説明

スターリングエンジン

【課題】簡単な構造でディスプレーサピストン及びパワーピストンが同軸上を円滑に移動し得るスターリングエンジンを提供する。
【解決手段】フライホイール80の回転軸81に対し第1のオフセット位置に第1の回転中心(C2)を有する第1のクランク(クランク軸部82)に、第1のコネクティングロッド62の一端部を回転可能に支持すると共に、その他端部をパワーピストン40の径方向中心(RC)に揺動可能に支持する。ディスプレーサピストン20にスライダロッド50の一端部を固定し他端部をパワーピストンに摺動可能に支持する。上記回転軸81に対し第2のオフセット位置に第2の回転中心(C7)を有する第2のクランク(リンクプレート71)に、第2のコネクティングロッド72の一端部を回転可能に支持すると共に、その他端部をスライダロッドに揺動可能に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスターリングエンジンに関し、特に、排熱を熱源として熱エネルギーを電気エネルギー等に変換し得るスターリングエンジンに係る。
【背景技術】
【0002】
近年、窯業炉、ごみ処理炉等から排出されている熱エネルギーを回収すべく、排熱を熱源として熱エネルギーを電気エネルギー等に変換し得る装置として、スターリングエンジンが注目されている。
【0003】
周知のように、スターリングエンジンの基本構成は、パワーピストンがシリンダ内に収容されると共に、空気等の作動流体を移動させるためのディスプレーサピストンが同シリンダ内に収容され、同シリンダの内壁面との隙間を維持して移動するように構成されたもので、これらパワーピストン及びディスプレーサピストンが一つのシリンダ内に収容されたものが一シリンダ式と呼ばれている。そして、パワーピストンとディスプレーサピストンがクランク機構を介して連結され、一定の位相差を維持しながら同軸上を往復動するように構成された機械リンク型(キネマチック型)と、クランク機構を必要としないフリーピストン型が知られており、前者の一例が下記の特許文献1に開示されている。
【0004】
この特許文献1においては、「高性能のスターリングエンジンを得る重要な方法の一つは、クランク室内に作動ガスを導入し、クランク室を耐圧構造となるようにして、回転軸のクランク室貫通部にメカニカルシールを用いるか、もしくはクランク室内に発電機を納める等の方法によって、他のシール方式を用いる場合に生じやすい内部摩擦や外部もれを極度に軽減することである。この耐圧方式を可能とするには、重量増加を防ぐためクランク室ができるだけ小型である必要がある。さて一方において、図1のような双子状の二つのクランク1,2を左右に有するロンビッククランク機構はスターリングエンジン用としてすぐれた実績がある。しかしこの方式は二つのクランクを有するため、クランク室が大きくなってコンパクトな耐圧構造を作るのに困難な点がある。」(特許文献1の第1頁左下欄第14行目乃至右下欄第9行目)という課題に対し、「シリンダーの中心線から大きく偏心した位置に回転軸を持つただ一ケのクランクと、そのクランクピンから斜め上方と斜め下方に出された2本の連桿によって該シリンダー内に串形に配置されたディスプレイサーピストンと、パワーピストンとを位相遅れをもって上下に駆動するようにし、かつクランク室全体を加圧可能な密閉形式とした偏心クランク形式のスターリングエンジン。」(特許文献1の第1頁左下欄第5行目乃至第12行目)が提案されている。即ち、機構学でいう「偏心スライダクランク機構」が構成され、特許文献1でクロスヘッドと呼ばれ縦溝に収容される二つのスライダと、二本のコネクティングロッドが必須とされている。
【0005】
一方、下記の特許文献2の段落〔0004〕には「スターリングサイクルを実現する構造として、従来大きく分けてアルファ型、ベータ型そしてガンマ型の3種類が存在する。アルファ型は、高温空間、低温空間にそれぞれ一つのパワーピストンを持ち、別名2ピストン型と呼ばれる。この方式は、二つのピストンのそれぞれが各空間で完全に掃気するため、死空間が非常に小さいことが特徴である」と記載されている。そして、特許文献1と同様のベータ型に関し、同段落〔0007〕において「ベータ型は、低温側に一つのパワーピストンを持ち、ディスプレーサがパワーピストンと同一のシリンダに収まり、互いにオーバラップしながら運動し、完全掃気可能なことを特徴とする。」と説明されている。更に、特許文献2の段落〔0008〕において「ガンマ型は、低温側に一つのパワーピストンを持ち、ディスプレーサは別のシリンダに収まるため、その径を大きくして再生器通過ガス量を増やし、前記比率を温度差に応じて最適化することができる。」と説明されている。
