説明

サイドディスチャージモーア

【課題】作業者が刈草の状態に合わせて刈草の放出方向を自在に調整することができるサイドディスチャージモーアを提供すること。
【解決手段】刈草の放出方向変更部材70を、ディスチャージカバー24の天井部24aの横方向中間部に備えて、刈草排出口23から刈草の放出方向と交差し且つ放出方向変更部材70のモーアデッキ21側におけるディスチャージカバー24の部分に配置される横軸心周りに上下揺動自在に取り付け、ディスチャージカバー24の天井部24aに沿った非作用位置、及びディスチャージカバー24の天井部24aから横外方斜め下方に向いた作用位置に、放出方向変更部材70の位置を変更する位置変更機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーアデッキの横端部の刈草排出口に、前記刈草排出口からの刈草を横外方に案内するディスチャージカバーを備えるサイドディスチャージモーアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のモーアには、そのディスチャージカバーがモーアデッキに対して上下に揺動可能に取り付けられているものが知られている。
この種類のモーアとしては、例えば、ディスチャージカバーをモーアデッキに対して起立させた格納姿勢と、モーアデッキから横外側に向かって延出させた使用姿勢とに自在に切換えられるように構成されているものや(特許文献1参照)、あるいは、刈取作業が行われる地面の凹凸状態によってモーアデッキが左右に傾くため、そのモーアデッキの左右の傾き具合に合わせて自動的に上下方向に揺動することにより、刈草が遠くへ飛び出すのを防止するディスチャージカバーを備えるものが挙げられる(特許文献2参照)。
また別のモーアとしては、ディスチャージカバーから、自由揺動自在に自重で垂下する規制板を備えるものや(特許文献3参照)、モーアデッキの刈草排出口の開閉を行うためのプレートを備えるものも知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−213437号公報(図5及び図6の50参照)
【特許文献2】特開平7−39224号公報(図3及び図4の49参照)
【特許文献3】実開昭57−146834号公報
【特許文献4】米国特許第6,874,309号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
草の形状、大きさ、重さ等の違いによって、モーアの刈草排出口から排出される刈草の飛び方は変わる。例えば、水分をあまり多く含んでいない刈草は、水分をより多く含んでいる刈草よりも相対的に軽いため、より遠くへ飛び出す傾向がある。そのため、刈草の状態が異なる場合においても、刈草の放出方向を一様にすることができるようにするという面で改善の余地があった。
【0005】
従って本発明の目的は、作業者が刈草の状態に合わせて刈草の放出方向を自在に調整することができるサイドディスチャージモーアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第1特徴構成は、モーアデッキの横端部の刈草排出口に、前記刈草排出口からの刈草を横外方に案内するディスチャージカバーを備えるサイドディスチャージモーアであって、刈草の放出方向変更部材を、前記ディスチャージカバーの天井部の横方向中間部に備えて、前記刈草排出口から刈草の放出方向と交差し且つ前記放出方向変更部材の前記モーアデッキ側における前記ディスチャージカバーの部分に配置される横軸心周りに上下揺動自在に取り付け、前記ディスチャージカバーの天井部に沿った非作用位置、及び前記ディスチャージカバーの天井部から横外方斜め下方に向いた作用位置に、前記放出方向変更部材の位置を変更する位置変更機構を備える点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、放出方向変更部材を上下方向に揺動させることによって、刈草の放出方向を自在に調整することができる。
これにより、例えば水分を多く含む湿った草を刈り取るときには、放出方向変更部材を上方に揺動させて刈草の排出に対する抵抗を少なくして、刈草を横外方に排出し易くする。
