説明

スピーカ

【課題】多数のスピーカユニットを使用することなく、3次元の全方向に対して音響再生する。
【解決手段】直流磁束を発生させる磁気回路と、第一コイルが設けられ、前記磁気回路と前記第一コイルとの間に発生する第一方向の駆動力により音響再生を行う第一振動板と、第二コイルが設けられ、前記磁気回路と前記第二コイルとの間で前記第一方向とは反対の第二方向に発生する駆動力により前記第一方向の背面側に音響再生を行う第二振動板と、前記第一振動板の周端部と前記第二振動板の周端部との間の領域において前記第一方向および前記第二方向に直交する周方向の第三方向の駆動力により音響再生を行う第三振動板と、を備え、前記磁気回路は共通の磁石からの直流磁束を前記第一コイル及び第二コイル並びに第三コイルに対して作用させる、ことを特徴とするスピーカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピーカに関し、特に、3次元の全方向に対する音響再生を可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在は、スピーカとして振動板の振動によって空気中に振動を伝えるようにしている。この結果、スピーカは指向性を有しており、振動板の向いている方向に向かって音響再生を行っている。また、スピーカは周波数に依存して指向性が狭くなる特性が一般的であり、高域再生用のスピーカほど指向性が狭くなっている場合が多い。また、楽器の音、その他自然界の各種の音は、点音源・無指向性の音である場合が多い。このため、スピーカの指向性を広げ、全方向への再生を行うことが望まれている。
【0003】
そこで、2つのスピーカを背中合わせに組み合わせたスピーカシステムや、イコライザ(音響反射部材)によって音を各方向に拡散させるスピーカシステムや、多面体の各面にスピーカユニットを配置した多面体スピーカシステムなどが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−32517公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の特許文献1では、2つのスピーカユニットを背中合わせに配置することで、前後に音響再生を行わせて、狭指向性を改善しようとしている。しかし、前後(x)方向以外の、左右(y)方向や、上下(z)方向に対しては何ら改善がなされておらず、全方向への音響再生にはほど遠い状態である。
【0006】
また、イコライザによる反射で音を拡散させるスピーカシステムでは、イコライザの材質や角度によって音質が変化する問題や、水平面(2次元平面内)では全方向の音響再生が可能であるものの上下方向への音響再生ができないといった問題などが残されている。
【0007】
一方、正12面体などの多面体の各面にスピーカユニットを配置したスピーカシステムによれば、各スピーカユニットが向いている全方向の音響再生が可能になる。ただし、多数のスピーカユニットが必要になり、コンパクトに構成できないという問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであって、多数のスピーカユニットを使用することなく、3次元の全方向に対して音響再生することが可能なスピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決する本発明は、以下に記載するようなものである。
(1)請求項1記載の発明は、直流磁束を発生させる磁気回路と、第一コイルが設けられ、前記磁気回路と前記第一コイルとの間に発生する第一方向の駆動力により音響再生を行う第一振動板と、第二コイルが設けられ、前記磁気回路と前記第二コイルとの間で前記第一方向とは反対の第二方向に発生する駆動力により前記第一方向の背面側に音響再生を行う第二振動板と、前記第一振動板の周端部と前記第二振動板の周端部との間の領域において前記第一方向および前記第二方向に直交する周方向の第三方向の駆動力により音響再生を行う第三振動板と、を備え、前記磁気回路は共通の磁石からの直流磁束を前記第一コイル及び第二コイル並びに第三コイルに対して作用させる、ことを特徴とするスピーカである。
【0010】
(2)請求項2記載の発明は、前記磁石の一端に配置される第一ポールピースと、前記第一ポールピースの周囲に第一磁気ギャップを介して配置される第一リングヨークと、前記磁石の他端に配置される第二ポールピースと、前記第二ポールピースの周囲に第二磁気ギャップを介して配置されると共に、前記第一リングヨークとの間に第三磁気ギャップを介して配置される第二リングヨークと、前記第一磁気ギャップに前記第一コイルが配置され、前記第二磁気ギャップに前記第二コイルが配置され、前記第三磁気ギャップに前記第三コイルが配置される、ことを特徴とする請求項1記載のスピーカである。
【0011】
(3)請求項3記載の発明は、前記第三振動板と前記第三コイルとは、伸縮可能な素材で構成される、ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカである。
(4)請求項4記載の発明は、前記第三振動板と前記第三コイルとは、伸縮可能なようにたわみ部を有して構成される、ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカである。
【0012】
(5)請求項5記載の発明は、前記第三振動板と前記第三コイルとは、複数の要素に分割されて構成されており、該複数の要素の間に、伸縮可能な素材あるいはたわみ部を有して構成される、ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカである。
【0013】
(6)請求項6記載の発明は、前記第三振動板と前記第三コイルとは、全方向に均等ではなく、特定の方向に前記駆動力を発生するよう構成されている、ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
