説明

タンパク質含有水溶液安定化剤及びタンパク質含有水溶液の安定化方法

【課題】診断・検査薬、医薬品として広く利用される酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質、ペプチドなどの水溶液中のタンパク質を安定化し、製造工程および保存期間中にタンパク質の生理活性を長期的に低下させないタンパク質安定化剤、及び安定化方法の提供。
【解決手段】タンパク質を含んでなる水溶液の安定化剤であって、下記一般式(1)で表される化合物(A)及び/又はその塩(B)を含んでなるタンパク質含有水溶液の安定化剤。[式1]


[一般化学式(1)中、有機基Xは、エステル基又はN−アルキルアミド基;有機基Yは、N−アルカノイルアミド基又はイミノ基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液に含まれるタンパク質の安定化に関する。さらに詳しくは、酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質、ペプチドなどのタンパク質を含有する水溶液に含まれるタンパク質の安定化剤、この安定化剤を共存させるタンパク質の安定化方法、および安定化剤を共存させたタンパク質含有水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素、糖タンパク質、ペプチドなどのタンパク質は、診断・検査薬、医薬品として広く利用されており、これらの製品においては、製造工程および保存期間中に生理活性(力価)が損なわれないことが重要である。
製造工程及び保存期間中において、安定してタンパク質を取り出し精製するための一つの方法として凍結乾燥が一般的に行われている。タンパク質の多くは熱によって失活しやすい性質を有するが、凍結乾燥法では、熱をかけずにタンパク質を安定化することができる。
しかしながら、凍結乾燥法は、脱水により変性するタンパク質には使用できないこと、凍結乾燥工程中に吸湿や酸化による変質が起こりやすいこと等の難点がある。また、凍結乾燥製剤は使用時に溶媒(溶解液)に溶解して用いられるため、溶媒(溶解液)と組み合わせて供給される場合、試薬をその都度に必要量を調製しなければならないという煩雑さの問題がある。
このような理由からタンパク質を水溶液中で安定化させる技術が公開されている。たとえば、ウレアーゼパーオキシターゼの水溶液の安定化剤として、グリセリンなどの多価 アルコールを含有させたり(たとえば、特許文献1)、コレステロールオキシターゼを含む水溶液に、牛血清アルブミンやグルコース等の糖類あるいはリジン等のアミノ酸を添加する(たとえば、特許文献2)等が挙げられる。
しかし、これらはいずれも特定のタンパク質を安定化させるための方法であり汎用性があるとは言いがたく、タンパク質全般に適用して活性を長期間維持できる汎用的な安定化剤及び安定化方法はなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平6−70798号公報
【特許文献2】特開平8−187095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、水溶液中のタンパク質の変性、変質及び凝集を抑制し、タンパク質の水溶液を長期的に安定化させることができるタンパク質の安定化剤を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質を含んでなる水溶液の安定化剤であって、下記一般式(1)で表される化合物(A)及び/又はその塩(B)を含んでなるタンパク質含有水溶液の安定化剤;その安定化剤でタンパク質の水溶液を安定化する方法;安定化剤で安定化されたタンパク質水溶液である。
【0006】
【化1】

【0007】
[式(1)中、有機基Xは、下記一般式(2)で表されるエステル基又は一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基を表す。有機基Yは、下記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基又は一般式(5)で表されるイミノ基を表す。R1はα−アミノ酸の側鎖を表す。R2は、炭素数1〜36の炭化水素基、又は多価アルコールもしくは糖から1つの水酸基を除いた残基を表し、R3〜R6はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はその一部が他の官能基に置換されていてもよい。]
【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
【化4】

【0011】
【化5】

【発明の効果】
【0012】
本発明のタンパク質含有水溶液の安定化剤は、水溶液中のタンパク質を安定化し、水溶液中のタンパク質の生理活性が低下しないので医薬品、および生化学の分野において有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質を含んでなる水溶液の安定化剤であって、上記一般式(1)で表される化合物(A)及び/又はその塩(B)を含んでなるタンパク質含有水溶液の安定化剤である。
【0014】
すなわち、α−アミノ酸のα−アミノ基とα−カルボキシル基の両方が置換された化学構造のα−アミノ酸誘導体、及び/又はその塩を安定化剤として使用することを特徴とする。
【0015】
酵素、ペプチドなどのタンパク質を水溶液として保存する際にそのまま保存すると、これらが凝集や加水分解等を起こし力価が著しく低下するという問題点があるが、本発明では、特定の化学構造を有する上記の化合物(A)、及び/又はその塩(B)を水溶液の安定化剤として添加することにより解決することを見出した。
【0016】
本発明のタンパク質含有水溶液の安定化剤において、安定化剤として作用させるために存在させる下記一般式(1)で表される化合物(A)は、α−アミノ酸のα−アミノ基とα−カルボンキシル基を置換した誘導体であり、アミノ基の置換は、下記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基又は一般式(5)で表されるイミノ基への置換であり、カルボキシル基の置換は下記一般式(2)で表されるエステル基又は下記一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基への置換である。
【0017】
【化6】

