説明

セシウム除去材

【課題】水溶液中あるいは大気中に含まれるセシウムを選択的に吸着でき、かつ吸着物の捕集が容易なセシウム除去材を提供する
【解決手段】フェロシアン化金属化合物0.01〜50質量%を含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム除去材に関する。さらに詳しくは、水溶液中あるいは大気中に含まれる有害な放射性セシウムを効率よく除去できるセシウム除去材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生する放射性物質を含む廃液や排ガスから放射性物質を自然環境中に排出させないことが求められている。特に放射性物質の中でも放射性セシウム137の半減期は30年と長く、γ線はその後も減衰するとはいえ、長期にわたり自然環境中に放射されることになる。また、ガス化し易いため広く環境中に飛散し、水溶性が高く生体に蓄積し易い。その為、生体内に取り込まれると、体内被曝による生体への悪影響が非常に大きく、より深刻である。この放射性セシウム137を除去する方法として、ゼオライトを用いて汚染水から除去する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、このゼオライトを用いる方法は、ナトリウム、カルシウム等の金属成分も同時に吸着する可能性があり、放射性セシウム137のみを選択的に除去する方法ではないため、効率が良くない。
一方、放射性セシウム137を含むセシウム及びその化合物と選択的に反応して吸着作用を有する化合物としてフェロシアン化金属化合物が一般的に知られている(特許文献2参照)。しかしながら、これらは一般的には微細な結晶を有する微粒子状の顔料であり、微粒子状態のままで使用すると、セシウム及びその化合物を吸着した後の廃液や排ガス中から微粒子状態の吸着物を回収することとなり、その捕集が困難であり効率的な回収方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−79999号公報
【特許文献2】特開平5−66295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フェロシアン化金属化合物を用いてセシウム及びその化合物(以下、単に「セシウム」ということがある。)を除去するに当たって、セシウムを吸着した後の吸着物の捕集が容易であり、効率的なセシウム除去材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、フェロシアン化金属化合物を特定割合で含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材により、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のセシウム除去材を提供するものである。
1.フェロシアン化金属化合物を0.01〜50質量%含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材。
2.前記フェロシアン化金属化合物が一般式Axy[Fe(CN)6]で示される上記1に記載のセシウム除去材。
(式中、Aは、K、Na、NH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのいずれかであり、かつx、yは式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たす。nはMの価数を表す。)
3.高分子材料がポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、レーヨン及びビニロンから選択された少なくとも1種である上記1又は2に記載のセシウム除去材。
4.成形体が繊維状、フィルム状及びシート状のいずれかである上記1〜3に記載のセシウム除去材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フェロシアン化金属化合物を含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材を用いることにより、水溶液中あるいは大気中に含まれるセシウムを選択的に吸着でき、かつ吸着物の回収が容易であるので、セシウムを効率よく除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のセシウム除去材は、フェロシアン化金属化合物を含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材である。以下、各成分及びその他添加し得る成分について説明する。
【0008】
[フェロシアン化金属化合物]
本発明において使用されるフェロシアン化金属化合物は、一般式Axy[Fe(CN)6]で示される金属塩である。ここで、式中のAは、K、Na、NH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのいずれかであり、式x+ny=4(xは0から3の数)を満たす。また、nはMの価数を表す。
この中の代表的な化合物であり、種々の紺青の中で、特に化学式NH4Fe[Fe(CN)6]である紺青は、工業的に量産され、極めて微粒子状の顔料であり、その用途としてインキ、絵の具、化粧品などに広く使用されている安全性の高い化合物である。これらのフェロシアン化金属化合物は結晶構造として立方晶形を有し、格子内に一価の陽イオン、特にセシウムを選択的に取り込みやすい化合物である。
本発明のセシウム除去材に使用されるフェロシアン化金属化合物は、その形態が微粒子状であっても、水分等を含んだウェット状であってもよい。なお、市販の微粉品には吸着水が含まれている。
【0009】
[高分子材料]
本発明において使用される高分子材料は、セシウム除去材を繊維状、フィルム状及びシート状等の成形体とするために必要である。フェロシアン化金属化合物は極めて小さな微粒子状であるので、微粒子状態のままでセシウム除去材として使用すると、セシウムを吸着後の回収・捕集について、例えば遠心分離等の回収工程を行う必要があり、設備及び運用コスト、処理時間等の観点から好ましくない。従って、セシウム除去材として使用する際に、セシウムを吸着後の回収が容易となるように、適切な形状の成形体として成形して使用する必要がある。本発明では、このように適切な形状の成形体とするために高分子材料を必要とする。
