説明

ダイアフラム式可変絞り装置およびその製造方法

【課題】隙間調整機構などの装置を設けることなく、ダイアフラムと弁座との隙間を所定の隙間に設定できるダイアフラム式可変絞り装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第1開口部21が形成された第1ハウジング11と、第1開口部21と対向するように第2開口部22が形成された第2ハウジング12と、第1開口部21の周縁部に形成された第1挟持部32と、第2開口部22の周縁部に形成された第2挟持部33と、第1開口部21と第2開口部22との間に設けられ、第1挟持部21と第2挟持部22により周縁が挟持されたダイアフラム13と、第1開口部21に連通する流体導入路41と、第1開口部21に設けられた弁座45と、ダイアフラム13との弁座45との隙間43に応じた流体を排出する流体供給通路と、を備え、第1ハウジング11の第1挟持部32と弁座45は別体となっており、第1挟持部32は弁座45に取り付け又は取り外しが可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラム式可変絞り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、静圧流体軸受の流体流量調整装置として、ダイアフラム式可変絞り装置が使用されている。例えば、主軸を支持する静圧流体軸受においては、主軸と軸受面との間に所定の厚さの流体膜を形成して主軸を支持する構造になっており、主軸の外周面に対応して複数の静圧ポケットが設けられている。この複数の静圧ポケットには、軸受の負荷状態に応じた加圧流体がそれぞれ供給され、各静圧ポケットの内圧を制御することにより、主軸に負荷が加わった場合であっても主軸の変位を防止している。この静圧ポケットの内圧の制御にはダイアフラム式可変絞り装置が一般に用いられ、静圧ポケットに供給される加圧流体の供給圧力と静圧ポケット内の内圧との差に応じてダイアフラムが変形することで、ダイアフラムと弁座との隙間(絞り)が変化し、静圧ポケットに供給する加圧流体の流量を制御するようになっている。
【0003】
この種の静圧軸受のダイアフラム式可変絞り装置には、例えば特許文献1(特に、図11)に記載されたものがある。このダイアフラム式可変絞り装置は、ダイアフラムと弁座との隙間調整を容易にするため、ダイアフラム上部にダイアフラムの剛性を調整するスプリングからなる隙間調整機構を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−238715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ダイヤフラムに隙間調整機構を設けると、ダイアフラムと弁座との隙間調整が容易となるが、装置が大型化し、構造が複雑となり、コストがかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、隙間調整機構などの装置を設けることなく、ダイアフラムと弁座との隙間を所定の隙間に設定できるダイアフラム式可変絞り装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために提供される請求項1に記載の発明は、第1開口部が形成された第1ハウジングと、前記第1開口部と対向するように第2開口部が形成された第2ハウジングと、前記第1開口部の周縁部に形成された第1挟持部と、前記第2開口部の周縁部に形成された第2挟持部と、前記第1開口部と前記第2開口部との間に設けられ、前記第1挟持部と前記第2挟持部により周縁が挟持されたダイアフラムと、前記第1開口部に連通する流体導入路と、前記第1開口部に設けられた弁座と、前記ダイアフラムとの前記弁座との隙間に応じた流体を排出する流体供給通路と、を備え、前記第1ハウジングの前記第1挟持部と前記弁座は別体となっており、前記第1挟持部は前記弁座に取り付け又は取り外しが可能であることを特徴とするダイアフラム式可変絞り装置である。
【0008】
