説明

スチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】本発明は、耐衝撃性、流動性、外観、耐薬品性に優れ、さらに使用済み材料を用いた場合でも、スチレン系樹脂の持つ特性を維持しながら、製造時や廃棄時に発生するCOなどの環境負荷を低減可能な成形品が得られ、一般的な成形材料として実用性の高いスチレン系樹脂組成物を提供することを課題とするものである。
【解決手段】(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂50〜99重量部、
および(B)ポリスチレン系樹脂1〜50重量部を配合してなるスチレン系樹脂組成物(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、流動性、外観、耐薬品性に優れ、さらに使用済み材料を用いた場合でも、スチレン系樹脂の持つ特性を維持しながら、製造時や廃棄時に発生するCOなどの環境負荷を低減可能なスチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン(PS)は、透明性と外観に優れ、かつ強度や剛性が高いことから、食品容器、文房具、雑貨等の分野で用いられているが、耐衝撃性が低いという課題があったため、ゴム成分を添加し耐衝撃性を改良したハイインパクトポリスチレン(HIPS)が開発され、家電製品、OA機器、機械部品など広く用いられるようになった。
【0003】
アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)は、加工性と外観に優れ、かつポリスチレンよりも強度や剛性が高く、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、家電製品、OA機器のみならず、自動車部品、建材などさらに広い用途で用いられるようになった。
【0004】
このようにスチレン系樹脂は優れた機械的性質、成形加工性、良外観によって広範な分野で使用されているが、さらなる耐衝撃性、耐薬品性などの特性向上要求は多く、各種添加剤、ポリマーアロイ化など種々の技術が提案されている。中でもスチレン系樹脂を用いたアロイとして、ABSのようなゴム成分を含有する樹脂を耐衝撃性改良(補強)材に用い、PSやHIPSなどとアロイ化する方法(特許文献1、特許文献2)が開示されている。しかしながら上述した従来の方法は、補強材中に含有されるシアン化ビニル化合物の割合を18重量%以下と低くすることでPS等と相溶しやすくしているため、耐薬品性などが低下するのは避けられないのが実状であった。
【0005】
さらに石油資源の枯渇、製造時の大気へのCO2排出や廃棄時の環境負荷などの環境問題により、近年、非石油資源を含有する材料の使用やリサイクルの推進等が強く求められている。しかしながら、上記スチレン系樹脂等のプラスチック製品のリサイクルに関しては、精度、収率よくポリマーを分離する方法が確立されつつあるが、未だサーマルリサイクルされるケースも多く、一部でリサイクルシステムが行われ始めた段階である。
【0006】
このような背景より、使用済みプラスチックの再生処理時の品質劣化を防止させる技術、および再生樹脂の品質を向上させる技術が多数検討されている。例えば、ゴム質重合体にビニル系単量体を含浸後、グラフト重合してなる耐衝撃性補強剤を廃ポリスチレンなどに添加する方法(特許文献3)、ゴム質重合体にビニル系単量体を重合してなるグラフト重合体とビニル系単量体を重合してなる共重合体を含む改質剤をスチレン系樹脂と溶融混練することなく成形する方法(特許文献4)が開示されている。しかしながら上述した従来の方法も、前記の通り補強材中に含有されるシアン化ビニル化合物の割合を18重量%以下と低くすることでPS等と相溶しやすくしているが、この範囲から外れる補強材を用いた場合には大幅に耐衝撃性が低下するものであり、実用化には至っていないのが実状である。
【0007】
また所定の目的に使用された後の樹脂回収物に、エンジニアリングプラスチック等の異なる樹脂を添加する方法(特許文献5)、ゴム成分を含む樹脂とゴム成分を含まない樹脂を含有する使用済み樹脂廃材に物性改良剤を添加する方法(特許文献6)が開示されている。しかしいずれも改良材の組成については明確な記載はなく、さらに組成物の構造については、相溶性であることまたはミクロな相分離との記載がされているものにすぎず、該構造に由来して得られる効果については触れられておらず、本発明のスチレン系樹脂組成物のように、優れた機械特性、成形加工性、外観、耐薬品性を満足できる組成物が得られていないのが実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−176250号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−256744号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2005−350542号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献4】特開2008−038026号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2002−292628号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2003−231773号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、耐衝撃性、流動性、外観、耐薬品性に優れ、さらに使用済み材料を用いた場合でも、スチレン系樹脂の持つ特性を維持しながら、製造時や廃棄時に発生するCOなどの環境負荷を低減可能なスチレン系樹脂組成物を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アクリロニトリル/ブラジエン/スチレン樹脂とポリスチレン系樹脂を特定の割合で配合したスチレン系樹脂組成物とすることで上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)(r)、(m)の合計を100重量%として、(r)ゴム質重合体5〜80重量%の存在下で、(a1)〜(a3)からなる(m)単量体混合物20〜95重量%をグラフト重合してなる(A−1)グラフト共重合体0〜95重量部であり、前記(m)単量体混合物とは、(a1)、(a2)、(a3)の合計を100重量%として、(a1)スチレン系単量体20〜80重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体20〜60重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体0〜60重量%と、
(a1)、(a2)、(a3)の合計を100重量%として(a1)スチレン系単量体20〜80重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体20〜60重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体0〜60重量%からなる単量体混合物を重合してなる(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体5〜100重量部とからなる(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂50〜99重量部(ただし(A−1)と(A−2)の合計を100重量部とする)、
および(B)ポリスチレン系樹脂1〜50重量部を配合してなるスチレン系樹脂組成物(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)。
(2)(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂が、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有する(1)記載のスチレン系樹脂組成物。
(3)前記(B)ポリスチレン系樹脂が、スチレン系単量体単位を主成分とする樹脂であり、シアン化ビニル系単量体単位を実質的に含まないものである(1)または(2)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(4)前記(B)ポリスチレン系樹脂が、所定の目的に使用された後、回収された使用済みのポリスチレン系樹脂である(1)〜(3)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
(5)(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂からなるスチレン系樹脂組成物100重量部に対して、さらに(C−1)グラフトポリマー、(C−2)ブロックポリマー、(C−3)官能基変性ポリマーから選ばれる少なくとも1種の(C)構造安定化剤0.1〜30重量部を含む(1)〜(4)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
(6)前記(C−3)官能基変性ポリマーが、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、およびオキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有するビニル系単量体単位を含む変性ビニル系重合体である(5)記載のスチレン系樹脂組成物。
(7)(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、(B)ポリスチレン系樹脂を溶融混練する(1)〜(6)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
(8)前記溶融混練時の剪断下で(A)成分、(B)成分が相溶し、吐出後の非剪断下で相分離することを特徴とする(7)に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
(9)(1)〜(6)のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物からなる成形品。
