説明

シューズのアッパー構造

【課題】 足の背屈運動を制限することなく、シューズ着用者に足の背屈動作を認識させることができるアッパー構造を提供する。
【解決手段】 シューズ1のアッパー構造において、伸縮性材料から構成されかつ着用者の足の少なくともつま先部を覆うアッパー本体3と、アッパー本体3において足の足指に対応する位置に設けられかつその周囲がアッパー本体3により囲繞されるとともに、非伸縮性材料から構成され、足の背屈時に足指がアッパー本体3に接触した際に足指に対して上方から圧接する足指圧接部材4とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズのアッパー構造に関し、詳細には、シューズ着用者に足の背屈動作を認識させることができるようにするための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人が素足で歩く際には、人は足の底屈動作および背屈動作を交互に行うことにより、歩行を行っている。ところが、シューズを履いた際には、シューズのアッパーやソールにより足の自由度が制限されるため、足本来の底屈や背屈の動きが損なわれることになる。
【0003】
このため、シューズを履く生活に慣れた現代人は、足および足指の活動が衰えているといわれている。その代表例が、浮趾(指先が地面に接地せずに浮いた状態)と呼ばれる症状である。
【0004】
その一方、高齢者は、足の底屈および背屈動作が苦手であり、そのため、段差に躓いて転倒することが多い。このような高齢者についても、とくに足の背屈動作を認識させて、足および足指の動きを活性化させることができれば、歩行時の転倒を防止できるようになると考えられる。また、交通事故などによって下肢のリハビリが必要な患者についても、同様に、とくに足の背屈動作を認識させて、足および足指の動きを活性化させることができれば、下肢機能の回復につながることが期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、シューズ着用者の足の背屈運動を制限することなく、シューズを履いて歩行または走行した際にシューズ着用者に足の背屈動作を認識させることで、足および足指の動きを活性化させることができ、その結果、足本来の動きを取り戻させることができるシューズ用アッパー構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係るシューズ用アッパー構造は、伸縮性材料から構成され、着用者の足の少なくともつま先部を覆うアッパー本体と、アッパー本体において足の足指に対応する位置に設けられかつその周囲がアッパー本体により囲繞されるとともに、非伸縮性材料から構成され、足の背屈時に足指がアッパー本体に接触した際に足指に対して上方から圧接する足指圧接部材とを備えている。
【0007】
請求項1の発明によれば、着用者の足の少なくともつま先部を覆うアッパー本体が伸縮性材料から構成されているので、足の底屈時につま先部が屈曲する際に、アッパー本体が伸縮することで、足および足指の底屈の動きがアッパー本体により阻害されることなく、足の底屈運動を促進できる。
【0008】
また、足の背屈時には、足指がアッパー本体に接触したとき、非伸縮性材料から構成された足指圧接部材が足指に上方から圧接する。これにより、着用者は、足の足指がアッパー本体に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。その結果、着用者は、足および足指の動きを活性化できる。
【0009】
しかも、この場合には、足指圧接部材の周囲が、伸縮性を有するアッパー本体により囲繞されていることにより、足の背屈時に足指がアッパー本体に接触したとき、足指圧接部材の周囲のアッパー本体が伸長することで、足および足指の背屈の動きがアッパー本体により阻害されることなく、足指がアッパー本体に接触している時間を長くして、足の背屈運動を促進できるとともに、足指圧接部材が足の足指に必要以上に圧力を及ぼすのを防止できる。
【0010】
ところで、実公平4−18405号公報の第1図および第2図には、靴甲被(1)のつま先部(2)の内面に複数のつま先芯材(4、5)を積層したものが記載されている。
【0011】
しかしながら、この場合には、つま先芯材の先端縁部がソール先端部まで延びているため、足の背屈時に足指がつま先芯材に接触したとき、つま先芯材の周囲の靴甲被がほとんど伸長することができず、足および足指の背屈の動きが靴甲被により阻害されることになる。また、このとき、つま先芯材が足の足指に必要以上に大きな圧力を及ぼすことになり、シューズ着用者に違和感や苦痛を与えることになる。
【0012】
また、実公平6−49205号公報の第1図ないし第5図には、スポーツシューズ(1)の甲被部材(2)のつま先部分(4)につま先補強部材(5)を設けたものが記載されている。このつま先補強部材(5)は、本体部分(5a)と、その上に配置された補強部材(5b)とを有している。