本発明で使用される高分子材料としては、繊維状、フィルム状及びシート状及び円筒状、及び金型にて賦形された成形物等の成形体に成形できるものであれば、特に限定されないが、本発明で使用されるフェロシアン化金属化合物の耐熱温度以下で成形できる高分子材料が好ましい。例えば、紺青の場合、耐熱温度が140℃以下なので、140℃以下が望ましい。このような高分子材料としては、熱可塑性樹脂、ゴム状弾性体、セルロース系材料等が挙げられ、使用することができる。
【0010】
熱可塑性樹脂としては、熱可塑性の高分子化合物であればよく、特に制限されないが、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ビニロン等が挙げられる。また、ゴム状弾性体としては、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。そして、セルロース系材料としては、レーヨン(銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン等)、テンセル、ポリノジック等が挙げられる。これらの高分子材料は、成形温度を、フェロシアン化金属化合物の耐熱温度以下、例えば、紺青の場合、耐熱温度が140℃以下なので、140℃以下とするために、その分子量を適宜調整したり、可塑剤を使用することが望ましい。これらの高分子材料は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の高分子材料の中でも、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、レーヨン及びビニロンを使用することが加工適正の理由から好ましい。
【0011】
[高分子材料の成形体におけるフェロシアン化金属化合物の含有量]
高分子材料の成形体におけるフェロシアン化金属化合物の含有量は、フェロシアン化金属化合物を0.01〜50質量%、好ましくは、0.1〜10質量%含むものである。フェロシアン化金属化合物が0.01質量%未満であるとセシウム除去効率が低下し、望ましくない。また、フェロシアン化金属化合物が50質量%を超えると繊維状、フィルム状及びシート状等に成形した際に、成形が困難となる恐れがあり望ましくない。
【0012】
[添加成分]
本発明のセシウム除去材の成形に当たっては、フェロシアン化金属化合物及び高分子材料とともに添加成分を必要により添加含有させることができる。添加成分としては、例えば可塑剤、無機フィラー、金属石鹸、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機顔料、無機顔料等を挙げることができる。
【0013】
可塑剤としては、パラフィンワックス、モンタンワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のワックス類、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等の糖アルコール、流動パラフィン、鉱物油等を挙げることができる。
【0014】
無機フィラーとしては、特に種類を限定されず、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質ないし微粉化炭酸カルシウム、霞石閃長石微粉末、モンモリロナイト、ベントナイト、シラン改質クレー、タルク、溶融シリカ、結晶シリカ、ケイ藻土、軽石粉、軽石バルーン、スレート粉、雲母粉、アルミナ、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナ・ホワイト、硫酸アルミニウム、沈降性硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン、グラファイト、ガラスフレーク、フライアッシュ球、カーボンナノチューブ、石炭粉末、石炭灰粉末、人造氷晶石(クリオライト)、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、チタン酸カリウム、亜硫酸カルシウム、マイカ、ケイ酸カルシウム、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ゼオライト等が挙げられ、これらの中で特に沈降性硫酸バリウムがフェロシアン化金属化合物との結着性の理由で好ましい。
【0015】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリル酸ジエタノールアミド等のアルキロールアマイド類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリオキシアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ジステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、モノカプリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリコールエーテル類等を挙げることができる。
【0016】
アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代表されるアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソトリデシルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ジ(ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム等のジポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸塩等が挙げられる。
【0017】
