説明

シアノピリジンの製造方法およびデバイス

発明の主題はシアノピリジンの製造方法であって、(a)吸収セクションおよびストリッピングセクションを含むカラムを用意する工程であって、吸収セクションは、この吸収セクションを通過した液体がストリッピングセクションに入るようにストリッピングセクションの上方に位置している工程と、(b)シアノピリジンを含む気相を前記カラムに供給する工程と、(c)吸収セクションにおいて前記気相を水溶液に接触させて、シアノピリジンの少なくとも一部を水溶液に溶解させる工程と、(d)工程(c)で吸収セクションから得られた水溶液をストリッピングセクションにおいてストリッピングガスでストリッピングする工程と、(e)シアノピリジンを含む水溶液をカラムの底部から抜き出す工程とを含む方法である。発明のもう1つの主題は前記発明を行うためのデバイスである。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明はアルキルピリジンからのシアノピリジンの製造方法およびデバイスに関する。
【0002】
発明の背景
シアノピリジンは医薬品中間体および他の化合物の製造にとって重要な出発原料である。3−メチルピリジン(3−ピコリン)は、ビタミンB−複合体の必須ビタミン(ビタミンB3)であるニコチン酸アミドおよびニコチン酸の工業生産の中間体である。
【0003】
メチルピリジンからのシアノピリジンの製造方法は当技術において知られている。一般に、シアノピリジンは触媒の存在下でアンモニアおよび酸素により酸化される。このプロセスは「アンモ酸化」または「酸化性アンモノリシス」と呼ばれる。担体材料上にコーティングされうる触媒成分の特定の組み合わせを含む種々の触媒が知られている。
【0004】
WO 03/022819は、対応するアルキル置換ピリジンのアンモ酸化による複素環式芳香族ニトリルの製造方法を開示している。また、アルキルピリジンの酸化性アンモノリシスのための方法および触媒はWO 95/32055に開示されている。
【0005】
アンモ酸化反応のあと、気体混合物が得られ、これはシアノピリジン、アンモニア、残留メチルピリジン、副生物たとえばピリジン、二酸化炭素、シアン化水素、水ならびに反応流のガス、たとえば酸素および窒素を含む。そのため、シアノピリジンをこの混合物から単離することが必要である。生成物を他の成分から分離するための種々の方法が当技術において知られている。
【0006】
当技術では、シアノピリジンを有機溶媒でクエンチしかつ抽出する、シアノピリジンを単離する方法が知られている。
【0007】
US 2,861,299は反応生成物からシアノピリジンを得る方法を開示しており、ここでは反応生成物を冷却凝縮器、乾燥アイスキャッチャーおよびグラスウールフィルタに通し、収集器において不活性溶媒たとえばベンゼンを使用して抽出する。クエンチング剤としてのベンゼンによる抽出はUS 3,929,811にも開示されている。
【0008】
しかしながら、有機クエンチング剤の使用は不都合である。なぜなら、有機溶媒たとえばベンゼンは比較的高価であり、毒性がありかつ可燃性であるからである。さらに、工業的クエンチングプロセスにおける有機溶媒の使用には問題がある。なぜなら、気相が有機溶媒で富化され、室温であっても爆発性であるからである。したがって、クエンチング前およびその間、反応生成物を低温まで冷却しなければならない。廃ガスは高レベルの有機溶媒を含み、処理しなければならない。有機溶媒によるクエンチング方法はそのため面倒であり、多数のプロセス工程を必要とする。
【0009】
US 2008/0039632はシアノピリジンを含む気体反応生成物を主に非水のクエンチング流体でクエンチする方法を開示している。クエンチング流体はアンモ酸化反応の出発化合物であるピコリンを含み、そのためリアクタに再び移すことができる。しかしながら、ピコリンは空気と混合した場合には爆発性であり、そのためこのプロセスは、温度および酸素含有量を下げこれらを制御するなどの特定の安全処置を必要とする。分離工程においてピコリンを冷却したあと、それをリアクタに運んで再加熱しなければならず、そのためこのプロセス全体は大量のエネルギーを必要とする。
【0010】
有機溶媒でのクエンチに関連する問題を解決するために、有機溶媒の使用が必要ない方法が当技術において開発されてきた。
【0011】
