説明

タイヤトレッド用ゴム組成物

【課題】低燃費性とグリップ性のバランスに優れ、また耐摩耗性を維持しながら、トレッド溝底部のクラック発生を抑制する。
【解決手段】スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ20〜100重量部を含む補強性充填剤30〜150重量部と、末端がカルボキシ変性された液状ポリブタジエン5〜40重量部を含有し、シリカ100重量部に対してシランカップリング剤を2〜25重量部含有するタイヤトレッド用ゴム組成物である。補強性充填剤としては、窒素吸着比表面積が60〜120m/gであるカーボンブラックが好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトレッドゴムに用いられるタイヤトレッド用ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、グローバル化が進み、空気入りタイヤの仕向け地も低温から高温まで様々な地域に展開されている。そのため、これまで想定されていた使用条件よりも過酷な条件で使用されるケースが増えており、このことが、トレッド部に設けられた溝の底部におけるクラック発生の要因になっている。
【0003】
このようなトレッド溝底部のクラックの発生を抑制するための手法としては、例えば、老化防止剤の増量、ワックスの増量、走行時の溝底部の局部的な歪みを低減する溝形状の採用、耐候性のある非ジエン系ゴムのトレッドゴムへの配合(下記特許文献1参照)、短繊維や片状鉱物のトレッドゴムへの配合(下記特許文献2,3参照)などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、老化防止剤やワックスを増量する手法では、低燃費性が悪化し、また、タイヤ剛性が低下するため、操縦安定性が悪化する。また、溝形状による対策では、トレッドパターンの設計自由度が制限されるので、ゴム配合による改良が望ましい。また、非ジエン系ゴムを使用する場合、一般に非ジエン系ゴムは破壊特性に問題があるため、耐摩耗性やカット・チップ性などの原因となり、更に低燃費性とグリップ性の悪化を招く。また、短繊維や片状鉱物の配合による場合、一般に耐摩耗性の低下を招く。
【0005】
ところで、下記特許文献4には、破壊特性、耐摩耗性に優れ、高いグリップ性を有するゴム組成物として、4つの重合体末端が三級アミンでありかつケイ素−炭素結合を含有する、共役ジエン及びビニル芳香族炭化水素からなる共重合体を含むゴム成分100重量部と、NSAが110m/g以上であるカーボンブラック50〜150重量部と、アロマオイル及び液状ポリマー30重量部以上とを配合したものが提案されている。しかしながら、この文献には、末端がカルボキシ変性された液状ポリブタジエンについては開示されておらず、また、トレッド溝底部のクラック発生抑制効果についても沈黙している。
【0006】
下記特許文献5には、耐摩耗性および加工性を損なうことなく、カット・チップ性が向上したゴム組成物として、天然ゴム及び特定のブタジエンゴムからなるゴム成分100重量部に対し、カーボンブラック45〜60重量部、シリカ2〜10重量部、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する変性液状ブタジエンゴム2〜10重量部を配合したものが提案されている。しかしながら、この文献は、主として大型タイヤを対象としたものであり、そのため、ゴム成分が天然ゴムとブタジエンゴムのブレンドからなるものである。また、この文献において、シリカはカット・チップ性を改良するために10重量部以下という少量にて配合されるものであり、シランカップリング剤の併用も排除されている。しかも、カルボキシ変性された液状ポリブタジエンを、通常使用されるオイルの代わりに用いることにより、タイヤトレッドゴムの硬度経年変化を抑制し、トレッド溝底部のクラック発生を抑制できることについても何ら示唆されていない。
【特許文献1】特開平11−254904号公報
【特許文献2】特開2006−290986公報
【特許文献3】特開2006−131744号公報
【特許文献4】特開平07−188468号公報
【特許文献5】特開2003−12860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、低燃費性とグリップ性のバランスに優れ、また耐摩耗性を維持しながら、トレッド溝底部のクラック発生を抑制することができるタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ20〜100重量部を含む補強性充填剤30〜150重量部と、末端がカルボキシ変性された液状ポリブタジエン5〜40重量部を含有し、シリカ100重量部に対してシランカップリング剤を2〜25重量部含有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通常軟化剤として使用されるオイルの少なくとも一部を、末端カルボキシ変性された液状ポリブタジエンで置換することにより、他の部材への移行が抑制され、トレッドゴムの硬化を防ぐことができる。すなわち、タイヤトレッドゴムの硬度経年変化を抑制することができ、トレッド溝底部のクラック発生を抑制することができる。また、SAFクラス等のような超耐摩耗性のカーボンブラックを使用せずとも、タイヤの耐摩耗性を維持することができ、低燃費性とグリップ性のバランスにも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本発明に係るゴム組成物において上記ジエン系ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)の単独、又は、SBRと他のジエン系ゴムとのブレンドゴムが用いられる。他のジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなど、タイヤトレッド用ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらの他のジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。SBRと他のジエン系ゴムとをブレンドする場合、SBRが50重量%以上と他のジエン系ゴムが50重量%以下のブレンドであることが好ましい。
