説明

シルセスキオキサン系絶縁材料

【課題】高い誘電率の絶縁膜を形成することができ、しかも表面平滑性が損なわれがたい、シルセスキオキサン系絶縁材料を提供する。
【解決手段】下記の式(1)で示す構造を有するポリシルセスキオキサンを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機TFT(薄膜トランジスタ)のゲート絶縁膜などに用いられる絶縁材料に関し、より詳細には、誘電率の高い絶縁膜を得ることを可能とするシルセスキオキサン系絶縁材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機TFTの低電圧駆動を可能とするには、ゲート絶縁膜の誘電率が高いことが強く求められる。従来、有機TFTを構成する絶縁材料として、様々な材料が検討されている。下記の特許文献1には、このような用途に用いられる絶縁材料として、ポリシルセスキオキサンが開示されている。
【0003】
ポリシルセスキオキサンからなる絶縁膜の製造に際しては、アルコキシシランと、アルコキシシランの加水分解を促進するための触媒と溶媒とを含む溶液を用意し、加水分解重縮合を進行させて、ポリシルセスキオキサンを含む溶液を得る。しかる後、この溶液を塗工し、焼き付けることにより、ポリシルセスキオキサンからなる絶縁膜を得ることができる。
【特許文献1】特開2006−216792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のポリシルセスキオキサン系絶縁膜の製造に際しては、上記アルコキシシランとして、例えばメチルトリエトキシシランやフェニルトリエトキシシランなどが用いられていた。そのため、得られたポリシルセスキオキサンは、置換基としてメチル基やフェニル基を有していた。
【0005】
ところが、このようなポリシルセスキオキサンからなる絶縁膜は電気的絶縁性には優れているものの、誘電率が低かった。前述したように、有機TFTのゲート絶縁膜では、誘電率の高いことが強く望まれている。従来のポリシルセスキオキサンからなる絶縁膜では、このような要望に応えることができなかった。
【0006】
従って、上記ポリシルセスキオキサンからなる絶縁膜をゲート絶縁膜として用いた場合、有機TFTの消費電力が大きくならざるを得なかった。
【0007】
そこで、ポリシルセスキオキサンに高誘電率の無機酸化物粒子を混合することにより、誘電率を高めることが試みられている。しかしながら、無機酸化物粒子を添加した場合、形成される絶縁膜表面に無機酸化物粒子の存在による凹凸が生じがちであった。そのため、ゲート絶縁膜の表面平滑性が低下し、有機TFTの特性が劣化するという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、高い誘電率の絶縁膜を形成することができ、しかも表面平滑性が損なわれがたい、シルセスキオキサン系絶縁材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシルセスキオキサン系絶縁材料は、下記の式(1)で示す構造を有するポリシルセスキオキサンを含むことを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)において、xとyは任意の整数であり、共重合体である場合の組成比を示し、Za=Zbの場合は単独重合体となるので、x+yとなる。Rは水素または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Zaは炭素数1〜8の炭化水素基及び芳香族炭化水素基、グリシジル基、シアノ基またはメルカプト基であり、ZbはZaが炭化水素基である場合、グリシジル基、シアノ基またはメルカプト基であり、Zaがグリシジル基、シアノ基またはメルカプト基である場合、Zaと同じである。
【0012】
好ましくは、前記Zaが、前記炭化水素基であり、前記Zbがグリシジル基、シアノ基及びメルカプト基から選択された一種の置換基である。Zaが炭化水素基である場合には、最終的に得られる絶縁膜の撥水性が高められることができる。
【0013】
本発明に係るシルセスキオキサン系絶縁材料は、上記ポリシルセスキオキサンを溶解する溶媒をさらに含んでいてもよく、その場合には、ポリシルセスキオキサンが溶媒に溶解されたポリシルセスキオキサン溶液を塗工し、加熱することによりシルセスキオキサン系絶縁膜を容易に得ることができる。
【0014】