一方水分をそれほど多く含まない草を刈り取るときには、放出方向変更部材を下方に揺動させて刈草の排出に対する抵抗を大きくすることによって、刈草を横外方から下外方に排出し易くして、横外方に排出され難くする。尚、放出方向変更部材を作用位置にするとき、放出方向変更部材は、ディスチャージカバーの天井部から横外方斜め下方に向いているため、刈草が放出方向変更部材に引っ掛かり難い。そのため、刈草は放出方向変更部材で詰まらず、スムーズに下外方に排出される。
このように、刈草の放出方向を調整すれば、刈草の状態が異なる場合でも、刈草の放出方向を一様にすることができる。
【0008】
また、本構成によれば、放出方向変更部材を作用位置にすると、ディスチャージカバーと放出方向変更部材によってディスチャージカバーの内部に小さな箱状空間が形成される。これにより、モーアデッキの刈草排出口から排出された刈草は箱状空間に入り、箱状空間から下側に向けて排出され易くなる。そのため、モーアデッキの刈草排出口の外側に箱状空間が形成されている点、及び放出方向変更部材が横外方斜め下方に向いている点により、例えば道路際で刈取作業を行う際、モーアデッキの刈草排出口での刈草の滞留を防止しながら、且つ刈草が道路上にまで飛ばされることを防止しながら作業を実施することができる。このとき、刈草はモーアの移動に伴いディスチャージカバーの下側に列状に積まれていく。
【0009】
本発明に係る第2特徴構成は、前記ディスチャージカバーを、前記刈草排出口から横外方に延出して刈草を横外方に案内する作用姿勢、及び前記刈草排出口から上方に延出する非作用姿勢に変更可能に、前後方向の横軸心周りに上下揺動自在に取り付けてある点にある。
【0010】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、ディスチャージカバーを前後方向の横軸心周りに上下揺動自在に取り付けてあるため、刈取作業を行わないときには、ディスチャージカバーを非作用姿勢にして、モーアの横幅を小さくすることができる。これにより、刈取作業を実施しないときの特に狭い場所でのモーアの移動が容易になる。この場合、ディスチャージカバーに放出方向変更部材が設けられているので、ディスチャージカバーを非作用姿勢にすると放出方向変更部材も一緒に非作用姿勢となるため、放出方向変更部材を別途非作用姿勢にする必要がない。
【0011】
本発明に係る第3特徴構成は、前記放出方向変更部材の前後方向の幅を、前記ディスチャージカバーの前後方向の幅よりも短く設定する点にある。
【0012】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、刈草の全てが放出方向変更部材によって案内されるわけではなく、少なくとも刈草の一部は、刈草の放出方向における放出方向変更部材の前又は後側を抜けて排出される。
そのため、例えば、放出方向変更部材の前後方向の幅がディスチャージカバーの前後方向の幅と略同じに設定されているような場合と異なり、刈草の逃げ道が放出方向変更部材の前又は後側に確保されているため、刈草が放出方向変更部材に引っ掛かり滞留して刈草の放出路を閉塞してしまう状況を防止することができる。
【0013】
本発明に係る第4特徴構成は、前記ディスチャージカバーの天井部に前記放出方向変更部材を収容可能な凹部を設ける点にある。
【0014】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、放出方向変更部材を非作用位置に変更すると、放出方向変更部材を凹部に収容することができるため、刈草がディスチャージカバーから放出される際に、刈草が放出方向変更部材に引っ掛かる虞がなく円滑に放出される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】乗用型草刈機の全体側面図
【図2】乗用型草刈機の全体平面図
【図3】モーアの平面図
【図4】ディスチャージカバーの分解斜視図
【図5】放出方向変更部材の非作用位置(a)及び作用位置(b)を示すディスチャージカバーの縦断背面図