CN 101045706 Aは、3−シアノピリジンの水溶液を得るために、アンモ酸化反応から得られる気体生成物を2つの吸収塔内で循環水溶液に接触させる方法を開示している。シアノピリジンは高温および高濃度でニコチン酸へ加水分解されるので、吸収塔内および生成物中の3−シアノピリジンの濃度を10重量%未満に制御する必要がある。さらに、循環水溶液の温度、およびそれゆえに2つの吸収塔内の温度を50℃未満、好ましくは15〜30℃に制御することが必要である。このような低い濃度および温度を選択する場合、95%を超える生成物が回収される。しかしながら、最終溶液中の生成物の濃度は比較的低く、生成物をより高い濃度で得ることが望ましいだろう。さらに、加水分解による5%というシアノピリジンの損失はそれでもなお比較的高い。そこからシアノピリジンを分離した気体生成物はこの方法で再使用されない。残留ピコリンは失われ、この方法は少なくとも2つの吸収塔を必要とする。
【0012】
発明の基礎を成す課題
発明の基礎を成す課題は、上述の欠点を克服する、シアノピリジンの調製方法を提供することにある。
【0013】
詳細には、発明の基礎を成す課題は、シアノピリジンの改良された調製方法であって、シアノピリジンを吸収するための有機溶媒の使用なしに、シアノピリジンを気体混合物から分離する方法を提供することにある。シアノピリジンは高収率で得られるであろう。この方法中のシアノピリジンの加水分解は低いレベルに保たれるであろう。
【0014】
発明の基礎を成すもう1つの課題は、シアノピリジンの調製方法であって、シアノピリジンが高純度で得られる方法を提供することにある。詳細には、シアノピリジンは高濃度の水溶液として得られるであろう。
【0015】
発明の基礎を成すもう1つの課題は、閉じた循環式のプロセスとして行うことができるシアノピリジンの調製方法を提供することにある。詳細には、水溶液がこの方法で保持されるであろう。シアノピリジンの分離後に残る気体混合物はこの方法において少なくとも一部保持されるであろう。
【0016】
本発明の基礎を成すもう1つの課題は、気体混合物からシアノピリジンを調製するための比較的単純なデバイスを提供することにある。このデバイスは少数の部材を含むであろう。それは単純な方法でおよび長期間にわたって連続的に使用可能であろう。
【0017】
要するに、前記方法およびデバイスは、シアノピリジンの精製を、低レベルの廃棄物でおよびそれゆえに環境的に受容可能な方法で可能にする。
【0018】
発明の開示
驚くべきことに、発明の基礎となる課題は特許請求の範囲に記載した方法およびデバイスによって解決される。さらなる発明の実施形態はこの説明を通じて開示する。
【0019】
発明の主題はシアノピリジンの製造方法であって、
(a)吸収セクションおよびストリッピングセクションを含むカラムを用意する工程であって、吸収セクションは、この吸収セクションを通過した液体がストリッピングセクションに入るように、ストリッピングセクションの上方に位置している工程と、
(b)シアノピリジンを含む気相を前記カラムに供給する工程と、
(c)吸収セクションにおいて前記気相を水溶液に接触させて、シアノピリジンの少なくとも一部をこの水溶液中に溶解させる工程と、
(d)工程(c)において吸収セクションから得られた水溶液を、ストリッピングセクションにおいてストリッピングガスでストリッピングする工程と、
(e)シアノピリジンを含む水溶液を前記カラムの底部から抜き取る工程と
を含む方法である。
【0020】
前記カラムは好ましくは工業用カラムである。吸収カラムおよびストリッピングカラムは工業的化学プロセスデバイスの一般的な部材であり、当技術において知られている。本発明の方法では、吸収セクションおよびストリッピングセクションを含むカラムを使用する。しかしながら、発明の方法は実験室規模でも行うことができる。
【0021】
発明の方法では、水溶液は、カラムの頂部またはカラムの頂部近傍で導入され、吸収セクションおよびストリッピングセクションを通過し、カラムの底部または底部近傍から抜き出される。カラムを頂部から底部へと通過する際、水溶液はシアノピリジンを吸収する。
【0022】
カラムの底部またはカラムの底部近傍で導入されるストリッピングガスは、ストリッピングセクションおよび吸収セクションを通過し、カラムの頂部またはカラムの頂部近傍で外に出される。要するに、ガス流と液体流とはカラム内を互いに逆方向に動きうる。
【0023】
発明によると、上で概説したように吸収セクションがストリッピングセクションと併用されるあらゆるデバイスがカラムとして定義される。ある実施形態では、カラムは均一な金属外壁を有する単一塔である。もう1つの実施形態では、吸収セクションおよびストリッピングセクションは別々のカラム、すなわち吸収カラムおよびストリッピングカラム内にあり、両方のカラムは接続されており、吸収カラムは、両方のカラムが共にカラムを形成するように、ストリッピングカラム上に配置されている。このように、必要な気体および液体の流れならびにシアノピリジンの吸収およびストリッピングの制御が可能となるのであれば、カラムの設計および幾何は当業者の裁量である。