【0013】
しかしながら、この場合には、つま先補強部材の先端縁部がソール先端部に連結されているため(上記公報の第5図参照)、足の背屈時に足指がつま先部分に接触したとき、つま先補強部材の周囲の甲被部材がほとんど伸長することができず、足および足指の背屈の動きが甲被部材により阻害されることになる。また、このとき、つま先補強部材が足の足指に必要以上に大きな圧力を及ぼすことになり、シューズ着用者に違和感や苦痛を与えることになる。
【0014】
これに対して、本願の請求項1の発明では、上述したように、足指圧接部材の周囲が、伸縮性を有するアッパー本体により囲繞されていることにより、足の背屈時に足指がアッパー本体に接触したとき、足指圧接部材の周囲のアッパー本体が伸長することで、足および足指の背屈の動きがアッパー本体により阻害されることなく、足の背屈運動を促進でき、足指圧接部材が足の足指に必要以上に圧力を及ぼすのを防止できる。
【0015】
請求項2の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、足の各足指に対応する位置に配置された複数個の部材から構成されている。
【0016】
この場合には、足の背屈時に各足指がアッパー本体に接触したとき、非伸縮性材料から構成された各足指圧接部材が、それぞれ対応する各足指に上方から圧接する。これにより、着用者は、足の各足指がアッパー本体に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。その結果、着用者は、足および各足指の動きを活性化できる。
【0017】
請求項3の発明では、請求項2において、複数個の部材が、隣り合う各部材の間に設けられた連結部を介して互いに連結されている。
【0018】
この場合には、足指圧接部材を構成する各部材が連結部を介して連結されていることにより、足の背屈時に各足指がアッパー本体に接触したとき、各部材の周囲のアッパー本体の伸長量を抑制して、足指圧接部材から足の各足指に作用する圧力を大きめに調整できる。その結果、足指の感覚が鈍くなった高齢者やリハビリの患者に好適のアッパー構造を実現できる。
【0019】
請求項4の発明では、請求項2において、複数個の部材が互いに分離して設けられている。
【0020】
この場合には、足指圧接部材を構成する各部材の周囲が、伸縮性を有するアッパー本体により囲繞されていることにより、足の背屈時に各足指がアッパー本体に接触したとき、各部材の周囲のアッパー本体がそれぞれ独立して伸長することができ、その結果、各足指の背屈運動を一層促進できるようになる。
【0021】
請求項5の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、足の各足指に対応する位置を覆う、足幅方向に延びる帯状の部材から構成されている。
【0022】
この場合には、請求項3の発明と同様に、足の背屈時に各足指がアッパー本体に接触したとき、足指圧接部材の周囲のアッパー本体の伸長量を抑制して、足指圧接部材から足の各足指に作用する圧力を大きめに調整でき、その結果、足指の感覚が鈍くなった高齢者やリハビリの患者に好適のアッパー構造を実現できる。
【0023】
請求項6の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、足の足指の先端に対応する位置に設けられている。
【0024】
この場合、シューズ着用者は、足の背屈時には、足指の先端でアッパー本体に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。
【0025】
請求項7の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、足の少なくとも第1趾の末節骨および基節骨骨頭部、ならびに第2趾の末節骨骨底部および中節骨を覆う位置に配置されている。
【0026】
この場合、シューズ着用者は、足の背屈時には、主に第1趾末節骨および基節骨骨重部ならびに第2趾末節骨骨底部および中節骨でアッパー本体に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。
【0027】
請求項8の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、アッパー本体よりも高硬度の材料から構成されている。
【0028】
この場合、足の背屈時には、足指がアッパー本体に接触したとき、非伸縮性の高硬度材料からなる足指圧接部材が足指に上方から接触するが、このとき、足指圧接部材が硬いため、足指に強く圧接し、これにより、着用者は、足の足指がアッパー本体に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。その結果、着用者は、足および足指の動きを活性化できる。
