説明

セレノアミドを含有することを特徴とする生細胞中の活性酸素消去剤とその利用法

【課題】生細胞中での活性酸素消去作用を有し、人用医薬品以外に、家畜、ペットなどの動物薬として使用でき、容易かつ安価に得られる生細胞中の活性酸素消去剤およびその利用法の提供。
【解決手段】N,N-ジメチルセレノベンズアミド、N,N-ジエチルセレノベンズアミド、N,N-ジプロピルセレノベンズアミド、N-(プロピルセレノカルボニル)ピロリジン、N-(フェニルセレノカルボニル)ピロリジン、N,−エチル−N-メチルセレノベンズアミド、N,N-ジエチル-4-メチルセレノベンズアミド、N,N-ジエチル-4-クロロセレノベンズアミド、N,N-ジエチルセレノニコチアミド、N,N-ジエチル-2-セレノナフチルアミドなどのセレノアミドを含有することを特徴とする生細胞中の活性酸素消去剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレノアミドを含有することを特徴とする生細胞の活性酸素消去剤とその利用法に関する。詳しくは、セレノアミドを含有することを特徴とする生細胞中の活性酸素消去剤、並びに本剤を含有する医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内活性酸素は本来生体を守るために、殺菌および殺腫瘍物質として生成される。しかし選択毒性がないため、正常な細胞にも作用してしまうことがあり、過剰な活性酸素は、生体に対して様々の障害を引き起こすことが知られている。一例として、活性酸素は金属イオンの触媒の存在下にヒドロキシルラジカルを生成するが、ヒドロキシルラジカルは血中LDLの過酸化を引き起こし、更に酸化されたLDLが血管内皮細胞に作用して血栓を形成する。その結果、生活習慣病と言われる高血圧症や、動脈硬化や、糖尿病のような病気になりやすくなる(非特許文献1参照)。
【0003】
スーパーオキシドジスムターゼ(以下、SOD という)は、生体内に広くかつ多量に存在し、生体内における活性酸素除去成分として重要な抗酸化系酵素である。SOD は活性酸素の一種であるスーパーオキシドアニオンの不均化反応を触媒し、この反応によって細胞内のスーパーオキシドは10万分の1に低下する(非特許文献2参照)。体内でSOD様作用を補強できる因子として、SOD そのもの又はSOD 様物質がある。SOD は大量に、安易に入手できないため、SOD 様作用を補強する手段のほとんどがSOD 様活性物質の摂取である。例えば、ビタミンC(特許文献1)、ビタミンE(特許文献2)や、カテキン類(特許文献3,4)の摂取が挙げられる。
【0004】
しかしこれらの物質は、安定性や吸収性等の問題で、生体内での活性酸素を除去する作用が充分でないため、より優れたSOD 様物質すなわち活性酸素消去物質の開発が望まれていた。これまでに活性酸素消去活性を示すペプチド及びペプチド混合物として、小麦グルテンの分解により得られたヘキサペプチド(特許文献5参照)、植物蛋白を酵素分解して得られるペプチド混合物(特許文献6参照)、オウゴン中のバイカレイン、バラ科植物・刺梨の果汁等に含まれている活性酸素消去物質(特許文献7,8参照)等が報告されている。
【0005】
こうして、活性酸素消去物質は病気の予防因子や美容因子として特定保健用食品や健康食品等に利用されてきた。しかし、従来の活性酸素消去物質は、効果が十分でなかったり毒性を有すため利用範囲が限られていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−322990号公報
【特許文献2】特開2005−029490号公報
【特許文献3】特開平10−175858号公報
【特許文献4】特開平07−300412号公報
【特許文献5】特許第2835504号
【特許文献6】特許第3108059号
【特許文献7】特開昭64−50877号公報
【特許文献8】特開平3−83548号公報
【非特許文献1】カレントテラピー,Vol.16,No.1,105−109頁,1998
【非特許文献2】今堀和友ら監修,「生化学辞典第3版」,東京化学同人,743頁
【非特許文献3】Koketsu, M., Fukuta Y. and Ishihara, H., Preparation of N,N-unsubstitutedselenoureas and thioureas from cyanamides, Tetrahedron Lett., 42, 6333-6335 (2001).
