説明

スターリングエンジン

【課題】排熱を熱源として熱エネルギーを確実に電気エネルギー等に変換し得るスターリングエンジンを提供する。
【解決手段】シリンダ10内にディスプレーサピストン20を収容し、高温空間HSと低温空間LS内の作動流体が再生器30を介して周期的に移動しつつディスプレーサピストンが往復移動する。その移動軌跡の全長に亘り、シリンダの内壁面とディスプレーサピストンの外壁面との間に一定の環状間隙CCを維持するように、ディスプレーサピストンをパワーピストンに軸方向移動可能に支持する。筒体の再生器を環状間隙内に配置し、ディスプレーサピストンの往復移動中、作動流体に対し一定の間隙(d2)の環状流路CPを維持するように、再生器をシリンダ及びディスプレーサピストンの一方に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスターリングエンジンに関し、特に、排熱を熱源として熱エネルギーを電気エネルギー等に変換し得るスターリングエンジンに係る。
【背景技術】
【0002】
近年、窯業炉、ごみ処理炉等から排出されている熱エネルギーを回収すべく、排熱を熱源として熱エネルギーを電気エネルギー等に変換し得る装置として、スターリングエンジンが注目されている。
【0003】
周知のように、スターリングエンジンの基本構成は、パワーピストンがシリンダ内に収容されると共に、空気等の作動流体を移動させるためのディスプレーサピストンが同シリンダ内に収容され、同シリンダの内壁面との隙間を維持して移動するように構成されたもので、これらパワーピストン及びディスプレーサピストンが一つのシリンダ内に収容されたものが一シリンダ式と呼ばれている。更に、ディスプレーサピストンの移動に伴いシリンダ内の作動流体が低温空間と高温空間との間を移動する際の熱効率を向上させるべく、ディスプレーサピストンはシリンダの内壁面に密着して摺動するように配置されると共に、シリンダの内壁面の外側に流路が形成され、この流路に再生器が配設された構成が一般的となっている。この再生器は、金属網等で形成された蓄熱式の熱交換器であり、ディスプレーサ自体が再生器の材料の金属網によってピストン形状に形成されたスターリングエンジンの模型も知られているが、実用に供し得るものではない。
【0004】
そして、ディスプレーサピストンとパワーピストンがクランク機構を介して連結され、一定の位相差を維持しながら同軸上を往復動するように構成された機械リンク型(キネマチック型)と、クランク機構を必要としないフリーピストン型が知られており、後者の一例が下記の特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1においては、「ディスプレーサピストンとパワーピストンが機械的に連結されていないフリーピストンスターリングエンジンでは、両ピストンの位相差を一定に保つことは困難」という課題に対し、「パワーピストンとスリーブ間およびパワーピストンとロッド間の摺動に伴う機械損失を軽減し、フレクシャースプリングという複雑で精度の高い高価なスプリングを使用しないで、低コストでディスプレーサピストン及びパワーピストンのセンターリング精度を高く維持でき、かつどのような運転条件下でもディスプレーサピストンとパワーピストンの軸方向動きの位相差を最適に保ち、エンジンの効率及び出力を高く維持する」ことを目的とし、「少なくとも前記ロッドと前記パワーピストンの摺動部の一方及び又は該パワーピストンとスリーブの摺動部の一方をDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング等の表面硬化処理し、かつ前記ロッドに一体に結合されたロッド可動部材と前記パワーピストンに一体に結合された可動部材および軸方向中間に位置しケースに固定された中間固定部材のそれぞれの間に、複数個のコイルスプリングを円周上に配置」することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−061330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1においてはディスプレーサピストン回りについて明確に記載されていないが、図面を見る限りシリンダの内壁面とディスプレーサピストンとの間にスリーブが介装され、その外側に作動流体の流路が形成され、この流路に再生器等が介装されている。つまり、ディスプレーサピストン側の構造は従来構造が踏襲されている。このため、「摺動部をDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング等の表面硬化処理」することとすれば、パワーピストンのみならずディスプレーサピストンを安定した状態で保持することができるものの、作動流体に対する流路抵抗が大となるだけでなく、スリーブ外側に流路を形成する複雑な構造自体が、熱効率の低下、筐体の大型化、重量増、ひいては製造コストの上昇を惹起することとなる。