カチオン系界面活性剤としては、例えば塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩類、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム塩等のアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩類等を挙げることができる。
【0018】
両性界面活性剤としては、ヤシ油アルキルベタイン等のアルキルベタイン類、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルアミドベタイン類、Z−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリームベタイン等のイミダゾリン類、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン等のグリシン類を挙げることができる。
【0019】
[高分子材料の成形体の製造方法]
フェロシアン化金属化合物は、成形体中に、0.01〜50質量%、好ましくは、0.1〜10質量%含むように用いられ、繊維状、フィルム状及びシート状及び円筒状、及び金型にて賦形された成形物等の成形体に成形する。成形時のフェロシアン化金属化合物の配合割合は、フェロシアン化金属化合物、高分子材料及び添加剤成分の合計量中に0.01〜50質量%、好ましくは、0.1〜10質量%配合すればよい。
本発明のセシウム除去材の好適な成形方法について、繊維状成形体とする方法とフィルムシート状成形体とする方法について以下説明する。
【0020】
上記記載のフェロシアン化金属化合物、高分子材料、さらに必要に応じて用いられる添加剤成分を上記記載の割合で配合し、紡糸機、射出成形機、押出成形機、プレス成形機等の成形機を使用し、溶融混合物を繊維状、フィルム状及びシート状等に成形する方法である。
【0021】
(繊維状成形体とする方法)
繊維状成形体とするには、高分子材料の熱可塑性樹脂及び/又はゴム状弾性体にフェロシアン化金属化合物及び添加剤を加えて混合機で混合し、得られた混合物を押出機等により造粒してペレットを得る。次いで、得られたペレットを必要に応じて添加される追加の高分子材料や添加剤を加え、紡糸機で紡糸して繊維状成形体とする方法である。紡糸機としては、一般的に使用されている紡糸機を用いればよい。また、レーヨン等のセルロース系材料やビニロンが使用される場合は、これらレーヨンやビニロン等の原液にフェロシアン化金属化合物の水分散体を添加し、紡糸することにより繊維状成形体とすることもできる。紡糸により得られる繊維状成形体の繊維径は、特に限定されるものではないが、通常は1〜1000μm程度である。フェロシアン化金属化合物を含む繊維状成形体の繊維径を可能な限り小さくするか、延伸すれば、繊維状成形体表面にフェロシアン化金属化合物が露出し、セシウムが吸着されやすくなるので好ましい。好ましい繊維径は、1〜500μm、特に好ましくは、5〜200μmである。このようにして得られる繊維状成形体は、適宜の長さに裁断して使用してもよいし、そのまま束ねた繊維束として使用してもよいし、また、布や不織布に加工して使用してもよい。
【0022】
(フィルム状、シート状成形体とする方法)
フィルム状、シート状成形体とするには、高分子材料の熱可塑性樹脂及び/又はゴム状弾性体にフェロシアン化金属化合物及び添加剤を加えて混合機で混合し、得られた混合物を押出機等により造粒してペレットを得る。次いで、得られたペレットを必要に応じて添加される追加の高分子材料や添加剤を加え、一般的なフィルム成形方法、シート成形方法により成形すればよい。このような成形方法としては、例えば押出成形、中空成形、真空成形、圧空成形、圧縮成形、カレンダー成形等を挙げることができる。フィルム又はシートの厚みは、特に限定されるものではないが、通常は1μm〜5mm程度である。フェロシアン化金属化合物を含む成形体の厚みを可能な限り小さくするか、延伸すれば、成形体表面にフェロシアン化金属化合物が露出し、セシウムが吸着されやすくなるので好ましい。このような好ましいフィルムの厚みは、1〜500μm、特に好ましくは、5〜200μmである。このようにして得られるフィルム状、シート状の成形体は、適宜の大きさに裁断して使用される。
【0023】
本発明では、フェロシアン化金属化合物、高分子材料及び必要に応じて使用される添加剤を射出成形機、押出機等の成形機中で溶融混練するに当たり、その成形温度はフェロシアン化金属化合物の耐熱温度以下であることが望ましい。例えば、紺青の場合、耐熱温度が140℃以下である。従って、使用される高分子材料についても比較的低い温度で成形できるものが好ましく、高分子材料の分子量を適宜選択して使用することが望ましい。但し、加工機中での滞留時間が5分以内であるなら、分解速度が低いので、紺青の場合、140℃より20℃高い160℃以下での加工が可能である。
【0024】
上記にて繊維状、フィルム状及びシート状に成形する方法について説明したが、本発明のセシウム除去材の成形に当たっては、この方法に限定されるものではない。
このようにして得られる本発明のセシウム除去材は、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生するセシウムを含む廃液や排ガスを処理するに当たって、使用されるセシウム除去材の大きさに応じて、分離可能なフィルター容器内(例えば、不織布製容器、ネット状容器等)に入れて処理することもできるし、そのまま廃液や排ガス中に入れて処理することもできる。また、汎用マスク、防毒マスク、エアコン、空気清浄機等のフィルターとして装着して使用することもできる。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例1