また、本発明に係るシルセスキオキサン系絶縁材料は、上記ポリシルセスキオキサンを塗工し、焼き付けることにより得られた絶縁体であってもよい。すなわち、本発明のシルセスキオキサン系絶縁材料とは、塗工・焼き付けにより形成された絶縁膜などの絶縁体だけでなく、このような絶縁膜や絶縁体を得る前の上記特定のポリシルセスキオキサンであってもよく、また、ポリシルセスキオキサンを含む溶液であってもよく、これらを全て含むものとする。
【0015】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0016】
本発明に係るシルセスキオキサン系絶縁材料は、上述した式(1)で示す構造を有するポリシルセスキオキサンを含む。実際に、上記特定のポリシルセスキオキサンの合成に際しては、下記の反応式Aまたは反応式Bで示すように、アルコキシシランを、酸触媒と、水と非プロトン性溶媒の存在下で加水分解重縮合をする。この合成の結果、ポリシルセスキオキサン系溶液を得ることができる。該ポリシルセスキオキサン溶液を塗工し、焼き付けることにより、シルセスキオキサン系絶縁膜のような絶縁体を得ることができる。上記加水分解重縮合は、50〜70℃程度の温度に溶液を維持することにより進行される。また、焼き付けに際しての温度は、150〜170℃程度の温度であればよく、従って、低温プロセスで、シルセスキオキサン系絶縁膜を得ることができる。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
上記反応式Aにおいて、左辺のアルコキシシラン中のアルコキシ基ORにおけるRは炭素数1〜3のアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基であり、複数のORは同一であってもよく、異なっていてもよい。Zaは、炭素数1〜8の炭化水素基及び芳香族炭化水素基、グリシジル基、シアノ基もしくはメルカプト基またはこれらの一種を含む置換基である。これらの一種を含む置換基とは、グリシジル基、シアノ基またはメルカプト基にさらに炭化水素基が結合した置換基などをいうものとする。例えば、グリシジルプロピル基、グリシジルヘキシル基、シアノメチル基、シアノエチル基、メルカプトメチル基、メルカプトフェニル基などをいうものとする。Zbは、Zaが炭化水素基である場合、グリシジル基、シアノ基もしくはメルカプト基またはこれらの一種を含む置換基であり、Zaがグリシジル基、シアノ基またはメルカプト基である場合には、Zaと同一である。上記Zaとしての炭化水素基としては、特に限定されないが、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、フェニル基などを挙げることができる。
【0020】
反応式Aの右辺では、上記式(1)の構造式を有する共重合体が得られており、ここでx及びyは、組成比を示す任意の整数である。
【0021】
上記反応式Bは、上記反応式AにおいてZa=Zbの場合の反応を示す。Za=Zbの場合、反応式Bで示すように、単独重合体が得られ、この場合x+yとなる重合度の単独重合体が得られることになる。
【0022】
好ましくは、Zaが炭化水素基であり、Zbがグリシジル基、シアノ基及びメルカプト基から選択された一種の置換基である。Zaが炭化水素基の場合、最終的に得られる絶縁膜の撥水性を高めることができる。
【0023】
上記出発原料として用いられるアルコキシシランとしては、上記特定のポリシルセスキオキサンを与える限り特に限定されるものではない。このようなアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、グリシジルトリメトキシシラン、グリシジルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、シアノエチルトリメトキシシラン、シアノエチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0024】
上記式(1)で示す構造を有するポリシルセスキオキサンにおいて、ZaとZbが同一である場合には、反応式Bで示すように、一種のアルコキシシランが出発原料として用いられる。ZaとZbとが異なる場合には、置換基Za及び置換基Zbを導入するために、反応式Aのように、置換基Zaを有するアルコキシシランと置換基Zbを有するアルコキシシランとが出発原料として用いられる。この点については、後述の様々な特定のポリシルセスキオキサンの合成のための反応式により明らかにする。
【0025】
(酸触媒)
本発明においては、上記アルコキシシランの加水分解及び加水分解重縮合を促進するために酸触媒が用いられる。酸触媒については特に限定されず、無機酸を用いてもよく、有機酸を用いてもよい。無機酸としては、硝酸、塩酸、硫酸などを挙げることができる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、蓚酸などを挙げることができる。好ましくは、反応終了後に酸が残ると縮合安定性が悪くなるため、低沸点で揮発性が高くpKaの小さなギ酸が酸触媒として好ましい。
