫は、ハイドロプレンにより効率的に駆除される。
【0055】
また、前記初回処理により駆除されなかった成虫が存在する場合、次回以降の処理を行なっても、初回処理後に産卵された孵化前の卵(卵鞘)やそこから孵化した若齢幼虫の駆除ができないことになる。
【0056】
したがって本発明では、次回以降の処理を少なくとも2回以上行うことがより好ましい。この形態によれば、初回処理後に孵化した幼虫の駆除と、初回処理で駆除できなかった成虫の駆除とを両立することにより、駆除率を向上することができる。
【0057】
なお、次回以降の処理を少なくとも2回以上行う場合は、初回処理時から起算して20〜50日目に最終回の処理を行い、初回処理と最終回の処理との間で少なくとも1回以上の処理を等間隔で行うことがさらに好ましい。このことにより、駆除率をより向上することができる。ここで、「等間隔」とは、前後3日を含むものとする。
【0058】
次回以降の処理の回数は、少ない処理回数で効率的にゴキブリ駆除を行える観点から、1〜3回であることが好ましく、1〜2回であることがより好ましい。
【0059】
本発明の駆除方法の対象となるゴキブリとしては、例えば、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリおよびトビイロゴキブリなどのゴキブリ類が挙げられる。中でも、チャバネゴキブリに対して特に有効である。
【0060】
本発明の方法は、高い駆除効果を維持する為の観点から、定期的に繰返し実施することが好ましい。本発明の方法を実施する間隔は、24ヶ月以内とすることが好ましく、10〜14ヶ月とすることがより好ましい。この範囲内とすることにより少ない薬剤処理で長期間に亘り、ゴキブリの高い駆除効果を維持でき、過剰に薬剤を使用することがなく、安全性および経済性の問題が解決されるからである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(加熱蒸散システムの製剤の作製)
図1に記載の加熱蒸散システムの製剤を作製した。すなわち、加熱蒸散装置1は、直径52mmの有底円筒状の外容器2を備え、その底部から側部にかけて酸化カルシウムからなる加水発熱剤Aが65g収容されている。外容器2は、底部に複数の通水部分(通水孔)を有し、通水孔は不織布シート3によって塞がれている。また、外容器2の内部には、内容器4が設けられ、その中に所定の濃度のハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤を含む薬剤Bが収納されている。薬剤Bの組成は、ハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤、α化デンプン2質量%、安定化剤0.1質量%を添加し、アゾジカルボンアミドを適量加えて全体を100質量%とした。内容器4は、円筒状で底部が略中空半球状(直径38mm)を有し、その側壁が外容器2の周壁と同心状に配置されている。
【0063】
加熱蒸散装置1は、水W(22g)が入った容器10に入れ、酸化カルシウムからなる加水発熱剤Aを発熱させ(380℃:測定箇所は内容器4の底部中央)、薬剤Bを蒸散させて使用する。
【0064】
[参考例1]
ハイドロプレンの残存率について調べた。上記で作製した加熱蒸散装置1において、有効成分としてハイドロプレン4質量%とメトキサジアゾン16質量%を含む薬剤Bを設置し、縦360cm、横360cm、高さ250cmの矩形のチャンバー内の中央で、薬剤Bを加熱蒸散させた。また同様に、ペルメトリンを10質量%の濃度で含む薬剤Bを設置し、縦360cm、横360cm、高さ250cmの矩形のチャンバー内の中央で、薬剤Bを加熱蒸散させた。
【0065】
チャンバー内の四隅には濾紙(直径10cm)をそれぞれ5枚(合計20枚)、予め設置し、蒸散開始から2時間経過後に回収し、室温にて保管し、加熱蒸散から一定時間経過後、該濾紙に付着した各薬剤を抽出し、ガスクロマトグラフィーによって定量分析した(四隅それぞれから、1枚ずつ回収した計4枚の濾紙の分析結果の平均値を濾紙に付着した薬剤の量とした)。なお、回収直後(蒸散開始2時間後)に該濾紙に付着した各薬剤の量を100%として残存率を算出した。結果を図3に示す。
【0066】
図3に示すように、ハイドロプレンは残存率が最も低く、加熱蒸散から24時間以内に20%以下となり、96時間後ではほぼ0%となった。これに対し、ペルメトリンは168時間後(7日後)でもほぼ100%の残存率を示すことが分かった。
【0067】
[実施例1]
上記で作製した加熱蒸散装置1において、4質量%のハイドロプレンおよび16質量%のメトキサジアゾンを有効成分として含む薬剤Bを設置し、チャバネゴキブリの存在する試験フィールド内で、10分間で全量を加熱蒸散させ、初回処理を行なった。
【0068】
初回処理において、試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、それぞれ400mgおよび1600mgに相当する。
【0069】
初回処理後、初回処理時から21日の間隔を空けて、再び試験フィールド内に上記の加熱蒸散装置1を設置し、全量を加熱蒸散させ、2回目の処理を行なった。試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理と同一とした。
【0070】
さらに前記の2回目の処理後、2回目の処理時から21日の間隔を空けて、再び試験フィールド内に上記の加熱蒸散装置1を設置し、全量を加熱蒸散させ、3回目の処理を行なった。試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理と同一とした。
【0071】
試験フィールド内には、試験期間中に適時、粘着トラップの設置、回収を行い、試験フィールド内のチャバネゴキブリの密度を測定できるようにした(実施例1においては初回処理時、21日経過時、42日経過時、63日経過時、98日経過時、1年経過時に測定)。なお、以下の式によりゴキブリの駆除率を求めた。結果を図4に示す。
【0072】
ゴキブリの駆除率(%)=(初回処理前のゴキブリ指数−駆除率測定時のゴキブリ指数)÷(初回処理前のゴキブリ指数)×100
【0073】
なお、試験はゴキブリ指数が10以上であることが確認できたフィールドにて実施した(以下の実施例1、2、3、4、比較例1、2、3、4も同様にゴキブリ指数10以上であることを確認して試験を行った)。
【0074】
ゴキブリ指数=(ゴキブリ捕獲総数)÷(粘着トラップ数×設置日数)
【0075】
図4に示すように、合計3回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続することが分かった。特に、初回の処理時から98日を経過した時点の駆除率が79.1%であり、さらに初回処理時から1年後の駆除率(翌年駆除率)が92.8%に達していた。このことから、越冬し、翌年にわたってゴキブリの駆除効果が持続していることがわかる。
