説明

スリップフォーム装置及びスリップフォーム装置における水平力負担方法

【課題】風や地震等によりスリップフォーム装置に作用する水平力を、型枠内の若材齢コンクリートよりも材齢の長いコンクリートに負担させることでスリップフォーム装置を確実に支持する。
【解決手段】スリップフォーム装置10は、ヨーク30と、一対の型枠40と、この型枠40の下方に配置された支持板50と、上昇用ジャッキ60と、ヨーク30と支持板50とを接続するための接続材70と、支持板50を移動させるための水平移動用ジャッキ65と、により構成される。大きな水平力が作用するとスリップフォーム装置10が傾いて、支持板50が材齢の長い、すなわち高強度が発現したコンクリート構造物1の内周面に当接してスリップフォーム装置10を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠を移動させつつコンクリートを打設してコンクリート構造物を構築するためのスリップフォーム装置及びスリップフォーム装置における水平力負担方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物を構築する際には、スリップフォーム工法が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、スリップフォーム工法では、一対の型枠内にコンクリートを打設した後、ジャッキなどによりスリップフォーム装置を上昇させる工程を繰り返すことで、コンクリート構造物を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−74418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スリップフォーム工法では、スリップフォーム装置に作用する風や地震等の水平力を型枠内の若材齢コンクリートで支持している。
【0006】
しかしながら、超高層構造物等の大型構造物を構築する場合には、スリップフォーム装置が大型化するのに伴って、スリップフォーム装置に大きな水平力が作用するため、型枠内の若材齢コンクリートではその水平力を十分に支持できないことがある。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、風や地震等によりスリップフォーム装置に作用する水平力を、型枠内の若材齢コンクリートよりも材齢の長いコンクリートに負担させることでスリップフォーム装置を確実に支持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスリップフォーム装置は、ヨークに支持され対向配置された一対の型枠内にコンクリートを打設して、前記一対の型枠を上昇させることでコンクリート構造物を構築するスリップフォーム装置であって、
前記一対の型枠の少なくとも何れか一方の下方の位置に設けられ、前記スリップフォーム装置に作用する水平力を既に構築したコンクリート構造物に伝達させるための支持装置を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、型枠内の若材齢コンクリートだけでは支持できない大きな水平力がスリップフォーム装置に作用すると、支持装置が型枠よりも下方の材齢の長いコンクリート構造物の壁面に当接する。この支持装置が当接するコンクリート構造物には、既に高い圧縮強度が発現しているので、その水平力を支持することができる。
したがって、大きな水平力が作用すると考えられる超高層構造物をスリップフォーム工法で構築することが可能となる。
【0010】
また、本発明において、前記支持装置は、前記コンクリート構造物の壁面との間に間隔をおいて配置されて、前記壁面に沿った形状を有する支持板と、前記支持板と前記ヨークとを接続するための接続材と、を備えることとすれば、支持板は、コンクリート構造物の壁面との間に間隔をおいて配置されているので、スリップフォーム装置を上昇させる際に、支持板と壁面との間に摩擦抵抗が発生しない。
【0011】
また、本発明において、前記支持板は、その上側縁部が中央部に対して前記壁面から離間する方向へ屈曲するように形成されてなることとすれば、スリップフォーム装置が上昇する際に、支持板がコンクリート構造物の壁面に接触しても壁面を傷つけることがない。
【0012】
また、本発明において、前記接続材と前記支持板との間に介在されて、前記コンクリート構造物の前記壁面と直交する向きに伸縮可能な伸縮装置を更に備え、前記支持板が前記コンクリート構造物の前記壁面へ近接又は離間する方向へ移動可能であることとすれば、例えば、コンクリートの厚さが、地上から上方へ向かって徐々に薄くなるコンクリート構造物、或いは特定の高さ部位だけコンクリート厚が変化するコンクリート構造物等にも、本発明によるスリップフォーム装置を適用することができる。
【0013】
本発明のスリップフォーム装置における水平力負担方法は、一対の型枠内にコンクリートを打設して、前記一対の型枠を上昇させることでコンクリート構造物を構築するスリップフォーム装置に作用する水平力を負担させる方法であって、
前記一対の型枠の下方の位置において、前記水平力を既に構築したコンクリート構造物に負担させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、風や地震等によりスリップフォーム装置に作用する水平力を、型枠内の若材齢コンクリートよりも材齢の長いコンクリートに負担させることでスリップフォーム装置を確実に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態のスリップフォーム工法に用いられるスリップフォーム装置の構成を示す図である。
【図2】図1の型枠付近の詳細な構成を示す拡大図である。
【図3】コンクリートの練り上がりからの経過時間と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図4】スリップフォーム装置を用いてコンクリート壁を構築する様子を示す図である。