【0006】
更に、特許文献1と同様のベータ型に関し、特許文献3においては、その段落〔0002〕に、背景として「スターリングエンジンは、低い温度の熱源を利用することから、その目標性能を達成するにはピストンシールや機構の摩擦に起因する機械損失の軽減は開発課題の一つである。」と記載され、同段落〔0003〕に記載の「スコッチ・ヨーク機構は、ヨークの往復部の質量の増大による機械損失の増加、クランクピンとヨーク部の接点の強度や耐摩耗性に問題がある。また、騒音と機械損失の低減のため、クランクピン軸受とヨーク部の間の隙間を適切に設定する必要もある。」という課題に対し、同段落〔0004〕に記載のように「摺動損失を低減し、信頼性の高いスコッチ・ヨーク機構とするスターリングエンジンを提供する」ことが提案されている。即ち、ここでは、機構学でいう「複式機構」の一つである「クロススライダクランク機構」、所謂スコッチヨーク機構が構成され、三本のコネクティングロッドが必須とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−25555号公報
【特許文献2】特開2006−118430号公報
【特許文献3】特開2008−101501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2におけるディスプレーサピストンについては、一般的な内燃機関におけるピストン支持構造と同様、クランクに一端部を回転可能に支持すると共にピストンの径方向中心に他端部を揺動可能に支持するコネクティングロッドを有し、同ピストンをスライダとするスライダクランク機構が採用されているが、パワーピストンについては、その径方向中心に対して両側に、一対のコネクティングロッドが配置されている。これに対し、上記特許文献1及び3に記載のようなベータ型においては、ディスプレーサピストン及びパワーピストンの両者に対し、夫々のピストンの径方向中心にコネクティングロッドを揺動可能に支持することはできない。このため、パワーピストンの径方向中心に対して両側に一対のコネクティングロッドが配置されている。
【0009】
また、上記特許文献1及び3においては、前述のように、夫々、「偏心スライダクランク機構」及び「スコッチヨーク機構」が用いられており、複雑な構造で、部品点数も多く高価な装置となる。然し乍ら、このようなベータ型についても、パワーピストンの径方向中心に他端部を揺動可能に支持するコネクティングロッドを有し、パワーピストンをスライダとするスライダクランク機構を基本構成とすることが望ましい。
【0010】
そこで、本発明は、ディスプレーサピストンと同軸上に配置したパワーピストンがシリンダの軸方向に往復移動するように構成されたスターリングエンジンにおいて、簡単な構造で、ディスプレーサピストン及びパワーピストンが同軸上を円滑に移動し得るスターリングエンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るスターリングエンジンは、シリンダ内にディスプレーサピストンを収容して高温空間と低温空間を形成し、両空間の作動流体が再生器を介して周期的に移動しつつ前記ディスプレーサピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動すると共に、前記ディスプレーサピストンと同軸上に配置したパワーピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動するように構成されたスターリングエンジンにおいて、前記シリンダを固定するハウジングに対し回転可能に支持するフライホイールと、該フライホイールの回転軸に対し第1のオフセット位置に第1の回転中心を有する第1のクランク、及び該第1のクランクに一端部を回転可能に支持すると共に前記パワーピストンの径方向中心に他端部を揺動可能に支持する第1のコネクティングロッドを有し、前記パワーピストンをスライダとする第1のスライダクランク機構と、前記ディスプレーサピストンに一端部を固定し他端部が前記パワーピストンを貫通して延出するように配置し、前記パワーピストンの往復移動軸に平行な軸上を摺動可能に前記パワーピストンに支持して成るスライダロッドと、前記フライホイールの回転軸に対し第2のオフセット位置に第2の回転中心を有する第2のクランク、及び該第2のクランクに一端部を回転可能に支持すると共に他端部を前記スライダロッドの他端部に揺動可能に支持する第2のコネクティングロッドを有し、前記スライダロッドをスライダとする第2のスライダクランク機構とを備えることとしたものである。
