タービンハウジング
【課題】スクロール本体を薄肉化した場合でも、熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止することができるタービンハウジングを提供する。
【解決手段】可変ノズルベーン20付きターボチャージャー用のタービンハウジングは、環状トンネル状の排気ガス通路11を区画形成するスクロール本体1と、スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジ3と、スクロール本体の中央域且つ排気ガス出口12の近傍に設けられたノズル壁面フランジ5と、両フランジ3,5を相互連結するための連結リング8とを備えている。連結リング8は、その周方向に延びる複数の通気スリットSと、これら複数の通気スリットS間に存在する複数の柱状連結部81とを有している。
【解決手段】可変ノズルベーン20付きターボチャージャー用のタービンハウジングは、環状トンネル状の排気ガス通路11を区画形成するスクロール本体1と、スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジ3と、スクロール本体の中央域且つ排気ガス出口12の近傍に設けられたノズル壁面フランジ5と、両フランジ3,5を相互連結するための連結リング8とを備えている。連結リング8は、その周方向に延びる複数の通気スリットSと、これら複数の通気スリットS間に存在する複数の柱状連結部81とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャーにおける排気タービン用のハウジング(いわゆるタービンハウジング)に関する。特に、ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タービンハウジングは鋳物製が一般的であったが、鋳物製のタービンハウジングには種々の欠点があった。例えば、イ:概して形状が複雑なタービンハウジングでは鋳造不良がでやすい、ロ:一般的に鋳造性がよくない高耐熱性材料を使用した場合に鋳造不良がでやすい、ハ:鋳物製品は重量が重く車載には不利である、等の欠点があった。このため、例えばタービンハウジングを二分割し、それぞれの分割ケーシングを金属板材のプレス加工品とすることで、複雑な形状への対応、高耐熱性材料の使用、ハウジング本体の軽量化を可能にすることも提案されている(特許文献1参照)。当初は、鋳物製品の欠点を解消するためにタービンハウジングの脱鋳物化が提案されたのであるが、近年では自動車用エンジンの低温始動時における排気ガス浄化触媒の早期活性化を図るという観点から、排気系部品の一種であるタービンハウジングについても薄肉化による低熱容量化が求められるようになっている。
【0003】
ところで、ターボチャージャーの分野においては、タービンハウジングのスクロール本体によって区画形成される環状の排気ガス通路と、排気タービンとの間に可変ノズルベーンを配設し、この可変ノズルベーンの開度(具体的には各ベーンの傾角)をエンジンの運転状況等に応じて調節することにより、排気タービンに作用する排気ガスの流速又は流量を調節可能とした可変ノズルベーン付きターボチャージャーが知られている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭55−37508号公報
【特許文献2】特開平1−267303号公報(従来の技術の欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにタービンハウジングは薄肉化の方向にあるが、その反面、ハウジングの薄肉化は機械的剛性の低下をもたらす。このため、ターボチャージャーの運転時にタービンハウジングが自ら熱変形(あるいは周辺部品の熱変形の影響を受けて変形)する結果、タービンハウジングの内周部と排気タービンの外周部との間のクリアランス(「チップクリアランス」と呼ばれる)が変化し、過給性能に悪影響を及ぼすという問題を生じ得る。特にノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングでは、ノズルベーンを位置決めすべくハウジングの中央域に設けられたノズル壁面フランジと、排気タービンとの間に確保されるチップクリアランスの変化が、過給性能に重大な影響を及ぼす。
【0006】
本発明の目的は、スクロール本体を薄肉化した場合でも、熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止することができるタービンハウジングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、ノズルベーン付きターボチャージャーに関する次のような知見及び着想に基づいて本発明を完成させた。即ち、ノズルベーン付きターボチャージャーでは、タービンハウジング内でのガス流れは、スクロール本体により区画される環状トンネル状排気ガス通路の断面積よりもノズルベーンによるガス流制御によって専ら支配されるため、排気ガスの熱によってスクロール本体が多少熱変形したとしても、本来ならば、それによって過給性能は影響されないはずである。しかし、ノズルベーン付きターボチャージャーにおいては、排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対してタービンハウジングを接続するための継手部としてのベアリングハウジング側フランジと、ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするためのノズル壁面フランジとの間の配置関係又は寸法関係が、過給性能に重大な影響を及ぼすチップクリアランスを決定付けている。しかも、従来のタービンハウジングでは、スクロール本体(のみ)を介してベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとが連結関係にあったため、スクロール本体の熱変形等がベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの相対配置関係を撹乱する要因となっていた。このため、スクロール本体の熱変形等に伴い、チップクリアランスが変化し、過給性能が低下するという事態を招いた。そこで本発明では、スクロール本体(又は周辺部品)が熱変形を起こしたとしても、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの配置関係が極力維持されるように工夫した。
【0008】
請求項1の発明は、ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための複数の柱状連結部とを備えることを特徴とするタービンハウジングである。
【0009】
請求項1によれば、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとを複数の柱状連結部で連結することで、これらの機械的剛性及び寸法安定性を高めている。このため、排気ガスの熱でタービンハウジングのスクロール本体及び/又はタービンハウジングの周辺部品が熱変形を起こしたとしても、柱状連結部によって相互連結されたベアリングハウジング側フランジ及びノズル壁面フランジは上記熱変形の影響をあまり受けない。つまり、タービンハウジングと当該ハウジング内に組み込まれる排気タービンとの間のチップクリアランスを決定付けるところのベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの間の相対配置関係(又は寸法関係)はほとんど変化しない。このように熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止できるため、過給性能を低下させること無くスクロール本体の薄肉化(ひいては低熱容量化及び軽量化)を図ることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のタービンハウジングにおいて、前記ベアリングハウジング側フランジ、前記ノズル壁面フランジ及び前記複数の柱状連結部は、予め一体鋳造された単一の鋳造部品として形成されていることを特徴とする(図9参照)。
【0011】
請求項2によれば、ベアリングハウジング側フランジ、ノズル壁面フランジ及び複数の柱状連結部が予め一体鋳造された単一の鋳造部品として形成されている。それ故、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの間の配置関係が鋳造段階で確定し、その結果、熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止することができる。
【0012】
請求項3の発明は、ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための連結リングとを備え、前記連結リングは、周方向に延びる複数の通気スリットと、前記複数の通気スリット間に存在する複数の柱状連結部とを有することを特徴とするタービンハウジングである。
【0013】
請求項3によれば、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとを複数の柱状連結部を有する連結リングで連結することで、これらの機械的剛性及び寸法安定性を高めている。このため、排気ガスの熱でタービンハウジングのスクロール本体及び/又はタービンハウジングの周辺部品が熱変形を起こしたとしても、連結リングの柱状連結部によって相互連結されたベアリングハウジング側フランジ及びノズル壁面フランジは上記熱変形の影響をあまり受けない。つまり、タービンハウジングと当該ハウジング内に組み込まれる排気タービンとの間のチップクリアランスを決定付けるところのベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの間の相対配置関係(又は寸法関係)はほとんど変化しない。このように熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止できるため、過給性能を低下させること無くスクロール本体の薄肉化(ひいては低熱容量化及び軽量化)を図ることができる。また、複数の柱状連結部を連結リングという単一部品にひとまとめにしているので、ベアリングハウジング側フランジ及びノズル壁面フランジに対して連結リングを正確に位置決めするだけで、両フランジに対して個々の柱状連結部を一度に位置決めすることができ、複数の柱状連結部のタービンハウジングに対する組み付け性を良くすることができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3に記載のタービンハウジングにおいて、前記連結リングは、前記複数の通気スリットの一群を間に挟んだ前端側及び後端側の環状部を更に有しており、前記連結リングの一方端の環状部を前記ベアリングハウジング側フランジの内周部に溶接すると共に、前記連結リングの他方端の環状部を前記ノズル壁面フランジの外周部に溶接したことを特徴とする。
【0015】
請求項4によれば、連結リングの一方端の環状部をベアリングハウジング側フランジの内周部に溶接すると共に、連結リングの他方端の環状部をノズル壁面フランジの外周部に溶接したことで、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとが相互連結される。
【0016】
請求項5の発明は、請求項3に記載のタービンハウジングにおいて、前記ベアリングハウジング側フランジにおける前記スクロール本体に面した部位を全周にわたって覆うためのリング形状のベアリングハウジング側フランジカバーを更に備え、このベアリングハウジング側フランジカバーは、当該フランジカバーと前記ベアリングハウジング側フランジとの間に環状の断熱空間を区画形成し、且つ前記スクロール本体と共に前記環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するものであり、前記ベアリングハウジング側フランジカバーと前記連結リングとは、予め一体成形された単一の部品として形成されていることを特徴とする(図10及び図11参照)。