【0076】
[比較例1]
初回処理後、56日の間隔を空けて2回目の処理を行い、さらに15日間の間隔を空けて3回目の処理を行なったこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を図5に示す。
【0077】
図5に示すように、初回の処理時から56日の間隔を空けて次回以降の処理を行った比較例1ではゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回の処理時から100日を経過した時点の駆除率は24.6%であり、実施例1の結果に比べて著しく悪化した。
【0078】
[比較例2]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用せず、ペルメトリンおよびメトキサジアゾンをそれぞれ10質量%および8質量%の濃度で使用したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0079】
また、試験フィールド内のペルメトリンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理、2回目の処理および3回目の処理ともに、それぞれ1000mgおよび800mgに相当する。結果を図6に示す。
【0080】
図6に示すように、薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用しない比較例2ではゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回処理から98日を経過した時点の駆除率が23.5%であり、さらに初回処理時から1年後の駆除率(翌年駆除率)は26.1%であり、実施例1の結果に比べて著しく悪化した。
【0081】
[実施例2]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分として、4質量%のハイドロプレン、8質量%のメトキサジアゾンおよび10質量%のペルメトリンを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0082】
また、試験フィールド内のハイドロプレン、メトキサジアゾンおよびペルメトリンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理、2回目の処理および3回目の処理ともに、それぞれ400mg、800mg、1000mgに相当する。結果を図7に示す。
【0083】
図7に示すように、薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤を併用した場合、合計3回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続していることが分かった。特に、初回の処理時から98日を経過した時点の駆除率が81.8%であり、さらに初回処理時から1年後の駆除率(翌年駆除率)が98.9%に達した。このことから、越冬し、翌年にわたってゴキブリの駆除効果が持続していることがわかる。
【0084】
[実施例3]
初回処理後、初回処理時から41日の間隔を空けて2回目の処理を行い、3回目の処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0085】
また、試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理および2回目の処理ともに、それぞれ400mgおよび1600mgに相当する。結果を図8に示す。
【0086】
図8に示すように、合計2回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続することが分かった。特に、初回の処理時から94日を経過した時点の駆除率が75.4%に達した。
【0087】
[実施例4]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分として、2質量%のプロポクスル、5質量%のd・d−T−シフェノトリン、4質量%のハイドロプレンを用い、初回処理後、初回処理時から46日の間隔を空けて2回目の処理を行ったこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0088】
また、試験フィールド内のプロポクスル、d・d−T−シフェノトリンおよびハイドロプレンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理および2回目の処理ともに、それぞれ200mg、500mgおよび400mgに相当する。結果を図9に示す。
【0089】
図9に示すように、合計2回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続することが分かった。特に、初回の処理時から102日を経過した時点の駆除率が94.0%に達した。
【0090】
[比較例3]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用せず、メトキサジアゾンを20質量%の濃度で使用し、初回処理後、初回処理時から49日の間隔を空けて2回目の処理を行ったこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0091】
また、試験フィールド内のメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理および2回目の処理ともに、2000mgに相当する。結果を図10に示す。
【0092】
図10に示すように、薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用しない比較例3では、合計2回の処理を施した場合でも、ゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回処理から109日を経過した時点の駆除率は23.1%であり、実施例3および4の結果に比べて著しく悪化した。
【0093】
[比較例4]
加熱蒸散装置1のフィールド内での空間あたりの設置数を2倍量として、処理回数を1回とし、2回目以降の処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0094】
なお、前記単回処理における試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、それぞれ800mgおよび3200mgに相当する。結果を図11に示す。
【0095】
