説明

ステレオリボンマイクロホン

【課題】複数のマイクロホンユニットを同一平面内に配置しても近傍の構造物による音響特性の影響を受けず、良好なステレオ集音性を得ることのできるステレオリボンマイクロホンを得る。
【解決手段】4つのリボンマイクロホンユニット2a、2b、2c、2dがそれぞれ、指向軸を同一水平面内に位置するように配置されているステレオリボンマイクロホン1。4つのリボンマイクロホンユニット2a、2b、2c、2dはそれぞれ円周方向において交互に右チャンネル用と左チャンネル用になっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマイクロホンユニットを同一平面内に配置しても近傍の構造物による音響特性の影響を受けず、良好なステレオ集音性を得ることのできるステレオリボンマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
ステレオマイクロホンは、特許文献1に記載されているように、2つのマイクロホンユニットを内蔵し、それぞれのユニットの出力を左右の2チャンネルの信号とするものである。
【0003】
そのようなステレオマイクロホンの例として、双指向性マイクロホンユニットを2つ備え、それぞれのユニットの指向軸をマイクロホンの正面に対して左側に−45度、右側に+45度に向けたステレオマイクロホンがある。ステレオマイクロホンに採用されている上記集音方法は、ブルームラインアレイと呼ばれている。ブルームラインアレイを構成する双指向性マイクロホンユニットには、静電型のコンデンサマイクロホンユニットと、導電型のリボンマイクロホンユニットとがある。
【0004】
一般に、ステレオマイクロホンを構成する2つのマイクロホンユニットは、それぞれの指向軸が同一水平面内にあるように配置される。しかし、ブルームラインアレイに用いられる双指向性マイクロホンユニットは、近傍の構造物が音響中心に対し前後対称でないと特性が悪化するため、左右チャンネルのユニットを隣り合わせて配置することは性能上好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−303691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、一般的なステレオリボンマイクロホンでは、図9に示すように、2つの双指向性ユニットは縦方向に積み重ねて使用される。図9のステレオリボンマイクロホン1では、マイクロホンケース3内部に2つのリボンマイクロホンユニット2a、2bが縦方向に積み重ねられて収納され、外部からの音声はマイクロホンケース3に設けられたシールドメッシュ4を通じてリボンマイクロホンユニット2a、2bに到達する。
【0007】
また、マイクロホンケース3内には、昇圧トランス5a、5bが設けられていて、リボンマイクロホンユニット2a、2bからの出力はそれぞれ昇圧トランス5a、5bを経て5ピンコネクタ7から外部機器へと出力される。5ピンコネクタ7は昇圧トランス5aと5bそれぞれのホット側およびコールド側端子と、アース端子とから構成されている。また、マイクロホンケース3内には、バッファアンプとしての機能を有する回路基板6が設けられている。
【0008】
上述した従来のステレオリボンマイクロホンでは、2つのマイクロホンユニットの指向軸は異なる水平面内に存在することとなり、ステレオ集音において好ましくない。上下に積み重ねた2つのリボンマイクロホンユニットのそれぞれの指向軸は同一水平面内に無いため、特に近接音源に対して、音源の垂直(上下)方向の偏りが、それぞれ上下のマイクロホンユニットで区別されて集音され、水平(左右)方向の偏りとして出力されてしまう。
【0009】
加えて、リボンマイクロホンユニットは、より高い感度を得ることができるように、振動板としてのリボンの長さを可能な限り長くする必要があるため、リボンマイクロホンユニットの垂直方向(リボンの長さ方向)の寸法が長くなる。よって、2つのリボンマイクロホンユニットを垂直方向に配置した従来のステレオリボンマイクロホンによれば、2つのリボンマイクロホンユニット相互の垂直方向のずれが大きくなり、ステレオマイクロホンとして、左右の音を区別して集音する性能が低下する難点がある。
【0010】
そこで、ステレオリボンマイクロホンは、近傍の構造物による音響特性への影響の抑制と、マイクロホンユニットの同一平面内への配置による良好なステレオ集音とを両立させることが望まれる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、複数のマイクロホンユニットを同一平面内に配置しても、近傍の構造物による音響特性の影響を受けず、良好なステレオ集音性を得ることのできるステレオリボンマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るステレオリボンマイクロホンは、4つのリボンマイクロホンユニットがそれぞれ、指向軸を同一水平面内に位置するように配置されているステレオリボンマイクロホンであって、4つのリボンマイクロホンユニットはそれぞれ円周方向において交互に右チャンネル用と左チャンネル用になっていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、複数のマイクロホンユニットを同一平面内に配置しても近傍の構造物による音響特性の影響を受けず、良好なステレオ集音性を得ることのできるステレオリボンマイクロホンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るステレオリボンマイクロホンの実施例を示す縦断面図である。