【0024】
吸収セクションは当技術で知られている典型的な液体/気体吸収セクションである。吸収セクションの頂部またはその上方に、水、好ましくは純水を添加するための入口がある。吸収セクションは、水溶液を下向きゆっくりと流すまたは垂らすためのデバイスを含む。吸収セクションにおける上向きに流れるガスと下向きに流れる液体との間の十分な接触を可能にする設計およびデバイスは当技術で知られている。好ましくは、吸収セクションは棚またはプレートを含み、これらは当技術においてバブルキャップトレイまたはプレートとして知られている。カラムは2〜40個または5〜20個の棚またはプレートを含みうる。一般に、より多くの棚が設けられると、より多くのシアノピリジンが溶解する。吸収セクションでの気体と液体との接触は他の手段、たとえば充填材料でも強化することができる。充填材料は注入(poured)充填物または規則充填物のいずれでもよい。規則充填物が好ましい。なぜならそれらは特に液体/ガスの比が低い場合に非常に有効であるからである。
【0025】
発明の好ましい実施形態では、吸収セクション内の液体の温度は40〜90℃、好ましくは50〜80℃である。この温度は、それがガス流の飽和温度である場合、積極的な冷却なしにカラム内で達成できる。
【0026】
発明の好ましい実施形態では、工程(b)において、前記気相をカラムにこのカラムの吸収セクションの下でありかつストリッピングセクションの上である位置で供給する。それにより、この気相は吸収セクション内を上向きに流れてこのカラムの頂部にあるまたはその近傍にある出口に達しうる。この気相はストリッピングセクションに入らないまたは多くは入らない。
【0027】
ストリッピングセクションでは、成分が水溶液から蒸気流によって除去される。液体をストリッピングするためのカラムおよびデバイスは当技術において知られている。好ましい実施形態では、ストリッピングセクションは充填カラムまたは棚段式カラムである。吸収セクションを通過した、シアノピリジンの少なくとも一部を含む水溶液がストリッピングセクションに入る。ストリッピングセクションを通って下向きに垂れるまたは流れる際、液体はストリッピングガスに接触する。ストリッピングガスは、カラムの底部またはこの底部近傍でありかつストリッピングセクションの下方またはその底部近傍であるところに導入される。ストリッピングセクションは液相と蒸気相との接触を高める手段を含む。好ましい実施形態では、ストリッピングセクションは棚段式塔である。棚では、液体は滞ることなる水平方向に行き来し、一方で蒸気は穴および棚を通って泡立つ。そうして、液体と蒸気相との接触面積が大きくなる。もう1つの実施形態では、またはさらに、ストリッピングセクションは充填カラムでありえ、好ましくは規則充填物でありうる。発明によって使用されるストリッピングセクションはこれらの特定の実施形態に限定されず、水溶液を揮発性成分からストリッピングする、当技術において知られているあらゆる設計が適用可能である。
【0028】
ストリッピングセクションでは、水よりも揮発性の高い成分がシアノピリジン水溶液から除去される。これらは水溶液中での分圧が気相でのそれらの分圧に比べて高い成分である。具体的には、アンモニアがストリッピングセクションで除去される。アンモニアはシアノピリジンの加水分解を引き起こすので、これは有利である。さらに、気体成分、たとえばN2、二酸化炭素、シアン化水素、酸素ならびに芳香族化合物、たとえばピリジンおよびメチルピリジンが除去される。
【0029】
発明の好ましい実施形態では、ストリッピングガスは水蒸気である。前記水溶液の水蒸気によるストリッピングは、さらなる気体成分をこの方法に導入して水溶液中に溶解させるものではないので有利である。水蒸気は凝縮して水溶液の一部となることができる。水蒸気は既知の手段で生成できる。発明の好ましい実施形態では、水蒸気はボイラーから得られる。
【0030】
発明の好ましい実施形態では、ストリッピングセクション内の温度は圧力に依存して90〜115℃、好ましくは100〜110℃である。液相中での分圧が気相でのそれらの分圧よりも高い成分が水溶液からストリッピングされる。好ましい実施形態では、カラム内の圧力を大気圧に等しくまたはそれよりもわずかに高くまたはそれよりもわずかに低く維持する。たとえば、この圧力は500〜2000、または700〜1700、または1000〜1300mbarでありうる。
【0031】
水溶液はカラムの底部に集められる。この水溶液はシアノピリジンを含んでいる。本発明の好ましい実施形態では、この水溶液を、抜き出し(e)の間および/またはそのあとに50℃未満、好ましくは40℃未満の温度まで冷却器によって冷却する。水溶液の冷却はシアノピリジンの加水分解を防止する。