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、耐衝撃性、流動性、外観、耐薬品性に優れ、さらに使用済み材料を用いた場合でも、スチレン系樹脂の持つ特性を維持しながら、製造時や廃棄時に発生するCOなどの環境負荷を低減可能なスチレン系樹脂組成物およびそれからなる成形品を得ることができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の樹脂組成物について具体的に説明する。
【0014】
本発明で用いる(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂とは、(A−1)と(A−2)の合計を100重量部として、(A−1)グラフト共重合体0〜95重量部と(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体5〜100重量部からなるものである。(A−1)グラフト共重合体は、(r)、(m)の合計を100重量%として、(r)ゴム質重合体5〜80重量%の存在下で、(a1)〜(a3)からなる(m)単量体混合物20〜95重量%をグラフト重合してなり、(m)単量体混合物とは、(a1)、(a2)、(a3)の合計を100重量%として、(a1)スチレン系単量体20〜80重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体20〜60重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体0〜60重量%からなるものである。(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体は、(a1)、(a2)、(a3)の合計を100重量%として、(a1)スチレン系単量体20〜80重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体20〜60重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体0〜60重量%からなる単量体混合物を重合して得られるものである。
【0015】
(A−1)グラフト共重合体に用いる(r)ゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適であり、例えば、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどであり、具体例としては、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソブチレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)などが挙げられる。これらの(r)ゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用される。これらの(r)ゴム質重合体のうち、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、エチレン−プロピレンラバーが耐衝撃性の点で特に好ましく用いられる。
【0016】
本発明の(A−1)グラフト共重合体に用いる(m)単量体混合物としては、(a1)スチレン系単量体および(a2)シアン化ビニル系単量体を必須成分とし、任意成分としてこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体が挙げられる。
【0017】
(a1)スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンが好ましく使用される。
【0018】
(a2)シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく使用される。
【0019】
また、必要に応じて使用される(a1)成分、(a2)成分と共重合可能な(a3)他のビニル系単量体としては、靭性および色調の向上を目的とする場合にはアクリル酸およびメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル化物などの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、また耐熱性および難燃性の向上を目的とする場合にはマレイミド、N−メチルマレイミドおよびN−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体が好ましく用いられる。
【0020】
本発明の(A−1)グラフト共重合体に用いられる(r)ゴム質重合体の割合は、(A−1)グラフト共重合体中5〜80重量%であり、好ましくは15〜75重量%、さらに30〜70重量%が耐衝撃性の観点より最も好ましい。
【0021】
また(A−1)グラフト共重合体に用いられる(m)単量体混合物の各成分の割合は、(a1)〜(a3)成分の合計に対して、(a1)スチレン系単量体が20〜80重量%であり、好ましくは25〜70重量%、さらに30〜60重量%が耐衝撃性、流動性の観点より最も好ましい。(a2)シアン化ビニル系単量体は20〜60重量%であり、好ましくは20〜50重量%、さらに20〜40重量%が成形加工性の観点から最も好ましい。さらに(a3)他のビニル系単量体を共重合する場合には、0〜60重量%であり、好ましくは0〜50重量%、さらに0〜40重量%が最も好ましい。なお(A−1)グラフト共重合体中における(a1)スチレン系単量体、(a2)シアン化ビニル系単量体および(a3)他のビニル系単量体からなる(m)単量体混合物の割合は、(A−1)グラフト共重合体中20〜95重量%であり、好ましくは25〜85重量%、さらに30〜70重量%の範囲が成形加工性、外観の観点より最も好ましい。
【0022】
本発明の(A−1)グラフト共重合体は、公知の重合法で得ることができる。例えば、ゴム質重合体ラテックスの存在下に単量体混合物および連鎖移動剤の混合物と乳化剤に溶解したラジカル発生剤の溶液を連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法などによって得ることができる。
【0023】
(A−1)グラフト共重合体は、(r)ゴム質重合体に(m)単量体混合物がグラフト共重合した構造をとったグラフト共重合体の他に、グラフト共重合していない共重合体を含有したものである。(A−1)グラフト共重合体のグラフト率は特に制限はないが、耐衝撃性および光沢が均衡してすぐれる樹脂組成物を得るためには、20〜80重量%、さらに25〜60重量%、特に30〜50重量%の範囲であることが好ましい。ここで、グラフト率は次式により算出される値である。
グラフト率(%)=[<ゴム質重合体にグラフト重合したビニル系共重合体量>/<グラフト共重合体のゴム含有量>]×100
【0024】
上述のグラフト共重合していない共重合体の特性は特に制限されないが、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃で測定)が、0.20〜1.00dl/g、さらに0.25〜0.80dl/g、特に0.30〜0.60dl/gの範囲で、優れた耐衝撃性、外観を得るために好ましい条件である。
【0025】
本発明の(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体に用いる単量体としては、(a1)スチレン系単量体および(a2)シアン化ビニル系単量体を必須成分とし、任意成分としてこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体が挙げられる。
【0026】
(a1)スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンが好ましく使用される。
【0027】
(a2)シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく使用される。
【0028】
また、必要に応じて使用される(a1)成分、(a2)成分と共重合可能な(a3)他のビニル系単量体としては、靭性および色調の向上を目的とする場合にはアクリル酸およびメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル化物などの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、また耐熱性および難燃性の向上を目的とする場合にはマレイミド、N−メチルマレイミドおよびN−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体が好ましく用いられる。
【0029】
本発明の(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体に用いられる単量体混合物の割合は、(a1)〜(a3)成分の合計に対して、(a1)スチレン系単量体が20〜80重量%であり、好ましくは25〜70重量%、さらに30〜60重量%が耐衝撃性の観点より最も好ましい。(a2)シアン化ビニル系単量体は、20〜60重量%であり、好ましくは20〜50重量%、さらに20〜40重量%が成形加工性、流動性、耐薬品性の観点から最も好ましい。さらに(a3)他のビニル系単量体を共重合する場合には、0〜60重量%であり、好ましくは0〜50重量%、さらに0〜40重量%が成形加工性、外観の観点より最も好ましい。
【0030】
本発明の(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体の製造法には特に制限がなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状−懸濁重合法および溶液−塊状重合法など公知の重合法で得ることができる。
【0031】
(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体の特性は特に制限はないが、メチルエチルケトン溶媒を用いて、30℃で測定したメチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η]が、0.20〜2.00dl/g、さらに0.25〜1.50dl/g、特に0.30〜1.00dl/gの範囲で、優れた耐衝撃性、成形加工性、外観が得られることから好ましい。