【0008】
以上のように、従来のスターリングエンジンは、機械リンク型であるかフリーピストン型であるかを問わず、特にディスプレーサピストン回りの流動損失や摩擦損失が大きいため、結果的に作動温度が600℃以上、且つ、内部の作動流体が3.0Mpa程度の高圧であることが要求され、産業排熱として一般的な500℃前後の中温では作動させることが非常に困難であった。もちろん、高温、高圧に耐えるべく筐体も必然的に大型、堅牢とせざるを得ず、排熱回収器として実用に供することは現実的ではなかった。
【0009】
そこで、本発明は、高温空間と低温空間の作動流体が再生器を介して周期的に移動しつつディスプレーサピストンがシリンダ内を往復移動するスターリングエンジンに関し、排熱を熱源として熱エネルギーを確実に電気エネルギー等に変換し得るスターリングエンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るスターリングエンジンは、シリンダ内にディスプレーサピストンを収容して高温空間と低温空間を形成し、両空間の作動流体が再生器を介して周期的に移動しつつ前記ディスプレーサピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動すると共に、前記ディスプレーサピストンと同軸上に配置したパワーピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動するように構成されたスターリングエンジンにおいて、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動軌跡の全長に亘り、前記シリンダの内壁面と前記ディスプレーサピストンの外壁面との間に一定の環状間隙を維持するように、前記ディスプレーサピストンを前記パワーピストンに軸方向移動可能に支持して成り、前記再生器を筒体に形成して前記環状間隙内に配置し、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動中、前記作動流体に対し一定の間隙の環状流路を維持するように、前記再生器を前記シリンダ及び前記ディスプレーサピストンの一方に支持することとしたものである。
【0011】
上記のスターリングエンジンにおいて、前記ディスプレーサピストンの外壁面に環状凹部を形成し、該環状凹部に前記再生器を嵌着し、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動軌跡の全長に亘り、前記再生器の外壁面と前記シリンダの内壁面との間が周方向に一定の間隙を維持するように、前記ディスプレーサピストンを前記パワーピストンに軸方向移動可能に支持して成り、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動中、前記作動流体に対し前記一定の間隙の環状流路を維持することとするとよい。
【0012】
あるいは、前記シリンダの内壁面に環状凹部を形成し、該環状凹部に前記再生器を嵌着し、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動軌跡の全長に亘り、前記再生器の内壁面と前記ディスプレーサピストンの外壁面との間が周方向に一定の間隙を維持するように、前記ディスプレーサピストンを前記パワーピストンに軸方向移動可能に支持して成り、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動中、前記作動流体に対し前記一定の間隙の環状流路を維持することとしてもよい。更に、前記シリンダがシリンダヘッドと筒体のシリンダ本体を接合して成り、該シリンダ本体と前記シリンダヘッドとの接合部を含む前記シリンダの内壁面に前記環状凹部を形成し、前記再生器が前記接合部を被覆するように前記環状凹部に嵌着したものとしてもよい。
【0013】
