説明

ソイルセメントスラリーの調製方法

【課題】 本発明は、ソイルセメントスラリーの流動性を改善し、注入率の減少及び発生土の利用率の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】 水とセメント系固化剤と流動化剤とアルカリ金属炭酸塩と土とを混合し、ソイルセメントスラリーを調製するステップを有する、ソイルセメントスラリーの調製方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメントスラリーの調製方法に関し、特に、ソイルセメントスラリーを利用する地盤改良、土留め壁及び止水壁構築、基礎杭工事、埋め戻し工事等に使用されるCRM工法、SMW工法、TRD工法等におけるソイルセメントスラリーの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソイルセメントスラリーとは、土とセメント系固化材と水とを混合したものであり、主に地盤改良、土留め壁及び止水壁構築、基礎杭工事、埋め戻し工事等におけるCRM工法、SMW工法、TRD工法等で利用されている。
【0003】
ソイルセメントスラリーを利用する工法は、(1)SMW工法、TRD工法等に代表される、原地盤に直接セメントミルクを注入し、地中でソイルセメントスラリーを作成し、造成する工法と、(2)CRM工法等に代表される、地上設備で土とセメント系固化材と水とを混合して、得られたソイルセメントスラリーを掘削孔に戻す工法との2種類がある。
【0004】
これらの工法では、通常、セメント系固化材と水とを事前に混合したセメントミルクを土に添加し、攪拌混合する。また、ソイルセメントスラリーのブリージング(ソイルセメントスラリー中の水と固形分が分離する現象)を防止する目的で、必要に応じてベントナイトを併用する場合もある。更に、施工形態、対象地盤及び要求されるソイルセメント流動特性に応じて、セメント系固化材と水の混合比をその条件に合わせて決定するとともに、流動化剤が併用される。
【0005】
前述した2種類の工法において対象地盤がシルト粘土又は粘性土であった場合は、それぞれの工法で以下の問題が生じる。
(1)SMW工法、TRD工法等に代表される、原地盤に直接セメントミルクを注入し、地中でソイルセメントスラリーを作成し、造成する工法では、良好な流動性及び強度を確保するためにセメントミルクの注入率(地盤1m3に対して1m3のセメントミルクを注入した場合を注入率100%と言う。)を大幅に増大させる必要があるため、施工費が増加する。さらに、この場合、注入されたセメントミルク量がそのまま余剰のソイルセメントスラリーとなる工法上の特徴から、余剰のソイルセメントスラリー処理費が増加するとともに、環境問題の点から見ても好ましくない。
(2)地上設備で土とセメント系固化材及び水を混合して、得られたソイルセメントスラリーを掘削孔に戻す流動化処理工法では、極めて高いセルフレベリング性(高流動性)及び強度が要求される。このため、粘性土を掘削した場合にソイルセメントスラリーに利用される掘削発生土の利用率が減少することから、残土処理費用が増加することになる。
【0006】
この問題を解決するため、特許文献1(特開平8−12403号公報)には、オキシカルボン酸塩とナフタリンスルホン酸等に代表される高性能AE減水剤及び流動化剤を併用する方法が記載されている。しかしながら、この方法は、粘土を主体とする微細土砂には十分な効力を発揮しない。また、併用する2種類の薬剤は別々に添加しなければならず、原地盤に直接セメントミルクを注入し、地中でソイルセメントスラリーを作成し、造成する工法では、非常に煩雑な作業となり施工効率を著しく低下させる。
【0007】
【特許文献1】特開平8−12403号公報
【特許文献2】特開2000−169209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ソイルセメントスラリーの流動性を改善し、注入率の減少及び発生土の利用率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の側面によると、水とセメント系固化剤と流動化剤とアルカリ金属炭酸塩と土とを混合し、ソイルセメントスラリーを調製するステップを有する、ソイルセメントスラリーの調製方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以下に詳細に説明するように、本発明によると、ソイルセメントの強度低下を起こすことなく、ソイルセメントスラリーの流動性を改善し、セメントミルク注入量の減量化及び発生土の利用率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。もっとも、本発明は、以下に説明する実施の形態によって、限定されるものではない。