【図6】ディスチャージカバーの横断平面図
【図7】放出方向変更部材の開閉動作を行う開閉レバー及びケーシングの縦断右側面図
【図8】ディスチャージカバーを刈草排出口から上方に延出する非作用姿勢にしたときの縦断背面図
【図9】別実施形態に係る放出方向変更部材の縦断背面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(乗用型草刈機)
図1及び図2に示すように、本発明に係る乗用型草刈機は、左右一対の前車輪1,1と左右一対の後車輪2,2とを有した走行機体と、この走行機体の車体フレーム3の前車輪1と後車輪2との間で運転部床16の下側にリンク機構4を介して装着されたサイドディスチャージモーア20(以下、単にモーア20と称する)とを備えている。
【0017】
走行機体は、左右一対の前車輪1,1と左右一対の後車輪2,2とを備える他、車体後部に設けたエンジン5を有した原動部と、運転座席6及び左右一対の操縦レバー7,7を有した運転部と、運転座席6の後側近くに位置した転倒保護枠8と、左右の後車輪2,2を支持する伝動装置9と、伝動装置9の前部に位置する動力取り出し軸10の駆動力をモーア20の回転ブレード駆動機構30に伝達する回転軸11とを備えている。
【0018】
左右の前車輪1は、車体フレーム3の前部に連結された前輪支持フレーム12の端部に前輪支持フォーク13を介して縦軸心周りに揺動自在に支持されている。左右の前車輪1は、前輪支持フォーク13と共に前輪支持フレーム12に対して自由に揺動する。左右の後車輪2,2は、伝動装置9が備える一対の静油圧式無段変速装置(図示せず)によって各別に駆動され、左右一対の操縦レバー7,7による一対の静油圧式無段変速装置の各別な変速操作によって各別に前進側及び後進側に変速され、かつ停止操作される。
【0019】
リンク機構4は、車体フレーム3とモーア20のモーアデッキ21の前端側とにわたって連結されて、モーア20の前端側を車体フレーム3に昇降自在に連結している左右一対の前揺動リンク4a,4aと、車体フレーム3とモーアデッキ21の後端側とにわたって連結されて、モーア20の後端側を車体フレーム3に昇降自在に連結している左右一対の後揺動リンク4b,4bと、左右両側において前揺動リンク4a,4aと後揺動リンク4b,4bとにわたって連結された連動リンク4c,4cとを備えている。
【0020】
モーアデッキ21の上面の前後左右の端部には、図示しない貫通孔を備えたブラケット17a,17a,17b,17bが立設されており、前揺動リンク4a,4aの端部と連動リンク4c,4cの前端とを枢支連結する連結ピン18aが前方の左右のブラケット17a,17aの図示しない貫通孔に挿通連結されると共に、後揺動リンク4b,4bの端部と連動リンク4c,4cの後端とを枢支連結する連結ピン18bが後方の左右のブラケット17b,17bの図示しない貫通孔に挿通連結されて、モーア20が吊り下げ支持されている。
【0021】
支軸4dから突設した駆動アーム19に単動型の昇降シリンダ14が連結され、圧油供給によって昇降シリンダ14が伸長作動することでリンク機構4が車体フレーム3に対して上昇駆動され、排油によって昇降シリンダ14が短縮作動することでリンク機構4が車体フレーム3に対して自重下降するように構成されている。
【0022】
昇降シリンダ14を短縮及び伸長作動させることによって、モーア20を下降させてゲージ輪25を地面に略接地させて刈取作業を実施する作業姿勢と、モーア20を上昇させてゲージ輪25を地面から上昇させて刈取作業を実施しない非作業姿勢とに切換えることができる。
【0023】
モーア20を作業姿勢にして走行機体を走行させると、モーア20は、図3に示すモーアデッキ21の内部に位置する3枚の回転ブレード22L,22C,22Rによって草や芝の刈り処理を行い、刈草を各回転ブレード22L,22C,22Rの回転によって発生した風によってモーアデッキ21の内部をモーアデッキ21の右端に位置する刈草排出口23に搬送して、ディスチャージカバー24から走行機体横外方に放出する。
【0024】