【0032】
本発明での(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂を構成する成分の組成は、(A−1)成分、(A−2)成分の合計量を100重量部として、(A−1)グラフト共重合体が0〜95重量部であり、好ましくは15〜85重量部、さらに30〜70重量部の範囲が耐衝撃性の観点より最も好ましい。また(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体は、5〜100重量部であり、好ましくは15〜85重量部、さらに30〜70重量部の範囲が成形加工性の観点より最も好ましい。
【0033】
本発明の(B)ポリスチレン系樹脂とは、スチレン系単量体単位を主成分とする樹脂であり、シアン化ビニル系単量体単位を実質的に含まないものであり、具体的にはポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)が好ましく用いられる。ここでシアン化ビニル系単量体単位を実質的に含まないとしており、少なくとも(B)ポリスチレン系樹脂100重量%中に5重量%以下、好ましくは3重量%以下、さらに全く含まないことが、(B)ポリスチレン系樹脂の流動性、アルコール耐性を発現する観点より好ましい。
【0034】
具体的には、スチレン系単量体を塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状−懸濁重合法および溶液−塊状重合法など公知の重合法により重合することでPSを得ることができる。またゴム状重合体の存在下にスチレン系単量体を、例えば塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合等の方法により重合または共重合することでHIPSを得ることができる。
【0035】
本発明の(B)ポリスチレン系樹脂に用いられるスチレン系単量体としてはスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−ターシャリーブチルスチレンなどの炭素数1〜20のアルキル基で置換されたアルキルスチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、o−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、o−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレンなどのハロゲン化スチレン、p−クロロエチルスチレン、m−クロロエチルスチレン、o−クロロエチルスチレンなどのハロゲン置換アルキルスチレン、p−トリメチルシリルスチレン、m−トリメチルシリルスチレン、o−トリメチルシリルスチレン、p−トリエチルシリルスチレン、m−トリエチルシリルスチレン、o−トリエチルシリルスチレン、p−ジメチルターシャリ−ブチルシリルスチレンなどのアルキルシリルスチレン、p−ジメチルフェニルシリルスチレン、p−メチルジフェニルシリルスチレン、p−トリフェニルシリルスチレンなどのフェニル基含有シリルスチレン、p−ジメチルクロロシリルスチレン、p−メチルジクロロシリルスチレン、p−トリクロロシリルスチレン、p−ジメチルブロモシリルスチレン、p−ジメチルヨードシリルスチレンなどのハロゲン含有シリルスチレン類、p−トリメチルシリルジメチルシリルスチレンなどのシリル基含有シリルスチレン類、およびその他の置換基を含有したスチレン類が挙げられる。
【0036】
本発明の(B)ポリスチレン系樹脂の構造には特に制限はなく、ランダムな構造のアタクチック、規則的に交互に配置する構造のシンジオタクチック、一方向に規則的に配置する構造のアイソタクチックのいずれの構造をとってもよい。
【0037】
本発明の(B)ポリスチレン系樹脂としては、メチルエチルケトンを溶媒として用い、30℃で測定した極限粘度[η]が、0.30〜1.50dl/g、さらに0.35〜1.20dl/g、特に0.40〜1.00dl/gの範囲のものが流動性、外観の観点より好ましい。
【0038】
また、一般に高分子物質の極限粘度は分子量と一定の相関があることが知られており、極限粘度が上記範囲である(B)ポリスチレン系樹脂は、分子量範囲によっても好ましい範囲を規定することができる。分子量としては重量平均分子量で表現できるが、いずれも(B)ポリスチレン系樹脂をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定し、ポリスチレン換算の値として得られる。具体的に、重量平均分子量が2万〜70万であることが好ましく、より好ましくは3万〜45万、特に4万〜30万が流動性、外観に優れることから好ましい。
【0039】
さらに本発明の(B)ポリスチレン系樹脂が、所定の目的に使用された後、回収された使用済みのポリスチレン系樹脂であってもよく、製造時の大気へのCO2排出や廃棄時の環境負荷低減の観点から、材料をリサイクルできるため好ましく用いることができる。具体的には、樹脂の製造工程での出始めや終わりで発生する製品とならない樹脂屑やペレット、成形加工工程で発生する不要な樹脂屑(置換樹脂など)、不適合成形品、不要な成形屑(スプルー、ランナーなど)、さらにこれらの工程で余剰となったペレットや成形品、市場で所定の目的に使用された製品や売れ残りなどの製品の樹脂部分(食品容器、文房具、各種ケース、雑貨、家電製品、OA機器、機械部品、自動車部品)などが挙げられる。このような使用済みのポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン系樹脂以外の他の熱可塑性ポリマーや可塑剤、結晶核剤、酸化防止剤、滑剤、難燃剤などの添加剤を含んでも良い。
【0040】
本発明のスチレン系樹脂組成物を構成する成分の組成は、(A)成分、(B)成分の合計量を100重量部として、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂が50〜99重量部であり、好ましくは60〜95重量部、さらに70〜90重量部の範囲が耐衝撃性、成形品外観の観点より最も好ましい。(B)ポリスチレン系樹脂は1〜50重量部であり、好ましくは5〜40重量部、さらに10〜30重量部の範囲が耐衝撃性、成形加工性の観点より最も好ましい。
【0041】
本発明では、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂からなるスチレン系樹脂組成物100重量部に対して、さらに(C−1)グラフトポリマー、(C−2)ブロックポリマー、(C−3)官能基変性ポリマーから選ばれる少なくとも1種の(C)構造安定化剤0.1〜30重量部を好ましく用いることができる。(C)構造安定化剤を用いることにより、相分解した相間における界面の自由エネルギーを低下させ、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にすることができ、樹脂組成物の機械特性などを飛躍的に向上させることができるため好ましい。
【0042】
本発明の(C−1)グラフトポリマーとは、少なくとも2種類の異なるセグメントを有するポリマーであり、幹ポリマーから櫛状に枝ポリマーが生成した構造を有するものである。各セグメントには(A−1)グラフト共重合体に用いる(r)ゴム質重合体を含まず、さらに本発明の(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂の少なくとも一方と親和性のあるものが好ましい。グラフトポリマーの具体例としては、ポリスチレン樹脂にスチレン単量体、アクリロニトリル単量体をグラフト重合して得られるPS−g−AS(ポリスチレン−グラフト−アクリロニトリル/スチレン)、アクリル樹脂にメチルメタクリレート単量体をグラフト重合して得られるアクリル−g−PMMA(アクリル−グラフト−ポリメチルメタクリレート、例えば東亜合成株式会社製「レゼダ GP−301」)、スチレン−アクリル樹脂に長鎖のアルキル基をグラフト重合して得られる長鎖アルキル基含有スチレンアクリル樹脂(例えば東亜合成株式会社製「ARUFON UF−5022」)、エチレングリシジルメタクリレート共重合体にスチレン単量体をグラフト重合して得られるEGMA−g−PS(エチレン/グリシジルメタクリレート−グラフト−ポリスチレン、例えば日油株式会社製「モディパー A−4100」)、エチレングリシジルメタクリレート共重合体にスチレン単量体、アクリロニトリル単量体をグラフト重合して得られるEGMA−g−AS(エチレン/グリシジルメタクリレート−グラフト−アクリロニトリル/スチレン、例えば日油株式会社製「モディパー A−4400」)、ポリカーボネート樹脂にスチレン単量体をグラフト重合して得られるPC−g−PS(ポリカーボネート−グラフト−ポリスチレン、例えば日油株式会社製「モディパー CL130D」)などを挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0043】
本発明の(C−2)ブロックポリマーとは、少なくとも2種類の異なるセグメントを有するポリマーであり、例えば、ジブロック、トリブロック、マルチブロック、ラジアルブロック構造などいずれの構造をとってもよい。ブロックポリマーの具体例としては、PAS−b−PS(ポリアクリロニトリル/スチレン−ブロック−ポリスチレン)、PMMA−b−PS(ポリメチルメタクリレート−ブロック−ポリスチレン、例えば日油株式会社製「モディパー MS10B」)、PVAc−b−PS(ポリビニルアセテート−ブロック−ポリスチレン、例えば日油株式会社製「モディパー S501」)、PS−b−PC(ポリスチレン−ブロック−ポリカーボネート)、PS−b−PBD(ポリスチレン−ブロック−ポリブタジエン)などを挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0044】
本発明の(C−3)官能基変性ポリマーとは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、およびオキサゾリン基から選ばれた少なくとも1種の官能基を含有するビニル系単量体を共重合することにより得ることができる。