【0012】
本発明に係るゴム組成物において補強性充填剤としては、少なくともシリカが用いられる。すなわち、補強性充填剤は、シリカ単独、又は、シリカと他の補強性充填剤との併用であり、好ましくはシリカとカーボンブラックとの併用である。
【0013】
シリカとしては、特に限定されないが、含水珪酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。シリカのBET比表面積(ISO 5794/1に準じて測定されるBET法)は、特に限定されないが、100〜300m/gであることが好ましい。
【0014】
シリカと併用するカーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積(NSA)が60〜120m/gであるHAF、ISAFクラスのものが好ましく用いられる。窒素吸着比表面積が120m/gを超えるSAFクラスのカーボンブラックでは、耐摩耗性には優れるものの、転がり抵抗性(低燃費性)には不利である。窒素吸着比表面積が上記範囲内のカーボンブラックを用いることで、低燃費性とグリップ性のバランスを更に向上することができる。ここで、窒素吸着比表面積は、JIS K6217−1:2001に準拠して測定される。
【0015】
補強性充填剤の配合量は、タイヤトレッド用ゴム組成物における通常の配合量とすることができ、詳細には、ジエン系ゴム100重量部に対して30〜150重量部にて配合される。より好ましくは、補強性充填剤は、ジエン系ゴム100重量部に対して50〜100重量部にて配合されることである。
【0016】
上記補強性充填剤の配合量のうち、シリカが、ジエン系ゴム100重量部に対して20〜100重量部配合される。このように所定量のシリカを配合することで、低燃費性とグリップ性のバランスを向上することができる。シリカの配合量は、より好ましくはジエン系ゴム100重量部に対して30〜60重量部である。
【0017】
また、シリカとジエン系ゴムの結合を促進するために、シランカップリング剤が併用される。シランカップリング剤は、シリカ100重量部に対して2〜25重量部配合され、より好ましくは5〜15重量部である。
【0018】
該シランカップリング剤としては、従来からシリカとともにゴム組成物に使用されるものであればよく、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0019】
本発明に係るゴム組成物には、末端がカルボキシ変性された液状ポリブタジエンが配合される。液状ポリブタジエンとは、常温(即ち、25℃)で液状のポリブタジエンであり、本発明では、その少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有する変性タイプが用いられる。
【0020】
かかる末端カルボキシ変性液状ポリブタジエンは、液状ポリブタジエンの末端をカルボキシル基を有する化合物により変性させることにより得られる。カルボキシル基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルなどが挙げられる。
【0021】
該末端カルボキシ変性液状ポリブタジエンを、軟化剤として通常配合されるオイルの少なくとも一部を置換するように配合することにより、他の部材への移行が抑制され、トレッドゴムの硬度の経年変化を抑制することができる。すなわち、トレッドゴムに配合されたオイルは、タイヤの使用とともにブリードして他の部材に移行してしまうことから、トレッドゴムの硬化を引き起こし、トレッド溝底部にクラックが発生する要因となるが、上記末端カルボキシ変性液状ポリブタジエンであると、このような不具合を解消することができる。ここで、液状ポリマーがポリブタジエンであることにより、上記効果を高めることができる。また、末端がカルボキシ変性されていることにより、上記補強性充填剤、特にシリカとの相互作用によって、他の部材への移行を抑制することができる。
【0022】
末端カルボキシ変性された液状ポリブタジエンは、数平均分子量が500〜20000であることが好ましい。このような数平均分子量のものを用いることにより、オイルの代わりに用いたときの加工性を維持することができる。ここで、数平均分子量は、ASTM D2503により測定される。
【0023】
末端カルボキシ変性された液状ポリブタジエンの配合量は、上記ジエン系ゴム100重量部に対して5〜40重量部であり、より好ましくは15〜30重量部である。配合量が少なすぎると、トレッド溝底部のクラック発生抑制効果が得られない。逆に配合量が多すぎると、低燃費性が悪化する。
【0024】
また、このカルボキシ変性液状ポリブタジエンは、オイルを置換して用いるものであるという点から、カルボキシ変性液状ポリブタジエンとオイルとの合計量で、25〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは30〜40重量部である。
【0025】
本発明に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、ステアリン酸、亜鉛華、老化防止剤、ワックス、硫黄、加硫促進剤など、タイヤトレッド用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0026】
以上よりなるゴム組成物は、トレッドにタイヤ周方向に延びる主溝や該主溝に交差する方向に延びる横溝等を有する空気入りタイヤのトレッドゴムを形成するゴム組成物として用いられる。従って、キャップゴム層とベースゴム層とからなる2層構造のトレッドゴムを備える空気入りタイヤにおいては、少なくとも、接地面となるキャップゴム層を形成するゴムとして用いられる。
【0027】
このような空気入りタイヤの製造は、常法に従い行うことができる。すなわち、上記ゴム組成物は、ロールやミキサー等の混合機で混合され、シート状にしたものを、ベルト上に積層し、常法に従い加硫成形することにより、トレッドゴムとして形成され、空気入りタイヤが得られる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、実施例及び比較例の各トレッド用ゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0030】
