説明

タンパク質と微粒子との複合体及びその製造方法

【課題】
システインを有するタンパク質と微粒子との複合体を製造する際に、タンパク質及び微粒子の損失が発生し、得られる複合体の収量が低下する。そのため、これを解消する複合体とその製造方法が求められている。
【解決手段】
システインを2個以上有するリンカーを導入した融合タンパク質を用いることで、上記課題が解決されることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質と微粒子との複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病変部位に存在する抗原(病変マーカー)を検出するために、病変マーカーに結合する抗体などの病変マーカー結合分子に、物理的な信号を発生する分子(以下、信号発信分子と略すことがある)を標識した体内診断用造影剤の研究や開発がなされている。これらの信号発信分子の例として、放射性核種、MRI(Magnetic Resonance Imaging)信号を発信する分子、超音波信号を発信する分子、及び蛍光信号を発信する分子などが挙げられる。このような複合体を体内へ投与し、その複合体の信号発信分子からの信号を体外から検出することにより、病変部位及び病変マーカーを検出することができると考えられている。
【0003】
信号発信分子として、微粒子を利用することが試みられている。微粒子に、病変マーカー結合分子として抗体などのタンパク質を結合させる方法として、例えば、タンパク質分子内のシステインのチオール基と微粒子表面に導入されたマレイミド基の結合を利用した方法が用いられる。この方法では、遺伝子工学を利用しタンパク質の任意の部位へシステインを導入することができるため、タンパク質の機能を損なわずに微粒子へタンパク質を結合させることができる。Arutselvan Natarajanらは、カルボキシ末端にシステインを1個導入した抗体フラグメントと、マレイミド基を表面に有する酸化鉄微粒子とを反応させることで、抗体フラグメントと酸化鉄微粒子との複合体を作製することができたと報告している(非特許文献1)。
【0004】
上記方法を用いた場合、タンパク質のシステインが他のタンパク質のシステインとジスルフィド結合を形成することにより、タンパク質が二量体化する場合がある。そのため、微粒子と結合させる前にジチオトレイトールやトリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩などの還元剤を添加して、前記二量体を形成するジスルフィド結合を一旦切断する操作が必要となる。しかし、微粒子表面へタンパク質を効率的に結合させるには、微粒子に対して過剰で高濃度のタンパク質溶液を用意する必要が生じる場合がある。よって、タンパク質を高濃度にすることによりタンパク質の二量体が再形成される恐れがある。また、タンパク質や微粒子の非特異的な相互作用により、システインを介さない、安定性の低いタンパク質と微粒子の複合体が形成され、それによるタンパク質と微粒子の損失が発生する恐れがある。それにより、投入した前記タンパク質と前記微粒子とは目的を達成できず、損失が発生する恐れがある。以上より、微粒子にタンパク質が結合する効率が低下し、また得られるタンパク質と微粒子との複合体の収量も低下すると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Arutselvan Natarajanら著、2008年のCancerBiotherapy & Radiopharmaceuticals、第23巻第82から第91頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、システインを有するタンパク質と微粒子との複合体を製造する際に、タンパク質の損失やそれに伴う微粒子の損失が発生し、得られる複合体の収量が低下している。そのため、この欠点を解消することができる複合体とその製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究の結果、システインを2個以上有するリンカーをタンパク質と微粒子との間に導入することで、上記課題が解決されることを見出した。本発明のタンパク質と微粒子との複合体は、タンパク質と微粒子と、前記タンパク質と前記微粒子とを連結するリンカーとからなる複合体であって、前記リンカーは2個以上のシステインを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のタンパク質と微粒子との複合体の製造方法は、システインを2個以上有するリンカーを導入したタンパク質を作製する工程と、前記システインで結合したジスルフィド結合を還元剤で切断する工程と、前記タンパク質と微粒子とを混合する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