図3に示すように、モーア20は、モーアデッキ21の横方向での中央部の前側と後側とにモーアデッキ21の横方向に並べて設けた一対の接地ローラ36,36,37,37を備えている。
【0025】
前側の左右一対の接地ローラ36,36は、モーアデッキ21の前縦壁21bに連結された左右一対の支持部材35aに支軸38を介して遊転自在に支持されている。前側の左右一対の接地ローラ36,36は、地面に隆起部などの障害物があると、この障害物に乗り上がってモーアデッキ21の前端側を障害物に突っ込まないように接地支持しながら障害物を乗り越えていく。
【0026】
後側の左右一対の接地ローラ37,37は、バキュームプレート50と後縦壁21cとにわたって連結された左右一対の支持部材35bに支軸39を介して遊転自在に支持されている。後側の左右一対の接地ローラ37,37は、地面に隆起部などの障害物があると、この障害物に乗り上がってモーアデッキ21の後端側を障害物に突っ込まないように接地支持しながら障害物を乗り越えていく。
【0027】
(モーア)
図3に示すように、モーア20は、モーアデッキ21と、3枚の回転ブレード22R,22C,22Lと、ゲージ輪25とを備える他、モーアデッキ21の内部に各回転ブレード22R,22C,22Lよりも前側に設けたバッフルプレート40と、モーアデッキ21の内部後側に各回転ブレード22R,22C,22Lの先端が描く回転軌跡の後部側に沿うように形成したバキュームプレート50と、モーアデッキ21の右端に形成された刈草排出口23と、刈草排出口23からの刈草を横外方に案内するディスチャージカバー24とを備えている。
【0028】
モーアデッキ21は、天井部21aと、この天井部21aの前縁部からモーアデッキ21の下方向きに延出した前縦壁21bと、天井部21aの後縁部からモーアデッキ21の下向きに延出した後縦壁21cと、天井部21aの横端部からモーアデッキ21の下向きに延出した横縦壁21dとによって構成され、自走機体の下方向きに開口した容器形になっている。
【0029】
モーアデッキ21の刈草排出口23は、天井部21aの右端と前縦壁21bの右端とバキュームプレート50の円弧部分50Rの右端とによって形成されている。
【0030】
後縦壁21cはバキュームプレート50の右及び左側の円弧部分50R,50Lにわたって連結された状態で左右中央の円弧部分50Cの後方に設けられている。
【0031】
3枚の回転ブレード22R,22C,22Lは、モーアデッキ21の内部に横方向に並列配置されている。尚、3枚の回転ブレード22R,22C,22Lのうち、モーアデッキ21の横方向での中央に位置する回転ブレード22Cが、少し前方に偏位するように平面視で三角配置される。回転ブレード22Lは、刈草排出口23から最も離れて存在し、且つ刈草流動方向での最上手に位置する。回転ブレード22Rは、刈草排出口23の最も近くに位置し、且つ刈草流動方向での最下手に位置する。
【0032】
回転ブレード22R,22C,22Lのそれぞれは、モーアデッキ21の天井部21aにベアリング支持ケースで成る図示しない支持部材を介して回転自在に支持された駆動軸27,27,27の下端部に回転自在に支持されている。これにより、回転ブレード22R,22C,22Lのそれぞれは、駆動軸27,27,27のモーアデッキ21上下方向の縦軸芯XR,XC,XL周りに駆動軸27,27,27と共に回転駆動する。尚、回転ブレード22R,22C,22Lのそれぞれは、その両端部に設けた切断刃28と、各切断刃28の背後側に設けた起風羽根29とを備えている。
【0033】
バッフルプレート40は、バッフルプレート40の長手方向での複数箇所に連結された図示しない取り付け部材によってモーアデッキ21に連結されている。バッフルプレート40は、バッフルプレート40の長手方向に並べて連結ボルト46によって連結された2枚の分割帯板によって構成してある。
【0034】
バキュームプレート50は、回転ブレード22R,22C,22Lの縦軸芯XR,XC,XLのそれぞれと同心の円弧部分50R,50C,50Lを、回転ブレード22R,22C,22Lの回転軌跡に沿うように並設配置した形状を有する。
【0035】