上記ダイアフラム式可変絞り装置によれば、第1ハウジングの第1挟持部と弁座が別体であり、第1挟持部は弁座に取り付け又は取り外しが可能であるため、取り付けた第1挟持部と弁座との高低差により、ダイアフラムとの弁座との隙間を形成することができる。したがって、高さの異なる第1挟持部と弁座を組み合わせることにより、ダイアフラムとの弁座との隙間を調整することができる。隙間調整機構などの装置を設けることなく、簡単な構造でありながら、ダイアフラムと弁座との隙間を所定の隙間に設定できるため、コストを低くすることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、第1開口部が形成された第1ハウジングと、前記第1開口部と対向するように第2開口部が形成された第2ハウジングと、前記第1開口部の周縁部に形成された第1挟持部と、前記第2開口部の周縁部に形成された第2挟持部と、前記第1開口部と前記第2開口部との間に設けられ、前記第1挟持部と前記第2挟持部により周縁が挟持されたダイアフラムと、前記第1開口部に連通する流体導入路と、前記第1開口部に設けられた弁座と、前記ダイアフラムとの前記弁座との隙間に応じた流体を排出する流体供給通路と、を備え、前記第1ハウジングの前記第1挟持部と前記弁座は別体となっており、前記第1挟持部は前記弁座に取り付け又は取り外しが可能なダイアフラム式可変絞り装置の製造方法であって、前記第1挟持部と前記弁座を取り付け、前記弁座の高さと前記第1挟持部の高さが同じとなるように共加工した後、前記第1挟持部を取り外し、前記弁座を所定の高さに加工することを特徴とするダイアフラム式可変絞り装置の製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、第1ハウジングの第1挟持部と弁座が別体となっており、第1挟持部は弁座に取り付け又は取り外しが可能であり、取り付けた第1挟持部と弁座との高低差により、ダイアフラムとの弁座との隙間を形成することができるダイアフラム式可変絞り装置を製造することができる。最初に、弁座に第1挟持部を嵌め込み、第1ハウジングを組み立てて治具に固定する。そして、研削加工により、弁座と第1挟持部の高さが等しくなるように共加工した後、加工基準が変わらぬように治具から第1挟持部を取り外し、弁座のみ固定した状態とする。次に、弁座を所定量の追い加工した後、第1ハウジングを再度組み立てると、弁座の高さが第1挟持部の高さより、追い加工した分低くなった弁座を得ることができる。第1挟持部と弁座は、研削加工により高精度に加工されるとともに、同じ加工基準にて加工されているため、この高低差は、高精度なものとすることができる。このように加工された第1ハウジングと、第2ハウジング及びダイアフラムを組み付けることにより、高精度な隙間を持つ、ダイアフラム式可変絞り装置を作ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、隙間調整機構などの装置を設けることなく、ダイアフラムと弁座との隙間を所定の隙間に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態のダイアフラム式可変絞り装置の断面図。
【図2】本発明の実施形態のダイアフラム式可変絞り装置の製造方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態のダイアフラム式可変絞り装置1について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るダイアフラム式可変絞り装置1の断面図であり、図2は、図1の実施形態のダイアフラム式可変絞り装置1の製造方法の説明図である。
【0014】
以下、本実施形態の詳細について説明する。
図1に示すように、本実施形態のダイアフラム式可変絞り装置1は、第1ハウジング11、第2ハウジング12、ダイアフラム板13から構成されている。第1ハウジング11は、略円筒形状の第2ハウジング12に嵌め込まれた構造となっている。
【0015】
第1ハウジング11は、弁座45を有する柱部材34と第1挟持部材31の2つの部材からなり、この2つの部材を互いに接合した構成となっている。柱部材34は、円盤状の底部36と中央に立設された柱部35を有し、柱頂部は平坦に形成され、弁座45となっており、柱内部には、弁座45から柱底部までを貫通する流体供給通路37が形成されている。第1ハウジング11の側面部には、流体供給装置(図示せず)と連通する流体導入口41が設けられ、底面部には静圧ポケット50と連通する流体排出口42が設けられている。
【0016】
第1挟持部材31は、略円盤状であり、円盤状の底部39と外周に立設された隔壁40を有し、底部39と隔壁40により第1開口部21が形成されている。第1開口部21の隔壁40の端部は第1挟持部32となってる。円盤状の底部中央には、柱部材34の柱部35が挿通される挿通孔38が穿設されている。
【0017】
柱部材34の柱部35に、第1挟持部材31の挿通孔38を嵌め込み、第1ハウジング11を組み立てると、柱部材34の弁座45の高さが、第1挟持部材31の第1挟持部32の高さより、わずかに低くなるようになっている。
【0018】