【0012】
上記のスターリングエンジンにおいて、前記パワーピストンの往復移動軸に平行な軸上に配置し、前記パワーピストンと前記ディスプレーサピストンの一方側に一端部を固定すると共に、前記パワーピストンと前記ディスプレーサピストンの他方側に他端部を摺動自在に支持するガイドロッドを備えたものとするとよい。
【0013】
また、前記ガイドロッドの固定位置を、前記スライダロッドが前記パワーピストンを貫通した位置から前記パワーピストンの径方向中心までの径方向距離と等しい距離離隔した軸上に設定するとよい。更に、前記スライダロッド及び前記ガイドロッドを含む平面が、前記フライホイールの回転軸を含むように、前記スライダロッド及び前記ガイドロッドを配置し、前記スライダロッド及び前記ガイドロッドを含む平面に直交する平面上を前記第1及び第2のコネクティングロッドが揺動するように配置するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述のように構成されているので以下に記載の効果を奏する。即ち、上記の構成になるスターリングエンジンは、前記第1のスライダクランク機構と前記第2のスライダクランク機構を備えており、前記第1及び第2のコネクティングロッドを有する簡単な構成で、ディスプレーサピストン及びパワーピストンの円滑な作動を確保することができ、安価に構成することができる。特に、単一のシリンダ内にディスプレーサピストン及びパワーピストンの二つのピストンが収容された所謂ベータ型のスターリングエンジンにおいて、前記第1のスライダクランク機構によって、大きな圧力が付与されるパワーピストンは、その径方向中心で支持されるので、安定した姿勢で軸方向に往復移動することができる。これに対し、ディスプレーサピストンには然程大きな圧力が付与されることはなく、ディスプレーサピストンは必ずしも径方向中心で支持する必要はないので、前記第2のスライダクランク機構によって、パワーピストンの往復移動軸に平行な軸上を摺動可能に、パワーピストンに支持することによって、円滑な作動を確保することができる。
【0015】
上記スターリングエンジンにおいて、更に、パワーピストン及びディスプレーサピストンの一方に、ガイドロッドを軸方向移動可能に支持することとすれば、確実にディスプレーサピストンの回転を阻止することができ、一層安定した状態でディスプレーサピストンを保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るスターリングエンジンを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るスターリングエンジンの側面視の縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスターリングエンジンの一部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスターリングエンジンにおける第1及び第2のスライダクランク機構のスケルトン図である。
【図5】本発明を発電機に適用してスターリングエンジン発電機を構成するときの装着状態及び制御回路の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の望ましい実施形態に関し、図面を参照して説明する。図1及び図2に本発明の一実施形態を示すように、本実施形態は機械リンク型(キネマチック型)のスターリングエンジンであり、図1に示すように、ハウジング1に、スターリングエンジンのシリンダ10と、電動モータ及び発電機として機能するモータジェネレータ2が固定され、両者が後述するように連結されている。
【0018】
シリンダ10内にはディスプレーサピストン20が収容され、高温空間HSと低温空間LSが形成され、両空間の作動流体が再生器30を介して周期的に移動しつつディスプレーサピストン20がシリンダ10の軸方向に往復移動すると共に、ディスプレーサピストン20と同軸上に配置されたパワーピストン40がシリンダ10の軸方向に往復移動するように構成されている。尚、図1は高温空間HSが最小容量で低温空間LSが最大容量の状態を示し、図2は高温空間HSが最大容量で低温空間LSが最小容量の状態を示す。シリンダ10はシリンダヘッド11と筒体のシリンダ本体12が溶接接合されたもので、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動軌跡の全長に亘り、シリンダ10の内壁面とディスプレーサピストン20の外壁面との間に一定の環状間隙を維持するように、ディスプレーサピストン20がパワーピストン40に対し軸方向移動可能に支持されている。