エンジン5からの駆動力は、回転軸11によって回転ブレード駆動機構30に伝達される。回転ブレード駆動機構30に伝達された駆動力は、回転ブレード22Cの駆動軸27を駆動すると共に、3つの駆動軸27,27,27にわたって巻き掛けられているベルト31を介して、回転ブレード22R,22Lのそれぞれの駆動軸27,27を駆動する。これにより、各回転ブレード22R,22C,22Lは、それぞれの縦軸芯XL,XC,XR周りに回転駆動する。
【0036】
各回転ブレード22R,22C,22Lによって切断処理された刈草は、各回転ブレード22R,22C,22Lの起風羽根29によって発生した風によって、バキュームプレート50及びバッフルプレート40に案内されてモーアデッキ21の内部を刈草排出口23の位置する横一端側に搬送されて、刈草排出口23からディスチャージカバー24に案内されてモーアデッキ21の横外側に放出される。
【0037】
(ディスチャージカバー)
図4及び図5に示すように、ディスチャージカバー24は、前後方向に所定の間隔をおいてディスチャージカバー24の上面側に設けた2つの連結アーム52a,52bと、前後方向に延びる支軸53とを介して、モーアデッキ21の刈草排出口23側の天井部21aの上面に設けた2つのブラケット54a,54bに対して枢支連結されている。これにより、ディスチャージカバー24は、刈草排出口23から横外方に延出して刈草を横外方に案内する作用姿勢(図5参照)と、刈草排出口23から上方に延出する非作用姿勢(図8参照)とに手動で変更可能に支軸53の軸心周りに上下揺動可能に取付けられる。支軸53には、その外周に巻き付けられるようにスプリング55が設けられて、ディスチャージカバー24は、スプリング55によって作用姿勢に付勢されており、このためディスチャージカバー24が作用姿勢において上下方向にバタつかない。また、ディスチャージカバー24を非作用姿勢としたときは、図示しないロック機構によってその姿勢が保持される。
【0038】
図4及び図6に示すように、ディスチャージカバー24は、天井部24aと、この天井部24aの前縁部から下方向きに延出した前縦壁24dと、天井部24aの後縁部から下向きに延出した後縦壁24eとを備える。図6に示すように、前縦壁24dの左右方向の幅は、後縦壁24eの左右方向の幅よりも長く設定されている。また、図6に示すように、平面視において前縦壁24dと後縦壁24eとは平行に配置されるものではなく、前縦壁24dと後縦壁24eとが横外方ほど前後方向の幅が広がるように配置される。
【0039】
図4に示すように、天井部24aの後部には、斜め後ろ下方に傾斜する傾斜部24bが設けられている。傾斜部24bの右端を構成する、非傾斜部24cの横外方後端から後縦壁24eの横外方上端にわたる部分と、傾斜部24bの左端を構成する、非傾斜部24cの横内方後端から後縦壁24eの横内方上端にわたる部分のそれぞれには、緩やかに湾曲する湾曲部24f,24fが設けられている。
【0040】
ディスチャージカバー24の天井部24aの横方向中間部には、その非傾斜部24cと傾斜部24bとにわたって前後方向に長い長孔形状の開口51が形成されており、その開口51の中に放出方向変更部材70が配置される。そして、ディスチャージカバー24の開口51全体を上から覆うように断面L字状のカバー部材57がディスチャージカバー24の上面に設けられる。このとき、カバー部材57に形成した2つのL字状の切欠き部57a,57bのそれぞれに、放出方向変更部材70の2つのL字型ブラケット72a,72bが入り込み、カバー部材57の縦壁57cがディスチャージカバー24の前縦壁24dの側面と接する状態で設置される。尚、カバー部材57は、ディスチャージカバー24の天井部24aの形状に沿うように、傾斜部57dと非傾斜部57eとを備える。
【0041】
尚、放出方向変更部材70及び開口51の前端と前縦壁24dとの間、並びに、放出方向変更部材70及び開口51の後端と後縦壁24eとの間には所定の間隔を設けてある。即ち、放出方向変更部材70の前後方向の幅を、ディスチャージカバー24の前後方向の幅よりも短く設定してある。
【0042】