【0026】
上記酸触媒は、後述の焼き付けに際し、焼き付け温度以下の温度で揮発するものであることが必要である。
【0027】
上記酸触媒の使用量については、十分の触媒作用を発揮し得る限り、特に限定されるわけではないが、上記一種以上のアルコキシシラン1モルに対して、0.1モル以上、より好ましくは、0.3モル以上を配合することが好ましい。また、酸触媒が多すぎると、最終的に得られたシルセスキオキサン系絶縁膜や絶縁体が酸の存在により劣化するおそれがあるので、一種以上のアルコキシシランに対して1モル以下の割合で用いることが望ましい。
【0028】
(水)
本発明のシルセスキオキサン系絶縁材料を得るには、上記アルコキシシランの加水分解を進行させるために、水を出発原料に添加する必要がある。上記アルコキシシランの加水分解を引き起し得る限り、特に限定されないが、一種以上のアルコキシシラン1モルに対し、2〜6モルの割合で水を添加することが望ましい。2モル未満では、加水分解が十分に進行し難いことがあり、6モルを超えると、加水分解が速く進行しすぎ、加水分解重縮合の進行を妨げるおそれがある。より好ましくは、水は、一種以上のアルコキシシラン1モルに対し、2.5〜4モルの割合で用いることが望ましい。
【0029】
(溶媒)
本発明に係るシルセスキオキサン系絶縁材料において、上記特定の構造のポリシルセスキオキサンが合成するに際しては、上記アルコキシシラン、酸触媒及び水に加えて、適宜の溶媒を添加することにより、加水分解速度を適度に低め、加水分解重縮合を確実に進行させることができる。このような非プロトン性溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などを挙げることができる。特に、良好な製膜性を得るためには,高沸点溶媒であるPGMEAを用いることが好ましい。
【0030】
上記溶媒の使用量は、一種以上のアルコキシシランに対し、100〜300重量部の範囲とすることが望ましい。100重量部未満では、加水分解及び加水分解重縮合を適度の反応速度で進行させることが困難となることがあり、300重量部を超えると、減圧・留去の長時間を必要とするおそれがある。
【0031】
(式(1)で示す構造を有する様々なポリシルセスキオキサンの合成)
前述したように、上記特定のポリシルセスキオキサンの合成に際しては、先ず一種または二種のアルコキシシランを、酸触媒、水及び溶媒と混合して溶液を得る。この溶液を0〜50℃の温度に維持することにより、加水分解が進行する。0℃未満では、加水分解が十分に進行し難いことがあり、50℃を超えると加水分解反応が一気に進行し、未反応のアルコキシ基が残存することになる。上記加水分解の時間は、10分〜60分程度が好ましい。10分未満では、十分に加水分解が進行しないことがあり、60分を超えるとそれ以上反応が進まないため、不要な時間となることがある。
【0032】
加水分解工程に続いて、溶液を50〜70℃の温度に維持、加水分解重縮合を進行する。50℃未満では、加水分解重縮合は進行し難いことがあり、70℃を超えると縮合反応が急激に進行し、ゲル化もしくは溶液の着色の原因となることがある。より好ましくは、50〜70℃の温度に加温すればよい。
【0033】
加水分解重縮合の時間は、1〜6時間とすることが望ましく、より好ましくは、2〜3時間である。
【0034】
50〜70℃の温度に加温する方法は、適宜の熱源により溶液を加温する方法が挙げられる。
【0035】
好ましくは、溶液を減圧し、減圧下で加水分解重縮合を進行させることが望ましい。
【0036】
上記加水分解重縮合の進行により、本発明の特定の構造を有するポリシルセスキオキサンを含む溶液を得ることができる。上記のようにして得られる上記式(1)で示す構造を有する様々なポリシルセスキオキサンの合成反応を下記の反応式C〜Jで示す。すなわち、反応式C〜Jの右辺で示す各ポリシルセスキオキサンは、置換基としてグリシジル基、メルカプト基またはシアノ基を有する。
【0037】
この場合、反応式Cで示すように、グリシジル基を有する一種のアルコキシシランを重縮合してポリシルセスキオキサンを行ってもよい。また、反応式Dで示すように、グリシジル基を有しないメチルトリメトキシシランとグリシジル基を有するトリメトキシシランとを重縮合し、メチル基が置換基としてケイ素に結合している骨格と、グリシジル基がケイ素に置換基として結合されている骨格とを含む共重縮合体であってもよい。すなわち、得られるポリシルセスキオキサンの構造によって、前述したように、一種のアルコキシシランのみが用いられてもよく、置換基Zaを有しするアルコキシシランと置換基Zbを有するアルコキシシランとを加水分解共重縮合してもよい。