そして、上記のスターリングエンジンにおいて、前記再生器は、複数の金属網層を有する積層筒体で構成することができ、前記再生器は、一枚の金属網を複数回巻回した後に巻端部を溶接して前記積層筒体を形成することとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述のように構成されているので以下に記載の効果を奏する。即ち、上記の構成になるスターリングエンジンによれば、シリンダ内でのディスプレーサピストンの往復移動軌跡の全長に亘り、シリンダの内壁面とディスプレーサピストンの外壁面との間に一定の環状間隙を維持するように、ディスプレーサピストンがパワーピストンに軸方向移動可能に支持され、筒体の再生器が環状間隙内に配置され、シリンダ内でのディスプレーサピストンの往復移動中、作動流体に対し一定の間隙の環状流路を維持するように、再生器がシリンダ及びディスプレーサピストンの一方に支持されているので、簡単な構成で、作動流体に対する流路抵抗を抑えつつ、ディスプレーサピストンの円滑な作動を確保することができる。従って、産業排熱を熱源とした場合でも、効率的に熱エネルギーを電気エネルギー等に変換することができる。特に、ディスプレーサピストンを軸方向移動可能に支持するパワーピストンの支持部をDLCコーティング等によって表面硬化処理することとすれば、ディスプレーサピストンを安定した状態で保持することができ、シリンダ内でのディスプレーサピストンの往復移動中、作動流体に対し一定の間隙の環状流路を一層確実に維持することができる。
【0015】
上記スターリングエンジンにおいて、ディスプレーサピストンの外壁面に環状凹部を形成し、この環状凹部に再生器を嵌着することとし、あるいは、シリンダの内壁面に環状凹部を形成し、この環状凹部に再生器を嵌着することとしても、作動流体に対し一定の間隙の環状流路を維持するように構成することができる。
【0016】
そして、上記のスターリングエンジンにおいて、複数の金属網層を有する積層筒体で再生器を構成することができ、特に、一枚の金属網を複数回巻回した後に巻端部を溶接して積層筒体を形成することとすれば簡単且つ安価に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るスターリングエンジンの基本構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るスターリングエンジンの基本構成の一部を拡大して示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に供する再生器を示す斜視図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るスターリングエンジンの基本構成の一部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るスターリングエンジンの具体的な構造を示す縦断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るスターリングエンジンの具体的な構造を示す縦断面図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態に係るスターリングエンジンの基本構成を示す縦断面図である。
【図8】本発明を発電機に適用してスターリングエンジン発電機を構成するときの制御回路の一例を示す回路図である。
【図9】図8の制御回路による作動を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の望ましい実施形態に関し、図面を参照して説明する。図1に本発明の一実施形態に係るスターリングエンジンの基本構成を示し、図2及び図3にその一部を拡大し、あるいは抜き出して示している。図4は他の実施形態に係るスターリングエンジンの特徴部分の構成を示し、その具体的な構造を図5及び図6に示している。何れの実施形態も機械リンク型(キネマチック型)で発電機一体式のスターリングエンジンであり、例えば、図8に示すスターリングエンジン発電機SEに供される。
【0019】
図1に示すように、ハウジング1に、スターリングエンジンのシリンダ10と、電動モータ及び発電機として機能するモータジェネレータ2が固定され、両者が後述するように連結されている。シリンダ10内にはディスプレーサピストン20が収容され、高温空間HSと低温空間LSが形成され、両空間の作動流体が再生器30を介して周期的に移動しつつディスプレーサピストン20がシリンダ10の軸方向に往復移動すると共に、ディスプレーサピストン20と同軸上に配置されたパワーピストン40がシリンダ10の軸方向に往復移動するように構成されている。シリンダ10はシリンダヘッド11と筒体のシリンダ本体12が溶接接合されたもので、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動軌跡の全長に亘り、シリンダ10の内壁面とディスプレーサピストン20の外壁面との間に一定の環状間隙CC(クリアランスd1)を維持するように、ディスプレーサピストン20がパワーピストン40に軸方向移動可能に支持されている。
