説明

セラミックス成形体の乾燥又は焼成方法

【課題】貫通孔の天井面が水平ではないセラミックス成形体を形状不良を生じさせることなく乾燥又は焼成する方法を提供する。
【解決手段】セラミックス成形体10の貫通孔11内に支持治具20を挿入する。支持治具20の上向きの支持平面20a,20bを貫通孔11の天井面11a,11bに面接触させるようにしてセラミックス成形体10を支持治具20に載せ、この状態で乾燥又は焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法に係り、特に乾燥又は焼成時におけるセラミックス成形体の形状不良が防止されるセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス成形体を乾燥又は焼成するときに、セラミックス成形体に形状不良が生じることを防止するため、セラミックス成形体を支持治具によって支持することが一般的に知られている。
I. 例えば、特開2000−302529号公報の図1には、水平な天井面を有する角穴が貫設された被焼成物の該角穴に棒状体を通し、この棒状体によって該被焼成物を吊るして焼成する中空セラミックスの焼成方法が記載されている。
II. また、特公平6−37331号公報の第2図には、セラミックス長尺体を、その隣接する直角な2つの外面が焼成用治具の直角な2つの支持面に当接するようにして該焼成用治具に載置し、この状態で該セラミックス長尺体を焼成する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−302529号公報
【特許文献2】特公平6−37331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
I. 上記特開2000−302529号公報には、被焼成物の角穴の天井面が水平ではない場合に、どのようにして棒状体によって該被焼成物を吊るすのかに関する記載がない。例えば、第9図の通り、断面正方形状の角穴2が貫設された被焼成物1を角棒3によって吊るして乾燥又は焼成する場合において、角穴2の隣接する2つの内面を構成する天井面2a,2aを他の内面よりも上位とし、該天井面2a,2aのそれぞれに角棒3の角部を接触させて該被焼成物1を該角棒3に吊るすと、角棒3と天井面2a,2aとが面接触しないことから、天井面2a,2aのうち角棒3の角部と接触している箇所に被焼成物1の自重が集中し、乾燥又は焼成工程において形状不良が生じるおそれがある。
【0004】
本発明は、天井部が水平面ではない角穴を有するセラミックス成形体を、形状不良を生じさせることなく乾燥又は焼成する方法を提供することを目的とする。
【0005】
II. 上記特公平6−37331号公報に記載された方法にあっては、焼成用治具の2つの支持面のなす角度が固定されていることから、該焼成用治具は、2つの外面のなす角度が同一のセラミックス長尺体を焼成する場合にしか用いることはできない。
【0006】
本発明は、2つの外面のなす角度が異なる種々のセラミックス成形体に同一の支持治具を用いて乾燥又は焼成することが可能なセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法は、貫通孔を有したセラミックス成形体を乾燥又は焼成する方法であって、該貫通孔に支持治具を通し、該支持治具によって該セラミックス成形体を吊るして乾燥又は焼成する方法において、該貫通孔の天井部は非水平な2つの天井面を有しており、該支持治具は該2つの天井面に倣う2つの支持平面を有しており、これら2つの天井面を2つの支持平面に面接触させることにより、該支持治具によって該セラミックス成形体を吊るすことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2のセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法は、請求項1において、前記支持治具は、前記2つの支持平面のなす角度を変化させることが可能であり、前記2つの天井面のなす角度に応じて該2つの支持平面のなす角度を調整することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3のセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法は、セラミックス成形体を支持治具によって支持して乾燥又は焼成する方法において、該セラミックス成形体の外面の下部は、非水平な2つの下向き面を有しており、該支持治具は、該2つの下向き面の一方を支持するための第1の支持平面を有する第1の支持治具と、他方を支持するための第2の支持平面を有する第2の支持治具とを有し、該第1及び第2の支持治具はそれぞれ該第1及び第2の支持平面の角度を変化させることが可能になっており、該2つの下向き面のなす角度に応じて該2つの支持平面の角度を変化させ、該2つの下向き面を該第1及び第2の支持平面に面接触させることにより、セラミックス成形体を支持治具によって支持することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明(請求項1)のセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法によると、貫通孔の非水平な2つの天井面を支持治具の2つの支持平面に面接触させた状態で乾燥又は焼成することから、天井面の一部に自重が集中することがなく、かつ2つの天井面のなす角度が2つの支持平面のなす角度に維持される。これにより、セラミックス成形体に形状不良が生じることが防止される。
【0011】