【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
(用途)
式(1)で示す構造を有する上記特定のポリシルセスキオキサン溶液を塗工し、焼き付けることにより、シルセスキオキサン系絶縁膜を含む様々な絶縁体を得ることができる。このようなシルセスキオキサン系絶縁膜を含む絶縁体は、絶縁抵抗が高いだけでなく、高い誘電率を示す。
【0047】
従って、本発明のシルセスキオキサン系絶縁材料しての上記絶縁膜や絶縁体は、例えば高誘電率が求められる有機TFTのゲート絶縁膜などに好適に用いることができる。また、高い誘電率及び高い絶縁抵抗が求められる限り、上記有機TFTゲート絶縁膜だけでなく、様々な半導体装置の絶縁膜や半導体装置以外のデバイスの絶縁材料として好適に用いられ得る。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係るシルセスキオキサン系絶縁材料は、上記式(1)で示す構造を有する特定のポリシルセスキオキサンを含むため、ゾルゲル法を用いて低温プロセスで絶縁膜や絶縁体を形成することができ、しかも得られた絶縁膜や絶縁体の絶縁抵抗が十分に高いだけでなく、誘電率も高められる。よって、有機TFTなどの電気的絶縁性に優れているだけでなく、誘電率が高いことが求められる用途に最適な絶縁材料を提供することが可能となる。
【0049】
また、本発明によるシルセスキオキサン系絶縁材料の誘電率が高いため、誘電率を高めるために無機酸化物粒子を配合する必要がない。従って、得られる絶縁膜や絶縁体の表面の平滑性も損なわれ難い。
【0050】
加えて、170℃以下の比較的低い温度で焼き付けることができるので、すなわち低温プロセスで絶縁膜や絶縁体を形成することができるので、高温で劣化しやすいポリイミドなどからなるフレキシブル基板上に、本発明のシルセスキオキサン系絶縁材料からなる絶縁膜や絶縁体をフレキシブル基板を劣化させることなく形成することができる。よって、高温処理により劣化しやすい材料表面に絶縁膜や絶縁体を形成する用途に最適な絶縁材料を提供することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。
【0052】
[実験例I]
(比較例1)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシラン10.0g(73mモル)と、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMEA)10gとを投入し、室温で撹拌し、溶液を得た。この溶液に、触媒としてギ酸1.02g(22mモル)及び蒸留水3.97g(220mモル)を加え、室温で30分間維持し、加水分解を行った。しかる後、加水分解後の溶液を、70℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに200mmHgの圧力下に維持し、副生したアルコールを留去しつつ、さらに2時間加水分解重縮合を行った。このようにして、下記の反応式Kで示すように、反応式Kの右辺に記載のポリシルセスキオキサンを合成し、該ポリシルセスキオキサンがPGMEAに溶解した溶液を得た。
【0053】
【化12】

【0054】
(実施例1)
100mLのフラスコに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン3.03g(13mモル)と、メチルトリメトキシシラン7.01g(51mモル)と、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMEA)10gとを投入し、室温で撹拌し、溶液を得た。この溶液に、触媒としてギ酸0.89g(19mモル)及び蒸留水3.47g(193mモル)を添加し、室温で30分間維持し、加水分解を行った。加水分解後の溶液を70℃で1時間維持し、加水分解重縮合を進行させた。さらに、200mmHgの圧力下で2時間維持し、副生したアルコールを留去し、加水分解重縮合を進行させた。このようにして、前述した反応式Dに従って、ポリ(メチル−co−3−グリシドキシプロピル)シルセスキオキサンを合成し、該ポリ(メチル−co−3−グリシドキシプロピル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0055】
(実施例2)