図11に示すように、単回処理では、実施例1と比較して2倍量のハイドロプレンを含む薬剤Bを用いたとしても、予想外にもゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回処理から55日を経過した時点の駆除率は32.4%であり、実施例1の結果に比べて著しく悪化した。
【0096】
[製剤例1]
有効成分であるハイドロプレン4質量%およびメトキサジアゾン16質量%に、α化デンプン2質量%、酸化亜鉛0.1質量%を添加し、アゾジカルボンアミドを適量加えて全体を100質量%としたものを造粒して顆粒製剤を得た。顆粒製剤を薬剤として図1の容器内に充填し、本発明の加熱蒸散システムの製剤とした。
【0097】
[製剤例2]
有効成分として、ハイドロプレン4質量%、メトキサジアゾン8質量%およびペルメトリン10質量%を添加した以外は、製剤例1と同様にし、本発明の加熱蒸散システムの製剤とした。
【0098】
[製剤例3]
有効成分として、ハイドロプレン4質量%、d・d−T シフェノトリン5質量%およびプロポクスル2質量%を添加した以外は、製剤例1と同様にし、本発明の加熱蒸散システムの製剤とした。
【0099】
[製剤例4]
ハイドロプレン1w/v%、メトキサジアゾン3.3w/v%をジエチレングリコールモノメチルエーテル6.7w/v%にエタノールを加えて全量を100mLとし、原液とした。ジメチルエーテル96容量%と液化石油ガス4容量%とを混合して噴射剤とした。原液30容量%および噴射剤70容量%を図2の容器内に加圧充填して、本発明の全量噴射エアゾールシステムの製剤とした。
【0100】
[製剤例5]
有効成分として、ハイドロプレン1w/v%、メトキサジアゾン2w/v%およびペルメトリン2.5w/v%を添加し、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を4.5w/v%とした以外は、製剤例4と同様にし、本発明の全量噴射エアゾールシステムの製剤とした。
【符号の説明】
【0101】
1 加熱蒸散装置
2 外容器
3 不織布シート
4 内容器
7 樹脂フィルム
A 加水発熱剤
B 薬剤
11 エアゾール容器
13 ステム
20 全量噴射エアゾール装置
21 操作手段
22 キャップ部
30 操作部
31 ノズル
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴキブリの駆除方法に関するものであり、詳しくは、ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴキブリの駆除方法には、ピレスロイドおよびカーバメイト等を有効成分とするトータルリリース型製剤が使用されてきた(特許文献1〜3)。しかしながら、トータルリリース型製剤による駆除方法では、すべての薬剤を一度に処理するため、駆除効果が持続しにくいという問題があった。
【0003】
また、ピレスロイドおよびカーバメイト等を長期間使用すると、薬剤抵抗性が発達してくるという問題があった。また、薬剤抵抗性の発達により、過剰に薬剤を使用し、さらなる薬剤抵抗性の発達を助長する恐れがあるなど、安全性および経済性の問題があった。
【0004】
一方、特許文献4には、昆虫成長阻害剤としてハイドロプレンを用いた製剤が開示されている。しかし、特許文献4では、駆除効果を得るために、継続して薬剤を加熱蒸散させる必要があり、安全性および経済性の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−89611号公報
【特許文献2】特開平11−92312号公報
【特許文献3】特公平1−21802号公報
【特許文献4】特開平11−322508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記課題を鑑みて、ゴキブリに対して薬剤抵抗性を発達させることなく、簡便な方法により、長期間にわたりゴキブリの駆除効果を発揮しうる駆除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ハイドロプレンと殺虫剤とを併用したトータルリリース型製剤をゴキブリの存在する空間内で複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から所定期間が経過するまでの間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法であって、前記トータルリリース型製剤によりハイドロプレンと殺虫剤を所定空間に複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から起算して20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上するゴキブリの駆除方法。
2.次回以降の処理を少なくとも2回以上する場合、初回の処理時から起算して20〜50日目に最終回の処理を行い、初回の処理と最終回の処理との間において等間隔で少なくとも1回以上の処理を行うゴキブリの駆除方法。
3.ゴキブリがチャバネゴキブリである前項1または2に記載のゴキブリの駆除方法。
4.処理空間におけるハイドロプレンの気中処理量が、日本間6〜8畳の空間に300〜500mgである前項1〜3のいずれか1項に記載のゴキブリの駆除方法。
【発明の効果】
【0009】
ハイドロプレンは、ゴキブリの終齢幼虫に対する成長阻害効果を有しており、終齢幼虫の幼若ホルモンとして作用し、幼虫の成虫化を妨げることができる。しかし、ハイドロプレンは、残存率が低いという問題点がある。したがって特許文献4に記載のように、当業者にとってハイドロプレンの薬効を持続させるには、例えばゴキブリのライフサイクル以上の長期間にわたってこれを散布し続ける強い動機付けがある。
【0010】
本発明の方法は、ハイドロプレンと殺虫剤とを併用し、これらをゴキブリの存在する空間に一度に全量散布し、初回の処理時から所定期間が経過するまでの間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上行うことを特徴としている。このことにより、ハイドロプレンを連続的に散布せずともゴキブリを長期間にわたり効率的に駆除できるということは、予想外の効果である。
【0011】
このように本発明によれば、少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続するゴキブリの駆除方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における加熱蒸散システムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【図2】本発明における全量噴射エアゾールシステムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【図3】参考例1においてハイドロプレンの残存率について調べた結果を示すグラフである。