以上のスピーカの発明では、共通の磁石からの直流磁束を用いる磁気回路により、第一方向に第一振動板により音響再生を行い、第一方向とは反対の第二方向に第二振動板により音響再生を行い、第一方向および第二方向に直交する周方向の第三方向に第三振動板により音響再生を行う。これにより、多数のスピーカユニットを使用することなく、3次元の全方向に対して音響再生することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態のスピーカの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態のスピーカの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態)を詳細に説明する。
〔第一実施形態〕
〔第一実施形態の構成〕
図1は本発明の第一実施形態のスピーカ100の断面構成を示す構成図である。ここでは、スピーカ100の第一振動板の音響再生方向をx方向として図1紙面左方向に示し、第二振動板の音響再生方向を−x方向として図1紙面右方向に示し、図1紙面手前方向をy方向として示し、図1紙面上方向をz方向として示している。
【0017】
また、図2は本発明の第一実施形態のスピーカ100の外観構成を斜視図として示す構成図である。ここでは、スピーカ100の第一振動板の音響再生方向をx方向として図2紙面左方向に示し、第二振動板の音響再生方向を−x方向として図1紙面右方向に示し、図1紙面右下手前方向をy方向として示し、図1紙面上方向をz方向として示している。
【0018】
これら図1および図2において、スピーカ100の中心付近には軸方向(x方向)に着磁された円柱形状の永久磁石130が配置されている。
この永久磁石130の一方の端面(一端)には、該端面より若干面積の大きい第一ポールピース140aが配置されている。そして、第一ポールピース140aの外周側には、磁気ギャップ(第一磁気ギャップG1)となる環状の空間を空けて、第一リングヨーク140c1が配置されている。なお、この第一リングヨーク140c1は、永久磁石130の側面に取り付けられた環状のスペーサ145を介して保持されている。
【0019】
そして、第一磁気ギャップG1は磁路となっており、第一コイル160aが巻回された第一コイルボビン150aが配置される。
この第一コイルボビン150aの端部内側にはドーム状の第一振動板170aが取り付けられると共に、端部外側には第一振動板170aのx方向の振動をサポートする第一エッジ172aがリング147aに対して取り付けられている。
【0020】
また、永久磁石130の他方の端面(他端)には、該端面より若干面積の大きい第二ポールピース140bが配置されている。そして、第二ポールピース140bの外周側には、磁気ギャップ(第二磁気ギャップG2)となる環状の空間を空けて、第二リングヨーク140c2が配置されている。なお、この第二リングヨーク140c2は、永久磁石130の側面に取り付けられた環状のスペーサ145を介して保持されている。
【0021】
そして、第二磁気ギャップG2は磁路となっており、第二コイル160bが巻回された第二コイルボビン150bが配置される。なお、第二磁気ギャップG2は、第一磁気ギャップG1と逆向きの磁束となるため、第二コイル160bの+/−の極性は、第一コイル160aとは逆になる。
【0022】
この第二コイルボビン150bの端部内側にはドーム状の第二振動板170bが取り付けられると共に、端部外側には第二振動板170bの−x方向の振動をサポートする第二エッジ172bがリング147bに対して取り付けられている。
【0023】
さらに、第一ポールピース140a外側の第一リングヨーク140c1と、第二ポールピース140b外側の第二リングヨーク140c2とは、中間部分に磁気ギャップ(第三磁気ギャップG3)となる環状の空間を空けて、永久磁石130の外周側を覆う筒状の磁路として構成されている。
【0024】
そして、第三磁気ギャップG3には、ドーナツ盤形状の第三コイル160cが配置されており、この第三コイル160cの外周側には、円筒面形状の第三振動板170cが取り付けられている。なお、第三振動板170cの一端はリング147aに取り付けられ、第三振動板170cの他端はリング147bに取り付けられている。この第三振動板170cは、後述するように、外周もしくは内周方向に伸縮可能に構成されている。なお、以上のような第三コイル160cに関しては、プリント配線板の技術を適用することも望ましい。
【0025】
なお、円筒面形状の第三振動板170cの中央部に第三コイル160cが配置されているために、該第三振動板170cには端部のエッジを省略した状態を示しているが、第三振動板170cの端部にエッジを設けても良い。
【0026】
また、リング147a、147bの外側にフレームなどを設け、該フレームに対してパンチングメタル等による球形の外殻(図示せず)をかぶせるように構成してもよい。
〔第一実施形態の動作説明〕
以上の構成において、永久磁石130の一端からの磁束は、第一ポールピース140a、第一磁気ギャップG1(第一コイル160a)、第一リングヨーク140c1、第三磁気ギャップG3(第三コイル160c)、第二リングヨーク140c2、第二磁気ギャップG2(第二コイル160b)、第二ポールピース140b、永久磁石130の他端、のようにして磁路中を経由する。
【0027】
従って、共通の永久磁石130、すなわち共通の1つの磁気回路を用いつつ、共通の直流磁束を第一コイル160a及び第二コイル160b並びに第三コイル169cの三種類の振動板に対して作用させている。
【0028】
そして、各コイルに信号が供給されると、第一振動板170aがx方向に対して音響再生を行い、第二振動板170bが−x方向に対して音響再生を行い、第三振動板170cがyz平面内の全周方向方向に対して音響再生を行う。これにより、多数のスピーカユニットを使用することなく、共通の磁気回路と3種類の振動板により、3次元の全方向に対して音響再生することが可能になる。
