説明

セメントダストの処理方法

【課題】 処理コストを抑制することができるセメントダストの処理方法を提供する。
【解決手段】 セメントダストの処理方法は、塩素および鉛を含むセメントダストに対して、水浸出処理によって塩素を浸出する水浸出工程と、酸を用いて、前記水浸出工程で得られる液のpHを9〜11に調整するpH調整工程と、前記pH調整工程で得られた液をろ過するろ過工程と、前記ろ過工程で得られた残渣の鉛化合物に対して乾式処理を行う乾式処理工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントダストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製造工程において、セメント原料中或いは産業廃棄物原料中の鉛及び塩素は系内を循環する際に濃縮される。そこで、工程内に循環する鉛や塩素をセメントダストとして工程外へ取出し、セメントダスト中の塩素および鉛を除去することが望まれている。特許文献1は、セメントダストの処理に係る技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−105561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、大量の硫酸、苛性ソーダなどを使用するため、処理コストが高くなる。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑み、処理コストを抑制することができるセメントダストの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセメントダストの処理方法は、塩素および鉛を含むセメントダストに対して、水浸出処理によって塩素を浸出する水浸出工程と、酸を用いて、前記水浸出工程で得られる液のpHを9〜11に調整するpH調整工程と、前記pH調整工程で得られた液をろ過するろ過工程と、前記ろ過工程で得られた残渣の鉛化合物に対して乾式処理を行う乾式処理工程と、を含むことを特徴とする。本発明に係るセメントダストの処理方法によれば、処理コストを抑制することができる。
【0007】
前記乾式処理工程において、前記残渣の鉛化合物をガス化溶融炉にて揮発させてもよい。前記乾式処理後の残渣をセメント原料として用いてもよい。前記水浸出工程で得られる液のpHは、12.5〜13.5であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るセメントダストの処理方法によれば、処理コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】セメントダストの処理方法を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
(実施形態)
図1を参照しつつ、実施形態に係るセメントダストの処理方法の内容を説明する。なお、本実施形態において対象とするセメントダストは、セメント製造工程で生じるダストのことであり、具体的にはセメントキルン燃焼ガスから抽気されてサイクロン分級機やバグフィルタに捕集される粉末などである。セメントダストは、例えば、Ca(カルシウム)、Cl(塩素)、K(カリウム)、Na(ナトリウム)、Pb(鉛)などを含んでいる。カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉛などは、例えば塩化物、酸化物等の形でセメントダストに含まれている。
【0011】
(水浸出工程)
図1を参照して、セメントダストに対して水浸出処理を行う。例えば、中和塔排水(pH7、30℃)などをセメントダストと混合することによって、セメントダストに対して水浸出処理を行う。水出処理を行うことによって、セメントダスト中の塩素を浸出することができる。また、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属も浸出することができる。
【0012】
(pH調整工程)
セメントダスト中の塩基性成分(カリウム、ナトリウムなど)に起因して、水浸出工程で得られた液が塩基性を示すおそれがある。この場合、セメントダスト中の鉛が溶出するおそれがあるため、当該液のpHを調整する工程を行う。ただし、pHを低下し過ぎてもセメントダスト中の鉛が溶出するおそれがある。そこで、酸を用いて当該液のpHを9〜11に調整する。この場合、当該液への鉛の溶出を抑制することができる。特に、硫酸を用いることによって、鉛をPbSOとして沈殿させることができる。なお、水浸出工程およびpH調整工程を別に行う必要はなく、同時に行ってもよい。
【0013】
(ろ過工程)
水浸出工程およびpH調整工程の後に得られる液に対してろ過処理を行うことによって、固液分離を行う。例えば、フィルタープレスを用いたろ過処理を行うことによって、固液分離を行う。このろ過処理によって、残渣とろ液とに分離することができる。ろ液には塩素、ナトリウム、カリウムなどが含まれる。残渣には鉛、カルシウムなどが含まれる。したがって、ろ過工程を行うことによって、セメントダストに含まれていた塩素、ナトリウム、カリウムなどと、鉛、カルシウムなどとを分離することができる。
【0014】
(乾式処理工程)
次に、残渣に対して乾式処理工程を行うことによって、セメント原料として不要の成分を残渣から揮発させる。具体的には、残渣中の鉛成分(塩化鉛など)などを揮発させる。この乾式処理工程によって、残渣から鉛成分を分離することができる。残渣から揮発した成分は、急冷塔、バグフィルタなどを介して回収することができる。例えば、鉛については、鉛含有汚泥として回収することができる。この鉛含有汚泥を処理施設にて処理することによって、鉛をほぼ完全に回収することができる。
【0015】
乾式処理工程においては、ガス化溶融炉、キルン炉などを用いることができる。なお、ガス化溶融炉を用いることによって、産業廃棄物の燃焼熱を利用した鉛の揮発操作とセメントダストCa源からのスラグ生成とが可能である。さらに、産業廃棄物の可燃系プラスチックの分解ガス中のCOを還元剤として有効利用することができるため、コークスが不要となる。ガス化溶融炉での処理温度は、500℃以上であることが好ましい。
【0016】
(残渣回収工程)
ガス化溶融炉に残った残渣中のアルカリ金属、鉛などの含有量が低減されているため、当該残渣はセメント原料として有用である。そこで、当該残渣は、セメント原料として用いることができる。
【0017】
(ろ液処理工程)
ろ過工程で得られたろ液は、排水処理施設において処理することができる。この場合、ろ液中の塩素を回収することができる。
【0018】
水浸出工程、pH調整工程およびろ過工程を行うことによって、セメントダストに含まれる鉛と塩素とを効率よく分離回収することができる。塩素は排水処理によって効率よく系外除去することができる。鉛は乾式処理によって揮発物として効率よく回収することができる。当該揮発物を用いて、メタル鉛を回収することができる。鉛は瞬時に還元・揮発するため、上記乾式処理は、セメントダストのように金属成分として鉛を最も多く含むダストに対して特に有効である。また、湿式処理のように還元+セットリングを行う必要がないため、滞留時間を必要としない。したがって、連続操業が可能となる。また、当該方法によれば、酸浸出もアルカリ浸出も不要となることから、pH調整程度の酸しか必要とされない。そのため、大量の酸を使用する必要がない。また、苛性ソーダなどを使用する必要がない。したがって、処理コストを抑制することができる。
【実施例】
【0019】
以下、上記実施形態にしたがって、セメントダストに対して各工程を実施した。使用したセメントダストの成分を表1に示す。表1に示すように、セメントダストは、塩素、鉛、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどを含んでいた。また、セメントダストの総量は2168kgであった。21700リットルの中和塔排水を用いてこのセメントダストに対して水浸出処理を実施した。中和塔排水の成分を表2に示す。この水浸出処理を実施することによって、pHは13.0になった。そこで、硫酸を添加することによって、pHを11.0に調整した。
【表1】