【0020】
そして、金属網によって筒状に形成された再生器30が環状間隙CC内に配置され、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動中、作動流体に対し一定の間隙の環状流路CPを維持するように、再生器30がディスプレーサピストン20に支持されている。上記の作動流体は気体であり、本実施形態ではヘリウムガスが用いられているが、空気を用いることとしてもよい。
【0021】
シリンダ本体12の中間部の外壁面には環状溝12gが形成されると共に、環状凹部12rが形成されている。そして、環状溝12gにC字状のリング部材15が嵌合されると共に、環状凹部12rを覆うように支持筒体13が配置され、環状凹部12rの軸方向両端部に配設されるシールリング(代表して14で表す)を介して液密的に固定されている。支持筒体13の中間部にはフランジ部13fが一体的に形成されており、フランジ部13fがハウジング1に螺着されると、ハウジング1の開口段部1sにシールリング14を介して支持筒体13が液密的に固定されるように構成されている。この場合において、リング部材15はハウジング1の開口段部1sに当接し、ハウジング1と支持筒体13との間に挟持された状態で保持されるので、シリンダ本体12ひいてはシリンダ10のハウジング1に対する軸方向の位置を所定の位置に設定する(位置決めを行う)ことができる。
【0022】
支持筒体13には冷却媒体流入部FI及び冷却媒体流出部FOが設けられており、環状凹部12rと支持筒体13によって画成される環状空間CL内に冷却媒体(例えば水)が冷却媒体流入部FIから導入され、冷却媒体流出部FOから排出されるように構成されており、これらによって冷却器が構成され、シリンダ本体12内に低温空間LSが形成される。一方、シリンダヘッド11には複数の集熱フィン11fが設けられており、これらの集熱フィン11fを介して熱源(図示せず)によってシリンダヘッド11が加熱され、シリンダヘッド11内に高温空間HSが形成されるように構成されている。このように、高温空間HSと低温空間LSとの間に再生器30が位置するように、再生器30を装着したディスプレーサピストン20がシリンダ10内に収容されている。而して、両空間の作動流体が再生器30を介して周期的に移動しつつディスプレーサピストン20がシリンダ10の軸方向に往復移動し得る構成となる。
【0023】
図1に示す実施形態においては、図2に拡大して示すように、ディスプレーサピストン20の外壁面に環状凹部20rが形成され、この環状凹部20rに再生器30が嵌着され、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動軌跡の全長に亘り、再生器30の外壁面とシリンダ10の内壁面との間が周方向に一定の間隙(クリアランスd2。当然乍ら、d2<d1)を維持するように、ディスプレーサピストン20がパワーピストン40に支持されており、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動中、作動流体に対し一定の間隙(d2)の環状流路CPを維持するように構成されている。
【0024】
本実施形態の再生器30は、複数の金属網層を有する積層筒体で構成され、例えば図3に再生器30を抜き出して示したように、一枚の金属網が複数回巻回された後に巻端部がスポット溶接されて積層筒体が形成される。あるいは、ディスプレーサピストン20の外壁面に直接金属網を複数回巻回して端部をスポット溶接等で固着することとしてもよい。更に、これに代えて、蓄熱量の確保と通気抵抗の低減を両立させ得る他の部材を用いることとしてもよい。
【0025】
前述のように、ディスプレーサピストン20はパワーピストン40に軸方向移動可能に支持されている。即ち、ディスプレーサピストン20にはロッド50が固着されており、このロッド50がパワーピストン40を貫通してシリンダ10外に延出し、パワーピストン40に軸方向移動可能に支持されている。このロッド50及び/又はパワーピストン40の支持部に対し前述のDLCコーティング等の表面硬化処理を行うこととすれば、ディスプレーサピストン40を安定した状態で保持することができ、シリンダ10内でのディスプレーサピストン40の往復移動中、作動流体に対し一定の間隙の環状流路CPを一層確実に維持することができる。更に、パワーピストン40とシリンダ10の摺動部分等にも、DLCコーティング等による表面硬化処理を施しておくとよい。