放出方向変更部材70は、長方形状の平板であり、その大きさは、開口51の中に収容可能にその大きさが開口51よりも少し小さく設定されている。また、放出方向変更部材70は、ディスチャージカバー24の2つの連結アーム52a,52bの右端のそれぞれに支点軸56a,56bを介して枢支連結される2つのL字型ブラケット72a,72bを備える。尚、図4に示すように、放出方向変更部材70の後部には、斜め後ろ下方に傾斜する傾斜部70aが設けられており、放出方向変更部材70が後述する非作用位置にある場合、ディスチャージカバー24の非傾斜部24cと傾斜部24bとの境界線L1と、放出方向変更部材70の非傾斜部70bと傾斜部70aとの境界線L2とが同じ直線上に位置する。
【0043】
放出方向変更部材70の前側のL字型ブラケット72aと、ディスチャージカバー24の前側の連結アーム52aの左端との間にスプリング71を配置しており、スプリング71の作用により放出方向変更部材70は、カバー部材57と当接するように上方に付勢される。
【0044】
放出方向変更部材70の後側のL字型ブラケット72bは、リンクアーム58を介して、支軸53の後端に設けた回転アーム59の一端と連結される。回転アーム59は支軸53の軸心周りに回転可能であり、回転アーム59の他端には、接続部材としてのヨーク60aを介してケーブル61のインナーワイヤー62が連結される。
【0045】
図5に示すように、ケーブル61の先端部分は、モーアデッキ21の刈草排出口23側の天井部21aの上面に前後方向に延設されて固定された固定板63に対して、ステー64を介してボルト65及びナット66で固定される。
【0046】
また、図7に示すように、ケーブル61の基端部分は、右の操縦レバー7における握り部7aよりも下側の上下向き部分7bに着脱可能に固定される箱形状のケーシング80に接続されている。ケーシング80の内部には、支軸81が設けられており、その支軸81に対して、L字状の連結部材82が枢支連結される。L字状の連結部材82は、支軸81の軸心周り、即ち前後方向に回転可能に設けられており、連結部材82の一端に接続部材としてのヨーク60bを介してケーブル61のインナーワイヤー62が連結される。
【0047】
連結部材82の他端には、ボルト83を介して開閉レバー86が枢支連結され、開閉レバー86は、ボルト83の軸心周り、即ち左右方向に揺動できるように構成されており、その上端部の操作部が右の操縦レバー7の握り部7aの横隣に位置するように配備されている。ケーシング80の天井部80aには、開閉レバー86を収容可能な凹状の第1係止部84及び第2係止部85、並びに第1係止部84と第2係止部85と連通する連通路92が形成されている。開閉レバー86は、ボルト83の外周に巻き付けられるスプリング87によって、第1及び第2係止部84,85への入り込み側に付勢されている。
【0048】
開閉レバー86を第1係止部84から第2係止部85に移動させる際は、開閉レバー86をボルトの軸心周りに図7の紙面垂直方向に少し揺動させて、開閉レバー86を第1係止部84から外した後、連通路92に沿って支軸81の軸心周りに図7の紙面左方向に揺動させて、第2係止部85の中に入り込ませる。作業者が開閉レバー86を離すと、開閉レバー86はスプリング87の付勢力によって第2係止部85に当接した状態でその中に収容保持される。また、開閉レバー86を第2係止部85から第1係止部84に移動させる際は、同じように開閉レバー86をボルト83の軸心周りに図7の紙面垂直方向に少し揺動させて、開閉レバー86を第2係止部85から外した後、連通路92に沿って支軸81の軸心周りに図7の紙面右方向に揺動させて、第1係止部84の中に入り込ませれば、開閉レバー86はスプリング87の付勢力によって第1係止部84に当接した状態でその中に収容保持される。
【0049】
開閉レバー86を、第2係止部85から第1係止部84に移動させると、放出方向変更部材70は、図5(a)及び図7の実線部分に示すように、スプリング71の作用で上方に操作されてカバー部材57と当接して、非作用位置となる。このとき、本実施形態では、放出方向変更部材70が、カバー部材57とディスチャージカバー24の開口51によって形成される凹部88に収容されて、放出方向変更部材70の下面とディスチャージカバー24の天井部24aの下面とが面一状態となる。