【図4】実施例1におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図5】比較例1におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図6】比較例2におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図7】実施例2におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図8】実施例3におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図9】実施例4におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図10】比較例3におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【図11】比較例4におけるゴキブリの駆除率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、ハイドロプレンと殺虫剤とを併用してトータルリリース型製剤とし、このトータルリリース型製剤を用いてゴキブリの存在する所定空間内で、ハイドロプレンと殺虫剤を複数回処理し、初回の処理(以下、初回処理ともいう)以後、初回の処理時から20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上行うことを特徴としている。
【0014】
(初回処理)
本発明における初回処理は、ゴキブリの存在する所定空間内に、ハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤とを併用してなるトータルリリース型製剤を設置し、前記空間内に前記ハイドロプレンおよび前記殺虫剤を処理する工程である。
【0015】
ハイドロプレンとは、化学名エチル(2E,4E)−3,7,11−トリメチル−2,4−ドデカジエノエートからなる公知の化合物である。
【0016】
ハイドロプレン以外の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、ピレトリン、ビフェントリン、アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、ペルメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、プラレトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、イミプロトリン、プロフルトリン、エンペントリンおよびエトフェンプロックス等のピレスロイド系化合物;プロポクスルおよびカルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;ジノテフランおよびイミダクロプリド等のネオニコチノイド等;フィットンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、ベンジルアルコールおよび丁子油等の精油類;IBTA、IBTE、四級アンモニウム塩およびサリチル酸ベンジル等の殺虫・殺ダニ成分などが挙げられる。中でも、ペルメトリン、メトキサジアゾン、プロポクスルおよびシフェノトリンが好ましい。
【0017】
本明細書において、「トータルリリース型製剤」とは、ハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤とからなる薬剤を一回の散布ですべて使用するタイプの製剤を意味する。例えば、加熱蒸散システムおよび全量噴射エアゾールシステムが挙げられる。加熱蒸散システムとしては、例えば、燻蒸および燻煙システムが挙げられる。
【0018】
一回の散布時間は、30秒〜20分間が好ましい。例えば、燻蒸システムの場合、一回の散布時間は、5〜20分間が好ましい。また、全量噴射エアゾールシステムの場合、一回の散布時間は、30秒〜5分間が好ましい。
【0019】
前記製剤に代えて、ピエゾ式霧化システム等の超音波霧化システムおよびULV(Ultra Low Volume:高濃度微量散布)システムを用いてもよい。
【0020】
以下、加熱蒸散システムおよび全量噴射エアゾールシステムに利用される形態について説明するが、本発明は下記形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明における加熱蒸散システムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【0022】
図1に断面図にて示すように、加熱蒸散装置1は、有底円筒状の外容器2の内部に、円筒状で底部が略中空半球状の内容器4が配置された二重容器構造を有する。外容器2の底部には多数の通水孔が形成されており、通水孔は通水性を有する部材、例えば不織布シート3で塞がれている。
【0023】
外容器2と内容器4の周壁との間の空間、及び不織布シート3と内容器4の底面との間の空間には酸化カルシウムからなる加水発熱剤Aが充填されている。また、内容器4には所定濃度のハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤を有効成分として含む薬剤Bが収容されており、その上部開口部が複数の貫通孔8を有する樹脂フィルム7で覆われている。更に、外容器2と内容器4との間の上部開口は蓋部材6で塞がれている。
【0024】
このように構成される加熱蒸散装置1を用いるには、水Wを貯水した容器10に加熱蒸散装置1ごと載置すればよい。それにより、水Wが不織布シート3を通じて外容器2の内部に浸透して加水発熱剤Aと接触し、発熱が始まる。そして、加水発熱剤Aが薬剤Bの蒸散温度に達すると、薬剤Bが樹脂フィルム7の貫通孔8を通じて外部に蒸散する。従って、使用者は、薬剤Bの蒸散温度に達するまでの時間内に退避行動をとることが出来る。
【0025】
尚、加水発熱剤Aとしては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、酸化鉄等が使用でき、これらを適宜選択し混合することにより、薬剤Bの蒸散温度に達するまでの時間を調整することができる。
【0026】
また、加熱蒸散装置1を用いる場合は、薬剤B中に、蒸散を促すために発泡剤を配合することができ、例えば、ニトロセルロース、硝酸アンモニウムおよびアゾジカルボンアミド等を用いることができる。
【0027】
また、安定化剤や結合剤を配合してもよく、安定化剤としては、例えば、酸化亜鉛、アルコール類、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、蔗糖、塩化アルキルジアミノエチルグリシン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩素化イソシアヌール酸および高度サラシ粉等を適量配合できる。