【0029】
請求項9の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、アッパー本体よりも高剛性の材料から構成されている。
【0030】
この場合、足の背屈時には、足指がアッパー本体に接触したとき、非伸縮性の高剛性材料からなる足指圧接部材が足指に上方から圧接するが、このとき、足指圧接部材が伸びにくいため、足指に強く圧接し、これにより、着用者は、足の足指がアッパー本体に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。その結果、着用者は、足および足指の動きを活性化できる。
【0031】
請求項10の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、アッパー本体の表面上に固着されている。また、請求項11の発明では、請求項1において、足指圧接部材が、アッパー本体の表面と裏面との間に介装されている。
【0032】
これらいずれの場合であっても、足指圧接部材は、アッパー本体の裏面には設けられないので、足の背屈時に着用者の足指が足指圧接部材に直接接触することはなく、これにより、背屈時に着用者が違和感や苦痛を覚えたり、足指にマメができたりするのを防止できる。
【0033】
請求項12の発明では、請求項1において、アッパー本体の先端部には、補強部材が取り付けられており、足指圧接部材は補強部材から分離して設けられている。
【0034】
この場合には、補強部材によりアッパー本体先端部の摩耗を防止できるばかりでなく、足指圧接部材の周囲が伸縮性アッパー本体で囲繞されていることにより、足の背屈時に足指がアッパー本体に接触したとき、足指圧接部材周囲のアッパー本体が伸長することで、足および足指の背屈の動きがアッパー本体により阻害されることなく、足の背屈運動を促進でき、足指圧接部材が足の足指に必要以上に圧力を及ぼすのを防止できる。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明に係るシューズ用アッパー構造によれば、足の少なくともつま先部を覆う伸縮性材料製のアッパー本体と、足の足指に対応する位置に設けられかつ周囲がアッパー本体により囲繞されるとともに、足の背屈時に足指に対して上方から圧接する非伸縮性材料製の足指圧接部材とを設けるようにしたので、足の背屈時には、足指がアッパー本体に接触したとき、非伸縮性材料から構成された足指圧接部材が足指に上方から圧接し、これにより、着用者は、足の足指がアッパー本体に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。その結果、着用者は、足および足指の動きを活性化できるようになる。
【0036】
しかも、この場合には、足指圧接部材の周囲が、伸縮性を有するアッパー本体により囲繞されていることにより、足の背屈時に足指がアッパー本体に接触したとき、足指圧接部材の周囲のアッパー本体が伸長することで、足および足指の背屈の動きがアッパー本体により阻害されることなく、足指がアッパー本体に接触している時間を長くして、足の背屈運動を促進できるとともに、足指圧接部材が足の足指に必要以上に圧力を及ぼすのを防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施例によるアッパー構造を採用したシューズの外甲側側面図である。
【図2】シューズ(図1)の平面概略図である。
【図3】被験者の足にシート状の圧力センサを貼り付けた状態を示す図である。
【図4】被験者が歩行試験を行ったときに圧力センサにより測定された荷重の時間的変化を示すグラフであって、(a)はアッパーが天然皮革のみから構成されたシューズの場合を、(b)はアッパーがメッシュ素材のみから構成されたシューズの場合を、(c)は本実施例によるアッパー構造を有するシューズの場合をそれぞれ示している。
【図5】(a)は被験者が素足で走行した際の前脛骨筋の筋電図、(b)は被験者が本実施例によるシューズを着用して走行した際の前脛骨筋の筋電図である。
【図6】本発明の第4の実施例によるアッパー構造を採用したシューズの外甲側側面図である。
【図7】シューズ(図6)の平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
〔第1の実施例〕
図1ないし図5は、本発明の第1の実施例によるアッパー構造を説明するための図であって、これらの図において、同一符号は同一または相当部分を示している。
【0039】