【0026】
また、パワーピストン40にはロッド60の一端が揺動自在に支持されており、その他端に回転可能に支持されたプレート71に対し、ロッド50の先端部に揺動自在に支持されたリンク72が、揺動自在に連結されており、これらによってクランク機構70が構成され、フライホイール80を介してモータジェネレータ2に連結されている。尚、モータジェネレータ2は、例えば周知の永久磁石同期電動機によって構成され、電動モータ及び発電機として機能するものであり、その構造についての説明は省略するが、その発電制御については図8及び図9を参照して後述する。
【0027】
以上のように、本実施形態のシリンダ10内には、従来のスターリングエンジンのようなスリーブもその外側の環状通路も設けられていない。また、ディスプレーサピストン20にも従来のようなピストンリングやシールも存在しない。しかも、シリンダ10の内壁面とディスプレーサピストン20の外壁面は、常に一定の間隙(クリアランスd1)を維持するように設定されている。具体的には、DLCコーティング等によってロッド50が最小のクリアランスでパワーピストン40に軸方向移動可能に支持されているので、環状間隙CCは常に一定に維持される。そして、従来のスリーブ外側の独立通路に代わって、環状流路CPが、高温空間HSと低温空間LS間の作動流体の移動を積極的に導通する流路として機能する。このように軸方向に直線的な環状間隙CC内に再生器30の外周側略半分だけが露出し、環状流路CPが確保されており、従来の冷却部は存在しないので、通気抵抗を最小にすることができる。尚、環状間隙CC及び環状流路CPを適宜設定することによって、最小限の流体抵抗に調整することができる。
【0028】
次に、本発明の他の実施形態について図4乃至図6を参照して説明する。図1に示す実施形態においては、図2に拡大して示すように、再生器30がディスプレーサピストン20に支持されているのに対し、図4乃至図6に示す他の実施形態においては、再生器30はシリンダ10に支持されている。即ち、図4に要部を拡大して示すように、シリンダ10の内壁面に環状凹部10rが形成され、この環状凹部10rに再生器30が嵌着され、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動軌跡の全長に亘り、再生器30の内壁面とディスプレーサピストン20の外壁面との間が周方向に一定の間隙(クリアランスd2)を維持するように、ディスプレーサピストン20がパワーピストン40に支持されており、シリンダ10内でのディスプレーサピストン20の往復移動中、作動流体に対し一定の間隙(d2)の環状流路CPを維持するように構成されている。
【0029】
特に、シリンダ本体12とシリンダヘッド11との接合部10cを含むシリンダ10の内壁面に、環状凹部10rが形成されており、再生器30は接合部10cを被覆するように環状凹部10rに嵌着されている。従って、接合部10cはディスプレーサピストン20の移動軌跡に露出することはなく、当然乍ら、ディスプレーサピストン20が接合部10cに直接摺接することはない。図5及び図6は、図4(及び図1)に示す実施形態の具体的構成例であり、図1乃至図3に示す部材と実質的に同じ部材には同一の符号を付して説明を省略する。これらの図において2点鎖線で示すように、ハウジング1に対し、例えば4本の剛性部材の支持柱体RSによって剛柱部材の円盤RPが固定され、この円盤RPが熱源の配管等(図示せず)に固着され、この中にシリンダヘッド11の集熱フィン11f部分が収容された状態でハウジング1が支持される。例えば、後述する図11の排熱筒EXに装着される場合には、図5及び図6の右側が下方で左側が上方となるように配置される。尚、図5は高温空間HSが最小容量で低温空間LSが最大容量の状態を示し、図6は高温空間HSが最大容量で低温空間LSが最小容量の状態を示す。
【0030】