【0028】
結合剤としては、例えば、デンプン、小麦粉およびシルク粉末等の動植物質粉末;ブドウ糖、ショ糖および乳糖等の糖類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロース等のセルロース;ポリエチレングリコール;これらの混合物等を適量配合できる。
【0029】
上記以外の任意成分としては、本発明の効果を妨害するものでなければ特に限定されず、例えば、賦形剤、香料および色素等の添加剤が挙げられる。
【0030】
本発明における薬剤Bは、ハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤を併用し、さらに、有機発泡剤を混合し、必要に応じて安定化剤や結合剤等を用いて造粒した顆粒剤等からなるものである。なお、併用とは、1つの薬剤中にハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤の両方を含有しても、ハイドロプレンを含む薬剤とハイドロプレン以外の殺虫剤を含む薬剤を混合して薬剤Bとしてもよい。薬剤Bは顆粒剤の他に、粉剤、タブレット剤、ペレット剤、ペースト剤、液剤、ゲル剤およびゾル剤として用いてもよい。
【0031】
また、粉剤の場合は、例えば適量の溶剤を加えて液状にするなどの方法により、周囲に飛散しないようにすることが安全性や取り扱いやすい点から好ましく、粘着剤により内容器4の内部の底面に固定するなどの処理を行ってもよい。
【0032】
内容器4の容積(薬剤Bが収容される空間)は、10cm3以上であることが好ましく、35cm3以上であることがより好ましい。また、400cm3以下であることが好ましい。外容器2の容積(加水発熱剤Aが充填される空間)は、80cm3以上であることが好ましく、350cm3以下であることが好ましい。
【0033】
加熱温度は250〜400℃であることが好ましく、このときの加水発熱剤の含有量は40g〜400g程度とすることができる。
【0034】
また、内容器4の底部は、半球状でも、平らでも、湾曲していても、凹凸を有していてもよい。
【0035】
また、外容器2、内容器4の構成部材としては、例えば、上記加熱温度で使用できる耐熱性のプラスチック容器、紙容器、金属容器、セラミック容器およびガラス容器等が挙げられる。
【0036】
図2は、本発明における全量噴射エアゾールシステムの製剤の構造の一実施形態を説明するための略断面図である。
【0037】
図2(断面図)に示すように、全量噴射エアゾール装置20は、エアゾール容器11の上部の目金部12に操作手段21を嵌着した構成になっている。操作手段21は、エアゾール容器11のステムを覆うキャップ部22と、キャップ部22から略水平方向に延びる操作部30とを備えている。キャップ部22は中空の部分と中実の部分とを有し、中実部分の下端にはステム13の上端を挿着するための挿着孔25が穿設されている。
【0038】
このように構成される全量噴射エアゾール装置20を用いるには、操作手段21の操作部30を押し下げればよい。それにより、操作部30と一体のキャップ部22も押し下げられ、ステム13が押し下げられる。そして、このステム13の押し下げ状態を維持するために、押し下げられた状態の操作部30を係止手段により固定する。これにより、ステム13から連続的にエアゾール内容物が噴射され、ノズル31を通じて一気に外部に噴射される。
【0039】
また、全量噴射エアゾール装置20では、所定濃度のハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤を有効成分として含む薬剤は噴射剤とともにエアゾール容器11に収容される。噴射剤としては、ジメチルエーテル、液化石油ガス(LPG)、n−ブタン、イソブタン、プロパン、イソペンタン、n−ペンタン、シクロペンタン、プロピレン、n−ブチレン、イソブチレン、エチルエーテル、炭酸ガス、窒素ガスおよび代替フロンガス(HCFC22、123、124、41b、142b、225、HFC125、134a、143a、152a、12および227aなど)等を使用できる。
【0040】
更に、薬剤は溶媒に溶解してもよく、溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルおよびエチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピルおよびエチルエーテルなどのエステル類、並びにn−ヘキサン、ケロシン、灯油、n−ペンタン、イソペンタンおよびシクロペンタンなどの脂肪族炭化水素類等が適当であるが、これに制限されない。これらの配合比は、適宜選択される。
【0041】
なお、本発明におけるトータルリリース型製剤には上記以外にも公知の各種添加剤を使用できる。
【0042】
有効成分の散布量、すなわちゴキブリが存在する空間内でのハイドロプレンの気中処理量は、日本間6〜8畳の空間に10〜2000mgが好ましく、100〜1000mgがより好ましく、300〜500mgが特に好ましい。この範囲内とすることにより効率よくゴキブリ駆除効果を得ることができるからである。
【0043】
初回処理において、トータルリリース型製剤が加熱蒸散システムの製剤の場合、薬剤Bの全体質量が10gの場合は、薬剤B中のハイドロプレンの濃度は、0.1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましく、3〜5質量%が特に好ましい。当該配合比を目安として、薬剤B中のハイドロプレンの濃度を上記の気中処理量となるように調整するとよい。
【0044】
また、トータルリリース型製剤が全量エアゾールシステムの製剤の場合、製剤の全体体積が100mLの場合は、製剤中のハイドロプレン濃度は0.01〜2.0質量/体積%(以下、w/v%と表す)が好ましく、0.1〜1.0w/v%がさらに好ましく、0.3〜0.5w/v%が特に好ましい。この範囲内とすることにより効率よくゴキブリ駆除効果を得ることができるからである。なお、製剤は一般的に10〜40mLの原液と各々90〜60mLの噴射剤が使用される。
【0045】
また、ハイドロプレン以外の殺虫剤の気中処理量は、使用する殺虫剤の種類にもよるが、例えば日本間6〜8畳の空間に10〜3000mgが好ましく、100〜2000mgがより好ましく、200〜1600mgが特に好ましい。この範囲内とすることにより効率よくゴキブリ駆除効果を得ることができるからである。
【0046】
トータルリリース型製剤が加熱蒸散システムの製剤の場合の薬剤B中のハイドロプレン以外の殺虫剤の濃度は、薬剤Bの全体質量が10gの場合は、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がさらに好ましく、2〜16質量%が特に好ましい。
