説明

ステアリングアーム

【課題】溶接不良を招くことが無いステアリングアームを提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するために、本発明の課題解決手段は、緩衝器Dの外筒10の外周に取付けられてタイロッドに連結されるステアリングアーム1において、外筒10の外周に嵌合されるとともに全周を溶接することにより外筒10に固定される環状の取付部2と、取付部2の側部から延びて先端がタイロッドに連結されるアーム部3とを備え、外筒10に対して溶接される取付部2における上下の各端部2a,2bは、アーム部3に対して段差もってそれぞれ上下側に突出されるとともに、肉厚t1,t2が全周に亘り等しく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の外筒の外周に取付けられるステアリングアームの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器、特に、ストラット型の緩衝器にあっては、車輪を支持するナックルスピンドルに連結され、車輪を位置決めている。そして、このようなストラット型の緩衝器にあっては、タイロッドからの入力される操舵力を車輪に伝達するために、外筒の外周にタイロッドに連結されるステアリングアームを取付ける場合がある。
【0003】
ステアリングアームは、タイロッドの直線的な往復動を緩衝器の回動運動に変換し、車輪は緩衝器の回動に伴って回動することになる。
【0004】
このようにステアリングアームは、緩衝器の外筒の外周に取付けられる関係上、外筒の外周に固定される環状の取付部に大きなモーメントが作用するため、取付部の上下端を全周に亘って溶接するとともに、当該取付部をより強固に外筒に対して回り止めするべく、取付部の形状を多角形とし、外筒の取付部が嵌合する部位の形状を取付部に符合する形状としたものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−81074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した従来のステアリングアームは、取付部が外筒に対して溶接されることになるが、取付部が多角形となっているため、取付部の熱容量が全周で均一でなく、少なくとも半周以上を連続溶接することを考えた場合、電流値等の溶接条件を変更しなければならず、また、溶接開始位置を精度良く管理しないと、溶接不良や、場合によっては外筒を溶かしてしまって外筒に孔を空けてしまうといった不具合を招くことになりかねない。
【0006】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、溶接不良を招くことが無いステアリングアームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の課題解決手段におけるステアリングアームは、緩衝器の外筒の外周に取付けられてタイロッドに連結されるステアリングアームであって、外筒の外周に嵌合されるとともに溶接することにより外筒に固定される環状の取付部と、取付部の側部から延びて先端がタイロッドに連結されるアーム部とを備え、外筒に対して溶接される取付部における上下の各端部は、アーム部に対して段差もってそれぞれ上下側に突出されるとともに、肉厚が全周に亘り等しく設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のステアリングアームによれば、取付部における各端部は、肉厚が全周に亘って等しくされるとともに、各端部が取付部の一端から延びるアーム部に対して段差もってそれぞれ上下側に突出しているため、溶接条件に影響を与える各端部における熱容量を全周に亘ってほぼ均一にすることができる。
【0009】
したがって、取付部を外筒に対して溶接する際に、溶接条件を途中で変更することなしに各端部の半周以上を連続して溶接することができ、溶接不良の発生を抑制することができ、また、溶接条件を全周で同じにすることができるため、溶接開始位置の高精度な管理が不要となり、溶接工程における効率が向上し、外筒を溶かしてしまって外筒に孔を空けてしまうといった不具合を招くことがなく、製品歩留まりも向上することになる。
【0010】
さらに、溶接条件が各端部で同じになるため、緩衝器を横置きにしておけば、各端部を同時に溶接することも可能となって、溶接加工に要する時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態におけるステアリングアームの平面図である。図2は、緩衝器の外筒に取付けた状態における一実施の形態におけるテアリングアームの断面図である。
【0012】
図1および図2に示すように、一実施の形態におけるステアリングアーム1は、緩衝器Dの外筒10の外周に嵌合する環状の取付部2と、取付部2の側部から延びて先端が図示しないタイロッドに連結されるアーム部3とを備えて構成されており、このステアリングアーム1は、取付部2の上下の各端部2a,2bの半周以上を外筒10に対して溶接することで緩衝器Dの外筒10の外周に固定される。
【0013】
なお、緩衝器Dは、外筒10内に図示しないシリンダと、シリンダ内に挿入されてシリンダ内に伸側室と圧側室を隔成するピストンと、シリンダ内に移動自在に挿入されてピストンに連結されるピストンロッド11とを備えたストラット型の緩衝器として構成され、伸縮時に所定の減衰力を発生するようになっている。
【0014】
以下、各部について詳しく説明すると、取付部2は、環状とされており、一端側から図1,2中右方に向けてアーム部3が延びている。そして、取付部2の軸方向となる図2中上下方向の長さHtは、アーム部3の図2中上下方向長さHaより長く設定され、取付部2の上下の各端部2a,2bがそれぞれその長さh1,h2分だけアーム部3に対して段差もって上下側に突出するようになっている。