【0012】
本発明者らは、上記問題を解決する為に鋭意検討した結果、セメントミルクを調製する際に、アルカリ金属炭酸塩を用いて、セメントミルクの液相中のカルシウムイオン、マグネシウムイオンに代表される多価金属イオンを調整することにより、セメント流動化剤の効果が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
これまで、ソイルセメントスラリーの流動化を図るために添加されるセメント混和剤として、オキシカルボン酸塩、ナフタリンスルホン酸、ポリカルボン酸系化合物、リグニンスルホン酸塩などの流動化剤が使用されている。(コンクリート工事ハンドブック記載。)
【0014】
しかし、これら添加剤は砂地盤を対象としたソイルセメントスラリーの流動化剤としては有効に作用するが、粘性土を対象とした場合はその効果は極めて劣るものであった。本発明者等は、このような流動化剤の効果の低下は以下の原因によるものであると考えた。
(1)ソイルセメントスラリー中に含有する粘性土は、砂質土と異なり、スラリー中で分散、水和することにより、コロイド粒子径まで微細化し、添加された各種流動化剤が粘土粒子表面に吸着、消費されるため。
(2)ソイルセメンスラリーを調製するために用いられるセメントミルクの液相中のカルシウムイオン、マグネシウムイオンに代表される多価金属イオン、および加えられる土から溶出してくる多価金属イオンが、各種流動化剤と反応し、不溶性又は可溶性の塩を形成することにより、添加剤の効果を減少させるため。
【0015】
本発明は、発明者らが原因(2)について検討し、得られた知見を基に成し得たものである。
【0016】
実施例の欄で詳細に説明するように、セメントミルク液相中のカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの合計の濃度(全硬度又は多価金属イオン濃度とも記す。)は、セメント/水比に関係なく殆んど一定である。これは、セメントミルク液相中のカルシウムイオンが下式に示す平衡状態にあることが一因であると考えられる。
Ca(OH)2 ⇔ Ca2++2OH-
【0017】
このような状態にあるセメントミルクにアルカリ金属炭酸塩を添加することにより、全硬度を低下させることができる。特に、本発明者等により、セメントミルクを調製するための溶解水100重量部あたり3.0重量部程度のアルカリ金属炭酸塩を添加することで、全硬度を50ppmレベルにまで低下させることができることが見出された。すなわち、本発明の技術的範囲は理論に束縛されるべきではないが、アルカリ金属炭酸塩を用いることで、流動化剤の効果を減少させてしまうと考えられる多価金属イオンを減少させることができる。上記知見をもとに、本発明は、アルカリ金属炭酸塩を用いることにより、液相部分の多価金属イオン濃度を低下させ、これにより流動化剤の効果を飛躍的に向上させるものである。
【0018】
また、本発明者等により、アルカリ金属炭酸塩を用いることにより、長時間にわたって液相中の全硬度を低い値に維持することができることが見出された。すなわち、アルカリ金属炭酸塩を用いることによる流動化剤の効果の向上は、長時間にわたって持続される。
【0019】
すなわち、本発明によると、水とセメント系固化剤と流動化剤とアルカリ金属炭酸塩と土とを混合し、ソイルセメントスラリーを調製するステップを有する、ソイルセメントスラリーの調製方法が提供される。
【0020】
通常、予め調製したセメントミルクと土とを混合することで、ソイルセメントスラリーを調製する。すなわち、前記ソイルセメントスラリーを調製するステップが、前記水と前記セメント系固化剤と前記流動化剤と前記アルカリ金属炭酸塩とを混合し、セメントミルクを調製するステップと、前記セメントミルクと前記土とを混合し、ソイルセメントスラリーを調製するステップとを有することが好ましい。
【0021】
本発明においては、セメント系固化材は、普通ポルトランドセメント、高炉セメントB種など、市販されているセメント系固化材の何れでもよく、特に限定されるものではない。セメント系固化材の使用量は、水に対するセメント系固化材の重量比(セメント/水比、W/C%とも記す。)で80〜500%であることが好ましく、100〜300%であることがさらに好ましい。なお、セメントミルクのW/Cの値は、対象土の種類によって異なり砂地盤では小さい値を、粘土地盤では高い値を採用することが一般的である。これは出来上がりソイルセメントンスラリーの流動性を好適に維持するためである。
【0022】