第2ハウジング12は、第1ハウジング11より一回り大きな略円筒形状であり、円盤状の底部23と外周面の隔壁24により第2開口部22が形成されている。外周面の隔壁24の内側には凸部25が形成され、第2挟持部33となっている。第2ハウジング12の上面部には、流体供給装置と連通する流体導入口46が設けられいる。
【0019】
ダイアフラム板13は、鋼等からなる円盤形状の弾性部材であり、中央に平坦な弁体部14を有し、周縁に支持部を有している。第2ハウジング12に第1ハウジング11が嵌め込まれることにより、第1ハウジング11と第2ハウジング12の間に配置されたダイアフラム板13は、第1ハウジング11の第1挟持部32と第2ハウジング12の第2挟持部32に挟持され、可撓可能に支持される。
【0020】
第1ハウジング11の第1開口部21を覆うダイアフラム板13により、第1ハウジング11内に第1圧力室44が形成される。第1圧力室44は、流体導入口41と流体排出口42に連通している。ダイアフラム板13の弁体部14と、柱部35の弁座45が対向して配置されることにより、ダイアフラム板13の弁体部14と弁座45との間に隙間43が形成される。また、第2ハウジング12の第2開口部22を覆うダイアフラム板13により、第2ハウジング12内に第2圧力室47が形成される。
【0021】
上記のように構成されるダイアフラム式可変絞り装置1の動作を説明する。
流体供給装置から供給された加圧流体は、流路を通り、第1ハウジング11の側面部の流体導入口41から流入し、第1圧力室44に充填されるとともに、第2ハウジング12の上面部の流体導入口46から流入し、第2圧力室47に充填される。加圧流体は第1圧力室44のダイアフラム板13の弁体部14と弁座45との隙間43を通ることにより、流量が調整され、弁座45の流体供給通路37を経由して流体排出口42へ流出する。さらに、加圧流体は流体排出口42に連通する静圧ポケット50内に供給され、軸受面に流体膜を形成し、かかる負荷が支持される。
【0022】
流体が第1圧力室44と第2圧力室47に供給されることにより、定常状態では静圧ポケット50に供給される加圧流体の供給圧力と静圧ポケット50内の内圧は平衡状態となり、ダイアフラム板13は静止しているが、軸受の負荷が高くなると、供給圧力と静圧ポケット50内の内圧との差が小さくなり、ダイアフラム板13を押し上げる。押し上げられたダイアフラム板13の弁体部14と弁座45との隙間43は大きくなり、流量を大きくする。
【0023】
軸受の負荷が低くなると、静圧ポケット50に供給される加圧流体の供給圧力と静圧ポケット50内の内圧との差が大きくなり、ダイアフラム板13を初期状態(図1の状態)へと戻す。初期状態へと戻ったダイアフラム板13の弁体部14と弁座45との隙間43は小さくなり、流量を小さくする。
【0024】
このように、静圧ポケット50に供給される加圧流体の供給圧力と静圧ポケット50内の内圧との差に応じてダイアフラム板13が変形することで、ダイアフラム板13と弁座45との隙間43が変化する。軸受の最大負荷状態において、ダイアフラム板13の弁体部14と弁座45との隙間43は最大となり、軸受の無負荷状態において、静圧ポケット50に供給される加圧流体の供給圧力と静圧ポケット50内の内圧との差はなく、ダイアフラム板13は初期状態となり、ダイアフラム板13の弁体部14と弁座45との隙間43は最小となる。
【0025】
ダイアフラム板13の初期状態において最小となる隙間43は、柱部材34に第1挟持部材31を嵌め込み組み立てられた状態おける第1ハウジング11の第1挟持部32と弁座45との高低差により形成されており、その精度は第1挟持部32と弁座45の加工精度によるものとなっている。
【0026】
上記のように構成されるダイアフラム式可変絞り装置1の製造方法を説明する。
最初に、未加工状態の柱部材34の柱部35に、未加工状態の第1挟持部材31の挿通孔38を嵌め込み、第1ハウジング11を組み立てる。この時の未加工状態の部材において、第1ハウジング11の柱部材34の弁座45の高さと、第1挟持部材31の第1挟持部32の高さは、概ね等しくなるように形成しているが、精度は高くない。
【0027】
次に、平面研削盤100の治具102に組み立てた第1ハウジング11を固定する。そして、図2(a)に示すように、研削加工により、第1ハウジング11の柱部材34の柱頂部の弁座45と、第1挟持部材31の第1挟持部32の高さが等しく所定の高さとなるように、トラバース研削にて共加工する。加工完了後、治具102に第1ハウジング11を固定したまま、加工基準が変わらないように静かに第1挟持部材31を取り外し、柱部材34のみ固定した状態とする。
【0028】