【0015】
そして、さらに、取付部2の上下の各端部2a,2bの肉厚t1,t2は、全周に亘って等しく設定されている。
【0016】
なお、アーム部3は、その先端に環状のソケット3aを備えており、当該ソケット3a内に図示しないタイロッドに設けた軸を挿入することで、タイロッドに対し回動自在に連結されるようになっている。
【0017】
ステアリングアーム1は、上述のように構成され、緩衝器Dの外筒10の外周に取付けるには、まず、取付部2内に外筒10を挿入または圧入して嵌合し、その状態で、取付部2の上下の各端部2a,2bを全周に亘って溶接することになる。
【0018】
この直接溶接される部位である取付部2における各端部2a,2bは、肉厚t1,t2が全周に亘って等しくされるとともに、各端部2a,2bが取付部2の一端から延びるアーム部3に対してそれぞれ長さh1,h2の段差もって上下側に突出しているため、溶接条件に影響を与える各端部2a,2bにおける熱容量を全周に亘ってほぼ均一にすることができる。なお、端部2a,2bの肉厚t1,t2が全周に亘って等しいとは、長さh1,h2の範囲で端部2a,2bの図2中左右方向に切断してできる断面における肉厚を全周に亘って等しくすることであり、長さh1,h2の範囲で端部2a,2bの肉厚を全く変化させない場合の他、図2に示したように、その外周をテーパ状にして取付部2の中央部へ向かうほど端部2a,2bの肉厚t1,t2が厚くなるようにしてもよい。
【0019】
すなわち、各端部2a,2bは、長さh1,h2の段差もって上下側に突出しているので、取付部2の側部に連なるアーム部3が溶接に与える影響を排除でき、さらに、各端部2a,2bの肉厚t1,t2が全周に亘って等しくなっているので、各端部2a,2bの全周に亘って熱容量をほぼ均一にすることができるのである。
【0020】
したがって、各端部2a,2bの半周以上を溶接して取付部2を外筒10に取付ける際に、溶接条件を途中で変更することなしに各端部2a,2bを連続して溶接することができ、溶接不良の発生を抑制することができ、また、溶接条件を全周で同じにすることができるため、溶接開始位置の高精度な管理が不要となり、溶接工程における効率が向上する。なお、当然であるが各端部2a,2bの全周を溶接してもよい。また、端部2aと端部2bは、互いに相手方の溶接条件に際して影響しないので端部2aの肉厚t1と端部2bの肉厚t2は異なってもよい。
【0021】
さらに、溶接条件が全周で同じになるため、外筒10を溶かしてしまって外筒10に孔を空けてしまうといった不具合を招くことがなく、製品歩留まりも向上することになるとともに、溶接条件が各端部2a,2bで同じになるため、各端部2a,2bを同時に溶接することも可能となって、溶接加工に要する時間を短縮することができる。
【0022】
なお、各端部2a,2bにおける長さh1,h2は、熱容量の均一化という点では長い方が有利であるが、肉厚t1,t2の長さにもよるがアーム部3が溶接条件に影響を与えないように設定されれば良く、具体的には、肉厚t1,t2が4mm程度で、取付部2の内径が54mm程度である場合、長さh1,h2を3mm以上に設定すれば溶接条件に影響が無いことが経験的に解かっている。
【0023】
また、各端部2a,2bの熱容量を均一するうえでは、図2中の取付部2とアーム部3との境の彎曲部位における曲率半径を小さく設定する方がよいが、当該曲率半径を小さく設定しすぎるとアーム部3の先端から受ける荷重による応力が高くなる傾向となるため、注意が必要となる。
【0024】
さらに、上方の端部2aにおける長さh1と下方の端部2bにおける長さh2は、必ずしも一致させる必要は無く、上述したように、全周で溶接条件の変更を強いられなければ長さh1,h2は任意に設定することができる。
【0025】
またさらに、アーム部3は、取付部2に対して図2中水平方向に延びているが、取付部2に対して図2中右斜め上方や下方へ傾斜して延びる構成を採用しても良く、このようにアーム部3が傾斜していても各端部2a,2bが長さh1,h2分だけ突出していることにより、アーム部3によって溶接トーチの各端部2a,2bへの接近が邪魔されないという利点もある。
【0026】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施の形態におけるステアリングアームの平面図である。
【図2】緩衝器の外筒に取付けた状態における一実施の形態におけるテアリングアームの断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ステアリングアーム
2 取付部
2a,2b 取付部における端部
3 アーム部
3a ソケット
10 外筒
D 緩衝器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器の外筒の外周に取付けられてタイロッドに連結されるステアリングアームにおいて、外筒の外周に嵌合されるとともに溶接することにより外筒に固定される環状の取付部と、取付部の側部から延びて先端がタイロッドに連結されるアーム部とを備え、外筒に対して溶接される取付部における上下の各端部は、アーム部に対して段差もってそれぞれ上下側に突出されるとともに、肉厚が全周に亘り等しく設定されることを特徴とするステアリングアーム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−222109(P2009−222109A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65884(P2008−65884)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】