【0045】
(C−3)官能基変性ポリマーは、上記(a1)スチレン系単量体、(a2)シアン化ビニル系単量体および上記官能基を含有するビニル系単量体を共重合して得られる変性アクリロニトリル/スチレン共重合体および/または(a1)スチレン系単量体および上記官能基を含有するビニル系単量体を共重合して得られる変性ポリスチレン系重合体を好ましく用いることができる。
【0046】
(C−3)官能基変性ポリマー中にカルボキシル基を導入する方法には特に制限はないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸などのカルボキシル基または無水カルボキシル基を有するビニル系単量体を(a1)成分、(a2)成分を含む所定のビニル系単量体と共重合する方法、γ,γ’−アゾビス(γ−シアノバレイン酸)、α,α’−アゾビス(α−シアノエチル)−p−安息香酸および過酸化サクシン酸などのカルボキシル基を有する重合開始剤および/またはチオグリコール酸、α−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプト−イソ酪酸および2,3または4−メルカプト安息香酸などのカルボキシル基を有する重合度調節剤を用いて、(a1)成分、(a2)成分を含む所定のビニル系単量体を共重合する方法、およびメタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体と(a1)成分、(a2)成分を含む所定のビニル系単量体との共重合体をアルカリによってケン化する方法などを用いることができる。
【0047】
上記ヒドロキシル基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体を、(a1)成分、(a2)成分を含む所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0048】
上記エポキシ基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルおよびp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体を、(a1)成分、(a2)成分を含む所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0049】
上記アミノ基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレンなどのアミノ基およびその誘導体を有するビニル系単量体を、(a1)成分、(a2)成分を含む所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0050】
上記オキサゾリン基を導入する方法についても特に制限はないが、例えば2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体を(a1)成分、(a2)成分を含む所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0051】
これらの官能基を含有するビニル系単量体の含有量については制限されないが、特に官能基変性ポリマー100重量%中、0.01〜20重量%が好ましく、さらに0.1〜15重量%が好ましく、特に0.3〜10重量%の範囲が成形加工性に優れるため好ましい。
【0052】
本発明の(C−3)官能基変性ポリマーは、2種以上で併用することが可能であり、特に2種併用により架橋反応させることで、相分解した相間における界面の自由エネルギーを低下させることができるため好ましい。例えばカルボキシル基変性ポリマーとオキサゾリン基変性ポリマー、エポキシ基変性ポリマーとカルボキシル基変性ポリマー等の組み合わせにより架橋構造を形成可能である。
【0053】
(C)構造安定化剤の添加量は(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5〜25重量部、特に好ましくは1〜20重量部の範囲である。添加量を0.1重量部以上使用することで、相溶化剤としての効果を発揮することができ、構造周期や粒子間距離の制御が可能となる。また添加量を30重量部以下とすることで、樹脂組成物の流動性、外観を維持することができるため好ましい。
【0054】
本発明では、スチレン系樹脂組成物を構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造に制御することで、耐衝撃性、流動性、外観、耐薬品性に優れる組成物を得ることができる。
【0055】
かかる構造周期をもつ樹脂組成物を得るためには、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、(B)ポリスチレン系樹脂を溶融混練することにより、一旦相溶解し、後述のスピノーダル分解によって構造形成せしめることが好ましい。さらにこの構造形成の実現のためには、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂とが、後述の部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系であることが好ましい。
【0056】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、これらの組成に対して、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な全領域において相溶する相溶系や、逆に全領域で非相溶となる非相溶系や、ある領域で相溶し、別の領域で相分離状態となる、部分相溶系があり、さらにこの部分相溶系では、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離する場合と、核生成と成長によって相分離する場合がある。
【0057】
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶する系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶した相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系などがある。本発明で好ましい3成分以上からなるポリマーアロイは、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系であり、この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる部分相溶系の構造で代替できることから、以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
【0058】
スピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図においてスピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指し、また核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0059】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶した場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことであり、またスピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0060】
またかかるバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶する領域と相分離する領域の境界の曲線のことである。
【0061】
ここで本発明における相溶する場合とは、分子レベルで均一に混合している状態のことであり、具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していない場合を指し、また、非相溶の場合とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことを指す。相溶するか否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanserPublishers,Munich Viema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0062】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速にした場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0063】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]−1/2(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
【0064】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行するが、本発明で規定する構造を得るには、この最終的に巨視的な2相に分離する前の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0065】
また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0066】
本発明でいう、両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0067】