【非特許文献4】Ishihara, H., Koketsu, M., Fukuta Y. and Nada F., Reaction of lithium aluminum hydride with elemental selenium: Its application as a selenating reagent into organic molecules, J. Am. Chem. Soc., 123, 8408-8409 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、実用上十分活性を有する生細胞中の活性酸素消去剤並びに本剤を含有する医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の現状に鑑み、鋭意検討の結果、セレノアミドが生細胞中の活性酸素消去作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、次の[1]〜[3]である。
[1]セレノアミドを含有することを特徴とする生細胞中の活性酸素消去剤。
[2]セレノアミドがN,N-ジメチルセレノベンズアミド(N,N-Dimethylselenobenzamide)、N,N-ジエチルセレノベンズアミド(N,N-Diethylselenobenzamide)、N,N-ジプロピルセレノベンズアミド(N,N-Dipropylselenobenzamide)、N-(プロピルセレノカルボニル)ピロリジン(N-(Phenylselenocarbonyl) pyrrolidine)、N-(フェニルセレノカルボニル)ピロリジン(N-(Phenylselenocarbonyl) piperidine)、N,−エチル−N-メチルセレノベンズアミド(N-Ethyl-N-methylselenobenzamide)、N,N-ジエチル-4-メチルセレノベンズアミド(N,N-Diethyl-4-methylselenobenzamide)、N,N-ジエチル-4-クロロセレノベンズアミド(N,N-Diethyl-4-chloroselenobenzamide)、N,N-ジエチルセレノニコチアミド(N,N-Diethylselenonicotinamide)、N,N-ジエチル-2-セレノナフチルアミド(N,N-Diethyl-2-selenonaphthylamide)のうちの1種または2種以上の混合物である前記[1]記載の生細胞中の活性酸素消去剤。
[3]前記[1][2]に記載の生細胞中の活性酸素消去剤を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
【0010】
すなわち、本発明は、化学合成で得られるセレノアミドを含有することを特徴とする生細胞中の活性酸素消去剤とその利用法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、実用上十分な生細胞中の活性酸素消去作用を有すると共に、安価に得られる、セレノアミドを含む組成物およびその利用法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いるセレノアミドはセレン化合物の一種で、アミドのカルボニル酸素がセレン元素に置き換えられ、α位の窒素原子上が2個の置換基を導入した構造が特徴である。本発明で用いるセレノアミドは文献記載の方法(非特許文献3)で化学合成により得ることができる。本発明に使用することができるセレノアミドのうち、N,N-ジメチルセレノベンズアミド(N,N-Dimethylselenobenzamide)、N,N-ジエチルセレノベンズアミド(N,N-Diethylselenobenzamide)、N,N-ジプロピルセレノベンズアミド(N,N-Dipropylselenobenzamide)、N-(プロピルセレノカルボニル)ピロリジン(N-(Phenylselenocarbonyl) pyrrolidine)、N-(フェニルセレノカルボニル)ピロリジン(N-(Phenylselenocarbonyl) piperidine)、N,−エチル−N-メチルセレノベンズアミド(N-Ethyl-N-methylselenobenzamide)、N,N-ジエチル-4-メチルセレノベンズアミド(N,N-Diethyl-4-methylselenobenzamide)、N,N-ジエチル-4-クロロセレノベンズアミド(N,N-Diethyl-4-chloroselenobenzamide)、N,N-ジエチルセレノニコチアミド(N,N-Diethylselenonicotinamide)、N,N-ジエチル-2-セレノナフチルアミド(N,N-Diethyl-2-selenonaphthylamide)が適しており、これらのうちN-(phenylselenocarbonyl) piperidine(以下セレノアミドAという)とN, N-diethyl-4-chloro-selenobenzamide(以下セレノアミドBという)が最も適している。本発明ではたとえば上記のセレノアミドのうちの1種または2種以上の混合物を用途に合わせ利用することができる。
本発明に使用するセレノアミドは、製造法により規定されないが、たとえば、アミドのジエチルエーテル溶液にオキサリルクロリドを添加する。別のフラスコにて調製したLiAlHSeHを前述の反応溶液に添加し、セレノアミド得ることができる。さらに、すでに市場で販売されているセレノアミド(たとえばシグマ社製等)を利用することも可能である。
【0013】
本発明の生細胞の活性酸素消去剤は、上記のセレノアミドを合計0.01から90重量%、好ましくは0.1から50重量%、より好ましくは1から30重量%含有する。セレノアミドの含有量が0.01重量%未満では生細胞中の活性酸素消去効果が認められない。また、セレノアミド含有量を90重量%より多くしても、効果の顕著な増加は認められない。
【0014】
次に、本発明の生細胞中の活性酸素消去剤を配合してなる医薬用組成物について説明する。本発明の生細胞中の活性酸素消去剤を配合してなる製剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜に選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤があげられる。
【0015】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の生細胞中の活性酸素消去剤の配合量は0.01から50重量%、好ましくは0.1から30重量%、より好ましくは1から10重量%含有する。活性酸素消去剤の含有量が0.01重量%未満では活性酸素消去効果が認められない。また。活性酸素消去剤の含有量が50重量%より多くしても、効果の顕著な増加は認められない。この種の製剤には本発明の活性酸素消去剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0016】