システインを2個以上有するリンカーを導入したタンパク質を用いる、本発明のタンパク質と微粒子との複合体は、システインを1個有するリンカーを導入したタンパク質を用いる従来の複合体と比較して、収量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のタンパク質と微粒子との複合体の一形態を示す模式図である。
【図2】一本鎖抗体(scFv)に1個システインを導入したタンパク質(scFv−Cys1)、及び2個システインを導入したタンパク質(scFv−Cys2)がそれぞれ還元剤有無の条件下でのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)の結果である。
【図3】scFv−Cys1と酸化鉄微粒子との複合体と、scFv−Cys2と酸化鉄微粒子との複合体とが490nm吸収におけるゲルろ過クロマトグラフィーの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を通しての本発明の実施形態について説明する。なお、個々に開示する実施形態は、本発明のタンパク質と微粒子との複合体及びその製造方法が実際に用いられる例であり、これに限定されるものではない。
【0012】
(第一実施形態)
本発明のタンパク質と微粒子との複合体は、タンパク質と、微粒子と、前記タンパク質と前記微粒子とを連結する2個以上のシステインを有するリンカーとからなる複合体である。
(複合体の定義)
「タンパク質と微粒子との複合体」とは、タンパク質と微粒子とがリンカーを介して共有結合、もしくは共有結合に相当する強い結合力で結合した状態の化合物を指す。
【0013】
(タンパク質の定義)
本発明のタンパク質は、前記リンカーと共有結合もしくは共有結合に相当する強い結合力で結合することができるタンパク質であり、たとえば、抗体、ペプチド、受容体に対するリガンドなど種々の病変マーカー結合分子がある。
【0014】
前記抗体は、天然に産生される免疫グロブリン構造を有する抗体のみならず、標的分子結合性を維持したまま低分子化した抗体フラグメントも含む。抗体フラグメントとしてはFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)、重鎖可変(VH)ドメイン単独、軽鎖可変(VL)ドメイン単独、VHとVLを非共有結合で結合した複合体(Fv)、VHとVLをペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体、ラクダ化VHドメイン、抗体の相補性決定領域(CDR)を含むペプチド等がある。これらのうち、特に、一本鎖抗体は、各種抗原に対応して安価かつ簡便に作製することができ、さらに、通常の抗体に比べて分子量が小さいため、体外へ速やかに排泄されやすく、又病変部位に到達しやすいという特徴がある。そのため、一本鎖抗体は病変部位の検出又は治療に用いられることが好ましい。
【0015】
また、前記ペプチドは、抗体の結合部位を模倣したペプチド、数個のアミノ酸からなるペプチドをランダムに配置させたペプチドライブラリーより取得される病変マーカー結合性を有するペプチドなどが利用できる。さらに、前記受容体に対するリガンドは、上皮成長因子受容体(EGFR)に対するEGFリガンド、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)に対するVEGFリガンドなど種々のリガンドが利用することができる。
【0016】
前記病変マーカーは、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーとそのリガンド(EGF)ファミリー、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーとその受容体(VEGFR)ファミリー、前立腺特異的抗原(PSA)、癌胎児性抗原(CEA)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリー、インテグリンファミリー、セレクチンファミリー、エンドグリン又はムチン(MUC)ファミリーなど種々の病変マーカーから選択することができる。例えば、EGFRファミリーのヒト上皮細胞成長因子受容体2(HER2)は、該HER2に結合するモノクローナル抗体、抗体フラグメント、及びペプチドなどが多く知られており、病変マーカーとして利用することができる。
【0017】
(リンカーの定義)