本実施形態は上記のように構成されているので、簡単な構成で、作動流体に対する流路抵抗を抑えつつ、ディスプレーサピストンの円滑な作動を確保することができる。従って、500℃前後の産業排熱を熱源とした場合でも、効率的に熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができるので、排熱回収器として実用に供することができる。例えば、ディスプレーサピストン20を軸方向移動可能に支持するパワーピストン40の支持部に対し、DLCコーティング等の表面硬化処理することとすれば、ディスプレーサピストン20を安定した状態で保持することができ、500℃前後の中温の排熱で、作動流体が1Mpa以下の圧力でも、一定の間隙の環状流路CPを確実に維持しつつ、ディスプレーサピストン20の円滑な往復移動を行うことができる。しかも、従来装置におけるピストンリング、スリーブ、独立通路等を必要としないため、従来装置に比し高効率化が可能となることは勿論、小型、軽量化が可能となり、製造コストを低く抑えることができ、信頼性、耐久性も向上する。
【0031】
図7は本願発明の更に他の実施形態を示すもので、所謂フリーピストン型のスターリングエンジンを構成したものである。本実施形態におけるシリンダ10内の構成は図4乃至図6の実施形態と実質的に同じであり、実質的に同じ部材には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態のハウジング1は二つのケース1a及び1bが接合されて成り、両ケースの接合部に支持プレート1cが固定されている。ケース1aには支持部材17が固着されており、支持部材17は、シリンダ10の内壁面に連続してシリンダ内壁面を形成するシリンダ部を有し、このシリンダ部にパワーピストン40が摺動自在に収容される。支持部材17のシリンダ部周りには、コイル101及びヨーク102が固着されており、これらと対向するように、ケース1aの内壁面にヨーク103が固着されている。これらのヨーク102及び103間に環状の永久磁石104が介装されてリニアモータジェネレータ100が構成され、パワーピストン40の往復動に追従した永久磁石104の軸方向移動に応じて発電し、コイル101から電力が出力される。
【0032】
パワーピストン40の先端にはプレート41が固着され、このプレート41の外周部に上記の永久磁石104が装着されているので、パワーピストン40の軸方向往復動に応じてリニアモータジェネレータ100が発電することになる。一方、ディスプレーサピストン20に固定されているロッド50は、パワーピストン40を貫通し支持プレート1cを越えて延出し、その先端部にプレート51が固着されており、プレート51とプレート41が支持プレート1cを介して平行に配置されている。そして、図7に示すように、プレート41及び51の両側にはコイルスプリング(代表してSPで示す)が配設され、夫々、ハウジング1に対してフローティング状態で支持(浮動支持)されている。而して、本実施形態ではコイル101、ヨーク102、103、及び永久磁石104によってリニアモータジェネレータ100が構成され、スターリングエンジンの始動時は電動モータのスタータとして作動すると共に、自立運転時には発電機及び負荷調整機として機能する。
【0033】
以上のように、本願発明はフリーピストン型への適用も可能であるが、その場合の仕事の取り出し方としては、リニアモータジェネレータ(リニアモータ及び発電機)の組込み一体化が望ましい。また、パワーピストン40とディスプレーサピストン20との間の相対位相差を制御するには、図7に示すように複数のコイルスプリングSPを配置することに代えて、従前のようにフレクシャースプリングを用いることとしてもよい。更に、両ピストン間の相対位相差制御に上記のリニアモータジェネレータを用いてもよいし、相対位相差制御手段を付加することとしてもよい。尚、作用させる熱源としては高温に限らず、例えばマイナス162℃程度のLNGガス等の低温媒体を用いることも可能である。
【0034】
次に、図8は、図1に示すスターリングエンジン及びモータジェネレータを備えたスターリングエンジン発電機SEの発電制御に供する制御回路の一例を示すもので、スターリングエンジンに対し加熱側を構成するシリンダヘッド11が排熱筒EX内に延出するように装着されており、排熱筒EX内を通過する高温の排出ガスにシリンダヘッド11が曝され、加熱される。モータジェネレータ2は主回路201により、これを断続するリレーRC1を介して直流電源202に接続され、この主回路201に対し三つの回路が並列接続されている。第1の回路は回転数代用回路で、相対的に小さい抵抗203と相対的に大きい抵抗204が直列接続され、相対的に大きい抵抗204の両端電圧Vsが0乃至10Vの範囲で変化するように設定される。この電圧Vsはエンジン回転に比例するので、回転数を表す値として用いられる。第2の回路はダミー抵抗回路で、発電容量を吸収可能な容量のダミー抵抗205と、これに至る回路を断続するリレーRC2によって構成される。そして、第3の回路がバッテリ充電回路で、これを断続するリレーRC3とバッテリ207との間に充電コントローラ206が介装されている。この充電コントローラ206により発電側の0乃至30Vの電圧が約14Vに調圧され、12Vのバッテリ207に供給されて充電される。また、この充電コントローラ206を介して、外部に取り付けられた冷却ファン208への電力の供給も行なわれる。