【0018】
式(1)中、有機基Xは、下記一般式(2)で表されるエステル基又は一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基を表す。有機基Yは、下記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基又は一般式(5)で表されるイミノ基;R1はα−アミノ酸の側鎖を表す。
【0019】
【化7】

【0020】
式(2)中、R2は、炭素数1〜36の炭化水素基、又は多価アルコールもしくは糖から1つの水酸基を除いた残基を表す。
【0021】
【化8】

【0022】
式(3)中、R3は、水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、この炭化水素基はその一部が他の官能基に置換されていてもよい。
【0023】
【化9】

【0024】
有機基Yは、下記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基又は一般式(5)で表されるイミノ基である。
【0025】
式(4)中、R4は、水素原子、または炭素数1〜36の炭化水素基を表し、この炭化水素基はその一部が他の官能基に置換されていてもよい。
【0026】
【化10】

【0027】
式(5)中、R5とR6はそれぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はその一部が他の官能基に置換されていてもよい。
【0028】
上記一般式(1)中のR1は、α−アミノ酸の側鎖を表す。
このα−アミノ酸としては、特に限定されるものではなく、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸及びグルタミン酸などが挙げられる。力価の保持率の観点から、好ましくはアルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン及びグルタミンであり、さらに好ましくはアルギニンである。
【0029】
上記一般式(1)中の有機基Xは、上記一般式(2)で表されるエステル基(X1)又は一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基(X2)を表す。
【0030】
上記一般式(2)で表されるエステル基(X1)において、R2は、炭素数1〜36の炭化水素基、又は多価アルコールもしくは糖から1つの水酸基を除いた残基を表す。この炭化水素基はその一部が他の官能基、例えば、水酸基、メトキシル基、エトキシル基、ニトロ基、ヒドロキシフェニル基などで置換されていてもよい。
【0031】
エステルはアルコール性水酸基を持つ物質とのエステルであれば良く、アルコールとのエステル以外に、多価アルコール、糖類とのエステル等も含む。
【0032】
2は、炭素数1〜36の炭化水素基であり、直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、並びに芳香族炭化水素基が含まれる。
直鎖の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基及びベヘニル基等が挙げられる。
分岐の脂肪族炭化水素基としては、イソプロピル基、ターシャリーブチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基及びメチルベンジル基等が挙げられる。
これらの炭化水素基のうち、タンパク質含有水溶液の安定化の観点から、直鎖の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基及びエチル基、最も好ましくはエチル基である。
【0033】
多価アルコールとしては、エチレングリコール及びグリセリン等が挙げられる。
糖としては、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール及びトレハロース等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基(X2)において、R3は水素原子、または炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はR2と同様に、その一部が他の官能基に置換されていてもよい。
【0035】
3の炭化水素基としては、上記R2と同様のものが含まれ、これらの炭化水素基のうち、タンパク質含有水溶液の安定化の観点から、直鎖の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基及びエチル基、最も好ましくはメチル基である。
【0036】
上記一般式(1)中の有機基Yは、上記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基(Y1)又は一般式(5)で表されるイミノ基(Y2)を表す。
上記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基(Y1)において、R4は水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はR2と同様に、その一部が他の官能基に置換されていてもよい。
【0037】
3の炭化水素基としては、上記R2と同様のものが含まれ、これらの炭化水素基のうち、タンパク質含有水溶液の安定化の観点から、直鎖の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基及びエチル基、最も好ましくはメチル基である。
【0038】
N−アルカノイルアミド基(Y1)としては、ホルムアミド基、アセチルアミド基、プロピオン酸アミド基、ブチル酸アミド基、ヘキシル酸アミド基、シクロヘキシル酸アミド基、オクチル酸アミド基、ベンゾイルアミド基などが挙げられる。
【0039】
上記一般式(5)で表されるイミノ基(Y2)において、R5とR6はそれぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はR2と同様に、その一部が他の官能基に置換されていてもよい。
【0040】
3の炭化水素基としては、上記R2と同様のものが含まれ、これらの炭化水素基のうち、タンパク質含有水溶液安定化の観点から、直鎖の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基及びエチル基、最も好ましくはメチル基である。
【0041】
イミノ基(Y2)としては、メチルイミノ基などが挙げられる。
【0042】
本発明における安定化剤として作用する化合物は、前述の化合物(A)以外に、この(A)の塩(B)であってもよい。たとえば、アルギニン、ヒスチジン、リシン等の、α−アミノ酸の側鎖{すなわち、式(1)におけるR1}に塩基性のイオン性基を含有する場合は、化合物(A)の無機酸塩又は有機酸塩であってもよい。
また、α−アミノ酸の側鎖に酸性のイオン性基を含有する場合は、化合物(A)の無機塩基塩又は有機塩基塩であってもよい。
【0043】
無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸等が挙げられる。
有機酸としては、1価の有機酸(例えば乳酸、酢酸及び蟻酸等)、2価の有機酸(例えばアジピン酸及びフタル酸等)及び3価以上の有機酸(例えばクエン酸、トリメリット酸及びピロメリット酸等)等が挙げられる。