次に、図2(b)に示すように、第1ハウジング11の柱部材34の柱頂部の弁座45を所定量の追い加工をする。追い加工完了後、柱部材34の柱部35に、第1挟持部材31の挿通孔38を嵌め込み、第1ハウジング11を再度組み立てると、柱部材34の弁座45の高さが第1挟持部材31の第1挟持部32の高さより、追い加工した分低くなった弁座45を得ることができる。第1挟持部32と弁座45は、研削加工により高精度に加工されるとともに、同じ加工基準にて加工されているため、この高低差は、高精度なものとすることができる。このように加工された第1ハウジング11に、第2ハウジング12及びダイアフラム板13を組み付けることにより、高精度な隙間43を持つ、ダイアフラム式可変絞り装置1を作ることができる。
【0029】
本実施形態では、第1ハウジング11を1セットのみの加工としているが、複数セットの第1ハウジング11を同時に加工してもよい。1セットあたりの加工時間が短縮されることにより、製造コストを抑えることができる。
【0030】
本実施形態では、第1圧力室44と第2圧力室47を設け、それぞれに加圧流体を供給しており、定常状態では圧力室の圧力が平衡されるようにしているが、第1圧力室44のみの構成としてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、第1挟持部材31と柱部材34を共加工した後、治具102から第1挟持部材31を取り外し、柱部材34を追い加工しているが、第1挟持部材31と柱部材34を共加工した後、治具102から柱部材34を取り外しできる構成として、共加工した後、第1挟持部32を追い加工してもよい。同じ加工基準にて加工されるため、この高低差は、高精度なものとすることができる。
【符号の説明】
【0032】
1:ダイアフラム式可変絞り装置、11:第1ハウジング、 12:第2ハウジング、
13:ダイアフラム板、 14:弁体部、 21:第1開口部、 22:第2開口部、
23:底部、 24:隔壁、 25:凸部、 31:第1挟持部材、
32:第1挟持部、 33:第2挟持部、 34:柱部材、 35:柱部、
36:底部、 37:流体供給通路、38:挿通孔、 39:底部、 40:隔壁、
41:流体導入口、 42:流体排出口、 43:隙間、
44:第1圧力室、 45:弁座、 46:流体導入口、 47:第2圧力室、
50:静圧ポケット、 51:案内面、
52:軸受面、
53:軸受本体、 54:負荷軸、
100:平面研削盤、 101:砥石、 102:治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1開口部が形成された第1ハウジングと、
前記第1開口部と対向するように第2開口部が形成された第2ハウジングと、
前記第1開口部の周縁部に形成された第1挟持部と、
前記第2開口部の周縁部に形成された第2挟持部と、
前記第1開口部と前記第2開口部との間に設けられ、前記第1挟持部と前記第2挟持部により周縁が挟持されたダイアフラムと、
前記第1開口部に連通する流体導入路と、
前記第1開口部に設けられた弁座と、
前記ダイアフラムとの前記弁座との隙間に応じた流体を排出する流体供給通路と、
を備え、
前記第1ハウジングの前記第1挟持部と前記弁座は別体となっており、
前記第1挟持部は前記弁座に取り付け又は取り外しが可能であることを特徴とするダイアフラム式可変絞り装置。
【請求項2】
第1開口部が形成された第1ハウジングと、
前記第1開口部と対向するように第2開口部が形成された第2ハウジングと、
前記第1開口部の周縁部に形成された第1挟持部と、
前記第2開口部の周縁部に形成された第2挟持部と、
前記第1開口部と前記第2開口部との間に設けられ、前記第1挟持部と前記第2挟持部により周縁が挟持されたダイアフラムと、
前記第1開口部に連通する流体導入路と、
前記第1開口部に設けられた弁座と、
前記ダイアフラムとの前記弁座との隙間に応じた流体を排出する流体供給通路と、
を備え、
前記第1ハウジングの前記第1挟持部と前記弁座は別体となっており、
前記第1挟持部は前記弁座に取り付け又は取り外しが可能なダイアフラム式可変絞り装置の製造方法であって、
前記第1挟持部と前記弁座を取り付け、
前記弁座の高さと前記第1挟持部の高さが同じとなるように共加工した後、
前記第1挟持部を取り外し、前記弁座を所定の高さに加工することを特徴とするダイアフラム式可変絞り装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72886(P2012−72886A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220101(P2010−220101)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】