説明

セメント製造装置およびセメント製造方法

【課題】
焼成後のクリンカに残存するフリーライム量を低減する。
【解決手段】
クリンカを粉砕する粉砕手段を有するセメント製造装置であって、粉砕手段によって粉砕されたクリンカを滞留させる滞留手段と、滞留手段に対し、排ガスを供給する供給手段とを備え、排ガスは、有機物の燃焼排ガスであることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント製造装置および方法に関し、特にクリンカに残存するフリーライム(CaO)の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1では、石炭と廃棄物の吹き込み位置を規定することで燃焼温度を過度に高く維持することなく輻射熱を確保し、焼成効率を向上させることにより、クリンカ焼成過程におけるフリーライム生成を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−222504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クリンカ中の残存フリーライムはセメント品質を低下させるため、クリンカに残存するフリーライム量の増大は好ましくない。しかしながら特許文献1では、焼成後のクリンカに残存するフリーライムの低減については記載されていない。
本発明は上記問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、焼成後のクリンカに残存するフリーライム量を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を解決するため、本願発明では、クリンカを粉砕する粉砕手段を有するセメント製造装置であって、前記粉砕手段によって粉砕されたクリンカを滞留させる滞留手段と、前記滞留手段に対し、排ガスを供給する供給手段とを備え、前記排ガスは、有機物の燃焼排ガスであることとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、焼成後のクリンカに残存するフリーライム量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態1におけるセメント製造装置である。
【図2】実施の形態1−1を示す図である。
【図3】実施の形態1−2を示す図である。
【図4】実施の形態2におけるセメント製造装置である。
【図5】実施の形態3におけるセメント製造装置である。
【図6】実施の形態4におけるセメント製造装置である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施の形態1]
[セメント製造装置の概要]
図1は、実施の形態1におけるセメント製造装置の模式図である。セメント製造装置は、仕上げミル5、混合器6、および排ガス供給手段100を有する。なお、破線矢印は排ガス供給手段100における排ガスの流れを示す。火力発電所1は石炭、石油、木屑等の有機物を燃料とし、COを含む排ガスを系外に排出する。
【0009】
図外のセメントクリンカ焼成設備で焼成されたクリンカは、仕上げミル5において粉砕された後石膏等と混合されてサイクロン51を介して分級され、セメント製品となる。サイクロン51で捕集された粗粒は再度仕上げミル5において粉砕される。
【0010】
[排ガスは火力発電所排ガス]
排ガス供給手段100は火力発電所1と混合器6とを連通する配管であって、火力発電所1からのCO含有排ガスを混合器6に供給する。排ガス供給手段100には集塵機101および熱交換器102が設けられ、排ガス中のダストを一部捕集するとともに排ガス温度を低下させる。
【0011】
[混合器]
混合器6は、内部で排ガスを循環させ、循環する排ガス流にクリンカ粉を浮遊させて流動層を形成し、クリンカ粉表面に排ガスを接触させる。流動層を形成することにより、クリンカ粉と排ガスとの接触を効率よく行うものである。
【0012】
[排ガスによるクリンカ残存フリーライムの低減作用]
混合器6内のクリンカ粉は、排ガス供給手段100から供給された排ガスと接触する。その際、排ガスに含まれるCO、および大気中または排ガス中に含まれる水分によってクリンカに残存するフリーライムが炭酸化する。具体的には以下(1),(2)式により炭酸カルシウムが生成する。
CaO+HO→Ca(OH)・・・(1)
Ca(OH)+HO+CO → Ca(OH)+H+HCO
→ CaCO+2HO・・・(2)
これにより、クリンカ中の残存フリーライムが低減される。また、排ガスに含まれるCOの一部をフリーライムの炭酸化により消費するため、セメント製造装置の系外に排出されるCOの量が低減される。
【0013】
クリンカは排ガスと接触する前に予め仕上げミル5において粉砕されているため、COを含む排ガスとの接触面積が確保され、フリーライムの炭酸化がより促進される。なお、上記(1),(2)式は発熱反応であるため、実施の形態1では熱交換器102によって排ガス温度を予め低減させているが、適宜熱交換器102を省略してもよい。
【0014】
なおセメントはJIS規格品であるが、排ガス中のダストに含まれる成分(例えば、発電所の燃料に付随する粘土分、鉄分、灰分等)をセメントに混入させた場合、そのセメントがJIS規格外となる場合がある。したがって、集塵機101によって排ガス中のダストを予め低減ないし除去することにより、排ガスを混合器6に供給した場合であっても、最終製品となるセメントがJIS規格外となるおそれを低減するものである。
【0015】
[実施の形態1の効果]
(1)(6)クリンカを粉砕する粉砕手段(仕上げミル5)を有するセメント製造装置であって、
粉砕手段によって粉砕されたクリンカを滞留させる滞留手段(混合器6)と、
滞留手段に対し、排ガスを供給する供給手段(排ガス供給手段100)と
を備え、
排ガスは、有機物の燃焼排ガスであることとした。