【0047】
本発明のゴキブリの駆除方法は、ゴキブリの駆除効果をさらに高めるという観点から、初回処理を4月〜6月に行うのが好ましい。
【0048】
(次回以降の処理)
本発明における次回以降の処理とは、初回処理後に行う2回目以降の処理を指す。本発明の方法では、前記初回処理後、初回処理時から起算して20〜50日の間に、前記空間内に前記トータルリリース型製剤を設置して前記空間内に前記ハイドロプレンおよび前記殺虫剤を導入する次回以降の処理を少なくとも1回以上行う。
【0049】
前記次回以降の処理に使用するトータルリリース型製剤は、前述の初回処理で説明したトータルリリース型製剤と同じものを使用することができる。また、初回処理に加熱蒸散システムの製剤を使用した場合でも、次回以降の処理に全量エアゾールシステムの製剤を使用しても、その逆でもよく、次回以降の処理に使用するトータルリリース型製剤は適時選択して使用することが出来る。
【0050】
ゴキブリの幼虫は、チャバネゴキブリの場合で孵化後、成虫するまでの期間である約60日の間に約6回脱皮するとされている(25℃の定温下:緒方一喜、田中生男および安富和男著、1989年、日本環境衛生センター発行「害虫駆除シリーズ4 ゴキブリと駆除」、18−21頁)。
【0051】
本発明におけるトータルリリース型製剤に含まれるハイドロプレンは、終齢幼虫、すなわち4回脱皮後ないし5回脱皮後の幼虫の幼若ホルモンとして作用し、幼虫の正常な成虫化を妨げることができる。
【0052】
前記初回処理だけでは、孵化前の卵(卵鞘)の駆除や全ての幼虫や成虫の駆除を完璧に行なうのは通常困難である。
【0053】
そこで本発明の方法では初回処理後、初回処理時から起算して20〜50日の間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上行う。該次回以降の処理により、初回処理で駆除できなかった卵(卵鞘)から孵化した幼虫や残りの成虫等の駆除が可能となる。
【0054】
すなわち、初回処理時から起算して20〜50日の間に、次回以降の処理を少なくとも1回以上行うことにより、卵(卵鞘)から孵化し、終齢幼虫となった幼虫は、ハイドロプレンにより効率的に駆除される。
【0055】
また、前記初回処理により駆除されなかった成虫が存在する場合、次回以降の処理を行なっても、初回処理後に産卵された孵化前の卵(卵鞘)やそこから孵化した若齢幼虫の駆除ができないことになる。
【0056】
したがって本発明では、次回以降の処理を少なくとも2回以上行うことがより好ましい。この形態によれば、初回処理後に孵化した幼虫の駆除と、初回処理で駆除できなかった成虫の駆除とを両立することにより、駆除率を向上することができる。
【0057】
なお、次回以降の処理を少なくとも2回以上行う場合は、初回処理時から起算して20〜50日目に最終回の処理を行い、初回処理と最終回の処理との間で少なくとも1回以上の処理を等間隔で行うことがさらに好ましい。このことにより、駆除率をより向上することができる。ここで、「等間隔」とは、前後3日を含むものとする。
【0058】
次回以降の処理の回数は、少ない処理回数で効率的にゴキブリ駆除を行える観点から、1〜3回であることが好ましく、1〜2回であることがより好ましい。
【0059】
本発明の駆除方法の対象となるゴキブリとしては、例えば、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリおよびトビイロゴキブリなどのゴキブリ類が挙げられる。中でも、チャバネゴキブリに対して特に有効である。
【0060】
本発明の方法は、高い駆除効果を維持する為の観点から、定期的に繰返し実施することが好ましい。本発明の方法を実施する間隔は、24ヶ月以内とすることが好ましく、10〜14ヶ月とすることがより好ましい。この範囲内とすることにより少ない薬剤処理で長期間に亘り、ゴキブリの高い駆除効果を維持でき、過剰に薬剤を使用することがなく、安全性および経済性の問題が解決されるからである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(加熱蒸散システムの製剤の作製)
図1に記載の加熱蒸散システムの製剤を作製した。すなわち、加熱蒸散装置1は、直径52mmの有底円筒状の外容器2を備え、その底部から側部にかけて酸化カルシウムからなる加水発熱剤Aが65g収容されている。外容器2は、底部に複数の通水部分(通水孔)を有し、通水孔は不織布シート3によって塞がれている。また、外容器2の内部には、内容器4が設けられ、その中に所定の濃度のハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤を含む薬剤Bが収納されている。薬剤Bの組成は、ハイドロプレンおよびハイドロプレン以外の殺虫剤、α化デンプン2質量%、安定化剤0.1質量%を添加し、アゾジカルボンアミドを適量加えて全体を100質量%とした。内容器4は、円筒状で底部が略中空半球状(直径38mm)を有し、その側壁が外容器2の周壁と同心状に配置されている。
【0063】
加熱蒸散装置1は、水W(22g)が入った容器10に入れ、酸化カルシウムからなる加水発熱剤Aを発熱させ(380℃:測定箇所は内容器4の底部中央)、薬剤Bを蒸散させて使用する。
【0064】
[参考例1]
ハイドロプレンの残存率について調べた。上記で作製した加熱蒸散装置1において、有効成分としてハイドロプレン4質量%とメトキサジアゾン16質量%を含む薬剤Bを設置し、縦360cm、横360cm、高さ250cmの矩形のチャンバー内の中央で、薬剤Bを加熱蒸散させた。また同様に、ペルメトリンを10質量%の濃度で含む薬剤Bを設置し、縦360cm、横360cm、高さ250cmの矩形のチャンバー内の中央で、薬剤Bを加熱蒸散させた。
【0065】
チャンバー内の四隅には濾紙(直径10cm)をそれぞれ5枚(合計20枚)、予め設置し、蒸散開始から2時間経過後に回収し、室温にて保管し、加熱蒸散から一定時間経過後、該濾紙に付着した各薬剤を抽出し、ガスクロマトグラフィーによって定量分析した(四隅それぞれから、1枚ずつ回収した計4枚の濾紙の分析結果の平均値を濾紙に付着した薬剤の量とした)。なお、回収直後(蒸散開始2時間後)に該濾紙に付着した各薬剤の量を100%として残存率を算出した。結果を図3に示す。
【0066】
図3に示すように、ハイドロプレンは残存率が最も低く、加熱蒸散から24時間以内に20%以下となり、96時間後ではほぼ0%となった。これに対し、ペルメトリンは168時間後(7日後)でもほぼ100%の残存率を示すことが分かった。
【0067】
[実施例1]
上記で作製した加熱蒸散装置1において、4質量%のハイドロプレンおよび16質量%のメトキサジアゾンを有効成分として含む薬剤Bを設置し、チャバネゴキブリの存在する試験フィールド内で、10分間で全量を加熱蒸散させ、初回処理を行なった。