【0029】
この場合において、第一振動板170a、第二振動板170b、第三振動板170cに同じ信号を供給して、三次元の全方向に同じ音響再生を行っても良い。この場合、スピーカ100の設置は図1,図2の向きに限定されず、第一振動板170aを上向き、第二振動板170bを下向き、第三振動板170cを水平面方向に配置しても良い。また、第一振動板170aに左(L)信号、第二振動板170bに右(R)信号、第三振動板170cにセンター(C)信号を供給して点音源によるステレオあるいはサラウンド再生を行うようにしてもよい。
【0030】
以上の構成において、第三コイル160cと第三振動板170cとは、円の半径方向、すなわち、外周方向に伸びる、あるいは、内周方向に縮むように、信号に応じて振動する。このため、第三コイル160cと第三振動板170cとは、伸縮性のある素材で構成される、伸縮可能なように予めたわみ部を有して構成される、複数の要素に分割されて構成される、などが望ましい。
【0031】
また、z方向への音響再生が不要である場合には、全方向(yz全周方向)に均等ではなく、yと−y方向などの特定の方向に駆動力を発生するように第三コイル160cが構成されていてもよい。この場合、第三コイル160cの巻き線を調整しても良いし、第三磁気ギャップG3の間隔調整で対応してもよい。たとえば、音響再生を行いたい方向には第三磁気ギャップG3を適正間隔、または、第三コイル160cの巻き線ありとすると共に、音響再生不要方向には第三磁気ギャップG3を広げた間隔、または、第三コイル160cを第三磁気ギャップG3から外した位置に配置するなどで対処できる。この場合、y方向と−y方向へ外に向かって広がる場合には、z方向が凹むことで、伸縮性のない素材であっても、弾力性を有していれば変形することにより対処することが可能になる。
【0032】
〔第一実施形態の変形例〕
なお、以上の図1と図2とに示した各部の構成は、具体例としての一例であり、各種の変形が可能である。
【0033】
たとえば、第一振動板170aと第二振動板170bとは、ドーム状以外の各種形状を適用することが可能である。また、第一振動板170aと第二振動板170bとは、外周が円形であるものを示したが、楕円、多角形など各種形状を適用することが可能である。
【0034】
また、第二振動板170bを省略し、第一振動板170aと第三振動板170cとにより、x方向、yz平面方向に音響再生を行うスピーカを構成してもよい。この場合、第二ポールピース140bの面を壁や床やテーブルに載置した状態で、全方向音響再生に使用する場合に好適である。
【符号の説明】
【0035】
100 スピーカ
130 永久磁石
140a 第一ポールピース
140b 第二ポールピース
140c1 第一リングヨーク
140c2 第二リングヨーク
145 スペーサ
150a 第一ボビン
150b 第二ボビン
160a 第一コイル
160b 第二コイル
160c 第三コイル
170a 第一振動板
170b 第二振動板
170c 第三振動板
172a 第一エッジ
172b 第二エッジ
G1 第一ギャップ
G2 第二ギャップ
G3 第三ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流磁束を発生させる磁気回路と、
第一コイルが設けられ、前記磁気回路と前記第一コイルとの間に発生する第一方向の駆動力により音響再生を行う第一振動板と、
第二コイルが設けられ、前記磁気回路と前記第二コイルとの間で前記第一方向とは反対の第二方向に発生する駆動力により前記第一方向の背面側に音響再生を行う第二振動板と、
前記第一振動板の周端部と前記第二振動板の周端部との間の領域において前記第一方向および前記第二方向に直交する周方向の第三方向の駆動力により音響再生を行う第三振動板と、を備え、
前記磁気回路は共通の磁石からの直流磁束を前記第一コイル及び第二コイル並びに第三コイルに対して作用させる、
ことを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記磁石の一端に配置される第一ポールピースと、
前記第一ポールピースの周囲に第一磁気ギャップを介して配置される第一リングヨークと、
前記磁石の他端に配置される第二ポールピースと、
前記第二ポールピースの周囲に第二磁気ギャップを介して配置されると共に、前記第一リングヨークとの間に第三磁気ギャップを介して配置される第二リングヨークと、
前記第一磁気ギャップに前記第一コイルが配置され、前記第二磁気ギャップに前記第二コイルが配置され、前記第三磁気ギャップに前記第三コイルが配置される、
ことを特徴とする請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記第三振動板と前記第三コイルとは、伸縮可能な素材で構成される、
ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカ。
【請求項4】
前記第三振動板と前記第三コイルとは、伸縮可能なようにたわみ部を有して構成される、
ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカ。
【請求項5】
前記第三振動板と前記第三コイルとは、複数の要素に分割されて構成される、
ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカ。
【請求項6】
前記第三振動板と前記第三コイルとは、全方向に均等ではなく、特定の方向に前記駆動力を発生するよう構成されている、
ことを特徴とする請求項1−2に記載のスピーカ。

【図1】
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【図2】
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