説明

ジビニルエーテル誘導体ポリマー並びにその製造方法及び用途

【課題】ジビニルエーテルのホモポリマーの提供。
【解決手段】式(I):


(式中、nは平均5〜600の数である)
で表されるジビニルエーテル誘導体ホモポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジビニルエーテル誘導体ホモポリマー並びにその製造方法及び用途に関し、更に詳しくは、例えばインク、塗料、レジスト、カラーフィルタ等の用途並びに接着剤、製版材、封止材、画像形成剤の原料等に用いられる低臭気、低揮発性且つ低皮膚刺激性であって、毒性が低く、また、高機能を有する硬化性、密着性、透明性、剛直性に優れたカオチン重合性組成物として有用なペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルホモポリマー(別名:2−メチル−5,5−ビスエチニロキシメチル−1,3−ジオキサンホモポリマー)に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係るペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルホモポリマーに関しては、ケミカルアブストラクト(Chemical Abstract)に記載がなく、また、本発明者等の知るかぎりでは、その他の文献にも記載が見当たらないので、新規なポリマーであると考えられる。
【0003】
通常、モノビニルエーテルを原料とするホモポリマーは、ガラス転移点が低く、単独での自立した成形体になるのは難しいという問題があり、一方で、ジビニルエーテルは架橋剤として用いられることが多く、ホモポリマーの原料として使用される例は少ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は前記ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルホモポリマー並びにその製造方法及び用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、式(I):
【化1】

(式中、nは平均5〜600の数である)
で表されるビニルエーテル誘導体ホモポリマーが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルホモポリマーは、低臭気、低揮発性且つ、低皮膚刺激性であって、毒性が低く、また、高機能を有する硬化性、密着性、透明性、剛直性に優れたカチオン重合性組成物として有用な優れたポリマーである。特に、ホモポリマー(I)(n=30〜300)のガラス転移点は160℃以上であり、また分解温度は270℃以上で、非常に高い値を示す(それぞれ示差走査熱量測定に基づく)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るポリマー(I)は、以下の反応式に従って重合することができる。
【0008】
【化2】