本発明のリンカーとは、前記タンパク質と前記微粒子とを結合させるために利用される、共有結合で結合した化合物を指す。前記タンパク質と前記微粒子を結合させることができる化合物であれば、特に制限しない。例えば、マレイミド基等のような官能基に結合するチオール基を有したり、アミノ酸で構成される前記リンカーであれば、システインを含んだりすることが好ましい。本発明において、ペプチド結合で連結した、2個以上のシステインを有する複数のアミノ酸からなるリンカーが特に好ましい。また、本発明においていう「融合タンパク質」とは、前記タンパク質と前記リンカーとが共有結合、もしくは共有結合に相当する強い結合力で結合した融合タンパク質をいう。
【0018】
(リンカーの導入位置)
前記タンパク質の任意の部位から前記リンカーを導入することができる。例えば、一本鎖抗体(scFv)のカルボキシ末端は、抗原の結合部位から離れているために、抗体の抗原結合能力を阻害することが少ない。そのため、一本鎖抗体の場合、そのカルボキシ末端に前記リンカーを導入することが好ましい。
【0019】
(システインの個数)
本発明の特徴は、前記微粒子と結合する前に、前記融合タンパク質同士等による二量体の形成を防ぐため、前記リンカーの分子内、もしくは前記融合タンパク質の分子内でジスルフィド結合を形成させることにある。ここでいう二量体とは、主に、本発明の融合タンパク質同士の二量体をいうが、前記リンカー同士による二量体、または前記リンカーと前記融合タンパク質との二量体も含まれる。
よって、分子間の二量体の形成を抑制するために、前記融合タンパク質に導入される前記リンカーの分子内でジスルフィド結合を形成させるためには、前記リンカーが有するシステインの個数は2個以上である。好ましくは、2個以上の偶数である。さらに好ましくは2個である。また、前記リンカー、もしくは前記融合タンパク質分子内の全てのチオール基をジスルフィド結合にさせるためには、チオール基の数が偶数となる必要がある。例えばアミノ酸で構成される前記リンカー分子を含む前記融合タンパク質の場合では、偶数個のシステインを必要となする。したがって、前記リンカーが有するシステインの個数は2個以上である。好ましくは、2個以上の偶数である。さらに好ましくは2個である。
前記リンカー、もしくは前記融合タンパク質分子内の全てのチオール基をジスルフィド結合にさせるためには、チオール基の数が偶数となる必要がある。例えばアミノ酸で構成される前記リンカー分子を含む前記融合タンパク質の場合では、偶数個のシステインを必要となする。したがって、前記リンカーが有するシステインの個数は2個以上である。好ましくは、2個以上の偶数である。
【0020】
前記融合タンパク質と前記微粒子とが共有結合もしくは共有結合に相当する強い結合力で結合されているため、本実施形態では、前記リンカーに前記微粒子の上面にある官能基と共有結合できるシステインを導入する。その個数については、前記融合タンパク質と前記微粒子との形成効率及び安定性を高めるために、1個よりも2個以上のシステインを有することが好ましい。最終的には、本発明の融合タンパク質と微粒子との複合体の収量を向上させることができる。
【0021】
さらに、2個以上のシステインを有する前記融合タンパク質は前記微粒子との結合反応の効率を向上させることができるため、より低濃度の前記融合タンパク質で本発明のタンパク質と微粒子との複合体を形成することができる。また、前記融合タンパク質(リンカー等を含む)の濃度を低く抑えることで、二量体が再形成しやすくなること、また融合タンパク質と微粒子との非特異的な相互作用による融合タンパク質と微粒子との損失が発生することといった現象も抑えることができる。
ここでいう融合タンパク質と微粒子との損失には、融合タンパク質が単量体の場合と比較して二量体の安定性が低い場合、融合タンパク質の二量体化に伴い融合タンパク質が凝集しやすくなることによる融合タンパク質の損失と、融合タンパク質の二量体の沈殿に伴い微粒子の沈殿による損失とがある。そのため、融合タンパク質の二量体化を抑えることは、融合タンパク質と微粒子との損失を抑えることができると考えられる。
【0022】
また、前記各々の微粒子表面のシステイン結合する官能基に限りがあるため、前記官能基の数より多くのシステインを融合タンパク質に導入しても、前記微粒子と結合できない融合タンパク質が出てくる可能性がある。そのため、本発明のリンカーに導入するシステイン数は2個が好ましい。
【0023】
また、一般に、微生物などを用いてタンパク質を生産する際に、生産されるタンパク質の収量が、システインを導入することにより低下することが知られている。その原因は、微生物の細胞内において異なるタンパク質分子間での誤ったジスルフィド結合の形成だと考えられる。2個のシステインを限定して導入した場合、同一融合タンパク質分子内のシステイン同士がジスルフィド結合することで、異なるタンパク質分子間の誤ったジスルフィド結合が起こり難くなるため、システインを2個に限定して導入することは本発明の融合タンパク質の生産性を確保する観点から有効である。