【0017】
請求項5によれば、ベアリングハウジング側フランジカバーと連結リングとを予め一体成形した単一の部品とすることで、部品点数の減少を図ることができる。なお、ベアリングハウジング側フランジには、当該フランジにおけるスクロール本体に面した部位を全周にわたって覆うリング形状のベアリングハウジング側フランジカバーが装着され、その結果、ベアリングハウジング側フランジカバーとベアリングハウジング側フランジとの間には環状の断熱空間が区画形成される。このため、当該フランジカバーにガイドされながら環状トンネル状排気ガス通路を流れる高温の排気ガスは、ベアリングハウジング側フランジに直接接触することがない。それ故、ベアリングハウジング側フランジの構成材料として、高価な高耐熱材料ではなく、比較的安価な通常グレードの材料を使用することができる。また、熱容量が比較的大きいベアリングハウジング側フランジに高温の排気ガスが直接当たらないことによって排気ガスの温度低下が抑制されるため、エンジンの冷間始動時における早期暖機や排気ガス浄化触媒の早期活性化を図りやすい。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記複数の柱状連結部の各々はその横断面形状が扇形をなしており、各柱状連結部の一側面には、扇形横断面の一側辺に沿った排気ガス誘導用の傾斜面が、ターボ軸中心(C)と当該傾斜面の内側エッジ(E1)とを結ぶ半径方向線に対し30°〜60°の傾斜角(θ)を持つように形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6によれば、各柱状連結部の一側面に形成された排気ガス誘導用の傾斜面は、排気ガスの流れをガイドする。このため、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路から、複数の柱状連結部の間(つまり通気スリット)を経由してノズルベーンに到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を小さくでき、柱状連結部を設けたことによる過給効率の低下を極力防止することができる。
【0020】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記複数の柱状連結部は、前記スクロール本体及び/又は前記ノズル壁面フランジに複数形成されたノズルベーン取り付け用ボルト孔の近傍にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0021】
請求項7によれば、各柱状連結部をノズルベーン取り付け用ボルト孔の近傍に設けることで、取り付けボルトを用いてノズルベーンをタービンハウジングに装着した場合でも、複数の柱状連結部の間(つまり通気スリット)の開口面積が比較的広く確保される。このため、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路から、複数の柱状連結部の間(つまり通気スリット)を経由してノズルベーンに到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を小さくでき、柱状連結部を設けたことによる過給効率の低下を極力防止することができる。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記環状トンネル状の排気ガス通路は、その全周にわたって断面積及び断面形状が共にほぼ一定となるように形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項8によれば、環状トンネル状排気ガス通路の一部分がボトルネックとなってノズルベーンの効果が減殺されることが防止され、ターボチャージャーの過給性能を向上させることが可能になる(詳細は後述)。
【発明の効果】
【0024】
各請求項に記載のノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングによれば、スクロール本体を薄肉化した場合でも、熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に従う可変ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングを図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1〜図6に示すように、本実施形態のタービンハウジングは、スクロール本体1、出口フランジ2、ベアリングハウジング側フランジ3、入口フランジ4、ノズル壁面フランジ5、環状補強部材6、ベアリングハウジング側フランジカバー7及び連結リング8を備えている。なお、各図に示した中心軸線Cは、タービンハウジング及びスクロール本体1に共通の中心軸線であると共に、ターボチャージャーにおけるターボ軸中心でもある。
【0027】
図1〜図3に示すように、スクロール本体1は、正面視がほぼ円形状をなすと共に、中心軸線Cを包含するような任意の仮想断面において中心軸線Cに対し高い対称性を持った形状となっている。図2に示すように、スクロール本体1は、あたかもドーナツのように膨らんだ略リング形状をなす外周部1aと、その略リング状外周部1aの径方向内側領域であるスクロール本体中心域に位置する出口孔周辺壁1bとを有している。スクロール本体の略リング状外周部1aは、後述するベアリングハウジング側フランジカバー7と共に環状トンネル状の排気ガス通路11を区画形成する。また、スクロール本体の出口孔周辺壁1bは、前記略リング状外周部1aの正面側内周部から中心軸線Cに向かって(つまりタービンハウジングの半径方向に)鍔状に延設されており、中心軸線Cに対してほぼ直交している。なお、スクロール本体1は、例えばステンレス鋼板をプレスして得た半割り部品を重ね合わせ接合又は突合せ接合して溶接することにより得られる板金製品、又は、中空な金属素材を液圧成形(ハイドロフォーミング)することにより得られる一体成形品として提供される。スクロール本体1の肉厚は、好ましくは0.8〜2.5mmである。
【0028】
スクロール本体1の出口孔周辺壁1bの中央部には、出口孔周辺壁1bの内周端部によって円形状の出口孔12が区画形成されている。この出口孔12は、スクロール本体1の中央部正面に開口したタービンハウジングからの排気ガス出口である。そして図1(A)及び図2に示すように、出口孔周辺壁1bの正面側には、環状補強部材6を介して出口フランジ2が装着されている。より具体的には、環状補強部材6は、出口孔12とほぼ同径の中心軸線Cに沿って延びる円筒状首部6aと、その円筒状首部6aの基端部からタービンハウジングの半径方向外向きに延びる鍔状スカート部6bとを少なくとも有している。そして、スクロール本体の出口孔周辺壁1bの正面側に鍔状スカート部6bを接合した状態で全周溶接(図2のW1及びW2)を施すことにより、環状補強部材6がスクロール本体1に対し溶接固定されている。また、環状補強部材の円筒状首部6aの先端部付近に略リング形状の出口フランジ2を外嵌した状態で全周溶接(W3)を施すことにより、スクロール本体1及び環状補強部材6に対し出口フランジ2が溶接固定されている。なお、出口フランジ2は、タービンハウジングの出口孔12に対し、タービンハウジングよりも下流側の外部配管(例えばエルボ等)を接続するためのフランジ継手(継手部)である。
【0029】
図1(C)及び図2に示すように、スクロール本体1の略リング状外周部1aの背面側内周縁の内側領域には、略リング形状のベアリングハウジング側フランジ3(「センターハウジング側フランジ」ともいう)が設けられている。このベアリングハウジング側フランジ3は、ターボチャージャーのベアリングハウジングに対してタービンハウジングを接続固定するためのフランジ継手(継手部)の役割と、可変ノズルベーン20及び/又は排気タービンT(図2に二点鎖線で示す)をラジアル方向に位置決めするための規制部としての役割とを担う。
【0030】
図2に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3には、当該フランジ3におけるスクロール本体1に面した正面側部位を全周にわたって覆うためのベアリングハウジング側フランジカバー7が装着されている。このフランジカバー7は概してリング形状をなすと共に、フランジカバー7の外周部7aは中心軸線Cを中心とする短円筒リング形状に形成されている。フランジカバー7の構成素材としては、スクロール本体1の構成素材と同等又はそれ以上の高耐熱材(例えばフェライト系ステンレス鋼)を使用することが好ましい。フランジカバー7の厚さは、好ましくは0.5〜3.0mmである。そして、フランジカバー7の外周部7aは、ベアリングハウジング側フランジ3の環状外周部の外側面に外嵌された状態で全周溶接(W4)されることにより、フランジ3の環状外周部に対して溶接固定されている。また、フランジカバー7の内周部7bは、ベアリングハウジング側フランジ3の環状前端部に当接した状態で全周溶接(W5)されることにより、フランジ3の環状前端部に対して溶接固定されている。その結果、フランジカバー7とベアリングハウジング側フランジ3との間には環状の断熱空間10が確保されている。
【0031】
更に本実施形態では、スクロール本体1の外周部1aの背面側内周縁がフランジカバー7の外周部7aに対し全周溶接(W4)されることにより、スクロール本体1とフランジカバー7とが連結されている。その結果、スクロール本体の外周部1aとフランジカバー7とが共同して環状トンネル状の排気ガス通路11を区画している。即ち、ベアリングハウジング側フランジ3におけるスクロール本体1に面した正面側部位を全周にわたって覆うリング形状のフランジカバー7は、排気ガス通路11に沿った排気ガスの流れをガイドするための排気ガス通路区画壁としての役割と、高温の排気ガスがベアリングハウジング側フランジ3に直接接触するのを防止するガス遮断壁としての役割とを担う。
【0032】
図1及び図3に示すように、スクロール本体1の側部(図3では上端部)には、排気ガス入口としての入口孔13が形成され、その入口孔13を区画しているスクロール本体1の壁部の外側には、入口フランジ4が設けられている。入口フランジ4は、タービンハウジングの入口孔13に対し、タービンハウジングよりも上流側の外部配管(図示略)を接続するためのフランジ継手(継手部)である。更に図3に示すように、スクロール本体1の排気ガス通路11内であって入口孔13の内側には、湾曲したガイド壁14aを備えたガイド部材14が設けられている。ガイド部材14はその湾曲したガイド壁14aによって、入口孔13に進入した排気ガスを環状トンネル状排気ガス通路11の一方の側に導くことで、当該排気ガス通路11内に一方向のガス流れを作り出す働きをする。なお、ガイド部材14は、スクロール本体1内に区画形成された環状トンネル状排気ガス通路11の入口位置(環状トンネルの始点)と、環状トンネル状排気ガス通路11の巻終り位置(環状トンネルの終点)との境をなす仕切り材でもある。
【0033】
本実施形態における環状トンネル状排気ガス通路11は、その全周にわたって通路の断面積がほぼ一定であり且つ通路の断面形状もほぼ一定となるように形成されている。即ち図7のグラフに示すように、環状トンネル状排気ガス通路11の入口位置(0°の位置)から巻終り位置(360°の位置)に到るまでの全周にわたるどの位置においても、通路断面積が一定となっている。これに対し、比較例(従来型の徐変断面形状のタービンハウジング)では、排気ガス通路の入口位置から巻終り位置に向かうに従い、通路断面積が徐々に減少する傾向にある。