【0009】
即ち、本発明に係る式(I)のホモポリマーは前記式(II)の化合物ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテル(別名:2−メチル−5,5−ビスエチニロキシメチル−1,3−ジオキサン)を、例えば次のような方法で重合させることができる。
【0010】
即ち、化合物(II)の重合反応は、トルエン又は塩化メチレン等の有機溶媒中でポリマーの濃度として0.01〜1.0モル容量%で行うのが好ましく、0.1〜0.5モル容量%がより好ましい。重合条件としては、これに限定するものではないが、温度−10〜10℃で0.1〜100時間が好ましく、より好ましくは−5〜5℃で1〜50時間、最も好ましくは−1〜1℃で20〜30時間である。
【0011】
重合触媒としては、ルイス酸(例えばBF3、BCl3、BBr3、AlCl3、SnBr4など)及びその錯体(例えばBF3OEt2、(CH3CH(Oi−Bu)OCOCH3/SnBr4))等を挙げることができ、分子量分布を制御する上では、これらの錯体を用いることが特に好ましい。触媒の使用量には特に限定はないが、0.1〜10ミリモル容量%であるのが好ましい。
【0012】
前記重合反応はアミン類のアルコール溶液で停止させ、その後は、添加したアルコール及び生成する塩類等を除去するため水洗、抽出することが好ましい。更に精製が必要な場合は、溶媒を留去、乾燥後、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテルで希釈し、アルコールで沈殿させることができる。
【0013】
得られるホモポリマー(I)の数平均分子量Mnは、500〜200,000であるのが好ましく、2,000〜50,000であるのが更に好ましく、5,000〜15,000であるのが特に好ましい。
【0014】
式(II)の化合物ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルは公知の化合物であり、例えばJ.Org.Chem.,27(1962)471−474などに記載の方法で合成することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれら実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0016】
式(II)のモノマー(ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテル)の製造
製造例1
攪拌器、圧力ゲージ、温度計、ガス導入管、ガスパージラインを備えた容量2000mlのSUS製容器に、ジメチルスルホキシド283.5g、ペンタエリスリトール140.7g(1.02mol)、純度95重量%の水酸化カリウム10.5g(0.18mol)を仕込み、攪拌下に約60分間窒素ガスを流し、容器内を窒素にて置換した。次いで、反応容器を密封し、容器内にアセチレンガスを0.4kg/cm2の圧力で圧入した。次いで、ゲージ圧力を0.4kg/cm2に保ちながら徐々に昇温し、反応容器内温が150℃を越えないように制御し、約15時間反応させた。この間、逐次アセチレンガスを補充して反応容器内の圧力は常に0.4kg/cm2に保った。反応終了後、残留するアセチレンガスをパージして反応液525.8gを得た。ガスクロ分析の結果、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテルの選択率は26.4%(面積百分率)、ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルの選択率は63.9%(面積百分率)であった。
【0017】
製造例2
攪拌器、圧力ゲージ、温度計、ガス導入管、ガスパージラインを備えた容量2000mlのSUS製容器に、ジメチルスルホキシド282.9g、ペンタエリスリトール141.7g(1.03mol)、純度95重量%の水酸化カリウム10.6g(0.18mol)を仕込み、攪拌下に約60分間窒素ガスを流し、容器内を窒素にて置換した。次いで、反応容器を密封し、容器内にアセチレンガスを1.8kg/cm2の圧力で圧入した。次いで、ゲージ圧力を1.8kg/cm2に保ちながら徐々に昇温し、反応容器内温が150℃を越えないように制御し、約18時間反応させた。この間、適宜アセチレンガスを補充して反応容器内の圧力は0.04〜1.8kg/cm2に保った。反応終了後、残留するアセチレンガスをパージして反応液517.7gを得た。ガスクロ分析の結果、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテルの選択率は20.4%(面積百分率)、ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルの選択率は66.7%(面積百分率)であった。
【0018】
製造例3
攪拌器、圧力ゲージ、温度計、ガス導入管、ガスパージラインを備えた容量2000mlのSUS製容器に、ジメチルスルホキシド280.7g、ペンタエリスリトール141.5g(1.03mol)、純度95重量%の水酸化カリウム10.6g(0.18mol)を仕込み、攪拌下に約60分間窒素ガスを流し、容器内を窒素にて置換した。次いで、反応容器を密封し、容器内にアセチレンガスを1.8kg/cm2の圧力で圧入した。次いで、ゲージ圧力を1.8kg/cm2に保ちながら徐々に昇温し、反応容器内温が140℃を越えないように制御し、約7時間反応させた。この間、逐次アセチレンガスを補充して反応容器内の圧力は1.8kg/cm2に保った。次いで、反応容器内を窒素雰囲気に戻し、130〜150℃で約5時間30分反応させた後、再び反応容器内をアセチレン雰囲気に戻し、1.8kg/cm2の圧力を保ちながら約7時間反応させた。反応終了後、残留するアセチレンガスをパージして反応液533.4gを得た。ガスクロ分析の結果、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテルの選択率は37.4%(面積百分率)、ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルの選択率は57.3%(面積百分率)であった。