【0024】
(システインの距離とその間のアミノ酸の種類)
このため、2個以上のシステイン同士は、ジスルフィド結合を形成可能な距離で配置させることが好ましく、特にシステイン間のアミノ酸の残基数は0個〜50個程度であることが好ましい。システイン間のアミノ酸の残基数が50個を超えるとシステイン間の距離が大きくなるため、前記微粒子と結合する前に分子内のシステイン同士がジスルフィド結合を形成しにくくなる。その結果、前記融合タンパク質同士等が二量体化する可能性が出てくるため、前記微粒子への反応効率が低下する可能性がある。
【0025】
また、システイン間の距離が前記微粒子の粒径より長い場合には、前記微粒子表面の官能基へシステインがアクセスできにくくなる恐れがある。それにより、前記微粒子への反応効率が低下する可能性があるため、システイン間の距離は微粒子の粒径より短い方が好ましい。よって、例えば、前記微粒子の粒径が20nmである場合、システイン間のアミノ酸の残基数は0個〜50個程度であることが最も好ましい。
【0026】
図1には、本発明のタンパク質と微粒子との複合体の一つの形態の模式図である。図中のX、Zは任意の0個以上のアミノ酸を示す。XとZとが0個のアミノ酸の場合、システイン同士は直接ペプチド結合で連結し、Z部分にはOH基が位置されることを表す。例えば、一本鎖抗体の抗原結合能力を阻害することなく、複合体の収量を向上させることができる病変マーカー結合分子(プローブ)の構成として、一本鎖抗体のカルボキシ末端へ2個のシステインを導入することが特に好ましい。
【0027】
また、2個以上のシステイン間のアミノ酸の種類としてはシステイン以外の種々のアミノ酸を導入することが可能である。例えば、グリシン、セリン等の組み合わせは柔軟性が高いため、システイン同士が近接しやすくジスルフィド結合を形成しやすいため好ましい。具体的には、例えばCysGlyGlyGlyGlySerCysのようなグリシンとセリンとの組み合わせであることが好ましい。また、前記図1のXでいえば、XはGGGGSで、Zはタンパク質精製用のタグ配列を配置することができる。
【0028】
また、前記リンカーの長さが長くなることで、リンカーがタンパク質の機能を阻害する可能性が出てくることも考えられる。例えば、一本鎖抗体の分子の大きさは約5nm程度であり、リンカーの長さがそれより長くなると、リンカーが前記一本鎖抗体の抗原結合機能を阻害する可能性がある。そのため、前記リンカーの長さとしては、タンパク質の抗原結合能を維持できるような程度の長さであることが好ましい。特にアミノ酸の残基数(システインの個数と、前記X個のアミノ酸と、前記Z個のアミノ酸との和)としては0〜50個の範囲、さらに0〜20個の範囲であることが好ましい。
【0029】
(収量が向上する以外の効果)
システインを2個以上有する前記リンカーを導入した前記融合タンパク質を用いることにより、前記融合タンパク質と前記微粒子が遊離する可能性を低下させることができる。例えば、2個以上のシステインを介した前記微粒子への結合は、1個のシステインを介した微粒子への結合に比べて、前記融合タンパク質と前記微粒子との結合部分の切断による遊離を抑えることができると考えられる。
【0030】
また、2個以上のシステインのうち少なくとも1個のシステインが前記微粒子へ結合することができれば、少なくとも1個以上の残ったシステインは、微粒子表面上の同様の状態にあるタンパク質のシステイン(2個以上のシステインのうち少なくとも1個のシステインが前記微粒子へ結合したタンパク質の少なくとも1個以上の残ったシステイン)とジスルフィド結合を形成する可能性がある。これによってタンパク質と微粒子が遊離する可能性を低下させることも可能であろう。
【0031】
このように融合タンパク質と微粒子が遊離する可能性を低下させることにより、作製した複合体を生体内へ投与した際の、融合タンパク質と微粒子との遊離に伴う、複合体の有効量の低下や、病変部位以外からのノイズ(バックグラウンド)の上昇を回避することが可能になると考えられる。また、作製した複合体の保存安定性も向上するため、長期間の保存が可能になると考えられる。
【0032】
(微粒子の種類)
本発明の微粒子としては酸化鉄微粒子、金微粒子、金ナノロッド、白金、銀などの金属や金属酸化物の微粒子など種々の微粒子を利用することができる。その中で特に酸化鉄微粒子が最も好ましい。
【0033】
(微粒子の表面)