【0032】
シアノピリジンは高温で加水分解を受けうるので、シアノピリジンをカラムにおいて高められた温度で保持する合計時間を短縮して最小にすべきである。ストリッピングセクションを通過したあとに水溶液がカラムの底部に入る際、溶液を可能な限り早くカラムから抜き出すべきである。上で概説したような吸収およびストリッピングセクションを有するカラムを使用する場合、比較的短い時間でシアノピリジンを気体反応生成物から抽出することが可能である。たとえば、反応生成物をカラムに供給することとシアノピリジンを抜き出すこととの間の平均期間は1時間未満に調節されうる。高められた温度がカラムに適用されても、加水分解のせいによるシアノピリジンの損失は低く、たとえば約2重量%未満である。好ましくは、シアノピリジンの合計収率は、カラムに供給した合計のシアノピリジンに基づくと98%を超える。
【0033】
発明の好ましい実施形態では、工程(e)で抜き出した水溶液は15重量%を超える、または好ましくは25重量%を超えるもしくは30重量%を超えるシアノピリジンを含む。工程(e)で抜き出した水溶液は15〜45または25〜40重量%のシアノピリジンを含みうる。続いて、シアノピリジンは水から既知の方法によって分離できる。好ましい実施形態では、シアノピリジンは有機溶媒で、たとえばトルエンで抽出される。
【0034】
発明の好ましい実施形態では、シアノピリジンを含む気相は、アルキルピリジンの酸化性アンモノリシスが行われるリアクタ内で製造される。この反応はアルキルピリジンを触媒にアンモニアおよび酸素の存在下で接触させる工程を含む。それゆえに、この方法は酸化性アンモノリシス(アンモ酸化)である。通常、酸素はこのプロセスに空気によって供給される。アンモ酸化反応から得られる気体生成物は窒素(主成分として)、二酸化炭素、水蒸気、アンモニア、酸素および生成物であるシアノピリジンを含む。さらに、未反応のアルキルピリジンならびに副生物としてのピリジンおよびこれらの誘導体が存在する。シアノピリジンをアルキルピリジンから酸化性アンモノリシスによって触媒の存在下で製造する方法は当技術において知られている。このような方法はたとえばWO 03/022819、WO 2005/016505、WO 2004/071657またはEP 0726092 A1に開示されている。これらに開示されているシアノピリジンをアルキルピリジンから製造する方法は参照により組み込まれている。
【0035】
アンモ酸化反応のあと、気相は温度が高く、通常約300〜約450℃である。リアクタからの気相はカラムに直接供給することができるし、または工程(b)においてそれをカラムに供給する前に予備冷却することができる。たとえば、この気相は約150〜200℃の温度まで冷却することができる。予備冷却中に得られるエネルギーはこの方法全体で再使用できる。
【0036】
発明の好ましい実施形態では、リアクタ内でアルキルピリジンが気相で触媒に接触する。発明の好ましい実施形態では、アルキルピリジンは3−メチルピリジンであり、それゆえにシアノピリジンは3−シアノピリジンである。発明の他の実施形態では、アルキルピリジンは1−メチルピリジンでありシアノピリジンは1−シアノピリジンであるか、またはアルキルピリジンは2−メチルピリジンでありシアノピリジンは2−シアノピリジンである。また、複数種のアルキルピリジンの混合物を出発成分として使用することも可能である。さらに、2つ以上のアルキル部分を有するアルキルピリジン、たとえばルチジンを使用してもよい。
【0037】
発明の好ましい実施形態では、吸収セクションを通過した気相はカラムの頂部で外に出されて凝縮器に移され、ここで含水凝縮物が得られる。さらに、蒸気点が低い有機成分が収集される。好ましくは、残留シアノピリジンは、存在する場合、この工程で凝縮する。凝縮器の温度は好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜40℃に保たれる。
【0038】
特定の実施形態では、凝縮器は冷媒で冷却される熱交換器である、またはそれはカラムであり、ここでは凝縮物がこのカラム中で循環することが維持される。凝縮物は循環中に冷却される。
【0039】
発明の好ましい実施形態では、含水凝縮物をカラムの吸収セクションに再供給する。含水凝縮物をカラムに再供給する場合、水溶液を捨てることなしにこの方法全体を行うことができる。
【0040】