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化アンモニウム等が挙げられる。
有機塩基としては、1価のアミン(例えばメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、エタノールアミン及びジエタノールアミン等)、2価のアミン(例えばエチレンジアミン等)及び3価以上のアミン(例えばジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラアミン等)等が挙げられる。
【0044】
塩(B)の中和度は特に限定されず、完全中和の塩であっても、一部が中和された部分中和塩であっても良い。また、酸又は塩基は1種だけを用いても複数種の混合物を用いても良い。
【0045】
本発明の安定化剤には緩衝剤及び多価アルコールを含んでもよい。
緩衝剤としては、公知(特開平08−187095号公報等に記載)の緩衝剤を使用できる。多価アルコールとしては、グリセリン、ソルビトール及び公知(特開平08−187095号公報等に記載)の糖類を使用できる。
【0046】
化合物(A)及び/又はその塩(B)を、酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質及びペプチドなどのタンパク質を含有する水溶液に含有させることでタンパク質含有水溶液のタンパク質を安定化できる。
【0047】
化合物(A)及び/又はその塩(B)を、酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質、ペプチドなどのタンパク質を含有する水溶液に含有させる場合、(A)及び(B)の合計含有量は、タンパク質の水溶液の体積に基づいて、タンパク質の活性を長期間にわたって高い保持率で保持できる観点及びコストの観点から、0.001〜0.5mol/Lの濃度で含有することが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.1、特に好ましくは0.033〜0.046である。
【0048】
本発明のタンパク質含有水溶液におけるタンパク質の含有量(重量%)は、タンパク質の安定化の観点からタンパク質含有水溶液の重量に基づいて、0.001〜10が好ましく、0.01〜2がさらに好ましい。
【0049】
本発明のタンパク質含有水溶液における化合物(A)及びその塩(B)の合計含有量(重量%)は、タンパク質の安定化の観点から、タンパク質含有水溶液中のタンパク質の重量に基づいて、8〜5000が好ましく、さらに好ましくは50〜1000である。
【0050】
本発明のタンパク質含有水溶液には、安定化効果を損なわない範囲で、緩衝剤、多価アルコール、金属塩、ゼラチン及び界面活性剤等を添加してもよい。
【0051】
緩衝剤及び多価アルコールとしては前述のものが使用できる。金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が使用できる。ゼラチンとしては変性コラーゲンであれば特に限定することなく使用することができる。界面活性剤としては公知(特開2007−204498号公報等)に記載の非イオン性界面活性剤等が使用でき、市販のTWEEN(登録商標)80等が容易に入手できる。
【0052】
本発明のタンパク質含有水溶液の安定化剤の使用方法及び本発明の安定化方法の例を以下に説明するが、化合物(A)及び/又はその塩(B)又は本発明の安定化剤をそのまま、あるいは水に溶かしてタンパク質含有水溶液に加えてもよいし、タンパク質を化合物(A)及び/又はその塩(B)の水溶液又は本発明の安定化剤の水溶液に加えてもよいし、タンパク質と、化合物(A)及び/又はその塩(B)又は本発明の安定化剤と、水とを同時に混ぜてもよい。
分離精製工程で分離された酵素の安定化水溶液を作成する場合の一例を以下に挙げる。
1.化合物(A)及び/又はその塩(B)又は本発明の安定化剤を水に加え、水溶液を作製する。
2.分離精製後の酵素水溶液を上記水溶液に加える。
3.常温(10〜25℃)もしくは冷蔵(4℃〜10℃程度)で密封保存する。
【0053】
本発明のタンパク質水溶液安定化剤が適用できるタンパク質としては、酵素(P1)、組み換えタンパク質(P2)、糖タンパク質(P3)及びペプチド(P4)などが含まれる。
【0054】
酵素(P1)としては、加水分解酵素、異性化酵素、酸化還元酵素、転移酵素、合成酵素及び脱離酵素などが含まれる。
加水分解酵素としては、リゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グルコアミラーゼなどが挙げられる。
異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼが挙げられる。
酸化還元酵素としては、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。
転移酵素としては、アシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼなどが挙げられる。
合成酵素としては、脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ、クエン酸シンターゼなどが挙げられる。
脱離酵素としては、ペクチンリアーゼなどが挙げられる。
【0055】
組み換えタンパク質(P2)としては、タンパク製剤、ワクチン等が含まれる。
タンパク製剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。
ワクチンとしては、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン及びインフルエンザワクチン等が挙げられる。
【0056】
糖タンパク質(P3)としては、抗体及びホルモン等が含まれる。抗体としてはモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体等が挙げられ、モノクローナル抗体には、パーオキシターゼやアルカリ性フォスファターゼで標識した酵素標識抗体も含まれる。
ホルモンとしては甲状腺刺激ホルモン及び黄体形成ホルモン等が挙げられる。
【0057】
ペプチド(P4)としては、アミノ酸の個数が2〜50個の化合物であり、特にアミノ酸組成を限定するものではなく、ジペプチド、トリペプチドなどが含まれる。
【0058】
これらのうち、本発明は、タンパク質の安定化の観点から、酵素(P1)及び組み換えタンパク質(P2)に好適に適用され、特に(P1)に適している。
【実施例】
【0059】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 (N−アセチルアルギニン−エチルエステルの合成)
200mLコルベンにN−アセチルアルギニン(エムピー・バイオ社製)12.6g(0.05モル)に、触媒としてメタンスルホン酸1.0gと、エタノール92.0g(2.0モル)を加え、80℃で5時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−アセチルアルギニン−エチルエステル8.7g(収率72%)を得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)で測定した純度は99%であった。