【図5】板状部材を複数箇所に配置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のスリップフォーム装置の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、コンクリートを順次上方に打設して筒状の構造物を構築する場合について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態のスリップフォーム工法に用いられるスリップフォーム装置10の構成を示す図である。
【0018】
図1に示すように、スリップフォーム装置10は、ヨーク30と、一対の型枠40と、この型枠40の下方に配置された支持板50と、上昇用ジャッキ60と、ヨーク30と支持板50とを接続するための接続材70と、支持板50を移動させるための水平移動用ジャッキ65(伸縮装置に相当)と、により構成される。
【0019】
ヨーク30は、構築済みのコンクリート構造物1の上部において内周と外周とに跨るように設けられて一対の型枠40を互いに間隔を隔てて保持する。
ヨーク30の上部及び下部にはそれぞれ上段作業床82及び下段作業床80が取り付けられている。
【0020】
上昇用ジャッキ60は、構築が完了したコンクリート構造物1内に、上端が突出するように埋設されたロッド61に反力を取って、スリップフォーム装置10全体を上昇させることができる。
【0021】
図2は、図1の型枠40付近の詳細な構成を示す拡大図である。図2に示すように、型枠40は、型枠本体41と、型枠本体41の外面側に設けられたH型鋼42とにより構成される。H型鋼42は、コンクリート構造物1の打設時に、コンクリート構造物1から型枠本体41に作用する圧力を支持する。
【0022】
水平移動用ジャッキ65は、支持板50と接続材70との間に介在し、一端が支持板50に、他端が接続材70に接続されている。水平移動用ジャッキ65を伸縮させることにより、支持板50とコンクリート構造物1の内周面との距離を調整することができる。
【0023】
ところで、一般的なコンクリートは、図3に示すように(図3の詳細な説明は後述する)、練り上がりから6.5時間経過すると、圧縮強度がスリップフォームにより施工を行う際に脱型可能な圧縮強度である0.1[N/mm]を超える。
【0024】
このコンクリートを用いてコンクリート構造物1を構築する際には、例えば、図4に示すように、コンクリートを打設した後、スリップフォーム装置10全体を1時間当たり200mm程度上昇させる。例えば、型枠本体41の長さを1.5mとした場合、この方法では、打設してから約7時間経過するとコンクリートが型枠本体41の下方から脱型されることとなる。
【0025】
しかしながら、解決課題の欄に記載したように、超高層構造物を構築する際にスリップフォーム装置10に大きな水平力が作用すると、強度が0.1[N/mm]程度のコンクリート構造物1では、スリップフォーム装置10を支持することができない虞がある。
【0026】
これに対して、本実施形態では、内周面側の型枠本体41の下方の位置に上記支持板50が設けられている。これにより、大きな水平力が作用した場合に支持板50が材齢の長い、高強度が発現したコンクリート構造物1の内周面(壁面に相当)に当接してスリップフォーム装置10を支持できる。
【0027】
支持板50の詳細について以下に説明する。
【0028】
支持板50は、型枠本体41の上端から下方へ、例えば、約6mの位置に、コンクリート構造物1の内周面に接するか否かのわずかな間隔をおいてその内周面の側方に配置されている。支持板50とコンクリート構造物1の内周面との間隔は水平移動用ジャッキ65で調整する。
これにより、スリップフォーム装置10が上昇する際に、支持板50と内周面との間に摩擦抵抗は生じないようにしている。
【0029】
また、支持板50はコンクリート構造物1の内周面に沿った円弧状の形状を有し、その曲率半径がコンクリート構造物1の内周面の曲率半径と同じになるように形成されている。
したがって、大きな水平力が作用した際にスリップフォーム装置10が僅かに傾くと、支持板50がコンクリート構造物1の内周面に密着することになる。
【0030】
さらに、支持板50の上側縁部はソリの先端のように内周面から離間する方向へ屈曲している。したがって、スリップフォーム装置10が上昇する際に、支持板50がコンクリート構造物1の内周面に接触しても支持板50の上端のエッジ部により内周面を傷つけることがない。
【0031】
ところで、支持板50は、型枠本体41の上端から約6m下に配置されている。この型枠本体41の上端から6m下の高さ位置は、打設されてから約30時間経過したコンクリート構造物1の高さ位置と一致している。これは、上述したように、スリップフォーム装置10は1時間当たり200mm程度上昇するので、約30時間で型枠本体41が6m(=200mm×30時間)上昇することになるからである。
【0032】
30時間経過したコンクリート構造物1は、4.0[N/mm]を超える高い圧縮強度が発現する(詳細は後述する)ため、大きな水平力が作用しても、この位置に支持板50を配置しておくことによりスリップフォーム装置10を支持することができる。
【0033】
次に、コンクリートの練り上がりからの経過時間と圧縮強度との関係について説明する。
【0034】
図3は、コンクリートの練り上がりからの経過時間と圧縮強度との関係を示す図である。
図3に示すように、一般的なコンクリートは、練り上がりから6.5時間経過すると、圧縮強度がスリップフォーム工法により施工を行う際に脱型可能な圧縮強度である0.1[N/mm]を超えている。
【0035】
そして、30時間経過時点で、上述したように、4.0[N/mm]を超えて高い圧縮強度が発現している。
また、例えば、39時間経過時点で、7.0[N/mm]と非常に高い圧縮強度が確保されている。
【0036】