【0068】
初回処理において、試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、それぞれ400mgおよび1600mgに相当する。
【0069】
初回処理後、初回処理時から21日の間隔を空けて、再び試験フィールド内に上記の加熱蒸散装置1を設置し、全量を加熱蒸散させ、2回目の処理を行なった。試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理と同一とした。
【0070】
さらに前記の2回目の処理後、2回目の処理時から21日の間隔を空けて、再び試験フィールド内に上記の加熱蒸散装置1を設置し、全量を加熱蒸散させ、3回目の処理を行なった。試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理と同一とした。
【0071】
試験フィールド内には、試験期間中に適時、粘着トラップの設置、回収を行い、試験フィールド内のチャバネゴキブリの密度を測定できるようにした(実施例1においては初回処理時、21日経過時、42日経過時、63日経過時、98日経過時、1年経過時に測定)。なお、以下の式によりゴキブリの駆除率を求めた。結果を図4に示す。
【0072】
ゴキブリの駆除率(%)=(初回処理前のゴキブリ指数−駆除率測定時のゴキブリ指数)÷(初回処理前のゴキブリ指数)×100
【0073】
なお、試験はゴキブリ指数が10以上であることが確認できたフィールドにて実施した(以下の実施例1、2、3、4、比較例1、2、3、4も同様にゴキブリ指数10以上であることを確認して試験を行った)。
【0074】
ゴキブリ指数=(ゴキブリ捕獲総数)÷(粘着トラップ数×設置日数)
【0075】
図4に示すように、合計3回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続することが分かった。特に、初回の処理時から98日を経過した時点の駆除率が79.1%であり、さらに初回処理時から1年後の駆除率(翌年駆除率)が92.8%に達していた。このことから、越冬し、翌年にわたってゴキブリの駆除効果が持続していることがわかる。
【0076】
[比較例1]
初回処理後、56日の間隔を空けて2回目の処理を行い、さらに15日間の間隔を空けて3回目の処理を行なったこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を図5に示す。
【0077】
図5に示すように、初回の処理時から56日の間隔を空けて次回以降の処理を行った比較例1ではゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回の処理時から100日を経過した時点の駆除率は24.6%であり、実施例1の結果に比べて著しく悪化した。
【0078】
[比較例2]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用せず、ペルメトリンおよびメトキサジアゾンをそれぞれ10質量%および8質量%の濃度で使用したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0079】
また、試験フィールド内のペルメトリンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理、2回目の処理および3回目の処理ともに、それぞれ1000mgおよび800mgに相当する。結果を図6に示す。
【0080】
図6に示すように、薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用しない比較例2ではゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回処理から98日を経過した時点の駆除率が23.5%であり、さらに初回処理時から1年後の駆除率(翌年駆除率)は26.1%であり、実施例1の結果に比べて著しく悪化した。
【0081】
[実施例2]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分として、4質量%のハイドロプレン、8質量%のメトキサジアゾンおよび10質量%のペルメトリンを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0082】
また、試験フィールド内のハイドロプレン、メトキサジアゾンおよびペルメトリンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理、2回目の処理および3回目の処理ともに、それぞれ400mg、800mg、1000mgに相当する。結果を図7に示す。
【0083】
図7に示すように、薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンとハイドロプレン以外の殺虫剤を併用した場合、合計3回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続していることが分かった。特に、初回の処理時から98日を経過した時点の駆除率が81.8%であり、さらに初回処理時から1年後の駆除率(翌年駆除率)が98.9%に達した。このことから、越冬し、翌年にわたってゴキブリの駆除効果が持続していることがわかる。
【0084】
[実施例3]
初回処理後、初回処理時から41日の間隔を空けて2回目の処理を行い、3回目の処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0085】
また、試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理および2回目の処理ともに、それぞれ400mgおよび1600mgに相当する。結果を図8に示す。
【0086】
図8に示すように、合計2回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続することが分かった。特に、初回の処理時から94日を経過した時点の駆除率が75.4%に達した。
【0087】
[実施例4]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分として、2質量%のプロポクスル、5質量%のd・d−T−シフェノトリン、4質量%のハイドロプレンを用い、初回処理後、初回処理時から46日の間隔を空けて2回目の処理を行ったこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0088】