また、上記したように、流動化剤は、オキシカルボン酸塩、ナフタリンスルホン酸、ポリカルボン酸系化合物、リグニンスルホン酸塩など、一般に市販されている流動化剤でよく、特に限定されるものではない。また、流動化剤として、減水剤を用いることもできる。本発明は、カルボン酸またはその1価塩を主要構成単量体単位とする低分子量重合体以外の流動化剤以外の流動化剤にも好適に適用することができる。このような流動化剤の例として、フミン酸塩、リグニンスルホン酸塩、縮合リン酸塩及びリン酸塩が挙げられる。さらに具体的には、そのような流動化剤の例として、フミン酸ナトリウム、フミン酸カリウム、フミン酸アンモニウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カリウム、リグニンスルホン酸アンモニウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸水素カリウム、ならびに、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ポリリン酸およびメタリン酸のナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩が挙げられる。
【0023】
流動化剤は、粉末の状態のものを用いることも、溶液の状態のものを用いることもできる。流動化剤の使用量は、用いる流動化剤及びその他の成分の種類、ソイルセメントスラリーを用いる目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0024】
本発明においては、アルカリ金属炭酸塩が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。すなわち、アルカリ金属炭酸塩として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムの何れを用いてもよく、また、これらの2種類以上を用いてもよい。特にコストが安価で経済的に有効な点で、アルカリ金属炭酸塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。アルカリ金属炭酸塩は、粉末の状態のものを用いることも、溶液の状態のものを用いることもできる。
【0025】
また、アルカリ金属炭酸塩の添加量が、水100重量部あたり0.5重量部以上であることが好ましく、1.0重量部以上であることがより好ましく、2.5重量部以上であることがさらに好ましい。実施例の欄で詳細に説明するように、これにより、ソイルセメンスラリーを調製するために用いられるセメントミルクの液相部分における多価金属イオン濃度を飛躍的に低下させることができる。さらには、これにより、多価金属イオンが流動化剤と反応し、不溶性又は可溶性の塩を形成することにより流動化剤の効果を減少させることを好適に阻止し、流動化剤の効果を飛躍的に向上させることができる。また、アルカリ金属炭酸塩の添加量が、水100重量部あたり5.0重量部以下であることが好ましく、3.5重量部以下であることがより好ましく、2.3重量部以下であることがさらに好ましい。アルカリ金属炭酸塩の添加量が過剰になった場合、セメント固化体の強度を低下させてしまうおそれがあるためである。
【0026】
セメント系固化材とアルカリ金属炭酸塩と流動化剤とを混合する順序は、特に制限されるものではない。特に、溶解水にアルカリ金属炭酸塩と流動化剤とを予め添加し、その後、得られた溶液とセメント系固化材とを混合することが好ましい。また、一般にソイルセメントスラリーの配合組成を決定する場合は、予め配合試験を行い、この結果から使用するアルカリ金属炭酸塩及び流動化剤の量が決定される。このため、作業性の向上を図るために、アルカリ金属炭酸塩及び流動化剤を粉末又は溶液の状態で予め混合した添加剤を調製し、これを実施工で使用することができる。より具体的には、例えば配合試験においては、ソイルミキサーの容器に所定量の水を張りこみ、攪拌しながらアルカリ金属炭酸塩と流動化剤を加え、目視にて完全に溶解したことを確認後、セメントを添加することが好ましい。セメントが分散、懸濁したことを確認してセメントミルクの出来上がりとすることができる。通常、セメントミルクの調製には、セメントの添加から約5分程度の時間が必要となる。
【0027】
また、本発明においては、砂質土、粘性土などの任意の土を用いることができる。特に、本発明は、シルト、粘土、シルト粘土等の粘性土に対しても好適に適用することができる。セメントミルクスラリーと使用する土との関係に関して、地盤に直接セメントミルクを注入する工法においては、テーブルフロー値150mm〜250mmの範囲になるように注入することが好ましい。一般に、注入率(土に対するセメントミルクの容積比)は、80%〜200%とすることができるが、より小さいほど好ましい。また、地上設備において流動化処理土を調製する工法においては、コーンフロー値160mm〜300mmになるように土を使用することが好ましい。一般に、土の利用率(掘削した土に対するセメントミルクスラリーに利用する土の容積比)は、30〜70%とすることができるが、より高いほど好ましい。