また、本発明にいう分散構造とは、片方の樹脂成分が主成分であるマトリックスの中に、もう片方の樹脂成分が主成分である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0068】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造に構造制御されたものを得ることができる。より優れた機械特性を得るためには、構造周期0.01〜0.8μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.01〜0.8μmの範囲の分散構造に制御することが好ましく、さらには、構造周期0.05〜0.6μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.05〜0.6μmの範囲の分散構造に制御することがより好ましく、極めて優れた特性を得るためには構造周期0.1〜0.5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.1〜0.5μmの範囲の分散構造に制御することが最も好ましい。かかる構造周期の範囲、および粒子間距離の範囲に制御することにより本発明効果である優れた耐衝撃性、流動性、外観、耐薬品性を有する構造物を効果的に得ることができる。
【0069】
一方、上述の準安定領域での相分離である核生成と成長では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
【0070】
またこれらのスピノーダル分解による両相連続構造、もしくは分散構造を確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。これは例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることの確認が必要である。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造を持つ証明であり、その周期Λmは、両相連続構造の場合構造周期に対応し、分散構造の場合粒子間距離に対応する。またその値は、散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θmを用いて次式により計算することができる。
Λm =(λ/2)/sin(θm/2)
【0071】
上記スピノーダル分解を実現させるためには、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂を相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。
【0072】
まずこの2成分以上からなる樹脂で相溶状態を実現する方法としては、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成等の方法により得られる溶媒キャスト法や、部分相溶系を、相溶条件下で溶融混練による溶融混練法が挙げられる。中でも溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練による相溶化が、実用上好ましく用いられる。
【0073】
溶融混練により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。相溶化のための温度は、部分相溶系の樹脂が相溶する条件である必要がある。
【0074】
次に上記溶融混練により相溶状態とした樹脂組成物をスピノーダル曲線の内側の不安定状態として、スピノーダル分解せしめるに際し、不安定状態とするための温度、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより設定することができる。
【0075】
スピノーダル分解による構造生成物を固定化する方法としては、急冷等による短時間で相分離相の一方または両方の成分の構造固定や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定や、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定が挙げられる。
【0076】
本発明において(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂とを上記スピノーダル分解により相分離させて本発明のスチレン系樹脂組成物とするには、前述したように(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系である樹脂を組み合わせることが好ましい。
【0077】
一般に部分相溶系には、同一組成において低温側で相溶しやすくなる低温相溶型相図を有するものや、逆に高温側で相溶しやすくなる高温相溶型相図を有するものが知られている。この低温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も低い温度を、下限臨界共溶温度(lower critical solution temperature略してLCST)と呼び、高温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も高い温度を、上限臨界共溶温度(upper critical solution temperature略してUCST)と呼ぶ。
【0078】
部分相溶系を用いて相溶状態となった2成分以上の樹脂は、低温相溶型相図の場合、LCST以上の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることで、また高温相溶型相図の場合、UCST以下の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることでスピノーダル分解を行わせることができる。
【0079】
またこの部分相溶系によるスピノーダル分解の他に、非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発すること、例えば溶融混練時等の剪断下で一旦相溶し、非剪断下で再度不安定状態となり相分解するいわゆる剪断場依存型相溶解・相分解によってもスピノーダル分解による相分離が可能であり、この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの剪断場依存型相溶解・相分解は、スピノーダル曲線が剪断場により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となるためより好ましく用いられる。かかる溶融混練時の剪断下により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組合せによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。この場合における相溶化のための温度、初期過程を形成させるための熱処理温度、および初期過程から構造発展させる熱処理温度や、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、種々の剪断条件下での相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより条件を設定することができる。また上記射出成形機の可塑化工程での相溶化を確実に実現させる方法として、予め2軸押出機で溶融混練し相溶化させ、吐出後氷水中などで急冷し相溶化状態で構造を固定させたものを用いて射出成形する方法などが好ましい例として挙げられる。
【0080】
本発明において、さらに難燃剤を好ましく添加する事ができる。本発明に用いられる難燃剤は特に制限はなく、いわゆる一般の難燃剤であり、リン系化合物やハロゲン系有機化合物の他、メラミン等の窒素含有有機化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス、また、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物、シリカなどが用いられるが、好ましくはリン系化合物、またはハロゲン系有機化合物および、ハロゲン系有機化合物と酸化アンチモンの併用であるが、特に好ましくはリン系化合物である。これらの難燃剤は、(B)ポリスチレン系樹脂として、回収された使用済みポリスチレン系樹脂を使用する際に混入するものであってもかまわない。
【0081】
上記リン系化合物としては、リンを含有する有機または無機化合物であれば特に制限はなく、例えば、ポリリン酸アンモニウム、ポリホスファゼン、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネートおよびホスフィンオキシドなどが挙げられる。中でも、ポリホスファゼンおよびホスフェートが好ましく、芳香族ホスフェートが特に好ましく使用できる。
【0082】
リン系化合物を配合する場合は、一般に(A)成分、(B)成分の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲で用いられる。好ましくは0.5〜25重量部の範囲であり、特に好ましい範囲としては1〜20重量部の範囲にある場合である。0.1重量部以上添加することで難燃効果を発揮させることができ、30重量部以下とすることで、樹脂組成物の機械的強度、耐熱性を低下させることがないので好ましい。
【0083】
ハロゲン系有機化合物としては、例えば、ヘキサクロロペンタジエン、ヘキサブロモジフェニル、オクタブロモジフェニルオキシド、トリブロモフェノキシメタン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルオキシド、オクタブロモジフェニルオキシド、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモフタルイミド、ヒキサブロモブテン、トリクロロテトラブロモフェニル−トリフォスフェート、ヘキサブロモシクロドデカンやこれらを各種置換基で変性した化合物が挙げられる。
【0084】
ハロゲン系有機化合物を配合する場合は、一般に(A)成分、(B)成分の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲で用いられる。好ましくは0.5〜25重量部の範囲であり、特に好ましい範囲としては1〜20重量部の範囲にある場合である。0.1重量部以上添加することで難燃効果を発揮させることができ、30重量部以下とすることで、樹脂組成物の機械的強度、耐熱性を低下させることがないので好ましい。
【0085】