【0034】
図2に示すように、スクロール本体1の中央域であって出口孔周辺壁1bの内壁面側には、円板状リング形状のノズル壁面フランジ5が設けられている。ノズル壁面フランジ5は、出口孔周辺壁1bに接合した状態で全周溶接(W1)を施すことにより、スクロール本体1に一体化されている。ノズル壁面フランジ5は、スクロール本体1に対して可変ノズルベーン20(二点鎖線で示す)をスラスト方向に位置決めするための規制部としての役割と、可変ノズルベーン20を構成する複数のベーン21(破線で示す)に隣接してベーン間通路の区画形成に関与するベーン間通路区画壁としての役割とを担う。
【0035】
図2に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5とはスラスト方向に所定間隔を隔てて離間配置されるため、フランジ3の環状前端部とノズル壁面フランジ5の外周部との間には環状の隙間が確保される。この環状の隙間を介して環状トンネル状排気ガス通路11と、タービンハウジングの内部中央域に設定される排気タービンT(二点鎖線で示す)の収容室15とが連通可能となっている。なお、排気タービン収容室15に排気タービンTを収容したとき、排気タービンTの外周部とノズル壁面フランジ5の内周部との間には、スラストクリアランスC1(「入口側クリアランス」ともいう)及びラジアルクリアランスC2(「出口側クリアランス」ともいう)が確保される。これらのクリアランスC1,C2こそが、タービンハウジングと排気タービンTとの間のチップクリアランスに相当する。
【0036】
図1(A),(C)及び図3に示すように、タービンハウジングの正面側多重壁を構成すべく重ね合わされた環状補強部材6の鍔状スカート部6b、スクロール本体1の出口孔周辺壁1b及びノズル壁面フランジ5には、当該タービンハウジングに可変ノズルベーン20を取り付けるためのボルト孔16が複数(本例では3つ)貫通形成されている。
【0037】
図2及び図3に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5との間には、金属製の短円筒状リング形状の連結リング8が介装されると共に、この連結リング8によって両フランジ3,5は相互に連結されている。より具体的には図5及び図6に示すように、連結リング8は、周方向に延びる複数の通気スリットS(本例では3条)と、これらの通気スリットS間に存在する複数の柱状連結部81(本例では3柱)と、一群の通気スリットSを挟んでその前後にそれぞれ位置する前端側環状部82及び後端側環状部83とを有している。つまり、前端側環状部82と後端側環状部83とは3つの柱状連結部81を介して相互連結されている。なお、通気スリットSは、排気タービン収容室15を含むタービンハウジングの中央域と、環状トンネル状排気ガス通路11とを連通させる径方向排気ガス通路を提供する。
【0038】
そして、連結リングの前端側環状部82がノズル壁面フランジ5の外周部に対し全周溶接(W6)されると共に、連結リングの後端側環状部83が、ベアリングハウジング側フランジ3の内周部に形成された環状段差部3aに係合され且つ当該フランジ3の内周部に対し全周溶接(W7)されることで、連結リング8(より本質的には連結リングの柱状連結部81)は、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5とを強固に連結している。連結リング8の肉厚は、好ましくは1.0〜5.0mmである。連結リング8を比較的厚手にすることで強度や耐熱性を向上させたい場合には、例えば厚さ2mmの板状リングを2枚重ね合わせて厚さ4mmの連結リング8としてもよい。
【0039】
図3、図4及び図6に示すように、柱状連結部81の各々は、その横断面形状が扇形をなすように形成されている。そして、各柱状連結部81の両側面(即ち扇形横断面における内側円弧及び外側円弧以外の二側辺に沿った側面)には、排気ガス誘導用の傾斜面84が形成されている。この排気ガス誘導用の傾斜面84は、扇形横断面における内側円弧の一端につながる内側エッジE1と、扇形横断面における外側円弧の一端につながる外側エッジE2とを有している。傾斜面84は、ターボ軸中心Cと傾斜面84の内側エッジE1とを結ぶ半径方向線に対して所定の傾斜角θを持つように形成されている。
【0040】
傾斜面84の傾斜角θは、連結リング8の内側領域に配設されることになる可変ノズルベーン20の開度(より具体的にはベーン21の取付け角度及びその角度可変範囲)との関係を考慮して決定される。本実施形態では、傾斜面84の傾斜角θを約45°に設定したが、傾斜角θは30°〜60°の範囲に設定されることが好ましい。というのも、傾斜角θが30°よりも小さいと、傾斜面84による排気ガスの誘導効果が低くなり、柱状連結部81を設けたことがタービンハウジング内の通気抵抗を増大させる原因となり得る。他方、傾斜角θが60°よりも大きいと、傾斜面84による排気ガスの誘導効果が低くなるのみならず、柱状連結部81の柱幅が広がることで通気スリットSの通気断面積を相対的に小さくする結果となり、タービンハウジング内の通気抵抗を過度に増大させるおそれがある。
【0041】
連結リング8をタービンハウジング内に固定する際には、連結リングの3つの柱状連結部81がそれぞれノズル壁面フランジ5及びスクロール本体1に貫通形成された3つの可変ノズルベーン取付け用ボルト孔16の近傍に位置するように、連結リング8がスクロール本体1に対して位置決めされる。具体的には図4に示すように、各柱状連結部81の扇型横断面における内側円弧(二つの傾斜面84の内側エッジE1,E1を結ぶ円弧)が前記ボルト孔16に対面するように、あるいは、ターボ軸中心Cと前記ボルト孔16の中心とを結ぶ半径方向線の延長上に各柱状連結部81が位置するように、連結リング8が位置決めされる。また、各柱状連結部81の周方向柱幅の最小値(つまり図4における内側エッジE1,E1間の距離又は間隔)は、前記ボルト孔16の直径(つまり取付けボルトの径)とほぼ同等又はそれ以下に設定されている。
【0042】
本実施形態では、連結リングの柱状連結部81を横断面扇形の柱形状としたこと、柱状連結部81の側部に傾斜角θの排気ガス誘導用傾斜面84を形成したこと、柱状連結部81を可変ノズルベーン取付け用ボルト孔16の近傍に配置したこと、及び、柱状連結部81の周方向柱幅の最小値をボルト孔16の直径(即ち取付けボルトの径)とほぼ同等又はそれ以下に設定したことの相乗効果により、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路11から通気スリットSを経由して可変ノズルベーン20に到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を極力小さくしている。
【0043】
ところで、本実施形態のタービンハウジングは、ターボチャージャーの排気タービン部において、当該タービンハウジング内に可変ノズルベーン20が組み込まれた状態で使用される。ターボチャージャーの稼動時、エンジンからの排気ガスは、入口孔13を介して環状トンネル状排気ガス通路11に進入し、ガイド部材14に導かれて当該通路11内を一方向に流れる。排気ガス通路11を流れる排気ガスは、通気スリットS及び可変ノズルベーン20のベーン間通路を通ってタービンハウジングの中心域に配設された排気タービンTに作用し、その後、出口孔12を通って下流側に排出される。排気タービンTに作用する排気ガスの流量又は流速は、可変ノズルベーン20の開度(つまりベーン21の傾角に対応するベーン間通路の連通断面積)を調節することによって制御される。即ち、エンジンの低速回転時(排気ガス流量小の時)には、可変ノズルベーン20の開度を絞ることにより、ベーン間通路を通過する排気ガスの流速を高めて過給圧を増大させる。他方、エンジンの高速回転時(排気ガス流量大の時)には、可変ノズルベーン20の開度を大きく開くことにより、排気抵抗を低減し、ベーン間通路を通過する排気ガス流量を増大させて過給圧を増大させる。
【0044】
エンジンの低速回転時には可変ノズルベーン20の開度を絞るような制御がなされるため、タービンハウジングの排気ガス通路11の断面積及び断面形状が全周にわたってほぼ一定であるか、それとも徐変断面形状が採用されているかは、過給性能にほとんど影響を及ぼさない。これに対し、エンジンの高速回転時には、可変ノズルベーン20の開度を大きく開くような制御がなされるため、タービンハウジングの排気ガス通路11の断面積及び断面形状が全周にわたってほぼ一定であるか、それとも徐変断面形状が採用されているかは、過給性能に大きく影響する。
【0045】
例えば、徐変断面形状を採用する従来のタービンハウジング(図7の比較例)の場合には、タービンハウジングの排気ガス通路11の一部に、可変ノズルベーン20の最大開度よりも通路断面積が狭くなる部位(狭断面部)があり、そのために、タービンハウジングを経由するガス流れは、可変ノズルベーン20の開度ではなく排気ガス通路11中の上記狭断面部の通路断面積によって支配される。つまり、排気ガス通路11中の狭断面部がターボチャージャーの排気タービン部における圧力損失の大きさを決定付け、過給性能をかなり低下させてしまう。これに対し本実施形態では、排気ガス通路11の断面積及び断面形状が全周にわたってほぼ一定であるため、排気ガス通路11の通路断面積を可変ノズルベーン20の最大開度よりも予め大きくしておくことができる。それ故、可変ノズルベーン20の開度の変更可能範囲に対応した過給圧制御を実現できると共に、図7の比較例に比べ、可変ノズルベーン20の最大開度時における排気タービン部の圧力損失を小さくして過給性能を向上させることができる。
【0046】
上記の考察を裏付けるべく、本実施形態及び比較例にそれぞれ従うタービンハウジングの特性評価を行った。具体的には、本実施形態のタービンハウジングを使用した可変ノズルベーン付きターボチャージャーと、従来のタービンハウジング(図7の比較例)を使用した可変ノズルベーン付きターボチャージャーとを用意し、それぞれを同型のエンジンに組み付けた。そして、それぞれのエンジンにつきエンジン全負荷性能評価試験を行った。この評価試験では、エンジン回転数と可変ノズルベーン20の開度との関係が同一条件となるように条件統一して、二つのターボチャージャーの過給性能を比較可能とした。図8はその評価試験の結果をグラフ化したものである。図8の横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジン出力を示す。前述のように、ターボチャージャー付きエンジンでは、エンジンの低速回転時には可変ノズルベーン20の開度は絞られ、その低速回転時よりもエンジン回転数が高速になるに伴い可変ノズルベーン20の開度が大きく開かれる。当然のことながら、同一エンジン回転数においてエンジン出力が高い方が、ターボチャージャーの過給性能がより優れていると評価される。
【0047】
図8からわかるように、エンジン回転数が低速から中速の範囲では(つまり可変ノズルベーン20の開度が絞られているときには)、本実施形態と比較例とでエンジン出力にほとんど違いはない。ところが、エンジン回転数が中速から高速の範囲では(つまり可変ノズルベーン20の開度が大きく開かれているときには)、本実施形態のタービンハウジングを使用したターボチャージャー付きエンジンのエンジン出力は比較例を常に上回っている。つまり、可変ノズルベーン20の開度が大きくなるとき(エンジンの高速回転時)には、明らかに比較例よりも本実施形態の方が優れた過給性能を示した。図8の結果は、上述の考察を裏付けるものである。