図1および図2に示すように、シューズ1は、ソール2と、ソール2の上に設けられ、その下部がソール2に固着された、着用者の足Pを覆うアッパー(アッパー本体)3とを備えている。なお、シューズ1の踵部から中足部にかけて、アッパー3の下部には、補強部材10が設けられている。また、図1中、参照符号12は舌革部を、参照符号13は靴紐を示している。
【0040】
アッパー3は、例えばメッシュ素材のような伸縮性材料から構成されている。また、アッパー3は、スパンデックスのような弾性繊維を含む伸縮性材料から構成されていてもよい。ここで、スパンデックスとは、ポリウレタンを溶剤に溶かして紡糸した弾性繊維のことである。
【0041】
アッパー3の表面(つまり表材の外表面)において足Pの各足指に対応する位置には、非圧縮性材料からなる足指圧接部材4が固着されている。ここでは、足指圧接部材4は、足Pの各足指の先端に対応する位置に配置されている。足指圧接部材4は、具体的には、天然皮革、合成皮革、人工皮革、ポリウレタンまたはラバー等から構成されている。足指圧接部材4は、アッパー3よりも高硬度または高剛性の部材から構成されているのが好ましい。
【0042】
足指圧接部材4は、足Pの各足指(好ましくはその先端)に対応する位置に配置された5個の圧接部41〜45と、隣り合う各圧接部の間を連結する4個の連結部40とから構成されている。
【0043】
足指圧接部材4は、好ましくは、足Pの少なくとも第1趾の末節骨DPおよび基節骨PP骨頭部、ならびに第2趾の末節骨DP骨底部および中節骨MPを覆う位置に配置されている。この例では、足指圧接部材4は、さらに第3趾の末節骨DPおよび中節骨MP骨頭部、第4趾の末節骨DPおよび中節骨MP骨頭部、第5趾の末節骨DPおよび中節骨MPに対応する位置に配置されている。なお、図2中、DPは末節骨を、MPは中節骨を、PPは基節骨を、MBは中足骨を、MJは中足趾節関節をそれぞれ示しており、添え字の1〜5はそれぞれ第1趾〜第5趾を示している。
【0044】
また、足指圧接部材4の周囲は、アッパー3により囲繞されている。つまり、足指圧接部材4は、シューズ先端の外周縁部に配設されたソール2に連結されることなく、ソール2から分離して設けられている。
【0045】
次に、アッパーが天然皮革のみから構成されたシューズと、アッパーがメッシュ素材のみから構成されたシューズと、本実施例によるアッパー構造を有するシューズの3種類のシューズを用意し、それぞれ被験者に履いてもらって歩行試験を行った。
【0046】
この試験では、まず、図3に示すように、被験者の足Pの表面上において第1趾〜第5趾に対応する位置に各足指に沿って帯状の圧力センサ51〜55を貼り付けた。被験者は、その上から靴下を履き、各シューズを着用した。また、歩行試験は、時速5kmで6秒間行った。
【0047】
図4は、圧力センサにより測定された荷重の時間的変化を示すグラフである。同図において、(a)はアッパーが天然皮革のみから構成されたシューズの場合を、(b)はアッパーがメッシュ素材のみから構成されたシューズの場合を、(c)は本実施例によるアッパー構造を有するシューズの場合をそれぞれ示している。圧力センサが荷重を検知するのは、足および足指が背屈して足指(したがって圧力センサ)がアッパー裏面に接触したときであり、足指がアッパー裏面に強く当たるほど、荷重のピーク値は高くなり、足指がアッパー裏面に長く当たっているほど、荷重の作用時間は長くなる。
【0048】
図4(a)に示すように、アッパーが非伸縮性の天然皮革のみから構成されたシューズの場合には、荷重のピーク値は高いが、荷重の作用時間(つまり足指の接触時間)は短くなっていることが分かる。これは、天然皮革製のアッパー材は硬く、足当たりが強いため、荷重のピークは出やすいが、アッパー材が伸びにくいことで、足指が背屈しにくいため、足指の背屈状態を維持しにくくなっていると考えられる。したがって、この場合には、足指の自由な背屈運動が制限されているといえる。
【0049】
図4(b)に示すように、アッパーが伸縮性のメッシュ素材のみから構成されたシューズの場合には、荷重の作用時間(足指の接触時間)は長いが、荷重のピーク値は低くなっていることが分かる。これは、メッシュ素材のアッパー材は柔らかく、足指が背屈しやすいため、足指の背屈状態を維持しやすくなっているが、足指の接触時にアッパー材が伸びることで、荷重のピークが低くなると考えられる。したがって、この場合には、足指の自由な背屈運動は可能であるが、足指が背屈を感知しにくくなっているといえる。
【0050】
図4(c)に示すように、本実施例によるアッパー構造を有するシューズの場合には、荷重のピーク値は高く、荷重の作用時間(足指の接触時間)も長くなっていることが分かる。
【0051】
これは、足指の背屈時には、足指が足指圧接部材4に対してアッパー裏面側から押接し、このとき、足指圧接部材4が非伸縮性材料(または高剛性材料)から構成されていることで、足指圧接部材4が伸びにくくなっており、これにより、足指圧接部材4が足指(圧力センサ)に圧接して、荷重のピークが出やすくなっていると考えられる。また、足指圧接部材4が高硬度材料から構成されている場合には、足指圧接部材4が硬く、足当たりが強いため、足指の背屈時に荷重のピークが出やすくなっていると考えられる。