・SBR:JSR(株)製スチレンブタジエンゴム「SBR1502」、
・BR:宇部興産(株)製ブタジエンゴム「BR150B」、
・NR:天然ゴムRSS#3、
・CB1:カーボンブラックSAF(三菱化学(株)製「ダイヤブラックA」、窒素吸着比表面積=142m/g)、
・CB2:カーボンブラックISAF(三菱化学(株)製「ダイヤブラックI」、窒素吸着比表面積=114m/g)、
・CB3:カーボンブラックHAF−LS(三菱化学(株)製「ダイヤブラックLH」、窒素吸着比表面積=84m/g)、
・シリカ:日本シリカ製「ニップシールAQ」(BET比表面積=205m/g)、
・シランカップリング剤:デグサ製「Si69」。
【0031】
・オイル:(株)ジャパンエナジー製「JOMOプロセスNC−140」、
・末端カルボキシ変性液状BR1:宇部興産(株)製液状ポリブタジエン「CTBN 1300×31」(カルボキシ末端変性、数平均分子量=3500)、
・末端カルボキシ変性液状BR2:宇部興産(株)製液状ポリブタジエン「CTBN 2000×162」(カルボキシ末端変性、数平均分子量=4800)、
・未変性液状BR:日本曹達(株)製液状ポリブタジエン「NISSO−PB B−3000」(末端未変性、数平均分子量=3000)
・末端水酸基変性液状BR:出光興産(株)製液状ポリブタジエン「R−45HT」(水酸基末端変性、数平均分子量=2800)。
【0032】
各ゴム組成物には、共通配合として、ジエン系ゴム100重量部に対し、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS20」)2重量部、亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」)3重量部、老化防止剤(フレキシス製「サントフレックス6PPD」)2重量部、ワックス(日本精蝋(株)製「オゾエース0355」)2重量部、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」)1.8重量部、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ−G」)2重量部、硫黄(細井化学工業(株)製「粉末硫黄150メッシュ」)1.5重量部を配合した。
【0033】
得られた各ゴム組成物をトレッドゴムとして用いて185/70R14の空気入りラジアルタイヤを常法に従い製造し、転がり抵抗、グリップ性及び耐摩耗性を評価するとともに、トレッド溝底部のクラック抑制効果を評価した。各評価方法は、以下の通りである。
【0034】
・転がり抵抗:使用リムを14×6.5−JJとしてタイヤを装着し、空気圧230kPa、荷重450kgfとして、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて23℃で80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。結果は、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、転がり抵抗が小さく、従って燃費性に優れることを示す。
【0035】
・グリップ性:2000ccの乗用車に各タイヤを4本装着し、ドライグリップでは、乾燥したアスファルト路面上を、ウエットグリップでは、2〜3mmの水深で水をまいたアスファルト路面上を走行し、時速100kmにて摩擦係数を測定することで、グリップ性を評価した。結果は、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほどグリップ性に優れることを示す。
【0036】
・耐摩耗性:2000ccの乗用車に各タイヤを4本装着し、2500km毎に前後ローテーションしながら、10000km走行後のトレッド残溝深さ(4本の平均値)を求めた。結果は、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
【0037】
・トレッド溝底部のクラック:タイヤを80℃で4週間熱老化させた後、ドラムで10000km走行させ、走行後のタイヤのトレッド溝底部におけるクラックの発生有無を目視にて確認した。
【表1】

【0038】
表1に示すように、実施例に係るゴム組成物であると、トレッド溝底部のクラック発生が抑制されていた。また、SAFクラスの超耐摩耗性カーボンブラックを使用しなくても、タイヤの耐摩耗性を維持することができ、低燃費性とグリップ性のバランスを向上することができた。なお、液状ポリブタジエンの末端変性基の種類については、実施例1と比較例9を比べると明らかなように、末端カルボキシ変性である実施例1は、末端水酸基変性である比較例9に対して、ウェットグリップ性と特に耐摩耗性において有利な効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤを始めとする各種空気入りタイヤに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ20〜100重量部を含む補強性充填剤30〜150重量部と、末端がカルボキシ変性された液状ポリブタジエン5〜40重量部を含有し、シリカ100重量部に対してシランカップリング剤を2〜25重量部含有するタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記補強性充填剤として、窒素吸着比表面積が60〜120m/gであるカーボンブラックを含む請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。

【公開番号】特開2009−126988(P2009−126988A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305456(P2007−305456)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】