本発明のスチレン系樹脂組成物においては、難燃性を高めるためにさらに難燃剤に滴下防止剤を併用すると効果的である。滴下防止剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のパーフルオロアルカンポリマー、シリコンゴム、およびこれらをビニル系化合物でグラフト重合したグラフト重合体、高分子量アクリロニトリル−スチレン、高分子量PMMA等の高分子量ビニル系共重合体、ガラス繊維、カーボン繊維等が挙げられるが、特にポリテトラフルオロエチレンをアクリル変性したものが好ましく用いられる。これらの滴下防止剤は、(B)ポリスチレン系樹脂として、回収された使用済みポリスチレン系樹脂を使用する際に混入するものであってもかまわない。
【0086】
滴下防止剤を配合する場合は、一般に(A)成分、(B)成分の合計100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲で好ましく用いられる。特に好ましい範囲としては0.05〜3重量部の範囲にある場合である。0.01重量部以上配合することで、燃焼時の滴下防止効果を得ることができ、高い難燃性を有する樹脂組成物を得ることができ、5重量部以下の配合量とすることで、流動性、および剛性等の機械的強度を低下させることがないので好ましい。
【0087】
さらに本発明においては、強度及び寸法安定性等を向上させるため、必要に応じて充填材を好ましく用いることができる。充填材の形状としては繊維状であっても非繊維状であってもよく、繊維状の充填材と非繊維状充填材を組み合わせて用いてもよい。かかる充填材としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状および/または非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。これらの充填剤は、(B)ポリスチレン系樹脂として、回収された使用済みポリスチレン系樹脂を使用する際に混入するものであってもかまわない。
【0088】
強度及び寸法安定性等を向上させるため、かかる充填材を用いる場合、その配合量は特に制限はないが、通常(A)成分、(B)成分の合計100重量部に対して0.1〜200重量部配合される。
【0089】
本発明のスチレン系樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、他の熱可塑性樹脂を含んでいてもかまわない。他の熱可塑性樹脂は、(A)成分、(B)成分の合計100重量部に対して、30重量部以下、好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下含んでいてもよく、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族および脂肪族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、芳香族および脂肪族ポリケトン樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂など)または熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)または軟質熱可塑性樹脂(例えばエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体など)などがあげられる。これらの熱可塑性樹脂は、(B)ポリスチレン系樹脂として、回収された使用済みポリスチレン系樹脂を使用する際に混入するものであってもかまわない。
【0090】
本発明のスチレン系樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、ポリオレフィン系化合物、シリコーン系化合物、長鎖脂肪族エステル系化合物、長鎖脂肪族アミド系化合物、などの離型剤、防食剤、着色防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウムなどの滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、(B)ポリスチレン系樹脂として、回収された使用済みポリスチレン系樹脂を使用する際に混入するものであってもかまわない。
【0091】
これらの添加剤は、本発明のスチレン系樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、少なくとも2成分の樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予め2成分の樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法が挙げられる。
本発明において、得られたスチレン系樹脂組成物は、通常公知の射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形などの任意の方法で成形することができ、あらゆる形状の成形品として広く用いることができる。成形品とは、フィルム、シート、繊維・布、不織布、射出成形品、押出し成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、または他の材料との複合体などである。
【0092】
本発明におけるスチレン系樹脂組成物は、優れた耐衝撃性、流動性、外観、耐薬品性をいかして、構造材料として有用に用いることができ、例えば自動車用資材、電機・電子機器用資材、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、便座、雑貨、またはその他の用途に好適に使用することができる。
【0093】
本発明のスチレン系樹脂組成物の成形体は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電機部品キャビネット、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・コンパクトディスク、DVDなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、携帯電話関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、エアフローメーター、エアポンプ、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、サーモスタットハウジング、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブ−スター部品、各種ケース、燃料関係・排気系・吸気系等の各種チューブ、各種タンク、燃料関係・排気系・吸気系等の各種ホース、各種クリップ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、各種パイプ、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、ブレーキパッド摩耗センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコンパネルスイッチ基板、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、スタータースイッチ、スターターリレー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、デュストリビューター、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、ホーンターミナル、ウィンドウォッシャーノズル、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、ラジエターグリル、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプソケット、ランプハウジング、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車外装材、センターコンソール、インストルメントパネル、インパネコア、インパネパッド、グローブボックス、ハンドルコラム、アームレスト、レバーパーキング、フロントピラートリム、ドアトリム、ピラートリム、コンソールボックスなどの自動車内装材、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクターなどの各種コネクターなどの自動車部品;パソコン、プリンター、ディスプレイ、CRTディスプレイ、ファックス、コピー、ワープロ、ノートパソコン、携帯電話、PHS、DVDドライブ、PDドライブ、フレキシブルディスクドライブなどの記憶装置のハウジング、シャーシ、リレー、スイッチ、ケース部材、トランス部材、コイルボビンなどの電気・電子機器部品、機械部品、その他各種用途に有用である。また本成形品は、塗装、メッキ等を施して用いることもできる。
【実施例】
【0094】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0095】
(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂
[参考例1](A−1)グラフト共重合体
以下にグラフト共重合体の調製方法を示す。なおグラフト率は次の方法で求めたものである。グラフト共重合体の所定量(m)にアセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(遠心力10,000G(約100×103 m/s2 ))30分遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。
グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
ここでLはグラフト共重合体のゴム含有率を意味する。
【0096】
上記アセトン溶液の濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を得た。この可溶分を、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml濃度のメチルエチルケトン溶液を調製し、30℃の温度条件下でウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。
【0097】
(A−1−1)