発明の好ましい実施形態では、凝縮器を通過した気相の少なくとも一部をリアクタに導入する。この気相をリアクタに再供給する場合、廃ガスの全量を著しく削減することができる。しかしながら、反応中に反応ガスは酸素が減少するので、気相の一部を新鮮な空気で交換し、それにより酸素レベルを必要なレベルに適合させるべきである。これは約20%の気相を新鮮な空気と交換することによって達成できることが分かっている。好ましい実施形態では、凝縮器からの約5%〜40体積%または10%〜30体積%の気相を、それをリアクタに再供給する前に、空気で交換する。
【0041】
発明の好ましい実施形態では、このプロセスでの圧力は圧縮器または換気装置によって調節される。
【0042】
発明の好ましい実施形態では、この方法は閉鎖式プロセスであり、ここでは工程(e)においてカラムから抜き出されない水相が還流される、および/またはここでは気相の少なくとも一部、好ましくは50体積%超が還流される。発明によると、「閉鎖式プロセス」は、論拠が示されない限り、本質的に気体も液体も抜き出されないまたは添加されないことを意味する。閉鎖式プロセスでは、工程(e)で抜き出した水は交換される。水をカラムの頂部で吸収セクションへと添加することが好ましいが、他の位置に水を添加することもできる。詳細には、廃液を捨てないまたは少量の廃液のみを捨てる。好ましくは、水溶液が循環し含水生成物がカラムの底部で得られる。気体の圧力はバルブで制御できる。
【0043】
発明の方法はシアノピリジンの製造方法である。これは少なくとも1種のシアノピリジンを製造することを意味する。また、この方法はシアノピリジンの水溶液の製造方法、シアノピリジンの単離方法およびシアノピリジンの精製方法でもある。
【0044】
発明のもう1つの主題はシアノピリジンの水溶液の製造デバイスであって、
吸収セクションおよびストリッピングセクションを含むカラムであって、吸収セクションがこの吸収セクションを通過した液体がストリッピングセクションに入るようにストリッピングセクションの上方に位置しているカラムと、
シアノピリジンを含む気相をカラムに供給する手段であって、
吸収セクションは、気相を水溶液に接触させて、それによりシアノピリジンの少なくとも一部をこの水溶液に溶解させるように適合されており、
ストリッピングセクションは、吸収セクションからの水溶液をストリッピングガスでストリッピングするように適合されている
手段と、
カラムの底部にある、前記水溶液を抜き出す手段と
を含むデバイスである。
【0045】
発明のデバイスは発明の方法を実施するために適用可能であり、そうするように適合されている。したがって、発明の方法に関連させて上で概説した特定の実施形態は本発明のデバイスに適用可能である。発明のもう1つの主題は発明の方法での発明のデバイスの使用である。
【0046】
発明の好ましい実施形態では、カラムは、吸収セクションを通過した気相を凝縮器に移してここで含水凝縮物を得る手段をこのカラムの頂部にさらに含む。
【0047】
発明の好ましい実施形態では、凝縮器は含水凝縮物を凝縮器からカラムの吸収セクションに供給する手段および/または凝縮器を通過した気相をリアクタに移す手段を含む。
【0048】
発明の好ましい実施形態では、このデバイスは水蒸気をストリッピングセクションに供給するためのボイラーおよび/または抜き出し(e)のあとの水溶液を冷却するための冷却器をさらに含む。発明の好ましい実施形態では、デバイスはシアノピリジンをさらに含む。このデバイスが使用中のときは、それはシアノピリジンを含むカラム内の気体反応生成物とシアノピリジンを含むカラム内の水溶液とを含む。
【0049】
このデバイスは、気体および液体を移す手段、たとえばパイプを含み、それぞれ入口および出口を有する。パイプ、入口および出口は流れを調節および制御する制御手段、たとえばバルブおよびポンプを含んでもよい。ガス流は圧縮器および換気装置によって調節できる。
【0050】
発明の方法およびデバイスは上述の問題を解決する。発明は、高純度のシアノピリジン水溶液を得るための、単純で有効な方法およびデバイスを提供する。シアノピリジンガスの有機溶媒でのクエンチは必要ない。発明の方法は、シアノピリジンの加水分解を低レベル、たとえば2%未満または1%未満に維持しながら、シアノピリジンの精製を可能にする。理論に縛られないが、加水分解の減少は、溶液からアンモニアを減少させ(そうしないとストリッピング工程での加水分解が増加するであろう)、シアノピリジンのこの方法における滞留時間を低く保つ(なぜならそれは循環しないからである)ことによって達成されると考えられる。そうすることによって、カラムにおける吸収およびストリッピングを比較的高温で行っても、加水分解をほとんど防ぐことができる。シアノピリジンを含む水溶液が循環するCN 101045706の方法とは対照的に、全体の温度および水溶液中の生成物の濃度を低く保つ必要はない。
【0051】