請求項2のセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法によると、支持治具の2つの支持平面のなす角度を調整することにより、2つの天井面のなす角度が異なる種々のセラミックス成形体の乾燥又は焼成に同一の支持治具を用いることができる。
【0012】
本発明(請求項3)のセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法によると、セラミックス成形体の2つの下向き面を第1の支持平面と第2の支持平面に面接触させた状態で乾燥又は焼成することから、2つの下向き面の一部に自重が集中することがなく、かつ2つの下向き面のなす角度が2つの支持平面のなす角度に維持される。これにより、セラミックス成形体に形状不良が生じることが防止される。
【0013】
また、セラミックス成形体の2つの下向き面のなす角度に応じて支持治具の2つの支持平面の角度を変化させることにより、異なる外面形状を有するセラミックス成形体の乾燥又は焼成に同一の支持治具を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。第1図は請求項1の実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する斜視図、第2図は第1図のII−II線に沿う断面図である。
【0015】
セラミックス成形体10は四角柱状であり、その長手方向に貫通孔11が貫通している。この貫通孔11の長手方向と垂直な断面は方形となっており、該貫通孔11の隣接する2つの内面が第1の天井面11a及び第2の天井面11bとなっている。
【0016】
支持治具20は棒状であり、その長手方向と垂直な断面は方形となっている。この支持治具20の隣接する2側面が第1の支持平面20a及び第2の支持平面20bとなっている。支持治具20は、中空筒状であってもよく、中実棒状であってもよい。
【0017】
該セラミックス成形体10の貫通孔11に該支持治具20を挿通し、この支持治具20の両端を貫通孔11から突出させ、該両端を図示しない支持台に載荷する。このとき、第1,2図の通り、該第1及び第2の天井面11a,11bを該第1,2の支持平面20a,20b上にそれぞれ面接触させ、支持治具20によってセラミックス成形体10を吊るす。
【0018】
この状態で、該セラミックス成形体10を乾燥し、又は焼成する。
【0019】
なお、第1図では支持平面20a,20b、天井面11a,11bは水平面に対し45°の角度となっているが、斜め(例えば30〜60°)となっていればよく、45°に限定されるものではない。
【0020】
図示の通り、第1及び第2の天井面11a,11bを第1及び第2の支持平面20a,20bに面接触させた状態で乾燥又は焼成することから、天井面11a,11bの一部に自重が集中することがなく、かつ2つの天井面11a,11bのなす角度が2つの支持平面のなす角度に維持される。これにより、セラミックス成形体10に形状不良が生じることが防止される。
【0021】
なお、第3図の通り、貫通孔11の内面に溝12が設けられている場合にあっても、第1,2図と同様にしてセラミックス成形体10を乾燥又は焼成することができる。
【0022】
本実施の形態では貫通孔の断面形状が方形であるが、三角形、五角形又はそれ以上の多角形であってもよい。
【0023】
第4図は、八角形の貫通孔11Aを有したセラミックス成形体10Aを支持治具20Aで吊るした状態の一例を示している。この支持治具20Aは、貫通孔11Aの2つの天井面11a,11bに倣う2つの支持平面20a,20bを有する。この支持治具20Aは、菱形断面形状であるが、支持平面20a,20bを有するものであればよく、菱形に限定されない。
【0024】
第5図は、請求項2の実施の形態を説明するものであり、2つの支持平面のなす角度(支持平面を含む面同士の交叉角度)を調節可能とした支持治具30を用いた吊支状態を示す正面図である。
【0025】
この支持治具30は2枚の支持板31a,31bを備えている。各支持板31a,31bの下面(背面)にはアーム33a,33bの先端側が留め軸32a,32bを介して回動可能に連結されている。
【0026】
各アーム33a,33bの基端側は、基軸34に回動可能に取り付けられている。留め軸32a,32b及び基軸34の軸心線方向は互いに平行かつ水平である。これら支持板31a,31bの上面がそれぞれセラミックス成形体10の天井面11a,11bに当接する支持平面となっている。
【0027】
この支持治具30をセラミックス成形体10の貫通孔11内に挿通し、支持板31a,31bの上面を貫通孔11の天井面11a,11bに面接触させるようにしてセラミックス成形体10を吊支する。この状態で、セラミックス成形体10を乾燥又は焼成する。
【0028】
この支持治具30にあっては、アーム33a,33bや支持板31a,31bを回動させることにより支持板31a,31bの上面のなす角度を任意に変えることができる。従って、貫通孔の2つの天井面のなす角度が異なる種々のセラミックス成形体について、この支持治具30を用いて吊支することができる。
【0029】
なお、この支持治具30にあっては、アーム部33a,33bの長さを調節可能としてもよい。このようにすれば、貫通孔の大きさの異なる種々のセラミックス成形体を吊支することができる。
【0030】
第6図〜第8図を参照して請求項3の実施の形態について説明する。
【0031】
第6図では、四角棒状の第1,2の支持治具41,42によってセラミックス成形体10を支持している。この支持治具41,42は中空筒状であってもよく、中実棒状であってもよい。
【0032】
支持治具41,42は、その長手方向を水平方向とし、且つ上面が斜めとなるように配置されている。この支持治具41,42の上面のうち、互いに向き合う面がそれぞれ支持平面41a,42aとなっている。セラミックス成形体10の2つの下向き面10a,10bを支持平面41a,42aに面接触させるように載せ、この状態で乾燥又は焼成する。