クリンカ中に未反応のフリーライムが含まれる場合、セメントの品質低下につながるおそれがある。したがって、粉砕後のクリンカを滞留させる場所にCOを含む排ガスを供給することにより、焼成後のクリンカに含まれるフリーライムの炭酸化を促進させる。よって、セメントの品質を向上させることができる。図外のセメント製造装置においてクリンカ焼成時の燃焼状態が不安定となった場合はクリンカ残存フリーライムが増加する傾向にあるため、本願の効果がより顕著となる。
【0016】
(2)排ガスは、火力発電所1から排出されるガスであることとした。
火力発電所1の排ガスを用いた場合であっても、上記(1)と同様の効果が得られる。また、排ガスに含まれるCOの一部をフリーライムの炭酸化に用いることで、火力発電所1の系全体から大気中に排出されるCOを低減することができる。
【0017】
以下、実施の形態1の変形例である。
[実施の形態1−1]
図2は、実施の形態1において排ガス供給手段100を仕上げミル5に接続した例である。混合器6は省略されるため、構成が簡素となる。
[実施の形態1−2]
図3は、実施の形態1においてさらにセメントサイロ61を設け、このセメントサイロ61に排ガス供給手段100を接続した例である。セメントサイロ61では粉砕後のクリンカ粉と石膏等が混合されるため、このセメントサイロ61に排ガスを供給し、石膏等の混合とフリーライムの炭酸化を同時に行う。
各実施の形態1−1、1−2においても、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0018】
[実施の形態2]
[ごみ焼却場に接続]
図4は実施の形態2を示す図である。基本構成は実施の形態1と同様である。実施の形態1では火力発電所1の排ガスを用いたが、実施の形態2ではごみ焼却場11の排ガスを用いる点で異なる。ごみ焼却場の排ガスダストには塩素分が多く含まれるため、実施の形態1と同様に集塵機101により予めダストを捕集することが好ましい。
【0019】
[実施の形態2の効果]
(3)排ガスは、ごみ焼却場11から排出されるガスであることとした。これにより、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。実施の形態1−1,1−2同様、排ガスを仕上げミル4に供給してもよいし、セメントサイロ61を設けて供給してもよい。
【0020】
[実施の形態3]
[製鉄所内の高炉に接続]
図5は実施の形態3を示す図である。実施の形態3では、製鉄所12における高炉12aから排出されるガスを用いる。高炉12aでは石炭、コークス等の有機物が燃料として用いられ、COを含むガスを排出する。コークス原料には石炭や廃プラスチック等が用いられるが、他の有機物でもよい。
【0021】
[実施の形態3の効果]
(4)排ガスは、製鉄所12内の高炉12aから排出されるガスであることとした。これにより、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。実施の形態1−1,1−2同様、排ガスを仕上げミル4に供給してもよいし、セメントサイロ61を設けて供給してもよい。
【0022】
[実施の形態4]
[製紙工場に接続]
図6は実施の形態4を示す図である。実施の形態4では、製紙工場13から排出されるガスを用いる。製紙工場13では石油、石炭等の有機物が燃料として用いられ、COを含むガスを排出する。
【0023】
[実施の形態4の効果]
(5)排ガスは、製紙工場13から排出されるガスであることとした。これにより、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。実施の形態1−1,1−2同様、排ガスを仕上げミル4に供給してもよいし、セメントサイロ61を設けて供給してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、セメント製造装置においてクリンカ中の残存フリーライムを低減する際に有用である。また、火力発電所等、他の装置の系全体から排出されるCO低減にも有効である。
【符号の説明】
【0025】
1 火力発電所
5 仕上げミル
6 混合器
7 電気集塵機
11 ごみ焼却場
12 製鉄所
12a 高炉
13 製紙工場
51 サイクロン
100 排ガス供給手段
101 集塵機
102 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカを粉砕する粉砕手段を有するセメント製造装置であって、
前記粉砕手段によって粉砕されたクリンカを滞留させる滞留手段と、
前記滞留手段に対し、排ガスを供給する供給手段と
を備え、
前記排ガスは、有機物の燃焼排ガスであること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント製造装置において、
前記排ガスは、火力発電所から排出されるガスであること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載のセメント製造装置において、
前記排ガスは、ごみ焼却場から排出されるガスであること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載のセメント製造装置において、
前記排ガスは、製鉄所内の高炉から排出されるガスであること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項5】
請求項1に記載のセメント製造装置において、
前記排ガスは、製紙工場から排出されるガスであること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項6】
クリンカを粉砕する粉砕手段と、
前記粉砕手段によって粉砕されたクリンカを滞留させる滞留手段と
を備えるセメント製造方法であって、
前記滞留手段に対し、有機物の燃焼排ガスを供給すること
を特徴とするセメント製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−56802(P2012−56802A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202323(P2010−202323)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】