最終的にカラムから得られるシアノピリジン水溶液の濃度は高いので、この水溶液からのシアノピリジンの、たとえば抽出による分離は単純な方法および低いエネルギー入力で行うことができる。抽出溶媒の量を減らすことができる。
【0052】
この方法およびデバイス中の含水液体は循環するので、この方法で生じる廃水の量は低い。同様に、廃ガスの大部分がリアクタに再導入されるので、生じる廃ガスの量は低い。
【0053】
そしてさらに、未反応のアルキルピリジンおよびアンモニアが凝縮器を通過したあとにリアクタに再導入されるので、アルキルピリジンからのシアノピリジンの収率は高い。
【0054】
図1は好ましい発明のデバイスを示している。部材は単に例示したものであり、特許請求の範囲内で、省略することもできるしまたは代わりの部材と置き換えることもできる。
【0055】
図1に示したデバイスはリアクタ(1)を含み、ここでシアノピリジンを含む気体生成物が得られ、これをカラム(2)に向ける。気体生成物は連結部分(10)を通ってカラム(2)に移される。任意に、気体生成物は冷却器(26)で冷却される。気体生成物はカラム(2)のそのほぼ中心である上部の吸収セクション(3)と下部のストリッピングセクション(4)との間に導入される。カラムの底部には、ボイラー(5)が存在しえて、これは熱い水蒸気をカラムの底部近傍に導入する。カラムの底部には、シアノピリジンを含む水溶液を抜き出すための出口および連結部分(11)が存在する。この溶液を冷却器(6)に通すことができ、さらなる使用のために連結部分(14)を通して単離することができる。カラム(2)の頂部には、吸収セクション(3)を通過してシアノピリジンが減少した気相を外に出すための出口および連結部分(15)が存在する。
【0056】
前記気相は連結部分(15)を通って凝縮器(7)に達する。凝縮器(7)は非揮発成分、すなわち水およびシアノピリジンを凝縮させるように調節される。揮発成分はリアクタ(1)に連結部分(17)および(20)によって再び移される。気相は圧縮器または換気装置(8)によってリサイクルされる。廃ガスの一部を連結部分(18)を通して捨てることができ、これを連結部分(19)を通して新鮮な空気と交換することができる。連結部分(18)および(19)はガスサイクルの任意の場所に設置できる。凝縮器(7)からの凝縮した含水相は連結部分(16)を通してカラム(2)の頂部に再び移される。必要な場合には、ポンプが連結部分(16)を助ける。含水凝縮物をカラム(2)の頂部にまたはその頂部近傍に再導入し、それによりこの含水相が吸着セクション中の吸収液体として働く。シアノピリジン溶液と共に抜き出される量の水は新鮮な水で交換される。それはこの方法の任意の場所に、たとえば連結部分(21)を通して添加されうる。
【0057】
実施例:
発明の方法を図1に示す部材を有する工業的デバイスで行った。リアクタ内で、シアノピリジンをメチルピリジンからアンモ酸化反応で製造した。デバイス内の成分、温度、質量流量および圧力を表1に示すように各区画について調節した。表の見出しは、図1に示しかつ上述の対応の記載で説明した各連結部分の番号を示している。たとえば、流れ第14は最終生成物流である。結果として、29.7%(重量/重量)のシアノピリジンの水溶液が得られ、これは非常に少量のみの副生物を含む。この例から、発明の方法およびデバイスが高い純度のシアノピリジンの水溶液の製造を可能にすることが分かる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノピリジンの製造方法であって、
(a)吸収セクション(3)およびストリッピングセクション(4)を含むカラム(2)を用意する工程であって、前記吸収セクションは、前記吸収セクション(3)を通過した液体が前記ストリッピングセクション(4)に入るように前記ストリッピングセクションの上方に位置している工程と、
(b)シアノピリジンを含む気相を前記カラム(2)に供給する工程と、
(c)前記吸収セクション(3)において前記気相を水溶液に接触させて、シアノピリジンの少なくとも一部を前記水溶液中に溶解させる工程と、
(d)工程(c)において前記吸収セクション(3)から得られた前記水溶液を、ストリッピングセクション(4)においてストリッピングガスでストリッピングする工程と、
(e)シアノピリジンを含む水溶液を前記カラム(2)の底部から抜き出す工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記吸収セクション(3)の温度は40〜90℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ストリッピングガスは水蒸気である請求項1および2の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項4】