【0060】
実施例2 (N−アセチルアルギニン−メチルエステルの合成)
実施例1において、エタノールをメタノール6.4g(2.0モル)に変更する以外は実施例1と同様におこない、N−アセチルアルギニン−メチルエステル8.2g(収率75%)を得た。純度は99%であった。
【0061】
実施例3 (N−アセチルアルギニン−メチルアミドの合成)
200mLコルベンにN−アセチルアルギニン(エムピー・バイオ社製)12.6g(0.05モル)に、触媒として濃塩酸10gを加えて撹拌し、均一化した。ここでN−メチルアミン62g(2.0モル)を加え、60℃で3時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−アセチルアルギニン−メチルアミド7.4g(収率68%)を得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)で測定した純度は99%であった
【0062】
実施例4 (N−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステルの合成)
200mLコルベンにアルギニン(和光純薬製)8.1g(0.05モル)に、触媒として濃塩酸1.0gと、アセトン116g(2.0モル)を加え、60℃で3時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−ジメチルイミノアルギニン8.2g(収率81%)を得た。その後、N−ジメチルイミノアルギニン6.1g(0.03モル)に、触媒としてメタンスルホン酸1.0gと、エタノール92g(2.0モル)を加え、80℃で5時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステル5.5g(収率80%)を得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)で測定した純度は99%であった。
【0063】
実施例5 (N−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミドの合成)
200mLコルベンにN−ジメチルイミノアルギニン10.1g(0.05モル)に、触媒として濃塩酸10gを加えて撹拌し、均一化した。ここでN−メチルアミン62g(2.0モル)を加え、60℃で3時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミド7.1g(収率66%)を得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)で測定した純度は99%であった
【0064】
実施例6 (N−アセチルヒスチジン−エチルエステルの合成)
200mLコルベンにヒスチジン(和光純薬製)7.8g(0.05モル)に、触媒として酢酸70gと、無水酢酸30.6g(0.3モル)を加え、105℃で3時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−アセチルヒスチジン7.1g(収率72%)を得た。その後、N−アセチルヒスチジン5.9g(0.03モル)に、触媒としてメタンスルホン酸1.0gと、エタノール92g(2.0モル)を加え、80℃で5時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−アセチルヒスチジン−エチルエステル5.4g(収率76%)を得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)で測定した純度は99%であった。
【0065】
実施例7 (N−アセチルリシン−エチルエステルの合成)
200mLコルベンにリシン(和光純薬製)7.3g(0.05モル)に、触媒として酢酸70gと、無水酢酸30.6g(0.3モル)を加え、105℃で3時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−アセチルリシン7.6g(収率81%)を得た。その後、N−アセチルリシン5.6g(0.03モル)に、触媒としてメタンスルホン酸1.0gと、エタノール92g(2.0モル)を加え、80℃で5時間加熱攪拌して反応させた。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−アセチルリシン−エチルエステル5.3g(収率78%)を得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)で測定した純度は99%であった。
【0066】
実施例8 (N−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩の合成)
200mLコルベンにN−アセチルアルギニン−エチルエステル12.1g(0.05モル)にイオン水100gを加え溶解させ、35wt%濃塩酸21g(0.2モル)を加えて、30分撹拌した。エバポレーターで濃縮後、水から再結晶して0.2Torrで3時間減圧乾燥し、N−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩12.6g(収率90%)を得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)で測定した純度は99%であった。
【0067】
実施例9
リゾチーム(市販品「リゾチーム」和光純薬製、力価20,000units/mg)10mgを50mMリン酸緩衝液(pH=7)0.9mLに溶解させ、さらに、予め実施例1のN−アセチルアルギニンエチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液0.1mLを加え、1分間かき混ぜ本発明のタンパク質含有水溶液(R−1)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.041mol/Lであった。
この(R−1)の酵素活性(力価)を後述の方法で測定した。
【0068】
実施例10
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例2のN−アセチルアルギニン−メチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−メチルエステル水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−2)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−メチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.046mol/Lであった。
【0069】
実施例11
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例3のN−アセチルアルギニン−メチルアミド1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−メチルアミド水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−3)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−メチルアミドの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.046mol/Lであった。