ポリブタジエン(重量平均粒子径0.35μm) 50重量部(固形分換算)
オレイン酸カリウム 0.5重量部
ブドウ糖 0.5重量部
ピロリン酸ナトリウム 0.5重量部
硫酸第一鉄 0.005重量部
脱イオン水 120重量部
【0098】
以上の物質を重合容器に仕込み、撹拌しながら65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン35重量部、アクリロニトリル15重量部、およびt−ドデシルメルカプタン0.3重量部を5時間かけて連続滴下した。並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25重量部、オレイン酸カリウム2.5重量部および純水25重量部からなる水溶液を、7時間で連続滴下し反応を完結させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状として得た。得られたグラフト共重合体のグラフト率は38%、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.33dl/gであった。
【0099】
[参考例2](A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体
以下にアクリロニトリル/スチレン共重合体の調製方法を示す。なお得られたポリマーを、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml濃度のメチルエチルケトン溶液を調製し、30℃の温度条件下でウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。
【0100】
(A−2−1)容量が20Lで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(特公昭45−24151号公報記載)0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を添加して400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系で撹拌しながら添加し、60℃に昇温し重合を開始した。
スチレン 70重量部
アクリロニトリル 30重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.2重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部
【0101】
30分かけて反応温度を65℃まで昇温したのち、120分かけて100℃まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行なうことにより、ビーズ状のポリマーを得た。得られたアクリロニトリル/スチレン共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.53dl/gであった。
【0102】
(A−2−2)上記(A−2−1)のスチレン70重量部、アクリロニトリル30重量部を、スチレン65重量部、アクリロニトリル35重量部に変更した以外はすべて同様に懸濁重合を行った。得られたアクリロニトリル/スチレン共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.55dl/gであった。
【0103】
(A−2−3)上記(A−2−1)のスチレン70重量部、アクリロニトリル30重量部を、スチレン80重量部、アクリロニトリル20重量部に変更した以外はすべて同様に懸濁重合を行った。得られたアクリロニトリル/スチレン共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.50dl/gであった。
【0104】
(A−2−4)上記(A−2−1)のスチレン70重量部、アクリロニトリル30重量部を、スチレン90重量部、アクリロニトリル10重量部に変更した以外はすべて同様に懸濁重合を行った。得られたアクリロニトリル/スチレン共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.50dl/gであった。
【0105】
(A−2−5)上記(A−2−1)のt−ドデシルメルカプタン0.2重量部を、t−ドデシルメルカプタン0.1重量部に変更した以外はすべて同様に懸濁重合を行った。得られたアクリロニトリル/スチレン共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.85dl/gであった。
【0106】
(A−2−6)上記(A−2−1)のt−ドデシルメルカプタン0.2重量部を、t−ドデシルメルカプタン0.3重量部に変更した以外はすべて同様に懸濁重合を行った。得られたアクリロニトリル/スチレン共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.42dl/gであった。
【0107】
(B)ポリスチレン系樹脂
(B−1)汎用ポリスチレン(GPPS)樹脂である“HF77”(PSジャパン株式会社製)を使用した。
【0108】
(B−2)ハイインパクトポリスチレン(HIPS)樹脂である“HT60”(PSジャパン株式会社製)を使用した。
【0109】
(B−3)シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂である“ザレックS104”(出光興産株式会社製)を使用した。
【0110】
(B−4)上記(B−1)を押出機にて一度溶融混練したもの、および(B−1)を成形した際に発生したスプルー、ランナーなどの成形不要屑を回収し破砕・洗浄した汎用ポリスチレンを使用した。
【0111】
(B−5)市販のカセットテープ、CD、DVDのケースを回収し破砕・洗浄した汎用ポリスチレンを使用した。
【0112】
(B−6)非ハロゲン難燃ハイインパクトポリスチレン(FR−HIPS)樹脂である“VT201”(PSジャパン株式会社製)を使用した。
【0113】
(B−7)プリンターのハウジング材を回収し粉砕・洗浄した非ハロゲン難燃ハイインパクトポリスチレンを使用した。得られたポリマーについて、アセトン抽出分離により各組成の重量の測定、およびポリマーを30μm程度のフィルム状の試料にプレス成形し、FT−IR分析より組成の同定を行ったところ、ハイインパクトポリスチレン90重量%、リン酸エステル系難燃剤9重量%(リン酸エステル系難燃剤中のリン含有量は9.0%)、顔料1重量%であった。さらに温度200℃、荷重5kgfでのメルトインデックス(MI値)をISO−R1133法に従い測定したところ7.5g/10min(2回の平均値)であった。
【0114】
(C)構造安定化剤
(C−1)グラフトポリマー
(C−1−1)PC−g−PS(ポリカーボネート−グラフト−ポリスチレン)である“モディパー CL130D”(日油株式会社製)を使用した。
【0115】
(C−2)ブロックポリマー
(C−2−1)PMMA−b−PS(ポリメチルメタクリレート−ブロック−ポリスチレン)である“モディパー MS10B”(日油株式会社製)を使用した。
【0116】
[参考例3](C−3)官能基変性ポリマー
(C−3−1)エポキシ基変性ポリマー
容量が20Lで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(特公昭45−24151号公報記載)0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を添加して400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系で撹拌しながら添加し、60℃に昇温し重合を開始した。
スチレン 69.7重量部
アクリロニトリル 30重量部
グリシジルメタクリレート 0.3重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.2重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0117】
30分かけて反応温度を65℃まで昇温したのち、120分かけて100℃まで昇温した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行なうことにより、ビーズ状のポリマーを得た。得られたポリマーを、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml濃度のメチルエチルケトン溶液を調製し、30℃の温度条件下でウベローデ粘度計を用いて測定した極限粘度は0.56dl/gであった。
【0118】
(C−3−2)カルボキシル基変性ポリマー
上記(C−1)のスチレン69.7重量部、アクリロニトリル30重量部、グリシジルメタクリレート0.3重量部を、スチレン65重量部、アクリロニトリル30重量部、メタクリル酸5重量部に変更した以外はすべて同様に懸濁重合を行った。得られたポリマーのメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.54dl/gであった。
【0119】
(C−3−3)オキサゾリン基変性ポリマーである“エポクロス RPS−1005”(株式会社日本触媒製)を使用した。
【0120】
(C−3−4)無水マレイン酸変性ポリマーである“ダイラーク335”(ノバ・ケミカル・ジャパン社製)を使用した。
(D)難燃剤
(D―1)芳香族縮合リン酸エステル“PX200”(大八化学工業(株)製)を使用した。
【0121】
[実施例1〜29、比較例1〜11]
上記の(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、(B)ポリスチレン系樹脂、(C)構造安定化剤、および(D)難燃剤を表1〜3に示した組成で配合し、2軸押出機(TEX30α(日本製鋼所製、L/D=44.5)を用いてスクリュー回転数200rpm、シリンダ温度180〜230℃で混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。次いで、熱風乾燥機にて70℃で5時間乾燥したペレットを射出成形機(名機製作所社製M−50AII−SJ)に供して、各試験片を成形した。成形条件は成形温度:220〜270℃、金型温度:60℃、射出速度:90mm/秒、射出時間:10秒、冷却時間:30秒、成形圧力:金型に樹脂が全て充填される圧力(成形下限圧力)+1MPaで行った。得られた成形品は下記の測定方法に従って評価を行った。