【図2】図1のステレオリボンマイクロホンのユニット部の横断面図である。
【図3】上記ステレオリボンマイクロホンユニットの指向特性を示すグラフである。
【図4】上記ステレオリボンマイクロホンの回路図である。
【図5】上記ステレオリボンマイクロホンに用いられている左チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの音響性能の測定結果を示すグラフである。
【図6】上記左チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの音響性能の測定結果を示す別のグラフである。
【図7】上記ステレオリボンマイクロホンに用いられている右チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの音響性能の測定結果を示すグラフである。
【図8】上記右チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの音響性能の測定結果を示す別のグラフである。
【図9】従来のステレオリボンマイクロホンの例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るステレオリボンマイクロホンの実施例について図面を参照しながら説明する。なお、図9に示した従来例と同じ構成については同じ符号を付してある。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施例に係るステレオリボンマイクロホン1は、マイクロホンケース3内部に4つのリボンマイクロホンユニット2a、2b、2c、2dがそれぞれ、指向軸を同一水平面内に位置させて収納されている。外部からの音声はマイクロホンケース3に設けられたシールドメッシュ4を通じてリボンマイクロホンユニット2a、2b、2c、2dに到達する。
【0017】
また、マイクロホンケース3内には、昇圧トランス5a、5bが設けられている。リボンマイクロホンユニット2a、2bからの出力はそれぞれ昇圧トランス5a、リボンマイクロホンユニット2c、2dからの出力はそれぞれ昇圧トランス5bを経て、5ピンコネクタ7から外部機器へと出力される。5ピンコネクタ7は昇圧トランス5aと5bそれぞれのホット側およびコールド側端子と、アース端子とから構成されている。また、マイクロホンケース3内には、バッファアンプとしての機能を有する回路基板6が設けられている。
【0018】
リボンマイクロホンユニット2a、2b、2c、2dは、マイクロホンケース3内に、図2に示すように、指向軸が同一水平面内に位置するようにして配置されている。個々のリボンマイクロホンユニット2a、2b、2c、2dは、周知のとおり、四角柱状の細長い一対の永久磁石の間に磁場が形成され、この磁場内に振動板としての導電性のリボンが配置されている。リボンは長さ方向の両端部が固定されていて、音波を受けてリボンが振動して上記磁場の磁束を横切ることにより、リボンの両端から上記音波に応じた電気信号が出力される。
【0019】
リボンマイクロホンユニット2a、2bは右チャンネル用であり、リボンマイクロホンユニット2c、2dは左チャンネル用である。右チャンネル用マイクロホンユニット2a、2bは、集音軸方向すなわちリボンの面に対し直交する方向がマイクロホン正面方向に対し左側に45度傾けて、かつ、上記集音軸が平行になるようにマイクロホンケース3内に配置されている。左チャンネル用マイクロホンユニット2c、2dは、集音軸方向すなわちリボンの面に対し直交する方向がマイクロホン正面方向に対し右側に45度傾けて、かつ、上記集音軸が平行になるようにマイクロホンケース3内に配置されている。また、リボンマイクロホンユニット2a、2b、2c、2dは、隣り合うリボンマイクロホンユニットの指向軸間のなす角度が90度となるように配置されている。これらのリボンマイクロホンユニットの音響中心は、図2に点Aで示すように、各マイクロホンユニットで囲まれた空間の中心位置にあり、この音響中心Aから見て、各リボンマイクロホンユニットは対称的な位置にある。これら4つのリボンマイクロホンユニットの指向特性を図3に示す。
【0020】
図3において、実線は左チャンネル用のリボンマイクロホンユニットのポーラーパターンを、点線は右チャンネル用のリボンマイクロホンユニットのポーラーパターンを示している。また、右チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの指向軸はマイクロホン正面方向に対し右側に45度傾き、左チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの指向軸はマイクロホン正面方向に対し左側に45度傾いている。