【0028】
なお、セメントミルクと土とを混合し、ソイルセメントスラリーを調製するステップは、セメントミルクを調製した直後に行うことが好ましい。より具体的には、例えば配合試験においては、セメントミルクに土を所定量添加し、十分セメントミルクと均一に混合した状態になった時点でソイルセメントスラリーの出来上がりとすることができる。通常、セメントミルクと土との混合には、セメントミルクへの土の添加から、約5分程度の時間を要する。
【0029】
なお、前記セメントミルクを調製するステップにおいて、前記セメントミルクの液相部分における多価金属イオン濃度が、出来るだけ0ppmに近い値であることが好ましく、特に、200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましい。これにより、多価金属イオンが、各種流動化剤と反応し、不溶性又は可溶性の塩を形成することにより、流動化剤の効果を減少させることを好適に阻止することができる。
【0030】
なお、本明細書において、多価金属イオン濃度(全硬度)とは、ソイルセメントスラリーの液相部分におけるカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの合計の量を、当量の炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算した際の濃度を意図し、ppmで表す。多価金属イオン濃度(全硬度)は、市販のパックテストキット等の簡易分析器具を用いて求めることができる。なお、セメントミルクの液相部分は、セメントミルクを加圧脱水器にセットし、脱水することで得ることができる。
【0031】
本発明により調製されたソイルセメントスラリーは、ソイルセメントを造成する全ての工法に用いることができる。具体的には、本発明により調製されたソイルセメントスラリーは、地盤改良、土留め壁及び止水壁構築、基礎杭工事、埋め戻し工事等に使用されるCRM工法、SMW工法、TRD工法等に利用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ここで、以下のような、セメント汚染を受けた安定液を再生する方法が知られている。一般に、掘削安定液(ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、分散剤を適当量の水に溶解、懸濁させた流体)で連続壁を掘削し、掘削終了後、鉄筋を入れた後、セメントミルクを打設して、掘削安定液と置換する作業が行われる。このとき、掘削安定液とセメントミルクが混じり、安定液中のカルシウム、マグネシウムイオン濃度が増加し、安定液がゲル化することがある。これを直すために、重曹、ソーダ灰等のアルカリ金属炭酸塩を加え、カルシウム、マグネシウムイオン濃度を低下させる手法がとられる。
【0033】
本発明にかかるアルカリ金属炭酸塩を用いて液相部分の全硬度を調整する方法は、上記セメント汚染を受けた安定液の再生方法と類似の方法のように誤って考えられる。しかしながら、ソイルセメントスラリーは大過剰のセメントスラリーが主体で対象となる流体を構成する成分は安定液と全く異なる。更に、当該技術においては、その液相部分の全硬度の状態、アルカリ金属炭酸塩を添加したときの挙動及び全硬度濃度と各種流動化剤の効果等は、全く検討されていない。このため、本発明は、当該技術から予期できるものではなく、当該業者が容易に到達できるものではない。
【0034】
また、ソイルセメントを造成する技術において、低分子量ポリカルボン酸とアルカリ金属炭酸塩を使用し、注入率の減少及び発生土の利用率向上を可能とするとされている技術が公開されている(特許文献2、特開2000−169209号公報)。当該技術は、長時間ソイルセメントスラリーに流動性を与えるが強度低下をもたらす欠点を有する低分子量ポリカルボン酸と、強度維持効果を有するが流動性を維持できない欠点を有するアルカリ金属炭酸塩とを組み合わせた流動化剤及び流動化方法である。すなわち、当該技術においては、低分子量ポリカルボン酸が持つソイルセメント強度を低下させる欠点を補完する目的でアルカリ金属炭酸塩を使用する。一方で、本発明においては、上記したように、ソイルセメントスラリーに添加される流動化剤の効果を向上させる目的で、液相中の全硬度を調整するためにアルカリ金属炭酸塩を使用する。このように、当該技術におけるアルカリ金属炭酸塩は、本発明とは、使用方法において全く異なるものである。また、当該技術においては、特定の流動化剤(低分子量ポリカルボン酸)についてのみ効果がある。一方で、本発明は、限定された流動化剤についてのみ効果があるのではなく、任意の流動化剤に対して効果を有する。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例を、添付図面を参照しながら説明する。もっとも、本発明は、以下に説明する実施例によって限定されるものではない。