【0019】
本実施形態の再生器30は、複数の金属網層を有する積層筒体で構成され、例えば、一枚の金属網が複数回巻回された後に巻端部がスポット溶接されて積層筒体が形成される。あるいは、これに代えて、蓄熱量の確保と通気抵抗の低減を両立させ得る他の部材を用いることとしてもよい。この再生器30は上記の環状間隙内に配置され、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動中、作動流体に対し一定の間隙の環状流路を維持するように、シリンダ10に支持されている。この作動流体は気体であり、本実施形態ではヘリウムガスが用いられているが、空気を用いることとしてもよい。
【0020】
図3に拡大して示すように、シリンダ10の内壁面に環状凹部10rが形成され、この環状凹部10rに再生器30が嵌着され、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動軌跡の全長に亘り、再生器30の内壁面とディスプレーサピストン20の外壁面との間が周方向に一定の間隙(クリアランスd)を維持するように、ディスプレーサピストン20がパワーピストン40に摺動可能に支持されており、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動中、作動流体に対し一定の間隙(d)の環状流路CPを維持するように構成されている。
【0021】
更に、図1に示すように、シリンダ本体12の外壁面には環状凹部12rが形成されており、この環状凹部12rを覆うように支持筒体13が配置され、シリンダ本体12に対し液密的に固定されている。支持筒体13には冷却媒体流入部FI及び冷却媒体流出部FOが設けられており、環状凹部12rと支持筒体13によって画成される環状空間CL内に冷却媒体(例えば水)が冷却媒体流入部FIから導入され、冷却媒体流出部FOから排出されるように構成されており、これらによって冷却器が構成され、シリンダ本体12内に低温空間LSが形成される。一方、シリンダヘッド11には複数の集熱フィン11fが設けられており、これらの集熱フィン11fを介して熱源(図示せず)によってシリンダヘッド11が加熱され、シリンダヘッド11内に高温空間HSが形成されるように構成されている。このように、再生器30は、高温空間HSと低温空間LSとの間に位置するようにシリンダ10内に保持されており、両空間の作動流体が再生器30を介して周期的に移動しつつディスプレーサピストン20がシリンダ10の軸方向に往復移動し得る構成となる。
【0022】
図1及び図2に示すように、上記シリンダ10はハウジング1に固定されており、このハウジング1に対しフライホイール80が回転軸81回りを回転可能(回転中心をC2で示す)に支持されている。この回転軸81(フライホイール80の回転中心C2)に対し第1のオフセット位置に第1の回転中心(C6で示す)を有する第1のクランクが、フライホイール80のクランク軸部82(回転中心C2及びC6を含む部分)によって構成されている。この第1のクランク(クランク軸部82)の回転中心C6を含む突起部に一端部を回転可能に支持すると共に、パワーピストン40の径方向中心(RCで示す)に、他端部を揺動可能(揺動中心をC4で示す)に支持する第1のコネクティングロッド62が設けられ、パワーピストン40をスライダとする第1のスライダクランク機構60が構成されている。
【0023】
また、ディスプレーサピストン20にスライダロッド50の一端部が固定され、その他端部がパワーピストン40の貫通孔41を介して図1の下方に延出するように配置され、パワーピストン40の往復移動軸に平行な軸上を摺動可能に、パワーピストン40に支持されている。そして、フライホイール80の回転軸81(回転中心C2)に対し第2のオフセット位置に第2の回転中心(C7で示す)を有する第2のクランクが、リンクプレート71によって構成されている。この第2のクランク(リンクプレート71)に一端部を回転可能(回転中心をC7で示す)に支持すると共に、他端部をスライダロッド50の他端部に揺動可能(揺動中心をC5で示す)に支持する第2のコネクティングロッド72が設けられ、スライダロッド50(及び、これと一体的に移動するディスプレーサピストン20)をスライダとする第2のスライダクランク機構70が構成されている。
【0024】