以上の結果から、時間が経過することにより、スリップフォーム装置10を支持するために必要な強度を、型枠40より下方の材齢の長いコンクリート構造物1で確保することができることが確かめられた。
【0037】
したがって、水平力を材齢の長い、すなわち高強度が発現したコンクリート構造物1にも負担させることにより、スリップフォーム装置10を確実に支持することができる。
【0038】
上述したように本実施形態によれば、大きな水平力がスリップフォーム装置10に作用すると、支持板50が材齢の長いコンクリート構造物1の内周面に当接して、その水平力を支持することができる。したがって、超高層構造物をスリップフォーム工法で構築することが可能となる。
【0039】
また、支持板50は、コンクリート構造物1の内周面との間に間隔をおいて配置されているので、スリップフォーム装置10を上昇させる際に、支持板50と内周面との間に摩擦抵抗が発生しない。
【0040】
また、支持板50の上側縁部はソリの先端のように屈曲しているので、スリップフォーム装置10が上昇する際に、支持板50がコンクリート構造物1の内周面に接触しても内周面を傷つけることがない。
【0041】
また、水平移動用ジャッキ65を備えているので、支持板50をコンクリート構造物1の内周面へ近接又は離間する向きへ移動させることができる。したがって、コンクリートの厚さが、地上から上方へ向かって徐々に薄くなる構造物や特定の高さ部位だけコンクリート厚が変化する構造物にも、適用可能である。
【0042】
なお、本実施形態では、支持板50をコンクリート構造物1の内周面側にのみ配置した場合について説明したが、これに限られず、外周面側のみ、或いは内周面側及び外周面側の両方に配置してもよい。
【0043】
また、本実施形態では、スリップフォーム装置10を支持するために必要とされる強度について、4.0[N/mm]以上としているが、この値は工事条件により異なり、適宜、設計等により決定される。
【0044】
さらに、本実施形態においては、支持板50を1箇所(30時間前に打設されたコンクリート構造物1の側方)に配置したが、この数に限定されるものではなく、複数箇所に配置してもよい。例えば、図5に示すように、例えば、39時間前に打設されたコンクリート構造物1の側方に新たな支持板50を配置してもよい。
【0045】
そして、本実施形態では、スリップフォーム装置10の上昇速度を1時間当たり200mm程度としているが、一般的には200〜300mm程度であり、また、施工計画によってこれ以外の値も適宜設定することができる。
【0046】
また、本実施形態では、コンクリート構造物1を脱型するために必要とされる強度について、0.1[N/mm]としているが、この値は工事条件により異なる。
【0047】
また、本実施形態においては、筒状のコンクリート構造物1を構築した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、壁状のコンクリート構造物1などを構築する場合にも適用することができる。かかる場合には、壁状のコンクリート構造物1を挟み込むように両側面側にそれぞれ支持板50を設けることが望ましい。
【0048】
また、本実施形態においては、伸縮装置として、水平移動用ジャッキ65を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、支持板50を水平方向へ移動可能な機能を有するものであれば、他の機構を用いてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、型枠本体41の上端から約6m下に支持板50を配置した場合について説明したが、この位置に限定されるものではなく、スリップフォーム装置10の上昇速度及びコンクリートの強度発現時間を考慮して、所定の強度が発現している高さに配置されていればよい。
【符号の説明】
【0050】
1 コンクリート構造物
10 スリップフォーム装置
30 ヨーク
40 型枠
41 型枠本体
42 H型鋼
50 支持板
60 上昇用ジャッキ
61 ロッド
65 水平移動用ジャッキ
70 接続材
80 下段作業床
82 上段作業床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の型枠内にコンクリートを打設して、前記一対の型枠を上昇させることでコンクリート構造物を構築するスリップフォーム装置であって、
前記一対の型枠の少なくとも何れか一方の下方の位置に設けられ、前記スリップフォーム装置に作用する水平力を既に構築したコンクリート構造物に伝達させるための支持装置を備えることを特徴とするスリップフォーム装置。
【請求項2】
前記支持装置は、
前記コンクリート構造物の壁面との間に間隔をおいて配置されて、前記壁面に沿った形状を有する支持板と、
前記支持板と前記ヨークとを接続するための接続材と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のスリップフォーム装置。
【請求項3】
前記支持板は、その上側縁部が中央部に対して前記壁面から離間する方向へ屈曲するように形成されてなることを特徴とする請求項2に記載のスリップフォーム装置。
【請求項4】
前記接続材と前記支持板との間に介在されて、前記コンクリート構造物の前記壁面と直交する向きに伸縮可能な伸縮装置を更に備え、
前記支持板が前記コンクリート構造物の前記壁面へ近接又は離間する方向へ移動可能であることを特徴とする請求項2又は3に記載のスリップフォーム装置。
【請求項5】
一対の型枠内にコンクリートを打設して、前記一対の型枠を上昇させることでコンクリート構造物を構築するスリップフォーム装置に作用する水平力を負担させる方法であって、
前記一対の型枠の下方の位置において、前記水平力を既に構築したコンクリート構造物に負担させることを特徴とするスリップフォーム装置における水平力負担方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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