【0036】
[実験例1]
セメントミルク液相中の全硬度(多価金属イオン濃度)とセメント/水比との関係について、以下のように検討した。
(1)所定量の水道水を容器に取り、ラボスタラー300rpmで攪拌しながら、希望するセメント水比になるようにセメントを添加し、2分間攪拌後、濾紙:TOYO−No2とロートを用いて自然濾過した。
(2)濾水1mlをホールピペットにて採取し、蒸留水約25mlを加えてマグネットスターラーにて攪拌しながら、BT指示薬を2滴添加した。
(3)0.01molのEDTAにより全硬度を測定した。
【0037】
表1に、セメントミルク液相中の全硬度とセメント水/比との関係を示す。表1に示すように、セメントミルク液相中の全硬度は、セメント水比に関係なく殆んど一定であった。上記したように、これは、セメントミルク液相中のカルシウムイオンが下式に示す平衡状態にあることが一因であると考えられる。
Ca(OH)2 ⇔ Ca2++2OH-
【0038】
【表1】

【0039】
[実験例2]
セメントミルクへのアルカリ金属炭酸塩の添加量とセメントミルク液相中の全硬度との関係について、以下のように検討した。
(1)水道水300ml取り、ラボスタラー300rpmで攪拌しながら、炭酸塩を所定量(0〜27g)添加し、2分間攪拌を続けた。
(2)セメント300gを添加し、ラボミキサーにて2分間攪拌後、濾紙:TOYO−No2とロートを用いて自然濾過した。
(3)濾水1mlをホールピペットにて採取し、蒸留水約25mlを加えてマグネットスターラーにて攪拌しながらBT指示薬を2滴添加した。
(4)0.01molのEDTAにより全硬度を測定した。
【0040】
表2及び図1、2に、セメントミルクへのアルカリ金属炭酸塩の添加量とセメントミルク液相中の全硬度との関係を示す。驚くべきことに、表2及び図1、2に示すように、溶解水100重量部あたり3.0重量部程度のアルカリ金属炭酸塩を添加することにより、全硬度は50ppmレベルにまで低下した。
【0041】
【表2】

【0042】
[実験例3]
アルカリ金属炭酸塩添加後の時間と全硬度との関係について、以下のように検討した。
(1)水道水300ml取り、ラボスタラー300rpmで攪拌しながら、炭酸塩を15g添加し、2分間攪拌を続けた。
(2)セメント300gを添加し、ラボミキサーにて2,10,20,30,60,120分間攪拌を行った。
(3)各攪拌時間におけるセメントミルクサンプルを濾紙:TOYO−No2とロートを用いて自然濾過した。
(4)0.01molのEDTAにより全硬度を測定した。
【0043】
表3に、アルカリ金属炭酸塩添加後の時間と全硬度の関係を示す。表3に示すように、アルカリ金属炭酸塩を添加した場合は、長時間にわたり無添加の場合の約1/5〜1/14に全硬度を低く維持できる。
【0044】
【表3】

【0045】
[実験例4]
アルカリ金属炭酸塩の添加量とコンシステンシー及び一軸圧縮強度との関係について、以下のように検討した。
(1)水道水を700ml取り、ラボスタラー300rpmで攪拌しながら、炭酸塩を所定量(0,7,21,70,125,175g)添加し、5分間攪拌を続けた。
(2)ホバートミキサーの容器にセメントを930g取り、上記(1)のよう海水を加えた。
(3)ホバートミキサーにて2分間の攪拌を行った。
(4)TF値を測定した。
(5)EPモールド供試体を3本作製し、7日間湿潤養生を行った。
(6)一軸圧縮測定器にて、7日間後の一軸圧縮強度(q7)を測定した。
【0046】
表4及び5に、アルカリ金属炭酸塩の添加量とコンシステンシー及び一軸圧縮強度との関係を示す。表4、5に示すように、アルカリ金属炭酸塩の添加量の増加に伴ってテーブルフロー(スランプフロー)値が減少し、溶解水100重量部あたり5.0重量部の炭酸塩添加は、セメント固化体の強度を低下させていることがわかる。
【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
[実施例1〜10]
アルカリ金属炭酸塩により、セメントミルク液相中の全硬度を調整したソイルセメントスラリーにおける、各種流動化剤と、ソイルセメントスラリーの流動性及び一軸圧縮強度との関係について、以下の対象地盤及び試験条件で試験を実施した。