上記の活性酸素消去剤を含有する医薬用組成物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0017】
本発明の医薬用組成物は、生細胞の活性酸素の消去をねらいとして利用するものであれば、それを使用する上で何ら制限を受けることなく適用される。
【0018】
次に、本発明を実験例、実施例、比較例にてさらに詳しく説明する。
【0019】
(実験例1)活性酸素消去能の測定:木村らのヒポキサンチン−キサンチンオキシダ−ゼによるス−パ−オキシド発生系とウミホタルルシフェリン誘導体(MCLA)を用いた化学発光法で行った(Kimura, H., Nakano, M., 1988. Highly sensitive and reliable chemiluminescence method for the assay of superoxide dismutase in human erythrocytes. FEBS Letters, 239 2 347-350.)。ス−パ−オキシド消去能(superoxide scavenging activity 以下「SOSA」と略す)は次の式で算出し、SOSA(%)と表示した。SOSA(%)=発光阻害率(%)=(I0-Ii)/I0×100。ここで I0 は対照発光量、 Ii はサンプル発光量である。
【0020】
(実験例2)典型的なセレノアミドの調製:N,N-ジメチルセレノベンズアミド(N,N-Dimethylselenobenzamide)の合成。アルゴン気流下、二口フラスコ中にN,N-ジメチルベンズアミド(0.227g, 1.0mmol)のジエチルエーテル溶液(5mL)を加え、オキサリルクロリド(0.09mL, 1.0mmol)を添加した。0℃で1時間撹拌後、さらに、室温で3時間撹拌した。別のフラスコにてセレン粉末(0.08g, 1.0mmol)の無水THF溶液(10mL)に氷冷下水素化アルミニウムリチウム(0.046g, 1.2mmol)を加え、30分撹拌しLiAlHSeHを得た(Ishihara, H., Koketsu, M., Fukuta Y. Nada, F., Reaction of lithium aluminum hydride with elemental selenium: Its application as a selenating reagent into organic molecules, 2001 J. Am. Chem. Soc., 123, 8408-8409.)。ここで得たLiAlHSeHを前述の反応溶液に添加し、さらに、室温にて3時間撹拌した。反応混合液をろ過、水洗、無水硫酸ナトリウムによる乾燥後ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。フラッシュクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で単離精製し、N,N-ジメチルセレノベンズアミドを黄色結晶(収率54%)として得た(Koketsu, M., Okayama, Y., Aoki, H. Ishihara, H., Facile synthesis of N,N-dialkylselenoamidesfrom amides, 2002 Heteroatom Chem., 13, 195-198.)。
【実施例1】
【0021】
セレノアミドAとセレノアミドBのそれぞれのSOSAを図1に示した。また、セレノアミドAとセレノアミドBのそれぞれの化学式と50%活性阻害濃度(IC50)を実験例1の方法で測定した結果を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
(比較例1)
ビタミンC(和光純薬)、D-αトコフェロール(エーザイ)や、(−)エピガロカテキン緑茶由来(和光純薬)の活性酸素消去能を実験例1の方法で測定した結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
表1と表2の比較から、本発明の生細胞中の活性酸素消去剤が先行技術と比較して優れた活性酸素消去作用を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は人以外に、家畜、ペットなどの動物用として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】セレノアミドAとセレノアミドBのそれぞれのSOSAを図1に示した。
【符号の説明】
【0028】
△:セレノアミドA、□:セレノアミドB。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレノアミドを含有することを特徴とする生細胞中の活性酸素消去剤。
【請求項2】
セレノアミドがN,N-ジメチルセレノベンズアミド(N,N-Dimethylselenobenzamide)、N,N-ジエチルセレノベンズアミド(N,N-Diethylselenobenzamide)、N,N-ジプロピルセレノベンズアミド(N,N-Dipropylselenobenzamide)、N-(プロピルセレノカルボニル)ピロリジン(N-(Phenylselenocarbonyl) pyrrolidine)、N-(フェニルセレノカルボニル)ピロリジン(N-(Phenylselenocarbonyl) piperidine)、N,−エチル−N-メチルセレノベンズアミド(N-Ethyl-N-methylselenobenzamide)、N,N-ジエチル-4-メチルセレノベンズアミド(N,N-Diethyl-4-methylselenobenzamide)、N,N-ジエチル-4-クロロセレノベンズアミド(N,N-Diethyl-4-chloroselenobenzamide)、N,N-ジエチルセレノニコチアミド(N,N-Diethylselenonicotinamide)、N,N-ジエチル-2-セレノナフチルアミド(N,N-Diethyl-2-selenonaphthylamide)のうちの1種または2種以上の混合物である請求項1記載の生細胞中の活性酸素消去剤。
【請求項3】
請求項1、2に記載の生細胞中の活性酸素消去剤を有効成分として配合してなる医薬用組成物。

































【図1】
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【公開番号】特開2009−102243(P2009−102243A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273966(P2007−273966)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】