【0048】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5とを複数の柱状連結部81を有する連結リング8で直接連結することで、これらの機械的剛性及び寸法安定性を高めている。このため、排気ガスの熱でスクロール本体1やタービンハウジングの周辺部品(例えばエキゾーストマニホールドやターボエルボ等)が熱変形を起こしたとしても、連結リングの柱状連結部81によって相互連結されたベアリングハウジング側フランジ3及びノズル壁面フランジ5は上記熱変形の影響をあまり受けない。つまり、タービンハウジングと排気タービンTとの間のチップクリアランスC1,C2を決定付けているところのベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5との間の相対配置関係又は寸法関係はほとんど変化しない。このように本実施形態によれば、熱変形等によるチップクリアランスC1,C2の変化を極力防止することができる。また、スクロール本体1が熱変形した場合でもチップクリアランスC1,C2の変化を防止できるという長所を利用すれば、スクロール本体1を薄肉化してタービンハウジングの軽量化及び低熱容量化を図ることや、スクロール本体1の構成素材をより安価なものにすることでコスト低減を図ることが可能になる。
【0049】
本実施形態では、複数の柱状連結部81を連結リング8という単一部品にひとまとめにしているので、ベアリングハウジング側フランジ3及びノズル壁面フランジ5に対して連結リング8を正確に位置決めするだけで、両フランジ3,5に対して個々の柱状連結部81を一度に位置決めすることができ、複数の柱状連結部81のタービンハウジングに対する組み付け性を良くすることができる。
【0050】
本実施形態では、環状トンネル状排気ガス通路11と排気タービン収容室15とをつなぐガス流路の途中に、障害物(通気抵抗の増大原因)となる柱状連結部81が存在していることになる。しかしながら上述のように、連結リングの柱状連結部81を横断面扇形の柱形状としたこと、柱状連結部81の側部に傾斜角θの排気ガス誘導用傾斜面84を形成したこと、柱状連結部81を可変ノズルベーン取付け用ボルト孔16の近傍に配置したこと、及び、柱状連結部81の周方向柱幅の最小値をボルト孔16の直径(即ち取付けボルトの径)とほぼ同等又はそれ以下に設定したことの相乗効果により、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路11から通気スリットSを経由して可変ノズルベーン20に到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を極力小さくできる。それ故、タービンハウジング内部に柱状連結部81を設けたことがターボチャージャーの過給性能の低下につながることは無く、上述のように熱変形等によるチップクリアランスC1,C2の変化を防止できるというプラス面が大きいので、柱状連結部81無しの従来構造の場合よりもむしろ過給性能が向上又は安定化する。
【0051】
本実施形態によれば、環状トンネル状排気ガス通路11をその全周にわたって断面積及び断面形状がほぼ一定となるように形成しているので、排気ガス通路11の各位置における通路断面積を、当該位置に対応するベーン間通路の最大開き時の通路断面積よりも大きく設定することができる。それ故、環状トンネル状排気ガス通路11の一部分がボトルネックとなってノズルベーンの効果が減殺されることが防止され、ターボチャージャーの過給性能を比較例よりも向上させることができる。特に図8に示すように、可変ノズルベーン20が開き傾向にあるときには、エンジン出力を比較例よりも高めることができる。
【0052】
また、環状トンネル状排気ガス通路11を断面積のみならず断面形状についても当該排気ガス通路11の全周にわたってほぼ一定となるように形成したことで、中心軸線Cに対するスクロール本体1の対称性が非常に高められ、ターボチャージャーの稼動時にタービンハウジングが熱膨張を起こしたとしても、その熱膨張は中心軸線Cを中心として全ての方向にほぼ均等なものになる。従って、熱膨張の不均一性(又は非等方位性)に起因してタービンハウジングが中心軸線Cに対して傾斜変形し、その結果、タービンハウジングと排気タービンTとが干渉し合うというような機械的障害を生じ難い。また、上記のようにスクロール本体1が全方位に均等な熱変形特性を有することは、スクロール本体1の薄肉化を容易にし、熱容量の小さなターボチャージャーを構築し易くする。
【0053】
ベアリングハウジング側フランジ3におけるスクロール本体外周部1aに面した部位を全周にわたって覆うリング形状のフランジカバー7を設けて、高温の排気ガスがベアリングハウジング側フランジ3に直接接触しないようにしたので、ベアリングハウジング側フランジ3の構成材料として、高価な高耐熱材料ではなく、比較的安価な材料(例えば通常グレードの鉄系金属)を使用することができる。また、熱容量が比較的大きいベアリングハウジング側フランジ3に高温の排気ガスが直接当たらないようにしたので、タービンハウジング内を流れる排気ガスの温度低下を極力抑制でき、その結果として、エンジンの冷間始動時における早期暖機や排気ガス浄化触媒の早期活性化を図ることができる。
【0054】
[変更例]上記実施形態では、タービンハウジングの組み立て段階で、ベアリングハウジング側フランジ3及びノズル壁面フランジ5を、スリットS間に柱状連結部81を有する連結リング8により連結する構造としたが、図9に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3、ノズル壁面フランジ5及び複数の柱状連結部81を予め一体鋳造した単一の鋳造部品として準備してもよい。この場合、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5との間の配置関係は鋳造段階でほぼ確定する。
【0055】
[変更例]図10及び図11に示すように、ベアリングハウジング側フランジカバー7及び連結リング8を予め一体成形した単一の部品として準備することで、組立時の部品点数の減少を図ってもよい。その場合、特に図11に示すように、フランジカバー7の内周部分につながる板状円筒部を折り返し加工による二枚重ね構造としながら連結リング8部分を一体成形することは好ましい。連結リング8部分を二枚重ね構造とすることで、連結リング8の柱状連結部81の肉厚が増し強度アップが図られる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】タービンハウジングの一例を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図。
【図2】図1(A)のA−A線における半径方向断面図。
【図3】図1(B)のB−B線における断面図。
【図4】柱状連結部の横断面形状及びその近傍の概略を示す拡大図。
【図5】短円筒形状の連結リングの全体を示す斜視図。
【図6】短円筒形状の連結リングの一部を示す部分斜視図。
【図7】環状トンネル状排気ガス通路の各位置と通路断面積との関係を示すグラフ。
【図8】エンジン全負荷性能評価試験の結果を示すグラフ。
【図9】変更例(その1)における一体鋳造部品を示す斜視図。
【図10】変更例(その2)における一体成形部品を示す斜視図。
【図11】変更例(その2)における図2相当の半径方向断面図。
【符号の説明】
【0057】
1…スクロール本体、2…出口フランジ、3…ベアリングハウジング側フランジ、4…入口フランジ、5…ノズル壁面フランジ、7…ベアリングハウジング側フランジカバー、8…連結リング、10…環状の断熱空間、11…環状トンネル状の排気ガス通路、12…出口孔(排気ガス出口)、13…入口孔(排気ガス入口)、16…可変ノズルベーン取付け用ボルト孔、20…可変ノズルベーン、81…柱状連結部、82…前端側環状部、83…後端側環状部、84…排気ガス誘導用の傾斜面、C…中心軸線(ターボ軸中心)、E1…傾斜面の内側エッジ、E2…傾斜面の外側エッジ、S…通気スリット、T…排気タービン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャーにおける排気タービン用のハウジング(いわゆるタービンハウジング)に関する。特に、ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タービンハウジングは鋳物製が一般的であったが、鋳物製のタービンハウジングには種々の欠点があった。例えば、イ:概して形状が複雑なタービンハウジングでは鋳造不良がでやすい、ロ:一般的に鋳造性がよくない高耐熱性材料を使用した場合に鋳造不良がでやすい、ハ:鋳物製品は重量が重く車載には不利である、等の欠点があった。このため、例えばタービンハウジングを二分割し、それぞれの分割ケーシングを金属板材のプレス加工品とすることで、複雑な形状への対応、高耐熱性材料の使用、ハウジング本体の軽量化を可能にすることも提案されている(特許文献1参照)。当初は、鋳物製品の欠点を解消するためにタービンハウジングの脱鋳物化が提案されたのであるが、近年では自動車用エンジンの低温始動時における排気ガス浄化触媒の早期活性化を図るという観点から、排気系部品の一種であるタービンハウジングについても薄肉化による低熱容量化が求められるようになっている。
【0003】
ところで、ターボチャージャーの分野においては、タービンハウジングのスクロール本体によって区画形成される環状の排気ガス通路と、排気タービンとの間に可変ノズルベーンを配設し、この可変ノズルベーンの開度(具体的には各ベーンの傾角)をエンジンの運転状況等に応じて調節することにより、排気タービンに作用する排気ガスの流速又は流量を調節可能とした可変ノズルベーン付きターボチャージャーが知られている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭55−37508号公報
【特許文献2】特開平1−267303号公報(従来の技術の欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにタービンハウジングは薄肉化の方向にあるが、その反面、ハウジングの薄肉化は機械的剛性の低下をもたらす。このため、ターボチャージャーの運転時にタービンハウジングが自ら熱変形(あるいは周辺部品の熱変形の影響を受けて変形)する結果、タービンハウジングの内周部と排気タービンの外周部との間のクリアランス(「チップクリアランス」と呼ばれる)が変化し、過給性能に悪影響を及ぼすという問題を生じ得る。特にノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングでは、ノズルベーンを位置決めすべくハウジングの中央域に設けられたノズル壁面フランジと、排気タービンとの間に確保されるチップクリアランスの変化が、過給性能に重大な影響を及ぼす。
【0006】