【0050】
「ソイルセメントスラリー条件」
・使用土 :シルト(関西地域地盤)
・注入率 :100%
・使用セメント :高炉B種(住友大阪セメント)
・水/セメント比 :100%
・アルカリ金属炭酸塩 :ソーダ灰
・アルカリ金属炭酸塩濃度:3重量%(溶解水量に対して)
・流動化剤 :表6に記載の流動化剤
・流動化剤濃度 :1重量%(溶解水量に対して)
【0051】
【表6】

【0052】
「試験手順」
(1)予め3重量%ソーダ灰の溶解水を水道水にて作液した。
(2)溶解水266mlをとり、ラボスタラー300rpmで攪拌しながら、対象流動化剤を2.6g加え3分間攪拌した。
(3)セメントを266g加え2分間攪拌した。(スラリー量350ml)
(4)攪拌中にシルトを682g(350ml)計量した。(モルタルミキサー用容器を使用。)
(5)セメントミルクの攪拌が終了したら、直ちにシルトを計量した容器にセメントミルクを入れ、モルタルミキサーにより2分間攪拌した。
(6)モルタルミキサーによる攪拌が終了後、直ちにテーブルフロー値(TF値)の測定を行った。なお、TF値の測定に関しては、シリンダー引き抜き直後打撃前のフロー値と15回打撃後のフロー値の両方を測定した。
【0053】
「流動特性の評価方法」
・テーブルフロー値 :JIS R5201法に準拠
・一軸圧縮強度評価方法:JGS T 511法に準拠
【0054】
「測定結果」
表7に、実施例1〜10及び比較例1〜11における流動化剤及びアルカリ金属炭酸塩と流動性との関係を示す。
【0055】
【表7】

【0056】
比較例1は、流動化剤を無添加のソイルセメントスラリーの流動性と一軸圧縮強度測定値である。比較例2〜11は各種市販の流動化剤のみを1%添加し、実施例1〜10と同じ条件でソイルセメントを作成した場合のアルカリ金属炭酸塩の効果を示した例である。表7から、アルカリ金属炭酸塩(ソーダ)を添加し、セメントミルク中の液相部分の全硬度の濃度を調整することにより、一軸圧縮強度を低下させること無く、テーブルフロー値を無調整スラリーの1.2〜1.6倍に増加させることが可能であることが分かる。このように、アルカリ金属炭酸塩の添加は、ソイルセメントスラリーの流動化に極めて有効な方法であることが分かる。
【0057】
[実施例11〜27]
アルカリ金属炭酸塩(ソーダ灰)を添加し、セメントミルク中の液相部分の全硬度の濃度を調整したソイルセメントスラリーにおける、スラリー組成と、流動性及び一軸圧縮強度との関係について、以下の対象地盤及び試験条件で試験を実施した。表8及び9に、実施例11〜27及び比較例12〜23におけるソイルセメントスラリーのスラリー組成と流動性及び一軸圧縮強度との関係を示す。なお、試験手順並びに流動性及び一軸圧縮強度の評価方法は、前実施例と同様である。また、実施例11〜23及び比較例12〜20においては、流動化剤として、アクリル酸ナトリウム(粉体)(東亞合成(株)製)を使用した(表8)。また、実施例24〜27及び比較例21〜23においては、流動化剤として、フミン酸ナトリウム(テルナイト製品)を使用した(表9)。
【0058】
「ソイルセメントスラリー条件」
・使用土 :シルト(関西地域地盤)
・注入率 :61%〜108%
・使用セメント :高炉B種(住友大阪セメント)
(水/セメント)比 :210%〜400%
(水/セメント+土)比 :27%〜53%
・アルカリ金属炭酸塩 :ソーダ灰
・アルカリ金属炭酸塩濃度:0重量%〜5.0重量%(溶解水量に対して)
・流動化剤 :アクリル酸ナトリウム(粉体)(東亞合成(株)製)
フミン酸ナトリウム(テルナイト製品)
・流動化剤濃度 :0.1重量%〜3.0重量%(溶解水量に対して)
【0059】
【表8】

【0060】
【表9】

【0061】
表8の比較例12〜20は、水/セメント比の異なるソイルセメントスラリーに流動化剤として市販されているポリアクリル酸ソーダのみを添加し、比較例18〜20は、アルカリ金属炭酸塩(ソーダ灰)のみを添加し、実施例11〜23と同じ条件でソイルセメントを作成した場合のアルカリ金属炭酸塩の効果を示した例である。また、比較例21〜23および実施例24〜27は、同一スラリー組成におけるアルカリ金属炭酸塩の効果を示した例である。流動化剤としては、市販のフミン酸ナトリウム塩(テルナイト社製品)を使用した。
【0062】