上記の回転中心及び揺動中心には、図1に示すように、軸受(ボールベアリング)B1乃至B4が装着されており、円滑な回転及び揺動運動が確保される。即ち、クランク軸部82の回転中心C6を含む突起部には、軸受B1を介して、第1のコネクティングロッド62の大端部61が回転可能に支持されている。一方、第1のコネクティングロッド62の小端部63は、軸受B2及びピストンピン42を介してパワーピストン40に揺動可能に支持されており、所謂セミフローティング構造とされているが、フルフローティング構造としてもよい。
【0025】
そして、第1のクランクを構成するクランク軸部82の回転中心C6を含む突起部には、第2のクランクを構成するリンクプレート71が固定されており、リンクプレート71はフライホイール80と一体的に回転する。尚、リンクプレート71は図2に示すように扇形に形成されており、図1に示す2本のボルトによってフライホイール80(のクランク軸部82)に強固に固定されている。更に、リンクプレート71には、軸受B3を介して、第2のコネクティングロッド72の一端部が回転可能(回転中心C7)に支持され、その他端部が軸受B4を介して、スライダロッド50の他端部に揺動可能(揺動中心C5)に支持されている。
【0026】
図1に示すように、ディスプレーサピストン20の端部にはスライダロッド50が固着されており、このスライダロッド50がパワーピストン40を貫通して、パワーピストン40の貫通孔41内を軸方向移動可能に支持されている。尚、スライダロッド50の支持部であるパワーピストン40の貫通孔41内にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング等の表面硬化処理を行うこととすれば、スライダロッド50ひいてはディスプレーサピストン40を安定した状態で保持することができ、シリンダ10内でのディスプレーサピストン40の往復移動中、作動流体に対し一定の間隙の環状流路(図3のCP)を一層確実に維持することができる。更に、パワーピストン40とシリンダ10の摺動部分等にも、DLCコーティング等による表面硬化処理を施しておくとよい。
【0027】
上記の第1及び第2のスライダクランク機構60,70をスケルトンで表すと図4に示すようになる。図4は、図2の構成と同一視のスケルトンであり、図1及び図2中の符号を用いて示している。前述のように、スライダロッド50はディスプレーサピストン20に固着されており、これらは一体として摺動軸(図4に破線で示す)に沿って移動する。従って、スライダロッド50の摺動軸(破線)は、実際にはパワーピストン40の往復移動軸(実線)と重合しているので、破線と実線は同一線上にあるが、これらを区別するため前者をオフセットさせて示している。尚、第1の回転中心(C6)と第2の回転中心(C7)との関係は、ディスプレーサピストン20がパワーピストン40を所定のクランク角度(本実施形態では60度)だけ先行する位相差に設定されている。
【0028】
本実施形態においては、更に、ガイドロッド90が、パワーピストン40の往復移動軸に平行な軸上に配置されており、パワーピストン40に一端部が圧入固定されている。そして、ガイドロッド90の他端部はディスプレーサピストン20に摺動自在に支持されている。尚、上記の関係を逆にし、ガイドロッド90の一端部をディスプレーサピストン20に圧入固定し、他端部をパワーピストン40に摺動自在に支持することとしてもよい。本実施形態のガイドロッド90は、スライダロッド50がパワーピストン40を貫通した位置からパワーピストン40の径方向中心(RC)までの径方向距離と等しい距離離隔した軸上で固定されている。即ち、図1に示すように、スライダロッド50及びガイドロッド90は、両者の中心軸が径方向中心(RC)の両側に等間隔となるように配置されている。特に、スライダロッド50及びガイドロッド90を含む平面が、フライホイール80の回転軸81を含むように、スライダロッド50及びガイドロッド90が配置され、スライダロッド50及びガイドロッド90を含む平面(図1の紙面)に直交する平面上を第1及び第2のコネクティングロッド62及び72が揺動するように配置されている。
【0029】
而して、パワーピストン40の軸方向移動に伴い、ガイドロッド90も軸方向移動するが、ディスプレーサピストン20に摺動自在に支持された状態で移動するので、ディスプレーサピストン20の軸方向移動に影響を与えることはなく、パワーピストン40とディスプレーサピストン20は独立して軸方向移動する。特に、機構部品の配置等に起因し、パワーピストン40の軸方向移動に伴い、ディスプレーサピストン20に対しその中心軸を中心とした回転力が付与される場合においても、ガイドロッド90によってディスプレーサピストン20の独立した軸方向移動を確保することができる。もっとも、パワーピストン40とディスプレーサピストン20の独立した軸方向移動を確保し得る構成であれば、ガイドロッド90を省略することとしてもよい。