出発原料として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン8.71g(37mモル)と、メチルトリメトキシシラン5.02g(37mモル)とを用い、PGMEAの添加量を14gに変更し、触媒としてのギ酸の添加量を0.88g(19mモル)及び蒸留水の添加量3.47g(193mモル)に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、ポリ(メチル−co−3−グリシドキシプロピル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0056】
(実施例3)
出発原料として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを12.2g(51mモル)と、メチルトリメトキシシラン1.75g(13mモル)とを用い、PGMEAの添加量を14gに変更し、触媒としてのギ酸の添加量を1.03g(22mモル)及び蒸留水の添加量3.98g(221mモル)に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、ポリ(メチル−co−3−グリシドキシプロピル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0057】
(実施例4)
100mLのフラスコに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5.02g(21mモル)と、トルエン5gとを投入し、室温で撹拌し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのトルエン溶液を得た。この溶液に、触媒としてギ酸0.31g(7mモル)と、蒸留水1.15g(64mモル)とを添加し、室温で30分間維持し、加水分解を行った。しかる後、加水分解後の溶液を70℃に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、70mmHgの圧力下に2時間維持し、副生したメタノール及びトルエンを留去し、加水分解重縮合を行い、その後、PGMEAに溶解させた。このようにして、前述の反応式Cに従ってポリ(3−グリシドキシプロピル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0058】
上記のようにして、後述の表1に示す比較例1及び実施例1〜4の各シルセスキオキサン系絶縁材料を得た。
【0059】
[実験例II]
(実施例5)
100mLのフラスコに3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5.01g(21mモル)と、フェニルトリメトキシシラン4.22g(21mモル)と、溶媒としてのトルエン9.3gとを投入し、室温で撹拌し、アルコキシシランのトルエン溶液を得た。この溶液に、触媒としてギ酸0.59g(13mモル)及び蒸留水2.30g(128mモル)を加え、室温で30分間維持し、加水分解を行った。しかる後、70℃の温度に溶液を1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、70mmHgの圧力下に2時間維持することにより、副生したアルコール及びトルエンを留去しつつ加水分解重縮合をさらに進行させた。その後、PGMEAに溶解させた。このようにして、前述した反応式Eに示す反応に従って、ポリ(フェニル−co−3−グリシドキシプロピル)シルセスキオキサンのトルエン溶液を得た。
【0060】
(実施例6)
フェニルトリメトキシシラン4.22gに代えて、ヘキシルトリメトキシシラン4.42g(21mモル)を用いたことを除いたは、実施例5と同様にして、前述した反応式Fに従って、ポリ(ヘキシル−co−3−グリシドキシプロピル)シルセスキオキサンのトルエン溶液を得た。上記のようにして、後述の表2に示す実施例5及び実施例6のシルセスキオキサン系絶縁材料を得た。
【0061】
なお、下記の表2では実施例5及び実施例6だけでなく、表1に記載の実施例2についての結果を再度記載した。これは、実施例5,6と実施例2の対比を容易とするためである。
【0062】
[実験例III]
(比較例2)
100mLフラスコにトリエトキシシラン4.12g(25mモル)と、メチルトリメトキシシラン7.02g(51mモル)と、PGMEA12gとを投入し、室温で撹拌し、アルコキシシランのPGMEA溶液を得た。この溶液に、触媒としてギ酸1.16g(25mモル)と、蒸留水4.51g(250mモル)とを添加し、室温で30分間維持し、加水分解を行った。しかる後、加水分解後に、溶液を50℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、150mmHgの圧力下に2時間維持し、副生したアルコールを留去しつつ、さらに加水分解重縮合を進行させた。このようにして、下記の反応式Lに示すように、ポリ(メチル−水素)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0063】