【0122】
(1)アイゾッド衝撃強度(Izod衝撃強度)
1/8インチ厚み試験片よりノッチ付アイゾッド衝撃強度をASTM D−256に従い、23℃にて測定し衝撃強度を評価した。6本測定した平均の値とする。
【0123】
(2)曲げ特性
ASTM D790に従い曲げ降伏強度、および曲げ弾性率を評価した。3本測定した平均の値とする。
【0124】
(3)熱変形温度
ASTM D648(荷重:1.82MPa)に従い荷重たわみ温度を測定し、耐熱性を評価した。2本測定した平均の値とする。
【0125】
(4)流動性
温度:220℃、荷重:98Nでのメルトインデックス(MI値)をISO−R1133法に従い測定した。2回測定した平均の値とする。
【0126】
(5)表面光沢
80mm×80mm×3mm厚みの試験片中央部の表面光沢をデジタル変角光沢計(スガ試験機(株)製「UGV−5D」)を用いて、入射角60度で測定した。3回測定した平均の値とする。
【0127】
(6)耐薬品性
1/8インチ(約3.2mm)厚み曲げ試験片を以下に示す薬液中に23℃で7日間放置(24時間ごとに容器ごと手で緩やかに回し、中の薬液をかき混ぜる)する。その後薬液より取り出した試験片を流水洗浄後、23℃、50%RHの空気中にて7日間コンディショニングし、薬液が除かれた状態でASTM D790に従い曲げ試験を評価し、薬液浸漬前後での曲げ弾性率保持率を求めた。
(1)10%硫酸水溶液
(2)30%水酸化ナトリウム水溶液
(3)メタノール(シグマアルドリッチ社製)
(4)サラダ油(日清オイリオグループ(株)社製)
【0128】
(7)難燃性
1/16インチ(約1.6mm)厚み試験片をUL94に定める評価基準に従い垂直燃焼試験を行った。
【0129】
さらに上記で得られたペレットから厚み100μmの切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(HITACHI、ELECTRON MICROSCOPE H−700)にて5000倍に拡大して断面の観察を行った。
【0130】
また上記で得られたペレットから厚み100μmの切片を切り出したサンプルについて、構造周期を小角X線散乱(0.4μm未満の構造周期の場合)もしくは光散乱(0.4μm以上の構造周期の場合)にて測定した。いずれのサンプルもピークが観察され、該ピーク位置(θm)から下式で計算した構造周期(Λm)を記した。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
【0131】
各サンプルの透過型電子顕微鏡写真から構造の状態、小角X線散乱もしくは光散乱から構造周期、さらには耐衝撃性、曲げ特性、耐熱性、流動性、表面外観(光沢性)、耐薬品性、および難燃性の測定結果をそれぞれ表1〜3に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
実施例1〜10より、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂からなる本発明のスチレン系樹脂組成物は、1μm以下の両相連続構造、分散構造である微細な相構造を形成しており、比較例1、2に示す(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂単体の耐衝撃性、流動性、耐熱性を維持し、さらには耐薬品性を改良する事ができた。特にアルコール耐性の低い(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂とオイル耐性の低い(B)ポリスチレン系樹脂が相互に補間することで両者の耐性を実用上問題のないレベルにまで向上できる。
【0134】
さらに(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体の組成、および極限粘度を変更したサンプルを用いても、微細な相構造を形成可能であり、実用上問題のないレベルの組成物を設計することが可能である。
【0135】
【表2】

【0136】
実施例11〜16より、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と各種(B)ポリスチレン系樹脂を用いた場合でも、1μm以下の微細な相構造が形成可能であり、耐衝撃性を維持できる。特に実施例13、14、16に示すとおり回収品を用いた場合でも、耐衝撃性、耐薬品性、特にオイル耐性を高レベルで発現できる。
【0137】
【表3】

【0138】
さらに(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂からなるスチレン系樹脂組成物に(C)構造安定化剤を各種用いた場合には、さらに微細な構造が形成可能となり、(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂の特徴である耐衝撃性、流動性、光沢性、耐薬品性を高度に兼備する組成物が得られる。
【0139】
また(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂からなるスチレン系樹脂組成物に(D)難燃剤を用いた場合でも、微細な構造が形成可能であり、耐衝撃性、流動性を維持しながら、OA機器等に必要な難燃性を付与することができる。特に実施例26〜28より、難燃剤を含有する回収された(B)ポリスチレン系樹脂を用いた場合でも、難燃剤を調整添加することで、耐衝撃性、流動性、光沢性、難燃性のバランスに優れる組成物が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、電気・電子部品、家電製品、OA機器、自動車部品、機械機構部品、文具、雑貨など種々の用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(r)、(m)の合計を100重量%として、(r)ゴム質重合体5〜80重量%の存在下で、(a1)〜(a3)からなる(m)単量体混合物20〜95重量%をグラフト重合してなる(A−1)グラフト共重合体0〜95重量部であり、前記(m)単量体混合物とは、(a1)、(a2)、(a3)の合計を100重量%として、(a1)スチレン系単量体20〜80重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体20〜60重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体0〜60重量%と、
(a1)、(a2)、(a3)の合計を100重量%として(a1)スチレン系単量体20〜80重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体20〜60重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体0〜60重量%からなる単量体混合物を重合してなる(A−2)アクリロニトリル/スチレン共重合体5〜100重量部とからなる(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂50〜99重量部(ただし(A−1)と(A−2)の合計を100重量部とする)、
および(B)ポリスチレン系樹脂1〜50重量部を配合してなるスチレン系樹脂組成物(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)。
【請求項2】
(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂が、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有する請求項1記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)ポリスチレン系樹脂が、スチレン系単量体単位を主成分とする樹脂であり、シアン化ビニル系単量体単位を実質的に含まないものである請求項1または2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)ポリスチレン系樹脂が、所定の目的に使用された後、回収された使用済みのポリスチレン系樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂からなるスチレン系樹脂組成物100重量部に対して、さらに(C−1)グラフトポリマー、(C−2)ブロックポリマー、(C−3)官能基変性ポリマーから選ばれる少なくとも1種の(C)構造安定化剤0.1〜30重量部を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C−3)官能基変性ポリマーが、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、およびオキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有するビニル系単量体単位を含む変性ビニル系重合体である請求項5記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
(A)アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、(B)ポリスチレン系樹脂を溶融混練する請求項1〜6のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記溶融混練時の剪断下で(A)成分、(B)成分が相溶し、吐出後の非剪断下で相分離することを特徴とする請求項7に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2010−254967(P2010−254967A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68044(P2010−68044)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】