【表2】

【0020】
得られた残渣の成分を表3に示し、得られた上澄み液の成分を表4に示す。残渣の総量は1490kgであった、表3に示すように、鉛成分を残渣中に回収することができた。また、表4に示すように、塩素、ナトリウム、カリウムなどを上澄み液中に回収することができた。ろ過によって残渣を回収することによって、鉛と塩素とを分離回収することができた。このように、塩素および鉛を含むセメントダストに対して水浸出処理を実施することによって塩素を浸出することができ、水浸出工程で得られる液のpHを硫酸で9〜11に調整することによって残渣中に鉛を残すことができ、得られた液をろ過することによって、セメントダスト中の塩素と鉛とを分離回収できることが立証された。
【表3】

【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素および鉛を含むセメントダストに対して、水浸出処理によって塩素を浸出する水浸出工程と、
酸を用いて、前記水浸出工程で得られる液のpHを9〜11に調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程で得られた液をろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程で得られた残渣の鉛化合物に対して乾式処理を行う乾式処理工程と、を含むことを特徴とするセメントダストの処理方法。
【請求項2】
前記乾式処理工程において、前記残渣の鉛化合物をガス化溶融炉にて揮発させることを特徴とする請求項1記載のセメントダストの処理方法。
【請求項3】
前記乾式処理工程後の残渣をセメント原料として用いることを特徴とする請求項2記載のセメントダストの処理方法。
【請求項4】
前記水浸出工程で得られる液のpHは、12.5〜13.5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセメントダストの処理方法。



【図1】
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【公開番号】特開2013−86071(P2013−86071A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231745(P2011−231745)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】