【化13】

【0064】
(比較例3)
100mLフラスコに、フェニルトリメトキシシラン10.0g(51mモル)と、トルエン10gとを投入し、室温で撹拌し、フェニルトリメトキシシランのトルエン溶液を得た。この溶液に、触媒としてギ酸0.69g(15mモル)及び蒸留水2.73g(151mモル)を加え、室温で30分間維持し、加水分解を行った。しかる後、70℃にこの溶液を1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、70mmHgの圧力下に溶液を2時間維持することにより、副生したメタノール及びトルエンを留去しつつ、さらに加水分解重縮合を行った。このようにして、下記の反応式Mで示すように、ポリフェニルシルセスキオキサンを合成した。
【0065】
【化14】

【0066】
(比較例4)
フェニルトリメトキシシランに代えて、ビニルトリメトキシシラン10.0g(53mモル)を用いたこと、ギ酸の添加量を0.75g(16mモル)及び蒸留水の添加量2.84g(158mモル)としたことを除いては、比較例3と同様にして、下記の反応式Nに従って、ポリビニルシルセスキオキサンを合成した。
【0067】
【化15】

【0068】
(実施例7)
100mLのフラスコに、メルカプトプロピルトリメトキシシラン10.0g(51mモル)と、PGMEA10gとを投入し、室温で撹拌し、メルカプトプロピルトリメトキシシランのPGMEA溶液を得た。この溶液に、触媒とて、ギ酸0.71g(15mモル)及び蒸留水2.75g(153mモル)を添加し、室温で30分間溶液を維持し、加水分解を行った。しかる後、溶液70℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させて、さらに、200mmHgの圧力下に2時間維持することにより、副生したメタノールを留去しつつ、さらに加水分解重縮合を行った。このようにして、前述した反応式Gに従って、ポリメルカプトプロピルシルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0069】
(実施例8)
100mLのフラスコに、2−シアノエチルトリエトキシシラン2.01g(9.3mモル)と、メチルトリメトキシシラン1.27g(9.3mモル)と、PGMEA3.3gとを投入し、室温で撹拌し、アルコキシシラン溶液を得た。この溶液に、触媒とて、ギ酸0.27g(5.8mモル)及び蒸留水1.01g(56mモル)を添加し、溶液を室温で30分間溶液を維持し、加水分解を行った。しかる後、溶液を70℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させて、さらに、200mmHgの圧力下に2時間維持することにより、副生したアルコールを留去しつつ、さらに加水分解重縮合を行った。このようにして、前述した反応式Hポリ(メチル−co−2−シアノエチル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0070】
(実施例9)
2−シアノエチルトリエトキシシランの配合量を2.00g(9.2mモル)としたこと、メチルトリメトキシシランに代えてフェニルトリメトキシシラン1.85g(9.3mモル)を用いたこと、溶媒としてPGMEAに代えてトルエン3.9gを用いたことを除いては、実施例8と同様にして、前述した反応式Iに従って、ポリ(フェニル−co−2−シアノエチル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0071】
(実施例10)
2−シアノエチルトリエトキシシランの配合量を5.13g(236mモル)としたこと、メチルトリメトキシシランに代えてヘキシルトリメトキシシラン4.87g(236mモル)を用いたこと、溶媒としてPGMEAに代えてトルエン10gを用いたこと、触媒としてのギ酸の配合量を0.65g(5.8mモル)、蒸留水の添加量を2.55g(142mモル)としたことを除いては、実施例8と同様にして、前述した反応式Jに従ってポリ(ヘキシル−co−2−シアノエチル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0072】
(実施例11)