微粒子の表面にはシステインのチオール基と結合可能な分子もしくは化学基等があればよく、特に限定しない。本発明においては、微粒子の表面に官能基を有することが好ましい。また、前記官能基を購入してもよく、前記微粒子表面の分子もしくは化学基を変換させ、前記官能基とすることもできる。システインのチオール基と結合可能な官能基としては、マレイミド基、ヨードアセトアミド(iodoacetamide)基など種々の官能基を利用することができる。例えば、アミノ基を表面に有する酸化鉄微粒子Nanomag(登録商標、コアフロント社の製品)と、アミノ基をマレイミド基へ変換可能なN-(4-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミド(N-(4-Maleimidobutyryloxy)succinimide、同仁化学研究所の製品)を利用することで、マレイミド基を有する酸化鉄微粒子を作製することができる。
【0034】
(第二実施形態)
本発明のタンパク質と微粒子との複合体の製造方法は、システインを2個以上有するリンカーを導入した融合タンパク質を作製する工程と前記融合タンパク質と前記微粒子とを混合する工程とを有する。
【0035】
ここで、システインを2個以上有するリンカーを導入した融合タンパク質を作製する工程は、融合タンパク質を作製する従来の方法を用いることができ、特に限定されない。本発明では、細胞内におけるタンパク質生成メカニズムに従って融合タンパク質を生成することが好ましい。例えば、前記タンパク質のアミノ酸配列のC末端に、システインを2個以上有するリンカーのアミノ酸配列を結合させ、結合したアミノ酸配列をコードする遺伝子配列を生成し、タンパク質生成メカニズムに従って微生物などを用いて作製することが挙げられる。また、このような方法で融合タンパク質を生成する場合には、前記アミノ酸配列などのほかに、必要とする酵素などの成分は従来技術に従えばよく、ここでは、特に限定しない。
【0036】
また、前記融合タンパク質と前記微粒子とを混合する工程について、まず、前記融合タンパク質にジチオトレイトールやトリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)などの還元剤を添加しジスルフィド結合を切断する。ここで添加する還元剤の量は、前記融合タンパク質の量に対し、1:数十のモル量であることが好ましく、特に1:10〜1:20のモル量であることが好ましい。
次いで、ジスルフィド結合が切断された前記融合タンパク質と前記微粒子とを混合し、結合させる。その後、限外ろ過などにより前記微粒子に結合しなかった融合タンパク質及び融合タンパク質以外のタンパク質を除去することで、本発明のタンパク質と微粒子との複合体を得る。
ここで、得られる本発明のタンパク質と微粒子との複合体の収量及び保存安定性を確保するために前記融合タンパク質と前記微粒子との混合モル比は4:1であることが好ましい。
【0037】
本発明のタンパク質と微粒子との複合体の製造方法で用いる、リンカー、タンパク質そして微粒子等は、前記で定義したものを用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の特徴をさらに明らかにするために実施例に沿って本発明を説明するが、本発明に用いるタンパク質の種類、システインを2個以上有するリンカーの種類や導入位置、微粒子の種類、それらの組み合わせは他の組み合わせを用いることも可能であり、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0039】
(実施例1)
(一本鎖抗体の作製)
システインを1個有するリンカーを有する一本鎖抗体(scFv−Cys1)をコードする遺伝子と、システインを2個有するリンカーを有する一本鎖抗体(scFv−Cys2)をコードする遺伝子とをそれぞれ作製した。なお、前記scFv−Cys1は、HER2へ結合する免疫グロブリンGの可変領域を基とする一本鎖抗体のC末端に、タンパク質精製のためのヒスチジンが6個連続したタグ配列(以下「6xHisタグ」とする)、グリシン2個、システイン一個の順になっている。前記scFv−Cys2は、そのC末端に、アラニン3個、CysGlyGlyGlyGlySerCys、ロイシン、グルタミン酸、そして6xHisタグの順になっている。
【0040】
前記scFv−Cys1をコードする遺伝子と、scFv−Cys2をコードする遺伝子をT7プロモーターの下流に挿入したプラスミドpET-22b(+)(Novagen社の製品)を大腸菌(Escherichia coli BL21 (DE3))に導入し、発現用菌株を得た。得られた菌株を4mlのLB−Amp培地で8時間程度前培養後、全量を250mlの2xYT培地に添加し、28度、120rpmで一晩(十数時間程度)振とう培養した。
【0041】