紺青顔料(商品名:ミロリブルー905、前記フェロシアン化金属化合物の一般式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)20質量部にポリエチレンワックス(商品名:サンワックス151P;三洋化成工業株式会社製)20質量部及び低密度ポリエチレン(商品名:サンテックLD F2270;旭化成ケミカルズ株式会社製)60質量部及びフェノール系酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;BASFジャパン株式会社製)0.2質量部を加え、ヘンシェルミキサーで混合し、二軸押出機を用いて140℃の成形温度でペレットを造粒した。次いで、得られたフェロシアン化金属化合物含有ペレット5質量部に対して、モノフィラ用高密度ポリエチレン(商品名:サンテックHD S362;旭化成ケミカルズ株式会社製)95質量部を添加して、140℃の成形温度(溶融紡糸温度)で溶融紡糸機(株式会社ムサシノキカイ製)を用いて太さが20μmの繊維に紡糸した。得られた繊維には、使用されたフェロシアン化金属化合物を1.0質量%含んでいることを確認した。得られた繊維を長さが10ミリに切断し、内径12ミリのカラムに30g充填し、硝酸セシウム70ミリグラム/リットル及び硫酸ナトリウム200グラム/リットルを含む硝酸セシウム水溶液(中性)500ミリリットルを2ミリリットル/分の速度で通過させた。その流出液のセシウム濃度を原子吸光分析装置(偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−2010;(株)日立ハイテクノロジーズ製;検出限界0.006ミリグラム/リットル)にて測定し、その除染係数を求めた結果、除染係数は、920であった。なお、除染係数は処理前後でのセシウムの濃度比(除染係数=処理前のセシウム濃度/処理後のセシウム濃度)で定義される。除染係数は通常、100以上であれば、除去効果が十分あるとされている。
【0026】
実施例2
実施例1で得られたフェロシアン化金属化合物含有ペレット5質量部に対して、フィルム用低密度ポエチレン(商品名:サンテックLD F2270;旭化成ケミカルズ株式会社製)95質量部を添加してインフレーション成形機(サーモプラスチック工業株式会社製)を用いて、140℃の成形温度にて厚さ50μmのインフレーショ1.0質量%含んでいることを確認した。このインフレーションフィルムを5ミリ×ンフィルムを製膜した。得られたフィルムには、使用されたフェロシアン化金属化合物を100ミリの短冊状に切断した。得られた短冊状のフィルム30gを用いて、実施例1と同様の方法で除染係数を測定した結果、除染係数は、850であった。
【0027】
実施例3
実施例1で得られたフェロシアン化金属化合物含有ペレット5質量部に対して、フィルム用ポリプロピレン(商品名:ウィンテックWFX4TA;日本ポリケム株式会社製)95質量部を添加してインフレーション成形機(サーモプラスチック工業株式会社製)を用いて、140℃の成形温度にて厚さ50μmのインフレーションフィルムを製膜した。得られたフィルムには、使用されたフェロシアン化金属化合物を1.0質量%含んでいることを確認した。このインフレーションフィルムを5ミリ×100ミリの短冊状に切断した。得られた短冊状のフィルム30gを用いて、実施例1と同様の方法で除染係数を測定した結果、除染係数は、800であった。
【0028】
比較例1
実施例1において、フェロシアン化金属化合物を添加しないで、それ以外は実施例1と同様の方法で繊維を得た。この繊維を実施例1と同様にして測定し、その除染係数を求めた結果、除染係数は、2.1であった。
【0029】
比較例2
実施例2において、フェロシアン化金属化合物を添加しないで、それ以外は実施例2と同様の方法でフィルムを得た。このフィルムを実施例2と同様にして測定し、その除染係数を求めた結果、除染係数は、1.5であった。
【0030】
比較例3
実施例3において、フェロシアン化金属化合物を添加しないで、それ以外は実施例3と同様の方法でフィルムを得た。このフィルムを実施例3と同様にして測定し、その除染係数を求めた結果、除染係数は、1.3であった。
【0031】
上記の実施例から、本発明のフェロシアン化金属化合物を含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材はセシウムを効率よく捕集し、分離除去できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のフェロシアン化金属化合物を含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材は、水溶液中あるいは大気中に含まれるセシウムを選択的に吸着でき、かつ吸着後の吸着物を捕集する等の後処理が容易であるので、セシウムを効率よく除去することができる。従って、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生するセシウムを含む廃液や排ガスからセシウムを効率よく除去できるセシウム除去材として好適である。また、防毒マスク等に設置すれば、大気中に含まれたセシウムを効率よく除去することができるので、防毒マスクや空気清浄機のフィルターなどにも好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェロシアン化金属化合物を0.01〜50質量%含む高分子材料の成形体からなるセシウム除去材。
【請求項2】
前記フェロシアン化金属化合物が一般式Axy[Fe(CN)6]で示される請求項1に記載のセシウム除去材。
(式中、Aは、K、Na、NH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのいずれかであり、かつx、yは式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たす。nはMの価数を表す。)
【請求項3】
高分子材料がポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、レーヨン及びビニロンから選択され少なくとも1種である請求項1又は2記載のセシウム除去材。
【請求項4】
成形体が繊維状、フィルム状及びシート状のいずれかである請求項1〜3記載のセシウム除去材。

【公開番号】特開2013−19881(P2013−19881A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170577(P2011−170577)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】