【0035】
図8では、バッテリ207の電力利用の一例として、DC−ACコンバータ209によりDC12VからAC100Vに変換され、照明等の外部機器210に利用される。この電力利用側の外部機器210とスターリングエンジン発電機SEが発生する電力をほぼ等しくして、ダミー抵抗205による消費電力を少なくすることが望ましい。
【0036】
図9は、図8の制御回路による作動を説明するフローチャートで、ステップS1にて起動されると、リレーRC1及びRC3はオフ(遮断状態)でリレーRC2がオン(導通状態)とされる。シリンダヘッド11が加熱されて、ステップS2にて熱源温度(排熱筒EX内の温度)Tgが基準値Tk(例えば500℃)を越えたと判断されると、ステップS3に進みリレーRC1がオンとされ、モータジェネレータ2が電動モータとして機能しスターリングエンジンが起動される。その約2秒後に、ステップS4において前述の回転数代用電圧Vsが基準電圧Vlを越えたと判定されて、スターリングエンジン発電機SEとしての自立が確認されると、ステップS5に進みリレーRC3がオンとされ、モータジェネレータ2によって発電された電力はバッテリ207に充電される。
【0037】
スターリングエンジン発電機SEは作動流体が常に一定であるため、加熱側の温度(排熱筒EX内の温度)が変動しても出力される電圧は0乃至30Vの範囲で変動するだけであるが、バッテリ207の充電状態に応じて(発電)負荷側に変動が生ずると、スターリングエンジンに対しては略一定で入力されるためエンジン回転が大きく変動する。例えば、バッテリ207が満充電に近くなり、発電機側(モータジェネレータ2側)の負荷が低くなると、相対的に電圧Vsが高くなる。この結果、ステップS6にて電圧Vsが基準電圧Vh以上となったと判定されると、エンジン過回転に至る前にステップS7に進み、リレーRC3がオフとされて(このときリレーRC2はステップS1のオン位置)、発電された電力はダミー抵抗205で消費される。これにより、ステップS6にて電圧Vsが基準電圧Vh未満となったと判定されると、ステップS8にてリレーRC3がオンに戻されて、ステップS9に進む。尚、ステップS6にて電圧Vsが基準電圧Vhを下回っていると判定された場合には、リレーRC3はオン状態に維持されてそのままステップS9に進む。
【0038】
一方、バッテリ207が完全放電状態にある場合は発電機側の負荷が増大するので、電圧Vsが低くなる。この結果、ステップS9にて電圧Vsが基準電圧Vl以下となったと判定されると、ステップS10に進みリレーRC2がオフとされ、ダミー抵抗205の回路が遮断される。これにより、エンジン回転数が回復し、ステップS9にて電圧Vsが基準電圧Vlを越えたと判定されると、ステップS11にてリレーRC2がオンに戻されて、モータジェネレータ2の全出力がバッテリ207の充電に供されることになる。而して、ステップS12にて終了判定が行われ、終了でなければステップS6に戻り、終了と判定されるまでステップS6乃至S11の処理が繰り返される。
【0039】
以上のように、バッテリ207が満充電近傍にある場合等、発電機側の負荷が軽くなり、エンジン回転数が過回転の状態に入り、電圧Vsが基準電圧Vh以上となった場合には、バッテリ207に対する充電回路が遮断されて、発電側がダミー抵抗205に接続され、エンジン回転が正常に戻されると共に、ダミー抵抗205によって発電分の一部が吸収される。これに対し、バッテリ207の電力が消費されて空放電に近い状態から充電が開始されると、当初は充電電流が大きいため負荷が増大し、エンジン回転数が低下する傾向となる。この結果、電圧Vsが基準電圧Vl以下となった場合には、発電機側のダミー抵抗205の回路が遮断され、エンジン回転数の回復が促され、充電コントローラ206を介して発電機側の電圧が14V乃至30Vとなるように制御され、バッテリ207への充電が適切に行なわれる。
【0040】
而して、ダミー抵抗205の回路の断続により、外部熱源の温度条件の変化あるいは負荷状態の変化に影響されることなく、安定した状態で、スターリングエンジン発電機SEによってバッテリ207を充電することができる。尚、熱源温度が充分高いにも拘らず発生電圧Vsがゼロ(0)の場合には、スターリングエンジンが停止状態にあることを示しているので、速やかにモータ起動し、スターリングエンジンを常に稼動状態に維持し得るように制御するとよい。