次いで、製造例1〜3で得られた反応液に、別途得られた混合物150.0g(ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル含有率30.0%、ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテル含有率64.8%)を加え、減圧下(2.5〜3.0mmHg)に蒸留し、88〜90℃で留出した留分198.2gを集めた。NMRによる分析の結果、ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルであった(ガスグロマトグラフィーによる純度98.1%)。
【0019】
実施例1
上で製造したペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルモノマーをリビング重合開始剤である二成分系開始剤(HCl/ZnCl2)を用いた重合を行った。シュレンク管にモノマー溶液(0.15mol/L濃度のトルエン溶液)4.0mL、HCl溶液0.5mL、ZnCl2溶液0.5mLをこの順に注射器で注入し重合を開始した。トルエン中、−30℃、モノマー濃度0.15mol/L(ガスクロマトグラフィーの内部標準クロロベンゼンを体積比でモノマーに対して0.8倍含有)、HCl濃度5.0mmol/L、ZnCl2濃度2.0mmol/Lで行った。重合は、18時間で重合率96%に達し、重合系にアンモニア水を少量加えたメタノールを2.0mL加えて停止した。
【0020】
生成ポリマーは、重合を停止した溶液を分液ロートに移し塩化メチレンで希釈し、塩化ナトリウム飽和水溶液で三回洗浄し、次いで有機層からエバポレーターにより溶媒を除去し、減圧乾燥して回収した。Mn(数平均分子量)は重合率に比例して増加し、Mw/Mn(分子量分布)の比較的狭いポリマーを合成した(Mn=8990、Mw/Mn=1.49(GPCにより測定)。
【0021】
生成ポリマー中の未反応ビニル基の含量を、プロトンNMRスペクトル(測定条件:溶媒に重トルエンを用い、室温で測定)の各ピーク強度比を基に求めた。未反応ビニル基の含量は、重合初期(重合率25%)で3mol%であり(ビニル基含量100mol%で、ポリマーのすべての繰り返し単位中に一個のビニル基が存在することを意味する。0mol%で形式的に完全に環化したポリマーであることを示す)、高環化率のポリマーであることがわかった。
【0022】
実施例2
実施例1と同様な条件(内部標準なし)で前記ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルモノマーの重合を行った。回収したポリマーは、メタノールによりデカンテーションして精製した。生成ポリマー(Mn=7870、Mw/Mn=1.57(GPCにより測定)のガラス転移温度Tg(DSCにより測定)は、166℃であった。また、熱分解温度Td(TG・DTA5%重量減により測定)は338℃であった。
【0023】
実施例3
開始剤にBF3OEt2を用いて前記ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルモノマーの重合を行った。ナスフラスコにモノマー溶液45mL、開始剤溶液5.0mLを順に注射器で注入して重合を開始した。トルエン中、−30℃、モノマー濃度0.15mol/L、BF3OEt2濃度5.0mmol/Lとした。重合開始11分ですでに全体がゲル化していた。生成ポリマーの洗浄は実施例1のように行い、回収したポリマーをメタノールによりデカンテーションして精製した。ポリマーが不溶性であったため、Mn及びMw/Mnの測定はできなかった。その生成ポリマーのTgを測定したところ186℃となり、Tdは276℃であった。
【0024】
実施例4
実施例3の条件のモノマー濃度を0.10mol/Lに変えて、同様に重合を行った。重合中、視覚的にはゲル化は観測されなかったが、生成ポリマーはトルエンに不溶性であった。
【0025】
実施例5
実施例1の溶媒をトルエンから塩化メチレンに変えて、同様に重合を行った。重合は、6時間で100%に達した。生成ポリマーのMnは重合率に比例して増加し、Mw/Mnの比較的狭いポリマーが合成できた(Mn=5510、Mw/Mn=1.31)。Mw/Mnは、トルエン溶媒で重合したときよりも狭いものとなった。生成ポリマーの未反応ビニル基の含量は、重合初期(重合率36%)で2mol%であり、高環化率のポリマーであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、以上の通り、ガラス転移点の高いジビニルエーテルのホモポリマーが提供できるので、インク、塗料、レジスト、カラーフィルターなどの用途並びに接着剤、製版材、封止剤、画像形成用原料など有用な、低皮膚刺激性、低毒性で、高機能の硬化性、密着性、透明性、剛直性に優れたカチオン重合性組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のペンタエリスリトールアセタルジビニルエーテルホモポリマー(I)の1H−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、nは平均5〜600の数である)
で表されるジビニルエーテル誘導体ホモポリマー。
【請求項2】
数平均分子量Mnが500〜200,000である請求項1記載のホモポリマー。
【請求項3】
分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1〜5である請求項1又は2に記載のホモポリマー。
【請求項4】
式(II):
【化2】

を有する対応ジビニルエーテル誘導体モノマーをルイス酸の存在下に環化重合させることを含んでなる請求項1に記載のジビニルエーテル誘導体ホモポリマーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のホモポリマー(I)を含んでなるインク。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のホモポリマー(I)を含んでなる電子材料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242484(P2009−242484A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88530(P2008−88530)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】