本発明の目的は、スクロール本体を薄肉化した場合でも、熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止することができるタービンハウジングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、ノズルベーン付きターボチャージャーに関する次のような知見及び着想に基づいて本発明を完成させた。即ち、ノズルベーン付きターボチャージャーでは、タービンハウジング内でのガス流れは、スクロール本体により区画される環状トンネル状排気ガス通路の断面積よりもノズルベーンによるガス流制御によって専ら支配されるため、排気ガスの熱によってスクロール本体が多少熱変形したとしても、本来ならば、それによって過給性能は影響されないはずである。しかし、ノズルベーン付きターボチャージャーにおいては、排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対してタービンハウジングを接続するための継手部としてのベアリングハウジング側フランジと、ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするためのノズル壁面フランジとの間の配置関係又は寸法関係が、過給性能に重大な影響を及ぼすチップクリアランスを決定付けている。しかも、従来のタービンハウジングでは、スクロール本体(のみ)を介してベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとが連結関係にあったため、スクロール本体の熱変形等がベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの相対配置関係を撹乱する要因となっていた。このため、スクロール本体の熱変形等に伴い、チップクリアランスが変化し、過給性能が低下するという事態を招いた。そこで本発明では、スクロール本体(又は周辺部品)が熱変形を起こしたとしても、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの配置関係が極力維持されるように工夫した。
【0008】
請求項1の発明は、ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための複数の柱状連結部とを備えることを特徴とするタービンハウジングである。
【0009】
請求項1によれば、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとを複数の柱状連結部で連結することで、これらの機械的剛性及び寸法安定性を高めている。このため、排気ガスの熱でタービンハウジングのスクロール本体及び/又はタービンハウジングの周辺部品が熱変形を起こしたとしても、柱状連結部によって相互連結されたベアリングハウジング側フランジ及びノズル壁面フランジは上記熱変形の影響をあまり受けない。つまり、タービンハウジングと当該ハウジング内に組み込まれる排気タービンとの間のチップクリアランスを決定付けるところのベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの間の相対配置関係(又は寸法関係)はほとんど変化しない。このように熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止できるため、過給性能を低下させること無くスクロール本体の薄肉化(ひいては低熱容量化及び軽量化)を図ることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のタービンハウジングにおいて、前記ベアリングハウジング側フランジ、前記ノズル壁面フランジ及び前記複数の柱状連結部は、予め一体鋳造された単一の鋳造部品として形成されていることを特徴とする(図9参照)。
【0011】
請求項2によれば、ベアリングハウジング側フランジ、ノズル壁面フランジ及び複数の柱状連結部が予め一体鋳造された単一の鋳造部品として形成されている。それ故、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの間の配置関係が鋳造段階で確定し、その結果、熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止することができる。
【0012】
請求項3の発明は、ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための連結リングとを備え、前記連結リングは、周方向に延びる複数の通気スリットと、前記複数の通気スリット間に存在する複数の柱状連結部とを有することを特徴とするタービンハウジングである。
【0013】
請求項3によれば、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとを複数の柱状連結部を有する連結リングで連結することで、これらの機械的剛性及び寸法安定性を高めている。このため、排気ガスの熱でタービンハウジングのスクロール本体及び/又はタービンハウジングの周辺部品が熱変形を起こしたとしても、連結リングの柱状連結部によって相互連結されたベアリングハウジング側フランジ及びノズル壁面フランジは上記熱変形の影響をあまり受けない。つまり、タービンハウジングと当該ハウジング内に組み込まれる排気タービンとの間のチップクリアランスを決定付けるところのベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとの間の相対配置関係(又は寸法関係)はほとんど変化しない。このように熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止できるため、過給性能を低下させること無くスクロール本体の薄肉化(ひいては低熱容量化及び軽量化)を図ることができる。また、複数の柱状連結部を連結リングという単一部品にひとまとめにしているので、ベアリングハウジング側フランジ及びノズル壁面フランジに対して連結リングを正確に位置決めするだけで、両フランジに対して個々の柱状連結部を一度に位置決めすることができ、複数の柱状連結部のタービンハウジングに対する組み付け性を良くすることができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3に記載のタービンハウジングにおいて、前記連結リングは、前記複数の通気スリットの一群を間に挟んだ前端側及び後端側の環状部を更に有しており、前記連結リングの一方端の環状部を前記ベアリングハウジング側フランジの内周部に溶接すると共に、前記連結リングの他方端の環状部を前記ノズル壁面フランジの外周部に溶接したことを特徴とする。
【0015】
請求項4によれば、連結リングの一方端の環状部をベアリングハウジング側フランジの内周部に溶接すると共に、連結リングの他方端の環状部をノズル壁面フランジの外周部に溶接したことで、ベアリングハウジング側フランジとノズル壁面フランジとが相互連結される。
【0016】
請求項5の発明は、請求項3に記載のタービンハウジングにおいて、前記ベアリングハウジング側フランジにおける前記スクロール本体に面した部位を全周にわたって覆うためのリング形状のベアリングハウジング側フランジカバーを更に備え、このベアリングハウジング側フランジカバーは、当該フランジカバーと前記ベアリングハウジング側フランジとの間に環状の断熱空間を区画形成し、且つ前記スクロール本体と共に前記環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するものであり、前記ベアリングハウジング側フランジカバーと前記連結リングとは、予め一体成形された単一の部品として形成されていることを特徴とする(図10及び図11参照)。
【0017】
請求項5によれば、ベアリングハウジング側フランジカバーと連結リングとを予め一体成形した単一の部品とすることで、部品点数の減少を図ることができる。なお、ベアリングハウジング側フランジには、当該フランジにおけるスクロール本体に面した部位を全周にわたって覆うリング形状のベアリングハウジング側フランジカバーが装着され、その結果、ベアリングハウジング側フランジカバーとベアリングハウジング側フランジとの間には環状の断熱空間が区画形成される。このため、当該フランジカバーにガイドされながら環状トンネル状排気ガス通路を流れる高温の排気ガスは、ベアリングハウジング側フランジに直接接触することがない。それ故、ベアリングハウジング側フランジの構成材料として、高価な高耐熱材料ではなく、比較的安価な通常グレードの材料を使用することができる。また、熱容量が比較的大きいベアリングハウジング側フランジに高温の排気ガスが直接当たらないことによって排気ガスの温度低下が抑制されるため、エンジンの冷間始動時における早期暖機や排気ガス浄化触媒の早期活性化を図りやすい。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記複数の柱状連結部の各々はその横断面形状が扇形をなしており、各柱状連結部の一側面には、扇形横断面の一側辺に沿った排気ガス誘導用の傾斜面が、ターボ軸中心(C)と当該傾斜面の内側エッジ(E1)とを結ぶ半径方向線に対し30°〜60°の傾斜角(θ)を持つように形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6によれば、各柱状連結部の一側面に形成された排気ガス誘導用の傾斜面は、排気ガスの流れをガイドする。このため、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路から、複数の柱状連結部の間(つまり通気スリット)を経由してノズルベーンに到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を小さくでき、柱状連結部を設けたことによる過給効率の低下を極力防止することができる。
【0020】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記複数の柱状連結部は、前記スクロール本体及び/又は前記ノズル壁面フランジに複数形成されたノズルベーン取り付け用ボルト孔の近傍にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0021】
請求項7によれば、各柱状連結部をノズルベーン取り付け用ボルト孔の近傍に設けることで、取り付けボルトを用いてノズルベーンをタービンハウジングに装着した場合でも、複数の柱状連結部の間(つまり通気スリット)の開口面積が比較的広く確保される。このため、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路から、複数の柱状連結部の間(つまり通気スリット)を経由してノズルベーンに到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を小さくでき、柱状連結部を設けたことによる過給効率の低下を極力防止することができる。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記環状トンネル状の排気ガス通路は、その全周にわたって断面積及び断面形状が共にほぼ一定となるように形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項8によれば、環状トンネル状排気ガス通路の一部分がボトルネックとなってノズルベーンの効果が減殺されることが防止され、ターボチャージャーの過給性能を向上させることが可能になる(詳細は後述)。
【発明の効果】
【0024】
各請求項に記載のノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングによれば、スクロール本体を薄肉化した場合でも、熱変形等によるチップクリアランスの変化を極力防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に従う可変ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングを図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1〜図6に示すように、本実施形態のタービンハウジングは、スクロール本体1、出口フランジ2、ベアリングハウジング側フランジ3、入口フランジ4、ノズル壁面フランジ5、環状補強部材6、ベアリングハウジング側フランジカバー7及び連結リング8を備えている。なお、各図に示した中心軸線Cは、タービンハウジング及びスクロール本体1に共通の中心軸線であると共に、ターボチャージャーにおけるターボ軸中心でもある。
【0027】