【0021】
上述したステレオリボンマイクロホン1の回路構成を図4に示す。右チャンネル用のリボンマイクロホンユニット2a、2b、および、左チャンネル用のリボンマイクロホンユニット2c、2dは、それぞれ直列に接続されている。
【0022】
リボンマイクロホンユニット2a、2bは、昇圧トランス5aの1次巻き線に接続され、リボンマイクロホンユニット2a、2bの直列出力が上記1次巻き線に入力されるようになっている。昇圧トランス5aの2次巻き線の両端は、バランス出力のホット側とコールド側に、それぞれバッファアンプ6を介して接続されている。
【0023】
リボンマイクロホンユニット2c、2dは、昇圧トランス5bの1次巻き線に接続され、リボンマイクロホンユニット2c、2dの直列出力が上記1次巻き線に入力されるようになっている。昇圧トランス5bの2次巻き線の両端は、バランス出力のホット側とコールド側に、それぞれバッファアンプ6を介して接続されている。
【0024】
上述した昇圧トランス5aと5bそれぞれのホット側およびコールド側端子と、アース端子とにより構成される5ピンコネクタ7から、図示しない外部機器へと音声信号が出力される。
【0025】
上述した実施例に係るステレオリボンマイクロホンの音響性能の測定結果を図5〜図8に示す。図5および図6は左チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの音響特性を、図7および図8は右チャンネル用のリボンマイクロホンユニットの音響特性を示している。図6および図8では、Aは0度(正面)方向、Bは90度(横)方向、Cは180度(背面)方向での集音特性を示している。これらの図に示すように、左チャンネル用および右チャンネル用のいずれのリボンマイクロホンユニットも、双指向性となっている。
【0026】
本発明に係るステレオリボンマイクロホンによると、4つのマイクロホンユニットが音響中心に対して対称に配置されているため、従来のステレオリボンマイクロホンで問題となっていた、マイクロホンユニット内部のマイクロホンユニット近傍の構造物による音響特性への影響を効果的に抑えることができる。また、4つのマイクロホンユニットがそれらの指向軸を同一平面内に位置するように配置されているため、音源の垂直(上下)方向の偏りが、水平(左右)方向の偏りとして出力されてしまうことが無く、良好なステレオ集音性を得ることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ステレオリボンマイクロホン
2a、2b、2c、2d リボンマイクロホンユニット
3 マイクロホンケース
4 シールドメッシュ
5a、5b 昇圧トランス
6 回路基板(バッファアンプ)
7 5ピンコネクタ
A 音響中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つのリボンマイクロホンユニットがそれぞれ、指向軸を同一水平面内に位置するように配置されているステレオリボンマイクロホンであって、
4つの前記リボンマイクロホンユニットはそれぞれ円周方向において交互に右チャンネル用と左チャンネル用になっていることを特徴とするステレオリボンマイクロホン。
【請求項2】
4つの前記リボンマイクロホンユニットはそれぞれ、隣接する前記リボンマイクロホンユニット同士の指向軸の向きが90度となるように配置されている請求項1記載のステレオリボンマイクロホン。
【請求項3】
右チャンネル用の前記リボンマイクロホンユニット同士が2つ直列に接続されているとともに、左チャンネル用の前記リボンマイクロホンユニット同士が2つ直列に接続されている請求項1または2記載のステレオリボンマイクロホン。
【請求項4】
直列に接続された2つの前記リボンマイクロホンユニットが昇圧トランスの1次巻き線に接続されるとともに、前記昇圧トランスの2次巻き線の両端はバランス出力のホット側とコールド側に接続されている請求項3記載のステレオリボンマイクロホン。
【請求項5】
前記ステレオリボンマイクロホンの出力端子は、前記右チャンネル用の2つの前記リボンマイクロホンユニットについてのホット側およびコールド側の端子と、前記左チャンネル用の2つの前記リボンマイクロホンユニットについてのホット側およびコールド側の端子と、アース端子との合計5つの端子となっている請求項4記載のステレオリボンマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−191336(P2012−191336A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51800(P2011−51800)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】