【0030】
上記の構成になるスターリングエンジンは、例えば図5に示す排熱筒EXに装着される。この場合には、図1の上下が逆となるように配置される。即ち、ハウジング1が熱源の排熱筒EXに固着され、この中にシリンダヘッド11の集熱フィン11f部分が収容された状態でスターリングエンジンが支持される。そして、フライホイール80に連結されるモータジェネレータ2は、例えば周知の永久磁石同期電動機によって構成され、電動モータ及び発電機として機能するものであり、その構造についての説明は省略するが、発電制御については後述する。
【0031】
本実施形態は上記のように構成されており、単一のシリンダ10内にディスプレーサピストン20及びパワーピストン40が収容された所謂ベータ型のスターリングエンジンにおいて、第1のスライダクランク機構60によって、大きな圧力が付与されるパワーピストン40は、その径方向中心RCで支持されるので、安定した姿勢で軸方向に往復移動することができる。これに対し、ディスプレーサピストン20には然程大きな圧力が付与されることはなく、ディスプレーサピストン20は必ずしも径方向中心で支持する必要はないので、第2のスライダクランク機構70によって、パワーピストン40の往復移動軸に平行な軸上を摺動可能に、パワーピストン40に支持することによって、円滑な作動を確保することができる。このように、第1及び第2のコネクティングロッド62及び72を有する簡単な構成で、ディスプレーサピストン20及びパワーピストン40の円滑な作動を確保することができ、小型、軽量化が可能となり、製造コストを低く抑えることができ、信頼性、耐久性も向上する。従って、500℃前後の産業排熱を熱源とした場合でも、効率的に熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができるので、排熱回収器として実用に供することができる。例えば、500℃前後の中温の排熱で、作動流体が1Mpa以下の圧力でも、一定の間隙の環状流路(図3のCP)を確実に維持しつつ、ディスプレーサピストン20の円滑な往復移動を行うことができる。
【0032】
図5は、図1及び図2に示すスターリングエンジン及びモータジェネレータを備えたスターリングエンジン発電機SEの装着状態、及びこれを発電制御に供する制御回路の一例を示すもので、シリンダヘッド11が排熱筒EX内に延出するように装着され、排熱筒EX内を通過する高温の排出ガスにシリンダヘッド11が曝され、加熱される。モータジェネレータ2は主回路201により、これを断続するリレーRC1を介して直流電源202に接続され、この主回路201に対し三つの回路が並列接続されている。
【0033】
先ず、第1の回路は回転数代用回路で、相対的に小さい抵抗203と相対的に大きい抵抗204が直列接続され、相対的に大きい抵抗204の両端電圧Vsが0乃至10Vの範囲で変化するように設定される。この電圧Vsはエンジン回転に比例するので、回転数を表す値として用いられる。次に、第2の回路はダミー抵抗回路で、発電容量を吸収可能な容量のダミー抵抗205と、これに至る回路を断続するリレーRC2によって構成される。そして、第3の回路がバッテリ充電回路で、これを断続するリレーRC3とバッテリ207との間に充電コントローラ206が介装されている。この充電コントローラ206により発電側の0乃至30Vの電圧が約14Vに調圧され、12Vのバッテリ207に供給されて充電される。また、この充電コントローラ206を介して、外部に取り付けられた冷却ファン208への電力の供給も行なわれる。
【0034】
図5では、バッテリ207の電力利用の一例として、DC−ACコンバータ209によりDC12VからAC100Vに変換され、照明等の外部機器210に利用される。この電力利用側の外部機器210とスターリングエンジン発電機SEが発生する電力をほぼ等しくして、ダミー抵抗205による消費電力を少なくすることが望ましい。バッテリ207が満充電近傍にある場合等、発電機側の負荷が軽くなり、エンジン回転数が過回転の状態に入り、電圧Vsが基準電圧Vh以上となった場合には、バッテリ207に対する充電回路が遮断されて、発電側がダミー抵抗205に接続され、エンジン回転が正常に戻されると共に、ダミー抵抗205によって発電分の一部が吸収される。これに対し、バッテリ207の電力が消費されて空放電に近い状態から充電が開始されると、当初は充電電流が大きいため負荷が増大し、エンジン回転数が低下する傾向となる。この結果、電圧Vsが基準電圧Vl以下となった場合には、発電機側のダミー抵抗205の回路が遮断され、エンジン回転数の回復が促され、充電コントローラ206を介して発電機側の電圧が14V乃至30Vとなるように制御され、バッテリ207への充電が適切に行なわれる。