図1〜図3に示すように、スクロール本体1は、正面視がほぼ円形状をなすと共に、中心軸線Cを包含するような任意の仮想断面において中心軸線Cに対し高い対称性を持った形状となっている。図2に示すように、スクロール本体1は、あたかもドーナツのように膨らんだ略リング形状をなす外周部1aと、その略リング状外周部1aの径方向内側領域であるスクロール本体中心域に位置する出口孔周辺壁1bとを有している。スクロール本体の略リング状外周部1aは、後述するベアリングハウジング側フランジカバー7と共に環状トンネル状の排気ガス通路11を区画形成する。また、スクロール本体の出口孔周辺壁1bは、前記略リング状外周部1aの正面側内周部から中心軸線Cに向かって(つまりタービンハウジングの半径方向に)鍔状に延設されており、中心軸線Cに対してほぼ直交している。なお、スクロール本体1は、例えばステンレス鋼板をプレスして得た半割り部品を重ね合わせ接合又は突合せ接合して溶接することにより得られる板金製品、又は、中空な金属素材を液圧成形(ハイドロフォーミング)することにより得られる一体成形品として提供される。スクロール本体1の肉厚は、好ましくは0.8〜2.5mmである。
【0028】
スクロール本体1の出口孔周辺壁1bの中央部には、出口孔周辺壁1bの内周端部によって円形状の出口孔12が区画形成されている。この出口孔12は、スクロール本体1の中央部正面に開口したタービンハウジングからの排気ガス出口である。そして図1(A)及び図2に示すように、出口孔周辺壁1bの正面側には、環状補強部材6を介して出口フランジ2が装着されている。より具体的には、環状補強部材6は、出口孔12とほぼ同径の中心軸線Cに沿って延びる円筒状首部6aと、その円筒状首部6aの基端部からタービンハウジングの半径方向外向きに延びる鍔状スカート部6bとを少なくとも有している。そして、スクロール本体の出口孔周辺壁1bの正面側に鍔状スカート部6bを接合した状態で全周溶接(図2のW1及びW2)を施すことにより、環状補強部材6がスクロール本体1に対し溶接固定されている。また、環状補強部材の円筒状首部6aの先端部付近に略リング形状の出口フランジ2を外嵌した状態で全周溶接(W3)を施すことにより、スクロール本体1及び環状補強部材6に対し出口フランジ2が溶接固定されている。なお、出口フランジ2は、タービンハウジングの出口孔12に対し、タービンハウジングよりも下流側の外部配管(例えばエルボ等)を接続するためのフランジ継手(継手部)である。
【0029】
図1(C)及び図2に示すように、スクロール本体1の略リング状外周部1aの背面側内周縁の内側領域には、略リング形状のベアリングハウジング側フランジ3(「センターハウジング側フランジ」ともいう)が設けられている。このベアリングハウジング側フランジ3は、ターボチャージャーのベアリングハウジングに対してタービンハウジングを接続固定するためのフランジ継手(継手部)の役割と、可変ノズルベーン20及び/又は排気タービンT(図2に二点鎖線で示す)をラジアル方向に位置決めするための規制部としての役割とを担う。
【0030】
図2に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3には、当該フランジ3におけるスクロール本体1に面した正面側部位を全周にわたって覆うためのベアリングハウジング側フランジカバー7が装着されている。このフランジカバー7は概してリング形状をなすと共に、フランジカバー7の外周部7aは中心軸線Cを中心とする短円筒リング形状に形成されている。フランジカバー7の構成素材としては、スクロール本体1の構成素材と同等又はそれ以上の高耐熱材(例えばフェライト系ステンレス鋼)を使用することが好ましい。フランジカバー7の厚さは、好ましくは0.5〜3.0mmである。そして、フランジカバー7の外周部7aは、ベアリングハウジング側フランジ3の環状外周部の外側面に外嵌された状態で全周溶接(W4)されることにより、フランジ3の環状外周部に対して溶接固定されている。また、フランジカバー7の内周部7bは、ベアリングハウジング側フランジ3の環状前端部に当接した状態で全周溶接(W5)されることにより、フランジ3の環状前端部に対して溶接固定されている。その結果、フランジカバー7とベアリングハウジング側フランジ3との間には環状の断熱空間10が確保されている。
【0031】
更に本実施形態では、スクロール本体1の外周部1aの背面側内周縁がフランジカバー7の外周部7aに対し全周溶接(W4)されることにより、スクロール本体1とフランジカバー7とが連結されている。その結果、スクロール本体の外周部1aとフランジカバー7とが共同して環状トンネル状の排気ガス通路11を区画している。即ち、ベアリングハウジング側フランジ3におけるスクロール本体1に面した正面側部位を全周にわたって覆うリング形状のフランジカバー7は、排気ガス通路11に沿った排気ガスの流れをガイドするための排気ガス通路区画壁としての役割と、高温の排気ガスがベアリングハウジング側フランジ3に直接接触するのを防止するガス遮断壁としての役割とを担う。
【0032】
図1及び図3に示すように、スクロール本体1の側部(図3では上端部)には、排気ガス入口としての入口孔13が形成され、その入口孔13を区画しているスクロール本体1の壁部の外側には、入口フランジ4が設けられている。入口フランジ4は、タービンハウジングの入口孔13に対し、タービンハウジングよりも上流側の外部配管(図示略)を接続するためのフランジ継手(継手部)である。更に図3に示すように、スクロール本体1の排気ガス通路11内であって入口孔13の内側には、湾曲したガイド壁14aを備えたガイド部材14が設けられている。ガイド部材14はその湾曲したガイド壁14aによって、入口孔13に進入した排気ガスを環状トンネル状排気ガス通路11の一方の側に導くことで、当該排気ガス通路11内に一方向のガス流れを作り出す働きをする。なお、ガイド部材14は、スクロール本体1内に区画形成された環状トンネル状排気ガス通路11の入口位置(環状トンネルの始点)と、環状トンネル状排気ガス通路11の巻終り位置(環状トンネルの終点)との境をなす仕切り材でもある。
【0033】
本実施形態における環状トンネル状排気ガス通路11は、その全周にわたって通路の断面積がほぼ一定であり且つ通路の断面形状もほぼ一定となるように形成されている。即ち図7のグラフに示すように、環状トンネル状排気ガス通路11の入口位置(0°の位置)から巻終り位置(360°の位置)に到るまでの全周にわたるどの位置においても、通路断面積が一定となっている。これに対し、比較例(従来型の徐変断面形状のタービンハウジング)では、排気ガス通路の入口位置から巻終り位置に向かうに従い、通路断面積が徐々に減少する傾向にある。
【0034】
図2に示すように、スクロール本体1の中央域であって出口孔周辺壁1bの内壁面側には、円板状リング形状のノズル壁面フランジ5が設けられている。ノズル壁面フランジ5は、出口孔周辺壁1bに接合した状態で全周溶接(W1)を施すことにより、スクロール本体1に一体化されている。ノズル壁面フランジ5は、スクロール本体1に対して可変ノズルベーン20(二点鎖線で示す)をスラスト方向に位置決めするための規制部としての役割と、可変ノズルベーン20を構成する複数のベーン21(破線で示す)に隣接してベーン間通路の区画形成に関与するベーン間通路区画壁としての役割とを担う。
【0035】
図2に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5とはスラスト方向に所定間隔を隔てて離間配置されるため、フランジ3の環状前端部とノズル壁面フランジ5の外周部との間には環状の隙間が確保される。この環状の隙間を介して環状トンネル状排気ガス通路11と、タービンハウジングの内部中央域に設定される排気タービンT(二点鎖線で示す)の収容室15とが連通可能となっている。なお、排気タービン収容室15に排気タービンTを収容したとき、排気タービンTの外周部とノズル壁面フランジ5の内周部との間には、スラストクリアランスC1(「入口側クリアランス」ともいう)及びラジアルクリアランスC2(「出口側クリアランス」ともいう)が確保される。これらのクリアランスC1,C2こそが、タービンハウジングと排気タービンTとの間のチップクリアランスに相当する。
【0036】
図1(A),(C)及び図3に示すように、タービンハウジングの正面側多重壁を構成すべく重ね合わされた環状補強部材6の鍔状スカート部6b、スクロール本体1の出口孔周辺壁1b及びノズル壁面フランジ5には、当該タービンハウジングに可変ノズルベーン20を取り付けるためのボルト孔16が複数(本例では3つ)貫通形成されている。
【0037】
図2及び図3に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5との間には、金属製の短円筒状リング形状の連結リング8が介装されると共に、この連結リング8によって両フランジ3,5は相互に連結されている。より具体的には図5及び図6に示すように、連結リング8は、周方向に延びる複数の通気スリットS(本例では3条)と、これらの通気スリットS間に存在する複数の柱状連結部81(本例では3柱)と、一群の通気スリットSを挟んでその前後にそれぞれ位置する前端側環状部82及び後端側環状部83とを有している。つまり、前端側環状部82と後端側環状部83とは3つの柱状連結部81を介して相互連結されている。なお、通気スリットSは、排気タービン収容室15を含むタービンハウジングの中央域と、環状トンネル状排気ガス通路11とを連通させる径方向排気ガス通路を提供する。
【0038】
そして、連結リングの前端側環状部82がノズル壁面フランジ5の外周部に対し全周溶接(W6)されると共に、連結リングの後端側環状部83が、ベアリングハウジング側フランジ3の内周部に形成された環状段差部3aに係合され且つ当該フランジ3の内周部に対し全周溶接(W7)されることで、連結リング8(より本質的には連結リングの柱状連結部81)は、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5とを強固に連結している。連結リング8の肉厚は、好ましくは1.0〜5.0mmである。連結リング8を比較的厚手にすることで強度や耐熱性を向上させたい場合には、例えば厚さ2mmの板状リングを2枚重ね合わせて厚さ4mmの連結リング8としてもよい。
【0039】
図3、図4及び図6に示すように、柱状連結部81の各々は、その横断面形状が扇形をなすように形成されている。そして、各柱状連結部81の両側面(即ち扇形横断面における内側円弧及び外側円弧以外の二側辺に沿った側面)には、排気ガス誘導用の傾斜面84が形成されている。この排気ガス誘導用の傾斜面84は、扇形横断面における内側円弧の一端につながる内側エッジE1と、扇形横断面における外側円弧の一端につながる外側エッジE2とを有している。傾斜面84は、ターボ軸中心Cと傾斜面84の内側エッジE1とを結ぶ半径方向線に対して所定の傾斜角θを持つように形成されている。
【0040】
傾斜面84の傾斜角θは、連結リング8の内側領域に配設されることになる可変ノズルベーン20の開度(より具体的にはベーン21の取付け角度及びその角度可変範囲)との関係を考慮して決定される。本実施形態では、傾斜面84の傾斜角θを約45°に設定したが、傾斜角θは30°〜60°の範囲に設定されることが好ましい。というのも、傾斜角θが30°よりも小さいと、傾斜面84による排気ガスの誘導効果が低くなり、柱状連結部81を設けたことがタービンハウジング内の通気抵抗を増大させる原因となり得る。他方、傾斜角θが60°よりも大きいと、傾斜面84による排気ガスの誘導効果が低くなるのみならず、柱状連結部81の柱幅が広がることで通気スリットSの通気断面積を相対的に小さくする結果となり、タービンハウジング内の通気抵抗を過度に増大させるおそれがある。
【0041】