【0033】
なお、この実施の形態では、支持治具41,42の上面(支持平面41a,42a)及びセラミックス成形体10の下向き面10a,10bは水平面に対し45°の角度となっているが、斜めになっていればよく、これに限定されない。
【0034】
支持治具41,42は、各々の上面の角度を調節できるようにし、種々の大きさ、形状のセラミックス成形体を支持できるようにしている。なお、支持治具41,42は、長さ調節可能に構成されてもよい。
【0035】
第7図は、角度調節可能な第1及び第2の支持板51,52を有する支持治具50によってセラミックス成形体10を支持した状態を示す正面図である。
【0036】
この支持板51,52は、台座54から立設された支柱53の上端に対し留め軸53aを介して回動可能に取り付けられている。各留め軸53aの軸心方向は平行かつ水平である。
【0037】
各支持板51,52の上面がセラミックス成形体の支持平面である。この支持板51,52の上面を斜めとし、この上にセラミックス成形体10の2つの下向き面10a,10bを面接触させるように載せてセラミックス成形体10を支承し、この状態で乾燥又は焼成する。この支持板51,52の角度を調節することにより、種々の外形形状のセラミックス成形体を支持することができる。例えば、第8図のように六角形のセラミックス成形体10Bをこの支持治具50によって支持することができる。
【0038】
なお、支持板51,52は、長さ調節可能に構成されてもよい。また、支柱53,53は、それら同士の間の距離を調節できるように台座54に取り付けられてもよい。このようにすれば、種々の大きさのセラミックス成形体を支持することができる。
【0039】
第6〜8図のセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法は、貫通穴を有する中空のセラミックス成形体に限らず、中実のセラミックス成形体の乾燥又は焼成にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】異なる実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する断面図である。
【図4】異なる実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する断面図である。
【図5】異なる実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する正面図である。
【図6】異なる実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する正面図である。
【図7】異なる実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する正面図である。
【図8】異なる実施の形態に係るセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法を説明する正面図である。
【図9】従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10,10A,10B セラミックス成形体
11,11A 貫通孔
11a,11b 天井面
20,20A,30,41,42,50 支持治具
31a,31b,51,52 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有したセラミックス成形体を乾燥又は焼成する方法であって、該貫通孔に支持治具を通し、該支持治具によって該セラミックス成形体を吊るして乾燥又は焼成する方法において、
該貫通孔の天井部は非水平な2つの天井面を有しており、
該支持治具は該2つの天井面に倣う2つの支持平面を有しており、
これら2つの天井面を2つの支持平面に面接触させることにより、該支持治具によって該セラミックス成形体を吊るすことを特徴とするセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法。
【請求項2】
請求項1において、前記支持治具は、前記2つの支持平面のなす角度を変化させることが可能であり、前記2つの天井面のなす角度に応じて該2つの支持平面のなす角度を調整することを特徴とするセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法。
【請求項3】
セラミックス成形体を支持治具によって支持して乾燥又は焼成する方法において、
該セラミックス成形体の外面の下部は、非水平な2つの下向き面を有しており、
該支持治具は、該2つの下向き面の一方を支持するための第1の支持平面を有する第1の支持治具と、他方を支持するための第2の支持平面を有する第2の支持治具とを有し、
該第1及び第2の支持治具はそれぞれ該第1及び第2の支持平面の角度を変化させることが可能になっており、
該2つの下向き面のなす角度に応じて該2つの支持平面の角度を変化させ、該2つの下向き面を該第1及び第2の支持平面に面接触させることにより、セラミックス成形体を支持治具によって支持することを特徴とするセラミックス成形体の乾燥又は焼成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−336952(P2006−336952A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162921(P2005−162921)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】