【0070】
実施例12
実施例9において、10%重量N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例4のN−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−メチルイミノアルギニン−エチルエステル水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−4)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.043mol/Lであった。
【0071】
実施例13
実施例9において、10%重量N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例5のN−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミド1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミド水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−5)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミドの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.047mol/Lであった。
【0072】
実施例14
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例6のN−アセチルヒスチジン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルヒスチジン−エチルエステル水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−6)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルヒスチジン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.043mol/Lであった。
【0073】
実施例15
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例7のN−アセチルリシン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルリシン−エチルエステル水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−7)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルリシン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.044mol/Lであった。
【0074】
実施例16
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例8のN−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−8)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩の濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.036mol/Lであった。
【0075】
実施例17
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル0.1gをイオン交換水49.9gに撹拌混合して溶解させておいた0.2重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−9)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.001mol/Lであった。
【0076】
実施例18
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル1.21gをそのまま使用する以外は実施例9と同様に行い、本発明のリゾチーム含有水溶液(R−10)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に1.0重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.50mol/Lであった。
【0077】
比較例1
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させた牛血清アルブミン(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、リゾチーム含有水溶液(R’−1)を得た。
【0078】
比較例2
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたグルコース(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、リゾチーム含有水溶液(R’−2)を得た。
【0079】
比較例3
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたグリセリン(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、リゾチーム含有水溶液(R’−3)を得た。
【0080】
比較例4
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたアルギニン・塩酸塩(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、リゾチーム含有水溶液(R’−4)を得た。
【0081】
比較例5
実施例9において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたアルギニンエチルエステル(エムピーバイオ社製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例9と同様に行い、リゾチーム含有水溶液(R’−5)を得た。
【0082】
<リゾチーム含有水溶液の酵素活性(力価)の測定>
実施例9〜18及び比較例1〜5で得られたリゾチーム含有水溶液(R−1)〜(R−10)及び(R’−1)〜(R’−5)が入った容積1.5mLのエッペンドルフチューブを80℃に温調した振とう器付き恒温槽で30分インキュベートし、各溶液50μLを、2%枯草菌懸濁液(20%枯草菌懸濁液2mlに50mMリン酸緩衝液18mLを加えて前もって調製したもの)1mLと50mMリン酸緩衝液2mLとが入った試験管に加えた。加えた直後の450nmにおける吸光度(A0)を分光光度計(島津製作所製、UV−2550)で測定し、さらに測定開始から5分後にもう一度吸光度(A5)を測定し、これらの450nmにおける5分間の吸光度変化(ΔA)を以下の式で算出した。