2−シアノエチルトリエトキシシランの配合量を4.00g(18.4mモル)としたこと、メチルトリメトキシシランの配合量を0.63g(4.6mモル)としたこと、PGMEAの配合量を4.6gとしたこと、ギ酸の配合量0.32g(7.0mモル)としたこと、蒸留水の配合量を1.24g(69mモル)としたことを除いては、実施例8と同様にして、反応式Hに従ってポリ(メチル−co−2−シアノエチル)シルセスキオキサンのPGMEA溶液を得た。
【0073】
(実施例12)
2−シアノエチルトリエトキシシランの配合量1.01g(4.6mモル)としたこと、メチルトリメトキシシランの配合量を2.53g(18.6mモル)としたこと、PGMEAの添加量3.5gとしたこと、蒸留水の配合量1.25g(70mモル)としたことを除いては、ギ酸の配合量を0.32g(7.0mモル)及び蒸留水の配合量1.25g(70mモル)としたことを除いては、反応式Hに従って実施例8と同様にして、ポリ(メチル−co−2−シアノエチル)シルセスキオキサンのPGMEAの溶液を得た。
【0074】
上記のようにして、下記の表3に示す比較例2〜4,実施例7〜12に記載の各シルセスキオキサン系絶縁材料を得た。
【0075】
(実施例及び比較例の評価)
スライドガラスの上面に下部電極としてアルミニウムを蒸着した。次に、上記下部電極が形成されている面の上面に、比較例または実施例のシルセスキオキサン系絶縁材料としてのポリシルセスキオキサン溶液をスピンコートし、150℃の温度で1時間焼き付け、厚み200〜800nmのシルセスキオキサン系絶縁材料を形成した。このシルセスキオキサン系絶縁膜の上面に、上部電極として、アルミニウムを蒸着した。このようにして、アルミニウムからなる上部電極及び下部電極にシルセスキオキサン系絶縁膜が積層された積層体を得た。上記積層体サンプルについて、上部電極と下部電極との間のシルセスキオキサン系絶縁膜の誘電率を、インピーダンスアナライザーを用いて測定した。100mVの電圧で、10mHzから1MHzの周波数範囲で誘電率をインピーダンスアナライザーにより求めた。式(1)は誘電率を求めた式であり、εは真空の誘電率であり、8.85×1012である。
【0076】
ε=Cd/εS………(1)
なお、下記の表1及び表2では、上記絶縁膜に対する水の接触角を5回測定し、その平均により算出した結果を合わせて示す。この接触角が大きいほど撥水性が高いことを示す。
【0077】
実施例及び比較例のポリシルセスキオキサンについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて重量平均分子量(Mw)および分散比(Mw/Mn)を測定した。Mnは数平均分子量を表す。
【0078】
結果を表1〜表3に示す。
【0079】
また、上記インピーダンスアナライザーで求められた誘電率の周波数依存性を、図1〜図6に示す。図1及び図2には、比較例1及び実施例1〜4で得られた絶縁膜における誘電率の周波数依存性を示す図であり、図1では、0.01〜10Hzの範囲での誘電率依存性が示されており、図2では、100〜10Hzの範囲での誘電率依存性が示されている。
【0080】
図1及び図2から明らかなように、実施例1〜4では、比較例1に比べて、誘電率が増加している。図2から明らかなように、実施例1〜3では、実用的な周波数範囲である100〜10Hzの範囲内で誘電率がほぼ一定であるこがわかる。図3及び図4は、実施例2及び実施例5における上記誘電率の周波数依存性を示す図であり、図3では、0.01〜10Hzの範囲の結果が、図4では、100〜10Hzの結果が示されている。実施例2に比べて実施例5のほうが、広い周波数範囲で誘電率がほぼ一定であることがわかる。もっとも、図4から明らかなように、実用的な周波数範囲にある100〜10Hzの範囲では、実施例2及び実施例5のいずれにおいても誘電率がほぼ一定であることがわかる。
【0081】
図5及び図6は、実施例8,9の絶縁膜の誘電率の周波数依存性を示す図であり、図5及び図6では、比較のために比較例1の結果も示した。図5は、0.01〜10Hzの範囲の結果を示し、図6は、100〜10Hzの範囲の結果を示す。図5及び図6から明らかなように、比較例1に比べて、実施例8,9では、誘電率が非常に高く、また誘電率の周波数依存性が小さく、特に実用的な周波数範囲である100〜10Hzでは、誘電率がほぼ一定であることがわかる。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
表1から明らかなように、比較例1では、誘電率εは、4.4と低かったのに対し、実施例1〜4によれば、誘電率が比較例1に比べて高められており、6.1以上であり、特にグリシジル基とメチル基との割合が1:1よりもグリシジル基が多い場合には、誘電率εは10.4以上と飛躍的に高められることがわかる。