【0035】
而して、ダミー抵抗205の回路の断続により、外部熱源の温度条件の変化あるいは負荷状態の変化に影響されることなく、安定した状態で、スターリングエンジン発電機SEによってバッテリ207を充電することができる。尚、熱源温度が充分高いにも拘らず発生電圧Vsがゼロ(0)の場合には、スターリングエンジンが停止状態にあることを示しているので、速やかにモータ起動し、スターリングエンジンを常に稼動状態に維持し得るように制御するとよい。
【符号の説明】
【0036】
1 ハウジング
2 モータジェネレータ
10 シリンダ
11 シリンダヘッド
12 シリンダ本体
13 支持筒体
20 ディスプレーサピストン
30 再生器
40 パワーピストン
50 スライダロッド
60 第1のスライダクランク機構
62 第1のコネクティングロッド
70 第2のスライダクランク機構
72 第2のコネクティングロッド
80 フライホイール
90 ガイドロッド
HS 高温空間
LS 低温空間
B1〜B4 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内にディスプレーサピストンを収容して高温空間と低温空間を形成し、両空間の作動流体が再生器を介して周期的に移動しつつ前記ディスプレーサピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動すると共に、前記ディスプレーサピストンと同軸上に配置したパワーピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動するように構成されたスターリングエンジンにおいて、前記シリンダを固定するハウジングに対し回転可能に支持するフライホイールと、該フライホイールの回転軸に対し第1のオフセット位置に第1の回転中心を有する第1のクランク、及び該第1のクランクに一端部を回転可能に支持すると共に前記パワーピストンの径方向中心に他端部を揺動可能に支持する第1のコネクティングロッドを有し、前記パワーピストンをスライダとする第1のスライダクランク機構と、前記ディスプレーサピストンに一端部を固定し他端部が前記パワーピストンを貫通して延出するように配置し、前記パワーピストンの往復移動軸に平行な軸上を摺動可能に前記パワーピストンに支持して成るスライダロッドと、前記フライホイールの回転軸に対し第2のオフセット位置に第2の回転中心を有する第2のクランク、及び該第2のクランクに一端部を回転可能に支持すると共に他端部を前記スライダロッドの他端部に揺動可能に支持する第2のコネクティングロッドを有し、前記スライダロッドをスライダとする第2のスライダクランク機構とを備えことを特徴とするスターリングエンジン。
【請求項2】
前記パワーピストンの往復移動軸に平行な軸上に配置し、前記パワーピストンと前記ディスプレーサピストンの一方側に一端部を固定すると共に、前記パワーピストンと前記ディスプレーサピストンの他方側に他端部を摺動自在に支持するガイドロッドを備えたことを特徴とする請求項1記載のスターリングエンジン。
【請求項3】
前記ガイドロッドの固定位置を、前記スライダロッドが前記パワーピストンを貫通した位置から前記パワーピストンの径方向中心までの径方向距離と等しい距離離隔した軸上に設定することを特徴とする請求項2記載のスターリングエンジン。
【請求項4】
前記スライダロッド及び前記ガイドロッドを含む平面が、前記フライホイールの回転軸を含むように、前記スライダロッド及び前記ガイドロッドを配置し、前記スライダロッド及び前記ガイドロッドを含む平面に直交する平面上を前記第1及び第2のコネクティングロッドが揺動するように配置することを特徴とする請求項3記載のスターリングエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255549(P2010−255549A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107473(P2009−107473)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(390010227)株式会社三五 (148)
【出願人】(301010892)百瀬機械設計株式会社 (16)
【Fターム(参考)】