ΔA=A5−A0
【0083】
また、実施例9〜18及び比較例1〜5のリゾチーム水溶液のリゾチーム濃度と同濃度の市販品「リゾチーム」の水溶液で他に添加剤を加えないブランクの水溶液を調製し、これを用いて上記と同様に測定し、450nmにおける5分間の吸光度変化(ΔAb)を測定し算出した。

ΔAb=Ab5−Ab0
【0084】
80℃で30分間保管後の各リゾチーム含有水溶液の「力価の保持率」は以下の式を用いて算出した。
【0085】
力価の保持率(%)=(ΔA/ΔAb) ×100
【0086】
上記実施例及び比較例の力価の保持率を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
従来から使用されている安定化剤を用いた比較例1〜3は、酵素含有水溶液の安定化効果がまだ不十分であることがわかる。また、アルギニンやアルギニンアルキルエステルを使用した比較例4及び比較例5では、安定化効果が高まり、比較例1〜3に比べて力価の保持率が改善されるものの、依然として十分な効果が得られなかった。一方、アルギニン等のα−アミノ酸のα−アミノ基及びα−カルボキシル基を置換した本発明の化合物及びその塩を使用した実施例9〜18の安定化剤の力価の保持率は非常に高いことがわかる。
【0089】
実施例19
遺伝子組換えインターフェロンβ(和光純薬工業製、マウス由来)100μgをイオン水100μLに溶解させ、この水溶液100μLに、予め実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液10μLを加えて軽く振り混ぜて均一化し本発明のインターフェロンβ水溶液(I−1)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.038mol/Lであった。
この(I−1)の活性(力価)を後述の方法で測定した。
【0090】
実施例20
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例2のN−アセチルアルギニン−メチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−メチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−2)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−メチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.042mol/Lであった。
【0091】
実施例21
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例3のN−アセチルアルギニン−メチルアミド1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−メチルアミド水溶液10μLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−3)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−メチルアミドの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.042mol/Lであった。
【0092】
実施例22
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例4のN−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−4)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.040mol/Lであった。
【0093】
実施例23
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例5のN−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミド1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミド水溶液10μLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−5)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミドの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.042mol/Lであった。
【0094】
実施例24
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例6のN−アセチルヒスチジン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルヒスチジン−エチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−6)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルヒスチジン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.039mol/Lであった。
【0095】
実施例25
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例7のN−アセチルリシン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルリシン−エチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−7)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルリシン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.040mol/Lであった。
【0096】
実施例26
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例8のN−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩水溶液10μLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−8)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩の濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.033mol/Lであった。
【0097】
実施例27
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル0.1gをイオン交換水49.9gに撹拌混合して溶解させておいた0.2重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液0.1mLを使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−9)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.001mol/Lであった。
【0098】
実施例28
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル1.21gをそのまま使用する以外は実施例19と同様に行い、本発明のインターフェロンβ水溶液(I−10)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.50mol/Lであった。
【0099】
比較例6
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させた牛血清アルブミン(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例19と同様に行い、インターフェロンβ水溶液(I’−1)を得た。
【0100】
比較例7
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたグルコース(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例19と同様に行い、インターフェロンβ水溶液(I’−2)を得た。
【0101】
比較例8
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたグリセリン(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例19と同様に行い、インターフェロンβ水溶液(I’−3)を得た。
【0102】
比較例9
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたアルギニン・塩酸塩(和光純薬製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例19と同様に行い、インターフェロンβ水溶液(I’−4)を得た。
【0103】
比較例10
実施例19において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたアルギニンエチルエステル(エムピーバイオ社製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例19と同様に行い、インターフェロンβ水溶液(I’−5)を得た。
【0104】
<インターフェロンβ水溶液の活性(力価)の測定>
実施例19〜28及び比較例6〜10で得られたインターフェロン水溶液(I−1)〜(I−10)及び(I’−1)〜(I’−5)を恒温槽中で37℃、3時間インキュベートし、この水溶液50μLを、インターフェロンβ ELISAキット(「インターフェロンβ ELISAキット」、鎌倉テクノサイエンス社製)を用いて、力価を測定した。力価はインターフェロンに作用する酵素標識抗インターフェロンモノクローナル抗体の酵素活性で評価した。酵素活性はキットに添付の説明書に従い、分光光度計で吸光度読み取り検量線を作成し、検量線から各サンプルの力価を算出した。
また、インターフェロン水溶液(I−1)〜(I−10)及び(I’−1)〜(I’−5)を恒温槽でインキュベートする前に上記と同様に測定し、別途力価を算出した。
力価の保持率は、以下の式で計算した。