前記ストリッピングセクション(4)の温度は90〜115℃である請求項1〜3の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶液を、前記抜き出し(e)の間および/またはそのあとに、50℃未満の温度まで冷却器(6)によって冷却する請求項1〜4の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項6】
シアノピリジンを含む前記気相を、アルキルピリジンの酸化性アンモノリシスを行うリアクタ(1)内で製造する請求項1〜5の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルキルピリジンは3−メチルピリジンであり、前記シアノピリジンは3−シアノピリジンである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記吸収セクション(3)を通過した前記気相を前記カラム(2)の頂部から外に出し、凝縮器(7)に移し、ここで含水凝縮物を得る請求項1〜7の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項9】
前記含水凝縮物を前記カラム(2)の前記吸収セクションに供給するおよび/または前記凝縮器(7)を通過した前記気相の少なくとも一部を前記リアクタ(1)に供給する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は閉鎖式プロセスであり、工程(e)において前記カラム(2)から抜き出されない前記水相を還流するおよび/または前記気相の少なくとも一部、好ましくは50体積%超を還流する請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
シアノピリジンの製造デバイスであって、
吸収セクション(3)およびストリッピングセクション(4)を含むカラム(2)であって、前記吸収セクション(3)は、前記吸収セクション(3)を通過した液体が前記ストリッピングセクション(4)に入るように前記ストリッピングセクション(4)の上方に位置しているカラム(2)と、
シアノピリジンを含む気相を前記カラム(2)に供給する手段(10)であって、
前記吸収セクション(3)は、前記気相を水溶液に接触させて、それによりシアノピリジンの少なくとも一部を前記水溶液に溶解させるように適合されており、
前記ストリッピングセクション(4)は、前記吸収セクション(3)から得られた水溶液をストリッピングガスでストリッピングするように適合されている
手段(10)と、
カラム(2)の底部にある、シアノピリジンを含む水溶液を抜き出す手段(11)と
を含むデバイス。
【請求項12】
前記カラム(2)は、前記カラム(2)の頂部にある出口と、前記カラム(2)の頂部にある、前記吸収セクション(3)を通過した前記気相を凝縮器(7)に移し、ここで含水凝縮物を得る手段(15)とをさらに含む請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記凝縮器(7)は、前記含水凝縮物を前記凝縮器(7)から前記カラム(2)の前記吸収セクション(3)に供給する手段(16)と、前記凝縮器(7)を通過した前記気相を前記リアクタ(1)に移す手段(17、20)とを含む請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
水蒸気を前記ストリッピングセクション(4)に供給するボイラーおよび/または抜き出し(e)のあとの前記水溶液を冷却する冷却器(6)をさらに含む請求項11〜13の少なくとも1項に記載のデバイス。
【請求項15】
シアノピリジンを含む請求項11〜14の少なくとも1項に記載のデバイス。

【図1】
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【公表番号】特表2013−507405(P2013−507405A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533514(P2012−533514)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006151
【国際公開番号】WO2011/045003
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(391003864)ロンザ リミテッド (36)
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
【Fターム(参考)】