【符号の説明】
【0041】
1 ハウジング
2 モータジェネレータ
10 シリンダ
11 シリンダヘッド
12 シリンダ本体
13 支持筒体
15 リング部材
20 ディスプレーサピストン
30 再生器
40 パワーピストン
50,60 ロッド
70 クランク機構
80 フライホイール
100 リニアモータジェネレータ
101 コイル
104 永久磁石
HS 高温空間
LS 低温空間
CC 環状間隙
CP 環状流路
CL 環状空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内にディスプレーサピストンを収容して高温空間と低温空間を形成し、両空間の作動流体が再生器を介して周期的に移動しつつ前記ディスプレーサピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動すると共に、前記ディスプレーサピストンと同軸上に配置したパワーピストンが前記シリンダの軸方向に往復移動するように構成されたスターリングエンジンにおいて、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動軌跡の全長に亘り、前記シリンダの内壁面と前記ディスプレーサピストンの外壁面との間に一定の環状間隙を維持するように、前記ディスプレーサピストンを前記パワーピストンに軸方向移動可能に支持して成り、前記再生器を筒体に形成して前記環状間隙内に配置し、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動中、前記作動流体に対し一定の間隙の環状流路を維持するように、前記再生器を前記シリンダ及び前記ディスプレーサピストンの一方に支持することを特徴とするスターリングエンジン。
【請求項2】
前記ディスプレーサピストンの外壁面に環状凹部を形成し、該環状凹部に前記再生器を嵌着し、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動軌跡の全長に亘り、前記再生器の外壁面と前記シリンダの内壁面との間が周方向に一定の間隙を維持するように、前記ディスプレーサピストンを前記パワーピストンに軸方向移動可能に支持して成り、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動中、前記作動流体に対し前記一定の間隙の環状流路を維持することを特徴とする請求項1記載のスターリングエンジン。
【請求項3】
前記シリンダの内壁面に環状凹部を形成し、該環状凹部に前記再生器を嵌着し、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動軌跡の全長に亘り、前記再生器の内壁面と前記ディスプレーサピストンの外壁面との間が周方向に一定の間隙を維持するように、前記ディスプレーサピストンを前記パワーピストンに軸方向移動可能に支持して成り、前記シリンダ内での前記ディスプレーサピストンの往復移動中、前記作動流体に対し前記一定の間隙の環状流路を維持することを特徴とする請求項1記載のスターリングエンジン。
【請求項4】
前記シリンダがシリンダヘッドと筒体のシリンダ本体を接合して成り、該シリンダ本体と前記シリンダヘッドとの接合部を含む前記シリンダの内壁面に前記環状凹部を形成し、前記再生器が前記接合部を被覆するように前記環状凹部に嵌着して成ることを特徴とする請求項3記載のスターリングエンジン。
【請求項5】
前記再生器は、複数の金属網層を有する積層筒体であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のスターリングエンジン。
【請求項6】
前記再生器は、一枚の金属網を複数回巻回した後に巻端部を溶接して前記積層筒体を形成することを特徴とする請求項5記載のスターリングエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−59958(P2010−59958A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78528(P2009−78528)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(390010227)株式会社三五 (148)
【出願人】(301010892)百瀬機械設計株式会社 (16)