力価の保持率=(インキュベート後の力価)/(インキュベート前の力価)×100
【0105】
上記実施例及び比較例の力価の保持率を表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
従来から使用されている安定化剤を用いた比較例6〜8は、組換えタンパク質含有水溶液の安定化効果がまだ不十分であることがわかる。また、アルギニンの無機酸塩を使用した比較例9及びアルギニンのアルキルエステルを使用した比較例10では、安定化効果が高まり、比較例6〜8に比べて力価の保持率が改善されるものの、依然として十分な効果が得られなかった。一方、アルギニン等のα−アミノ酸のα−アミノ基及びα−カルボキシル基を置換した本発明の化合物及びその塩を使用した実施例19〜28の安定化剤の力価の保持率は非常に高いことがわかる。
【0108】
実施例29
西洋ワサビ由来ペルオキシターゼ標識抗ヒトインターフェロンβマウスモノクローナル抗体溶液(鎌倉テクノサイエンス社製100μLに、予め実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液を10μLを加えて軽く振り混ぜて均一化して本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−1)を得た。
この(M−1)の活性(力価)を後述の方法で測定した。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.038mol/Lであった。
【0109】
実施例30
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例2のN−アセチルアルギニン−メチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−メチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−2)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−メチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.042mol/Lであった。
【0110】
実施例31
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例3のN−アセチルアルギニン−メチルアミド1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−メチルアミド水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−3)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−メチルアミドの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.042mol/Lであった。
【0111】
実施例32
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例4のN−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−4)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中の N−ジメチルイミノアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.040mol/Lであった。
【0112】
実施例33
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例5のN−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミド1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミド水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−5)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−ジメチルイミノアルギニン−メチルアミドの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.042mol/Lであった。
【0113】
実施例34
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例6のN−アセチルヒスチジン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルヒスチジン−エチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−6)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中の N−アセチルヒスチジン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.039mol/Lであった。
【0114】
実施例35
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例7のN−アセチルリシン−エチルエステル1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルリシン−エチルエステル水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−7)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルリシン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.040mol/Lであった。
【0115】
実施例36
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例8のN−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩1gをイオン交換水9gに撹拌混合して溶解させておいた10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−8)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステル・塩酸塩の濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.033mol/Lであった。
【0116】
実施例37
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、予め実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル0.1gをイオン交換水49.9gに撹拌混合して溶解させておいた0.2重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液0.1mLを使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−9)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.001mol/Lであった。
【0117】
実施例38
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、実施例1のN−アセチルアルギニン−エチルエステル1.21gをそのまま使用する以外は実施例29と同様に行い、本発明のモノクローナル抗体水溶液(M−10)を得た。
得られたタンパク質含有水溶液中のタンパク質濃度は、タンパク質含有水溶液の重量を基準に0.091重量%であった。
得られたタンパク質含有水溶液中のN−アセチルアルギニン−エチルエステルの濃度は、タンパク質含有水溶液の体積を基準に0.50mol/Lであった。
【0118】
比較例11
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させた牛血清アルブミン(和光純薬製)の水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、モノクローナル抗体水溶液(M’−1)を得た。
【0119】
比較例12
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたグルコース(和光純薬製)の水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、モノクローナル抗体水溶液(M’−2)を得た。
【0120】
比較例13
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたグリセリン(和光純薬製)の水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、モノクローナル抗体水溶液(M’−3)を得た。
【0121】
比較例14
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたアルギニン・塩酸塩(和光純薬製)の水溶液10μLを使用する以外は実施例29と同様に行い、モノクローナル抗体水溶液(M’−4)を得た。
【0122】
比較例15
実施例29において、10重量%N−アセチルアルギニン−エチルエステル水溶液の代わりに、10重量%となるようにイオン交換水で予め溶解させたアルギニンエチルエステル(エムピーバイオ社製)の水溶液0.1mLを使用する以外は実施例29と同様に行い、モノクローナル抗体水溶液(M’−5)を得た。
【0123】
<モノクローナル抗体水溶液の活性(力価)の測定>
実施例29〜38及び比較例11〜15で得られたモノクローナル抗体水溶液(M−1)〜(M−10)及び(M’−1)〜(M’−5)を恒温槽中で37℃、3時間インキュベートし、この水溶液50μLを、インターフェロンβ ELISAキット(「インターフェロンβ ELISAキット」、鎌倉テクノサイエンス社製)を用いて、力価を測定した。力価はインターフェロン標準液(キットに付属)に作用する酵素標識抗インターフェロンモノクローナル抗体の酵素活性で評価した。酵素活性はキットに添付の説明書に従い、分光光度計で吸光度を読み取り検量線を作成し、検量線から各サンプルの力価を算出した。
また、モノクローナル抗体水溶液(M−1)〜(M−10)及び(M’−1)〜(M’−5)を恒温槽でインキュベートする前に上記と同様に測定し、別途力価を算出した。
力価の保持率は、以下の式で計算した。