表8,9から、水/セメント比等の配合組成を変化させた各種ソイルセメントスラリーにおいても、アルカリ金属炭酸塩(ソーダ灰)を添加し、セメントミルク中の液相部分の全硬度の濃度を調整することにより、一軸圧縮強度を低下させること無く、テーブルフロー値を無調整スラリーの1.2〜1.6倍に増加させることが可能であることが分かる。また、比較例13と実施例12から、略同程度のテーブルフロー値180mmを得るために2%必要な流動化剤添加量が、アルカリ金属炭酸塩を使用した場合には0.5%となり、アルカリ金属炭酸塩を使用することにより、高価な流動化剤の使用量を抑えることが可能となり施工費用の圧縮ができることが分かる。
【0063】
[実施例28、29]
アルカリ金属炭酸塩(ソーダ灰)を添加し、セメントミルク中の液相部分の全硬度の濃度を調整したソイルセメントスラリーにおける、調製後の時間とフロー値の関係について、以下の対象地盤及び試験条件で試験を実施した。表10に、実施例28,29及び比較例24におけるソイルセメントスラリーの調製後の時間とフロー値との関係を示す。なお、試験手順及び一軸圧縮強度の評価方法は、前実施例と同様である。流動性の評価については、テーブルフロー値の変わりに8cmx8cmコーンを用いたフロー値測定を採用した。また、実施例28においては、流動化剤としてアクリル酸ナトリウムを用いた。実施例29においては、流動化剤としてフミン酸ナトリウムを用いた。
【0064】
「ソイルセメントスラリー条件」
・使用土 :シルト(関西地域地盤)
・注入率 :100%
・使用セメント :高炉B種(住友大阪セメント)
・(水/セメント)比 :100%
・(水/セメント+土)比:28%
・アルカリ金属炭酸塩 :ソーダ灰
・アルカリ金属炭酸塩濃度:3.0重量%(溶解水量に対して)
・流動化剤 :アクリル酸ナトリウム(粉体)(東亞合成(株)製)
フミン酸ナトリウム(テルナイト製品)
・流動化剤濃度 :2.0重量%(溶解水量に対して)
【0065】
【表10】

【0066】
表10から、流動化剤の種類によってスラリーの流動性を維持できる大きさ(遅延性)は異なるものの、アルカリ炭酸塩を用いセメントミルク液相中の全硬度濃度を調整することにより、流動性を維持できる時間も無調整に比較し、著しく向上させることができることが分かる。
【0067】
以上のように、本発明の方法を用いることによると、粘性土に対しても、高価な流動化剤を併用し、多量のセメントミルクを注入することなしに、良好な流動性を得ることができ、また、ソイルセメントの強度低下を招くことはない。したがって、本発明によると、廃棄されるソイルセメント排液量を大幅に低減できることができ、地上設備においてソイルセメントを作液する場合においては、掘削土の再利用率が増加し、廃棄される残土量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1に、セメントミルクへのアルカリ金属炭酸塩(重曹)の添加量とセメントミルク液相中の全硬度との関係を示す。
【図2】図2に、セメントミルクへのアルカリ金属炭酸塩(ソーダ灰)の添加量とセメントミルク液相中の全硬度との関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とセメント系固化剤と流動化剤とアルカリ金属炭酸塩と土とを混合し、ソイルセメントスラリーを調製するステップを有する、ソイルセメントスラリーの調製方法。
【請求項2】
前記ソイルセメントスラリーを調製するステップが、
前記水と前記セメント系固化剤と前記流動化剤と前記アルカリ金属炭酸塩とを混合し、セメントミルクを調製するステップと、
前記セメントミルクと前記土とを混合し、ソイルセメントスラリーを調製するステップと
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セメントミルクを調製するステップにおいて、セメントミルクの液相部分における多価金属イオン濃度が200ppm以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属炭酸塩の添加量が、前記水100重量部あたり、0.5重量部〜5.0重量部である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属炭酸塩が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記流動化剤が、フミン酸塩、リグニンスルホン酸塩、縮合リン酸塩及びリン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−217255(P2007−217255A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42062(P2006−42062)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(390026446)株式会社テルナイト (17)
【Fターム(参考)】