【0086】
また、表1から明らかなように、メチル基とグリシジル基との割合を変化させた場合、グリシジル基の割合が増加するにつれて、水に対する接触角が低くなり、撥水性は劣化することがわかる。従って、グリシジル基の割合を少なくすることにより、誘電率は低くなる傾向はあるものの、撥水性を高めることができる。従って、撥水性が求められる場合にはグリシジル基の割合はメチル基とグリシジル基の合計の1/2以下とすることが望ましく、より好ましくは、1/5以下とすることが望ましい。もっとも、誘電率を十分に高めるには、前述したように、メチル基とグリシジル基との合計において、グリシジル基は1/2以上であることが望ましい。
【0087】
表2から明らかなように、置換基Zaが、メチル基、フェニル基またはヘキシル基である場合、グリシジル基との割合が全て1:1であったとしても、置換基Zaを構成する炭化水素基の種類によって接触角が異なることがわかる。特に、接触角を高め、絶縁膜の撥水性を高めるには、メチル基よりもフェニル基が好ましく、より好ましくは、ヘキシル基が望ましいことがわかる。これは、置換基Zaとしての炭化水素基の大きさが大きいほど、疎水性が高められていることによると考えられる。
【0088】
また、表3から明らかなように、置換基Zbとして、シアノ基を含むシアノエチル基を用いた場合においても、同様に、絶縁膜の誘電率を効果的に高め得ることがわかる。さらに、置換基としてメルカプトプロピル基を用いた場合においても、誘電率εは5.6と、比較例1に比べて高められることがわかる。すなわち、ポリシルセスキオキサンにおける上記置換基Za,Zbとして、グリシジル基だけでなく、シアノ基やメルカプト基を用いた場合においても、同様にその極性により誘電率を効果的に高め得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】比較例1及び実施例1〜4で得られた絶縁膜の誘電率が0.01〜10Hz周波数範囲における周波数依存性を示す図である。
【図2】比較例1及び実施例1〜4で得られた絶縁膜の誘電率が100〜10Hz周波数範囲における周波数依存性を示す図である。
【図3】実施例2,5で得られた絶縁膜の誘電率が0.01〜10Hz周波数範囲における周波数依存性を示す図である。
【図4】実施例2,5で得られた絶縁膜の誘電率が100〜10Hz周波数範囲における周波数依存性を示す図である。
【図5】比較例1及び実施例8,9で得られた絶縁膜の誘電率が0.01〜10Hz周波数範囲における周波数依存性を示す図である。
【図6】比較例1及び実施例8,9で得られた絶縁膜の誘電率が100〜10Hz周波数範囲における周波数依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示す構造を有するポリシルセスキオキサンを含むことを特徴とする、シルセスキオキサン系絶縁材料。
【化1】

式(1)において、xとyは任意の整数であり、共重合体である場合の組成比を示し、Za=Zbの場合は単独重合体となるので、x+yとなる。Rは水素または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Zaは炭素数1〜8の炭化水素基及び芳香族炭化水素基、またはグリシジル基、シアノ基もくしはメルカプト基またはこれらの一種を含む基であり、ZbはZaが炭化水素基である場合、グリシジル基、シアノ基もしくはメルカプト基またはこれらの一種を含む基であり、Zaがグリシジル基、シアノ基もしくはメルカプト基またはこれらの一種を含む基である場合、Zaと同じである。
【請求項2】
前記Zaが、前記炭化水素基であり、前記Zbがグリシジル基、シアノ基もしくはメルカプト基またはこれらの一種を含む置換基である、請求項1に記載のシルセスキオキサン系絶縁材料。
【請求項3】
前記ポリシルセスキオキサンを溶解する溶媒をさらに含む、請求項1に記載のシルセスキオキサン系絶縁材料。
【請求項4】
前記ポリシルセスキオキサンを塗工し、焼き付けることにより得られた絶縁体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシルセスキオキサン系絶縁材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−59651(P2009−59651A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227644(P2007−227644)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】