【0052】
その一方、足指圧接部材4が伸縮性材料製のアッパー3に囲繞されていることで、足指の背屈時に足指が足指圧接部材4に対してアッパー裏面側から圧接したとき、足指圧接部材4の周囲のアッパーが伸びることで、足指が背屈しやすくなっており、これにより、足指の背屈状態を維持しやすくなっていると考えられる。
【0053】
したがって、この場合には、足指の自由な背屈運動を維持しつつ、足指が背屈を感知しやすくなっているといえる。
【0054】
次に、足および足指の背屈運動を検証するために、ランニング試験中に被験者の前脛骨筋の筋電図を測定した。ここで、前脛骨筋とは、脛骨の外側から足甲内側に繋がる筋肉であって、足および足指の背屈運動時に作用する筋肉である。
【0055】
この試験では、まず、被験者の脚の前脛骨筋に対応する位置に電極を貼り付け、ランニング中の被験者の前脛骨筋の筋電位を測定した。なお、ランニング試験は、時速10kmで行った。
【0056】
図5は、ランニング試験における筋電図である。同図において、(a)は被験者が素足で走行した場合を、(b)は被験者が本実施例によるシューズを着用して走行した場合をそれぞれ示している。同図において、縦軸は筋電位を示しており、横軸の0は接地時点を、0.3が離地時点を、−0.1付近は接地前の遊脚期をそれぞれ示している。同図において、筋電位の発生は、前脛骨筋が働いていることを示している。
【0057】
図5(a)、(b)のいずれの場合においても、接地前の遊脚期(横軸の−0.1付近)から接地時点(横軸の0の位置)にかけての足および足指の背屈局面において、高い筋電位が発生しており、被験者の足および足指の背屈運動が行われていることが分かる。
【0058】
また、同図(a)、(b)を比較すると分かるように、被験者が本実施例によるシューズを着用して走行した(b)の場合の方が、被験者が素足で走行した(a)の場合よりも、接地前の遊脚期(横軸の−0.1付近)から接地時点(横軸の0の位置)にかけての背屈局面において発生する筋電位の値が大きくなっている。したがって、この背屈局面において筋電位の値を積分したとき、その積分値は(b)の方が(a)よりも大きい。このように、筋電位の積分値の大きい方が筋活動が活発に行われたことを示している。したがって、本実施例によるアッパー構造を有するシューズを着用して走行すると、素足で走行する場合よりも、前脛骨筋の活動が活発になり、足および足指の背屈運動が活発に行われるようになったことが分かる。
【0059】
以上のことから、本実施例によるアッパー構造によれば、足の背屈時に第1趾〜第5趾のすべてまたはいずれかの足指(またはその先端部)がアッパー3の裏面に接触したとき、非伸縮性材料から構成された足指圧接部材4が足指(またはその先端部)に上方から圧接する。これにより、着用者は、足の足指がアッパー3に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。その結果、着用者は、足および足指の動きを活性化できる。
【0060】
このとき、足指圧接部材4がアッパー3よりも高硬度(または高剛性)の材料から構成されている場合には、足の背屈時に足指がアッパー3に接触したとき、足指圧接部材4が足指に上方から接触するが、このとき、足指圧接部材4が硬い(または伸びにくい)ため、足指に強く圧接し、これにより、着用者は、足の足指がアッパー3に接触したことを認識でき、足の背屈運動が適正に行われたことを実感できる。その結果、着用者は、足および足指の動きを活性化できる。
【0061】
しかも、この場合には、足指圧接部4材の周囲が、伸縮性を有するアッパー3により囲繞されていることにより、足の背屈時に足指がアッパー3に接触したとき、足指圧接部材4の周囲のアッパー3が伸長することで、足および足指の背屈の動きがアッパー3により阻害されることなく、足指がアッパー3に接触している時間を長くして、足の背屈運動を促進できるとともに、足指圧接部材4が足の足指に必要以上に圧力を及ぼすのを防止できる。
【0062】
また、この場合には、足指圧接部材4を構成する各圧接部41〜45が連結部40を介して互いに連結されていることにより、足の背屈時に各足指がアッパー3に接触したとき、各圧接部41〜45の周囲のアッパー3の伸長量を抑制して、足指圧接部材4から足の各足指に作用する圧力を大きめに調整できる。その結果、足指の感覚が鈍くなった高齢者やリハビリの患者に好適のアッパー構造を実現できる。
【0063】
なお、この場合には、アッパー3が伸縮性材料から構成されていることで、足の底屈時につま先部が屈曲する際にも、アッパー3が伸縮することで、足および足指の底屈の動きがアッパー3により阻害されることなく、足の底屈運動を促進できる。