また、試験フィールド内のプロポクスル、d・d−T−シフェノトリンおよびハイドロプレンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理および2回目の処理ともに、それぞれ200mg、500mgおよび400mgに相当する。結果を図9に示す。
【0089】
図9に示すように、合計2回という少ない処理回数であっても長期間にわたりゴキブリの駆除効果が持続することが分かった。特に、初回の処理時から102日を経過した時点の駆除率が94.0%に達した。
【0090】
[比較例3]
加熱蒸散装置1の薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用せず、メトキサジアゾンを20質量%の濃度で使用し、初回処理後、初回処理時から49日の間隔を空けて2回目の処理を行ったこと以外は、実施例3と同様に行った。
【0091】
また、試験フィールド内のメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、初回処理および2回目の処理ともに、2000mgに相当する。結果を図10に示す。
【0092】
図10に示すように、薬剤Bの有効成分としてハイドロプレンを使用しない比較例3では、合計2回の処理を施した場合でも、ゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回処理から109日を経過した時点の駆除率は23.1%であり、実施例3および4の結果に比べて著しく悪化した。
【0093】
[比較例4]
加熱蒸散装置1のフィールド内での空間あたりの設置数を2倍量として、処理回数を1回とし、2回目以降の処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0094】
なお、前記単回処理における試験フィールド内のハイドロプレンおよびメトキサジアゾンの日本間6畳〜8畳あたりの気中処理量は、それぞれ800mgおよび3200mgに相当する。結果を図11に示す。
【0095】
図11に示すように、単回処理では、実施例1と比較して2倍量のハイドロプレンを含む薬剤Bを用いたとしても、予想外にもゴキブリの駆除効果が奏されないことが分かった。特に、初回処理から55日を経過した時点の駆除率は32.4%であり、実施例1の結果に比べて著しく悪化した。
【0096】
[製剤例1]
有効成分であるハイドロプレン4質量%およびメトキサジアゾン16質量%に、α化デンプン2質量%、酸化亜鉛0.1質量%を添加し、アゾジカルボンアミドを適量加えて全体を100質量%としたものを造粒して顆粒製剤を得た。顆粒製剤を薬剤として図1の容器内に充填し、本発明の加熱蒸散システムの製剤とした。
【0097】
[製剤例2]
有効成分として、ハイドロプレン4質量%、メトキサジアゾン8質量%およびペルメトリン10質量%を添加した以外は、製剤例1と同様にし、本発明の加熱蒸散システムの製剤とした。
【0098】
[製剤例3]
有効成分として、ハイドロプレン4質量%、d・d−T シフェノトリン5質量%およびプロポクスル2質量%を添加した以外は、製剤例1と同様にし、本発明の加熱蒸散システムの製剤とした。
【0099】
[製剤例4]
ハイドロプレン1w/v%、メトキサジアゾン3.3w/v%をジエチレングリコールモノメチルエーテル6.7w/v%にエタノールを加えて全量を100mLとし、原液とした。ジメチルエーテル96容量%と液化石油ガス4容量%とを混合して噴射剤とした。原液30容量%および噴射剤70容量%を図2の容器内に加圧充填して、本発明の全量噴射エアゾールシステムの製剤とした。
【0100】
[製剤例5]
有効成分として、ハイドロプレン1w/v%、メトキサジアゾン2w/v%およびペルメトリン2.5w/v%を添加し、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を4.5w/v%とした以外は、製剤例4と同様にし、本発明の全量噴射エアゾールシステムの製剤とした。
【符号の説明】
【0101】
1 加熱蒸散装置
2 外容器
3 不織布シート
4 内容器
7 樹脂フィルム
A 加水発熱剤
B 薬剤
11 エアゾール容器
13 ステム
20 全量噴射エアゾール装置
21 操作手段
22 キャップ部
30 操作部
31 ノズル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法であって、前記トータルリリース型製剤によりハイドロプレンと殺虫剤を所定空間に複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から起算して20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上するゴキブリの駆除方法。
【請求項2】
次回以降の処理を少なくとも2回以上する場合、初回の処理時から起算して20〜50日目に最終回の処理を行い、初回の処理と最終回の処理との間において等間隔で少なくとも1回以上の処理を行うゴキブリの駆除方法。
【請求項3】
ゴキブリがチャバネゴキブリである請求項1または2に記載のゴキブリの駆除方法。
【請求項4】
処理空間におけるハイドロプレンの気中処理量が、日本間6〜8畳の空間に300mg〜500mgである請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴキブリの駆除方法。
【請求項1】
ハイドロプレンと殺虫剤を併用したトータルリリース型製剤を用いるゴキブリの駆除方法であって、前記トータルリリース型製剤によりハイドロプレンと殺虫剤を所定空間に複数回処理し、初回の処理後、初回の処理時から起算して20〜50日の間に次回以降の処理を少なくとも1回以上するゴキブリの駆除方法。
【請求項2】
次回以降の処理を少なくとも2回以上する場合、初回の処理時から起算して20〜50日目に最終回の処理を行い、初回の処理と最終回の処理との間において等間隔で少なくとも1回以上の処理を行うゴキブリの駆除方法。
【請求項3】
ゴキブリがチャバネゴキブリである請求項1または2に記載のゴキブリの駆除方法。
【請求項4】
処理空間におけるハイドロプレンの気中処理量が、日本間6〜8畳の空間に300mg〜500mgである請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴキブリの駆除方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−67053(P2012−67053A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215385(P2010−215385)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】
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