【0050】
また、図7の破線部分に示すように、開閉レバー86を、第1係止部84から第2係止部85に移動させると、図5(b)に示すように、ケーブル61のインナーワイヤー62が横内方に引っ張られて、回転アーム59が支軸53の軸心周りに所定の角度で回転し(図5(b)の紙面反時計方向に回転)、リンクアーム58を横外方に所定距離移動させる。リンクアーム58が横外方に移動すると、放出方向変更部材70が支点軸56a,56bを結ぶ破線L3(図4参照)周りに所定の角度で回転するため(図5(b)の紙面時計方向に回転)、放出方向変更部材70がディスチャージカバー24の天井部24aから横外方斜め下方に向いた作用位置に変更される。
【0051】
以上の構成により、放出方向変更部材70は、ディスチャージカバー24の天井部24aの横方向中間部に備えられ、刈草排出口23から刈草の放出方向(図6の白抜き矢印)と交差し且つ放出方向変更部材70のモーアデッキ21側におけるディスチャージカバー24の部分に配置される横軸心(図4における2つの支点軸56a,56bを結ぶ破線L3)の周りに上下揺動自在に取り付けられる。
【0052】
そして、リンクアーム58、回転アーム59、ケーブル61、ケーシング80、連結部材82及び開閉レバー86を備えて構成される位置変更機構によって、放出方向変更部材70を、ディスチャージカバー24の天井部24aに沿った非作用位置、及びディスチャージカバー24の天井部24aから横外方斜め下方に向いた作用位置に変更できるように構成される。
【0053】
放出方向変更部材70を作用位置にすると、ディスチャージカバー24の前縦壁24d及び後縦壁24eと、放出方向変更部材70によってディスチャージカバー24の内部に小さな箱状空間Sが形成される。
【0054】
〔別実施形態〕
(1)前述の実施形態のケーシング80における係止部の数については、必要に応じて任意に設定することができる。例えば、図示しないが、前述の実施形態における第1係止部84と第2係止部85との間にさらにもう1つの係止部を設けて、放出方向変更部材70を第1作用位置、第2作用位置、非作用位置に変更可能に設定するように構成しても良い。また、開閉レバー86の基部等に摩擦保持機構等を設けて放出方向変更部材70を無段階でその傾斜角度を調節できるように構成しても良い。
【0055】
(2)前述の実施形態では、右の操縦レバー7にケーシング80及び開閉レバー86を設けた例を示したが、左の操縦レバー7にケーシング80及び開閉レバー86を設けてもよく、操縦レバー7以外の箇所、例えば運転座席6の横側部の操作レバー等が設けられた右又は左のサイド操作パネル等に設けてもよい。右又は左のサイド操作パネルに開閉レバー86を設けた場合、ケーシング80を廃止して開閉レバー86の基部の機構をサイド操作パネルの下面側でブラケット等を介して支持させて、開閉レバー86の操作部をサイド操作パネルの上側に延出するように構成してもよい。
【0056】
(3)前述の実施形態では、放出方向変更部材70及び開口51の前端と前縦壁24dとの間、並びに、放出方向変更部材70及び開口51の後端と後縦壁24eとの間には所定の間隔を設けてあるが、放出方向変更部材70及び開口51の前端と前縦壁24dとの間、又は、放出方向変更部材70及び開口51の後端と後縦壁24eとの間のいずれか一方にのみ所定の間隔を設けて構成しても良い。
また、前述の実施形態の放出方向変更部材70の前後方向の幅を、刈草排出口23の前後方向の幅Tよりも短くして、尚且つ、放出方向変更部材70の前後方向の位置を刈草排出口23の前後方向の幅T内に設定するように構成しても良い。尚、図6に示すように、刈草排出口23の前後方向の幅Tとは、バキュームプレート50の円弧部分50Rの右端と、バッフルプレート40の右端からの延長線との間をいう(図6参照)。
【0057】