連結リング8をタービンハウジング内に固定する際には、連結リングの3つの柱状連結部81がそれぞれノズル壁面フランジ5及びスクロール本体1に貫通形成された3つの可変ノズルベーン取付け用ボルト孔16の近傍に位置するように、連結リング8がスクロール本体1に対して位置決めされる。具体的には図4に示すように、各柱状連結部81の扇型横断面における内側円弧(二つの傾斜面84の内側エッジE1,E1を結ぶ円弧)が前記ボルト孔16に対面するように、あるいは、ターボ軸中心Cと前記ボルト孔16の中心とを結ぶ半径方向線の延長上に各柱状連結部81が位置するように、連結リング8が位置決めされる。また、各柱状連結部81の周方向柱幅の最小値(つまり図4における内側エッジE1,E1間の距離又は間隔)は、前記ボルト孔16の直径(つまり取付けボルトの径)とほぼ同等又はそれ以下に設定されている。
【0042】
本実施形態では、連結リングの柱状連結部81を横断面扇形の柱形状としたこと、柱状連結部81の側部に傾斜角θの排気ガス誘導用傾斜面84を形成したこと、柱状連結部81を可変ノズルベーン取付け用ボルト孔16の近傍に配置したこと、及び、柱状連結部81の周方向柱幅の最小値をボルト孔16の直径(即ち取付けボルトの径)とほぼ同等又はそれ以下に設定したことの相乗効果により、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路11から通気スリットSを経由して可変ノズルベーン20に到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を極力小さくしている。
【0043】
ところで、本実施形態のタービンハウジングは、ターボチャージャーの排気タービン部において、当該タービンハウジング内に可変ノズルベーン20が組み込まれた状態で使用される。ターボチャージャーの稼動時、エンジンからの排気ガスは、入口孔13を介して環状トンネル状排気ガス通路11に進入し、ガイド部材14に導かれて当該通路11内を一方向に流れる。排気ガス通路11を流れる排気ガスは、通気スリットS及び可変ノズルベーン20のベーン間通路を通ってタービンハウジングの中心域に配設された排気タービンTに作用し、その後、出口孔12を通って下流側に排出される。排気タービンTに作用する排気ガスの流量又は流速は、可変ノズルベーン20の開度(つまりベーン21の傾角に対応するベーン間通路の連通断面積)を調節することによって制御される。即ち、エンジンの低速回転時(排気ガス流量小の時)には、可変ノズルベーン20の開度を絞ることにより、ベーン間通路を通過する排気ガスの流速を高めて過給圧を増大させる。他方、エンジンの高速回転時(排気ガス流量大の時)には、可変ノズルベーン20の開度を大きく開くことにより、排気抵抗を低減し、ベーン間通路を通過する排気ガス流量を増大させて過給圧を増大させる。
【0044】
エンジンの低速回転時には可変ノズルベーン20の開度を絞るような制御がなされるため、タービンハウジングの排気ガス通路11の断面積及び断面形状が全周にわたってほぼ一定であるか、それとも徐変断面形状が採用されているかは、過給性能にほとんど影響を及ぼさない。これに対し、エンジンの高速回転時には、可変ノズルベーン20の開度を大きく開くような制御がなされるため、タービンハウジングの排気ガス通路11の断面積及び断面形状が全周にわたってほぼ一定であるか、それとも徐変断面形状が採用されているかは、過給性能に大きく影響する。
【0045】
例えば、徐変断面形状を採用する従来のタービンハウジング(図7の比較例)の場合には、タービンハウジングの排気ガス通路11の一部に、可変ノズルベーン20の最大開度よりも通路断面積が狭くなる部位(狭断面部)があり、そのために、タービンハウジングを経由するガス流れは、可変ノズルベーン20の開度ではなく排気ガス通路11中の上記狭断面部の通路断面積によって支配される。つまり、排気ガス通路11中の狭断面部がターボチャージャーの排気タービン部における圧力損失の大きさを決定付け、過給性能をかなり低下させてしまう。これに対し本実施形態では、排気ガス通路11の断面積及び断面形状が全周にわたってほぼ一定であるため、排気ガス通路11の通路断面積を可変ノズルベーン20の最大開度よりも予め大きくしておくことができる。それ故、可変ノズルベーン20の開度の変更可能範囲に対応した過給圧制御を実現できると共に、図7の比較例に比べ、可変ノズルベーン20の最大開度時における排気タービン部の圧力損失を小さくして過給性能を向上させることができる。
【0046】
上記の考察を裏付けるべく、本実施形態及び比較例にそれぞれ従うタービンハウジングの特性評価を行った。具体的には、本実施形態のタービンハウジングを使用した可変ノズルベーン付きターボチャージャーと、従来のタービンハウジング(図7の比較例)を使用した可変ノズルベーン付きターボチャージャーとを用意し、それぞれを同型のエンジンに組み付けた。そして、それぞれのエンジンにつきエンジン全負荷性能評価試験を行った。この評価試験では、エンジン回転数と可変ノズルベーン20の開度との関係が同一条件となるように条件統一して、二つのターボチャージャーの過給性能を比較可能とした。図8はその評価試験の結果をグラフ化したものである。図8の横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジン出力を示す。前述のように、ターボチャージャー付きエンジンでは、エンジンの低速回転時には可変ノズルベーン20の開度は絞られ、その低速回転時よりもエンジン回転数が高速になるに伴い可変ノズルベーン20の開度が大きく開かれる。当然のことながら、同一エンジン回転数においてエンジン出力が高い方が、ターボチャージャーの過給性能がより優れていると評価される。
【0047】
図8からわかるように、エンジン回転数が低速から中速の範囲では(つまり可変ノズルベーン20の開度が絞られているときには)、本実施形態と比較例とでエンジン出力にほとんど違いはない。ところが、エンジン回転数が中速から高速の範囲では(つまり可変ノズルベーン20の開度が大きく開かれているときには)、本実施形態のタービンハウジングを使用したターボチャージャー付きエンジンのエンジン出力は比較例を常に上回っている。つまり、可変ノズルベーン20の開度が大きくなるとき(エンジンの高速回転時)には、明らかに比較例よりも本実施形態の方が優れた過給性能を示した。図8の結果は、上述の考察を裏付けるものである。
【0048】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5とを複数の柱状連結部81を有する連結リング8で直接連結することで、これらの機械的剛性及び寸法安定性を高めている。このため、排気ガスの熱でスクロール本体1やタービンハウジングの周辺部品(例えばエキゾーストマニホールドやターボエルボ等)が熱変形を起こしたとしても、連結リングの柱状連結部81によって相互連結されたベアリングハウジング側フランジ3及びノズル壁面フランジ5は上記熱変形の影響をあまり受けない。つまり、タービンハウジングと排気タービンTとの間のチップクリアランスC1,C2を決定付けているところのベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5との間の相対配置関係又は寸法関係はほとんど変化しない。このように本実施形態によれば、熱変形等によるチップクリアランスC1,C2の変化を極力防止することができる。また、スクロール本体1が熱変形した場合でもチップクリアランスC1,C2の変化を防止できるという長所を利用すれば、スクロール本体1を薄肉化してタービンハウジングの軽量化及び低熱容量化を図ることや、スクロール本体1の構成素材をより安価なものにすることでコスト低減を図ることが可能になる。
【0049】
本実施形態では、複数の柱状連結部81を連結リング8という単一部品にひとまとめにしているので、ベアリングハウジング側フランジ3及びノズル壁面フランジ5に対して連結リング8を正確に位置決めするだけで、両フランジ3,5に対して個々の柱状連結部81を一度に位置決めすることができ、複数の柱状連結部81のタービンハウジングに対する組み付け性を良くすることができる。
【0050】
本実施形態では、環状トンネル状排気ガス通路11と排気タービン収容室15とをつなぐガス流路の途中に、障害物(通気抵抗の増大原因)となる柱状連結部81が存在していることになる。しかしながら上述のように、連結リングの柱状連結部81を横断面扇形の柱形状としたこと、柱状連結部81の側部に傾斜角θの排気ガス誘導用傾斜面84を形成したこと、柱状連結部81を可変ノズルベーン取付け用ボルト孔16の近傍に配置したこと、及び、柱状連結部81の周方向柱幅の最小値をボルト孔16の直径(即ち取付けボルトの径)とほぼ同等又はそれ以下に設定したことの相乗効果により、スクロール本体の環状トンネル状排気ガス通路11から通気スリットSを経由して可変ノズルベーン20に到る径方向排気ガス通路の通気抵抗を極力小さくできる。それ故、タービンハウジング内部に柱状連結部81を設けたことがターボチャージャーの過給性能の低下につながることは無く、上述のように熱変形等によるチップクリアランスC1,C2の変化を防止できるというプラス面が大きいので、柱状連結部81無しの従来構造の場合よりもむしろ過給性能が向上又は安定化する。
【0051】
本実施形態によれば、環状トンネル状排気ガス通路11をその全周にわたって断面積及び断面形状がほぼ一定となるように形成しているので、排気ガス通路11の各位置における通路断面積を、当該位置に対応するベーン間通路の最大開き時の通路断面積よりも大きく設定することができる。それ故、環状トンネル状排気ガス通路11の一部分がボトルネックとなってノズルベーンの効果が減殺されることが防止され、ターボチャージャーの過給性能を比較例よりも向上させることができる。特に図8に示すように、可変ノズルベーン20が開き傾向にあるときには、エンジン出力を比較例よりも高めることができる。
【0052】
また、環状トンネル状排気ガス通路11を断面積のみならず断面形状についても当該排気ガス通路11の全周にわたってほぼ一定となるように形成したことで、中心軸線Cに対するスクロール本体1の対称性が非常に高められ、ターボチャージャーの稼動時にタービンハウジングが熱膨張を起こしたとしても、その熱膨張は中心軸線Cを中心として全ての方向にほぼ均等なものになる。従って、熱膨張の不均一性(又は非等方位性)に起因してタービンハウジングが中心軸線Cに対して傾斜変形し、その結果、タービンハウジングと排気タービンTとが干渉し合うというような機械的障害を生じ難い。また、上記のようにスクロール本体1が全方位に均等な熱変形特性を有することは、スクロール本体1の薄肉化を容易にし、熱容量の小さなターボチャージャーを構築し易くする。
【0053】
ベアリングハウジング側フランジ3におけるスクロール本体外周部1aに面した部位を全周にわたって覆うリング形状のフランジカバー7を設けて、高温の排気ガスがベアリングハウジング側フランジ3に直接接触しないようにしたので、ベアリングハウジング側フランジ3の構成材料として、高価な高耐熱材料ではなく、比較的安価な材料(例えば通常グレードの鉄系金属)を使用することができる。また、熱容量が比較的大きいベアリングハウジング側フランジ3に高温の排気ガスが直接当たらないようにしたので、タービンハウジング内を流れる排気ガスの温度低下を極力抑制でき、その結果として、エンジンの冷間始動時における早期暖機や排気ガス浄化触媒の早期活性化を図ることができる。
【0054】
[変更例]上記実施形態では、タービンハウジングの組み立て段階で、ベアリングハウジング側フランジ3及びノズル壁面フランジ5を、スリットS間に柱状連結部81を有する連結リング8により連結する構造としたが、図9に示すように、ベアリングハウジング側フランジ3、ノズル壁面フランジ5及び複数の柱状連結部81を予め一体鋳造した単一の鋳造部品として準備してもよい。この場合、ベアリングハウジング側フランジ3とノズル壁面フランジ5との間の配置関係は鋳造段階でほぼ確定する。