【0064】
〔第2の実施例〕
前記第1の実施例では、足指圧接部材4を構成する圧接部として、5個の圧接部41〜45が設けられた例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。例えば、圧接部として、足の第1趾に対応する位置にのみ配置されたただ一つの圧接部や、第1趾および第2趾に対応する位置に配置された2個の圧接部、第1趾ないし第3趾に対応する位置に配置された3個の圧接部、または第1趾ないし第4趾に対応する位置に配置された4個の圧接部を用いるようにしてもよい。なお、圧接部を配置する足指の例としては、これらの例には限定されない。
【0065】
これらいずれの場合においても、シューズ着用者は、圧接部が設けられた位置に対応する足指により、足および足指の背屈運動を認識できることになる。
【0066】
〔第3の実施例〕
前記第1の実施例では、足指圧接部材4が、足の各足指に対応する位置に配置された5個の圧接部41〜45と、隣り合う各圧接部の間を連結する連結部40とから構成された例を示したが、本発明の適用はこれには限定されず、連結部を省略することにより、各圧接部41〜45を互いに分離して設けるようにしてもよい。
【0067】
この場合には、足指圧接部材4を構成する各圧接部41〜45の周囲が、伸縮性を有するアッパー3により囲繞されていることにより、足の背屈時に各足指がアッパー3に接触したとき、各圧接部41〜45の周囲のアッパー3がそれぞれ独立して伸長することができ、その結果、各足指の背屈運動を一層促進できるようになる。
【0068】
〔第4の実施例〕
図6および図7は、本発明の第4の実施例によるアッパー構造を説明するための図であって、これらの図において、前記第1の実施例と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0069】
この第4の実施例では、足指圧接部材4’が、足の各足指の先端に対応する位置を帯状(この例では弧状)に覆う部材から構成されている。具体的には、足指圧接部材4は、足Pの第1趾の末節骨DP、第2趾の末節骨DP骨底部および中節骨MP、第3趾の末節骨DPおよび中節骨MP骨頭部、第4趾の末節骨DPおよび中節骨MP骨頭部、第5趾の末節骨DPに対応する位置に配置されている。
【0070】
また、この場合においても、前記第1の実施例と同様に、アッパー3は伸縮性材料から構成され、足指圧接部材4’は非伸縮性材料から構成されており、足指圧接部材4’ の周囲は、アッパー3により囲繞されている。また、シューズ1の先端部には、補強部材11が設けられており、補強部材11は、シューズ先端のソール2に固着されている。足指圧接部材4は、補強部材11からも分離して設けられている。
【0071】
この場合には、足および足指の背屈時に各足指がアッパー3に接触したとき、足指圧接部材4’の周囲のアッパー3の伸長量を抑制して、足指圧接部材4’から足の各足指に作用する圧力を大きめに調整でき、その結果、足指の感覚が鈍くなった高齢者やリハビリの患者に好適のアッパー構造を実現できる。
【0072】
しかも、この場合には、補強部材11によりアッパー3先端部の摩耗を防止できるばかりでなく、足指圧接部材4’が補強部材11から分離されて足指圧接部材4’の周囲が伸縮性アッパー3で囲繞されていることにより、足の背屈時に足指がアッパー3の裏面に接触したとき、足指圧接部材4’周囲のアッパー3が伸長することで、足および足指の背屈の動きがアッパー3により阻害されることなく、足の背屈運動を促進でき、足指圧接部材4’が足の足指に必要以上に圧力を及ぼすのを防止できる。
【0073】
〔第5の実施例〕
前記第1ないし第4の実施例では、足指圧接部材4、4’がアッパー3の表面(表材の外表面)に設けられた例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。足指圧接部材4、4’は、アッパー3の表面と裏面との間(つまり表材と裏材との間の内装材)に設けられていてもよい。
【0074】
この場合においても、足指圧接部材4、4’は、アッパー3の裏面には設けられていないので、足の背屈時に着用者の足指が足指圧接部材4、4’に直接接触することはなく、これにより、背屈時に着用者が違和感や苦痛を覚えたり、足指にマメができたりするのを防止できる。
【0075】
〔第6の実施例〕
前記第1、第2の実施例では、アッパーが足全体を覆っている場合を例にとって説明したが、本発明によるアッパー構造においては、アッパーが足の少なくともつま先部を覆っていればよい。
【0076】
〔他の適用例〕
前記第1、第2の実施例では、ウォーキングシューズを例にとって説明したが、本発明は、その他のスポーツシューズにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、シューズのアッパー構造に好適であり、とくにシューズ着用者に足の背屈動作を認識させることが要求されるものに適している。