次いで、終濃度1mMのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを添加し、28℃で一晩培養した。培養した大腸菌を8000xg、30分、4℃で遠心分離し、その上清の培養液を回収した。得られた培養液60重量%の硫酸アンモニウムを添加し、塩析によりタンパク質を沈殿させた。塩析操作した溶液を4℃で一晩静置後、8000xg、30分、4℃で遠心分離することで沈殿物を回収した。得られた沈殿物を1Lの透析バッファー(20mMのTris・HCl/500mMのNaCl、pH=8)を用いて透析した。透析後のタンパク質溶液を、His・Bind(登録商標)Resin(Novagen社の製品)を充填したカラムへ添加し、Niイオンを介した金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。精製したscFvは共に、還元剤ジチオトレイトールを添加したSDS−PAGEによりシングルバンドを示し分子量は共に約28kDaであることを確認した(図2)。また、還元剤を添加しない場合にはscFv−Cys1では約56kDaの二量体のバンドを確認できるのに対し、scFv−Cys2では二量体のバンドは確認できなかった(図2)。以上より、システインを2個導入することにより、二量体の形成をほぼ抑えられる(二量体はほとんど形成されない)ことを確認した。
【0042】
(実施例2)
(scFvと酸化鉄微粒子の複合体の作製)
上記で調製したscFv−Cys1と、scFv−Cys2とを5mMのEDTAを含むリン酸バッファー(2.68mMのKCl/137mMのNaCl/1.47mMのKHPO/1mMのNaHPO/5mMのEDTA、pH7.4)にバッファー置換した。その後、10倍モル量のトリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)によって、25℃で約2時間、還元処理した。この還元処理したscFvを、25℃で約2時間、4分の1倍モル量のマレイミドで表面修飾されたPEG300を含む粒径20nmの酸化鉄微粒子Nanomag−D−SPIO(コアフロント社の製品)と反応させた。反応後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラ−4(日本ミリポア社の製品)を用いた限外ろ過により酸化鉄微粒子へ結合しなかったscFvを除去して、scFvと酸化鉄微粒子の複合体を得た。
【0043】
(ゲルろ過による収量の評価)
上記で得られたscFv−Cys1と酸化鉄微粒子との複合体、及びscFv−Cys2と酸化鉄微粒子との複合体をそれぞれSuperdex200GL10/300カラム(GEヘルスケア株式会社の製品)を用いてゲルろ過クロマトグラフィーに供し、それぞれの酸化鉄微粒子が490nmでの吸光度のピーク面積を比較した。その結果、図3に示すように、scFv−Cys2と酸化鉄微粒子との複合体では、scFv−Cys1と酸化鉄微粒子との複合体と比較して、ピーク面積が増大したことを確認できた。よって、scFv−Cys2と酸化鉄微粒子との複合体は、scFv−Cys1と酸化鉄微粒子との複合体と比較して、得られる複合体の収量が約2倍に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の複合体は、病変部位、及び病変マーカーを検出するための体内診断薬として利用可能である。例えば、抗体と酸化鉄微粒子の複合体はMRI用の体内診断剤として利用可能である。その他、微粒子に抗癌剤などの薬物を導入することで、病変部位へ薬物を送達することも可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と、微粒子と、前記タンパク質と前記微粒子とを連結するリンカーとからなる複合体であって、前記リンカーはシステインを2個以上有することを特徴とする複合体。

【請求項2】
前記タンパク質が一本鎖抗体であることを特徴とする請求項1に記載の複合体。

【請求項3】
前記微粒子が酸化鉄微粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合体。

【請求項4】
前記リンカーがアミノ酸配列CysGlyGlyGlyGlySerCysを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合体。

【請求項5】
システインを2個以上有するリンカーを導入した融合タンパク質を作製する工程と、
前記システインで結合したジスルフィド結合を還元剤で切断する工程と、
前記融合タンパク質と微粒子とを混合する工程と
を有することを特徴とする、請求項1に記載の複合体の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−79758(P2011−79758A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231995(P2009−231995)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】