力価の保持率=(インキュベート後の力価)/(インキュベート前の力価)×100
【0124】
上記実施例及び比較例の力価の保持率を表3に示す。
【0125】
【表3】

【0126】
従来から使用されている安定化剤を用いた比較例11〜13は、抗体含有水溶液の安定化効果がまだ不十分であることがわかる。また、アルギニンの無機酸塩を使用した比較例14及びアルギニンのアルキルエステルを使用した比較例15では、安定化効果が高まり、比較例11〜13に比べて力価の保持率が改善されるものの、依然として十分な効果が得られなかった。一方、アルギニン等のα−アミノ酸のα−アミノ基及びα−カルボキシル基を置換した本発明の化合物及びその塩を使用した実施例29〜38の安定化剤の力価の保持率は非常に高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のタンパク質含有水溶液のの安定化剤は、水溶液中のタンパク質を安定化し活性を長期間低下させないので、医薬品、食品、および生化学の分野において有効に使用することができる。たとえば、タンパク医薬品液体製剤、酵素液体製剤、工業用酵素水溶液、液体洗剤、飲料、診断薬用の測定試薬、タンパク質の標準液などに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質を含んでなる水溶液の安定化剤であって、下記一般式(1)で表される化合物(A)及び/又はその塩(B)を含んでなるタンパク質含有水溶液の安定化剤。
【化1】

[式(1)中、有機基Xは、下記一般式(2)で表されるエステル基又は一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基を表す。有機基Yは、下記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基又は一般式(5)で表されるイミノ基を表す。R1はα−アミノ酸の側鎖を表す。R2は、炭素数1〜36の炭化水素基、又は多価アルコールもしくは糖から1つの水酸基を除いた残基を表し、R3〜R6はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はその一部が他の官能基に置換されていてもよい。]
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項2】
化合物(A)のR1がアルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のα−アミノ酸の側鎖である請求項1に記載のタンパク質含有水溶液の安定化剤。
【請求項3】
アミノ酸がアルギニンである請求項1又は2に記載のタンパク質含有水溶液の安定化剤。
【請求項4】
酵素、組み換えタンパク質、抗体及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質を含んでなる水溶液に、下記一般式(1)で表される該化合物(A)及び/又はその塩(B)を、タンパク質の水溶液の体積に基づいて(A)及び(B)の合計濃度が0.001〜0.5mol/Lで含有させることからなるタンパク質含有水溶液の安定化方法。
【化6】

[式(1)中、有機基Xは、下記一般式(2)で表されるエステル基又は一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基を表す。有機基Yは、下記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基又は一般式(5)で表されるイミノ基を表す。R1はα−アミノ酸の側鎖を表す。R2は、炭素数1〜36の炭化水素基、又は多価アルコールもしくは糖から1つの水酸基を除いた残基を表し、R3〜R6はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はその一部が他の官能基に置換されていてもよい。]
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【請求項5】
酵素、組み換えタンパク質、糖タンパク質及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質を含んでなる水溶液に、下記一般式(1)で表される該化合物(A)及び/又はその塩(B)を、タンパク質の水溶液の体積に基づいて(A)及び(B)の合計濃度が0.001〜0.5mol/Lで含有させてなるタンパク質含有水溶液。
【化11】

[式(1)中、有機基Xは、下記一般式(2)で表されるエステル基又は一般式(3)で表されるN−アルキルアミド基を表す。有機基Yは、下記一般式(4)で表されるN−アルカノイルアミド基又は一般式(5)で表されるイミノ基を表す。R1はα−アミノ酸の側鎖を表す。R2は、炭素数1〜36の炭化水素基、又は多価アルコールもしくは糖から1つの水酸基を除いた残基を表し、R3〜R6はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はその一部が他の官能基に置換されていてもよい。]
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】