【符号の説明】
【0078】
1: シューズ

3: アッパー(アッパー本体)

4、4’: 足指圧接部材
40: 連結部
41〜45: 圧接部

10、11: 補強部材

P: 足
DP: 第1趾末節骨
PP: 第1趾基節骨
DP: 第2趾末節骨
MP: 第2趾中節骨
【先行技術文献】
【特許文献】
【0079】
【特許文献1】実公平4−18405号公報(第1図および第2図参照)
【特許文献2】実公平6−49205号公報(第1図ないし第5図参照)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズのアッパー構造であって、
伸縮性材料から構成され、着用者の足の少なくともつま先部を覆うアッパー本体と、
前記アッパー本体において足の足指に対応する位置に設けられかつその周囲が前記アッパー本体により囲繞されるとともに、非伸縮性材料から構成され、足の背屈時に足指が前記アッパー本体に接触した際に足指に対して上方から圧接する足指圧接部材と、
を備えたシューズのアッパー構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、足の各足指に対応する位置に配置された複数個の部材から構成されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項3】
請求項2において、
前記複数個の部材が、隣り合う各部材の間に設けられた連結部を介して互いに連結されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項4】
請求項2において、
前記複数個の部材が、互いに分離して設けられている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項5】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、足の各足指に対応する位置を覆う、足幅方向に延びる帯状の部材から構成されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項6】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、足の足指の先端に対応する位置に設けられている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項7】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、足の少なくとも第1趾の末節骨および基節骨骨頭部、ならびに第2趾の末節骨骨底部および中節骨を覆う位置に配置されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項8】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、前記アッパー本体よりも高硬度の材料から構成されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項9】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、前記アッパー本体よりも高剛性の材料から構成されている、
部材から構成されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項10】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、前記アッパー本体の表面上に固着されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項11】
請求項1において、
前記足指圧接部材が、前記アッパー本体の表面と裏面との間に介装されている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。
【請求項12】
請求項1において、
前記アッパー本体の先端部には、補強部材が取り付けられており、前記足指圧接部材は、前記補強部材から分離して設けられている、
ことを特徴とするシューズのアッパー構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−217607(P2012−217607A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86117(P2011−86117)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】