【0055】
[変更例]図10及び図11に示すように、ベアリングハウジング側フランジカバー7及び連結リング8を予め一体成形した単一の部品として準備することで、組立時の部品点数の減少を図ってもよい。その場合、特に図11に示すように、フランジカバー7の内周部分につながる板状円筒部を折り返し加工による二枚重ね構造としながら連結リング8部分を一体成形することは好ましい。連結リング8部分を二枚重ね構造とすることで、連結リング8の柱状連結部81の肉厚が増し強度アップが図られる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】タービンハウジングの一例を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は背面図。
【図2】図1(A)のA−A線における半径方向断面図。
【図3】図1(B)のB−B線における断面図。
【図4】柱状連結部の横断面形状及びその近傍の概略を示す拡大図。
【図5】短円筒形状の連結リングの全体を示す斜視図。
【図6】短円筒形状の連結リングの一部を示す部分斜視図。
【図7】環状トンネル状排気ガス通路の各位置と通路断面積との関係を示すグラフ。
【図8】エンジン全負荷性能評価試験の結果を示すグラフ。
【図9】変更例(その1)における一体鋳造部品を示す斜視図。
【図10】変更例(その2)における一体成形部品を示す斜視図。
【図11】変更例(その2)における図2相当の半径方向断面図。
【符号の説明】
【0057】
1…スクロール本体、2…出口フランジ、3…ベアリングハウジング側フランジ、4…入口フランジ、5…ノズル壁面フランジ、7…ベアリングハウジング側フランジカバー、8…連結リング、10…環状の断熱空間、11…環状トンネル状の排気ガス通路、12…出口孔(排気ガス出口)、13…入口孔(排気ガス入口)、16…可変ノズルベーン取付け用ボルト孔、20…可変ノズルベーン、81…柱状連結部、82…前端側環状部、83…後端側環状部、84…排気ガス誘導用の傾斜面、C…中心軸線(ターボ軸中心)、E1…傾斜面の内側エッジ、E2…傾斜面の外側エッジ、S…通気スリット、T…排気タービン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、
環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、
前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、
前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、
排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、
前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、
前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための複数の柱状連結部とを備えることを特徴とするタービンハウジング。
【請求項2】
前記ベアリングハウジング側フランジ、前記ノズル壁面フランジ及び前記複数の柱状連結部は、予め一体鋳造された単一の鋳造部品として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタービンハウジング。
【請求項3】
ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、
環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、
前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、
前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、
排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、
前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、
前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための連結リングとを備え、
前記連結リングは、周方向に延びる複数の通気スリットと、前記複数の通気スリット間に存在する複数の柱状連結部とを有することを特徴とするタービンハウジング。
【請求項4】
前記連結リングは、前記複数の通気スリットの一群を間に挟んだ前端側及び後端側の環状部を更に有しており、
前記連結リングの一方端の環状部を前記ベアリングハウジング側フランジの内周部に溶接すると共に、前記連結リングの他方端の環状部を前記ノズル壁面フランジの外周部に溶接したことを特徴とする請求項3に記載のタービンハウジング。
【請求項5】
前記ベアリングハウジング側フランジにおける前記スクロール本体に面した部位を全周にわたって覆うためのリング形状のベアリングハウジング側フランジカバーを更に備え、このベアリングハウジング側フランジカバーは、当該フランジカバーと前記ベアリングハウジング側フランジとの間に環状の断熱空間を区画形成し、且つ前記スクロール本体と共に前記環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するものであり、前記ベアリングハウジング側フランジカバーと前記連結リングとは、予め一体成形された単一の部品として形成されていることを特徴とする請求項3に記載のタービンハウジング。
【請求項6】
前記複数の柱状連結部の各々はその横断面形状が扇形をなしており、
各柱状連結部の一側面には、扇形横断面の一側辺に沿った排気ガス誘導用の傾斜面が、ターボ軸中心(C)と当該傾斜面の内側エッジ(E1)とを結ぶ半径方向線に対し30°〜60°の傾斜角(θ)を持つように形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のタービンハウジング。
【請求項7】
前記複数の柱状連結部は、前記スクロール本体及び/又は前記ノズル壁面フランジに複数形成されたノズルベーン取り付け用ボルト孔の近傍にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のタービンハウジング。
【請求項8】
前記環状トンネル状の排気ガス通路は、その全周にわたって断面積及び断面形状が共にほぼ一定となるように形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のタービンハウジング。
【請求項1】
ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、
環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、
前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、
前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、
排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、
前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、
前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための複数の柱状連結部とを備えることを特徴とするタービンハウジング。
【請求項2】
前記ベアリングハウジング側フランジ、前記ノズル壁面フランジ及び前記複数の柱状連結部は、予め一体鋳造された単一の鋳造部品として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタービンハウジング。
【請求項3】
ノズルベーン付きターボチャージャー用のタービンハウジングであって、
環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するスクロール本体と、
前記スクロール本体の側部に設けられた排気ガス入口と、
前記スクロール本体の正面側中央部に設けられた排気ガス出口と、
排気タービンを回転可能に支持するベアリングハウジングに対して当該タービンハウジングを接続するための継手部として、前記スクロール本体の背面側に設けられたベアリングハウジング側フランジと、
前記スクロール本体に対し前記ノズルベーンをスラスト方向に位置決めするための規制部として、前記スクロール本体の中央域且つ前記排気ガス出口の近傍に設けられたノズル壁面フランジと、
前記ベアリングハウジング側フランジと前記ノズル壁面フランジとを相互連結するための連結リングとを備え、
前記連結リングは、周方向に延びる複数の通気スリットと、前記複数の通気スリット間に存在する複数の柱状連結部とを有することを特徴とするタービンハウジング。
【請求項4】
前記連結リングは、前記複数の通気スリットの一群を間に挟んだ前端側及び後端側の環状部を更に有しており、
前記連結リングの一方端の環状部を前記ベアリングハウジング側フランジの内周部に溶接すると共に、前記連結リングの他方端の環状部を前記ノズル壁面フランジの外周部に溶接したことを特徴とする請求項3に記載のタービンハウジング。
【請求項5】
前記ベアリングハウジング側フランジにおける前記スクロール本体に面した部位を全周にわたって覆うためのリング形状のベアリングハウジング側フランジカバーを更に備え、このベアリングハウジング側フランジカバーは、当該フランジカバーと前記ベアリングハウジング側フランジとの間に環状の断熱空間を区画形成し、且つ前記スクロール本体と共に前記環状トンネル状の排気ガス通路を区画形成するものであり、前記ベアリングハウジング側フランジカバーと前記連結リングとは、予め一体成形された単一の部品として形成されていることを特徴とする請求項3に記載のタービンハウジング。
【請求項6】
前記複数の柱状連結部の各々はその横断面形状が扇形をなしており、
各柱状連結部の一側面には、扇形横断面の一側辺に沿った排気ガス誘導用の傾斜面が、ターボ軸中心(C)と当該傾斜面の内側エッジ(E1)とを結ぶ半径方向線に対し30°〜60°の傾斜角(θ)を持つように形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のタービンハウジング。
【請求項7】
前記複数の柱状連結部は、前記スクロール本体及び/又は前記ノズル壁面フランジに複数形成されたノズルベーン取り付け用ボルト孔の近傍にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のタービンハウジング。
【請求項8】
前記環状トンネル状の排気ガス通路は、その全周にわたって断面積及び断面形状が共にほぼ一定となるように形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のタービンハウジング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−106667(P2008−106667A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289904(P2006−289904)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】
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