(4)前述の実施形態における放出方向変更部材70の形状については、長方形状の平板に限定されるものではなく、他にも例えば、複数の突起が所定の間隔で前後方向に並べて配置される「くし状」の部材で構成しても良く、この場合には、放出方向変更部材70に複数の隙間が設けられることになり刈草の逃げ道が確保されるため、放出方向変更部材70の前後方向の幅を、ディスチャージカバー24の前後方向の幅と略同じ長さに設定することができる。
【0058】
(5)図9に示すように、前述の実施形態における放出方向変更部材70を、スプリング89の作用により作用位置(図9の破線部分)に付勢して、ケーブル61のインナーワイヤー62を横内方に引っ張ることで放出方向変更部材70を非作用位置(図9の実線部分)に変更するように構成しても良い。
本構成においては、ケーブル61を支持するケーブル受け73が、モーアデッキ21の刈草排出口23側の天井部21aの上面に設けた第1縦壁77に対して、支点75周りに回動可能に枢支連結されている。またケーブル受け73は、第1縦壁77よりも横内方側に設けた第2縦壁78に対して、トグルばね76を介して連結されている。
図9に示すように、ディスチャージカバー24を作用姿勢としたとき、トグルばね76は、ケーブル受け73を図9の紙面時計方向に回転させるように付勢する。このとき、ケーブル受け73は、その側面に設けられるストッパー74が第1縦壁77の側面に当接することで、所定の傾斜に保持される。
一方、図示しないが、ディスチャージカバー24を図8に示すような非作用姿勢とすると、ケーブル受け73が支点75周りに図9の紙面反時計方向に回転する。このとき、トグルばね76は、そのデッドポイントを越えるとばね付勢方向を反転させて、ケーブル受け73を図9の紙面反時計方向に回転させるように付勢する。
本構成によれば、放出方向変更部材70を作用位置としたとき、例えば、大量の刈草が刈草排出口23から排出される場合、その圧力にスプリング89の付勢力が負けてインナーワイヤー62のテンションが緩み、放出方向変更部材70が上方に揺動しようとする。そのため、刈草は放出方向変更部材70で詰まることなくスムーズに排出される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、前後輪の間にモーアを支持した乗用型草刈機だけでなく、前輪の前側にモーアを備える乗用型草刈機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
21 モーアデッキ
21a 天井部
23 刈草排出口
24 ディスチャージカバー
24a 天井部
70 放出方向変更部材
88 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーアデッキの横端部の刈草排出口に、前記刈草排出口からの刈草を横外方に案内するディスチャージカバーを備えるサイドディスチャージモーアであって、
刈草の放出方向変更部材を、前記ディスチャージカバーの天井部の横方向中間部に備えて、前記刈草排出口から刈草の放出方向と交差し且つ前記放出方向変更部材のモーアデッキ側における前記ディスチャージカバーの部分に配置される横軸心周りに上下揺動自在に取り付け、
前記ディスチャージカバーの天井部に沿った非作用位置、及び前記ディスチャージカバーの天井部から横外方斜め下方に向いた作用位置に、前記放出方向変更部材の位置を変更する位置変更機構を備えてあるサイドディスチャージモーア。
【請求項2】
前記ディスチャージカバーを、前記刈草排出口から横外方に延出して刈草を横外方に案内する作用姿勢、及び前記刈草排出口から上方に延出する非作用姿勢に変更可能に、前後方向の横軸心周りに上下揺動自在に取り付けてある請求項1に記載のサイドディスチャージモーア。
【請求項3】
前記放出方向変更部材の前後方向の幅を、前記ディスチャージカバーの前後方向の幅よりも短く設定してある請求項1又は2に記載のサイドディスチャージモーア。
【請求項4】
前記ディスチャージカバーの天井部に前記放出方向変更部材を収容可能な凹部を設けてある請求項1〜3のいずれかに記載のサイドディスチャージモーア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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